JP2022044220A - 溶接継手、鋼板、鋼部材、及び自動車部材 - Google Patents

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Taiga Taniguchi
和貴 松田
Kazutaka Matsuda
徹 岡田
Toru Okada
真二 児玉
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Abstract

【課題】本発明は、熱影響部の軟化が小さい、又は熱影響部が軟化しない溶接継手及び鋼部材を提供することを課題とする。【解決手段】本発明の一態様に係る溶接継手は、2枚以上の母材鋼板と、溶接金属及びその周囲の熱影響部を有し、母材鋼板を接合する溶接部とを備える溶接継手であって、母材鋼板のマルテンサイト量が80面積%以上であり、母材鋼板のビッカース硬さが、母材鋼板の100%マルテンサイト硬さHMの90%以上であり、熱影響部の最軟化部硬さが、母材鋼板のビッカース硬さの70%以上である。【選択図】図1

Description

本発明は、溶接継手、鋼板、鋼部材、及び自動車部材に関する。
焼入れによって硬化された鋼材を溶接して溶接継手を製造すると、熱影響部で焼戻しが生じ、溶接継手の母材よりも軟らかい部分が生じる現象が生じる。この現象はHAZ軟化と呼ばれる。溶接された鋼板に面方向の引張応力(面内引張応力)が加えられた場合に、このHAZ軟化部を起点として、小さい変形量で破断が生じてしまうことが知られている。このHAZ軟化部を原因とする破断は、特に母材の引張強さが980MPa以上の鋼板の溶接部で生じる。
HAZ軟化は、例えば、溶接継手に熱処理をすることにより解消することが可能である。しかし、溶接継手の熱処理工程は、溶接継手の製造コスト、及び製造にかかる時間を増大させる。製造効率を考慮すると、溶接継手は溶接まま(溶接後に特段の熱処理がされない状態)で使用に供されることが好ましく、従って、溶接継手の母材鋼板の組織はフレッシュマルテンサイト主体とされていることが好ましい。
HAZ軟化の抑制手段として、例えば以下に挙げる技術が提案されている。
特許文献1では、少なくとも一つの鋼板がマルテンサイト組織を有する複数の鋼板を重ね合わせレーザを照射して略円状のレーザ溶接部を形成する重ね溶接方法であって、前記略円状のレーザ溶接部の外縁を通り、前記略円状のレーザ溶接部の外縁から少なくとも3mm以上、直線状にレーザを照射して鋼板に焼入れ部を形成することを特徴とする重ね溶接方法が開示されている。特許文献1では、略円状のレーザ重ね溶接部を横切ってHAZの最軟化部の外方までレーザビームを照射して再焼入れ部を形成することにより、HAZ軟化部での歪みの集中を抑制し、HAZ軟化部での破断を抑制できるとされている。
しかしながら、特許文献1の技術は、溶接後にさらに再焼き入れ部を形成するためのレーザ照射が必須とされているので、生産性が低い。
特許文献2では、質量%でC:0.10~0.25%、Si:1.5%以下、Mn:1.0~3.0%、P:0.10%以下、S:0.005%以下、Al:0.01~0.5%、N:0.010%以下およびV:0.10~1.0%を含み、かつ(10Mn+V)/C≧50を満足し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、焼戻しマルテンサイト相の体積率が80%以上で、粒径:20nm以下のVを含む炭化物が1000個/μm以上析出し、かつ該粒径:20nm以下のVを含む炭化物の平均粒径が10nm以下であることを特徴とする自動車用部材が開示されている。特許文献2では、鋼中にVを含む炭化物を微細に析出させることにより、具体的には、粒径が20nm以下のVを含む炭化物を単位体積1μm当たり1000個以上析出させ、かつ粒径が20nm以下のVを含む炭化物の平均粒径を10nm以下に制御することにより、溶接熱影響部の軟化が少ない自動車用部材を提供できるとされる。
しかしながら、特許文献2の技術では、焼戻しの熱処理工程が必要となり、生産性が低い。
特許文献3では、質量%で、C:0.001~0.40%、Si:0.01~2.0%、Mn:0.01~3%、P:0.0010~0.1%、S:0.0010~0.05%、B:0.0001~0.0050%、N:0.0010~0.01%を含有し、さらにTi:0.001~0.5%、Al:0.005~2.0%のいずれか1種又は2種を、(Al/27+Ti/48)/(N/14)≧2およびB/11-{N/14-(Al/27+Ti/48)}≧1.5×10-5を同時に満たす範囲で含有し、残部鉄及び不可避的不純物からなり、成分、板厚の少なくとも何れかが異なる鋼板からなるテーラードブランクで構成される部材で、溶接熱影響部を含む溶接部のビッカース硬さHvの最小値が2種の鋼板の低い側の平均ビッカース硬さ×0.8以上で、前記溶接部のビッカース硬さHvの最大値が2種の鋼板の高い側の平均ビッカース硬さ×1.2以下であることを特徴とする部材内硬さの均一性に優れた高強度自動車用部材が開示されている。
