JP2022024814A - 金属板の遅れ破壊特性評価方法、及びプレス部品の製造方法 - Google Patents

金属板の遅れ破壊特性評価方法、及びプレス部品の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】試験の自由度を高め、より実際のプレス部品でのひずみ履歴と残留応力の条件に近づけた条件で遅れ破壊の評価を可能とし、より高品質のプレス部品を提供可能とする。【解決手段】金属板2の遅れ破壊特性を評価する遅れ破壊特性評価方法であって、金属板2を板厚方向の一方に曲げる曲げ加工を行う第1の曲げ工程の後に、1つ前の曲げ加工とは板厚方向逆方向に曲げる曲げ加工を行う第2の曲げ工程を1又は2以上行って試験片を作製し、作製した試験片によって遅れ破壊特性を評価する。【選択図】図2

Description

本発明は、製品形状にプレス成形される金属板の遅れ破壊特性の評価方法、及びそれを用いたプレス部品の製造に関する技術である。
現在、自動車には、軽量化による燃費向上と衝突安全性の向上が求められている。車体の軽量化と衝突時の搭乗者保護を両立する目的で、自動車に用いる金属板として高強度鋼板が使用されている。特に近年では、引張強度980MPa以上の高強度鋼板である超高強度鋼板が車体に適用されてきている。超高強度鋼板を車体に適用する際における課題の一つに、遅れ破壊がある。遅れ破壊は、プレス成形後の残留応力と塑性ひずみ、使用中の環境から侵入する水素に起因した破壊現象である。したがって高張力鋼板の車体への適用のためには、プレス成形条件に応じた遅れ破壊特性の評価が必要である。
自動車に用いるプレス成形用の高張力鋼板に関する従来の評価方法としては、例えば、特許文献1~3に記載の方法がある。
特許文献1には、高張力鋼板をV字形状に曲げ加工した後に更に締め込みによる曲げ応力が負荷された状況で、遅れ破壊の評価をする方法が記載されている。また、特許文献2、3には、高張力鋼板に深絞り、フォーム又はフォームドロー成形を施して圧縮変形後に引張残留応力が負荷された状況について、遅れ破壊の評価をする方法が記載されている。
特許第6389423号公報 特許第6610607号公報 特許第6614197号公報
しかし、従来の評価方法のみでは、実際に起こりうるプレス成形による複雑な加工履歴に応じて生じるひずみ履歴や残留応力を網羅して評価しているとは言えない。
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、試験の自由度を高め、より実際のプレス部品でのひずみ履歴と残留応力の条件に近づけた条件での遅れ破壊の評価を可能とし、より高品質のプレス部品を提供可能とすることを目的としている。
発明者らは、高張力鋼板の遅れ破壊特性を検討する中で、曲げによる変形と、それに続く曲げ戻し(逆曲げを含む)による変形が負荷される条件では、塑性加工による加工硬化の蓄積により、遅れ破壊の危険性が高まることを見出した。このような曲げ-曲げ戻しによる変形は、仮に一回のプレス成形であっても、図1に示すように、金属板2をハット形状部品に形成する際にパンチ肩1が通過した領域(図1(a)参照)や、ドロー成形によって一回~複数回ダイ肩3を通過するような場合(図1(b)参照)などで、発生が想定される。しかし、例えば特許文献1のような評価方法では、単一の曲げ変形の後に曲げ応力を負荷して評価することしかできないため、本発明が対象とするようなプレス成形品の遅れ破壊危険部位については評価が困難であるとの知見を得た。
そして、発明者は、試験片に任意の曲げ-曲げ戻しを負荷して、更に任意の応力を負荷した状態で遅れ破壊評価できるようにすることは、試験の自由度を高めて、より実際の部品での加工履歴と残留応力の条件に近づけるために必要なことであるとの知見から、本発明をなした。
