JP2021134851A - 回転駆動機の潤滑装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】 本発明は回転駆動機の潤滑装置に関し、電動駆動車用2段変速機において別設の潤滑油ポンプを設置することなく、要潤滑部の効率的な潤滑を行うことができるものである。【解決手段】 カバー10内部において、隔壁部材60の対向面との間に潤滑油貯留室62を形成し、ギヤ噛合部を潤滑後に落下してくる潤滑油を潤滑油貯留室62により受け止め、ここに溜めるようにする。潤滑油貯留室62に溜められた潤滑油はその底部より、中心油孔72に供給される。中心油孔72は、径方向において変速機の回転部に形成される給油孔70の内周端部に連通される。給油孔70の外周端部は、遊星歯車機構30のピニオンピン孔21-1に連通している。給油孔70において潤滑油にかかる遠心力はにより、潤滑油貯留室62からピニオンピン孔21-1に向けての潤滑油流を生成することができる。【選択図】 図2
Description
この発明は回転駆動機の潤滑装置に関し、特に、電動駆動車(EVやハイブリッド車)の遊星歯車機構を使用した2段変速機において別設の潤滑油ポンプを設置することなく、ピニオンの軸部等の潤滑油の周りが良くない要潤滑部の効率的な潤滑を行うことができるものである。
電動機を動力とする電動車、特にEV(Electric Vehicle)においては、電動機の動力の車軸側への伝達は回転軸上に別段変速機を設けず、電動機の回転を走行に適した適当な回転数に落とす減速機だけを設けるものが普通であった。これは、電動機においては無回転域から駆動トルクを発生させることができ、使用可能な回転域が広いし、また、構造が簡単ということがEVの重要なセールスポイントであることから、構造を複雑化させる変速機を設けるまでもない、といった事情によるものである。
しかしながら、EVにおいても、変速機を利用するメリットはあり、それは、電動機といえども車速の全域で高効率を維持することは困難であり、特に、車両の高車速運転域においては、電動機の回転数が大きくなるため電動機の効率悪化により高車速が得られ難い問題があり、そのための改善として、2段変速機を電動機と減速機との間に配置するものが提案されている。即ち、電動機の効率の悪化する車両の高車速運転域において、2段の変速機における高ギヤ比側を使用することにより、電動機の回転数を下げて車両の高車速運転を行うことができ、電動機の高効率の使用域を広げることができる。この種の2段変速機としては、各種の公知技術が存在するが、本出願人と同一人になるものとして、変速機として遊星歯車機構を使用し、低車速側ではドグクラッチにより遊星歯車機構を減速として、高車速側では、電磁クラッチにより遊星歯車機構を増速(ギヤ比としては1対1であるが低車速域に対して増速となる)としたものが公知である。
特許文献1においては、別段の記載はないが変速機には歯車機構のための潤滑機構が必要であり、そのための手段としては変速機を筐体内に収容し、はねかけ式により潤滑油を歯車の軸部や噛合部分に給油する方式を採用するのが通常であり、また、はねかけ式のみでは潤滑油の回りが良くない部位での潤滑が不十分となりやすいので、潤滑油の循環のためのオイルポンプを別設し、ポンプによる潤滑油の加圧下、軸心給油により潤滑を行うものも提案されている(特許文献2)。
電動車、特に、EVの利点はその低コストにあるが、潤滑油の循環のためのオイルポンプの別設は、オイルポンプが高価となるためEVのコスト面の優位性を損なうことになる。そのため、オイルポンプの別設はせず、通常の変速機によく採用されるはねかけ式(飛沫式とも称する)による潤滑を採用するとした場合、歯車の噛合のみの通常の変速機においては、はねかけ式による潤滑で所期の潤滑を得ることができるが、変速機として遊星歯車機構を用いた場合、潤滑必要部位であるピニオンのジャーナル部分に潤滑油が回りにくい構造となっており、この部位の十分な潤滑ができない問題点があった。
本発明は以上の問題点に鑑み、EV等の電動車両における変速機等の回転駆動機において、オイルポンプを別設することなく潤滑必要部位の効率的な潤滑を実現することを目的とする。
この発明によれば、ハウジングと、ハウジングに対し回転可能に支持される回転軸と、回転軸により回転駆動される回転駆動機構とを備え、ハウジングに収容される潤滑油により回転駆動機構における要潤滑部の潤滑を行う回転駆動機の潤滑装置であって、
回転軸に略々中心線に沿って形成された第1の油路と、
回転軸の中心側から外径側に延設され、回転軸の回転に応じて回転し、第1の油路の一端と連通する内周端と、回転駆動機構の要潤滑部と近接して対向した外周端とを有した第2の油路と、
