JP2021155463A - 捺染インクジェットインク組成物およびインク組成物セット - Google Patents

捺染インクジェットインク組成物およびインク組成物セット Download PDF

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Abstract

【課題】発色性と、耐水性および耐光性を向上させる、グリーンの色相の捺染インクジェットインク組成物およびインク組成物セットを提供すること。【解決手段】捺染インクジェットインク組成物は、色材と、有機溶剤と、水とを含有する捺染インクジェットインク組成物であって、色材が、アントラキノン骨格と、スルホン酸基及びスルホン酸塩基とから選択される基とを有する染料であり、色材として染料のみを用いた捺染後の捺染物上でのCIELAB色空間で定義される色相角∠°が、150°以上180°以下の範囲となる。【選択図】なし

Description

本発明は、捺染インクジェットインク組成物およびインク組成物セットに関する。
インクジェット記録方法は、ノズルからインクの液滴を吐出して、記録媒体に付着させて記録を行う方法である。この方法は、比較的安価な装置で高解像度かつ高品位な画像を、高速で記録できるという特徴を有する。
インクジェット記録方法を用いて、布帛等を捺染することも行われている。従来、布帛に対する捺染方法としては、スクリーン捺染法、ローラー捺染法等が用いられてきたが、多種少量生産性ならびに即時プリント性等の観点から、インクジェット記録方法を適用することが有利であるため種々検討されている。
捺染に用いる捺染インクジェットインク組成物に対しても各種の性能が求められるが、布帛を染色するという観点から、通常のインク組成物では求められない性能が求められることもある。
インクジェット方法を用いたインクジェット記録方法であるインクジェット捺染において、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの4色の染料インクを備えたインクセットが用いられることが多い。例えば、特許文献1には、特定のシアンインクとイエローインクとによってグリーンの色相を表現することが記載されている。
特開2019−89989号公報
しかしながら、特許文献1に記載のインクジェット記録方法では、発色性、および耐水性や耐光性が低下しやすいという課題があった。詳しくは、複数色のインク組成物の混色によって特定の色相を形成すると、経時的に色相が変化しやすい場合があった。特に、グリーン色の色相は、長期間の野外暴露試験によって変化しやすかった。すなわち、インクジェット捺染のグリーンの色相において、発色性と、耐水性および耐光性を向上させる捺染インクジェットインク組成物が求められていた。
捺染インクジェットインク組成物は、色材と、有機溶剤と、水とを含有する捺染インクジェットインク組成物であって、前記色材が、アントラキノン骨格と、スルホン酸基及びスルホン酸塩基とから選択される基とを有する染料であり、前記色材として前記染料のみを用いた捺染後の捺染物上でのCIELAB色空間で定義される色相角∠°が、150°以上180°以下の範囲となる。
インク組成物セットは、上記の捺染インクジェットインク組成物と、黒色捺染インクジェットインク組成物と、を含む。
以下に本発明のいくつかの実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
1.捺染インクジェットインク組成物
本実施形態の捺染インクジェットインク組成物は、色材と、有機溶剤と、水とを含有し、該色材が、アントラキノン骨格と、スルホン酸基及びスルホン酸塩基とから選択される基とを有する染料であり、色材として該染料のみを用いた捺染後の捺染物上でのCIELAB色空間で定義される色相角∠°が150°以上180°以下の範囲である。また彩度C*が50以下であることが好ましい。まず、色相角∠°および彩度彩度C*について説明する。
<色相角∠°及び彩度C*について>
CIELAB色空間で定義される色相角∠°とは、国際照明委員会(CIE)が1976年に推奨した知覚的にほぼ均等な歩度を持つ色空間であるL***色空間の色座標a*、b*を用いて次式により算出される、色相を表すパラメーターであり、「色相角∠°=tan-1(b*/a*)」で表される。また、彩度C*は、「彩度C*=[(a*2+(b*21/2」で表される。
また、この色相角∠°及び彩度C*は、日本工業規格JISZ8781−4:2013「測色−第4部:CIE1976L***色空間」の「3.6 CIELAB1976ab色相角,hab」、及び、「3.5 CIELAB1976クロマ,C*」において、「4.2 明度,クロマ及び色相のそれぞれに関係する量」の式(11)によって計算される色相の相関量(JISZ8113の03086、03087を合わせて参照)でもあり、「CIE1976L***」、及び、「CIELAB」は、互いに言い換えることができるとされている。
本明細書で定義する、捺染インクジェットインク組成物の「捺染後の捺染物上での」CIELAB色空間で定義される色相角∠°及び彩度C*は、例えば、日本工業規格JISZ8722:2009「色の測定方法−反射及び透過物体色」の「5.分光測色方法」による測定から求めることができる。その際の測定の条件は、以下の通りである。
(1)捺染インクジェットインク組成物を作成する。
(2)捺染対象の前処理をされた布帛にインクを塗布する。
(3)加熱、スチーム等により、十分に反応させる。
(4)布帛を洗浄する。
(5)分光測色を行う。
そして、得られた測定結果から、色相角∠°及び彩度C*を算出して、捺染インクジェットインク組成物の「記録媒体上での」CIELAB色空間で定義される色相角∠°及び彩度C*とする。
より具体的には、本明細書における、捺染後の捺染物上でのCIELAB色空間で定義される色相角∠°及び彩度C*は、以下の試験方法によって測定される数値である。
(試験方法)
白色度L*が90の布帛(PAエラストマー)を用い、前処理組成物として、後述の<試験用前処理液>を布帛に塗布して、マングルにてピックアップ率80%で絞って乾燥させる。その後、インクジェットプリンターPX−G930(セイコーエプソン株式会社製)のカートリッジにインクを充填し、前処理工程を行った布帛に、1440dpi×720dpiの解像度で、インク打ち込み量23mg/inch2の条件で、インクを付着させて画像を形成する。
次に、画像が形成された布帛に対して102℃で10分間スチーミングを行った後、ラッコールSTA(明成化学株式会社製、界面活性剤)を0.2質量%含む水溶液を用いて90℃で10分間洗浄し、乾燥させ各評価サンプルを得る。
得られた評価サンプルを、測色器(商品名「Spectrolino」、X−RITE社製、測定条件:光源D65、フィルターD65、φ2度)を用いて求めたa*、b*値から、色相角∠°及び彩度C*を算出する。なお、各布帛の白色度L*についても同様に、測色器(商品名「Spectrolino」、X−RITE社製)、測定条件:光源D65、フィルターD65、φ2度)を用いて測定する。
<試験用前処理液>
ポリオキシエチレンジイソプロピルエーテル(オキシエチレン=30モル)を5質量部、エーテル化カルボキシメチルセルロースを5質量部、尿素(ヒドロトロピー剤)100質量部をよく混合した後、イオン交換水1000質量部に少量ずつ添加しながら60℃下で30分撹拌する。その後、硫酸アンモニウム30質量部を撹拌されている溶液にさらに加えて10分撹拌し、この溶液を孔径10μmのメンブレンフィルターでろ過することにより、前処理組成物を得る。
1.1.成分
本実施形態の捺染インクジェットインク組成物に含まれる各成分について説明する。ここで、以下捺染インクジェットインク組成物を、単に捺染インクともいう。
1.1.1.染料
本実施形態の捺染インクに含有される染料は、その構造中にアントラキノン骨格と、スルホン酸基及びスルホン酸塩基とから選択される基とを有する。
本実施形態の捺染インクの染料は、アントラキノン骨格と、スルホン酸基及びスルホン酸塩基とから選択される基とを含む染料であって、グリーン色の発色性を有する捺染インクとした際に、捺染物上でのCIELAB色空間で定義される色相角∠°が150°以上180°以下の範囲である。また、彩度C*が、50以下となることが好ましい。
