JP2021165339A - 錆抑制塗料、錆抑制方法及び錆抑制塗料の製造方法 - Google Patents

錆抑制塗料、錆抑制方法及び錆抑制塗料の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】ジンクリッチ塗料の犠牲防蝕作用を維持しながら、金属鉄と金属亜鉛粉末の酸化還元電位差による電流の発生を抑制可能なジンクリッチ塗料を提供する。【解決手段】錆抑制塗料の固形分100重量部のうち、金属亜鉛が60重量部以上含有され、ヒドロキシアパタイト粉末が1重量部以上含有される、錆抑制塗料及びその関連技術を提供する。【選択図】図10

Description

本発明は、錆抑制塗料、錆抑制方法及び錆抑制塗料の製造方法に関する。
従来より、金属が腐食して錆が発生しないようにするための取り組みが行われている。この取り組みとしては、防食目的として亜鉛粉末を多く含有した、いわゆるジンクリッチ塗料が知られている(例えば特許文献1)。
特開2020−26457号公報
ジンクリッチ塗料中の金属亜鉛粉末により犠牲防食作用が発揮され、塗料塗布面の金属鉄の腐食が強く抑制される。
その反面、塗料中の金属亜鉛粉末は早い段階で腐食し、白錆び(酸化亜鉛)を生成する。その後、犠牲防錆効果の低下に伴い、塗料塗布面の金属鉄腐食が発生し、無数の丸い膨れと孔食(赤錆び)が発生する。
図1(a)は、金属鉄に対しジンクリッチ塗料を塗布した塗布面に白錆びが発生している様子を示す写真であり、図1(b)は、塗布面に赤錆びが発生している様子を示す写真であり、図1(c)は図1(b)の拡大写真である。
白錆び及び赤錆びが生成される要因として、以下のことが考えられる。
金属鉄板上に金属亜鉛粉末を塗布することにより、金属鉄と金属亜鉛粉末の酸化還元電位差による局所電池が形成される。そして、局所電池によって強い電流が発生することにより、金属亜鉛粉末の酸化や塗膜の劣化が促進されると考えられる。
本発明は、ジンクリッチ塗料の犠牲防蝕作用を維持しながら、金属鉄と金属亜鉛粉末の酸化還元電位差による電流の発生を抑制可能なジンクリッチ塗料を提供することを課題とする。
本発明の第1の態様は、
錆抑制塗料の固形分100重量部のうち、金属亜鉛が60重量部以上含有され、ヒドロキシアパタイト粉末が1重量部以上含有される、錆抑制塗料である。
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の態様において、
金属亜鉛が70〜75重量部含有され、ヒドロキシアパタイト粉末が1〜20重量部含有される。
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載の態様において、
錆抑制塗料の固形分100重量部のうち、更に炭酸カルシウム粉末が0重量部を超え且つ5重量部以下含有される。
本発明の第4の態様は、第1〜第3のいずれかに記載の態様において、
前記ヒドロキシアパタイト粉末は生体系由来の物質である。
本発明の第5の態様は、第1〜第4のいずれかに記載の態様において、
ヒドロキシアパタイト粉末の平均粒径は0.1〜20μmである。
本発明の第6の態様は、第1〜第5のいずれかの態様の錆抑制塗料を鉄含有素材に塗布する、錆抑制方法である。
本発明の第7の態様は、
錆抑制塗料の製造方法であって、
ベース塗料と、
ヒドロキシアパタイト粉末と、
を混合する際、
錆抑制塗料の固形分100重量部のうち、前記ベース塗料中の金属亜鉛が60重量部以上含有され、前記ヒドロキシアパタイト粉末が1重量部以上含有されるように、前記ベース塗料と前記ヒドロキシアパタイト粉末とを混合する、錆抑制塗料の製造方法である。
本発明によれば、ジンクリッチ塗料の犠牲防蝕作用を維持しながら、金属鉄と金属亜鉛粉末の酸化還元電位差による電流の発生を抑制可能なジンクリッチ塗料を提供できる。
