JP2022034636A - 赤外線吸収微粒子分散液 - Google Patents

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Abstract

【課題】赤外線吸収微粒子分散液を用いて分散体を製造したときに、その耐光着色性および視認性を高い水準で両立させる。【解決手段】赤外線吸収微粒子と溶媒を含み、光路長3mm、全光線透過率70%における液ヘイズが1.0%以下であり、赤外線吸収微粒子の結晶子径が20nm以上60nm以下である、赤外線吸収微粒子分散液である。【選択図】図1

Description

本発明は、赤外線吸収微粒子分散液に関する。
良好な可視光透過率を有することで透明性を保ちながら、日射透過率を低下させる日射遮蔽技術として、これまでさまざまな技術が提案されてきた。中でも、赤外線吸収微粒子や、当該赤外線吸収微粒子の分散体を用いた日射遮蔽技術は、その他の技術と比較して日射遮蔽特性に優れ、低コストであり、電波透過性があり、さらに耐候性が高い等のメリットがある。
本発明者等は特許文献1において、赤外線遮蔽材料微粒子が媒質中に分散してなる赤外線遮蔽材料微粒子分散体、当該赤外線遮蔽材料微粒子分散体の優れた光学特性、導電性、製造方法について開示した。
特許文献1に記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体の製造方法として、例えば、次のような方法が採られていた。まず、有機溶媒を溶媒とする赤外線遮蔽材料微粒子分散液を用意する。当該赤外線遮蔽材料微粒子分散液へバインダー等を添加して、赤外線遮蔽膜形成用分散液を得る。得られた赤外線遮蔽膜形成用分散液を透明基材上へ塗布した後、有機溶媒を乾燥させて除去することにより、赤外線遮蔽材料微粒子分散体である赤外線遮蔽膜を当該透明基材表面へ直接積層するものである。
そして、本発明者等は特許文献2において、日射遮蔽形成用タングステン酸化物微粒子が、溶媒中に分散されていることを特徴とする日射遮蔽体形成用分散液を開示した。これは、タングステン酸化物微粒子と、高分子系分散剤と、溶媒とを混合し、粉砕・分散処理することによって製造したものであった。
また、本発明者等は特許文献3において、太陽光等が照射されたときに青白色に変色する現象(ブルーヘイズ)を抑制できる赤外線遮蔽材料微粒子分散液を開示した。これは、赤外線遮蔽材料微粒子が溶媒中に含まれる赤外線遮蔽材料微粒子分散液において、動的光散乱法で測定した赤外線遮蔽材料微粒子の粒度分布で、50%径が10nm~30nm、95%径が20nm~50nm、および、平均粒径が10nm~40nmであることを特徴としていた。
国際公開第2005/37932号 特開2005-187323号公報 特開2009-215487号公報
しかし、本発明者らの検討によると、特許文献3の赤外線吸収微粒子分散液では、これから作製した赤外線吸収微粒子分散体に対して紫外線を長期間にわたって照射したときに、可視光領域の光の透過率が低下する光着色現象が著しく生じる場合があることを知見した。一方、光着色現象を抑制すべく、微粒子全体の粒径を大きく変更して検討したところ、日射遮蔽用の光学部材(透明基材、フィルム、樹脂シート等)を製造したときに曇り度(ヘイズ)が高くなって、視認性が著しく低下することがあった。
本発明は、赤外線吸収微粒子分散液を用いて分散体を製造したときに、その耐光着色性および視認性を高い水準で両立させる技術を提供することを目的とする。
本発明の一態様は、
赤外線吸収微粒子と溶媒を含み、光路長3mm、全光線透過率70%における液ヘイズが1.0%以下であり、前記赤外線吸収微粒子の結晶子径が20nm以上60nm以下である、赤外線吸収微粒子分散液である。
本発明によれば、耐光着色性と視認性とを高い水準で両立した赤外線吸収微粒子分散体を得ることができる。
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物における結晶構造の模式的な平面図である。
本発明者らは上述の課題を解決するため、赤外線吸収微粒子分散液について、光学部材を製造したときの耐光着色性と視認性とを高い水準で両立させる技術について検討を行った。そして、本発明者らは、赤外線吸収微粒子分散液中に含まれる50%径未満の微粒子が小さいほど光着色現象が生じる傾向にあることから、微粒子の粒度分布がこれらの特性と密接に関係していることに想到した。また、所望の特性を引き出す粒度分布は、赤外線吸収微粒子分散液の光路長3mm、全光線透過率70%における液ヘイズと赤外線吸収微粒子の結晶子径によって表現できることに想到した。
一般に、ヘイズは固体状態で測定されることが多いが、例えば分散液をガラスセルに充填することにより液体状態でのヘイズ、つまり液ヘイズを測定することが可能である。このとき、液ヘイズは光路長(ガラスセルの厚み)や全光線透過率によって変動するため、所定値の光路長を有するガラスセルを用い、全光線透過率を所定値となるように溶媒量を調整して測定する必要がある。
本発明者らは、赤外線吸収微粒子分散液の液ヘイズと赤外線吸収微粒子の結晶子径に着目し検討した。その結果、液ヘイズは結晶子径と赤外線吸収微粒子の粒度分布に依存しており、結晶子径が20nm~60nm、液ヘイズが1.0%以下となるように赤外線吸収微粒子分散液を調製することで、赤外線吸収微粒子の粒度分布がシャープになり、この分散液から作製される分散体において視認性および耐光着色性を高い水準で両立して実現できることに知見した。本発明はこれら知見に基づいてなされたものであり、以下のとおりである。
<赤外線吸収微粒子分散液>
本発明の一実施形態にかかる赤外線吸収微粒子分散液について説明する。
赤外線吸収微粒子分散液(以下、単に分散液ともいう)は、少なくとも赤外線吸収微粒子および溶媒を含み、必要に応じて分散剤、カップリング剤および界面活性剤などのその他の添加剤を添加して混合され、溶媒中に赤外線吸収微粒子を分散処理して得られるものである。以下、分散液の液ヘイズ、分散液に含まれる各成分について説明する。
[1]液ヘイズ
本実施形態の分散液は、結晶子径が20nm~60nmである赤外線吸収微粒子を含み、光路長3mm、全光線透過率70%における液ヘイズが1.0%以下となるように構成される。好ましくは0.8%以下、より好ましくは0.6%以下である。分散液では、赤外線吸収微粒子が単体粒子または複数の粒子が凝集した凝集粒子として存在し、所定の粒度分布で分散している。分散液を液ヘイズが1.0%以下となるように構成することにより、微粒子のシャープな粒度分布を実現することができる。これにより、分散液から透明基材などの分散体を作製したときに、高い視認性を得ながらも、微細な赤外線吸収微粒子による光着色現象を抑制することができる。なお、液ヘイズの下限値は特に限定されないが、分散液に含まれる溶媒の液ヘイズ以上であって、例えば0.1%以上であることが好ましい。
