1.第1実施形態
図1に示すように、熱利用システム10は、発熱装置11と熱利用装置12とを備える。熱利用システム10は、後述する熱媒体を発熱装置11の熱により加熱し、加熱された熱媒体を熱源として熱利用装置12を作動させる。
発熱装置11は、密閉容器15と、ガス排気部16と、ガス供給部17と、発熱モジュール18と、制御部19とを備える。
密閉容器15は、中空の容器であり、内部に発熱モジュール18を収容する。密閉容器15は、例えばステンレスなどで形成される。密閉容器15は、後述する排気用配管16bと接続する排気口15aと、後述する供給用配管17bと接続する供給口15bとを有する。密閉容器15は、例えば、筒状に形成された容器本体(図示なし)と、容器本体の上端に設けられた上蓋(図示なし)と、容器本体の下端に設けられた下蓋(図示なし)とにより形成されている。この例では、排気口15aは上蓋に形成され、供給口15bは下蓋に形成されている。容器本体と上蓋と下蓋との内面により、密閉容器15の内部に空間が形成される。密閉容器15には、供給用配管17bと供給口15bを介して後述する水素系ガスが供給される。
ガス排気部16は、密閉容器15の内部を真空排気する。ガス排気部16は、真空ポンプ16aと、排気用配管16bと、排気用バルブ16cとを有する。真空ポンプ16aは、例えば、ターボ分子ポンプとドライポンプとにより形成される。排気用配管16bは、真空ポンプ16aと密閉容器15とを接続する。排気用配管16bは、密閉容器15の内部のガスを真空ポンプ16aへ流通させる。排気用バルブ16cは、排気用配管16bに設けられる。排気用バルブ16cは、排気用配管16bを流通するガスの流量を調整する。真空ポンプ16aと排気用バルブ16cは、制御部19と電気的に接続している。ガス排気部16の排気速度は、例えばターボ分子ポンプの回転数を調整することで制御可能とされている。
ガス供給部17は、密閉容器15の内部に水素系ガスを供給する。ガス供給部17は、ガスボンベ17aと、供給用配管17bと、供給用バルブ17cとを有する。ガスボンベ17aは、水素系ガスを高圧で貯蔵する容器である。供給用配管17bは、ガスボンベ17aと密閉容器15とを接続する。供給用配管17bは、ガスボンベ17aに貯蔵された水素系ガスを密閉容器15へ流通させる。供給用バルブ17cは、供給用配管17bに設けられる。供給用バルブ17cは、供給用配管17bを流通する水素系ガスの流量を調整する。供給用バルブ17cは、制御部19と電気的に接続している。水素系ガスは、水素の同位体を含むガスである。水素系ガスとしては、重水素ガスと軽水素ガスとの少なくともいずれかが用いられる。軽水素ガスは、天然に存在する軽水素と重水素の混合物、すなわち、軽水素の存在比が99.985%であり、重水素の存在比が0.015%である混合物を含む。以降の説明において、軽水素と重水素とを区別しない場合には「水素」と記載する。
発熱モジュール18は、密閉容器15に収容されている。発熱モジュール18は、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を含む発熱構造体20と、発熱構造体20を加熱するヒータ21とを有し、発熱構造体20が水素系ガスに含まれる水素を吸蔵し、ヒータ21により加熱されることで、ヒータ21の加熱温度以上の熱(以下、過剰熱と称する)を発生する。発熱モジュール18は、過剰熱によって、後述する熱媒体を例えば50℃以上1500℃以下の範囲内の温度とする。この例では、発熱モジュール18は、熱媒体を1500℃に加熱する。発熱モジュール18は、発熱構造体20とヒータ21とをそれぞれ1個以上有していればよい。発熱モジュール18は、少なくとも1つの発熱構造体20を有するものであり、発熱構造体20の数を適宜変更可能である。本実施形態では、発熱モジュール18は、3個の発熱構造体20と1個のヒータ21とを有する。発熱モジュール18の詳細な構造については別の図面を用いて後述する。
発熱構造体20は、密閉容器15の内部において水素系ガスが流れる方向に複数配列されている。密閉容器15の内部における「水素系ガスが流れる方向」とは、水素系ガスの主流が流れる方向であり、例えば、密閉容器15の供給口15bから排気口15aへ向かう方向、すなわち密閉容器15の下方から上方へ向かう方向である。各発熱構造体20は、互いに隙間を空けて配置されている。
発熱構造体20には温度センサ22(図1および図3参照)が設けられている。温度センサ22は、発熱構造体20のそれぞれに設けられている。温度センサ22は、対応する発熱構造体20の温度を検出する。3個の発熱構造体20のうち、下段の発熱構造体20は、供給口15bから供給される熱媒体と接触するので、最も低温とされる。中段の発熱構造体20は、下段の発熱構造体20を通過することにより加熱された熱媒体と接触するので、下段の発熱構造体20よりも高温とされる。上段の発熱構造体20は、中段の発熱構造体20を通過することによりさらに加熱された熱媒体と接触するので、中段の発熱構造体20よりも高温とされる。すなわち、各段の発熱構造体20は、下段、中段、上段の順に、低温、中温、高温とされる。温度センサ22としては、例えば熱電対が用いられる。温度センサ22は、制御部19と電気的に接続しており、検出した温度に対応する信号を制御部19に出力する。
ヒータ21は、筒状に形成された電気炉である。この例では、ヒータ21は、円筒状とされている。ヒータ21の内面により形成される空間には発熱構造体20が配置される。ヒータ21は、電源23と接続しており、電源23から電力が入力されることにより駆動する。電源23は、制御部19と電気的に接続している。ヒータ21の加熱温度は、例えば、300℃以上であることが好ましく、500℃以上であることがより好ましく、600℃以上であることがさらに好ましい。
ヒータ21には温度センサ24が設けられている。温度センサ24は、ヒータ21の温度を検出する。温度センサ24としては、例えば熱電対が用いられる。温度センサ24は、制御部19と電気的に接続しており、検出した温度に対応する信号を制御部19に出力する。
制御部19は、熱利用システム10の各部の動作を制御する。制御部19は、例えば、演算装置(Central Processing Unit)、読み出し専用メモリ(Read Only Memory)やランダムアクセスメモリ(Random Access Memory)などの記憶部などを主に備えている。演算装置では、例えば、記憶部に格納されたプログラムやデータなどを用いて各種の演算処理を実行する。
制御部19は、真空ポンプ16a、排気用バルブ16c、供給用バルブ17c、電源23、温度センサ24、温度センサ22と電気的に接続している。制御部19は、例えば、温度センサ22により検出される発熱構造体20の温度に基づいて、ヒータ21の入力電力、水素系ガスの供給量、密閉容器15の圧力などを調整することにより、過剰熱の出力の制御を行う。
上記の構成を有する発熱装置11は、密閉容器15の内部への水素系ガスの供給を行うことにより水素系ガスに含まれる水素を発熱構造体20に吸蔵させ、密閉容器15の内部の真空排気と発熱構造体20の加熱とを行うことにより発熱構造体20に吸蔵されている水素を放出させることにより、過剰熱を発生する。すなわち、発熱装置11を用いた発熱方法は、密閉容器15の内部への水素系ガスの供給を行うことにより水素系ガスに含まれる水素を発熱構造体20に吸蔵させる水素吸蔵工程と、密閉容器15の内部の真空排気と発熱構造体20の加熱とを行うことにより発熱構造体20に吸蔵されている水素を放出させる水素放出工程とを有する。実際には、水素吸蔵工程と水素放出工程とが繰り返し行われる。なお、水素吸蔵工程では、密閉容器15の内部への水素系ガスの供給を行う前に、発熱構造体20の加熱を行うことにより、発熱構造体20に付着している水などを除去してもよい。水素放出工程では、例えば密閉容器15の内部への水素系ガスの供給を停止した後、真空排気と加熱とが行われる。
熱利用装置12は、発熱構造体20の熱により加熱された熱媒体を熱源として利用する。熱媒体としては、気体または液体を用いることができ、熱伝導率に優れかつ化学的に安定したものが好ましい。気体としては、例えば、ヘリウムガス、アルゴンガス、水素ガス、窒素ガス、水蒸気、空気、二酸化炭素などが用いられる。液体としては、例えば、水、溶融塩(KNO3(40%)-NaNO3(60%)など)、液体金属(Pbなど)などが用いられる。また、熱媒体として、気体または液体に固体粒子を分散させた混相の熱媒体を用いてもよい。固体粒子は、金属、金属化合物、合金、セラミックスなどである。金属としては、銅、ニッケル、チタン、コバルトなどが用いられる。金属化合物としては、上記金属の酸化物、窒化物、ケイ化物などが用いられる。合金としては、ステンレス、クロムモリブデン鋼などが用いられる。セラミックスとしては、アルミナなどが用いられる。この例では、熱媒体としてヘリウムガスが用いられる。
熱利用装置12は、格納容器31と、熱媒体流通部32と、ガスタービン33と、蒸気発生器34と、蒸気タービン35と、スターリングエンジン36と、熱電変換器37とを備える。熱利用装置12は、図1では、ガスタービン33、蒸気発生器34、蒸気タービン35、スターリングエンジン36、および熱電変換器37を有しているが、これらを任意に組み合わせて構成してもよい。
格納容器31は、中空の容器であり、内部に発熱装置11の密閉容器15を格納する。格納容器31は、例えばセラミックス、ステンレスなどにより形成される。格納容器31の材料は、断熱性に優れるものが好ましい。格納容器31は、熱媒体が流出する流出口31aと、熱媒体が流入する流入口31bとを有する。流入口31bから流入した熱媒体は、格納容器31の内面と密閉容器15の外面とにより形成された隙間を通り、流出口31aから流出する。
熱媒体流通部32は、格納容器31の内部と外部との間で熱媒体を流通させる。熱媒体流通部32は、本実施形態では、格納容器31とガスタービン33とを接続する第1配管32aと、ガスタービン33と蒸気発生器34とを接続する第2配管32bと、蒸気発生器34とスターリングエンジン36とを接続する第3配管32cと、スターリングエンジン36と格納容器31とを接続する第4配管32dと、格納容器31から第1配管32aへ熱媒体を流出させるポンプ32eと、格納容器31から第1配管32aへ流出する熱媒体の流量を調整する熱媒体流量制御部32fとを有する。ポンプ32eと熱媒体流量制御部32fは、この例では第1配管32aに設けられている。ポンプ32eとしては、例えばメタルベローズポンプが用いられる。熱媒体流量制御部32fは、調整弁として例えばバリアブルリークバルブを有する。
格納容器31から流出した熱媒体は、第1配管32a、第2配管32b、第3配管32c、第4配管32dの順に流れ、格納容器31へ戻る。すなわち、熱媒体流通部32は、格納容器31の内部と外部との間で熱媒体が循環する熱媒体循環ラインとして機能する。格納容器31の内部で発熱装置11により加熱された熱媒体は、熱媒体循環ラインを流れ、ガスタービン33、蒸気発生器34、スターリングエンジン36、熱電変換器37を順に介して冷却される。冷却された熱媒体は、格納容器31に流入し、発熱装置11により再び加熱される。
ガスタービン33は、格納容器31から流出した熱媒体によって駆動する。ガスタービン33に供給される熱媒体の温度は、例えば、600℃以上1500℃以下の範囲内であることが好ましい。ガスタービン33は、圧縮機33aとタービン33bとを有する。圧縮機33aとタービン33bとは、図示しない回転軸によって連結されている。圧縮機33aは、発熱構造体20により加熱されたヘリウムガスを圧縮することで、高温かつ高圧の熱媒体を生成する。タービン33bは、圧縮機33aを通過した熱媒体によって、回転軸を中心として回転する。
