以下、図面を参照しながら、X線コンピュータ断層撮影装置及びX線診断装置の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、既出の図に関して前述したものと同一又は略同一の機能を有する構成要素については、同一符号を付し、必要な場合にのみ重複説明する。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表されている場合もある。
X線コンピュータ断層撮影装置(CT装置)には、第3世代CT、第4世代CT等様々なタイプがあり、いずれのタイプでも本実施形態へ適用可能である。ここで、第3世代CTは、X線管と検出器とが一体として被検体の周囲を回転するRotate/Rotate-Typeである。第4世代CTは、リング状にアレイされた多数のX線検出素子が固定され、X線管のみが被検体の周囲を回転するStationary/Rotate-Typeである。
図1は、本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置1の構成例を示す図である。図1に示すように、X線コンピュータ断層撮影装置1は、架台10、寝台30及びコンソール40を有する。なお、図1では説明の都合上、架台10が複数描画されているが、実際は一台でもよいし、複数台でもよい。架台10は、被検体PをX線CT撮影するための構成を有するスキャン装置である。寝台30は、X線CT撮影の対象となる被検体Pを載置し、被検体Pを位置決めするための搬送装置である。コンソール40は、架台10を制御するコンピュータである。例えば、架台10及び寝台30はCT検査室に設置され、コンソール40はCT検査室に隣接する制御室に設置される。架台10、寝台30及びコンソール40は互いに通信可能に有線または無線で接続されている。なお、コンソール40は、必ずしも制御室に設置されなくてもよい。例えば、コンソール40は、架台10及び寝台30とともに同一の部屋に設置されてもよい。また、コンソール40が架台10に組み込まれてもよい。
図1に示すように、架台10は、X線管11、X線検出器12、回転フレーム13、X線高電圧装置14、制御装置15、ウェッジ16、コリメータ17及びデータ収集回路(Data Acquisition System:DAS)18を有する。
X線管11は、X線を被検体Pに照射する。具体的には、X線管11は、熱電子を発生する陰極と、陰極から飛翔する熱電子を受けてX線を発生する陽極と、陰極と陽極とを保持する真空管とを含む。X線管11は、高圧ケーブルを介してX線高電圧装置14に接続されている。陰極と陽極との間には、X線高電圧装置14により管電圧が印加される。管電圧の印加により陰極から陽極に向けて熱電子が飛翔する。陰極から陽極に向けて熱電子が飛翔することにより管電流が流れる。熱電子が陽極に衝突することによりX線が発生される。
X線検出器12は、X線管11から照射され被検体Pを通過したX線を検出し、検出されたX線の線量に対応した電気信号をデータ収集回路18に出力する。X線検出器12は、チャネル方向に複数のX線検出素子が配列されたX線検出素子列がスライス方向(列方向)に複数配列された構造を有する。X線検出器12は、例えば、グリッド、シンチレータアレイ及び光センサアレイを有する間接変換型の検出器である。シンチレータアレイは、複数のシンチレータを有する。シンチレータは、入射X線量に応じた光量の光を出力する。グリッドは、シンチレータアレイのX線入射面側に配置され、散乱X線を吸収するX線遮蔽板を有する。なお、グリッドは、コリメータ(1次元コリメータ又は2次元コリメータ)と呼ばれる場合もある。光センサアレイは、シンチレータからの光の光量に応じた電気信号に変換する。光センサとしては、例えば、フォトダイオードが用いられる。なお、X線検出器12は、直接変換型の検出器であってもよい。
回転フレーム13は、X線管11とX線検出器12とを回転軸(Z軸)回りに回転可能に支持する円環状のフレームである。具体的には、回転フレーム13は、X線管11とX線検出器12とを対向支持する。回転フレーム13は、固定フレーム(図示せず)に回転軸回りに回転可能に支持される。制御装置15により回転フレーム13が回転軸回りに回転することによりX線管11とX線検出器12とを回転軸回りに回転させる。回転フレーム13は、制御装置15の駆動機構からの動力を受けて回転軸回りに一定の角速度で回転する。回転フレーム13の開口部19には、画像視野(FOV)が設定される。
なお、本実施形態では、非チルト状態での回転フレーム13の回転軸又は寝台30の天板33の長手方向をZ軸方向、Z軸方向に直交し床面に対し水平である軸方向をX軸方向、Z軸方向に直交し床面に対し垂直である軸方向をY軸方向と定義する。
X線高電圧装置14は、高電圧発生装置及びX線制御装置を有する。高電圧発生装置は、変圧器(トランス)及び整流器等の電気回路を有し、X線管11に印加する高電圧及びX線管11に供給するフィラメント電流を発生する。X線制御装置は、X線管11が照射するX線に応じた出力電圧の制御を行う。高電圧発生装置は、変圧器方式であってもよいし、インバータ方式であっても構わない。X線高電圧装置14は、架台10内の回転フレーム13に設けられてもよいし、架台10内の固定フレーム(図示しない)に設けられても構わない。
ウェッジ16は、被検体Pに照射されるX線の線量を調節する。具体的には、ウェッジ16は、X線管11から被検体Pへ照射されるX線の線量が予め定められた分布になるようにX線を減衰する。例えば、ウェッジ16としては、ウェッジフィルタ(wedge filter)やボウタイフィルタ(bow-tie filter)等のアルミニウム等の金属板が用いられる。
コリメータ17は、ウェッジ16を透過したX線の照射範囲を限定する。コリメータ17は、X線を遮蔽する複数の鉛板をスライド可能に支持し、複数の鉛板により形成されるスリットの形態を調節する。なお、コリメータ17は、X線絞りと呼ばれる場合もある。
データ収集回路18は、X線検出器12により検出されたX線の線量に応じた電気信号をX線検出器12から読み出す。データ収集回路18は、読み出した電気信号を増幅し、ビュー期間に亘り電気信号を積分することにより当該ビュー期間に亘るX線の線量に応じたデジタル値を有する検出データを収集する。検出データは、投影データと呼ばれる。データ収集回路18は、例えば、投影データを生成可能な回路素子を搭載した特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)により実現される。投影データは、非接触データ伝送装置等を介してコンソール40に伝送される。
なお、本実施形態では、積分型のX線検出器12及び積分型のX線検出器12が搭載されたX線コンピュータ断層撮影装置1を例として説明するが、本実施形態に係る技術は、光子計数型のX線検出器にも適用可能である。