ハウジングに対し固定的に配置され、第1の油路の他端が連通し、掻き上げられた潤滑油の一部を回収しかつ蓄積するための隔室を形成する環状隔壁部材と、
回転部材とハウジング及び/若しくは環状隔壁部材間に配置され、回転軸の回転に係わらず前記隔室の軸封を行う軸封機構と、
を具備して成り、第2の油路の前記外周端において潤滑油に加わる大きな遠心力と前記内周端において潤滑油に加わる小さな遠心力との遠心力差に基づき、第1の油路及び第2の油路を介して、隔室に収容された潤滑油を潤滑必要部まで給油することを特徴とする回転駆動機の潤滑装置が提供される。
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を具備して成り、第2の油路の前記外周端において潤滑油に加わる大きな遠心力と前記内周端において潤滑油に加わる小さな遠心力との遠心力差に基づき、第1の油路及び第2の油路を介して、隔室に収容された潤滑油を潤滑必要部まで給油することを特徴とする回転駆動機の潤滑装置が提供される。
隔室から要潤滑部までの潤滑油の流れの確保のため第1の油路の内径は第2の油路の内径より大きくすることが好ましい。
回転駆動機は遊星歯車機構を備えた2段変速機であり、第2の油路の前記一端は、潤滑必要部としての遊星歯車機構のピニオンの支持軸部に近接して開口させることができる。環状隔壁部材はハウジング対向して設置され、前記隔室は回転軸の周りにおいて環状とすることができる。又は、環状隔壁部材は回転軸のハウジング端面と対向するように配置し、前記隔室は回転軸端面と対向して形成することもできる。
潤滑油の収容・蓄積のための隔室を設け、回転軸の回転により潤滑油にかかる遠心力により隔室から要潤滑部に届くような潤滑油の流れを生成させ、これにより給油方式を問わず、要潤滑部位に確実な給油を行うことができる。また、軸方向における第1の油路の内径を大きく、半径方向の第2の油路の内径を小さくすることにより潤滑油の流路抵抗を小さくしつつ遠心負圧を大きくすることができ、良好な潤滑油の流れを得ることができる。
給油のための別設のオイルポンプを省略することができコスト低減を実現することができる。
以下この発明の実施形態を、本出願人と同一人による特許文献1に記載された変速機として遊星歯車機構を使用し、低車速側ではドグクラッチにより遊星歯車機構を減速(ギヤ比>1.0)として、高車速側では、電磁クラッチにより遊星歯車機構を増速(本実施形態ではギヤ比としては1対1であるが低車速域のギヤ比に対して相対的に高ギヤ比となるため電動機の回転域を高効率の常用回転域まで下げることができる)としたものに応用した場合について説明する。
図1は本発明の第1の実施形態の2段変速機の模式的断面図であり、中心線lの上側半分が画かれている。10はハウジングであり、別体の溶接されるカバー10´とで内部に2段変速機の構成部を収容する閉鎖された空洞部Sを形成する。空洞部S内に潤滑油が封入され、以下の本実施形態においては、潤滑油ははねかけにより軸部や噛合部の潤滑を行う。本実施形態では、潤滑油のためオイルポンプは設置されず、はねかけのみでは潤滑油が回り難い要潤滑部のため回転軸(出力軸又は入力軸)の回転下潤滑油にかかる遠心力を利用した以下説明の軸心給油式の潤滑装置が設置されている。また、本発明は、はねかけ方式の潤滑は全然行わず、本発明の軸心給油式の潤滑のみにより全ての潤滑を賄うようにした潤滑方式もその範囲に包含される。
2段変速機は特許文献1に記載のアーマチュアによりドグクラッチと摩擦クラッチとのシーソー式(ワンモーション式)切替えを行い、低車速運転時はドグクラッチを締結、摩擦クラッチを非締結とし、遊星歯車機構を減速動作とし、高車速運転時はドグクラッチを非締結、摩擦クラッチを締結することにより遊星歯車機構を1対1のギヤ比(相対的増速動作)としたものである。
図1において、入力軸11は図示しない電動機の出力軸側に連結される。また、出力軸12は図示しない車輪側(ディファレンシャル)に連結される。
遊星歯車機構13は入出力軸11, 12と同芯に配置され、円周方向に間隔をおいて配置された複数のピニオン14(この実施形態では4個設けられ、図1及び図2にはその一つのみ図示)を回転自在に軸支して構成されるキャリア16と、キャリア16と回転中心を共通しピニオン14に噛合するサンギヤ18と、キャリア16と回転中心を共通しピニオン14に噛合するリングギヤ20とからなる3回転要素を備えている。各ピニオン14をキャリア16に軸支するためピニオンピン21(キャリア16に取付)が設けられ、22はニードルベアリングを略示する。この実施形態では、リングギヤ20はハウジング10の内周に形成された内歯として構成され、ピニオン14の外歯14-1と噛合するようにされる。また、ピニオン14の外歯14-1はサンギヤ18の外歯18-1とも噛合する。キャリア16は出力軸12と一体回転するように構成される。出力軸12は外周面にスプライン歯12-1を形成し、このスプライン歯12-1に車軸側(ディファレンシャル)への図示しない出力軸がスプライン嵌合される。キャリア16はピニオン14を挟んで一対設けられ、入力軸側のキャリア部分を16´にて示す。
