JP2022036733A - 極低濃度のオリゴヌクレオチドの存在の有無を判定する方法、及び検査対象が特定疾患に罹患しているかどうか又は特定疾患罹患のリスクを有するかどうかを判定する方法 - Google Patents

極低濃度のオリゴヌクレオチドの存在の有無を判定する方法、及び検査対象が特定疾患に罹患しているかどうか又は特定疾患罹患のリスクを有するかどうかを判定する方法 Download PDF

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竜司 川野
Ryuji Kawano
七海 竹内
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Abstract

【課題】試験試料中における極低濃度(1.0pM以下)の特定オリゴヌクレオチドの存在の有無を判定する方法を提供する。【解決手段】(1)1種以上の特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するプローブ、及び前記特定オリゴヌクレオチドのうちの少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを1.0aM~1.0pMの濃度で含む可能性がある試験試料を、試験試料が1.0aM~1.0pMの前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを含む場合には、試験試料中における前記プローブの濃度対前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの濃度の比が1.0×104:1~1.0×109:1となるように準備し、ナノポアを用いて電流経時変化データを得る方法である。【選択図】図1

Description

本開示は、極低濃度のオリゴヌクレオチドの存在の有無を判定する方法、及び検査対象が特定疾患に罹患しているかどうか又は特定疾患罹患のリスクを有するかどうかを判定する方法に関する。
血液などの体液サンプルから、対象となる特定のオリゴヌクレオチド等を検出する方法として、リキッドバイオプシーが知られている。リキッドバイオプシーは、例えば、がんに罹患すると差示的に発現するマイクロRNA等の複数種のオリゴヌクレオチドを検出する方法として、着目されている。
特定のオリゴヌクレオチドを検出する技術として、ナノポア分析技術が知られている。ここで、ナノポア分析技術とは、ナノサイズの貫通孔を有するタンパク質において、該貫通孔を生体分子が通過するときに観測される電流の変化を基に、該生体分子を分析する技術である。
例えば、特許文献1及び特許文献2には、ターゲットのオリゴヌクレオチドに対して相補的な配列を含み、3’末端、5’末端若しくはそれら両末端に末端伸長部を有するプローブを用いたナノポア分析技術を基礎とするオリゴヌクレオチドの検出法、が開示されている。
例えば、特許文献3には、2種以上の特定オリゴヌクレオチドの有無を簡便に、且つ、精度よく判定する方法が開示されている。
特表2013-540423号公報 特表2017-006135号公報 特開2020-000056号公報
しかしながら、上記特許文献1~特許文献3のいずれにおいても、試験試料中における極低濃度(1.0pM以下)の特定オリゴヌクレオチドを検出する方法は記載されていない。よって、従来は、極低濃度で存在する前記特定オリゴヌクレオチドを指標とした臨床検査を行うことは困難であった。
また、特定オリゴヌクレオチドを検出する方法は、上記したナノポアを用いる方法以外にも、RT-qPCR又はマイクロアレイを用いる方法が知られている。しかし、いずれの方法においても、検出対象とする特定オリゴヌクレオチドが極低濃度である場合、核酸増幅効率は顕著に低く、さらに塩基長が短い特定オリゴヌクレオチドを核酸増幅するためのプライマー設計は困難であり、クロスハイブリダイゼーションが起こるという問題が生じていた。
しかし、極低濃度で存在するオリゴヌクレオチドを検出できれば、マーカーとなるオリゴヌクレオチドがごく微量でしか発現しない疾患への罹患を検出することが可能となり、また、例えば進行性の疾患への罹患をより早いステージで検出することも可能になると考えられる。
本開示は、上記に鑑みなされたものであり、試験試料中における極低濃度(1.0pM以下)の特定オリゴヌクレオチドの存在の有無を判定する方法を提供することを課題とする。
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> (1)1種以上の特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するプローブ、及び前記特定オリゴヌクレオチドのうちの少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを1.0aM~1.0pMの濃度で含む可能性がある試験試料を、試験試料が1.0aM~1.0pMの前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを含む場合には、試験試料中における前記プローブの濃度対前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの濃度の比が1.0×10:1~1.0×10:1となるように準備する第一の工程と、
(2)ナノポアを有する脂質二重膜により互いに隔てられる、第一の溶液としての前記試験試料と第二の溶液との間に電圧を印加し、前記第一の溶液と前記第二の溶液との間を流れる電流の電流強度を経時的に測定し電流経時変化データを得る第二の工程と、
(3)前記電流経時変化データを基に、前記試験試料中における前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの存在の有無を判定する第三の工程と、
を含む、試験試料中における1.0aM~1.0pMの濃度の少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの存在の有無を判定する方法。
<2> さらに、前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの量を判定することを含む、前記<1>に記載の方法。
<3> 前記1種以上の特定オリゴヌクレオチドは、2種以上の特定オリゴヌクレオチドを含む、前記<1>又は<2>に記載の方法。
<4> 前記プローブは、前記2種以上の特定オリゴヌクレオチドのそれぞれに相補的な配列を全て一分子中に含むプローブである、前記<3>に記載の方法。
<5> 前記プローブにおける前記2種以上の特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列の順番は、前記プローブと前記2種以上の特定オリゴヌクレオチドとの複合体の自由エネルギーが最も低くなるように選択されている、
前記<3>又は<4>に記載の方法。
<6> 前記プローブは、それぞれ異なる特定オリゴヌクレオチドに相補的な2種以上のプローブを含む、前記<3>に記載の方法。
<7> 前記第一の工程と前記第二の工程との間に、
前記試験試料をアニーリング処理する工程を含む、
前記<1>~<6>のいずれか1つに記載の方法。
<8> 前記特定オリゴヌクレオチドがmiRNAであり、
前記プローブがオリゴデオキシリボヌクレオチドである、
前記<1>~<7>のいずれか1つに記載の方法。
<9> 前記プローブは、(n)構造を3’末端に有し、nは任意のデオキシリボヌクレオチドであり、xは3~30の整数であり、x個のnは互いに同一である、
前記<1>~<8>のいずれか1つに記載の方法。
<10> 前記(n)構造は、ポリデオキシシトシン構造である、
前記<9>に記載の方法。
<11> 前記プローブは、ヘアピン構造を5’末端に有する、
前記<1>~<10>のいずれか1つに記載の方法。
<12> (1-1)特定疾患を有する罹患者若しくは特定疾患罹患のリスクを有する個体又はその組織において差示的に発現する1種以上の特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するプローブと、前記特定オリゴヌクレオチドのうちの少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを含む検査対象に由来するサンプルとを、試験試料中における前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの濃度が1.0aM~1.0pMであり、前記プローブの濃度対前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの濃度の比が1.0×10:1~1.0×10:1となるように混合し試験試料を得る、
又は、
(1-2)特定疾患を有する罹患者若しくは特定疾患罹患のリスクを有する個体又はその組織において差示的に発現しない1種以上の特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するプローブと、前記特定オリゴヌクレオチドのうちの少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを含む検査対象に由来するサンプルとを、試験試料中における前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの濃度が1.0aM~1.0pMであり、前記プローブの濃度対前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの濃度の比が1.0×10:1~1.0×10:1となるように混合し試験試料を得る、
第一の工程と、
(2)ナノポアを有する脂質二重膜により互いに隔てられる、第一の溶液としての前記試験試料と第二の溶液との間に電圧を印加し、前記第一の溶液及び前記第二の溶液の間を流れる電流の電流強度を経時的に測定し電流経時変化データを得る第二の工程と、
(3)前記電流経時変化データを基に、前記試験試料中における前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの存在を検出し、それにより検査対象が特定疾患に罹患しているかどうか又は特定疾患罹患のリスクを有するかどうかを判定する第三の工程と、
を含む、検査対象が特定疾患に罹患しているかどうか又は特定疾患罹患のリスクを有するかどうかを判定する方法。
<13> 前記1種以上の特定オリゴヌクレオチドは、2種以上の特定オリゴヌクレオチドを含む、前記<12>に記載の方法。
<14> 前記特定疾患が、胆管がんである、前記<12>又は<13>に記載の方法。
本開示によれば、試験試料中における極低濃度の特定オリゴヌクレオチドの存在の有無を判定する方法を提供することができる。
本開示に係るナノポア分析技術に用いる分析装置の一例を示す概略断面図である。 本開示に係るナノポア分析技術における電流経時変化データの一例を示すグラフである。 (A-1)~(C-1)は、本開示に係るナノポア分析技術における複合体とナノポアとの相互作用の例を表す概念図である。(A-2)~(C-2)は、(A-1)~(C-1)それぞれの場合に観測される電流経時変化データの例である。 ナノポアを有する脂質二重膜、第一の溶液(cis)、及び第二の溶液(trans)を用いて電圧を印加する、ナノポア分析技術の概略断面図である。 胆管がん患者及び健常者における、5種のmiRNAを指標としたときのインターバル時間に関するヒストグラムである。 胆管がん患者及び健常者における、5種のmiRNAを指標としたときのインターバル時間の平均に関するヒストグラムである。 胆管がん患者及び健常者における、血漿サンプル中に検出された各miRNAの濃度を示すグラフである。 胆管がん患者及び健常者における、血漿サンプル中に検出された各miRNAの濃度の平均を示すグラフである。 試験試料中に存在する極低濃度のmiRNAの種類数を変化させたときのインターバル時間分布を示すヒストグラムである。 インターバル時間と自由エネルギーとの相関を示すグラフである。 miRNAの濃度を変化させたときのインターバル時間分布を示すヒストグラムである。 インターバル時間とmiRNAの濃度との相関を示すグラフである。 ナノポアが開いている時間(open time(ms))を説明するための電流経時変化データの例、及び、プローブの濃度を変化させたときのナノポアが開いている時間を示すグラフ(箱ひげ図)である。
以下、本開示を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。以下の実施形態は例示的なものであって、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示を制限するものではない。また、本開示に係る技術的思想の範囲内において、当業者による様々な変更及び修正が可能である。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率は、特に断らない限り、当該複数種の物質の合計の含有率を意味する。
また、本開示に記載された具体的かつ詳細な内容の一部又は全てを利用せずとも本開示を実施可能であることは、当業者には明らかである。また、本開示の側面をあいまいにすることを避けるべく、公知の点については詳細な説明又は図示を省略する場合もある。
また、図面における部材の大きさは概念的なものであり、部材間の大きさの相対的な関係はこれに制限されない。また、実質的に同一の機能を有する部材には全図面を通して同じ符号を付与し、重複する説明は省略する場合がある。
≪試験試料中における1.0aM~1.0pMの濃度の少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの存在の有無を判定する方法(第1の判定方法)≫
本開示の極低濃度のオリゴヌクレオチドの存在の有無判定方法(以下、本開示に係る第1の判定方法とも呼ぶ)は、
(1)1種以上の特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するプローブ、及び前記特定オリゴヌクレオチドのうちの少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを1.0aM~1.0pMの濃度で含む可能性がある試験試料を、試験試料が1.0aM~1.0pMの前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを含む場合には、試験試料中における前記プローブの濃度対前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの濃度の比が1.0×10:1~1.0×10:1となるように準備する第一の工程と、
(2)ナノポアを有する脂質二重膜により互いに隔てられる、第一の溶液としての前記試験試料と第二の溶液との間に電圧を印加し、前記第一の溶液と前記第二の溶液との間を流れる電流の電流強度を経時的に測定し電流経時変化データを得る第二の工程と、
(3)前記電流経時変化データを基に、前記試験試料中における前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの存在の有無を判定する第三の工程と、
を有する。
上記したように、前記(1)~(3)に記載の第一の工程~第三の工程を有する方法によって、試験試料中における1.0aM~1.0pMの濃度の少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの存在の有無を判定することができる。
本開示に係る第1の判定方法のメカニズムは明確ではないが、以下のように推定される。
本開示に係るナノポア分析技術の流れについて図面を参照しながら説明する。