液ヘイズは、分散液の液体状態でのヘイズを示すものであり、光路長が3mmとなるガラスセルに分散液を封入してヘイズメーターを用いて測定される。封入する分散液は、例えば赤外線吸収微粒子の含有量によって全光線透過率が変動するので、全光線透過率が70%となるように溶媒量で調整するとよい。液ヘイズは、微粒子の大きさやその分散状態、および溶媒の種類に応じて変動する。なお、ヘイズメーターとしては、例えば、株式会社村上色彩技術研究所製ヘイズメーターHM-150等を用いることができる。
[2]赤外線吸収微粒子
赤外線吸収微粒子は、自由電子を含有する各種材料を含み、プラズマ振動によって波長200nmから2600nmの太陽光線の領域周辺の電磁波に反射吸収応答を示す粒子である。赤外線吸収微粒子は、例えば光の波長より小さな粒子径を有することで、可視光領域(波長380nmから780nm)の幾何学散乱を低減することができ、可視光領域について特に高い透明性を得ることができる。なお、ここでいう「透明性」とは、「可視光領域の光に対して散乱が少なく透過性が高い」ことを示す。
赤外線吸収微粒子の結晶子径は、特に限定されないが、赤外線吸収微粒子分散体において耐光着色性および視認性とともに優れた赤外線吸収特性を実現する観点からは、20nm以上60nm以下であることが好ましく、20nm以上50nm以下であることがより好ましく、20nm以上40nm以下であることがさらに好ましく、20nm以上35nm以下であることがさらに好ましく、22nm以上33nm以下であることがさらにより好ましい。60nm以下の結晶子径を有する赤外線吸収微粒子を用いることにより、赤外線吸収微粒子分散体のヘイズを例えば1.0%以下とすることができ、赤外線吸収微粒子分散体へ強い光を当てたときに、肉眼で曇って見えることを抑制することができる。また、20nm以上の結晶子径を有する赤外線吸収微粒子を用いることにより、赤外線吸収微粒子分散体の耐光着色性を高く維持できるような大きさに調整しやすくできる。この原因は特定されていないが、光着色現象は赤外線吸収微粒子の表面で着色物質が生成することにより起こると考えられており、微粒子の結晶子径が大きくなるほど着色物質の生成量は抑制されるものと推測される。
なお、赤外線吸収微粒子の結晶子径の測定には、粉末X線回折法(θ―2θ法)によるX線回折パターンの測定と、リートベルト法による解析を用いることができる。X線回折パターンの測定には、例えばスペクトリス株式会社PANalytical製の粉末X線回折装置「X’Pert-PRO/MPD」などを用いて行うことができる。
赤外線吸収微粒子の分散粒子径は、単体粒子または凝集粒子の粒子径の平均として算出され、光子相関法で解析する動的光散乱法を原理とした粒径測定装置(例えば大塚電子株式会社製ELS-8000等)を用いて測定することができる。
赤外線吸収微粒子の分散粒子径は、その使用目的によって、各々選定することができる。
まず、透明性を保持したい応用に使用する場合、赤外線吸収微粒子は300nm以下の分散粒子径を有していることが好ましい。これは、分散粒子径が300nm以下の粒子は、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光領域の視認性を保持し、同時に効率良く透明性を保持することができるからである。
特に、可視光領域の透明性を重視する場合は、さらに粒子による散乱の低減を考慮することが好ましい。
粒子による散乱の低減を重視する場合、分散粒子径は200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。これは、粒子の分散粒子径が小さければ、幾何学散乱もしくはミー散乱による波長400nm以上780nm以下の可視光領域の光の散乱が低減される結果、赤外線吸収膜が曇りガラスのようになり鮮明な透明性が得られなくなるのを回避できる。すなわち、分散粒子径が200nm以下になると、上述した幾何学散乱もしくはミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の6乗に比例して低減するため、分散粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上するからである。
さらに分散粒子径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、分散粒子径が小さい方が好ましい。赤外線吸収微粒子の分散粒子径の下限値は特に限定されないが、例えば工業的に容易に製造することができるため、分散粒子径は1nm以上であることが好ましい。
また、分散液における赤外線吸収微粒子の粒度分布は、特に限定されないが、透明基材において優れた視認性および耐光着色性を得る観点からは、シャープであることが好ましい。具体的には、赤外線吸収微粒子の粒度分布で、30%径が20nm~30nm、50%径が25nm~35nm、80%径が27nm~34nm、95%径が30nm~37nmであることが好ましい。より好ましくは、30%径が24nm~30nm、50%径が28nm~32nm、80%径が30nm~33nm、95%径が30nm~36nmである。また、微細な微粒子による光着色現象を抑制する観点からは、30%径が25nm以上であることがより好ましい。また、視認性を得る観点からは、95%径が35nm以下であることが好ましい。さらに、優れた視認性と耐光着色性を両立する観点から、95%径/30%径の比率が1.50以下であることが好ましい。なお、赤外線吸収微粒子の粒度分布は、例えば、周波数解析法で解析する動的光散乱法を原理とした粒度分布測定装置(例えば日機装株式会社製UPA-150等)を用いて測定することができる。また、本明細書において、30%径、50%径、80%径、95%径とは、それぞれ、粒度分布測定装置で測定した体積基準の累積30%粒子径、累積50%粒子径、累積80%粒子径、累積95%粒子径を示す。
なお、粒度分布データは粒子径スケールに対する積算%や頻度%として表現されるが、逆に、積算%のスケールに対する粒子径として表現される場合もある。積算%の分布曲線が、例えば10%の横軸と交差するポイントの粒子径を10%径、50%の横軸と交差するポイントの粒子径を50%径、更に90%の横軸と交差するポイントの粒子径を90%径という。10%、50%、90%に特に固定されているわけではなく、必要に応じて、任意の積算%が用いられる。50%粒子径はメディアン径とも呼ばれ、ごく一般的に用いられている。複数のサンプルの粒度分布の大きさを比較するとき、測定対象の大きさを一つの数値で代表する必要があるため、このメディアン径がよく用いられる。このため、メディアン径は、平均粒径とよく混同されることがあるが、定義が異なり、通常この2つの径は一致しない。中心(50%径)に対して粒度分布が左右対称である場合に限って、これ等2つの径は一致する。本明細書では、平均粒径は体積平均粒径を示す。