しかしながら、特許文献3の技術は、部材内硬さの均一性を保つ手段の一つとして、溶接後のホットスタンプにおける熱処理(オーステナイト相から急冷する熱処理)を用いている。即ち、特許文献3の技術は、特許文献1と同様に溶接後の追加熱処理を必須とするので、製造ラインの設計の自由度を下げる。また、特許文献3の技術では、部材内硬さの均一性を保つ別の手段として、鋼板の合金成分を所定範囲内にすることが挙げられている。しかし、鋼板中の合金元素をどのような形態で鋼板に存在させるべきか、という点に関して特許文献3は何ら検討していない。
特許文献4では、鋼板中に含まれるTi含有析出物のうち、円相当直径が30nm以下のものの平均円相当直径が6nm以下であると共に、鋼中の析出Ti量と全Ti量とが下記(1)式の関係を満足する熱間プレス用鋼板を、900℃以上、1100℃以下の温度に加熱した後、プレス成形を開始し、下死点に保持して金型内で20℃/秒以上の平均冷却速度を確保しつつマルテンサイト変態開始温度Msよりも低い温度まで冷却することを特徴とするプレス成形品の製造方法が開示されている。
析出Ti量(質量%)-3.4[N]<0.5×[全Ti量(質量%)-3.4[N]
]…(1)
しかしながら、特許文献4の技術によっても、HAZ軟化を十分に抑制することはできないと考えられる。特許文献4においては、Nを固定し、Bを固溶状態で維持させる目的、及びTiCによる析出強化を発現させる目的で、鋼板にTiが添加される。しかし、Ti量は最大で0.134%である。C含有量に対してTi含有量が低いので、特許文献4の技術によっても、HAZ軟化を十分に抑制することが難しい。
非特許文献1では、ホットスタンプ処理後の引張強さが1500MPa級となる非めっきホットスタンプ鋼板を用い、スポット溶接後にホットスタンプ処理を経たスポット溶接テーラードブランク(TB)継手の静的強度特性をホットスタンプ処理後にスポット溶接を行った通常のスポット溶接継手と比較した結果が報告されている。この報告によれば、通常のスポット継手ではHAZにビッカース硬さが300程度の軟化部が認められたが、スポット溶接TB継手では母材、HAZ、ナゲットまでビッカース硬さが460程度の一定値を示したとされている。
しかしながら、非特許文献1の技術でも、特許文献3の技術と同様に、軟化部を除去するためにホットスタンプ処理の熱処理を用いている。即ち、非特許文献1の技術は、溶接後の追加熱処理を必須とするので、製造ラインの設計の自由度を下げる。
なお、非特許文献1のFig.7によれば、後熱処理されていない通常のスポット継手のエッチング後断面(Fig.7(a))では、熱影響部に特有の黒い筋が認められるものの、ホットスタンプによって後熱処理されたスポット溶接TB継手のエッチング後断面(Fig.7(b))では、この黒い筋が認められない。してみれば、非特許文献1は、熱影響部の軟化を除去する技術であって、熱影響部における軟化(HAZ軟化)を抑制する技術ではないと解することができる。
特許第6179605号公報 特開2006-183139号公報 特開2006-219741号公報 特開2013-185245号公報
ホットスタンプ処理されたスポット溶接継手の静的強度特性、富士本博紀ら、溶接学会論文集、33巻、2号、p.144-152、2015
本発明は、熱影響部の軟化が小さい、又は熱影響部が軟化しない溶接継手、鋼部材、及び自動車部材を提供することを課題とする。さらに本発明は、熱影響部での熱履歴に相当する熱処理を行った後で軟化が小さい、又は軟化しない鋼板を提供することを課題とする。
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)本発明の一態様に係る溶接継手は、2枚以上の母材鋼板と、溶接金属及びその周囲の熱影響部を有し、前記母材鋼板を接合する溶接部とを備える溶接継手であって、前記母材鋼板のマルテンサイト量が80面積%以上であり、前記母材鋼板のビッカース硬さが、下記式1によって算出される前記母材鋼板の100%マルテンサイト硬さHMの90%以上であり、前記熱影響部の最軟化部硬さが、前記母材鋼板の前記ビッカース硬さの70%以上である。
HM=884×C×(1-0.3×C)+294 :式1
C:母材鋼板に含まれるCの質量%。
(2)上記(1)に記載の溶接継手では、前記母材鋼板が、化学成分として、0.01~0.50質量%のCと、下記式2を満たす量のTi、Mo、及びVからなる群から選択される一種以上の元素と、を含有してもよい。
[C]≦[Ti]+0.29×[Mo]+[V] :式2
ここで、式2に記載の[C]、[Ti]、[Mo]、及び[V]は、それぞれ母材鋼板の単位質量%でのC含有量、Ti含有量、Mo含有量、及びV含有量である。
(3)上記(1)又は(2)に記載の溶接継手では、前記溶接部がアーク溶接部であってもよい。
(4)本発明の別の態様に係る鋼板は、前記鋼板のビッカース硬さが、下記式1によって算出される前記鋼板の100%マルテンサイト硬さHMの90%以上であり、前記鋼板のマルテンサイト量が80面積%以上であり、前記鋼板をA点以上A点+10℃以下に加熱して3秒保持し、次いで80℃/秒以上の冷却速度で50℃未満まで冷却した後の前記鋼板の硬さとして定義される、前記鋼板の推定HAZ硬さが、前記鋼板の前記硬さの70%以上である。
HM=884×C×(1-0.3×C)+294 :式1
C:鋼板に含まれるCの質量%。
