(本開示の概要)
本開示の一態様に係る着衣量推定装置は、表面温度を計測する計測部と、前記計測部によって計測された表面温度に基づいてユーザの着衣量を推定する推定部とを備え、前記計測部は、前記ユーザの着衣に接触する部材の一部であって、第1熱抵抗値を有する第1部分の表面温度と、前記部材における前記第1部分とは異なる一部であって、前記第1熱抵抗値とは異なる第2熱抵抗値を有する第2部分の表面温度とを計測する。
これにより、ユーザの着衣に接触する部材の第1部分と第2部分とにおいて、各々の熱抵抗値の差に基づいた熱流束の差を利用することができるので、ユーザの皮膚温を計測することなく、ユーザの着衣量を簡便かつ精度良く推定することができる。
また、例えば、前記部材は、前記着衣に接触するシート部材と、前記シート部材に取り付けられた第1熱抵抗部材とを含み、前記第1部分は、前記第1熱抵抗部材と、前記シート部材における、平面視において前記第1熱抵抗部材に重なる第3部分とを含んでもよい。
これにより、第1部分が第1熱抵抗部材を含むので、第1部分の熱抵抗値と第2部分の熱抵抗値との差を大きくすることができる。熱抵抗値の差によって表面温度の差を大きくすることができるので、計測誤差に基づくノイズ成分を相対的に小さくすることができ、着衣量の推定精度を高めることができる。
また、例えば、前記部材は、さらに、前記シート部材に取り付けられた第2熱抵抗部材を含み、前記第2部分は、前記第2熱抵抗部材と、前記シート部材における、平面視において前記第2熱抵抗部材に重なる第4部分とを含んでもよい。
これにより、第1熱抵抗部材と第2熱抵抗部材との差を所望の値にすることができるので、第1部分の熱抵抗値と第2部分の熱抵抗値との差を所望の値にすることができる。熱抵抗値の差によって表面温度の差を大きくすることができるので、計測誤差に基づくノイズ成分を相対的に小さくすることができ、着衣量の推定精度を高めることができる。
また、例えば、前記第1部分の表面温度は、前記第3部分における、前記着衣に接触する面の表面温度であり、前記第2部分の表面温度は、前記第4部分における、前記着衣に接触する面の表面温度であってもよい。
これにより、外気に触れにくい部分の表面温度を計測するので、外気の影響によるノイズ成分を小さくすることができ、着衣量の推定精度を高めることができる。
また、例えば、前記計測部は、さらに、前記第1熱抵抗部材における、前記第3部分とは反対側の面の表面温度又は熱流束と、前記第2熱抵抗部材における、前記第4部分とは反対側の面の表面温度又は熱流束とを計測してもよい。
これにより、第1部分の両面(着衣側及びその反対側)の温度を計測するので、着衣との接触部分から第1部分を流れる熱流束を精度良く算出することができる。第2部分についても同様である。したがって、第1部分及び第2部分の側方へ流れる熱流束成分の影響を十分に小さくすることができ、着衣量の推定精度を高めることができる。第1部分及び第2部分における着衣とは反対側の面の熱流束を直接計測する場合も同様に、着衣量の推定精度を高めることができる。
また、例えば、前記計測部は、さらに、前記第3部分と前記第1熱抵抗部材との接触部分の温度又は熱流束と、前記第4部分と前記第2熱抵抗部材との接触部分の温度又は熱流束とを計測してもよい。
これにより、外気に触れにくい部分の表面温度又は熱流束を計測するので、外気の影響によるノイズ成分を小さくすることができ、着衣量の推定精度を高めることができる。
また、例えば、前記計測部は、さらに、前記第3部分と前記着衣との接触部分の熱流束と、前記第4部分と前記着衣との接触部分の熱流束とを計測してもよい。
これにより、外気に触れにくい部分の表面温度又は熱流束を計測するので、外気の影響によるノイズ成分を小さくすることができ、着衣量の推定精度を高めることができる。
また、例えば、前記第1部分の表面温度は、前記第1熱抵抗部材における、前記第3部分とは反対側の面の表面温度であり、前記第2部分の表面温度は、前記第2熱抵抗部材における、前記第4部分とは反対側の面の表面温度であり、前記計測部は、さらに、前記第3部分と前記第1熱抵抗部材との接触部分の温度又は熱流束と、前記第4部分と前記第2熱抵抗部材との接触部分の温度又は熱流束とを計測してもよい。
これにより、第1熱抵抗部材を流れる熱流束、及び、第2熱抵抗部材を流れる熱流束の各々を精度良く算出することができるので、着衣量の推定精度を高めることができる。
また、例えば、前記第1部分の表面温度は、前記第3部分における、前記着衣に接触する面の表面温度であり、前記第2部分の表面温度は、前記シート部材における、平面視において前記第1熱抵抗部材に重ならない第4部分における、前記着衣に接触する面の表面温度であり、前記計測部は、さらに、前記第1熱抵抗部材における、前記第3部分とは反対側の面の表面温度又は熱流束と、前記第4部分における、前記着衣とは反対側の面の表面温度又は熱流束とを計測してもよい。
これにより、第2熱抵抗部材を利用しなくてもよいので、より簡便に着衣量を推定することができる。
また、本開示の別の一態様に係る着衣量推定装置は、表面温度を計測する計測部と、前記計測部によって計測された表面温度に基づいてユーザの着衣量を推定する推定部とを備え、前記計測部は、前記ユーザの着衣に接触する部材の一部であって、第1熱抵抗値を有する第1部分の表面温度と、前記ユーザの着衣の表面のうち、前記部材に覆われていない第2部分の表面温度とを計測してもよい。
これにより、ユーザの着衣に接触する部材の第1部分と着衣の露出した第2部分とにおいて、各々の熱抵抗値の差に基づいた熱流束の差を利用することができるので、ユーザの皮膚温を計測することなく、ユーザの着衣量を簡便かつ精度良く推定することができる。
また、例えば、前記部材は、前記着衣に接触するシート部材を含み、前記シート部材には、前記着衣を露出させる貫通孔が設けられ、前記第2部分は、前記貫通孔に露出した部分であってもよい。
これにより、着衣がシート部材によって押さえられているので、シート部材の貫通孔に露出した部分では着衣のシワが発生しにくくなる。このため、着衣の表面温度の計測精度が高くなるので、ユーザの着衣量を簡便かつ精度良く推定することができる。
また、例えば、前記計測部は、サーモカメラを含んでもよい。
これにより、非接触でより簡便に表面温度を計測することができる。
また、本開示の別の一態様に係る着衣量推定装置は、表面温度又は熱流束を計測する計測部と、前記計測部によって計測された表面温度に基づいてユーザの着衣量を推定する推定部とを備え、前記計測部は、前記ユーザの着衣に接触する部材の一部である第1部分の表面温度又は熱流束と、前記第1部分とは熱抵抗値が異なる第2部分の表面温度又は熱流束とを計測してもよい。
これにより、第1部分と第2部分とにおいて各々の熱抵抗値の差に基づいた熱流束の差を利用することができるので、ユーザの皮膚温を計測することなく、ユーザの着衣量を簡便かつ精度良く推定することができる。
また、例えば、前記ユーザは、移動体の乗員であり、前記部材は、前記ユーザが着座する座席に取り付けられたシートベルトであってもよい。
これにより、車両又は飛行機などの移動体の乗員の着衣量を簡便かつ精度良く推定することができる。また、標準的なシートベルトは、シワが形成されにくい硬い部材で形成されているので、表面温度の計測精度を高めることができる。
また、例えば、前記計測部は、前記シートベルトが前記ユーザに装着されてから所定期間経過後に、前記計測を行ってもよい。
これにより、熱的な平衡状態が保たれた後に計測を行うことができるので、着衣量の推定精度を高めることができる。
また、例えば、前記着衣量推定装置は、さらに、前記計測部が前記計測を行う期間に前記シートベルトの引張力を強くしてもよい。
これにより、シートベルトを強く引っ張ることで、乗員の着衣に密着させることができるので、着衣量の推定精度を高めることができる。
また、例えば、前記計測部は、前記移動体が停止している期間に前記計測を行ってもよい。
これにより、移動時の振動及び外部環境の変化などの外乱が少ない環境下で計測を行うことができるので、着衣量の推定精度を高めることができる。
また、例えば、前記計測部は、前記移動体の窓が閉じられている期間に前記計測を行ってもよい。
これにより、窓からの風の影響を防ぐことができるので、着衣量の推定精度を高めることができる。
また、例えば、前記移動体は、赤外線透過率が可変である窓を備え、前記着衣量推定装置は、さらに、前記計測部が前記計測を行う前に前記窓の赤外線透過率を低下させてもよい。
これにより、日射の影響を抑制することができるので、着衣量の推定精度を高めることができる。
また、例えば、本開示の一態様に係る着衣推定装置は、さらに、前記計測部による計測結果又は前記推定部による推定結果に基づく情報を表示する表示部を備えてもよい。
これにより、表面温度の計測結果又は着衣量の推定結果に基づく情報をユーザに知らせることができる。
なお、ユーザの着衣に接触する部材と着衣との密着性が十分ではない場合、表面温度の計測値のばらつきが大きくなる。したがって、例えば、前記表示部は、前記計測部によって所定期間内に計測された表面温度の分散値が閾値より大きい場合、前記ユーザに前記部材を前記着衣に密着させるための表示を行ってもよい。これにより、部材と着衣との密着性を高めることができ、着衣量の計測精度を高めることができる。
また、例えば、前記表示部は、前記推定部によって推定された着衣量を表示してもよい。
これにより、推定された着衣量をユーザが確認することができる。
また、例えば、前記ユーザは、移動体の乗員であり、前記着衣量推定装置は、さらに、前記移動体の内部の温熱環境を測定する内部環境測定部と、前記内部環境測定部によって測定された温熱環境において適切な着衣量を決定する第1決定部とを備え、前記表示部は、前記推定部によって推定された着衣量が前記第1決定部によって決定された着衣量から逸脱している場合、前記ユーザに着衣の増減を促すための表示を行ってもよい。
これにより、ユーザに着衣量の増減を促すことができるので、ユーザの快適性を高めることができる。また、移動体の内部の空調を制御しなくても、着衣量の増減によって快適性を高めることができるので、移動体の消費エネルギーを節約することができる。このため、移動体の航続距離を延ばすことができ、エネルギーを有効利用することができる。
また、例えば、前記第1決定部は、前記移動体に複数の前記ユーザが乗員として存在する場合、複数の前記ユーザのうち、前記第1決定部によって決定された着衣量から逸脱しているユーザを特定し、前記表示部は、前記第1決定部によって特定されたユーザに対して、着衣の増減を促すための表示を行ってもよい。
これにより、複数の乗員の中から着衣量が適切でない乗員に対して、着衣量の増減を促すことにより、当該乗員の快適性を高めることができる。例えば、複数の乗員全てが快適な環境を実現することができる。
また、例えば、前記第1決定部は、前記内部環境測定部によって測定された温熱環境において前記ユーザが睡眠を取る場合に適切な着衣量を決定してもよい。
これにより、移動体内で仮眠を取る場合における寝汗などが発生しないような快適な着衣量を実現させることができ、快適な睡眠を行わせることができる。
また、例えば、前記ユーザは、移動体の乗員であり、前記着衣量推定装置は、さらに、前記移動体の外部の温熱環境を測定する外部環境測定部と、前記外部環境測定部によって測定された温熱環境において適切な着衣量を決定する第2決定部とを備え、前記表示部は、前記推定部によって推定された着衣量が前記第2決定部によって決定された着衣量から逸脱している場合、前記ユーザに着衣の増減を促すための表示を行ってもよい。
これにより、移動体の外部に出る場合に快適な着衣量を実現させることができるので、外部に出る前から外部に出たときの快適性を高めることができる。
また、本開示の一態様に係る空調制御装置は、前記着衣量推定装置を備える空調制御装置であって、前記ユーザが存在する空間内部の温熱環境を測定する内部環境測定部と、前記内部環境測定部によって測定された温熱環境と、前記推定部によって推定された着衣量とに基づいて前記空間内の空調を行う空調制御部とを備える。