捺染物において、単色の染料のみでグリーン色を発色させると、複数色の混色によるグリーン色の発色と比較して、色相角∠°150°以上180°以下の範囲の発色性を確保することができ、耐光性、耐水性を向上させることができる。
また、従来技術における、混色によるグリーン色の発色を表現する場合では、彩度C*が高く、経時変化における色相変化が視認しやすい傾向にあった。単色においてグリーン色を発色させると、彩度C*が50以下の範囲に収まることで、優れた階調表現が実現でき、経時での色相変化を抑制することができる。上記染料は、特に限定されないが、例えば下記式(1)で表される。
Figure 2021155463
(但し、R1及びR2は水素原子又はSO3Zであり、R1及びR2のうちのどちらか一方はSO3Zであるか、あるいは他方もSO3Zであり、Zは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、及びアンモニウムから選ばれるいずれかである。さらに、Y1及びY2は水素原子、及びアルキル鎖から選ばれるいずれかであり、Y1及びY2はどちらか一方がアルキル鎖であるか、他方もアルキル鎖である。このアルキル鎖は炭素原子を4つ持つ。)
式(1)で表される染料を用いると、従来技術である、フタロシアニン骨格を持つシアンを用いた混色によるグリーン色の発色性に対して、優れた階調性、耐光性を持つ、グリーン色の発色を実現することができる。
式(1)で表される染料の具体例としては、特に限定されないが、例えば下記式(2)で表される(Colour Index Generic Name)C.I.Acid Green 28が挙げられる。
Figure 2021155463
C.I.Acid Green 28は、アントラキノン骨格を持つ他の染料と比べて、分子量が大きく、疎水性に近い分子構造を持つ。そのため、布帛の繊維上に留まりやすく、ブリードの発生を抑えることができる。
また、式(1)で表される染料の他の具体例としては、例えば、下記式(3)で表されるC.I.Acid Green 25が挙げられる。この染料は、単色で捺染インクとした際に、捺染物上でのCIELAB色空間で定義される色相角∠°が150°以上180°以下の範囲としやすい染料である。
Figure 2021155463
これに対して、従来技術として、複数の染料インクを組み合わせた混色によってグリーン色の発色を表現すると、捺染物の発色性、耐光性、及び耐水性は必ずしも十分ではなかった。
グリーン色の発色を表現する手法として、アントラキノン骨格を有しない特定のシアンインクとイエローインクと、を組み合わせることによって、グリーンの色相を表現する場合があった。CIELAB色空間で定義される色相角∠°が150°以上180°以下の範囲となりやすい例として、C.I.Acid Yellow 79、およびC.I.Direct Blue 87を染料として使用した捺染インクの組み合わせが挙げられる。
1.1.2.有機溶剤
本実施形態の捺染インクは有機溶剤を含む。有機溶剤としては、揮発性の水溶性有機溶剤が好ましく、グリコールエーテル、アルキルポリオール、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
1.1.2.1.グリコールエーテル
本実施形態の捺染インクは、SP値が9.5から12.0であるグリコールエーテル系溶剤をインク組成物の総量に対して1質量%以上20質量%以下含むことが好ましい。具体的には、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールなどが挙げられる。このような疎水性SP値範囲内のグリコールエーテル系溶剤を含むことで、染料の溶解性を良好とすることができる。特に、アントラキノン系染料は水溶性が劣りやすい場合があるが、このような疎水性SP値範囲内のグリコールエーテル系溶剤を含むことで、このような染料の溶解性も良好とすることができる。さらに、捺染物において、親水性繊維上での濡れ広がりを抑制することができるため、ブリードの発生を抑えることができる。
また、上記以外のグリコールエーテル系溶剤のうち沸点が190℃以上300℃以下のグリコールエーテル系溶剤を用いてもよい。具体的には、ジプロピレングリコール等のエーテル結合を含むグリコールが挙げられ、さらにこれらに加え、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレングリコールから選択されるグリコールのアルキルエーテルが挙げられる。好ましくは、これらのグリコールのモノアルキルエーテルであり、例えば、メチルトリグリコール(トリエチレングリコールモノメチルエーテル)、ブチルジグリコール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル等が挙げられ、より好ましくはジエチレングリコールモノブチルエーテルが挙げられる。これによれば、捺染インクの濡れ性や浸透速度を制御できるため、捺染物において画像の発色性を向上できる場合がある。
このようなグリコールエーテルは、複数種を混合して用いてもよい。またグリコールエーテルの含有量は、捺染インクの粘度調整、保湿効果ならびに染料の溶解性向上による目詰まり防止の点から、捺染インクの総量に対して合計で、1質量%以上35質量%以下、好ましくは1質量%以上30質量%以下、より好ましくは1質量%以上25質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上20質量%以下である。
1.1.2.2.アルキルポリオール
本実施形態の捺染インクは、標準沸点が180℃以上300℃以下であるアルキルポリオールを含有することが好ましい。係るアルキルポリオールを含むことにより、捺染インクの保湿性をさらに高め、インクジェット法による吐出安定性を優れたものとしつつ、長期放置時による記録ヘッドからの水分蒸発を効果的に抑制することができる。また、これにより、ノズルの目詰まりを生じやすい種の染料を用いた場合でも、放置回復性や連続吐出安定性を良好に維持することができる。
標準沸点が180℃以上300℃以下であるアルキルポリオールの具体例としては、1,2−ブタンジオール[194℃]、1,2−ペンタンジオール[210℃]、1,2−ヘキサンジオール[224℃]、1,2−ヘプタンジオール[227℃]、1,3−プロパンジオール[210℃]、1,3−ブタンジオール[230℃]、1,4−ブタンジオール[230℃]、1,5−ペンタンジオール[242℃]、1,6−ヘキサンジオール[250℃]、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール[226℃]、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール[230℃]、2−メチル−1,3−プロパンジオール[214℃]、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール[210℃]、3−メチル−1,3−ブタンジオール[203℃]、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール[244℃]、3−メチル−1,5−ペンタンジオール[250℃]、2−メチルペンタン−2,4−ジオール[197℃]、グリセリン[290℃]等が挙げられる。なお、括弧内の数値は標準沸点を表す。これらのアルキルポリオールは、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
標準沸点が180℃以上300℃以下であるアルキルポリオールを含有させる場合の含有量は、捺染インクの総量に対して、5質量%以上であれば効果を奏することができるが、5質量%以上30質量%以下であることが好ましく、8質量%以上25質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。
1.1.2.3.含窒素複素環式化合物
