JP2021134304A - 加脂処理組成物及び該加脂処理組成物を用いた皮革の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明に係る加脂処理組成物は、水と、α−モノアルキルグリセリルエーテル、スフィンゴ糖脂質、水添レシチン、及び、水添リゾレシチンからなる群から選ばれる少なくとも1種の界面活性成分と、油剤と、を必須成分として含み、任意成分として、サポニンを含み、常温において液状である。
【選択図】 なし
Description
なお、前記加脂処理組成物は、界面活性成分を介して油剤を水に分散させた組成物であり、前記界面活性成分としては、例えば、合成界面活性剤(例えば、下記特許文献1に記載されているようなリン酸エステルアミン塩のようなアニオン界面活性剤またはポリオキシアルキレンアルキルエーテルのような非イオン界面活性剤)が用いられている。
そして、前記加脂処理組成物中においては、前記界面活性剤は前記油剤を保持している。
水と、
α−モノアルキルグリセリルエーテル、スフィンゴ糖脂質、水添レシチン、及び、水添リゾレシチンからなる群から選ばれる少なくとも1種の界面活性成分と、
油剤と、を必須成分として含み、
任意成分として、サポニンを含み、
常温において液状である。
前記油剤は、ホホバオイル、ココナッツオイル、シアバター、カカオバター、ライスワックス、及び、パームオイルからなる群から選ばれる少なくとも1種の植物油脂であることが好ましい。
前記α−モノアルキルグリセリルエーテルは、セラキルアルコール、バチルアルコール、及び、キミルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
グリセリン、ブチレングリコール、1,2−ヘキサンジオール、及び、プロパンジオールからなる群から選ばれる少なくとも1種のポリオールをさらに含むことが好ましい。
鞣された原皮を、上記の加脂処理組成物を用いて加脂処理する。
本実施形態に係る加脂処理組成物は、水と、α−モノアルキルグリセリルエーテル、スフィンゴ糖脂質、水添レシチン、及び、水添リゾレシチンからなる群から選ばれる少なくとも1種の界面活性成分と、油剤と、を必須成分として含む。
また、本実施形態に係る加脂処理組成物は、任意成分として、サポニンを含む。
さらに、本実施形態に係る加脂処理組成物は、常温(23±2℃)において液状である。
なお、本明細書において、加脂処理組成物が常温において液状であるとは、3mLの加脂処理組成物を平面寸法10cm×10cmのガラス板の表面に載置したときに、ガラス板表面からの加脂処理組成物の高さが1mm以下となることを意味する。
前記第1界面活性成分がα−モノアルキルグリセリルエーテルである場合、α−モノアルキルグリセリルエーテルとしては、セラキルアルコール、バチルアルコール、及び、キミルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。すなわち、上記群に含まれる3種の内の1種を単独で用いてもよく、3種の内の2種を組み合わせて用いてもよく(例えば、セラキルアルコールとバチルアルコールとを組み合わせて用いてもよく)、または、3種全てを組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、セラキルアルコールを単独で用いることがより好ましい。
上記セラキルアルコール、バチルアルコール、及び、キミルアルコールとしては、市販されているものを用いることができる。セラキルアルコールとしては、例えば、日光ケミカルズ社製の商品名「NIKKOL セラキルアルコール V」を用いることができ、バチルアルコールとしては、例えば、日光ケミカルズ社製の商品名「NIKKOL バチルアルコール 100」、商品名「NIKKOL バチルアルコール EX」を用いることができ、キミルアルコールとしては、例えば、日光ケミカルズ株式会社製の商品名「NIKKOL キミルアルコール 100」を用いることができる。
スフィンゴ糖脂質としては、市販されているものを用いることができ、例えば、キッコーマン社製のバイオスフィンゴ、大日本化成社製のビオセラ(BIOCERA)G及びビオセラ(BIOCERA)QD、日本触媒社製のスフィンゴモナス培養エキス、並びに、オリザ油化社製のオリザセラミド(登録商標)−PC及びPC8、オリザセラミド(登録商標)−WSPC及びWSPC8、オリザセラミド(登録商標)−LC及びLC0.8等を用いることができる。
これらの中でも、比較的安価であり、かつ、比較的臭気が弱い点から、キッコーマン社製のバイオスフィンゴを用いることが好ましい。
