本願は、全てが参照により本明細書に組み込まれる2018年2月14日出願の米国仮特許出願第62/630,772号の米国特許法第119条(e)下の利益を請求するものである。
本出願は配列表を含み、この配列表は、ASCII形式にて電子提出されており、参照によりその全体がここに組み込まれる。2019年2月12日に作成された前記ASCIIのコピーは、115773_PA895WO_SL.txtと称され、サイズ220,360バイトである。
本明細書に記載されるのは、Fcドメインと、FZD結合ドメインと、Wnt共受容体に対する結合ドメインとを含む多価結合分子であって、上記結合ドメインは、Fcドメインの反対側の末端に付加される。本発明の多価結合分子は、Wntシグナル伝達経路のアゴニストであって、本明細書では互換的にFZDアゴニストまたはFZDagと称される。Wntリガンドは、FZD受容体と共受容体とのクラスター化を促進することによって機能する。理論に拘束されることを望むものではないが、本明細書に記載される多特異性分子は、FZD受容体およびWnt共受容体に同時に結合して、それによってWntシグナル伝達経路を活性化することが想定される。
本明細書に記載されるWntシグナル伝達経路を活性化するための多価結合分子のモジュール性および有効性は、先行文献に記載されているWntサロゲートとは対照的であり、そのWntサロゲートは、一価のFZD結合リガンドとLRP5/6結合リガンドとからなり、Fcドメインの反対側の末端に結合リガンドが付加されていない。本発明の一実施形態では、FZD結合ドメインは、1つまたは複数のFZD受容体に特異的に結合する抗体またはポリペプチドに由来する結合部分を含み、共受容体結合ドメインは、共受容体、例えばLRP5/6、ROR1/2、RYK、またはPTK7に結合する結合部分を含む。本発明の一実施形態では、1つまたは複数のFZD受容体に特異的に結合する抗体またはポリペプチドは、1つまたは複数のFZD受容体のシステインリッチドメイン(CRD)に結合する。
FZD受容体のアミノ酸配列およびをFZD受容体コードするヌクレオチド配列、ならびにFZDまたはWnt共受容体LRP5/6、ROR1/2、RYK、またはPTK7を結合する抗体および抗体のライブラリーは、容易に入手できるか、または、当技術分野に周知の方法を用いて生成することができる(例えば、発明者Gurneyらの米国特許出願公開公報第2015/0232554号、および発明者Sidhuらの米国特許出願公開公報第2016/0194394号、および発明者Panらの米国特許出願公開公報第20190040144号;発明者Wuらの米国特許出願公開公報第2017/0166636号;発明者Chenらの米国特許出願公開公報第2016/0208018号;発明者Machedaらの米国特許出願公開公報第2016/0053022号;発明者Damelinらの米国特許出願公開公報第2015/031293号を参照)。
選択された標的に結合するペプチドまたはポリペプチドを生成するための方法は、当技術分野に周知であり、例えば Sidhu et al. Methods in Enzymology (2000) 328: 333-336を参照されたい。例えば、FZDまたはWnt共受容体に結合するアフィボディのライブラリーは、当技術分野に公知のプロトコール(例えば、米国特許第5,831,012号およびLofblom et al., FEBS Letters 584 (2010) 2670-2680) に従って取得されてもよく;FZDまたはWnt共受容体を結合するペプチドの選択に用いられるアンキリン反復タンパク質のライブラリーは、当技術分野に公知のプロトコール(例えば、発明者StumppらのWO02/020565を参照)に従って取得されてもよく、FZDまたはWnt共受容体を結合するペプチドの選択に用いられるフィブロネクチン反復タンパク質のライブラリーもまた、当技術分野に公知のプロトコール(例えば、発明者DiemおよびJacobsの米国特許第9,200,273号を参照)に従って取得されてもよい。また、FZDまたはWnt共受容体に結合するペプチドは、ヒトFynのSH3ドメインを由来とする小さな結合タンパク質であるフィノマーとしてもよいし、ヒトのアポリポタンパク質Dに基づく人工受容体タンパク質である「アンチカリン」が、当技術分野に公知の方法を用いて生成されてもよく、例えばSilacci et al., J. Biol. Chem (2014) 289(20):14392-8およびVogt and Skerra, ChemBioChem (2004) 5, 191-199を参照されたい。
本明細書に記載される抗原結合ペプチドの供給源として適した抗体は、所望の1つまたは複数の活性を有するポリペプチドについてコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングすることによって、単離されてもよい。例えば、所望の結合特性を有する抗体について、ファージディスプレイライブラリーを生成し、そのようなライブラリーをスクリーニングするための種々の方法が、当技術分野に公知である。そのような方法は、例えばHoogenboom et al., Methods in Molecular Biology 178:1-37(O'Brien et al., ed., Human Press, Totowa, N.J., 2001)に概括され、例えばMcCafferty et al., Nature 348:552-554;Clackson et al., Nature 352: 624-628 (1991);Marks et al., J. Mol. Biol. 222: 581-597 (1992);Marks and Bradbury, Methods in Molecular Biology 248:161-175 (Lo, ed., Human Press, Totowa, N.J., 2003);Sidhu et al., J. Mol. Biol. 338(2): 299-310 (2004);Lee et al., J. Mol. Biol. 340(5): 1073-1093 (2004);Fellouse, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101(34): 12467-12472 (2004);およびLee et al., J. Immunol. Methods 284(1-2): 119-132(2004)にさらに記載されている。ある特定のファージディスプレイ法では、VHおよびVLの遺伝子のレパートリーを、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって別々にクローニングして、ファージライブラリー内にランダムに組み換え、次いで、このライブラリーを、Winter et al., Ann. Rev. Immunol., 12: 433-455 (1994)に記載されるように、抗原結合ファージについてスクリーニングすることができる。ファージは、典型的には抗体断片を、単鎖Fv(scFv)断片またはFab断片のどちらかとして提示する。免疫された供給源から得られたライブラリーは、ハイブリドーマの構築を要することなく、免疫原に対する高親和性抗体を与える。あるいは、ナイーブレパートリーをクローニングして(例えばヒトから)、Griffiths et al., EMBO J, 12: 725-734 (1993)により記載される任意の免疫を行うことなく、広範な非自己抗原およびまた自己抗原に対する単一の供給源の抗体を与えることができる。最後に、ナイーブライブラリーは、合成により作製することもでき、Hoogenboom and Winter, J. Mol. Biol., 227: 381-388 (1992)によって記載されるように、再編成されていないV遺伝子セグメントを幹細胞からクローニングすること、ならびに高度に可変性のCDR3領域をコードするためのかつin vitroでの再編成を達成するためのランダムな配列を含有するPCRプライマーを用いることによって、この作製を行う。ヒト抗体ファージライブラリーを記載する特許公報としては、例えば、米国特許第5,750,373号、ならびに米国特許出願公開公報第2005/0079574号、第2005/0119455号、第2005/0266000号、第2007/0117126号、第2007/0160598号、第2007/0237764号、第2007/0292936号、および第2009/0002360号が挙げられる。ヒト抗体ライブラリーから単離された抗体または抗体断片は、本明細書のヒト抗体またはヒト抗体断片であるものと考えられる。
そのため、当業者は、Fcドメインを容易に調製し、所望の特異性を有する多価のFZD結合ドメインおよびWnt共受容体結合ドメインをFcドメインのN末端およびC末端上で混合し適合させて、所望のFZD受容体および共受容体を結合しそれによって特異的なWnt経路を活性化する多価結合分子を調製するものとなる。これらの特異的なアゴニストは、細胞の増殖、分化、オルガノイドの生存および維持、ならびにin vivoでの組織の再生を亢進する際の強力なツールとして役割を果たすものとなる。これらの特異的なアゴニストはまた、これらのプロセスに含まれるFZD特異性をプロファイリングするための強力なツールとして役割を果たす。例えば、本明細書に記載されるように、FZD4AgではなくFZD5Agが、LGK974処理されたRNF43変異体PDAC細胞株の成長欠陥をレスキューするが、このことは、このプロセスにおいてFZD5がFZD4受容体を超える重要性を有することを強調するものである。
本発明の一実施形態は、細胞上のFZD受容体およびWnt共受容体に対するペプチドによって結合に影響を及ぼす方法であって、本方法では、FZD受容体と共受容体との両方に対するペプチドによる結合が、細胞におけるWntシグナル伝達経路を活性化する。本方法は、C末端およびN末端を有するFcドメイン、またはそのCH3ドメインを含む断片を選択すること、FZD受容体を結合する第1の多価結合ドメインをFcドメインの一方の末端で連結すること、Wnt共受容体に結合する第2の多価結合ドメインをFcドメインの他方の末端で連結すること、それによって多価結合分子を形成すること、および次いで、Wntシグナル伝達経路を活性化する条件下で、前記FZD受容体および共受容体を発現する細胞に多価結合分子を接触させることを含む。
本発明の一実施形態では、本多価結合ドメインは、1つもしくは複数のFZD受容体に結合する単鎖可変断片(ScFv)、FZD受容体もしくは共受容体のリガンド、またはFZD受容体もしくは共受容体に結合するその断片を含むことがある。別の実施形態では、結合ドメインは、1つまたは複数のFZD受容体に結合する単鎖可変断片(ScFv)、FZD受容体もしくは共受容体のリガンド、またはFZD受容体もしくは共受容体に結合するその断片を含まない。
本発明の一実施形態では、少なくとも1つのFZDまたは共受容体の多価結合ドメインは、軽鎖可変ドメイン(VL)に連結された重鎖可変ドメイン(VH)を各ペプチドが含む2つのペプチドを有するダイアボディを含み、その場合、一方のペプチド由来のVHおよびVLは、他方のペプチドのVLおよびVHと対合し、その結果、結合ドメインは2つのエピトープ結合部位を有する。VHドメインおよびVLドメインは、FZD受容体または共受容体上のWnt結合部位に結合する抗体のVHおよびVLであることがある。ある抗体、すなわち元の抗体に由来するVHまたはVLは、元の抗体のVHおよびVLと50%、55%、60%、75%.80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有することがあり、抗体の結合するFZD受容体または共受容体部位への結合性を依然として保持する。
本発明の一実施形態では、本発明の多価結合分子は、表1の多価結合分子を含む(表1は表1Aおよび表1Bを含む:表1Aは本発明の例示的な多価結合分子のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を標示する;表1Bは例示的な多価結合分子の様々なドメインのヌクレオチド配列を標示する)。本発明の一実施形態では、本発明の多価結合分子は、表1の多価結合分子から本質的になる。本発明の一実施形態では、本発明の多価結合分子は、表1の多価結合分子からなる。
本発明の一実施形態では、本多価結合ドメインは、表1の分子の1つまたは複数のVLドメインおよびVHドメインを含む。本発明の一実施形態では、本多価分子の多価結合ドメインは、表1の分子の1つまたは複数のVLドメインおよびVHドメインから本質的になる。本発明の一実施形態では、本多価分子の多価結合ドメインは、表1の分子の1つまたは複数のVLドメインおよびVHドメインからなる。本発明の一実施形態では、本明細書に記載される多価分子の結合ドメインは、表1に規定される分子のVHおよびVLと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の同一性を有し、かつ表1に規定された分子の結合する抗原への結合性を保持する、VHドメインおよびVLドメインを含む。
本発明の一実施形態では、本明細書に記載される多価分子の結合ドメインは、表1に規定される分子の1つまたは複数の相補性決定領域(CDR)を含む。本発明の一実施形態では、本明細書に記載される多価分子の結合ドメインは、表1に規定される分子のCDRと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の同一性を有し、かつ表1に規定される分子の結合する抗原への結合性を保持する、CDRを含む。
本発明の多価結合分子の結合するFZD受容体は、FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、またはFZD10であることがある。FZD受容体は、FZD1、FZD2、FZD4、FZD5、FZD7、またはFZD8であることがある。多価結合分子は、唯一つのFZD受容体に結合してもよいし、1つを超えるFZD受容体へのパン特異的な結合であってもよい。FZD多価結合ドメインは、例えばFZD1、FZD2、FZD4、FZD5、FZD7、およびFZD8に結合してもよい。FZD多価結合ドメインは、1つのFZD受容体、例えばFZD2、FZD4、FZD5、またはFZD6に特異的に結合してもよい。
本発明の一実施形態では、FZD結合ドメインは、単一特異性であり、FZD受容体上の単一のエピトープに結合する。本発明の一実施形態では、FZD結合ドメインは、二重特異性であり、FZD受容体上の2つのエピトープに結合する。
共受容体結合ドメインは、任意のWnt共受容体、例えばLRP5/6またはROR1/2に結合することがある。多価の共受容体結合ドメインは、例えばLRP5/6、PTK7、ROR1/2、RYK、GPR12、TSPAN12、またはCD133に結合することがある。本発明の一実施形態では、共受容体多価結合ドメインは、LRP5またはLRP6に結合する。
本発明の一実施形態では、共受容体多価結合ドメインは、共受容体上の単一のエピトープ、例えばWnt1またはWnt3を結合するLRP5/6のエピトープに結合する。本発明の一実施形態では、共受容体多価結合ドメインは、共受容体内の2つのエピトープ、例えばWnt1に結合するLRP5/6上のエピトープおよびWnt3に結合するエピトープに結合する。本発明の多価結合分子の結合するWnt共受容体は、LRP5またはLRP6、PTK7、ROR1、ROR2、RYK、GPR124、TSPAN12、またはCD133であることがある。
本発明の一実施形態では、本多価結合分子はFcドメインを含み、その場合、Fcドメインは、イムノグロブリンのFcドメイン、またはそのCH3ドメインを含む断片である。本発明の一実施形態では、イムノグロブリンはIgGである。本発明の一実施形態では、IgGはIgG1である。
本発明の一実施形態は、細胞におけるWntシグナル伝達経路を活性化する方法であって、本方法は、FZD受容体およびWnt共受容体を有する細胞を、Wntシグナル伝達を活性化するのに有効な量で本発明の多価結合分子に接触させることを含む。
本発明の一実施形態では、少なくとも1つの多価結合ドメインは、FZD受容体もしくは共受容体を結合するscFvを含むか、またはFZD受容体もしくは共受容体のリガンドもしくは前記リガンドの断片を含む。本発明の一実施形態では、少なくとも1つの多価結合ドメインは、FZD受容体もしくは共受容体を結合するscFvを含まないか、またはFZD受容体もしくは共受容体のリガンドもしくは前記リガンドの断片を含まない。
本発明の一実施形態では、FZD多価結合ドメインはFZDダイアボディを含み、共受容体多価結合ドメインは共受容体ダイアボディを含み、その場合、ダイアボディは、軽鎖可変ドメイン(VL)に連結された重鎖可変ドメイン(VH)を各ペプチドが含む2つのペプチドを含み、結合ドメインは、一方のペプチド由来のVHおよびVLを他方のペプチドのVHおよびVLと対合させ、それにより結合ドメインを形成させることによって、形成される。
FZD結合ドメインのVHおよびVLは、FZD受容体を結合し、Wntシグナル伝達に拮抗するかまたはFZD受容体へのWntリガンドの結合を阻害する、抗体に由来することがある。FZD結合ドメインのVHおよびVLは、FZD受容体へのWntリガンドの結合に拮抗または阻害することなくFZD受容体を結合する、抗体に由来することがある。
共受容体結合ドメインのVHおよびVLは、共受容体を結合し、Wntシグナル伝達を拮抗するかまたは共受容体へのWntリガンドの結合を阻害する、抗体に由来することがある。共受容体結合ドメインのVHおよびVLは、Wntシグナル伝達に拮抗するかまたは共受容体へのWntリガンドの結合を阻害することなく共受容体を結合する、抗体に由来することがある。
本発明の多価結合分子では、結合ドメインの一方または両方は、二価であってもよく、二価の結合ドメインの一方または両方は、FZD受容体または共受容体について二重特異性であってもよい。本発明の一実施形態では、両方の結合ドメインが二価かつ二重特異性であり、各結合ドメインは、それらのそれぞれの標的であるFZD受容体または共受容体上の2つの異なるエピトープに結合する。例えば、結合分子は、FZD受容体に対する二価かつ二重特異性のFZD結合ドメイン(2つの異なるエピトープに結合)を含んでいてもよいし、結合分子は、共受容体に対する二価かつ二重特異性の共受容体結合ドメインを含んでいてもよい。