本実施形態の捺染インクは、含窒素複素環式化合物を含有することが好ましい。含窒素複素環式化合物は、常温で液体であって、標準沸点が190℃以上260℃以下であるものがより好ましい。係る含窒素複素環式化合物としては環状アミドが挙げられる。環状アミドは、上述した染料を溶解させやすく、かつ、捺染インクの固化や乾燥を抑制するという機能を備える。また、標準沸点が190℃以上260℃以下であることにより、環状アミドの揮発を十分に抑制し、これに伴い保湿性が高まる結果、捺染インクの固化や乾燥を抑制する効果がより顕著に得られる。
環状アミドとしては、アミド基を含む環構造を有する化合物が挙げられ、例えば、下記式(4)で表される化合物が挙げられる。
Figure 2021155463
(式(4)中、X1は、水素又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは、1〜4の整数を表す。また係るアルキル基は直鎖状でも分岐状でもよい。)
式4で表される化合物としては、2−ピロリドン[245℃]、1−メチル−2−ピロリドン[204℃](N−メチル−2−ピロリドン)、1−エチル−2−ピロリドン[212℃](N−エチル−2−ピロリドン)、N−ビニル−2−ピロリドン[193℃]、1−プロピル−2−ピロリドン、1−ブチル−2−ピロリドン等のγ−ラクタム類、β−ラクタム類、δ−ラクタム類等が挙げられる。括弧内の数値は標準沸点を表す。これらの環状アミドは、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
また、環状アミドのうち、常温で液体である化合物としては、2−ピロリドン(25℃)、1−メチル−2−ピロリドン(−24℃)、1−エチル−2−ピロリドン(−77℃)、N−ビニル−2−ピロリドン(14℃)等が挙げられる。括弧内の数値は融点を表す。なお、2−ピロリドン融点は25℃と高く、常温(例えば室温、23℃、25℃等)では、試薬を購入した時点では、固体になっている場合があるが、例えば40℃程度の温水で加温して一度溶解させると、常温において液体の状態を保つことができる。
環状アミドの合計の含有量は、捺染インクの総量に対して、1質量%以上30質量%以下、好ましくは1質量%以上20質量%以下、より好ましくは1質量%以上15質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上10質量%以下である。
環状アミドの合計の含有量が上記の範囲であれば、染料を十分に溶解させることができ、例えば染料の配合量(濃度)を高めることができる。C.I.Acid Green 28を捺染インクに用いる場合には、溶解性が必ずしも高くないため、濃度を高めることによる高発色化は比較的難しい。しかし、環状アミドを用いることにより、グリーン染料の配合量を高めることができる結果、捺染物の発色性をさらに良好なものとすることができる。
1.1.3.水
本実施形態に係る捺染インクは、水を含む。水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、及び蒸留水等の純水、並びに超純水のような、イオン性不純物を極力除去したものが挙げられる。また、紫外線照射又は過酸化水素の添加等によって滅菌した水を用いると、捺染インクを長期保存する場合に細菌類や真菌類の発生を抑制することができる。
水の含有量は、捺染インクの総量に対して、30質量%以上、好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは45質量%以上であり、さらに好ましくは50質量%以上である。なお捺染インクの水というときには、例えば、原料として用いる樹脂粒子分散液、添加する水を含むものとする。水の含有量が30質量%以上であることにより、捺染インクを比較的低粘度とすることができる。また、水の含有量の上限は、捺染インクの総量に対して、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは85質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以下である。
1.1.4.界面活性剤
本実施形態に係る捺染インクは、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤は、捺染インクの表面張力を低下させ記録媒体との濡れ性(布帛等への浸透性)を調整、向上させるために用いることができる。界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤のいずれも使用することができ、さらにこれらは併用してもよい。また、界面活性剤の中でも、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、及びフッ素系界面活性剤を好ましく用いることができる。
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、サーフィノール(登録商標)104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG−50、104S、420、440、465、485、SE、SE−F、504、61、DF37、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA、DF110D(以上全て商品名、Air Products and Chemicals. Inc.社製)、オルフィン(登録商標)B、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、PD−001、PD−002W、PD−003、PD−004、PD−005、EXP.4001、EXP.4036、EXP.4051、AF−103、AF−104、AK−02、SK−14、AE−3(以上全て商品名、日信化学工業社製)、アセチレノールE00、E00P、E40、E100(以上全て商品名、川研ファインケミカル社製)が挙げられる。
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリシロキサン系化合物が好ましく挙げられる。当該ポリシロキサン系化合物としては、特に限定されないが、例えばポリエーテル変性オルガノシロキサンが挙げられる。当該ポリエーテル変性オルガノシロキサンの市販品としては、例えば、BYK−306、BYK−307、BYK−333、BYK−341、BYK−345、BYK−346、BYK−348(以上商品名、BYK社製)、KF−351A、KF−352A、KF−353、KF−354L、KF−355A、KF−615A、KF−945、KF−640、KF−642、KF−643、KF−6020、X−22−4515、KF−6011、KF−6012、KF−6015、KF−6017(以上商品名、信越化学工業社製)が挙げられる。
フッ素系界面活性剤としては、フッ素変性ポリマーを用いることが好ましく、具体例としては、BYK−340(ビックケミー・ジャパン社製)が挙げられる。
捺染インクに界面活性剤を配合する場合には、捺染インクの総量に対して、界面活性剤の合計で0.01質量%以上3質量%以下、好ましくは0.05質量%以上2質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以上1.5質量%以下、特に好ましくは0.2質量%以上1質量%以下配合することが好ましい。
また、捺染インクが界面活性剤を含有することにより、ヘッドからインクを吐出する際の安定性が増す傾向がある。また、適切な量の界面活性剤の使用は、布帛への浸透性が向上し、前処理組成物との接触を増やすことができる場合がある。
1.1.5.pH調整剤
