JP2022023020A - 血中ウロモジュリン濃度を測定することによる妊娠高血圧症候群及びhellp症候群を含む産科的緊急症に罹患する蓋然性を予測する方法 - Google Patents

血中ウロモジュリン濃度を測定することによる妊娠高血圧症候群及びhellp症候群を含む産科的緊急症に罹患する蓋然性を予測する方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 血中ウロモジュリン濃度を測定することにより、妊娠高血圧症候群及びHELLP症候群を含む産科的緊急症への罹患リスクの予測方法、妊娠継続可否判定方法、及び分娩時期推定方法を提供することを目的とする。【解決手段】 抗ウロモジュリンモノクローナル抗体(第1次抗体)で固相のウェルをコートし、前記第1次抗体の標的タンパク質を含む試料を加えて室温で静置し、その後、前記固相のウェルを洗浄液で洗浄し、希釈した試料を前記ウェルに添加し、所望の酵素で標識した前記第1次抗体とは異なる前記モノクローナル抗体(第2次抗体)を加え、前記ウェルを洗浄液で洗浄し、発色液を添加して発色させ、停止液を加えて発色を停止させる、その後吸光度を測定し、得られた前記検体中のウロモジュリン濃度の経時変化を確認する妊娠高血圧症候群及びHELLP症候群を含む産科的緊急症の罹患リスクを評価する方法等を提供する。【選択図】 図5

Description

本発明は、血中ウロモジュリン濃度を測定することにより、妊娠高血圧症候群及びその他の産科的緊急症に罹患する蓋然性を予測する方法、妊婦の妊娠継続の可否を判定する妊娠継続可否判定方法、及び分娩時期推定方法に関する。
妊娠中に罹患していると、母体と胎児に種々の問題が発生する蓋然性(以下、「リスク」ということがある。)が高まる疾病が多数知られている。こうした疾病としては、例えば、(1)妊娠とは直接関連のないが、妊娠中に罹患して発症する疾病、(2)妊娠前から罹患している疾病(既存疾患)、生活習慣や嗜好品等が挙げられる。上記(1)に該当するものには、高熱を発する疾病、感染症、血栓症等を挙げることができ、上記(2)に該当するものには、糖尿病、高血圧症、慢性腎臓病や喫煙習慣等が知られている。
妊娠中に起こり得る合併症の中で比較的頻度の高いものとして、妊娠中に血圧が上昇する妊娠高血圧症候群が知られている。上記妊娠高血圧症候群は、過去には、「妊娠中毒症」と呼ばれていたことがある。約5%の妊婦で発生すると言われている妊娠高血圧症候群は、病状によっては妊娠の継続が困難となることもある。
母体が妊娠高血圧症候群を発症すると、胎児の発育不全や機能不全、羊水過少、母体の腎機能障害や痙攣発作等が起こることが知られている。ここで、上記妊娠高血圧症候群(Hypertensive Disorders of Pregnancy、以下、「HDP」と略すことがある。)には、妊娠高血圧(Gestational Hypertension、以下、「GE」と略すことがある。)、妊娠高血圧腎症(Preeclampsia、以下、「PE」と略すことがある。)、及び加重型妊娠高血圧腎症(Superimposed Preeclampsia、以下、「S-PE」と略すことがある。)が含まれる。
上記HDPは、上記のように妊婦の約20人に1人が発症し、その頻度は決して低くない。妊婦健診が普及したことにより、HDPが直接の原因となる死亡数は戦後激減したが、合併症によって重症化する例はまだ多く、とりわけ初産婦の高齢化に起因するHDPの増加が危惧されている。また、HDPのハイリスク群とされる、高血圧合併妊娠は妊娠年齢の上昇に伴って増加する傾向にある。慢性腎臓病や糖尿病合併妊娠でもHDPの発症率が高くなることが知られている。
このため、妊娠前から糖尿病、高血圧症、慢性腎臓病等に罹患している場合、肥満、高年齢での妊娠(40歳以上)、家族に高血圧患者がいる場合、多胎妊娠の場合、初産婦、以前にHDPに罹患したことがある妊婦については、HDPを発症するリスクが上がるため、注意が必要であると言われている。
妊娠34週未満で高血圧を発症すると(早発型)、重症化しやすく、蛋白尿・腎機能障害や痙攣発作(子癇)等が起こることがある。また、肝機能障害に溶血と血小板減少とを伴うHELLP症候群につながることがある。重症例では胎児発育不全、胎児機能不全や常位胎盤早期剥離、最重症例では胎児死亡等、母子共に大変危険な状態となることがある。
また、HDP及び産科的緊急症を発症し、妊娠満期未満で生まれた場合、低出生体重児となる可能性が高くなる。ここで、「産科的緊急症」とは、周産期に起きる緊急事態を包括した症状をいいHDP、HELLP症候群、常位胎盤早期剥離等を含むほか、多胎妊娠等を要因とした前期破水、切迫早産及び、それに続く緊急分娩を含む、離臨床現場で使用されている用語である。
周産期医療の発達により、多少の低出生体重児のその後の発育が問題となることはなくなった。しかし、長期的に見れば、種々の問題が起こることが知られている。例えば、低出生体重児は中年以降のメタボリックシンドロームの発症リスクが高いことなどが知られている。これは、在胎中に母体のHDPに伴う酸化ストレス等によるエピジェネティクス(遺伝子の後天的書き換え)の関与が指摘されている。
以上のように、妊娠中の高血圧症は、母体に対しても、また胎児に対しても悪い影響を与える疾患である。そして、妊娠中に高血圧症を呈した症例は、後に高血圧症になりやすいという指摘もある。具体的には、母体が加齢後に高血圧を発症する割合が70%(通常の約4~8倍)と高くなること、虚血性心疾患の発症率が通常の2~7倍となること、また、脳血管障害の発生率が通常の3~5倍となること、そして腎疾患の罹患率が通常の4.5~17倍と高くなることが知られている。したがって、妊娠中の血圧推移は十分に把握し管理する必要があるといわれている。
上述したように、HDPは発症頻度が低いとは言えない疾病である。この病状を把握するためには、soluble Fms-like tyrosine kinase-1(sFlt-1; soluble vascular endothelial growth factor receptor 1と同一物質)及びplacenta growth factor(PlGF)の血中濃度の測定が有用であることが報告されている(非特許文献1及び2参照、以下、「従来技術1」という)。
また、HDPでは血圧が上昇するだけでなく、尿蛋白の出現及び腎機能の悪化を認めることがある。妊娠中に尿蛋白が出現しても、ほとんどの場合には、出産又は妊娠終了から3か月程度で尿蛋白は消失し、腎機能も回復する。しかし、重症例では尿蛋白が持続したり、腎機能が十分に回復せず、慢性腎臓病と呼ばれる状態に移行したりすることがあることが知られている。現在、日本に約34万人いる慢性腎不全の透析患者のうち、少なくとも1,500人程度がHDPの後遺症によるとされている。すなわち、HDPは腎機能と関りが深いことが知られている。
近年の遺伝子解析技術の進歩により、Genome wide association study が行われるようになると、将来的な腎機能の悪化に寄与する候補遺伝子としてウロモジュリン遺伝子のプロモーター部位の一塩基多型が最も集積していることが次々報告されるようになった(非特許文献3及び4参照)。これらの報告によって、遺伝学的にも腎機能保持においてウロモジュリンが重要な蛋白質であることが示唆された。
ウロモジュリンは、1950年にウイルス学者であるTammとHorsfallとが、ウイルスによる血球凝集を抑制する蛋白質として尿中から発見し、Tamm-Horsfall proteinと命名された蛋白質(非特許文献5参照)と、1985年に妊婦の尿から発見されuromodulin(ウロモジュリン)と命名された蛋白質(非特許文献6参照)とが、1987年に同一の蛋白質であることが明らかにされ(非特許文献7参照)、現在「ウロモジュリン」として名称統一されたタンパクである。