ガスタービン33は、発電機38と接続している。発電機38は、ガスタービン33の回転軸と連結しており、タービン33bが回転することで発電を行う。
蒸気発生器34は、ガスタービン33から流出した熱媒体の熱によって蒸気を発生させる。蒸気発生器34は、内部配管34aと熱交換部34bとを有する。内部配管34aは、第2配管32bと第3配管32cとを接続し、熱媒体を流通させる。熱交換部34bは、缶水が流通する配管により形成されており、この配管を流通する缶水と内部配管34aを流通する熱媒体との間で熱交換を行う。この熱交換により、蒸気発生器34は、缶水から蒸気を生成する。
蒸気発生器34は、蒸気配管34cおよび給水配管34dを介して、蒸気タービン35と接続している。蒸気配管34cは、熱交換部34bで発生した蒸気を蒸気タービン35へ供給する。給水配管34dは、図示しない復水器と給水ポンプとを有し、蒸気タービン35から排出された蒸気を復水器によって冷却して缶水に戻し、この缶水を給水ポンプによって熱交換部34bへ送る。
蒸気タービン35は、蒸気発生器34で発生した蒸気によって駆動する。蒸気タービン35に供給される蒸気の温度は、例えば300℃以上700℃以下の範囲内であることが好ましい。蒸気タービン35は、図示しない回転軸を有し、この回転軸を中心として回転する。
蒸気タービン35は、発電機39と接続している。発電機39は、蒸気タービン35の回転軸と連結しており、蒸気タービン35が回転することで発電を行う。
スターリングエンジン36は、蒸気発生器34から流出した熱媒体によって駆動する。スターリングエンジン36に供給される熱媒体の温度は、例えば、300℃以上1000℃以下の範囲内であることが好ましい。スターリングエンジン36は、この例では、ディスプレーサ型のスターリングエンジンである。スターリングエンジン36は、シリンダ部36aと、ディスプレーサピストン36bと、パワーピストン36cと、流路36dと、クランク部36eとを有する。
シリンダ部36aは、筒状に形成されており、一端が閉塞し、他端が開口している。ディスプレーサピストン36bは、シリンダ部36aの内部に配置されている。パワーピストン36cは、シリンダ部36aの内部において、ディスプレーサピストン36bよりも他端側に配置されている。ディスプレーサピストン36bとパワーピストン36cは、シリンダ部36aの軸方向に往復動可能に設けられている。
シリンダ部36aの内部には、ディスプレーサピストン36bによって仕切られた膨張空間42と圧縮空間43とが設けられている。膨張空間42は、圧縮空間43よりも、シリンダ部36aの一端側に設けられる。膨張空間42と圧縮空間43には作動流体が封入されている。作動流体としては、ヘリウムガス、水素系ガス、空気などが用いられる。この例では、作動流体としてヘリウムガスが用いられる。
流路36dは、シリンダ部36aの外部に設けられており、膨張空間42と圧縮空間43とを接続する。流路36dは、膨張空間42と圧縮空間43との間で作動流体を流通させる。
流路36dは、高温部45と、低温部46と、再生器47とを有する。膨張空間42の作動流体は、高温部45、再生器47、低温部46を順に通過して、圧縮空間43へ流入する。圧縮空間43の作動流体は、低温部46、再生器47、高温部45を順に通過して、膨張空間42へ流入する。
高温部45は、作動流体を加熱するための熱交換器である。高温部45の外部には伝熱管48が設けられている。伝熱管48は、第3配管32cと第4配管32dとを接続し、第3配管32cから第4配管32dへ熱媒体を流通させる。第3配管32cから伝熱管48へ熱媒体が流れることで、熱媒体の熱が高温部45へ伝達し、高温部45を通過する作動流体が加熱される。
低温部46は、作動流体を冷却するための熱交換器である。低温部46の外部には冷却管49が設けられている。冷却管49は、図示しない冷却媒体供給部と接続する。冷却管49は、冷却媒体供給部から供給される冷却媒体を流通させる。冷却管49に冷却媒体が流れることで、低温部46を通過する作動流体の熱が冷却媒体に奪われて、作動流体が冷却される。冷却媒体は、例えば水である。
再生器47は、蓄熱用の熱交換器である。再生器47は、高温部45と低温部46との間に設けられる。再生器47は、作動流体が膨張空間42から圧縮空間43へ移動する際に、高温部45を通過した作動流体から熱を受け取って蓄積する。また、再生器47は、作動流体が圧縮空間43から膨張空間42へ移動する際に、低温部46を通過した作動流体に対して、蓄積した熱を与える。
クランク部36eは、シリンダ部36aの他端に設けられる。クランク部36eは、例えば、クランクケースに回転可能に支持されたクランクシャフト、ディスプレーサピストン36bと接続するロッド、パワーピストン36cと接続するロッド、各ロッドとクランクシャフトとを連結する連結部材などを有し、ディスプレーサピストン36bとパワーピストン36cの往復運動をクランクシャフトの回転運動に変換する。
スターリングエンジン36は、発電機40と接続している。発電機40は、スターリングエンジン36のクランクシャフトと連結しており、クランクシャフトが回転することで発電を行う。
熱電変換器37は、ゼーベック効果を利用して、第4配管32dを流通する熱媒体の熱を電力に変換する。熱電変換器37は、例えば300℃以下の熱媒体により電力を発生する。熱電変換器37は、筒状に形成されており、第4配管32dの外周を覆うように設けられている。
熱電変換器37は、内面に設けられた熱電変換モジュール37aと、外面に設けられた冷却部37bとを有する。熱電変換モジュール37aは、第4配管32dと対向する受熱基板、受熱基板に設けられた受熱側電極、冷却部37bと対向する放熱基板、放熱基板に設けられた放熱側電極、p型半導体により形成されたp型熱電素子、n型半導体により形成されたn型熱電素子などを有する。この例では、熱電変換モジュール37aは、p型熱電素子とn型熱電素子とが交互に配列され、隣接するp型熱電素子とn型熱電素子とが受熱側電極および放熱側電極により電気的に接続されている。また、熱電変換モジュール37aは、一端に配置されたp型熱電素子と他端に配置されたn型熱電素子とに対し、リードが放熱側電極を介して電気的に接続されている。冷却部37bは、例えば、冷却水が流通する配管により形成される。これにより、熱電変換器37は、内面と外面との間に生じる温度差に応じた電力を発生する。
図2および図3を用いて、発熱モジュール18の構造を詳細に説明する。発熱モジュール18は、発熱構造体20とヒータ21の他に、炉心管50と軸部51と支持部52とを有する。炉心管50は、筒状に形成されている。この例では、炉心管50は円筒状とされている。炉心管50は、例えば、ムライトやアルミナなどで形成される。炉心管50は、ヒータ21の内面により形成された空間に設けられている。炉心管50の内部には発熱構造体20が設けられている。
軸部51は、筒状に形成されている。この例では、軸部51は円筒状とされている。軸部51は、例えば、一端が密閉容器15の上蓋に固定され、他端が密閉容器15の下蓋に固定される。軸部51の内部には温度センサ22が設けられている(図1および図3参照)。
支持部52は、筒状に形成されている。この例では、支持部52は円筒状とされている。支持部52の内部には軸部51が挿入される。本実施形態では、軸部51の長手方向に沿って、4個の支持部52が等間隔に配置されている。各支持部52は、例えばねじ53を用いて軸部51に固定される。支持部52は、発熱構造体20を支持するためのものである。支持部52を介して発熱構造体20が軸部51に固定される。
発熱構造体20は、水素系ガスに含まれる水素の吸蔵と放出とにより熱を発生する発熱体55と、発熱体55を保持するホルダー56と、外枠を形成するフレーム57とを有する。発熱構造体20は、少なくとも1つの発熱体55を有するものであり、発熱体55の数を適宜変更可能である。
発熱体55は、板状に形成されている。この例では、発熱体55は四角形状とされている。発熱体55は、密閉容器15の内部において水素系ガスが流れる方向に沿って起立して配置される。これにより、例えば発熱構造体20に吸蔵されている水素を放出させる際に、密閉容器15の内部の水素系ガスは、発熱体55に遮られることなく、供給口15bから排気口15aへスムーズに流れる。
発熱体55は、本実施形態では、軸部51を中心として、放射状に複数配置されている。この例では、16個の発熱体55が用いられている。複数の発熱体55は、ヒータ21の熱と、隣接する発熱体55の熱とにより加熱される。この結果、所定の温度を保つのに必要なヒータ21の入力電源を低減させることができる。発熱体55の詳細な構造については別の図面を用いて後述する。
ホルダー56は、長手方向を有する棒状に形成されている。この例では、ホルダー56は四角棒状とされている。ホルダー56は、その長手方向が、密閉容器15の内部において水素系ガスが流れる方向と直交するように配置される。本実施形態では、複数のホルダー56が軸部51を中心として放射状に配置されている。ホルダー56の長手方向における一端は、他端よりも、軸部51から離れた位置に配置される。
ホルダー56の表面には、ホルダー56の長手方向に延びる溝60が形成されている。溝60には発熱体55の縁部分が挿入される。この例では、溝60は、ホルダー56の他端から、ホルダー56の一端に至る途中まで形成されている。すなわち、溝60は、ホルダー56の長手方向に貫通しておらず、ホルダー56の一端側が行き止まりとなっている。このため、溝60に挿入された発熱体55は、ホルダー56の一端側への移動が制限され、ホルダー56から脱落することが防止される。
本実施形態では、密閉容器15の内部を流れる水素系ガスの上流と下流とに配置された一対のホルダー56により1個の発熱体55を保持する。この例では、16個の発熱体55を保持するために16対のホルダー56が用いられている。一対のホルダー56は、溝60が形成された面同士が対面して配置されている。
フレーム57は、ホルダー56と連結される。本実施形態では、密閉容器15の内部を流れる水素系ガスの上流と下流とに配置された一対のフレーム57が、一対のホルダー56と連結されている。フレーム57は、内側フレーム57aと外側フレーム57bとを有する。内側フレーム57aと外側フレーム57bは、例えばねじ61を用いてホルダー56と連結される。
内側フレーム57aは、板状に形成されている。この例では、内側フレーム57aは円板状とされている。内側フレーム57aの中心には、軸部51が挿入される開口62が形成されている。開口62は、例えば円形である。内側フレーム57aの開口62の直径は、支持部52の外径以下とされている。このため、内側フレーム57aは、開口62に軸部51が挿入された状態において、支持部52の端部と接触し、軸部51の長手方向への移動が制限される。
外側フレーム57bは、枠状に形成されている。この例では、外側フレーム57bは、リング状とされている。外側フレーム57bは、内側フレーム57aよりも軸部51から離れた位置に配置されており、内側フレーム57aとの間に隙間を形成する。外側フレーム57bと内側フレーム57aとの間に形成された隙間には水素系ガスが流れる。これにより、密閉容器15の内部の水素系ガスは、供給口15bから排気口15aへスムーズに流れる。内側フレーム57aと外側フレーム57bには、水素系ガスをよりスムーズに流すための開口を形成してもよい。