赤外線吸収微粒子の体積平均粒径は、特に限定されないが、透明基材において優れた視認性および耐光着色性を得る観点からは、15nm~50nmであることが好ましく、25nm~40nmであることがより好ましい。
赤外線吸収微粒子としては、例えば酸素欠損を有するタングステン酸化物、複合タングステン酸化物を初めとして、ITO(インジウム錫酸化物)やATO(アンチモン錫酸化物)等の各種無機材料を含む赤外線吸収微粒子を用いることができる。この中でも、タングステン酸化物微粒子および複合タングステン酸化物微粒子の少なくとも1つを用いることが好ましい。タングステン酸化物や複合タングステン酸化物を含有する赤外線吸収微粒子は、近赤外領域、特に波長1000nm付近の光を大きく吸収するため、その透過色調は青色系から緑色系となる物が多い。
以下、各赤外線吸収微粒子について説明する。
(タングステン酸化物微粒子)
タングステン酸化物は、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記される。一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物において、当該タングステンと酸素との組成範囲は、タングステンに対する酸素の組成比(z/y)が3未満であることが好ましく、2.2≦z/y≦2.999であることがより好ましい。特に2.45≦z/y≦2.999であることがさらに好ましい。
上記z/yの値が2.2以上であれば、当該タングステン酸化物中に目的としないWOの結晶相が現れるのを回避することができると共に、材料としての化学的安定性を得ることができるので特に有効な赤外線吸収微粒子となる。また、当該z/yの値を好ましくは3未満、より好ましくは2.999以下とすることで、赤外領域の吸収反射特性を高めるために特に十分な量の自由電子が生成され効率のよい赤外線吸収微粒子とすることができる。
さらに、2.45≦z/y≦2.999で表される組成比を有する、いわゆる「マグネリ相」は化学的に安定であり、近赤外領域の光の吸収特性も優れるので、赤外線吸収材料としてより好ましく用いることができる。このため、z/yの値は上述した様に2.45≦z/y≦2.999であることがさらに好ましい。
(複合タングステン酸化物微粒子)
複合タングステン酸化物は、上述したタングステン酸化物(WO)へ、後述する元素Mを添加したものである。タングステン酸化物へ元素Mを添加し、複合タングステン酸化物とすることで、WO中に自由電子が生成され、特に近赤外領域に自由電子由来の強い吸収特性が発現し、波長1000nm付近の赤外線吸収微粒子として有効となる。
すなわち、当該WOに対し、酸素量の制御と、自由電子を生成する元素Mの添加とを併用した複合タングステン酸化物とすることで、より効率の良い赤外線吸収特性を発揮することができる。WOに対して酸素量の制御と、自由電子を生成する元素Mの添加とを併用した複合タングステン酸化物の一般式をMxWyOzと記載したとき、0.001≦x/y≦1、2.0<z/y≦3.0の関係を満たすことが好ましい。上記一般式中のMは、既述の元素Mを示し、Wはタングステン、Oは酸素をそれぞれ示す。
上述のように元素Mの添加量を示すx/yの値が0.001以上の場合、複合タングステン酸化物において特に十分な量の自由電子が生成され、高い赤外線吸収効果を得ることができる。そして、元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、赤外線吸収効率も上昇するが、x/yの値が1程度で当該効果も飽和する。また、x/yの値が1以下の場合、当該複合タングステン酸化物を含む赤外線吸収微粒子中に不純物相が生成されるのを回避できるので好ましい。
なお、元素Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybのうちから選択された1種類以上であることが好ましい。MxWyOzにおける安定性を特に高める観点から、元素Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Reのうちから選択された1種類以上の元素であることがより好ましい。そして、当該複合タングステン酸化物を含む赤外線吸収微粒子として、光学特性、耐候性を向上させる観点から、元素Mは、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、4B族元素、5B族元素から選択された1種類以上の元素であることがさらに好ましい。
酸素の添加量を示すz/yの値については、MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物においても、上述したWyOzで表記されるタングステン酸化物と同様の機構が働くことに加え、z/y=3.0においても、上述した元素Mの添加量による自由電子の供給がある。このため、2.0<z/y≦3.0が好ましく、2.2≦z/y≦3.0がより好ましく、2.45≦z/y≦3.0がさらに好ましい。
さらに、当該複合タングステン酸化物が六方晶の結晶構造を有する場合、当該複合タングステン酸化物を含む赤外線吸収微粒子の可視光領域の光の透過が向上し、赤外領域の光の吸収が向上する。この六方晶の結晶構造の模式的な平面図である図1を参照しながら説明する。図1は、六方晶構造を有する複合タングステン酸化物の結晶構造を(001)方向から見た場合の投影図を示している。
図1において、WO単位にて形成される8面体11が6個集合して六角形の空隙が構成され、当該空隙中に、元素Mである元素12を配置して1箇の単位を構成し、この1箇の単位が多数集合して六方晶の結晶構造を構成する。そして、可視光領域における光の透過を向上させ、赤外領域における光の吸収を向上させるためには、複合タングステン酸化物中に、図1を用いて説明した単位構造が含まれていれば良く、当該複合タングステン酸化物が結晶質であっても、非晶質であっても構わない。
上述の六角形の空隙に元素Mの陽イオンが添加されて存在するとき、可視光領域における光の透過が向上し、赤外領域における光の吸収が向上する。ここで一般的には、イオン半径の大きな元素Mを添加したとき当該六方晶が形成され易い。具体的には、元素Mとして、Cs、K、Rb、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snから選択された1種類以上を添加したとき六方晶が形成され易い。勿論これら以外の元素でも、WO単位で形成される六角形の空隙に上述した元素Mが存在すれば良く、上述の元素に限定される訳ではない。
