JP2021195568A - 耐摩耗性部材およびそれを用いた機械装置 - Google Patents

耐摩耗性部材およびそれを用いた機械装置 Download PDF

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Abstract

【課題】Co基合金材料よりも低コスト化を可能とし、かつ従来のCo基合金材料よりも耐摩耗性に優れるCr基合金材料を用いた耐摩耗性部材および該耐摩耗性部材を利用した機械装置を提供する。【解決手段】本発明は、Cr基合金材料からなる耐摩耗性部材であって、前記Cr基合金材料は、40質量%超65質量%以下のCrと、15質量%以上40質量%以下のNiと、10質量%以上30質量%以下のFeと、5質量%以上16質量%以下のNbと、0.1質量%以上0.9質量%以下のTiと、0.6質量%以上2.5質量%以下のCと、2質量%以下のMnと、不純物とを含み、前記Nbと前記Tiとの質量比Ti/Nbが0.063以下である、ことを特徴とする。【選択図】図4

Description

本発明は、耐摩耗性材料の技術に関し、特にCr(クロム)基合金材料からなる耐摩耗性部材および該耐摩耗性部材を用いた機械装置に関するものである。
機械装置において、摺動部材や転動部材やバルブ部材は、当該機械装置の動作精度を左右すると共にメンテナンス周期に強く影響を及ぼす非常に重要な部材である。そして、摺動部材や転動部材やバルブ部材における耐摩耗性は、当該部材の寿命に関わる重要な特性の一つである。
耐摩耗性に優れた材料として、例えば、従来からステライト(登録商標)やトリバロイ(TRIBALOYは登録商標)などのCo(コバルト)基合金材料が広く利用されている。ただし、Coは材料コストが比較的高い材料であり、コスト低減の観点から、より安価な材料を求める声も大きい。
Co基合金材料に比してコスト低減が期待できる材料として、Coの代わりにCrを含有する合金材料がある。例えば、特許文献1(特開2009-052084)には、質量%で、Cr:35超〜50%、Al(アルミニウム):0.1〜6%、Fe(鉄):0.1超〜1%、C(炭素):0.001〜0.015%、Si(ケイ素):0.01〜0.2%、Mn(マンガン):0.01〜0.2%、Mg(マグネシウム):0.001〜0.03%、N(窒素):0.001〜0.01%を含有し、さらに必要に応じて(イ)Mo(モリブデン):0.1超〜2%、(ロ)Cu(銅):0.1超〜5%、上記(イ)〜(ロ)の内の1種または2種を含有し、残部がNi(ニッケル)および不可避不純物からなり、不可避不純物として含まれるS(硫黄)量を0.005%以下、O(酸素)量を0.003%以下に調整した成分組成を有するNi-Cr-Al系合金からなる樹脂成形用金型部材、が開示されている。
特開2009−052084号公報
特許文献1によると、特許文献1のNi-Cr-Al系合金は、従来のNi-Cr-Al系合金とほぼ同等の硬さを有し、さらに従来のNi-Cr-Al系合金に比べて耐食性が一層優れるとされている。そして、当該Ni-Cr-Al系合金からなる金型を用いることにより、樹脂(特にフッ素樹脂)を成形する際の金型の消耗を低く抑えることができ、使用寿命が長い金型部材を提供することができるとされている。耐摩耗性、耐食性および粉末肉盛溶接性に優れた高靱性ハードフェーシング材を得ることができる、とされている。
しかしながら、近年では、機械装置の性能向上や効率向上の要求がますます高まっており、必然的に摺動部材や転動部材やバルブ部材への要求レベルも従来以上に高くなっている。また、当然のことながら、摺動部材や転動部材やバルブ部材において低コスト化は最重要課題の一つである。
これらのことから、本発明の目的は、Co成分を含まず(すなわち、Co基合金材料よりも低コスト化を可能とし)、従来のCo基合金材料と同等以上の耐摩耗性を有するCr基合金材料を用いた耐摩耗性部材および該耐摩耗性部材を利用した機械装置を提供することにある。
(I)本発明の一態様は、Cr基合金材料からなる耐摩耗性部材であって、
前記Cr基合金材料は、
40質量%超65質量%以下のCrと、
15質量%以上40質量%以下のNiと、
10質量%以上30質量%以下のFeと、
5質量%以上16質量%以下のNbと、
0.1質量%以上0.9質量%以下のTiと、
0.6質量%以上2.5質量%以下のCと、
2質量%以下のMn(マンガン)と、
不純物と、を含む合金組成を有し、
前記Nbと前記Tiとの質量比Ti/Nbが0.063以下である、
ことを特徴とする耐摩耗性部材、を提供するものにある。
