(第1実施形態)
以下、図1から図5を参照して、本発明の第1実施形態に係る蓄電デバイス10の測定装置(以下、単に「測定装置」と称する。)1について説明する。
まず、図1を参照して、蓄電デバイス10の構成及び測定装置1の構成について説明する。図1は、測定装置1の構成を示す図である。
蓄電デバイス10は、例えば、リチウムイオン二次電池の単一の蓄電セルである。蓄電デバイス10は、二次電池(化学電池)に限らず、例えば、電気二重層キャパシタであってもよい。また、蓄電デバイス10は、複数の蓄電セルが直列に接続されてなる蓄電モジュールであってもよい。
蓄電デバイス10は、図1のように、等価回路モデルによって示される。蓄電デバイス10は、等価回路モデルによれば、正極電極11と、負極電極12と、蓄電部13と、内部抵抗14と、並列抵抗15と、を有する。蓄電部13、内部抵抗14及び並列抵抗15は、蓄電デバイス10の内部状態を表わす等価回路である。
蓄電部13は、蓄電デバイス10の静電容量成分である。蓄電部13は、蓄電デバイス10のセル電圧よりも高い電圧が印加されると、電荷が蓄積されて充電される。蓄電部13では、充電時に流れる電流が比較的小さい場合には主に電気二重層反応が起こり、充電時に流れる電流が比較的大きい場合には主に化学反応が起こる。ここでは、蓄電部13の静電容量をCst[F]とし、蓄電部13に流れる電流をIst[A]とする。
内部抵抗14は、正極電極11と負極電極12との間で、蓄電部13に直列に接続される直列抵抗である。ここでは、内部抵抗14の抵抗値をRir[mΩ]とし、内部抵抗14に流れる電流をIir[A]とする。
並列抵抗15は、蓄電部13に並列に接続される抵抗であり、放電抵抗とも称される。並列抵抗15には、自己放電電流、いわゆる漏れ電流が流れる。ここでは、並列抵抗15の抵抗値をRpr[kΩ]とし、並列抵抗15に流れる自己放電電流をIpr[A]とする。
測定装置1は、蓄電デバイス10の状態を測定するための装置である。測定装置1は、定電流供給手段としての定電流源20と、電圧生成手段としての基準電圧源30と、測定手段としての電圧計40と、演算手段としてのコントローラ50と、表示部60と、を備える。
定電流源20は、蓄電デバイス10の内部状態を検出するための定電流を蓄電デバイス10に供給することにより蓄電デバイス10を充電する直流電源である。定電流源20は、蓄電デバイス10に供給される電流を所定の大きさに維持する。定電流源20は、蓄電デバイス10にて過電圧よりも小さく、主に電気二重層反応が発生する大きさの定電流を供給して蓄電デバイス10を充電する。このとき、定電流源20から供給される定電流は、例えば10[μA]である。
ここで、蓄電デバイス10に定電圧を印加して蓄電デバイス10を充電する場合は、蓄電デバイス10にて過電圧よりも小さく、主に電気二重層反応が発生する大きさの定電圧を安定して印加することは困難である。これに対して、定電流源20を用いて比較的小さい電流を供給することは容易である。よって、測定装置1では、定電流源20を用いることによって、蓄電デバイス10にて過電圧よりも小さく、主に電気二重層反応が発生する大きさの定電流を安定して供給することができる。
基準電圧源30は、蓄電デバイス10の電圧に対して基準となる基準電圧を生成する。本実施形態における基準電圧源30は、電圧生成回路によって構成される。基準電圧源30の基準電圧は、蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差が蓄電デバイス10の電圧よりも小さくなるように定められる。例えば、基準電圧は、複数の蓄電デバイス10の電圧についての平均値、最頻値又は中央値などの統計値に設定される。
本実施形態の基準電圧は、蓄電デバイス10の電圧を基準とし所定の範囲内の値に設定される。蓄電デバイス10の電圧が3V(ボルト)程度である場合は、所定の範囲は、蓄電デバイス10の電圧に対して「−1V」から「+1V」までの範囲に設定することができる。
また、電圧計40の分解能を確保する観点から、電圧計40が7桁半(7 1/2)の直流電圧計である場合は、上記所定の範囲は、蓄電デバイス10の電圧に対して「−100mV」から「+100mV」までの範囲に設定することが好ましい。蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差が100mV未満である場合は、7桁半(7 1/2)の直流電圧計の分解能を10[nV]まで上げたとしても、測定した電位差の変化を精度良く検出することが可能となる。
これに代えて、電圧計40として測定レンジを±10mVまで縮小可能な直流電圧計を用いる場合は、上記所定の範囲は、蓄電デバイス10の電圧に対して「−10mV」から「+10mV」までの範囲に設定することがより好ましい。
電圧計40は、蓄電デバイス10の電圧と基準電圧源30の基準電圧との電位差を測定する直流電圧計である。即ち、電圧計40は、定電流源20から蓄電デバイス10に定電流が供給されることによって生じる蓄電デバイス10の電圧変化のうち主に変動成分を抽出する。電圧計40は、測定した電位差を時系列に示す電気信号をコントローラ50に出力する。この電気信号には、蓄電デバイス10の電圧のうち直流成分の一部又は全部が除去されている。
本実施形態では、電圧計40は、定電流源20から定電流が供給された状態を含み、少なくとも二回以上、蓄電デバイス10の電圧と基準電圧源30の基準電圧との電位差を測定する。電圧計40は、抵抗素子41と、検出手段としての検出部42と、を備える。
抵抗素子41は、蓄電デバイス10の正極電極11と基準電圧源30の正極電極との間に接続される検出抵抗素子である。抵抗素子41の抵抗値は、例えば1〜10[MΩ]である。抵抗素子41に流れる電流は、定電流源20から蓄電デバイス10に供給される定電流よりも小さい。
蓄電デバイス10の内部状態の測定精度を確保する観点から、抵抗素子41に流れる電流は、定電流に対して数十分の一未満にするのが好ましい。本実施形態では、抵抗素子41に流れる電流が定電流に対して百分の一程度となるように抵抗素子41の抵抗値が設定されている。このため、抵抗素子41に流れる電流は100[nA]程度である。
検出部42は、蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差として、抵抗素子41の両端に生じる電圧を検出する。検出部42は、検出した電圧の値に対応する電気信号をコントローラ50に出力する。