本実施形態に係る加脂処理組成物が、前記群に含まれる界面活性成分としてスフィンゴ糖脂質を含む場合、スフィンゴ糖脂質は、水100質量部に対して、0.05質量部以上1質量部以下含まれていることが好ましい。
水添レシチン及び水添リゾレシチンとしては、市販されているものを用いることができる。例えば、水添レシチンとしては、例えば、日光ケミカルズ社製の商品名「NIKKOL レシノール S−10」、商品名「NIKKOL レシノール S−10M」、商品名「NIKKOL レシノール S−10EX」、商品名「NIKKOL レシノール S−PIC」、商品名「NIKKOL レシノール S−10E」、商品名「NIKKOL レシノール S−10M PLUS」、辻製油社製の商品名「SLP−ホワイトH」、商品名「SLP−PC70HS」、商品名「SLP−92」、LUCUS MEYER COSMETICS社製の商品名「EMULMETIK 220」、商品名「EMULMETIK 950」、及び、日本精化社製の商品名「Phytocompo(登録商標)−PP」等を用いることができる。
また、水添リゾレシチンとしては、例えば、日光ケミカルズ社製の商品名「NIKKOL レシノール LL−20」、辻製油社製の商品名「SLP−ホワイトリゾH」、商品名「SLP−LPC70H」、及び、日本精化社製の商品名「LP70H」等を用いることができる。
また、水添レシチン及び水添リゾレシチンは、大豆由来のものであることが好ましい。
本実施形態に係る加脂処理組成物が、前記群に含まれる界面活性成分として水添レシチンを含む場合、水添レシチンは、水100質量部に対して、0.5質量部以上3質量部以下含まれていることが好ましい。
本実施形態に係る加脂処理組成物が、前記群に含まれる界面活性成分として水添リゾレシチンを含む場合、水添リゾレシチンは、水100質量部に対して、0.5質量部以上3質量部以下含まれていることが好ましい。
植物油脂は、植物(例えば、ココヤシの果実であるココナッツ)から抽出された油脂である。
前記油剤は、水100質量部に対して、10質量部以上20質量部以下含まれていることが好ましい。
これらの中でも、植物油脂としては、ホホバオイル、ココナッツオイル、シアバター、カカオバター、ライスワックス、及び、パームオイルからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
ホホバオイル、ココナッツオイル、シアバター、カカオバター、ライスワックス、及び、パームオイルは、酸化に対する安定性が高く、かつ、紫外線からのバリア機能が極めて高いという特性を有することから、本実施形態に係る加脂処理組成物に植物油脂として含ませると、該加脂処理組成物によって加脂処理された皮革は、酸化及び日光の照射による変色がより生じ難いものとなる。
前記ワックスエステルは、長鎖脂肪酸と脂肪族アルコールとがエステル結合された化合物である。前記脂肪酸としては、エイコセン酸、ドコセン酸、オレイン酸などが挙げられ、前記脂肪族アルコールとしては、エイコセノール、ドコセノールなどが挙げられる。
前記ワックスエステルの組成は、C38エステルが6質量%、C40エステルが30%、C42エステルが49%、及び、C44エステルが8質量%となっている。
ホホバオイルとしては、市販されているものを用いることができ、例えば、生活の木社製の商品名「ホホバオイルクリア」、香栄興業社製の精製ホホバ油等を用いることができる。
ココナッツオイルとしては、市販されているものを用いることができ、例えば、生活の木社製の商品名「精製ココナッツオイル」、FLORIHANA社製の商品名「未精製オーガニックココナッツオイル」等を用いることができる。
シアバターとしては、市販されているものを用いることができ、例えば、生活の木社製の商品名「精製シアバター 100g」等を用いることができる。
カカオバターとしては、市販されているものを用いることができ、例えば、生活の木社製の商品名「ココアバター 30g」等を用いることができる。
ライスワックスとしては、市販されているものを用いることができ、例えば、ボーソー油脂社製の商品名「HC−35」等を用いることができる。
パームオイルとしては、市販されているものを用いることができる。例えば、生活の木社製の商品名「ホワイトパームオイル 1kg」等を用いることができる。
すなわち、サポニンは、本実施形態に係る加脂処理組成物が常温において固体状となる場合であっても、該加脂処理組成物を液状(ゾル状)に維持する。