本発明は、上記の本発明に係る耐摩耗性部材(I)において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(i)前記Cr基合金材料は、フェライト相を主相とし、樹枝状および粒状の形態を有するNb炭化物相が合計4面積%以上30面積%以下で析出している。
(ii)前記合金組成は、前記Niの含有率が前記Feの含有率よりも高く、前記Nbと前記Cとの質量比C/Nbが0.11以上0.16以下であり、前記質量比Ti/Nbが0.0062以上である。
(ii)前記合金組成は、0.1質量%以上5質量%以下のCu(銅)、0.1質量%以上1質量%以下のSi、0.02質量%以上0.3質量%以下のSn(スズ)、および0.005質量%以上0.05質量%以下のAlのうちの少なくとも一種を更に含む。
(iii)耐摩耗性部材は、摺動部材、転動部材またはバルブ部材である。
(II)本発明の他の一態様は、摺動部材、転動部材またはバルブ部材を有する機械装置であって、
前記摺動部材、前記転動部材または前記バルブ部材が、上記の耐摩耗性部材であることを特徴とする機械装置、を提供するものにある。
本発明によれば、Co基合金材料よりも低コスト化を可能とし、かつ従来のCo基合金材料と同等以上の耐摩耗性を有するCr基合金材料を用いた耐摩耗性部材および該耐摩耗性部材を利用した機械装置を提供することができる。
本発明における耐摩耗性部材の断面微細組織の一例を示す走査型電子顕微鏡(SEM)観察像であり、反射電子像、フェライト相マップ、Nb炭化物相マップ、およびオーステナイト相マップである。 本発明に係る機械装置の一例である動力伝達装置を示す断面模式図である。 本発明に係る機械装置の他の一例である動力伝達装置を示す断面模式図である。 本発明に係る機械装置の他の一例であるバルブ装置を示す断面模式図である。 本発明に係る耐摩耗性部材の製造方法の一例を示す工程図である。 実施例2の試験評価用試料における断面微細組織の一例を示すSEM観察像であり、反射電子像、フェライト相マップ、Nb炭化物相マップ、およびオーステナイト相マップである。 実施例2の試験評価用試料の拡大反射電子像と元素分析結果である。 比較例4の合金塊の表面近傍の断面微細組織の一例を示すSEM観察像である。
本発明者等は、Coを含まずCrを主成分(最大含有率の成分)とするCr基合金材料、特にCrを40質量%超含むCr基合金材料を用いた部材において、化学組成、金属組織形態、および耐摩耗性の関係について鋭意調査検討し、本発明を完成させた。
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。本発明は、ここで取り挙げた実施形態に限定されるものではなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で公知技術と適宜組み合わせたり公知技術に基づいて改良したりすることが可能である。
[Cr基合金材料の化学組成]
本発明で用いるCr基合金材料は、上述したように、Crを最大含有率成分とする合金であり、Crの他にNi、Fe、Nb、Ti、Cを必須成分とし、Mnを任意成分とし、不純物を含む合金である。また、追加的任意成分として、Cu、Si、Sn、Alの一種以上を更に含んでもよい。不純物の合計含有率は、1質量%以下が好ましい。言い換えると、意図的に含有させる成分の合計は、99質量%以上が好ましい。
以下、本発明で用いるCr基合金材料の組成(各成分)について説明する。なお、以下で説明する元素以外の残部成分は、制御が難しい不純物となる。
Cr:40質量%超65質量%以下
Cr成分は、本発明のCr基合金材料の最大含有率成分であり、Coよりも安価であることから従来のCo基合金材料よりも材料コストを低減できる利点がある。また、Crを最大含有率成分とすることで、耐摩耗性部材の表面に不動態の酸化被膜が形成し易くなって耐食性が向上する作用効果もある。
Cr含有率は、40質量%超が好ましく、45質量%以上がより好ましく、50質量%以上が更に好ましい。Cr含有率が40質量%以下になると、コスト低減効果が弱まると共に、耐食性向上の作用効果が不十分になる。一方、Cr含有率が65質量%超になると、合金の融点が高くなり過ぎて耐摩耗性部材の製造性が悪化するため(製造コストが増大するため)、Cr含有量は65質量%以下が好ましい。
Ni:15質量%以上40質量%以下