コントローラ50は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ50は、複数のマイクロコンピュータを用いて構成することも可能である。コントローラ50は、ROMに記憶されたプログラムをCPUによって読み出すことによって、測定装置1の各種動作を制御する制御装置である。
コントローラ50は、定電流源20から蓄電デバイス10への電力供給を制御し、電圧計40を用いて蓄電デバイス10の内部状態を演算する。即ち、コントローラ50は、電圧計40が測定した電位差に基づいて蓄電デバイス10の内部状態を演算する。
本実施形態では、コントローラ50は、定電流源20から蓄電デバイス10に定電流を供給した状態において電圧計40から電気信号を取得し、その電気信号に示される蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差の時間変化を検出する。検出した電位差の時間変化は、蓄電デバイス10の電圧変化、即ち直流成分を除去した変動成分として用いられる。コントローラ50は、検出した蓄電デバイス10の電圧変化に基づいて蓄電デバイス10の自己放電状態などの内部状態を推定する。
例えば、コントローラ50は、検出した蓄電デバイス10の電圧変化に基づき、蓄電デバイス10の内部状態についての良否を判定する。あるいは、コントローラ50は、検出した蓄電デバイス10の電圧変化に基づき、並列抵抗15に流れる自己放電電流、並列抵抗15の抵抗値又は蓄電部13の静電容量を算出してもよい。
本実施形態では、コントローラ50は、蓄電デバイス10の電圧変化が正常範囲内である場合には、蓄電デバイス10が正常であると判定し、蓄電デバイス10の電圧変化が正常範囲内でない場合には、蓄電デバイス10が異常であると判定する。このように、コントローラ50は、蓄電デバイス10の良否を判定する。
コントローラ50は、判定した結果を示す判定情報、又は自己放電電流などを算出した結果を示す内部情報を、蓄電デバイス10の自己放電状態に関する情報として生成する。このように、コントローラ50は、蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差に基づいて蓄電デバイス10の自己放電状態に関する情報を生成する。
表示部60は、コントローラ50による判定結果又は算出結果などの情報を表示して使用者に通知する。表示部60は、例えばタッチスクリーンであり、使用者が情報を視認可能、かつ使用者が操作可能なように構成される。
次に、図2乃至図5を参照して、測定装置1を用いた蓄電デバイス10の内部状態を測定する方法について説明する。図2及び図3は、本実施形態の測定装置1を用いた測定方法を示すフローチャートである。図4は、蓄電デバイス10の充電時間に対する蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差の変化の一例を示す図である。図5は、比較例として、蓄電デバイス10の充電時間に対する蓄電デバイス10の電圧自体の変化を示す図である。
図2に示す例では、測定装置1は、例えば雰囲気温度を一定に維持可能な恒温槽の中に蓄電デバイス10を収容するなどして、蓄電デバイス10の温度変化を抑制した環境にて蓄電デバイス10の状態を測定する処理を実行する。
まず、上記処理を実行するにあたり、測定装置1を蓄電デバイス10に接続する。本実施形態では、蓄電デバイス10、定電流源20、基準電圧源30及び電圧計40を準備し、蓄電デバイス10に定電流源20が並列に接続され、蓄電デバイス10の正極電極11と定電流源20の正極電極との間に電圧計40が接続される。
ステップS1では、基準電圧源30は、蓄電デバイス10の電圧に対して基準となる基準電圧を生成する。例えば、コントローラ50により基準電圧源30に電力が供給される。
ステップS2では、コントローラ50は、電圧計40に対し、蓄電デバイス10の電圧と基準電圧源30の基準電圧との電位差を測定させる。これにより、電圧計40によって、蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差に対応する電気信号がコントローラ50に入力される。
ステップS3では、コントローラ50は、定電流源20から蓄電デバイス10に定電流を供給して充電を開始する。
ステップS4では、コントローラ50は、電気信号により示される蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差に基づいて蓄電デバイス10の内部状態を演算する状態演算処理を実行する。この状態演算処理については図3を参照して後述する。
ステップS4の処理が完了すると、本実施形態における測定方法についての一連の処理手順が終了する。
図3には、ステップS4で実行される状態演算処理の一例が示されている。この例では、コントローラ50は、状態演算処理(S4)として、蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差に基づき蓄電デバイス10の良否を判定する。
ステップS41では、コントローラ50は、充電を開始してからの経過時間である充電時間が所定の時間を超えたか否かを判定する。所定の時間は、例えば電圧計40の分解能を電位差が測定可能な分解能の限界まで上げた状態において蓄電デバイス10が正常な場合と異常な場合とで電位差の時間変化に差が現れる程度の長さに予め設定される。
ステップS41にて、充電時間が所定の時間を超えていないと判定された場合には、コントローラ50は、充電時間が所定の時間を超えると判定されるまで待機する。一方、充電時間が所定の時間を超えたと判定された場合には、コントローラ50は、ステップS42へ移行する。
このように、電圧計40は、定電流の供給開始時(充電開始時)の電位差である初期電位差と、定電流源20から定電流が供給された状態における電位差である充電電位差と、を測定する。即ち、電圧計40は、蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差を、定電流源20から定電流が供給された状態を含み二回以上測定する。