本実施形態の捺染インクは、pHを調整する目的で、pH調整剤を添加することができる。pH調整剤としては、特に限定されないが、酸、塩基、弱酸、弱塩基の適宜の組み合わせが挙げられる。そのような組み合わせに用いる酸、塩基の例としては、無機酸として、硫酸、塩酸、硝酸等、無機塩基として水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニア等が挙げられ、有機塩基として、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(THAM)等が挙げられ、有機酸として、アジピン酸、クエン酸、コハク酸、乳酸、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸(BES)、4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、モルホリノエタンスルホン酸(MES)、カルバモイルメチルイミノビス酢酸(ADA)、ピペラジン−1,4−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)、N−(2−アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸(ACES)、コラミン塩酸、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノエタンスルホン酸(TES)、アセトアミドグリシン、トリシン、グリシンアミド、ビシン等のグッドバッファー、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液等を用いてもよい。さらに、これらのうち、pH調整剤の一部又は全部として、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等の第三級アミン、及び、アジピン酸、クエン酸、コハク酸、乳酸等のカルボキシル基含有有機酸、が含まれることが、pH緩衝効果をより安定に得ることができるため好ましい。
1.1.6.糖類
捺染インクの固化、乾燥を抑制する目的で、糖類を使用してもよい。糖類の具体例としては、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、及びマルトトリオース等が挙げられる。
1.1.7.キレート化剤
捺染インク中の不要なイオンを除去する目的で、キレート化剤を使用してもよい。キレート化剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸及びそれらの塩類(エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム塩、又は、エチレンジアミンのニトリロトリ酢酸塩、ヘキサメタリン酸塩、ピロリン酸塩、若しくはメタリン酸塩等)等が挙げられる。
1.1.8.防腐剤、防かび剤
捺染インクは、防腐剤、防かび剤を使用してもよい。防腐剤、防かび剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンゾイソチアゾリン−3−オン(ゼネカ社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL.2、プロキセルTN、プロキセルLV)、4−クロロ−3−メチルフェノール(バイエル社のプリベントールCMK等)などが挙げられる。
1.1.9.尿素類
捺染インクの保湿剤として、あるいは、染料の染着性を向上させる染着助剤として、尿素類を使用してもよい。尿素類の具体例としては、尿素、エチレン尿素、テトラメチル尿素、チオ尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。尿素類を含有する場合には、その含有量は、捺染インクの総量に対して、1質量%以上10質量%以下とすることができる。
1.1.10.その他
捺染インクは、さらに上記以外の成分として、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、酸素吸収剤、溶解助剤など、捺染インクにおいて通常用いることができる添加剤を含有してもよい。
1.2.調製及び物性
本実施形態に係る捺染インクは、上記した各成分を、任意な順序で混合し、必要に応じて濾過等をして不純物を除去することにより得られる。各成分の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。
本実施形態に係る捺染インクは、捺染品質とインクジェット用インクとしての信頼性とのバランスの観点から、表面張力が20〜40mN/mであることが好ましく、22〜35mN/mであることがより好ましい。また、同様の観点から、捺染インクの20℃における粘度は、1.5〜10mPa・sであることが好ましく、2〜8mPa・sであることがより好ましい。表面張力及び粘度を上記範囲内とするには、上述した有機溶剤や界面活性剤の種類、及びこれらと水の添加量等を適宜調整すればよい。
2.インク組成物セット
上述の本実施形態に係るインク組成物セットは、本実施形態の捺染インクジェットインク組成物と、黒色捺染インクジェットインク組成物である黒色捺染インクと、を含む。従来、捺染物において、フタロシアニン骨格を有するシアンインクは、布帛上での染着が安定せず、黒色捺染インクとの境界部でのブリードが発生しやすかった。さらに、捺染物において、イエローインクは、黒色捺染インクとの境界部でのブリードが視認しやすい傾向にあった。そのため、従来のように、シアンインクとイエローインクとの混色でグリーン色を表現すると、グリーン色とブラック色との境界部でブリードが発生しやすかった。これに対して、本実施形態の捺染インクジェットインク組成物は、グリーン色を単色で表現するので、黒色捺染インクとの境界部で、ブリードの発生を抑えることができる。
また、本実施形態のインク組成物セットには、上記以外の他の任意の色の染料を含む捺染インクと、任意の組成物数、任意の色数で組み合わせたインク組成物セットを構成することができる。
本実施形態に係るインク組成物セットは、上記の本実施形態に係る捺染インクを用いることにより、カラーブリードが抑制されたインク組成物セットを提供することができる。本実施形態に係る画像方法に用いるインク組成物セットは、色材として酸性染料及び反応染料から選択される色材を含むことが好ましい。
2.1.黒色捺染インク
本実施形態に係るインク組成物セットを構成する黒色捺染インクにおいては、色材が1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。さらに、酸性染料、反応染料を色材として含む黒色捺染インクとしてもよい。
黒色捺染インクに用いる酸性染料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.Acid Yellow 17、19、23、34、36、42、49、73、79、99、110、127、137、151、166、184、194、199、204、220、232、241、250、C.I.Acid Blue 1、7、9、15、22、23、25、27、29、40、41、43、45、49、54、59、60、62、72、74、78、80、82、83、87、90、92、93、100、102、103、104、112、113、114、117、120、126、127、128、129、130、131、133、138、140、142、143、151、154、156、158、161、166、167、168、170、171、175、182、183、184、185、187、192、193、201、203、204、205、207、209、220、221、224、225、229、230、239、249、258、260、264、277:1、278、279、280、284、290、296、298、300、317、324、333、335、338、342、35、C.I.Acid Red 1、14、18、33、52、73、88、97、106、114、119、131、138、141、151、182、183、184、186、195、198、211、249、252、263、289、315、337、357、362、407、414、423、C.I.Acid Black 1、2、52、52:1、172、194、210、234、C.I.Acid Orange 7、8、10、18、33、51、56、67、74、86、94、95、142、154、C.I.Acid Brown 1、14、45、75、83、98、106、161、165、214、288、298、348、349、355、365、422、425、434、C.I.Acid Green 9、16、20、25、28、68、73、101、104、C.I.Acid Violet 17、43、48、49、54、90、97等が挙げられる。これらのうちの1種以上を用いて黒色の色相を表現する。