アーマチュア26は、この実施形態ではドグクラッチ28のクラッチ突部26-1となる一体部分と、後述摩擦クラッチ30の駆動部26-4となる一体部分とを有しており、電磁コイル46のオンオフだけでドグクラッチ28及び摩擦クラッチ30のシーソー的な係脱切替動作(アーマチュア26の軸方向に沿った前後方向移動による切替動作)が可能となっている。アーマチュア26は全体として環状円板形状をなし、内周に円周方向に等間隔に複数配置され、夫々がサンギヤ18に向けて軸方向に延びるクラッチ突部26-1と、円板状部26-2と、外周筒状部26-3と、筒状部26-3の端部において半径方向に延びるフランジである摩擦クラッチ駆動部26-4とを形成する。
サンギヤ18のアーマチュア26との対向面に円周方向に離間して複数のクラッチ凹部18-2が形成され、サンギヤ18の複数のクラッチ凹部18-2は、アーマチュア26の複数のクラッチ突部26-1と夫々対向するように配置され、複数の対向するクラッチ突部26-1とクラッチ凹部18-2とがこの実施形態の発明のドグクラッチ28を構成する。即ち、クラッチ突部26-1とクラッチ凹部18-2とは軸方向の向き合う方向の相対移動により相互に噛合うことにより回転方向に一体化(ドグクラッチ28は締結)され、軸方向の離間方向における相対移動で、クラッチ突部26-1とクラッチ凹部18-2との係合は解除(ドグクラッチ28は非締結)となる。
アーマチュア保持板29は、ボス部29-1 と、円板部29-2とからなり、ボス部29-1は内周が入力軸11のスプライン11-1とスプライン嵌合し、アーマチュア保持板29は入力軸11と一体回転するように構成される。アーマチュア保持板29の円板部29-2は、円周方向に間隔をおいたアーマチュア挿通孔29-2aを有し、このアーマチュア挿通孔29-2aに、アーマチュア26のクラッチ突部26-1が軸方向に摺動自在にかつガタなく挿通されている。そのため、入力軸11の回転をアーマチュア26に伝達しつつ、アーマチュア26はアーマチュア保持板29に対して軸方向摺動自在とされる。
摩擦クラッチ30は、アーマチュア26の外周筒状部26-3により構成される外筒と、外周筒状部26-3の摺動溝26-3aに軸方向に摺動自在に設けた複数のドライブプレート32と、キャリア部分16´の一体延出部としての内筒16-1と、内筒16-1の摺動溝16-1aに軸方向に摺動自在に設けたドリブンプレート34と、ドリブンプレート34の両面に固着したクラッチフエーシング38と、内筒16-1の円周方向溝に嵌着されたスナップリング40と、スナップリング40の背面に当接位置されるアーマチュア26のフランジ部としての摩擦クラッチ駆動部26-4と、キャリア部分16´の一体延出部16-1のフランジ部としての受圧部16-2とから構成される。ドライブプレート32、ドリブンプレート34及びクラッチフエーシング38から成るクラッチパックを軸方向に挟んで摩擦クラッチ駆動部26-4と対向して受圧部16-2が配置され、アーマチュア26の軸方向の前後移動により摩擦クラッチ30の係脱が行なわれる。図1は簡略化しているが、周知のように、摺動溝26-3a及び摺動溝16-1aは、夫々、全円周にわたりに等間隔に設けられ、同様に円周方向に等間隔に設けられたドライブプレート32及びドリブンプレート34の突部が、夫々、ドライブプレート32及びドリブンプレート34の軸方向摺動は可能としつつ、円周方向に噛合可能に構成されている。
弾性体44(コイルスプリングや板状体ばね等)は、アーマチュア26とカバー10´間に配置され(弾性体44をコイルスプリングにより構成した場合は間隔をおいて適当な数が設置され)る。弾性体44はアーマチュア26を図1の左方にクラッチ突部26-1とクラッチ凹部18-2とが係合するように付勢している。そして、弾性体44のこの付勢力の方向は、摩擦クラッチ30については、ドリブンプレート34に対するドライブプレート32の締結を解放し、即ち、摩擦クラッチ30を非締結とする。即ち、摩擦クラッチ30の受圧部16-2は図1に示すようにクラッチパックから離間位置する。
