JP2021124045A - 宇宙機液体推進システムの故障診断システム、及び宇宙機液体推進システムの故障診断方法 - Google Patents

宇宙機液体推進システムの故障診断システム、及び宇宙機液体推進システムの故障診断方法 Download PDF

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Abstract

【課題】宇宙機の故障を的確に診断することができる宇宙機液体推進システムの故障診断システム、及び宇宙機液体推進システムの故障診断方法を提供する。【解決手段】この宇宙機液体推進システムは、複数のスラスタと、スラスタに接続される供給管とを備える。このシステムは、供給管の内部の圧力を時系列データとして検出する圧力センサと、時系列データを周波数スペクトルのデータに変換する周波数スペクトル変換部と、コンピュータシミュレーションによる解析モデル又は試験装置の試験結果に基づいて生成された周波数スペクトルのデータをデータセットとして記憶する記憶部と、データセットを周波数スペクトル変換部が生成した周波数スペクトルのデータと比較する比較部と、比較部の比較結果に従い、複数のスラスタのいずれかにおける故障を判定する判定部とを備える。【選択図】図2

Description

本発明は、宇宙機液体推進システム、及び宇宙機液体推進システムの故障診断方法に関する。
人工衛星や宇宙ステーション補給機等の宇宙機の姿勢制御に用いられる液体推進システムは、ミッション成功及び宇宙機の信頼性を担う重要なシステムの1つである。この宇宙機液体推進システムは、その重要性から複数の冗長構成を持つことが一般的である。
冗長構成として、複数個の同一又は同種の機能・構成のシステムを推進システム中に設ける冗長構成が知られている。これに対し、冗長化による無駄を極力抑制するため、異なる機能・構成のシステムを組み合わせた冗長構成も知られている。後者の場合は、冗長系のうち1つの系で故障が発生したとしても、その他の系がその故障に伴う姿勢制御量の過不足を補うよう動作する。このため、冗長化による無駄は抑制されるが、故障の有無や故障個所を姿勢情報から判断することが困難になるという問題がある。
また、宇宙機の場合、その重量及び電力等のリソースの制約から、搭載することが出来る状態モニタリング用のセンサの数を最小化することが求められる。そのため、故障診断に用いる液体推進システムの状態量モニタに用いるセンサ数も、できるだけ少なくするのが望ましい。
特開昭60−60399号公報 特開2002−161800号公報
本発明は、宇宙機液体推進システムにおける機器故障を的確に診断することができる故障診断システム、及び故障診断方法を提供するものである。
本発明に係る宇宙機液体推進システムの故障診断システムは、複数のスラスタと、前記スラスタに接続される供給管とを備える宇宙機液体推進システムの故障診断システムである。このシステムは、前記供給管の内部の圧力を時系列データとして検出する圧力センサと、前記時系列データを周波数スペクトルのデータに変換する周波数スペクトル変換部と、コンピュータシミュレーションによる解析モデル又は試験装置の試験結果に基づいて生成された周波数スペクトルのデータをデータセットとして記憶する記憶部と、前記データセットを前記周波数スペクトル変換部が生成した周波数スペクトルのデータと比較する比較部と、前記比較部の比較結果に従い、前記複数のスラスタのいずれかにおける故障を判定する判定部とを備える。
本発明に係る宇宙機液体推進システムの故障診断方法は、宇宙機液体推進システムの故障診断方法において、前記宇宙機液体推進システムは、複数のスラスタと、前記複数のスラスタに接続される供給管とを備え、前記供給管の内部の圧力を時系列データとして取得するステップと、前記時系列データを周波数スペクトルのデータに変換するステップと、コンピュータシミュレーションによる解析モデル又は試験装置の試験結果に基づいて、故障診断のための周波数スペクトルのデータセットを予め取得するステップと、前記周波数スペクトルのデータと、前記データセットとの間の類似度に基づき、スラスタの故障の有無及び故障個所を診断するステップとを備える。
本発明によれば、供給管の内部の圧力を時系列データとして取得した後、この時系列データが周波数スペクトルのデータに変換される。この周波数スペクトルのデータが、予め取得されたデータセットと比較され、推進システムの故障の有無及び故障個所が診断される。これにより、宇宙機の故障を的確に診断することができる宇宙機液体推進システムの故障診断システム、及び宇宙機液体推進システムの故障診断方法を提供することができる。