すなわち、課題を解決するために、本発明の一態様は、金属板の遅れ破壊特性を評価する遅れ破壊特性評価方法であって、金属板を板厚方向の一方に曲げる曲げ加工を行う第1の曲げ工程の後に、1つ前の曲げ加工とは板厚方向逆方向に曲げる曲げ加工を行う第2の曲げ工程を1又は2以上行うことで試験片を作製し、作製した試験片によって遅れ破壊特性を評価することを要旨とする。
また、本発明の態様は、金属板をプレス成形でプレス部品に加工するプレス部品の製造方法であって、上記態様に記載の金属板の遅れ破壊特性評価方法による評価に基づき、上記プレス成形する金属板を選定することを要旨とする。
本発明の態様によれば、より実際のプレス部品でのひずみ履歴と残留応力の条件に近づけた試験片を用いた遅れ破壊の評価試験を可能とし、より高品質のプレス部品を提供可能とすることが可能となる。
すなわち、本発明の態様によれば、金属板に対して曲げ-曲げ戻しによるひずみと残留応力が導入された条件下での、遅れ破壊評価が可能となる。その結果、本発明の態様によれば、金属板をより実際の部品に近い環境下で遅れ破壊特性の評価をすることが可能となり、高張力鋼板の自動車車体への適用を容易とすることができる。
曲げ-曲げ戻しによる変形が想定される自動車部品部位の説明図である。 本発明に基づく実施形態に係る遅れ破壊特性評価を行う構成を示す図である。 条件解析部の構成を示す図である。 V曲げ(第1の曲げ工程)-平坦化工程-逆V曲げ(第2の曲げ工程)-平坦化工程による、金属板への加工を説明する説明図である。 複数の曲げ工程における、遅れ破壊危険部位において想定されるひずみ履歴としての累積塑性ひずみの例を示す図である。 遅れ破壊評価用の金属板上面でのひずみの変化を説明する図である。 遅れ破壊評価用の金属板下面のひずみの変化を説明する図である。 遅れ破壊評価用の金属板上面での残留応力の変化を説明する図である。 遅れ破壊評価用の金属板下面での残留応力の変化を説明する図である。
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態の遅れ破壊特性評価方法は、高張力鋼板からなる金属板の遅れ破壊特性を評価するのに好適な方法である。評価対象となる金属板は、プレス成形で目的のプレス部品に加工するための金属板に対する評価である。すなわち、本実施形態は、プレス成形で加工されるプレス部品用の金属板に対する好適な技術である。特に、自動車のセンターピラーやAピラーロアなどの、プレス成形された車体構造部材におけるフランジ端部などとなる金属板における遅れ破壊特性の評価方法に好適な技術である。
評価する金属板は、例えば引張強度が980MPa以上である。
本実施形態の遅れ破壊特性評価方法は、まず、金属板2を板厚方向の一方に曲げる曲げ加工を行う第1の曲げ工程の後に、1つ前の曲げ加工とは板厚方向逆方向に曲げる曲げ加工を行う第2の曲げ工程を1又は2以上行うことで、曲げによる表面ひずみを負荷した試験片を作製する。そして、作製した試験片によって遅れ破壊特性を評価する。その評価の方法は、公知の方法でもよい。
本実施形態の遅れ破壊特性評価方法は、図2に示すように、試験片作製工程10と評価工程11とを有する。また、本実施形態の遅れ破壊特性評価方法は、条件解析部12を備える。
(条件解析部12)
条件解析部12は、試験片作製工程10で行う曲げ-曲げ戻しの一連の工程や、残留応力負荷工程による残留応力を求める処理を行う。
条件解析部12は、図3に示すように、シミュレーション解析部12Aと曲げ加工設計部とを備える。
<シミュレーション解析部12A>
シミュレーション解析部12Aは、金属板2を1又は2以上のプレス工程でプレス成形してプレス成形品に製造する際における、成形開始から成形終了までの過程(図1に示すような過程)にて、試験片の表面に入力される引張と圧縮によるひずみ履歴を求める。同様に、シミュレーション解析部12Aは、成形後の試験片表面の引張と圧縮による残留応力を求める。