本発明の一実施形態では、FZD結合ドメインは、本多価結合分子のFcドメインのN末端に付加されており、共受容体結合ドメインは、FcドメインのC末端に付加されている。本発明の一実施形態では、FZD結合ドメインは、本多価結合分子のFcドメインのC末端に付加されており、共受容体結合ドメインは、FcドメインのN末端に付加されている。
また、本発明の一実施形態は、本明細書に記載される多価結合分子をコードする核酸分子であり、そのようなものとしては、多価結合分子をコードする核酸分子を含む発現カセットおよびベクターが挙げられる。この核酸分子は、ベクター内に挿入して、適切な宿主細胞で発現することができ、次いで、当技術分野に周知の方法を用いて、その細胞から本多価結合分子を単離することができる。本発明に使用される際に、用語「ベクター」とは、核酸分子、例えば本明細書に記載される多価結合分子をコードする核酸配列を含有するように工学的に作製できる、核酸送達ビヒクルまたはプラスミドを指す。ポリヌクレオチドを挿入されるとタンパク質を発現することのできるベクターは、発現ベクターとよばれる。ベクターは、形質転換、形質移入、またはトランスフェクションによって宿主細胞内に挿入することができ、その結果、持ち込まれた遺伝子物質を宿主細胞で発現することができる。ベクターは、当技術分野の技術者に周知であり、そのようなものとしては、以下に限定されないが:プラスミド;ファージミド;コスミド;人工染色体、例えば酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、またはP1由来人工染色体(PAC)など;ファージ、例えばラムダファージまたはM13ファージなど、および動物ウイルスなどが挙げられる。動物ウイルスとしては、以下に限定されないが、逆転写酵素ウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス(例えばヘルペス単純ウイルス)、水痘ウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、およびパポバウイルス(SV40など)が挙げられよう。ベクターは、本明細書に記載される多価結合分子の発現を制御する複数の構成成分を含有することができ、そのようなものとしては、以下に限定されないが、プロモーター、例えばウイルスもしくは真核生物のプロモーター、例えばCMVプロモーター、シグナルペプチド、例えばTRYP2シグナルペプチド、転写開始因子、エンハンサー、選択エレメント、およびレポーター遺伝子が挙げられる。さらに、ベクターは、複製開始部位(複数可)も含有することがある。
本発明に使用される際に、用語「宿主細胞」とは、ベクターを移送できる細胞を指し、そのようなものとしては、以下に限定されないが、大腸菌や枯草菌などの原核細胞;酵母やアスペルギルスなどの真菌細胞、S2ショウジョウバエ細胞やSf9などの昆虫細胞、または、ヒト細胞、例えば繊維芽細胞、CHO細胞、COS細胞、NSO細胞、HeLa細胞、BHK細胞、またはHEK293細胞を含む動物細胞が挙げられる。
本発明の一実施形態は、本明細書に記載されるFZDアゴニストを含む医薬組成物および医薬的に許容可能な賦形剤である。本医薬組成物はさらに、Wnt経路を活性化する追加の剤、例えばNorrinまたはR−スポンジンを含むことがある。本医薬組成物は、本明細書に記載される多価結合分子および医薬的に許容可能な担体または賦形剤からなるか、または本質的になることがある。適した担体およびそれらの製剤は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy (19th ed.) ed. A. R. Gennaro, Mack Publishing Company, Easton, Pa. 1995に記載されている。典型的には、適切な量の医薬的に許容可能な塩が、製剤を等張にするように製剤に使用される。医薬的に許容可能な担体の例としては、以下に限定されないが、生理食塩水、リンゲル溶液、およびデキストロース溶液が挙げられる。溶液のpHは、好ましくは約5から約8までであり、さらに好ましくは約7から約7.5である。さらに、担体には、抗体を含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスなどの徐放性調製物が含まれ、そのようなマトリックスは、成形品、例えばフィルム、リポソーム、または微小粒子の形態である。例えば、投与されているFZDアゴニストの投与経路および濃度に応じて、ある特定の担体がより好ましい場合があることが、当業者には明らかとなる。
Wntシグナル伝達は、細胞および組織の分化を調節するユビキタスな経路である。例えば、眼の発生に関しては、ある特定のWnt経路、すなわちNorrin−FZD4経路が、網膜の血管新生で役割を果たすものとして特定されている。Norrin−FZD4経路を介したシグナル伝達は、網膜の脈管構造の発生および維持に必要である。この経路の遺伝子に影響を及ぼす変異は、いくつかの小児性硝子体網膜症、例えばノリエ病、家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR)、および偽神経膠腫・骨粗鬆症症候群を結果として生じることがある。さらに、未熟児網膜症(ROP)は、この経路内の変異に関連があり、Wnt経路の変異は、コーツ病および胎児循環遺残(Persistent Fetal Vasculature (PFV))において報告されている。Norrin−FZD経路はまた、CNSの血管の発生にも関連がある。Norrin、FZD4、Lrp5、および共受容体テトラスパニン12(Tspan−12)を遺伝子的に除去すると、結果として、網膜血管と小脳血管との両方において不完全な血管新生と関門の崩壊とを生じる(Cho et al. (2017) Neuron 95, 1056-1073;Zhou et al., (2014) J Clin Invest 124:3825−3846)。本発明のFZD4アゴニスト、具体的にはFZD4結合ドメインをFc受容体の一方の末端に、ならびにLRP5および/またはLRP6をFcドメインの他方の結合ドメインに含むFZD4 FLAgは、関門機能を強化し、血管新生を推進するものとなること、例えば、FZD4 FLAgによる治療は、網膜の脈管構造および/または 血液網膜関門(BRB)および血液脳関門(BBB)の発生および維持を推進するものとなることが、本明細書に具体的に想定される。そのため、本発明の態様は、局所または全身投与を介して眼組織、例えば網膜組織を有効量のFZD4 FLAgにより治療することによって、網膜脈管構造を促進および/または維持する方法である。また本発明の一態様は、全身投与に従ってBBBを有効量のFZD4 FLAgにより治療することによって、BBB脈管構造を促進および/または維持するための方法である。本発明のさらに別の態様は、網膜または脳の血管新生の低減という特徴がある障害を有する対象に有効量のFZD4 FLAgを投与することによって、そのような対象を治療するための方法であって、この有効量は、そのような対象で網膜または脳の血管新生を増加させるのに十分な量である。対象は胎仔である場合がある。
病理学的に低いレベルのWntシグナル伝達は、骨粗鬆症、多発性嚢胞腎疾患、および神経変性疾患に関連している。Wnt経路の活性化の制御は、組織の修復や創傷治癒などの再生のプロセスを促進することが示されている。Zhao J, Kim KA, and Abo A, Trends Biotechnol. 27(3):131-6 (Mar. 2009)。また、Logan CY and Nusse R, Annu. Rev. Cell. Dev. Biol. 20:781-810 (2004);Nusse R., Cell Res. 15(1):28-32 (Jan. 2005);Clevers H, Cell 127(3):469-80 (3 Nov. 2006)も参照されたい。概念実証(proof-of-concept)実験が行われ、骨粗鬆症または粘膜炎におけるWntシグナル伝達の役割が示されている。さらに、Wntシグナル伝達の増加は、糖尿病および他の代謝疾患の治療に有益である可能性があることが示唆されている。Wntシグナル伝達の減少は、代謝疾患に関連している。機能喪失性のLRP6R611C変異は、ヒトに初期の冠動脈疾患、代謝症候群、および骨粗鬆症をもたらす。Main A et al, Science 315:1278 (2007)。「LRP5の機能喪失性変異は、ヒトにおいて骨粗鬆症、グルコース代謝不全、および高コレステロール血症に関連する」。Saarinnen et al., Clin Endocrinol 72:481 (2010)。LRP5とapoEとの両方を欠失したマウスにおける、重度の高コレステロール血症、脂肪耐性の不全、およびアテローム性動脈硬化の進行。Magoori K. et al., JBC 1 1331 (2003)。LRP5は、マウスにおいて、正常なコレステロール代謝とグルコ−ス誘発性のインスリン分泌に必須である。Fujino et al., PNAS 100:229 (2003)。TCF7L2バリアントは、2型糖尿病のリスクをもたらす。Grant et al., Nat Genet 38:320 (2006);Florez et al., N Engl J Med 355:241 (2006)。Wntシグナル伝達の増加は、代謝疾患を治療するために有益となりうる。したがって、代謝疾患に罹った対象に本発明の多価結合分子を投与することは、対象の代謝疾患を治療するために有用である。
炎症性腸疾患(IBP)は、結腸および小腸の炎症状態の一群である。IBDの主なタイプは、クローン病および潰瘍性大腸炎である。RSP01タンパク質は、動物モデルで炎症性腸疾患を寛解させることが示されている。Zhao J et al., Gastroenterology 132:1331 (2007)。したがって、IBDに罹った対象に本発明の多価結合分子を投与することは、対象のIBDを治療するために有用である。
そのため、本発明の一実施形態は、Wntシグナル伝達の低減に関連した状態を有する対象を治療するための方法であり、この方法は、有効量の本発明のFZDアゴニストを、それを必要とする対象に投与することを含む。上記の状態は、例えば骨粗鬆症、多発性嚢胞腎疾患、神経変性疾患、粘膜炎、短小腸症候群、胃腸粘膜の細菌移行、腸内毒素原性または腸疾患性の感染性下痢、セリアック病、非熱帯性スプルー、乳糖不耐症、および食物への曝露が粘膜繊毛の平滑化および吸収不良を引き起こす他の状態、萎縮性胃炎および糖尿病、骨折、組織の再生、例えば組織の修復および創傷治癒、ならびに糖尿病などの代謝疾患、および黒色腫であることがある。本発明の方法を用いて治療できる損傷組織の例としては、以下に限定されないが、腸組織、心臓組織、肝臓組織、腎臓組織、骨格筋、脳組織、骨組織、結合組織、および皮膚組織が挙げられる。本発明の多価結合分子は、Wntシグナル伝達が低いという特徴を有した疾患または状態に罹った対象に投与することができる。本発明の多価結合分子は、Wntシグナル伝達を増加し対象内の疾患または状態を寛解するのに有効な量で対象に投与される。
粘膜炎は、がん療法の臨床合併症である。粘膜炎は、高速増殖性細胞への放射線照射または化学療法の細胞毒性作用によって引き起こされる。粘膜炎は、主に腸内および口腔の粘膜に影響を及ぼす上皮の損傷からなる。臨床徴候は、口腔の激しい痛み、悪心、下痢、栄養不良であり、重度の場合には、敗血症および死亡である。これらの症状は、多くの場合、がん療法の用量制限に繋がることがある。固形腫瘍に対する化学療法または放射線照射療法に付随する口腔または胃腸の粘膜炎に対し、現在のところ利用可能な治療はない。
口腔粘膜炎は、がん治療の一般的な、そして多くの場合に衰弱させる合併症である。頭頸部がんの放射線療法を受けた患者の50%と、5−FUにより治療された患者の10〜15%が、グレード3〜4の口腔粘膜炎に罹る。RSP01は、動物モデルで口腔粘膜炎を寛解させることが示されている。Zhao J et al., PNAS 106:2331 (2010)。
短小腸症候群(SBS)は、小腸の広範なセグメントの機能的または解剖学的な喪失の結果として生じ、それゆえに、消化能力および吸収能力が激しく損なわれる。毎年、多数の人々が、外傷、炎症性腸疾患、悪性病変、腸間膜虚血などを含めた様々な障害に対し、小腸の長いセグメントの切除を受ける。放射線照射などの様々な非手術性手順が、機能性短小腸症候群を引き起こす可能性がある。短小腸症候群に対する現在の療法としては、食物アプローチ、完全非経口栄養(TPN)、腸の移植、および非移植の腹部手術が挙げられる。これらの治療は、SBS患者のアウトカムの向上に寄与しているものの、小腸機能の低減という根本的な問題を部分的に正すに過ぎない。SBS患者において残りの小腸の回復を加速することができる現行の療法はない。Seetharam and Rodrigues, The Saudi Journal of Gastroenterology 17, 229-235 (2011)を参照されたい。
成体の哺乳動物の消化管は、最も迅速に自己再生する組織の1つを構成し、そこでは、小腸粘膜は、増殖性の陰窩内および分化した絨毛内に折り込まれた連続的な構造を含む。粘膜の崩壊に応答して、宿主は、治癒応答を開始し、結果として粘膜の完全性の回復と粘膜の構造物の再生とをもたらす。この過程は、腸の幹細胞の増殖に大きく依存する。Neal et al., Journal of Surgical Research 167, 1-8 (2010);van der Flier and Clevers, Annual Review of Physiology 71, 241-261 (2009)。
ゆえに、腸の幹細胞の活性を調節する因子は、宿主が腸管内の創傷に応答する能力において優勢な役割を果たす。Wntタンパク質は、腸の幹細胞の増殖を支持する最も重要な成長因子であり、Wntシグナル伝達を増強することによって、腸上皮の増殖が増加するものとなる。これによって、小腸絨毛の数の増加と粘膜吸収表面積の増加とがもたらされるものとなる。
そのため、一実施形態では、本発明の多価結合分子は、短小腸症候群に罹った者に投与される。本多価結合分子は、胃腸の粘膜吸収の表面積を増加させるのに十分な量で投与される。偶発的な短小腸症候群に罹った者が経腸栄養に適応する際に、または一般的なSBSに罹った者が経腸栄養から栄養を吸収する際に、またはその者にとって体重を維持するために毎日必要な非経口栄養の総量がその者で減少する際に、本発明の多価結合分子の投与は、成功したアウトカムを有する。
細菌移行の予防。一実施形態では、本発明の抗体は、腸内細菌によって敗血症を引き起こされるリスクにある者に投与される。多価結合分子は、胃腸粘膜の完全性を増加させて、それゆえに腸内細菌がその者の血流内を通過するのを防止するのに十分な量で投与される。胃腸粘膜の完全性の減少(ヒト集団では正常である胃腸粘膜の完全性に比較した際に)は、重体の病気患者における血流感染および敗血症の主な根源である。集中治療施設(ICU)患者で観察された菌血症および敗血症の症例が、本発明の多価結合分子を投与されていない患者よりも少ない際に、本多価結合分子の投与は、成功したアウトカムを有する。
腸内毒素原性または腸疾患性の感染性下痢の間または後の回復の加速。感染性下痢は、小児の主要な問題である。一実施形態では、本発明の多価結合分子は、下痢の終わるまでの時間または正常な腸管運動までの時間を短縮するのに十分な量で投与される。本発明の多価結合分子は、標準治療に追加して投与することができ、この標準治療は、口腔または非経口の補水と、場合によっては抗生物質とを含む。本発明の多価結合分子を投与されていない小児患者に比べて、入院を減少させるか、入院期間を短縮するか、または脱水および電解質の異常という合併症の発生率の減少が小児患者に観察された際に、本多価結合分子の投与は、成功したアウトカムを有する。
セリアック病、非熱帯性スプルー、乳糖不耐症、および食物への曝露が粘膜繊毛の平滑化および吸収不良を引き起こす他の状態。一実施形態では、本発明の多価結合分子は、粘膜吸収の表面積を増加させるのに十分な量で投与される。本発明の多価結合分子は、標準治療に追加して投与することができ、この標準治療は、主には有害な食物と、場合によっては栄養補助食品とを避ける。セリアック病、非熱帯性スプルー、乳糖不耐症、または他の状態に罹った者が経腸栄養に抵抗するか、または上記状態のいずれかに罹った者が経腸栄養から栄養を吸収するか、またはその者にとって体重を維持するために毎日必要な非経口栄養の総量がその者で減少する際に、本発明の多価結合分子の投与は、成功したアウトカムを有する。
萎縮性胃炎、具体的には環境性異形成萎縮性胃炎と称する形態。萎縮性胃炎は、中高年層によくみられる状態であり、現状ではビタミンB12注射により治療されている。患者では、カルチノイド腫瘍および腺癌のリスクが増加する。カルチノイドの場合に、異形成G細胞からのガストリン産生を減少させることによって、腫瘍の発生率の減少が医療専門家により観察された際に、本多価結合分子の投与は、成功したアウトカムを有する。Wnt経路の増強によって腫瘍が活性化されていることを医療専門家が決定した場合に、本多価結合分子を対象に投与するべきではない。
本発明のFZD アゴニストは、例えば注射によって(例えば皮下、静脈内、腹腔内など)、局所的に、または経口で投与されてもよい。投与経路に応じて、活性化合物を素材に被覆して、化合物を不活化する酸および他の自然条件の作用から化合物を保護してもよい。本明細書に記載される多価結合分子は、医薬的に許容可能な、好ましくは水性の担体に溶解または懸濁されてもよい。さらに、組成物は、賦形剤、例えば緩衝剤、結合剤、噴射剤、希釈剤、香料、潤滑剤などを含有することができる。そのような組成物に使用できる賦形剤の広範な一覧は、例えば、Kibbe, Handbook of Pharmaceutical Excipients (Kibbe, 2000)から引用することができる。本多価結合分子はまた、免疫刺激物質、例えばサイトカインなどと共に投与することができる。