サポニンは、アグリコン(配糖体の非糖部(すなわち、トリテルペンまたはステロイド構造部分)。サポニンの場合にはサポゲニンともいう。)の種類により、トリテルペノイドサポニンとステロイドサポニンとに大別され、トリテルペノイドサポニンは、五環性のオレアナン(oleanane)系サポニン(オレアナン系トリテルペンをアグリコンとするサポニン)と四環性のダンマラン(dammarane)系サポニン(ダンマラン系トリテルペンをアグリコンとするサポニン)とにさらに大別される。
オレアナン系サポニンは、大豆、イトヒメハギの根、カンゾウの根、キキョウの根、アケビの茎に含まれており、ダンマラン系サポニンは、オタネニンジンの根、ナツメの実に含まれている。
すなわち、オレアナン系サポニン及びダンマラン系サポニンは、上記のような植物から抽出することにより得ることができる。
ステロイドサポニンは、ユリ科、ヤマノイモ科などの単子葉植物の多くに含まれており、これらの植物から抽出することにより得ることができる。
上記のようなサポニンの中でも、トリテルペノイドサポニンを用いることが好ましく、トリテルペノイドサポニンの中でも、オレアナン系サポニンを用いることが好ましく、オレアナン系サポニンの中でも、大豆から抽出したサポニン(いわゆる、大豆サポニン)を用いることが好ましい。
前記サポニンとして、米山薬品工業社から市販されているものを用いることができる。
さらに、本実施形態に係る加脂処理組成物がサポニンを含む場合、前記群から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤に質量部に対するサポニンの質量部の比は、0.25以上4以下であることが好ましい。
このような場合、複数本のコラーゲン線維同士は、伸縮性が低下したエラスチン線維によって束ねられるため、エラスチン線維に伸縮性が回復しない限りにおいては、多数の線維性コラーゲン分子は、自由に動き難くなって、多数の線維性コラーゲン分子間に油剤を十分に浸透させ難くなる。その結果、鞣された原皮を加脂処理したとしても、十分な風合い(柔軟性、触感の良さ(手触りの良さ)、及び、光沢性)を付与できなくなると考えられる。
これにより、多数の線維性コラーゲン分子は、エラスチン線維で束ねられた状態においても、比較的自由に動き易くなって、多数の線維性コラーゲン分子間に、前記界面活性成分に保持された油剤が浸透され易くなったと考えらえる。
その結果、本実施形態に係る加脂処理組成物で加脂処理された原皮は、十分な風合いを有するものになったと考えられる。
なお、図2に示したように、後述する鞣し工程後の前記原皮の表面側には、主として、エラスチン線維が配されていることから、エラスチン線維に対して比較的親和性が高いと考えられる前記界面活性剤を含む加脂処理組成物を用いて、鞣し工程後の前記原皮を加脂処理すると、前記原皮の表面側のエラスチン線維にも同様の効果が奏されると考えられる。
すなわち、本実施形態に係る加脂処理組成物は、上記群に含まれる4種の内の1種を単独で含んでいてもよく、4種の内の2種を組み合わせて含んでいてもよく、4種の内の3種を組み合わせて含んでいてもよく、4種の全てを組み合わせて含んでいてもよい。
これらの中でも、グリセリン、ブチレングリコール、1,2−ヘキサンジオール、及び、プロパンジオールの4種全てを組み合わせて含んでいることがより好ましい。
また、グリセリンは、水100質量部に対して、1.0質量部以下含まれていることが好ましく、0.7質量部以下含まれていることがより好ましい。
本実施形態に係る加脂処理組成物がブチレングリコールを含む場合、ブチレングリコールは、水100質量部に対して0.1質量部以上含まれていることが好ましく、0.5質量部以上含まれていることがより好ましい。
また、ブチレングリコールは、水100質量部に対して、1.0質量部以下含まれていることが好ましく、0.7質量部以下含まれていることがより好ましい。
本実施形態に係る加脂処理組成物が1,2−ヘキサンジオールを含む場合、1,2−ヘキサンジオールは、水100質量部に対して、0.1質量部以上含まれていることが好ましく、0.2質量部以上含まれていることがより好ましい。
また、1,2−ヘキサンジオールは、水100質量部に対して、1.0質量部以下含まれていることが好ましく、0.4質量部以下含まれていることがより好ましい。
本実施形態に係る加脂処理組成物がプロパンジオールを含む場合、プロパンジオールは、水100質量部に対して、0.1質量部以上含まれていることが好ましく、0.2質量部以上含まれていることがより好ましい。
また、プロパンジオールは、水100質量部に対して、1.0質量部以下含まれていることが好ましく、0.4質量部以下含まれていることがより好ましい。
前記グルコオリゴ糖としては、例えば、日光ケミカルズ社製の商品名「BIOECOLIA」が挙げられる。