図4を用いて発熱体55の詳細な構造について説明する。図4に示すように、発熱体55は、台座66と多層膜67とを有する。
台座66は、水素吸蔵金属、水素吸蔵合金またはプロトン導電体により形成される。水素吸蔵金属としては、例えば、Ni、Pd、V、Nb、Ta、Tiなどが用いられる。水素吸蔵合金としては、例えば、LaNi5、CaCu5、MgZn2、ZrNi2、ZrCr2、TiFe、TiCo、Mg2Ni、Mg2Cuなどが用いられる。プロトン導電体としては、例えば、BaCeO3系(例えばBa(Ce0.95Y0.05)O3-6)、SrCeO3系(例えばSr(Ce0.95Y0.05)O3-6)、CaZrO3系(例えばCaZr0.95Y0.05O3-α)、SrZrO3系(例えばSrZr0.9Y0.1O3-α)、β Al2O3、β Ga2O3などが用いられる。
多層膜67は、台座66に設けられる。図4では台座66の表面にのみ多層膜67が設けられているが、多層膜67は台座66の両面に設けてもよい。本実施形態において、発熱構造体20は、台座66の両面に多層膜67が設けられた発熱体55を有する。なお、台座66の表面にのみ多層膜67が設けられた発熱体55により発熱構造体20を形成する場合は、2個の発熱体55を、互いに台座66を対面させて配置し、一対のホルダー56により保持することが好ましい。これにより、発熱構造体20の両面に各発熱体55の多層膜67が配置される。
多層膜67は、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金により形成される第1層71と、第1層71とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金またはセラミックスにより形成される第2層72とにより形成される。台座66と第1層71と第2層72との間には、後述する異種物質界面73が形成される。図4では、多層膜67は、台座66の表面に、第1層71と第2層72がこの順で交互に積層されている。第1層71と第2層72とは、それぞれ5層とされている。なお、第1層71と第2層72の各層の層数は適宜変更してもよい。多層膜67は、台座66の表面に、第2層72と第1層71がこの順で交互に積層されたものでもよい。多層膜67は、第1層71と第2層72をそれぞれ1層以上有し、異種物質界面73が1以上形成されていればよい。
第1層71は、例えば、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金のうち、いずれかにより形成される。第1層71を形成する合金は、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coのうち2種以上からなる合金であることが好ましい。第1層71を形成する合金として、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coに添加元素を添加させた合金を用いてもよい。
第2層72は、例えば、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金、SiCのうち、いずれかにより形成される。第2層72を形成する合金とは、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coのうち2種以上からなる合金であることが好ましい。第2層72を形成する合金として、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coに添加元素を添加させた合金を用いてもよい。
第1層71と第2層72との組み合わせとしては、元素の種類を「第1層71−第2層72(第2層72−第1層71)」として表すと、Pd-Ni、Ni-Cu、Ni-Cr、Ni-Fe、Ni-Mg、Ni-Coであることが好ましい。第2層72をセラミックスとした場合は、「第1層71−第2層72」が、Ni-SiCであることが好ましい。
図5に示すように、異種物質界面73は水素原子を透過させる。図5は、面心立法構造の水素吸蔵金属により形成される第1層71および第2層72に水素を吸蔵させた後、第1層71および第2層72を加熱したときに、第1層71における金属格子中の水素原子が、異種物質界面73を透過して第2層72の金属格子中に移動する様子を示した概略図である。
発熱体55は、密閉容器15に水素系ガスが供給されることで、台座66および多層膜67により水素を吸蔵する。発熱体55は、密閉容器15への水素系ガスの供給が停止されても、台座66および多層膜67で水素を吸蔵した状態を維持する。発熱体55では、ヒータ21により加熱が開始されると、台座66および多層膜67に吸蔵されている水素が放出され、多層膜67の内部をホッピングしながら量子拡散する。水素は軽く、ある物質Aと物質Bの水素が占めるサイト(オクトヘドラルやテトラヘドラルサイト)をホッピングしながら量子拡散していくことが分かっている。発熱体55は、真空状態でヒータ21により加熱が行われることで、異種物質界面73を水素が量子拡散により透過して、ヒータ21の加熱温度以上の過剰熱を発生させる。
第1層71の厚みと第2層72の厚みは、それぞれ1000nm未満であることが好ましい。第1層71と第2層72の各厚みが1000nm以上となると、水素が多層膜67を透過し難くなる。また、第1層71と第2層72の各厚みが1000nm未満であることにより、バルクの特性を示さないナノ構造を維持することができる。第1層71と第2層72の各厚みは、500nm未満であることがより好ましい。第1層71と第2層72の各厚みが500nm未満であることにより、完全にバルクの特性を示さないナノ構造を維持することができる。
発熱体55の製造方法の一例を説明する。発熱体55は、板状の台座66を準備し、蒸着装置を用いて、第1層71や第2層72となる水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を気相状態にして、凝集や吸着によって台座66上に、第1層71および第2層72を交互に成膜することにより製造される。第1層71および第2層72を真空状態で連続的に成膜することが好ましい。これにより、第1層71および第2層72の間には、自然酸化膜が形成されずに、異種物質界面73のみが形成される。蒸着装置としては、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を物理的な方法で蒸着させる物理蒸着装置が用いられる。物理蒸着装置としては、スパッタリング装置、真空蒸着装置、CVD(ChemicalVaporDeposition)装置が好ましい。また、電気めっき法により台座66上に水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を析出させ、第1層71および第2層72を交互に成膜してもよい。
以上の発熱体55は、水素を使用して発熱するので、二酸化炭素などの温室効果ガスを発生しない。また、使用する水素は、水から生成できるため安価である。さらに、発熱体55の発熱は、核分裂反応とは異なり、連鎖反応が無いので安全とされている。したがって、熱利用システム10および発熱装置11は、発熱体55を熱エネルギー源として利用するので、安価、クリーン、安全にエネルギーを供給することができる。
本発明は、上記第1実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
上記第1実施形態では、発熱体55の多層膜67は第1層71と第2層72とを有するが、多層膜67の構造はこれに限定されない。
例えば、図6に示すように、発熱体75において、台座66に設けられた多層膜67は、第1層71と第2層72に加え、第3層77をさらに有する。第3層77は、第1層71および第2層72とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはセラミックスにより形成される。第3層77の厚みは、1000nm未満であることが好ましい。図6では、第1層71と第2層72と第3層77は、台座66の表面に、第1層71、第2層72、第1層71、第3層77の順に積層されている。なお、第1層71と第2層72と第3層77は、台座66の表面に、第1層71、第3層77、第1層71、第2層72の順に積層されてもよい。すなわち、多層膜67は、第2層72と第3層77の間に第1層71を設けた積層構造とされている。多層膜67は、第3層77を1層以上有していればよい。第1層71と第3層77との間に形成される異種物質界面78は、異種物質界面73と同様に、水素原子を透過させる。発熱体75は、発熱体55の代わりに用いることができる。すなわち、発熱構造体20は、発熱体75を有するものでもよい。
第3層77は、例えば、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金、SiC、CaO、Y2O3、TiC、LaB6のうちいずれかにより形成される。第3層77を形成する合金は、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coのうち2種以上からなる合金であることが好ましい。第3層77を形成する合金として、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coに添加元素を添加させた合金を用いてもよい。
特に、第3層77は、CaO、Y2O3、TiC、LaB6のいずれかにより形成されることが好ましい。CaO、Y2O3、TiC、LaB6のいずれかにより形成される第3層77を有する発熱体75は、水素の吸蔵量が増加し、異種物質界面73、78を透過する水素の量が増加し、過剰熱の高出力化が図れる。CaO、Y2O3、TiC、LaB6のいずれかにより形成される第3層77は、厚みが10nm以下であることが好ましい。これにより、多層膜67は、水素原子を容易に透過させる。CaO、Y2O3、TiC、LaB6のいずれかにより形成される第3層77は、完全な膜状に形成されずに、アイランド状に形成されてもよい。また、第1層71および第3層77は、真空状態で連続的に成膜することが好ましい。これにより、第1層71および第3層77の間には、自然酸化膜が形成されずに、異種物質界面78のみが形成される。
第1層71と第2層72と第3層77との組み合わせとしては、元素の種類を「第1層71−第3層77−第2層72」として表すと、Pd-CaO-Ni、Pd-Y2O3-Ni、Pd-TiC-Ni、Pd-LaB6-Ni、Ni-CaO-Cu、Ni-Y2O3-Cu、Ni-TiC-Cu、Ni-LaB6-Cu、Ni-Co-Cu、Ni-CaO-Cr、Ni-Y2O3-Cr、Ni-TiC-Cr、Ni-LaB6-Cr、Ni-CaO-Fe、Ni-Y2O3-Fe、Ni-TiC-Fe、Ni-LaB6-Fe、Ni-Cr-Fe、Ni-CaO-Mg、Ni-Y2O3-Mg、Ni-TiC-Mg、Ni-LaB6-Mg、Ni-CaO-Co、Ni-Y2O3-Co、Ni-TiC-Co、Ni-LaB6-Co、Ni-CaO-SiC、Ni-Y2O3-SiC、Ni-TiC-SiC、Ni-LaB6-SiCであることが好ましい。