(5)上記(4)に記載の鋼板は、化学成分として、0.01~0.50質量%のCと、下記式2を満たす量のTi、Mo、及びVからなる群から選択される一種以上の元素と、を含有してもよい。
[C]≦[Ti]+0.29×[Mo]+[V] :式2
ここで、式2に記載の[C]、[Ti]、[Mo]、及び[V]は、それぞれ鋼板の単位質量%でのC含有量、Ti含有量、Mo含有量、及びV含有量である。
(6)本発明の別の態様に係る鋼部材は、上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の溶接継手を備える。
(7)上記(6)に記載の鋼部材は、自動車部材であってもよい。
(8)本発明の別の態様に係る自動車部材は、上記(6)に記載の鋼部材を備える。
本発明によれば、熱影響部の軟化が小さい、又は熱影響部が軟化しない溶接継手、鋼部材、及び自動車部材を提供することができる。さらに本発明によれば、熱影響部での熱履歴に相当する熱処理を行った後で軟化が小さい、又は軟化しない鋼板を提供することができる。
本発明の一態様に係る溶接継手の例の断面図である。
溶接継手の母材がマルテンサイト組織を有する鋼板(例えば、マルテンサイトが80面積%以上の鋼板)である場合、溶接継手の熱影響部(HAZ)では、マルテンサイトに固溶状態で存在していたCがFeと結合し、鉄炭化物(セメンタイト)として析出する。これにより、マルテンサイトの強度が低下したり、マルテンサイトが分解されてフェライトなどの軟質な組織に変化したりする。これが、HAZ軟化が生じる主な原因である。
本発明者らは、上述された熱影響部における焼戻しを緩和すること、及び焼戻しによる軟化を補う硬度確保手段を導入することにより、HAZ軟化が抑制された溶接継手が得られることを知見した。また、焼戻しを抑制するためには、例えば、Feよりも炭化物を作りやすい合金元素を溶接継手の母材となる鋼板に固溶状態で含有させることが有効であると知見した。
以下、上述の知見によって得られた、本実施形態に係る溶接継手、鋼板、鋼部材、及び自動車部材について説明する。
図1に例示される、本実施形態に係る溶接継手1は、2枚以上の母材鋼板11と、この母材鋼板を接合する溶接部12とを備える。溶接部12は、溶接金属121と、その周囲の熱影響部122とを有する。JIS Z 3001-1:2013では、用語「溶接部」は、「溶接金属及び熱影響部を含んだ部分の総称」と定義されており、用語「溶接金属」は、「溶接部の一部で、溶接中に溶融凝固した金属」と定義されており、用語「熱影響部」は、「溶接・切断などの熱で組織、治金的性質、機械的性質などが変化を生じた、溶融していない母材の部分」と定義されている。本実施形態に係る溶接継手1の溶接部12、溶接金属121、及び熱影響部122の定義は、同規格の定義に準じる。以下、熱影響部を「HAZ」と略す場合がある。
母材鋼板11は、十分に焼入れされたマルテンサイト主体の鋼板とされる。具体的には、母材鋼板11のマルテンサイト量は、80面積%以上とされ、母材鋼板11のビッカース硬さ(以下「母材硬さ」と略す場合がある)は、母材鋼板11の100%マルテンサイト硬さHMの90%以上とされる。鋼板の100%マルテンサイト硬さHMとは、その組織の実質的に全てがマルテンサイトとなるように鋼板を熱処理した後の鋼板のビッカース硬さの推定値であり、「TMCP鋼の溶接」(百合岡信孝、1992年、溶接学会誌、第61巻第4号、第53頁)に記載の下記式1によって算出される値である。式1中の「C」は、母材鋼板11のC含有量(質量%)である。
HM=884×C×(1-0.3×C)+294 :式1
母材鋼板11のマルテンサイト量を80面積%以上とし、且つ母材硬さを100%マルテンサイト硬さHMの90%以上とすることにより、溶接継手の強度を高めることができる。母材硬さを、100%マルテンサイト硬さHMの92%以上、95%以上、又は97%以上としてもよい。なお、本実施形態における「マルテンサイト」とは、焼入れままのマルテンサイト(いわゆるフレッシュマルテンサイト)を意味し、焼入れ後に焼戻し処理されたマルテンサイト(いわゆる焼戻しマルテンサイト)とは区別される。
溶接部12の種類は特に限定されない。図1に例示された溶接部12は、アーク溶接によって形成された溶接部、即ちアーク溶接部であるが、その他の任意の溶接方法を用いて本実施形態に係る溶接継手1の溶接金属121を形成することができる。本実施形態に係る溶接継手1において、HAZ軟化の防止は、溶接方法に依存することなく達成されているからである。溶接部12の溶接金属121の構成も特に限定されない。
2枚以上の母材鋼板11の位置関係は特に規定されない。図1に例示した溶接継手1は、2枚の母材鋼板11が重ね合わせられた重ねすみ肉溶接継手である。一方、2枚の母材鋼板11が突き合せられてレーザ溶接等により接合されていてもよい。従って、本実施形態に係る溶接継手は重ね合わせ溶接継手であっても突き合せ溶接継手であってもよく、溶接方法もアーク溶接に限定されない。溶接継手1に、溶着金属(溶接金属のうち、溶加材から移行した成分からなり、母材鋼板と混じり合っていないもの)が配されていてもよい。