そして、電磁コイル46はカバー10´の内側に配置され、かつ電磁コイル46は、通電による磁束がアーマチュア26をして弾性体44の弾性力に抗して図1において右行させ、その結果、図2に示すようにクラッチ突部26-1がクラッチ凹部18-2から離脱され、ドグクラッチ28は非締結状態をとると同時に、摩擦クラッチ駆動部26-4 により受圧部16-2との間でドリブンプレート34とドライブプレート32とがクラッチフエーシング38を介して挟着され、摩擦クラッチ30は締結状態となる。尚、スラスト受けのための軸受52, 54, 56, 57が適所に配置されている。58はシール付きベアリングである。
第1の実施形態における2段変速機の動作を説明すると、図1においては、電磁コイル46は通電されず、弾性体44の弾性力によってドグクラッチ28は締結(突起部26-1はサンギヤ18の凹部18-2と係合)、摩擦クラッチ30は非締結(摩擦クラッチ駆動部26-4は受圧部16-2から後退)となる。走行用電動機からの回転駆動力は、遊星歯車機構13のリングギヤ20が車体に固定されたハウジング10に拘束されているため、電動機からの回転は、入力軸11とスプライン溝11-1にて嵌合するアーマチュア保持板29より、クラッチ突部26-1とクラッチ凹部18-2の係合部より遊星歯車機構13のサンギヤ18に伝達される。そのため、サンギヤ18の回転に対して歯数に応じた減速比でキャリア16に回転駆動力が伝わり、キャリア16の回転によりスプライン26-1aにスプライン嵌合する出力軸が回転駆動される。このときの入力軸11(サンギヤ18)に対する出力軸12(キャリア16)の回転比は、周知のように、サンギヤの歯数Zs、リングギヤの歯数ZrとしたときZs/(Zs+Zr)、即ち、減速となる。
電磁コイル46が通電されると、電磁コイル46に生ずる磁束はアーマチュア26を弾性体44の弾性力に抗して図2のように右方に移動させる。このとき、突起部26-1はサンギヤ18の凹部18-2から抜け、ドグクラッチ28は非締結状態となる。他方、キャリア部分16´の摩擦クラッチ駆動部26-4は受圧部16-2との間で、ドリブンプレート34を、クラッチフエーシング38を介してドライブプレート32と挟着し、摩擦クラッチ30は締結状態となる。電動機からの回転は、アーマチュア保持板29より、ドライブプレート32, クラッチフエーシング38、ドリブンプレート34よりキャリア16に伝達する。即ち、この場合、入力軸11の回転がそのまま1対1でキャリア16を介して出力軸12に伝わる。
この実施形態では、車両の低車速運転時は、変速機は図1に関し説明したように減速にて運転し、常用運転で高い電動機効率を得ることができ、しかも、ドグクラッチ28は弾性体44の弾性力により締結状態を得ることができ、電磁コイル46の通電をしなくてすむため、常用運転域での一層の高エネルギ効率を得ることができる。また、高車速運転時(図2)は電磁コイル46を通電することにより、ドグクラッチ28は非締結となりギヤ比としては1対1であるが相対的には増速となり、その分電動機の回転数を高効率の常用回転域まで下げることができるため、高車速運転時の電動機の高効率の運転状態を確保することができる。
次に第1の実施形態の2段変速機におけるはねかけ式の潤滑装置について説明する。即ち、カバー10´とで密閉された空間Sを形成するハウジング10内に潤滑油が密封収容される。潤滑油は2段変速機の停止時はハウジング10の底部の図示しないオイルパンに溜まるが、その液面高さは、図示はしないが、回転軸(入出力軸11, 12)の下方のハウジング10の1/4程度の高さであり、2段変速機の回転により潤滑油を掻き揚げ、潤滑油の飛沫を形成し、要潤滑部に給油するのが周知のはねかけ式の潤滑装置の仕組みである。しかしながら、この方式の潤滑においては、別設のオイルポンプを使用した潤滑方式と比較して、潤滑が飛沫の勢いのみに依拠する潤滑方式であるため、表面に露出していない要潤滑部への潤滑油の回りが良くなく、例えば、遊星歯車機構13のピニオン14を軸支するピニオンピン21、ニードルベアリング22等の部位においては潤滑不足の懸念があった。本実施形態は、かかる懸念に対処し得る、はねかけ式の潤滑装置の構成に向けられたものであり、回転による潤滑油に生ずる遠心力の利用により、潤滑油ポンプを使用することなく、はねかけのみでは潤滑油の回りが良くない要潤滑部位までの確実な給油が行い得るように工夫されたものである。以下の潤滑装置の構成は2段変速機の動作如何には基本的に関わらないので(図1と図2とで同一なので)、潤滑装置の構成の説明は図2を参照して行う。即ち、隔壁部材60はハウジング10の内面に対峙しつつ出力軸12の鉛直上方に延設された直立壁60-1と、直立壁60-1の下端に連なり、軸方向にハウジング10の内面に向けて延びる底壁60-2と、底壁60-2より出力軸12に向けて延直下方に延びる出口壁60-3と、を備える。