第1の実施の形態に係る宇宙機液体推進システムが適用される宇宙機1の概略構成を示す外観図である。 サービスモジュール100に含まれる推進制御モジュール(宇宙機液体推進システム)の構成を説明する概略図である。 各スラスタ101A〜Cの燃料噴射パルス信号と、圧力センサ106の時系列の検出信号の一例を示す波形図である。 圧力センサ106で計測された信号の時系列の圧力のデータ(a)を、時系列の周波数データに変換した場合のグラフ(b)の一例である。 図4(a)、(b)のグラフに基づいて生成された、周波数スペクトルのグラフの一例である。 故障診断用データセット記憶部126に記憶させるデータセットを生成するのに用いられる試験装置の一例である。 試験装置により得られる試験結果、及び解析モデルにより得られる解析結果の一例を示すグラフである。 試験装置により得られる試験結果、及び解析モデルにより得られる解析結果の一例を示すグラフである。 故障診断用データセット記憶部126に記憶させるデータセットを生成するのに用いられる試験装置の別の例である。 第1の実施の形態に係る故障診断システムの動作(故障診断方法)を説明するフローチャートである。 第2の実施の形態に係る故障診断システムの動作(故障診断方法)を説明するフローチャートである。 第3の実施の形態に係る故障診断システムの動作(故障診断方法)を説明するフローチャートである。
以下、添付図面を参照して本実施形態について説明する。添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。なお、添付図面は本開示の原理に則った実施形態と実装例を示しているが、これらは本開示の理解のためのものであり、決して本開示を限定的に解釈するために用いられるものではない。本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本開示の特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味においても限定するものではない。
本実施形態では、当業者が本開示を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装・形態も可能で、本開示の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。従って、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。
[第1の実施の形態]
図1〜図8を参照して、第1の実施の形態に係る宇宙機液体推進システムの故障診断システムを及び故障診断方法を説明する。図1の外観図は、第1の実施の形態に係る宇宙機液体推進システムが適用される宇宙機1の概略構成を示している。図1に例示される宇宙機1は、国際宇宙ステーションに物資を供給するための宇宙ステーション補給機である。この宇宙機1(宇宙ステーション補給機)は、一例として、サービスモジュール100と、与圧モジュール200と、曝露カーゴ搭載部300と、太陽電池モジュール400とから構成される。
サービスモジュール100は、宇宙機1の各種制御を司るモジュールであり、通信モジュール、電力供給モジュール、データ処理モジュール、太陽電池パドル系、推進制御モジュール等を内部に含んでいる。与圧モジュール200は、国際宇宙ステーションへの結合部分を有しており、与圧補給物資を搭載するモジュールである。曝露カーゴ搭載部300は、船外物資を搭載する部分であり、サービスモジュール100の一部を構成する。
図2の概略図を参照して、サービスモジュール100に含まれる推進制御モジュール(宇宙機液体推進システム)の構成を説明する。この推進制御モジュールは、複数のスラスタ101(ここでは3個のスラスタ101A〜C)を備えた冗長構成を有している。スラスタ101A〜Cは、宇宙機1の筐体に取り付けられ、宇宙機1に推進力を与えると共にその位置や姿勢を制御する推進装置である。3個のスラスタ101A〜Cは、互いに異なる構成を有しており、正常時は同時に動作するとともに、いずれかのスラスタが故障した場合に、残余のスラスタが、その故障したスラスタの動作を補うように動作するよう制御される。