黒色捺染インクに用いる反応染料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.Reactive Yellow 2、5、18、22、42、44、57、77、81、84、86、95、105、107、135、145、160、186、C.I.Reactive Blue 13、15、15:1、19、21、49、50、59、72、77、176、220、C.I.Reactive Red 3、3:1、11、24、24:1、31、35、52、76、84、111、120、141、152、180、195、198、218、226、245、C.I.Reactive Black 5、8、31、39、C.I.Reactive Orange 4、7、12、13、15、16、35、62、72、78、99、122、181、C.I.Reactive Brown 11、18、C.I.Reactive Green 8、12、15、C.I.Reactive Violet 1、2、5、13、33等が挙げられる。これらのうちの1種以上を用いて黒色の色相を表現する。
なお、本実施形態のインク組成物セットを構成する黒色捺染インクは、酸性染料や反応染料以外の色材を含む黒色捺染インクであってもよい。その場合には、色材が上述に記載のもの以外のものであることの他に、それぞれ上記説明した水、有機溶剤、界面活性剤等のその他の成分をそれぞれ独立して配合することができる。
黒色捺染インクに適用可能な酸性染料や反応染料以外の色材としては、例えば、直接染料、塩基性染料、分散染料、油溶染料等が挙げられる。
直接染料としては、例えば、C.I.Direct Yellow 1、12、24、33、50、55、58、86、132、142、144、173、C.I.Direct Red 1、4、9、80、81、225、227、C.I.Direct Blue 2、3、8、10、12、31、35、63、87、116、130、149、199、230、231、C.I.Direct Black 19、22、80、155、168、170、C.I.Direct Orange 6、26、34、39、C.I.Direct Brown 44、106、115、210、223、C.I.Direct Green 26、59、85、C.I.Direct Violet 9、35、51、66等が挙げられる。
塩基性染料としては、例えば、C.I.Basic Yellow 1、2、13、19、21、25、32、36、40、51、C.I.Basic Red 11、5、12、19、22、29、37、39、92、C.I.Basic Blue 1、3、9、11、16、17、24、28、41、45、54、65、66、C.I.Basic Black 2、8等が挙げられる。
分散染料としては、例えば、C.I.Disperse Red 60、82、86、86:1、167:1、279、C.I.Disperse Yellow 64、71、86、114、153、233、245、C.I.Disperse Blue 27、60、73、77、77:1、87、257、367、C.I.Disperse Violet 26、33、36、57、C.I.Disperse Orange 30、41、61等が挙げられる。
油溶染料としては、例えば、C.I.Solvent Yellow 16、21、25、29、33、51、56、82、88、89、150、163、C.I.Solvent Red 7、8、18、24、27、49、109、122、125、127、130、132、135、218、225、230、C.I.Solvent Blue 14、25、35、38、48、67、68、70、132、C.I.Solvent Black 3、5、7、27、28、29、34等が挙げられる。
上記の色材は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。さらに、染料と顔料を混合して用いてもよい。
色材の含有量は、用途に応じて適宜調整することができるが、インク組成物の総量(100質量%)に対して、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上5質量%以下であり、さらに好ましくは1.5質量%以上3質量%以下である。
2.2.その他の捺染インク
本実施形態のインク組成物セットは、本実施形態の捺染インクおよび黒色捺染インクの他に、これら以外の色相を呈する、その他の捺染インクを含んでもよい。その他の捺染インクには、黒色捺染インクに適用可能な上記色材を1種以上用いる。また、その他の捺染インクには、上述した、水、有機溶剤、界面活性剤等のその他の成分を適宜調節して配合してもよい。
3.記録方法(捺染方法)
本実施形態に係る記録方法は、上述したインク組成物セットを、糊剤、アルカリ剤、酸、及び、ヒドロトロピー剤から選ばれる一種以上を含有する布帛に対し、インクジェット法により吐出して付着させることを含む。以下、本実施形態に係る記録方法が含む工程及び含み得る工程等について説明する。
3.1.記録媒体
本実施形態のインク組成物セットは、記録媒体に付着させて使用される。記録媒体としては、特に限定されないが、各種の布帛が挙げられる。布帛を構成する素材としては、特に限定されず、例えば、綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維、ポリプロピレン、ポリエステル、アセテート、トリアセテート、ポリアミド、ポリウレタン等の合成繊維、ポリ乳酸等の生分解性繊維などが挙げられ、これらの混紡繊維であってもよい。布帛としては、上記に挙げた繊維を、織物、編物、不織布等いずれの形態にしたものでもよい。本実施形態で使用する布帛は、これらのうち綿、麻等のセルロースを含む繊維で形成されたものがより好ましい。このような布帛を用いることで、捺染インクのよりすぐれた染着性を得ることができる。
従来技術である、複数種の染料を含むコンポジットインク、又は複数種の色相のインクを組み合わせて、グリーン色の色相を実現する場合、例えば、捺染対象の布帛が、綿、シルク、羊毛(ウール)、ビスコース(レーヨン)、PA(ポリアミド)エラストマー等である場合では、十分な発色性が得られず、経時での色相変化(耐光性)が大きかった。これに対して、本実施形態の捺染インクを用いると、このような係る範囲の色を複数色の混色によることなく表現でき、経時的な色相変化(耐光性)をさらに抑制することができる。
また、本実施形態で使用する布帛の目付は、1.0oz(オンス)以上10.0oz以下、好ましくは2.0oz以上9.0oz以下、より好ましくは3.0oz以上8.0oz以下、さらに好ましくは4.0oz以上7.0oz以下の範囲である。
3.2.工程
3.2.1.前処理工程
本実施形態に係る記録方法は、糊剤、酸、及び、ヒドロトロピー剤から選ばれる一種以上を含有する布帛に対して行われる。このような布帛は、どのように調達されても差し支えない。本実施形態に係る記録方法は、例えば、このような布帛を準備するにあたり、糊剤、酸及びヒドロトロピー剤の一種以上を含有する前処理組成物を布帛に付与する前処理工程を備えていてもよい。
前処理組成物を布帛に付与する方法としては、例えば、前処理組成物中に布帛を浸漬させる方法、前処理組成物をロールコーター等で塗布する方法、前処理組成物を噴射する方法(例えば、インクジェット法、スプレー法)等が挙げられ、いずれの方法も使用できる。
前処理組成物は、糊剤、酸及びヒドロトロピー剤の一種以上を含有する。これらの成分の前処理組成物中の含有量は、布帛の種類などに応じて適宜設定することができ、特に制限されるものではない。