本発明の一実施形態は、誘導多能性幹(iPS)細胞を生産するための方法を含み、この方法は、体細胞を初期化するのに適した条件下で体細胞を培養することを含み、その場合、前記培養条件は、本明細書に記載される多価結合分子をさらに含む。多能性幹細胞を生成するための方法は、当技術分野に周知であり、例えば Takahashi and Yamanaka, (2006), Induction of Pluripotent Stem Cells from Mouse Embryonic and Adult Fibroblast 培養s by Defined Factors, Cell 126, 663−676;Takahashi et al. (2007) Induction of Pluripotent Stem Cells from Adult Human Fibroblasts by Defined Factors Cell 131, 861−872;Yu et al. (2007). Induced pluripotent stem cell lines derived from human somatic cells. Science 318, 1917-1920;米国特許第8,546,140号および;米国特許第8,268,620号を参照されたい。本発明の一実施形態では、本発明の多価結合分子は、iPS細胞の生成を加速するのに十分な量で培養培地に含まれる。
本発明の一実施形態は、多能性幹細胞(PSC)または誘導多能性幹(iPS)細胞の分化を方向付けるための方法を含み、この方法は、定方向分化に適した条件下で細胞を培養することを含み、その場合、前記培養条件は、本明細書に記載される有効量の多価結合分子をさらに含む。マウスおよびヒトのPSCの研究では、成長因子を添加するための特異的なアプローチが特定されており、そのような因子としては、各種系譜にPSCの分化を誘導できるWntが挙げられる。Wntシグナル伝達の活性化を含むPSCの定方向分化のための方法は、当技術分野に公知であり、例えばLam et al. (2014) Semin Nephol 34(4); 445-461; Yucer et al. (September 6, 2017) Scientific Reports 7, Article number 10741を参照されたい。本明細書に記載される多価結合分子を用いてWntシグナル伝達経路の活性化をもたらし、PSCの分化を方向付けできることが想定される。
本発明の一実施形態は、それを必要とする対象で組織の再生を亢進するための方法であり、この方法は、有効量の本明細書に記載の多価結合ペプチドを対象に投与することによって、そのような対象でWntシグナル伝達を活性化することによるものである。
本発明の一実施形態は、それを必要とする対象、例えば骨粗鬆症または骨折を負った対象で骨の治癒および/または 再生を亢進するための方法を含み、この方法は、有効量の本明細書に記載される多価結合分子を投与することによるものである。特定の一実施形態では、本発明の多価結合分子は、FZD2に結合する結合ドメインとLRP5および/またはLRP6に結合する結合ドメインとを含む。これらの結合ドメインは、一価であっても多価であってもよく、例えば二価、三価、または四価であることがあり、単一特異性であっても多特異性であってもよく、例えば二重特異性であることがある。
対象は、任意の動物(例えば哺乳動物)としてよく、そのようなものとしては、以下に限定されないが、ヒト、非ヒト霊長類、ウマ、ウシ、イヌ、ネコ、齧歯類、などが挙げられる。典型的には、対象はヒトである。
本明細書に記載される多価結合分子を投与するための有効な投薬量およびスケジュールは、経験的に決定されてもよく、そのような決定を行うことは、当技術分野の技能の内にある。当業者 は、投与されるべきそのようなFZDアゴニストの投薬量が、例えば抗体を受ける対象、投与経路、使用される具体的なFZDアゴニストのタイプ、および投与されている他の薬物に応じて変わることを、認識するものとなる。FZDアゴニストの適切な用量を選択する際のガイダンスは、抗体の治療的使用に関する文献、例えばHandbook of Monoclonal Antibodies, Ferrone, eds., Noges Publications, Park Ridge, N.J., (1985) ch. 22 and pp. 303-357; Smith, Antibodies in Human Diagnosis and Therapy, Haber, eds., Raven Press, New York (1977) pp. 365-389に見出される。本組成物の投与の投薬量の範囲は、所望の効果を生じるのに十分なものである。投薬量は、有害な副作用、例えば、望まない交差反応、アナフィラキシー反応などを引き起こすほど多くあるべきではない。一般に、投薬量は、年齢、状態、性別、および患者の炎症の程度により変わるものとなり、当業者により決定することができる。投薬量は、任意の禁忌のイベントの際に個々の医師によって調整することができる。投薬量は変わることがあり、1日または何日かにわたって、毎日、1回または複数回の用量投与の際に、投与することができる。個々の必要性が変わるのに対し、ベクターの有効量の最適な範囲を決定することは、当技術分野の技能の内にある。
近年、異なる組織の肉眼解剖学的および細胞型の組成物をまとめた「オルガノイド」とよばれる小器官を培養するための方法が開発されている。意外なことに、完全オルガノイドは、単一の組織幹細胞から生成することができ、それはマウスから単離された腸のLGR5+幹細胞を用いて最初に実証された通りである。Wnt−β−カテニン経路を活性化する培地内の構成成分は、オルガノイドの誘導、成長、生存、および維持に必要であることが知られている。そのため、条件培地として精製または準備されたR−スポンジンおよびWntリガンドは、異なる組織からオルガノイドを成長させるために普遍的に必要である。しかし,精製Wntタンパク質は、一般に特異的な活性が低く、オルガノイドの成長を持続させることができない。ゆえに、当業者は、オルガノイドを生成するために、Wnt3A条件培地の添加、または小分子、例えばGSK3阻害剤の添加に頼る。しかし、Wnt3A条件培地の生産は労働集約的であり、条件培地の特徴は一貫せず、小分子であるGSK3阻害剤は、経路を毒性のレベルに堅固に活性化することがある。本明細書に記載される多価結合分子は、生産および精製が容易であり、一貫した再現性のある特徴を有し、所望のFZD受容体(複数可)と共受容体(複数可)との組合せを選択的に係合することによって特異的にWntを活性化することから、上記の問題を解決するものである。
本発明の一実施形態は、組織オルガノイドを生成するための方法を含み、この方法は、有効量の本明細書に記載される多価結合分子中で組織を培養することを含む。オルガノイドとは、その相当するin vivo器官を模した3Dの多細胞性のin vitro組織構築物であり、それゆえに、組織培養ディッシュ中でその器官の様相を研究するために使用することができる。オルガノイドを生成するための方法は、当技術分野に周知であり、例えば胃腸管などの様々な器官にある成体の幹細胞に由来する上皮オルガノイドはほぼ全て、細胞を維持しかつ細胞型のin vivo様の補完物を生成するという両方のために、Wntシグナル伝達のアゴニストを必要とする(他のシグナル伝達因子の中でも、マトリゲルに包埋することを含めて)。Wntシグナル伝達はまた、3D 培養において内耳オルガノイドの発生を亢進し、腎臓 オルガノイドの生成に使用されており、例えば Natalie de Souza (2018) Nature 方法s 15(1): 23;DeJonge et al. (2016) PLosOne 11(9), e0162508;Akkerman and Defize, (2017) Bioessays 39, 4, 1600244を参照されたい。本発明の多価結合分子は、オルガノイドの培養培地に、それらの成長、生存、および維持を培養にて亢進するのに十分な量で含めることができる。そのため、本発明の一実施形態は、組織オルガノイドの培養を亢進するための方法を含み、この方法は、有効量の本明細書に記載される多価結合分子を含む培養培地を含む。
また、本発明の一態様は、本明細書に記載される多価結合分子を作製するための方法である。本発明の一実施形態では、本多価結合分子は、
a)C末端とN末端とを有するFcドメインを選択すること、
b)1つもしくは複数のFZD受容体に結合する抗体を特定すること、または1つもしくは複数のFZD受容体に結合する抗体を特定すること、
c)1つもしくは複数のWnt共受容体に結合する抗体を特定すること、または1つもしくは複数のWnt共受容体に結合する抗体を特定すること、
d)(i)ステップaのFcドメインをコードするヌクレオチド配列、(ii)ステップbのペプチドをコードするヌクレオチド配列、またはステップbの抗体のVLおよび/もしくはVHをコードするヌクレオチド配列、または1つもしくは複数のFZD受容体を結合するステップbの抗体に由来するVLおよび/もしくはVHをコードするヌクレオチド配列、ならびに(iii)ステップcのペプチドをコードするヌクレオチド配列、またはステップcの抗体のVLおよび/もしくはVHコードするヌクレオチド配列、または1つもしくは複数のWnt共受容体に結合するステップcの抗体に由来するVLおよび/もしくはVHをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を生成すること、
e)(d)の核酸分子を発現してポリペプチドを生産することであって、ポリペプチドは、二量体化して、(i)Fcドメイン、(ii)FZD結合ドメイン、および(iii)Wnt共受容体結合ドメインを含む四価結合分子を形成し、FZD結合ドメインは、ステップbのペプチドまたはステップbのVLおよび/もしくはVHを含み、かつFcドメインの一方の末端に連結され、Wnt共受容体結合ドメインは、ステップcのペプチドまたはステップcのVLおよび/もしくはVHを含み、かつFcドメインの他方の末端に連結され、それによって多特異的な結合分子を形成すること
によって生成される。
上記FZD受容体の1つまたは複数に結合するペプチドは、合成のポリペプチド、例えば合成ペプチド、アフィボディ、アンキリン反復タンパク質、フィブロネクチン反復タンパク質、フィノマー、アンチカリンであってもよいし、FZD受容体を結合する天然のタンパク質のペプチドであってもよい。天然のタンパク質は、例えばWntであることがあり、例えばWnt−1、Wnt−2、Wnt−2b、Wnt−3a、Wnt−4、Wnt−5a、Wnt−5b、Wnt−6、Wnt−7a、Wnt−7a/b、Wnt−7b、Wnt−8a、Wnt−8b、Wnt−9a、Wnt−9b、Wnt−10a、Wnt−10b、Wnt−11、Wnt−16bであることがある。ステップbのペプチドは、多価であってFZD上の1つを超える部位に結合するものであってよく、例えば二価、三価、または四価であることがあり、単一特異性であって単一のエピトープに結合するものであってもよいし、多特異性であってFZD上の1つを超えるエピトープに結合するものであってもよい。
Wnt共受容体のうち1つまたは複数に結合するペプチドは、合成ペプチド、例えばアフィボディ、アンキリン反復タンパク質、フィブロネクチン反復タンパク質、フィノマー、もしくはアンチカリンであってもよいし、Wnt共受容体を結合する天然のタンパク質のペプチドであってもよい。天然のタンパク質は、例えばWntであることがあり、例えばWnt−1、Wnt−2、Wnt−2b、Wnt−3a、Wnt−4、Wnt−5a、Wnt−5b、Wnt−6、Wnt−7a、Wnt−7a/b、Wnt−7b、Wnt−8a、Wnt−8b、Wnt−9a、Wnt−9b、Wnt−10a、Wnt−10b、Wnt−11、もしくはWnt−16b、またはDickkopf−1であることがある。
ステップcのペプチドは、多価であってWnt共受容体上の1つを超えるエピトープに結合するものであってよく、例えば二価、三価、または四価であることがあり、単一特異性であって単一のエピトープに結合するものであってもよいし、多特異性であってWnt共受容体上の1つを超えるエピトープに結合するものであってもよい。
FZD受容体を結合する天然のタンパク質とWnt共受容体を結合する天然のタンパク質とは、同じタンパク質であることがある。
一実施形態では、ステップbのペプチドまたは抗体は、FZD2を結合することがあり、ステップcのペプチドは、Wnt5aのペプチドであることがあり、ステップcの抗体は、Wnt5aに結合する共受容体上の部位に結合する抗体であることがある。
一実施形態では、ステップbのペプチドまたは抗体は、FZD4を結合することがあり、ステップcのペプチドは、Norrin、Wnt1、Wnt8、またはWnt5aのうち1つまたは複数のペプチドであることがあり、ステップcの抗体は、Norrin、Wnt1、Wnt8、またはWnt5aに結合する共受容体上の部位に結合する抗体であることがある。
一実施形態では、ステップbのペプチドまたは抗体は、FZD5を結合することがあり、ステップcのペプチドは、Wnt7a、Wnt5a、Wnt10b、またはWnt2のうち1つまたは複数のペプチドであることがあり、ステップcの抗体は、共受容体上の部位に結合する抗体であることがあり、その場合、この部位は、Wnt7a、Wnt5a、Wnt10b、またはWnt2のうち1つまたは複数に結合する。
一実施形態では、ステップcのペプチドまたは抗体は、LRP6および/またはLRP5を結合することがあり、例えば、このペプチドは、Norrin、Wnt1および/またはWnt3aのペプチドであることがあり、ステップcの抗体は、LRP6/LRP5上の部位に結合する抗体であることがあり、その場合、この部位は、Norrin、Wnt1および/またはWnt3aを結合する。
一実施形態では、ステップcのペプチドまたは抗体は、LRP6を結合することがあり、例えば、このペプチドは、Wnt1もしくはWnt3a、または両方のペプチドであることがあり、抗体は、Wnt1またはWnt3aを結合するLRP6上の部位を結合する抗体であることがある。
一実施形態では、ステップcのペプチドまたは抗体は、ROR1および/またはROR2を結合する。
一実施形態では、ステップcのペプチドまたは抗体は、RYKを結合することがある。
一実施形態では、ステップcのペプチドまたは抗体は、PTK7を結合することがある。
一実施形態では、ステップ(b)のペプチドまたは抗体は、1つまたは複数のFZD受容体に結合し、Wntシグナル伝達に拮抗するかまたは受容体へのWntの結合を阻害する、ペプチドまたは抗体であることがある。一実施形態では、ステップ(b)のペプチドまたは抗体は、Wntシグナル伝達を拮抗することまたは受容体へのWntの結合を阻害することなく、1つまたは複数のFZD受容体に結合する、ペプチドまたは抗体であることがある。一実施形態では、ステップ(c)のペプチドまたは抗体は、Wnt共受容体のうち1つまたは複数に結合し、Wntシグナル伝達に拮抗するかまたは共受容体へのWntの結合を阻害する、ペプチドまたは抗体であることがある。一実施形態では、ステップ(c)のペプチドまたは抗体は、Wntシグナル伝達に拮抗することまたは共受容体へのWntの結合を阻害することなく、Wnt共受容体に結合する、ペプチドまたは抗体であることがある。結合ドメインは、リンカーを介してFcドメインに連結されることがある。本発明のモジュール態様によって、Fcドメインの反対側の末端にある任意の所与のFZD受容体およびWnt共受容体に結合する、ペプチドまたは抗体のVHおよびVLを混合するかまたは適合させて、複数のFrizzled受容体−共受容体複合体を係合できる多価結合分子を生成するか、または単一のFrizzled受容体−共受容体複合体を選択的に係合してWntシグナル伝達を活性化することが可能になる。
本発明の一実施形態は、Wntシグナル伝達経路を活性化する多価結合分子を作製する方法であって、本方法は、
a)C末端とN末端とを有するFcドメインを選択すること
例えばCH3ドメインを含むイムノグロブリンのFcドメイン、例えばIgG、例えばIgG1を選択すること、
b)1つまたは複数のFZD受容体に対する結合特異性を有する抗体を特定すること、
c)Wnt共受容体に対する結合特異性を有する抗体を特定すること、
d)(i)選択されたFcドメインをコードするヌクレオチド配列と、
(ii)ステップbの抗体に由来するVLおよび/またはVHをコードするヌクレオチド配列と、
(iii)ステップcの抗体に由来するVLおよび/またはVHをコードするヌクレオチド配列と
を含む核酸分子を生成すること、
d)(d)の核酸分子を発現してポリペプチドを生産することであって、ポリペプチドは、Fcドメインを介して二量体化して、(i)Fcドメイン、(ii)FZD結合ドメイン、および(iii)Wnt共受容体結合ドメインを含む多価結合分子を形成し、その結果、FZD結合ドメインは、Fcドメインの一方の末端に連結され、Wnt共受容体結合ドメインは、Fcドメインの他方の末端に連結されそれによって多特異的な結合分子を形成すること、を含む。好適な実施形態では、本多価結合分子は、Fcドメインがknob in hole立体配置である核酸分子をコードする、2つのポリペプチドの二量体である。結合ドメインの一方または両方は、多価結合ドメインであることがある。ステップbの抗体は、FZD受容体を結合する抗体断片であることがある。ステップd)(ii)のVHおよび/またはVLは、ステップb)の抗体のVHおよび/またはVLと同一であることがある。ステップcの抗体は、Wnt共受容体を結合する抗体断片であることがある。ステップd)(iii)のVHおよび/またはVLは、ステップc)の抗体のVHおよび/またはVLと同一であることがある。