ステップS42では、コントローラ50は、電圧計40を用いて測定した蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差に基づき、蓄電デバイス10の電圧変化を検出する。具体的には、コントローラ50は、充電開始時の初期電位差と、定電流源20から定電流が供給された状態における充電電位差と、に基づき、蓄電デバイス10の電圧変化の近似直線を求める。より詳細には、コントローラ50は、制御周期ごとに測定した電位差に基づき、最小二乗法によって蓄電デバイス10の電圧変化の近似直線を求める。
これに代えて、コントローラ50は、充電開始時の初期電位差と、定電流源20から定電流が供給された状態における充電電位差との差分から蓄電デバイス10の電圧変化を検出するようにしてもよい。この場合、電圧計40によって蓄電デバイス10の電圧を二回測定すればよいので、例えばマルチプレクサを用いて切り換えて電位差測定を行うことも可能である。それゆえ、測定装置1を簡素化することができる。
ステップS43では、コントローラ50は、近似直線の傾きが所定範囲内であるか否かを判定する。近似直線の傾きが上限値と下限値との間の所定範囲内であると判定された場合には、蓄電デバイス10は正常な状態であるので、コントローラ50は、ステップS44へ移行する。一方、ステップS43にて、近似直線の傾きが所定範囲内ではない、即ち所定範囲の上限値よりも大きいか、又は所定範囲の下限値よりも小さいと判定された場合には、蓄電デバイス10は異常な状態であるので、コントローラ50は、ステップS45へ移行する。
ここで、図4及び図5の具体例を参照して、ステップS42及びステップS43の処理について説明する。図4及び図5の横軸は、共に充電時間[s]であり、蓄電デバイス10の充電を開始してからの経過時間である。
図4に示す例では、電圧計40によって蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差が測定されており、測定した電位差の直流成分が比較的小さいため、電圧計40の分解能は10[nV]に設定されている。図4の縦軸は、電圧計40が測定した充電電位差と初期電位差との差分[μV]である。
図4に示す実線のデータは、蓄電デバイス10が正常な状態であるときの電位差の変化であり、実線の直線は、ステップS42の処理によって求めた電位差の変化の近似直線Ln1である。一方、図4に示す点線のデータは、蓄電デバイス10が異常な状態であるときの電位差の変化であり、破線の直線は、ステップS42の処理によって求めた電位差の変化の近似直線La1である。以下では、近似直線Ln1の傾きをRnとし、近似直線La1の傾きをRaとする。
また、図4に示す二本の二点鎖線の直線は、近似直線の傾きの上限値Rmaxと下限値Rminとを各々示すものであり、二本の二点鎖線の直線の間が、蓄電デバイス10が正常な状態における傾きである。なお、近似直線の傾きの上限値Rmax及び下限値Rminは、正常な状態の蓄電デバイス10を用いて予め実測して求めた近似直線の例えば±10%に設定される。
図4を参照すると、実線で示す近似直線Ln1(傾きRn)は、近似直線の傾きの上限値Rmaxと下限値Rminとの間に入っている。よって、コントローラ50は、蓄電デバイス10が正常な状態であると判定する。一方、破線で示す近似直線La1(傾きRa)は、近似直線の傾きの上限値Rmaxと下限値Rminとの間に入っていない。よって、コントローラ50は、蓄電デバイス10が異常な状態であると判定する。
このように、コントローラ50は、近似直線の傾きが上限値Rmaxと下限値Rminとの間に入っているか否かに基づいて、蓄電デバイス10が正常な状態であるか、あるいは異常な状態であるかを判定する。即ち、コントローラ50は、測定した蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差に基づき直流成分を大部分除去した蓄電デバイス10の電圧変化を検出し、当該電圧変化が正常範囲内である場合に蓄電デバイス10が正常であると判定する。
なお、図4に示す例では、蓄電デバイス10の良否判定に60[s]の測定時間T1をかけているが、実線で示す近似直線Ln1と破線で示す近似直線La1との傾きの差は、20[s]程度が経過すれば明確に確認できる。このように、測定装置1では、蓄電デバイス10の良否判定を数十秒程度の短い時間で実行することができる。
一方、図5では、比較例として蓄電デバイス10の電圧自体が測定されており、直流成分が除去されていないため、電圧計の分解能は10[μV]に設定されている。図5の縦軸は、定電流源20から定電流を供給した状態における蓄電デバイス10の電圧である充電電圧と蓄電デバイス10の開放電圧(OCV)との差分[μV]である。
実線に示すデータは、蓄電デバイス10が正常な状態であるときの電圧変化であり、実線の直線は、ステップS42の処理によって求めた電圧変化の近似直線Ln0である。一方、図5に示す点線のデータは、蓄電デバイス10が異常な状態であるときの電圧変化であり、破線の直線は、ステップS42の処理によって求めた電圧変化の近似直線La0である。
蓄電デバイス10の電圧自体の測定では、蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差を測定する場合と比較して、蓄電デバイス10の電圧変化の直流成分が大きいため電圧計の分解能を上げるにつれて電圧計の内部ノイズの影響が大きくなる。それゆえ、図5に示す例では、電圧計の分解能が、図4に示した例に比べて低く設定されている。
その結果、図5に示すように、蓄電デバイス10の良否判定には600[s]の測定時間T0を要している。実線で示す近似直線Ln0と破線で示す近似直線La0との傾きの差は、200[s]程度が経過すれば確認できるため、良否判定を数分程度の短い時間で実行することも可能である。しかしながら、蓄電デバイス10の電圧自体を測定する手法では、図4に示した本実施形態の測定時間T1と比較して、蓄電デバイス10の良否判定に十倍程度の時間を要することがわかる。
以上のように、本実施形態では、定電流源20からの定電流によって蓄電デバイス10を充電し、定電流が供給された状態を含み二回以上電圧を測定して蓄電デバイス10の電圧変化を検出する。そして検出した蓄電デバイス10の電圧変化が正常範囲内であるか否かを判断し、電圧変化が正常範囲内である場合に、蓄電デバイス10が正常であると判定する。そのため、蓄電デバイス10の電圧が自己放電により低下するまで待つ必要がないので、蓄電デバイス10の良否判定にかかる時間が短い。