図1に、本開示に係るナノポア分析技術に用いる分析装置の一例の概略断面図を示す。図1に示されるように、この分析装置は、例えば、ナノポア1Nと、脂質二重膜2と、第一の溶液3と、第二の溶液4と、第一の溶液(試験試料)に含まれる特定オリゴヌクレオチド5A(又は、特定オリゴヌクレオチド5A及び5Bであってもよい)と、プローブ6と、電圧印加手段7と、を有する。また、第一の溶液3及び第二の溶液4には、電解質が含まれている。第一の溶液及び第二の溶液は、容器内に収容されている。なお、ナノポア分析技術に用いる分析装置としては、特開2015-77559及び特開2014-100672等で開示されている分析装置が挙げられる。
第一の溶液3及び第二の溶液4は、脂質二重膜2によって互いに隔てられている。脂質二重膜2は、脂質二重膜2の厚み方向に対し垂直に貫通するナノポア1Nを有する。ナノポア1Nは、脂質二重膜2の厚み方向に対し垂直に貫通する貫通孔1Pを有する。
プローブ6と、特定オリゴヌクレオチド5A(又は、特定オリゴヌクレオチド5A及び5B)とが混合された溶液が第一の溶液3を構成する。第一の溶液(試験試料)において、プローブ6は、プローブ6中の領域において特定オリゴヌクレオチド5Aとハイブリダイゼーションし複合体HYB1を形成する。又は、プローブ6中の領域においてそれぞれ異なる領域において2種の特定オリゴヌクレオチド5A及び5Bとハイブリダイゼーションし、複合体HYB2を形成する。なお図1は、複合体HYB2を形成した場合の概略断面図である。なお以降の、本開示に係るナノポア分析技術の流れに関する説明は、複合体HYB2を形成した場合の説明である。
電圧印加手段7は、第一の溶液3及び第二の溶液4それぞれに連結し、第一の溶液3と第二の溶液4との間に(つまり、脂質二重膜2を介する)電圧を印加できるようになっている。図示はしていないが、電圧印加手段7における第一の溶液3及び第二の溶液4それぞれに連結している先端には、それぞれ電極が備えられている。また、電圧印加手段7は、電源と電気的に接続されていてもよい。電圧印加手段7は、電圧計と電気的に接続されていてもよい。
複合体HYB2は、電圧の印加により、第一の溶液3からナノポア1Nの貫通孔1P内に侵入し、第二の溶液4の方向へと進む。このとき、貫通孔1Pの空孔サイズは、一本鎖のオリゴヌクレオチドのみが通過できる空孔サイズである。そのため、複合体HYB2は、電圧の印加により貫通孔1P内を第二の溶液4方向へ移動するにともない、特定オリゴヌクレオチド5A及び5Bとの二本鎖を解消し、プローブ6の一本鎖となりながら、貫通孔1P内を第2の溶液の方向へと進む。最終的にプローブ6は、貫通孔1Pを通り抜け第二の溶液4へと移動する。
このナノポア分析にともなう電流の変化について、次に説明する。例えば、電圧印加手段7により第一の溶液3及び第二の溶液4の間に電圧を印加すると、貫通孔1Pを通る電流が観測される。次に、複合体HYB2が貫通孔1P内に侵入すると、貫通孔1Pにおける電流の通過が阻害され、電流強度の低下が観測される。そして、貫通孔1P内に侵入した複合体HYB2が、特定オリゴヌクレオチド5A及び5Bとの複合を解消し、プローブ6が貫通孔1Pを通過すると、阻害されていた貫通孔1Pを通る電流が再び流れ、電流強度が再び上昇する。なお、貫通孔1P通過の際に電流強度が変動する現象は、プローブ6単体のみが通過する場合においても観測される。
図2に、本開示に係るナノポア分析技術における電流経時変化データの一例を表すグラフを示す。
図2に示すように、電流経時変化データでは、ナノポア1Nの貫通孔1Pを通る電流が阻害されていない時間Tと、ナノポア1Nの貫通孔1Pを通る電流が阻害されている時間Tが観測される。本開示におけるナノポア分析技術では、このナノポア1Nの貫通孔1Pを通る電流が阻害されている時間T(以下「Unzipping time」又は「インターバル時間」とも称す)を、上述の電流経時変化データから読み取り、このデータに基づいて、試験試料における特定オリゴヌクレオチドの存在の有無を判定している。
図3(A-1)~(C-1)に、各複合体とナノポアとの相互作用の一例を表す概念図を示す。なお図3における符号の説明は、図1における同じ符号の説明を流用できる。
図3(C-1)は、5種の特定オリゴヌクレオチド5A~5Eに相補的な配列を有するプローブ6に対し、全5種の特定オリゴヌクレオチド5A~5Eがハイブリダイゼーションし複合体HYB5を形成した場合のナノポア1Nと複合体HYB5との相互作用の一例である。図3(C-1)に示すように、電圧の印加により、ナノポア1Nの貫通孔1P内に侵入したHYB5は、第二の溶液4の方向へ移動するとともに特定オリゴヌクレオチド5A~5Eとの複合を段階的に解消していくと考えられる。
図3(B-1)は、5種の特定オリゴヌクレオチド5A~5Eに相補的な配列を有するプローブ6に対し、3種の特定オリゴヌクレオチド5A、5C及び5Eがハイブリダイゼーションし複合体HYB3を形成した場合のナノポア1Nと複合体HYB3との相互作用の一例である。図3(B-1)に示すように、HYB5と同様に、電圧の印加により、ナノポア1Nの貫通孔1P内に侵入したHYB3は、第二の溶液4の方向へ移動するとともに特定オリゴヌクレオチド5A~5Eとの複合を段階的に解消していくと考えられる。
図3(A-1)は、5種の特定オリゴヌクレオチド5A~5Eに相補的な配列を有するプローブ6に対し、1種の特定オリゴヌクレオチド5Eのみがハイブリダイゼーションし複合体HYB1を形成した場合のナノポア1Nと複合体HYB1との相互作用の一例である。図3(A-1)に示すように、HYB5と同様に、電圧の印加により、ナノポア1Nの貫通孔1P内に侵入したHYB1は、第二の溶液4の方向へ移動するとともに特定オリゴヌクレオチド5Eとの複合を解消していくと考えられる。
上記複合体HYB5、HYB3及びHYB1のナノポア内における各挙動を、それぞれの電流経時変化データとしてとらえると、図3(A-2)~(C-2)に示すように、HYB5のインターバル時間INT-HYB5は、HYB3のインターバル時間INT-HYB3、及びHYB1のインターバル時間INT-HYB1よりも長くなる。また、HYB3のインターバル時間INT-HYB3は、HYB1のインターバル時間INT-HYB1よりも長く、INT-HYB5よりも短くなる。すなわち、インターバル時間は、プローブ6が形成する複合体の組み合わせに影響される。また、インターバル時間は、プローブ6に複合する特定オリゴヌクレオチドの数の増加にともない、より長くなる。なお、ここで特定オリゴヌクレオチドとは、プローブ6と複合する測定対象となるオリゴヌクレオチドのことを指し、その配列は特に限定されない。
しかしながら、実際には、試験試料中における極低濃度(1.0pM以下)の特定オリゴヌクレオチドの存在の有無を判定することは困難である。この要因としては、単にプローブを試験試料に含ませるだけでは、試験試料中に含まれる特定オリゴヌクレオチドが極低濃度である場合に、プローブと前記特定オリゴヌクレオチドとが相補鎖を形成する確率が非常に低いこと、さらに、該相補鎖が前記ナノポアを通過する確率(通過頻度)も非常に低いこと、などが挙げられる。以上の理由から、従来、ナノポアを用いたオリゴヌクレオチド検出では1.0pMより高い濃度のオリゴヌクレオチドの存在の有無の判定しかできないというのが技術常識であった。
一方、本開示に係る第1の判定方法では、試験試料中における極低濃度(1.0pM以下)の特定オリゴヌクレオチドの存在の有無を判定することができる。具体的に、本開示に係る第1の判定方法では、1種以上の特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するプローブ、及び前記特定オリゴヌクレオチドのうちの少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを1.0aM~1.0pMの濃度で含む可能性がある試験試料を、試験試料が1.0aM~1.0pMの前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを含む場合には、試験試料中における前記プローブの濃度対前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの濃度の比が、1.0×10:1~1.0×10:1となるように準備することで、驚くべきことに、1.0aM~1.0pMの少なくとも1種のオリゴヌクレオチドが試験試料に含まれる場合に当該オリゴヌクレオチドの検出が可能である。試験試料中における前記プローブの濃度対前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの濃度の比は、1:1を超えればプローブは既に過剰なのであって、1.0×10:1~1.0×10:1の濃度比の場合に特に上記の効果が得られることは従来の技術常識からは予想ができないことであった。また、濃度比を上記のようにプローブが圧倒的に過剰になるようにしたとしても、オリゴヌクレオチドが1.0aM~1.0pMという低濃度でしか存在しないこと自体には変わりがなく、このことからも上記の効果が得られることは従来の技術常識からは予想ができないことであった。
上記の効果は、前記濃度比が1.0×10:1~1.0×10:1の場合に、前記プローブと前記特定オリゴヌクレオチドとが相補鎖を形成する確率が特異的に高くなっているのではないかと推測される。
なお、本開示は、上記推定機構には何ら制限されない。
本開示の、第1の判定方法は、
(1)1種以上の特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するプローブ、及び前記特定オリゴヌクレオチドのうちの少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを1.0aM~1.0pMの濃度で含む可能性がある試験試料を、試験試料が1.0aM~1.0pMの前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを含む場合には、試験試料中における前記プローブの濃度対前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの濃度の比が1.0×10:1~1.0×10:1となるように準備する第一の工程と、
(2)ナノポアを有する脂質二重膜により互いに隔てられる、第一の溶液としての前記試験試料と第二の溶液との間に電圧を印加し、前記第一の溶液と前記第二の溶液との間を流れる電流の電流強度を経時的に測定し電流経時変化データを得る第二の工程と、
(3)前記電流経時変化データを基に、前記試験試料中における前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの存在の有無を判定する第三の工程と、
を含む。
本開示の、第1の判定方法は、さらに、前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの量を判定することを含んでいてもよい。
以下、各工程について詳細に説明する。
(第一の工程)
本開示に係る第1の判定方法は、第一の工程を含む。
第一の工程では、1種以上の特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するプローブ、及び前記特定オリゴヌクレオチドのうちの少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを1.0aM~1.0pMの濃度で含む可能性がある試験試料を、試験試料が1.0aM~1.0pMの前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを含む場合には、試験試料中における前記プローブの濃度対前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの濃度の比が1.0×10:1~1.0×10:1となるように準備する。
-試験試料-
本開示に係る試験試料は、特定オリゴヌクレオチドを含んでいても、特定オリゴヌクレオチドを含んでいなくてもよい。試験試料に対して、本開示に係る第1の判定方法を用いると、試験試料が極低濃度(1.0pM以下)の特定オリゴヌクレオチドを含んでいる場合に、当該特定オリゴヌクレオチドの存在を検出することができる。
試験試料は、前記特定オリゴヌクレオチドのうちの少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを1.0aM~1.0pMの濃度で含む可能性がある試料であるが、前記濃度の下限値は10aM、100aM、0.5fM、1.0fM、5.0fM、10fM、20fM又は50fMであっても構わない。前記濃度の上限値は、1.0pMに限られず、例えば800fM、500fM、300fM、200fM、100fM、50fM、20fM又は10fMであっても構わない。例えば、試験試料は、前記特定オリゴヌクレオチドのうちの少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを10aM~100fMの濃度で含む可能性がある試料であってもよい。なお、これらの上限値及び下限値は、矛盾が生じない限り、それぞれ上記のうち任意のものを自由に組み合わせることができる。
本開示に係る第1の判定方法において、前記特定オリゴヌクレオチドのうちの少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを1.0aM~1.0pMの濃度で含む可能性がある試験試料は、前記特定オリゴヌクレオチドのうちの少なくとも1種のオリゴヌクレオチドについて1.0aM~1.0pMの濃度で含む可能性がある試験試料であればよく、前記特定オリゴヌクレオチドのうちの残りのオリゴヌクレオチドについてはその含有/非含有及び濃度については特に限定されない。また、前記試験試料は、測定の時点で前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドについて1.0aM~1.0pMの濃度で含む可能性があればよく、事後的に前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを含んでいないこと、1.0aM未満で含んでいること、又は1.0pM超の濃度で含んでいることが判明しても構わない。
本開示に係る第1の判定方法においては、試験試料が1.0aM~1.0pMの前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを含む場合には、試験試料中における前記プローブの濃度対前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの濃度の比が1.0×10:1~1.0×10:1となるように準備するが、これはこのような濃度であることを測定前に事前に確認することを要求するものではなく、上記のような濃度比を満たしていたことが事後的に確認出来れば十分である。オリゴヌクレオチドの濃度の事後的な確認は、必要であれば、本開示に係る第1の判定方法の一実施形態によって得ることもできるし、リアルタイムPCRなど他の手法で得ることもできる。本開示に係る第1の判定方法は、極低濃度のオリゴヌクレオチドの有無を判定するものであって、上記の濃度比を満たしていたことが確認出来れば、それがたとえ事後的な確認であっても、本開示に係る第1の判定方法によって極低濃度のオリゴヌクレオチドの有無が判定できたのだと理解できる。
試験試料の由来となるサンプルは、固体であっても液体であってもよい。サンプルが固体の場合、例えば、該固体を溶液媒体に懸濁、分散又は溶解した希釈液を使用することが好ましい。溶液媒体としては、特に制限されず、例えば、水又は緩衝液等が挙げられる。
サンプルとしては、例えば、ヒト又は非ヒト動物(ヒトを除く哺乳類等)等の検査対象に由来するサンプルが挙げられる。
上記検査対象に由来するサンプルとしては、例えば、生体由来の検体等が挙げられる。生体由来の検体としては、特に制限されず、尿、血液、又は唾液等が挙げられる。血液検体としては、例えば、赤血球、全血、血清、又は血漿等が挙げられる。