発熱構造体20は、発熱体55または発熱体75の代わりに、図7に示す発熱体80を有するものでもよい。図7に示すように、発熱体80において、台座66に設けられた多層膜67は、第1層71と第2層72と第3層77に加え、第4層82をさらに有する。第4層82は、第1層71、第2層72および第3層77とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはセラミックスにより形成される。第4層82の厚みは、1000nm未満であることが好ましい。図7では、第1層71と第2層72と第3層77と第4層82は、台座66の表面に、第1層71、第2層72、第1層71、第3層77、第1層71、第4層82の順に積層されている。なお、第1層71と第2層72と第3層77と第4層82は、台座66の表面に、第1層71、第4層82、第1層71、第3層77、第1層71、第2層72の順に積層してもよい。すなわち、多層膜67は、第2層72、第3層77、第4層82を任意の順に積層し、かつ、第2層72、第3層77、第4層82のそれぞれの間に第1層71を設けた積層構造とされている。多層膜67は、第4層82を1層以上有していればよい。第1層71と第4層82との間に形成される異種物質界面83は、異種物質界面73、78と同様に、水素原子を透過させる。発熱体80は、発熱体55の代わりに用いることができる。すなわち、発熱構造体20は、発熱体80を有するものでもよい。
第4層82は、例えば、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金、SiC、CaO、Y2O3、TiC、LaB6のうちいずれかにより形成される。第4層82を形成する合金は、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coのうち2種以上からなる合金であることが好ましい。第4層82を形成する合金として、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coに添加元素を添加させた合金を用いてもよい。
特に、第4層82は、CaO、Y2O3、TiC、LaB6のいずれかにより形成されることが好ましい。CaO、Y2O3、TiC、LaB6のいずれかにより形成される第4層82を有する発熱体80は、水素の吸蔵量が増加し、異種物質界面73、78、83を透過する水素の量が増加し、過剰熱の高出力化が図れる。CaO、Y2O3、TiC、LaB6のいずれかにより形成される第4層82は、厚みが10nm以下であることが好ましい。これにより、多層膜67は、水素原子を容易に透過させる。CaO、Y2O3、TiC、LaB6のいずれかにより形成される第4層82は、完全な膜状に形成されずに、アイランド状に形成されてもよい。また、第1層71および第4層82は、真空状態で連続的に成膜することが好ましい。これにより、第1層71および第4層82の間には、自然酸化膜が形成されずに、異種物質界面83のみが形成される。
第1層71と第2層72と第3層77と第4層82との組み合わせとしては、元素の種類を「第1層71−第4層82−第3層77−第2層72」として表すと、Ni-CaO-Cr-Fe、Ni-Y2O3-Cr-Fe、Ni-TiC-Cr-Fe、Ni-LaB6-Cr-Feであることが好ましい。
なお、多層膜67の構成、例えば、各層の厚みの比率、各層の層数、材料は、使用される温度に応じて適宜変更してもよい。以下、「多層膜の各層の厚みの比率と過剰熱の関係」、「多層膜の積層数と過剰熱の関係」、および「多層膜の材料と過剰熱の関係」について説明した後に、温度に応じた多層膜67の構成の一例を説明する。
まず「多層膜の各層の厚みの比率と過剰熱の関係」について説明する。Niからなる台座66と、Cuからなる第1層71とNiからなる第2層72とにより形成された多層膜67とを有する発熱体55を用いて、第1層71と第2層72の厚みの比率と過剰熱の関係を調べた。以下、多層膜67の各層の厚みの比率をNi:Cuと記載する。
Ni:Cu以外は同じ条件で多層膜67を形成した8種の発熱体55を作製し、実施例1〜8とした。なお、多層膜67は台座66の表面にのみ設けた。実施例1〜8の各発熱体55のNi:Cuは、7:1、14:1、4.33:1、3:1、5:1、8:1、6:1、6.5:1である。実施例1〜8の各発熱体55において、多層膜67は、第1層71と第2層72との積層構成が繰り返し設けられている。実施例1〜8の各発熱体55は、多層膜67の積層構成の数(以下、多層膜の積層数と称する)を5とした。実施例1〜8の各発熱体55は、多層膜67全体の厚みをほぼ同じとした。多層膜67の各層の厚みの比率と過剰熱の関係を調べる実験用の発熱装置(図示なし)を準備し、この実験用発熱装置に実施例1〜8の各発熱体55を導入した。
実験用発熱装置について説明する。実験用発熱装置は、密閉容器と、密閉容器の内部に配置された2つの発熱体と、各発熱体を加熱するヒータとを備える。発熱体は板状に形成されている。ヒータは、板状に形成されたセラミックヒータであり、熱電対を内蔵する。ヒータは、2つの発熱体の間に設けられている。なお、2つの発熱体55は、同じ構成のもの、すなわちNi:Cuが同じものを用いた。密閉容器は、水素系ガス供給路と排気経路とに接続している。水素系ガス供給路は、水素系ガスを貯留したガスボンベと密閉容器とを接続する。水素系ガス供給路には、ガスボンベに貯留された水素系ガスを密閉容器へ供給する供給量を調整するための調整弁などが設けられている。排気経路は、密閉容器の内部を真空排気するためのドライポンプと密閉容器とを接続する。排気経路には、ガスの排気量を調整するための調整弁などが設けられている。実験用発熱装置では、水素系ガスとして、軽水素ガス(沼田酸素社製 grade2 純度99.999vol%以上)を用いた。
実施例1〜8の発熱体55を実験用発熱装置の密閉容器の内部に設置し、水素吸蔵工程と水素放出工程とを繰り返し行った。すなわち、実験用発熱装置において、密閉容器の内部への水素系ガスの供給を行うことにより水素系ガスに含まれる水素を発熱体55に吸蔵させる水素吸蔵工程と、密閉容器の内部の真空排気と発熱体55の加熱とを行うことにより発熱体55に吸蔵されている水素を放出させる水素放出工程とを繰り返し行った。水素吸蔵工程では、水素系ガスを50Pa程度で密閉容器の内部に供給した。発熱体55に水素を吸蔵させる時間は64時間程度とした。なお、水素吸蔵工程の前に、予め、ヒータにより密閉容器の内部を36時間程度200℃以上でベーキングし、発熱体55の表面に付着した水などを除去した。水素放出工程では、ヒータの入力電力を、水素吸蔵工程を挟んで9W、18W、27Wとした。そして、ヒータに内蔵した熱電対により、各水素放出工程時の発熱体55の温度を測定した。その結果を図8に示す。図8は、測定したデータを所定の手法でフィッティングしたグラフである。図8では、ヒータ温度を横軸に示し、過剰熱の電力を縦軸に示した。ヒータ温度は、所定の入力電力における発熱体55の温度である。図8では、実施例1を「Ni:Cu = 7:1」、実施例2を「Ni:Cu = 14:1」、実施例3を「Ni:Cu = 4.33:1」、実施例4を「Ni:Cu = 3:1」、実施例5を「Ni:Cu = 5:1」、実施例6を「Ni:Cu = 8:1」、実施例7を「Ni:Cu = 6:1」、実施例8を「Ni:Cu = 6.5:1」と表記した。
図8より、実施例1〜8の発熱体55の全てにおいて過剰熱が発生することが確認できた。ヒータ温度が700℃以上で実施例1〜8の発熱体55を比較すると、実施例1が最も大きな過剰熱を発生することがわかる。実施例3の発熱体は、実施例1,2,4〜8の発熱体55に比べて、ヒータ温度が300℃以上1000℃以下の広範囲にわたり過剰熱を発生することがわかる。多層膜67のNi:Cuが3:1〜8:1である実施例1,3〜8の発熱体55は、ヒータ温度が高くなるほど過剰熱が増大することがわかる。多層膜67のNi:Cuが14:1である実施例2の発熱体55は、ヒータ温度が800℃以上で過剰熱が減少することがわかる。このように、NiとCuの比率に対して過剰熱が単純に増加していないのは、多層膜67中の水素の量子効果に起因しているものと考えられる。
次に「多層膜の積層数と過剰熱の関係」について説明する。Niからなる台座66と、Cuからなる第1層71とNiからなる第2層72とにより形成された多層膜67とを有する発熱体55を用いて、多層膜67の積層数と過剰熱の関係を調べた。
実施例1の発熱体55と積層数以外は同じ条件で製造した多層膜67を有する8種の発熱体55を作製し、実施例9〜16とした。実施例1,9〜16の各発熱体55の多層膜67の積層数は、5、3、7、6、8、9、12、4、2である。
実施例1,9〜16の各発熱体55を実験用発熱装置の密閉容器の内部に設置した。実験用発熱装置は、上記の「多層膜の各層の厚みの比率と過剰熱の関係」を調べるために用いた装置と同じである。実験用発熱装置において、上記の「多層膜の各層の厚みの比率と過剰熱の関係」と同様の方法により、水素放出工程時の発熱体55の温度を測定した。その結果を図9に示す。図9は、測定したデータを所定の手法でフィッティングしたグラフである。図9では、ヒータ温度を横軸に示し、過剰熱の電力を縦軸に示した。図9では、各層の厚みを基に、実施例1を「Ni0.875Cu0.125 5層」、実施例9を「Ni0.875Cu0.125 3層」、実施例10を「Ni0.875Cu0.125 7層」、実施例11を「Ni0.875Cu0.125 6層」、実施例12を「Ni0.875Cu0.125 8層」、実施例13を「Ni0.875Cu0.125 9層」、実施例14を「Ni0.875Cu0.125 12層」、実施例15を「Ni0.875Cu0.125 4層」、実施例16を「Ni0.875Cu0.125 2層」と表記した。
図9より、実施例1,9〜16の発熱体55の全てにおいて過剰熱を発生することが確認できた。ヒータ温度が840℃以上で実施例1,9〜16の発熱体55を比較すると、過剰熱は、多層膜67の積層数が6である実施例11が最も大きく、多層膜67の積層数が8である実施例12が最も小さいことがわかる。このように、多層膜67の積層数に対して過剰熱が単純に増加していないのは、多層膜67中の水素の波動としての挙動の波長が、ナノメートルオーダーであり、多層膜67と干渉しているためと考えられる。
次に「多層膜の材料と過剰熱の関係」について説明する。Niからなる第1層71と、Cuからなる第2層72と、第1層71および第2層72とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはセラミックスからなる第3層77とにより形成された多層膜67を有する発熱体75を用いて、第3層77を形成する材料の種類と過剰熱の関係を調べた。
第3層77を形成する材料の種類以外は同じ条件で多層膜67を形成した9種の発熱体75を作製し、実施例17〜25とした。実施例17〜25の各発熱体75において、第3層77を形成する材料の種類は、CaO、SiC、Y2O3、TiC、Co、LaB6、ZrC、TiB2、CaOZrOである。
実施例17〜25の各発熱体75を実験用発熱装置の密閉容器の内部に設置した。実験用発熱装置は、上記の「多層膜の各層の厚みの比率と過剰熱の関係」を調べるために用いた装置と同じである。実験用発熱装置において、上記の「多層膜の各層の厚みの比率と過剰熱の関係」と同様の方法により、水素放出工程時の発熱体75の温度を測定した。その結果を図10に示す。図10は、測定したデータを所定の手法でフィッティングしたグラフである。図10では、ヒータ温度を横軸に示し、過剰熱の電力を縦軸に示した。図10では、各層の厚みを基に、実施例17を「Ni0.793CaO0.113Cu0.094」、実施例18を「Ni0.793SiC0.113Cu0.094」、実施例19を「Ni0.793Y2O30.113Cu0.094」、実施例20を「Ni0.793TiC0.113Cu0.094」、実施例21を「Ni0.793Co0.113Cu0.094」、実施例22を「Ni0.793LaB60.113Cu0.094」、実施例23を「Ni0.793ZrC0.113Cu0.094」、実施例24を「Ni0.793TiB20.113Cu0.094」、実施例25を「Ni0.793CaOZrO0.113Cu0.094」と表記した。