制御装置15は、コンソール40の処理回路44の撮影制御機能441に従いX線CT撮影を実行するためにX線高電圧装置14やデータ収集回路18を制御する。制御装置15は、Central Processing Unit(CPU)あるいはMicro Processing Unit(MPU)等を有する処理回路と、モータ及びアクチュエータ等の駆動機構とを有する。処理回路は、ハードウェア資源として、CPU等のプロセッサとRead Only Memory(ROM)やRandom Access Memory(RAM)等のメモリとを有する。制御装置15は、メモリに展開されたプログラムを実行するプロセッサにより、各種の機能を実行する。なお、各種の機能は単一の処理回路で実現される場合に限らない。複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより各機能を実現するものとしても構わない。また、制御装置15は、ASICやフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA)により実現されてもよい。また、制御装置15は、他の複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)又は単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)により実現されてもよい。制御装置15は、コンソール40若しくは架台10に取り付けられた、後述する入力インターフェース43からの入力信号を受けて、架台10及び寝台30の動作制御を行う機能を有する。例えば、制御装置15は、入力信号を受けて回転フレーム13を回転させる制御や、架台10をチルトさせる制御、及び寝台30及び天板33を動作させる制御を行う。なお、架台10をチルトさせる制御は、架台10に取り付けられた入力インターフェースによって入力される傾斜角度(チルト角度)情報により、制御装置15がX軸方向に平行な軸を中心に回転フレーム13を回転させることによって実現される。なお、制御装置15は架台10に設けられてもよいし、コンソール40に設けられても構わない。
寝台30は、基台31、支持フレーム32、天板33及び寝台駆動装置34を備える。基台31は、床面に設置される。基台31は、支持フレーム32を、床面に対して垂直方向(Y軸方向)に移動可能に支持する筐体である。支持フレーム32は、基台31の上部に設けられるフレームである。支持フレーム32は、天板33を回転軸(Z軸)に沿ってスライド可能に支持する。天板33は、被検体Pが載置される柔軟性を有する板である。
寝台駆動装置34は、寝台30の筐体内に収容される。寝台駆動装置34は、被検体Pが載置された支持フレーム32と天板33とを移動させるための動力を発生するモータ又はアクチュエータである。寝台駆動装置34は、コンソール40等による制御に従い作動する。
コンソール40は、メモリ41、ディスプレイ42、入力インターフェース43及び処理回路44を有する。メモリ41とディスプレイ42と入力インターフェース43と処理回路44との間のデータ通信は、バス(BUS)を介して行われる。なお、コンソール40は架台10とは別体として説明するが、架台10にコンソール40又はコンソール40の各構成要素の一部が含まれてもよい。
メモリ41は、種々の情報を記憶するHard Disk Drive(HDD)やSolid State Drive(SSD)、集積回路記憶装置等の記憶装置である。メモリ41は、HDDやSSD等以外にも、Compact Disc(CD)、Digital Versatile Disc(DVD)、Blu-ray(登録商標) Disc(BD)、フラッシュメモリ等の可搬性記憶媒体であってもよい。メモリ41は、フラッシュメモリ、RAM等の半導体メモリ素子等との間で種々の情報を読み書きする駆動装置であってもよい。また、メモリ41の保存領域は、X線コンピュータ断層撮影装置1内にあってもよいし、ネットワークで接続された外部記憶装置内にあってもよい。メモリ41は、例えば、投影データや再構成画像データを記憶する。
ディスプレイ42は、各種の情報を表示する。例えば、ディスプレイ42は、処理回路44によって生成されたCT画像や、操作者からの各種操作を受け付けるためのGUI(Graphical User Interface)等を出力する。ディスプレイ42としては、種々の任意のディスプレイが、適宜、使用可能となっている。例えばディスプレイ42として、液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display:LCD)、Cathode Ray Tube(CRT)ディスプレイ、有機ELディスプレイ(Organic Electro Luminescence Display:OELD)又はプラズマディスプレイが使用可能である。
なお、ディスプレイ42は、制御室の如何なる場所に設けられてもよい。また、ディスプレイ42は、架台10に設けられてもよい。また、ディスプレイ42は、デスクトップ型でもよいし、コンソール40の本体と無線通信可能なタブレット端末等で構成されることにしても構わない。また、ディスプレイ42として、1又は2以上のプロジェクタが用いられてもよい。
入力インターフェース43は、操作者からの各種の入力操作を受け付け、受け付けた入力操作を電気信号に変換して処理回路44に出力する。例えば、入力インターフェース43は、投影データを収集する際の収集条件や、CT画像を再構成する際の再構成条件、CT画像から後処理画像を生成する際の画像処理条件等を操作者から受け付ける。入力インターフェース43としては、例えば、マウス、キーボード、トラックボール、スイッチ、ボタン、ジョイスティック、タッチパッド及びタッチパネルディスプレイ等が適宜、使用可能となっている。なお、本実施形態において、入力インターフェース43は、マウス、キーボード、トラックボール、スイッチ、ボタン、ジョイスティック、タッチパッド及びタッチパネルディスプレイ等の物理的な操作部品を備えるものに限られない。例えば、装置とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、この電気信号を処理回路44へ出力する電気信号の処理回路も入力インターフェース43の例に含まれる。また、入力インターフェース43は、架台10に設けられてもよい。また、入力インターフェース43は、コンソール40本体と無線通信可能なタブレット端末等で構成されることにしても構わない。
処理回路44は、入力インターフェース43から出力される入力操作の電気信号に応じてX線コンピュータ断層撮影装置1全体の動作を制御する。処理回路44は、X線検出器12から出力された電気信号に基づいて画像データを生成する。例えば、処理回路44は、ハードウェア資源として、CPUやMPU、GPU等のプロセッサとROMやRAM等のメモリとを有する。処理回路44は、メモリに展開されたプログラムを実行するプロセッサにより、撮影制御機能441、再構成機能442、画像処理機能443、撮影条件設定機能444、管電流値特定機能445、管電流値利用機能446及び表示制御機能447等を実行する。
なお、各機能441-447は単一の処理回路で実現される場合に限らない。複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより各機能441-447を実現するものとしても構わない。