図1(a)は、金属鉄に対しジンクリッチ塗料を塗布した塗布面に白錆びが発生している様子を示す写真であり、図1(b)は、塗布面に赤錆びが発生している様子を示す写真であり、図1(c)は図1(b)の拡大写真である。 図2は、参照電極として塩化銀電極、対極として白金電極、作用電極として鉄電極を用いて構成されたサイクリックボルタンメトリー(CV)、ターフェル測定及びアノード分極測定の概略図である。 図3は、鉄電極(作用電極)にHAP粉末及び金属亜鉛粉末を設置した状態の概略図である。 図4は、実施例1のCVにおける電流−電位曲線である。 図5は、図4の電流値を対数に変換した図である。 図6は、実施例2の結果を示す棒グラフである。 図7は、実施例3でのAPにおける電流−電位曲線を示す図である。 図8は、実施例3でのAPにおける電流−電位曲線の電流値を対数に変換したものを示す図である。 図9は、実施例4でのターフェル測定における電流−電位曲線の電流値を対数に変換したものを示す図である。 図10は、実施例6(フィールド試験)における、クロスカットを形成した状態の試料片の試験開始前(0日後)、試験開始から14日後、32日後、105日後の様子を示す写真であり、Aは比較例1、Bは実施例6を示す。 図11は、実施例7(中性塩水噴霧試験)における、クロスカットを形成した状態の試料片の試験開始から500時間後の様子を示す写真であり、Aは比較例2、Bは実施例7を示す。 図12は、図11の試験片A、Bから塗膜を人為的に剥離した後の研磨済金属鉄板の様子を示す写真であり、Aは比較例2、Bは実施例7を示す。 図13は、実施例8(中性塩水噴霧試験)における、クロスカットを形成した状態の試料片の様子を示す写真であり、Aは比較例3での試験開始から500時間後の様子を示す写真であり、Bは実施例8での試験開始から500時間後の様子を示す写真であり、Cは実施例8での試験開始から1000時間後の様子を示す写真である。 図14は、図13のクロスカット部分の拡大図であり、Aは比較例3、Bは実施例8を示す。 図15は、図13の碁盤目状の溝の部分の拡大図であり、Aは比較例3、Bは実施例8を示す。
以下、本発明の実施の形態について説明を行う。本明細書において「〜」は所定の数値以上かつ所定の数値以下を指す。
(錆抑制用添加物)
本実施形態の錆抑制用添加物は、水酸化燐灰石Ca(PO(OH)から構成されるヒドロキシアパタイト粉末(以降、単にHAP粉末と称する。)である。
HAP粉末は、非生体系由来の物質であってもよいが、生体系由来の物質であればコスト面でも好ましく、実際に生体系由来の物質を使用した後掲の実施例の場合、効果が実証されている。この「生体系由来のHAP」としては、魚骨や動物骨等が挙げられる。
なお、本実施形態の添加物として、上記HAP粉末と、炭酸カルシウム粉末、タルク粉末などの体質顔料が配合されたものでも良い。また、展色材として、エポキシ樹脂やアルキルシリケートなどが配合されたものが望ましい。
本明細書における「配合」とは、その名の通り、2種以上のものを混ぜ合わせることを意味するが、「合成」を意味するものではない。詳しく言うと、本明細書における「配合」とは、配合対象を化学的に反応させて合成するものではなく、配合対象を単に物理的に混ぜ合わせた状態を意味する。
HAP粉末の粒径は1〜60μmであるのが好ましく、1〜10μmであるのがより好ましい。粒径が60μm以下(特に10μm以下)であれば塗膜表面が滑らかになり、塗膜強度及び剥離しにくさを表す剥離強度を十分に保てる。粒径が1μm以上だと粒子化する際の労力が軽減される。なお、本明細書における粒径とは最大粒径のことである。最大粒径の値は、所定幅のメッシュを通過するか否かを調べることにより得られる。
上記粒径の範囲を平均粒径で表すと、HAP粉末の平均粒径は0.1〜20μmであるのが好ましい。上記平均粒径はD50であり、レーザー回折・散乱式粒度分布測定器を用いて測定可能である。
(錆抑制用添加物の適用例)
上記の錆抑制用添加物を適用する例としては、錆の発生を抑制すべき側(腐食抑制物側、例:金属基材の表面への塗膜形成用塗料)への添加が挙げられる。