酸は、酸性染料(本発明に用いる、アントラキノン骨格を持ち、スルホン酸基又はスルホン酸塩基とを含む染料は、酸性染料に含まれる)を使用する場合に、染料の染着性を一層向上させるという点から好ましく使用される。酸の具体例としては、分子中にカルボキシル基をもつカルボン酸や、スルホ基をもつスルホン酸等の有機酸、もしくは、強酸のアンモニウム塩等が汎用的に用いられるが、その中でも、特に、硫酸アンモニウムが好ましい。
ヒドロトロピー剤は、記録される画像の発色性を向上させるという点から好ましく使用される。ヒドロトロピー剤としては、尿素類が挙げられる。
前処理組成物は、水を含んでもよい。水としては、上述の捺染インクにおいて説明した内容と同様である。水の含有量は、前処理組成物の総量に対して、30質量%以上、好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは45質量%以上であり、さらに好ましくは50質量%以上である。
前処理組成物は、水溶性有機溶剤を含んでもよい。水溶性有機溶剤は、記録媒体に対する前処理組成物の濡れ性を向上させることができる場合がある。水溶性有機溶剤としては、エステル類、アルキレングリコールエーテル類、環状エステル類及びアルコキシアルキルアミド類の少なくとも一種を例示できる。また、水溶性有機溶剤としては、これら以外の含窒素複素環式化合物、糖類、アミン類等であってもよい。また、前処理組成物は、上述した捺染インクに用い得る有機溶剤を含有してもよい。
前処理組成物には、水溶性有機溶剤を複数種含んでもよい。水溶性有機溶剤を含む場合には、前処理組成物の総量に対する、水溶性有機溶剤の合計の含有量は、0.1質量%以上20質量%以下、好ましくは0.3質量%以上15質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上10質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上7質量%以下である。
前処理組成物は、糊剤を含有してもよい。糊剤としては、トウモロコシ及び小麦などのデンプン物質、カルボキシメチルセルロース及びヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系物質、アルギン酸ナトリウム、アラビヤゴム、ローカストビーンガム、トラントガム、グアーガム、及びタマリンド種子などの多糖類、ゼラチン及びカゼイン等のタンパク質、タンニン及びリグニン等の天然水溶性高分子、並びにポリビニルアルコール系化合物、ポリエチレンオキサイド系化合物、アクリル酸系化合物、及び無水マレイン酸系化合物などの合成の水溶性高分子が挙げられる。
前処理組成物は、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤としては、上述の捺染インクにおいて説明した内容と同様である。前処理組成物に界面活性剤を配合する場合には、前処理組成物全体に対して、界面活性剤の合計で0.01質量%以上3質量%以下、好ましくは0.05質量%以上2質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以上1質量%以下、特に好ましくは0.2質量%以上0.5質量%以下配合することが好ましい。
前処理組成物が界面活性剤を含有することにより、前処理された布帛上に塗布された捺染インクの浸透性や濡れ性を制御し、捺染物の発色性向上やブリードの抑制を実現できる。
本実施形態の前処理組成物は、還元防止剤、防腐剤、防かび剤、キレート化剤、pH調整剤、界面活性剤、粘度調整剤、酸化防止剤等、捺染における前処理組成物に通常用いられる成分を含有してもよい。
また、前処理組成物は、インクジェット法によって布帛に付着されてもよく、そのようにする場合には、20℃における粘度を、1.5mPa・s以上15mPa・s以下とすることが好ましく、1.5mPa・s以上5mPa・s以下とすることがより好ましく、1.5mPa・s以上3.6mPa・s以下とすることがより好ましい。
一方、前処理組成物の塗布は、インクジェット法以外の方法で行われてもよい。そのような方法としては、前処理組成物を各種のスプレーを用いて布帛に塗布する方法、前処理組成物に布帛を浸漬させて塗布する方法、処理液を刷毛等により布帛に塗布する方法等の非接触式及び接触式のいずれか又はそれらを組み合わせた方法が挙げられる。
前処理組成物がこのようなインクジェット法以外の方法によって布帛に付着される場合には、20℃における粘度は、インクジェット法による場合よりも高くてもよく、例えば、1.5mPa・s以上100mPa・s以下、好ましくは1.5mPa・s以上50mPa・s以下、より好ましくは1.5mPa・s以上20mPa・s以下とすることが好ましい。なお、粘度の測定は、粘弾性試験機MCR−300(Physica社製)を用いて、20℃の環境下で、Shear Rateを10〜1000に上げていき、Shear Rate200時の粘度を読み取ることにより測定することができる。
3.2.2.付着工程
付着工程では、上述したインク組成物セットをインクジェット法により布帛に付着させる。具体的には、インクジェット記録方式により各捺染インクを布帛に付着させて、布帛に画像を形成する。インクジェット記録方式としては、いずれの方式でもよく、荷電偏向方式、コンティニュアス方式、オンデマンド方式(ピエゾ式、バブルジェット(登録商標)式)などが挙げられる。これらのインクジェット記録方式の中でも、ピエゾ式のインクジェット記録装置を用いる方式が特に好ましい。
本実施形態の記録方法では、布帛におけるヒドロトロピー剤の質量に対する染料の質量の比(染料/ヒドロトロピー剤)の値が、0.2以上1.0以下となる領域を有する。すなわち、ヒドロトロピー剤が付着された布帛に含まれるヒドロトロピー剤と、捺染インクに含まれる染料とが、布帛に付着された状態で、質量の比(染料/ヒドロトロピー剤)の値が、0.2以上1.0以下となる領域が布帛に形成される。このような比の値で付着させるために、処理液(ヒドロトロピー剤)及び捺染インクのそれぞれの付着量及び濃度が調節される。
布帛上におけるヒドロトロピー剤の質量に対する染料の質量の比(染料/ヒドロトロピー剤)の値は、0.3以上1.0以下がより好ましく、0.5以上1.0以下がさらに好ましい。
布帛上におけるヒドロトロピー剤の質量に対する染料の質量の比(染料/ヒドロトロピー剤)の値が上記範囲であれば、十分な発色性(捺染品質)を得ることができる。
ヒドロトロピー剤が付着された布帛に対して付着工程を行い、捺染インクが付着された布帛上の領域は、pHが2以上7以下、好ましくは3以上6以下、より好ましくは3.5以上6.5以下となることが好ましい。このような範囲となるようにヒドロトロピー剤及び捺染インクの各成分の配合及び各工程における付着量が調節されることが好ましい。付着領域のpHがこの範囲であれば、布帛と染料との反応をさらに促進することができる。
ここで捺染インクの付着領域のpHは、付着工程を経た後に測定される値であるが、処理工程の後、乾燥工程を経て、水が無い又はわずかに存在する状態で付着工程が行われた後、スチーミング等が行われる前に測定される値とする。すなわち本明細書では、布帛における捺染インクの付着領域のpHとは、布帛に各成分が残存した状態でのpHであると定義する。このときの水の残存量は、特に限定されないが、付着された処理液及び捺染インクに含まれる水の総量に対して、50%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは10%以下の状態で測定される。
したがって、布帛の捺染インクの付着領域のpHは、水溶液等のpHの測定とは異なり、例えば、接触式のプローブによって測定される。付着領域のpHの測定は、例えば、フラット形半導体pH電極を用いて測定することができる。そのような電極の市販品としては、株式会社堀場製作所製、pH分析計と、フラットISFETpH電極0040−10D等との組合せが挙げられる。
本実施形態の記録方法は、付着工程の他に、以下の工程を含んでもよい。
3.2.3.熱処理工程