ウロモジュリンは腎臓のみに特異的に発現するが、腎臓の中でも尿細管の太いヘンレ係蹄上行脚から遠位尿細管近位部のみに発現し、そのほぼ全量が尿中に排泄されること、一方で、血中にもわずかに存在していることが知られていた。これは、上記尿細管細胞の基底膜側に、ごくわずかに発現したウロモジュリンが何らかの機序で血中に移行したものと考えられており、そのメカニズムや血中に存在するウロモジュリンの臨床的意義については不明であった。
特開2018-185320号公報
Levine RJ, et al., N Engl J Med. 350:672-683, 2004 Zeisler H, et al., N Engl J Med. 374:13-22, 2016 Kottgen A, et al., Nat Genet, 41:712-717, 2009 Gorski M, et al., Kidney Int., 87:1017-1029, 2015 Tamm I, et al. Proc Soc Exp Biol Med. 74:106-108, 1950 Muchmore AV, et al., Science 229:479-481, 1985 Pennica D, et al., Science 236:83-88, 1987 Matsuo S, et al., Am J Kidney Dis 53:982-992, 2009 Horio M, et al., Am J Kidney Dis 61:197-203, 2013 Scherberich JE, et al., Nephrol Dial Transplant. 33:284-295, 2013
HDPについては様々な研究が進められているが、発症原因は十分には解明されていない。最近の研究では、胎盤形成不全や胎盤機能維持に問題が生じることで、胎児に酸素や栄養の補給が充分になされないことに起因して胎盤で様々な物質が異常に作られ、全身の血管に作用して病気を惹起するのではないかと言われている。
そして、発症原因が十分に解明されていないため、根本的な治療法がないという問題がある。HDPと診断され、病状次第では管理入院を要することとなる。入院による安静と母体と胎児の十分なモニタリングが中心となるが、痙攣予防薬、子宮収縮抑制薬や降圧薬が処方されることがある。降圧治療に際して、急激な降圧は胎児の状態を悪化させることがあるため、慎重な使用が求められる。病状が深刻と考えられる場合には、妊娠の終了が唯一の対応方法となる。通常、出産後は母体の症状は急速に改善される。一方で、重症例の中には、出産後も高血圧や蛋白尿が持続することがあり継続的な治療が必要となる。
この病気に罹患するかどうかの早期の予測、病気の予防について、様々な方法が試みられてきたが、未だ確立されたものはなく、かかりつけの医師の下で適切な妊婦健診を受けることが最も重要となる。
従来技術1は、HDPの病状を把握するという点では優れた技術である。日本では、2020年に保険収載されたが、血中のsFlt-1及びPlGF濃度が測定される頻度は極めて低いという問題がある。
腎機能は、「血液が腎臓を通過した際に、その血液中に含まれるある物質の全てが腎臓糸球体で濾過され、その後の尿路(尿細管)での再吸収を受けることなく、また分泌もされず、尿中に完全に排泄されうる、物質の排泄能力の大きさ(以下、「クリアランス」という。)」と生理学的に定義されている。また、糸球体濾過量(Glomerular Filtration Rate、以下、「GFR」と略する)は「腎臓の糸球体で血液から1分間に濾過される液量」と定義され、健常成人では約100 mL/分/1.73 m2とされている。
実臨床における患者の腎機能は、推算GFR(estimated GFR、以下、「eGFR」と略する)の測定値に基づいて評価され治療が行われている。腎機能を評価する方法としては、イヌリン・クリアランス法、より簡便なクレアチニン・クリアランス法、コッククロフト・ゴールト法、クレアチニン換算eGFR式(非特許文献8参照)等がある。また、クレアチニンと異なり、体格・筋肉量の影響を受けずに、より早期の腎機能低下を検出できるシスタチンCから換算したeGFR式が提案されている(非特許文献9参照)。
イヌリン・クリアランス法は、イヌリンを静脈内に持続点滴し、血中イヌリン濃度および尿中イヌリン濃度を基にGFRを算出する方法であり、正確なGFRが算出できるが患者への負担が大きく操作が煩雑であるという問題点がある。
イヌリン・クリアランス法よりも簡便に測定ができるクレアチニン・クリアランス法(2時間法・24時間法)には、得られる数値はイヌリン・クリアランス値(真の腎機能)よりも20~30%高く、腎機能を過大評価することになるという問題点がある。
コッククロフト・ゴールト式では、日本人の場合、得られた結果の誤差が大きいという問題がある。eGFRを用いる方法では、日本人のために作られた計算式によって算出されるが、正確性は実測GFRの±30%の範囲に77%の症例が含まれる程度である。また、標準体型から離れると誤差が大きくなるという問題点がある。
血清クレアチニン値は、測定値がGFRに相関性を示すため、腎機能検査の指標として使用されているが、それ自体は腎機能や腎臓組織の状態を表すわけではないという問題がある。また、血中濃度の上昇が腎機能障害の進行よりもかなり遅れるため、早期の腎機能障害を検出することができないという問題点がある。さらに、血清クレアチニン値は採血された者の体格・筋肉量・体液量の影響を受け、1割程度の数値変動を容易に来すため、これから算出されたeGFR値は5~10ml/分/1.73m2程度の誤差や変動を来しやすいという問題がある。さらに、妊娠中は母体の体液量増加により、クレアチニン測定によって腎機能の評価を行うことができないという問題がある。
血清シスタチンC値は、腎機能障害の早期診断に有用であるが、測定頻度が低く殆どの場合、前値の評価がなされていないため、血清シスタチンC値の上昇を把握できないという問題があった。
上述したように、HDP及びHELLP症候群の患者の発生を防ぐこと、及び患者を重症化させないようにする方法論の確立についての強い社会的要請はあったため、実際的な測定方法の確立が長く望まれていた。
一方で、こうした測定法の確立には、患者に対する負荷、測定時の操作の簡便性、測定精度と再現性等の条件を検討する必要がある。具体的には、測定対象となる標的物質は、患者に対する負担を増加させることなく検出が可能であること、患者の腎機能をよく反映することといった条件を満たすものでなければならない。
また、妊娠継続の可否を判定できる指標がないため、母体及び/胎児の安全を十分に図ることができないという問題があった。さらに、分娩時期を高い精度で推定できる方法もなかったため、計画分娩の準備をしてはいても、スムーズに分娩に入れないという問題があった。
以上より、妊娠継続の可否を判定できる指標に対する強い社会的要請があった。また、分娩時期を高い精度で推定できる方法についての強い社会的要請があった。
本発明の発明者らは、以上のような状況の下で鋭意研究を進め、妊婦健診の際に採取する検体である血液中から検出が可能で、保存血中でも安定である、ウロモジュリンに着目して、本発明を完成したものである。すなわち、本発明は、従来存在しなかった、HDPへ罹患するリスクの評価、妊娠継続の可否の判定、及び分娩時期の推定に利用できる方法を提供することを目的とする。
ここで、前記妊娠高血圧症候群(HDP)には、妊娠高血圧(GH)、妊娠高血圧腎症(PE)、及び加重型妊娠高血圧腎症(S-PE)等が含まれる。上記のように、HDPは、腎機能と関りが深い。
本発明の一態様は、定期的に採取した検体中のウロモジュリン濃度を酵素免疫法によって測定し、前記検体中のウロモジュリン濃度が低下する際の勾配が所定の値以上となるか、又は前記検体中のウロモジュリン濃度が所定の値以下となるかを指標として、HDPを含む産科的緊急症への罹患リスクを評価する、罹患リスクの評価方法である。