本発明の熱影響部122の最軟化部硬さ(以下「HAZ硬さ」と略す場合がある)は、母材鋼板のビッカース硬さ(母材硬さ)の70%以上とされる。通常、マルテンサイト量が80面積%以上であって母材硬さが100%マルテンサイト硬さHMの90%以上である鋼板を溶接して得られた溶接継手の熱影響部では、HAZ軟化と呼ばれる硬度低下が生じる。HAZ軟化は、溶接による温度上昇及びその後の徐冷によって、HAZが焼き戻されてしまうために生じる。しかしながら、本実施形態に係る溶接継手1の熱影響部122では、HAZ軟化が抑制されるので、HAZ硬さが母材硬さの70%以上という極めて高い値に保たれる。これにより、本実施形態に係る溶接継手1は、高い面内引張強さを有する。HAZ硬さを、母材硬さの72%以上、75%以上、80%以上、85%以上、88%以上、又は90%以上としてもよい。HAZ硬さの上限は規定されない。理論的には、上限は100%以下であろう。が、測定のばらつきなどが原因と思われるが、100%を超える硬さの測定データが得られる場合もある。
なお、上述のように「熱影響部」とは、「溶接・切断などの熱で組織、治金的性質、機械的性質などが変化を生じた、溶融していない母材の部分」である。従って、溶接後に後熱処理に供されることによって、溶接の熱影響が除去された溶接継手1は、熱影響部を有しない溶接継手であると考えられる。換言すると、熱影響部を有する本実施形態に係る溶接継手1は、溶接後に後熱処理を受けていないことを特徴とする。これにより、本実施形態に係る溶接継手1は、高い生産性を有する。
溶接継手1が溶接金属121の周囲に熱影響部122を有するか否かは、例えば、溶接金属121を含む箇所において溶接継手1を切断し、切断面をエッチングして金属組織を現出させることによって判別可能である。熱影響部122を有する溶接継手1のエッチング後の断面写真では、溶接部12を取り囲む黒い筋が認められる。このような黒い筋は、熱影響によって生じた結晶粒径分布などの不均一に起因して生じているものと考えられる。黒い筋は、熱影響部を有する溶接継手にはほぼ確実に含まれ、本実施形態に係る溶接継手1の断面にも認められるものである。一方、溶接後に後熱処理を受けているために熱影響部122を有しない溶接継手のエッチング後の断面写真では、このような黒い筋は認められない。これは、後熱処理によって結晶粒径分布などが均一化されたからであると考えられる。
溶接金属121のP偏析状態を評価することによっても熱影響部122の有無を判断可能である。溶接後に後熱処理されていない溶接金属121において、EPMA等を用いてPの分布を測定すると、P偏析が確認できる。一方、溶接後に後熱処理された溶接金属121の端部では、このような偏析が緩和される。
偏析部の有無の定量的判断方法及び判断基準は、以下のようなものである。まず、溶接金属121を、母材鋼板11の板面に垂直に切断し、断面を適宜調製する。次いで、溶接金属121の、曳け巣やブローホールを含まない領域を0.6μm×0.6μmピッチ(縦横0.6μmピッチ)で100,000点以上(例:120μm×300μm)EPMA分析し、各測定点におけるPの濃度を求め、(全体の平均値の2倍を超えるP濃度となる測定点の数)÷(EPMA分析した総点数)>0.001となる溶接継手は、P偏析が後熱処理されていない溶接継手、即ち熱影響部122を有する溶接継手1であると判断される。
母材鋼板11のマルテンサイト量が80面積%以上であるか否かは、光学顕微鏡、またはSEMによる組織観察によって判別できる。
母材鋼板11のビッカース硬さが100%マルテンサイト硬さHMの90%以上であるか否か、及び熱影響部122の最軟化部硬さが母材鋼板11のビッカース硬さの70%以上であるか否かは、以下の手順により判断することができる。まず、母材鋼板11の表面から板厚1/4深さの位置において、0.25mm間隔で連続的に硬さ測定を行う。母材鋼板11が重ね合わせられている場合は、鋼板の2つの表面のうち接合面から板厚1/4深さの位置において測定する。例えば、図1に例示される重ねすみ肉溶接継手においては、破線aに沿って連続的に硬さ測定を行う。この測定によって得られた、鋼板の板面方向に平行な硬さ分布曲線における、溶融部端から5mm離れた位置までの間で最も低硬度の箇所を、熱影響部122の最軟化部とみなし、この最軟化部の硬さを、熱影響部122の最軟化部硬さとみなす。また、溶接部12から十分離れた5箇所における硬さの平均値を、母材鋼板11のビッカース硬さとみなす。100%マルテンサイト硬さHMは、母材鋼板11のC含有量を上述の式1に代入して求める。これらの値に基づき、溶接継手1において母材鋼板11のビッカース硬さが100%マルテンサイト硬さHMの90%以上であるか否か、及び熱影響部122の最軟化部硬さが母材鋼板11のビッカース硬さの70%以上であるか否かを判断することができる。なお、ビッカース硬さの測定はJIS Z 2244準拠とする。また、硬さの測定荷重は、測定値や材料組織のばらつきを考えると200gf以上が望ましい。
硬さ、及びマルテンサイト量に関する上記要件を満たす限り、母材鋼板11の化学成分は特に限定されない。母材鋼板11の化学成分は、後述される例示的なスラブ成分と同一であってもよい。
上述の、本実施形態に係る溶接継手1の製造方法の一例について以下に説明する。溶接継手1の製造方法は特に限定されないが、例えば、セメンタイト析出抑制元素を固溶させた鋼板を製造する工程と、前記鋼板を溶接する工程とを備える。