図10より、実施例17〜25の発熱体75の全てにおいて過剰熱を発生することが確認できた。特に、第3層77を形成する材料がCaOである実施例17、TiCである実施例20、LaB6である実施例22は、他の実施例18,19,21,23〜25と比べて、ヒータ温度が400℃以上1000℃以下の広範囲にわたり過剰熱がほぼ線形的に増大することがわかる。実施例17,20,22の第3層77を形成する材料は、他の実施例18,19,21,23〜25の材料よりも仕事関数が小さい。このことから、第3層77を形成する材料の種類は、仕事関数が小さいものが好ましいことがわかる。これらの結果から、多層膜67内の電子密度が過剰熱を発生する反応に寄与している可能性がある。
発熱構造体20の温度に応じた多層膜67の構造の一例を説明する。例えば図2及び図3に示す上段、中段、下段の発熱構造体20について、上記の「多層膜の各層の厚みの比率と過剰熱の関係」を考慮すると、低温(例えば50℃以上500℃以下の範囲内)とされる下段の発熱構造体20は、多層膜67の各層の厚みの比率が2:1以上5:1以下の範囲内であることが好ましい。中温(例えば500℃以上800℃以下の範囲内)とされる中段の発熱構造体20は、多層膜67の各層の厚みの比率が5:1以上6:1以下の範囲内であることが好ましい。高温(例えば800℃以上1500℃以下の範囲内)とされる上段の発熱構造体20は、多層膜67の各層の厚みの比率が6:1以上12:1以下の範囲内であることが好ましい。
上記の「多層膜の積層数と過剰熱の関係」を考慮すると、低温、中温、高温とされる各発熱構造体20は、多層膜67の第1層71が2層以上18層以下の範囲内であり、第2層72が2層以上18層以下の範囲内であることが好ましい。
図2及び図3に示す上段、中段、下段の発熱構造体20において発熱体55の代わりに発熱体75を用いた場合、上記の「多層膜の材料と過剰熱の関係」を考慮すると、低温とされる下段の発熱構造体20は、第1層71がNiであり、第2層72がCuであり、第3層77がY2O3であることが好ましい。中温とされる中段の発熱構造体20は、第1層71がNiであり、第2層72がCuであり、第3層77がTiCであることが好ましい。高温とされる上段の発熱構造体20は、第1層71がNiであり、第2層72がCuであり、第3層77がCaOあるいはLaB6であることが好ましい。
上記第1実施形態では、発熱構造体20は、複数の発熱体55が放射状に配置された構成を有するが、発熱体55の配置は適宜変更してもよい。
例えば、図11に示すように、発熱体55は、互いに隙間を空けて一列に複数配列される。この場合、ヒータ21の形状を四角筒状とすることが好ましい。これにより省スペース化が図れる。複数の発熱体55は、ヒータ21の熱と、隣接する発熱体55の熱とにより加熱される。これにより、所定の温度を保つのに必要なヒータ21の入力電源を低減させることができる。
複数の発熱体55の配列方向は、密閉容器15の内部において水素系ガスが流れる方向と垂直な方向であることが好ましい。この場合、複数の発熱体55は、密閉容器15の内部において水素系ガスが流れる方向に沿って起立して配置される。これにより、例えば発熱構造体20に吸蔵されている水素を放出させる際に、密閉容器15の内部の水素系ガスは、発熱体55に遮られることなく、供給口15bから排気口15aへスムーズに流れる。
上記第1実施形態では、発熱体55が板状に形成されているが、発熱体55の形状は適宜変更してもよい。
例えば、図12に示すように、発熱体85は、筒状に形成される。図12に示す発熱構造体20は、発熱体55の代わりに、発熱体85を有する。図12では円筒状の発熱体85としているが、発熱体85は角筒状としてもよい。発熱体85を筒状とすることにより、水素系ガスは、ヒータ21の内面と発熱体85の外面との間に形成された隙間と、発熱体85の内部とを流れる。発熱体85の軸方向は、密閉容器15の内部において水素系ガスが流れる方向と平行であることが好ましい。これにより、例えば発熱構造体20に吸蔵されている水素を放出させる際に、密閉容器15の内部の水素系ガスは、発熱体85に遮られることなく、供給口15bから排気口15aへスムーズに流れる。
図13に示すように、発熱体86は、疎巻で巻回した渦巻き状に形成されてもよい。図13に示す発熱構造体20は、発熱体55の代わりに、発熱体86を有する。発熱体86を疎巻で巻回することにより、水素系ガスは、発熱体86の内部に形成された隙間を流れる。発熱体86の巻き数は適宜変更してもよい。例えば、発熱体86の巻き数を増やすことにより、発熱体86と水素系ガスとの接触面積が増えるので、過剰熱の高出力化が図れる。したがって、渦巻き状に形成された発熱体86は、巻き数に応じて過剰熱の出力を調整することができる。
発熱体は、板状、筒状、渦巻き状に形成されたものに限られず、例えば、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金により形成された粉体であってもよい。
上記第1実施形態では3個の発熱構造体20を加熱するために1個のヒータ21を用いているが、複数のヒータ21を用いてもよい。例えば、3個のヒータ21を用いて3個の発熱構造体20をそれぞれ加熱する。この場合、制御部19は、各発熱構造体20に設けられた温度センサ22が検出した温度に基づき、各ヒータ21の入力電力をそれぞれ調整することにより、発熱構造体20ごとに過剰熱の出力の制御を行ってもよい。例えば、制御部19は、下段の発熱構造体20に対応するヒータ21の入力電力を大きくすることにより、下段の発熱構造体20の過剰熱の出力を上げる。また、制御部19は、上段の発熱構造体20に対応するヒータ21の入力電力を小さくすることにより、上段の発熱構造体20の過剰熱の出力を下げる。これにより、複数の発熱構造体20の全体の過剰熱の出力が制御される。
上記第1実施形態では、熱利用装置12は、格納容器31と、熱媒体流通部32と、ガスタービン33と、蒸気発生器34と、蒸気タービン35と、スターリングエンジン36と、熱電変換器37とを備えているが、熱利用装置12の構成はこれに限定されない。例えば、熱媒体として水素系ガスを用いる場合は、熱利用装置12は、熱媒体流通部32を発熱装置11の密閉容器15と接続することにより、格納容器31を省略することができる。
図14に示すように、熱利用装置12は、格納容器31と、熱媒体流通部32と、蒸気タービン35とを備え、熱媒体として水を用いるものでもよい。なお、図14では、発熱装置11のガス排気部16、ガス供給部17、制御部19などの図示を省略している。格納容器31は、内部に水が供給される。格納容器31の内部には、水面の上方に空間が形成されている。格納容器31は、水と発熱構造体20との間で熱交換を行うことにより、水を沸騰させて蒸気を生成する。熱媒体流通部32は、第1配管32a、第2配管32b、第3配管32c、第4配管32d、ポンプ32e、熱媒体流量制御部32fの代わりに、蒸気配管32gと給水配管32hとを有する。蒸気配管32gは、格納容器31で生成された蒸気を蒸気タービン35へ供給する。給水配管32hは、図示しない復水器と給水ポンプを有し、蒸気タービン35から排出された蒸気を復水器によって冷却して水に戻し、この水を給水ポンプによって格納容器31へ送る。
熱利用装置12は、格納容器31と熱媒体流通部32のみを備えるものでもよい。熱媒体流通部32を流れる熱媒体は、種々の用途、例えば、家庭用暖房、家庭用給湯器、自動車用ヒータ、農業用暖房機、ロードヒータ、海水淡水化用熱源、地熱発電補助熱源などに用いられる。
ガスタービン33は、上記第1実施形態では発電機38と接続しており、発電のための動力とされているが、発電機38と接続せずにモーターとして利用してもよい。同様に、蒸気タービン35は、発電機39と接続せずにモーターとして利用してもよい。スターリングエンジン36は、発電機40と接続せずにモーターとして利用してもよい。
2.第2実施形態
発熱体が発生する熱は、燃料と燃焼用空気とを燃焼させて熱を発生させる燃焼装置において、燃焼用空気を予熱するために利用することができる。燃焼装置としては、例えばボイラー、ロータリーキルン、金属の熱処理炉、金属加工用加熱炉、熱風炉、窯業用焼成炉、石油精製塔、乾留炉、乾燥炉などが挙げられる。以下、発熱体が発生する熱を利用して、燃焼装置としてのボイラーに供給される燃焼用空気を予熱する場合について説明する。
図15は、熱利用システム90を備える火力発電プラント91の構成を示す概略図である。以下、火力発電プラント91について説明する。
火力発電プラント91は、ボイラー92と、蒸気タービン35と、発電機39とを備える。火力発電プラント91は、ボイラー92で発生した蒸気が蒸気配管34gを通って蒸気タービン35へ供給され、この蒸気により蒸気タービン35が回転することで、蒸気タービン35の回転軸と接続した発電機39が駆動して発電を行う。蒸気タービン35を回転させた蒸気は、給水配管34hに送られ、図示しない復水器により冷却されて水に戻される。復水器により生成された水は、図示しない給水ポンプによってボイラー92へ送られる。
ボイラー92は、燃料と燃焼用空気とを燃焼させて熱を発生させ、この熱により水から蒸気を発生させる。ボイラー92は、火炉93と、バーナー94と、燃料供給ライン95と、空気供給ライン96とを備える。
火炉93は、燃料と燃焼用空気とを反応させて燃焼させる筒状の中空体である。火炉93は、例えば円筒形状や角筒形状などの種々の形状をとり得る。火炉93には、給水配管34hに設けられた給水ポンプ(図示なし)から水が供給される。
バーナー94は、火炉93外から火炉93内に燃料と燃焼用空気とを供給可能に構成されている。バーナー94は、火炉93の下部に設けられている。バーナー94は、燃料を燃焼させて高温の燃焼ガスを生成する。燃焼ガスが有する熱によりボイラー92内の水が蒸発し、高温高圧の蒸気が発生する。燃焼ガスは、火炉93の上部に設けられた煙道97を通って、排出ガスとして煙突98から大気へ排出される。
燃料供給ライン95は、バーナー94に燃料を供給する。燃料としては、石炭、天然ガス、石油、液化天然ガス(LNG)、液化石油ガス(LPG)などの化石燃料が用いられる。石炭は、予め粉化させた微粉炭である。天然ガスは、シェールガスなどであり、メタンハイドレートなどの天然ガス由来の燃料を含む。石油は、重油や軽油などである。燃料としてバイオマス(木質チップなど)を用いてもよい。なお、燃料として微粉炭を用いる場合は、燃料供給ライン95は、微粉炭を空気などの搬送用ガスに混合させた混合ガスをバーナー94に供給する。また、燃料として石炭や木質チップなどを使用する際には、流動床ボイラーや固定床ボイラー(ストーカー炉など)を用いる場合があり、この場合は、燃料を炉内に供給して、予熱空気のみをバーナーなどから吹き込むこともある。
空気供給ライン96は、バーナー94に燃焼用空気を供給する。空気供給ライン96は、図示しない押込通風機などによりボイラー92の外部から外気を取り込む。
空気供給ライン96は、熱交換器99を備える。熱交換器99は、煙道97に設けられている。熱交換器99は、ボイラー92の外部から空気供給ライン96に取り込まれた外気と、煙道97を流通する排出ガスとの熱交換を行う。熱交換器99により、外気が予熱された予熱空気が生成される。熱交換器99で生成された予熱空気は、後述する熱利用装置102に供給される。