直立壁60-1は図4に示すように底壁60-2に向けては先窄まりとなり、直立壁60-1は図5に示すように断面コの字状をなし、直立壁60-1の側壁部60-1aはハウジング10の内面に当接・密着するように水平に延びる。これにより、鉛直上方に開口し、水平方向の両側では閉塞し、鉛直下方に向け絞られた潤滑油貯留室62(本発明の隔室)が隔壁部材60とハウジング10の内面との間に形成される。出口壁60-3は、潤滑油貯留室62の絞られた下端において、両側がハウジング10の内面に当接するように延びており、ハウジング10の内面との間に排出口64を形成し、排出口64は出力軸12の外面に近接して対向位置する。隔壁部材60の底壁60-2は上面が水平若しくは排出口64に向け幾分下方に傾斜した平面をなすが、下面は出力軸12と同心な環状支持部60-4 (図4)に連なる。
回転する出力軸12に対する潤滑油貯留室62の軸封のため、排出口64を挟んでシール左右に一対のシール機構66, 68(図2)が設けられる。シール機構66の断面が略々逆L状の弾性材より成る本体部分は、隔壁部材60の環状支持部60-4の内周面と出力軸12の外周面間に嵌着され、金属製のシールリング66-1による押し付け力により回転する出力軸12の外周面に対する軸封を行う。シール機構68は、ハウジング10の筒状部分10-1と出力軸12間に配置され、シール機構66と同様に機能する。これにより、回転する出力軸12に対する潤滑油貯留室62の軸封機能が得られる。
この実施形態では、はねかけ式の潤滑方式において潤滑油の周りが最も懸念される遊星歯車機構13のピニオン14の支持軸となるピニオンピン21のニードルベアリング22との回転部分の潤滑を、潤滑油貯留室62に溜められた潤滑油により行うようにしている。即ち、給油孔70(本発明の第1の油路)がキャリア16の略々半径方向に設けられ、給油孔70の外周端部はピニオンピン21の中心孔21-1に近接し開口するように設けられる。給油孔70とピニオンピン21の中心孔21-1とは直接接続していなくても、両者の連通を確保し得る多少の間隔おいて位置させても良い。ピニオン14は4個(図6はそのうち3個を図示)設けられ、給油孔70は各ピニオン14の中心に穿設されたピニオン孔21-1に連通するようにキャリア70の内部に十字状に設けられている。ピニオン孔21-1にはニードルベアリング22との対向面に潤滑油を導く円周方向若しくは軸方向に離間した適当な数の小孔21-2が開口される。給油孔70は内周側では出力軸12の軸方向に設けられた中心油孔(本発明の第2の油路)72に連通している。そして、中心油孔72は、給油孔70から離間側の端部に半径方向延出部72-1を有しており、半径方向延出部72-1はシール機構66, 68間における出力軸12の外周面に開口し、中心油孔72はシール機構66, 68によって軸封された潤滑油貯留室62の底部に排出口64を介して連通する。中心油孔72は、図3では円周方向に等間隔に4個の半径方向延出部72-1を有するように図示されているが、受油部72-1の個数については限定的でなく、また、中心油孔72の半径方向延出部72-1の軸径や形状は、潤滑油貯留室62から重力下落下して来る潤滑油を、出力軸12の回転による遠心力の影響があっても、確実に中心油孔72に導くことができるように形成すべきものである。
この実施形態の潤滑装置に動作について説明すると、入力軸11の回転はドグクラッチ28の締結時 (図1)は減速して出力軸12に伝達され、摩擦クラッチ30の締結時(図2)は1対1(相対的増速)で出力軸12に伝達される。回転軸(入力軸11及び出力軸12)の回転による遊星歯車機構13の回転部の回転は潤滑油を掻き揚げ、掻き揚げられた潤滑油は、飛沫となって、ドグクラッチ28の噛合部(18-2, 26-1)、摩擦クラッチ30のクラッチフエーシング38、ピニオン14とリングギヤ20及びサンギヤ18との噛合部等の要潤滑部の潤滑を行う。掻き揚げられた潤滑油の一部はハウジング10の底部に戻るが、残りは矢印e(図2)のように、潤滑油貯留室62に導かれ、底部の排出口64が絞られていることから、潤滑油貯留室62には適当な量の潤滑油がいつも溜められている(液面レベルをLにて示す)。潤滑油貯留室62の潤滑油は排出口64より出力軸12の外周面に向け重力下落下する(矢印f)。重力落下した潤滑油は出力軸12に形成される半径方向延出部72-1により受け止められ、中心油孔72に導かれる(矢印g)。