Ni成分は、本発明のCr基合金材料の母相(フェライト相、またはフェライト相とオーステナイト相との混相)を構成する主要成分の1つであり、母相の延性・靱性の向上に寄与する成分である。Ni含有率は、上述したCr含有率よりも低くかつ後述するFe含有率よりも高いことが好ましい。具体的にはNi含有率は、15質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、25質量%以上が更に好ましい。Ni含有率が15質量%未満になると、耐摩耗性部材の延性・靱性が不十分になる。一方、Ni含有率が40質量%超になると、耐摩耗性部材の耐摩耗性が不十分になるため、Ni含有率は40質量%以下が好ましい。
Fe:10質量%以上30質量%以下
Fe成分も、本発明のCr基合金材料の母相を構成する主要成分の1つであり、靭性や硬さの確保に寄与する成分である。Fe含有率は、10質量%以上が好ましく、12質量%以上がより好ましく、15質量%以上が更に好ましい。Fe含有率が10質量%未満になると、耐摩耗性部材の耐摩耗性が不十分になる。一方、Fe含有率が30質量%超になると、脆性の金属間化合物であるσ相(FeCr相を基本とする金属間化合物相)が生成し易くなり、耐摩耗性部材の延性・靱性が著しく低下する(いわゆるσ相脆化)。Fe含有率は、20質量%以下がより好ましく、17質量%以下が更に好ましい。
Nb:5質量%以上16質量%以下
Nb成分は、後述するC成分と化合してNb炭化物相(例えばNbC相)を生成・析出し、耐摩耗性部材の硬化・耐摩耗性向上に寄与する重要な成分である。また、母相中に固溶したNb成分は、靭性の向上に寄与する作用効果もある。Nb含有率は、5質量%以上が好ましく、6質量%以上がより好ましい。Nb含有率が5質量%未満になると、耐摩耗性部材の硬化・耐摩耗性向上が不十分になる。一方、Nb含有率は、16質量%以下が好ましく、12質量%以下がより好ましい。Nb含有率が16質量%超になると、耐摩耗性部材の延性・靱性が不十分になる。
また、Nb含有率は、後述するC含有率との質量比C/Nbが0.11以上0.16以下であることが好ましく、0.12以上0.14以下がより好ましい。質量比C/Nbが0.11未満であると、Nb炭化物相の生成量が不足して、耐摩耗性部材の硬化・耐摩耗性向上の作用効果が不十分になる。質量比C/Nbが0.16超であると、過剰のC成分がCr炭化物相(例えばCr7C3相、Cr23C6相)を生成・析出させて、耐摩耗性部材の耐食性が低下する要因となる。
C:0.6質量%以上2.5質量%以下
C成分は、上述したNb成分と化合してNb炭化物相を生成・析出し、耐摩耗性部材の硬化・耐摩耗性向上に寄与する重要な成分である。また、C成分は、母相中に固溶しても耐摩耗性部材の硬化に寄与する作用効果もある。C含有率は、0.6質量%以上が好ましく、0.7質量%以上がより好ましい。C含有率が0.6質量%未満になると、耐摩耗性部材の硬化・耐摩耗性向上が不十分になる。一方、C含有率は、2.5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1.5質量%以下が更に好ましい。C含有率が2.5質量%超になると、Cr炭化物相を過剰に生成・析出させて、耐摩耗性部材の耐食性が低下する要因となる。
また、上述したように、C含有率は、Nb含有率との質量比C/Nbが0.11以上0.16以下であることが好ましく、0.12以上0.14以下がより好ましい。
Ti:0.1質量%以上0.9質量%以下
Ti成分は、耐摩耗性部材の内部の酸素と化合して微細なTi酸化物粒子を形成し、正の作用効果に寄与しない余剰分の酸素を捕捉・安定化する役割(いわゆる、脱酸素の役割)を担う成分である。加えて、分散形成したTi酸化物粒子は、Nb炭化物相の生成の起点(種)として機能し、Nb炭化物相の微細分散析出に貢献する作用効果がある。なお、本発明は、Ti成分の一部が炭化物(例えばTiCや(Nb,Ti)C)を形成する可能性があることを否定するものではない。
Ti含有率は、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましい。Ti含有率が0.1質量%未満になると、Ti酸化物粒子の生成量が不足してNb炭化物相の微細分散析出が不十分になり(大きい塊状のNb炭化物相粒子が析出し易くなり)、その結果、耐摩耗性部材の硬化・耐摩耗性向上が不十分になる。一方、Ti含有率は、0.9質量%以下が好ましく、0.7質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が更に好ましい。Ti含有率が0.9質量%超になると、Ti酸化物粒子が粗大化し易くなって、Nb炭化物相と共に耐摩耗性部材の凝固表面に偏在し易くなり、耐摩耗性部材の耐食性や耐摩耗性が低下する要因となる。