これに加え、本実施形態では、電圧計40を用いて蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差を測定することで、蓄電デバイス10の電圧自体を測定する場合と比較して、電圧計40の内部ノイズの影響を抑えながら電圧計40の分解能を上げることができる。それゆえ、蓄電デバイス10の良否判定に要する時間を短縮することができる。
したがって、短い時間で蓄電デバイス10の良否判定を行うことができる。
このとき、定電流源20は、蓄電デバイス10にて過電圧よりも小さく、主に電気二重層反応が発生する大きさの定電流を供給して蓄電デバイス10を充電する。よって、定電流の大きさが小さいので、内部抵抗14に流れる電流Iir[A]に対して蓄電部13に流れる電流Ist[A]の割合が大きい。そのため、並列抵抗15の有無による充電曲線の傾きの差が大きくなるので、蓄電デバイス10が正常であるか否かの判定が容易である。
図3に戻り、ステップS43の処理が終了すると、コントローラ50は、ステップS44に進む。
ステップS44では、コントローラ50は、蓄電デバイス10が正常な状態であるとして、表示部60にその旨を表示して使用者に通知する。一方、ステップS45では、コントローラ50は、蓄電デバイス10が異常な状態であるとして、表示部60にその旨を表示して使用者に通知する。
以上の状態演算処理(S4)を実行することにより、蓄電デバイス10の良否判定が完了する。
上記実施形態では電圧計40が、初期電位差として蓄電デバイス10の充電を開始してから蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差を測定したが、これに代えて蓄電デバイス10の充電を開始する前に蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差を初期電位差として測定してもよい。この場合であっても、蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差を、定電流が供給された状態を含み二回以上測定することができるので、蓄電デバイス10の電圧変化の近似直線を求めることができる。
次に、第1実施形態による作用効果について説明する。
本実施形態における蓄電デバイス10の状態を測定する測定装置1は、蓄電デバイス10に定電流を供給する定電流源20と、蓄電デバイス10の電圧に対して基準となる基準電圧を生成する基準電圧源30と、を備える。さらに測定装置1は、蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差を測定する電圧計40と、測定した電位差の変化に基づいて蓄電デバイス10の内部状態を演算するコントローラ50と、を備える。
また、蓄電デバイス10の状態を測定する測定方法は、蓄電デバイス10の電圧に対して基準となる基準電圧を生成する。さらに測定方法は、蓄電デバイス10に定電流を供給し、蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差を測定し、測定した電位差の変化に基づいて蓄電デバイス10の内部状態を演算する。
蓄電デバイス10の電圧変化は、蓄電デバイス10の内部状態の違いによって変わる。そのため、上述した構成によれば、蓄電デバイス10に定電流が供給されることによって蓄電デバイス10の電圧変化が大きくなるので、蓄電デバイス10の内部状態を測定するのに要する時間を短縮することができる。
これに加え、上述した構成によれば、蓄電デバイス10の電圧を直接測定する代わりに、蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差を測定するので、蓄電デバイス10の電圧について主に変動成分を抽出することが可能となる。それゆえ、電圧計40の分解能を上げることが可能となるので、蓄電デバイス10の電圧変化を迅速に推定することができる。
このように、内部状態の違いに起因する蓄電デバイス10の電圧変化を大きくしつつ電圧計40の分解能を上げることが可能になるので、短い時間で蓄電デバイス10の状態を測定することができる。
さらに、上述した構成によれば、蓄電デバイス10に定電圧を供給する場合と比較して、定電流源20を用いて比較的小さい電流を蓄電デバイス10に供給することは容易である。よって、測定装置1では、定電流源20を用いることで、蓄電デバイス10にて過電圧よりも小さく、主に電気二重層反応が発生する大きさの定電流を安定して供給することができる。
また、本実施形態における電圧計40は、蓄電デバイス10及び基準電圧源30の各々の正極間に接続される抵抗素子41と、抵抗素子41に生じる電圧を、蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差として検出する検出部42と、を備える。
この構成によれば、抵抗値が比較的大きい抵抗素子41を設けることにより、定電流源20から電圧計40へ流れる漏れ電流と、基準電圧源30から蓄電デバイス10へ流れる余計な電流と、を抑制することができる。それゆえ、蓄電デバイス10の内部状態についての推定精度の低下を抑制することができる。
また、本実施形態における抵抗素子41に流れる電流は、定電流源20から供給される定電流よりも小さい。
この構成によれば、定電流よりも小さい電流が抵抗素子41に流れるので、蓄電デバイス10に供給される定電流の過不足が抑制されるので、蓄電デバイス10の測定精度の低下を抑制することができる。
また、本実施形態における基準電圧源30によって生成される基準電圧は、抵抗素子41の両端に生じる電圧が蓄電デバイス10の電圧よりも小さくなるように設定される。
この構成によれば、蓄電デバイス10の電圧を直接測定する場合と比較して、蓄電デバイス10の電圧変化のうち直流成分が小さくなるので、その分、電圧計40の分解能を上げることが可能になる。したがって、電圧計40の内部ノイズを抑制しつつ、短い時間で蓄電デバイス10の電圧変化を検出することができる。