塗膜が形成される金属基材としては、白錆び及び赤錆びが生成され得るものが挙げられる。つまり、金属亜鉛粉末との間で酸化還元電位差による局所電池が形成されうる素材であれば効果的である。具体的には鉄含有素材、更に具体的には金属鉄が挙げられる。但し、本発明は錆抑制塗料に関するものであり、塗膜が形成される金属基材には限定は無い。
上記の錆抑制用添加物を添加する対象となるベース塗料としては、ジンクリッチ塗料と呼ばれる市販の塗料を使用しても構わない。この塗料の種類としては、例えば、エポキシ系やフタル酸系の樹脂を含有する塗料の他、ウレタン樹脂塗料、シリコン樹脂塗料、アクリル樹脂塗料及びフッ素樹脂塗料が挙げられる。該塗料に対して上記の錆抑制用添加物を添加したうえで、該金属基材の主表面に対して塗膜を形成してもよい。
また、ベース塗料に対し、上記以外の公知の成分(例えば紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱安定剤、防錆材、レベリング剤、消泡剤、つや消し剤、光安定剤、顔料、抗菌剤、殺虫剤、殺菌剤等々)を、用途に応じて適宜添加しても構わない。
なお、具体的な作製手法としては、単に、ベース塗料に対して錆抑制用添加物を添加するだけでよい。場合によっては撹拌処理等を行えばよい。このようにして、上記のベース塗料を錆抑制塗料へと変化させることが可能となる。
錆抑制用添加物とベース塗料との分量について、以下、説明する。
本実施形態においては、錆抑制塗料の固形分100重量部のうち、金属亜鉛が60重量部以上含有され、HAP粉末が1重量部以上含有されるようにする。錆抑制塗料の固形分100重量部のうち、金属亜鉛が60重量部以上含有される塗料を、本明細書では「ジンクリッチ塗料」と称する。
なお、金属亜鉛に加え、亜鉛ニッケル、亜鉛鉄、すず亜鉛等の亜鉛系合金を含有させてもよいし、酸化亜鉛を含有させてもよい。
「固形分」とは、水や有機溶剤等の揮発する成分を除いた成分を指し、最終的に塗膜を形成することになる成分であるが、本発明においては、塗料組成物を130℃で60分間乾燥させた際に残存する成分を固形分として取り扱う。
錆抑制塗料の固形分100重量部のうち、好ましくは金属亜鉛が60〜90重量部含有され、より好ましくは65〜80重量部含有され、更に好ましくは70〜75重量部含有される。
錆抑制塗料の固形分100重量部のうち、好ましくはHAP粉末が1〜20重量部含有され、より好ましくは1〜10重量部含有され、特に好ましくは3〜10重量部含有される。
錆抑制塗料の固形分100重量部のうち、更に炭酸カルシウム粉末が0重量部を超え且つ5重量部以下含有されるのが好ましい。
その後の手順としては、錆が発生し得る物質(例:金属基材)の主表面に対し、本実施形態に係る錆抑制塗料を塗布し、塗膜を形成する。この作業は、錆の抑制方法として技術的意義がある。なお、具体的な塗膜形成手法は公知の手法を採用しても構わない。
また、先に述べた錆抑制用添加物とベース塗料とを混合する作業は、錆抑制塗料の製造方法として技術的意義がある。
また、錆抑制塗料を鉄含有素材、更に具体的には金属鉄に塗布することにより錆抑制効果が付与される。これは、錆抑制方法として技術的意義がある。
錆抑制塗料の用途としては、各種土木建築に用いられる材料若しくは機材、又は車両等その他物質への適用が考えられる。もちろん、これらは一例であって本発明の技術的思想はこれらに限定されるものではない。
次に実施例を示し、本発明について具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1では、ジンクリッチ塗料の犠牲防蝕作用、及び、金属鉄と金属亜鉛粉末の酸化還元電位差による電流の発生を抑制する作用の程度が、金属亜鉛及びHAPの有無により変化する様子を調べるための試験を行った。
図2は、参照電極として塩化銀電極、対極として白金電極、作用電極として鉄電極を用いて構成されたサイクリックボルタンメトリー(CV)、ターフェル測定及びアノード分極測定の概略図である。なお、CV、ターフェル測定及びアノード分極測定における電気化学システムの具体的な装置名はHZ−7000(北斗電工株式会社製)である。