また、Ti含有率は、前述したNb含有率との質量比Ti/Nbが0.0062以上0.063以下であることが好ましく、0.01以上0.05以下がより好ましい。質量比Ti/Nbが0.0062未満であると、塊状のNb炭化物相粒子が粗大化し易くなる。質量比Ti/Nbが0.063超であると、Nb炭化物相粒子におけるTi含有率が増大して耐摩耗性部材の凝固表面に偏在し易くなる。
Mn:2質量%以下
Mn成分は、Cr基合金材料の任意成分であり、硫黄や酸素と化合して該化合物の微細粒子を形成し、正の作用効果に寄与しない余剰分の硫黄や酸素を捕捉・安定化する役割(いわゆる、脱硫・脱酸素の役割)を担う成分である。硫黄や酸素を捕捉・安定化することにより、耐摩耗性部材の腐食性や延性・靭性の向上に寄与する。
Mnは必須成分ではないが(含有率0質量%でもよいが)、Mn含有の作用効果を確実に発揮させるには、Mn含有率は0.05質量%以上が好ましい。一方、Mn含有率は、2質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が更に好ましい。Mn含有率が2質量%超になると、硫化物(例えばMnS)の粗大粒子を形成して耐摩耗性部材の耐食性や延性・靭性の低下要因になる。
不純物:合計1質量%以下
本発明のCr基合金材料における代表的な不純物としては、N、O、P、SおよびTaが挙げられる。次に、これら不純物について簡単に説明する。
N:0.04質量%以下
N成分は、Cr基合金材料の構成成分と化合して窒化物相(例えば、Cr窒化物相)の粗大粒子を形成した場合に、耐摩耗性部材の機械的特性(例えば、延性、靱性)を低下させる不純物成分である。一方、N含有率を0.04質量%以下に制御することで、母相中に固溶したり窒化物相の微細粒子を形成したりすることが可能になり、機械的特性(例えば、硬さ)を向上させる作用効果もある。
O:0.02質量%以下
O成分は、Cr基合金材料の構成成分と化合して酸化物相(例えば、Fe酸化物)の粗大粒子を形成した場合に、耐摩耗性部材の機械的特性(例えば、延性、靱性)を低下させる不純物成分である。一方、O含有率を0.02質量%以下に制御することで、酸化物相の微細粒子を形成することが可能になり、機械的特性(例えば、硬さ)を向上させる作用効果もある。
P:0.04質量%以下
P成分は、Cr基合金材料の結晶粒界に偏析し易く、機械的特性(例えば、延性、靱性)や結晶粒界の耐食性を低下させる不純物成分である。P含有率を0.04質量%以下に制御することで、それらの負の影響を抑制することができる。
S:0.005質量%以下
S成分は、Cr基合金材料の構成成分と化合して比較的低融点の硫化物(例えば、Fe硫化物)を生成し易く、耐摩耗性部材の機械的特性や耐食性を低下させる不純物成分である。S含有率を0.005質量%以下に制御することで、それらの負の影響を抑制することができる。
Ta:0.2質量%以下
Ta成分は、ニオブ鉱(例えば、パイロクロア)に含まれる成分の一種であり、Nb原料に混入し易い不純物成分である。Ta含有率が0.2質量%以下であれば、特段の悪影響はない。言い換えると、Ta成分は、積極的に含有させる成分ではないが、0.2質量%以下の含有は許容される成分である。
追加的任意成分
前述したように、本発明のCr基合金材料は、追加的任意成分として、Cu、Si、Sn、Alの一種以上を更に含んでもよい。次に、これら追加的任意成分について簡単に説明する。
Cu:0.1質量%以上5質量%以下
Cu成分は、Cr基合金材料における追加的任意成分の1つであり、耐食性の向上に寄与する成分である。Cuを含有する場合、その含有率は0.1質量%以上5質量%以下が好ましい。Cu含有率が0.1質量%未満になると、Cuに基づく作用効果が明確化しづらいだけである(特段の不具合は生じない)。一方、Cu含有率が5質量%超になると、Cu析出物を生成し易くなり、耐摩耗性部材の延性・靭性の低下要因になる。
Si:0.1質量%以上1質量%以下
Si成分も、Cr基合金材料における追加的任意成分の1つであり、脱酸素の役割を担う成分である。Siを含有する場合、その含有率は、0.1質量%以上1質量%以下が好ましい。Si含有率が0.1質量%未満になると、Siに基づく作用効果が明確化しづらいだけである(特段の不具合は生じない)。一方、Si含有率が1質量%超になると、酸化物(例えばSiO2)の粗大粒子を形成して耐摩耗性部材の延性・靭性の低下要因になる。
Sn:0.02質量%以上0.3質量%以下