出力軸12の回転により半径方向延出部72-1内の潤滑油にかかる遠心力は、潤滑油貯留室62から排出口64を経由して中心油孔72に導く動作の障害要因となり得るが、液面Lの高さ(重力の大きさ)や半径方向延出部72-1の孔径や本数や形状の工夫により、出力軸12の回転による遠心力の影響に関わらず潤滑油貯留室62内に溜められる潤滑油を重力の影響下、中心油孔72を介して潤滑油を給油孔70内における潤滑油貯留室62の液面に一致する又はそれより少し低い位置まで空気を残さずに満たすことができる。そして、このように給油孔70に空気を残すことなく溜められた潤滑油が呼び水となって、給油孔70の回転による遠心力下給油孔70から半径外方への潤滑油の流れを生じさせることができる。即ち、給油孔70中に溜められた潤滑油には中心軸からの半径値に比例する遠心力が生じ、外周程程潤滑油に加わる遠心力は大きくなる。即ち、遠心力は給油孔70中の潤滑油を半径外方に付勢し、潤滑油の圧力で見ると内径部に比べて外径部程値は小さくなり、このような給油孔70内の潤滑油の内径と外径と圧力差により給油孔70の内径側から外径側への潤滑油の流れが惹起される。その結果、給油孔70からピニオンピン21の中心孔21-1の潤滑油の流れ(矢印h)を得ることができ、小孔21-2よりニードルベアリング22との対向面に潤滑油を供給することができ、潤滑油の飛沫の回りが十分ではないピニオンピン21の内部の良好な潤滑を実現することができる。
本実施形態において、要潤滑部であるピニオンピン21の中心孔21-1への良好な給油のためには給油経路において途切れることのない潤滑油の流れを生成すること、即ち、シール66, 68等に不可避的に生ずる間隙部分からの空気の混入を防止するため潤滑油が給油経路に密に詰められていることが肝要であるが、そのため、潤滑油貯留室62から軸心の中心油孔72までの経路の低い流路抵抗と、径方向の給油孔70での大きな遠心負圧が好ましく、そのため中心油孔72及びの内径D>給油孔70の内径dとすること(図2)により好結果が得られた。
図7は第2の実施形態を示しており、ドグクラッチ28と摩擦クラッチ30とを備え、低車速時はドグクラッチ28の締結、摩擦クラッチ30の非締結による減速、高車速時はドグクラッチ28の非締結、摩擦クラッチ30の締結による1対1(相対的増速)を行う2段変速機の点については第1の実施形態と相違するところがない。相違点は潤滑装置に関わる構成のみであるので、相違点に絞って、構成を説明すると、キャリア16と一体回転する入力軸111は出力軸112と同一側、即ち、ハウジング10側に設けられ、出力軸112は環状をなす。潤滑油貯留室162が入力軸111の端面とカバー10´との間に設けられる。潤滑油貯留室162を形成するための隔壁部材160は、図8及び図9に示すように、直立壁160-1と上部壁160-2と側壁160-3とを備える。直立壁160-1は入力軸111と同芯になす円形開口160-1aを形成し、入力軸111のカバー10´側の端部は直立壁160-1の円形開口160-1aを超えて、カバー10´に向けてカバー10´とは適当な間隔を残して延設される。図10に示すように、側壁160-3は断面U字形状をなして直立壁160-1(図9)より軸方向にカバー10´と当接するべく延設される。これにより、上面160-2において開口した潤滑油貯留室162が形成される(潤滑油貯留室162の開口部を162-1にて示す)。そして、適宜な弾性を帯びた環状シール機構166が直立壁160-1の円形開口160-1aの内面と入力軸111外面との間に配置され、金属製のシールリング166-1が環状シール機構166を直立壁160-1の円形開口160-1a及び入力軸111の対向面に押し付けるように設けられ、これにより、入力軸111の端面とカバー10´との間の潤滑油貯留室162の軸封を確保している。
図7に示すように、中心油孔172(本発明の第2の油路)は入力軸111の軸心を延設され、一端は潤滑油貯留室162に開口する。また、中心油孔172は、他端に、夫々が半径方向に延びる円周方向に間隔をおいた適当な数の半径方向延出部172-1を有する。半径方向延出部172-1は入力軸111の外周面に開口する。この実施形態では遊星歯車機構13のキャリア16に設けられた給油孔170(本発明の第1の油路)の内端はキャリア16の内面に留まり、入力軸111の外面 (中心油孔172の半径方向延出部172-1の開口面)と対向位置する。そして、給油孔170と中心油孔172の半径方向延出部172-1との接続部の軸封のため一対のシールリング90, 92が給油孔170と半径方向延出部172-1の接続部を軸方向に挟むように設けられる。そして、ハウジング10と出力軸112間の軸封のためシール機構168がハウジング10の筒状部分10-1と出力軸112間に配置され、シール機構168の弾性材より成る本体部分は、金属製のシールリング168-1による押し付け力により回転する出力軸112の外周面に対する軸封を行う。シール機構168はシール機構166と同様に機能する。これは、延いては、回転する出力軸112に対する潤滑油貯留室162の軸封に寄与する。