本発明の多価分子は、2つのポリペプチドを「knob−in−hole」立体配置で二量体化することによって生成されることがある。knob−in−hole立体配置は、FZD受容体もしくは共受容体上の異なるエピトープを結合するか、または同じFZD受容体もしくは共受容体ファミリーの異なるメンバーに結合する、結合部分を含むペプチドの会合を推進することによって、本発明のモジュール性を増加させるものであり、例えば図3Aを参照されたい。knobs into hole設計を介してFc分子を工学的に作製する方法は、当技術分野に周知であり、例えば、発明者Van DykらのWO2018/026942、Carter P. (2001) J. Immunol. Methods 248, 7−15;Ridgway et al. (1996) Protein Eng. 9, 617−621;Merchant A. M., et al.. (1998) Nat. Biotechnol. 16, 677−681および; et al., (1997) J. Mol. Biol. 270, 26−35を参照されたい。
本発明の別の実施形態は、細胞上でFZD受容体と共受容体との相互作用を推進し、それによって細胞でWntシグナル伝達経路を活性化するための方法であり、この方法は、a)C末端とN末端とを有するFcドメイン、またはCH3ドメインを含むその断片を選択すること;b)FZD受容体を結合する第1の多価結合ドメインをFcドメインの一方の末端に連結し、Wnt共受容体に結合する第2の結合ドメインをFcドメインの他方の末端に連結し、それによって結合分子を形成すること;c)条件下で前記FZD受容体とWnt共受容体とを発現する細胞に前記多価結合分子を接触させることであって、FZD受容体と共受容体との両方が本多価結合分子に結合し、それによってWntシグナル伝達経路を活性化することを含む。結合ドメインの一方または両方は、一価であっても多価であってもよく、例えば二価、三価、または四価であってよい。FZD結合ドメインは、FZDを結合する天然のタンパク質のペプチド;FZDを結合する合成ペプチド、例えばアフィボディ、アンキリン反復タンパク質、フィブロネクチン反復タンパク質、フィノマー、もしくはアンチカリン;FZDを結合するVH断片および/もしくはVL断片;FZDを結合するscFV;またはFZDを結合するダイアボディを含むことがある。Wnt共受容体結合ドメインは、Wnt共受容体を結合する天然のタンパク質のペプチド、;Wnt共受容体を結合する合成ペプチド、例えばアフィボディ、アンキリン反復タンパク質、フィブロネクチン反復タンパク質、フィノマー、またはアンチカリン;Wnt共受容体を結合するVHおよび/もしくはVL断片;Wnt共受容体を結合するscFV;またはWnt共受容体を結合するダイアボディを含むことがある。
本発明の一実施形態は、Fcドメインと2つの結合ドメインとを含む分子であり、第1のドメインは、FZD受容体に結合し、第2のドメインは、Wnt共受容体に結合し、これら2つの部分は、Fcドメイン、またはそのCH3ドメインを含む断片によって合わせて連結されるが、その場合、一方のドメインは、Fc受容体のN末端に連結され、他方のドメインは、Fc受容体のC末端に連結される。結合ドメインは、直接的に、またはペプチドリンカー、例えばポリペプチドリンカーもしくは非ペプチド性リンカーを介して、Fc受容体に連結されることがある。適したリンカーは、当技術分野に周知であり、例えばXTENリンカーである(発明者SchellenbergerらのWO2013120683を参照)。
本発明の一実施形態は、Wntシグナル伝達経路を活性化するための方法であり、FZD受容体およびその共受容体を発現する細胞を有効量の本発明の多価分子に接触させることを含む。理論に拘束されることを望むものではないが、本明細書に記載される多価分子は、FZD受容体とその共受容体との両方を結合して、それによってFZD受容体および共受容体(複数可)へのWnt分子の結合を模した複合体を形成し、次いでWntシグナル伝達経路を活性化することが想定される。
本発明の多価結合分子は、組換えによって、例えばギブソン・アセンブリ(Gibson et al. (2009).. Nature Methods. 6 (5): 343−345 and Gibson DG. (2011). Methods in Enzymology. 498: 349−361を参照)によって作製されてもよいし、この分子は、合成によって、例えば市販の合成装置、例えばアプライドバイオシステムズ社、ベックマンなどの自動合成機などを用いて、作製されてもよい。合成機を使用することによって、天然のアミノ酸を、非天然アミノ酸に置換してもよい。調製の具体的な配列および様式は、簡便性、経済性、必要な純度などによって決定されるものとなる。必要に応じて、様々な基が、合成の間または発現の間にペプチド内に導入され、それらの基によって、他の分子または表面への連結が可能になる。
実施形態によっては、結合ドメインは、ペプチドリンカー、例えばXTENリンカーを介してFcドメインに付加している。実施形態によっては、ペプチドリンカーは、少なくとも2アミノ酸、3アミノ酸、4アミノ酸、5アミノ酸、6アミノ酸、7アミノ酸、8アミノ酸、9アミノ酸、10アミノ酸、11アミノ酸、12アミノ酸、13アミノ酸、14アミノ酸、15アミノ酸、16アミノ酸、17アミノ酸、18アミノ酸、19アミノ酸、20アミノ酸、21アミノ酸、22アミノ酸、23アミノ酸、24アミノ酸、25アミノ酸、26アミノ酸、27アミノ酸、28アミノ酸、29アミノ酸、30アミノ酸、31アミノ酸、32アミノ酸、33アミノ酸、34アミノ酸、35アミノ酸、36アミノ酸、37アミノ酸、38アミノ酸、39アミノ酸、40アミノ酸、41アミノ酸、42アミノ酸、43アミノ酸、44アミノ酸、45アミノ酸、46アミノ酸、47アミノ酸、48アミノ酸、49アミノ酸、50アミノ酸、51アミノ酸、52アミノ酸、53アミノ酸、54アミノ酸、55アミノ酸、56アミノ酸、57アミノ酸、58アミノ酸、59アミノ酸、60アミノ酸、61アミノ酸、62アミノ酸、63アミノ酸、64アミノ酸、65アミノ酸、66アミノ酸、67アミノ酸、68アミノ酸、69アミノ酸、70アミノ酸、71アミノ酸、72アミノ酸、73アミノ酸、74アミノ酸、75アミノ酸、76アミノ酸、77アミノ酸、78アミノ酸、79アミノ酸、80アミノ酸、81アミノ酸、82アミノ酸、83アミノ酸、84アミノ酸、85アミノ酸、86アミノ酸、87アミノ酸、88アミノ酸、89アミノ酸、90アミノ酸、91アミノ酸、92アミノ酸、93アミノ酸、94アミノ酸、95アミノ酸、96アミノ酸、97アミノ酸、98アミノ酸、99アミノ酸、または少なくとも100アミノ酸を含む。実施形態によっては、ペプチドリンカーは、5アミノ酸から75の間、5アミノ酸から50アミノ酸の間、5アミノ酸から25アミノ酸の間、5アミノ酸から20アミノ酸の間、5アミノ酸から15アミノ酸の間、または5アミノ酸から10アミノ酸の長さである。リンカーを有するかまたは有さないFcドメインは、本多価結合分子がFZD受容体とその共受容体との両方に結合してそれによってWntシグナル伝達経路を活性化することを可能にする長さおよび可撓性を有する。本発明の一実施形態では、リンカーを含むかまたは含まないFcドメイン、またはそのCH3ドメインを含む断片は、100アミノ酸超、125アミノ酸超、150アミノ酸超、175アミノ酸超、または200アミノ酸超である。
本明細書に記載される際に、および添付の特許請求の範囲では、単数形「a」、「an」、および「the」は、別段に文脈が明確に述べない限り、複数の言及を含むことに留意しなければならない。そのため、例えば、「細胞(a cell)」という言及は、複数のそのような細胞を含み、「ペプチド(the peptide)」という言及は、1つまたは複数のペプチドおよびそれらの等価物、例えば、当業者に公知のポリペプチドなどへの言及を含む。
「親和性成熟」抗体または「抗体の成熟」とは、1つまたは複数の超可変領域(HVR)内に1つまたは複数の変更を、そのような変更のない親抗体または供給源抗体に比べて有する抗体を指し、そのような変更は、抗原に対する抗体の親和性の向上、または分子の他の望ましい性質の向上をもたらす。
「含む」は、言及された要素が組成物/方法/キットに必要であるが、特許請求の範囲内で他の要素が組成物/方法/キットなどを形成するために含まれてもよいことを意味する。例えば、多価結合分子を含む組成物は、多価結合分子に加えて他の要素、例えば、多価結合分子に例えば共有結合で結合したポリペプチド、小分子、または核酸などの機能的部分;多価結合分子組成物の安定性を促進する剤、多価結合分子組成物の溶解性を促進する剤、アジュバントなどを含む場合がある組成物であり、任意の負の条件によって包含される要素を除いて、当技術分野に容易に理解される通りである。
「から本質的になる」は、主題の発明の基本的なおよび新規の特徴(複数可)に物質的に影響を及ぼさない指定された物質またはステップに対する、記載された組成物または方法の範囲の限定を意味する。例えば、開示された配列「から本質的になる」多価結合分子は、開示された配列のアミノ酸配列が、その由来とした配列に基づき配列の境界で約5アミノ酸残基をプラスまたはマイナスされており、例えば、言及された境界のアミノ酸残基よりも約5残基、4残基、3残基、2残基、または約1残基少ないか、または言及された境界のアミノ酸残基よりも約1残基、2残基、3残基、4残基、または5残基多い。
「からなる」は、特許請求の範囲に指定されない任意の要素、ステップ、または成分を組成物、方法、またはキットから排除することを意味する。例えば、開示された配列「からなる」多価結合分子は、その開示されたアミノ酸配列のみからなる。
値の範囲が示される場合に、各介在値はまた、別段にコンテクストが明確に述べない限り下限値の単位の10分の1まで、その範囲の上限値と下限値との間で、具体的に開示されることが理解される。記述された範囲内の記述値または介在値と記述された範囲内の任意の他の記述値または介在値との間にある小さな範囲はそれぞれ、本発明の内に包含される。これらの小さな範囲の上限値および下限値は、上記範囲に独立して含まれるかまたは除外され、その小さな範囲に極限値のどちらかまたは両方が含まれるかまたはどちらも含まれない範囲もそれぞれ、記述された範囲内の任意の具体的に除外された極限値に従って、本発明の内に包含される。記述された範囲が極限値の一方または両方を含む場合、それらの含めた極限値のどちらかまたは両方を除外した範囲も、本発明に含められる。
基本的な抗体の構造単位は、四量体を含むことが知られている。各四量体は、2つの同一のポリペプチド鎖の対から構成され、各対は、1本の「軽」(約25kDa)および1本の「重」鎖(約50〜70kDa)を有する。各鎖のアミノ末端部分は、主に抗原認識に関与する約100から110アミノ酸以上の可変領域を含む。各鎖のカルボキシ末端部分は、主にエフェクター機能に関与する定常領域を画定する。概して、ヒトから取得された抗体分子は、IgG、IgM、IgA、IgE、およびIgDのいずれかのクラスに関連し、それらは分子内に存在する重鎖の性質によって互いに異なる。ある特定のクラスは、さらにサブクラスを、例えばIgG1、IgG2、およびその他を有する。さらに、ヒトでは、軽鎖はカッパ鎖またはラムダ鎖であることがある。
相補性決定領域(CDR)と称された重鎖可変ドメインVHおよび軽鎖可変ドメインVLのそれぞれの中にある3つの高度に多様なストレッチが、「フレームワーク領域」または「FR」として知られるさらに保存された側面ストレッチの間に介在している。そのため、用語「FR」とは、イムノグロブリンのCDRの間または隣に天然に見出されるアミノ酸配列を指す。VHドメインは、典型的には4つのFRを有し、それらは本明細書では、VHフレームワーク領域1(FR1)、VHフレームワーク領域2(FR2)、VHフレームワーク領域3(FR3)、およびVHフレームワーク領域4(FR4)と称する。同様に、VLドメインは、典型的には4つのFRを有し、それらは本明細書では、VLフレームワーク領域1(FR1)、VLフレームワーク領域2(FR2)、VLフレームワーク領域3(FR3)、およびVLフレームワーク領域4(FR4)と称する。一抗体分子では、VLドメインの3つのCDR(CDR−L1、CDR−L2、およびCDR−L3)ならびにVHドメインの3つのCDR(CDR−H1、CDR−H2、およびCDR−H3)が、三次元空間に互いに関連して配置されて、抗体の可変領域.内に抗原結合部位を形成する。抗原結合部位の表面は、結合された抗原の3次元面に相補的である。VLドメインおよびVHドメインのアミノ酸配列は、付番されてもよく、その中のCDRおよびFRは、カバット付番体系(Kabat et al., 1991, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md.)または国際免疫遺伝学情報システム(IMGT付番体系;Lefranc et al., 2003, Development and Comparative Immunology 27:55-77)に従って特定/画定されてもよい。当業者は、VLドメインおよびVHドメインアミノ酸残基を付番し、その中のCDRおよびFRをIMGT付番体系、カバット付番体系などの定型的に採用される付番体系に従って特定するための知識を有するものとなる。
抗体の「抗原結合部分」または「抗原結合断片」(または単純に「抗体部分」または「抗体断片」)という用語は、本明細書に使用される際には、抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つまたは複数の断片、部分、またはドメインを指す。完全長抗体の断片は、抗体の抗原結合機能を実施できることが示されている。抗体の「抗原結合部分」という用語に包含される結合断片の例としては、(i)VLドメイン、VHドメイン、CL1ドメイン、およびCH1ドメインからなる一価の断片である、Fab断片;(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのF(ab)’断片を含む二価の断片である、F(ab’)2断片;(iii)VHドメインとCH1ドメインとからなる、Fd断片;(iv)抗体の単一の腕のVLドメインとVHドメインとからなる、Fv断片;(v)VHドメインからなる、dAb断片(Ward et al. (1989) Nature 241:544-546);および(vi)単離された相補性決定領域(CDR)が挙げられる。さらに、Fv断片の2つのドメインであるVLおよびVHは、別々の遺伝子によってコードされるが、それらは、単一の連続した鎖としての作製を可能にする合成リンカーによって、組換え法を用いて連結することができ、その場合、VL領域とVH領域とが対合して一価の分子を形成する(単鎖Fv(scFv)として知られる;例えばBird et al. (1988) Science 242:423-426;およびHuston et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883を参照)。そのような単鎖抗体はまた、抗体の「抗原結合部分」という用語に包含されることが意図される。ダイアボディなどの単鎖抗体の他の形態も包含される(例えばHolliger et al. (1993) PNAS. USA 90:6444-6448を参照)。
「アフィボディ」は、モノクローナル抗体を模して多数の標的タンパク質またはペプチドに高い親和性で結合するように工学的に改変された、小さな単一のドメインタンパク質である。それらは、ブドウ球菌タンパク質AのIgG結合ドメインのうち1つのスキャフォールドに基づく3つのヘリックスの束から構成される。このスキャフォールドドメインは、58アミノ酸からなり、そのうち13個が無作為化されて、多数のリガンドバリアントを含むアフィボディライブラリーが生成される。例えば、米国特許第5,831,012号およびLofblom et al. FEBS Letters 584 (2010) 2670-2680を参照されたい。アフィボディ分子の模倣抗体は、約6kDaの分子量を有する。
本明細書に使用される際の「ダイアボディ」は、二量体の抗体 断片である。重鎖可変ドメイン(VH)の各ポリペプチドは、軽鎖可変ドメイン(VL)に連結されるが、単鎖Fv断片とは異なって、VLとVHとの間のリンカーは分子内で対合するには短く、それゆえに各抗原結合部位は、一方のポリペプチドのVHおよびVLと他方のポリペプチドのVHおよびVLとの対合によって形成され、例えば図3Aを参照されたい。そのため、ダイアボディは、2つの抗原結合部位を有し、単一特異性または二重特異性とすることができる(例えばHolliger, P., et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-6448;Poljak, R. J., et al. (1994) Structure 2:1121-1123;Kontermann and Dubel eds., Antibody Engineering (2001) Springer-Verlag. New York. 790 pp. (ISBN 3-540-41354-5を参照)。
本明細書に使用される際に、剤、例えば多価結合分子またはその分子を含む医薬組成物の「有効量」とは、必要な投薬量でおよび期間にわたって、所望の結果を達成するのに有効な量を指す。実施形態によっては、治療有効量は、疾患、障害、および/もしくは状態の1つまたは複数の症状の発生率および/もしくは重症度を低減し、1つまたは複数の特徴を安定化し、ならびに/または発症を遅延させるものである。
本明細書に使用される際に、用語「エピトープ」は、イムノグロブリンもしくはその断片またはT細胞受容体に特異的に結合できる任意のタンパク質決定子である。用語「エピトープ」は、イムノグロブリンまたはT細胞受容体に特異的に結合できる任意のタンパク質決定子を含む。エピトープ決定子は、通常は分子の化学的に活性な表面基、例えばアミノ酸側鎖または糖側鎖からなり、通常は特異的な三次元構造、ならびに特異的な電荷の特徴を有する。抗体は、解離定数が≦10μM、例えば≦100nM、好ましくは≦10nM、さらに好ましくは≦1nM.である際に、抗原に特異的に結合すると言われる。