これにより、高精度に推定された着衣量に基づいて空調が制御されるので、乗員にとって快適な温熱環境を容易に実現することができる。
また、例えば、前記空調制御部は、前記計測部が前記計測を行う場合に送風を停止してもよい。
これにより、表面温度の計測精度を高めることができる。
また、例えば、前記空調制御部は、前記空間内に複数の前記ユーザが存在する場合、複数の前記ユーザの各々の前記推定部によって推定された着衣量に基づいて、複数の前記ユーザの各々に最適な温熱環境を決定し、決定した複数の温熱環境を平均化した温熱環境が前記空間内に形成されるように前記空調を行ってもよい。
これにより、複数の乗員にとって最大公約数的に快適な温熱環境を実現することができる。
また、本開示の一態様に係る皮膚温推定装置は、前記着衣量推定装置と、前記計測部によって計測された表面温度に基づいて前記ユーザの皮膚温を推定する皮膚温推定部とを備える。
これにより、高精度に推定された着衣量に基づいて、ユーザの皮膚温を精度良く推定することができる。
また、例えば、本開示の一態様に係る皮膚温推定装置は、さらに、前記皮膚温推定部によって推定された皮膚温に基づいて、前記ユーザの体温を推定する体温推定部を備えてもよい。
これにより、ユーザの体温を精度良く推定することができる。
また、例えば、前記着衣量推定装置と、前記計測部によって計測された表面温度に基づいて前記ユーザの皮膚温を推定する皮膚温推定部と、前記皮膚温推定部によって推定された皮膚温に基づいて、前記ユーザの体温を推定する体温推定部とを備え、前記表示部は、前記体温を表示してもよい。
これにより、ユーザに体温を知らせることができる。
また、例えば、前記表示部は、前記体温が閾値より大きい場合、前記ユーザに対して休息を促すための表示を行ってもよい。
これにより、休息の必要性などの健康状態に関する情報をユーザに促すことができる。また、ユーザが自動車の運転者である場合には、危険な運転及び事故の発生を未然に防止することができる。
なお、皮膚温は、皮下脂肪が多い程、低下する。このため、例えば、前記表示部は、前記皮膚温が閾値より小さい場合、前記ユーザに対して食事制限を促すための表示を行ってもよい。
これにより、食事制限を促すことにより、健康管理の必要性をユーザに認識させることができる。
以下では、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、例えば、各図において縮尺などは必ずしも一致しない。また、各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
また、本明細書において、一致又は等しいなどの要素間の関係性を示す用語、及び、要素の形状を示す用語、並びに、数値範囲は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する表現である。
(実施の形態1)
[1−1.概要]
まず、実施の形態1に係る着衣量推定装置の概要について、図1を用いて説明する。図1は、本実施の形態に係る着衣量推定装置の適用例を示す図である。
本実施の形態に係る着衣量推定装置は、図1に示されるように、ユーザ10の着衣14の量(すなわち、着衣量)を推定する。ユーザ10は、例えば、移動体の乗員である。移動体は、例えば自動車であるが、バス若しくは電車などの車両、又は、飛行機若しくは船舶であってもよい。本実施の形態では、ユーザ10は、自動車の運転者であり、運転席である座席20に着座し、シートベルト30を装着している。ユーザ10は、運転者とは異なる乗員又は乗客であってもよい。つまり、座席20は、助手席であってもよく、後部座席であってもよい。
シートベルト30は、ユーザ10の着衣14に接触する部材の一例である。シートベルト30は、ユーザ10が着座する座席20に取り付けられている。シートベルト30は、ベルト本体31と、ロック機構32とを含む。ベルト本体31は、着衣14に接触するシート部材の一例である。図1に示されるように、シートベルト30は、さらに、第1熱抵抗部材41と、第2熱抵抗部材42とを含む。具体的には、第1熱抵抗部材41及び第2熱抵抗部材42は、ベルト本体31に取り付けられている。第1熱抵抗部材41及び第2熱抵抗部材42の取り付けには、接着剤若しくは接着テープ、又は、クリップ部材などが用いられるが、特に限定されない。
シートベルト30は、本実施の形態に係る着衣量推定装置による表面温度又は熱流束の計測対象物である。着衣量推定装置は、シートベルト30における第1熱抵抗部材41を含む第1部分の表面温度又は熱流束と、シートベルト30における第2熱抵抗部材42を含む第2部分の表面温度又は熱流束とを計測し、計測結果に基づいてユーザ10の着衣量を推定する。このとき、着衣量推定装置は、ユーザ10の皮膚温及び体温のいずれも計測しないので、着衣14の下に温度センサなどを取り付ける必要もなく、簡便に着衣量を推定することができる。なお、シートベルト30又はベルト本体31は、着衣量推定装置の一部であってもよい。つまり、着衣量推定装置は、シートベルト30又はベルト本体31を備えてもよい。
[1−2.構成]
次に、本実施の形態に係る着衣量推定装置の具体的な構成について、図2を用いて説明する。図2は、本実施の形態に係る着衣量推定装置の構成を示すブロック図である。
図2に示されるように、着衣量推定装置100は、計測部110と、推定部120と、記憶部130と、表示部140とを備える。
計測部110は、表面温度を計測する。本実施の形態では、計測部110は、シートベルト30の4ヶ所の表面温度を計測する。図2に示されるように、計測部110は、第1温度センサ111と、第2温度センサ112と、第3温度センサ113と、第4温度センサ114とを含む。第1温度センサ111、第2温度センサ112、第3温度センサ113及び第4温度センサ114はそれぞれ、取り付けられた部位の温度を計測する接触式の温度センサである。接触式の温度センサとしては、例えば、熱電対、白金測温抵抗体又はサーミスタ測温体などが用いられるが、特に限定されない。各温度センサによる具体的な計測位置については、図3を用いて後で説明する。
推定部120は、計測部110によって計測された表面温度に基づいてユーザ10の着衣量を推定する。本実施の形態では、推定部120は、4ヶ所の表面温度に基づいてユーザ10の着衣量を推定する。着衣量の具体的な推定方法については、図4を用いて後で説明する。
推定部120は、例えば、集積回路(IC:Integrated Circuit)であるLSI(Large Scale Integration)によって実現される。なお、集積回路は、LSIに限られず、専用回路又は汎用プロセッサであってもよい。例えば、推定部120は、マイクロコントローラであってもよい。推定部120は、プログラム可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)、又は、LSI内の回路セルの接続及び設定が再構成可能なリコンフィギュラブルプロセッサであってもよい。推定部120が実行する機能は、ソフトウェアで実現されてもよく、ハードウェアで実現されてもよい。
記憶部130は、推定部120によって実行されるプログラムであって、着衣量を推定するための推定プログラムが記憶された記憶装置である。記憶部130は、例えば不揮発性メモリであり、半導体メモリなどによって実現される。記憶部130は、シートベルト30のベルト本体31の熱抵抗値Rs、第1熱抵抗部材41の熱抵抗値Rr1及び第2熱抵抗部材42の熱抵抗値Rr2を記憶している。熱抵抗値Rs、Rr1及びRr2は、予め定められた値であり、ユーザ10又は着衣量推定装置100の製造者などによって記憶部130に予め記憶されている。熱抵抗値Rs、Rr1及びRr2は、例えば、ベルト本体31が交換された場合など、必要に応じて更新されてもよい。
表示部140は、計測部110による計測結果又は推定部120による推定結果に基づく情報を表示する。例えば、表示部140は、推定部120によって推定された着衣量を表示する。表示部140は、例えば液晶ディスプレイ(LCD)であるが、有機EL(Electroluminescence)ディスプレイであってもよい。
本実施の形態では、計測部110は、シートベルト30に設けられている。例えば、図1には、第3温度センサ113及び第4温度センサ114がそれぞれ、ベルト本体31の第1熱抵抗部材41及び第2熱抵抗部材42の表面に取り付けられている。推定部120、記憶部130及び表示部140は、例えば、シートベルト30とは異なる部分に設けられている。例えば、移動体が自動車である場合、推定部120、記憶部130及び表示部140は、インストルメントパネルに設けられている。
図1に示されるように、計測部110の各温度センサは、例えばケーブル16を介してシートベルト30のロック機構32に接続されている。ロック機構32には、ケーブル16の接続端子及び通信インタフェースが設けられている。各温度センサによって計測された値は、ケーブル16及びロック機構32を介して推定部120に送信される。なお、各温度センサと推定部120との間の情報の送受信は、有線ではなく、無線で行われてもよい。推定部120、記憶部130及び表示部140の少なくとも1つは、ユーザ10が所有する携帯端末であってもよい。
[1−3.温度センサによる計測位置]
図3は、ユーザの皮膚、着衣及びシートベルトの位置関係と、本実施の形態に係る着衣量推定装置による温度の計測位置とを示す断面図である。図3では、ユーザ10の皮膚12と、着衣14と、シートベルト30のベルト本体31と、第1熱抵抗部材41及び第2熱抵抗部材42とを示している。なお、図3は、各構成要素の位置関係を説明するための図面であり、図面の複雑化を避けるため、各構成要素の断面を表す網掛けの図示を省略している。このことは、後述する図5〜図7、図9〜図12、図17及び図37においても同様である。
図3に示されるように、シートベルト30のベルト本体31は、着衣14に接触している。さらに、シートベルト30によって着衣14は、皮膚12に押し付けられており、皮膚12に接触している。
第1熱抵抗部材41は、ベルト本体31の一部である第3部分31aに取り付けられている。具体的には、第1熱抵抗部材41は、第3部分31aにおける、着衣14とは反対側の面に取り付けられている。なお、第3部分31aは、ベルト本体31における、平面視において第1熱抵抗部材41に重なる部分である。本明細書において、特に断りのない限り、「平面視」とは、ベルト本体31の主面(着衣14に接する面とは反対側の面)を正面から見る場合を言う。
第2熱抵抗部材42は、ベルト本体31の一部である第4部分31bに取り付けられている。具体的には、第2熱抵抗部材42は、第4部分31bにおける、着衣14とは反対側の面に取り付けられている。なお、第4部分31bは、ベルト本体31における、平面視において第2熱抵抗部材42に重なる部分である。第2熱抵抗部材42は、第1熱抵抗部材41と並んで設けられている。第1熱抵抗部材41と第2熱抵抗部材42とは、互いが接触しないように配置されている。第2熱抵抗部材42の熱抵抗値Rr2は、第1熱抵抗部材41の熱抵抗値Rr1とは異なる値である。
本実施の形態では、計測部110は、シートベルト30の一部であって、予め定められた第1熱抵抗値を有する第1部分30aの表面温度と、第1部分30aとは異なる一部であって、予め定められた第2熱抵抗値を有する第2部分30bの表面温度とを計測する。第2熱抵抗値は、第1熱抵抗値とは異なる値である。
第1部分30aは、第1熱抵抗部材41と第3部分31aとを含んでいる。したがって、第1部分30aの第1熱抵抗値は、熱抵抗値Rr1とRsとの和である。第2部分30bは、第2熱抵抗部材42と第4部分31bとを含んでいる。したがって、第2部分30bの第2熱抵抗値は、熱抵抗値Rr2とRsとの和である。熱抵抗値Rr1、Rr2及びRsのいずれも予め定められた値である。