本実施形態のシミュレーション解析部12Aの処理は、公知のCAEなどのコンピューターによるシミュレーション解析によって行われる。実際にプレス成形する実験を行って、ひずみ履歴や残留応力を求めても良い。
本実施形態のシミュレーション解析部12Aは、プレス条件取得部12Aa、ひずみ履歴演算部12Ab、及び残留応力演算部12Acを備える。
プレス条件取得部12Aaは、プレス成形してプレス成形品に製造する際における、成形開始から成形終了までのプレス条件を取得する。
ひずみ履歴演算部12Abは、プレス条件取得部12Aaが取得したプレス条件によるシミュレーション解析を行って、成形開始から成形終了までの過程で、試験片表面に順次入力される引張と圧縮によるひずみの履歴(ひずみ履歴)を演算する。
また、残留応力演算部12Acは、プレス条件取得部12Aaが取得したプレス条件によるシミュレーション解析を行って、成形開始から成形終了までの過程で、試験片表面に順次入力される引張と圧縮による、成形終了後に試験片表面に残留する残留応力を演算する。
演算する位置は、曲げによる応力が一番入力される箇所が好ましい。
ここで、試験片の応力状態によっては、最表面の応力が緩和し、最表面から板厚中心部の間の領域で応力が最大になる場合も想定される。このようなことから、本実施形態における試験片の表面とは、必ずしも試験片最表面である必要は無く、試験片最表面から中心部の間のいずれかの領域を指してもよい。
本明細書で、試験片表面とは。試験片の表面に沿った面を表す。曲げ加工時にひずみが一番大きくなる位置での面が好ましい。
<曲げ工程設定部12B>
曲げ工程設定部12Bは、ひずみ履歴演算部12Abが演算した、順次入力される試験片表面でのプレス加工の際の引張と圧縮によるひずみ履歴を再現する、一連の曲げ工程を設定する。
一連の曲げ工程は、金属板2を板厚方向の一方に曲げる曲げ加工を行う第1の曲げ工程と、第1の曲げ工程後に、1つ前の曲げ加工とは板厚方向逆方向に曲げる、1又は2以上第2の曲げ工程とからなる。すなわち、入力される引張と圧縮の履歴(繰り返し)に応じて、曲げ-曲げ戻しの回数を設定し、第1の曲げ工程及び第2の曲げ工程による一連の曲げ工程を設定する。
そして、求めた一連の曲げ工程を行うことで、実部品で想定される曲げ-曲げ戻しによるひずみを負荷した試験片を得ることができる。本実施形態では、曲げ工程として、V字曲げを例示するが、U字曲げなどの他の方法による曲げを用いてもよい。
なお、本実施形態では、「曲げ戻し」とは、板厚方向の一方に曲げた金属板2を、板厚方向の他方に曲げることを指す。
(試験片作製工程10)
試験片作製工程10では、曲げ工程設定部12Bで設定された一連の曲げ工程に基づき、評価する金属板2について曲げ-曲げ戻しによる曲げ加工を施して、実部品で想定される曲げ-曲げ戻しによるひずみを負荷することで、試験片を作製する。
本実施形態の試験片作製工程10では、曲げ戻しをより精度良く行うために、各曲げ戻し(第2の曲げ工程)の前処理として、1つ前の工程で金属板2に付与された曲げを緩和する平坦化工程を行う。例えば、曲げ(第1の曲げ工程)-曲げ戻し(第2の曲げ工程)を金属板2に施す際に、例えば図4に示すように、曲げと曲げ戻しの間に平坦化工程を行う。本実施形態では、全工程の最後にも平坦化工程を行う場合とする。
ここで、第1の曲げ工程及び第2の曲げ工程は、図4(a)、(c)に示すように、V型ダイ4と、金属板2をV型ダイ4のV字状の成形面に押しつけるパンチ5とを用いて行う。
また、平坦化工程は、図4(b)、(d)に示すように、対向する成形面が平坦な一対のダイ6、7を用いて行う。
なお、平坦化工程による処理は、曲げ戻しの途中過程の平坦化とする過程を実現するものである。
一連の曲げ工程においては、第1の曲げ工程によって0.01以上の表面ひずみを金属板2に付与した後、第2の曲げ工程を行うことが好ましい。又は、一連の曲げ工程を行った後の試験片の表面に、0.01以上の表面ひずみが付与されるように、上記一連の曲げ工程を行うことが好ましい。