撮影制御機能441において処理回路44は、撮影条件設定機能444により設定された撮影条件に従ってX線高電圧装置14と制御装置15とデータ収集回路18とを制御し、X線CT撮影を実行する。本実施形態においてはX線CT撮影として、X線管角度に応じて管電流を変調しつつ、第1の管電圧値と第2の管電圧値との間で管電圧を交互に切り替えるX線CT撮影(以下、管電流変調デュアルエナジースキャンと呼ぶ)が行われる。第1の管電圧値と第2の管電圧値との大小関係は特に限定されない。例えば、第1の管電圧値は高管電圧値であり、第2の管電圧値は当該高管電圧値よりも低い低管電圧値であるとする。
再構成機能442において処理回路44は、データ収集回路18から出力された投影データに対して対数変換処理やオフセット補正処理、チャネル間の感度補正処理、ビームハードニング補正等の前処理を施す。処理回路44は、前処理後の投影データに対して、フィルタ補正逆投影法や逐次近似再構成法、機械学習等を用いた再構成処理を行い、CT画像を生成する。
画像処理機能443において処理回路44は、再構成機能442により生成されたCT画像を、任意断面の断面画像や任意視点方向のレンダリング画像に変換する。変換は、入力インターフェース43を介して操作者から受け付けた入力操作に基づいて行われる。例えば、処理回路44は、当該CT画像データにボリュームレンダリングや、サーフェスボリュームレンダリング、画像値投影処理、MPR(Multi-Planer Reconstruction)処理、CPR(Curved MPR)処理等の3次元画像処理を施して、任意視点方向のレンダリング画像を生成する。なお、任意視点方向のレンダリング画像の生成は再構成機能442が直接行っても構わない。
撮影条件設定機能444において処理回路44は、管電流変調デュアルエナジースキャンに関する撮影条件を設定する。具体的には、処理回路44は、デュアルエナジースキャンに用いられる第1の管電圧値と第2の管電圧値とを選択する。管電圧値の選択は、ユーザによる入力インターフェース43を介した手動指示又は所定のアルゴリズムに従い自動的に行われる。処理回路44は、第1の管電圧値のもとでの管電流値の時間変化を示す管電流テーブルを設定する。管電流テーブルの設定は、ユーザによる入力インターフェース43を介した手動指示又は所定のアルゴリズムに従い自動的に行われる。
管電流値特定機能445において処理回路44は、If/mAテーブルと第1の管電圧値と第2の管電圧値とに基づいて、第1の管電圧値の管電圧の印可時における第1の管電流値と、第2の管電圧値の管電圧の印可時における第2の管電流値とを特定する。If/mAテーブルは、複数の管電圧値毎に、フィラメント電流値に対応付けた管電流値のテーブルである。If/mAテーブルは、X線照射時の管電流の立ち上がりを適正にするため、各管電圧値及び管電流値の組み合わせ毎に初期設定のフィラメント電流値を調整することにより生成される。この作業は、IF調整と呼ばれる。IF調整により得られたフィラメント電流値は、実装されているX線管11及びX線高電圧装置14の組み合わせ時のエミッション特性とみなすことができる。フィラメント電流値と管電流値との対応関係がX線管11とX線高電圧装置14との組み合わせ毎に異なるため、If/mAテーブルは、当該組み合わせ毎に生成される。If/mAテーブルは、メモリ41に記憶されている。If/mAテーブルは、LUT(Look Up Table)やデータベース、ニューラルネットワーク、数式等、複数の管電圧値毎のフィラメント電流値と管電流値とを対応づける如何なるデータでもよい。
管電流値利用機能446において処理回路44は、第1の管電流値と第2の管電流値とに基づいた処理を実行する。当該処理は、管電流値特定機能445により特定された管電流値を利用した処理であり、以下、管電流値利用処理と呼ぶことにする。
表示制御機能447において処理回路44は、画像処理機能443により生成された各種画像をディスプレイ42に表示する。例えば、CT画像、任意断面の断面画像、任意視点方向のレンダリング画像、撮影条件の設定画面等がディスプレイ42に表示される。
なお、コンソール40は、単一のコンソールにて複数の機能を実行するものとして説明したが、複数の機能を別々のコンソールが実行することにしても構わない。処理回路44は、コンソール40に含まれる場合に限らず、複数の医用画像診断装置にて取得された投影データに対する処理を一括して行う統合サーバに含まれてもよい。後処理は、コンソール40又は外部のワークステーションのどちらで実施することにしても構わない。また、コンソール40とワークステーションの両方で同時に処理することにしても構わない。
ここで、本実施形態に係るX線発生系について、図面を参照してより詳細に説明する。図2は、図1のX線管11とX線高電圧装置14とを含むX線発生系の構成例を示す図である。なお、図2に示す例では、X線管11は陽極接地型である。しかし、X線管11は、陽極接地型に限定されず、中性点接地型等の如何なる型にも適用可能である。
図2に示すように、X線管11は、陰極111及び陽極113を収容している。陰極111は、例えば、タングステンやニッケル等の金属により形成されるフィラメントを有する。陰極111は、ケーブル等を介してX線高電圧装置14に接続されている。陰極111は、X線高電圧装置14からの陰極電圧の印加及びフィラメント電流の供給を受けて発熱し熱電子を放出する。
陽極113は、タングステンやモリブデン等の重金属により形成された円盤形状を有する電極である。陽極113は、図示しない回転子の軸回りの回転に伴い回転する。陰極111と陽極113との間には、X線高電圧装置14により高電圧の管電圧が印加される。陰極111から放出された熱電子は、管電圧の作用により、陽極113に衝突する。陽極113は、熱電子を受けてX線を発生する。
図2に示すように、X線高電圧装置14は、高電圧電源141、管電圧検出回路142、管電圧比較回路143、管電圧制御回路144、フィラメント電源145、管電流検出回路146、管電流比較回路147、フィラメント制御回路148及びメモリ149を有する。X線高電圧装置14の各回路は、例えばASICやFPGAにより実現される。
高電圧電源141は、管電圧制御回路144による制御に従い、X線管11に印加される管電圧を発生する。例えば、インバータ式X線高電圧装置の場合、高電圧電源141は、商用電源からの交流電圧を直流電圧に変換するAC/DCコンバータと、AC/DCコンバータの直流電圧を交流電圧に変換するインバータと、インバータからの交流電圧を昇圧する変圧器と、変圧器により昇圧された交流電圧を整流及び平滑して直流高電圧を発生する高圧整流平滑回路とを有する。高圧整流平滑回路からの直流高電圧は管電圧としてX線管11の陰極111と陽極113との間に印加される。
管電圧検出回路142は、高電圧電源141とX線管11との間に接続される。管電圧検出回路142は、陰極111と陽極113との間に印加された電圧を管電圧として検出する。検出された管電圧値(以下、管電圧検出値と呼ぶ)の信号(以下、管電圧検出信号と呼ぶ)は、管電圧比較回路143及びフィラメント制御回路148に供給される。