また、本実施形態における定電流源20は、蓄電デバイス10にて過電圧よりも小さく、主に電気二重層反応が発生する大きさの定電流を供給する。
この構成によれば、定電流の大きさが比較的小さいので、内部抵抗14に流れる電流Iir[A]に対して蓄電部13に流れる電流Ist[A]の割合が大きくなる。そのため、並列抵抗15の有無による充電曲線の傾きの差が大きくなるので、蓄電デバイス10が正常であるか否かの判定が容易である。
また、本実施形態におけるコントローラ50は、電圧計40が測定した電位差の変化に基づいて蓄電デバイス10の自己放電状態に関する情報を生成する。例えば、コントローラ50は、蓄電デバイス10の自己放電状態に関する情報として、蓄電デバイス10の良否判定の結果を出力する。
この構成によれば、蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差を測定することによって電圧計40の分解能を上げることが可能になるので、蓄電デバイス10の電圧変化を検出する時間を短縮することができる。それゆえ、短い時間で、蓄電デバイス10の自己放電情報に関する内部情報を生成することが可能になる。
また、電圧計40は、定電流の供給開始時の初期電位差と、定電流源20から定電流が供給された状態における充電電位差と、を測定し、コントローラ50は、初期電位差と充電電位差とに基づき蓄電デバイス10の電圧変化を検出する。
この構成によれば、コントローラ50は、定電流の供給開始時の初期電位差と、定電流源20から定電流が供給された状態における充電電位差と、の差分から電圧変化を検出することが可能となる。この場合、電圧計40を用いて蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差を少なくとも二回測定すればよいので、例えばマルチプレクサを用いて切り換えて測定を行うことも可能である。よって、測定装置1を簡素化することができる。
(第2実施形態)
次に、図6を参照して、第2実施形態に係る測定装置1の基準電圧源30について説明する。図6は、測定装置1の構成を示す図である。本実施形態では、基準電圧源30として、他の蓄電デバイス10Aが用いられる点が第1実施形態と異なる。
本実施形態に係る基準電圧源30は、蓄電デバイス10と同じ種類である他の蓄電デバイス10Aである。蓄電デバイス10Aは、測定対象である蓄電デバイス10の電圧に対して基準となる基準電圧を生成する。
蓄電デバイス10の良否判定においては、多数の蓄電デバイス10,10Aが同じ環境下に置かれることが想定される。蓄電デバイス10,10Aについては、その雰囲気温度及び雰囲気湿度などが変化することにより、蓄電デバイス10,10Aの内部状態が互いに同じように変化する。
例えば、雰囲気温度の変化に伴い蓄電デバイス10の内部温度の変化量が大きくなるにつれて蓄電デバイス10の電圧変化の傾きも変化してしまう。この対策として、本実施形態では、蓄電デバイス10と同一環境下に置かれた他の蓄電デバイス10Aの電圧が蓄電デバイス10の基準電圧として用いられる。
蓄電デバイス10の電圧変化のうち雰囲気温度及び雰囲気湿度の違いに起因する環境変動成分は、蓄電デバイス10Aの電圧においても同じように重畳されている。それゆえ、蓄電デバイス10の電圧変化を検出するにあたり、蓄電デバイス10の電圧と蓄電デバイス10Aの電圧との電位差を測定することによって、蓄電デバイス10の電圧のうち環境変動成分が主に除去されるので、電圧変化の検出精度を高めることができる。
以上のように、第2実施形態によれば、蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差を測定するにあたり、基準電圧として蓄電デバイス10Aの電圧が用いられるので、測定環境の違いによる蓄電デバイス10の電圧変化の変動を低減することができる。
また、他の蓄電デバイス10Aを基準電圧源30として用いることによって、電圧生成回路を用いる場合と比較して、簡易に測定装置1を構成することができる。したがって、測定装置1を簡易に構成しつつ蓄電デバイス10の内部状態を精度よく測定することができる。
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る測定装置1のコントローラ50について説明する。以下では、並列抵抗15の抵抗値を放電抵抗Rprと称し、並列抵抗15に流れる電流を自己放電電流Iprと称する。
本実施形態に係るコントローラ50は、蓄電デバイス10の放電抵抗Rpr又は自己放電電流Iprを演算する点が第1実施形態及び第2実施形態とは異なる。
コントローラ50は、定電流源20から蓄電デバイス10に供給される定電流を、第一の電流値を示す定電流と、第二の電流値を示す定電流と、の間で切り替える。以下では、第一の電流値を示す定電流を、単に「第一の定電流」とも称し、第二の電流値を示す定電流を、単に「第二の定電流」とも称する。
本実施形態では、第一の電流値は、第1実施形態の定電流と同様、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprの基準値に対して一倍又は数倍に設定される。例えば、第一の電流値は、自己放電電流Iprの基準値を一倍した10[μA]に設定される。また、第二の電流値は、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprの基準値に対して数十倍以上に設定される。例えば、第二の電流値は、自己放電電流Iprの基準値の五十倍に設定される。
上述した自己放電電流Iprの基準値は、既知の情報であり、例えば、多数の蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを集計した統計データ、又は、電気特性が正常である特定の蓄電デバイス10の自己放電電流Iprの試験結果などを用いて予め定められる。
続いて、コントローラ50は、定電流源20から蓄電デバイス10に供給された定電流ごとに、蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差に基づいて蓄電デバイス10の電圧変化を検出する。