第1温度センサ111は、ベルト本体31の第3部分31aと第1熱抵抗部材41との間に挟み込まれている。第1温度センサ111は、第1熱抵抗部材41よりも小さい。第1温度センサ111を囲むようにして第3部分31aと第1熱抵抗部材41とは接触している。第1温度センサ111は、第3部分31aと第1熱抵抗部材41との接触部分の温度Ts1を計測する。
第2温度センサ112は、ベルト本体31の第4部分31bと第2熱抵抗部材42との間に挟み込まれている。第2温度センサ112は、第2熱抵抗部材42よりも小さい。第2温度センサ112を囲むようにして第4部分31bと第2熱抵抗部材42とは接触している。第2温度センサ112は、ベルト本体31の第4部分31bと第2熱抵抗部材42との接触部分の温度Ts2を計測する。
第3温度センサ113は、第1熱抵抗部材41における、第3部分31aとは反対側の面に取り付けられている。第3温度センサ113は、第1熱抵抗部材41における、第3部分31aとは反対側の面の表面温度To1を計測する。第3温度センサ113によって計測される表面温度To1が、第1部分30aの表面温度である。
第4温度センサ114は、第2熱抵抗部材42における、第4部分31bとは反対側の面に取り付けられている。第4温度センサ114は、第2熱抵抗部材42における、第4部分31bとは反対側の面の表面温度To2を計測する。第4温度センサ114によって計測される表面温度To2が、第2部分30bの表面温度である。
第1温度センサ111、第2温度センサ112、第3温度センサ113及び第4温度センサ114はそれぞれ、接着剤若しくは接着テープ、又は、クリップ部材などによって各位置に固定される。なお、各温度センサの固定方法は、特に限定されない。
[1−4.着衣量の推定処理]
次に、推定部120によって行われる着衣量の推定処理の具体例について、図3及び図4を用いて説明する。図4は、ユーザの皮膚から着衣及びシートベルトを介して空気に至る経路の熱等価回路図である。
図3に示されるように、皮膚12からの熱の伝播経路は、着衣14及びベルト本体31を通過した後、第1熱抵抗部材41を通過する第1経路51と、第2熱抵抗部材42を通過する第2経路52との2つを含んでいる。このため、図3に示される熱の伝播経路の熱等価回路は、図4に示されるように、熱流束Q1が流れる直列回路と熱流束Q2が流れる直列回路とが並列接続された回路で表される。熱流束Q1が流れる直列回路は、熱が第1熱抵抗部材41、すなわち、第1部分30aを通過する第1経路51の熱等価回路である。熱流束Q2が流れる直列回路は、熱が第2熱抵抗部材42、すなわち、第2部分30bを通過する第2経路52の熱等価回路である。
図3及び図4において、Tskは、皮膚温である。Ts1は、ベルト本体31の第3部分31aと第1熱抵抗部材41との接触部分の温度であり、第1温度センサ111によって計測される温度である。Ts2は、ベルト本体31の第4部分31bと第2熱抵抗部材42との接触部分の温度であり、第2温度センサ112によって計測される温度である。To1は、第1熱抵抗部材41の表面温度であり、第3温度センサ113によって計測される温度である。To2は、第2熱抵抗部材42の表面温度であり、第4温度センサ114によって計測される温度である。Taは、気温(車内又は室内の温度)である。
Cloは、着衣14の熱抵抗であり、着衣量に相当する。すなわち、Cloは、推定部120によって推定される値であり、未知数である。Rs、Rr1及びRr2はそれぞれ、ベルト本体31、第1熱抵抗部材41及び第2熱抵抗部材42の熱抵抗値であり、記憶部130に予め記憶された値である。Raは、空気の熱抵抗である。
図4に示される熱等価回路から、第1熱抵抗部材41及び第2熱抵抗部材42に着目することで、以下の式(1)及び(2)が成立する。
(1) Q1=(Ts1−To1)/Rr1
(2) Q2=(Ts2−To2)/Rr2
Ts1、To1、Ts2及びTo2はいずれも、計測部110によって計測された値であり、Rr1及びRr2はいずれも、記憶部130に記憶された値である。したがって、推定部120は、式(1)及び(2)により、熱流束Q1及びQ2を算出することができる。
熱的に平衡状態が保たれている場合、第1経路51を流れる熱流束Q1は、経路上のどの位置においても一定である。第2経路52を流れる熱流束Q2は、経路上のどの位置においても一定である。例えば、熱流束Q1及びQ2は、皮膚12からベルト本体31と第1熱抵抗部材41又は第2熱抵抗部材42とを流れる熱流束に等しい。したがって、以下の式(3)及び(4)が成立する。
(3) Q1=(Tsk−To1)/(Clo+Rs+Rr1)
(4) Q2=(Tsk−To2)/(Clo+Rs+Rr2)
式(1)〜(4)を解くことにより、着衣量Cloは、以下の式(5)又は(6)で表される。
(5) Clo=(To1+Q1×(Rs+Rr1)−To2−Q2×(Rs+Rr2))/(Q2−Q1)
(6) Clo=(Ts1+Q1×Rs−Ts2−Q2×Rs)/(Q2−Q1)
式(5)及び(6)の右辺の各項はいずれも、計測部110によって計測された値、記憶部130に記憶された値、又は、これらに基づいて算出される値である。したがって、推定部120は、式(5)又は(6)によって着衣量Cloを算出することができる。
以上のように、本実施の形態に係る着衣量推定装置100は、シートベルト30における互いに熱抵抗値が異なる第1部分30a及び第2部分30bの各々に流れる熱流束Q1及びQ2を利用して着衣量Cloを算出することができる。皮膚温Tskが不明なままでも、すなわち、皮膚温Tskを計測しなくても、着衣量Cloを推定することができる。
[1−5.温度センサの計測位置の変形例]
以下では、各温度センサの計測位置の変形例について説明する。以下の説明では、上述した図3及び図4に基づいた内容との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略又は簡略化する。
[1−5−1.第1例]
図5は、ユーザの皮膚、着衣及びシートベルトの位置関係と、実施の形態1に係る着衣量推定装置による温度の計測位置の第1例とを示す断面図である。図5に示されるように、第1例では、第1温度センサ111及び第2温度センサ112の設置位置が相違している。
第1温度センサ111は、ベルト本体31の第3部分31aにおける、着衣14に接触する面に取り付けられている。第1温度センサ111は、第3部分31aにおける、着衣14に接触する面の表面温度Tcl1を計測する。第1温度センサ111によって計測される表面温度Tcl1が、第1部分30aの表面温度である。
また、第2温度センサ112は、ベルト本体31の第4部分31bにおける、着衣14に接触する面に取り付けられている。第2温度センサ112は、第4部分31bにおける、着衣14に接触する面の表面温度Tcl2を計測する。第2温度センサ112によって計測される表面温度Tcl2が、第2部分30bの表面温度である。
本例では、第1温度センサ111、第2温度センサ112、第3温度センサ113及び第4温度センサ114は、筐体40によって支持されている。筐体40は、シートベルト30のベルト本体31の一部を収納するようにベルト本体31に取り付けられている。筐体40の内部に第1熱抵抗部材41及び第2熱抵抗部材42が収納されている。筐体40は、例えば断熱性材料を用いて形成されている。
例えば、筐体40は、ベルト本体31の長手方向に沿ってスライド可能である。各温度センサ及び第1熱抵抗部材41及び第2熱抵抗部材42は、一体的にスライドする。これにより、ユーザ10がシートベルト30を装着した後、筐体40をスライドさせることにより、ベルト本体31の任意の部位で計測が可能になる。したがって、ユーザ10の着衣14とベルト本体31との密着性が高い位置に筐体40をスライドさせることができ、着衣量の推定精度を高めることができる。
本例における熱等価回路は、図4に示される熱等価回路と同じである。計測によって得られる値がTs1及びTs2の代わりに、Tcl1及びTcl2である点が相違している。
したがって、ベルト本体31及び第1熱抵抗部材41の直列部分、並びに、ベルト本体31及び第2熱抵抗部材42の直列部分に着目することにより、式(1)及び(2)の代わりに、式(7)及び(8)が得られる。
(7) Q1=(Tcl1−To1)/(Rr1+Rs)
(8) Q2=(Tcl2−To2)/(Rr2+Rs)
式(3)、(4)、(7)及び(8)を解くことにより、着衣量Cloは、以下の式(9)で表される。
(9) Clo=(Tcl1−Tcl2)/(Q2−Q1)
式(9)の右辺の各項はいずれも、計測部110によって計測された値、記憶部130に記憶された値、又は、これらに基づいて算出される値である。したがって、推定部120は、式(9)によって着衣量Cloを算出することができる。
[1−5−2.第2例]
図6は、ユーザの皮膚、着衣及びシートベルトの位置関係と、実施の形態1に係る着衣量推定装置による温度の計測位置の第2例とを示す断面図である。図6に示されるように、第2例では、第1温度センサ111、第2温度センサ112、第3温度センサ113及び第4温度センサ114の設置位置が相違している。第1温度センサ111及び第2温度センサ112の設置位置は、図5に示される第1例と同じである。
第3温度センサ113は、ベルト本体31の第3部分31aと第1熱抵抗部材41との間に挟み込まれている。第3温度センサ113は、第3部分31aと第1熱抵抗部材41との接触部分の温度Ts1を計測する。つまり、第3温度センサ113は、図3に示される第1温度センサ111に対応している。
第4温度センサ114は、ベルト本体31の第4部分31bと第2熱抵抗部材42との間に挟み込まれている。第4温度センサ114は、第4部分31bと第2熱抵抗部材42との接触部分の温度Ts2を計測する。つまり、第4温度センサ114は、図3に示される第2温度センサ112に対応している。
本例における熱等価回路は、図4に示される熱等価回路と同じである。計測によって得られる値がTo1及びTo2の代わりに、Tcl1及びTcl2である点が相違している。
したがって、ベルト本体31に着目することにより、式(1)及び(2)の代わりに、式(10)及び(11)が得られる。
(10) Q1=(Tcl1−Ts1)/Rs
(11) Q2=(Tcl2−Ts2)/Rs
式(3)、(4)、(10)及び(11)を解くことにより、着衣量Cloは、上述した式(9)で表される。
本例では、第1温度センサ111、第2温度センサ112、第3温度センサ113及び第4温度センサ114が外気に触れにくい位置に設けられている。このため、外気の影響によるノイズ成分を小さくすることができ、着衣量の推定精度を高めることができる。
[1−5−3.第3例]
図7は、ユーザの皮膚、着衣及びシートベルトの位置関係と、実施の形態1に係る着衣量推定装置による温度の計測位置の第3例とを示す断面図である。図7に示されるように、第3例では、第1例と比較して、シートベルト30が第2熱抵抗部材42を含まない点が相違している。第1温度センサ111、第2温度センサ112及び第3温度センサ113の設置位置は、図5に示される第1例と同じである。
本例では、第2熱抵抗部材42が設けられていないので、第4温度センサ114は、シートベルト30のベルト本体31の第4部分31bに取り付けられている。第4部分31bは、平面視において第1熱抵抗部材41に重ならない部分である。第4温度センサ114は、第4部分31bにおける、着衣14とは反対側の面の表面温度Ts2を計測する。
本例における熱等価回路は、図4に示される熱等価回路から熱抵抗値Rr2を除いた回路と同じである。第4温度センサ114によって計測された表面温度Ts2は、第2部分30bの表面温度To2に等しい。
したがって、ベルト本体31に着目することにより、第1例における式(8)の代わりに、式(12)が得られる。
(12) Q2=(Tcl2−Ts2)/Rs
式(3)、(4)、(7)及び(12)を解くことにより、着衣量Cloは、上述した式(9)で表される。