すなわち、試験片表面にある方向への曲げによる表面ひずみと、続いて逆方向への曲げによる表面ひずみが導入されるような領域(評価する箇所)においては、表面ひずみが0.01を超える場合にはひずみが弾性域を超過して塑性域に達しており、加工硬化による遅れ破壊への影響が懸念される。本発明は、そのような塑性ひずみを受ける領域の評価に用いると効果的である。
また、曲げ工程後に平坦化工程を行う場合は、上記理由により試験片表面にある方向への曲げによる0.01以上の表面ひずみと、続いて逆方向への曲げによる0.01以上の表面ひずみが導入されるような場合について遅れ破壊が懸念される。このため、本実施形態では、そのようなひずみを金属板に負荷する場合に用いると効果的である。更に、逆方向への曲げ工程と平坦化工程を施す場合も、0.01以上の表面ひずみが負荷される場合については、上記理由により遅れ破壊特性が懸念されることから、本発明はそのようなひずみを負荷する場合に用いると効果的である。なお、第1の曲げ工程で0.01以上の表面ひずみが負荷されれば、必ずしも第2の曲げ工程で0.01以上の表面ひずみ負荷する必要は無い。
(評価工程11)
評価工程11は、図2に示すように、試験工程11Aと評価判定工程11Bとを備える。
<試験工程11A>
試験工程11Aは、試験片作製工程10で作製された試験片に対し、実際の遅れ破壊試験を行う工程である。
試験工程11Aは、試験片作製工程10で作製された試験片について、外部的な応力を負荷した状態で拘束して、水素侵入環境下に設置し、その状態での当該試験片の亀裂の発生状況によって金属板の遅れ破壊特性を評価する。
試験工程11Aは、残留応力付加工程11Aaと、水素侵入環境下設置工程11Abとを有する。そして、水素侵入環境下に置かれた試験片のひずみ履歴が入力された領域(評価する箇所)における亀裂の発生状況を評価することで、評価する金属板の遅れ破壊特性を評価する。亀裂発生状況の評価方法自体は、従来の評価方法と同様に評価を行い、例えば、水素侵入環境下で予め設定した以上の亀裂が発生するまでの時間で評価する。
<残留応力付加工程11Aa>
残留応力付加工程11Aaは、条件解析部12で求めた残留応力に基づき外部的な応力を決定し、決定した外部的な応力に対応する曲げや引張等による応力を、試験片に負荷した状態として、当該試験片を拘束する処理を行う。拘束の方法は、公知の処理方法を採用すればよい。
ここで、金属板2の目的のプレス部品に成形後に自動車部品として用いた場合の付加的な荷重が想定される場合は、その分の応力を、試験片に対し増減してもよい。すなわち、目的とするプレス部品に成形後、そのプレス部品を目的の部位に組み込む際に想定される付加的な荷重分に応じて、上記付加する残留応力を補正してもよい。
このようにすることで、任意の曲げ-曲げ戻しによるひずみ履歴が負荷された後に、更に任意の応力を負荷された状態での金属板の遅れ破壊特性を評価することが可能となる。
上記応力を負荷した状態で拘束された試験片の残留応力としては、加工後に拘束なしの状態で存在する残留応力に、拘束による応力負荷を足し合わせた状態になる。当該状態は、シミュレーション解析することによって残留応力を求めることができる。
より実験的に応力値を評価、確認するため、前者の拘束なしの状態での残留応力についてはシミュレーション解析により与えられた値を用いると共に、後者の拘束による応力負荷については拘束時のひずみ変化の値をひずみゲージ等によって測定する方法でも良い。そして、応力の変化分を算出して足し合わせることにより、残留応力を求めることも可能である。このようにすれば拘束により狙いの応力が負荷されているか、確認して実験を行うことが可能である。更にこのようにすれば、前者の試験片の内部的な応力と、後者の外部からの仕事による応力とを、分離して評価することも可能となる。
残留応力としては、好ましくは遅れ破壊が懸念される400MPa以上とすると効果的である。