使用者の皮膚に直に触れる皮革製品の製造材料として用いられる皮革を得るための加脂処理組成物が、前記グルコオリゴ糖を含んでいることが好ましい理由について、以下に説明する。
そして、前記表皮ブドウ球菌は、グリコオリゴ糖を資化する(栄養源として利用する)ことによって増殖される。
これにより、使用者の皮膚において、前記表皮ブドウ球菌を増殖させることができるので、使用者の皮膚の潤いを保ったり体臭の原因となる菌の増殖を抑制したりすることができる。そのため、使用者の皮膚に直に触れる皮革製品の製造材料として用いられる皮革を得るための加脂処理剤は、前記グリコオリゴ糖を含んでいることが好ましい。
本実施形態に係る皮革の製造方法は、鞣された原皮を上記した加脂処理組成物を用いて加脂処理する。
なお、鞣された原皮とは、以下の鞣し工程後の原皮を意味する。
本実施形態に係る皮革の製造方法について、以下により詳細に説明する。
以下、各工程の詳細について説明する。
前記原皮は、通常、腐敗の進行を抑制すべく塩漬けされて保存されている。
そのため、前処理工程においては、まず、塩漬けされた前記原皮をドラムなどに入れて水漬け(ソーキング)し、前記原皮に含まれている塩分や前記原皮に付着している汚物などを除去するとともに、前記原皮に水分を含ませて、前記原皮を生皮(動物から剥ぎ取った直後の皮)に近い状態にまで戻す。
次に、生皮に近い状態にまで戻した前記原皮をアルカリ溶液(例えば、石灰乳)に浸漬させて脱毛処理を行う。この脱毛処理では、石灰乳によるアルカリにより前記原皮を膨潤させて前記原皮のコラーゲン線維を解す(ほぐす)とともに、前記原皮から、毛、脂肪分、及び、表皮層を分解除去する。
次に、脱毛処理された前記原皮にフレッシング(裏打ち)処理を行って、前記原皮に付着している肉片及び脂肪分などを取り除く。
次に、フレッシング処理後の前記原皮を再度アルカリ溶液に浸漬させて再石灰漬け処理を行い、前記原皮におけるコラーゲン線維の絡みを解す。
次に、再石灰漬け処理後の前記原皮に、脱灰・酵解処理を行う。脱灰処理では、酸または酸性塩などを用いて、前記脱毛処理においてアルカリ性となっている前記原皮を中和するとともに、前記原皮に付着している石灰乳由来のカルシウムを可溶化することにより溶出除去して、膨潤した前記原皮を膨潤前の状態にまで戻す。酵解処理では、酵素により前記原皮から不要なタンパク質を分解除去する。
以上のように前処理された後、前記原皮は、鞣し工程に供される。
前記原皮を鞣すための鞣し剤としては、一般に、クロム鞣し剤等が用いられるが、このような鞣し剤は、酸性条件下でないと前記原皮に浸透(吸収)され難い。
そのため、鞣し工程においては、まず、前記原皮に前記鞣し剤を浸透し易くするために、前記原皮を酸水溶液に浸漬させる浸酸処理を行う。
なお、廃液が環境に及ぼす負荷を軽減する観点から、鞣し剤としては、リン系化合物鞣し剤を用いることが好ましい。リン系化合物鞣し剤としては、Stahl社製の商品名「Granofin(登録商標)F−60」または商品名「Granofin(登録商標)F−90」などを用いることができる。
次に、浸酸処理後の前記原皮に前記鞣し剤を浸透させる鞣し処理を行う。この鞣し処理では、前記原皮に浸透された前記鞣し剤が前記原皮のコラーゲン線維と結合されて、前記原皮に耐熱性(40〜80℃)などの耐久性が付与される。
次に、鞣し処理後の前記原皮には、必要に応じて、前記原皮中から余分な水分を取り除く水絞り処理、肉面を削って前記原皮を一定の厚さとするシェービング(裏削)処理、及び、前記浸酸処理後に前記原皮に残存している酸をアルカリによって中和する中和処理を施す。中和処理を施すことにより、後段の加脂処理工程において、前記原皮中に加脂処理組成物を比較的均一に浸透させることができる。
以上のように鞣し処理された後、前記原皮は、加脂工程に供される。
加脂処理工程では、鞣し処理後の前記原皮に、上記した加脂処理組成物を浸透させる。これにより、前記原皮を皮革とした際に、該皮革に、風合い(柔軟性、触感の良さ、及び、光沢性)をもたせるとともに、耐水性を付与する。
ここで、上記した加脂処理組成物は、水と、α−モノアルキルグリセリルエーテル、スフィンゴ糖脂質、水添レシチン、及び、水添リゾレシチンからなる群から選ばれる少なくとも1種の界面活性成分と、油剤と、を必須成分として含み、任意成分として、サポニンを含み、常温において液状であるので、この加脂処理組成物を加脂処理工程に用いると、加脂処理された前記原皮において、前記前処理工程及び前記鞣し工程において変性により失われたと考えられるエラスチン線維の伸縮性をある程度回復させることにより、コラーゲン線維を構成する多数の線維性コラーゲン分子を比較的自由に動き易いものとし、その結果、多数の線維性コラーゲン分子間に油剤を浸透させ易くなる。そのため、後述する仕上げ工程を経て得られる皮革を、使用者が触れたときに、より柔らかみ及び手触りの良さが感じられ、かつ、視認したときに、より光沢が感じられるものとすることができる。すなわち、仕上げ工程を経て得られる皮革を、より風合いに優れたものとすることができる。