これに加えて、この推進制御モジュールは、燃料タンク102、酸化剤タンク103、第1供給管104、第2供給管105、圧力センサ106、及び制御部107を備えている。制御部107は更に、A/D変換器121、サンプルホールド回路122、周波数スペクトル変換部123、比較部124、判定部125、及び故障診断用データセット記憶部126を備える。燃料タンク102は、スラスタ101A〜Cに供給される燃料を格納するタンクである。また、酸化剤タンク103は、スラスタ101A〜Cに供給される酸化剤を格納するタンクである。酸化剤は、燃料と共に推進剤を構成する。
また、第1供給管104は、主配管と、主配管から3つのスラスタ101A〜Cに向けて分岐する第1分岐管104A〜Cを備えている。また、第2供給管105は、主配管と、主配管から3つのスラスタ101A〜Cに向けて分岐する第2分岐管105A〜Cを備えている。
各スラスタ101A〜Cには、燃料タンク102から第1供給管104を介して燃料が供給されるとともに、酸化剤タンク103から第2供給管105を介して酸化剤が供給される。第1供給管104と第2供給管105とにより、スラスタ101A〜Cに推進剤(燃料及び酸化剤)を供給する供給管が構成される。
第1供給管104は、前述のように、第1分岐管104A〜Cに分岐されている。スラスタ101A〜Cは、宇宙機1の筐体の異なる位置に設置されているため、第1分岐管104A〜Cは、その長さL1〜L3が互いに異なっている。第1分岐管104A〜Cは、その長さの他、内径、外形、形状、材質などが異なっていてもよい。
第2供給管105も同様に、第2分岐管105A〜Cに分岐されている。スラスタ101A〜Cは、宇宙機1の筐体の異なる位置に設置されているため、第2分岐管105A〜Cは、その長さL1´〜L3´が互いに異なっている。第2分岐管105A〜Cは、その長さの他、内径、外形、形状、材質などが異なっていてもよい。
第1供給管104は、分岐点よりも上流の位置にバルブV1を備えているとともに、第1分岐管104A〜Cにおいて、バルブV1a〜cを備えている。また、第2供給管105は、分岐点よりも上流の位置にバルブV2を備えているとともに、第2分岐管105A〜Cにおいて、バルブV2a〜cを備えている。
圧力センサ106は、第2供給管105の、主配管の位置、すなわち、第2分岐管105A〜Cの分岐点よりも上流の位置における圧力を検知する。圧力センサ106は、第2供給管105に代えて(またこれに加えて)、第1供給管104の圧力を検知するようにしてもよい。この実施の形態では、後述する方法により、分岐点よりも上流の位置の圧力を1つの圧力センサで検知することで、複数のスラスタの故障の有無を診断することができる。複数の圧力センサを宇宙機に搭載することは、宇宙機の重量が大きくなり、その分搭載物資が少なくなってしまうという不利益がある。また、複数の圧力センサの信号を解析するためには、計算機の負荷も大きくなり、データ処理モジュールも大型化するという不利益がある。本実施の形態は、1つのセンサで複数のスラスタの異常を検知できるようにされていることにより、搭載物資を多くすることができるとともに、データ処理モジュールの負荷も軽減することができる。
A/D変換器121は、圧力センサ106の検出信号を時系列のデジタル信号に変換する。その時系列のデジタル信号は、サンプルホールド回路122に一時的に保持される。周波数スペクトル変換部123は、このサンプルホールド回路122に一時的に保持された時系列のデジタル信号を、周波数スペクトルデータに変換する。周波数スペクトルデータへの変換は、周知の高速フーリエ変換(FFT)を用いて実行することができる。この周波数スペクトルデータが、故障診断用データセット記憶部126に記憶されたデータセットと比較部124において比較される。
故障診断用データセット記憶部126に記憶されるデータセットは、スラスタ101A〜Cのいずれかに故障が発生した場合に想定される圧力センサ106の信号のデータの集合である。
前述のように、スラスタ101A〜Cに接続される第2分岐管105A〜C(及び/又は第1分岐管104A〜C)は、それぞれ長さ(及び/又は内径、外径、形状、材質等)が異なっている。このため、スラスタ101A〜Cのいずれかが故障した場合に想定される圧力センサ106の信号は、他のスラスタが故障した場合に想定される圧力センサ106の信号とは異なる。
そこで本実施の形態では、スラスタ101A〜Cのいずれかが故障した場合に想定される圧力センサ106の信号の周波数スペクトルデータを、シミュレーションにより得られた解析モデル及び/又は試験機の動作(試験結果)に基づいて予め取得し、データセットとして故障診断用データセット記憶部126に記憶させる。比較部124は、宇宙機1の圧力センサ106から得られた信号の周波数スペクトルのデータを、故障診断用データセット記憶部126に記憶されたデータセットと比較して類似度を算出し、最も近似する(類似度が高い)データを特定する。この特定の結果に基づいて、判定部125はスラスタ101A〜Cのいずれに故障が発生したのかを判定部125において判定することができる。比較部124における判定は、周知のパターンマッチングやクラスタリング等を用いて行うことができる。