以上の第2の実施形態の潤滑装置の動作を説明すると、入力軸111の回転によりかきあげられた潤滑油は、飛沫となって、ドグクラッチ28の噛合部、摩擦クラッチ30の摺動面、遊星歯車機構13の噛合部等の要潤滑部の潤滑を行うことは第1の実施形態の潤滑装置と同様である。掻き揚げられた潤滑油は最終的には重力落下するが、その一部は隔壁部材160の上端の開口部を介して矢印j(図7)のように、潤滑油貯留室162に導かれ、隔壁部材160の底部は閉鎖していることから(図10)、潤滑油貯留室162には満杯近い量の潤滑油がいつも溜められているようになっている。潤滑油貯留室162の潤滑油は、中心油孔172の全長及び中心油孔172を満たす。そして、給油孔170の潤滑油は、シール90, 92による軸封により給油孔170の下部における潤滑油貯留室162の液面の高さまでの部位をも気泡の残存なしに満たす。一旦この状態が確立されると、給油孔170の回転による遠心力は、第1の実施形態と同様に給油孔170の潤滑油にかかる圧力を内周部は高く外周部で低くするため、この圧力差により給油孔170から半径外方への潤滑油の流れ(矢印m)が生じさせることができる。その結果、給油孔170からピニオンピン21の中心孔21-1の潤滑油の流れ(矢印k)を得ることができ、小孔21-2よりニードルベアリング22との対向面に潤滑油を供給することができ、潤滑油の飛沫の回りが十分ではないピニオンピン21の内部の良好な潤滑を実現することができる。この実施形態においては、入力時の遠心力により中心油孔172の半径方向延出部172-1における潤滑油にかかる遠心力は給油孔170に潤滑油を導く方向であるため、潤滑油貯留室162の液面高さが低くても、遠心力下での、中心油孔172から給油孔170へのスムースな潤滑油の流れを得ることができる。
この第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、潤滑油貯留室162から軸心の中心油孔172に至る経路の低い流路抵抗と径方向の給油孔170での大きな遠心負圧が好ましく、そのため中心油孔172の内径D´>給油孔170の内径d´とすることにより好結果が得られた。
図11は第3の実施形態を示しており、一端がカバー10´の上部(摩擦クラッチ30の外周筒状部26-3等の回転部品との対向部)に接続され、他端が潤滑油貯留室62の上方においてハウジング10内部に開口した潤滑油補充通路86が設置され、潤滑油補充通路86にチェック弁80が設けられる。チェック弁80はボール状弁体82を備え、弁体82はスプリング84により弁座となるカバー10´の開口部を閉鎖付勢している。スプリング84のばね力は、ハウジング内で遠心力下潤滑油に生ずる旋回流に当たることより弁体82がリフトす得るに適度に弱く設定されているため、潤滑油補充通路86を介して潤滑油貯留室62に潤滑油を補充供給することができる。ハウジング内の外周筒状部26-3等の回転部品との対向部の設置部分は円周方向の任意箇所であるが、ハウジングの上面部分に設置することが潤滑油の効率的な補充機能のためには好ましい。また、チェック弁80は潤滑油貯留室62に溜めた潤滑油のハウジング内部への逆流を阻止するためにも機能する。
第1から第3の実施形態は、はねかけ式の潤滑方式への本発明の応用に向けられているが、本発明ははねかけ式の潤滑方式に限定されず、潤滑のためはねかけを行わず純粋に本発明の軸流方式に依拠した潤滑方式とすることができる。即ち、通常の軸流方式の潤滑においてはポンプにより生じた高圧の潤滑油を軸流方式により要潤滑部に導くようにするが、通常の軸流方式に模して、潤滑油ボンプを使用することなく軸流方式の潤滑のみにより各要潤滑部の潤滑を行うようにすることができる。これを図11において説明すれば、給油孔70において潤滑油に加わる遠心力下生ずる径方向圧力差により、図2の説明と同様貯留室62から中心油孔72及び給油孔70を経由してピニオンピン21の中心孔21-1に向けた潤滑油の流れ(矢印g,h)を生成させ、ピニオン14のジャーナル22の潤滑を行う。その後、潤滑油のハウジング内方及び外方に外方の流れ(矢印m, n, p, q)により遊星歯車機構13及び摩擦クラッチ30等の変速機内部の要潤滑部の潤滑を行う。潤滑後の一部の潤滑油は矢印eのように貯留室62に向かい、ここに収容される。
10…ハウジング
11, 111…入力軸
12, 112…出力軸