<水素侵入環境下設置工程11Ab>
水素侵入環境下設置工程11Abでは、例えば、残留応力を付加して拘束した試験片を、水素侵入環境下(水素侵入雰囲気)に設置して、当該試験片の曲げ-曲げ戻しによるひずみ履歴を付加した領域(評価する箇所)の亀裂の発生状況(例えば発生までの時間)によって、金属板の遅れ破壊特性を評価する。試験片の水素侵入環境下への設置は、例えば、塩酸やNHSCN水溶液などの酸液を収容した浴槽内に試験片を浸漬することで行う。
<評価判定工程11B>
本実施形態の評価判定工程11Bでは、例えば、試験工程11Aによる金属板の遅れ破壊特性の評価から遅れ破壊特性を評価する。このとき、試験片作製工程10で行われた第1の曲げ工程及び第2の曲げ工程による一連の曲げ工程の加工履歴に応じてひずみ履歴を求め、そのひずみ履歴から求めた、ひずみを累積した累積ひずみを指標として、遅れ破壊特性を評価する。累積した累積ひずみは、条件解析部12におけるシミュレーション解析で求めればよい。
評価判定工程11Bでは、例えば、試験工程11Aによる金属板の遅れ破壊特性の評価のみから、金属板2を目的のプレス部品に成形した際における、金属板2の遅れ破壊特性を評価してもよい。
(プレス部品の製造)
本実施形態では、上記の金属板2の遅れ破壊特性評価方法による評価によって、目的のプレス部品に要求される遅れ破壊特性を有する金属板2を選定する。
そして、選定した金属板からなる金属板2を用い、プレス成形でプレス部品に加工する。
(効果)
本実施形態によれば、金属板に対して曲げ-曲げ戻しによるひずみと残留応力が導入された条件下での遅れ破壊評価が可能となる。その結果、本実施形態では、高張力鋼板等の金属板をより実際の部品に近い環境下で遅れ破壊特性の評価をすることが可能となり、高張力鋼板からなる自動車車体への適用を容易とすることができる。
(1)すなわち本実施形態は、金属板2の遅れ破壊特性を評価する遅れ破壊特性評価方法であって、金属板2を板厚方向の一方に曲げる曲げ加工を行う第1の曲げ工程の後に、1つ前の曲げ加工とは板厚方向逆方向に曲げる曲げ加工を行う第2の曲げ工程を1又は2以上行うことで試験片を作製し、作製した試験片によって遅れ破壊特性を評価する。
なお、上記一連の曲げ工程によって、試験片に対し曲げによる表面ひずみが負荷される。
この構成によれば、より実際のプレス部品でのひずみ履歴と残留応力の条件に近づけた条件で遅れ破壊の評価を可能とし、より高品質のプレス部品を提供可能とすることが可能となる。すなわち、本実施形態によれば、金属板に対して曲げ-曲げ戻しによるひずみと残留応力が導入された条件下での、遅れ破壊評価が可能となる。
(2)本実施形態では、上記第1の曲げ工程及び第2の曲げ工程による一連の曲げ工程において、上記各第2の曲げ工程の前処理として、1つ前の工程で金属板2に付与された曲げを緩和する平坦化工程を行う。
この構成によれば、曲げ-曲げ戻しの工程を、より精度良く金属板2に実現することが可能となる。
ここで、曲げた金属板2を直接に逆方向へ曲げ加工を行おうとすると、曲げた板の曲げRの頂点を狙うのが難しく金属板2がずれる可能性が大きい。これに対し前処理として平坦化処理を行うことで、同一箇所への曲げ戻しの精度が向上する。
(3)本実施形態では、上記第1の曲げ工程によって0.01以上の表面ひずみを金属板2に付与した後、第2の曲げ工程を行う。
又は、本実施形態では、上記第1の曲げ工程及び第2の曲げ工程による一連の曲げ工程を行った後の試験片の表面に、0.01以上の表面ひずみが付与されるように、上記一連の曲げ工程を行う。
この構成によれば、試験片に対し確実に塑性変形が入るようになる。
(4)本実施形態では、上記第1の曲げ工程及び第2の曲げ工程による一連の曲げ工程の加工履歴に応じて求めた引張と圧縮によるひずみ履歴から求められる、ひずみを累積した累積ひずみを指標として、遅れ破壊特性を評価する。