本実施形態では、コントローラ50は、定電流の各々について、図4に示したように、定電流の供給開始時の初期電位差と、定電流源20から定電流が供給された状態における充電電位差と、に基づき蓄電デバイス10の電圧変化の傾きを求める。これに代えてコントローラ50は、蓄電デバイス10に供給される定電流ごとに、蓄電デバイス10の電圧変化の近似直線Ln1を求め、その近似直線Ln1の傾きを電圧変化の傾きとして用いてもよい。
コントローラ50は、定電流ごとに求められた蓄電デバイス10の電圧変化の傾きと、蓄電デバイス10の蓄電部13の静電容量Cstを求める数式と、を用いて、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを演算する。ここで、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprの演算手法について以下に説明する。
蓄電部13の静電容量Cstを求める数式は、第一の電流値I1を示す定電流を蓄電デバイス10に充電したときの電圧変化の傾きA1と、蓄電部13に充電される電流Ist[A]と、を用いて表わすことができる。蓄電部13に充電される電流Ist[A]は、静電容量Cstに蓄積される単位時間あたりの電荷量であり、図1に示した内部抵抗14に流れる電流である第一の電流値I1から、並列抵抗15に流れる自己放電電流Iprを減じた値(I1−Ipr)に相当する。
したがって、蓄電部13の静電容量Cstを求める数式は、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprと、第一の電流値I1と、第一の定電流を蓄電デバイス10に充電したときの電圧変化の傾きA1と、を用いて、次式(1)のように表わすことができる。
さらに、蓄電部13の静電容量Cstを求める数式は、第二の電流値I2と、第二の電流値I2を示す定電流を蓄電デバイス10に充電したときの電圧変化の傾きA2と、を用いて、次式(2)のように表わすことができる。
上式(2)については、蓄電部13に充電される電流Ist[A]は、蓄電デバイス10に供給された第二の定電流の電流値I2から自己放電電流Iprを減じた値(I2−Ipr)に相当する。しかしながら、図1に示した内部抵抗14に流れる第二の定電流の電流値I2は、上述のとおり、並列抵抗15に流れる自己放電電流Iprよりも十分に大きいため、次式(3)のように近似することができる。
したがって、上式(2)においては、第二の定電流の電流値I2から自己放電電流Iprを減じた電流値(I2−Ipr)に代えて、第二の定電流の電流値I2が用いられている。
続いて、式(1)及び式(2)を自己放電電流Iprについて解くと、次式(4)が導出される。
このように、定電流ごとに求めた電圧変化の傾きA1,A2及び定電流の電流値I1,I2を、蓄電部13の静電容量Cstを求める数式に代入することにより、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを算出することができる。
続いて、コントローラ50は、算出した自己放電電流Iprに基づいて蓄電デバイス10の放電抵抗Rprを演算する。
本実施形態では、コントローラ50は、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprにより蓄電デバイス10の開放電圧(OCV)を除して蓄電デバイス10の放電抵抗Rprを算出する。蓄電デバイス10の開放電圧(OCV)は、定電流の供給を開始する前に電圧計40によって測定された蓄電デバイス10の電圧値を用いてもよく、あるいは、蓄電デバイス10の試験結果などを用いて予め定められた電圧値を用いてもよい。
これに代えて、コントローラ50は、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprと放電抵抗Rprとの関係を表わす対応テーブル又は関数を予め記憶しておき、この対応テーブル又は関数を用いて放電抵抗Rprを算出してもよい。
この後、コントローラ50は、算出した蓄電デバイス10の放電抵抗Rprに基づいて蓄電デバイス10が正常であるか否かを判定する。
本実施形態では、コントローラ50は、蓄電デバイス10の放電抵抗Rprの算出値が所定の抵抗範囲内にあるか否かを判定する。所定の抵抗範囲の上限値及び下限値は、複数の蓄電デバイス10の放電抵抗Rprを集計した統計データ、又は、電気特性が正常である特定の蓄電デバイス10の試験結果などを用いて予め定められる。
コントローラ50は、放電抵抗Rprの算出値が所定の抵抗範囲内にあると判定した場合には、蓄電デバイス10が正常な状態であると判定し、放電抵抗Rprの算出値が所定の範囲内にないと判定した場合には、蓄電デバイス10が異常であると判定する。
これに代えて、放電抵抗Rprごとに蓄電デバイス10の正常又は異常を示す診断テーブルをコントローラ50に予め記憶しておいてもよい。この場合、コントローラ50は、蓄電デバイス10の放電抵抗Rprを算出すると、診断テーブルを参照し、算出した放電抵抗Rprに対応付けられた蓄電デバイス10の内部状態を特定する。
最後に、コントローラ50は、蓄電デバイス10の正常な状態又は異常な状態を示す判定結果を表示部60に出力する。これにより、表示部60の画面には蓄電デバイス10の判定結果が表示される。
なお、本実施形態ではコントローラ50が放電抵抗Rprの算出値に基づいて蓄電デバイス10の良否判定を行ったが、これに代えて、自己放電電流Iprの算出値を用いて蓄電デバイス10が正常な状態であるか否かを判定してもよい。この場合、コントローラ50は、自己放電電流Iprの算出値が例えば所定の電流範囲内にあるか否かを判定し、その算出値が所定の電流範囲内にあると判定したときに蓄電デバイス10が正常な状態であると判定する。
また、本実施形態ではコントローラ50が、蓄電デバイス10に電流値が異なる定電流を順次供給するように定電流源20の動作を制御したが、蓄電部13の静電容量Cstが既知であれば、第一の電流値I1を示す定電流のみ供給するようにしてもよい。この場合、コントローラ50には蓄電部13の静電容量Cstが予め記憶され、コントローラ50は、その静電容量Cstと、第一の電流値I1と、第一の電流値I1に対応する電圧変化の傾きA1と、を上式(1)に代入して自己放電電流Iprを算出する。