次に、熱利用システム90について説明する。熱利用システム90は、発熱装置101と、上記のボイラー92と、熱利用装置102とを備える。熱利用システム90は、発熱装置101の発熱体105(図16参照)が発生する熱を利用して、熱利用装置102に供給された予熱空気を加熱する。
図16に示すように、発熱装置101は、複数の発熱体ユニット103を備える。図16は、発熱装置101と熱利用装置102の構成を模式的に示す透視斜視図である。図16では、1つの発熱体ユニット103の一部を切り欠いて、その内部を図示している。各発熱体ユニット103は、互いに隙間をあけて配置されている。各発熱体ユニット103は、図示しない支持体に着脱自在に支持されている。発熱体ユニット103の数は特に限定されず、所望とする出力が得られるように適宜変更することができる。図16では9つの発熱体ユニット103が用いられている。
発熱体ユニット103は、水素系ガスが供給される密閉容器104と、密閉容器104に収容されており、水素系ガスに含まれる水素の吸蔵と放出とにより熱を発生する発熱体105を有する発熱構造体106とを備える。
密閉容器104は、筒状の中空体である。密閉容器104は、例えば円筒形状や角筒形状などの種々の形状をとり得る。密閉容器104は、この例では円筒形状である。密閉容器104内には複数の発熱構造体106が配列されている。
発熱体105は、例えば、発熱体55(図4参照)、発熱体85(図12参照)、発熱体86(図13参照)と同じ構成とすることができる。発熱体105の形状は、この例では、発熱体55と同様に板状である。複数の発熱体105が放射状に配置され、発熱構造体106が構成されている。
発熱体105は、密閉容器104内の水素系ガスに含まれる水素を吸蔵する。発熱体105は、当該発熱体105の温度と熱利用装置102に供給される予熱空気の温度との温度差により、吸蔵された水素が移動することで発熱する。例えば、熱利用装置102の作動開始時において、発熱体105の温度が常温(例えば25℃)、熱利用装置102に供給される予熱空気の温度が例えば250℃である場合、発熱体105と予熱空気との間に温度差が生じるので、発熱体105の発熱が開始する。その後、発熱体105が例えば500℃〜800℃まで昇温し、昇温した発熱体105と予熱空気との間に温度差が生じることで、発熱体105の発熱が持続される。このように、発熱装置101は、水素系ガスの供給と排気とを繰り返し行うことなく、当該発熱体105と予熱空気との温度差により熱を発生する。
熱利用装置102は、発熱装置101を収容するケース108と、熱交換器99と接続する空気入口109と、バーナー94と接続する空気出口110とを有する。熱交換器99で生成された予熱空気は、空気入口109からケース108内に供給され、発熱体ユニット103同士の間に形成された隙間を通過する際に発熱体105の熱により加熱される。発熱体105により加熱された予熱空気は、燃焼用空気として空気出口110から排出される。このように、熱利用装置102は、発熱体105の熱を利用して燃焼用空気を予熱する空気予熱器として機能する。
以上のように、熱利用システム90は、火力発電プラント91に適用され、発熱体105の熱を利用して燃焼用空気を予熱するので、ボイラー92の燃焼効率が上がり、使用する燃料を削減できる。
熱利用システム90では、各発熱体ユニット103が着脱自在とされているので、各発熱体ユニット103を個別に交換することができる。このため、発熱しなくなった発熱体ユニット103を取り外し、新しい発熱体ユニット103と交換することで、発熱装置101の発熱を安定化させることができる。また、各発熱体ユニット103を全て同時に交換することもできる。
発熱装置101は、水素系ガスの供給と排気とが繰り返し行われるように構成してもよい。図17に示すように、発熱装置101は、複数の発熱体ユニット103に加え、各密閉容器104と接続した水素系ガス供給排気ヘッダー120と、水素系ガス供給排気ヘッダー120と接続した水素管121とをさらに備える。水素管121は、図示しないガス供給部およびガス排気部と接続している。ガス供給部は、水素系ガス供給排気ヘッダー120と水素管121とを介して、密閉容器104の内部に水素系ガスを供給する。ガス排気部は、水素系ガス供給排気ヘッダー120と水素管121とを介して、密閉容器104の内部を真空排気する。水素系ガスの供給と排気とを繰り返し行うことにより、発熱体105を確実に発熱させることができる。
図16に示す発熱体ユニット103の構造は一例である。すなわち、発熱体ユニット103は、複数の発熱体105が放射状に配置された発熱構造体106を備える場合に限られない。複数の発熱体105の配置は、放射状に限られず適宜変更することができる。
熱利用システム90は、熱利用装置102から排出された燃焼用空気を循環させるように構成してもよい。図18に示すように、熱利用システム90は、燃焼用空気を循環させる燃焼用空気循環ライン125と、燃焼用空気循環ライン125に設けられた流量可変循環ファン126と、流量可変循環ファン126を駆動し、燃焼用空気の循環流量を制御する循環流量制御部127とをさらに備える。
空気供給ライン96には、熱利用装置102に供給される燃焼用空気の温度を測定する温度センサ128と、熱利用装置102から排出された燃焼用空気の温度を測定する温度センサ129とが設けられている。熱利用装置102には、発熱体105の温度、または発熱体ユニット103のうち、発熱体105の温度を推定できる特定の部分の温度を測定する温度センサ130が設けられている。循環流量制御部127は、温度センサ128〜130と電気的に接続し、温度センサ128〜130が検出した温度に基づいて流量可変循環ファン126を駆動することにより、燃焼用空気の循環流量を制御する。
例えば、循環流量制御部127は、発熱体105の温度が所定温度を超えた場合に燃焼用空気の循環流量を増大させることにより、発熱体105の温度を低下させる。また、循環流量制御部127は、発熱体105の温度が所定温度以下である場合に燃焼用空気の循環流量を減少させることにより、発熱体105の温度を上昇させる。
空気供給ライン96や燃焼用空気循環ライン125に燃焼用空気の流量を測定する流量センサ(図示なし)を設け、燃焼用空気の温度と流量とに基づいて、燃焼用空気の循環流量を制御してもよい。
空気供給ライン96には、燃焼用空気を加熱する加熱器(図示なし)を設けてもよい。加熱器により、発熱体105の温度を上昇させることができる。発熱体105は、所定の温度まで上昇することにより発熱が開始する。上記の加熱器は、例えば熱利用システム90の運転開始時や発熱体105の温度が低下した際に作動される。
熱利用装置102は、発熱体105の熱を利用して、熱交換器99で生成された予熱空気を加熱する場合に限られない。例えば、熱利用装置102は、ボイラー92の外部から空気供給ライン96に取り込まれた外気を加熱してもよい。この場合は、熱交換器99を設けずに、発熱体105の熱により加熱された外気を燃焼用空気として使用してもよい。
燃焼用空気は、排出ガスが混合したものでもよい。例えば、煙道97を分岐させて空気供給ライン96に接続し、排出ガスを再循環させることで、燃焼用空気に排出ガスを混合させることができる。熱利用装置102は、排出ガスが混合された燃焼用空気を予熱してもよい。
熱利用装置102は、燃焼装置としてのボイラー92に使用される燃焼用空気を予熱することに加え、または代えて、蒸気タービン35を回転させ、図示しない復水器により生成された水を予熱してもよい。予熱された水がボイラー92に戻されることにより、ボイラー92の燃焼効率が上がり、使用する燃料を削減できる。
3.第3実施形態
上記第2実施形態のボイラー92などの燃焼装置から排出される排出ガスは、通常、二酸化炭素(CO2)を含む。排出ガスからCO2を回収する技術として、二酸化炭素回収貯留(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)が知られている。CCSは、排出ガスからCO2を分離して回収し、回収したCO2を地中などに貯留することによって大気中へのCO2排出を削減する技術である。CO2を回収する手法としては、例えば、化学吸収法や物理吸着法が挙げられる。化学吸収法は、排出ガスに含まれるCO2をアミン化合物水溶液などの吸収液に吸収させ、CO2を吸収した吸収液を加熱することで吸収液からCO2を放出させる。物理吸着法は、排出ガスに含まれるCO2を活性炭やゼオライトなどの吸着材に吸着させ、CO2が吸着した吸着材を加熱することで吸着材からCO2を脱離させる。
第3実施形態では、化学吸収法においてCO2を吸収した吸収液を加熱する熱源として、発熱体が発生する熱により加熱された熱媒体を利用する。以下、化学吸収法を行う場合について説明するが、発熱体が発生する熱により加熱された熱媒体は、物理吸着法においてCO2が吸着した吸着材を加熱する熱源として利用することもできる。
図19に示すように、熱利用システム140は、発熱装置101(図16参照)と、ボイラー142と、二酸化炭素分離回収装置143とを備える。発熱装置101は、第2実施形態と同じ構成を有するので説明を省略する。
ボイラー142は、燃料と燃焼用空気とを燃焼させて熱を発生させる燃焼装置の一例である。ボイラー142から排出される排出ガスには二酸化炭素(CO2)が含まれる。ボイラー142は、例えば、上記第2実施形態のボイラー92と同じ構成とすることができる。
二酸化炭素分離回収装置143は、発熱装置101の発熱体105(図16参照)の熱により加熱された熱媒体を熱源として利用して、燃焼装置としてのボイラー142から排出された排出ガスに含まれるCO2を分離して回収する。この例では、CO2を回収する方式として、化学吸収法を行う場合について説明する。
図20に示すように、二酸化炭素分離回収装置143は、吸収塔145と、再生塔146と、リボイラー147とを備える。吸収塔145は、ボイラー142から排出された排出ガスに含まれるCO2を吸収液に吸収させる吸収部148を有する。吸収塔145は、吸収部148でCO2を吸収した吸収液を再生塔146へ供給する。CO2を吸収した吸収液をリッチ液という。図20では、リッチ液に符号149を付している。再生塔146は、吸収塔145から供給された吸収液からCO2を放出させて、吸収液を再生する再生部150を有する。再生塔146は、再生部150でCO2を放出した吸収液を吸収塔145へ供給する。CO2を放出した吸収液をリーン液という。図20では、リーン液に符号151を付している。
二酸化炭素分離回収装置143は、吸収塔145から再生塔146へリッチ液149が送られ、再生塔146から吸収塔145へリーン液151が返送される。このように、二酸化炭素分離回収装置143は、吸収液が循環するように構成されている。図示していないが、吸収塔145と再生塔146との間には、リッチ液149を吸収塔145から再生塔146へ送るためのリッチ液送出ポンプや、リーン液151を再生塔146から吸収塔145へ送るためのリーン液送出ポンプなどが設けられている。
吸収塔145は、再生塔146から供給されたリーン液151を出すリーン液供給ノズル152をさらに有する。リーン液供給ノズル152は、吸収部148の上方に設けられており、リーン液151を吸収部148へ向けて落下させる。
吸収塔145の吸収部148の下部には、ボイラー142からCO2を含む排出ガスが供給される。吸収塔145に供給された排出ガスは、吸収部148へ向かって上昇する。