前記検体は、血液であることが好ましく、前記酵素免疫法は、2つの異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体を使用するものであることが好ましいが、必ずしもモノクローナル抗体だけに限定はされない。また、前記妊婦は、健常な妊婦及び妊娠高血圧症候群に罹患している妊婦を含む、ことが好ましく、前記HDPは、GE、PE、及びS-PEからなる群から選ばれるいずれかの疾患であることが好ましい。
本発明の別の態様は、定期的に採取した検体中のウロモジュリン濃度を酵素免疫法によって測定し、前記検体中のウロモジュリン濃度が低下する際の勾配が所定の値以上となるか、又は前記検体中のウロモジュリン濃度が所定の値以下となるかを指標として、妊婦の妊娠継続の可否を判定する妊娠継続判定方法である。さらに、ウロモジュリン濃度の推移を指標として分娩時期を推定する方法である。
本発明のHDPへの罹患リスクの評価方法によれば、妊婦からの検体中のウロモジュリン濃度を測定することによって、母体及び胎児双方に対する罹患リスクを低下させることができる。また、本発明の上記酵素免疫法で測定した検体中のウロモジュリン濃度の変化に基づいて、妊娠継続の可否と分娩時期を個別に判定することができる。また、この濃度変化によって、妊娠継続ができないことを速やかに認知し、計画分娩に移行することができ、母体及び/又は胎児の安全を図ることができる。
図1は、ヒトウロモジュリンのドメイン構造(A)、及びヒト腎臓cDNAライブラリーよりヒト全長ウロモジュリン遺伝子をクローニング後にサブクローニングし発現ベクターに組み込んだ模式図(B)である。(B)で作製した発現ベクターを用いて、樹立したモノクローナル抗体のエピトープ検索を行った。
図2は、得られたモノクローナル抗体がウロモジュリンを認識することをウェスタン・ブロッティングで示した図である。各ブロット図は3レーン分のサンプルを電気泳動しており、左から遺伝子導入をしなかったHeLa細胞の細胞溶解液、中央は全長ウロモジュリン(タグ蛋白付与なし)ベクターを遺伝子導入して得られた細胞溶解液、右はN861-FLAGベクターを遺伝子導入して得られた細胞溶解液である。図中のx 10,000もしくはx 1,000はモノクローナル抗体の希釈率を示している。
図3は、ELISAで使用する2種のモノクローナル抗体の抗原エピトープをウェスタン・ブロッティングで示した図である。下記の遺伝子を組み込んだベクターを、HeLa細胞に遺伝子導入し、発現させた蛋白質とモノクローナル抗体との結合性を確認した。(A)は、遺伝子導入なし(レーン1)、GFP(レーン2)、N162-GFP(レーン3)、N201-GFP(レーン4)及びN222-GFP(レーン5)をHeLa細胞に遺伝子導入して得られた細胞溶解液を電気泳動し(10%アクリルアミドゲル使用、120V、60分で分離)、抗GFP抗体又は抗ウロモジュリン抗体(3-5)を一次抗体として使用してウェスタン・ブロッティングで抗原エピトープを明らかにしたものである。
(B)は、遺伝子導入なし(レーン1)、FLAG(レーン2)、N261-FLAG(レーン3)、N321-FLAG(レーン4)及びN381-FLAG(レーン5)をHeLa細胞に遺伝子導入して得られた細胞溶解液を電気泳動し(10%アクリルアミドゲル使用、120V、60分で分離)、抗FLAG抗体又は抗ウロモジュリン抗体(29-9)を一次抗体として使用してウェスタン・ブロッティングで抗原エピトープを明らかにしたものである。
図4は、本発明のキットの検量線の一例を示す図である。 図5は、図5は、Euroimmun社のELISAキットを使用したときのウロモジュリンとeGFRとの相関関係を示すグラフ(A)、腎不全の各ステージにおけるウロモジュリンの値を示すグラフ(B)である。 図6は、血中ウロモジュリンの安定性を検討した結果を示す図である。
図7は、血中ウロモジュリン濃度と、クレアチニンに基づくeGFR(eGFR-cre)(A)、シスタチンCに基づくeGFR(eGFR-cys)(B)との相関関係を、健常人、非慢性腎臓病及び慢性腎臓病患者から採取した血液を用いて測定した結果を示すグラフである。 図8は、(A)正常満期産群、及び(B)産科的緊急症のため緊急帝王切開もしくは分娩誘発にて出産となった群の間で、血中ウロモジュリン濃度に著明(有意)な濃度差があることを示すグラフである( < 0.01)。
図9は、正常満期産の場合の血中ウロモジュリンの濃度のプロファイルを示すグラフ(正常分娩症例(A1))である。 図10は、正常満期産の場合の血中ウロモジュリンの濃度のプロファイルを示すグラフ(正常分娩症例(A2))である。 図11は、正常満期産の場合の血中ウロモジュリンの濃度のプロファイルを示すグラフ(正常分娩症例(A3))である。
図12は、HDPを発症し、分娩誘発により出産した場合の血中ウロモジュリンの濃度のプロファイルを示すグラフである(妊娠高血圧症候群症例(B1))。 図13は、HDPを発症し、分娩誘発により出産した場合の血中ウロモジュリンの濃度のプロファイルを示すグラフである(妊娠高血圧症候群症例(B2))。 図14は、HDPを発症し、吸引分娩により出産した場合の血中ウロモジュリンの濃度のプロファイルを示すグラフである(妊娠高血圧症候群症例(B3))。
図15は、慢性糸球体腎炎に対してステロイド治療により完全寛解中に双子を妊娠し出産した場合の血中ウロモジュリンの濃度のプロファイルを示すグラフである(二絨毛膜双胎(以下、「DD双胎」ということがある。)症例(B4))。 図16は、不妊治療(排卵誘発剤+タイミング指導)にて、DD双胎で妊娠し、出産した場合の血中ウロモジュリンの濃度のプロファイルを示すグラフである(二絨毛膜双胎症例(B5))。
本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の評価方法に使用する酵素免疫法は、BioVendor社製のキット、Euroimmun社製のキット等その他の市販のキットを用いて測定してもよく、後述する抗体のうち、異なるエピトープを認識する所望の2つの抗体を選択して使用し、下記のようなキットを作製して測定してもよい。こうしたキットを使用することによって、患者から採取した血液中のウロモジュリンの量を、高感度かつ再現性良く測定することができる。
Figure 2022023020000002
ここで、前記検体は血液であることが、妊婦健診の際等に採取された血液を使用することができること、改めて検体を採取する必要がなく、妊婦の負荷の軽減を図れること、及び血液中におけるウロモジュリンの安定性の高さの点から好ましい。
図1(A)にヒトウロモジュリンの構造を模式的に示す。ウロモジュリンは、シグナルペプチド部分(~23まで)、上皮細胞増殖因子様ドメイン(31~148まで;I、II及びIIIと表記)、システインドメイン(198~287;D8Cと表記)、卵透明体ドメイン(334~585;ZP_N及びZP_Cと表記)とを有し、上記IIに2本、D8Cに2本、ZP_N及びZP_Cに各1本、及びD8CとZP_Nとの間に1本、糖鎖を有している。本発明に至った研究では前記ウロモジュリンを認識する抗体はモノクローナル抗体を使用したが、特にエピトープと特定する必要はない。また、ポリクローナル抗体でも構わない。その理由として、上記検体中のウロモジュリン濃度は比較的高く、高い検出感度は必要がないからである。
血中ウロモジュリン濃度測定のための酵素免疫法に使用する、第1次抗体(固相化抗体)と第2次抗体(標識抗体)は、異なるエピトープを認識するものとすることが、アッセイの感度及び精度の面から好ましい。例えば、前記第1次抗体を前記配列表の配列番号2で表されるエピトープを認識する抗体とし、前記第2次抗体を配列表の配列番号3で表されるエピトープを認識する抗体というようにすることができる。