焼き入れされた高強度鋼板は、その組織の大半が、Cが固溶したマルテンサイトとなっている。一方、一般的に溶接部では、A点温度以下で加熱された領域において、マルテンサイト中に固溶したCがFeと結合し、鉄炭化物(セメンタイト)となり硬さが低下する領域(HAZ軟化部)が生じる。従って、HAZ軟化を抑制する手段の一つとして、セメンタイト析出の抑制が挙げられる。
この際に、鋼板中にFeよりも炭化物を作り易い合金元素(以下、セメンタイト析出抑制手段と称する)が固溶している場合には、溶接で加熱された領域において鉄炭化物の生成が抑制される。本発明者らが見出した、セメンタイト析出抑制手段の一例はTiである。Tiは、溶接入熱による鋼板の温度上昇及び下降の間に、(1)セメンタイト生成を抑制して、固溶C量の低減を抑制する効果と、(2)析出強化によってHAZを強化する効果とを発揮する。
(1)Tiがセメンタイト生成を抑制する効果を有する理由は、Feよりも炭化物を作り易いからであると考えられる。ただし、その結果としてマルテンサイト中の固溶Cの大半がTi炭化物として析出することとなれば、セメンタイト生成を抑制することはできても、固溶C量を確保してHAZ軟化を防止することはできない。Tiが優れているのは、溶接の過程でTi及びCの一部しか炭化物を生成しない点にある。Ti及びCが結合してTiCとして析出するためには、鉄マトリクス中でのTi元素及びC元素の拡散移動が必要となるが、Tiの拡散速度は比較的遅い。溶接入熱による温度上昇及び下降は非常に短時間(数秒)の間に生じる。そのため、溶接においては、Ti及びCの全てがTiCとして析出する前に、Ti及びCがマトリクス中を移動できない温度帯まで、鋼板温度が低下する。つまり、鋼板中のTiは、CがFeと結びつくことを阻害するが、それ自身は溶接中に炭化物として析出し難い。鋼板中に固溶状態で含まれるTiは、溶接中に、Cを固溶状態のまま保つ働きを有するのである。
さらに、一部のTi及びCはTiC等のTi炭化物となって熱影響部122に析出するが、Ti炭化物はセメンタイトとは異なり、析出強化によって熱影響部122を硬化させる働きを有する。マルテンサイト中に固溶したCの一部はTiと結合するものの、TiとCが結合してできたTiCが(2)析出強化によってHAZを強化する。固溶C減少による硬さの低下と、析出強化による硬さの増加が相殺し、結果としてHAZ軟化は抑制される。(1)及び(2)の相乗効果によって、本実施形態に係る溶接継手1の熱影響部122は、その最軟化部硬さが、母材鋼板11のビッカース硬さの70%以上とされるのである。
さらに本発明者らは、Mo及びVも、Tiと同様の効果を奏することを知見した。従って、セメンタイト析出抑制手段を、Mo及び/又はVとしてもよい。ただし、Moによって得られる効果はV及びTiよりも小さいので、セメンタイト析出抑制手段としてMoを用いる場合は、Mo量を大きくする必要があると考えられる。
なお、軽元素であるCの定量は難しい。従って、固溶C量を精度よく測定することは実質的に不可能である。また、固溶状態のTi、Mo、及びVの量を精度よく測定する方法も、実質的に存在しない。しかし、HAZ軟化が十分に抑制された熱影響部122においては、固溶C量が十分に確保されていると推定することができる。また、母材鋼板11がTi、Mo、及び/又はVを含み、且つ熱影響部122でHAZ軟化が十分に抑制されているのであれば、母材鋼板11には固溶状態のTi、Mo、及び/又はVが十分に含まれると推定される。これは、後述する本実施形態に係る鋼板においても同様である。
次に、セメンタイト生成抑制手段を含有する鋼板の製造方法について説明する。例えばセメンタイト生成抑制手段がTi、Mo、及び/又はVである場合、鋼板の化学成分を、単位質量%でC:0.01~0.50%を含有し、さらに後述の式2を満たす量のTi、Mo、及びVからなる群から選択される一種以上の元素を含有するものとすることが好ましい。
C:0.01~0.50%
Cは、マルテンサイト相の硬さを高めることができる。鋼板の強度確保の点から、C含有量の下限を0.01%とすることが好ましい。一方、C含有量の上限を0.50%とすると、鋼板の過剰な強度上昇を回避することができるので好ましい。C含有量は例えば0.05~0.15%である。C含有量の上限は、さらに好ましくは0.40%である。C含有量の下限は、さらに好ましくは0.03%以上である。
Ti、Mo、及びVからなる群から選択される一種以上の元素:式2を満たす
Tiは、HAZ軟化を抑制するために重要な元素である。鋼中に固溶したTiは、マルテンサイト中のCが、溶接の際に鉄炭化物を生成することを抑制する。また、溶接の入熱によって一部は微細な炭化物を形成し、マルテンサイト中のCがこの炭化物となり硬さが低下したとしても、微細炭化物の析出強化が作用することで硬さの低下を相殺する働きをする。Mo、及びVも同様の効果を有する。
ここで、鋼板のC含有量に対するこれらセメンタイト生成抑制手段の含有量の比率を所定値以上とすることにより、上述したセメンタイト生成を抑制する効果、及び固溶C量を確保する効果が一層確実に得られる。ただし、Mo析出物は非常に微細であり、Mo析出物による析出硬化の量は、Ti析出物及びV析出物による析出硬化の量よりも小さい。従って、MoによるHAZ軟化抑制効果を十分に得るためには、Mo含有量を多くすることが望ましい。