検査対象から得られたサンプルは、液体であってもよく、固体であってもよい。例えば、検査対象から得られたサンプルの未希釈液をそのまま使用してもよいし、該サンプルを媒体に、懸濁、分散又は溶解した希釈液を使用してもよい。検査対象から得られたサンプルが固体の場合、例えば、検体を溶液媒体に懸濁、分散又は溶解した希釈液を液体検体として使用することが好ましい。溶液媒体としては、特に制限されず、例えば、水又は緩衝液等が挙げられる。例えば、第一の溶液としての試験試料は、前記サンプルが液体である場合、サンプルをそのまま試験試料としてもよく、前記サンプルをpH緩衝溶液等に希釈したものを試験試料としてもよい。このようにして得られた液体検体を、第一の溶液として、又は第一の溶液に添加して本開示に係る第1の判定方法において用いることができる。
-特定オリゴヌクレオチド-
本開示に係る特定オリゴヌクレオチドとは、検出の対象となる特定の配列を有するオリゴヌクレオチドを表す。
特定オリゴヌクレオチドは、プローブと容易にハイブリダイゼーションし、複合体を形成する点から、一本鎖のオリゴヌクレオチドであることが好ましい。例えば、特定の疾患の有無によって差示的に発現する又は発現しない一本鎖オリゴヌクレオチド、つまり、発現が特定の疾患の有無に対して差示的である一本鎖オリゴヌクレオチドを、特定オリゴヌクレオチドとして選択してもよい。
特定オリゴヌクレオチドは、15以上30以下の塩基長を有する一本鎖オリゴヌクレオチドであることが好ましい。15以上30以下の塩基長を有する一本鎖オリゴヌクレオチドとしては、例えば、一本鎖DNAであっても、マイクロRNA(miRNA)等の一本鎖RNAであってもよい。上記の中でも、特定オリゴヌクレオチドとしては、例えば、特定の疾患への罹患又は罹患リスクを判定する観点から、miRNAであることが好ましい。なお、特定オリゴヌクレオチドがmiRNAである場合、プローブはmiRNAに相補的な配列を有するオリゴデオキシリボヌクレオチドとすることができる。
本開示に係る1種以上の特定オリゴヌクレオチドは、一度に複数のオリゴヌクレオチドの存在の有無を判定することができる観点から、又は、より精密に特定の疾患への罹患又は罹患リスクを判定できる観点から、2種以上の特定オリゴヌクレオチドであってもよく、3種以上の特定オリゴヌクレオチドであってもよく、5種以上の特定オリゴヌクレオチドであってもよい。
なお、本開示に係る特定オリゴヌクレオチドが複数種ある場合は、試験試料中に、前記特定オリゴヌクレオチドのうち少なくとも1種が1.0aM~1.0pMの濃度で含まれる可能性があれば、本開示に係る第1の判定方法を適用することができる。
例えば、本開示に係る特定オリゴヌクレオチドが5種ある場合に、試験試料中に、前記特定オリゴヌクレオチドのうちの例えば2種のオリゴヌクレオチドが1.0aM~1.0pMの濃度で含まれる可能性があるならば、前記特定オリゴヌクレオチドのうち他の3種のオリゴヌクレオチドが1.0pMより高い濃度で含まれていても構わない。前記のような場合であっても、本開示に係る第1の判定方法を適用することができる。
-プローブ-
本開示に係るプローブは、1種以上の特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有する一本鎖ポリヌクレオチドであれば、特に限定されない。プローブは、特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列以外の配列を含んでいてもよい。
「相補的な配列」とは、試験試料における各特定オリゴヌクレオチドの配列の全長に対して所定程度以上の相補性を有する配列を表す。
プローブにおける1種以上の特定オリゴヌクレオチドそれぞれに対する相補性は、プローブと、前記特定オリゴヌクレオチドのうちの少なくとも1種のオリゴヌクレオチドとがハイブリダイゼーションし複合体を得ることができれば、特に限定されない。例えば、プローブは、各特定オリゴヌクレオチドの配列に対し、80%以上の相補性を有する配列を含んでいてもよく、90%以上の相補性を有する配列を含んでいてもよく、95%以上の相補性を有する配列を含んでいてもよく、100%以上の相補性を有する配列(つまり、特定オリゴヌクレオチドの全長に対して完全に相補的な配列)を含んでいてもよい。又は、プローブは、各特定オリゴヌクレオチドに完全に相補的な配列に対して、5塩基以下の付加、欠失又は置換を行った配列を含んでいてもよい。各特定オリゴヌクレオチドに完全に相補的な配列に対するプローブの付加、欠失又は置換塩基数は、3以下であることが好ましく、1以下であることがより好ましく、0であることが更に好ましい。
非特異的なハイブリダイゼーションを低減させ、特異的ハイブリダイゼーションの効率を上昇させる観点から、プローブは、各特定オリゴヌクレオチドの塩基配列それぞれに完全に相補的な配列を有することが好ましい。
各特定オリゴヌクレオチドの塩基配列それぞれに完全に相補的な配列を有するプローブを用いることで、例えば、プローブにハイブリダイゼーションしている特定オリゴヌクレオチドの数が異なる複数の複合体について、それぞれのインターバル時間に、より差をつけることができる。
前記1種以上の特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するプローブは、一度に複数のオリゴヌクレオチドの存在の有無を判定することができる観点から、又は、より精密に特定の疾患への罹患又は罹患リスクを判定できる観点から、2種以上の特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するプローブであってもよく、3種以上の特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するプローブであってもよく、5種以上の特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するプローブであってもよい。
本開示において、1種以上の特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するプローブ、及び前記特定オリゴヌクレオチドのうちの少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを1.0aM~1.0pMの濃度で含む可能性がある試験試料を、試験試料が1.0aM~1.0pMの前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを含む場合には、試験試料中における前記プローブの濃度対前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの濃度の比が1.0×10:1~1.0×10:1となるように準備するが、前記濃度比の下限値は、5.0×10、1.0×10、5.0×10、1.0×10、5.0×10、1.0×10、5.0×10、又は1.0×10であってもよく、前記濃度比の上限値は、5.0×10、1.0×10、5.0×10、1.0×10、5.0×10、1.0×10、5.0×10、又は1.0×10であってもよい。なお、これらの上限値及び下限値は、矛盾が生じない限り、それぞれ上記のうち任意のものを自由に組み合わせることができる。このため、前記濃度比は、例えば、1.0×10:1~1.0×10:1であってもよく、1.0×10:1~1.0×10:1であってもよい。
前記準備した試験試料に含まれるプローブの濃度は、前記した、試験試料中における前記プローブの濃度対前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの濃度の比を満たしていれば特に限定されない。試験試料中における極低濃度(1.0pM以下)の特定オリゴヌクレオチドの存在の有無を判定する観点から、前記準備した試験試料に含まれるプローブの濃度は、例えば、10fM~1.0mMであってもよい。前記プローブの濃度の下限値は、50fM、100fM、500fM、1.0pM、5.0pM、10pM、50pM、100pM、500pM、1.0nM、5.0nM、10nM、50nM、100nM、500nM、1.0μM、5.0μM、10μM、50μM、又は100μMであってもよい。前記プローブの濃度の上限値は、500μM、100μM、50μM、10μM、5.0μM、1.0μM、500nM、100nM、50nM、10nM、5.0nM、1.0nM、500pM、100pM、50pM、10pM、5.0pM、1.0pM、又は500fMであってもよい。なお、これらの上限値及び下限値は、矛盾が生じない限り、それぞれ上記のうち任意のものを自由に組み合わせることができる。例えば、前記プローブの濃度は、1.0pM~100μMであってもよく、100pM~10μMであってもよい。
本開示に係る「試験試料が1.0aM~1.0pMの前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを含む場合には」とは、試験試料が1.0aM~1.0pMの前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを含んでいる場合における条件を指すものであり、他の場合の存在を排除するものではないため、試験試料は1.0aM~1.0pMの前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを含んでいてもよく、1.0aM~1.0pMの前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを含んでいなくてもよい。
本開示に係る「試験試料中における前記プローブの濃度対前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの濃度の比が1.0×10:1~1.0×10:1となるように準備する」とは、第一の工程において、試験試料中における前記プローブと、前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドとを、濃度の比が1.0×10:1~1.0×10:1となるように混合するのでもよく、第一の工程より前の時点において、試験試料中における前記プローブと、前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドとを、濃度の比が1.0×10:1~1.0×10:1となるように既に混合されている状態であってもよい。
プローブの種類は、1種であってもよく、複数種であってもよい。
プローブの種類が1種である場合、プローブは、2種以上の特定オリゴヌクレオチドのそれぞれに相補的な配列を全て一分子中に含むプローブからなっていてもよい。
プローブが、前記2種以上の特定オリゴヌクレオチドのそれぞれに相補的な配列を全て一分子中に含むプローブであると、2種以上の特定オリゴヌクレオチドとプローブとが形成する種々の複合体のインターバル時間を調節し易くなる傾向にある。
プローブは、それぞれ異なる特定オリゴヌクレオチドに相補的な2種以上のプローブからなっていてもよい。プローブの種類が2種以上である場合、1つのプローブが2種以上の特定オリゴヌクレオチドに相補的な2種以上の配列の全てを含む必要は無く、各特定オリゴヌクレオチドに相補的なプローブが、2種以上のプローブのいずれか1つ以上に含まれていればよい。例えば、それぞれ配列の異なる特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有する2種以上のプローブを用いてもよい。この場合、使用するプローブの種類数は、対象とする特定オリゴヌクレオチドの種類数とすることができる。また、2種以上のプローブを用いる場合には、各プローブによるインターバル時間の差を調整するために、ポリエチレングリコールなどにより必要に応じてプローブを修飾してもよい。
プローブは、それぞれ前記2種以上の特定オリゴヌクレオチドの少なくとも1種に相補的な配列を含む複数のプローブ群であってもよい。
プローブが、それぞれ前記2種以上の特定オリゴヌクレオチドの少なくとも1種に相補的な配列を含む複数のプローブ群であると、各プローブの設計及び/又は修飾により、2種以上の特定オリゴヌクレオチドとプローブとが形成する種々の複合体のインターバル時間を調節し易くなる傾向にある。
プローブにおける、1つの特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列は、複数の部分に分割されて、それぞれの部分が別々のプローブに存在していてもよい。この場合、該別々のプローブが共存すれば、プローブをまたぐ形で相補的な配列が形成される。例えば、後述するプローブ3-1及びプローブ3-2は、プローブ3-1及びプローブ3-2をつなぐ形でmiR-20aへの相補的配列及びmiR-17-5aに相補的な配列が存在する。このような場合も、本開示では、「相補的な配列を有するプローブ」の範囲に含まれる。
前記プローブにおける前記2種以上の特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列の順番は、前記プローブと前記2種以上の特定オリゴヌクレオチドとの複合体の自由エネルギーが最も低くなるように選択されていることが好ましい。
プローブと前記2種以上の特定オリゴヌクレオチドとの複合体の自由エネルギーが最も低くなるように、各特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列の順番が選択されると、プローブと2種以上の特定オリゴヌクレオチドとがハイブリダイゼーションし形成する複合体が、安定に存在しやすい。そのため、各複合体のナノポア分析におけるインターバル時間の変動が抑制される傾向にある。
プローブと前記2種以上の特定オリゴヌクレオチドとの複合体の自由エネルギーは、Caltech(California Institute of Technology)のNUPACKにより求める。
本開示において、前記特定オリゴヌクレオチドの種類と前記プローブの種類の組み合わせは、特に限定されないが、例えば、特定オリゴヌクレオチドをmiRNAとし、かつプローブをオリゴデオキシリボヌクレオチドとすることができる。
特定オリゴヌクレオチドがmiRNAであり、プローブがオリゴデオキシリボヌクレオチドである場合、試験試料中における極低濃度(1.0pM以下)の特定miRNAの存在の有無を判定することができる。
プローブは、(n)構造を3’末端に有してもよく、nは任意のデオキシリボヌクレオチドであり、xは3~30の整数であり、x個のnは互いに同一であることが好ましい。
プローブの3’末端に(n)構造を有すると、電圧を印加した際に、ナノポアの貫通孔内に、複合体がプローブの3’末端側から侵入し易い傾向にある。
プローブが3’末端に(n)構造を有する場合、前記(n)構造は、ポリデオキシシトシン構造であることが好ましい。
ポリデオキシシトシン構造としては、デオキシシトシンを構成単位として有する重合体であれば、特に限定されない。例えば、ナノポアの貫通孔内に複合体を好適に存在させる目的で、ナノポアの貫通孔における厚み方向の長さよりも長い、デオキシシトシンを20個連結したポリデオキシシトシンであることが好ましい。
プローブは、ヘアピン構造を5’末端に有してもよい。
ヘアピン構造は嵩高いため、プローブの5’末端がナノポアの貫通孔内に侵入し難い傾向にある。つまり、プローブの5’末端にヘアピン構造を有すると、プローブの5’末端側からのナノポアの貫通孔内への侵入を抑制し、3’末端側の一方向のみからナノポアの貫通孔内へ侵入させ易くすることができる。その結果、各複合体のナノポア分析におけるインターバル時間のばらつきが抑制される傾向にある。
(アニーリング処理の工程)
本開示に係る第1の判定方法は、第一の工程と、後述する第二の工程との間に、前記試験試料をアニーリング処理する工程を含んでいてもよい。
第一の工程と、後述する第二の工程との間に、前記試験試料をアニーリング処理する工程を行うと、試験試料中において、プローブと試験試料に含まれる特定オリゴヌクレオチドとがハイブリダイゼーションする際に、ミスマッチが生じ不安定な複合体が形成されたとしても、熱的により安定な複合体へと再配列させることができる傾向にある。そのため、得られた複合体のインターバル時間にムラが生じることを抑制できる傾向にある。