GFTGDGLTCVDLD(配列番号2)
GSFSCVCPEGFRLSPGLGCT(配列番号3)
これらの配列を含む抗体は、上記配列を有する蛋白抗原で哺乳動物を免疫することによって得ることができる。こうした哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ウサギ等を挙げることができる、特に限定されない。
マウスを用いる場合を例に挙げて説明する。例えば、約5週齢~7週齢のマウスに、所望の量のウロモジュリンを生理食塩水で所望の量に希釈した溶液を調製し、アジュバントとともに投与する。具体的には、約5~150μgのウロモジュリンを、約0.05~0.2 mLの生理食塩水で希釈してマウス1匹当たりの抗原溶液として調製し、この抗原溶液に、等量のアジュバント、例えば、フロイントのアジュバント等を加えて乳化させ、この混合溶液をマウスの背部皮下に投与する。マウスの体内における抗体の産生量を増加させるために、適当な間隔を空けて投与を所望の回数繰り返し、免疫感作を行う。例えば、2~3週間おきに6~10回免疫を繰り返し、ブースターをかけるようにしてもよい。
上記のように免疫したマウスから脾臓を摘出して脾臓細胞を集め、所望のミエローマ細胞と所望の割合で混合し、ハイブリドーマを調製する。上記ミエローマとして、例えば、P3U1等を使用することができる。例えば、脾臓細胞とミエローマ細胞の割合が3:1~10:1の範囲となるように混合し、タッピング後に、例えば、所望量のPEG(ポリエチレングリコール)を混合しながら添加し、ハイブリドーマを得ることができる。
得られたハイブリドーマを、37℃、5%CO2インキュベーター中で7日間~14日間培養し、ELISA法で抗体産生能をスクリーニングすることができる。例えば、抗ウロモジュリン抗体を用いてスクリーニングを行うことにより、抗ウロモジュリン陽性抗体産生ハイブリドーマ(以下、「陽性ハイブリドーマ」ということがある。)をスクリーニングすることができる。得られた上記陽性ハイブリドーマを0.5個/ウェル~5個/ウェルまでの適当な数となるように、例えば、96ウェルマイクロプレートに播種し、所望の数のフィーダー細胞を加えてコロニーを形成させることにより、陽性反応を示すコロニーを選択することができる。フィーダー細胞の数は、5×105個/ウェル~2×106個/ウェルとすることができる。
ELISA法で陽性反応を示し、かつ細胞の状態が良好なハイブリドーマを得ることにより、樹立株とすることができる。得られた樹立株を所望の数でヌードマウスの腹腔内に投与し、腹水化法により、抗ヒトウロモジュリンモノクローナル抗体を得ることができる。ヌードマウスの腹水を集めて、例えば、プロテインカラムで精製し、目的の抗体を得ることができる。また、無血清培地でハイブリドーマを培養し、培養液から目的の抗体を精製することもできる。
次いで、得られた抗体を精製し、その後結合性を確認する。
例えば、所望量の抗体を取って水で希釈し、2-メルカプトエタノール含有もしくは日含有のSDSサンプルバッファーのいずれかを等量加えて加熱し、変性・還元条件下、又は変性・非還元条件下のいずれかで処理した抗体サンプル溶液を調製することができる。加熱は、92~98℃にて5~10分間行うことができる。
以上のように変性させた抗体サンプル溶液を、所望の濃度のアクリルアミドを含むゲルビーズを用いた電気泳動に供し、非還元条件下では250 kDa以上の完全長抗体のバンド、還元条件下では約50kDaの重鎖と約25kDaの軽鎖の2つのバンドが形成されているか否かを確認する。
得られた抗体のエピトープを解析し、異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体が産生されているか否かは、予め作製しておいたウロモジュリンの断片と反応させることによって、確認することができる。
上記酵素免疫法では、以下のような手順で測定を行うことができる。例えば、まず、以下のような洗浄バッファーを調製する。10×洗浄液(例えば、Tween 20を含むトリスバッファー緩衝生理食塩水(pH 8.0、以下「TBS」ということがある。)を10倍濃度で調製したもの)を50mL取り、精製水を450mL加えて500mLとする。例えば、サンプル希釈液として、リン酸緩衝生理食塩水(pH 7.4、以下「PBS」ということがある。)を調製し、これを使用することができる。
次いで、標準品を調製する。例えば、ウロモジュリン標準品(メルク社製造)40μgをチューブに取って10mLの希釈液を加えて100倍濃度の標準液を調製し、これを10μLずつ分注して凍結乾燥しておくと、サンプル希釈液を1mL加えることにより、40ng/mLの標準溶液とすることができる。このようにして得られた40ng/mLの溶液と上記サンプル希釈液とを用いて2倍希釈系列を調製する。この場合の上記希釈系列中のウロモジュリン濃度は、20、10、5、2.5、1.2、0.6、0.3ng/mLとなる。0ng/mLについては、上記のサンプル希釈液で調製する。
次いで、サンプルを、上記サンプル希釈液で、例えば、10倍又は50倍希釈して使用することができる。この希釈倍率は、適宜調整することができる。引き続き、標識抗体を調製する。標識抗体は、上記の第2次抗体を、例えば、西洋わさびペルオキシダーゼ(以下、「HRP」と略すことがある。)で常法に従ってあらかじめ標識しておくことができる。所定量の標識抗体を所定量のバッファーに溶解し、標識抗体の原液とすることができる。この原液を、例えば120μL取り、これに上記サンプル希釈液12mLを加えて、標識抗体溶液として使用することができる。
以上のようにして調製したウロモジュリン標準品、希釈した検体(サンプル)を、96ウェルプレートの各ウェルに、例えば、100μLずつ加える。ついで、このプレートを室温で所定の時間、例えば、約1時間静置してインキュベートする。インキュベート終了後、各ウェルからウロモジュリン標準品及び上記サンプルを除き、上記洗浄液を、例えば300μL/wellで加えて、4回洗浄する。
ついで、上記のように調製した標識抗体を100μLずつ各ウェルに加え、再度、室温で約1時間静置してインキュベートする。ついで、上記と同様にして上記の洗浄液を300μL/wellで加え、4回洗浄する。洗浄終了後に、発色液(例えば、TMB (3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン)、OPD (o-フェニレンジアミンジヒドロクロライド)、ABTS (2,2'-アジノ-ジ-[3-エチル-ベンゾチアゾリン-6 スルフォン酸]ジアンモニウム塩)等を含む溶液)を100μLずつ各ウェルに加えて遮光し、室温にて約30分静置してインキュベートする。
発色剤としては、上記のTMB(測定波長は450 nm)、OPD (測定波長は492 nm)、ABTS (2測定波長は416 nm)等を使用することができ、TMBを使用することが汎用性の面から好ましい。その後、反応停止液(例えば、硫酸)を100μLずつ各ウェルに加えて反応を停止させる。その後、プレートリーダー(例えば、Bio-Rad社製造のiMark)を用い、主波長を450nm、副波長を650nm前後として、吸光度を測定する。そして、あらかじめ作成しておいた検量線から、検体中のウロモジュリン濃度を求めることができる。
上記疾患への罹患リスクを評価する評価方法は、HDP及びHELLP症候群を含む産科的緊急症に対して好適に適用することができる。本発明の罹患リスクを評価するには、上記の酵素免疫法で測定を行った後に、得られた血中ウロモジュリン濃度の経時変化を確認して行う。定期的な検体の採取については、必要に応じて採血を行い、上記の手順で血中ウロモジュリン濃度の測定を行う。変化を一定の間隔、例えば、数日ごとに行うことにより、前記検体中のウロモジュリン濃度の経時変化を確認することが好ましい。