管電圧比較回路143は、メモリ149からの管電圧の設定値(以下、管電圧設定値TV_SETと呼ぶ)を示す信号(以下、管電圧設定信号と呼ぶ)と、管電圧検出回路142からの管電圧検出信号とを入力する。管電圧比較回路143は、管電圧設定信号から管電圧検出信号を減じることにより、管電圧設定値TV_SETと管電圧検出値との差分値を示す信号(以下、差分電圧信号と呼ぶ)を生成する。差分電圧信号は、管電圧制御回路144に供給される。
管電圧制御回路144は、デュアルエナジースキャンにおいて、X線管11に印加される管電圧を第1の管電圧値と第2の管電圧値との間で切り替える。具体的には、管電圧制御回路144は、制御装置15からの管電圧切替のタイミングを指示する制御信号(以下、管電圧切替信号S_kV)を入力する。管電圧制御回路144は、管電圧切替信号S_kVに従うタイミングで、管電圧設定値TV_SETを切り替える。管電圧制御回路144は、管電圧検出値と管電圧設定値TV_SETとの比較、すなわち、差分電圧信号に基づいて高電圧電源141を制御する。より詳細には、管電圧制御回路144は、管電圧検出値が管電圧設定値TV_SETに収束するように高電圧電源141をフィードバック制御(以下、管電圧フィードバック制御と呼ぶ)する。また、管電圧制御回路144は、スキャン中に管電圧に関する制御情報I_TVを生成する。管電圧に関する制御情報I_TVは、例えば高管電圧期間であるか否かを示す情報である。管電圧に関する制御情報I_TVは、スキャン中にフィラメント制御回路148に供給される。
フィラメント電源145は、フィラメント制御回路148による制御に従い、陰極111のフィラメントを加熱するためのフィラメント電流を発生する。より詳細には、フィラメント電源145は、陰極111のフィラメントに印加する電圧を制御するインバータ回路を有する。フィラメント電源145は、フィラメント制御回路148による制御に従い、陰極111のフィラメントに印加する電圧を制御することにより、フィラメント電流を発生する。
管電流検出回路146は、高電圧電源141とX線管11との間に接続される。管電流検出回路146は、陰極111から陽極113に熱電子が流れることに起因して流れた電流を管電流として検出する。検出された管電流値(以下、管電流検出値と呼ぶ)の信号(以下、管電流検出信号と呼ぶ)は、管電流比較回路147に供給される。
管電流比較回路147は、メモリ149からの管電流の設定値(以下、管電流設定値TC_SETと呼ぶ)を示す信号(以下、管電流設定信号と呼ぶ)と、管電流検出回路146からの管電流検出信号とを入力する。管電流比較回路147は、管電流設定信号から管電流検出信号を減じることにより、管電流設定値TC_SETと管電流検出値との差分値を示す信号(以下、差分電流信号と呼ぶ)を生成する。差分電流信号は、フィラメント制御回路148に供給される。
フィラメント制御回路148は、管電圧検出回路142からスキャン中に取得される管電圧に関する制御情報I_TVと、管電流比較回路147からの差分電流信号とを入力する。フィラメント制御回路148は、フィラメント電源145の発生するフィラメント電流を制御することにより、管電流を制御する。より詳細には、フィラメント制御回路148は、管電圧に関する制御情報I_TV及び差分電流信号に基づいて、フィラメント電流の設定値(以下、フィラメント電流設定値と呼ぶ)を示す信号(以下、フィラメント電流設定信号S_FC_SETと呼ぶ)を生成する。フィラメント電流設定信号S_FC_SETは、フィラメント電源145に供給される。すなわち、フィラメント制御回路148は、X線管11の管電流を変調させつつ、第1の管電圧値と第2の管電圧値との切り替えに連動して管電流フィードバック制御のオンとオフとを切り替える。フィラメント制御回路148は、管電流制御回路の一例である。
フィラメント電流の制御は、管電流フィードバック制御を含む。管電流フィードバック制御においては、管電流検出値及び管電流設定値に基づいてフィラメント電流設定値が決定される。具体的には、管電流検出値及び管電流目標値の差分値を示す差分電流信号に基づいてフィラメント電流設定値が決定される。フィラメント制御回路148は、管電流フィードバック制御のオンとオフとを、管電圧の切り替えに応じて切り替える。換言すれば、フィラメント制御回路148は、管電圧に関する制御情報I_TVに基づいて、管電流フィードバック制御のオンとオフとを切り替える。
管電流フィードバック制御がオンであるとき、フィラメント制御回路148は、管電流設定値TC_SETに管電流検出値が収束するようにフィラメント電流の設定値を決定する。換言すれば、フィラメント制御回路148は、差分電流信号に基づいてフィラメント電流設定信号S_FC_SETを生成する。管電流フィードバック制御がオフであるとき、フィラメント制御回路148は、その直前に管電流フィードバック制御がオンからオフに切り替わった時点のフィラメント電流設定値を保持する。換言すれば、フィラメント制御回路148は、その直前に管電流フィードバック制御がオンからオフに切り替わった時点のフィラメント電流設定値を示すフィラメント電流設定信号S_FC_SETを生成する。
なお、管電流フィードバック制御がオフであるとき、フィラメント制御回路148は、フィラメント電流の目標値及び検出値に基づいて、フィラメント電流に関するフィードバック制御(以下、フィラメント電流フィードバック制御と呼ぶ)を行ってもよい。このとき、フィラメント電流フィードバック制御の目標値は、その直前に管電流フィードバック制御がオンからオフに切り替わった時点のフィラメント電流設定値に設定される。換言すれば、フィラメント制御回路148は、フィラメント電流の目標値にフィラメント電流の検出値が収束するようにフィラメント電流設定値を決定し、当該フィラメント電流設定値を示すフィラメント電流設定信号S_FC_SETを生成してもよい。
メモリ149は、種々の情報を記憶するHDDやSSD、集積回路記憶装置等の記憶装置である。メモリ149は、CDやDVD、BD、フラッシュメモリ、RAM等の半導体メモリ素子等との間で種々の情報を読み書きする駆動装置であってもよい。また、メモリ149の保存領域は、X線高電圧装置14内にあってもよいし、ネットワークで接続された外部記憶装置内にあってもよい。メモリ149は、例えば、管電圧設定値TV_SETや管電流設定値TC_SET、各種のフィードバック制御で用いられる所定の閾値(収束基準)など、各種の制御パラメータを記憶する。
なお、X線高電圧装置14の各回路は、ASICやFPGAに限らず、CPLDやSPLDにより実現されてもよいし、CPU等のプロセッサとROMやRAM等のメモリとにより実現されてもよい。また、X線高電圧装置14の有する複数の回路は、単一の回路により構成されていてもよいし、互いに異なる回路により構成されていてもよい。また、X線高電圧装置14の各回路は、1つの回路により構成されていてもよいし、複数の独立した回路を組み合わせて構成されていてもよい。
管電圧設定信号及び管電流設定信号は、メモリ149に限らず、それぞれ制御装置15から管電圧比較回路143及び管電流比較回路147へ入力されてもよい。