コントローラ50に記憶される蓄電部13の静電容量Cstについては、複数の蓄電デバイス10における蓄電部13の静電容量Cstを集計した統計データ、又は、特定の蓄電デバイス10の試験結果などを用いて予め定められる。これに代えて、コントローラ50は、第二の電流値I2を示す定電流を蓄電デバイス10に充電し、そのときの電圧変化の傾きA2と第二の電流値I2とを上式(2)に代入して蓄電部13の静電容量Cstを求めてもよい。
次に、図7を参照して、第3実施形態に係る測定装置1を用いた状態演算処理(S4)について説明する。図7は、測定装置1を用いた測定方法を示すフローチャートである。
本実施形態に係る状態演算処理(S4)は、図3に示したステップS43の処理に代えて、ステップS51乃至S55の処理を備えている。そのため、ステップS51乃至S55の各処理についてのみここでは説明する。
ステップS42にて、コントローラ50は、図2のステップS3の処理によって設定された第一の電流値I1を示す定電流を充電したときの蓄電デバイス10の電圧変化の近似直線Ln1を求めて近似直線Ln1の傾きA1を取得し、ステップS51へ進む。
ステップS51では、コントローラ50は、定電流源20から蓄電デバイス10に供給される定電流を、第一の定電流から、第一の電流値I1よりも大きい第二の電流値I2を示す定電流へ切り替える。
ステップS52及びステップS53の処理は、それぞれステップS41及びステップS42の処理と同様である。そのため、ステップS52及びS53では、コントローラ50は、所定の時間だけ蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差を測定し、第二の定電流を充電したときの電圧変化の近似直線Ln2を求めて近似直線Ln2の傾きA2を取得する。
ステップS54では、コントローラ50は、第一の電流値I1及び第二の電流値I2を示す定電流ごとに取得した近似直線の傾きA1,A2に基づいて蓄電デバイス10の放電抵抗Rprを演算する。
本実施形態では、コントローラ50は、第一の電流値I1と、近似直線の傾きA1と、第二の電流値I2と、近似直線の傾きA2と、を上式(4)に代入して蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを算出する。そしてコントローラ50は、蓄電デバイス10の開放電圧(OCV)を蓄電デバイス10の自己放電電流Iprで除して蓄電デバイス10の放電抵抗Rprを算出する。
ステップS55では、コントローラ50は、算出した蓄電デバイス10の放電抵抗Rprに基づいて蓄電デバイス10が正常であるか否かを判定する。
本実施形態では、コントローラ50は、放電抵抗Rprの算出値が所定の抵抗範囲内にあるか否かを判定する。放電抵抗Rprの算出値が所定の抵抗範囲内にあると判定された場合には、コントローラ50は、蓄電デバイス10は正常な状態であるため、ステップS44へ進む。一方、放電抵抗Rprの算出値が所定の抵抗範囲内にはない、即ち、抵抗範囲の上限値よりも大きいか、又は抵抗範囲の下限値よりも小さいと判定された場合には、蓄電デバイス10は異常な状態であるため、コントローラ50は、ステップS45へ進む。
以上の状態演算処理(S4)を実行することで、蓄電デバイス10の良否判定が完了する。
なお、図7に示す例では、コントローラ50は、蓄電デバイス10に供給される定電流の大きさを一回だけ切り替えて蓄電デバイス10の電圧変化の傾きを二回求めることで蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを算出した。これに代えて、複数回、定電流の大きさを切り替えて電圧変化の近似直線の傾きを順次求めることにより複数の自己放電電流Iprを算出し、これらの平均値又は中央値などの統計値を最終結果として用いてもよい。
また、本実施形態ではコントローラ50が定電流源20から蓄電デバイス10の正極電極11に供給される定電流の大きさを切り替えて蓄電デバイス10の放電抵抗Rprを算出したが、これに限られるものではない。例えば、定電流源20と蓄電デバイス10との接続関係を逆にし、定電流源20から蓄電デバイス10の負極電極12に定電流を供給して蓄電デバイス10を放電し、この状態において定電流の大きさを切り替えてもよい。この場合であっても、上記実施形態のように、蓄電デバイス10の放電抵抗Rprを算出することが可能である。
さらに、本実施形態では定電流源20から蓄電デバイス10に供給される定電流の大きさを切り替えたが、定電流の向きを切り替えても自己放電電流Ipr及び放電抵抗Rprを算出することができる。以下に、蓄電デバイス10に供給される定電流の向きを切り替えた場合における蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを演算する手法について簡単に説明する。
蓄電部13の静電容量Cstは、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprと、第一の電流値I1を示す定電流を蓄電デバイス10に充電したときの電圧変化の傾きAcと、を用いて次式(5)のように表わすことができる。さらに蓄電部13の静電容量Cstは、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprと、第二の電流値I2を示す定電流によって蓄電デバイス10が放電したときの電圧変化の傾きAdと、を用いて次式(6)のように表わすことができる。
上記の式(5)及び式(6)を自己放電電流Iprについて解くと、次式(7)が導出される。
したがって、第一の電流値I1を示す定電流を充電したときの電圧変化の傾きAcと、第二の電流値I2を示す定電流で放電したときの電圧変化の傾きAdと、を上式(7)に代入することで、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを算出することができる。そして、算出した自己放電電流Iprで蓄電デバイス10の開放電圧(OCV)を除すことにより放電抵抗Rprが算出される。
この場合、第一の電流値I1及び第二の電流値I2については、少なくとも一方の絶対値が、自己放電電流Iprの基準値に対して一倍又は数倍に設定されていればよく、双方の絶対値が、互いに同じ値でも異なる値であってもよい。例えば、第一の電流値I1は、自己放電電流Iprの基準値を一倍した10[μA]に設定され、第二の電流値I2は、第一の電流値I1に「−1」を乗算した値、即ち−10[μA]に設定される。また、電圧変化の傾きAc,Adについては、図4で述べた手法と同様の手法により取得される。