図3は、鉄電極(作用電極)にHAP粉末及び金属亜鉛粉末を設置した状態の概略図である。
電解液は、3%NaCl溶液を用いた。以降、電解液は、特記無い限り3%NaCl溶液を使用する。初期電位はREST、最終電位は−0.5V、第二最終電位は0.5V、休止時間は100s、初期電位保持時間は30秒、サンプリング間隔は1s、スキャン速度は10mV/minと設定した。
図3に示すように、HAP粉末及び金属亜鉛粉末を鉄電極の下方表面に設置した状態でHAP粉末及び金属亜鉛粉末ごとガーゼで覆った。無添加(Non)、HAP粉末のみ300mg、金属亜鉛粉末のみ300mg、HAP粉末300mg又は26mg及び金属亜鉛粉末300mgをそれぞれ設置した4つの試験を実施した。
以降、HAP粉末のことを単に「HAp」とも表現する。また、金属亜鉛粉末のことを単に「Zn」とも表現する。
図4は、実施例1のCVにおける電流−電位曲線である。
図5は、図4の電流値を対数に変換した図である。
図4に示すように、鉄電極表面にZnのみを設置した後、CVを実施した際に、大きな応答電流が発生した。対極電極(Pt)とZnの間の大きな電位差により、大きな応答電流が発生したものと考えられる。
図5に示すように、Non及びHApを比較した場合、本試験系における腐食電位に差は無く、いずれも−0.50Vであった。その一方、電位走査に対する大きな応答電流の発生は、矢印1で示すように、顕著に抑制され、HApの鉄電極におけるアノード反応抑制作用が示された。
図5に示すように、Znのみを設置した場合の腐食電位は、矢印2で示すように、−0.97Vに低下した。従って、電極が金属鉄から金属亜鉛に移行しており、金属亜鉛のアノード反応が引き起こされたことが示された。これは、金属亜鉛による金属鉄電極の犠牲的腐食抑制作用を示している。
図5に示すように、Znのみを設置した場合と、Zn及びHApを設置した場合とを比較すると、Zn及びHApを設置した場合の腐食電位は−0.88Vに上昇し、更に、矢印3で示すように、金属亜鉛微細粉末と対極白金電極との間の起電力が著しく抑制された。
以上の結果は、HApが、Znによる金属鉄電極の犠牲的腐食抑制作用を維持した状態で、Znのアノード反応(金属亜鉛からの亜鉛イオンと電子の遊離)を強力に抑制していることを示している。
(実施例2)
実施例2では、HApが金属亜鉛板からの亜鉛イオン遊離を抑制する作用を調べるための試験を行った。具体的には、3%NaCl溶液中における金属亜鉛板からの亜鉛イオン溶出に対するHApの抑制作用を検討した。
図6は、実施例2の結果を示す棒グラフである。
図6に示すように、HApを添加していない場合の溶液中の亜鉛イオン濃度が0.160mg/Lであったのに対し、HApを添加した溶液中の亜鉛イオン濃度は0.011mg/Lであった。その結果、HApによる金属亜鉛の腐食反応におけるアノード反応抑制作用が確認された。
(実施例3)
実施例3では、鉄電極のアノード分極(以降、AP)に関してHAp及びZnが与える影響を調べるための試験を行った。電解液は3%NaCl溶液を使用した。
電気化学システム(HZ−7000)を用いて、初期電位はREST、終了電位は0.4V、初期電位保持時間は30秒、サンプリング間隔は1s、スキャン速度は20mV/minとして、微細粉末HAp及び微細粉末金属亜鉛のアノード分極(AP)に及ぼす影響を検討した。
図7は、実施例3でのAPにおける電流−電位曲線を示す図である。
図8は、実施例3でのAPにおける電流−電位曲線の電流値を対数に変換したものを示す図である。
NonとHApを設置した場合を比較すると、電位をアノード側に掃引した際、HApにより起電流が明らかに抑制されていた。その結果、HApが鉄電極のアノード分極を抑制したことが確認された。
その一方、Nonと、Znを設置した場合とを比較すると、初期電位が、Nonでは−0.47Vであったのに対して、Znを設置した場合の初期電位は−0.99Vとななった。Znの設置による初期電位の著しい低下が観察された。