以上の知見に鑑みて、本発明者らは、鋼板のTi、Mo、及び/又はVの含有量を下記式2を満たすように制御することが好ましいと判断した。
[C]≦[Ti]+0.29×[Mo]+[V] :式2
ここで、式2に記載の[C]、[Ti]、[Mo]、及び[V]は、それぞれ母材鋼板の単位質量%でのC含有量、Ti含有量、Mo含有量、及びV含有量である。式2が満たされる限り、Ti含有量、Mo含有量、及びV含有量の上下限値を個別に定める必要はない。一方、Tiを0.5質量%以下、Vを0.50質量%以下、及び/又はMoを2.00質量%以下と規定してもよい。これら元素のうち1つのみを用いてもよいし、2以上の元素を組み合わせて用いてもよい。[Ti]+0.29×[Mo]+[V]の上限値は特に限定されないが、例えば[Ti]+0.29×[Mo]+[V]を1.00質量%以下、0.80質量%以下、又は0.50質量%以下としてもよい。
C、Ti、Mo、及びV以外の元素を、鋼板が含有してもよい。以下に、鋼板の一層好適な化学成分の例を説明する。
Si:0.01~2.00%
Siは、鋼板の強度調整に用いることができる。また、Siは脱酸材としても有効である。加えて、Si量を極めて低下させた場合、精錬のコストアップを招く。以上の理由から、Si含有量の下限値を0.01%とすることが好ましい。一方、Si含有量を2.00%以下とすることで、鋼板の溶接性及びめっき性を向上させ、さらに、鋼板の冷却過程でフェライトまたはパーライトの生成を抑制するこができる。以上のことから、Si含有量の上限値は2.00%とすることが好ましい。
Mn:0.01~3.00%
Mnは、鋼板の焼入れ性を向上させる。また、Mnは、パーライト生成の抑制にも効果的である。以上の理由から、Mn含有量の下限値を0.01%とすることが好ましい。一方、Mn含有量を3.00%以下とすることにより、鋼板の靭性及びめっき性を向上させることができる。以上の理由から、Mn含有量の上限値を3.00%とすることが好ましい。
P:0.001~0.100%
Pは鋼板を強化する働きを有するが、その靱性を著しく劣化させる。従って、P含有量の上限を0.100%とすることが好ましい。P含有量は0%でもよいが、鋼材の原料などから混入するPを完全に除去することは経済的に不利であるので、0.001%をP含有量の下限とすることが好ましい。
S:0.0001%~0.0500%
SはPと同様に鋼板の靱性を劣化させる元素である。従って、S含有量の上限を0.0500%とすることが好ましい。一方で、鋼材の原料などから混入するSを完全に除去することは経済的に不利であるので、0.0001%をS含有量の下限とすることが好ましい。
Al:0.005%~2.000%
Al含有量を低減させることにより、フェライト生成を抑制し、さらに溶接性を向上させることができる。従って、Al含有量の上限を2.000%とすることが好ましい。一方、脱酸元素として用いられるAlの含有量を著しく低下させることは、製錬コストの上昇を招くおそれがある。そのため、Al含有量の下限値を0.005%とすることが好ましい。
N:0.0010~0.0100%
NはTiと結合しやすい元素であり、N含有量を低減することによって、Tiのセメンタイト生成抑制効果を一層高めることができる。従って、N含有量の上限値を0.0100%とすることが好ましい。一方、N含有量を著しく低下させることは、製錬コストの上昇を招くおそれがある。そのため、N含有量の下限値を0.0010%とすることが好ましい。
B:0.0002~0.0100%
Bは、フェライト変態、パーライト変態、及びベイナイト変態を抑制する元素である。従ってBは、溶接による加熱後の冷却中にフェライト、パーライト、ベイナイトの生成を抑制し、マルテンサイトを確保するうえでも有効な元素である。従って、Bの含有量の下限値を0.0002%とすることが好ましい。こうした効果は飽和するので、Bの含有量の上限値を0.0100%とすることが好ましい。
鋼板の化学成分の残部は、鉄及び不純物を含む。不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に、鉱石若しくはスクラップ等のような原料、又は製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本実施形態に係る溶接継手1に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
なお、鋼板の化学成分は、下記式3によって算出されるCeqが0.05以上となるように制御されることが望ましい。Ceqを0.05以上とすることによって、母材鋼板11の焼入れ性を確保し、そのマルテンサイト量及び硬さを所定範囲内にすることが一層容易となる。なお、下記式3は、日本溶接学会(WES)によって定められたものである。式3中の元素記号は、鋼板に含まれる各元素の含有量(質量%)を意味する。
Ceq=C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14 :式3
式3において、無添加の元素は、ゼロを代入する。
