JP2021191232A - ウイルス様粒子の精製法 - Google Patents

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Abstract

【課題】医薬品等の原料として有用なエンベロープ型ウイルス様粒子の精製方法に関して、工業的に有用で、効率的であり、しかも精製の結果、得られるエンベロープ型ウイルス様粒子は、高い活性を有する精製方法を提供する。【解決手段】カチオン交換基が固定されたモノリス型カラムに、エンベロープ型ウイルス様粒子を含む液を通液してエンベロープ型ウイルス用粒子をカラムに吸着させる工程、および該カラムに吸着したエンベロープ型ウイルス様粒子を選択的に溶出させる工程を含むエンベロープ型ウイルス様粒子の精製方法。【選択図】なし

Description

本発明は、エンベロープ型ウイルス様粒子の精製方法に関する。
近年、バイオ医薬品の市場が拡大している。バイオ医薬品に用いられる医薬用タンパク質は、夾雑物を多量に含む細胞培養液から高度に精製される必要がある。このため、クロマトグラフィーや超遠心等の方法が一般に用いられている。医薬用タンパク質の代表として、抗体医薬品がよく知られている。抗体医薬品として、抗体の基本骨格をベースとした動物細胞での発現量向上の研究が広く為され、さらには抗体の基本骨格をベースとした精製プロセスが盛んに研究されてきた。
バイオ医薬品において、ウイルス様粒子(VLP:virus−like particles)を医療分野で治療に用いる方法が急速に拡大している。例えば、新たなワクチンとしての応用やウイルスベクター・ドラッグデリバリー担体としての遺伝子治療等である。ウイルス様粒子の市場は、今後さらに拡大していくことが期待されている。
一般に、ウイルス様粒子は細菌細胞や酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞、ヒトを含む動物由来の細胞株を用いた細胞培養によって生産される。ウイルス様粒子はウイルスの特有な外殻構造を模倣して構築される。ウイルス様粒子は、ウイルス種に応じて異なる性状を有する。このため、共通の骨格と言えるものはなく、個々の発現量向上や精製プロセスの研究が必要である。
ウイルス様粒子は、凝集物に加えて、構造の不安定さから、分解物や、完全な構造を有さない物も発生し、不純物となることがある。それらの不純物は、薬効の低下や免疫原性の発現等、医薬品にとって有害な影響をもたらすことが懸念されている。そのため、有害な影響がなくなる程度まで、不純物が除去されることが望まれている。
ウイルス様粒子における、不純物の除去には、超遠心による精製法が研究されている。しかし超遠心精製手法は、生産効率が悪かった。生産効率の向上を目的として、クロマトグラフィーによる精製方法が多数報告されている。これらは、陰イオン交換クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー等を単独もしくは複合して用いる、あるいはそれらを混合した混合モードクロマトグラフィーを用いる等により精製するものである。
ウイルス様粒子の内、エンベロープ型ウイルス様粒子は、一般的にはリン脂質膜にタンパク質が挿入された構造を取る。一般的には、その脂質膜とクロマトグラフィー担体との疎水的相互作用を利用し、培養液中に多量に含まれる夾雑物との分離を行う。
エンベロープ型ウイルス様粒子の精製方法についても多数報告されている。例えば非特許文献1では、様々なイオン交換基が固定された粒子状の多孔質高分子担体と様々な溶離液pHを組み合わせたプロセスにおける結合容量の比較が記載されている。文献1によると、カチオン交換基が固定された粒子状の多孔質高分子担体よりもアニオン交換基が固定された粒子状の多孔質高分子担体の方が、広いpH範囲で、結合容量が高く、優れた濃縮・精製が可能であることが記載されている。
また、非特許文献2では、硫酸エステル基が固定された多孔質高分子担体からなる充填剤を用いたカラムによるエンベロープ型ウイルス様粒子の精製方法が記載されている。
さらに、非特許文献3には、疎水性の表面を有するモノリス型カラム、あるいはブチル基が固定された粒子状の多孔質高分子担体からなるカラムを用いたエンベロープ型ウイルス様粒子の精製方法が記載されている。本方法では、混入する脂質による、カラムの閉塞や汚染を防ぐために適切な前処理や洗浄方法が必要となる。
Protein Expression and Purification 56 (2007) 301−310. Protein Expression and Purification 78 (2011) 149−155. Journal of Chromatography B, 880 (2012) 82−89.