図3は、各スラスタ101A〜Cの燃料噴射パルス信号と、圧力センサ106の時系列の検出信号の一例を示している。図3において、波形Woは、全てのスラスタ101A〜Cが正常に動作している場合を模擬して得られる波形の一例であり、波形Waはスラスタ101Aに故障が発生した場合を模擬して得られる波形の一例であり、波形Wbはスラスタ101Bに故障が発生した場合を模擬して得られる波形の一例であり、波形Wcはスラスタ101Cに故障が発生した場合を模擬して得られる波形の一例である。圧力センサ106の検出信号の形状は、スラスタ101A〜Cのいずれが故障するかによって異なる。これは、スラスタ101A〜Cの構造が互いに異なることに加え、分岐管105A〜Cの長さ等が異なることに基づく。ただし、図1及び2のような宇宙機1及び推進システムでは、複数の系の応答が複合することから、時系列のデータに基づく診断は、データ量が多く計算が複雑である。
そこで本実施の形態では、この時系列の圧力センサの検出信号を、周波数スペクトルの信号に変換する。一方、故障診断用データセット記憶部126においても、時系列の信号が周波数スペクトルデータに変換された後、データセットとして記憶される。故障診断用データセット記憶部126に記憶されるデータセットは、後述するように、正常/故障状態をコンピュータ上で模擬(シミュレーション)した解析モデルに基づいて生成される。これに加えて、試験機を用いて得られた周波数スペクトルデータに基づいて、解析モデルに基づいて得られたデータの検証が行われる。その検証後のデータが、データセットとして故障診断用データセット記憶部126に記憶される。
図4は、圧力センサ106で計測された信号の時系列の圧力のデータ(a)を、時系列の周波数データに変換した場合のグラフ(b)の一例である。図5は、図4(a)、(b)のグラフに基づいて生成された、周波数スペクトルのグラフの一例である。図5(a)〜(d)は、スラスタ101A〜Cに所定のパルス周期で燃料が噴射される状態(第1の状態)から、パルスが停止される状態(第2の状態)へ移行した後における圧力センサ106の検出信号の時系列の過渡応答データに対応する周波数スペクトルのデータを示している。図5において、(a)はスラスタ101A〜Cがすべて正常に動作している場合の周波数スペクトルの一例であり、(b)はスラスタ101Aに故障が発生した場合の周波数スペクトルの一例であり、(c)はスラスタ101Bに故障が発生した場合の周波数スペクトルの一例であり、(d)はスラスタ101Cに故障が発生した場合の周波数スペクトルの一例である。
図5(b)〜(d)から明らかなように、故障したスラスタが異なると、周波数スペクトルのグラフのピークが現れる周波数、振幅値、ピークの数(所定の閾値以上の振幅を有するピークの数)等が異なる。このように、周波数スペクトル(図5)では、時系列の信号(図4)に比べ、信号の形状に明確な差が表れる。従って、故障診断用データセット記憶部126に記憶された周波数スペクトルのデータセットと、圧力センサ106の検出信号から得られた周波数スペクトルとを比較することで、どのスラスタに故障が発生したのかを正確に且つ少ないデータに基づいて判定することができる。
図6A〜Cを参照して、故障診断用データセット記憶部126に記憶させるデータセットの生成手順を説明する。故障診断用のデータセットは、コンピュータシミュレーションによる解析モデルを用いて取得することができる。更に、例えば図6Aのような試験装置を用いて得られた試験結果(図6B及び図6Cの左側のグラフ)と、解析モデルに基づいて得られた解析結果(右側のグラフ)とを照合し、解析モデルの妥当性を確認することができる。
図6Aに例示する試験装置は、タンク103Cと、供給管105Xと、供給調整装置108と、圧力センサP0、P1、Pc、PIU、PIDと、ソレノイドバルブSV1と、流量調整バルブFCV2と、オリフィスOFを備える。供給調整装置108は、バルブRV、MV1〜3、圧力センサPT、及び流量調整バルブFCV1を備えている。タンク103Cは、宇宙機1の燃料タンク102及び/又は酸化剤タンク103に相当し、供給管105Xは宇宙機1の第1供給管104及び第2供給管105に相当する。また、ソレノイドバルブSV1は、宇宙機1のバルブV1、V2、V1a〜V1c、V2a〜V2cに相当する。