Sn成分も、Cr基合金材料における追加的任意成分の1つであり、耐摩耗性部材の表面の不動態皮膜強化の役割を担い、耐食性(例えば、塩化物イオンや酸性の腐食環境に対する耐性)の向上に寄与する成分である。Snを含有する場合、その含有率は、0.02質量%以上0.3質量%以下が好ましい。Sn含有率が0.02質量%未満になると、Snに基づく作用効果が明確化しづらいだけである(特段の不具合は生じない)。一方、Sn含有率が0.3質量%超になると、Sn成分の粒界偏析を生じさせて耐摩耗性部材の延性・靱性の低下要因になる。
Al:0.005質量%以上0.05質量%以下
Al成分も、Cr基合金材料における追加的任意成分の1つであり、MnやSiと組み合わせることで脱酸素作用の向上に寄与する成分である。Alを含有する場合、その含有率は、0.005質量%以上0.05質量%以下が好ましい。Al含有率が0.005質量%未満になると、Alによる作用効果が明確化しづらいだけである(特段の不具合は生じない)。一方、Al含有率が0.05質量%超になると、酸化物や窒化物(例えば、Al2O3やAlN)の粗大粒子を形成して耐摩耗性部材の延性・靱性の低下要因になる。
[耐摩耗性部材の微細組織]
図1は、本発明における耐摩耗性部材の断面微細組織の一例を示す走査型電子顕微鏡(SEM)観察像であり、反射電子像、フェライト相マップ、Nb炭化物相マップ、およびオーステナイト相マップである。図1に示したように、本発明のCr基合金材料からなる耐摩耗性部材は、母相がフェライト相とオーステナイト相との混相からなり、該母相の中にNb炭化物相が分散析出している。それぞれの相の比率を調査すると、フェライト相が77.5面積%、オーステナイト相が15.5面積%、Nb炭化物相が7.0面積%である。
反射電子像およびNb炭化物相マップを詳細に観ると、Nb炭化物相は、主に樹枝状/葉脈状に析出しており、ところどころで粒状に析出している。すなわち、Nb炭化物相が母相全体に微細分散析出している様子が分かる。本発明における耐摩耗性部材は、Nb炭化物相の微細分散析出に起因して、優れた耐摩耗性を示すものと考えられる。
耐摩耗性部材の断面微細組織を観察した際に、Nb炭化物相の析出量は、4面積%以上30面積%以下が好ましく、5面積%以上20面積%以下がより好ましい。Nb炭化物相の析出量が4面積%未満になると、耐摩耗性部材の耐摩耗性向上の効果が十分に得られない。一方、Nb炭化物相の析出量が30面積%超になると、粗大粒状のNb炭化物相が析出し易くなり、耐摩耗性部材の延性・靱性が不十分になる。
[耐摩耗性部材および機械装置]
図2Aは、本発明に係る機械装置の一例である動力伝達装置を示す断面模式図である。図2Aに示したように、本発明のCr基合金材料からなる第一歯車110および第二歯車120(それぞれ本発明に係る耐摩耗性部材)を組み合わせることで、摩耗耐久性に優れる歯車機構100が得られる。なお、図2Aでは平歯車による歯車機構を示したが、本発明に係る動力伝達装置は、平歯車に限定されるものではなく、他の歯車(例えば、内歯車、はすば歯車、ねじ歯車、かさ歯車など)であってもよい。
図2Bは、本発明に係る機械装置の他の一例である動力伝達装置を示す断面模式図である。図2Bに示したように、本発明のCr基合金材料からなるチェーンプレート210、チェーンピン210およびチェーンローラ230(それぞれ本発明に係る耐摩耗性部材の一種)を用いることで、摩耗耐久性に優れるローラーチェーン200が得られる。
図2Cは、本発明に係る機械装置の他の一例であるバルブ装置を示す断面模式図である。図2Cに示したように、本発明のCr基合金材料からなる燃料噴射弁310および燃料噴射弁座体320(それぞれ本発明に係る耐摩耗性部材の一種)を用いることで、摩耗耐久性に優れる燃料噴射装置300が得られる。
[耐摩耗性部材の製造方法]
次に、本発明の耐摩耗性部材を製造する方法について簡単に説明する。
図3は、本発明に係る耐摩耗性部材の製造方法の一例を示す工程図である。図3に示したように、まず、耐摩耗性部材の基となるCr基合金材料を用意する合金材料作製工程S1を行う。所望の耐摩耗性部材を形成できるCr基合金材料が得られる限り、合金材料作製工程S1の詳細手順に特段の限定はないが、例えば、所望の合金組成となるように原料を混合・溶解して溶湯を形成する原料混合溶解素工程S1aと、該溶湯を凝固/固化させてCr基合金材料を用意する合金凝固素工程S1bとを含む。