ここで、管電流変調デュアルエナジースキャンに係る動作例について詳細に説明する。
以下、管電圧設定値TV_SETは、高管電圧側の目標値High_kVと、低管電圧側の目標値Low_kVとに設定されるものとして説明する。このとき、X線高電圧装置14は、高管電圧側の目標値High_kVと、低管電圧側の目標値Low_kVとの間で、X線管11に印加する管電圧を高速に切り替える。
図3は、図2のX線高電圧装置における管電流変調デュアルエナジースキャンの制御シーケンス例を示す図である。管電圧切替信号S_kVは、管電圧の切り替えのタイミングを示す。管電圧TVは、図3に示すように、管電圧切替信号S_kVに従うタイミングで切り替えられる。より詳細には、管電圧制御回路144は、管電圧切替信号S_kVに従うタイミングで、高管電圧側の目標値High_kV(第1の管電圧)と、高管電圧側の目標値High_kVより低い低管電圧側の目標値Low_kV(第2の管電圧)との間でスキャン中にX線管11の管電圧TVを切り替える。図3に示す例では、管電圧制御回路144は、管電圧切替信号S_kVの立ち上がりに同期して、低管電圧側の目標値Low_kVから高管電圧側の目標値High_kVへ管電圧設定値TV_SETを切り替える。また、管電圧制御回路144は、管電圧切替信号S_kVの立ち下がりに同期して、高管電圧側の目標値High_kVから低管電圧側の目標値Low_kVへ管電圧設定値TV_SETを切り替える。
図3の管電圧切替のステータスSTS_kVにおいて、High、Fall、Low及びRiseは、それぞれ、高管電圧期間、高管電圧期間から低管電圧期間への移行期間(以下、降圧期間と呼ぶ)、低管電圧期間及び低管電圧期間から高管電圧期間への移行期間(以下、昇圧期間と呼ぶ)を示す。管電流フィードバック制御のステータスSTS_FBCは、管電流フィードバック制御の制御タイミングを示す。ステータスSTS_FBCのON及びOFFは、それぞれ、管電流フィードバック制御が実施されている状態及び管電流フィードバック制御が実施されていない状態を示す。図3に示す例では、高管電圧期間「High」であるとき、管電流フィードバック制御のステータスSTS_FBCは「ON」であり、管電流フィードバック制御は実行される。一方で、高管電圧期間以外の他の期間「Fall、Low及びRise」であるとき、管電流フィードバック制御のステータスSTS_FBCは「OFF」であり、管電流フィードバック制御は停止される。
図4は、管電流変調デュアルエナジースキャンに関する管電流値TCと管電圧TVとの一例を示す図である。図4に示すように、管電圧TVが目標値High_kVと目標値LOW_kVとの間で高速に切り替えられている間、フィラメント制御回路148は、管電流設定値TC_SETを変調させることにより、X線管11を流れる管電流を変調させる。管電流設定値TC_SETは、時間又はX線管角度の経過に従い緩やかに変調されている。高管電圧期間「High」において管電流フィードバック制御がONであり、他の期間「Fall、Low及びRise」において管電流フィードバック制御がOFFであるので、管電流の高電流側の包絡線が管電流設定値TC_SETに追従することになる。このような管電流フィードバック制御方式によれば、管電流変調デュアルエネルギースキャンにおいて、管電流フィードバック制御を常時ON又はOFFする場合に比して、管電流の低下を防止することができる。
管電流フィードバック制御がONの期間において管電流は、管電流フィードバック制御により管電流設定値TC_SETに追従するので、管電流を制御できるといえる。しかしながら、管電流フィードバック制御がOFFの期間において管電流は、管電流設定値TC_SETに追従せず、管電流設定値TC_SETから下降(ドロップ)する。高管電圧印加時の管電流値から非高管電圧印加時の管電流値への減少分をドロップ量と呼ぶことにする。
図5は、エミッション特性のグラフを示す図である。図5に示すように、エミッション特性は、複数の管電圧毎に、複数の管電流値と複数のフィラメント電流値との対応関係を規定する。管電圧切替時における管電流のドロップ量は、同一の設定フィラメント電流における高管電圧印加時の管電流値と低管電圧印加時の管電流値との差分に相当する。例えば、図5においては、あるフィラメント電流設定値における管電圧V1印加時の管電流値から管電圧V2印加時の管電流値へのドロップ量が図示されている。ドロップ量は、X線管11及びX線高電圧装置14の組み合わせに応じて異なる。
管電流変調デュアルエナジースキャンを実施する前において、スキャン時の管電圧及び管電流の挙動を予測計算し、当該予測計算結果に基づいて管電流値利用処理が行われる。管電流値利用処理の一つとして、スキャン時のX線管11の加熱量の推定が行われている。加熱量の推定に関し、高管電圧印加時と低管電圧印加時との双方において管電流値が同一であると仮定して推定を行う方法がある。しかしながら、上記のように、実際には高管電圧印加時と低管電圧印加時とでは管電流値が異なるので、例えば、高管電圧印加時の管電流値に基づいて加熱量が推定された場合、推定加熱量は、実際の加熱量よりも高い値に見積もられることになる。加熱量が高く見積もられると、X線管11の冷却待ち時間も高く見積もられることになり、結果、CT検査のスループットが低下することとなる。
次に、本実施形態に係る処理回路44による管電流値利用処理に係る一連の処理について説明する。
図6は、処理回路44による管電流値利用処理に係る一連の処理の流れを示す図である。なお、管電流値利用処理としては、例えば、X線管11の加熱量の推定、X線管11の冷却待ち時間の推定、被検体の被曝線量の推定、再構成条件の決定がある。図6において管電流値利用処理は、X線管11の加熱量及び冷却待ち時間の推定処理であるとする。
図6に示すように、処理回路44は、撮影条件設定機能444の実現により、高管電圧値と低管電圧値とを選択する(ステップS1)。ステップS1において処理回路44は、ユーザによる入力インターフェース43を介した高管電圧値と低管電圧値との選択を受け付ける。例えば、高管電圧値と低管電圧値とについて、それぞれ複数の候補値が予め設定されており、ユーザは、複数の候補値の中から高管電圧値と低管電圧値とを指定する。処理回路44は、ユーザにより入力インターフェース43を介して指定された2つの候補値をそれぞれ高管電圧値と低管電圧値とに設定する。
ステップS1が行われると処理回路44は、撮影条件設定機能444の実現により、高管電圧値の管電流テーブルを設定する(ステップS2)。高管電圧値の管電流テーブルは、高管電圧値の管電圧印加時における複数の時間[t]又はX線管角度[°]と複数の管電流値[mA]とを対応付けたテーブルである。複数の時間と複数の管電流値との対応付けを表す曲線、換言すれば、管電流値の時間変化を表す曲線を管電流変調曲線と呼ぶことにする。管電流テーブルは、管電流変調曲線が表す複数の時間又はX線管角度と複数の管電流値とを対応付けている。