13…遊星歯車機構
16…キャリア
18…サンギヤ
20…リングギヤ
21…ピニオンピン
21-1…ピニオン孔
22…ニードルベアリング
26…アーマチュア
28…ドグクラッチ
29…アーマチュア保持板
30…摩擦クラッチ
44…弾性体
46…電磁コイル
60…隔壁部材
62, 162…潤滑油貯留室
64…排出口
66, 68, 166, 168…シール機構
70, 170…給油孔 (本発明の第1の油路)
72, 172…中心油孔(本発明の第2の油路)
72-1, 172-1…中心油孔の半径方向延出部
90, 92…シールリング
11, 111…入力軸
12, 112…出力軸
13…遊星歯車機構
16…キャリア
18…サンギヤ
20…リングギヤ
21…ピニオンピン
21-1…ピニオン孔
22…ニードルベアリング
26…アーマチュア
28…ドグクラッチ
29…アーマチュア保持板
30…摩擦クラッチ
44…弾性体
46…電磁コイル
60…隔壁部材
62, 162…潤滑油貯留室
64…排出口
66, 68, 166, 168…シール機構
70, 170…給油孔 (本発明の第1の油路)
72, 172…中心油孔(本発明の第2の油路)
72-1, 172-1…中心油孔の半径方向延出部
90, 92…シールリング
Claims (6)
- ハウジングと、ハウジングに対し回転可能に支持される回転軸と、回転軸により回転駆動される回転駆動機構とを備え、ハウジングに収容される潤滑油により回転駆動機構における要潤滑部の潤滑を行う回転駆動機の潤滑装置であって、
回転軸に略々中心線に沿って形成された第1の油路と、
回転軸の中心側から外径側に延設され、回転軸の回転に応じて回転し、第1の油路の一端と連通する内周端と、回転駆動機構の要潤滑部と近接して対向した外周端とを有した第2の油路と、
ハウジングに対し固定的に配置され、第1の油路の他端が連通し、ハウジング内に収容された潤滑油の一部を回収しかつ蓄積するための隔室を形成する環状隔壁部材と、
回転部材とハウジング及び/若しくは環状隔壁部材間に配置され、回転軸の回転に係わらず前記隔室の軸封を行う軸封機構と、
を具備して成り、第2の油路の前記外周端において潤滑油に加わる大きな遠心力と前記内周端において潤滑油に加わる小さな遠心力との遠心力差に基づき、第1の油路及び第2の油路を介して、隔室に収容された潤滑油を潤滑必要部まで給油することを特徴とする回転駆動機の潤滑装置。 - 請求項1に記載の発明において、第1の油路の内径は第2の油路の内径より大きくされた回転駆動機の潤滑装置。
- 請求項1若しくは2に記載の発明において、ハウジングの内部空洞と前記隔室とを接続する通路と、該通路にハウジングから隔室への潤滑油の1方向の流れを許容するように配置されたチェック弁と更に具備した回転駆動機の潤滑装置。
- 請求項1から3のいずれか一項に記載の発明において、回転駆動機は遊星歯車機構を備えた2段変速機であり、第2の油路の前記一端の開口部は、潤滑必要部としての遊星歯車機構のピニオンの支持軸部に近接して開口する潤滑装置。
- 請求項1から4のいずれか一項に記載の発明において、前記環状隔壁部材はハウジングに対向して設置され、前記隔室は回転軸の周りにおいて環状をなす潤滑装置。
- 請求項1から4のいずれか一項に記載の発明において、前記環状隔壁部材は回転軸のハウジング端面と対向するように配置され、前記隔室は回転軸端面と対向して設置される潤滑装置。
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JP2020031437A JP2021134851A (ja) | 2020-02-27 | 2020-02-27 | 回転駆動機の潤滑装置 |
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Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
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JP2020031437A Pending JP2021134851A (ja) | 2020-02-27 | 2020-02-27 | 回転駆動機の潤滑装置 |
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2020
- 2020-02-27 JP JP2020031437A patent/JP2021134851A/ja active Pending
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