また、上記した加脂処理組成物は、天然由来の成分のみを含むことが好ましい。天然由来の成分を含むことにより、加脂処理工程後に生じる廃液を、比較的、環境負荷の少ないものとすることができる。また、上記した加脂処理組成物を天然由来の成分のみを含むものとすれば、得られた皮革を用いて製造された、手袋またはパンツなどのような人の皮膚に直に触れる皮革製品は、合成界面活性剤(例えば、リン酸エステルアミン塩のようなアニオン界面活性剤またはポリオキシアルキレンアルキルエーテルのような非イオン界面活性剤)含む加脂処理組成物で加脂処理された皮革を用いて製造された手袋やパンツなどの皮革製品に比べて、皮革製品と皮膚が触れることによって生じる皮膚の荒れ(肌荒れ)を比較的抑制することができる。
以上のように加脂処理された後、前記原皮は、仕上げ工程に供される。
仕上げ工程では、まず、前記原皮中の余分な水分を取り除き、前記原皮を伸ばす、水絞り・伸ばし処理を行う。水絞り・伸ばし処理は、例えば、サミング・セッティングマシンを用いて行うことができる。
次に、水絞り・伸ばし処理後の前記原皮は、前記原皮に残存する余分な水分をさらに除去すべく乾燥処理され、さらに、バイブレーションステーキングマシンや空打ちにより揉み解されて(ステーキング処理されて)、皮革が得られる。
塩漬けされたニホンジカの原皮について、前処理工程、鞣し工程、加脂処理工程、及び、仕上げ工程を、以下のようにして行い、実施例1に係る皮革を得た。
なお、以下の前処理工程及び鞣し工程は、主として、ドラム(Wuxi Hongyuan Leather Machinery Factory社製、製品名:R160)を用いて行った。
塩漬けされた一頭分のニホンジカの原皮について、以下の手順にしたがって前処理を行った。
(1)前記ドラム内に水道水12Lを入れた後、該水道水にニホンジカの原皮を浸漬させた状態で、常温(23±2℃)にて回転数7rpmで前記ドラムを30min間回転させた後、前記ドラムから水道水を排出させる。これを計2回行う。
(2)前記ドラム内に、水道水12Lと、水道水100質量部に対して0.5質量部のソーダ灰(炭酸ナトリウム)と、水道水100質量部に対して0.3質量部のFD−100(脱脂剤、泰光油脂化学工業株式会社製)とを入れて、常温にて、回転数7rpmで前記ドラムを30min間回転させた後、前記ドラムから水道水等を排出させる。
(1)前記ドラム内に、水道水12Lと、水道水100質量部に対して1.5質量部の水硫化ソーダとを入れて、常温にて、回転数7.0rpmで前記ドラムを30min間回転させた後、前記ドラムを30min間止め置く。
(2)前記ドラムを止め置いた状態で、前記ドラム内に、水道水100質量部に対して1.0質量部の硫化ソーダを入れて常温にて5min間放置した後、前記ドラム内に、水道水100質量部に対して2.0質量部の消石灰(水酸化カルシウム)を入れて常温にて30min間放置し、さらに、前記ドラム内に、水道水100質量部に対して2.0質量部の消石灰を追加で入れて常温にて30min放置する。
(3)常温にて回転数7.0rpmで前記ドラムを30min間回転させた後、前記ドラムの回転を止め、前記ドラムを止め置いた状態で、前記ドラム内に、水道水6Lを追加で入れ、回転数5.0rpmで前記ドラムを5min間常温にて回転させた後、前記ドラムから水道水等を排出させる。
(1)前記ドラム内に、水道水48Lを入れて、常温にて回転数5.0rpmで前記ドラムを30min間回転させて、前記原皮を水洗する。
(2)前記ドラムから水洗した前記原皮を取り出して、フレッシングマシンを用いてフレッシングを行う(前記原皮の表面に付着している肉片や脂肪を取り除く)。
(1)前記ドラム内に、水道水12Lを入れて、常温にて回転数10.0rpmで前記ドラムを30min間回転させて、前記原皮を水洗する。
(2)前記ドラム内に、水道水100質量部に対して1.0質量部のDECALTAR(登録商標)A−N(脱灰剤、Stal社製)を入れて、30℃にて回転数15.0rpmで前記ドラムを30min間回転させて予備脱灰した後、水道水100質量部に対して2.0質量部のDECALTAR(登録商標)A−Nを入れて、30℃にて回転数15.0rpmで前記ドラムを60min間回転させて主脱灰する。