図7は、高管電圧値の管電流テーブルが表す管電流変調曲線の一例を図式的に示す図である。図7に示すように、高管電圧値の管電流テーブルは、高管電圧のもとで変調される管電流の値の時間変化のテーブルである。管電流テーブルは、少なくともX線管11一周分の時間範囲の時間変化を規定する。各時刻の管電流値は、例えば、当該時刻のX線管角度と当該X線管角度におけるX線パスの被検体厚とに基づいて決定される。被検体厚は、位置決め画像に画像処理を施すことにより計測されてもよいし、光学計測器等の計測器により計測されてもよいし、ユーザにより入力インターフェース43を介して入力されてもよい。被検体厚が厚いほど管電流値が大きい値に、被検体厚が薄いほど管電流値が小さい値に決定される。各時刻の管電流値は、被検体厚(より詳細には、水等価厚)と管電流値とを対応づけたLUTにより決定されてもよいし、ユーザにより入力インターフェース43を介して指定された値に決定されてもよい。管電流テーブルは、スライス毎に設定される。
ステップS2が行われると処理回路44は、管電流値特定機能445の実現により、低管電圧値の管電流テーブルを生成する(ステップS3)。ステップS3において処理回路44は、ステップS2において設定された管電流テーブルにおいて高管電圧値の管電圧印可時における管電流値を特定し、高管電圧値に関するIf/mAテーブルに基づいて、高管電圧値の管電圧印可時における当該特定された管電流値に対応付けられたフィラメント電流値を特定し、低管電圧値に関するIf/mAテーブルに基づいて、当該特定されたフィラメント電流値に対応付けられた低管電圧値の管電圧印可時における管電流値を特定する。これにより、低管電圧値の管電流テーブルが生成される。低管電圧値の管電流テーブルは、スライス毎に設定される。
以下、図8を参照しながら、ステップS3の処理を説明する。なお、図8において高管電圧値は「V1」、低管電圧値は「V2」であるとする。
図8は、低管電圧値の管電流テーブルの生成処理を模式的に示す図である。図8に示すように、ステップS41において処理回路44は、ステップS2において設定された高管電圧値V1の管電流テーブルを読み出す。処理回路44は、高管電圧値V1の管電流テーブルにおいて特定対象時刻T1を設定する。特定対象時刻T1は、低管電圧印加時の管電流値についての特定対象時刻である。特定対象時刻T1は、高管電圧値V1の管電流テーブルに規定されている全時刻範囲のうちの、少なくとも低管電圧印加時の時刻範囲内の時刻に設定される。なお、ステップS41において特定対象時刻T1は、高管電圧値V1の管電流テーブルに規定されている全時刻範囲内の時刻に設定されるとする。次に処理回路44は、高管電圧値V1の管電流テーブルにおいて特定対象時刻T1に対応付けられた管電流値IHを特定する。
図8に示すように、ステップS42において処理回路44は、高管電圧値V1のIf/mAテーブルをメモリ41から読み出す。高管電圧値V1のIf/mAテーブルは、高管電圧値V1の管電圧印加時における各管電流値と当該管電流値に対応するフィラメント電流値とを対応付けている。処理回路44は、高管電圧値V1のIf/mAテーブルにおいて管電流値IHに対応付けられたフィラメント電流値IFVを特定する。
図8に示すように、ステップS43において処理回路44は、低管電圧値V2のIf/mAテーブルをメモリ41から読み出す。低管電圧値V2のIf/mAテーブルは、低管電圧値V2の管電圧印加時における各管電流値と当該管電流値に対応するフィラメント電流値とを対応付けている。処理回路44は、低管電圧値V2のIf/mAテーブルにおいてフィラメント電流値IFVに対応付けられた管電流値ILを特定する。
図8に示すように、ステップS44において処理回路44は、低管電圧値V2の管電流テーブルのテンプレートにおいて、特定対象時刻T1に管電流値ILを割り当てる。ステップS41-S44を全ての特定対象時刻について繰り返すことにより、低管電圧値V2の管電流テーブルが生成される。
図9は、高管電圧値V1の管電流テーブルが表す管電流変調曲線と低管電圧値V2の管電流テーブルが表す管電流変調曲線とを示す図である。高管電圧値V1の管電流変調曲線と低管電圧値V2の管電流変調曲線とは、各管電圧印加時のもとでの管電流変調スキャンにおける管電流値の時間変化を示し、各時刻においてフィラメント電流値が略一致する。同一時刻における高管電圧値V1の管電流値と低管電圧値V2の管電流値との差分はドロップ量に相当する。
なお、低管電圧値の管電流テーブルの生成方法は、上記のみに限定されず、例えば、高管電圧値の管電流テーブル、高管電圧値のIf/mAテーブル及び低管電圧値のIf/mAテーブルを入力し、低管電圧値の管電流テーブルを出力するニューラルネットワークを用いて、低管電圧値の管電流テーブルが生成されてもよい。
ステップS3が行われると処理回路44は、管電流値特定機能445の実現により、管電流変調デュアルエナジースキャンの管電流テーブルを生成する(ステップS4)。管電流変調デュアルエナジースキャンの管電流テーブルは、ステップS2において設定された高管電圧値の管電流テーブルとステップS3において生成された低管電圧値の管電流テーブルとに基づいて生成される。例えば、処理回路44は、高管電圧値の管電流テーブルと低管電圧値の管電流テーブルと管電圧値の切り替えタイミングとに基づいて、高管電圧値の管電圧印可時における管電流値と低管電圧値の管電圧印可時における管電流値とを特定する。そして処理回路44は、特定された管電流値を各時刻に割り当てることにより、管電流変調デュアルエナジースキャンの管電流テーブルを生成する。管電流変調デュアルエナジースキャンの管電流テーブルは、スライス毎に設定される。
図10は、管電流変調デュアルエナジースキャンの管電流テーブルの生成処理を模式的に示す図である。図10に示す上側の管電流変調曲線は、高管電圧値V1の管電流変調曲線であり、下側の管電流変調曲線は、低管電圧値V2の管電流変調曲線である。また、図10に示す管電流変調曲線の実線部は、管電流変調デュアルエナジースキャンにおいて用いられる部分であり、管電流変調曲線の点線部は、管電流変調デュアルエナジースキャンにおいて用いられない部分である。
図10に示すように、処理回路44は、高管電圧値V1の管電流変調曲線と低管電圧値V2の管電流変調曲線とのうち、高管電圧から低管電圧への切り替え時刻TLから、低管電圧から高管電圧への切り替え時刻THまでの期間は低管電圧値V2の管電流変調曲線部分を選択し、当該期間に低管電圧値V2の管電流値を割り当てる。同様に、処理回路44は、高管電圧値V1の管電流変調曲線と低管電圧値V2の管電流変調曲線とのうち、切り替え時刻THから切り替え時刻TLまでの期間は高管電圧値V1の管電流変調曲線部分を選択し、当該期間に高管電圧値V1の管電流値を割り当てる。これにより、高管電圧値V1及び低管電圧値V2に関する管電流変調デュアルエナジースキャンの管電流テーブルが生成される。これにより、管電流変調デュアルエナジースキャンにおける管電流の変化の詳細を得ることが可能になる。以下、管電流変調デュアルエナジースキャンの管電流テーブルが表す管電流変調曲線を合成管電流変調曲線と呼ぶことにする。合成管電流変調曲線は、各管電圧印加時のもとでの管電流変調スキャンにおける管電流値の時間変化を示し、各時刻においてフィラメント電流値が略一致する。よって、合成管電流変調曲線は、管電圧の切り替えに伴う管電流値のドロップ等、管電流変調デュアルエナジースキャンの管電流値を正確に模擬している。