本例では、第2熱抵抗部材42が設けられていなくてもよいので、より簡便に着衣量を推定することができる。
(実施の形態2)
続いて、実施の形態2について説明する。
実施の形態2に係る着衣量推定装置は、実施の形態1と比較して、温度の代わりに熱流束を計測する点が相違する。以下では、実施の形態1との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略又は簡略化する。
[2−1.構成]
まず、本実施の形態に係る着衣量推定装置の具体的な構成について、図8を用いて説明する。図8は、本実施の形態に係る着衣量推定装置の構成を示すブロック図である。
図8に示されるように、着衣量推定装置200は、実施の形態1に係る着衣量推定装置100と比較して、計測部110及び推定部120の代わりに、計測部210及び推定部220を備える。また、着衣量推定装置200は、記憶部130を備えない。
計測部210は、表面温度と熱流束とを計測する。本実施の形態では、計測部210は、シートベルト30の2ヶ所の表面温度と2ヶ所の熱流束とを計測する。図8に示されるように、計測部210は、第1温度センサ111と、第2温度センサ112と、第1熱流束計215と、第2熱流束計216とを含む。第1温度センサ111及び第2温度センサ112は、実施の形態1と同じである。
第1熱流束計215は、シートベルト30の第1部分30aを流れる熱流束Q1を計測する。第2熱流束計216は、シートベルト30の第2部分30bを流れる熱流束Q2を計測する。第1熱流束計215及び第2熱流束計216はそれぞれ、取り付けられた部位を流れる熱流束を計測する接触式の熱流束計である。接触式の熱流束計としては、例えば、サーモパイルを含むセンサが用いられる。
本実施の形態では、実施の形態1で説明した各式(1)〜(12)における熱流束Q1及びQ2の値を計測値として取得することができる。これにより、演算の処理量を削減することができる。また、温度を計測する場合に比べて、計測結果及び着衣量の推定結果の精度を高めることができる。
推定部220は、計測部210によって計測された表面温度及び熱流束に基づいてユーザ10の着衣量を推定する。本実施の形態では、推定部220は、2ヶ所の表面温度と2ヶ所の熱流束とに基づいてユーザ10の着衣量を推定する。
詳細については後述するが、推定部220は、ベルト本体31、第1熱抵抗部材41及び第2熱抵抗部材42の各々の熱抵抗値Rs、Rr1及びRr2を用いない。このため、着衣量推定装置200は、推定部220が着衣量の推定処理を実行するためのプログラムなどを記憶するメモリ、及び、プログラムの実行領域として利用されるメモリを備えていれば、熱抵抗値Rsなどを記憶する記憶部130を備えなくてもよい。
[2−2.温度センサ及び熱流束計の計測位置の例]
以下では、各温度センサ及び各熱流束計による具体的な計測位置の例について説明する。
[2−2−1.第1例]
図9は、ユーザの皮膚、着衣及びシートベルトの位置関係と、本実施の形態に係る着衣量推定装置による温度及び熱流束の計測位置の第1例とを示す断面図である。図9に示されるように、第1温度センサ111及び第2温度センサ112は、実施の形態の第1例と同じである。
具体的には、第1温度センサ111は、第3部分31aにおける、着衣14に接触する面の表面温度Tcl1を計測する。第2温度センサ112は、第4部分31bにおける、着衣14に接触する面の表面温度Tcl2を計測する。
第1熱流束計215は、ベルト本体31の第3部分31aと着衣14との間に取り付けられている。第1熱流束計215は、第3部分31aと着衣14との接触部分の熱流束Q1を計測する。
第2熱流束計216は、ベルト本体31の第4部分31bと着衣14との間に取り付けられている。第2熱流束計216は、第4部分31bと着衣14との接触部分の熱流束Q2を計測する。
なお、図9では、着衣14、第1熱流束計215、第1温度センサ111、第3部分31aの順に設けられている例を示しているが、着衣14、第1温度センサ111、第1熱流束計215、第3部分31aの順に設けられていてもよい。また、第1温度センサ111と第1熱流束計215とは、第3部分31aにおける着衣14側の面内に並んで配置されていてもよい。第2熱流束計216と第2温度センサ112とについても同様である。
本例における熱等価回路は、図4に示される熱等価回路と同じである。実施の形態1の第1例と比較した場合、計測によって得られる値がTo1及びTo2の代わりに、Q1及びQ2である点が相違している。
したがって、第1経路51及び第2経路52の各々における着衣14に着目することにより、以下の式(13)及び(14)が得られる。
(13) Q1=(Tsk−Tcl1)/Clo
(14) Q2=(Tsk−Tcl2)/Clo
式(13)及び(14)を解くことにより、着衣量Cloは、上述した式(9)で表される。式(9)の右辺の各項はいずれも、計測部210によって計測された値である。したがって、推定部220は、式(9)に基づいて着衣量Cloを算出することができる。本実施の形態では、式(9)のみを利用すればよいので、ベルト本体31の熱抵抗値Rs、第1熱抵抗部材41の熱抵抗値Rr1、及び、第2熱抵抗部材42の熱抵抗値Rr2のいずれも利用しなくてもよい。したがって、例えば、ベルト本体31の経年劣化又は損傷などによって記憶部130に記憶された熱抵抗値と実際の熱抵抗値とにズレが生じた場合であっても、着衣量を精度良く推定することができる。
[2−2−2.第2例]
図10は、ユーザの皮膚、着衣及びシートベルトの位置関係と、本実施の形態に係る着衣量推定装置による温度及び熱流束の計測位置の第2例とを示す断面図である。図10に示されるように、実施の形態2の第1例と比較して、第1熱流束計215及び第2熱流束計216の設置位置が相違している。
第1熱流束計215は、第1熱抵抗部材41における、第3部分31aとは反対側の面に取り付けられている。第1熱流束計215は、第1熱抵抗部材41における、第3部分31aとは反対側の面の熱流束Q1を計測する。
第2熱流束計216は、第2熱抵抗部材42における、第4部分31bとは反対側の面に取り付けられている。第2熱流束計216は、第2熱抵抗部材42における、第4部分31bとは反対側の面の熱流束Q2を計測する。
本例における熱等価回路は、図4に示される熱等価回路と同じである。実施の形態2の第1例と比較した場合、計測によって得られる熱流束Q1及びQ2の計測位置が相違している。上述した通り、熱的に平衡状態が保たれている場合には、熱流束Q1は、第1経路51上のどの位置においても一定とみなすことができる。熱流束Q2についても同様である。したがって、実施の形態2の第1例と同様に、推定部220は、式(9)に基づいて着衣量Cloを算出することができる。
なお、熱は、ベルト本体31を伝わる際に、厚み方向だけでなく、ベルト本体31の長手方向にも伝わる。このため、第3部分31aと着衣14との接触部分から、第3部分31aに伝わった熱の一部が、第1経路51から漏れ出てしまう。つまり、第3部分31aと着衣14との接触部分で測定した熱流束Q1と、本例のように、第1熱抵抗部材41の表面で計測された熱流束Q1とでは差異が発生し得る。本例に係る第1熱流束計215によって計測された熱流束Q1は、皮膚12から着衣14、ベルト本体31及び第1熱抵抗部材41を順に流れた熱流束であり、ベルト本体31の長手方向に沿って漏れ出た熱流束が除外されている。第2熱流束計216によって計測された熱流束Q2についても同様である。したがって、第1経路51を流れる熱流束Q1及び第2経路52を流れる熱流束Q2が精度良く計測されるので、着衣量の推定精度を高めることができる。
[2−2−3.第3例]
図11は、ユーザの皮膚、着衣及びシートベルトの位置関係と、本実施の形態に係る着衣量推定装置による温度及び熱流束の計測位置の第3例とを示す断面図である。図11に示されるように、実施の形態2の第1例と比較して、第1熱流束計215及び第2熱流束計216の設置位置が相違している。
第1熱流束計215は、ベルト本体31の第3部分31aと第1熱抵抗部材41との間に挟み込まれている。第1熱流束計215は、第3部分31aと第1熱抵抗部材41との接触部分の熱流束Q1を計測する。
第2熱流束計216は、ベルト本体31の第4部分31bと第2熱抵抗部材42との間に挟み込まれている。第2熱流束計216は、第4部分31bと第2熱抵抗部材42との接触部分の熱流束Q2を計測する。
本例における熱等価回路は、図4に示される熱等価回路と同じである。実施の形態2の第1例と比較した場合、計測によって得られる熱流束Q1及びQ2の計測位置が相違している。上述した通り、熱的に平衡状態が保たれている場合には、熱流束Q1は、第1経路51上のどの位置においても一定とみなすことができる。熱流束Q2についても同様である。したがって、実施の形態2の第1例と同様に、推定部220は、式(9)に基づいて着衣量Cloを算出することができる。
本例においても、ベルト本体31の長手方向に漏れ出る熱流束を除外した値が第1熱流束計215及び第2熱流束計216によって計測される。また、第1熱流束計215及び第2熱流束計216はいずれも、外気に接触しにくい位置に設けられている。したがって、第1経路51を流れる熱流束Q1及び第2経路52を流れる熱流束Q2が精度良く計測されるので、着衣量の推定精度を高めることができる。
[2−2−4.第4例]
図12は、ユーザの皮膚、着衣及びシートベルトの位置関係と、本実施の形態に係る着衣量推定装置による温度及び熱流束の計測位置の第4例とを示す断面図である。図12に示されるように、第4例では、実施の形態2の第2例と比較して、シートベルト30が第2熱抵抗部材42を含まない点が相違する。第1温度センサ111、第2温度センサ112及び第1熱流束計215の設置位置は、図10に示される第2例と同じである。
本例では、第2熱抵抗部材42が設けられていないので、第2熱流束計216は、シートベルト30のベルト本体31の第4部分31bに取り付けられている。第4部分31bは、平面視において第1熱抵抗部材41に重ならない部分である。第2熱流束計216は、第4部分31bにおける、着衣14とは反対側の面の熱流束Q2を計測する。
本例における熱等価回路は、図4に示される熱等価回路から熱抵抗値Rr2を除いた回路と同じである。第2熱流束計216によって計測された熱流束Q2は、第2経路52を流れる熱流束である。上述した通り、熱的に平衡状態が保たれている場合には、熱流束Q2は、第2経路52上のどの位置においても一定とみなすことができる。熱流束Q1についても同様である。したがって、実施の形態2の第2例と同様に、推定部220は、式(9)に基づいて着衣量Cloを算出することができる。
本例においても、ベルト本体31の長手方向に漏れ出る熱流束を除外した値が第1熱流束計215及び第2熱流束計216によって計測される。したがって、第1経路51を流れる熱流束Q1及び第2経路52を流れる熱流束Q2が精度良く計測されるので、着衣量の推定精度を高めることができる。
[2−3.着衣量の推定結果]
ここで、本発明者らが行った実験に基づく、実施の形態2に係る着衣量推定装置200による着衣量の推定結果について説明する。実験では、第1温度センサ111、第2温度センサ112、第1熱流束計215及び第2熱流束計216の設置位置は、図12に示される第4例を採用した。つまり、シートベルト30のベルト本体31には、第1熱抵抗部材41が取り付けられ、第2熱抵抗部材42は取り付けられていない。
図13及び図14はそれぞれ、本実施の形態に係る着衣量推定装置による着衣量の推定結果の一例を示すグラフである。図13及び図14において、横軸は推定処理の開始からの経過時間を表し、縦軸は推定された着衣量を表している。
図13は、ユーザ10が着衣14としてTシャツ1枚を着用したときの推定結果を示している。着衣量推定装置200は、第1温度センサ111、第2温度センサ112、第1熱流束計215及び第2熱流束計216の各々の計測結果の時系列データに基づいて、計測時点での着衣量を推定し、推定した着衣量の時系列データを生成した。