イムノグロブリン分子の定常領域は、断片結晶化可能領域、「Fc領域」、または「Fcドメイン」とも呼ばれる。Fcドメインは、2つの同一のタンパク質断片からなり、それらの断片は、抗体の2つの重鎖の第2および第3の定常ドメインに由来し、IgGのFcドメインは、高度に保存されたN型糖鎖修飾部位を担持する。Fc断片の糖鎖修飾は、Fc受容体により媒介される
活性に必須である。本発明の一実施形態では、多価分子のFcドメインは、ADCCまたはCDCに依存した死滅に向かって多価分子を結合する細胞を標的としないように、工学的に改変される。本発明の一実施形態では、多価結合分子のFcドメインは、knob−in−hole立体配置のペプチド二量体である。このペプチド二量体は、ヘテロ二量体であってもよい。
用語「個体」、「対象」、「宿主」、および「患者」は、互換的に本明細書に使用され、診断、治療、または療法が望まれている任意の哺乳動物対象、具体的にはヒトを指す。
「LRP」、」「LRPタンパク質」および「LRP受容体」は、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質ファミリーのメンバーを指すために本明細書に使用される。これらの受容体は、受容体媒介性エンドサイトーシスのプロセスにおいてリガンドを結合し内在化する単回膜貫通タンパク質である。LRPタンパク質LRP5(GenBank受入番号NM002335.2)およびLRP6(GenBank受入番号NM002336.2)は、Wnt−β−カテニンシグナル伝達経路上での活性化に必要なWnt受容体複合体内に含まれている。
本明細書に使用される際の用語「ポリペプチド断片」は、アミノ末端および/またはカルボキシ末端の欠失を有するポリペプチドを指すが、その場合、残りのアミノ酸配列は、例えば全長cDNA配列から推定される、天然の配列内の対応する位置に一致する。
本明細書に使用される際に、用語「パラトープ」は、エピトープに結合する抗体の可変領域内の抗原結合部位を含む。
用語「治療」、「治療する」などは、概して、所望の薬理学的および/または生理学的作用を得ることを意味するために本明細書に使用される。この作用は、その疾患もしくは症状を完全もしくは部分的に防止するという観点では予防的であることがあり、ならびに/または疾患および/もしくは疾患に起因する有害作用に対し部分的もしくは完全に治癒させるという点では治療的であることがある。本明細書に使用される際の「治療」は、哺乳動物における疾患の任意の治療をカバーし、以下を含む:(a)その疾患に罹り易い可能性があるがまだそれに罹っていることを診断されていない対象で疾患が起こるのを防止すること;(b)疾患を阻害すること、すなわちその発達を阻止すること;または(c)疾患を軽減すること、すなわち疾患の退縮を引き起こすこと。治療剤は、疾患または創傷の前、間、または後に投与されてよい。進行中の疾患の治療は、その治療が患者の望ましくない臨床症状を安定化または低減する場合に、特に興味深いものである。そのような治療は、望ましくは、患部組織で機能が完全に失われる前に実施される。主題の療法は、疾患の症候段階の間に、場合によっては疾患の症候段階の後に投与されてもよい。
本発明の多価結合分子がWntシグナル伝達を活性化する能力は、複数のアッセイによって確認することができる。本発明の多価結合分子は、典型的には、FZD受容体の天然のリガンドにより開始されるものに類似のまたは同じ反応または活性を開始する。本発明の多価結合分子は、Wntシグナル伝達経路、例えば古典的Wnt−βカテニンシグナル伝達経路を活性化する。本明細書に使用される際に、用語「活性化する」とは、本発明のFZDアゴニストの不在下でのレベルに比べて、Wntシグナル伝達経路、例えばWnt−βカテニンシグナル伝達経路の細胞内レベルが測定可能に増加することを指す。
Wnt−βカテニン活性化のレベルを測定するための様々な方法が、当技術分野に公知である。これらには、以下に限定されないが、以下を測定するアッセイが含まれる:Wnt−βカテニン標的遺伝子の発現;LEF/TCFレポーター遺伝子の発現(例えばTopFLASH、superTopFLASH、pBARなど);βカテニンの安定化;LRP5/6のリン酸化;細胞質から細胞膜へのアキシンの転置およびLRP5/6への結合。古典的Wnt−βカテニンシグナル伝達経路は、最終的には、転写因子TCF1、TCF7L1、TCF7L2、およびLEFを介した遺伝子発現の変化をもたらす。Wnt活性化に対する転写応答は、複数の細胞および組織で特徴が明らかにされている。そのため、当技術分野に周知の方法による包括的な転写プロファイリングを使用して、Wnt−βカテニンシグナル伝達活性化を評価することができる。
Wnt応答性遺伝子の発現の変化は、一般に、転写因子TCFおよびLEFによって媒介される。TCFレポーターアッセイは、TCF/LEF制御性遺伝子の転写の変化をアッセイして、Wnt−βカテニンシグナル伝達のレベルを決定する。TCFレポーターアッセイは、Korinek, V. et al., 1997によって最初に記載された。TOP/FOPとしても知られるこの方法は、ルシフェラーゼ発現を駆動する最小c−Fosプロモーターの上流に3コピーの最適型TCFモチーフCCTTTGATCまたは3コピーの変異型モチーフCCTTTGGCC(それぞれpTOPFLASHおよびpFOPFLASH)を使用して、内在性のβカテニン/TCFのトランス活性化活性を決定することを含む。これらの2つのレポーターの活性の比率(TOP/FOP)が高いことは、β−カテニン/TCF活性が高いことを標示する。このレポーターのさらに新しく高感度のバージョンは、pBARとよばれ、12個のTCFモチーフの反復を含有する(Biechele and Moon, 方法s Mol Biol. 2008;468:99-110, PMID: 19099249)。
分子細胞生化学における一般的な方法は、例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd Ed. (Sambrook et al., CSH Laboratory Press 2001);Short Protocols in Molecular Biology, 4th Ed. (Ausubel et al. eds., John Wiley & Sons 1999);Protein Methods (Bollag et al., John Wiley & Sons 1996);Nonviral vectors for Gene Therapy (Wagner et al. eds., Academic Press 1999);Viral vectors (Kaplift & Loewy eds., Academic Press 1995);Immunology Methods Manual (I. Lefkovits ed., Academic Press 1997);およびCell and Tissue Culture: Laboratory Procedures in Biotechnology (Doyle & Griffiths, John Wiley & Sons 1998)などの標準的な教科書に見出すことができる。
「単鎖Fv」または「scFv」抗体断片は、抗体のVHドメインとVLドメインとを含み、その場合、これらのドメインは、単一のポリペプチド鎖に存在する。概して、Fvポリペプチドは、VHドメインとVLドメインとの間にポリペプチドリンカーをさらに含み、このリンカーは、scFvが抗原結合のための所望の 構造を形成することを可能にする。scFvおよび他の抗体断片を概観するために、James D. Marks, Antibody Engineering, Chapter 2, Oxford University Press (1995) (Carl K. Borrebaeck, Ed.)を参照されたい。
別段に定義のない限り、本発明に関連して使用される科学用語および技術用語は、当業者の一般に理解する意味を有するものとする。さらに、別段にコンテクストにより要求のない限り、単数の用語は複数を含むものとし、複数の用語は単数を含むものとする。一般に、本明細書に記載される細胞および組織の培養、分子生物学、ならびにタンパク質およびオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドの化学およびハイブリダイゼーションに関連して利用される用語体系および手法は、当技術分野に周知であり、一般に使用されるものである。標準的な手法が、組換えDNA、オリゴヌクレオチド合成、および組織培養、および形質転換(例えばエレクトロポレーション、リポフェクション)に使用される。酵素反応および精製の手法は、製造業者の仕様書に従って、または当技術分野で一般に遂行されるように、または本明細書に記載されるように、実施される。前述の手法および手順は、概して、当技術分野に周知の従来の方法に従って、ならびに本願明細書を通じて引用および議論されている種々の全般的なおよびさらに具体的な参考文献に記載されるように、実施される。例えばSambrook et al. Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2d ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989)) を参照されたい。本明細書に記載される分析化学、合成有機化学、および医薬薬化学に関連して利用される用語体系ならびに実験室での手順および手法は、当技術分野に周知であり一般に使用されるものである。標準的な手法が、化学合成、化学分析、医薬調製、製剤、および送達、ならびに患者の治療に使用される。
[実施例]
実施例I
1.多価のFZDアゴニストの開発
FZDダイアボディを含む第1の結合ドメインと共受容体ダイアボディを含む第2の結合ドメインとを有する多価結合分子を作製するために、我々は、合成Fabファージライブラリー(ライブラリーF;発明者Sidhuらの米国特許出願公開公報第2016/0194394号を参照)から、従来のファージディスプレイ技術を用いてFZD受容体のシステインリッチドメイン(CRD)に結合したものについて選択することによって、FZD特異的な抗体を特定した。親和性または特異性の成熟を必要に応じて実施した。例えば、FZD4 CRDを抗原として用いて、パンFZD結合抗体#5019(FZD1、2、4、5、7、および8を認識)をFZD7由来抗体から成熟させた。我々の以前の研究でも、FZD4(5038、5044、5048、5062、5063、5080、5081)またはFZD5(2928)に完全に特異的ないくつかの抗体を特定した(例えば、発明者Sidhuらの米国特許出願公開公報第20160194394号、および発明者PanらのWO2017127933A1を参照)。
これらのFZD抗体を、FZD特異的なダイアボディを作製するために使用した。ダイアボディは、単鎖可変断片(scFv)に類似した抗体形態であるが、VLおよびVHをそのそれぞれがコードする2つのペプチドの二量体である。しかし、scFvとは異なり、ポリペプチド内のVHとVLとの間のリンカーは非常に短いために、VHドメインとVLドメインとの間の分子内相補性を付与することができない。そのため、2つの抗原結合パラトープを機能的に再構成するように、一方のポリペプチドのVH−VL断片は、別のポリペプチドのVH−VL断片と二量体化する。同じVLおよびVHを有するポリペプチドの二量体を形成して、それによりホモダイアボディを形成することによって、または異なるVLドメインおよびVHドメインを有する2つのポリペプチドから二量体を形成し、それによりここにダイアボディを形成することによって、同一のまたは同一でないパラトープを有するダイアボディを生成した。
合成抗体ライブラリーから、ヒトLRP6の組換え細胞外ドメイン(ECD)を結合したものを選択することによって、LRP6抗体も選択した。固有のCDR領域を有する5つのFabを特定した。IgG体に変換した後、それらは全て、ヒトLRP6結合ならびにマウスLRP6結合を呈した。ELISAを介して検出されたLRP5結合はなく、このことは、これらの抗体がLRP6特異的であることを実証している(図1A)。LRP6 ECDは、4つの上皮成長因子(EGF)様の反復と交互に並ぶ4つのβ−プロペラモチーフを含有する。第1の2つのβ−プロペラモチーフは、Wnt1結合に関与するものと考えられ、残りの2つは、Wnt3結合に関与するものと考えられ、ゆえに抗体結合のための潜在的な2つのエピトープを作り出す。図6Aを参照されたい。エピトープ結合の結果は、これら5つの抗体がLRP6上の2つの別々の部位を結合すること、ならびにLRP6上のWnt1結合部位に結合する抗体2538、2542、および2543と、Wnt3結合部位に結合する2539および2540という2つの群に分けることができたことを示唆している。概して、LRP6−Wnt1部位に結合する抗体は、Wnt1により誘導されるWnt経路の活性化を遮断することが期待されよう。
FZDに特異的なホモダイアボディを含有するFcのN末端結合ドメインを調製するために、選択されたFZD抗体のVH断片およびVL断片であるVH−1、VH−2、VL−1、およびVL−2を、対応のファージミドテンプレートからPCRによって増幅し、単離した。次いで、ギブソン・アセンブリを利用して、単離した断片(VH−1およびVL−2)を、Fc−knob領域を含有するEcoRI/XhoI切断済みベクター(pSCST骨格)内に導入した(Gibson et al. (2009). Nature Methods. 6 (5): 343−345および Gibson DG. (2011) Methods in Enzymology. 498: 349−361を参照)。また、ギブソン・アセンブリを利用して、断片(VH−2およびVL−1)も、Fc−hole領域を含有するEcoRI/XhoI切断済みベクター内に導入した。正しくアセンブリされることを、DNAシーケンシングを用いて確認した。次いで、上記2つのプラスミド(1対、Fc−knobおよびFc−hole)を使用して、第2の結合ドメインをFcドメインのC末端に導入した。
Fc−knobおよびFc−holeの立体配置は、多価結合ドメインを生成するために必要であり、その場合、結合ドメインの一方はヘテロダイアボディとした。しかし、Fc−knobおよびFc−holeの立体配置は、FcドメインのN末端とC末端との両方にホモダイアボディを含む結合分子を調製するためには必要ではなく、そのため、そのような結合分子については、VHおよびVLを野生型Fc領域に連結し、1つのみのプラスミドを使用してVH−VL含有ポリペプチドを生成し、ホモ二量体を形成した。任意選択的に、リンカー、例えばペプチドリンカー、または非ペプチド性リンカーが、結合ドメインとFcドメインとの間に存在することがある。
C末端結合ドメインを生成するために、LRP5/6抗体を特定し、FZDダイアボディを生成するための上記と同じプロトコールに従ってLRP5/6ダイアボディを生成した。C末端結合ドメインは、LRP抗体について対応のファージミドテンプレートからVH−3断片、VH−4断片、VL−3断片、VL−4断片をPCR増幅し、次いで増幅断片を単離することによって生成した。上に記載されたように、次いで、ギブソン・アセンブリを利用して、VH−3断片およびVL−4断片を上記のFc−knobプラスミドのPpuMI/BamHI部位に導入した。ギブソン・アセンブリを使用して、他方のVH−4断片およびVL−3断片をFc−holeプラスミドのPpuMI/BamHI切断点に挿入した。
異なるVL配列およびVH配列を有する2つのプラスミド(1対、Fc−knobおよびFc−hole)を使用して、二重特異性の、すなわち2つの異なる部位に結合可能なFZD結合ドメインまたは共受容体結合ドメインを生成した。knob−into−hole立体配置は、単一特異性の結合ドメインを有する二量体を生成するためには必要ではなかったため、各結合ドメインが単一特異性となる場合には、野生型Fc配列を含有する単一のプラスミドのみを使用した。
図9Aは、「knob」変異を含むFc領域と、パンFZD抗体#5019のVHおよびVLと、LRP抗体#2542のVLと、LRP抗体#2539のVHとを含むペプチドをコードするプラスミドを図示する。図9Bは、「hole」変異を含むFc領域と、パンFZD抗体#5019のVHおよびVLと、LRP抗体#2542のVHと、LRP抗体#2539のVLとをコードする核酸を含むペプチドをコードするプラスミドを図示する。これらのプラスミドによってコードされるペプチドは、パン特異的なFZD抗体#5019に由来するホモダイアボディを含む多価の結合部位と;LRP抗体#2539のVHを有する一方のペプチドと他方のペプチドのLRP抗体#2542のVLとに由来する、LRP抗体#2539のVLとLRP抗体#2542のVHとの対合によって産生された、二重特異性のヘテロダイアボディを含む多価の結合部位と;を有するヘテロ二量体を形成する。
結果として得られたプラスミドを、次いでシーケンシングし、シーケンシングにより確認されたプラスミドを、PureLink HiPure Plasmid Filter Maxiprep Kit(インビトロジェン)を用いて製造業者の指示書に従って調製した。次いで、プラスミドをExpi293F細胞(サーモフィッシャーサイエンティフィック)にトランスフェクトし、FectoPRO Reagent(ポリプラス)を用いて製造業者の指示書に従って抗体を発現した。典型的には、200mLのスケールの細胞を、少量バッチの抗体生産に使用した。
典型的には、トランスフェクションの80時間後に、Expi293F細胞の培養培地を、遠心分離により細胞および細胞細片をペレットにすることによって採集した。上清を清潔なボトルに移し、10×PBS緩衝液により緩衝した。適切な量のプロテインAベッド(GEヘルスケア)と共に1時間インキュベートした後、製造業者の指示書に従って、ベッドを洗浄し、結合分子を溶出した。最後に、PBS中で緩衝液を交換した。
2.ヘテロ二量体の多価結合分子