これらの結果は、鉄電極表面にZnを設置したことにより、作用電極が鉄電極からZnに移行したことを示している。そして、電位を正方向に掃引することによる応答電流は、Nonと比較して、Znを設置した場合において激しく上昇した。これは、鉄電極から移行したZnと白金電極との間の酸化還元電位の大きな差によるものと考えられる。
これに対して、HAp(26mg又は300mg)及びZnの両方を設置した場合、Znだけを設置した場合と比較して、アノード掃引した際の電流発生が著しく低下した。
これらの結果は、HApがZnのアノード反応を強く抑制したことにより、電子の移動を強力に抑制したことを示している。また、HAp26mgとZnとを設置した場合と、HAp300mgとZnとを設置した場合を比較すると、アノード掃引した際の0V以上の分極曲線が異なっていた。これは、HAp26mgの設置の場合だと、十分に電流発生を抑制しているものの、わずかにZnのアノード反応が引き起こされることを示している。
(実施例4)
実施例4では、鉄電極のターフェル測定に関してHAp及びZnが与える影響を調べるための試験を行った。なお、ターフェル測定は、CV測定よりも緩和な電位走査により、更に良好な電流−電位特性が得られる測定方法である。
電気化学システム(HZ−7000)を用いて、初期電位はREST、終了電位は0.5V、第二最終電位は0.5V、休止時間は100s、初期電位保持時間は30秒、サンプリング間隔は1s、スキャン速度は10mV/minとしてHAp及びZnがターフェル測定に及ぼす影響を検討した。
図9は、実施例4でのターフェル測定における電流−電位曲線の電流値を対数に変換したものを示す図である。
図9に示された各ピーク(各プロット)は、実施例4での腐食電位を示す。CV測定と同様、NonとHApを設置した反応系とを比較すると、腐食電位に変化がほとんどなかった。これらの反応系での腐食電位は、いずれも−0.53Vであった。
その一方、Znを設置した反応系における腐食電位は−1.04Vであり、HApを設置した場合と比較して著しく低下した。
この結果は、CV測定と同様、鉄電極表面にZnを設置したことにより、作用電極が鉄電極からZnに移行したことを示している。該移行により、鉄電極と比較して、対極電極の白金電極との標準酸化還元電位の差が非常に大きくなり、その結果、応答電流密度が大きくなったことが示された。
これに対して、HAp(26mg又は300mg)及びZnの両方を設置した場合の腐食電位はそれぞれ−0.95V及び−0.93Vであり、Znのみを設置した反応系と比較してわずかに上昇した。
更に、応答電流密度が低下した(0に近づいた)ことから、HApがZnの腐食反応におけるアノード反応が抑制されたことが示された。
(実施例5)
ベース塗料の有機ジンク塗料(製品名ゼッタールEP−2HB、大日本塗料株式会社製)、及び、該ベース塗料100重量部に対してHApを8重量部配合したもの(以降、8%HApとも称する。錆抑制塗料全体で換算した場合だと錆抑制塗料100重量部中の7.4重量部)を膜厚30μmで研磨済金属鉄板に塗布した。2日間の乾燥後、二端子法にて10箇所の電気抵抗値を測定した。測定にはデジタルマルチメータ(装置名;AD5585、エー・アンド・デー株式会社製)を使用した。その結果、ベース塗料の塗膜の電気抵抗値は、7.2±2.4kΩであった。8%HApを配合した塗料の電気抵抗値は、84.7±12.8kΩであった。
(実施例6)
実施例6では、ジンクリッチ塗料中でのHApの防錆剤としての有効性を確認することを目的として、HAp配合2液型有機ジンクリッチ塗料を作製した。該塗料の組成を以下に示す。
Figure 2021165339
該塗料を膜厚30μmで研磨済金属鉄板に塗布し、2日間の乾燥後、被膜の上からクロスカットを行い、試料片Bを実施例6として用意した。なお、HApを配合する前のベース塗料からなる被膜も別の研磨済金属鉄板に形成し、同様の試料片Aを比較例1として用意した。そして、試料片A、Bを、海域沿岸(徳島県鳴門市北灘町折野上三津)に設置した。