アニーリングの温度としては、70℃以上100℃以下であることが好ましく、80℃以上100℃以下であることがより好ましく、90℃以上100℃以下であることが更に好ましい。
アニーリングの時間としては、1分以上20分以下であることが好ましく、1分以上15分以下であることがより好ましく、1分以上10分以下であることが更に好ましい。
(第二の工程)
本開示に係る第1の判定方法は、第二の工程を含む。
第二の工程では、ナノポアを有する脂質二重膜により互いに隔てられる、第一の溶液としての前記試験試料と第二の溶液との間に電圧を印加し、前記第一の溶液と前記第二の溶液との間を流れる電流の電流強度を経時的に測定し電流経時変化データを得る。なお、第一の溶液としては、第一の工程にて準備した試験試料、又は第一の工程で準備した試験試料をさらにアニーリング処理した試験試料を用いうる。
ナノポアは、脂質二重膜の厚み方向を貫通する貫通孔を有するものであれば特に制限されず、イオンチャネル(例えば、黄色ブドウ球菌由来のαヘモリジン等のα溶血素膜貫通型タンパク質)、合成品等、適宜好適なものを使用してよい。例えば、二本鎖核酸の通過を抑止し、一本鎖核酸のみを通過させる孔径を有する点から、α溶血素膜貫通型タンパク質又はこれと同程度の孔径を有するイオンチャネルを用いることが好ましい。
脂質二重膜を形成する脂質としては、室温において安定に脂質二重膜を形成可能であれば特に限定されず、適宜好適な脂質を用いてもよい。脂質二重膜を形成する脂質としては、例えば、ジフタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPhPC)、1,2―ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2―ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、ジフィタノイルホスファチジルエタノールアミン(DPhPE)、1,2―ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、1,2―ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DPPE)、1,2―ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)等のリン脂質が挙げられる。上記の中でも、脂質二重膜を形成する脂質としては、室温においてより安定な脂質二重膜を得る観点から、相転移温度の高いジフタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPhPC)が好ましい。なお、脂質二重膜には、必要に応じてコレステロール等のステロイド化合物を含んで構成されていてもよい。
脂質二重膜の作製方法としては、特開2015-77559及び特開2014-10062等の公知の作製方法を適用してよい。
ナノポア分析は、本開示の構成を有するものであれば、市販品を用いて行ってもよい。ナノポア分析が可能な市販品としては、例えば、オックスフォード・ナノポア・テクノロジーズ社製のMinION、GridIONX5、SmidgION、PromethION等が挙げられる。
第一の溶液の、1種以上の特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するプローブの濃度対前記特定オリゴヌクレオチドのうちの少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの濃度の比は、上述したとおりであり、例えば、1.0×10:1~1.0×10:1であってもよく、1.0×10:1~1.0×10:1であってもよく、又は1.0×10:1~1.0×10:1であってもよい。
第一の溶液に含まれるプローブの濃度は、特に限定されず、第一の溶液のスケールに応じて適宜設定してよい。前記プローブの濃度は上述のとおりであるが、例えば、各特定オリゴヌクレオチドに由来するインターバル時間の観測頻度を調整する観点から、10fM~1.0mMであってもよく、1.0pM~100μMであってもよく、100pM~10μMであってもよい。
第一の溶液及び第二の溶液は、ナノポアの貫通孔内を通過する電流を観測することができれば、特に限定されず、適宜好適な電解液を適用してよい。電解液に含まれる電解質の種類としては、KCl、NaCl等が挙げられる。なお、電解液を用いた場合、電解質の濃度は、十分な電流強度を得る観点から、例えば、1000mM以上10M以下であってもよい。
第一の溶液及び第二の溶液の種類は、ナノポア分析が可能であれば、特に限定されず、適宜好適な溶液を用いてよい。例えば、特定オリゴヌクレオチドがmiRNAである場合、第一の溶液及び第二の溶液としては、pHを6.0以上8.0以下に調整するpH緩衝溶液を用いてもよい。pH緩衝溶液に含まれるpH緩衝剤としては、特に限定されないが、例えば、2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)、3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)、ピペラジン-N,N’-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)、2-〔4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル〕エタンスルホン酸(HEPES)、2-ヒドロキシ-3-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]プロパンスルホン酸(HEPPSO)、及び3-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]プロパンスルホン酸(EPPS)等が挙げられる。
第一の溶液及び第二の溶液は、容器又はウェル等に収容されていることが好ましい。
第一の溶液及び第二の溶液の間に電圧を印加する方法は、第一の溶液及び第二の溶液の間に電圧を経時的に印加することができれば、特に限定されない。例えば、第一の溶液及び第二の溶液それぞれに電極を設け、これら2つの電極を通じて電圧を印加していてもよい。また、該電極は、電源及び電圧を制御する制御装置と電気的に接続されていてもよい。該電極は、電流経時変化データを得るモニタリング装置と電気的に接続されていてもよい。
第一の溶液及び第二の溶液の間に印加する電圧は、プローブと特定オリゴヌクレオチドとの複合体をナノポアの貫通孔内に侵入させることができれば、特に限定されない。例えば、1種以上の特定オリゴヌクレオチドとプローブとの複合体のインターバル時間について、貫通孔の通過時間を短くしつつも複合体の種類別にそれぞれ判定しやすくする観点から、第一の溶液及び第二の溶液の間に印加する電圧は、50mV以上300mV以下であることが好ましく、100mV以上200mV以下であることがより好ましい。
(第三の工程)
本開示に係る第1の判定方法は、第三の工程を含む。
第三の工程では、前記電流経時変化データを基に、前記試験試料中における前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの存在の有無を判定する。
本開示に係る第三の工程は、前記電流経時変化データを基に、前記試験試料中における前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの存在の有無を判定することができれば、その方法は特に限定されない。前記試験試料中に前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドが含まれる場合、前記電流経時変化データは、前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドのプローブへの結合に特有のシグナルを含んでおり、これにより前記試験試料中に前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドが存在すると判定することができる。一方、前記試験試料中に前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドが含まれない場合、前記電流経時変化データは、前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドのプローブへの結合に特有のデータを含まず、これにより前記試験試料中に前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドが存在しないと判定することができる。さらに、前記電流経時変化データ中における前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドのプローブへの結合に特有のシグナルの頻度を基にして、前記試験試料中における前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの量を判定することもできる。前記試験試料中における前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの量がより多ければ、前記シグナルの頻度も増加するためである。
前記電流経時変化データは、生のデータのまま用いてもよいが、電流経時変化データから統計的な指標を得るため等の目的でデータ処理に供してもよい。本開示に係る第三の工程は、例えば、以下(3-1)~(3-4)に記載される、中心極限定理に基づくデータ処理方法を適用することができる。
(3-1)前記電流経時変化データからインターバル時間を複数個求め、
(3-2)前記複数個のインターバル時間について中心極限定理に基づく処理を行い度数分布を得て、
(3-3)前記度数分布を基に前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドに由来する含有パターンを同定し、
(3-4)前記含有パターンから前記試験試料における前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの存在の有無を判定する。
本開示に係る第三の工程を、上記した(3-1)~(3-4)に記載される方法で行うことにより、元々の電流経時変化データにおいてインターバル時間にばらつきがあったとしても、正規分布として分布の狭い度数分布を取得することができる。この結果、例えば、複合体HYB2と複合体HYB5といった異なる複合体間のインターバル時間の差が小さくても、ばらつきが大きく低減された正規分布を基にすれば十分な信頼度で帰属が可能となる。つまり、それぞれの複合体に帰属されるインターバル時間の差を判定し易くする。これにより、測定試料における1種以上の特定オリゴヌクレオチドそれぞれの有無を簡便に、かつ精度よく判定することができる。
以下、本開示に係る第三の工程の一例である各(3-1)~(3-4)の工程について詳細に説明する。
(3-1)の工程では、第二の工程で得た電流経時変化データからインターバル時間を複数個求める。
インターバル時間とは、「プローブと特定オリゴヌクレオチドとの複合体から特定オリゴヌクレオチドが解離することで形成されたプローブ単体部分(つまり一本鎖部分)が、ナノポアの貫通孔内に侵入したことにより、ナノポアの貫通孔を通過する電流が阻害されている時間」を表す。より具体的には、電流経時変化データにおいて、ナノポアの貫通孔を通過する電流強度から、電流強度が低下し、再び上昇するまでの時間を表す。
ナノポアの貫通孔を通過する電流強度とは、プローブ及び特定オリゴヌクレオチドが第一の溶液中に存在しない状態、つまり、ナノポアの貫通孔が閉塞されていない状態において、電圧を印加したときに観測されるナノポアの貫通孔を通過する電流の強度を表す。
電流強度の低下とは、プローブと特定オリゴヌクレオチドとの複合体から特定オリゴヌクレオチドが解離することで形成されたプローブ単体部分(つまり一本鎖部分)が、ナノポアの貫通孔内に侵入したことにより、ナノポアの貫通孔を通過する電流が阻害され、ナノポアの貫通孔を通過する電流強度よりも電流強度が低下している状態を表す。
ナノポアの貫通孔を通過する電流強度よりも電流強度が低下している状態としては、判断基準とする設定値を設け、前記設定値よりも電流強度が下回った場合に、電流強度が低下している状態と判断してもよい。例えば、電流経時変化データにおいて、前記ナノポアの貫通孔を通過する電流の電流値をIとし、この電流値Iと比較して電流値が設定値75%を下回っている状態を、電流強度が低下している状態として判断してもよい。
電流強度が再び上昇するとは、ナノポアの貫通孔内の移動にともないプローブと特定オリゴヌクレオチドとの複合が解消され、プローブ単体が第二の溶液側へと通過することにより、阻害されていたナノポアの貫通孔を通過する電流が再び観測される状態を表す。例えば、電流経時変化データにおいて、前記電流値Iと比較して電流値が設定値75%を下回っている状態から、再び電流値Iまで電流値が上昇している状態を、電流強度が再び上昇する状態として判断してもよい。
電流経時変化データから求めるインターバル時間のサンプル数、すなわち、母集団におけるサンプル数は、複数個以上あればよく、後述する中心極限定理に基づく処理により得る度数分布が正規性を示すならば、特に限定されない。例えば、電流経時変化データから求めるインターバル時間の値の数は、50個以上であることが好ましく、100個以上であることがより好ましく、100個以上15,000個以下であることが更に好ましく、100個以上1,000個以下であることが最も好ましい。なお、該インターバル時間のサンプル数は、生データ数に相当し、本開示中ではこれを母集団と考える。
(3-2)の工程では、前記複数個のインターバル時間について中心極限定理に基づく処理を行い、度数分布を得る。
中心極限定理に基づく処理とは、母集団である複数個のインターバル時間から無作為にn個のインターバル時間を選択し標本集団とする工程Aと、前記標本集団の標本平均を求める工程Bと、前記工程A及び工程Bを繰り返す工程Cと、を含む処理である。中心極限定理に基づく処理は、その他の工程を含んでいてもよい。なお、nは2以上の整数を表す。
工程Aでは、母集団である複数個のインターバル時間から無作為にn個のインターバル時間を選択し、標本集団を作成する。例えば、母集団であるn個のインターバル時間から無作為にn個のインターバル時間を選択し、標本集団を作成することができる。なお、母集団から無作為に抽出するn個のインターバル時間は、母集団から重複して選択することを許可し、母集団におけるデータ数よりも多い数を標本集団としてもよい。
母集団である複数個のインターバル時間から無作為に選択するインターバル時間のサンプル数nとしては、100以上であってもよく、300以上であってもよく、500以上であってもよく、1,000以上であってもよく、10,000以上であってもよい。
標本集団におけるサンプル数nが大きい(例えば、300以上である)と、標本集団を平均化した標本平均における分布が、正規分布となり易い傾向にある。
工程Bでは、標本集団の標本平均を求める。
標本平均とは、上述で無作為に選択したn個の標本に関する算術平均値を意味する。
工程Cでは、前記工程A及び工程Bを繰り返す。
工程A及び工程Bの繰り返し数は、特に限定されず、母集団における母平均の度数分布の分散性に応じて、適宜設定してよい。例えば、工程A及び工程Bの繰り返し数は、10,000回以上であることが好ましく、50,000回以上であることがより好ましく、100,000回以上であることが更に好ましい。
工程A及び工程Bの繰り返し数が多い(例えば、10,000回以上である)と、度数分布が正規分布となり易い傾向にある。その結果、例えば、種々の複合体間のインターバル時間の差が小さくても、ばらつきが大きく低減された正規分布が得られるため、信頼度の高い判定が可能となる。