この構成によれば、ひずみ履歴に応じて遅れ破壊特性を評価可能となる。
(5)本実施形態は、プレス成形でプレス部品に加工される金属板2の評価であり、目的とするプレス部品とするためのプレス成形の成形開始から成形終了までの過程で、金属板2に入力される曲げ・曲げ戻しの加工履歴に応じて生じる、金属板2表面の引張と圧縮によるひずみ履歴を求め、上記求めたひずみ履歴を再現するように、上記第1の曲げ工程、及び第2の曲げ工程を設定して、上記試験片を作製する。
ひずみ履歴は、プレス成形をコンピューターによるシミュレーション解析によって求めればよい。
この構成によれば、金属板をより実際の部品に近い環境下で遅れ破壊特性の評価をすることが可能となり、例えば、高張力鋼板からなるプレス部品の自動車車体への適用を容易とすることができる。
(6)本実施形態では、上記作製した試験片について、外部的な応力を負荷した状態で拘束し、水素侵入環境下に設置することによる当該試験片の亀裂の発生状況によって遅れ破壊特性を評価する。
この構成によれば、プレス部品に成形した後の遅れ破壊特性を評価することが可能となる。
(7)本実施形態は、プレス成形でプレス部品に加工される金属板2の評価であり、目的とするプレス部品とするためのプレス成形による成形後の残留応力を求め、求めた残留応力に基づき、上記外部的な応力を決定する。
この構成によれば、より実際のプレス部品を模した状態で遅れ破壊特性を評価可能となる。
(8)本実施形態では、目的とするプレス部品に成形後、そのプレス部品を目的の部位に組み込む際に想定される付加的な荷重分に応じて、上記残留応力を補正する。
この構成によれば、実際のプレス部品の実際の使用環境を模した状態で遅れ破壊特性を評価可能となる。
(9)本実施形態は、金属板2をプレス成形でプレス部品に加工するプレス部品の製造方法であって、本実施形態の金属板の遅れ破壊特性評価方法による評価に基づき、上記プレス成形する金属板を選定する。
この構成によれば、金属板のプレス部品の適用をより容易とすることができる。
本実施形態に基づく実施例について説明する。
ここで、板厚1.4mmの供試材を対象に実施例を説明する。供試材を構成する鋼板の引張強度は1520MPaとした。
まず初めに供試材を用いてプレス成形品A、Bに成形する場合における、曲げ-曲げ戻しによる塑性加工による遅れ破壊が懸念される箇所を求め、求めた遅れ破壊が懸念される箇所での、成形開始から成形終了までに発生する、ひずみ履歴と最終的な引張残留応力をシミュレーション解析によって計算した。プレス成型品Aとしては、図1の(a)のように、ハット肩での曲げ-曲げ戻しを受ける箇所を想定した。プレス成型品Bとしては、図1の(b)のように、絞り成形等に伴ってブランクがダイ肩3のRを二回通過する箇所を想定した。この際、遅れ破壊の危険性が高い箇所として、加工後に引張応力が負荷されている側の表面を解析の対象とした。
上記のシミュレーション解析による計算によって、プレスの工程と累積塑性ひずみとの関係を求めた。図5がその関係を求めたものである。図5には、引張と圧縮を含めた累積の塑性ひずみを縦軸にとり、各工程で導入された塑性ひずみが引張であるか圧縮であるかを記入した。
次に、各供試材について、端面を板厚に対するクリアランス12%のせん断加工を施して、短冊状の試験片(幅16mm×長さ180mm)とした。
その短冊状の試験片に対して、図4のようなV型ダイ4(金型成形面の曲げ角が90度)の金型を用い、図4に示したような曲げ-平坦化処理-曲げ戻し-平坦化処理によって、ひずみを与えた。また、その場合のひずみ履歴を、シミュレーション計算により算出した。
ここで、曲げ-曲げ戻しに用いるパンチ5の先端部のRとして、5mm、10mm、20mm、30mmの4種類を採用した。パンチ5と金属板2、及び金属板2とV型ダイ4の間のクリアランスが目視で0mmになるまで、ダイ4に対してパンチ5を移動させて曲げ加工を行った。