図10は、実施例6(フィールド試験)における、クロスカットを形成した状態の試料片の試験開始前(0日後)、試験開始から14日後、32日後、105日後の様子を示す写真であり、Aは比較例1、Bは実施例6を示す。
図10に示すように、HApを配合していないジンクリッチ塗料を塗布した鉄板(試料片A)では、試験開始から14日後にクロスカット部位に赤サビが発生した。その一方、HApを配合したジンクリッチ塗料を塗布した鉄板(試料片B)では14日後ではクロスカット部位での赤サビ発生は確認されなかった。
赤サビ発生後の腐食の進行に関してであるが、HApを配合していない試料片Aでは、クロスカット部位における赤サビの発生が著しく進行しており、32日後ではクロスカット部位のほとんど部分が赤サビで覆われていた。
これに対して、HApを配合した試料片Bでは、32日後に、クロスカット部位の一部にわずかな赤サビが発生した。但し、部分的に金属光沢が残存しており、その後の赤サビの進行も非常に緩和であった。
その後、HApを配合した試料片Bでは、105日後に、クロスカット部位の赤サビは、黒色に変化したことから、HApのアノード反応抑制作用により、赤サビ(Fe)から黒錆(Fe;マグネタイト)への転化(還元)が起こった可能性がある。
これらの結果は、HApを配合していない試料片Aでは、クロスカット部位での金属亜鉛による犠牲防食作用は早期に消失し、腐食が進行したことを示している。
その一方、HApを塗料に配合した試料片Bでは、HApによるZnの腐食反応でのアノード反応抑制作用により、Znの犠牲防食作用を維持しながら、Zn及び金属鉄の両方の腐食を抑制していると推測される。
(実施例7)
実施例7では、実施例6でのフィールド試験の代わりに、中性塩水噴霧試験(JIS K 5600−7−1)を実施した。それ以外の内容(比較例2として試料片A、実施例7として試験片Bを採用)は、実施例6と同様とした。
図11は、実施例7(中性塩水噴霧試験)における、クロスカットを形成した状態の試料片の試験開始から500時間後の様子を示す写真であり、Aは比較例2、Bは実施例7を示す。
図12は、図11の試験片A、Bから塗膜を人為的に剥離した後の研磨済金属鉄板の様子を示す写真であり、Aは比較例2、Bは実施例7を示す。
図11に示すように、HApを配合していない試験片Aでは、クロスカット部位の中心部において顕著な赤サビの生成が確認された。また、クロスカット部位以外の多くの塗膜表面に白サビの発生と無数の丸い膨れ部分が確認された。この丸い膨れ部分は、ジンクリッチ塗料で特徴的な丸い形状の腐食発生と酷似している。
これに対し、HApを配合した試験片Bでは、白サビの発生は確認されるが,クロスカット部位での赤錆発生は観察されず、塗膜表面の膨れもわずかであった。
図12に示すように、HApを配合していない試験片Aでは、クロスカット部位に赤錆が発生しており、塗膜表面の膨れ部分に対応して、鉄板表面に腐食の痕跡が認められた。この丸い形状の腐食の痕は、ジンクリッチ塗料の典型的な無数の穴状の腐食に酷似している。
これに対し、HApを配合した試験片Bでは赤サビ発生が全く無く、塗膜表面の膨れに対応する腐食の痕もほとんど確認されなかった。
これらの結果を鑑みると、HApを配合していない試験片Aは、クロスカット部位だけでなく、配合されたZnの犠牲防食作用が早期に消失し、金属鉄板が腐食したことがわかった。
その一方、HApを配合したジンクリッチ塗料では、HApによりジンクリッチ塗料に配合したZnの犠牲防食作用が維持されながら、Zn及び金属鉄板の両方の腐食が効果的に抑制されたと推測される。
(実施例8)
実施例8では、表1に示す組成のHAp配合2液型有機ジンクリッチ塗料の代わりに、以下の表2に示す組成のHAp配合1液型有機ジンクリッチ塗料を作製し、使用した。
Figure 2021165339