これまでの種々の試みにもかかわらず、依然として、医薬品等の原料として有用なエンベロープ型ウイルス様粒子の効率の良い精製法が望まれていた。本発明は、エンベロープ型ウイルス様粒子を、効率よく、高活性な状態で得ることができる精製手法を開示する。
本発明者らは、上記課題を解決するために、エンベロープ型ウイルス様粒子の精製方法について鋭意検討を行なった。その結果、カチオン交換基が固定されたモノリス型カラムと、挿入されているタンパク質のエンベロープの外側領域の等電点よりも高く、pH10.0以下の溶離液・サンプルバッファーを組み合わせて使用した条件において、効率よく、高活性に精製できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
カチオン交換基が固定されたモノリス型カラムに、エンベロープ型ウイルス様粒子を含む液を通液してエンベロープ型ウイルス用粒子をカラムに吸着させる工程、および該カラムに吸着したエンベロープ型ウイルス様粒子を選択的に溶出させる工程を含むエンベロープ型ウイルス様粒子の精製方法。
[2]
エンベロープ型ウイルス様粒子を含む液のpHが、エンベロープに挿入されているタンパク質のエンベロープの外側領域の等電点より高く、pH10.0以下である、[1]に記載の精製方法。
[3]
モノリス型カラムが、モノマー単体として少なくとも、グリシジルメタクリレートとエチレングリコールジメタクリレートを含む共重合体にカチオン交換基が固定されたモノリス型担体から構成されるモノリス型カラムである、[1]あるいは[2]に記載の精製方法。
[4]
カチオン交換基がスルホン酸基である、[1]〜[3]のいずれかに記載の精製方法。
[5]
エンベロープ型ウイルス様粒子が、動的光散乱法による粒度分布の体積分布が10nm以上500nm以下であるエンベロープ型ウイルス様粒子である、[1]〜[4]のいずれかに記載の精製方法。
[6]
エンベロープ型ウイルス様粒子に挿入されているタンパク質がB型肝炎ウイルス抗原(HBsAg)を含む[1]〜[5]のいずれかに記載の精製方法。
[7]
エンベロープ型ウイルス様粒子が酵母細胞により調整されたものである、[1]〜[6]のいずれかに記載の精製方法。
[8]
前記モノリス型カラムの厚さが、1〜100mmである[1]〜[7]のいずれかに記載のウイルス様粒子の精製方法。
本発明のエンベロープ型ウイルス様粒子の精製方法によれば、医薬品等の原料として有用なエンベロープ型ウイルス様粒子を、工業的規模で、経済的に精製することができる。
精製されたエンベロープ型ウイルス様粒子の電顕写真である。
これまでの種々の報告において、エンベロープ型ウイルス様粒子は、中性以上のpHの溶離液を用いた、アニオン交換クロマトグラフィーを組み合わせた方法により精製されることが多かった。エンベロープ型ウイルス様粒子は、リン脂質膜で構成される。また、リン脂質表面に挿入されているタンパク質のエンベロープの外側領域の等電点が酸性側にある。このため、エンベロープ型ウイルス様粒子は、中性付近ではアニオンとして、マイナスの電荷を帯びる。こうした理由により、エンベロープ型ウイルス様粒子は、中性以上のpHの溶離液とアニオン交換クロマトグラフィーを組み合わせた方法により、主に精製されてきた。この方法では、アニオン交換担体の結合容量に応じて、エンベロープ型ウイルス様粒子を結合させ、その後に溶出する精製方法が取られる。しかし、これらの方法では、得られたエンベロープ型ウイルス粒子の精製後の活性が十分でないことがあった。
本発明者らは、エンベロープ型ウイルス様粒子を含む試料を、エンベロープに挿入されているタンパク質のエンベロープの外側領域の等電点より高いpHに調節した後、カチオン交換基が固定されたモノリス型カラムに通液し、エンベロープ型ウイルス様粒子を結合させ、さらに、エンベロープに挿入されているタンパク質のエンベロープの外側領域の等電点より高い緩衝液と無機塩緩衝液との混合液からなる移動相を通液することにより、エンベロープ型ウイルス様粒子を溶出させることにより、高活性な状態でエンベロープ型ウイルス様粒子を精製できることを見出した。