(3-3)の工程では、前記度数分布を基に前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドに由来する含有パターンを同定する。
度数分布は、各標本平均の値を階級、各標本平均の値の頻度を度数とした度数分布表であってもよく、その度数分布表をヒストグラムとしたものであってもよい。
前記度数分布を基に少なくとも1種のオリゴヌクレオチドに由来する含有パターンを同定するとは、先の工程で得られた度数分布を、「各特定オリゴヌクレオチド固有の度数分布のパターン」又は「各特定オリゴヌクレオチドとプローブとの複合体に固有の度数分布のパターン」として、同定することを表す。
第三の工程は、前記度数分布を第一の度数分布とし、少なくとも1種のオリゴヌクレオチドそれぞれの有無が既知である溶液を前記試験試料として用いて、前記(3-1)及び(3-2)を行うことで得られた第二の度数分布と、前記第一の度数分布と、を比較する工程を含んでいてもよい。
第三の工程において第二の度数分布と第一の度数分布とを比較する工程を含むと、種々の特定オリゴヌクレオチドの含有パターンを、より明確に取得することができる。
第二の度数分布は、特定オリゴヌクレオチドとプローブとが形成する考えうるすべての複合体の種類について求めることが好ましい。
第一の度数分布と、第二の度数分布とを比較する方法としては、例えば、各標本平均の信頼区間同士を比較してもよく、各標本平均の信頼区間と中央値とを比較してもよい。
標本平均の信頼区間は、t検定により求める。
標本平均の信頼区間としては、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、99%以上であることが更に好ましい。
標本平均の信頼区間が90%以上であると、試験試料における少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの存在の有無を、より精度よく判定することができると考えられる。
第一の度数分布及び第二の度数分布の比較方法としては、例えば、以下の態様で行ってもよい。まず、第二の度数分布から、例えば、2250ms~2750msが、5種の特定オリゴヌクレオチド全てがプローブにハイブリダイゼーションしている複合体の含有パターンAの95%信頼区間であるという既知情報を得る。次に、第一の度数分布における中央値が、例えば、2500msである場合、含有パターンAの信頼区間内に含まれるため、含有パターンAである、との判定をする。
なお、正規分布では、中央値と平均値は一致するが、分布が完全には正規分布ではない場合を考慮して、平均値を中央値の代わりに用いてもよい。
(3-4)の工程では、前記含有パターンから前記試験試料における前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドそれぞれの有無を判定する。
試験試料に種々の特定オリゴヌクレオチドが全て含まれていない場合、プローブ単体に固有な度数分布を、第一の溶液に種々の特定オリゴヌクレオチドが全て含まれないときの固有の度数分布のパターンとして同定してよい。
本開示に係る第三の工程は、前記第一の度数分布を基に、前記試験試料における前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドそれぞれの含有量を求めることを更に含んでいてもよい。
本開示に係る第三の工程において、試験試料における少なくとも1種のオリゴヌクレオチドそれぞれの含有量を求めると、がん等において差示的に発現する又は発現しない少なくとも1種のオリゴヌクレオチドについて量的情報を得ることができる。
本開示に係る第三の工程において、試験試料における少なくとも1種のオリゴヌクレオチドそれぞれの含有量を求める方法は、特に制限されない。例えば、前記第三の工程において中心極限定理に基づくデータ処理を適用する場合、前記第三の工程は、前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの含有量が既知である溶液を前記試験試料として用いて、前記(3-1)及び(3-2)を行うことで得られる第三の度数分布と、前記第一の度数分布と、を比較する工程を含んでいてもよい。
少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの量的情報が含まれる第三の度数分布と、第一の度数分布と、を比較すると、試験試料における少なくとも1種のオリゴヌクレオチドに関する量的情報を、より正確に得ることができる。
また、試験試料における前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの濃度が増加すると、前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドとプローブとの複合体の濃度も増加するため、中心極限定理に基づくデータ処理で得られたインターバル時間の度数分布(中心値、算術平均値、標準偏差等)、ナノポアが開いている時間、及びプローブのナノポア通過頻度が変化する。なおプローブのナノポア通過頻度は、[1(分子)]/[ナノポアが開いている時間の平均(ms)]の式から求める。当該変化を基に、少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの量についての情報を得ることができる。従って、上記工程によって少なくとも1種のオリゴヌクレオチドに関する量的情報を得ることで、前記特定オリゴヌクレオチドの存在量について求めることができる。また、前記特定オリゴヌクレオチドの検出限界となる濃度についても推定することができる。
なお、前記第二の度数分布及び/又はそれに基づく判定基準の代わりに、シミュレーション等が求めた度数分布及び/又は判定基準を用いてもよい。また、前記第三の度数分布及び/又はそれに基づく判定基準の代わりにシミュレーション等が求めた度数分布及び/又は判定基準を用いてもよい。
(プローブ)
本開示によれば、配列番号1「5'-GTCGAACGTTTTCGTTCGACCCTCATCTCGCCCGCAAAGACCCACCCTACCTGCACTGTAAGCACTTTTCCCACAAACCATTATGTGCTGCTACCCACTTATCAGGTTGTATTATAACCAACGGAACCACTAGTGACTTGCCCCCCCCCCCCCCCCCCCC-3'」の塩基配列を有するDNAであるプローブ(以下、「プローブ1」と称する)又は、配列番号2「5'-TCATCTCGCCCGCAAAGACCCACCCTACCTGCACTGTAAGCACTTTTCCCACAAACCATTATGTGCTGCTACCCACTTATCAGGTTGTATTATAACCAACGGAACCACTAGTGACTTGCCCCCCCCCCCCCCCCCCCC-3'」の塩基配列を有するDNAであるプローブ(以下、「プローブ2」と称する)が提供される。
プローブ1及びプローブ2は、3’末端側に、(n)構造、つまり、20個のシトシンが連続したポリデオキシシトシン構造を有する。プローブ1は、5’末端側に、ヘアピン構造5'-GTCGAACGTTTTCGTTCGACCC-3'を有する。
プローブ1及びプローブ2は、例えば、胆管がんにおいて差示的に発現するmiR-193、miR-106a、miR-15a、miR-374及びmiR-224のうち、1種以上のmiRNAの有無を判定するためのプローブとして用いることができる。
プローブ1及びプローブ2は、miR-193、miR-106a、miR-15a、miR-374及びmiR-224に対して、この順でプローブ1及びプローブ2における5’末端側から完全に相補的な塩基配列を有する。
プローブ1及びプローブ2は、miR-193、miR-106a、miR-15a、miR-374及びmiR-224に対し、完全に相補的な塩基配列を有している。そのため、ナノポア分析を利用したmiRNA測定におけるプローブとしてプローブ1又はプローブ2を適用した場合、インターバル時間を好適に制御することができる。
また、プローブ1及びプローブ2は、miR-193、miR-106a、miR-15a、miR-374及びmiR-224に対し、この順で相補的な塩基配列を有している。そのため、プローブ1と、又はプローブ2と、miR-193、miR-106a、miR-15a、miR-374及びmiR-224とが複合した複合体の自由エネルギーが最も低くなり、安定に存在しやすい。その結果、各複合体のナノポア分析技術におけるインターバル時間の変動が抑制される。
(プローブセット)
本開示に係るプローブは、プローブセットとしてもよい。
本開示に係るプローブセットは、配列番号3「5'-ACTACCTGCACTGTAAGACTATAAGCACTTTA-3'」の塩基配列を有するDNAであるプローブ(以下、「プローブ3-1」と称す)と、配列番号4「5'-CTACCTGCCACTTTG-3'」の塩基配列を有するDNAであるプローブ(以下、「プローブ3-2」と称す)と、を含む。プローブセットは、その他のプローブを更に含んで構成されていてもよい。
プローブ3-1と、プローブ3-2と、を有するプローブセットは、例えば、小細胞肺がんにおいて差示的に発現するmiR-20a及びmiR-17-5pのうち、1種以上のmiRNAの有無を判定するためのプローブセットとして用いることができる。
プローブセットにおける、プローブ3-1及びプローブ3-2は、miR-20a及びmiR-17-5pに相補的な配列それぞれを、両プローブに分割された状態で有する。より具体的に、プローブ3-1と、プローブ3-2とが共存する場合に、両プローブをつなぐ形でmiR-20aへの相補的配列及びmiR-17-5aに相補的な配列が存在する。
miR-20a及びmiR-17-5p並びにプローブ3-1及びプローブ3-2の全てが同時に存在する場合のみ形成される複合体と、miR-20a又はmiR-17-5pのどちらか一方と両プローブのみ、並びに、プローブ3-1及びプローブ3-2のみが存在する場合に形成される複合体は、ナノポア分析を利用したmiRNA測定において明確に区別し、測定することができる。
≪検査対象が特定疾患に罹患しているかどうか又は特定疾患罹患のリスクを有するかどうかを判定する方法(第2の判定方法)≫
本開示の検査対象が特定疾患に罹患しているかどうか又は特定疾患罹患のリスクを有するかどうかを判定する方法(以下、本開示に係る第2の判定方法とも呼ぶ)は、
(1-1)特定疾患を有する罹患者若しくは特定疾患罹患のリスクを有する個体又はその組織において差示的に発現する1種以上の特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するプローブと、前記特定オリゴヌクレオチドのうちの少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを含む検査対象に由来するサンプルとを、試験試料中における前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの濃度が1.0aM~1.0pMであり、前記プローブの濃度対前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの濃度の比が1.0×10:1~1.0×10:1となるように混合し試験試料を得る、
又は、
(1-2)特定疾患を有する罹患者若しくは特定疾患罹患のリスクを有する個体又はその組織において差示的に発現しない1種以上の特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するプローブと、前記特定オリゴヌクレオチドのうちの少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを含む検査対象に由来するサンプルとを、試験試料中における前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの濃度が1.0aM~1.0pMであり、前記プローブの濃度対前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの濃度の比が1.0×10:1~1.0×10:1となるように混合し試験試料を得る、
第一の工程と、
(2)ナノポアを有する脂質二重膜により互いに隔てられる、第一の溶液としての前記試験試料と第二の溶液との間に電圧を印加し、前記第一の溶液及び前記第二の溶液の間を流れる電流の電流強度を経時的に測定し電流経時変化データを得る第二の工程と、
(3)前記電流経時変化データを基に、前記試験試料中における前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの存在を検出し、それにより検査対象が特定疾患に罹患しているかどうか又は特定疾患罹患のリスクを有するかどうかを判定する第三の工程と、
を含む。
本開示に係る第2の判定方法は、上記したように、(1-1)及び(1-2)のいずれの場合においても適用することができる。
例えば、特定疾患を有する罹患者若しくは特定疾患罹患のリスクを有する個体又はその組織において差示的に発現するが健常者(特定疾患を有しない健常者)若しくは特定疾患罹患のリスクを有しない個体又はその組織において差示的に発現しないオリゴヌクレオチド(以下miR-Aとも呼ぶ)の存在を判定する場合、miR-Aが存在すると判定された場合には検査対象が特定疾患を有する若しくは特定疾患罹患のリスクを有することが示唆され、miR-Aが存在しないと判定された場合には検査対象が特定疾患を有しない若しくは特定疾患罹患のリスクを有しないことが示唆される。
一方で、特定疾患を有する罹患者若しくは特定疾患罹患のリスクを有する個体又はその組織において差示的に発現しないが健常者(特定疾患を有しない健常者)若しくは特定疾患罹患のリスクを有しない個体又はその組織において差示的に発現するオリゴヌクレオチド(以下miR-Bとも呼ぶ)の存在を判定する場合は、miR-Bが存在すると判定された場合には検査対象が特定疾患を有しない若しくは特定疾患罹患のリスクを有しないことが示唆され、miR-Bが存在しないと判定された場合には検査対象が特定疾患を有する若しくは特定疾患罹患のリスクを有することが示唆される。
ここで、上記組織は、特定疾患を有する罹患者若しくは特定疾患罹患のリスクを有する個体における病理組織若しくは健常者における同じ部位の組織であってもよいし、血液その他の体液などサンプリングが容易な組織であってもよい。
本開示に係る検査対象としては、例えば、ヒト又は非ヒト動物等が挙げられる。非ヒト動物としては、例えば、ヒトを除く哺乳類等が挙げられる。
検査対象から得られたサンプルとしては、例えば、生体由来の検体等が挙げられる。生体由来の検体としては、特に制限されず、尿、血液、又は唾液等が挙げられる。血液検体としては、例えば、赤血球、全血、血清、又は血漿等が挙げられる。
検査対象から得られたサンプルは、液体であってもよく、固体であってもよい。例えば、検査対象から得られたサンプルの未希釈液をそのまま使用してもよいし、該サンプルを媒体に、懸濁、分散又は溶解した希釈液を使用してもよい。検査対象から得られたサンプルが固体の場合、例えば、検体を溶液媒体に懸濁、分散又は溶解した希釈液を液体検体として使用することが好ましい。溶液媒体としては、特に制限されず、例えば、水又は緩衝液等が挙げられる。例えば、第一の溶液としての試験試料は、前記サンプルが液体である場合、サンプルをそのまま試験試料としてもよく、前記サンプルをpH緩衝溶液等に希釈したものを試験試料としてもよい。このようにして得られた液体検体を、第一の溶液として、又は第一の溶液に添加して上記の判定方法において用いることができる。
本開示に係る第2の判定方法において、1種以上の特定オリゴヌクレオチドは、2種以上の特定オリゴヌクレオチドであってもよい。
本開示に係る第2の判定方法において、前記特定疾患は、特に限定されないが、例えば、がん、循環器疾患、慢性炎症性疾患、神経疾患、代謝系疾患、などであってもよい。
特定疾患を有する罹患者若しくは特定疾患罹患のリスクを有する個体又はその組織において差示的に発現するオリゴヌクレオチドとしては、例えば、マイクロRNAが挙げられる。