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物が均一な結晶構造を有するため、元素Mの添加量は、既述の一般式におけるx/yの値で0.2以上0.5以下が好ましく、0.33がさらに好ましい。x/yの値が0.33となることで、上述した元素Mが六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
また、六方晶以外であって、正方晶、立方晶の複合タングステン酸化物を含む赤外線吸収微粒子も十分に有効な赤外線吸収特性を有する。結晶構造によって、赤外領域の吸収位置が変化する傾向があり、立方晶<正方晶<六方晶の順に、吸収位置が長波長側に移動する傾向がある。また、それに付随して可視光領域の光の吸収が少ないのは、六方晶、正方晶、立方晶の順である。従って、より可視光領域の光を透過し、より赤外領域の光を遮蔽する用途には、六方晶の複合タングステン酸化物を用いることが好ましい。ただし、ここで述べた光学特性の傾向は、あくまで大まかな傾向であり、添加元素の種類や、添加量、酸素量によって変化するものであり、本発明がこれに限定されるわけではない。
なお、赤外線吸収微粒子の表面はSi、Ti、Zr、Al、Znの一種類以上を含有する酸化物で被覆されていてもよい。このような酸化物で被覆することにより、赤外線吸収微粒子の耐候性を向上させることができる。被覆方法は特に限定されないが、赤外線吸収微粒子を分散した溶液中へ、上述した金属のアルコキシドを添加することで、当該赤外線吸収微粒子の表面を被覆することが可能である。
[3]溶媒
溶媒としては、例えば水、有機溶媒、液状可塑剤、油脂、硬化により高分子化される化合物から選択される少なくとも1つを用いるとよい。溶媒としては、それ自体がヘイズを有するものを用いてもよい。分散液の液ヘイズを過度に大きくさせない観点からは、溶媒のヘイズは0.5%以下であることが好ましい。
有機溶媒としては、アルコール系、ケトン系、炭化水素系、グリコール系、水系、等を挙げることができる。
具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコールなどのアルコール系溶剤;
アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン系溶剤;
3-メチル-メトキシ-プロピオネート、酢酸n-ブチルなどのエステル系溶剤;
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテートなどのグリコール誘導体;
フォルムアミド、N-メチルフォルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド類;
トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;
エチレンクロライド、クロルベンゼン、等を挙げることができる。
そして、これらの有機溶媒中でも、特に、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸n-ブチル、等を好ましく挙げることができる。
液状可塑剤としては、例えば、一価アルコールと有機酸エステルとの化合物である可塑剤、多価アルコール有機酸エステル化合物等のエステル系である可塑剤、有機リン酸系可塑剤等のリン酸系である可塑剤、等を挙げることができる。なお、いずれも室温で液状であるものが好ましい。
なかでも、多価アルコールと脂肪酸から合成されたエステル化合物である可塑剤を好ましく使用することができる。当該多価アルコールと脂肪酸とから合成されたエステル化合物は特に限定されないが、例えば、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコールと、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2-エチル酪酸、ヘプチル酸、n-オクチル酸、2-エチルヘキシル酸、ペラルゴン酸(n-ノニル酸)、デシル酸等の一塩基性有機酸との反応によって得られた、グリコール系エステル化合物、等を挙げることができる。
また、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコールと、前記一塩基性有機とのエステル化合物等も挙げられる。
なかでも、トリエチレングリコールジヘキサネート、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、トリエチレングリコールジ-オクタネート、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノネート等のトリエチレングリコールの脂肪酸エステル、等を使用することができる。さらに、トリエチレングリコールの脂肪酸エステルも好ましく挙げることができる。
油脂としては、例えば、植物油脂、植物由来の化合物、石油系溶剤、等を挙げることができる。
植物油としては、アマニ油、ヒマワリ油、桐油、エノ油等の乾性油、ゴマ油、綿実油、菜種油、大豆油、米糠油、ケシ油等の半乾性油、オリーブ油、ヤシ油、パーム油、脱水ヒマシ油等の不乾性油、等を挙げることができる。
植物油由来の化合物としては、植物油の脂肪酸とモノアルコールを直接エステル反応させた脂肪酸モノエステル、エーテル類、等を挙げることができる。
また、市販の石油系溶剤も油脂として挙げることができる。
市販の石油系溶剤として、アイソパー(登録商標)E、エクソール(登録商標)Hexane、Heptane、E、D30、D40、D60、D80、D95、D110、D130(以上、エクソンモービル社製)、等を挙げることができる。
硬化により高分子化される化合物は、重合等により高分子を形成する単量体やオリゴマーを挙げることができる。具体的には、メチルメタクリレート単量体、アクレリート単量体、スチレン樹脂単量体などを挙げることができる。
これらの溶媒は1種を単独で用いてもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、必要に応じて、これらの溶媒へ酸やアルカリを添加してpH調整してもよい。
[4]その他の添加剤
本実施形態の分散液には、その他の添加剤として、例えば分散剤、界面活性剤、カップリング剤などを添加してもよい。これらの化合物は、赤外線吸収微粒子の分散安定性を一層向上させ、再凝集による分散粒子径の粗大化を抑制することができる。これらの化合物は、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、スルホ基、または、エポキシ基を官能基として有するものであることが好ましい。これらの官能基は、赤外線吸収微粒子の表面に吸着して凝集を防ぎ、均一に分散させる効果を持つ。これらの官能基のいずれかを分子中にもつ高分子系分散剤は、さらに好ましい。