本反応が予想に反して好結果を与える理由は不明である。一つの解釈として次のように考えることができる。すなわち、エンベロープ型ウイルス様粒子は、タンパク質のエンベロープの外側領域の等電点より高いpHに調節した溶液中では、リン脂質の部分が、マイナスの電荷を持つ。これに対し、エンベロープに挿入されているタンパク質の部分では、マイナスの電荷は相対的に少ない。このため、タンパク質の部分を中心に、モノリス型カラムの基材との間に、疎水性相互作用が働く。複数の箇所でこうした疎水性相互作用が働くことで、エンベロープ型ウイルス様粒子全体は、疎水性相互作用により、カラムに吸着する。この時、リン脂質のみからなる不純物は、カラムに吸着することが無いので、効果的に目的物を精製することができる。以上は、仮説であり、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲を限定する意図はない。
以下に、本発明における各要件について、詳細に説明する。
<エンベロープ型ウイルス様粒子>
本発明のエンベロープ型ウイルス様粒子の精製方法によって、精製できるエンベロープ型ウイルス様粒子は、リン脂質膜にタンパク質が挿入されたエンベロープ型ウイルスの外殻構造を模倣した人工粒子であれば、特に制限されない。エンベロープ型ウイルスとは、例えば、ヘルペスウイルス科、ポックスウイルス科、ヘパドナウイルス科、フラビウイルス科、トガウイルス科、コロナウイルス科、オルトミクソウイルス科、パラミクソウイルス科、ラブドウイルス科、ブニヤウイルス科、フィロウイルス科、レトロウイルス科等に由来するウイルス様粒子が挙げられる。精製前の状態において、エンベロープ型ウイルス様粒子を含む試料には、宿主培養細胞等由来の夾雑物、タンパク質やリン脂質等が含まれている。エンベロープ型ウイルス様粒子に含まれるリン脂質には、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロールなどの化合物が含まれる。前記リン脂質に挿入されたタンパク質は、膜貫通タンパク質や表面抗原タンパク質である。例えばB型肝炎ウイルスに由来するウイルス様粒子は、リン脂質に、PI7.3のB型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)が挿入されており、リン脂質に対し、5倍から10倍重量%の割合で含まれている。
<モノリス型カラム>
モノリス型カラムとは、モノリス担体が保持されたカラムである。モノリス担体とは、マイクロメートルオーダーの網目状の骨格が繋がった特徴的な構造をもつ一体型の多孔質体である。モノリス担体は、全体にわたって均一な貫通孔と呼ばれる孔が無数に開いていることをその特徴とする。これらのモノリス型担体は、静置したとき、その形状を自己支持できる機械的強度を有する。すなわち、粒子状の多孔質高分子担体や、多孔膜とは物理的構造が異なる。
本発明によるモノリス型担体としては、一つの態様として、有機高分子からなることが好ましい。モノリス型担体を構成するためのモノマー単位としては、カチオン交換基を有するモノマーまたはカチオン交換基の基となる官能基を有するモノマー等を含むモノマー混合物が用いられる。モノマーには、架橋モノマーが含まれる。
モノマーとしては、例えば、スチレン、置換スチレン(但し、置換基は、クロロメチル基、炭素原子数1〜18のアルキル基、水酸基、t−ブチルオキシカルボニル基、ハロゲン基、ニトロ基、アミノ基、保護水酸基またはアミノ基を包含する)、ビニルナフタレン、アクリル酸エステル類、グリシジルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートやヒドロキシプロピルメタクリレートなどのメタクリル酸エステル類、酢酸ビニルおよびピロリドン、並びに、これらの混合物が挙げられる。
架橋モノマーとしては、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルピリジン、メタクリレート類、アクリレート類、ビニルエステル類、ジビニルエーテルなどのビニルエーテル類、エチレンビスアクリルアミドやプロピレンビスアクリルアミドなどのアルキレンビスアクリルアミド類またはメタクリルアミド類及びそれらの混合物を使用することができる。
架橋メタクリレート類としては、エチレングリコールジメタクリレートやプロピレングリコールジメタクリレートなどのアルキレンジメタクリレート類、ペンタエリトリトールジ−、トリ−若しくはテトラメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートを使用することができる。架橋アクリレート類としては、エチレングリコールジアクリレート類、ペンタエリトリトールジ−、トリ−若しくはテトラアクリレートを使用することができる。