(3)前記ドラム内に、水道水100質量部に対して1.0質量部のBASOZYM(登録商標)B−10(タンパク分解酵素、Stal社製)を入れて、30℃にて回転数15.0rpmで前記ドラムを60min間回転させて、前記原皮から不要なタンパク質を分解除去する。
(4)前記ドラム内から、脱灰・酵解処理に用いた水道水等を排出させた後、前記ドラム内に、水道水12Lを入れて、常温にて回転数10.0rpmで前記ドラム内を60min間回転させて前記ドラム内を洗浄し、洗浄後の水道水を前記ドラムから排出させる。
上記のごとく前処理工程に供した一頭分のニホンジカの原皮を、以下の手順にしたがって鞣し工程に供した。
(1)前記ドラム内に、水道水12Lを入れて、常温にて回転数15.0rpmで前記ドラムを30min間回転させる。
(2)前記ドラム内に、水道水100質量部に対して8.0質量部の海水還元塩(天然塩、NMソルト社製、商品名「洗條塩」)をさらに入れて、常温にて回転数15.0rpmで前記ドラムを20min間回転させる。
(3)前記ドラム内に、水道水100質量部に対して0.6質量部のギ酸(濃度76%)をさらに入れて、常温にて回転数15.0rpmで前記ドラムを20min回転させる。
(4)前記ドラム内に、水道水100質量部に対して0.8質量部の濃硫酸(濃度98%)をさらに入れて、常温にて回転数15.0rpmで前記ドラムを90min間回転させる。
(1)前記ドラム内に、水道水100質量部に対して2.0質量部のGranofin(登録商標)F−60(Stahl社製)を入れて、常温にて回転数15.0rpmで前記ドラムを60min間回転させる。
(2)前記ドラム内に、水道水100質量部に対して5.0質量部のTartan(登録商標)ASL(泰光油脂化学社製)をさらに入れて、常温にて回転数15.0rpmで前記ドラムを120min間回転させる。
(3)前記ドラム内に、水道水100質量部に対して1.5質量部のCoriagen(登録商標)CR II(BK社製)をさらに入れて、常温にて回転数15.0rpmで前記ドラムを30min間回転させる。
(4)前記ドラム内に、水道水100質量部に対して1.5質量部のギ酸ナトリウムをさらに入れて、常温にて回転数15.0rpmで前記ドラムを30min間回転させる。
(5)前記ドラム内に、水道水100質量部に対して0.5質量部の重炭酸ナトリウムをさらに入れて、回転数15.0rpmで前記ドラムを30min間回転させる。これを計4回行う。1回目及び2回目の処理においては、前記ドラム内の温度は30℃とし、3回目及び4回目の処理においては、前記ドラム内の温度は35℃とする。
(6)(5)を4回行った後、前記ドラムから水道水等を排出させる。
(7)前記ドラム内に、水道水12Lを再度入れ、さらに、該水道水100質量部に対して2.0質量部のTANICOR(登録商標)CRF(Stahl社製)を入れて、40℃にて回転数15.0rpmで前記ドラムを60min間回転させる。
(8)前記ドラム内に、水道水100質量部に対して0.03質量部のPREVENTOR(登録商標)WB(Lanksees社製)を入れて、40℃にて回転数15.0rpmで前記ドラムを30min間回転させた後、前記ドラムから水道水等を排出させる。
(9)前記ドラム内に、水道水12Lを再度入れ、常温にて回転数5.0rpmで前記ドラムを10min間回転させた後、前記ドラムから水道水を排出させる。
減圧低温加熱調理器(エスペック社製、商品名:EVC−220)を用いて、以下の処理条件にて行った。
処理条件
・温度:50℃
・大気圧から90hPaまで減圧し(1min)、90hPaで保持し(3min)、保持後に大気圧まで開放してアイドリングする(2min)。これを1サイクルとして、20サイクル繰り返す。すなわち、温度50℃にて、120minかけて鞣された皮革を処理する。
加脂処理に供される原皮としては、鞣された原皮から平面寸法3cm×6cmの矩形状に切り出したものを用い、加脂処理は、原皮を加脂処理組成物に浸漬させた状態で行った。
加脂処理組成物としては、精製水300g(mL)、ホホバオイル30g、α−モノアルキルグリセリルエーテル8g、及び、サポニン2gを含むものを用いた。ホホバオイルとしては、生活の木社製の商品名「ホホバオイルクリア」を用い、α−モノアルキルグリセリルエーテルとしては、日光ケミカルズ社製の商品名「NIKKOL セラキルアルコール V」を用い、サポニンとしては、米山薬品工業社製の市販品を用いた。
加脂処理された原皮を、室温で一昼夜陰干しして十分に乾燥させた後、乾燥後の前記原皮をステーキングして(揉み解して)、実施例1に係る皮革を得た。