また、官能基を有するアクリル-スチレン共重合体系分散剤も好ましい分散剤として挙げられる。中でも、カルボキシル基を官能基として有するアクリル-スチレン共重合体系分散剤、アミンを含有する基を官能基として有するアクリル系分散剤が、より好ましい例として挙げられる。官能基にアミンを含有する基を有する分散剤は、分子量Mw2000~200000、アミン価5~100mgKOH/gのものが好ましい。また、カルボキシル基を有する分散剤では、分子量Mw2000~200000、酸価1~50mgKOH/gのものが好ましい。
市販の分散剤における好ましい具体例としては、日本ルーブリゾール社製SOLSPERSE(登録商標)(以下同じ)3000、5000、9000、11200、12000、13000、13240、13650、13940、16000、17000、18000、20000、21000、24000SC、24000GR、26000、27000、28000、31845、32000、32500、32550、32600、33000、33500、34750、35100、35200、36600、37500、38500、39000、41000、41090、53095、55000、56000、71000、76500、J180、J200、M387等;SOLPLUS(登録商標)(以下同じ)D510、D520、D530、D540、DP310、K500、L300、L400、R700等;ビックケミー・ジャパン社製Disperbyk(登録商標)(以下同じ)-101、102、103、106、107、108、109、110、111、112、116、130、140、142、145、154、161、162、163、164、165、166、167、168、170、171、174、180、181、182、183、184、185、190、191、192、2000、2001、2009、2020、2025、2050、2070、2095、2096、2150、2151、2152、2155、2163、2164、Anti-Terra(登録商標)(以下同じ)-U、203、204等;BYK(登録商標)(以下同じ)-P104、P104S、P105、P9050、P9051、P9060、P9065、P9080、051、052、053、054、055、057、063、065、066N、067A、077、088、141、220S、300、302、306、307、310、315、320、322、323、325、330、331、333、337、340、345、346、347、348、350、354、355、358N、361N、370、375、377、378、380N、381、392、410、425、430、1752、4510、6919、9076、9077、W909、W935、W940、W961、W966、W969、W972、W980、W985、W995、W996、W9010、Dynwet800、Siclean3700、UV3500、UV3510、UV3570等;エフカアディティブズ社製EFKA(登録商標)(以下同じ)2020、2025、3030、3031、3236、4008、4009、4010、4015、4020、4046、4047、4050、4055、4060、4080、4300、4310、4320、4330、4340、4400、4401、4402、4403、4500、5066、5220、6220、6225、6230、6700、6780、6782、7462、8503等;BASFジャパン社製JONCRYL(登録商標)(以下同じ)67、678、586、611、680、682、690、819、-JDX5050等;大塚化学社製TERPLUS(登録商標)(以下同じ)MD1000、D1180、D1130等;味の素ファインテクノ社製アジスパー(登録商標)(以下同じ)PB-711、PB-821、PB-822等;楠本化成社製ディスパロン(登録商標)(以下同じ)1751N、1831、1850、1860、1934、DA-400N、DA-703-50、DA-325、DA-375、DA-550、DA-705、DA-725、DA-1401、DA-7301、DN-900、NS-5210、NVI-8514L等;東亞合成社製アルフォン(登録商標)(以下同じ)UH-2170、UC-3000、UC-3910、UC-3920、UF-5022、UG-4010、UG-4035、UG-4040、UG-4070、レゼダ(登録商標)(以下同じ)GS-1015、GP-301、GP-301S等;三菱化学社製ダイヤナール(登録商標)(以下同じ)BR-50、BR-52、BR-60、BR-73、BR-80、BR-83、BR-85、BR-87、BR-88、BR-90、BR-96、BR-102、BR-113、BR-116等が挙げられる。
<赤外線吸収微粒子分散液の製造方法>
次に、上述した赤外線吸収微粒子分散液の製造方法について説明する。
まず、粉砕により赤外線吸収微粒子となる粉末、溶媒、必要に応じて、その他の添加剤として分散剤、界面活性剤、カップリング剤などを準備する。続いて、これらを混合しスラリーを形成する。続いて、このスラリーを粉砕処理装置に導入し、粉体を粉砕して赤外線吸収微粒子を形成するとともに溶媒に分散させて、本実施形態の分散液を得る。本実施形態では、赤外線吸収微粒子の結晶子径が20nm~60nmで、分散液の液ヘイズが1.0%以下となるように、粉体を粉砕する。粉砕条件としては、所定の結晶子径および液ヘイズを実現できれば特に限定されないが、例えば、粉砕モードを二段階に分け、第一段階の粉砕モードでは大きな衝撃力で大粒子を多数の小粒子へ粉々に粉砕することを目的とし、第二段階の粉砕モードでは小さな衝撃力で衝撃回数を増やしてシャープな粒度分布に仕上げると良い。
なお、赤外線吸収微粒子の分散処理は、当該微粒子を分散液中において、凝集させることなく均一に分散できる方法であれば特に限定されない。当該方法として、例えば、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、超音波ホモジナイザーなどの装置を用いた粉砕・分散処理方法が挙げられる。その中でも、ビーズ、ボール、オタワサンドといった媒体メディアを用いる、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー等の媒体攪拌ミルによる粉砕・分散処理方法は、所望とする粒径に達する時間が短いことから好ましい。媒体攪拌ミルを用いた粉砕・分散処理によって、赤外線吸収微粒子の分散処理と同時に、赤外線吸収微粒子同士の衝突や媒体メディアの該微粒子への衝突などによる微粒子化も進行し、赤外線吸収微粒子をより微粒子化して分散させることができる。また、シャープな粒度分布に仕上げることを目的として上述の粉砕モードを二段階に分ける手法を適用するならば、第一段階の粉砕モードでは大きいサイズの媒体メディアを用いて衝撃力を大きく設定し、第二段階の粉砕モードでは小さいサイズの媒体メディアを用いて衝撃力を小さく設定するとよい。