モノリス型担体を構成するためのモノマー単位は、好ましくはメタクリレート類、アクリレート類、より好ましくはグリシジルメタクリレート、アルキレンジメタクリレート類、さらに好ましくはグリシジルメタクリレートとエチレングリコールジメタクリレートの混合物である。好ましいモノリス型担体は、該モノマー混合物から得られた共重合体を、カチオン交換基を有する化合物で誘導体化したものである。
グリシジルメタクリレートとエチレングリコールジメタクリレートの共重合体は、ポロゲンと重合開始剤の存在下で、グリシジルメタクリレートとエチレングリコールジメタクリレートの混合物から製造される。ポロゲンとは、多孔を形成するための炭素‐炭素2重結合をもたない添加物質であり、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、エステル類、アルコール類、ケトン類、エーテル類、可溶性高分子溶液、およびそれらの混合物のような異なる種類の材料などが使用できる。好ましくはノルマルヘキサンである。ポロゲンとして可溶性高分子が添加されていてもよい。可溶性高分子が添加されていると、孔構造がより多く形成される。可溶性高分子の量は、共重合体全体の質量に対して、好ましくは10〜40質量%の量である。
重合開始剤としては、フリーラジカル発生開始剤が使用できる。具体的にはアゾビスイソブチロニトリルや2,2’−アゾビス(イソブチルアミド)ジヒドレートなどのアゾ化合物、過酸化ベンゾイルや過酸化ジプロピル二カルボン酸エステルなどの過酸化物が使用できる。種類の異なる重合開始剤を用いると、形の異なる孔構造を形成することができる。重合開始剤の量は、モノマー重量に対して好ましくは0.5〜4質量%である。
ポロゲンや重合開始剤を含むグリシジルメタクリレートとエチレングリコールジメタクリレートの混合物は、成形型の中に入れる前に、窒素又はアルゴンのような不活性ガスを用いて脱気することが好ましい。成形型は、空気汚染を防ぐために密封することが好ましい。重合は、例えば、40〜50時間、50℃〜90℃の温度で加熱して行うことができる。重合後、管を洗浄し、かつポロゲンとして用いた溶媒や可溶性高分子を除去する。洗浄のための溶媒としては、メタノール、エタノール、ベンゼン、トルエン、アセトン、テトラヒドロフランなどが使用できる。洗浄工程は複数回繰り返してもよい。
<カチオン交換基>
カチオン交換基とは、酸性を示すイオン交換基である。カチオン交換基として、具体的に、硫酸基、スルホン酸基(−SOH)、カルボン酸基、リン酸基挙げられる。このうち、スルホン酸基、リン酸基が好ましく、スルホン酸基がより好ましい。スルホン酸基は、適当な共重合体に対し、ブロモエチルスルホン酸、モノクロロ酢酸、クロロヒドロキシプロパンスルホン酸、2,3−エポキシスルホン酸、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、亜硫酸、および亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム等の亜硫酸塩を反応させることにより、モノリス担体に導入することができる。
<カラム>
カラムは、カチオン交換基が固定されたモノリス型担体がカラム容器に収納されたものである。カラムの大きさ(体積)は、特に制限されず、結合させるエンベロープ型ウイルス様粒子およびその凝集体等の不純物の量に応じて適宜調整される。モノリス型担体の形状は、板状、管状、円筒状等の一体構造をなしている。モノリス型担体の通液方向の厚さは、1mm〜100mmであることが好ましく、2mm〜70mmであることがより好ましく、3mm〜60mmであることがさらに好ましく、3mm〜50mmであることが最も好ましい。モノリス型担体の厚さを1mm以上とすることにより、モノリス型担体は充分な機械的強度を持つ。モノリス型担体の厚さを100mm以下とすることにより、モノリス型担体が破壊しない圧力を保ち、ポンプ圧の上昇を防ぐことができる。