圧力センサP0及びP1は、図2の圧力センサ106に相当する圧力センサであり、供給管105Xを流れる液体の圧力を計測する。また、圧力センサPIU、Pc、PIDは、ソレノイドバルブSV1における圧力損失を計測するための圧力センサである。
図6Aは、宇宙機1における1本の分岐管、及び1個のスラスタを模擬した試験装置であるが、図7に示すように、より図2の宇宙機1の構造に近似した3本の分岐管及び3個のスラスタを模擬した試験装置を用いることが出来るのは言うまでもない。
図8のフローチャートを参照して、第1の実施の形態に係る故障診断システムの動作(故障診断方法)を説明する。この第1の実施の形態のシステムでは、スラスタの故障診断のためのデータセットを予め生成し、このデータセットと、宇宙機1に設置された圧力センサ106が検出した信号の周波数スペクトルデータとを比較して、スラスタの故障の有無及び個所を判断する。故障診断のためのデータセットの生成の手順が、図8のステップS201〜205で実行され、宇宙機1におけるスラスタの故障の判断がステップS301〜305で行われる。
ステップS201において、コンピュータシミュレーションにより、宇宙機1の正常状態/故障状態を模擬した解析モデルを作成する。
一方、ステップS202では、例えば図6A又は図7に示すような試験装置を用いて、宇宙機1の正常状態/故障状態を模擬した地上試験を実行し、供給管の内部の圧力の時系列データ、及び周波数スペクトルのデータを取得する。
ステップS203では、ステップS202で取得された、試験装置による試験結果に基づき、ステップS201で作成した解析モデルの妥当性を検証する。
続くステップS204では、ステップS203で妥当性を検証された解析モデルを用いて、供給管の管内の圧力の周波数スペクトルのデータを取得する。取得されたデータは、宇宙機1の正常状態/故障状態を判定するための事前情報群(データセット)として、前述の故障診断用データセット記憶部126に記憶される。以上により、宇宙機1におけるスラスタの故障診断の準備が完了する。
ステップS301では、宇宙機1の圧力センサ106において、供給管105の管内の圧力の時系列データを取得する。そして、ステップS302では、周波数スペクトル変換部123において、取得された圧力の時系列データを周波数スペクトルのデータに変換する。
ステップS303では、圧力センサ106に基づいて得られた取得情報と、故障診断用データセット記憶部126に記憶されたデータセットとを比較し、データセット中のデータと、取得情報との間の類似度を判断する。高い類似度を示すデータがデータセット中において特定された場合には、そのデータに基づいて、スラスタの故障の有無、及び故障個所を特定する。故障が無いと判断される場合には(ステップS304の「正常」)、ステップS301に戻り、上記の手順を繰り返す。故障があると判断される場合には(ステップS304の「故障」)、ステップS305において故障の有無及び故障の個所の特定結果を出力する。
以上説明したように、第1の実施の形態のシステム及び方法によれば、圧力センサ106により検知された時系列データが周波数スペクトルデータに変換され、これが事前に取得した故障診断用データセットと比較され、故障診断がなされる。従って、異なる機能・構成のシステムを組み合わせた冗長構成を有する宇宙機においても、姿勢情報によらず、故障の有無や故障個所を的確に判断することが可能になる。また、圧力センサを供給管の分岐部の上流に配置することで、少ない数のセンサで複数のスラスタの故障を判定することが可能になる。
[第2の実施の形態]
図9を参照して、第2の実施の形態に係る宇宙機液体推進システムの故障診断システム及び故障診断方法を説明する。この第2の実施の形態の宇宙機液体推進システムの故障診断システムの全体構成は、第1の実施の形態(図2)と同様で良い。ただし、この第2の実施の形態のシステム及び方法では、圧力センサ106により圧力を検出することに加え、検出された圧力の応答周波数と既知の配管長さに基づき、管内の流体の音速を算出する。そして、算出された音速に基づき、故障診断用データセット記憶部126に記憶させるデータセットに対し補正を行う。
第2供給管105(及び/又は第1供給管104)の管内の流体の音速を測定することにより、管内を満たしている推進薬の中にガスが溶け込んでいることによる音速の変化を把握することができる。この音速の変化に基づき、データセットに対し補正を行うことで、故障診断の精度を高めることが可能になる。