また、赤外線吸収微粒子を可塑剤へ分散させる場合であれば、必要に応じて、さらに120℃以下の沸点を有する有機溶媒を添加するとよい。120℃以下の沸点を有する有機溶媒として、具体的にはトルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチル、イソプロピルアルコール、エタノールが挙げられる。沸点が120℃以下で赤外線吸収特性を発揮する微粒子を均一に分散可能なものであれば、任意に選択できる。
<赤外線吸収微粒子分散体>
続いて、上述した赤外線吸収微粒子分散液から形成される赤外線吸収微粒子分散体について説明する。
赤外線吸収微粒子分散体(以下、単に分散体ともいう)は、上述した赤外線吸収微粒子分散液を加工して得られ、赤外線吸収微粒子が例えば樹脂などの固体媒体中に分散した成形体である。分散体は、例えば日射遮蔽用の光学部材として形成される場合、固体媒体に透明樹脂が使用され、厚さ0.1μm~50mmのフィルム、シート、ボード状に構成される。また分散体は、ガラスや樹脂ボード、樹脂シート、樹脂フィルム等の透明基材表面に形成されるフィルターとして構成されてもよい。
例えば赤外線吸収微粒子が樹脂に分散して構成される分散体は、分散液と樹脂とを混合する、もしくは、その混合物の溶媒分を除去し、一旦当該赤外線吸収微粒子が固体媒質に分散された粉末状やペレット状の分散体を作製し、それを樹脂と混合するとよい。例えば、分散液を、アルコール等の有機溶媒や水等の液体媒質と、バインダーとなる樹脂と、所望により界面活性剤等の添加剤と混合し、塗布膜形成用赤外線吸収微粒子分散液を作製し、それを適宜な基材表面に塗布した後、液体媒質を除去したり、バインダーとなる樹脂を硬化させたりすることで、基材表面に分散体を形成することができる。また例えば、分散液と樹脂とを混合し、樹脂の融点付近の温度(100~400℃前後)で溶融混合して成形することで分散体を形成することができる。また例えば、成形した分散体を粉末状もしくはペレット状に加工して所謂マスターバッチを作製し、当該マスターバッチを各方式でフィルム、シート、ボード状に成形してもよい。例えば、押し出し成形法、インフレーション成形法、溶液流延法、キャスティング法等により成形可能である。
分散体の形状や厚さは、使用目的に応じて適宜変更するとよい。また、樹脂に対するフィラー量(すなわち、赤外線吸収微粒子の配合量)は、基材の厚さや必要とされる光学特性、機械特性に応じて可変であるが、一般的に樹脂に対して50質量%以下が好ましい。樹脂に対するフィラー量が50質量%以下であれば、固体状樹脂中での微粒子同士が凝集することを回避できるので、良好な透明性を保つことができる。また、赤外線吸収微粒子の使用量も制御できるのでコスト的にも有利である。
上述したフィルム、シート、ボードのマトリクスとなる樹脂は、特に限定されるものではなく用途に合わせて選択可能である。低コストで透明性が高く汎用性の高い樹脂として、PET樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合体樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂等を使用することができる。また、耐候性を考慮してフッ素樹脂を使用することもできる。
<赤外線吸収微粒子分散体を用いた物品>
上述した赤外線吸収微粒子分散体は、例えば以下の用途で使用することができる。
上述した分散体は、例えば、各種建築物や車両において、可視光線を十分に取り入れながら赤外領域の光を遮蔽し、明るさを維持しつつ室内の温度上昇を抑制することを目的とした窓材等に好適に使用することができる。また、PDP(プラズマディスプレイパネル)に使用され、当該PDPから前方に放射される赤外線を遮蔽するフィルター等に好適に使用することができる。
また、赤外線吸収微粒子は赤外領域に吸収を有するため、赤外線吸収微粒子を含む印刷面へ赤外線レーザーを照射したとき、特定の波長を有する赤外線を吸収する。従って、この赤外線吸収微粒子を含む偽造防止インクを被印刷基材の片面又は両面に印刷して得た偽造防止用印刷物は、特定波長を有する赤外線を照射し、その反射若しくは透過を読み取ることによって、反射量又は透過量の違いから、印刷物の真贋を判定することができる。当該偽造防止用印刷物は、赤外線吸収微粒子分散体の一例である。
また、赤外線吸収微粒子分散液とバインダー成分とを混合してインクを製造し、当該インクを基材上に塗布し、塗布したインクを乾燥させた後、乾燥させたインクを硬化させることにより光熱変換層を形成することができる。当該光熱変換層は、赤外線などの電磁波レーザーの照射により、高い位置の精度をもって所望の箇所のみで発熱させることが可能であり、エレクトロニクス、医療、農業、機械、等の広い範囲に分野において適用可能である。例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子をレーザー転写法で形成する際に用いるドナーシートや、感熱式プリンタ用の感熱紙や熱転写プリンタ用のインクリボンとして好適に用いることができる。当該光熱変換層は赤外線吸収微粒子分散体の一例である。
また、赤外線吸収微粒子を適宜な媒体中に分散させて、当該分散物を繊維の表面および/または内部に含有させることにより、赤外線吸収繊維が得られる。当該構成を有することで、赤外線吸収繊維は、赤外線吸収微粒子の含有により太陽光などからの近赤外線等を効率良く吸収し、保温性に優れた赤外線吸収繊維となり、同時に可視光領域の光は透過させるので意匠性に優れた赤外線吸収繊維となる。その結果、保温性を必要とする防寒用衣料、スポーツ用衣料、ストッキング、カーテン等の繊維製品やその他産業用繊維製品等の種々の用途に使用することができる。当該赤外線吸収繊維は赤外線吸収微粒子分散体の一例である。
また、本発明にかかるフィルム状またはボード状の赤外線吸収微粒子分散体を、農園芸用ハウスの屋根や外壁材等に用いられる資材に応用することができる。そして、可視光を透過して農園芸用ハウス内の植物の光合成に必要な光を確保しながら、それ以外の太陽光に含まれる近赤外光等の光を効率よく吸収することにより、断熱性を備えた農園芸施設用断熱資材として使用することができる。当該農園芸施設用断熱資材は、赤外線吸収微粒子分散体の一例である。
<本実施形態にかかる効果>