上述の鋼板成分と同じ成分を有するスラブに、熱間圧延、巻き取り、冷間圧延、及び熱処理を施すことにより、母材鋼板11の材料となる鋼板が得られる。ここでは、熱間圧延後の鋼板を直ちに急冷することが必要となる。
通常、鋼にTi、Mo、及び/又はVを含有させる場合、これら元素は鋼自体の析出強化のために用いられることが多い。そのため、これら元素を含有する通常の鋼板は、鋼板の熱間圧延後(または、鋼板の熱間圧延後に一旦室温まで鋼板を冷却してから、再度加熱した後)、低い冷却速度で冷却される。上述したように、Ti、Mo、及び/又はVの炭化物の析出には所定の時間を要するので、これら炭化物による析出強化が発現した鋼板を製造するためには、鋼板の温度を、Ti、Mo、及び/又はVの炭化物の析出温度の範囲内に適切な時間だけ滞留させることが必要とされる。
一方、本実施形態に係る溶接継手1の母材鋼板11となる鋼板では、Ti、Mo、及び/又はVを可能な限りマトリクスに固溶させておく(即ち、Ti、Mo、及び/又はVを炭化物化させない)ことが必要とされる。従って、本実施形態に係る溶接継手1の母材鋼板11となる鋼板の製造方法では、鋼板の温度がTi、Mo、及び/又はVの炭化物の析出温度の範囲内にある時間を可能な限り短くして、Ti、Mo、及び/又はVの炭化物の析出を抑制することが必要となる。
さらに、本実施形態に係る溶接継手1の母材鋼板11となる鋼板では、上述のようにマルテンサイト量が80面積%以上とされ、ビッカース硬さが100%マルテンサイト硬さHMの90%以上とされる。
Ti、Mo、及び/又はVの容体化、マルテンサイト量の確保、及びビッカース硬さの確保を達成するための具体的な製造条件は、例えば以下の通りとされる。前記成分を満足した鋼スラブを1100℃以上に加熱し、粗圧延によりシートバーとし、ついで仕上げ温度900℃以上で仕上げ圧延後、30℃/秒以上の冷却速度で300℃以下まで冷却し、巻き取りを行う。
次に本発明の別の態様に係る鋼板について説明する。本実施形態に係る鋼板は、上述された溶接継手1の母材鋼板11の材料となる鋼板である。本実施形態に係る鋼板のビッカース硬さは、100%マルテンサイト硬さHMの90%以上であり、マルテンサイト量は80面積%以上である。これにより、本実施形態に係る鋼板を溶接して得られる溶接継手の強度を高めることができる。鋼板の硬さを、鋼板の100%マルテンサイト硬さHMの92%以上、95%以上、又は97%以上としてもよい。
また、本実施形態に係る鋼板の推定HAZ硬さは、鋼板の硬さの70%以上である。ここで、鋼板の推定HAZ硬さとは、鋼板をA点以上A点+10℃以下に加熱して3秒保持し、次いで80℃/秒以上の冷却速度で50℃未満まで冷却した後の鋼板の硬さとして定義される。この熱履歴は、重ね合わされた2枚以上の鋼板をアーク溶接した際に熱影響部に与えられる熱履歴を模擬したものである。従って、鋼板の推定HAZ硬さとは、その鋼板をアーク溶接した場合に熱影響部の硬さがどの程度になるかを推定するための値であるといえる。なお、JIS K 0129:2005では、熱分析が「物質の温度を一定のプログラムによって変化させながら、その物質のある物理的性質を温度の関数として測定する一連の技法の総称」と定義されている。推定HAZ硬さは、温度の関数ではないものの、鋼板の温度を一定のプログラムによって変化させながら、その鋼板の物理的性質である硬さを測定する技法によって得られる値であるので、熱分析結果の一種であると解することができる。
通常、マルテンサイト量が80面積%以上であって母材硬さが100%マルテンサイト硬さHMの90%以上である鋼板に、上述の熱履歴を与えた場合、HAZ軟化と同様の硬度低下が生じる。しかしながら、本実施形態に係る鋼板では、推定HAZ硬さが母材硬さの70%以上という極めて高い値に保たれる。これにより、本実施形態に係る鋼板は、溶接された後に高い面内引張強さを有する。推定HAZ硬さを、鋼板の硬さの72%以上、75%以上、80%以上、85%以上、88%以上、又は90%以上としてもよい。
次に本発明の別の態様に係る鋼部材、及び自動車部材について説明する。本実施形態に係る鋼部材は、上述した本実施形態に係る溶接継手を備えた鋼部材である。本実施形態に係る自動車部材は、本実施形態に係る鋼部材を備える自動車部材である。自動車部材とは、例えば自動車において強度が必要な足回り部品である。自動車部材の具体例として、ロアアーム、フレームなどがある。本実施形態に係る溶接継手、及び自動車部材は、HAZ軟化が抑制されているので、面内引張を受けた際に母材鋼板の引張の際と同等の破断伸びを発揮する。本実施形態に係る鋼部材は、面内引張載荷時の破断伸びが要求される自動車部材として用いられた場合に、極めて高い効果を発揮することができる。
表1に記載の化学成分を有する鋼板(板厚2.0mm)に、アーク溶接を実施して、溶接継手を作成した。なお、鋼板の化学成分の残部は鉄及び不純物であった。
Figure 2022044220000002
母材鋼板の製造条件、熱処理の条件、及びアーク溶接条件は以下の通りとした。
母材鋼板は、上記成分を有する鋼スラブを1250℃に加熱し、粗圧延によりこれをシートバーとし、次いで仕上げ温度950℃でこれを仕上げ圧延し、さらにこれに水焼入れを行うことにより製造した。水焼入れにより、各母材鋼板は30℃/秒以上の冷却速度で300℃以下まで冷却された。Ti、V、Moを含む鋼スラブを材料として得られた母材鋼板においては、ほとんどのTi、V、Moが固溶状態で存在していると推定された。