なお、試験片の大きさは150mm×50mmの平面視矩形としつつクロスカットサイズは実施例6、6と同様とした。また、中性塩水噴霧試験の500時間後、クロスカットを形成した部分且つ試料片の一隅に碁盤目状(1マス間隔1mm×1mm)に溝を形成した後、粘着テープを貼りつけた後、引き剥がした。それ以外の内容(比較例3として試料片A、実施例8として試験片Bを採用)は、実施例7と同様とした。
図13は、実施例8(中性塩水噴霧試験)における、クロスカットを形成した状態の試料片の様子を示す写真であり、Aは比較例3での試験開始から500時間後の様子を示す写真であり、Bは実施例8での試験開始から500時間後の様子を示す写真であり、Cは実施例8での試験開始から1000時間後の様子を示す写真である。
図14は、図13のクロスカット部分の拡大図であり、Aは比較例3、Bは実施例8を示す。
図15は、図13の碁盤目状の溝の部分の拡大図であり、Aは比較例3、Bは実施例8を示す。
図13に示すように、HApを配合していない試料片Aでは、塗料塗布面に無数の膨れが発生しており、膨れからの白だれ、白錆そして赤サビが形成されていることが確認できた。
これに対し、HApを配合した試料片Bでは膨れや白だれ、赤サビ、白サビは発生しておらず、全く変化が無かった。
図14に示すクロスカット部位において、HApを配合していない試料片Aでは、クロスカット部位で白サビ及び赤サビが発生した。更に、塗布面に膨れが発生していた。それに対し、HApを配合した試料片Bでは、白サビがわずかに発生していたが、HApを配合していない試料片Aのような顕著な塗布面の膨れや赤サビの発生は、全く見られなかった。
図15に示す中性塩水噴霧試験500時間後の碁盤目試験より、HApを配合していない試料片Aでは、碁盤目試験部位において、塗布面が全面的に剥離していることが確認できた。HApを配合していない試料片Bでは、白サビや膨れの発生はなく、碁盤目が明確に確認できたため、塗膜の剥離がないことが確認された。
これらの結果により以下の推測が得られる。
HApを配合していない試料片Aでは、ジンクリッチ塗料の犠牲防食作用は早期に消失し、塗料と鋼板の間で、局部腐食により膨れが発生し、膨れて鋼板が腐食し易くなり白サビ、赤サビなどが発生したと推測される。
その一方、HApを配合した試料片Bでは、どの部位においても、膨れや白だれ、赤錆などは全く見られないことから、HApが、ジンクリッチ塗料に含まれるZnの腐食を抑制し、犠牲防食作用を維持しながら、Zn及び鋼板の両方の腐食を抑制したと推測される。
以上、本実施形態及び実施例を説明したが、錆抑制塗料の別の一例の組成を以下に例示する。
Figure 2021165339
Figure 2021165339

Claims (7)

  1. 錆抑制塗料の固形分100重量部のうち、金属亜鉛が60重量部以上含有され、ヒドロキシアパタイト粉末が1重量部以上含有される、錆抑制塗料。
  2. 金属亜鉛が70〜75重量部含有され、ヒドロキシアパタイト粉末が1〜20重量部含有される、請求項1に記載の錆抑制塗料。
  3. 錆抑制塗料の固形分100重量部のうち、更に炭酸カルシウム粉末が0重量部を超え且つ5重量部以下含有される、請求項1又は2に記載の錆抑制塗料。
  4. 前記ヒドロキシアパタイト粉末は生体系由来の物質である、請求項1〜3のいずれかに記載の錆抑制塗料。
  5. ヒドロキシアパタイト粉末の平均粒径は0.1〜20μmである、請求項1〜4のいずれかに記載の錆抑制塗料。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の錆抑制塗料を鉄含有素材に塗布する、錆抑制方法。
  7. 錆抑制塗料の製造方法であって、
    ベース塗料と、
    ヒドロキシアパタイト粉末と、
    を混合する際、
    錆抑制塗料の固形分100重量部のうち、前記ベース塗料中の金属亜鉛が60重量部以上含有され、前記ヒドロキシアパタイト粉末が1重量部以上含有されるように、前記ベース塗料と前記ヒドロキシアパタイト粉末とを混合する、錆抑制塗料の製造方法。
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