ここで、前記HDPは、妊娠時に高血圧を発症した場合をいう。妊娠前から高血圧を認める場合、又は妊娠20週までに高血圧を認める場合を高血圧合併妊娠と呼ぶ。妊娠20週以降に高血圧のみ発症する場合を妊娠高血圧症といい、高血圧及びタンパク尿を認める場合は妊娠高血圧腎症と分類される。
2018年以降、タンパク尿は認めないが、肝機能障害、腎機能障害、神経障害、血液凝固障害、及び胎児の発育不良を認める場合には、妊娠高血圧腎症に分類されるようになった。収縮期血圧が140mmHg以上、又は拡張期血圧が90mmHg以上になった場合を、高血圧を発症したという。収縮期血圧が160 mmHg以上、又は拡張期血圧が110 mmHg以上になった場合を、重症の高血圧を発症したという。尿中タンパクが、0.3g/日以上出るとタンパク尿を認めたと言い、2g/日以上となると重症と分類される。
上記HDPは、約20人に1人の割合で発症すること、早発型と呼ばれる妊娠34週未満で発症すると重症化しやすいことが知られている。重症化すると、母体の血圧上昇、タンパク尿、けいれん発作(子癇)、脳出血、肝臓又は腎臓の機能障害等が生じるほか、HELLP症候群などを惹起することがある。それ以外に、胎児の発育不全、常位胎盤早期剥離、胎児機能不全等が生じ、場合によっては胎児死亡ともなる。このため、HDPでは母子共に大変危険な状態となることがある。罹患リスクの評価方法を使用することにより、HDPの罹患リスクを下げるような手段を講じることができる。
定期的に採取した検体中のウロモジュリン濃度を後述する酵素免疫法によって測定し、前記検体中のウロモジュリン濃度が低下する際の勾配が所定の値以上となるか、又は前記検体中のウロモジュリン濃度が所定の値以下となるかを指標として、妊婦の妊娠継続の可否を判定する妊娠継続判定することができる。さらに、これを指標として分娩時期を高精度で推定することができる。
妊娠28~31週頃に、胎児の心臓や肺、腎臓などの内臓器官や脳などの中枢神経の機能が充実し、聴覚がほぼ完成し、骨髄の働きもほぼ完全になることが知られている。そして、胎児の胚の機能は、妊娠35週頃にほぼ完成し、36週~38週頃に腎臓及び肝臓の機能が成熟するといわれる。こうしたことによって明らかなように、妊娠をどこまで継続できるか否かは、胎児が十分に発育した状態で誕生するか否かに影響する。このため、妊婦の妊娠継続の可否を判定することは極めて重要である。
血中ウロモジュリン濃度以外、例えば、血中のクレアチン濃度では、正常群と妊娠高血圧症に罹患している群との差異が明確に認められないため、血中ウロモジュリン濃度を判定の指標とすることが好ましい。特に、血中ウロモジュリン濃度が、有意に低値を示す場合には、40週までの妊娠の継続が困難になることが経験上確認されており、そうした場合には、計画分娩として帝王切開もしくは分娩誘発を予定することになるからである。
本発明の妊娠継続判定方法によれば、妊婦が妊娠を継続できるか否かを血中ウロモジュリン濃度に基づいて判定することができるため、計画分娩の予定も立てやすく、分娩時の母子の安全を図ることもより容易となる。
(実施例1)マウス抗ヒトウロモジュリンモノクローナル抗体の調製
(1)ウロモジュリン
ウロモジュリンは、MyBioSource社より購入した。5-7週齢のBalb/cマウスは、日本チャールズ・リバー(株)より購入した。
(2)抗原の作製及び動物の免疫
ウロモジュリン10μgを生理食塩水で0.1 mLに希釈したものをマウス一匹当たりの抗原溶液として調製した。この抗原溶液に、0.1 mLのFCA(フロイントの完全アジュバント)を加えて乳化させた混合溶液をマウスの背部皮下に投与した。2週間おきに8回免疫操作を行った。
8回目の免疫は、100μgの抗原溶液を0.1 mLの生理食塩水に溶解した溶液を、マウス尾静脈から投与した。上記マウスは、室温25℃、湿度45~70%、明暗12時間の条件の下、飼料(オリエンタル酵母工業(株)製)及び水を自由摂取させて飼育した。
4回免疫後6日目及び6回免疫後8日目に、マウスの眼底から血液を採取して血清を分離した。この血清を用いて、血中抗体価を、ELISA法により定量した。
先ず、上記の抗原溶液を、PBS(pH 7.2~7.4)を用いて1.0μg/mlに調製した。これを、50μL/ウェルとなるよう96ウェルプレート(Nunc社製)に分注して、4℃で一晩静置して抗原を固相化させた。0.05% Tweenを含むPBSで抗体を固相化した96ウェルプレートを3回洗浄し、その後、ブロックエース(大日本製薬(株)製)を4倍希釈して100μL/ウェルとなるように加え、37℃で2時間静置してブロッキング処理を行った。0.05% Tweenを含むPBSで3回洗浄した後に、血清の原液を50 μL/ウェルとなるよう加え、37℃で1時間静置して反応させた。
ヤギ抗マウスIgG+IgM HRP標識(BIOSOUSE社製)をブロックエースで10倍希釈して、2次抗体を調製した。0.05 % Tweenを含むPBSで3回洗浄した後、上記2次抗体を50μL/ウェルとなるよう加え、37℃で1時間静置した。0.05% Tweenを含むPBSでこのプレートを3回洗浄し、その後、TMB発色液を50μL/ウェルとなるように加え、遮光して、室温にて20分間静置した。
その後、1N硫酸を50μL/ウェルとなるよう加えて反応を停止させ、450 nmの波長で吸光度を測定した。6回免疫後8日目のサンプルで十分な抗体価があることが判明したため、2回の追加免疫を行なった3日後に細胞融合を行った。
(3)細胞融合
マウスから脾臓を摘出し、予めシャーレ5枚に分注しておいた200 mLのRPMI 1640 S.P培地を用いて各1回ずつ計5回洗浄した。洗浄後、脾臓をメッシュに乗せて、ハサミで数回切り込みを入れ、ガラス棒ですり潰し、RPMI 1640 S.P培地でメッシュを洗って、40 mLのガラス製遠沈管に脾臓細胞を集めた。集めた脾臓細胞を1,200 rpm(270 × g)で10分間遠心し、上清を吸引ピペットで除いた。その後、RPMI1640 S.P培地を40 mL加え、1,200 rpm(270 × g)で10分間遠心して上清を除いた。得られた脾臓細胞に40 mLのRPMI1640 S.P培地を加えてよく撹拌し、血球計算盤で細胞数を計数した。
ミエローマ細胞(P3U1)を50 mLの遠沈管に集め、1,000 rpm(200 × g)で5分間遠心分離した。上清を吸引ピペットで除き、40 mLのRPMI1640 S.P培地を加え、再度、1,000 rpm( 200 × g)で5分間遠心分離した。上清を除き、得られたミエローマ細胞に40 mLのRPMI1640 S.P培地を加えてよく撹拌し、血球計算盤で細胞数を計数した。
上記の計数結果から、脾臓細胞とミエローマ細胞の割合が5対1となるように、脾臓細胞が入っていた50mLの遠沈管にミエローマ細胞を加えて混合した。その後、この細胞混合液を1,200 rpm(270 × g)で10分間遠心分離し、上清を吸引ピペットで除いてタッピングした。タッピング後1 mLのPEG(ポリエチレングリコール)を、混合しながら1分間かけてゆっくりと添加し、そのまま2分間混合を続けた。その後、予めウォーターバスで37℃に温めておいた1 mLのRPMI 1640 S.P培地を混合しながら1分間かけてゆっくりと添加した。この操作を3回繰り返した。その後、37℃に温めておいた10 mLのRPMI 1640 S.P培地を、混合しながら3分間かけてゆっくりと添加した。37℃、5%CO2インキュベーターで5分間加温した後、1,000 rpm(200 × g)で5分間遠心分離し、上清を吸引ピペットで除いて、ハイブリドーマを得た。
(4)抗ウロモジュリン陽性抗体産生ハイブリドーマのスクリーニング