吸収部148では、CO2を含む排出ガスとリーン液151とが接触する。吸収部148は、排出ガスに含まれているCO2をリーン液151に吸収させることで、リーン液151をリッチ液149とする。リッチ液149は、吸収塔145の底部から排出され、再生塔146へ供給される。リーン液151と接触した排ガスは、CO2が除去される。CO2除去後の排出ガスは、吸収塔145の頂部から大気へ排出される。
再生塔146は、吸収塔145から供給されたリッチ液149を出すリッチ液供給ノズル153をさらに有する。リッチ液供給ノズル153は、再生部150の上方に設けられており、リッチ液149を再生部150へ向けて落下させる。
リボイラー147は、再生塔146と連結している。リボイラー147は、再生塔146内のリーン液151を加熱し、リーン液151を蒸発させた吸収液蒸気154を生成する。
リボイラー147は、発熱装置101を格納する格納容器147aと、格納容器147aの内部と外部との間で熱媒体を流通させる熱媒体流通部147bとを有する。熱媒体は、格納容器147aの内面と、発熱装置101の密閉容器104(図16参照)の外面とにより形成された隙間を通ることにより加熱される。リボイラー147は、発熱装置101の発熱体105(図16参照)の熱により加熱された熱媒体を熱源として利用することで、リーン液151を加熱する。
熱媒体流通部147bには、図示していないが、流量可変ファンと流量制御部とが設けられている。リボイラー147は、流量制御部により流量可変ファンを駆動し、熱媒体の流量を制御することで、熱媒体が所定の温度となるように調整する。この例では、リーン液151が蒸発して吸収液蒸気154となるように、熱媒体の温度が調整される。
リボイラー147で生成された吸収液蒸気154は、再生塔146の再生部150の下部に供給される。再生塔146に供給された吸収液蒸気154は、再生部150へ向かって上昇する。
再生部150では、吸収液蒸気154とリッチ液149とが接触する。再生部150は、吸収液蒸気154によりリッチ液149を加熱し、リッチ液149からCO2を放出させることで、リッチ液149をリーン液151とする。すなわち、リッチ液149がリーン液151に再生される。リーン液151は、再生塔146の底部から排出され、一部が吸収塔145へ供給され、残りの一部がリボイラー147へ供給される。リッチ液149と接触した吸収液蒸気154は、リッチ液149から放出したCO2とともに再生塔146の頂部から排出される。
吸収塔145と再生塔146との間には熱交換器155が設けられている。熱交換器155は、吸収塔145から再生塔146へ供給されるリッチ液149と、再生塔146から吸収塔145へ供給されるリーン液151との熱交換を行う。これにより、リッチ液149が加熱され、リーン液151が冷却される。
二酸化炭素分離回収装置143は、例えば図示しない分離ドラムをさらに有し、この分離ドラムに、再生部150の頂部から排出された吸収液蒸気154およびCO2を導入する。分離ドラムに導入された吸収液蒸気154およびCO2は、吸収液蒸気154が冷却されて水となることで、水とCO2とに分離される。このようにして、二酸化炭素分離回収装置143は、ボイラー142の排出ガスからCO2を分離して回収することができる。二酸化炭素分離回収装置143は、上記したCO2の分離回収のために、発熱装置101の発熱体105(図16参照)の熱により加熱された熱媒体を熱源として利用する熱利用装置である。
以上のように、熱利用システム140は、燃焼装置としてのボイラー142から排出された排出ガスに含まれるCO2を分離して回収するための熱源として発熱体105を利用するので、大気中へのCO2排出を削減することができる。
4.第4実施形態
上記第3実施形態の二酸化炭素分離回収装置143などで分離して回収された二酸化炭素(CO2)は、水素(H2)と反応させることによってメタン(CH4)に変換することができる。CO2とH2との反応(メタネーション反応)を進行させる触媒を用いて、CO2とH2とを含む原料ガスを触媒と接触させることにより原料ガスからCH4が生成されるが、原料ガスの温度が低いと十分に反応が進行しない。第4実施形態では、発熱体が発生する熱により加熱された熱媒体を熱源として利用して、CO2とH2とを含む原料ガスを加熱する。
図21に示すように、熱利用システム160は、発熱装置101(図16参照)と、メタン製造装置162とを備える。発熱装置101は、第2実施形態と同じ構成を有するので説明を省略する。
メタン製造装置162は、反応器163と、原料ガス供給ライン164と、原料ガス加熱器165とを有する。
反応器163は、下記式(1)で表されるCO2とH2との反応を進行させる触媒167を有する。
CO2+4H2→CH4+2H2O ・・・(1)
触媒167は、CO2とH2との反応を進行させ、CH4を生成することが可能な触媒であれば特に限定されない。例えば、触媒167としては、ニッケル(Ni)系触媒、ルテニウム(Ru)系触媒、白金(Pt)系触媒などを用いることができる。
原料ガス供給ライン164は、CO2とH2とを含む原料ガスを反応器163へ供給する。図21では、原料ガス供給ライン164は、H2が流通するラインにCO2が流通するラインを合流させることにより、CO2とH2とを含む原料ガスが流通するラインを形成し、この原料ガスのラインを反応器163と接続している。
原料ガス供給ライン164は、水(H2O)を電気分解して水素(H2)と酸素(O2)とを生成する電気分解装置168を有する。電気分解装置168は、例えば発電機39(図15参照)を駆動して得られた電気を利用してH2Oの電気分解を行う。電気分解装置168で生成されたH2は、原料ガス供給ライン164を通ってCO2と混合される。電気分解装置168で生成されたO2は、例えば上記第3実施形態の空気供給ライン96(図15参照)に供給され、燃焼用空気と混合される。なお、原料ガス供給ライン164は、H2を貯留したH2タンクと接続し、H2タンクからH2が供給されるように構成してもよい。
原料ガス供給ライン164は、上記第3実施形態の二酸化炭素分離回収装置143(図19および図20参照)と接続している。これにより、二酸化炭素分離回収装置143で回収されたCO2は、原料ガス供給ライン164を通ってH2と混合される。なお、原料ガス供給ライン164は、CO2を貯留したCO2タンクと接続し、CO2タンクからCO2が供給されるように構成してもよい。
原料ガス加熱器165は、原料ガス供給ライン164に設けられており、原料ガス供給ライン164を流通する原料ガスを加熱する。原料ガス加熱器165は、発熱装置101を格納する格納容器165aと、格納容器165aの内部と外部との間で熱媒体を流通させる熱媒体流通部165bとを有する。熱媒体は、格納容器165aの内面と、発熱装置101の密閉容器104(図16参照)の外面とにより形成された隙間を通ることにより加熱される。原料ガスと熱媒体との間で熱交換が行われることにより、原料ガスが加熱される。原料ガスは、例えば400℃程度に加熱される。
メタン製造装置162は、CO2とH2とを含む原料ガスからCH4を生成する触媒167を有し、発熱体105(図16参照)の熱により加熱された熱媒体を熱源として利用して原料ガスを加熱することにより、CO2とH2とを反応させる。加熱された原料ガスが触媒167と接触することにより、CO2とH2との反応が進行し、CH4が生成される。メタン製造装置162で生成されたCH4は、合成された天然ガス(SNG)として、例えば既存のインフラ設備に供給される。また、メタン製造装置162では、反応器163内で原料ガスからCH4を生成する過程でH2Oも生成される。反応器163内で生成されたH2Oは、例えば電気分解装置168に供給される。
以上のように、熱利用システム160は、発熱装置101(図16参照)と、メタン製造装置162とを備えることにより、CO2とH2とを含む原料ガスからCH4を生成するための熱源として発熱体105を利用するので、燃焼装置を熱源として使用する場合と比べて、大気中へのCO2排出を削減することができる。
また、熱利用システム160では、燃焼装置から排出された排出ガスに含まれるCO2をメタン製造装置162に供給することにより、CO2がCH4へ変換されるので、CO2排出量がより抑えられる。
上記第4実施形態ではCO2とH2とを含む原料ガスからCH4を生成するための熱源として発熱体105を利用しているが、熱エネルギーを用いて水から水素を製造するISサイクルや、熱エネルギーを用いて水と窒素(N2)とからアンモニア(NH3)を製造するISNサイクルにおいて、発熱体105の熱により例えば800℃程度に加熱された熱媒体を熱源として利用することができる。ISサイクルは、水とヨウ素(I)と硫黄(S)とを反応させてヨウ化水素(HI)を生成し、このヨウ化水素を熱分解することによって水素を生成する。ヨウ化水素を熱分解するための熱源として、発熱体105の熱により加熱された熱媒体を熱源として利用することができる。ISNサイクルは、窒素とISサイクルで生成されるヨウ化水素とを反応させてヨウ化アンモニウム(NH4I)を生成し、このヨウ化アンモニウムを熱分解することによってアンモニアを生成する。ヨウ化アンモニウムを熱分解するための熱源として、発熱体105の熱により加熱された熱媒体を熱源として利用することができる。
5.変形例
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
発熱構造体を収容する密閉容器に熱交換効率を向上させるためのフィンを設けてもよい。図22〜図24を用いて、フィンを備える密閉容器を説明する。
図22に示すように、密閉容器170は、内部に空間を有する容器本体171と、容器本体171の外面に設けられたフィン172とを有する。密閉容器170は、複数の発熱体55を有する発熱構造体173を収容する(図23参照)。以下に説明する密閉容器170の構成は、密閉容器170の内部の温度を600℃〜800℃に保持し、発熱構造体173を48枚の発熱体55により構成し、各発熱体55の出力を20Wとする場合に要求される構成の一例である。
容器本体171は、筒状に形成されている。容器本体171は、図22では外形が円筒形状をしているが、楕円筒形状や角筒形状などの種々の形状をとり得る。容器本体171の長さは例えば250mmである。容器本体171の直径は例えば80mmである。容器本体171が楕円筒形状である場合は、容器本体171の直径は長径を意味する。容器本体171が角筒形状である場合は、容器本体171の直径は外接円の直径を意味する。
容器本体171は、融点が1000℃以上であり、熱伝導率が50W/m・K以上である材料により形成されることが好ましい。容器本体171の材料としては、例えば、銅、ニッケル、タングステンなどが用いられる。容器本体171の材料が銅である場合は、容器本体171の厚みを0.5mm以上とすることが好ましく、1mm以上とすることがより好ましい。容器本体171の材料がニッケルまたはタングステンの場合は、容器本体171の厚みを0.25mm以上とすることが好ましく、0.5mm以上とすることがより好ましい。なお、容器本体171の材料として金および銀を用いることも可能であるが、銅、ニッケル、タングステンの方が安価であるため好ましい。密閉容器170の内部の温度を600℃未満に保持する場合は、容器本体171の材料として鉄を用いてもよい。