原料混合溶解素工程S1aは、合金中の不純物成分の含有率をより低減する(合金を精錬する)ため、Cr基合金の溶湯を一旦凝固させて原料合金塊を形成する原料合金塊形成素工程の後に、該原料合金塊を再溶解して清浄化溶湯を用意する再溶解素工程を更に含んでいてもよい。合金の清浄度を高められる限り再溶解方法に特段の限定はないが、例えば、真空アーク再溶解(VAR)を好ましく利用できる。
合金凝固素工程S1bは、次工程である成形加工工程S2で用いるのに適した形態(例えば、インゴット、粉末)のCr基合金材料が得られる限り、詳細手順に特段の限定はないが、例えば、鋳造法やアトマイズ法を好適に利用できる。
Cr基合金材料としてロッド形状、ワイヤ形状、テープ形状のものを用意する場合、鋳造法を利用してCr基合金塊を形成する合金塊形成素工程を行った後に、所望形状のCr基合金材料となるように該合金塊に対して塑性加工を施す塑性加工素工程を行うことは好ましい。なお、Cr基合金材料として粉末を作製する場合、アトマイズ素工程(例えば、球形状粒子が得られるガスアトマイズや遠心力アトマイズ)の後に、所望の粒径範囲に整えるための分級素工程を行ってもよい。分級素工程は必須の工程ではないが、Cr基合金粉末の利用性向上の観点からは行うことが好ましい。
つぎに、合金材料作製工程S1で得られたCr基合金材料を用いて、所望形状の成形加工体を形成する成形加工工程S2を行う。所望形状の成形加工体を形成できる限り、成形加工方法に特段の限定はない。例えば、Cr基合金材料がインゴットの場合、塑性加工(熱間加工、冷間加工など)や機械加工(打抜加工、切削加工など)を適宜利用できる。また、Cr基合金材料が粉末の場合、粉末冶金プロセスを好適に利用できる。
つぎに、成形加工工程S2で形成したCr基合金の成形加工体に表面仕上げを施す表面仕上げ工程S3を行う。表面仕上げ方法に特段の限定はなく、従前の方法(例えば、研削加工や研磨加工など)を適宜利用できる。
以下、実施例および比較例により本開示をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実験1]
(実施例1〜2および比較例1〜3の作製)
表1に示す名目合金組成となるように、原料を混合し高周波溶解法(溶解温度1500℃以上、減圧Ar雰囲気中)により溶解して溶湯を形成した後に、銅鋳型を用いた金型鋳造法により円柱状成形体(直径20 mm×長さ50 mm)を作製した。
Figure 2021195568
A-1〜A-2は本発明の合金組成を満たすCo基合金材料であり、A-3は本発明の合金組成から外れるCo基合金材料(Ti成分を含まない)であり、A-4〜A-5は市販のCo基合金材料である。表1において、各成分の含有率(単位:質量%)は、記載の成分の総和が100質量%となるように換算してある。不純物(N、O、P、S)に関しては、合計が0.1質量%以下であることを確認した上で、主成分の含有率に含めた。
上記で用意した円柱状成形体から板材(15 mm×20 mm×2 mm)を切り出し、表面研磨して実施例1〜2および比較例1〜3の試験評価用試料を作製した。
[実験2]
(実施例1〜2および比較例1〜3の調査)
実験1で作製した実施例1〜2および比較例1〜3の試験評価用試料に対して、合金材料の微細組織観察と耐摩耗性の試験評価とを行った。
(1)微細組織観察
微細組織観察は、走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分析装置SEM-EDX(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、S-4300SE)を用い、構成相の面積率の測定にはGNU画像編集プログラム(GIMP、フリーソフトウェア)を利用した。図4は、実施例2の試験評価用試料における断面微細組織の一例を示すSEM観察像であり、反射電子像、フェライト相マップ、Nb炭化物相マップ、およびオーステナイト相マップである。なお、前述した図1は、実施例1の試験評価用試料のものである。
図4に示した実施例2の試験評価用試料は、図1と同様に、母相がフェライト相(α相)とオーステナイト相(γ相)との混相からなり、該母相の中にNb炭化物相が分散析出している。Nb炭化物相は、主に樹枝状/葉脈状に析出しており、ところどころで粒状に析出している。構成相の比率は、フェライト相が77.4面積%、オーステナイト相が10.5面積%、Nb炭化物相が12.0面積%である。実施例2は、実施例1よりもNb含有率が高いことから、Nb炭化物相の比率が高くなっている。
図5は、実施例2の試験評価用試料の拡大反射電子像と元素分析結果である。図5に示したように、粒状のNb炭化物相は平均粒径が10μm以下であることが判る。また、Ti成分は母相(α相、γ相)からは検出されずNb炭化物相のみから検出されており、Ti成分がNb炭化物相析出の起点(種)となっていることが強く示唆される。