ここでは、パンチ5の変位を調節することによって、狙いの形状になるまでそれぞれの曲げ加工を行い、曲げ加工後に必要以上の荷重をかけることはしなかった。また、平坦化工程の処理においては、平坦な2つのブロックの間で挟圧することで行った(図4(c)参照)。この場合も、ブロックの変位を調節することにより平坦化の処理を行い、平坦化後に必要以上の荷重をかけることはしなかった。
最終的に引張ひずみが残留する箇所について、各工程でのひずみの履歴をシミュレーション計算により算出した。
その結果を、図6及び図7に示す。図6、図7には、引張と圧縮を含めた累積の塑性ひずみを縦軸にとり、各工程で導入された塑性ひずみが引張であるか圧縮であるかを記入した。
図6に示したのは、遅れ破壊評価用試験片の上面中央(初めのV曲げでパンチ5に接触する箇所)の最表面でのひずみである。図7に示したのは、逆側の下面のひずみである。ひずみの大きさはほぼ同じであるが、引張と圧縮が逆になる。
同様に、累積塑性ひずみに変えて、残留引張応力で求めたのが、図8及び図9である。
ここで、図8に上面の加工後の残留応力を、図9に下面中央の加工後の残留応力を示した。
図6~図9から分かるように、最後の成形によるひずみが圧縮の場合、成形後には引張応力が残留する。逆に最後の成形によるひずみが引張の場合、成形後には圧縮応力が残留する。
ここで、パンチ5のRが5mmφの場合については、曲げ-平坦化後の逆曲げの際に破断したため遅れ破壊評価用の試料が作製できなかったが、それ以外のパンチ5のRの場合には、加工後の試験片を得ることができた。
そして、図5における実部品で想定される加工履歴に対し、図6の曲げ-平坦化-逆曲げ-平坦化によるひずみを比較することで、図7のようにプレス成形品Aに対してはR10のパンチによるV曲げ-平坦化後の評価用試験片下面が評価に適していると考えた。また、プレス成形品Bに対してはR20のパンチによるV曲げ-平坦化-逆V曲げ-平坦化後の評価用試験片上面が評価に適していると考えた。そして、これらの試験片を用いて遅れ破壊評価をすることとした。以下、前者の試験片を遅れ破壊評価用試験片A、後者を遅れ破壊評価用試験片Bと呼称する。
表1に想定されるプレス成形品A、プレス成形品Bについて加工後の想定残留応力をシミュレーション計算により示した。更に表1には、R10のパンチによるV曲げ-平坦化により作成された遅れ破壊評価用試験片A、並びにR20のパンチによるV曲げ-平坦化-逆V曲げ-平坦化により作成された遅れ破壊評価用試験片Bの残留応力のシミュレーションによる計算値を示した。
Figure 2022024814000002
次に、遅れ破壊評価用試験片A、遅れ破壊評価用試験片Bを四点曲げか引張により試験片を拘束し、表1の実部品とV曲げ試験片の応力が一致するように荷重を付加した。負荷される荷重は、図8のようなシミュレーションによる計算値の応力に対応するひずみに対し、ひずみゲージにより測定された変形量の分だけ弾性的にひずみを増加させた場合の応力を加算することで算出した。遅れ破壊評価用試験片A、遅れ破壊評価用試験片Bについて、「拘束なし」、「四点曲げによる荷重あり」の2つの条件で、pHが6のチオシアン酸溶液に浸漬し、96時間後の遅れ破壊による亀裂発生の有無により遅れ破壊特性の評価を行った。
表2は、遅れ破壊評価用試験片A、Bの拘束なしでの残留応力、並びに四点曲げ、引張荷重状態で拘束した場合の残留応力、そして遅れ破壊評価での亀裂の有無を示したものである。
Figure 2022024814000003
この表2から分かるように、高張力鋼板材料に対し、想定される任意の曲げ-逆曲げからなるひずみ履歴、残留応力を有する場合の遅れ破壊評価をすることが可能であることが分かった。
2 金属板
10 試験片作製工程
11 評価工程
11A 試験工程
11Aa 残留応力付加工程
11Ab 水素侵入環境下設置工程
11B 評価判定工程
12 条件解析部
12A シミュレーション解析部
12Aa プレス条件取得部