上に記載された方法を用いて、我々はまた、Fcドメイン(Knob/Hole)のN末端とC末端のそれぞれに融合された無傷の二重特異性ダイアボディを含有する、四価のヘテロ二量体分子も生成した(図2Aおよび図3A)。具体的には、我々は、抗体5019由来のFZD結合ホモダイアボディをFcドメインのN末端に、LRP6−W1抗体2542(5019−Fc−2542)またはLRP6−W3抗体2539(5019−Fc−2539)由来のホモダイアボディをFcドメインのC末端に有する、四価結合分子を生成した。驚くべきことに、両方の四価分子は、Wnt経路を活性化したが、5019−Fc−2542は、効能がはるかに少なかった(図3C)。理論に拘束されることを望むものでないが、この差は、LRP6−W1およびLRP6−W3の結合のWntシグナル伝達を活性化する能力の差を反映するものと思われる。LRP6−W3部位のWnt結合は、Wntシグナル伝達の活性化において、LRP6−W1部位へのWnt結合よりも効果的であることが観察されている。
我々はまた、抗体5019由来のFZD結合ホモダイアボディをFcドメインのN末端に、LRP6−W1抗体2542およびLRP6−W3抗体2539由来のLRPヘテロダイアボディをFcドメインのC末端に有する、四価の三重特異性の結合分子を生成した(5019−K/H−2539−2542、5019Agと称する)(図5)。5019Agは、Wntシグナル伝達の活性化において、単一特異性のLRP6ホモダイアボディを有する分子に比べて予想外に効果的である(図3C)。ナノモル量の3つ全ての形態が、pBARルシフェラーゼレポーターアッセイにより決定されるWntシグナル伝達を活性化し(図3D)、このことは、それらが有効なWnt模倣体であることを標示している。理論に拘束されることを望むものではないが、強いWnt3A部位と弱いWnt1部位とを共に係合させることは、2つの強いWnt3A部位を係合させるよりも効果的であることが想定される。FZD結合ドメインとLRP結合ドメイン、すなわち「FLAg」を有する最も良い2つの多価結合分子は、1桁のナノモルの力価(EC50〜5nM)を有し、この値は、精製Wnt3Aの力価とほぼ同一であり、釣り鐘型の用量応答プロファイルを提示した(図11D)。我々はこれを、最大の刺激にはFLAgの多価の結合が必要であること、ならびに高濃度での効能の減少がFZDまたはLRP6のどちらかとの一価の結合に起因する可能性があることを標示するものと解釈した。我々は、低いレベルのβカテニンを発現するRKO細胞(Major et al. Science. 316, 1043−1046 (2007))をFP+P−L61+3により処理し、その結果、用量依存的および時間依存的なβカテニンタンパク質レベルの増加とDVL2のリン酸化、すなわちWnt−FZD経路の活性化の目印が生じた(図11Eおよび図11F)。このように、四価のFLAgは、FZDおよびLRP6の合成アゴニストとして機能する、モジュール式の工学的に作製可能なヒトAbモダリティである。
最適なFLAg FP+P−L61+3の工学的に作り出された親和性および特異性を確認するために、我々は、生体層干渉法(BLI)を使用して、10種のヒトFZD CRDのうち9種およびヒトLRP6 ECDとのその結合カイネティクスを測定した(図12Aおよび図12B)。FLAgは、親のパンFZDパラトープ(Pavlovic et al. 2018)由来のFZDダイアボディによって認識される6種のFZDに、ピコモルの範囲(KD=10〜800pM)の親和性で結合したが、他方の3種のFZDには検出可能には結合しなかった。さらに、LRP6への親和性は、ナノモルの範囲であった(KD=12nM)(図12B)。次いで、我々は、BLIを使用して、様々なFc受容体とのFLAgの結合を評価した。
FLAgは、従来のIgGに類似した挙動を示し、用量依存的およびpH依存的にFcRnに相互作用した(図12C)。天然のIgGは、FcRnにpH6で結合するがpH7.4では結合せず、これによってin vivoでは、飲作用の間の再利用とその結果として長い半減期とがもたらされる。FLAgはまた、補体(C1q)、ナチュラルキラー細胞マーカーCD16a、B細胞マーカーCD32a、ならびに単球およびマクロファージマーカーCD64を含めた他のFcエフェクターとの相互作用について、IgGに類似した挙動を示す(図12D。我々は、in vivoでエフェクター機能および長い半減期を付与するべき機能的なFc部分をFLAgが含有するものと結論付けた。
四価のFP+P−L61+3FLAgのモジュール設計によって、我々は、4つの各パラトープの内在的なアゴニスト活性への寄与を切り分けることが可能になり、それぞれを、無関係の抗原であるマルトース結合タンパク質(MBP)と結合するヌルのパラトープに置き換えることによって行った。我々は、Fcドメインと、一方のFcドメイン末端に付加されたFZD結合ドメインと、他方のFcドメイン末端に付加されたLRP結合ドメインとを含む、「単結合」分子を生成したが、ダイアボディ内にFZDまたはLRPに対する2つの結合部位を有するというよりも、結合ドメインは、単一結合部位または単結合部位のみと、1つの対照用マルトース結合タンパク質結合部位「MBP」とを有する。1つのMBP結合部位を上記分子の少なくとも1つの結合ドメインに導入して、5種の単結合分子を生成した。1つのFZD結合部位と1つのMBP結合部位とをN末端に含有する5019−MBP−K/H−2539−2542は、やはりWnt経路を活性化するが、5019Agに比べて効能が8倍減少した(図3E)。同様に、LRP6−W3部位を1つのみC末端に保持する5019−K/H−2539−MBPは、5019Agに比べてはるかに少ないWnt活性化を呈する(図3E)。最小限のアゴニスト活性は、2種のMBP−FZD/MBP−LRP6分子である5019−MBP−K/H−2539−MBPおよび5019−MBP−K/H−MBP−2542、ならびに1つのLRP6−W1ダイアボディを有する分子である5019−K/H−MBP−2542について検出された(図3E)。これらのβカテニンシグナル伝達アッセイの結果では、最大の刺激が、WNT1結合部位に対する1つの抗FZDパラトープまたは抗LRP6パラトープを無力化することによって大きく低減され、WNT3A結合部位に対する抗LRP6パラトープを無力化することによって、または1つの抗FZDパラトープとどちらかの抗LRP6パラトープとを同時に無力化することによって、完全に除去されたことが示された。我々はまた、WNT3A結合部位を標的とする抗LRP5パラトープを、WNT1結合部位を標的とする抗LRP6パラトープに置換して、分子(FP+P−L5/63)を生成したが、この分子は、両方の共受容体を動員することができ、観察された活性はFP+P−L61+3と同様であった(図3F、EC50=4nM)。以上をまとめると、これらのデータでは、最適なアゴニスト活性が、共通のエピトープを介して2つのFZDと、2つの別個のエピトープを介してLRP6とを動員できる分子により達成されるが、活性は、抗FZDパラトープまたは抗LRP6パラトープのうちの1つを無力化することによって、中程度のレベルに調整できることが示された。さらに、FZDと2つの異なる共受容体とを動員できる分子が、2つの抗FZDパラトープをLRP5およびLRP6それぞれに対する1つのパラトープに組み合わせることによって生成された。
我々はまた、ダイアボディの対を制約の少ない分子内の単鎖可変断片(scFv)の対に置換することによって、分子間ダイアボディ形式により課される幾何学的および空間的な制約についての要件を探索した(図2J)。FP+P−L61+3に比べて、抗FZD scFv(FP*+P*−L61+3)を含有するFLAgは、類似の活性を呈したのに対し、抗LRP6 scFv(FP+P−L61*+3*)を含有するかまたは両端にscFv(FP*+P*−L61*+3*)を含有するFLAgについては、活性が大幅に低減した。これらの活性の差は、親和性の差に起因しておらず、それは、パラトープが提示されていたのがダイアボディかscFv形式かに関わらず、BLI測定では、LRP6およびFZDアイソフォームとの同等の高親和性の結合が示されたことによる(図2Kおよび図2L)。以上をまとめると、これらの結果では、最適なFZD/LRP6シグナル伝達複合体のアセンブリには、特定の化学量論および幾何学的配置が必要であり、制約は、ダイアボディ形式によって規定される特異的な幾何学的配置での2つの別個のエプトープの係合を要するLRP6について、特に明確であることが示された。注目すべきは、FZDの係合についての制約が緩いことによって、単一の抗FZDパラトープによる著しい活性化が可能となり(図2D)、このことは、ヘテロ二量体FcのN末端の抗FZDパラトープと連動した追加的なパラトープを介して異なる細胞表面タンパク質を動員することによって、特異性をさらに増強するか、またはシグナル伝達を変更させるための扉を開く。
3.他の二重特異性抗体の形態
Fcドメインの同じ末端上に抗体#5019のFZD結合ドメインと抗体#2942(5019/2942)のLRP6−W1結合ドメインまたは抗体#2539(5019/2539)のLRP6−W3結合ドメインとを含む二重特異性分子を構築し、対応するタンパク質を精製し(図2A)、pBARルシフェラーゼレポーターアッセイを用いてWntシグナル伝達の活性化をアッセイした。これらの分子は、Wntシグナル伝達を活性化できなかった。注目すべきことに、どちらの二重特異性分子も、Wntリガンドの活性に拮抗した(図2B)。理論に拘束されることを望むものではないが、これらの二重特異性分子の2つのパラトープ間の距離および可撓性により、活性化に適した幾何学的配置でFZDおよびLRP6受容体が動員されない可能性がある。
Fcドメインの同じ末端に付加されたFZDダイアボディとLRPダイアボディとを含む二重特異性分子も、knob in hole立体配置を用いて生成した。5019−2539−K/H(FZD/LRP−W3)および5019−2542−K/H(FZD/LRP−W1)と命名したこれらのダイアボディを、FZDおよびLRPとの結合ならびにWnt経路の活性化についてアッセイした。どちらのダイアボディも、元の抗体のFZD結合プロファイルならびにLRP6結合活性を保持した。(図2D〜図2G)。どちらの分子も個々にFZD受容体およびLRP共受容体を結合した。5019−2542−K/Hは、BLIアッセイにより決定した際に、溶液中でFZDおよびLRPの両方との共結合を呈したが(図2H)、5019−2539−K/Hでは顕著な共結合は観察されなかった。5019−2539−K/Hと5019−2542−K/Hのどちらも、pBARルシフェラーゼレポーターアッセイで決定した際にWntシグナル伝達を活性化せず、FZD受容体(5019−Fc)または共受容体(2539−Fc)に結合するホモダイアボディにより得られた結果と同様であった(図2I)。さらに、5019−2539−K/H(FZD/LRP−W3)および5019−2542−K/H(FZD/LRP−W1)は、Wnt3a媒介性経路の活性化を効果的に阻害した(図2I)。
4.Wnt経路シグナル伝達アッセイ
Wnt経路の活性化を、β−カテニンの転写活性化を忠実にモニタリングするpBARルシフェラーゼレポーター系(Biechele and Moon, Metods Mol Biol. 2008; 468:99-110, PMID: 19099249)を用いて、HEK293細胞でアッセイした。端的に述べれば、pBARLSおよびpSL9 Ef1α−ウミシイタケルシフェラーゼ構築物を安定的に発現するHEK293T細胞を、96ウェルプレートに1.5E4細胞個/ウェルで播種した。播種の24 時間後、細胞を、標示されたFZDアゴニストにより標示濃度にて3連で、またはPBSビヒクル対照により処理した。処理の16.5時間後、細胞を溶解して、発光をデュアルルシフェラーゼレポーターアッセイ系(Promega#E1960)により、製造業者のプロトコールに従って測定した。各ウェルについてホタル発光をウミシイタケ発光に正規化して、細胞数を考慮した。
我々は、FcドメインのC末端上のLRP結合ドメインにFcドメインを介して結合した、いくつかのFZD受容体(FZD1、2、4、5、7、および8)を認識する抗体断片(抗体#5019)由来のN末端FZDダイアボディを含有する多価分子のアゴニスト活性をアッセイした。C末端LRP結合ドメインは、Wnt3部位およびWnt1部位にそれぞれ結合する2つのLRP6抗体#2539および#2542のうち1つに由来するダイアボディからなる(図6B)。ナノモル量の5019−Fc−2539および5019−Fc−2542と命名されたこれらの多価結合分子は、Wnt−β−カテニン経路を活性化したが(図6C)、Wnt3部位を標的とするLRP6抗体5019−Fc−2539を担持する分子を用いて細胞を処理することによって、5019−Fc−2542に比べて、およそ10倍高い活性化が生じる(バックグラウンドをそれぞれ200倍vs20倍上回る)(図6C)。
重要なことに、Fc部分内に工学的に作製されたknob−hole系を使用して、我々は、パンFZD結合ドメインに対する(#5019)ホモダイアボディを一端に含有し、Wnt1(#2542)およびWnt3(#2539)に対する結合部位を含むLRP6結合ドメインを形成するヘテロダイアボディ5019−K/H−2539:2542を他端に含有する、多価結合分子(図1C)を生成した(図6B)。この立体配置は、異なる選択性および親和性のプロファイルを有する、すなわち四価および三重特異性である分子内に、4つの異なる結合部位を組み込むことを可能にした。HEK293細胞におけるβ−カテニンルシフェラーゼレポーターアッセイに供試すると、この分子は、5019−Fc−2539より2倍高い、またはバックグラウンドをおよそ400倍上回る活性化を示す(図6C)。
我々はまた、FZD1、2、4、5、7、8を結合する同じパンFZDダイアボディ(5019)を併せて有するknob−in−hole系内にあるLRP6に対する結合部位を、同等のLRP5結合部位(どちらもLRP5を結合する2459抗体および2460抗体に由来するダイアボディ)に置き換えた。この分子5019−K/H−2459:2460もまた、HEK293T細胞において、LRP6ダイアボディを担持するアゴニストよりも低い効能ではあるものの、Wnt−β−カテニン経路を活性化することが可能であった(図6D)。
5.結合ドメインを有する選択的なFZDアゴニスト(選択的なFZD抗体断片および共受容体抗体断片に由来するアゴニストモジュール性の特性解析)
我々の単一特異性のFZDアゴニストの活性を評価するために、特定のFZDアイソフォームに依存するセルベースアッセイを使用した。我々は、10種のFZD受容体のうちの1つにのみ結合する多価結合分子を調製した。我々の以前の研究では、FZD4に完全に特異的ないくつかの抗体(5038、5044、5048、5062、5063、5080、5081)が特定された(例えば、発明者Sidhuらの米国特許出願公開公報第20160194394号、および発明者PanらのWO2017127933A1を参照)。FZD4特異的なFZD結合ドメインと、抗体2539および2542に由来する二重特異性のヘテロダイアボディを含むLRP6結合ドメインとからなる多価結合分子を、Fcのknob−in−hole系を用いて生成した。これらの分子は、β−カテニン経路を介してFZD4シグナル伝達を活性化することができたが、それはFZD4 cDNAと共にHEK293細胞にコトランスフェクトしたときのみであった。これらのFZD4結合分子は、低いレベルのFZD4を発現する非改変のHEK293T細胞では、FZD4シグナル伝達またはβ−カテニン経路を活性化することができなかった。ゆえに、この実験は、FZD4に対する分子の特異性を実証している。5019−K/H−2539−2542(上に記載されたパンFZDアゴニスト)は、HEK293T細胞におけるシグナル伝達を、FZD4の不在下であっても活性化することができる(図4A)。HEK293T細胞におけるβ−カテニンシグナル伝達のWnt媒介性の活性化がFZD1、2、および7を介して発生し(Voloshanenko et al. FASEB 2017 FASEB J. 2017 Nov;31(11):4832-4844;PMID:28733458)、5919 FZD抗体が3つ全ての受容体に結合することから、上記の結果は驚くべきことではない。
さらに、我々は、FZD5のみに結合するという特徴を以前に明らかにしたFZD5特異的な抗体2928の結合ドメイン(Steinhart et al. Nat Med. 2017 Jan;23(1):60-68, PMID:27869803;発明者PanらのWO2017127933A1)を用いて、FZD5特異的な多価結合分子を生成した。我々は以前に、複数のRNF43変異膵管腺癌(PDAC)細胞株がその増殖をFZD5シグナル伝達のみに依存することを実証した(Steinhart et al. 2017, PMID:27869803)。実際には、3つのRNF43変異PDAC株におけるゲノムワイドCRISPR不可欠性/適応性スクリーニングでは、FZD5がその成長に最も不可欠な遺伝子の1つであったのに対し、WT RNF43を有するPDAC細胞株がFZD5に対するこの要求性を示さないことが示された。パルミトイル化とWntリガンドの活性とを阻害するPorcupine阻害剤(PORCNi;例えばLGK−974など)を用いてRNF43変異細胞を処理した際に、RNF43変異細胞は増殖を停止する。
パンFZDag 5019-K/H-2539-2542を用いて、または選択的な FZD5 アゴニスト 2928-K/H-2539-2542を用いて、RNF43 変異 細胞を共処理することにより、 LGK974により遮断される細胞 増殖の堅固なレスキューを生じた。 これらの 結果は、これら2つの分子がFZD5を活性化することができ、これらの 細胞にWntシグナル伝達を誘導し、それによって内在性の Wnt リガンドの作用を模倣することを実証する (図 7B)。これに対して、FZD4 特異的な アゴニスト 5038-K/H-2539-2542 またはFZD2 特異的な アゴニストの追加は、LGK974増殖の阻害をレスキューすることができなかったof 培地ted by.