ステーキングは、乾燥後の前記原皮の対向する端縁近傍を両手で掴み、対向する端縁を近づけつつ前記原皮60秒間揉み解した後、引き延ばすことを10回繰り返すことにより行った。
加脂処理工程に用いた加脂処理組成物を表1に示した組成ものとした以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜18に係る皮革を得た。
なお、実施例4に係る加脂処理組成物においては、水添リゾレシチンとして、日本精化社製の商品名「LP70H」を用いた。
また、実施例16に係る加脂処理組成物においては、ココナッツオイルとして、生活の木社製の商品名「精製ココナッツオイル」を用いた。
さらに、実施例17及び18に係る加脂処理組成物においては、水添レシチンとして、日本精化社製の商品名「Phytocompo(登録商標)−PP」を用い、スフィンゴ糖脂質として、キッコーマン社製のバイオスフィンゴを用いた。なお、後述する比較例15、及び、17〜19に係る加脂処組成物においても、水添レシチンは、上記の日本精化社製のものを用い、スフィンゴ糖脂質は、上記のキッコーマン社製のものを用いた。
加脂処理工程に用いた加脂処理組成物を表1に示した組成のものとした以外は、実施例1と同様にして、比較例1〜19に係る皮革を得た。
なお、比較例9及び12に係る加脂処理組成物においては、ポリグリセリン脂肪酸エステルとして、日本エマルション社製のジイソステアリン酸ポリグリセリル−3 DISG−3EXを用い、比較例10に係る加脂処理組成物においては、ショ糖脂肪酸エステルとして、三菱ケミカルフーズ社製の商品名「S−570」を用い、比較例11に係る加脂処理組成物においては、ソルビタン脂肪酸エステルとして、日本エマルション社製の商品名「オレイン酸ソルビタン SPO−100」を用いた。
また、比較例16に係る加脂処理組成物においては、スフィンゴ糖脂質として、大日本化成社製のビオセラ(BIOCERA)Gを用いた。
柔軟性については、ソフトネステスター(皮革ソフトネス計測装置ST300:英国、MSAエンジニアリングシステム社製)を用いて評価した。
具体的には、まず、直径25mmのリングを装置の下部ホルダーにセットした後、該下部ホルダーに評価対象たる各例に係る皮革をセットした。
次に、上部レバーに固定された金属製のピン(直径5mm)を、前記評価対象たる各例に係る皮革に向けて押し下げた。
次に、上部レバーを押し下げて上部レバーがロックしたときの数値を読み取り、測定値とした。
上記各操作を3回繰り返し、3回の測定値を算術平均した値を柔軟性の評価値とした。
なお、ソフトネステスターの測定値は、侵入深さを示しており、測定値が大きいほど、前記測定対象たる各例に係る皮革は柔軟である。
5名のパネラーに、各例に係る皮革を両面側から挟み込むように10秒間把持させ、そのときに感じられる触感を、以下の段階尺度の中から、各パネラーに選ばせた。
触感の段階尺度
1 触感が極めて悪く感じられる。
2 触感がやや悪く感じられる。
3 触感がやや良く感じられる。
4 触感が極めて良く感じられる。
5名のパネラーに、各例に係る皮革の表面を該表面から10cm離れた距離から観察させて、そのときに感じられる光沢性を、以下の段階尺度の中から、各パネラーに選ばせた。
光沢性の段階尺度
1 光沢が全くないように感じられる。
2 光沢がほとんどないように感じられる。
3 光沢がややあるように感じられる。
4 光沢が極めてあるように感じられる。
また、実施例1〜18に係る皮革は、いずれも、触感及び光沢性の評価の段階尺度が3以上であり、触感及び光沢性にも優れていた。
これに対し、比較例1、2、4〜12、14、15、17、及び、19に係る皮革は、ソフトネステスターによる測定値(N=3)が3.5未満であり、柔軟性に劣っていた。
また、比較例1、2、4〜9、11、12に係る皮革は、触感及び光沢性の評価の段階尺度がいずれも3未満であり、触感及び光沢性にも劣っていた。
さらに、比較例10、14、15、17、及び、19に係る皮革は、光沢性の評価の段階尺度がいずれも3以上であり、光沢性に優れるものの、触感の評価の段階尺度はいずれも3未満であり、触感に劣っていた。
また、比較例3及び13に係る皮革は、ソフトネステスターによる測定値(N=3)が3.5以上であり、柔軟性に優れるものの、触感及び光沢性の評価の段階尺度がいずれも3未満であり、触感及び光沢性に劣っていた。
さらに、比較例16及び18に係る皮革は、光沢性の評価の段階尺度がいずれも3以上であり、光沢性に優れるものの、ソフトネステスターによる測定値(N=3)が3.5未満であることから、柔軟性に劣っており、触感の評価の段階尺度が3未満であることから、触感にも劣っていた。