図9のフローチャートを参照して、第2の実施の形態に係る故障診断システムの動作(故障診断方法)を説明する。この第2の実施の形態のシステムでは、第1の実施の形態と同様に、スラスタの故障診断のためのデータセットを予め生成し、このデータセットと、宇宙機1に設置された圧力センサ106が検出した信号の周波数スペクトルデータとを比較して、スラスタの故障の有無及び個所を判断する。故障診断のためのデータセットの生成の手順が、ステップS201〜207で実行され、宇宙機1におけるスラスタの故障の判断がステップS301〜305、S306で行われる。
ステップS301〜305は第1の実施の形態と同一であるので、重複する説明は省略する。また、ステップS201〜205のデータセットの生成の手順も第1の実施の形態と同様であるので、重複する説明は省略する。この第2の実施の形態では、ステップS301に先立つステップS306において、テストモードにより、供給管105の管内の推進剤の音速を圧力センサ106の検出情報に従って算出する。この音速の情報に基づき、ステップS206においてデータセットの補正がなされる。ステップS207では、このデータセットが故障診断用データセット記憶部126に記憶され、第1の実施の形態と同様に故障診断に供される。
[第3の実施の形態]
図10を参照して、第3の実施の形態に係る宇宙機液体推進システムの故障診断システム及び故障診断方法を説明する。この第3の実施の形態の宇宙機液体推進システムの故障診断システムの全体構成は、第1の実施の形態(図2)と同様で良い。故障診断の実行手順も、第1の実施の形態と同様でよい。ただし、この第3の実施の形態のシステム及び方法では、第2供給管105(及び/又は第1供給管104)の長さ(特に各分岐管の長さ)を設定し、その設定された長さにおける故障診断の可能性を評価する手順を含んでおり、この点において第1の実施の形態とは異なっている。
第1及び第2の実施の形態の方法は、複数のスラスタへの供給管の長さが異なることに起因して周波数スペクトルの波形が変化することを利用して、複数のスラスタの故障の有無及び故障個所の特定を行う。しかし、複数の分岐管の長さがいわゆる倍音関係になる場合、周波数スペクトルの波形に相違が生じない可能性がある。そこで、第3の実施の形態は、供給管の長さを適切に設定するための手順を含む。
図10のフローチャートを参照して、第3の実施の形態における正常/故障の診断可能性の判断方法について説明する。まず、ステップS501では、図6A又は図7に示すような試験装置を用いて、宇宙機1の正常状態/故障状態を模擬した地上試験を実行し、供給管の内部の圧力の時系列データ、及び周波数スペクトルのデータを取得する。続くステップS502では、コンピュータシミュレーションにより、宇宙機1の正常状態/故障状態を模擬した解析モデルを作成する。そして、ステップS503では、ステップS501の地上試験の結果に従い、解析モデルの妥当性が検証される。
ステップS501〜503により、解析モデルが検証されると、ステップS601では、供給管(分岐管)の長さの設定がなされる。ステップS602では、この設定された供給管(分岐管)の長さを前提として、検証された解析モデルを用いて、正常状態/故障状態(複数のスラスタの全てが正常か、またはいずれかが故障しているか)における供給管の管内の圧力の周波数スペクトルのデータが取得される。
供給管の長さが適切に設定されていれば、複数のスラスタのうちの一スラスタが故障した場合の周波数スペクトルの波形(ピーク位置、振幅、ピークの数等)は、他のスラスタが故障した場合の周波数スペクトルの波形とは異なる。しかし、波形に差が生じない場合、供給管の長さの設定が不適切であり、本実施形態の方法では、適切な故障診断ができない可能性があることになる。このため、ステップS603では、得られた多数の周波数スペクトルの波形を解析し、正常/故障の診断が可能な否かを判断する。診断が困難と判断された場合には、ステップS601に戻り、供給管の長さを異なる長さに設定し、同様の動作を繰り返す。
本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
例えば、上記の実施の形態では、コンピュータシミュレーションに基づく解析モデルを試験装置で得られた試験結果を用いて検証することを行っているが、コンピュータシミュレーションの結果得られる解析モデルの信頼性が高いことが認定される場合、試験装置による試験結果に基づく検証を省略することも可能である。逆に、試験装置が正確に実機を再現していることが認識される場合、試験装置の試験結果のみに従ってデータセットを生成することも可能である。