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
本実施形態の赤外線吸収微粒子分散液は、結晶子径が20nm~60nmである赤外線吸収微粒子と溶媒とを含み、光路長3mm、全光線透過率70%における液ヘイズが1.0%以下となるように構成されている。このような構成により、分散液における赤外線吸収微粒子の粒度分布を、分散体において光着色現象を引き起こす微細な微粒子の割合が小さく、かつ視認性を低下させる粗大な粒子の割合が小さくなるようなシャープな分布とすることができる。そのため、分散体において耐光着色性および視認性を高い水準で両立することができる。
一般に、分散体におけるヘイズは、粒子の散乱光によるものである。微粒子または凝集微粒子の粒径が1~200nmのとき、波長380nm~780nmにおける可視光領域の光の散乱は、幾何学散乱またはミー散乱よりもレイリー散乱が支配的となる。レイリー散乱領域では、散乱光は粒径の6乗に比例して低減する。本実施形態では、液ヘイズを1.0%以下として、微粒子の粒径範囲を小さくしているので、散乱を低減し、分散体の透明性を高くすることができる。
また、本実施形態では、液ヘイズを1.0%以下としながらも、赤外線吸収微粒子の結晶子径を20nm~60nmとして、微細な微粒子の割合を減少させている。これにより、微細な微粒子による光着色現象を抑制し、分散体の耐光着色性を向上させている。具体的には、可視光透過率が70%前後となるよう赤外線吸収微粒子の添加量を調整して構成した赤外線吸収微粒子分散体に対して、温度60℃相対湿度35%の雰囲気中で、メタルハライドランプにより照度100mW/cmで60分間の光照射を行ったときに、光照射前後における可視光透過率の変化量を4.0%以下に抑えることができ、優れた耐光着色性を実現することができる。
また、分散体の赤外線吸収特性においては、散乱光が粒径の6乗に比例することから、赤外線吸収微粒子の最大粒径と最大粒径を有する粒子の比率が重要となる。この点、本実施形態では、シャープな粒度分布とすることにより、最大粒径を有する粒子の比率が高くしているので、分散体において優れた赤外線吸収特性を実現することができる。
以下、実施例を参照しながら本発明を具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(1)赤外線吸収微粒子分散液の調製
[実施例1]
実施例1では、まず、Cs/W(モル比)=0.33の六方晶セシウムタングステンブロンズ(Cs0.33WO、2.2≦z≦3.0)粉末(住友金属鉱山株式会社製YM-01)20質量%と官能基としてアミンを含有する基を有するアクリル系高分子分散剤(アミン価48mgKOH/g、分解温度250℃のアクリル系分散剤)(以下、「分散剤a」と記載する。)16質量%とメチルイソブチルケトン64質量%とを混合して得られた混合液(スラリー)を、φ0.5mmのZrOビーズと共にガラス瓶に入れ、ペイントシェーカーに装填して3時間粉砕・分散処理した。その後、一度スラリーを取り出して、φ0.2mmのZrOビーズを入れたガラス瓶に詰め替え、再度ペイントシェーカーに装填して6時間粉砕・分散処理した。フィラーの粒度分布が、30%径が25nm、50%径が29nm、80%径が32nm、95%径が35nm、体積平均粒径が31nmに減少した時点で粉砕を終了し、実施例1にかかるCs0.33WO微粒子の分散液を得た。このとき、Cs0.33WO微粒子が赤外線吸収微粒子となる。
なお、赤外線吸収微粒子の体積平均粒径および粒度分布は、周波数解析法で解析する動的光散乱法に基づく粒度分布測定装置(日機装株式会社製UPA―150)により測定した。測定条件として、粒子屈折率は1.81とし、粒子形状は非球形を用いた。また、バックグラウンドはメチルイソブチルケトンで測定し、溶媒屈折率は1.4とした。
[比較例1]
比較例1では、まず、実施例1と同様にスラリーを準備した。続いて、このスラリーをビーズと共に媒体攪拌ミルに投入し、スラリーを循環させて粉砕分散処理を行った。使用した媒体攪拌ミルは横型円筒形のアニュラータイプ(アシザワ株式会社製)であり、ベッセル内壁とローター(回転攪拌部)の材質はZrOとした。また、上記ビーズには、直径0.1mmのYSZ(Yttria-Stabilized Zirconia:イットリア安定化ジルコニア)製のビーズを使用した。ローターの回転速度は13m/秒とし、スラリー流量1kg/分にて粉砕した。また、Cs0.33WO微粒子の滞留を防ぐためにアキュムレイター(ポンプの脈動を吸収する小部屋)は用いず、その代わりに脈動率の小さいスムーズフローダイヤフラムポンプを用いて送液した。また、冷却タンク内でのCs0.33WO微粒子の滞留を防ぐためにタンクに邪魔板を設置し攪拌効率を上げた。
比較例1では、Cs0.33WO微粒子の粒度分布が、30%径が13nm、50%径が16nm、80%径が19nm、95%径が23nm、体積平均粒径が20nmに減少した時点で粉砕を終了し、比較例1の分散液を回収した。
[比較例2]
比較例2では、粉砕装置にはアキュムレイターを設置し、シングルダイヤフラムポンプを用い、冷却タンクには邪魔板を設置せずに粉砕した以外は比較例1と同様に、スラリーを粉砕処理した。そして、Cs0.33WOの粒度分布が、30%径が19nm、50%径が23nm、80%径が30nm、95%径が55nm、体積平均粒径が29nmに減少した時点で、比較例2の分散液を回収した。
(2)赤外線吸収微粒子分散体の作製
続いて、得られた実施例1および比較例1,2の分散液を用いて分散体を作製した。具体的には、各分散液と紫外線硬化樹脂と溶媒のメチルイソブチルケトンとを混合し、厚さ3mmのガラス基板上にバーコーター(井元製作所製IMC-700)で塗布して塗布膜を形成し、この塗布膜から溶媒を蒸発させた後、紫外線照射して塗布膜を硬化させてガラス基板上にコーティング層を形成し、膜厚3μmの赤外線吸収微粒子分散体を得た。このとき、当該赤外線吸収微粒子分散体の可視光透過率が70%前後になるように予め溶媒のメチルイソブチルケトンによる希釈で分散液の濃度を調整した。
(3)評価
得られた各分散液について、分散液中のCs0.33WO微粒子の結晶子径と液ヘイズを以下の方法により測定した。また、作製した各分散体について、全光線透過率、ヘイズ、可視光透過率、日射透過率および耐光着色性を以下の方法により評価した。
(結晶子径)
分散液中の微粒子の結晶子径は、粉末X線回折装置(スペクトリス株式会社PANalytical製X’Pert-PRO/MPD)を用いて粉末X線回折法(θ―2θ法)により測定し、リートベルト法を用いて算出した。
(液ヘイズ)