特定疾患を有する罹患者若しくは特定疾患罹患のリスクを有する個体又はその組織において差示的に発現しないオリゴヌクレオチドとしては、例えば、マイクロRNAが挙げられる。
特定疾患を有する罹患者若しくは特定疾患罹患のリスクを有する個体又はその組織において差示的に発現する1種以上の特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するプローブとは、例えば、特定疾患を有しない健常者若しくは特定疾患罹患のリスクを有しない個体又はその組織と比較して特定疾患を有する罹患者若しくは特定疾患罹患のリスクを有する個体又はその組織において差示的に発現するオリゴヌクレオチド1種以上に対し相補的な配列を有するプローブである。ここで、特定疾患を有しない健常者若しくは特定疾患罹患のリスクを有しない個体又はその組織において、前記オリゴヌクレオチドの発現が十分に低ければよく、完全な無発現であっても、僅かな量の発現であってもよい。また、前記オリゴヌクレオチドの量的情報も第2の判定方法における判定に用いる場合には、特定疾患を有しない健常者若しくは特定疾患罹患のリスクを有しない個体又はその組織における前記オリゴヌクレオチドの発現は、特定疾患を有する罹患者若しくは特定疾患罹患のリスクを有する個体又はその組織における前記オリゴヌクレオチドの発現よりも有意に低ければよい。
特定疾患を有する罹患者若しくは特定疾患罹患のリスクを有する個体又はその組織において差示的に発現しない1種以上の特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するプローブとは、例えば、特定疾患を有しない健常者若しくは特定疾患罹患のリスクを有しない個体又はその組織と比較して特定疾患を有する罹患者若しくは特定疾患罹患のリスクを有する個体又はその組織において差示的に発現しないオリゴヌクレオチド1種以上に対し相補的な配列を有するプローブである。ここで、特定疾患を有する罹患者若しくは特定疾患罹患のリスクを有する個体又はその組織において、前記オリゴヌクレオチドの発現が十分に低ければよく、完全な無発現であっても、僅かな量の発現であってもよい。また、前記オリゴヌクレオチドの量的情報も第2の判定方法における判定に用いる場合には、特定疾患を有する罹患者若しくは特定疾患罹患のリスクを有する個体又はその組織における前記オリゴヌクレオチドの発現は、特定疾患を有しない健常者若しくは特定疾患罹患のリスクを有しない個体又はその組織における前記オリゴヌクレオチドの発現よりも有意に低ければよい。
本開示に係る第2の判定方法におけるプローブは、特定疾患を有する罹患者若しくは特定疾患罹患のリスクを有する個体又はその組織において差示的に発現する又は発現しない1種以上の特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有すること以外は、先述の第1の判定方法におけるプローブと同様の構成を適用してよい。
本開示に係る第2の判定方法において、前記第一の工程、第二の工程、及び第三の工程は、試験試料を「検査対象に由来するサンプル」とし、プローブを「特定疾患を有する罹患者若しくは特定疾患罹患のリスクを有する個体又はその組織において差示的に発現する又は発現しない1種以上の特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するプローブ」とした以外は、前述の第1の判定方法における第一の工程、第二の工程、及び第三の工程と同様の工程としてよい。ただし、第2の判定方法における第三の工程では、前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの存在情報(及び所望により量的情報)を基に検査対象が特定疾患に罹患しているかどうかまたは特定疾患罹患のリスクを有するかどうかを判定することも含む。具体的には上述のmiR-A又はmiR-Bの場合の説明を参照できる。
本開示に係る第2の判定方法において、第三の工程にて例えば中心極限定理に基づくデータ処理を適用する場合、(3-3)の工程では、検査対象に由来するサンプルを用いて得られた度数分布Aと、前記サンプルの代わりに特定疾患に罹患していない健常者若しくは特定疾患罹患のリスクを有していない個体に由来するサンプルを用いて前記(1)~(3-2)を行うことで得られた度数分布B及び/又は特定疾患に罹患している罹患者若しくは特定疾患罹患のリスクを有している個体に由来するサンプルを用いて前記(1)~(3-2)を行うことで得られた度数分布Cと、を比較することにより、前記検査対象が特定疾患に罹患しているかどうか又は特定疾患罹患のリスクを有するかどうかを判定する。
特定疾患に罹患していない健常者若しくは特定疾患罹患のリスクを有していない個体とは、特定疾患に罹患していない若しくは特定疾患罹患のリスクを有していないことが既知である個体を意味する。特定疾患に罹患していない健常者若しくは特定疾患罹患のリスクを有しない個体又はその組織においては、特定疾患を有する罹患者若しくは特定疾患罹患のリスクを有する個体又はその組織において差示的に発現する1種以上の特定オリゴヌクレオチドは、発現せず、特定疾患を有する罹患者若しくは特定疾患罹患のリスクを有する個体又はその組織において差示的に発現しない1種以上の特定オリゴヌクレオチドは、発現する。ここでいう「発現せず」とは上述のとおり完全な無発現には限定されない。
特定疾患に罹患している罹患者若しくは特定疾患罹患のリスクを有している個体とは、特定疾患に罹患している若しくは特定疾患罹患のリスクを有していることが既知である個体を意味する。特定疾患に罹患している罹患者若しくは特定疾患罹患のリスクを有している個体又はその組織においては、特定疾患を有する罹患者若しくは特定疾患罹患のリスクを有する個体又はその組織において差示的に発現する1種以上の特定オリゴヌクレオチドは、発現し、特定疾患を有する罹患者若しくは特定疾患罹患のリスクを有する個体又はその組織において差示的に発現しない1種以上の特定オリゴヌクレオチドは、発現しない。ここでいう「発現せず」とは上述のとおり完全な無発現には限定されない。
第三の工程において、例えば中心極限定理に基づくデータ処理を適用する場合、検査対象に由来するサンプルを用いて得られた度数分布Aと、特定疾患に罹患していない健常者若しくは特定疾患罹患のリスクを有していない個体に由来するサンプルを用いて得られた度数分布Bと、を比較することは、各サンプルの度数分布における標本平均の信頼区間同士を比較することを含んでもよく、標本平均の信頼区間と中央値とを比較することを含んでもよく、中央値同士を比較することを含んでもよい。例えば、検査対象が特定疾患に罹患しているかどうか又は特定疾患罹患のリスクを有するかどうかを、より精度よく判定する観点から、度数分布A及び度数分布Bを比較することは、各サンプルの度数分布における標本平均の信頼区間同士を比較することを含むことが好ましい。
各度数分布の信頼区間は、t検定により求める。
各度数分布における信頼区間としては、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、99%以上であることが最も好ましい。
各度数分布における信頼区間が、80%以上であると、検査対象が特定疾患に罹患しているかどうか又は特定疾患罹患のリスクを有するかどうかを、より精度よく判定することができると考えられる。
度数分布B及び度数分布Cは、実測して得た度数分布であっても、論文等を参照し予測した度数分布であってもよい。
複数の異なる検査対象に由来するサンプルを判定する場合、特定疾患に罹患していない健常者若しくは特定疾患罹患のリスクを有していない個体に由来するサンプルを用いて度数分布Bを得る工程は、毎回行わなくともよい。より具体的には、予め、特定疾患に罹患していない健常者若しくは特定疾患罹患のリスクを有していない個体に由来するサンプルを用いて度数分布Bを得ておき、この度数分布Bを、複数の異なる検査対象に由来するサンプルと比較し、判定してもよい。
複数の異なる検査対象に由来するサンプルを判定する場合、特定疾患に罹患している罹患者若しくは特定疾患罹患のリスクを有している個体に由来するサンプルを用いて度数分布Cを得る工程は、毎回行わなくともよい。より具体的には、予め、特定疾患に罹患している罹患者若しくは特定疾患罹患のリスクを有している個体に由来するサンプルを用いて度数分布Cを得ておき、この度数分布Cを、複数の異なる検査対象に由来するサンプルと比較し、判定してもよい。
検査対象に由来するサンプルを用いて得る度数分布Aは、検査対象における年齢、生理的パラメータ等に応じて、適宜補正を行ってもよい。
以下、判定基準について説明する。
検査対象が特定疾患に罹患していないと判定する判定基準としては、検査対象に由来するサンプルを用いて得られた度数分布Aにおける信頼区間のヒストグラムの面積と、特定疾患に罹患していない健常者に由来するサンプルを用いて得られた度数分布Bにおける信頼区間のヒストグラムの面積と、を比較し、両者の面積が50%以上重複している(より好ましくは60%以上)場合、検査対象が特定疾患に罹患していない、と判定してよい。
また、検査対象に由来するサンプルを用いて得られた度数分布Aの信頼区間と、特定疾患に罹患していない健常者に由来するサンプルを用いて得られた度数分布Bの中央値と、を比較し、前記信頼区間に前記中央値が含まれている場合においても、検査対象が特定疾患に罹患していない、と判定してよい。
なお、特定疾患に罹患している罹患者に由来するサンプルを用いて得られた度数分布Cにおける信頼区間のヒストグラムの面積と、度数分布Aにおける信頼区間のヒストグラムの面積と、を比較し、両者の面積が重複していない場合、検査対象が特定疾患に罹患していない、と判定してよい。
なおこのとき、さらに、特定疾患に罹患していない健常者に由来するサンプルを用いて得られた度数分布Bにおける信頼区間のヒストグラムの面積と、度数分布Aにおける信頼区間のヒストグラムの面積と、を比較し、両者の面積が50%以上重複している(より好ましくは60%以上)ことを確認したうえで、検査対象が特定疾患に罹患していない、と判定することもできる。又は、検査対象に由来するサンプルを用いて得られた度数分布Aの信頼区間と、特定疾患に罹患していない健常者に由来するサンプルを用いて得られた度数分布Bの中央値と、を比較し、前記信頼区間に前記中央値が含まれていることを確認したうえで、検査対象が特定疾患に罹患していない、と判定することもできる。
一方で、検査対象が特定疾患に罹患していると判定する判定基準としては、検査対象に由来するサンプルを用いて得られた度数分布Aと、特定疾患に罹患している罹患者に由来するサンプルを用いて得られた度数分布Cと、を比較し、両者の度数分布の信頼区間における信頼区間のヒストグラムの面積が50%以上重複している(より好ましくは60%以上)場合、検査対象が特定疾患に罹患している、と判定してよい。
また、検査対象に由来するサンプルを用いて得られた度数分布Aの信頼区間と、特定疾患に罹患している罹患者に由来するサンプルを用いて得られた度数分布Cの中央値と、を比較し、前記信頼区間に前記中央値が含まれている場合においても、検査対象が特定疾患に罹患している、と判定してよい。
なお、特定疾患に罹患していない健常者に由来するサンプルを用いて得られた度数分布Bにおける信頼区間のヒストグラムの面積と、度数分布Aにおける信頼区間のヒストグラムの面積と、を比較し、両者の面積が重複していない場合、検査対象が特定疾患に罹患している、と判定してよい。
なおこのとき、さらに、特定疾患に罹患している罹患者に由来するサンプルを用いて得られた度数分布Cにおける信頼区間のヒストグラムの面積と、度数分布Aにおける信頼区間のヒストグラムの面積と、を比較し、両者の面積が50%以上重複している(より好ましくは60%以上)ことを確認したうえで、検査対象が特定疾患に罹患している、と判定することもできる。又は、検査対象に由来するサンプルを用いて得られた度数分布Aの信頼区間と、特定疾患に罹患している罹患者に由来するサンプルを用いて得られた度数分布Cの中央値と、を比較し、前記信頼区間に前記中央値が含まれていることを確認したうえで、検査対象が特定疾患に罹患している、と判定することもできる。
判定は、例えば、具体的に、以下の態様で行ってもよい。
まず、前記度数分布Bから、例えば、900ms~1200msが、特定疾患に罹患していない健常者に由来するサンプルの度数分布における95%信頼区間である、という既知情報を得る。次に、前記度数分布Aから、例えば、2250ms~2750msが、検査対象に由来するサンプルの度数分布における95%信頼区間である、という情報を得る。そして、これら度数分布A及び度数分布Bにおける95%信頼区間を比較すると、両者の95%信頼区間は100%重なっていない。そのため、前記検査対象は特定疾患に罹患している、との判定をする。
なお、前記度数分布B及び/又はそれに基づく判定基準の代わりに、シミュレーション等が求めた度数分布及び/又は判定基準を用いてもよい。また、前記度数分布C及び/又はそれに基づく判定基準の代わりにシミュレーション等が求めた度数分布及び/又は判定基準を用いてもよい。
なお、正規分布では、中央値と平均値は一致するが、分布が完全には正規分布ではない場合を考慮して、平均値を中央値の代わりに用いてもよい。また、判定は確定的な判定であっても、確定的な判定でなくてもよい。確定的な判定でない場合(つまり予備的な判定の場合)には、予備的な判定において特定疾患に罹患していると予備判定された対象に対してさらに確定的な判定を行うためにさらなる検査を実施してもよい。本開示に係る第2の判定方法によれば微量の特定オリゴヌクレオチドの存在の有無の判定が可能であるため、疾患の進行の初期(例えばステージ0)においても判定が可能である。このような初期の段階では疾患の症状は顕れていないことが多いため、追加的な検査を行うことにより判定の精度をさらに向上できる可能性がある。
また、罹患のリスクを判定する場合にあっては、公知の手法に基づいて特定疾患を発症するリスクを有する個体からなる高リスク群を規定し、特定疾患を発症するリスクが無い又は低い個体からなる低リスク群を規定し、当該高リスク群に属する個体を前記の特定疾患に罹患している罹患者の代わり、当該低リスク群に属する個体を特定疾患に罹患していない健常者の代わりに用いればよい。例えば、検査対象が特定疾患に罹患するリスクを有していないと判定する判定基準としては、検査対象に由来するサンプルを用いて得られた度数分布Aにおける信頼区間のヒストグラムの面積と、特定疾患に罹患するリスクを有しない低リスク群に属する個体に由来するサンプルを用いて得られた度数分布Bにおける信頼区間のヒストグラムの面積と、を比較し、両者の面積が重複していない場合、検査対象が特定疾患に罹患するリスクを有する、と判定してよい。その他の例示的手法についても同様に適用可能である。
なお、一般的には高リスク群、低リスク群は経時的な(例えば3年、10年、終身等)モニタリングを行って、特定疾患が発症したかどうかを観察した上で規定することができる。
(胆管がん)
本開示に係る第2の判定方法において、前記特定疾患は、胆管がんであってもよい。
胆管がんを有する罹患者又はその組織において差示的に発現するオリゴヌクレオチドとしては、例えば、miR-374、miR-15a、miR-224、miR-106a、miR-193等が挙げられる。
胆管がんを有する罹患者又はその組織において差示的に発現しないオリゴヌクレオチドとしては、例えば、miR-20a、miR-17-5p等が挙げられる。
(小細胞肺がん)
本開示に係る第2の判定方法において、前記特定疾患は、小細胞肺がんであってもよい。
検査対象及び検査対象から得られたサンプルとしては、胆管がんの可能性を判定する方法で例示したものと同様の検査対象が挙げられる。
小細胞肺がんを有する罹患者又はその組織において差示的に発現する特定オリゴヌクレオチドとしては、例えば、miR-20a、miR-17-5p等が挙げられる。
小細胞肺がんを有する罹患者又はその組織において差示的に発現しない特定オリゴヌクレオチドとしては、例えば、miR-193、miR-374等が挙げられる。