15%FCS含有HAT培地を含むPMI1640 S.P培地を96ウェルプレートに入れ、上記で得られたハイブリドーマを播種した。37℃、5%CO2インキュベーター中で、得られたハイブリドーマを7日~14日培養し、コロニーの成長具合を見てELISA法で抗体産生能をスクリーニングした。
細胞融合から10日後に行ったELISA法でのスクリーニングから、吸光度の高いウェル中のハイブリドーマをクローニング用サンプルとした。96ウェルプレートのうち、3列に5個/ウェル及び1個/ウェル、並びに2列に0.5個/ウェルとなるように、ハイブリドーマを播種した。各ウェルには、1×106個/ウェルとなるようにフィーダー細胞を播種した。
クローニング後5日目にコロニーカウントを行い、コロニーが1個であるウェルを確認し、2~3日毎に培地を交換した。その後、コロニーがウェルの3分の1を占めてきたところで、ELISA法を用いてコロニー1個で陽性反応を示すウェルを選択した。こうして、45個のウェルから、ELISA法で陽性反応を示し、かつ細胞の状態が良好なハイブリドーマを得た。得られた12個のハイブリドーマを樹立株とした。これらを、ヌードマウスを用いた腹水化法により、12種類の抗ヒトウロモジュリンモノクローナル抗体を作製し、得られた抗体をプロテインカラムで精製した。
(実施例2)ゲル電気泳動(ドデシル硫酸ナトリウムゲル電気泳動)等による解析
(1)抗体の精製
先ず、上記抗体(1 mg/mL)をそれぞれ1μLずつ取り、4μLの水を加えて総量5μLとした。10% 2-メルカプトエタノール含有2×SDS試料バッファー(125 mM Tris-HCl(pH 6.8)、4% SDS、10%グリセロール、0.004% ブロモフェノールブルーを含む)、又は2×SDSサンプルバッファーのみのいずれかを等量で加えた。その後、95℃で約10分加熱して、上記抗体を変性・還元条件下、又は変性・非還元条件下のいずれかで処理した抗体サンプル溶液を調製した。
続いて、上記のように調整したサンプル溶液を濃縮ゲル(4% アクリルアミド、125 mM Tris-HCl(pH 6.8)、0.1% SDS)を用いて、10 mAの定電圧下で濃縮した。次いで、分離ゲル(5%又は12% アクリルアミド、375 mM Tris-HCl(pH 8.8)、0.1% SDS)を用いて、20 mAの定電圧下で抗体を分離した。電気泳動後のポリアクリルアミドゲル上の蛋白質を、CBB溶液(0.25% クマシーブリリアントブルーR250、5% メタノール、7.5% 酢酸を含む)で染色した。その後、脱色液(25% メタノール、7.5% 酢酸を含む)を用いてバックグラウンドとなっているゲルの部分を脱色した。
上記抗体を変性・還元条件下(2-メルカプトエタノール含有2×SDS サンプルバッファー中で処理)すると、上記いずれの抗体においても、約50 kDaの重鎖(H鎖)及び約25 kDa程度の軽鎖(L鎖)のバンドが確認された。また、変性・非還元条件(2-メルカプトエタノールを含まない2×SDS サンプルバッファー中で処理)した抗体(非還元抗体)では、いずれにおいても、250 kDa以上の完全長抗体のバンドが確認された。
(2)抗体のエピトープ解析
上記で調製したハイブリドーマが産生した抗ヒトウロモジュリンモノクローナル抗体が反応する抗原エピトープを、以下のようにして解析した。
まず、ヒト腎臓cDNAライブラリーより全長ヒトウロモジュリン遺伝子をPCRクローニングした。得られたPCR産物はシーケンスを行い変異が入っていないことを確認した(参照配列: NM_003361.3(GenBank))。全長ヒトウロモジュリン遺伝子に関しては終止コドンを残したものと、終止コドンに変異を施し、C末端にFLAGタグ蛋白を付与した2種類の発現ベクターを作製した。
続いて、図1(B)に示すウロモジュリンの断片蛋白をサブクローニングし、タグ蛋白であるGFP又はFLAGとの結合蛋白として蛋白発現する発現ベクターに組み込んだ。図中、シグナルペプチドは灰色で、抗原となり得る塩基配列を黒色でそれぞれ示した。また、N111-GFPは上記ヒトウロモジュリンのN末端から111番目までの塩基を含み、C末端にタグ蛋白GFPを付加したことを示す。14A.A.(Amino Acid)は蛋白発現後のウロモジュリン断片蛋白のアミノ酸数を示す。実際には、111塩基から37アミノ酸が翻訳されるが、そのうち23アミノ酸はシグナルペプチドとして翻訳され、最終的にシグナルペプチダーゼにより切断を受けるため、N111からは14アミノ酸にGFPタグが付加された蛋白質が発現していることになる。
上記のように作製した発現ベクターを、遺伝子導入試薬(Lipofectamine 3000(登録商標)、Thermo Fisher Scientific社製)を使用してHeLa細胞に遺伝子導入し、37℃のCO2インキュベーターで培養した。遺伝子導入より24~28時間培養したHeLa細胞を細胞溶解液で溶解し細胞溶解液を得た。
上記の細胞溶解液を抗原蛋白質としてウェスタン・ブロッティングを行った。結果を図2に示す。一次抗体は我々が樹立したモノクローナル抗体を使用した。二次抗体はGE healthcare社のHRP標識抗マウスIgGモノクローナル抗体を使用した。化学発光による検出試薬は、Thermo Fisher Scientific社のECL Western Blotting Substrateを使用した。
図2では左レーンには遺伝子導入なしのHeLa細胞の細胞溶解液、中央レーンには全長ウロモジュリン(FLAGタグなし)を遺伝子導入により蛋白発現させた細胞溶解液、右レーンにはN861-FLAGを遺伝子導入により蛋白発現させた細胞溶解液を電気泳動しウェスタン・ブロッティングを行った。これらの結果より、我々が樹立した全てのモノクローナル抗体は全長ウロモジュリンを認識し、かつ、ウロモジュリンのN端側に抗原エピトープを持つ抗体であった。
続いて、さらに詳細に抗原エピトープを明らかにするために図2で示した発現ベクターを順次遺伝子導入により蛋白発現させ、各モノクローナル抗体の抗原エピトープを確認した。最終的にキットで使用する3-5(配列表の配列番号4)と29-9(配列表の配列番号5)の2つの抗体の抗原エピトープを明らかにしたウェスタン・ブロッティングの結果を図3に示した。
図3(A)のウェスタン・ブロッティングは一次抗体として抗GFP抗体を使用した結果(左)、及び抗ウロモジュリン抗体(3-5)を使用した結果(右)を示す。レーン1は遺伝子導入なしの細胞溶解液を、レーン2~5は図4に示した発現ベクターのうち下記の発現ベクターを遺伝子導入した細胞溶解液を、それぞれ電気泳動した結果を示す(10%アクリルアミドゲル使用、120V、60分で分離)。レーン2はGFPベクター単独、レーン3はN162-GFP、レーン4はN201-GFP、及びレーン5はN222-GFPを電気泳動した。この結果により、モノクローナル抗体(3-5)は、ヒトウロモジュリン遺伝子のN端から163~201から翻訳されるペプチド配列を抗原エピトープとする抗体である。
図3(B)のウェスタン・ブロッティングは一次抗体として抗FLAG抗体を使用した結果(左)、及び抗ウロモジュリン抗体(29-9)を使用した結果(右)を示す。レーン1は遺伝子導入なしの細胞溶解液を、レーン2~5は図4に示した発現ベクターのうち下記の発現ベクターを遺伝子導入した細胞溶解液を、それぞれ電気泳動した結果を示す(10%アクリルアミドゲル使用、120V、60分で分離)。レーン2はFLAGベクター単独、レーン3はN261-FLAG、レーン4はN321-FLAG、レーン5はN381-FLAGを電気泳動した。この結果により、モノクローナル抗体(29-9)は、ヒトウロモジュリン遺伝子のN端から262~321から翻訳されるペプチド配列を抗原エピトープとする抗体である。
本発明のキットには使用していない抗体を含め、得られた新規モノクローナル抗体の抗原エピトープのまとめを下記表2に示す。
Figure 2022023020000003