本実施形態に係る記録方法は、上記の捺染インクが付着された布帛を熱処理する熱処理工程を含んでもよい。熱処理工程を行うことにより、染料が繊維に良好に染着する。熱処理工程は従来公知の方法を用いることができ、例えば、HT法(高温スチーミング法)、HP法(高圧スチーミング法)、サーモゾル法等が挙げられる。熱処理工程における温度としては、布帛に対するダメージを軽減するという観点から、90℃以上110℃以下の範囲で行われることが好ましい。
3.2.4.洗浄工程
本実施形態に係る記録方法は、捺染物を洗浄する洗浄工程を含んでもよい。洗浄工程は、上記の熱処理工程の後に行うことが好ましく、繊維に染着していない染料を効果的に除去することができる。洗浄工程は、例えば水を用いて行うことができ、必要に応じてソーピング処理を行ってもよい。
3.2.5.その他の工程
本実施形態に係る記録方法は、上述の処理工程を採用した場合にはその後、上述の付着工程の前に、布帛に付与された処理液を乾燥する処理液の乾燥工程を含んでもよい。処理液の乾燥は、自然乾燥で行ってもよいが、乾燥速度の向上という観点から、加熱を伴う乾燥であることが好ましい。処理液の乾燥工程において加熱を伴う場合に、その加熱方法は特に限定されるものではないが、例えば、ヒートプレス法、常圧スチーム法、高圧スチーム法、及びサーモフィックス法が挙げられる。また、加熱の熱源としては、以下に限定されないが、例えば赤外線(ランプ)が挙げられる。
4.実施例及び比較例
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
4.1.捺染インクの調製
実施例および比較例における捺染インクの組成を表1および表2に示す。実施例1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11においては染料として、C.I.Acid Green 28を用いた。実施例12においては、C.I.Acid Green 25を用いてインクを調整した。なお、比較例1は、染料としてC.I.Direct Blue 87を含むシアンインクと、染料としてC.I.Acid Yellow 79を含むイエローインクと、を混色で用いてグリーンの色相を再現しようとしたものである。
インク組成物セットを構成する捺染インクは、以下の手順に従って調製した。各インクは、下記の組成になるように各成分を容器に入れて、マグネチックスターラーを用いて常温で1時間混合及び攪拌した後、孔径1μmのメンブランフィルターで濾過することで調製した。なお、表1、及び表2中の数値は質量%を示し、イオン交換水はインクの総量が100質量%となるように添加した。
Figure 2021155463
Figure 2021155463
4.2.前処理液の調整
ポリオキシエチレンジイソプロピルエーテル(オキシエチレン=30モル)を5質量部、エーテル化カルボキシメチルセルロースを5質量部、尿素(ヒドロトロピー剤)100質量部をよく混合した後、イオン交換水1000質量部に少量ずつ添加しながら60℃下で30分撹拌する。その後、硫酸アンモニウム30質量部を撹拌されている溶液にさらに加えて10分撹拌し、この溶液を孔径10μmのメンブレンフィルターでろ過することにより、前処理組成物を得た。
4.3.捺染物の色相角、彩度評価
表1、及び表2の実施例1〜12、及び、比較例1について、捺染物の色相角∠°を以下の通り評価した。具体的には、白色度L*が85〜95の範囲にある布帛(PAエラストマー)を用い、上記のようにして得られた前処理組成物を布帛に塗布して、マングルにてピックアップ率80%で絞って乾燥させた。その後、インクジェットプリンターPX−G930(セイコーエプソン株式会社製)のカートリッジに上記で調製したインクを充填し、前処理を行った布帛に、1440dpi×720dpiの解像度で、インク打ち込み量23mg/inch2の条件で、実施例の各インクを100%ベタパターンで付着させて画像を記録(印刷)した。比較例1の混色によるグリーン色の表現は、シアンインク及びイエローインクの割合が50/50となるように、各インクを吐出して発色させた。
次に、画像の記録された布帛に対して102℃で10分間スチーミングを行った後、ラッコールSTA(明成化学株式会社製、界面活性剤)を0.2質量%含む水溶液を用いて90℃で10分間洗浄し、乾燥させ各評価サンプルを得た。得られた評価サンプルを、測色器(商品名「Spectrolino」、X−RITE社製、測定条件:光源D65、フィルターD65、φ2度)を用いて求めたa*、b*値から、色相角∠°及び彩度C*を算出した。算出した色相角∠°及び彩度C*について、以下の評価基準に従って評価を行った。その評価結果を表1、及び表2に示す。
(色相角の評価基準)
A:色相角∠°が150°以上180°以下であった。
B:色相角∠°が140°以上150°未満又は180°超190以下であった。
C:色相角∠°が140°未満190°超であった。
(彩度の評価基準)
A:彩度C*が50以下であった。
B:彩度C*が50以上70未満であった。
C:彩度C*が70以上であった。
4.4.耐水性試験
上記実施例、及び、比較例の耐水評価を以下のように行った。上記「捺染物の色相角評価」で得られた評価サンプルを用いて、ISO 105 E01に従って実施し、以下の評価基準に従って結果を評価した。評価結果を表1、及び表2に示す。なお、この評価は、変退色を調べ、堅ろう度を判定するものであり、色相角を直接測定するものではないが、少なくとも変色を判定することができる。
(評価基準)
A:耐水性が5級
B:耐水性が3級以上5級未満
C:耐水性が1級以上3級未満
4.5.耐光性試験
上記実施例、及び、比較例の耐光性評価を以下のように行った。上記「捺染物の色相角評価」で得られた評価サンプルを用いて、ISO 105 B02に従って実施し、以下の評価基準に従って結果を評価した。評価結果を表1、及び表2に示す。なお、この評価は、変退色を調べ,堅ろう度を判定するものであり、色相角を直接測定するものではないが、少なくとも変色を判定することができる。
(評価基準)
A:耐光性が5級以上
B:耐光性が3級以上5級未満
C:耐光性が1級以上3級未満
(評価結果)
各実施例の結果をみると、いずれも、複数色の混色によることなく、捺染物においてグリーン色を発色性良く表現でき、かつ、経時的な色相変化(耐光性、及び耐水性)を抑制することができることが判明した。さらに、捺染物上でのCIELAB色空間で定義される色相角∠°が150°以上180°以下の範囲である染料と、SP値が9.5から12.0であるグリコールエーテル系溶剤を、インク組成物の総量に対して、1質量%以上20質量%以下と、を含むことにより、複数色の混色によることなく、捺染物においてグリーン色をより発色性良く表現でき、かつ、経時的な色相変化(耐光性、及び耐水性)をより抑制することができることが判明した。
4.6.発色性(発色濃度)評価
印捺を1440dpi×720dpiの解像度で布帛(酸性染料使用時:PAエラストマー)に実施した以外は、上記「捺染物の色相角評価」と同様の方法で、評価サンプルを得た。発色性の評価は、測色器(商品名「Spectrolino、X−RITE社製)で画像のOD値(発色濃度:イエロー成分のOD値とシアン成分のOD値との和)を測定することで行い、測定されたOD値に基づいて画像の発色性を評価した。評価基準を以下に示す。評価結果を表1、及び表2に示す。
(評価基準)
A:OD値が1.9以上
B:OD値が1.8以上1.9未満
C:OD値が1.7以上1.8未満
D:OD値が1.7未満
(評価結果)
その結果、実施例3の結果の通り、染料の含有量が2質量%以上である場合、より良好な発色性が発現することが分かった。
4.7.ブリード評価
インクジェットプリンターPX−G930(セイコーエプソン株式会社製)を評価に用いた。PAエラストマー布帛に対し、室温にて表1、及び表2に記載の実施例、もしくは比較例1と、表3に記載の黒色捺染インクと、の組み合わせを付着させて、720dpi×720dpiの解像度で色が隣り合って印刷されるブロック画像パターンを形成した。評価に用いた黒色捺染インクの構成は以下の表3に示す。黒色捺染インクの調整方法は上記と同様である。
Figure 2021155463
(評価基準)