Tシャツ1枚の着衣量は、サーマルマネキンを用いて測定した結果、0.39cloであった。これに対して、推定の開始直後では、推定結果によるばらつきが生じたものの開始1分半程で、推定された着衣量も約0.39cloで安定した。したがって、極めて高い精度で着衣量が推定されていることが分かる。
図14は、ユーザ10が着衣14としてTシャツとスウェットとを重ね着したときの推定結果を示している。このときの着衣量は、サーマルマネキンを用いて測定した結果、0.83cloであった。図14に示される例では、図13に示される場合よりも、推定結果のばらつきが大きく、安定するまでに時間を要したが、開始から7分を経過したあたりから高い精度で着衣量が推定されていることが分かる。このように、重ね着した場合であっても高い精度で着衣量を推定することができた。
以上のように、本実施の形態によれば、サーマルマネキンのように高価な測定装置を利用しなくても、着衣量を簡便かつ精度良く推定することができる。なお、ここでは、実施の形態2の第4例を採用した実験結果についてのみ示したが、実施の形態2の第1例〜第3例、及び、実施の形態1、並びに、後述する実施の形態においても同様に高い推定精度を実現することができる。
(実施の形態3)
続いて、実施の形態3について説明する。
実施の形態3に係る着衣量推定装置は、実施の形態1と比較して、接触式の温度センサの代わりに非接触式の温度センサを利用する点が相違する。以下では、実施の形態1との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略又は簡略化する。
[3−1.概要]
まず、実施の形態3に係る着衣量推定装置の概要について、図15を用いて説明する。図15は、本実施の形態に係る着衣量推定装置の適用例を示す図である。
図15に示されるように、本実施の形態に係る着衣量推定装置は、ユーザ10の着衣量を推定する際に、温度センサの代わりにサーモカメラ311を利用する。サーモカメラ311は、シートベルト30のベルト本体31の表面温度と、ユーザ10の着衣14の表面温度とを計測する。着衣量推定装置は、計測された2ヶ所の表面温度と気温(車内又は室内の温度)とに基づいて、ユーザ10の着衣量を推定する。
[3−2.構成]
次に、本実施の形態に係る着衣量推定装置の具体的な構成について、図16を用いて説明する。図16は、本実施の形態に係る着衣量推定装置の構成を示すブロック図である。
図16に示されるように、着衣量推定装置300は、実施の形態1に係る着衣量推定装置100と比較して、計測部110及び推定部120の代わりに計測部310及び推定部320を備える。
計測部310は、表面温度を非接触で計測する。本実施の形態では、計測部310は、シートベルト30の表面温度と、着衣14の表面温度とを計測する。図16に示されるように、計測部310は、サーモカメラ311を含む。
サーモカメラ311は、シートベルト30の一部であって、第1熱抵抗値を有する第1部分30aの表面温度Ts1と、ユーザ10の着衣14の表面のうち、シートベルト30に覆われていない第2部分14bの表面温度Tcl2とを計測する。サーモカメラ311は、非接触式の温度センサの一例であり、例えば赤外線を検知するイメージセンサであるが、特に限定されない。
サーモカメラ311は、ユーザ10の上半身とシートベルト30とが撮影範囲に入るように設置されている。例えば、ユーザ10が自動車の運転者又は助手席に着座している乗員である場合、サーモカメラ311としては、ルームミラーの近傍に設置され、約60°以上の画角を有するサーモカメラが利用可能である。あるいは、60°よりも広角のサーモカメラが、ユーザ10側のAピラーの上部に取り付けられていてもよい。あるいは、画角が30°程度の狭いサーモカメラが、ユーザ10とは反対側のAピラーの上部に取り付けられていてもよい。また、ユーザ10が自動車の後部座席に着座している乗員である場合、サーモカメラ311は、Bピラーの上部に取り付けられてもよい。サーモカメラ311の解像度が低い場合は、推定部320によって超解像処理が行われてもよい。
推定部320は、計測部310によって計測された表面温度及び熱流束に基づいてユーザ10の着衣量を推定する。本実施の形態では、推定部320は、2ヶ所の表面温度と気温とに基づいてユーザ10の着衣量を推定する。
[3−3.着衣量の推定処理]
次に、推定部320によって行われる着衣量の推定処理の具体例について、図17を用いて説明する。図17は、ユーザの皮膚、着衣及びシートベルトの位置関係と、本実施の形態に係る着衣量推定装置による温度の計測位置とを示す断面図である。
図17及び図15に示されるように、本実施の形態では、シートベルト30は、第1熱抵抗部材41及び第2熱抵抗部材42のいずれも有しない。このため、本実施の形態に係る熱等価回路は、図4に示される熱等価回路から熱抵抗値Rr1及びRr2を除いた回路と同じである。
シートベルト30のベルト本体31の近傍の空気の熱抵抗値に着目することで、以下の式(15)が成立する。
(15) Q1=(Ts1−To)/Ra
また、シートベルト30に覆われていない着衣14の表面近傍の空気の熱抵抗値に着目することで、以下の式(16)が成立する。
(16) Q2=(Tcl2−To)/Ra
Toは、作用温度である。人体から周囲の環境に対して放出される熱は、主に、対流熱伝達と放射熱伝達との二つの経路を取る。この二つの環境温度を代表させたものが、作用温度である。ここでは、説明を簡単にするために、Toは気温と同一であるとする。
なお、Raは、空気の熱抵抗値であり、気流の有無によって大きく変化する。このため、サーモカメラ311を利用して表面温度Ts1及びTcl2を計測する場合には、無風状態であることが望ましい。無風状態であれば、空気の熱抵抗値Raは予め定められた固定値である。
Toは、例えば移動体が備える温度計から取得される。あるいは、Toは、サーモカメラ311によって気温と同等の表面温度を有する物体の表面温度を計測することにより取得された値であってもよい。気温と同等の表面温度を有する物体は、例えば、車内又は室内のカーテン又は座席20の布などである。
Ts1及びTcl2はいずれも、計測部310によって計測された値であり、Toも温度計又は計測部310によって計測された値である。Raは、予め定められた値である。したがって、推定部320は、式(15)及び(16)により、熱流束Q1及びQ2を算出することができる。
また、熱的に平衡状態が保たれている場合、式(3)及び(4)の代わりに、以下の式(17)及び(18)が成立する。
(17) Q1=(Tsk−Ts1)/(Clo+Rs)
(18) Q2=(Tsk−Tcl2)/Clo
式(15)〜(18)を解くことにより、着衣量Cloは、以下の式(19)で表される。
(19) Clo=(Ts1+Q1×Rs−Tcl2)/(Q2−Q1)
式(19)の右辺の各項は、いずれも計測部310によって計測された値、記憶部130に記憶された値、又は、これらに基づいて算出される値である。したがって、推定部320は、式(19)によって着衣量Cloを算出することができる。
以上のように、本実施の形態に係る着衣量推定装置300は、シートベルト30の一部である第1部分30a及び着衣14の一部である第2部分30bの各々の表面温度を利用して着衣量Cloを算出することができる。皮膚温Tskが不明なままでも、すなわち、皮膚温Tskを計測しなくても、着衣量Cloを推定することができる。第1熱抵抗部材41、第2熱抵抗部材42、温度センサ及び熱流束計などを必要とせずに、既存のシートベルト30を利用して着衣量Cloを簡便に推定することができる。
なお、熱抵抗値Raは、着衣14の表面温度と気温との温度差が大きい場合、上昇気流によって変化する。このため、着衣14の表面温度Tcl2と気温Toとの差に応じて補正されてもよい。また、車内又は室内の空調が行われている場合、車内又は室内に発生する気流が熱抵抗値Raに対して支配的になる。このため、例えば、推定部320は、カーエアコンの吹き出し風量を用いて熱抵抗値Raを決定してもよい。この場合、計測部310による計測は、無風状態ではない場合に行われる。
また、第1部分30a及び第2部分14bのいずれか一方には、温度センサ又は熱流束計が取り付けられてもよい。推定部320は、サーモカメラ311によって計測された表面温度と、温度センサによって計測された温度又は熱流束計によって計測された熱流束とを利用してもよい。
[3−4.シートベルトの変形例]
上述したように、本実施の形態では、既存のシートベルト30を利用することができるが、着衣量の推定精度を高めるためにシートベルト30に加工を加えてもよい。以下では、シートベルト30の変形例について説明する。
[3−4−1.変形例1]
図18は、本実施の形態に係るシートベルトの変形例1を示す図である。図18に示されるように、シートベルト330は、ベルト本体31の表面に取り付けられた第1熱抵抗部材41を備える。
第1熱抵抗部材41は、例えばウレタン製のカバーである。実施の形態1において説明した筐体40と同様に、第1熱抵抗部材41は、ベルト本体31の長手方向に沿ってスライド可能であってもよい。例えば、ユーザ10は、シートベルト330を着用した後、第1熱抵抗部材41をスライドさせることで、体躯部(具体的には、胸部)にまで移動させてもよい。
この場合、図7に示される実施の形態1の第3例、及び、図12に示される実施の形態2の第4例と同様に、サーモカメラ311は、第1熱抵抗部材41の表面温度To1と、ベルト本体31の第4部分31bの表面温度Ts2とを計測する。これにより、推定部320は、式(9)に基づいて着衣量を算出することができる。つまり、推定部320は、着衣14の表面温度Tclを利用しない。
着衣14の表面のうち、シートベルト330のベルト本体31に覆われていない第4部分31bの表面には着衣14のシワなどが形成されやすい。このため、第4部分31bの近傍において空気の熱抵抗値Raが安定しなくなり、着衣量の推定精度が低下する可能性がある。
これに対して、ベルト本体31は、通常の場合、着衣14よりも硬い材料を用いて形成されているので、ベルト本体31の表面にはシワが形成されにくい。このため、ベルト本体31の第4部分31bの表面近傍において空気の熱抵抗値Raが安定するので、着衣量の推定精度を高めることができる。
[3−4−2.変形例2]
図19は、本実施の形態に係るシートベルトの変形例2を示す図である。図19に示されるように、シートベルト331は、ベルト本体31の表面に取り付けられた1つ以上の第1熱抵抗部材341を備える。
第1熱抵抗部材341は、例えば起毛を有する布地である。複数の第1熱抵抗部材341がベルト本体31の長手方向に沿って周期的に所定の間隔で配置されている。なお、第1熱抵抗部材341は、ウレタンシートであってもよい。また、複数の第1熱抵抗部材341の各々の熱抵抗値は、互いに異なっていてもよい。
この場合、図7に示される実施の形態1の第3例、及び、図12に示される実施の形態2の第4例と同様に、サーモカメラ311は、第1熱抵抗部材41の表面温度To1と、ベルト本体31の第4部分31b(第2部分30b)の表面温度Ts2とを計測する。これにより、推定部320は、式(9)に基づいて着衣量を算出することができる。つまり、推定部320は、着衣14の表面温度を利用しない。
本変形例では、複数の第1熱抵抗部材341が周期的に設けられているので、着衣量の推定精度が高くなる第1熱抵抗部材341を選択することができる。具体的には、シートベルト30がユーザ10に装着された場合に、ユーザ10の胸部に最も近い第1熱抵抗部材341の表面温度をサーモカメラ311が計測する。これにより、ベルト本体31と着衣14との密着性が高い部分で表面温度の計測ができるので、着衣量の推定精度を高めることができる。
[3−4−3.変形例3]