(実施例3)ELISA kitの作成
上記表1に示した抗体のうち、3-5及び29-9を使用して、下記のようにしてELISAを行ない、検出精度及び検出感度を市販されているキット(Euroimmun社製)と比較した。
(1)ELISAキット
上記2つの抗体(3-5及び29-9)を含むELISA用キットは、イムノ・プローブ社より提供を受けた。本発明のELISAキット(ウロモジュリンELISAキット)の構成は下記表3に示す通りである。
Figure 2022023020000004
上記キットは冷蔵庫にて保存した。測定試料は後述するヒト血清とした。
上記の各試薬は、室温に戻してから使用した。まず、10×洗浄液に精製水450 mLを加えて10倍希釈し、洗浄用バッファーを調製した。次いで、ウロモジュリン標準品に1mLの試料希釈液を加えて40 ng/mLの標準試料溶液を調製した。この標準試料溶液を試料希釈液で2倍希釈し、20、10、5、2.5、1.25、0.62、0.31、0 ng/mLの標準試料希釈液を調製した。ブランク(0 ng/mL)には、ウロモジュリン標準品を含まない試料希釈液を使用した。以上の手順に従って作製した検量線を、図4示す。
上記血清を試料希釈液で10倍又は50倍に希釈し、試料として使用した。標識抗体は、12 mLの試料希釈液に上記表2に示す標識抗体を120μL加え、100倍希釈して使用した。
以上のように調製した標準品又は試料を、上記の固相化プレートの各ウェルに100μLずつ加え、室温で1時間静置した。上記ウェル内の標準品又は試料を捨て、これらを加えていた各ウェルに300μLの洗浄液を加えて洗浄した。この洗浄操作を3回繰り返した。
洗浄した上記の96ウェルプレートに上記のように調製した標識抗体を100μLずつ加え、室温にて1時間静置した。上記ウェル内の標準品又は試料を捨て、これらを加えていた各ウェルに300μLの洗浄液を加えて洗浄した。この洗浄操作を5回繰り返した。
次いで、上記表2に示す発色液を100μLずつ各ウェルに加えた。速やかにプレートをアルミホイルで遮光し、室温で20分間静置した。20分経過後、上記表2に示す反応停止液を各ウェルに100μLずつ加え、マイクロプレートリーダー(Bio-Rad社製品)を用いて、主波長450 nm、副波長650 nmで測定した。上記標準品を用いて検量線を作製し、各試料の吸光度から、各試料中のウロモジュリン濃度を求めた。
本発明の検出キットの検出限界は、0.31 ng/mLであり、測定誤差は、10%以下であった(n = 3, P<0.05)。
(2)市販のキットとの比較
市販のキット(Euroimmun社製)の検出限界は、使用説明書に記載されている通り、2ng/mLであった。また、前記市販のキットを使用した場合のウロモジュリンとeGFRとの間の相関関係を図5(A)に、腎不全の各ステージにおけるウロモジュリンの値を図5(B)にそれぞれ示す(非特許文献10参照)。
図5(A)に示すように、ウロモジュリンとeGFRとの間に相関関係があることは示され、ウロモジュリンの濃度は、non-CKDの患者とCKDの患者とでは平均値及び中央値には有意差があること、及びステージが進むにつれて低下する傾向が見られることが示された。しかし、ステージ1と2との間及びステージ4と5との間ではいずれも有意差は見られなかった。
以上の結果、本発明の抗体を含む上記キットは、市販品よりもほぼ10倍感度が高いことが示された。
(3)検体中のウロモジュリンの経時変化の検討
血中のウロモジュリン蛋白の保存中の安定性の確認と、採取した検体を即時測定する必要があるのか否かを確認するために、検体採取後の保存条件によるウロモジュリン測定値の差異を検討した。採取した血液は速やかに血清分離した後、図6に示すようにday 0(検体採取同日)~day 8(検体採取より9日目)で-80℃で凍結保存とした。検体採取後凍結保存までの期間は、4℃にて凍結せずに保存した。
検体採取から1ヶ月以内に、これらの凍結保存試料を氷上で融解し、上記のELISAキットを用いて測定した。結果を図6に示す。
測定結果から、検体採取から1週間以上経過した検体においても、4℃で保存されていれば、検体採取後速やかに凍結処理をせずとも検体中のウロモジュリンの測定値には、大きな変動はないことが示された。この結果より、検体採取後に速やかな凍結保存処理は必ずしも必要ではないこと、及び、4℃保存の条件下においては血中のウロモジュリン蛋白質自体は分離血清中で安定に存在していることが示された。
バイオマーカーとして臨床応用するためには、測定対象の保存中の安定性が重要な問題である。測定対象が容易に分解されてしまうものであれば、実地臨床での利用は非現実的であるが、上記の結果から、血中ウロモジュリンはこの一要件を満たしていると考えられた。
(実施例4)ヒト血中ウロモジュリン濃度及びeGFRの相関関係の検討
以下の実験は、東京女子医科大学病院で行われている「血中uromodulinの臨床的意義に関する研究」のプロトコルに従って行った。健常人、及びCKDステージ1~5の腎疾患の患者から得た血清を使用して、上記方法と同様の方法で血中ウロモジュリン濃度を測定した。疾患別の患者数を下記表5に示す。
eGFR-cre(クレアチニン換算eGFR)は、下記式にて算出した。
eGFR-cre(男性) = 194 × 血清クレアチニン-1.094 × 年齢-0.287
eGFR-cre(女性) = 194 × 血清クレアチニン-1.094 × 年齢-0.287 × 0.739
eGFR-cysc(シスタチンC換算eGFR)は、下記式にて算出した。
eGFR-cysc(男性) = (104 × シスタチンC-1.019 × 0.996年齢)-8
CCr-CG(Cockcroft-Gault式)は、下記式にて算出した。
CCr(男性) = {(140-年齢)×体重}/{72×血清クレアチニン値}
CCr(女性) = {(140-年齢)×体重}/{72×血清クレアチニン値}×0.85
Figure 2022023020000005
上記の検体を測定した結果を図7に示す。血中ウロモジュリン値とクレアチニン換算eGFR値(eGFR-cre)の相関係数は0.75、シスタチンC換算eGFR(eGFR-cysc)との相関係数は0.77と高い相関関係があることが示された(図7(a)及び(b)参照)。
(実施例5)妊娠高血圧症のリスク評価
(A)正常満期産により出産に至った群と(B)産科的緊急症により緊急帝王切開及び分娩誘発で出産に至った群における出産時の血中ウロモジュリン値を測定した。結果を図8~16に示す。
ここで、正常満期産群(A群)とは、妊娠中に母体、胎児及び、胎盤の状態に異常なく妊娠満期にて出産(正常満期出産)した群を指し、妊娠満期に自然陣痛により経腟分娩で出産した女性及び、前回帝王切開で出産したため今回も満期産にて帝王切開で出産した女性をこの群に入れた。A群の症例は下記の通りである(図9~11参照)。
正常分娩症例(A1)の症例では(図9参照)、母体は29歳、妊娠中に妊娠糖尿病を指摘されたため、食事療法で血糖を管理していたが。妊娠経過は母体胎児ともにトラブルはなかった症例である。38週0日で陣痛が発来したため、無痛分娩にて出産した。
正常分娩例(A2)の症例では(図10参照)、母体は36歳であり、妊娠経過は母体胎児ともにトラブルのなかった症例である。37週4日で陣痛が発来し、前回、帝王切開術にて出産していたため、今回も帝王切開術にて出産した。
正常分娩例(A3)の症例では(図11参照)、母体は40歳である、高齢妊娠出産であったが妊娠経過は順調であった症例である。以前よりC型肝炎陽性を指摘されていたため、選択的帝王切開術による出産の方針とし、38週1日で予定通り帝王切開術にて出産した。
産科的緊急症により緊急帝王切開及び分娩誘発で出産に至った群(B群)には、HDP及びHELLP症候群により、緊急帝王切開もしくは分娩誘発で出産した女性、及びDD双胎により切迫早産から緊急帝王切開で出産した女性をこの群に入れた。B群の症例は下記の通りである(図12~16参照)。