モノリス型カラムとしては、具体的には、CIMac(登録商標) SO3−0.1 Analytical column、CIM(登録商標) SO3 DISK、CIM SO3−1 Tube Monolithic column、CIM SO3−8f Tube Monolithic column、CIM SO3−80 Tube Monolithic column、CIM SO3−800 Tube Monolithic column、CIM SO3−8000 Tube Monolithic column、CIMmultus(登録商標) SO3−1 Advanced Composit column、CIMmultus SO3−8 Advanced Composit column、CIMmultus SO3−80 Advanced Composit column、CIMmultus SO3−800 Advanced Composit column、CIMmultus SO3−8000 Advanced Composit column、CIMac(登録商標) CM−0.1 Analytical column、CIMac(登録商標) COOH−0.1 Analytical column、CIM(登録商標) COOH DISK、CIM COOH−1 Tube Monolithic column、CIM COOH−8f Tube Monolithic column、CIM COOH−80 Tube Monolithic column、CIM COOH−800 Tube Monolithic column、CIM COOH−8000 Tube Monolithic column、CIMmultus(登録商標) COOH−1 Advanced Composit column、CIMmultus COOH−8 Advanced Composit column、CIMmultus COOH−80 Advanced Composit column、CIMmultus COOH−800 Advanced Composit column、CIMmultus COOH−8000 Advanced Composit column等が挙げられる。
なお、これらのモノリス型担体は全てグリシジルメタクリレートとエチレンジメタクリレートの共重合体である。
<吸着工程>
使用するモノリス型カラムは、エンベロープ型ウイルス様粒子をカラムに吸着させる前に、カラムに緩衝液を通して平衡化しておくことが好ましい。カラムの平衡化に用いられる緩衝液としては、種類、濃度が、培養液組成と近く、pHがエンベロープに挿入されているタンパク質のエンベロープの外側領域の等電点より高いものが用いられる。緩衝液としては、一般的に使用されているものであれば特に制限されないが、例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス(トリスヒドロキシメチルアミノメタン)緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液等をベースとし、塩化ナトリウムなどの無機塩を含むものが用いられる。これらの中で、緩衝液としては緩衝能を有するpH範囲の観点から、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液が好ましい。カラムの平衡化に要する緩衝液の量は、特に制限されないが、1CV(カラム容積倍数)以上であることが好ましく、3CV以上であることがより好ましく、5CV以上であることがさらに好ましい。緩衝液の濃度は、特に制限されないが、1mM〜100mMであることが好ましく、2mM〜50mMであることがより好ましく、5mM〜30mMであることがさらに好ましい。
モノリス型カラムの平衡化の後、エンベロープ型ウイルス様粒子を含む液が通液される。該液は、培養上清から調整されたものであっても良い。通常、培養上清は、緩衝能をもつ液になっているが、必要に応じて緩衝液を加えても良い。使用される緩衝液としては、一般的に使用されているものであれば特に制限されないが、例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス(トリスヒドロキシメチルアミノメタン)緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液等をベースとし、塩化ナトリウムなどの無機塩を含むものが用いられる。これらの中で、緩衝液としては緩衝能を有する使用pH範囲の点から、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液が好ましい。