以下、本開示を実施例により更に具体的に説明するが、本開示はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。「%」も同様に質量基準である。
-材料の準備-
以下の材料を用いた。
(特定オリゴヌクレオチド(miRNA)の作製)
下記に示す塩基の配列を有する各miRNAを、高速液体クロマトグラフィーグレード(株式会社ファスマック製)でそれぞれ合成し、100nmol/mlの溶液にして使用した。
miR-374
配列番号5:5'-UUAUAAUACAACCUGAUAAGUG-3'
miR-15a
配列番号6:5'-UAGCAGCACAUAAUGGUUUGUG-3'
miR-224
配列番号7:5'-CAAGUCACUAGUGGUUCCGUU-3'
miR-106a
配列番号8:5'-AAAAGUGCUUACAGUGCAGGUAG-3'
miR-193
配列番号9:5'-UGGGUCUUUGCGGGCGAGAUGA-3'
(緩衝溶液)
1.0M KCl、10mM MOPS、pH7.0の緩衝溶液を使用した。
(プローブ1及びプローブ2の作製)
プローブ1及びプローブ2は、核酸塩基等の設計が可能なCaltech(California Institute of Technology)のNUPACKを用いて、塩基配列を設計した。プローブの塩基配列は、胆管がんにおいて差示的に発現することがわかっている5種の特定オリゴヌクレオチドmiR-193、miR-106a、miR-15a、miR-374及びmiR-224に対し、この順でプローブ1及びプローブ2における5’末端側から完全に相補的な配列となるように設計した。さらに、プローブ1は5’末端側にヘアピン構造及び3’末端側にポリデオキシシトシン構造を有するように設計し、プローブ2は3’末端側にポリデオキシシトシン構造を有するよう設計した。次に、この設計した塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを高速液体クロマトグラフィーグレード(株式会社ファスマック製)でそれぞれ合成し、これをプローブ1又はプローブ2とした。プローブ1は、5’末端側から配列番号1「5'-GTCGAACGTTTTCGTTCGACCCTCATCTCGCCCGCAAAGACCCACCCTACCTGCACTGTAAGCACTTTTCCCACAAACCATTATGTGCTGCTACCCACTTATCAGGTTGTATTATAACCAACGGAACCACTAGTGACTTGCCCCCCCCCCCCCCCCCCCC-3'」の塩基配列である。プローブ2は、5’末端側から配列番号2「5'-TCATCTCGCCCGCAAAGACCCACCCTACCTGCACTGTAAGCACTTTTCCCACAAACCATTATGTGCTGCTACCCACTTATCAGGTTGTATTATAACCAACGGAACCACTAGTGACTTGCCCCCCCCCCCCCCCCCCCC-3'」の塩基配列である。
[実施例1]
-胆管がんにおいて差示的に発現する5種のmiRNAの判定-
(第一の工程)
胆管がん患者6名及び健常者(胆管がんでない者)6名から、それぞれ血液を採取した。前記血液を遠心分離することで、それぞれから血漿を得た。血漿から、miRNAを含む溶液を抽出した。なお前記血漿299μlに、コントロールとして30nMの合成RNA(cel-miR39-3p;配列番号10:5'-ucaccggguguaaaucagcuug-3';株式会社ファスマック製)を1μl添加した溶液を調製して、該溶液からmiRNAを抽出した。具体的には、市販のRNA精製キットNucleoSpin(登録商標) miRNA Plasma(タカラバイオ社)を使用してmiRNAを抽出した。メーカーが提供するキットの説明書に従って、血漿中のタンパク質の沈殿除去、カラムへのmiRNAの結合、DNase処理、洗浄、及びmiRNAの溶出を行った。上記操作により、miRNA溶液が得られた。
前記血漿から抽出したそれぞれのmiRNA溶液について、4.8μlのmiRNA溶液、0.1μlのプローブ1(50μM)、並びに5μlのKCl溶液及びMOPS溶液、を含む、計9.9μlのサンプルをそれぞれ準備した。なおこのとき、最終的な(第1の溶液としての)試験試料において、プローブ濃度が500nMとなり、KCl濃度が1Mとなり、MOPS濃度が10mMとなるようにサンプルを準備した。
(アニーリング処理の工程)
前記9.9μlの各サンプルを95℃で5分間加熱し、次いで室温(25℃)にまで徐々に冷却するアニーリング処理を行った。
(第二の工程)
ナノポアを有する脂質二重膜を、脂質としてジフタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPhPC、Avanti Polar Lipids, Inc.)を用いて、1つのウェル上に設け、脂質二重膜によりウェル内において第一の溶液及び第二の溶液を隔てた。なお、ウェル内において第一の溶液及び第二の溶液を隔てた詳細な方法は、M. OHARA, Y. SEKIYA, R. KAWANO, Hairpin DNA Unzipping Analysis Using a Biological Nanopore Array, Electrochemistry, 84(5), 338-341 (2016)に記載の方法を参照することができる。なお、アニーリング処理を行った前記9.9μlの各サンプルに、それぞれ、0.1μlのナノポアを添加して計10μlとし、そのうちの4.7μlの前記サンプル(試験試料)を前記第一の溶液とした。前記第二の溶液は、4.7μlの、1M KCl及び10mM MOPS(pH7.0)とした。なお、ナノポアは、スタフィロコッカス・アウレウスから単離された単量体ポリペプチドである野生型αHL(Sigma-Aldrich、St. Louis、MO and USA、List Biological Laboratories、Campbell、CA、USA)を使用し、前記第一の溶液における濃度は30nMとした。
次に、第一の溶液から第二の溶液の方向へ+200mVの一定電圧を印加し、電流経時変化データを、Digidata 1440Aアナログ-デジタル変換器(Molecular Devices)を備えたClampex 9.0(Molecular Devices)を用いて、取得した。なお、Axopatch 200B Amplifier(Molecular Devices、San Jose、CA、USA)を用いて印加している電流を記録した。なおナノポアを有する脂質二重膜、第一の溶液(cis)、及び第二の溶液(trans)を用いて電圧を印加する、ナノポア分析技術の概略断面図を図4に示す。
(第三の工程)
第二の工程により得られた各試験試料に関する電流経時変化データを基に、度数分布を得た。まず、電流経時変化データから、300個のインターバル時間を取得し、これを母集団とした。次に、前記300個のインターバル時間から、無作為に300個のインターバル時間を選択し、これを標本集団とした。その後、この標本集団について算術平均を求め、これを標本平均とした。この標本集団を作成し標本平均を求める工程を216回繰り返し、度数分布を得た。なお、本開示において母集団とは、統計処理を行う前の測定データの意味で用いている。
第二の工程により得られた各試験試料に関する電流経時変化データを基に、得られた216個の標本平均の度数分布について、インターバル時間(図中、Unzipping time[ms])を対数表示としたヒストグラムを作成した(図5)。なお、各複合体のヒストグラムにおいて、縦軸である頻度(度数、図中のFrequency)は、各正規分布の中央値にてノーマライズした値を示している。また、図中、Peakはヒストグラムの中央値を示す。なお図中で示された語句及び略語については、以下図においても同様の意味を表す。
胆管がん患者6名から得られたヒストグラムの結果を平均化した(図6)。さらに健常者(胆管がんでない者)6名から得られたヒストグラムの結果についても平均化した(図6)。胆管がん患者のピークは1487msであったのに対して、健常者のピークは856msであった。具体的に、各ヒストグラムにおける信頼区間90%同士を比較すると、これら信頼区間が重複した範囲となっていない。そのため、種々の複合体のヒストグラム同士を、十分な信頼度で互いに比較し、区別することができたといえる。
胆管がん患者から得られたサンプルを基にした試験試料は、胆管がん患者において差示的に発現する特定オリゴヌクレオチドを含むため、プローブがナノポアを通過しづらく、インターバル時間が長かったといえる。一方で、健常者から得られたサンプルを基にした試験試料では、胆管がん患者において差示的に発現する特定オリゴヌクレオチドの濃度が低いため、プローブがナノポアを通過しやすく、インターバル時間が短かったといえる。
[実施例2]
-血漿サンプル中の5種のmiRNA濃度の測定-
胆管がん患者5名(サンプルNo.T1~T5)及び健常者5名(サンプルNo.N1~N5)のmiRNA溶液を準備した。なお、胆管がん患者5名及び健常者5名のmiRNA溶液は、[実施例1]で調製した胆管がん患者6名及び健常者6名のmiRNA溶液からそれぞれ5名のmiRNA溶液を選択して使用した。
前記miRNA溶液を用いて、miRNAの逆転写反応を行った。具体的には、市販のmiRNA定量キットMir-X miRNA qRT-PCR TB Green Kit(タカラバイオ社)を使用した。メーカーが提供するキットの説明書に従って、ポリアデニル化、及び、逆転写酵素としてSMART(登録商標) MMLV Reverse Transcriptaseを利用して、37℃1時間及び85℃5分の条件でcDNA合成を行った。
合成したcDNAにおいて、各miRNAごとにPCRを行った。具体的には、市販のmiRNA定量キットMir-X miRNA qRT-PCR TB Green Kit(タカラバイオ社)を使用した。メーカーが提供するキットの説明書に従って、PCR反応液を以下の通りに調製し、95℃10秒の熱変性の後、qPCRを95℃5秒及び60℃25秒を40サイクルの条件で行った。なお融解曲線解析温度は、95℃60秒、55℃30秒、95℃30秒の条件とした。
ddHO 9.5μl
TB Green Advantage Premix(2x) 12.5μl
miRNA-specific primer(10μM) 0.5μl
mRQ 3’Primer(10μM) 0.5μl
cDNA 2.0μl
合計 25.0μl
なおリバースプライマーであるmRQ 3’Primerは、上記キットに含まれているものを使用した。フォワードプライマーであるmiRNA-specific primerは、各miRNAごとに、以下の配列番号で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを使用した。フォワードプライマーは、株式会社ファスマック製のものを使用した。
miR-374:
フォワードプライマー 配列番号11:5'-TTATAATACAACCTGATAAGTG-3'
miR-15a:
フォワードプライマー 配列番号12:5'-TAGCAGCACATAATGGTTTGTG-3'
miR-224:
フォワードプライマー 配列番号13:5'-CAAGTCACTAGTGGTTCCGTT-3'
miR-106a:
フォワードプライマー 配列番号14:5'-AAAAGTGCTTACAGTGCAGGTAG-3'
miR-193:
フォワードプライマー 配列番号15:5'-TGGGTCTTTGCGGGCGAGATGA-3'
cel-miR-39-3p:
フォワードプライマー 配列番号16:5'-TCACCGGGTGTAAATCAGCTTG-3'
血漿サンプル中に検出された各miRNAの濃度を表すグラフを図7に示す。図中、胆管がん患者5名(サンプルNo.T1~T5)及び健常者5名(サンプルNo.N1~N5)について、それぞれ左から、miR-193、miR-106a、miR-15a、miR-224、及びmiR-374の濃度(pM)を示す。なお図中の各miRNAの濃度は、血漿サンプル中における濃度に換算した値を示す。各miRNAの濃度は、およそ100pMという高い濃度で存在しているmiRNAもあれば、10aMという極低濃度で存在しているmiRNA(miR-15a)もあった。なお図7中の縦軸において、例えば「1.E-02」の表記は、1.0×10-2pMのmiRNA濃度であることを示す。
胆管がん患者5名及び健常者5名について、各miRNAの濃度の平均値を算出した(図8)。なお図中の各miRNAの濃度は、血漿サンプル中における濃度に換算した値を示す。胆管がん患者において、各miRNAの濃度の平均値は、miR-193は10.8pM、miR-106aは5.71fM、miR-15aは1.19fM、miR-224は580aM、及びmiR-374は133fMとなった。健常者において、各miRNAの濃度の平均値は、miR-193は3.42pM、miR-106aは5.11fM、miR-15aは1.16fM、miR-224は28.7aM、及びmiR-374は3.73fMとなった。つまり、実施例1において、胆管がん患者及び健常者の各miRNAにおいて、aM~pMレベルでのmiRNAの濃度の違いを反映した、胆管がん患者及び健常者におけるインターバル時間の違いを検出することができていたことが分かった。なお図8中の縦軸において、例えば「1.E-02」の表記は、1.0×10-2pMのmiRNA濃度であることを示す。
[実施例3]
-極低濃度のmiRNAに対する判定-
(第一の工程)
最終的な(第1の溶液としての)試験試料1におけるプローブ2が500nMとなるようにサンプル1を準備した。
最終的な(第1の溶液としての)試験試料2におけるプローブ2が500nMとなり、かつmiR-15aが100fMとなるようにサンプル2を準備した。
最終的な(第1の溶液としての)試験試料3におけるプローブ2が500nMとなり、かつmiR-15a及びmiR-193がそれぞれ100fMとなるようにサンプル3を準備した。
最終的な(第1の溶液としての)試験試料4におけるプローブ2が500nMとなり、かつmiR-15a、miR-193、及びmiR-224がそれぞれ100fMとなるようにサンプル4を準備した。
最終的な(第1の溶液としての)試験試料5におけるプローブ2が500nMとなり、かつmiR-15a、miR-193、miR-224、及びmiR-106aがそれぞれ100fMとなるようにサンプル5を準備した。
最終的な(第1の溶液としての)試験試料6におけるプローブ2が500nMとなり、かつmiR-15a、miR-193、miR-224、miR-106a、及びmiR-374がそれぞれ100fMとなるようにサンプル6を準備した。
(アニーリング処理の工程)
前記サンプル1~サンプル6をそれぞれ95℃で5分間加熱し、次いで室温(25℃)にまで徐々に冷却するアニーリング処理を行った。
(第二の工程)
前記サンプル1~サンプル6について、[実施例1]と同様に、ウェル内において第一の溶液(それぞれ、試験試料1~試験試料6としてのサンプル1~サンプル6)及び第二の溶液を隔てた。
次に、第一の溶液から第二の溶液の方向へ+200mVの一定電圧を印加し、電流経時変化データを、Digidata 1440Aアナログ-デジタル変換器(Molecular Devices)を備えたClampex 9.0(Molecular Devices)を用いて、取得した。なお、Axopatch 200B Amplifier(Molecular Devices、San Jose、CA、USA)を用いて印加している電流を記録した。
(第三の工程)
第二の工程により得られた試験試料1~試験試料6に関する電流経時変化データを基に、実施例1と同様にして得た216個の標本平均の度数分布について、インターバル時間を対数表示としたヒストグラムを作成した(図9)。なお、ヒストグラムにおいて、縦軸である頻度(度数)は、各正規分布の中央値にてノーマライズした値を示している。なお図中、dgDNAwohは、プローブ2を示す。この結果から、100fMという極低濃度のmiRNAに対して、プローブ2を用いることでmiRNAの存在を検出できたことが明らかとなった。