分散液の液ヘイズは、分散液を全光線透過率が70%となるように溶媒で希釈した後、光路長3mmのヘイズ測定用ガラスセルに封入し、ヘイズメーター(村上色彩技術研究所製、型式:HM-150)を用いてJIS K 7105-1981に基づき測定した。
(全光線透過率およびヘイズ)
分散体の全光線透過率およびヘイズは、ヘイズメーター(村上色彩技術研究所製、型式:HM-150)を用いてJIS K 7105-1981に基づき測定した。
(可視光透過率および日射透過率)
分散体の可視光透過率および日射透過率は、分光光度計(日立製作所株式会社製U-4100)を用い、波長200nm~2600nmの範囲において5nmの間隔で透過率を測定し、JISR3106に従って算出した。
なお、分散液および分散体における光学特性値(液ヘイズ、全光線透過率、ヘイズ、可視光透過率、日射透過率)は、ガラスセルや基材のガラス基板の光学特性値を含む。
(耐光着色性)
分散体の耐光着色性は、分散体に対して、温度60℃相対湿度35%の雰囲気下で、メタルハライドランプによる照度100mW/cmで60分間の光照射を行い、光照射前後における可視光透過率の変化量から評価した。本実施例では、変化量が4.0%以下の場合、優れた耐光着色性を有するものと判断し、変化量が4.0%を超える場合、耐光着色性が劣るものと判断した。
(4)評価結果
評価結果を以下の表1に示す。
Figure 2022034636000002
表1に示すように、実施例1の分散液はCs0.33WO微粒子の結晶子径が30nmであり、液ヘイズが0.4%であった。また、実施例1の分散体は、全光線透過率が72.2%、ヘイズが0.3%、可視光透過率が70.2%、日射透過率が36.9%であった。このことから、実施例1の分散体は、視認性および赤外線吸収特性に優れることが確認された。さらに、可視光透過率の変化量が2.0%であり、分散体に長時間にわたって光を照射しても着色が少なく、耐光着色性にも優れることが確認された。
一方、比較例1の分散液は、Cs0.33WO微粒子の結晶子径が17nm、液ヘイズが0.4%であった。また、比較例1の分散体は、全光線透過率とヘイズが、それぞれ72.0%と0.3%であった。また、可視光透過率と日射透過率が、それぞれ70.0%と36.8%であった。このことから、比較例1の分散体は、視認性および赤外線吸収特性に優れることが確認された。しかし、可視光透過率の変化量が4.2%であり、光照射による着色が顕著で、耐光着色性に劣ることが確認された。
比較例1では、液ヘイズを1.0%以下としたものの、Cs0.33WO微粒子の結晶子径が20nmよりも小さく、光着色現象を引き起こす微細な微粒子の割合が多かったため、所望の耐光着色性を実現できなかったものと考えられる。
また、比較例2の分散液は、Cs0.33WO微粒子の結晶子径が34nm、液ヘイズが1.2%であった。また、比較例2の分散体は、全光線透過率とヘイズが、それぞれ72.0%と1.1%であり、分散体に強い光を照射したときに肉眼で曇って見えることが確認された。つまり、比較例2では視認性が劣ることが確認された。一方、可視光透過率と日射透過率は、それぞれ70.0%と37.9%であり、赤外線吸収特性に優れることが確認された。また、可視光透過率の変化量が2.7%であり、耐光着色性に優れることが確認された。
比較例2では、分散液の液ヘイズが1.2%と1.0%を超えて、赤外線吸収微粒子の粒度分布がシャープではなく、粒径の大きな微粒子の比率が高くなったため、高い視認性を実現できなかったものと考えられる。
以上のように、赤外線吸収微粒子分散液において結晶子径を20nm~60nmとし、かつ液ヘイズを1.0%以下とすることにより、分散体において視認性と耐光着色性とを高い水準で両立できることが確認された。
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様を付記する。
(付記1)
赤外線吸収微粒子と溶媒を含み、光路長3mm、全光線透過率70%における液ヘイズが1.0%以下であり、前記赤外線吸収微粒子の結晶子径が20nm以上60nm以下である、赤外線吸収微粒子分散液。
(付記2)
付記1において、好ましくは、
前記赤外線吸収微粒子が、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0<z/y≦3.0)で表記される赤外線吸収微粒子である。
(付記3)
付記1または2において、好ましくは、
前記赤外線吸収微粒子が、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記される赤外線吸収微粒子である。
(付記4)
付記1~3のいずれかにおいて、好ましくは、
前記赤外線吸収微粒子は、粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積30%粒子径が20nm~30nm、累積50%粒子径が25nm~35nm、累積80%粒子径が27nm~34nm、累積95%粒子径が30nm~37nmである。
(付記5)
付記4において、好ましくは、
前記累積95%粒子径/前記累積30%粒子径の比率が1.50以下である。
(付記6)
付記1~5のいずれかにおいて、好ましくは、
前記溶媒が水、有機溶媒、液状可塑剤、油脂、硬化により高分子化される化合物から選択される少なくとも1つを含む。

Claims (5)

  1. 赤外線吸収微粒子と溶媒を含み、光路長3mm、全光線透過率70%における液ヘイズが1.0%以下であり、前記赤外線吸収微粒子の結晶子径が20nm以上60nm以下である、赤外線吸収微粒子分散液。
  2. 前記赤外線吸収微粒子が、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0<z/y≦3.0)で表記される赤外線吸収微粒子である、請求項1に記載の赤外線吸収微粒子分散液。
  3. 前記赤外線吸収微粒子が、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記される赤外線吸収微粒子である、請求項1に記載の赤外線吸収微粒子分散液。
  4. 前記赤外線吸収微粒子は、粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積30%粒子径が20nm~30nm、累積50%粒子径が25nm~35nm、累積80%粒子径が27nm~34nm、累積95%粒子径が30nm~37nmである、請求項1から3のいずれかに記載の赤外線吸収微粒子分散液。
  5. 前記溶媒が水、有機溶媒、液状可塑剤、油脂、硬化により高分子化される化合物から選択される少なくとも1つを含む、請求項1から4のいずれかに記載の赤外線吸収微粒子分散液。
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