エンベロープ型ウイルス様粒子を含む液は、カラムに注入される前にpHが調整される。該pHは、エンベロープに挿入されているタンパク質のエンベロープの外側領域の等電点より高く、エンベロープ型ウイルス様粒子を吸着できる範囲に調整される。タンパク質のエンベロープの外側領域の等電点が5.6の場合、緩衝液のpHは、5.6より高い範囲に調整される。ただし、高すぎるpHでは、エンベロープ型ウイルス様粒子中のタンパク質などの分解が起こる可能性があるので、好ましくない。通常上限は、pH10.0、好ましくは、pH8.5、より好ましくは、7.5である。該pHは25℃にて測定された値である。
カラム内におけるエンベロープ型ウイルス様粒子を含む液の流速は、カラムにタンパク質を吸着させることができれば、特に制限されないが、2CV/分〜12.5CV/分であることが好ましく、2.5CV/分〜5CV/分であることがより好ましい。エンベロープ型ウイルス様粒子を含む液をカラムに通液することにより、この液に含まれるエンベロープ型ウイルス様粒子、宿主培養細胞等由来の夾雑物を、モノリス型カラムに吸着させることができる。
エンベロープ型ウイルス様粒子を含む液中の緩衝液の濃度は、特に制限されないが、1mM〜100mMであることが好ましく、2mM〜50mMであることがより好ましく、5mM〜30mMであることがさらに好ましい。無機塩の濃度は、カラムに結合される範囲においては制限されないが、1mM〜200mMであることが好ましく、2mM〜100mMであることがより好ましく、5mM〜50mMであることがさらに好ましい。
以上を踏まえ、培養液全体としての電気伝導度は、カラムに結合される範囲においては制限されないが、1mS/cm〜20mS/cmであることが好ましく、2mS/cm〜15mS/cmであることがより好ましく、3mS/cm〜10mS/cmであることがさらに好ましい。
エンベロープ型ウイルス様粒子を含む液中における、エンベロープ型ウイルス様粒子の濃度は、0.01mg/mL〜10mg/mLであることが好ましく、0.1mg/mL〜5mg/mLであることがより好ましく、0.2mg/mL〜3mg/mLであることがさらに好ましい。エンベロープ型ウイルス様粒子の濃度を上記の範囲内とすることにより、エンベロープ型ウイルス様粒子および宿主培養細胞等由来の夾雑物をモノリス型カラムに吸着させることができる。
カラムにエンベロープ型ウイルス様粒子を吸着させる際、カラムおよびエンベロープ型ウイルス様粒子を含む液の温度は、特に制限されないが、2℃〜50℃であることが好ましく、4℃〜40℃であることがより好ましく、8℃〜30℃であることがさらに好ましい。カラムおよび培養上清の温度を、前記の範囲にすることにより、エンベロープ型ウイルス様粒子溶液の凍結、エンベロープ型ウイルス様粒子の破壊を防ぐことができる。
<エンベロープ型ウイルス様粒子の溶出工程>
溶出工程において、エンベロープ型ウイルス様粒子が吸着したモノリス型カラムから、エンベロープ型ウイルス様粒子を選択的に溶出することができる。溶出工程では、平衡化に用いた緩衝液と、無機塩を溶解させた緩衝液である無機塩緩衝液とを適当な比率で混合して混合液を用いる。この混合液を移動相として、エンベロープ型ウイルス様粒子を吸着させたモノリス型カラムに通すことにより、エンベロープ型ウイルス様粒子を選択的に溶出させる。
無機塩緩衝液に用いる無機塩は、エンベロープ型ウイルス様粒子を選択的に溶出させることができるものであれば制限されないが、硫酸アンモニウム、塩化ナトリウムが好ましい。前記緩衝液と無機塩緩衝液との混合液における無機塩の濃度は、好ましくは50mM〜500mM、より好ましくは75〜400mM、さらに好ましくは100〜300mMである。無機塩を溶解する緩衝液の種類、濃度およびpHは、エンベロープ型ウイルス様粒子を含む液と同様であってもよいし、異なっていてもよい。移動相の流速は、カラムに吸着させたエンベロープ型ウイルス様粒子を選択的に溶出させることができれば、特に制限されないが、2CV/分以上であることが好ましく、2CV/分〜12.5CV/分であることがより好ましく、2.5CV/分〜5CV/分であることがさらに好ましい。
カラムに移動相を通す際、カラムおよび移動相の温度は、特に制限されないが、2℃〜50℃であることが好ましく、4℃〜40℃であることがより好ましく、8℃〜30℃であることがさらに好ましい。カラムおよび移動相の温度を、前記の範囲にすることにより、エンベロープ型ウイルス様粒子溶液の凍結、エンベロープ型ウイルス様粒子の破壊を防ぐことができる。