すべての溶接継手の母材鋼板は、次いでアーク溶接された。アーク溶接条件は、電圧値:21.5V、電流値:105A、溶接速度:100cm/min、シールドガス種:Ar+20%COガス、及びシールドガス流量:20L/minとして、ビードオンプレート溶接を行った。
次に、作成した溶接継手の状態を以下の通り調査した。
[溶接継手の母材鋼板におけるマルテンサイト組織分率の測定方法]
母材鋼板の断面観察サンプルを作製し、ナイタール腐食を行い、板厚表面近傍と板厚中心の偏析帯を避けたt/4付近から走査型電子顕微鏡(SEM)で5視野観察し、視野内のマルテンサイト組織の面積を求め、視野面積で除した。
[溶接継手の母材鋼板の平均硬さ]
母材鋼板の断面観察サンプルを作製し、板厚表面近傍と板厚中心の偏析帯を避けた範囲においてビッカース測定荷重200gfで9点測定を行い、最大値と最小値を省いて平均値を算出した。
[溶接継手の熱影響部の最軟化部硬さ]
母材鋼板の表面からt/4深さ(tは母材鋼板の板厚)の位置において、0.25mm間隔で溶接金属から熱影響の無い母材位置まで連続的に硬さ測定を行った。鋼板の板面方向に平行な硬さ分布曲線における、溶融部端から5mm離れた位置までの間で最も低硬度の箇所を、熱影響部の最軟化部とした。
調査結果を表2に示す。
Figure 2022044220000003
すべての溶接継手で母材のマルテンサイトの面積率と母材鋼板のビッカース硬さが所定範囲内であった。Ti、V、Moをいずれも添加していない溶接継手No.1は最軟化部硬さ/母材硬さが70%未満であった。一方で、Ti、V、Moのいずれかを含有している溶接継手No.2~7は最軟化部硬さ/母材硬さが70%以上となり、HAZ軟化が抑制された。
本発明による溶接継手、鋼部材、及び自動車部材は、HAZ軟化が抑制されている。本発明による鋼板は、溶接継手の母材として用いられることによって、HAZ軟化が抑制された溶接継手及び鋼部材を提供することができる。従って、例えば自動車部材に本発明を適用した場合、その強度を飛躍的に向上させることができる。従って、本発明は高い産業上の利用可能性を有する。
1 溶接継手
11 母材鋼板
12 溶接部
121 溶接金属
122 熱影響部(HAZ)

Claims (8)

  1. 2枚以上の母材鋼板と、
    溶接金属及びその周囲の熱影響部を有し、前記母材鋼板を接合する溶接部と
    を備える溶接継手であって、
    前記母材鋼板のマルテンサイト量が80面積%以上であり、
    前記母材鋼板のビッカース硬さが、下記式1によって算出される前記母材鋼板の100%マルテンサイト硬さHMの90%以上であり、
    前記熱影響部の最軟化部硬さが、前記母材鋼板の前記ビッカース硬さの70%以上である
    ことを特徴とする溶接継手。
    HM=884×C×(1-0.3×C)+294 :式1
    C:母材鋼板に含まれるCの質量%。
  2. 前記母材鋼板が、化学成分として、
    0.01~0.50質量%のCと、
    下記式2を満たす量のTi、Mo、及びVからなる群から選択される一種以上の元素と、
    を含有することを特徴とする請求項1に記載の溶接継手。
    [C]≦[Ti]+0.29×[Mo]+[V] :式2
    ここで、式2に記載の[C]、[Ti]、[Mo]、及び[V]は、それぞれ母材鋼板の単位質量%でのC含有量、Ti含有量、Mo含有量、及びV含有量である。
  3. 前記溶接部がアーク溶接部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶接継手。
  4. 鋼板であって、
    前記鋼板のビッカース硬さが、下記式1によって算出される前記鋼板の100%マルテンサイト硬さHMの90%以上であり、
    前記鋼板のマルテンサイト量が80面積%以上であり、
    前記鋼板をA点以上A点+10℃以下に加熱して3秒保持し、次いで80℃/秒以上の冷却速度で50℃未満まで冷却した後の前記鋼板の硬さとして定義される、前記鋼板の推定HAZ硬さが、前記鋼板の前記硬さの70%以上である
    ことを特徴とする鋼板。
    HM=884×C×(1-0.3×C)+294 :式1
    C:鋼板に含まれるCの質量%。
  5. 化学成分として、
    0.01~0.50質量%のCと、
    下記式2を満たす量のTi、Mo、及びVからなる群から選択される一種以上の元素と、
    を含有することを特徴とする請求項4に記載の鋼板。
    [C]≦[Ti]+0.29×[Mo]+[V] :式2
    ここで、式2に記載の[C]、[Ti]、[Mo]、及び[V]は、それぞれ鋼板の単位質量%でのC含有量、Ti含有量、Mo含有量、及びV含有量である。
  6. 請求項1~3のいずれか一項に記載の溶接継手を備えた鋼部材。
  7. 自動車部材であることを特徴とする請求項6に記載の鋼部材。
  8. 請求項6に記載の鋼部材を備えた自動車部材。
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