図20は、本実施の形態に係るシートベルトの変形例3を示す図である。図20に示されるように、シートベルト332には、1つ以上の貫通孔334が設けられている。
貫通孔334は、シートベルト332のベルト本体31を厚み方向に貫通している。これにより、シートベルト332がユーザ10に装着された場合に、貫通孔334を介して着衣14を露出させることができる。本変形例では、複数の貫通孔334が、ベルト本体31の長手方向に沿って周期的に所定の間隔で配置されている。貫通孔334の形状は、矩形であるが、円形であってもよく、特に限定されない。
本変形例では、サーモカメラ311は、ベルト本体31の一部である第3部分31a(第1部分30a)の表面温度Ts1と、ユーザ10の着衣14の表面のうち、貫通孔334に露出した第2部分14bの表面温度Tcl2とを計測する。推定部320は、上述した通り、式(19)に基づいて、ユーザ10の着衣量を推定することができる。
着衣14の第2部分14bは、その周囲がベルト本体31によって押さえられているので、シワが生じにくい。したがって、第2部分14bの熱抵抗値Raを安定させることができる。これにより、着衣量の推定精度を高めることができる。
(実施の形態4)
続いて、実施の形態4について説明する。
実施の形態4に係る着衣量推定装置は、温度又は計測時の環境を調整することで、温度又は熱流束の計測に適した環境を形成する。これにより、着衣量の推定精度を高めることができる。以下では、実施の形態1〜3との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略又は簡略化する。
[4−1.構成]
まず、本実施の形態に係る着衣量推定装置の構成について図21を用いて説明する。図21は、本実施の形態に係る着衣量推定装置の構成を示すブロック図である。
図21に示されるように、着衣量推定装置400は、実施の形態1に係る着衣量推定装置100と比較して、新たに制御部450を備える。制御部450は、計測部110による計測を実行させるタイミングを制御する。
また、制御部450は、図21に示されるように、シートベルト30又は窓60を制御することで、計測時の環境を制御する。なお、窓60は、例えば、移動体の車内又は部屋の室内と外部とを隔てる窓であり、開閉可能である。本実施の形態では、窓60は、赤外線透過率が可変である窓である。
また、制御部450は、計測部110による計測結果に基づいて、表示部140の表示内容を制御してもよい。制御部450による具体的な制御例については後で説明する。
制御部450は、例えば、集積回路であるLSIによって実現される。例えば、制御部450は、マイクロコントローラであってもよい。制御部450は、プログラム可能なFPGA、又は、LSI内の回路セルの接続及び設定が再構成可能なリコンフィギュラブルプロセッサであってもよい。制御部450が実行する機能は、ソフトウェアで実現されてもよく、ハードウェアで実現されてもよい。制御部450と推定部120とは、同一のハードウェア資源を共用することで実現されてもよい。
[4−2.計測のタイミングと計測時の環境]
次に、計測部110によって行われる計測のタイミングと、制御部450によって制御される計測時の環境とについて説明する。
制御部450は、図21に示されるように、移動体に関する車体情報を取得する。車体情報は、具体的には、座席20、シートベルト30及び窓60が設けられた車両に関する情報である。
例えば、車体情報は、シートベルト30がユーザ10に装着されていることを示すベルト装着情報を含んでいる。ベルト装着情報は、例えば、ベルト本体31がロック機構32に固定された場合に、ロック機構32を介して制御部450に出力される。
また、車体情報は、車両が移動中であるか停止中であるかを示す停止情報を含んでいる。停止情報は、車体の移動速度で示されてもよい。移動速度は、例えば、速度センサ、加速度センサ、タイヤの回転速度を検出するセンサなどから取得される。
また、車体情報は、窓60の開閉情報を含んでいる。開閉情報は、窓60に取り付けられた開閉センサから取得される。また、車体情報は、車内の気流の有無を示す気流情報を含んでもよい。
本実施の形態では、制御部450は、ベルト装着情報に基づいて、シートベルト30がユーザ10に装着されている場合に、計測部110に計測を行わせる。例えば、計測部110は、シートベルト30がユーザ10に装着されてから所定期間経過後に計測を行う。所定期間は、熱的に平衡状態が形成されるのに要する時間である。例えば、所定期間は、10分であるが、特に限定されない。熱的に平衡状態が形成された後に計測が行われることで、着衣量の推定精度を高めることができる。
また、制御部450は、停止情報に基づいて、車両が停止している期間に計測部110に計測を行わせる。例えば、計測部110は、シートベルト30を装着した後、ユーザ10が車両を発進させる前の車両が停止している期間に計測を行う。あるいは、計測部110は、信号待ち中などに計測を行ってもよい。
また、制御部450は、窓60の開閉情報に基づいて、窓60が閉じられている期間に計測部110に計測を行わせる。窓60が閉じられていることにより、外部から気流が車内に入ることを抑制し、着衣量の推定精度を高めることができる。なお、制御部450は、窓60の開閉を制御してもよい。具体的には、制御部450は、計測部110による計測が可能なタイミングで窓60を閉じ、窓60が閉じられた後に計測部110に計測を行わせてもよい。
また、窓60が赤外線透過率を変更可能な窓である場合には、制御部450は、計測部110が計測を行う前に、窓60の赤外線透過率を低下させる。これにより、計測部110は、窓60の赤外線透過率が所定の閾値以下である期間に計測を行うことができる。
また、制御部450は、計測部110が計測を行う期間にシートベルト30の引張力を強くする。これにより、シートベルト30のベルト本体31と着衣14との密着性を高めることができるので、着衣量の推定精度を高めることができる。
なお、計測部110は常に計測を行っていてもよく、計測値の時系列データの中から、推定部120が着衣量の推定に利用可能なタイミングのデータを選択して用いてもよい。具体的には、推定部120は、車両が停止している期間、及び、窓60が閉じられている期間のいずれか一方の期間、又は、車両が停止し、かつ、窓60が閉じられている期間に得られた計測値を着衣量の推定に利用する。あるいは、推定部120は、ベルト本体31の引張力を強くした期間、又は、窓60の赤外線透過率を低くした期間に得られた計測値を着衣量の推定に利用してもよい。
[4−3.表示部の制御]
次に、制御部450による表示部140の制御について説明する。
制御部450は、計測部110による計測結果が安定しない場合、表示部140を制御することで、ユーザ10に所定のメッセージを表示させる。例えば、シートベルト30のベルト本体31と着衣14との密着性が悪い場合、空気による余分な熱抵抗が発生する。空気の熱抵抗は、着衣14とベルト本体31との間の空気量によっても変動するため、密着性が低い場合には表面温度の計測結果のばらつきが大きくなる。
そこで、表示部140は、計測部110によって所定期間内に計測された表面温度の分散値が閾値より大きい場合、ユーザ10にシートベルト30を着衣14に密着させるための表示を行う。図22は、本実施の形態に係る着衣量推定装置による表示メッセージの一例を示す図である。表示部140は、図22に示されるようなメッセージを表示することにより、シートベルト30と着衣14とが密着するようにユーザ10に姿勢を変更させることを促すことができる。これにより、計測結果が安定するようになり、着衣量の推定精度を高めることができる。
(実施の形態5)
続いて、実施の形態5について説明する。
実施の形態5に係る着衣量推定装置は、着衣量の推定結果に基づいてユーザの快適性を高めるためのアドバイスなどを提案する。以下では、実施の形態1〜4との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略又は簡略化する。
[5−1.構成]
まず、本実施の形態に係る着衣量推定装置の構成について図23を用いて説明する。図23は、本実施の形態に係る着衣量推定装置の構成を示すブロック図である。
図23に示されるように、着衣量推定装置500は、実施の形態1に係る着衣量推定装置100と比較して、新たに、内部環境測定部560、外部環境測定部562、内部着衣量決定部570及び外部着衣量決定部572を備える。
内部環境測定部560は、移動体の内部の温熱環境を測定する。例えば、内部環境測定部560は、車内の温度及び湿度を測定する温湿度センサを含む。内部環境測定部560は、車内の気流の風量及び風向を測定する気流センサを含んでもよい。温熱環境は、温度、湿度及び気流の少なくとも1つによって定められる。
外部環境測定部562は、移動体の外部の温熱環境を測定する。例えば、外部環境測定部562は、車外の温度及び湿度を測定する温湿度センサを含む。外部環境測定部562は、車外の気流の風量及び風向を測定する気流センサを含んでもよい。
内部着衣量決定部570は、内部環境測定部560によって測定された温熱環境において適切な着衣量を決定する第1決定部の一例である。例えば、内部着衣量決定部570は、PMV(Predicted Mean Vote)、SET*(Standard Effective Temperature)などの従来の温冷感推定方法に基づいて、測定された温熱環境において適切な着衣量を決定する。適切な着衣量は、着衣量の最適値を中心とする所定の範囲で示されてもよい。例えば、適切な着衣量は、最適値の±0.1cloの範囲である。
移動体に複数のユーザ10が乗員として存在する場合には、内部着衣量決定部570は、複数のユーザ10のうち、適切な着衣量から逸脱しているユーザを特定してもよい。なお、複数のユーザ10が存在する場合には、着衣量推定装置500は、複数のユーザ10の各々に対する計測を行い、各々の着衣量を推定する。
なお、移動体の内部で起きている場合と寝ている場合とでは、ユーザ10が快適に感じる温熱環境は異なる。このため、内部着衣量決定部570は、内部環境測定部560によって測定された温熱環境においてユーザ10が睡眠を取る場合に適切な着衣量を決定してもよい。
外部着衣量決定部572は、外部環境測定部562によって測定された温熱環境において適切な着衣量を決定する第2決定部の一例である。例えば、内部着衣量決定部570は、PMV、SET*などの従来の温冷感推定方法に基づいて、測定された温熱環境において最適な着衣量を決定する。
内部着衣量決定部570及び外部着衣量決定部572は、例えば、集積回路であるLSIによって実現される。例えば、内部着衣量決定部570及び外部着衣量決定部572は、マイクロコントローラであってもよい。内部着衣量決定部570及び外部着衣量決定部572は、プログラム可能なFPGA、又は、LSI内の回路セルの接続及び設定が再構成可能なリコンフィギュラブルプロセッサであってもよい。内部着衣量決定部570及び外部着衣量決定部572が実行する機能は、ソフトウェアで実現されてもよく、ハードウェアで実現されてもよい。内部着衣量決定部570と外部着衣量決定部572と推定部120とは、同一のハードウェア資源を共用することで実現されてもよい。
本実施の形態では、表示部140は、内部着衣量決定部570及び外部着衣量決定部572の少なくとも一方によって決定された適切な着衣量に基づいて、所定の表示を行う。具体的には、表示部140は、推定部120によって推定された着衣量、すなわち、ユーザ10の現在の着衣量と、適切な着衣量とに基づいて、ユーザ10が快適な環境を得られるように着衣の着脱を行わせるための表示を行う。
[5−2.表示例]
以下では、表示部140による表示例について、図24〜図27を用いて説明する。図24〜図27はそれぞれ、本実施の形態に係る着衣量推定装置による表示メッセージの一例を示す図である。