ステップS4が行われると処理回路44は、管電流値利用機能446の実現により、X線管11の推定加熱量及び推定冷却待ち時間を算出する(ステップS5)。ステップS5において処理回路44は、高管電圧値の管電圧印加時における管電流値と低管電圧値の管電圧印加時における管電流値とに基づいて推定加熱量を算出する。例えば、推定加熱量の推定においては、管電流変調デュアルエナジースキャンにおいて高管電圧値と低管電圧値との平均管電圧値の管電圧を印加するものと仮定する。この場合、まず、処理回路44は、単位時間あたりの高管電圧値と低管電圧値との平均管電圧値を算出する。また、処理回路44は、管電流変調デュアルエナジースキャンのスキャン期間に亘る管電流値の積分値(以下、管電流積分値と呼ぶ)を算出する。例えば、処理回路44は、合成管電流変調曲線を複数の単位時間に区切り、当該単位時間毎に管電流値の積分値を算出し、複数の単位時間の積分値を合計することにより管電流積分値を算出する。そして処理回路44は、平均管電圧値と管電流積分値と任意係数とを乗じて推定加熱量を算出する。
次に、処理回路44は、推定加熱量に基づいて推定冷却待ち時間を算出する。推定冷却待ち時間は、管電流変調デュアルエナジースキャンをX線管11が飽和することなしに終えるために必要な、現在時刻から当該スキャンの開始時刻までの残り時間である。推定冷却時間は、推定加熱量と現時点のX線管11の加熱量とに基づいて算出される。現時点のX線管11の加熱量は、任意の方法により算出又は計測されればよい。
これら推定加熱量及び推定冷却待ち時間は、管電流変調デュアルエナジースキャンにおいて高電圧のみが印加されるという仮定的な条件における管電流値に基づくものではなく、高電圧及び低管電圧が交互に印加されるという実際的な条件における管電流値に基づくものであるので、より正確な値であるといえる。
なお、推定加熱量の算出方法は、上記のみに限定されない。例えば、処理回路は、管電流積分値として、管電流変調デュアルエナジースキャンのスキャン期間に亘り、合成管電流変調曲線の管電流値を積分することにより算出してもよい。この算出方法によれば、より正確な管電流積分値を算出することができる。
また、ステップS5において処理回路44は、管電流変調デュアルエナジースキャンにおいて規定される、高管電圧印加時の管電流値から低管電圧印加時の管電流値へのドロップ量を算出してもよい。例えば、処理回路44は、図10に示すような、任意の切り替え時刻TLにおける高管電圧印加時の管電流値から低管電圧印加時の管電流値へのドロップ量を算出する。また、処理回路44は、各切り替え時刻TLにおけるドロップ量の平均値(以下、平均ドロップ量と呼ぶ)を算出してもよい。
ステップS5が行われると処理回路44は、表示制御機能447の実現により、ステップS5において算出された推定加熱量及び推定冷却待ち時間を表示する(ステップS6)。処理回路44は、ディスプレイ42に推定加熱量及び推定冷却待ち時間を表示する。
図11は、推定加熱量及び推定冷却待ち時間の表示画面I1の一例を示す図である。図11に示すように、表示画面I1には、ステップS1において選択された高管電圧値及び低管電圧値やステップS5において算出された推定加熱量及び推定冷却待ち時間が表示される。
推定冷却待ち時間は、ステップS5において推定冷却待ち時間が算出された時点からの経過時間をリアルタイムで減じられることにより、カウントダウン表示される。推定冷却待ち時間がゼロになるとユーザは、入力インターフェース43を介してスキャン開始指示を入力し、スキャン開始指示の入力がされたことを契機として処理回路44は、撮影制御機能441の実現により、管電流変調デュアルエナジースキャンを実行する。なお、処理回路44は、推定冷却待ち時間がゼロになったことを契機として自動的に管電流変調デュアルエナジースキャンを実行してもよい。
上記の通り、推定加熱量及び推定冷却待ち時間は、管電流変調デュアルエナジースキャンにおいて高電圧のみが印加されるという仮定的な条件における管電流値に基づくものではなく、高電圧及び低管電圧が交互に印加されるという実際的な条件における管電流値に基づくものであるので、より正確な値であるといえる。特に、上記仮定的な条件に基づく加熱量に比して、上記実際的な条件に基づく加熱量は、ドロップ量が加味されているので、高い値に見積もられることなく正確な値になる。よって上記実際的な条件に基づく推定冷却待ち時間は、上記仮定的な条件に基づく推定冷却待ち時間に比して、短い値であり、結果、CT検査のスループットが向上することが期待される。
また、図11に示すように、ステップS5等において平均ドロップ量等のドロップ量が算出された場合、算出されたドロップ量が表示されてもよい。これによりユーザは、デュアルエナジースキャンにおいて高電圧のみが印加されるという仮定的な条件においては算出されることのなかったドロップ量を知ることができる。
また、ステップS6において、処理回路44は、図10に示すような、ステップS4において生成された管電流変調デュアルエナジースキャンの合成管電流変調曲線を表示してもよい。また、図9に示すような、高管電圧値V1の管電流変調曲線と低管電圧値V2の管電流変調曲線とを表示してもよい。これにより、ユーザは、管電流変調デュアルエナジースキャンにおける管電流の挙動を事前に正確に確認することが可能になる。
以上により、本実施形態に係る処理回路44による管電流値利用処理に係る一連の処理が終了する。
なお、上記の管電流値利用処理に係る一連の処理は上記のみに限定されず、種々の変形が可能である。
上記の説明においては、スキャン時において天板32の移動を伴わないコンベンショナルスキャンを前提とした。しかしながら、本実施形態は、スキャン時において天板32の移動を伴うヘリカルスキャンにも適用可能である。
例えば、ステップS2において低管電圧値の管電流テーブルが設定されてもよい。この場合、ステップS3においては低管電圧値の管電流テーブルに基づいて高管電圧値の管電流テーブルが生成されることとなる。管電流変調デュアルエナジースキャンの管電流テーブルを生成することなく、高管電圧値の管電流テーブルと低管電圧値の管電流テーブルとに基づいて推定加熱量及び推定冷却待ち時間を算出可能であれば、ステップS4は実行されなくてもよい。
低管電圧側の目標値Low_kVがゼロに設定され、X線高電圧装置14は、X線管11から射出されるX線のON(照射)とOFF(照射の停止)とを切り替えてもよい。この場合において上述の方法により、X線照射ON時の管電流テーブルは高管電圧値の管電流テーブルと同様に設定可能であり、X線照射OFF時の管電流テーブルは低管電圧値の管電流テーブルと同様に生成可能である。