また、本実施形態ではコントローラ50が定電流の大きさを切り替えたが、定電流の大きさを切り替えた後に定電流の向きを切り替えてもよく、定電流の向きを切り替えた後に定電流の大きさを切り替えてもよい。この場合には、複数の自己放電電流Iprが得られるので、これらの平均値などを最終結果として用いてもよい。
また、本実施形態ではコントローラ50が定電流の大きさを切り替えて蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを算出したが、定電流の大きさを切り替えることなく自己放電電流Iprを算出してもよい。例えば、式(1)中の蓄電部13の静電容量Cstが既知であれば、蓄電デバイス10の電圧変化の近似直線の傾きA1を求め、その傾きA1と、第一の電流値I1と、既知の静電容量Cstを上式(1)に代入して自己放電電流Iprを算出してもよい。
あるいは、上式(1)中の蓄電部13の静電容量Cst及び第一の電流値I1に、予め実測した測定値又は予測値をそれぞれ代入して近似直線の傾きA1と自己放電電流Iprとの関係を示す演算テーブルを生成し、これをコントローラ50に予め記録しておいてもよい。この場合、コントローラ50は、近似直線の傾きA1を求めると、演算テーブルを参照し、求めた近似直線の傾きA1に関係付けられた自己放電電流Iprを算出する。
また、蓄電デバイス10の放電抵抗Rprは、上述したように、蓄電デバイス10の開放電圧(OCV)を自己放電電流Iprで除して算出される。このため、蓄電デバイス10の開放電圧(OCV)が既知であれば、近似直線の傾きA1と放電抵抗Rprとの関係を示す演算テーブルを生成してコントローラ50に予め記憶しておいてもよい。この場合、コントローラ50は、蓄電デバイス10の電圧変化の近似直線の傾きA1を求めると、演算テーブルを参照し、求めた近似直線の傾きA1に関係付けられた放電抵抗Rprを算出する。
以上のように、本実施形態では、短時間で検出した蓄電デバイス10の一又は複数の電圧変化に基づいて自己放電電流Ipr又は放電抵抗Rprが算出されるので、コントローラ50は、短い時間で蓄電デバイス10の内部状態を推定することができる。
次に、第3実施形態による作用効果について説明する。
本実施形態におけるコントローラ50は、電圧計40が測定した電位差の変化に基づき、蓄電デバイス10の自己放電状態に関する情報として蓄電デバイス10の自己放電電流Ipr又は放電抵抗Rprを示す内部情報を生成する。
例えば、コントローラ50は、定電流源20を用いて蓄電デバイス10に第一の定電流を供給し、所定の時間経過後に蓄電デバイス10に供給される定電流を切り替えて第二の定電流を供給する。これと共にコントローラ50は、第一及び第二の定電流ごとに、電圧計40から蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差を取得し、取得した電位差に基づいて蓄電デバイス10の電圧変化の傾きA1,A2を定電流ごとに算出する。
そして、コントローラ50は、蓄電デバイス10の電圧変化の傾きA1,A2に基づいて、式(4)又は式(7)を用いて蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを算出し、算出した自己放電電流Iprに基づいて放電抵抗Rprを算出する。コントローラ50は、自己放電電流Ipr及び放電抵抗Rprの算出値を蓄電デバイス10の内部情報として表示部60に出力する。
このような構成によれば、蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差を測定することによって電圧計40の分解能を上げることが可能になるので、第1実施形態及び第2実施形態と同様、短い時間で蓄電デバイス10の内部情報を生成することができる。
また、本実施形態におけるコントローラ50は、電圧計40が測定した電位差の変化に基づき、蓄電デバイス10の自己放電状態に関する情報として蓄電デバイス10の良否を示す判定情報を生成する。
例えば、コントローラ50は、電圧計40が測定した電位差の変化に基づき算出した自己放電電流Ipr又は放電抵抗Rprが所定の正常範囲内にあるか否かを判定し、判定した結果を判定情報として表示部60に出力する。
このような構成によれば、上述した蓄電デバイス10の内部情報と同様、短い時間で蓄電デバイス10の判定情報を生成することができる。
このように、本実施形態におけるコントローラ50は、蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差の変化に基づいて蓄電デバイス10の自己放電状態に関する情報を生成する。これにより、短い時間で蓄電デバイス10の状態を表示したり、通知したりすることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
例えば、蓄電デバイス10の電圧変化の程度は蓄電デバイス10の内部温度に応じて変わる。この性質を利用して蓄電デバイス10の電圧変化と内部温度との関係を示す温度テーブルをコントローラ50に予め記憶しておき、コントローラ50は、検出した蓄電デバイス10の電圧変化に基づいて蓄電デバイス10の内部温度を推定してもよい。
また、上記実施形態では蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差の変化を用いて自己放電電流Ipr及び放電抵抗Rprを算出したが、蓄電部13の静電容量Cstを算出してもよい。例えば、第二の電流値I2を示す定電流を蓄電デバイス10に充電したときの電圧変化の傾きA2と第二の電流値I2とを上式(2)に代入して蓄電部13の静電容量Cstを算出する。
これに加え、コントローラ50は、算出した蓄電部13の静電容量Cstに基づいて蓄電デバイス10の内部状態を判定してもよい。例えば、コントローラ50は、静電容量Cstの算出値が所定の正常範囲内にあるか否かを判定することにより、蓄電デバイス10の良否を判定する。
また、上記実施形態では一つの蓄電デバイス10を測定したが、複数の蓄電デバイス10が直列接続された蓄電装置を測定することができる。また、測定装置1には表示部60が含まれているが、表示部60を省略してもよい。