妊娠高血圧症候群例(B1)の症例では(図12参照)、母体は36歳であり、妊娠25週頃から収縮期血圧が120-130mmHgに上昇することを認めていた。しかし、降圧剤による治療は不要であった。40週2日で前期破水したため入院し、その後、収縮期血圧が150mmHg以上という重症域で推移した。そして、微弱陣痛のため陣痛促進剤の投与を開始し、妊娠40週3日で経腟分娩により出産した。
妊娠高血圧症候群例(B2)の症例では(図13参照)、母体は36歳であり、妊娠30週頃から収縮期血圧120mmHg台に上昇を認めていたが降圧剤による治療は要さなかった。出産予定日を過ぎたため分娩誘発を行うために入院した。入院後、血圧が150-160mmHgまで上昇し、HDP相応となったが、陣痛促進剤の投与によって分娩は順調に進み、妊娠41週0日で経腟分娩により出産した。
妊娠高血圧症候群例(B3)の症例では(図14参照)、母体は42歳である。39歳から高血圧症を指摘され、内服治療が開始されたが、41歳から降圧状態が良好であったため、無投薬経過観察となっていた。今回、融解胚移植により妊娠した。妊娠25週を超えた頃から収縮期血圧が120mmHg程度へ上昇するようになっていたが、降圧剤による治療は要さなかった。妊娠38週3日に無痛分娩で出産した。人工破膜時に血清羊水を認めた。高度変動一過性徐脈を認めたが、回復が悪く胎児機能不全と診断された。収縮期血圧が140-150mmHgに上昇し、HDPとなったため、吸引分娩にて出産した。
DD双胎例(B4)の症例では(図15参照)、母体は、慢性糸球体腎炎に罹患しており、この治療のためにステロイド内服治療を行い、完全寛解中の42歳であった。2個の凍結胚盤胞を移植し、DD双胎での妊娠成立となった。妊娠30週で頸管長の短縮と子宮収縮が起きたため、管理入院となった。妊娠34週4日で自然破水し、ステロイド投与と子宮収縮抑制薬の投与が行われた。しかし、所見の進行を認めたため、妊娠34週5日で帝王切開術にて出産した。
DD双胎例(B5)の症例では(図16参照)、母体は34歳である。不妊治療(排卵誘発剤+タイミング指導)にて、DD双胎で妊娠が成立した。妊娠25週で第2児胎児の発育不全と頻回の一過性徐脈を認めたため管理入院となった。妊娠30週で腹緊が強くなり子宮収縮抑制が始まったが、妊娠30週0日で出血と子宮収縮が強くなった。このため、ステロイドの投与と子宮収縮抑制とを強化したが、所見が進行したため、妊娠33週5日で、緊急帝王切開にて出産した。
出産時の血中ウロモジュリン濃度は(A)群で205.9±50 ng/mLであったのに対し、(B)群では114.9±56.8 ng/mLと有意に低値であった(P<0.001)。また、図9~16に示すように、血中ウロモジュリン濃度の推移においても、正常満期産の場合と分娩時に産科的緊急症を呈した場合とで明確な相違が認められた。
図9~16に示すように、全ての妊婦において、血中ウロモジュリン濃度は妊娠中期には妊娠初期と比べて低下し、分娩後には上昇を認めた。しかし、正常満期産で出産に至った妊婦では、中期以降の血中ウロモジュリン濃度は概ね下げ止まり推移したのに対し(図9~11参照)、分娩時に産科的緊急症を呈した妊婦では(図13~16参照)、中期以降も血中ウロモジュリン濃度は下げ止まることなく低下するという傾向が続いた。
さらに、後者の妊婦においては妊娠初期の血中ウロモジュリン濃度と比べて、血中ウロモジュリン濃度が半減したことが確認されてから、概ね2~4週以内に分娩に至っていた。
以上から、妊娠経過中に血清ウロモジュリンを定期的に測定することで、HDP及びHELLP症候群を含む産科的緊急症に罹患する蓋然性と多胎妊娠等の要因により早産となる可能性を予測することが可能であった。また、妊婦の状態に伴う妊娠継続可否も判断することができ、さらに分娩時期の推定が可能となることも示された。
本発明は、医学、薬学の分野において有用である。
配列番号1:ウロモジュリンのアミノ酸配列
配列番号2:抗ウロモジュリン抗体のエピトープ配列(1)
配列番号3:抗ウロモジュリン抗体のエピトープ配列(2)
配列番号4:抗ウロモジュリンモノクローナル抗体(3-5)のアミノ酸配列
配列番号5:抗ウロモジュリンモノクローナル抗体(29-9)のアミノ酸配列

Claims (14)

  1. 定期的に採取した検体中のウロモジュリン濃度を酵素免疫法によって測定し、
    前記検体中のウロモジュリン濃度が低下する際の勾配が所定の値以上となるか、又は前記検体中のウロモジュリン濃度が所定の値以下となるかを指標として、妊娠高血圧症候群、及び肝機能障害に溶血及び血小板減少が合併したHELLP症候群への罹患リスクを評価する、罹患リスクの評価方法。
  2. 前記検体は、血液であることを特徴とする、請求項1に記載の罹患リスクの評価方法。
  3. 前記酵素免疫法は、異なるエピトープを認識する2つのモノクローナル抗体を使用するものである、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の罹患リスクの評価方法。
  4. 前記妊娠高血圧症候群は、妊娠高血圧、妊娠高血圧腎症、及び加重型妊娠高血圧腎症からなる群から選ばれるいずれかの疾患である、ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の罹患リスクの評価方法。
  5. 定期的に採取した検体中のウロモジュリン濃度を酵素免疫法によって測定し、
    前記検体中のウロモジュリン濃度が低下する際の勾配が所定の値以上となるか、又は前記検体中のウロモジュリン濃度が所定の値以下となるかを指標として、妊婦の妊娠継続の可否を判定する妊娠継続可否の判定方法。
  6. 前記検体は、血液であることを特徴とする、請求項5に記載の妊娠継続可否の判定方法。
  7. 前記酵素免疫法は、2つの異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体を使用するものである、ことを特徴とする請求項5又は6に記載の妊娠継続可否の判定方法。
  8. 前記妊婦は、妊娠高血圧症候群及びHELLP症候群に罹患している妊婦、胎盤機能不全及び多胎妊娠等の要因により切迫早産の状態にある妊婦を含む、ことを特徴とする請求項5~7のいずれかに記載の妊娠継続可否の判定方法。
  9. 前記妊娠高血圧症候群は、妊娠高血圧、妊娠高血圧腎症、及び加重型妊娠高血圧腎症からなる群から選ばれるいずれかの疾患である、ことを特徴とする請求項8に記載の妊娠継続可否の判定方法。
  10. 定期的に採取した検体中のウロモジュリン濃度を酵素免疫法によって測定し、
    前記検体中のウロモジュリン濃度が低下する際の勾配が所定の値以上となるか、又は前記検体中のウロモジュリン濃度が所定の値以下となるかを指標として、分娩時期を推定する、分娩時期推定方法。
  11. 前記検体は、血液であることを特徴とする、請求項10に記載の分娩時期推定方法。
  12. 前記酵素免疫法は、異なるエピトープを認識する2つのモノクローナル抗体を使用するものである、ことを特徴とする請求項10又は11に記載の分娩時期推定方法。
  13. 前記妊婦は、正常満期産で分娩に至る健常な妊婦を除き、妊娠高血圧症候群及びHELLP症候群に罹患している妊婦、胎盤機能不全及び多胎妊娠等の要因により切迫早産の状態にある妊婦を含む、ことを特徴とする請求項10~12のいずれかに記載の分娩時期推定方法。
  14. 前記妊娠高血圧症候群は、妊娠高血圧、妊娠高血圧腎症、及び加重型妊娠高血圧腎症からなる群から選ばれるいずれかの疾患である、ことを特徴とする請求項13に記載の分娩時期推定方法。
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