RNA配列解析は、FZD2が間葉系幹細胞株CH3H10T1/2(マウスENCODE)において優勢のアイソフォームであることを示しており、このことは、FZD2が間葉系細胞の骨形成分化の間のWntタンパク質の確立した役割(Day et al. Dev. Cell. 8, 739−750 (2005))に関与している可能性があることを示唆する。FZD2特異的なFlagによるC3H10T1/2細胞の刺激によって、パンFZDFLAgにより達成されたものと同様のレベルに骨形成マーカーのアルカリホスファターゼ(ALPL)の堅固な誘導が生じたのに対し、FZD5特異的なFLAgは最小限の活性を示した(図7B)。
6.四価結合分子を用いる共標的化
FZD多価結合ドメインと共受容体結合ドメインとをFcドメインに混合し適合させて所望の組合せを達成することに加えて、現行の系における四価のパラトープの存在は、in vivoで適用された際に、2つのFZD受容体と2つの共受容体とを1分子により同時に標的させ、確実に共局在化させる機会をもたらす。上記に示された5019−MBP−K/H−2539:2542のアゴニスト活性を考慮すると、FcドメインのN末端でヘテロダイアボディ内において結合領域を組み合わせることによって、選択的なFZD受容体に対する結合ドメインを有する多価結合分子の生成。例えば、抗体5038(FZD4を結合する)および2928(FZD5を結合する)に由来する結合ドメインは、FZD4およびFZD5を共に標的とする分子を産生するものとなる。この結合分子はまた、特異的なまたは複数の共受容体に対する共受容体結合ドメイン有するように生成することができる。例えば、LRP6/LRP5を共に標的とする結合ドメインは、FcドメインのC末端上で2459(LRP6のWnt1結合部位を結合する)抗体および2539(LRP6のWnt3a結合部位を結合する)抗体に由来する結合ドメインを組み合わせることによって作製することができた。同様に、共受容体結合ドメインは、単一の細胞で古典的および非古典的の両方のWntシグナル伝達経路の活性化を開始するために、別の共受容体、例えばROR1/2との組合せで、LRP6に対する結合部位を含むことがある。
また本明細書に想定されるのは、多価結合分子を所望の組織に動員するものとなる、組織特異的な抗体に由来する組織特異的な結合ドメインを有する多価結合分子であって、上記組織では、この分子は、次いで、FZD受容体および共受容体を結合することによって、Wntシグナル伝達を活性化するものとなる。このことは、再生治療に多価結合分子を使用する際に、所望の効果を特異的な組織に制限することが求められるような場合に、特に有用であるものと想定される。まとめると、四価の様式は、多用途の機能的な要件を満たすためのさらに設計上の柔軟性をもたらす。
7.FZD結合ドメインと共受容体結合ドメインとを有する多価結合分子は、Wntリガンドを代替して、腸のオルガノイド培養を持続させることができる。
オルガノイドの生存および維持に及ぼされる本明細書に記載されるFZDアゴニストの効果を、以下のようにアッセイした。8週齢の雌C57BL/6マウスを屠殺し、小腸陰窩をオルガノイドの単離用に採取した(O'Rourke et al. 2016. Isolation, Cuture, and Maintenance of Mouse Intestinal Stem Cells. Bio Protoc. 20:4)。オルガノイド培養物を機械的解離(O’Rourke 2016)に通し、48ウェルプレート中、25μLの成長因子低減型マトリゲル(コーニング、356231)に包埋した。オルガノイドを各実験条件に対し3連で播いた。実験条件(1μM LGK−974+/−40% Wnt3a条件培地または+/−50nM パンFzd−5056(FZD1、2、4、6、7、8を標的とするが、Wntリガンドに競合しないエピトープに結合するFZDag))を含む完全オルガノイド培地(O’Rourke 2016)を、各ウェルに継代日に添加し、2〜3日毎に交換した。1週間後、150μLのCell Titer Glo 3D(プロメガ)を各ウェル中、150μLの培地に添加した。オルガノイドを揺動攪拌機上、RTで30分間溶解した。発光の読取りを、各ウェル由来の20μLの溶解物について2連で測定した。各条件由来の発光の読取りの平均を、DMSO条件に正規化して、生存率を計算した。
広汎性の幹細胞のニッチ因子であることから、WntおよびR−スポンジンは、多くの組織由来の三次元培養オルガノイドの誘導体化および維持に必要とされる。In vitroでは、パネート細胞によって分泌されたWntタンパク質は、R−スポンジンの存在下でマウスの小腸オルガノイドの成長を支持するのに充分である。しかし、Wntが放出し、活性がPORCNi LGK974により遮蔽された場合、オルガノイドは増殖することができず、遂には死滅する。本明細書では、我々は、本発明のパンFZD多価結合分子であるFZDag(FP+P−L61+3)が、LGK974の存在下でオルガノイドの成長をレスキューし持続させることができることを実証し、このことは、この分子がWntリガンドを機能的に模倣し(図8)、Wntタンパク質を代替して組織オルガノイドの成長を支持できることを示唆する。Wntリガンドは、多くのヒト組織オルガノイドを成長させるのに必要な培地の不可欠な成分であることから、本発明の抗体由来のFZDアゴニストは、培養培地に含まれる場合に、異なる組織のオルガノイドの誘導体化、生存、および維持を促進し、それによって条件培地または精製Wntタンパク質の使用に伴う制限を軽減することが予想される。
8.骨再生を促進する多価結合分子
ラット非観血的大腿骨骨折モデルを使用して、FZD2を結合する第1の多価結合ドメインと、LRP5またはLRP6に結合する共受容体結合ドメインとを有する本発明の多価結合分子の再生特性を評価する。第1の多価結合ドメインは、FZD2を特異的に結合してもよいし、FZD2と他のFZD受容体とを結合してもよい。
片側の非観血的な大腿骨の骨幹中央部骨折に続いて、ラットにビヒクルまたは多価結合分子を投与する(Bonnarens, and Einhorn, J. Orthop. Res. 2, 97−101 (1984)を参照)。端的に述べれば、骨顆を通じて髄管内に18ゲージのシリンジ針を挿入する。次いで、大腿の前面(外側面)で鈍い衝撃をかけることによって、大腿部の横断骨折を作り出す。骨折の1日後、ラットに生理食塩水ビヒクルまたは多価結合分子のどちらかを、7週間にわたって週2回、皮下注射する。終了時に、髄内のピンを取り出し、骨折した大腿骨をマイクロCTによって分析するものとする。
FZD2を結合する多価ドメインと、LRP5またはLRP6に結合する第2の多価結合ドメインとを有する多価結合分子は、ビヒクルのみによる骨再生に比べて、このモデルにおける骨の再生を大幅に増加させる。
実施例II−FZDおよびLRP6を標的とする合成抗体
我々は既に、9種の組換えFZD CRDを抗原として使用して(FZD3 CRDは精製できなかった)、ファージディスプレイを適用して、何百もの合成Abを取得した(Steinhart et al. Nat. Med. 23 , 60 (2016); Pavlovic et al. MAbs (2018), doi: 10.1080/19420862.2018. 1515565)。体系的な特性解析により、特異性プロファイルの連続性が明らかになり、そのプロファイルでは、いくつかのAbが、FZD1/2/4/5/7/8を認識したパンFZD Ab(FP)に例示される広い特異性を提示し(図11A)、他のものは、さらに限定された特異性を提示し、いくつかは単一特異性であった(図11B)。機能的特性解析により、いくつかの抗体がWntに競合し、βカシグナル伝達を阻害するのに対して、他のものは、非競合的であり、Wntシグナル伝達に干渉しないことが明らかになった(図11B)。総じて、我々は、47種のWntシグナル伝達阻害剤を含めて161種の抗FZD抗体の特性を完全に明らかにした。本明細書に議論されるように予想外にも、Wntに競合しWntシグナル伝達を阻害するか否かに関わらず、これらの抗FZD抗体をFZD結合ドメインの供給源として、LRP結合ドメイン、例えば、LRP5/6上のWnt1結合部位および/またはWnt3a結合部位に結合する結合ドメインと連動して使用することによって、我々が生成した全ての多価結合分子が、Wnt経路のアゴニストであった。
実施例III−細胞、オルガノイド、動物におけるFLAgの表現型作用
FLAgが選択的にFZDおよびLRPを係合してWnt関連シグナル伝達経路を活性化することが確立されたことから、我々は、前駆幹細胞(PSC)、オルガノイド、および動物におけるこれらのシグナルの表現型作用を探索した。Wnt−βカテニンシグナル伝達活性の調節は、殆どのPSCの分化のプロトコールに不可欠である(Huggins et al. Methods Mol. Biol. 1481 , 161−181(2016))。WNT3A条件培地またはGSK3の小分子阻害剤によるヒトPSCの処理は、βカテニンシグナル伝達を活性化し、原始線条の誘導を生じ、中胚葉の運命特定を促進する(Davidson et al. PNAS U.S.A. 109 , 4485−4490 (2012))。我々は、この状況でのFLAg活性を評価し、ヒトPSCを30nM FP+P−L61+3により3日間処理することにより、6μMでのGSK3阻害剤CHIR99021による処理と同等のレベルに、中胚葉マーカーBRACHYURYの堅固な誘導が引き起こされ、多能性マーカーOCT4の発現が減少することを見出した(図13Aおよび図13B)。
FP+P−L61+3は、マウスFZDおよびLRP6を認識し、FcRnに相互作用するFcを含有する。Fcはこの分子にin vivoでAb様の長い半減期を付与することが想定される。そのため、我々は、FP+P−L61+3がマウスにおいて内在性の受容体に相互作用できるか、βカテニンシグナル伝達を活性化するのに十分となるレベルに蓄積できるか、内在性の幹細胞活性を動員できるか否かを試験した。腸の幹細胞のニッチ内では、間葉細胞によって分泌されたWntタンパク質は、陰窩の下部の幹細胞におけるβカテニン標的遺伝子の発現を誘導してそれらの自己再生を方向付けるため、標的遺伝子LGR5は、様々な組織における幹細胞のマーカーとしてしばしば使用される。LGR5−GFPマウスをLGK974により処理することによって、陰窩幹細胞においてWnt産生が消散され、LGR5発現および連結GFPシグナルの速やかな減衰が引き起こされた。注目すべきことに、腹腔注射によりFP+P−L61+3を共処理すると、GFP発現はレスキューされた(図14、右パネル。我々は、FP+P−L61+3が、内在性のWntの不在下で腸の幹細胞の自己再生を促進するレベルでβカテニン活性化を可能にするのに十分な半減期と生物学的利用性とを有するものと結論付けた。
実施例IV−材料および方法:
1.Abの選択およびスクリーニング
記載されたように(Persson et al. J. Mol. Biol. 425 , 803−811 (2013))、ファージディスプレイ合成ライブラリーFを使用して、Wnt受容体に結合するFabを選択した。端的に述べれば、Fcタグ化ECDタンパク質(R&Dシステムズ)をMaxisorpイムノプレート(サーモフィッシャー、カタログ番号 12−565−135)に固相化し、ライブラリーファージプールによる陽性結合性選択に使用した。上記プールは、最初に、同様に固相化されたFcタンパク質に曝露して、非特異的なバインダーを枯渇させたものであった。4ラウンドの結合性選択の後、クローンファージを調製し、ファージELISA(Birtalan et al. J. Mol. Biol. 377 , 1518−1528 (2008))によって評価した。Fcに比べて抗原との結合について少なくとも10倍大きなシグナルを提示したクローンを、さらに進んだ特性解析に供する特異的なバインダーであるものとした。
2.組換えタンパク質および試薬
FZD1(5988−FZ−050)、FZD2(1307−FZ−050)、FZD4(5847−FZ−050)、FZD5(1617−FZ−050)、FZD7(6178−FZ−050)、FZD8(6129−FZ−050)、FZD9(9175−FZ−050)、FZD10(3459−FZ−050)のFcタグ化融合体は、R&Dシステムズから購入した。FZD6(残基19〜132、UniprotO60353−1)のFcタグ化ECDは、pFUSE−hIgG1−Fc2ベクター(インビトロジェン)を用いてExpi293細胞で発現して精製し、凝集タンパク質からSuperdex200(10/300)カラム(GEヘルスケア)上でサイズ排除クロマトグラフィーによって単一のプロトマー種を分離した。ヒト(1505−LR−025)およびマウス(2960−LR−025)のLRP6ならびにマウスのLRP5(7344−LR−025/CF)のFcタグ化ECD融合タンパク質は、R&Dシステムズから購入した。WNT1(SRP4754−10ug)、WNT2b(3900−WN−010/CF)、WNT5a(645−WN−010/CF)、およびWNT3A(5036−WN−010/CF)は、R&Dシステムズから購入し、WNT3A条件培地は、記載(PMID:12717451)された通りに調製した。他のタンパク質および化学物質は、以下の供給業者から購入した:FcRN(R&D、8693−FC)、C1q(シグマ、C1740)、CD16a(R&D、4325−FC)、CD32a(R&D、1330−CD/CF)、CD64(R&D、1257−FC)、LGK974(ケイマンケミカルズ)、Porcupine阻害剤C59(ダルリアダ・セラピューティクス)、およびCHIR99021(シグマ・アルドリッチ)。
3.FZDおよびLRPに対する四価結合分子「FLAg」ならびに抗体のクローニング