12Ab ひずみ履歴演算部
12Ac 残留応力演算部
12B 曲げ工程設定部

Claims (11)

  1. 金属板の遅れ破壊特性を評価する遅れ破壊特性評価方法であって、
    金属板を板厚方向の一方に曲げる曲げ加工を行う第1の曲げ工程の後に、1つ前の曲げ加工とは板厚方向逆方向に曲げる曲げ加工を行う第2の曲げ工程を1又は2以上行うことで試験片を作製し、
    作製した試験片によって遅れ破壊特性を評価することを特徴とする金属板の遅れ破壊特性評価方法。
  2. 上記第1の曲げ工程及び第2の曲げ工程による一連の曲げ工程において、上記各第2の曲げ工程の前処理として、1つ前の工程で金属板に付与された曲げを緩和する平坦化工程を行うことを特徴とする請求項1に記載した金属板の遅れ破壊特性評価方法。
  3. 上記第1の曲げ工程によって0.01以上の表面ひずみを金属板に付与した後、上記第2の曲げ工程を行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した金属板の遅れ破壊特性評価方法。
  4. 上記第1の曲げ工程及び第2の曲げ工程による一連の曲げ工程を行った後の試験片の表面に、0.01以上の表面ひずみが付与されるように、上記一連の曲げ工程を行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した金属板の遅れ破壊特性評価方法。
  5. 上記第1の曲げ工程及び第2の曲げ工程による一連の曲げ工程の加工履歴に応じて求めた引張と圧縮によるひずみ履歴から求められる、ひずみを累積した累積ひずみを指標として、遅れ破壊特性を評価することを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載した金属板の遅れ破壊特性評価方法。
  6. プレス成形でプレス部品に加工される金属板の評価であり、
    目的とするプレス部品とするためのプレス成形の成形開始から成形終了までの過程で、金属板に入力される曲げ・曲げ戻しの加工履歴に応じて生じる、金属板表面の引張と圧縮によるひずみ履歴を求め、
    上記求めたひずみ履歴を再現するように、上記第1の曲げ工程及び第2の曲げ工程を設定して、上記試験片を作製することを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか1項に記載した金属板の遅れ破壊特性評価方法。
  7. 上記作製した試験片を、外部的な応力を負荷した状態で拘束して、水素侵入環境下に設置することによる当該試験片の亀裂の発生状況によって遅れ破壊特性を評価する、ことを特徴とする請求項1~請求項6のいずれか1項に記載した金属板の遅れ破壊特性評価方法。
  8. プレス成形でプレス部品に加工される金属板の評価であり、
    目的とするプレス部品とするためのプレス成形による成形後の残留応力を求め、求めた残留応力に基づき、上記外部的な応力を決定することを特徴とする請求項7に記載した金属板の遅れ破壊特性評価方法。
  9. 目的とするプレス部品に成形後、そのプレス部品を目的の部位に組み込む際に想定される付加的な荷重分に応じて、上記残留応力を補正することを特徴とする請求項8に記載した金属板の遅れ破壊特性評価方法。
  10. 上記金属板の引張強度が980MPa以上であることを特徴とする請求項1~請求項9のいずれか1項に記載した金属板の遅れ破壊特性評価方法。
  11. 金属板をプレス成形でプレス部品に加工するプレス部品の製造方法であって、
    請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の金属板の遅れ破壊特性評価方法による評価に基づき、上記プレス成形する金属板を選定することを特徴とするプレス部品の製造方法。
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