なお、エンベロープ型ウイルス様粒子を溶出した後、上記の無機塩緩衝液のみを移動相として用いて、カラムに、その移動相を通すことにより、カラムに吸着されたままになっている宿主培養細胞等由来の夾雑物を溶出させることもできる。それらを溶出させた後、カラムに平衡化に用いた緩衝液を再び通すことにより、カラムを再生することもできる。
溶出工程において、塩濃度によるグラジエントを用いれば、エンベロープ型ウイルス様粒子や宿主培養細胞等由来の夾雑物を別々に溶出させることもできる。エンベロープ型ウイルス様粒子、宿主培養細胞等由来の夾雑物が吸着したカラムからの塩濃度によるグラジエントにおける、画分を分取することにより、エンベロープ型ウイルス様粒子を含有する画分を採取すれば、純度が高いエンベロープ型ウイルス様粒子を高収率かつ高濃度で、高速に得ることができる。このようにして得られたエンベロープ型ウイルス様粒子は、医薬品等の原料として有用である。
本発明による精製方法は、カラムを容易に再生することができるため、工業的かつ経済的に優れている。さらに、本発明による方法は、カチオン交換基が固定されたモノリス担体を用いるため、液中のアニオン性の夾雑物の吸着を防ぐことができる。カチオン交換基が固定されたモノリス型カラムは従来の粒子状の多孔質高分子担体よりも高いpHにおいても、エンベロープ型ウイルス様粒子を高収率、高純度で精製できる。また、モノリス形状の特性から、エンベロープ型ウイルス様粒子のような物質においても、十分な固定化容量を有するため、精製時に必要な担体容量を減らすことができる。あるいは同担体容量の場合には、一度の処理量を増やすことができる。
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例および比較例において、回収率を次のように定義する。
定義
[総タンパク質収率]
カラムにロードさせた総タンパク質の全量、に対する、精製された総タンパク質の量の比率を、回収率と定義した。総タンパク質の量はバイオ・ラッド社製のQuick Startプロテインアッセイにより定量した。
[HBsAg−VLP収率]
カラムにロードさせたB型肝炎ウイルス抗原ウイルス様粒子(以下、「HBsAg−VLP」と略す。)の全量、に対する、精製されたHBsAg−VLPの量の比率を、回収率と定義した。HBsAg−VLPの量はビークル社製のHB S抗原定量キットにより定量した。
[Purification factor(PF)]
カラムで精製された後のHBsAg−VLPの比活性、に対する、精製前の比活性の比を、Purification facto(PF)と定義した。比活性は、上記の総タンパク質量に対するHBsAg−VLP量比によって算出した。
[実施例1]
先行文献1に従って、酵母細胞にエンベロープ型ウイルス様粒子を発現させ、培養上清を調製した。挿入されているタンパク質のエンベロープの外側領域の等電点の理論値は5.6だった。なお等電点の理論値の計算はゼネティックス社の解析ソフトウェアGENETYX Ver.10で計算を行った。
(1)カラムの平衡化
カラムとして、BIA separations社製のCIMmultus(登録商標) SO3−1 Advanced Composit column(厚さ:6mm、外径:18.6mm、内径6.7mm、長さ:4.2mm、空隙率:約60v/v%以上)を用い、このカラムに、20mM、pH8.5のトリス緩衝液を5CV以上通して、このカラムを平衡化した。なお、CIMmultus(登録商標) SO3−1 Advanced Composit columnの担体はグリシジルメタクリレートとエチレングリコールジメタクリレートの共重合体の変性物であり、一部のグリシジルメタクリレートにスルホン酸基が保持されているモノリス型カラムである。
(2)エンベロープ型ウイルス様粒子の吸着
培養上清のpHが8.5になるように、水酸化ナトリウム水溶液で調製した。また、その際の培養上清の電気伝導度は10mS/cm程度であった。この培養上清20mLを、(1)で平衡化したカラムに注入し、培養上清中に含まれるエンベロープ型ウイルス様粒子をカラムに吸着させた。カラムへの吸着時における培養上清の流速を5CV/分とした。
(3)エンベロープ型ウイルス様粒子の溶出
20mM、pH8.5のトリス緩衝液と、2MのNaCl溶液とを、NaCl濃度が1Mになるように混合して、混合液を調製した。なお、2MのNaCl溶液は、20mM、pH8.5のトリス緩衝液にNaClを溶解させたものである。