図24は、推定部120によって推定された着衣量が、内部着衣量決定部570によって決定された着衣量から逸脱している場合の表示例を示している。図24に示される例では、表示部140は、「あなたの着衣量」として、推定部120によって推定された着衣量を表示し、かつ、「快適な着衣量」として、内部着衣量決定部570によって決定された着衣量の最適値を表示している。さらに、表示部140は、ユーザ10に着衣の増減を促すための表示を行う。図24に示される例では、推定された着衣量が適切な着衣量よりも大きいので、表示部140は、ユーザ10の着衣量を減らすように、「もう少し薄着をお勧めします。」というメッセージを表示している。表示部140は、推定された着衣量が適切な着衣量より小さい場合には、ユーザ10の着衣量を増やすようなメッセージを表示する。
図25は、ユーザ10が睡眠をとる場合の表示例を示している。車内で睡眠(仮眠)を取る場合の適切な着衣量は、起きている場合の適切な着衣量とは異なる。具体的には、睡眠導入時にはユーザ10は深部体温を下げるために放熱するため、適切な着衣量は小さくなる。表示部140は、睡眠時に適した着衣量に基づいた表示メッセージを表示する。
図26は、推定部120によって推定された着衣量が、外部着衣量決定部572によって決定された着衣量から逸脱している場合の表示例を示している。図26に示される例では、表示部140は、「あなたの着衣量」として、推定部120によって推定された着衣量を表示し、かつ、「快適な着衣量」として、外部着衣量決定部572によって決定された着衣量の最適値を表示している。さらに、表示部140は、ユーザ10に着衣の増減を促すための表示を行う。図26に示される例では、推定された着衣量が適切な着衣量よりもかなり小さいので、表示部140は、ユーザ10の着衣量を増やすように、「厚着をお勧めします。」というメッセージを表示している。また、このとき、車内環境ではなく、車外環境に適した着衣量であることもユーザ10に伝わるように、「車外に出られる場合」というメッセージも合わせて表示している。
図27は、車内に複数のユーザ10が存在する場合の表示例を示している。図27に示される例では、表示部140は、各ユーザの着衣量をそれぞれ表示している。ここでは、運転者の着衣量が快適な着衣量から逸脱している。このため、内部着衣量決定部570によって、適切な着衣量から逸脱しているユーザとして運転者が特定される。これにより、表示部140は、運転者に対して着衣の増減を促すための表示を行う。
なお、適切な着衣量は、ユーザ毎に決定されてもよい。例えば、車内の運転席及び助手席では空調によって適切な温熱環境が実現されているのに対して、後部座席では少し暑い場合が起こりうる。内部環境測定部560は、車内の温度分布を測定し、内部着衣量決定部570は、温度分布に基づいて、車内の場所毎に適切な着衣量を決定してもよい。これにより、空調だけでは全てのユーザ10の快適な温熱環境を実現することができない場合に、着衣の着脱によって全てのユーザ10の快適な温熱環境を実現することができる。
以上のように、本実施の形態に係る着衣量推定装置500によれば、推定された着衣量に基づいてユーザ10の快適性を高めるためのアドバイスなどを行うことができる。なお、図24〜図27に示される表示例は一例に過ぎず、メッセージの内容及び表示内容については、特に限定されない。
なお、着衣量推定装置500は、外部環境測定部562の代わりに、移動体が存在する地域の温度、湿度、風量、風向などを示す気象情報を取得する取得部を備えてもよい。
また、着衣量推定装置500は、内部における適切な着衣量と外部における適切な着衣量との一方を決定しなくてもよい。つまり、着衣量推定装置500は、内部環境測定部560及び内部着衣量決定部570、又は、外部環境測定部562及び外部着衣量決定部572を備えなくてもよい。
(実施の形態6)
続いて、実施の形態6について説明する。
実施の形態6では、着衣量推定装置によって推定された着衣量に基づいて、車内又は室内の空調を調整する。以下では、実施の形態1〜5との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略又は簡略化する。
まず、本実施の形態に係る空調制御装置の構成について図28を用いて説明する。図28は、本実施の形態に係る空調制御装置の構成を示すブロック図である。
図28に示されるように、空調制御装置600は、着衣量推定装置500と、空調制御部610とを備える。なお、空調制御装置600は、着衣量推定装置500の代わりに、着衣量推定装置100、200、300及び400のいずれかを備えてもよい。この場合、空調制御装置600は、内部環境測定部560をさらに備える。
空調制御部610は、内部環境測定部560によって測定された温熱環境と、推定部120によって推定された着衣量とに基づいて空間内の空調を行う。具体的には、空調制御部610は、PMV、SET*などの従来の温冷感推定方法に基づいて、推定部120によって推定された着衣量を入力パラメータとし、ユーザ10にとって快適な温熱環境を形成するための空調パラメータの設定値を決定する。空調パラメータは、エアコンなどの設定パラメータであり、空間内の温度、湿度、風量及び風向の少なくとも1つである。
なお、推定部120によって推定される着衣量は、ベルト本体31が接触する部分(具体的には、ユーザ10の胸部近傍のみ)の着衣量である。このため、推定部120は、推定した着衣量に予め定められた係数を掛けることにより、ユーザ10の全身の平均的な着衣量を算出してもよい。空調制御部610は、全身の平均的な着衣量に基づいて温冷感推定を行うことで、空調パラメータの設定値の精度を高めることができる。
また、空調制御部610は、空間内に複数のユーザ10が存在する場合、複数のユーザ10の各々の推定部120によって推定された着衣量に基づいて、複数のユーザ10の各々に最適な温熱環境を決定し、決定した複数の温熱環境を平均化した温熱環境が空間内に形成されるように空調を行ってもよい。例えば、空調制御部610は、4人のユーザ10の各々の着衣量の推定値に基づいて、4人のユーザ10の各々に最適な車内温度を決定する。空調制御部610は、ユーザ10毎に決定した4つの車内温度の平均値を空調の設定温度として決定し、決定した設定温度で空調を行う。
なお、複数のユーザ10が存在する場合に、空調制御部610は、特定のユーザ10を優先して空調を行ってもよい。例えば、空調制御部610は、運転者の温熱環境が最適になるように空調を行ってもよい。
また、空調制御部610は、計測部110が計測を行う場合に送風を停止してもよい。これにより、計測部110による計測精度を高めることができるので、着衣量の推定精度を高めることができる。
空調制御部610は、例えば、集積回路であるLSIによって実現される。例えば、空調制御部610は、マイクロコントローラであってもよい。空調制御部610は、プログラム可能なFPGA、又は、LSI内の回路セルの接続及び設定が再構成可能なリコンフィギュラブルプロセッサであってもよい。空調制御部610が実行する機能は、ソフトウェアで実現されてもよく、ハードウェアで実現されてもよい。空調制御部610と推定部120とは、同一のハードウェア資源を共用することで実現されてもよい。
(実施の形態7)
続いて、実施の形態7について説明する。
実施の形態7では、着衣量推定装置によって推定された着衣量に基づいて、ユーザの皮膚温又は体温を推定する。以下では、実施の形態1〜6との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略又は簡略化する。
[7−1.構成]
まず、本実施の形態に係る皮膚温推定装置700の構成について図29を用いて説明する。図29は、本実施の形態に係る皮膚温推定装置の構成を示すブロック図である。
図29に示されるように、皮膚温推定装置700は、着衣量推定装置500と、皮膚温推定部710と、体温推定部720とを備える。なお、皮膚温推定装置700は、着衣量推定装置500の代わりに、着衣量推定装置100、200、300及び400のいずれか、又は、空調制御装置600を備えてもよい。
皮膚温推定部710は、計測部110によって計測された表面温度に基づいてユーザ10の皮膚温Tskを推定する。実施の形態1及び2で説明したように、着衣量Cloが算出されれば、式(3)、(4)、(13)又は(14)に示されるように、皮膚温Tskを算出することができる。皮膚温推定部710は、計測部110によって計測された表面温度又は熱流束と、推定部120によって推定された着衣量Cloとに基づいて、皮膚温Tskを算出することができる。
体温推定部720は、皮膚温推定部710によって推定された皮膚温Tskに基づいて、ユーザ10の体温を推定する。具体的には、体温推定部720は、皮膚温Tskを補正することで体温を算出する。ユーザ10の胸部は内臓に近いため、胸部の皮膚温は、深部体温に近く、温冷感による変化が少ない。このため、病気による発熱の判定が可能になる。
皮膚温推定部710及び体温推定部720は、例えば、集積回路であるLSIによって実現される。例えば、皮膚温推定部710及び体温推定部720は、マイクロコントローラであってもよい。皮膚温推定部710及び体温推定部720は、プログラム可能なFPGA、又は、LSI内の回路セルの接続及び設定が再構成可能なリコンフィギュラブルプロセッサであってもよい。皮膚温推定部710及び体温推定部720が実行する機能は、ソフトウェアで実現されてもよく、ハードウェアで実現されてもよい。皮膚温推定部710と体温推定部720と推定部120とは、同一のハードウェア資源を共用することで実現されてもよい。
本実施の形態では、表示部140は、体温推定部720によって推定された体温を表示する。また、表示部140は、推定された体温に基づいた所定の表示を行う。
[7−2.表示例]
以下では、表示部140による表示例について、図30及び図31を用いて説明する。図30及び図31はそれぞれ、本実施の形態に係る皮膚温推定装置による表示メッセージの一例を示す図である。
図30は、体温推定部720によって推定された体温が閾値より大きい場合の表示例を示している。閾値は、例えば、一般的な人の平熱(すなわち、健康時の体温)である。あるいは、閾値は、ユーザ10の過去の体温の推定結果に基づいて定められた値であってもよい。
表示部140は、図30に示されるように、体温が閾値より大きい場合、ユーザ10に対して休息を促すための表示を行う。これにより、体調が悪い場合に自動車を運転し、事故などが発生するのを未然に防止することができる。
図31は、体温推定部720によって推定された皮膚温が閾値より小さい場合の表示例を示している。閾値は、例えば、多くのユーザの胸部の皮膚温の平均値である。一般的に、平均値よりも皮膚温が小さい場合、脂肪が厚い可能性がある。このため、表示部140は、図30に示されるように、ユーザ10に対して食事制限を促すための表示を行う。これにより、ユーザ10の健康管理にも利用することができる。
(変形例)
続いて、上述した各実施の形態の変形例について説明する。
[変形例1]
まず、変形例1について説明する。変形例1に係る着衣量推定装置は、持ち運び可能なハンディタイプの装置である。つまり、移動体の内部に限らず、着衣量の推定を任意の場所で行うことができる。
図32は、本変形例に係る着衣量推定装置の構成を示す断面図である。図33は、本変形例に係る着衣量推定装置の外観を示す平面図である。
図32及び図33に示されるように、着衣量推定装置800は、筐体810と、制御回路820と、電池830と、表示部840と、操作スイッチ850とを備える。図32に示されるように、着衣量推定装置800は、第1熱抵抗部材41、第2熱抵抗部材42、第1温度センサ111、第2温度センサ112、第3温度センサ113及び第4温度センサ114を備える。第1熱抵抗部材41及び第2熱抵抗部材42の各々の周囲には断熱材812が設けられている。これにより、第1熱抵抗部材41の第1温度センサ111側からの熱が、第3温度センサ113側以外の方向に逃げないようにすることができる。第2熱抵抗部材42についても同様である。