なお、精製水300gに対してα−モノアルキルグリセリルエーテルを0.5g及び1g含む、実施例5及び6に係る加脂処理組成物は、常温において液状(ゾル状)であったのに対し、精製水300gに対してα−モノアルキルグリセリルエーテルを2g以上含んでおり、かつ、サポニンを含んでいない、比較例6〜8、14、及び18に係る加脂処理組成物は、常温において固体状(ゲル状)となっていた。
以上の結果から、水と、α−モノアルキルグリセリルエーテル、スフィンゴ糖脂質、水添レシチン、及び、水添リゾレシチンからなる群から選ばれる少なくとも1種の界面活性成分と、油剤とを必須成分として含み、任意成分として、サポニンを含み、常温において液状である加脂処理組成物を用いて加脂処理した皮革は、より風合いに優れた皮革となることが分かった。
油剤の違いによる原皮の変色の程度を評価した。原皮としては、上記のごとく、前処理工程及び鞣し工程を行った後の原皮を平面寸法3cm×6cmの矩形状に切り出したものを用いた。
油剤による前記矩形状の原皮の処理は、上記した加脂処理工程と同様に行った。
また、原皮の変色の程度は、油剤中から取り出した前記矩形状の原皮を1年間天日晒しし、天日晒しした後の変色の程度を観察することにより調べた。
油剤としては、ライスワックス(ボーソー油脂社製の商品名「HC−35」)、ホホバオイル(生活の木社製の商品名「ホホバオイルクリア」)、ココナッツオイル(生活の木社製の商品名「精製ココナッツオイル」)、シアバター(生活の木社製の商品名「精製シアバター 100g」)、カカオバター(生活の木社製の商品名「ココアバター 30g」)、パームオイル(生活の木社製の商品名「ホワイトパームオイル 1kg」)、月見草オイル(生活の木社製の商品名「有機月見草オイル」)、マカデミアナッツオイル(生活の木社製の商品名「マカダミアナッツオイル 25mL」)、セサミオイル(生活の木社製の商品名「セサミオイル 100mL」)、及び、バオバブオイル(生活の木社製の商品名「バオバブオイル 植物油 70mL」)の計10種を用いた。
各油剤で処理し、かつ、1年間天日晒しした後の原皮を図3に示した。図3には、何らの油剤で処理せず、1年間天日晒しした原皮についても示した。
なお、図3においては、原皮の色が濃くなるほど(原皮が黒ずんでいるほど)、原皮の変色の程度が高いことを示している。
また、図3には、前記矩形状の原皮から所定の形状・大きさに切り出した一部を示しているが、切り出した部分のみ特に着色の程度が高かったり低かったりする訳ではなく、前記矩形状の原皮の全体において着色の程度は同様である。
これに対して、月見草オイルで処理した原皮、マカデミアナッツオイルで処理した原皮、セサミオイルで処理した原皮、及び、バオバブオイルで処理した原皮は、顕著に黒ずんでおり、変色の程度が高いことが分かる。
このことから、加脂処理組成物が、油剤として、ライスワックス、ホホバオイル、ココナッツオイル、シアバター、カカオバター、及び、パームオイルからなる群から選ばれる少なくとも1種の植物油脂を含むことにより、該加脂処理組成物で処理して得られた皮革は、より変色の程度が小さくなると考えられる。
Claims (5)
- 水と、
α−モノアルキルグリセリルエーテル、スフィンゴ糖脂質、水添レシチン、及び、水添リゾレシチンからなる群から選ばれる少なくとも1種の界面活性成分と、
油剤と、を必須成分として含み、
任意成分として、サポニンを含み、
常温において液状である
加脂処理組成物。 - 前記油剤は、ホホバオイル、ココナッツオイル、シアバター、カカオバター、ライスワックス、及び、パームオイルからなる群から選ばれる少なくとも1種の植物油脂である
請求項1に記載の加脂処理組成物。 - 前記α−モノアルキルグリセリルエーテルは、セラキルアルコール、バチルアルコール、及び、キミルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種である
請求項1または2に記載の加脂処理組成物。 - グリセリン、ブチレングリコール、1,2−ヘキサンジオール、及び、プロパンジオールからなる群から選ばれる少なくとも1種のポリオールをさらに含む
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の加脂処理組成物。 - 鞣された原皮を、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の加脂処理組成物を用いて加脂処理する
皮革の製造方法。
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