得られた記録物の色境界部分の滲み範囲を観察し、黒色捺染インクと、比較例1におけるシアンインク、及びイエローインクとの混色で表現されるグリーン色と、のブリード、及び黒色捺染インクと実施例における本実施形態の捺染インクと、で表現されるグリーン色のブリードについて、下記評価基準によりブリード性を評価した。
(評価基準)
A:色境界での滲み範囲0.6mm未満
B:色境界での滲み範囲0.6mm以上1.2mm未満
C:色境界での滲み範囲1.2mm以上1.8mm未満
(評価結果)
その結果、比較例1のシアンインクとイエローインクとの混色で表現したグリーン色と、黒色捺染インクと、のブリード評価を行った結果、色境界部における滲みを確認した。実施例7,8以外の捺染インクと、黒色捺染インクと、のブリード評価では、色境界部における滲み範囲が小さくなり、ブリードの発生が抑制されていた。実施例7,8の捺染インクと、黒色捺染インクと、のブリード評価を行った結果、滲みが広がりやすい傾向にあり、ブリードの悪化する傾向を確認した。この結果の理由としては、染料の化学構造の大きさ、及び親水性の程度により、染料の拡散のしやすさが変化するものと考える。さらに、実施例8に対して、実施例7におけるトリエチレングリコールモノブチルエーテルの添加量を多くした場合において、ブリードの向上を確認した。この結果の理由としては、低SP値の溶剤添加量が増加するため、布帛上における染料の拡散が抑制される傾向になり、ブリードの向上が確認されたと推測している。
4.8.目詰まり回復性評価
インクジェットプリンターPX−G930(セイコーエプソン株式会社製)のカートリッジに上記のインクを充填した。充填後、ノズルチェックパターンを印刷して充填不良・ノズル目詰まりの無いことを確認してから、インクジェットプリンターヘッドをホームポジションに戻した状態、すなわち、ヘッドノズル面にヘッドキャップをした状態にして、35℃で40%RHの環境下に一週間放置した。放置後、ノズルチェックパターンを印刷してノズルの吐出状況を観察することで、インク組成物のインクジェットヘッドの目詰まり放置回復性を評価した。その評価基準を以下に示す。評価結果を表1、及び表2に示す。
(評価基準)
A:クリーニング動作が1回で、全ノズルからインクが正常吐出された。
B:クリーニング動作が2回〜5回の範囲内で、全ノズルからインクが正常吐出された。
C:クリーニング動作が6回〜10回の範囲内で、全ノズルからインクが正常吐出された。
D:全ノズルからインクが正常吐出されるまでにクリーニング動作が11回以上必要であった。
(評価結果)
その結果から、グリコールエーテル、及び含窒素複素環式化合物の添加量が影響していると考えられる。実施例6における、含窒素複素環式化合物である2−ピロリドンを含有しない場合と比較して、その他の実施例における含有する場合では、目詰まり回復性の向上が確認された。グリコールエーテルにおいても同様に、含有することで、目詰まり回復性の向上傾向が確認された。さらに、表2に記載した通り、染料の含有量が、総量で10質量%を上回ると、長期放置時にインクジェットノズル付近において、染料の固化が発生し、異物の発生、目詰まり回復性、及び連続吐出安定性に影響を与えることが分かった。
4.9.異物の評価
インクジェットプリンターPX−G930(セイコーエプソン株式会社製)のカートリッジにインクセットを構成する上記のインクを充填した。充填後、ノズルチェックパターンを印刷して充填不良・ノズルの目詰まりが無いことを確認してから、ヘッドをホームポジションに戻した状態、すなわち、ヘッドノズル面にヘッドキャップをした状態にして、25℃、または、40℃で3ヶ月間プリンターを放置した。その後、プリンターからヘッドを取りはずし、ノズル先端の様子を目視で観察した。この際、以下の評価基準に従って、異物の評価を実施した。
(評価基準)
無:異物の発生は見られなかった。
有:異物の発生により、ノズルが目詰まりを起こしていた。
(評価結果)
その結果から、実施例5,6,8,11以外では、異物の発生は確認されなかった。アルキルポリオール、含窒素複素環式化合物を添加することで、異物の発生が抑えられることが分かった。
4.10.連続吐出安定性評価
インクジェットプリンターPX−G930(セイコーエプソン株式会社製)のカートリッジに上記のインクを充填後、A4普通紙に1000枚の連続ベタ印字を行い、クリーニング動作を行わずに、連続で印刷できる枚数の平均値を求め、以下の試験方法及び基準により評価した。評価結果を表1、及び表2に示す。
試験方法(1):印刷中、印刷不備(ドットの乱れ、抜け、曲り)が発生した段階で印刷を中断し、クリーニング動作を行い回復させる。回復に複数回のクリーニングを要した場合は、複数回のクリーニング動作を合わせて不備1回とみなす。
試験方法(2):インクエンドによる印刷の一時停止の場合、又は、明らかにインクエンドが原因と判断できる印刷不備の場合はノーカウントとし、速やかにインクカートリッジを交換して、印刷を再開させる。
(評価基準)
A:平均連続印刷枚数が、80枚以上
B:平均連続印刷枚数が、40枚以上80枚未満
C:平均連続印刷枚数が、20枚以上40枚未満
D:平均連続印刷枚数が、20枚未満
(評価結果)
その結果から、SP値が9.5から12.0であるグリコールエーテル系溶剤を、総量に対して1質量%以上20質量%以下添加した場合、連続吐出安定性が向上することが分かった。

Claims (8)

  1. 色材と、有機溶剤と、水とを含有する捺染インクジェットインク組成物であって、
    前記色材が、アントラキノン骨格と、スルホン酸基及びスルホン酸塩基とから選択される基とを有する染料であり、
    前記色材として前記染料のみを用いた捺染後の捺染物上でのCIELAB色空間で定義される色相角∠°が、150°以上180°以下の範囲となる、捺染インクジェットインク組成物。
  2. 前記捺染物上でのCIELAB色空間で定義される彩度C*が、50以下である、請求項1に記載の捺染インクジェットインク組成物。
  3. 前記染料が、下記式(1)で表される、請求項1または請求項2に記載の捺染インクジェットインク組成物。
    Figure 2021155463
    (但し、R1及びR2は水素原子又はSO3Zであり、R1及びR2のうちのどちらか一方はSO3Zであるか、あるいは他方もSO3Zであり、Zは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、及びアンモニウムから選ばれるいずれかである。さらに、Y1及びY2は水素原子、及びアルキル鎖から選ばれるいずれかであり、Y1及びY2はどちらか一方がアルキル鎖であるか、他方もアルキル鎖である。このアルキル鎖は炭素原子を4つ持つ。)
  4. 前記染料が、C.I.Acid Green 28である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の捺染インクジェットインク組成物。
  5. 前記有機溶剤として、SP値が9.5から12.0であるグリコールエーテル系溶剤を含有し、前記グリコールエーテル系溶剤の含有量が、インク組成物の総量に対して1質量%以上20質量%以下である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の捺染インクジェットインク組成物。
  6. 前記有機溶剤として、標準沸点が180℃以上300℃以下であるアルキルポリオールを含有する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の捺染インクジェットインク組成物。
  7. 前記有機溶剤として、含窒素複素環式化合物を含有する、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の捺染インクジェットインク組成物。
  8. 請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の捺染インクジェットインク組成物と、
    黒色捺染インクジェットインク組成物と、を含むインク組成物セット。
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