(インターバル時間と自由エネルギーとの相関解析)
NUPACK simulation(http://www.nupack.org)を利用して、試験試料1~試験試料6における、プローブとmiRNAとの自由エネルギーを計算した。上記にて求めたインターバル時間のピーク(ms)を縦軸にとり、算出された自由エネルギー(Free energy;kJ/mol)を横軸にとり、試験試料1~試験試料6の結果をそれぞれプロットした(図10)。図中、丸1~丸6は、それぞれ試験試料1~試験試料6におけるプロット及びそのエラーバーを示す。
なおNUPACK simulationは、5種類以上のmiRNAが結合した場合の自由エネルギーを求められないことから、試験試料6に関しては、以下の方法で自由エネルギーを計算した。まず、プローブ2と、miR-15a、miR-193、miR-224、miR-106a、及びmiR-374からなる群より選択される4種類のmiRNAとが結合する場合の自由エネルギーA(5パターン)を計算した。次に、プローブ2に、前記群より選択されなかった残りの1種類のmiRNAが結合する場合の自由エネルギーB(前記5パターンの自由エネルギーAそれぞれにつき、1パターンの自由エネルギーB)を計算した。前記それぞれの自由エネルギーAに対応する自由エネルギーBをそれぞれ合計し、計5パターンの「自由エネルギーA+自由エネルギーB」の値の平均値を、試験試料6における自由エネルギーとした。
プローブとmiRNAとの自由エネルギーのプロットを基に近似線を求めたところ、直線式y=-1.02x+162.80が得られ、決定係数Rは1.00であり、インターバル時間と自由エネルギーとに負の相関が確認できた。つまり、プローブに対して結合するmiRNAの数が多いほど、自由エネルギーは負の値に近づき、安定的に複合体を形成していた。
[実施例4]
-miRNAの濃度依存的な判定-
(第一の工程)
最終的な(第1の溶液としての)試験試料7におけるプローブ2が500nMとなるようにサンプル7を準備した。なおサンプル7は、miR-15a及びmiR-193に関する下記試験において、ネガティブコントロールとして使用した。
最終的な(第1の溶液としての)試験試料8におけるプローブ2が500nMとなり、かつmiR-15aが1.0fMとなるようにサンプル8を準備した。
最終的な(第1の溶液としての)試験試料9におけるプローブ2が500nMとなり、かつmiR-15aが10fMとなるようにサンプル9を準備した。
最終的な(第1の溶液としての)試験試料10におけるプローブ2が500nMとなり、かつmiR-15aが50fMとなるようにサンプル10を準備した。
最終的な(第1の溶液としての)試験試料11におけるプローブ2が500nMとなり、かつmiR-15aが100fMとなるようにサンプル11を準備した。
最終的な(第1の溶液としての)試験試料12におけるプローブ2が500nMとなり、かつmiR-15aが200fMとなるようにサンプル12を準備した。
最終的な(第1の溶液としての)試験試料13におけるプローブ2が500nMとなり、かつmiR-193が1.0fMとなるようにサンプル13を準備した。
最終的な(第1の溶液としての)試験試料14におけるプローブ2が500nMとなり、かつmiR-193が10fMとなるようにサンプル14を準備した。
最終的な(第1の溶液としての)試験試料15におけるプローブ2が500nMとなり、かつmiR-193が50fMとなるようにサンプル15を準備した。
(アニーリング処理の工程)
前記サンプル7~サンプル15をそれぞれ95℃で5分間加熱し、次いで室温(25℃)にまで徐々に冷却するアニーリング処理を行った。
(第二の工程)
前記サンプル7~サンプル15について、[実施例1]と同様に、ウェル内において第一の溶液(それぞれ、試験試料7~試験試料15としてのサンプル7~サンプル15)及び第二の溶液を隔てた。
次に、第一の溶液から第二の溶液の方向へ+200mVの一定電圧を印加し、電流経時変化データを、Digidata 1440Aアナログ-デジタル変換器(Molecular Devices)を備えたClampex 9.0(Molecular Devices)を用いて、取得した。なお、Axopatch 200B Amplifier(Molecular Devices、San Jose、CA、USA)を用いて印加している電流を記録した。
(第三の工程)
第二の工程により得られた試験試料7~試験試料15に関する電流経時変化データを基に、実施例1と同様にして得た216個の標本平均の度数分布について、インターバル時間を対数表示としたヒストグラムを作成した(図11)。なお、各複合体のヒストグラムにおいて、縦軸である頻度(度数)は、各正規分布の中央値にてノーマライズした値を示している。なお図中、dgDNAwohは、プローブ2を示す。
試験試料7~試験試料15で求められたそれぞれのインターバル時間のピーク(ms)を縦軸にとり、試験試料7~試験試料15におけるmiRNAの濃度(fM)を横軸にとり、試験試料7~試験試料15の結果をそれぞれプロットした(図12)。プロットから、近似線を求めたところ、miR-15aにおいては、直線式y=1.21x+254.76が得られ、決定係数Rは0.94であり、インターバル時間とmiRNAの濃度とに正の相関を確認できた(図中、黒丸及び点線の近似直線)。miR-193においても、直線式y=6.73x+274.82が得られ、決定係数Rは0.78であり、インターバル時間とmiRNAの濃度とに正の相関を確認できた(図中、白丸及び点線の近似直線)。つまり、fMレベルの極低濃度のmiRNAであっても、前記した方法を用いることで、精度よくmiRNAを検出することができた。
[実施例5]
-プローブの濃度依存的なナノポア通過-
(第一の工程)
試験試料16中のプローブ2が500nMとなり、miR-15aが1.0fMとなるようにサンプル16を準備した。
又は、試験試料17中のプローブ2が500pMとなり、miR-15aが1.0fMとなるようにサンプル17を準備した。
(アニーリング処理の工程)
前記サンプル16~サンプル17をそれぞれ95℃で5分間加熱し、次いで室温(25℃)にまで徐々に冷却するアニーリング処理を行った。
(第二の工程)
前記サンプル16~サンプル17について、[実施例1]と同様に、ウェル内において第一の溶液(それぞれ、試験試料16~試験試料17としてのサンプル16~サンプル17)及び第二の溶液を隔てた。
次に、第一の溶液から第二の溶液の方向へ+200mVの一定電圧を印加し、電流経時変化データを、Digidata 1440Aアナログ-デジタル変換器(Molecular Devices)を備えたClampex 9.0(Molecular Devices)を用いて、取得した。なお、Axopatch 200B Amplifier(Molecular Devices、San Jose、CA、USA)を用いて印加している電流を記録した。
(第三の工程)
第二の工程により得られた試験試料1~試験試料2に関する電流経時変化データを基に、ナノポアが開いている時間(open time(ms))を求めた(図13)。図13の左側の電流経時変化データの例において、縦軸は電流強度を示し、横軸は測定時間を示す。「ナノポアが開いている時間」は、図13の左側の電流経時変化データの例に示すように、ナノポアの貫通孔が開いた(open)時の電流強度を0%とし、ナノポアの貫通孔が閉じた(Base)時の電流強度を100%と仮定したときに、電流強度が0%以上80%を超えるまでの時間であると定義した。つまり、ナノポアが開いている時間(open time(ms))とは、ナノポアの貫通孔内にプローブが侵入していない時間である。図13の右側のグラフ(箱ひげ図)は、プローブの濃度を変化させたときのナノポアが開いている時間を示す。箱ひげ図のボックスチャートはナノポアが開いている時間の第一四分位数~第三四分位数にあたる範囲を示し、ボックスチャートの中央線は中央値(第二四分位数)を示す。図中、エラーバーは外れ値を除いたデータ範囲を示し、×印はデータの1%と99%の値を示し、□印は平均値を示す。
プローブ濃度(図中、診断用DNA濃度)が500nMであるときは、ナノポアが開いている時間は約0msであった。一方で、プローブ濃度が500pMであるときは、ナノポアが開いている時間の中央値は約1000msであった。
(ナノポアの通過頻度の算出)
ナノポアの通過頻度を算出した。通過頻度は、[1(分子)]/[ナノポアが開いている時間の平均(ms)]の式から求めた。プローブ濃度が500nMであるときは、通過頻度は1.37×10-2-1であり、一方で、プローブ濃度が500pMであるときは、通過頻度は2.96×10-4-1であった。つまり、プローブ濃度が高いほど、プローブがナノポアを通過する頻度が高く、極低濃度のmiRNAを検出しやすくなることが確認できた。
以上のことから、実施例において、試験試料中における極低濃度(1.0aM~1.0pMのレベル)の特定オリゴヌクレオチドの存在の有無を判定することができた。
1N ナノポア
1P ナノポアの貫通孔
2 脂質二重膜
3 第一の溶液
4 第二の溶液
5A、5B、5C、5D、5E 特定オリゴヌクレオチド
6 プローブ
7 電圧印加手段

Claims (14)

  1. (1)1種以上の特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するプローブ、及び前記特定オリゴヌクレオチドのうちの少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを1.0aM~1.0pMの濃度で含む可能性がある試験試料を、試験試料が1.0aM~1.0pMの前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを含む場合には、試験試料中における前記プローブの濃度対前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの濃度の比が1.0×10:1~1.0×10:1となるように準備する第一の工程と、
    (2)ナノポアを有する脂質二重膜により互いに隔てられる、第一の溶液としての前記試験試料と第二の溶液との間に電圧を印加し、前記第一の溶液と前記第二の溶液との間を流れる電流の電流強度を経時的に測定し電流経時変化データを得る第二の工程と、
    (3)前記電流経時変化データを基に、前記試験試料中における前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの存在の有無を判定する第三の工程と、
    を含む、試験試料中における1.0aM~1.0pMの濃度の少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの存在の有無を判定する方法。
  2. さらに、前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの量を判定することを含む、請求項1に記載の方法。
  3. 前記1種以上の特定オリゴヌクレオチドは、2種以上の特定オリゴヌクレオチドを含む、請求項1又は請求項2に記載の方法。
  4. 前記プローブは、前記2種以上の特定オリゴヌクレオチドのそれぞれに相補的な配列を全て一分子中に含むプローブである、請求項3に記載の方法。
  5. 前記プローブにおける前記2種以上の特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列の順番は、前記プローブと前記2種以上の特定オリゴヌクレオチドとの複合体の自由エネルギーが最も低くなるように選択されている、
    請求項3又は請求項4に記載の方法。
  6. 前記プローブは、それぞれ異なる特定オリゴヌクレオチドに相補的な2種以上のプローブを含む、請求項3に記載の方法。
  7. 前記第一の工程と前記第二の工程との間に、
    前記試験試料をアニーリング処理する工程を含む、
    請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の方法。
  8. 前記特定オリゴヌクレオチドがmiRNAであり、
    前記プローブがオリゴデオキシリボヌクレオチドである、
    請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の方法。
  9. 前記プローブは、(n)構造を3’末端に有し、nは任意のデオキシリボヌクレオチドであり、xは3~30の整数であり、x個のnは互いに同一である、
    請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の方法。
  10. 前記(n)構造は、ポリデオキシシトシン構造である、
    請求項9に記載の方法。
  11. 前記プローブは、ヘアピン構造を5’末端に有する、
    請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の方法。
  12. (1-1)特定疾患を有する罹患者若しくは特定疾患罹患のリスクを有する個体又はその組織において差示的に発現する1種以上の特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するプローブと、前記特定オリゴヌクレオチドのうちの少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを含む検査対象に由来するサンプルとを、試験試料中における前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの濃度が1.0aM~1.0pMであり、前記プローブの濃度対前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの濃度の比が1.0×10:1~1.0×10:1となるように混合し試験試料を得る、
    又は、
    (1-2)特定疾患を有する罹患者若しくは特定疾患罹患のリスクを有する個体又はその組織において差示的に発現しない1種以上の特定オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するプローブと、前記特定オリゴヌクレオチドのうちの少なくとも1種のオリゴヌクレオチドを含む検査対象に由来するサンプルとを、試験試料中における前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの濃度が1.0aM~1.0pMであり、前記プローブの濃度対前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの濃度の比が1.0×10:1~1.0×10:1となるように混合し試験試料を得る、
    第一の工程と、
    (2)ナノポアを有する脂質二重膜により互いに隔てられる、第一の溶液としての前記試験試料と第二の溶液との間に電圧を印加し、前記第一の溶液及び前記第二の溶液の間を流れる電流の電流強度を経時的に測定し電流経時変化データを得る第二の工程と、
    (3)前記電流経時変化データを基に、前記試験試料中における前記少なくとも1種のオリゴヌクレオチドの存在を検出し、それにより検査対象が特定疾患に罹患しているかどうか又は特定疾患罹患のリスクを有するかどうかを判定する第三の工程と、
    を含む、検査対象が特定疾患に罹患しているかどうか又は特定疾患罹患のリスクを有するかどうかを判定する方法。
  13. 前記1種以上の特定オリゴヌクレオチドは、2種以上の特定オリゴヌクレオチドを含む、請求項12に記載の方法。
  14. 前記特定疾患が、胆管がんである、請求項12又は請求項13に記載の方法。
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