筐体810は、着衣量推定装置800の外郭筐体である。筐体810は、制御回路820、電池830、表示部840、第1熱抵抗部材41、第2熱抵抗部材42を収納する筐体である。第1熱抵抗部材41は、第1温度センサ111が設けられた面が筐体810の外側面と面一になるように筐体810に収納されている。第2熱抵抗部材42は、第2温度センサ112が設けられた面が筐体810の外側面と面一になるように筐体810に収納されている。これにより、筐体810をユーザ10の着衣14に押し付けた場合に、第1熱抵抗部材41及び第2熱抵抗部材42を着衣14に密着させることができる。
図33に示されるように、筐体810の一部には、複数の貫通孔811が設けられている。貫通孔811は、空気を逃がすための空気孔として機能する。
筐体810は、断熱性の材料を用いて形成されている。図32に示されるように、断熱材812の一部は、筐体810の一部である。
制御回路820は、着衣量推定装置800の動作を制御する制御回路である。制御回路820は、例えば、集積回路であるLSIによって実現される。例えば、制御回路820は、マイクロコントローラであってもよい。制御回路820は、図2に示される推定部120及び記憶部130の機能を実行する。
電池830は、一次電池又は二次電池である。電池830は、制御回路820、表示部840、第1温度センサ111、第2温度センサ112、第3温度センサ113及び第4温度センサ114の各々に対して動作電力を供給する。
表示部840は、図2に示される表示部140の機能を実行する。表示部840は、例えば液晶表示ディスプレイである。
操作スイッチ850は、着衣量の推定の開始を指示する物理的な押下スイッチである。なお、操作スイッチ850及び表示部840は、タッチパネルディスプレイであってもよい。
図34は、本変形例に係る着衣量推定装置800の使用例を示す図である。図34に示されるように、第1熱抵抗部材41及び第2熱抵抗部材42の露出面が着衣14に接触するように、着衣量推定装置800を着衣14に押し付ける。ユーザ10は、操作スイッチ850を押下し、熱的な平衡状態が実現されるまで待機する。着衣量推定装置800は、熱的な平衡状態が実現されたことを通知するブザーを備えてもよい。熱的な平衡状態が実現された後、制御回路820は、各温度センサによる計測結果を利用して、着衣量を算出する。表示部840は、算出された着衣量を表示する。
このとき、着衣量推定装置800は、外部機器と無線で通信する無線通信インタフェースを備えてもよい。例えば、着衣量推定装置800は、ユーザ10が所有するスマートフォンなどの携帯端末と通信可能であってもよい。携帯端末の表示部に着衣量が表示されてもよい。この場合、着衣量推定装置800は、表示部840を備えなくてもよい。また、携帯端末と連携することにより、着衣量の測定の開始は、携帯端末からの指示に基づいて判定されてもよい。この場合、着衣量推定装置800は、操作スイッチ850を備えなくてもよい。
携帯端末は、例えば、着衣量推定装置800と連携したアプリケーションプログラムを実行する。当該アプリケーションプログラムでは、例えば、ユーザ10が外出する場合に、その目的地と、目的地の到着予定日時との入力を受け付けてもよい。目的地の気象情報を利用することで、目的地の温熱環境を推定し、推定した温熱環境と着衣量とに基づいて適切な着衣の増減を促してもよい。遠方への出張、旅行又は登山などの日常とは異なる環境へ外出する前に実行することで、外出先でも快適な環境を確保できることが期待される。
また、日常においても、職場までの通勤経路を予め登録しておくことで、通勤時の着衣の適切性を判定することができる。通勤手段が徒歩及び電車のいずれの場合において、現在の着衣量が適切であるか否かを判定することができる。例えば、季節の変わり目には、着衣量が温熱環境に適した着衣量と一致しないことが起こりやすい。この不一致に基づく不快感及び体調の悪化を抑制することができる。
なお、本変形例に係る着衣量推定装置800は、温度センサの代わりに熱流束計を備えてもよい。
[変形例2]
次に、変形例2について説明する。変形例2では、着衣量の代わりに体脂肪の測定が行われる。
図35は、本変形例に係る体脂肪計の構成の外観を示す平面図である。図36は、本変形例に係る体脂肪計の使用例を示す図である。
図35に示されるように、体脂肪計900は、変形例1に係る着衣量推定装置800と同じ構成を有する。図36に示されるように、体脂肪計900は、ユーザ10の着衣14ではなく、身体910に直接接触させるように押し付けて使用される。図36では、ユーザ10の腹部の脂肪量を測定するため、腹部に体脂肪計900を押し付ける。ユーザ10は、二の腕に体脂肪計900を押し付けることにより、二の腕の脂肪量を測定してもよい。
図37は、筋肉、皮下脂肪及び体脂肪計の位置関係を示す断面図である。図37に示されるように、体脂肪計900の第1熱抵抗部材41及び第2熱抵抗部材42はそれぞれ、ユーザ10の身体910に接触している。身体910は、筋肉(又は内臓)912及び皮下脂肪914を含んでいる。図37に示されるように、皮下脂肪914を着衣14と同様に扱い、皮下脂肪914による熱抵抗値、すなわち、脂肪量Ifatを上述した着衣量Cloと同様に扱う。また、深部体温Tcore、皮膚温Tsk1及びTsk2がそれぞれ、実施の形態1に係る皮膚温Tsk、着衣14の表面温度Tcl1及びTcl2と同様に扱う。これにより、実施の形態1と同様に、皮下脂肪914による脂肪量を算出することができる。
安静時の人間は、内臓(主に肝臓)で55%、筋肉で20%、脳で15%の熱生産を行う。この熱生産の結果が深部体温である。皮下脂肪914は、ほぼ熱を発生させないので、着衣14と同様に熱抵抗とみなすことができる。
また、深部体温Tcoreは、健康時においても、人体のサーカディアンリズムによって最大1℃程度の変動を示す。このため、皮膚温が個人差によって異なるのと同様に、深部体温Tcoreを固定値とみなすことは誤差の原因になりうる。
本変形例に係る体脂肪計900によれば、実施の形態1と同様に、深部体温Tcoreを利用せずに、皮下脂肪914の脂肪量を精度良く測定することができる。
なお、体脂肪計としては、生体インピーダンス法を利用する装置が知られている。しかしながら、この場合は、水分量によって、測定結果にばらつきが大きいという問題がある。また、体の特定の部位の脂肪量を測定することができない。
これに対して、本変形例に係る体脂肪計900によれば、密着させた部位の脂肪量を精度良く推定することができる。例えば、同一箇所の脂肪量の計測結果を蓄積することにより、脂肪量の変化を可視化することができる。例えば、ダイエット又はシェイプアップの効果を可視化することができる。
(他の実施の形態)
以上、1つ又は複数の態様に係る着衣量推定装置、空調制御装置及び皮膚温推定装置について、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、これらの実施の形態に限定されるものではない。本開示の主旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したもの、及び、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本開示の範囲内に含まれる。
例えば、着衣量推定装置は、表示部140の代わりに、計測部110による計測結果又は推定部120による推定結果に基づく情報を出力する出力部を備えてもよい。出力部は、例えば、情報を音声として出力するスピーカであってもよい。表示部140がメッセージを表示する代わりに、スピーカが音声メッセージを出力してもよい。あるいは、出力部は、情報を信号として出力する通信インタフェースであってもよい。
また、例えば、計測部は、表面温度を計測しなくてもよい。この場合、計測部は、第1部分及び第2部分の各々の熱流束を計測する。例えば、式(15)に基づいて、第1部分の熱流束Q1を計測することで、気温Toと空気の熱抵抗値Raとから表面温度Ts1が算出される。式(16)に基づいて、第2部分の熱流束Q2を計測することで、気温Toと空気の熱抵抗値Raとから表面温度Tcl2が算出される。したがって、式(19)の右辺の各項は、計測部によって計測された値、記憶部に記憶された値、又は、これらに基づいて算出される値になる。したがって、推定部は、表面温度の代わりに熱流束の測定値を利用することで、着衣量Cloを算出することができる。
また、上記実施の形態で説明した装置間の通信方法については特に限定されるものではない。装置間で無線通信が行われる場合、無線通信の方式(通信規格)は、例えば、ZigBee(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、又は、無線LAN(Local Area Network)などの近距離無線通信である。あるいは、無線通信の方式(通信規格)は、インターネットなどの広域通信ネットワークを介した通信でもよい。また、装置間においては、無線通信に代えて、有線通信が行われてもよい。有線通信は、具体的には、電力線搬送通信(PLC:Power Line Communication)又は有線LANを用いた通信などである。
また、上記実施の形態において、特定の処理部が実行する処理を別の処理部が実行してもよい。また、複数の処理の順序が変更されてもよく、あるいは、複数の処理が並行して実行されてもよい。
例えば、上記実施の形態において説明した処理は、単一の装置(システム)を用いて集中処理することによって実現してもよく、又は、複数の装置を用いて分散処理することによって実現してもよい。また、上記プログラムを実行するプロセッサは、単数であってもよく、複数であってもよい。すなわち、集中処理を行ってもよく、又は分散処理を行ってもよい。
また、上記実施の形態において、制御部などの構成要素の全部又は一部は、専用のハードウェアで構成されてもよく、あるいは、各構成要素に適したソフトウェアプログラムを実行することによって実現されてもよい。各構成要素は、CPU(Central Processing Unit)又はプロセッサなどのプログラム実行部が、HDD(Hard Disk Drive)又は半導体メモリなどの記録媒体に記録されたソフトウェアプログラムを読み出して実行することによって実現されてもよい。
また、制御部などの構成要素は、1つ又は複数の電子回路で構成されてもよい。1つ又は複数の電子回路は、それぞれ、汎用的な回路でもよいし、専用の回路でもよい。
1つ又は複数の電子回路には、例えば、半導体装置、IC(Integrated Circuit)又はLSI(Large Scale Integration)などが含まれてもよい。IC又はLSIは、1つのチップに集積されてもよく、複数のチップに集積されてもよい。ここでは、IC又はLSIと呼んでいるが、集積の度合いによって呼び方が変わり、システムLSI、VLSI(Very Large Scale Integration)、又は、ULSI(Ultra Large Scale Integration)と呼ばれるかもしれない。また、LSIの製造後にプログラムされるFPGA(Field Programmable Gate Array)も同じ目的で使うことができる。
また、本開示の全般的又は具体的な態様は、システム、装置、方法、集積回路又はコンピュータプログラムで実現されてもよい。あるいは、当該コンピュータプログラムが記憶された光学ディスク、HDD若しくは半導体メモリなどのコンピュータ読み取り可能な非一時的記録媒体で実現されてもよい。また、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム及び記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
また、上記の各実施の形態は、特許請求の範囲又はその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。