これら実施例1〜2に対し、比較例1の試験評価用試料では、図示は省略するが、粗大粒状のNb炭化物相(平均粒径が10μm超)の析出が確認された。比較例1では、Cr基合金材料がTi成分を含有しないことから、Nb炭化物相析出の起点(種)の数が少なくなってNb炭化物相が粗大化したと考えられる。
比較例2〜3の試験評価用試料のCo基合金材料では、図示は省略するが、Nb成分を含有しないことからNb炭化物相は生成・析出せず、代わりにCr炭化物相の析出が確認された。
(2)耐摩耗性の試験・評価
耐摩耗性の試験として、試験評価用試料同士を当接して往復摺動させる摩擦摩耗試験(高千穂精機株式会社製、往復動摩擦摩耗試験機、μ-100Nを使用)を行って、摩擦係数を測定した。測定条件は、面圧9.9 MPa、摺動ストローク15 mmとした。また、摩擦摩耗試験後における摩耗痕(摺動方向に直交する方向1 cmの範囲)での傷(長さ5μm超のクラック)の数を、SEMを用いて調査した。
摩擦係数に関しては、10往復時〜30往復時の範囲での変動幅が「±0.01以内」の場合を「優秀」と判定し、「±0.01超±0.02以内」の場合を「合格」と判定し、「±0.02超」の場合を「不合格」と判定した。摩擦摩耗試験後の摩耗痕での傷に関しては、傷密度が「5個/cm未満」の場合を「優秀」と判定し、「5個/cm以上10個/cm未満」の場合を「合格」と判定し、「10個/cm以上」の場合を「不合格」と判定した。
さらに、試験評価用試料に対して(摩擦摩耗試験の面ではない面に対して)、ビッカース硬さ試験(JIS Z 2244(2009)に準拠)を行ってビッカース硬さ(HV)を測定した。マイクロビッカース硬度計(株式会社島津製作所製、HMV)を用いて7点計測し(荷重:1 kgf、保持時間:10秒)、該7点のビッカース硬さのうちの最大値と最小値とを除いた5点の平均値を当該試料のビッカース硬さとした。
ビッカース硬さに関しては、「600≦HV」の場合を「優秀」と判定し、「550≦HV」の場合を「合格」と判定し、「HV<550」の場合を「不合格」と判定した。
耐摩耗性の総合評価としては、摩擦係数の変動幅、摩耗痕での傷密度およびビッカース硬さが全て「合格」以上の場合を「合格」と判定し、いずれか一つでも「不合格」の場合は「不合格」と判定した。結果を表2にまとめる。
Figure 2021195568
表2に示したように、摩擦係数の変動幅では、実施例1〜2が「優秀」と判定され、比較例1が「合格」と判定され、比較例2〜3が「不合格」と判定される。摩擦係数の変動幅が小さいことは、摩擦摺動面の表面状態の変化が小さいことを意味する。加えて、実施例1〜2は、比較例2〜3よりも摩擦係数が小さいことが分かる。摩擦係数が小さいことは、その部材を用いた機械装置において作動中の摩擦ロスを低減できることにつながる。
摩耗痕の傷密度では、実施例1〜2および比較例2が「優秀」と判定され、比較例1が「不合格」と判定され、比較例3が「合格」と判定される。摩耗痕の傷密度が低いことは、靭性に優れていることを意味する。比較例1は、微細組織観察において粗大粒状のNb炭化物相析出が確認されたことから、当該粗大粒状のNb炭化物相が摩擦摺動中に欠落したことに起因していると考えられる。
ビッカース硬さでは、実施例1〜2が「優秀」と判定され、比較例1が「合格」と判定され、比較例2〜3が「不合格」と判定される。本発明のCr基合金材料は、従来のCo基合金材料よりも高硬度化することが確認される。ビッカース硬さが高いことは、耐摩耗性の向上につながる。
これらの結果から、実施例1〜2は、耐摩耗性の総合評価として「合格」と判定され、比較例1〜3は、「不合格」と判定される。
[実験3]
(実施例3〜4および比較例4の作製と調査)
実施例2の合金組成をベースとして、合金中の質量比Ti/Nbの影響を調査するために、質量比Ti/Nbを変化させたCr基合金材料(実施例3〜4および比較例4、A-6〜A-8)を用意した。具体的には、表3に示す名目合金組成となるように、原料を混合し水冷銅ハース上のアーク溶解法(減圧Ar雰囲気中)により合金塊(直径34 mm、約50 g)を作製した。このとき、合金塊均質化のために、合金塊の再溶解を6回繰り返して試料を作製した。
Figure 2021195568
作製した実施例3〜4および比較例4の合金塊を切断・研磨した試料に対して、実験2と同様にして微細組織観察を行った。