抗体(Ab)可変ドメインをコードするDNA断片は、ファージミドDNA鋳型からPCRによって増幅されるか、または化学合成に(ツイストバイオサイエンス)によって構築されるかのどちらかである。カッパ軽鎖とヒトIgG1重鎖とを生産するように設計された哺乳類発現ベクター(pSCSTa)に、DNA断片をクローニングした。二重特異性ダイアボディおよびIgGは、「knobs−in−holes」のヘテロ二量体Fcの最適化されたバージョンを含有していた(Ridgway et al. Protein Eng. 9, 617−621 (1996))。FLAgおよびダイアボディ−Fc融合体をVH−VL配向に配列し、可変ドメインを短いGGGGS(例えば配列番号2のアミノ酸121〜125)リンカーによって隔てたが、このリンカーは、VHドメインとVLドメインとの間の分子間会合を選好し、それゆえにダイアボディの形成を選好するものである。ダイアボディ−Fc融合構築物を生産するために、ダイアボディ鎖をヒトIgG1 Fcに融合した。FLAgタンパク質をVH−x−VL−y−[ヒトIgG1 Fc]−z−VH−x−VLとして構築し、式中、リンカーをx=GGGGS(例えば配列番号2のアミノ酸121〜125)、y=LEDKTHTKVEPKSS(配列番号4のアミノ酸232〜245)、z=SGSETPGTSESATPESGGG(配列番号4のアミノ酸473〜501)とした。この方式では、ヒトIgG1 Fcまたはknob−in−holeのIgG1 Fc断片は、234位から478位(カバット付番則)に広がっていた。scFv−Fc融合体については、可変ドメインをVL−VH配向に配列し、長いGTTAASGSSGGSSSGA(配列番号75)リンカーによって接続したが、このリンカーは、VHドメインとVLドメインとの間の分子内会合を選好し、それゆえにscFvの形成を選好するものである。全ての構築物について、コード領域全体を分泌シグナルペプチドと併せてインフレームで哺乳類発現ベクターにクローニングした。
4.タンパク質の発現および精製
抗原、Ab、およびFLAgタンパク質を、Expi293F(サーモフィッシャー)細胞で一過的トランスフェクションによって生産した。端的に述べれば、細胞をバッフル付細胞培養フラスコでExpi293発現培地(ギブコ)中、およそ2.5×106細胞個/mLの密度に成長させ、標準的な製造プロトコール(サーモフィッシャー)を用いて、FectoPROトランスフェクション試薬(ポリプラス・トランスフェクション)を用いて適切なベクターによりトランスフェクトした。125rpmで攪拌しながら37℃および8%CO2にて5日間、発現を進めた。発現後、細胞を遠心分離により除去し、r−プロテインAセファロース(GEヘルスケア)を用いてタンパク質を条件培地から精製した。精製タンパク質をPBSまたは保存用の配合安定化緩衝液(36.8mMクエン酸、63.2mM Na2HPO4、10%トレハロース、0.2M L−アルギニン、0.01%Tween−80、pH6.0)のどちらかにバッファー交換した。タンパク質濃度を280nmの吸光度で決定し、純度をSDS−PAGE分析により確認した。
5.In vitro結合アッセイ
Octet HTX機器(フォルテバイオ)を用いて、BLIアッセイを実施した。抗原との結合を測定するために、FZD受容体のFcタグ融合体(FZD−Fcタンパク質)をAHQBLIセンサ(18−5001、フォルテバイオ)上で捕捉してBLI応答0.6〜1nmに到達させ、残りのFc結合部位をヒトFc(009−000−008、ジャクソンイムノリサーチ)により飽和させた。FZD被覆または対照(Fc被覆)のセンサをアッセイ緩衝液(PBS、1%BSA、0.05%Tween20)中100nM AbまたはFLAgに移し、会合を300秒間モニタリングした。次いで、センサをアッセイ緩衝液中に移し、解離をさらに300秒間モニタリングした。攪拌スピードを1000rpmとし、温度を25℃とした。295秒後の会合時間に終点の応答値を取得した。終点のデータは、FcシグナルをFZD−Fcシグナルから減算し、次いでデータを最も高い結合シグナルに正規化することによって解析した。
Fc受容体との結合を測定するために、AbsまたはFLAgをAR2Gセンサ(18−5092、フォルテバイオ)上にアミンカップリングにより固相化してBLI応答0.6〜3nmに到達させ、残りの部位をエタノールアミンにより消失させた。被覆センサをアッセイ緩衝液(PBS、1%BSA、0.05%Tween20)中で平衡化し、Fc受容体溶液中に移した。会合を600秒間モニタリングし、センサをアッセイ緩衝液に移して、解離を600秒間モニタリングした。CD64および他の全てのFc受容体を、標示のない限りはそれぞれ50nMまたは300nMでpH7.4でアッセイした。攪拌スピードを1000rpmとし、温度を25℃とした。終点の応答値を会合相の終了時に取得し、アイソタイプ対照に正規化した。定常状態FcRN結合アッセイは、FcRNを固相化してAbまたはFLAgの希釈系列(0.1〜225nM)を溶液中で評価することを除いて、同様に実施した。会合時間および解離時間はそれぞれ、600秒間または1200秒間とした。
ProteOnXPR36システム(バイオラッド)を用いて、表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイを実施した。標準的なアミンカップリング化学を用いて、FZD−Fcタンパク質またはLRP−Fcタンパク質をGLCセンサ表面(176−5011)に固相化した。アッセイ緩衝液(PBS、0.05%Tween20、0.5%BSA)中AbまたはFLAgを40μL/分で注入し、会合を150秒間モニタリングした。次いで、アッセイ緩衝液を100μL/分で注入し、解離を900秒間モニタリングした。アッセイは25℃で実施した。1:1ラングミュアモデルおよびグローバルフィットを用いて解析を実施し、ProteOn Managerソフトウェアを用いてkon値およびkoff値を決定した。koff/konの比としてKDを算出した。
6.エピトープビニング
Octet HTX計器(フォルテバイオ)を用いて、BLIエピトープビニング実験を実施した。FZD(FZD−Fc)またはLRP6(LRP6−Fc)タンパク質とのFc融合体をAHQ(18−5001、フォルテバイオ)またはAR2G(18−5092、フォルテバイオ)BLIセンサにそれぞれ固相化した。被覆されたセンサをアッセイ緩衝液(PBS、1%BSA、0.05%Tween20)中100nM Abに240秒間にわたって移し、結合部位の飽和を達成した。次いで、センサをアッセイ緩衝液中100nM競合Abに180秒間にわたって移した。競合Abへの曝露後20秒での応答を測定して、非ブロッキング抗原被覆センサ上の結合シグナルに正規化した。攪拌スピードを1000rpm、温度を25℃とした。
7.細胞株
HPAF−II細胞株およびHEK293T細胞株は、4.5g/L D−グルコース、ピルビン酸ナトリウム、L−グルタミン(サーモフィッシャー#12430−054)を含有しかつ10%FBS(サーモフィッシャー)およびペニシリン/ストレプトマイシン(サーモフィッシャー#15140−163)を補充されたDMEM中で維持した。CHO細胞は、10%FBSおよびペニシリン/ストレプトマイシンを補充されたDMEM/F12(サーモフィッシャー#11320−033)中で維持した。細胞は37℃および5%CO2で維持した。
8.フローサイトメトリー
細胞の間接的な免疫蛍光染色を、以前に記載されたように(Steinhart et al. 2017 Nat Med. Jan;23(1):60-68, PMID: 27869803)、CHO細胞株に対し10nM抗FZD Fabを用いて実施した。Alexa Fluor 488 AffiniPure F(ab’)2を二次抗体として使用した(ジャクソンイムノリサーチ、109−545−097)。抗c−Myc IgG1 9E10(一次抗体、サーモフィッシャー、MA1−980)およびAlexa Fluor 488 IgG(二次抗体、ライフテクノロジーズ、A11001)を発現の対照として使用した。全ての試薬を、製造業者の指示書に従って使用した。
9.ルシフェラーゼレポーターアッセイ
pBARlsレポーター(Biechele and Moon in Wnt Signalling: Pathway Methods and Mammalian Models, E. Vincan, Ed. (Humana Press, Totowa, NJ, 2008), pp. 99−110)をコードするレンチウイルスおよび対照としてウミシイタケルシフェラーゼを用いて、HEK293T細胞に形質移入し、Wnt−βカテニン シグナル伝達レポーター細胞株を生成した。トランスフェクションまたは刺激の前に、120μL中1〜2×103細胞個を、96ウェルプレートの各ウェルに24時間播種した。翌日、FLAgまたはAbタンパク質を添加し、刺激の15〜20時間後、細胞を溶解し、Envisionプレートリーダー(パーキンエルマー)を用いてデュアルルシフェラーゼのプロトコール(プロメガ)に従って発光を測定した。FZD4特異的なアゴニストアッセイについては、FZD4 cDNAを6時間トランスフェクトした後、FLAgタンパク質を添加した。Wnt阻害アッセイについては、Wnt1をcDNAのトランスフェクションによって導入するか、またはWNT3Aタンパク質を6時間適用した後に、Abタンパク質を添加した。全てのアッセイを少なくとも3回繰り返した。
10.ウェスタンブロットアッセイ
H1 ESCを溶解緩衝液(1%Nonidet P−40、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、0.1%デオキシコール酸、50mMトリス(pH7.4)、0.1mM EGTA、0.1mM EDTA、20mMフッ化ナトリウム(NaF)、1:500プロテアーゼ阻害剤(シグマ)、および1mM オルトバナジン酸ナトリウム(Na3VO4))に可溶化した。溶解物を4℃で30分間インキュベートし、14,000×gで10分間遠心分離し、SDS試料緩衝液中で煮沸し、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離し、ニトロセルロース膜上に転写し、標示のAbを用いてウェスタンブロットに供した。Ab検出を、化学発光ベース検出系(ECL;サーモフィッシャー)によって実施した。
11.クリスタルバイオレット増殖アッセイ
HPAF−II細胞をウェル当たり500細胞個で播種し、24時間後、100nM LGK974を100nM FLAgの存在または不在下に添加した。培地を交換し、薬剤処理を隔日で更新した。7日間の処理後、細胞を氷冷メタノール中で固定した。細胞を25%メタノール中0.5%クリスタルバイオレット溶液により染色し、10%酢酸中で脱染し、590nmでの吸光度を測定することによって定量した。
12.免疫蛍光
FLAgおよびCHIR99021により3日間処理されたH1 hESを冷PBSにより洗浄し、4%PFA.により20分間固定した。固定された細胞をPBSによりリンスし、0.3%tritonにより10分間透過化処理し、1%BSAにより1時間ブロッキングした。細胞を1%BSA中、BRACHYURYに対する一次Ab(R&DシステムズAF2085;ヤギ;希釈率1:100)またはOCT3/4(サンタクルズsc5279;マウス;希釈率1:100)共に2時間、Alexa Fluor488標識ロバ抗ヤギまたはAlexa Fluor568標識ロバ抗マウスAbと共に1時間、インキュベートした(図13A)。カバースリップを、Fluoromount(シグマ・アルドリッチ)を用いてマウントし、60×油浸対物レンズを用いてZeiss LSM700共焦点顕微鏡上で分析した(図13B)。ImageJおよびPhotoshop CS6(アドビシステムズ、マウンテンビュー、カリフォルニア州)を用いて画像をアセンブルした。
13.腸陰窩自己再生アッセイ
8〜10週齢のLgr5−EGFP−IRES−creERT2(B6.129P2−Lgr5tm1(cre/ERT2)Cle/J)マウスをジャクソンラボラトリー(バーハーバー、メイン州)から購入した。全ての実験は、トロント大学の動物実験委員会によって承認されたプロトコールに従って実施し、カナダ動物保護協議会の規制およびARRIVEガイドライン(動物試験:in Vivo実験の報告)に適合するものであった。FP+P−L61+3または陰性対照Abを、37mMクエン酸、63mM Na2HPO4、10%トレハロース、0.2ML−アルギニン、0.01%ポリソルベート80、pH6.0中で再構成した。Porcupine阻害剤C59を、ddH2O中0.1%Tween80に混合した0.5%メチルセルロースを用いて再構成した。マウス(雄および雌)を以下の3群(5〜7頭/群)に分けた:ビヒクル、対照(C59および対照Ab)またはFLAg(C59およびFP+P−L61+3)。1日目に、ビヒクル、または10mg/kgの対照AbもしくはFP+P−L61+3による腹腔内注射によってマウスを処理した。この処理は、実験の終了まで研究者に対し盲検とし、計3回の処理にわたって2日毎に繰り返した。2日目に開始し、ビヒクルまたは50mg/kgのC59を、胃管栄養によりそれぞれビヒクル群または2つの実験群に、1日2回、8時間間隔で4日間にわたって投与した。6日目にマウスを屠殺した。腸組織全体を採取し、冷PBSで清掃し、PBS、30%スクロースにより脱水し、4%パラホルムアルデヒドにより固定し、最適な切断温度の化合物(optimal cutting temperature compound)(OCT)に包埋した。8μmのOCT凍結切片を免疫組織学試験に使用した。共焦点顕微鏡(Zeiss LSM700)を使用して、腸のEGFP陰窩を分析した。ビヒクル、C59、またはパンFLAg(FP+P−L61+3)+C59により処理されたLGR5−GFPマウス由来の小腸切片の代表的な蛍光画像を図14に図示する。LGR5−GFPは、陰窩の下部の幹細胞で発現している。細胞の核をDAPIにより対比染色した。
当業者は、通常の実験を超えるものを用いることなく、本明細書に記載の具体的な手順の非常に数多くの等価物を認識するか、または確かめることができるものとなる。そのような等価物は、本発明の範囲内にあるものと考えられる。様々な置換、変更、および改変が、本は爪の趣旨および範囲を逸脱することなく、本発明に対し行われることがある。他の態様、利点、および改変は、本発明の範囲内にある。本願を通じて引用されている全ての参照文献、発行された特許、および公開された特許出願の内容は、参照によりここに組み込まれる。それらの特許、出願、および他の文書の適切な構成要素、プロセス、および方法は、本発明およびその実施形態のために選択されることがある。