処理回路44は、推定加熱量に基づいてX線管11の冷却を行ってもよい。具体的には、処理回路44は、推定加熱量に基づいてX線管11の冷却能力を調整する。例えば、処理回路44は、スキャン時刻が決まっている場合、推定加熱量と現在のX線管11の負荷とに基づいて冷却すべき熱量(以下、冷却量と呼ぶ)を推定し、当該冷却量だけ冷却するために必要な単位時間あたりの冷却能力を、冷却量と現在時刻とスキャン開始予定時刻とに基づいて推定する。例えば、X線管11をファンによって冷却する場合、駆動するファンの個数や回転速度、駆動時間等の任意のパラメータが冷却能力として決定されればよい。絶縁油によりX線管11を冷却する場合、絶縁油のタンクの温度や絶縁油の流量等の任意のパラメータが冷却能力として決定されればよい。本実施形態によれば推定加熱量が正確であるので、スキャン予定時刻までにX線管11を十分に冷却することができる。
処理回路44は、管電流値利用機能446の一例として、被検体の被曝線量を推定してもよい。例えば、処理回路44は、管電流変調デュアルエナジースキャンのスキャン時間、管電流値及び管電圧値に基づいて、CTDI(CT Dose Index)等の被曝線量を推定することが可能である。本実施形態によれば、管電流変調デュアルエナジースキャンにおける管電流値の挙動を正確に把握することが可能であるので被曝線量を正確に推定することが可能である。
処理回路44は、管電流値利用機能446の一例として、高管電圧印加時の管電流値と低管電圧印加時の管電流値とに基づいて、管電流変調デュアルエナジースキャンに関する性能評価指数を算出してもよい。性能評価指数としては、例えば、画像SDや被曝線量、コントラスト分解能、空間分解能が算出されるとよい。算出された性能評価指数は、ディスプレイ42に表示される。本実施形態によれば、管電流変調デュアルエナジースキャンにおける管電流値の挙動を正確に把握することが可能であるので、より正確に管電流変調デュアルエナジースキャンのもとでの性能評価指数を算出することが可能である。
処理回路44は、管電流値利用機能446の一例として、再構成条件を決定してもよい。具体的には、処理回路44は、管電流変調デュアルエナジースキャンの管電流値に基づいて時刻毎のノイズを推定し、推定されたノイズ(以下、推定ノイズと呼ぶ)に応じて再構成条件を決定する。例えば、推定ノイズが閾値より高い場合、当該期間に収集された投影データに適用する再構成法として、ノイズ除去に優れ処理量の多い再構成法を決定し、推定ノイズが閾値より低い場合、当該期間に収集された投影データに適用する再構成法として、処理量の少ない再構成法を決定する。また、処理回路44は、推定ノイズに応じて再構成関数等の再構成パラメータを決定してもよい。本実施形態によれば、管電流変調デュアルエナジースキャンにおける管電流値の挙動を正確に把握することが可能であるので、各時刻又は期間に最適な再構成条件を決定することが可能である。
上記実施形態においては、熱電子が陽極に衝突する範囲の寸法である焦点サイズは一定であるとした。しかしながら、本実施形態はこれに限定されない。処理回路44は、焦点サイズを変更可能な機構が備えられている場合、ユーザによる入力インターフェース43を介した指示に従い焦点サイズを選択する。フィラメント電流値と管電流値との関係は、管電圧値だけでなく、焦点サイズにも影響を受ける。よってメモリ41は、複数の管電圧値と複数の焦点サイズとの組み合わせ毎に、フィラメント電流値に管電流値を対応付けたIf/mAテーブルを記憶する。例えば、管電圧値V1及び焦点サイズSSのIf/mAテーブル、管電圧値V1及び焦点サイズSLのIf/mAテーブル、管電圧値V2及び焦点サイズSSのIf/mAテーブル、管電圧値V2及び焦点サイズSLのIf/mAテーブル等が予め生成されメモリ41に記憶される。
図6に示すステップS1において処理回路44は、高管電圧値V1及び低管電圧値V2の他、焦点サイズSLを選択する。焦点サイズSLは、高管電圧値V1及び低管電圧値V2に共通である。処理回路44は、ステップS2において、高管電圧値V1の管電流テーブルを生成し、ステップS3において、選択された高管電圧値V1及び焦点サイズSLの組み合わせに対応するIf/mAテーブルをメモリ41から読み出し、読み出したIf/mAテーブルに基づいて、高管電圧値V1印加時の管電流値を特定し、低管電圧値V2及び焦点サイズSLの組み合わせに対応するIf/mAテーブルをメモリ41から読み出し、読み出したIf/mAテーブルに基づいて、低管電圧値V2印加時の管電流値を特定し、低管電圧値V2の管電流テーブルを生成する。本実施形態によれば、焦点サイズを加味してより正確に管電流変調デュアルエナジースキャンにおける管電流値を特定することが可能になる。
上記の通り、X線コンピュータ断層撮影装置1は、メモリ41及び処理回路44を有する。メモリ41は、複数の管電圧値毎に、フィラメント電流値に対応付けた管電流値のIf/mAテーブルを記憶する。処理回路44は、デュアルエナジースキャンに関する第1の管電圧値と第2の管電圧値とを選択する。処理回路44は、If/mAテーブルと第1の管電圧値と第2の管電圧値とに基づいて、第1の管電圧値の管電圧の印可時における第1の管電流値と、第2の管電圧値の管電圧の印可時における第2の管電流値とを特定する。処理回路44は、第1の管電流値と第2の管電流値とに基づいた処理を実行する。
なお、上記の実施形態は、X線コンピュータ断層撮影装置に適用されるものとしたが、本実施形態は、これに限定されない。本実施形態は、第1の管電圧と第2の管電圧とを交互に切り替えるX線撮影法を実行可能な如何なるX線撮影装置にも適用可能である。このようなX線撮影装置としては、例えば、X線を発生するX線管と、X線管から発生されたX線を検出するX線検出器と、X線管とX線検出器とを移動自在に支持する支持機構と、を有するX線診断装置がある。支持機構としては、略C字形状を有する床置きのCアームやΩ字形状を有する天井刷りのΩアームが知られている。メモリ41及び処理回路44は、X線診断装置のコンソールに搭載可能である。このような構成によれば、デュアルエナジースキャンに関して正確な管電流値に基づく運用を行うX線診断装置を提供することも可能である。
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、デュアルエナジースキャンに関して正確な管電流値に基づく運用を行うことができる。
上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU、GPU、或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC))、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。プロセッサは記憶回路に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、記憶回路にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。また、プログラムを実行するのではなく、論理回路の組合せにより当該プログラムに対応する機能を実現しても良い。なお、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。さらに、図1及び図2における複数の構成要素を1つのプロセッサへ統合してその機能を実現するようにしてもよい。
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。