図示は省略するが、実施例3〜4の合金塊試料は、実施例2の試験評価用試料と比較すると、質量比Ti/Nbの増大に伴って粒状のNb炭化物相の析出数が増加する傾向が見られたが、基本的に実施例2の試験評価用試料(図4参照)と同様の微細組織が観察された。
一方、比較例4の合金塊試料の微細組織は、実施例2〜4のそれらと差異が見られた。図6は、比較例4の合金塊試料の表面近傍の断面微細組織の一例を示すSEM観察像である。図6に示したように、粗大粒状のNb炭化物相(平均粒径が10μm超)が合金塊試料の表面領域(水冷銅ハースに直接接触していない表面領域、最終凝固領域)に偏在し、合金塊試料の内部領域でNb炭化物相の析出量が減少している様子が分かる。
このような微細組織になった要因としては、Nb炭化物相粒子中のTi含有率の増加によってNb炭化物相粒子の比重が小さくなることにより、母相の凝固中にNb炭化物相粒子が浮上した(最終凝固領域に押し出された)可能性が考えられる。このような組織形態は、耐摩耗性部材の表面を仕上げるために鋳造体の表面研削を行うと、表面近傍のNb炭化物相粒子を削り落とすため、最終的な耐摩耗性部材の表面(すなわち、鋳造体の内部領域)でのNb炭化物相の析出量制御を困難にすることから好ましくない。
上述した実施形態や実施例は、本発明の理解を助けるために説明したものであり、本発明は、記載した具体的な構成のみに限定されるものではない。例えば、実施形態の構成の一部を当業者の技術常識の構成に置き換えることが可能であり、また、実施形態の構成に当業者の技術常識の構成を加えることも可能である。すなわち、本発明は、本明細書の実施形態や実施例の構成の一部について、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。
100…歯車機構、110…第一歯車、120…第二歯車、
200…ローラーチェーン、
210…チェーンプレート、220…チェーンピン、230…チェーンローラ、
300…燃料噴射装置、310…燃料噴射弁、320…燃料噴射弁座体。

Claims (6)

  1. Cr基合金材料からなる耐摩耗性部材であって、
    前記Cr基合金材料は、
    40質量%超65質量%以下のCrと、
    15質量%以上40質量%以下のNiと、
    10質量%以上30質量%以下のFeと、
    5質量%以上16質量%以下のNbと、
    0.1質量%以上0.9質量%以下のTiと、
    0.6質量%以上2.5質量%以下のCと、
    2質量%以下のMnと、
    不純物と、を含む合金組成を有し、
    前記Nbと前記Tiとの質量比Ti/Nbが0.063以下である、
    ことを特徴とする耐摩耗性部材。
  2. 請求項1に記載の耐摩耗性部材において、
    前記Cr基合金材料は、フェライト相を主相とし、樹枝状および粒状の形態を有するNb炭化物相が合計4面積%以上30面積%以下で析出していることを特徴とする耐摩耗性部材。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の耐摩耗性部材において、
    前記合金組成は、前記Niの含有率が前記Feの含有率よりも高く、
    前記Nbと前記Cとの質量比C/Nbが0.11以上0.16以下であり、
    前記質量比Ti/Nbが0.0062以上であることを特徴とする耐摩耗性部材。
  4. 請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の耐摩耗性部材において、
    前記合金組成は、
    0.1質量%以上5質量%以下のCu、
    0.1質量%以上1質量%以下のSi、
    0.02質量%以上0.3質量%以下のSn、および
    0.005質量%以上0.05質量%以下のAlのうちの少なくとも一種を更に含むことを特徴とする耐摩耗性部材。
  5. 請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の耐摩耗性部材において、
    耐摩耗性部材が、摺動部材、転動部材またはバルブ部材であることを特徴とする耐摩耗性部材。
  6. 摺動部材、転動部材またはバルブ部材を有する機械装置であって、
    前記摺動部材、前記転動部材または前記バルブ部材が、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の耐摩耗性部材であることを特徴とする機械装置。
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