エンベロープ型ウイルス様粒子を吸着させたカラムに、この混合液を5ml通すことにより、エンベロープ型ウイルス様粒子を溶出させた画分を回収した。溶液の流速は5CV/分とした。
(4)宿主培養細胞等由来不純物の溶出
その後、2MのNaCl溶液を、5ml通液することにより、宿主培養細胞等由来不純物を溶出させ、カラムを洗浄した。溶液の流速は5CV/分とした。
なお、実施例1において、カラム、タンパク質溶液および移動相の温度を25℃とし、カラムの圧力を最大許容圧1.8MPaを超えない範囲とした。
[実施例2]
実施例1の、培養上清をpH7.5および緩衝液を20mM、pH7.5のリン酸緩衝液としたこと以外は実施例1と同様に実施した。
[比較例1]
実施例1の、カラムとして、GEヘルスケア社製のHiTrap (登録商標) SP FFを使用し、培養上清および緩衝液の通液速度を1CV/minとしたこと以外は実施例1と同様に実施した。
[比較例2]
実施例2の、カラムとして、GEヘルスケア社製のHiTrap (登録商標) SP FFを使用し、培養上清および緩衝液の通液速度を1CV/minとしたこと以外は実施例2と同様に実施した。
[比較例3]
実施例1の、カラムとして、BIA separations社製のCIMmultus(登録商標) QA−1 Advanced Composit columnを使用したこと以外は実施例1と同様に実施した。
[比較例4]
実施例1の、カラムとして、JNC社製のCellufine (登録商標) sulfate (5mL)を使用し、培養上清をpH7.5および緩衝液を10mM、pH7.5のリン酸緩衝液とし、さらにサンプル液、溶液の通液速度を0.5CV/minとしたこと以外は実施例1と同様に実施した。
実施例1〜3、および比較例1〜5の結果を表1に示す。表1の結果から、本発明による方法により、粒子状の充填剤を用いた方法や、従来のカチオン交換基を有するモノリス型カラムを用いた方法よりも培養液中に含まれるHBsAg−VLPを高収率かつ高活性で精製することができた。
[表1]
Figure 2021191232
実施例1,2:カラムとして、CIMmultus(登録商標) SO3−1 Advanced Composit columnを使用した。
比較例1,2::カラムとして、HiTrap SP FFを使用した
比較例3:カラムとして、CIMmultus(登録商標) QA−1 Advanced Composit columnを使用した。
比較例4:カラムとして、Cellufine (登録商標) Sulfateを使用した。

Claims (8)

  1. カチオン交換基が固定されたモノリス型カラムに、エンベロープ型ウイルス様粒子を含む液を通液してエンベロープ型ウイルス用粒子をカラムに吸着させる工程、および該カラムに吸着したエンベロープ型ウイルス様粒子を選択的に溶出させる工程を含むエンベロープ型ウイルス様粒子の精製方法。
  2. エンベロープ型ウイルス様粒子を含む液のpHが、エンベロープに挿入されているタンパク質のエンベロープの外側領域の等電点より高く、pH10.0以下である、請求項1に記載の精製法。
  3. モノリス型カラムが、モノマー単体として少なくとも、グリシジルメタクリレートとエチレングリコールジメタクリレートを含む共重合体にカチオン交換基が固定されたモノリス型担体から構成されるモノリス型カラムである、請求項1あるいは2に記載の精製方法。
  4. カチオン交換基がスルホン酸基である、請求項1〜3のいずれかに記載の精製方法。
  5. エンベロープ型ウイルス様粒子が、動的光散乱法による粒度分布の体積分布が10nm以上500nm以下であるエンベロープ型ウイルス様粒子である、請求項1〜4のいずれかに記載の精製方法。
  6. エンベロープ型ウイルス様粒子に挿入されているタンパク質がB型肝炎ウイルス抗原(HBsAg)を含む請求項1〜5のいずれかに記載の精製方法。
  7. エンベロープ型ウイルス様粒子が酵母細胞により調整されたものである、請求項1〜請求項6のいずれかに記載の精製方法。
  8. 前記モノリス型カラムの厚さが、1〜100mmである請求項1〜7のいずれかに記載の精製方法。


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