1…宇宙機、 100…サービスモジュール、 200…与圧モジュール、 300…曝露カーゴ搭載部、 400…太陽電池モジュール、 101A〜C…スラスタ、 102…燃料タンク、 103…酸化剤タンク、 103C…タンク、 104…第1供給管、 104A〜C…第1分岐管、 105…第2供給管、 105A〜C…第2分岐管、 105X…供給管、 106…圧力センサ、 107…制御部、 108…供給調整装置、 121…A/D変換器、 122…サンプルホールド回路、 123…周波数スペクトル変換部、 124…比較部、 125…判定部、 126…故障診断用データセット記憶部、 FCV1〜2…流量調整バルブ、 MV1…バルブ、 P0、P1、Pc、PID、PIU、PT、…圧力センサ。

Claims (10)

  1. 複数のスラスタと、前記スラスタに接続される供給管とを備える宇宙機液体推進システムの故障診断システムであって、
    前記供給管の内部の圧力を時系列データとして検出する圧力センサと、
    前記時系列データを周波数スペクトルのデータに変換する周波数スペクトル変換部と、
    コンピュータシミュレーションによる解析モデル又は試験装置の試験結果に基づいて生成された周波数スペクトルのデータをデータセットとして記憶する記憶部と、
    前記データセットを前記周波数スペクトル変換部が生成した周波数スペクトルのデータと比較する比較部と、
    前記比較部の比較結果に従い、前記複数のスラスタのいずれかにおける故障を判定する判定部と
    を備えたことを特徴とする、宇宙機液体推進システムの故障診断システム。
  2. 前記供給管は、主配管と、前記主配管から前記複数のスラスタに向けて分岐する分岐管とを備え、前記圧力センサは、前記主配管に配置される、請求項1に記載の宇宙機液体推進システムの故障診断システム。
  3. 前記比較部は、前記スラスタへの動作が第1の状態から第2の状態に移行した後における前記圧力センサの検出信号の時系列の過渡応答データに対応する周波数スペクトルのデータを、前記データセットと比較する、請求項1又は2に記載の宇宙機液体推進システムの故障診断システム。
  4. 前記記憶部は、前記解析モデルに基づいて生成されたデータを、試験装置を用いて得られたデータに基づいて検証して得られるデータを前記データセットとして記憶する、請求項1に記載の宇宙機液体推進システムの故障診断システム。
  5. 前記記憶部は、前記解析モデルに基づいて生成されたデータを、前記供給管の管内の推進剤の音速に基づいて補正したデータを前記データセットとして記憶する、請求項1に記載の宇宙機液体推進システムの故障診断システム。
  6. 宇宙機液体推進システムの故障診断方法において、
    前記宇宙機液体推進システムは、複数のスラスタと、前記複数のスラスタに接続される供給管とを備え、
    前記供給管の内部の圧力を時系列データとして取得するステップと、
    前記時系列データを周波数スペクトルのデータに変換するステップと、
    コンピュータシミュレーションによる解析モデル又は試験装置の試験結果に基づいて、故障診断のための周波数スペクトルのデータセットを予め取得するステップと、
    前記周波数スペクトルのデータと、前記データセットとの間の類似度に基づき、前記スラスタの故障の有無及び故障個所を診断するステップと
    を備えたことを特徴とする、宇宙機液体推進システムの故障診断方法。
  7. 前記供給管は、主配管と、前記主配管から前記複数のスラスタに向けて分岐する分岐管とを備え、
    前記主配管の内部の圧力を時系列データとして取得する、請求項6に記載の故障診断方法。
  8. 前記スラスタへの動作が第1の状態から第2の状態に移行した後における圧力センサの検出信号の時系列の過渡応答データに対応する周波数スペクトルのデータを、前記データセットと比較することにより、前記類似度を判断する、請求項6又は7に記載の故障診断方法。
  9. 前記解析モデルに基づいて生成されたデータを、試験装置を用いて得られたデータに基づいて検証して得られるデータを前記データセットとして取得する、請求項6に記載の故障診断方法。
  10. 前記解析モデルに基づいて生成されたデータを、前記供給管の管内の推進剤の音速に基づいて補正したデータを前記データセットとして取得する、請求項6に記載の故障診断方法。
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