フィン172は、容器本体171の外周面に螺旋状に設けられている。フィン172の巻き付け回数は例えば20回である。フィン172は、帯状に形成されている。フィン172の幅は例えば20mmである。したがって、密閉容器170の直径は120mmである。容器本体171の長手方向に沿ったフィン172の間隔(ピッチ)は100mm以下であることが好ましく、50mm以下であることがより好ましい。フィン172の伝熱面積は0.1m2/kW以上が好ましい。フィン172の材料としては、例えば容器本体171の材料と同じもの、すなわち銅、ニッケル、タングステンなどを用いることが可能である。フィン172の材料としてはアルミニウムを用いてもよい。
図23は、容器本体171を径方向に切断した断面図である。図23に示すように、容器本体171の内面には複数の発熱体55が接触して配置されている。容器本体171の内面は複数の平面により構成されている。図23では、容器本体171の内面が6つの平面により構成されている。すなわち容器本体171の中空部の断面形状は六角形である。容器本体171の周方向に沿って各平面に配置された6枚の発熱体55は互いに対面する。複数の発熱体55は、互いに対面する所定の枚数で1セットを構成し、この例では6枚で1セットを構成する。
図24は、容器本体171を径方向と直交する方向に切断した断面図である。図24に示すように、容器本体171の内面を構成する各平面には、容器本体171の長手方向に沿って複数の発熱体55が配置されている。この例では、1つの平面に対し、容器本体171の長手方向に沿って8枚の発熱体55が等間隔に配置されている。すなわち、容器本体171の長手方向に沿って8セットの発熱体55が配置されている。
上記の密閉容器170と発熱構造体173とにより発熱体ユニット174が構成される。発熱体ユニット174は全体として円筒型をしている。発熱体ユニット174は、内部に空間を有する格納容器176に格納される。格納容器176は、熱媒体が流入する流入口176aと、熱媒体が流出する流出口176bとを有する。図24では、格納容器176のうち、発熱体ユニット174の容器本体171の長手方向の一端に流入口176aが設けられ、発熱体ユニット174の容器本体171の長手方向の他端に流出口176bが設けられている。流入口176aから流入した熱媒体は、密閉容器170のフィン172に沿って螺旋状に移動し、流出口176bから流出する。格納容器176は断熱材177に覆われている。熱媒体としては、反応性・腐食性が低いガスや凝集・熱分解しないガスが用いられる。熱媒体は、例えば、水蒸気、空気、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、キセノンガス、炭酸ガス、フロン系ガス、およびこれらの混合ガスが好ましい。
図24では、密閉容器170は、水素系ガス供給排気ヘッダー178と接続している。水素系ガス供給排気ヘッダー178は、水素管179と接続している。これにより水素系ガスの供給と排気とが繰り返し行われる。なお、密閉容器170と水素系ガス供給排気ヘッダー178とを着脱自在とすることにより、発熱体ユニット174を交換可能としてもよい。
以上のように、発熱体ユニット174は、フィン172を有することにより、熱媒体との接触面積を増大させることができるので、発熱構造体173と熱媒体との熱交換効率を向上させることができる。
発熱体ユニット174は、フィン172が容器本体171の外周面に螺旋状に設けられていることにより、熱媒体をフィン172に沿って螺旋状に移動させることができるので、熱媒体との接触時間が長くなり、確実に発熱構造体173の熱を熱媒体へ伝達することができる。
容器本体171は、内面が6つの平面により構成されているが、内面を構成する平面の数を適宜変更することが可能である。例えば、容器本体171の内面を8つの平面により構成し、容器本体171の中空部の断面形状が八角形となるようにしてもよい。
格納容器176は、複数の発熱体ユニット174を格納するように構成してもよい。例えば、格納容器176の内部に7つの発熱体ユニット174を格納することができる。また、例えば20を超える多数の発熱体ユニット174を格納容器176に格納する場合は、発熱体ユニット174の容器本体171の長手方向と直行する方向に熱媒体が流れるように、流入口176aと流出口176bの位置を変更することが好ましい。
上記の密閉容器170では複数の発熱体55を容器本体171の内面に接触させ、複数の発熱体55が発生する熱を容器本体171に直接伝達させているが、複数の発熱体55を容器本体171の内面から離して支持し、複数の発熱体55が発生する熱を容器本体171に伝えるための伝熱支持部を設けてもよい。
図25に示すように、密閉容器180は、容器本体181と、フィン182と、伝熱支持部183とを有する。密閉容器180は、複数の発熱体55を有する発熱構造体184を収容する。容器本体181は、中空部の断面形状が円形であること以外は、容器本体171と同じ構成を有する。すなわち容器本体181の内面は曲面により構成されている。フィン182は、フィン172と同じ構成を有する。容器本体181とフィン182の説明は省略する。密閉容器180と発熱構造体184とにより発熱体ユニット185が構成される。発熱体ユニット185は全体として円筒型をしている。発熱体ユニット185は、例えば、発熱体ユニット174の代わりに格納容器176に格納される(図24参照)。図25は、密閉容器180を径方向と直交する方向に切断した断面図である。
伝熱支持部183は、容器本体181の内部に設けられ、複数の発熱体55を支持し、複数の発熱体55が発生する熱を容器本体181に伝える。伝熱支持部183は、複数の発熱体55を支持する支持ピラー183aと、支持ピラー183aと容器本体181とを接続するブリッジ183bとを有する。この例では、10Wの発熱体55を用いる。
伝熱支持部183は、少なくとも1つ以上の支持ピラー183aと、少なくとも1つ以上のブリッジ183bとを有し、この例では、4つの支持ピラー183aと3つのブリッジ183bとを有する。4つの支持ピラー183aは、互いに所定の間隔を設けて配置される。各支持ピラー183aは、容器本体181の長手方向に沿って延びており、その両端が図示しない固定部材によって容器本体181に固定される。3つのブリッジ183bは、各支持ピラー183aの長手方向に沿って所定の間隔を設けて配置される。各ブリッジ183bは、例えば板状に形成されており、図示しない固定部材によって各支持ピラー183aと容器本体181とを接続する。
図26は、容器本体181を径方向に切断した断面図である。図26に示すように、各支持ピラー183aは、角柱状に形成されており、この例では断面が長方形の四角柱形状である。各支持ピラー183aは、特定の面が互いに対面するように配置されている。すなわち、4つの支持ピラー183aは四角筒状に配置されている。各支持ピラー183aの特定の面を表面とし、特定の面とは反対側の面を裏面とする。各支持ピラー183aは、表面と裏面との少なくともいずれかに発熱体55を支持する。図26では、各支持ピラー183aの両面(表面および裏面)に発熱体55が支持されている。1つの支持ピラー183aには12枚の発熱体55が支持されている。各発熱体55は、容器本体181の内面と接触しておらず、容器本体181の内面から離れている。
伝熱支持部183の材料、すなわち支持ピラー183aおよびブリッジ183bの材料としては、例えば容器本体181と同じ材料を用いることが可能である。支持ピラー183aおよびブリッジ183bは、銅により形成されている場合は厚みを1mm以上とすることが好ましく、ニッケルにより形成されている場合は厚みを4.4mm以上とすることが好ましく、タングステンにより形成されている場合は厚みを2mm以上とすることが好ましい。伝熱支持部183を上記の材料および各種寸法とすることにより、支持ピラー183aおよびブリッジ183bを介して、発熱体55が発生する熱を容器本体181およびフィン182に伝達することが可能となる。また、発熱体55の温度が瞬間的に上昇した場合であっても、伝熱支持部183が融けて破損することが防止される。なお、上記のように10Wの発熱体55を各支持ピラー183aの両面に支持させることに代えて、例えば20Wの発熱体55を各支持ピラー183aの両面に支持させる場合や40Wの発熱体55を各支持ピラー183aの片面に支持させる場合は、各種寸法を変更することが好ましい。例えば、支持ピラー183aおよびブリッジ183bは、銅により形成されている場合は厚みを2mm以上とすることが好ましく、ニッケルにより形成されている場合は厚みを8.4mm以上とすることが好ましく、タングステンにより形成されている場合は厚みを4mm以上とすることが好ましい。
以上のように、発熱体ユニット185は、伝熱支持部183を有することにより、発熱体55が発生する熱を容器本体181およびフィン182に効率的に伝達させることができるので、発熱構造体184と熱媒体との熱交換効率を向上させることができる。
伝熱支持部183は、4つの支持ピラー183aを有するが、支持ピラー183aの数を適宜変更することが可能である。例えば、1つの支持ピラー183aを容器本体181の中央に配置してもよいし、6つの支持ピラー183aを六角筒状に配置してもよい。また、伝熱支持部183は、3つのブリッジ183bを有するが、ブリッジ183bの数を適宜変更することが可能である。
伝熱支持部183は、内面が平面で構成された容器本体171の内部に設けてもよい。これにより、容器本体171の内面を構成する各平面には複数の発熱体55が配置され、伝熱支持部183には複数の発熱体55が支持されるので、発熱体55の数を増やすことができる。
上記の発熱体ユニット174、185は円筒型であるが、発熱体ユニットは平板型としてもよい。
図27に示すように、発熱体ユニット190は、水素系ガスが供給される密閉容器191と、密閉容器191に収容される発熱構造体192とを備える。発熱体ユニット190は、例えば、縦の長さが800mm、横の長さが600mm、厚みが15mmの平板型とされている。図27は、平板型の発熱体ユニット190を厚み方向と直交する方向に切断した断面図である。
密閉容器191は、内部に空間を有する容器本体193からなる。容器本体193は、平板状に形成されており、この例では中空部の断面形状が四角形である。発熱構造体192は、複数の発熱体55を有し、この例では60枚の発熱体55により形成される。
容器本体193は、水素系ガス供給排気ヘッダー194と接続している。水素系ガス供給排気ヘッダー194は、水素管195と接続している。これにより水素系ガスの供給と排気とが繰り返し行われる。
図28は、平板型の発熱体ユニット190を厚み方向に切断した断面図である。図28に示すように、容器本体193は、第1の内面193aと、第1の内面193aと対面する第2の内面193bとを有する。第1の内面193aと第2の内面193bとには複数の発熱体55が接触して配置されている。この例では、60枚の発熱体55のうち、30枚の発熱体55が第1の内面193aに配置され、30枚の発熱体55が第2の内面193bに配置されている。第1の内面193aに配置された各発熱体55と、第2の内面193bに配置された各発熱体55とは、互いに対面している。
図29に示すように、発熱体ユニット190は、内部に空間を有する格納容器196に格納される。格納容器196の外形は、例えば容器本体193の相似形とされる。1つの格納容器196に1つの発熱体ユニット190を格納する場合を例に説明するが、1つの格納容器196複数の発熱体ユニット190を格納するように構成してもよい。
格納容器196には、熱媒体を噴射するノズル部196aと、熱媒体が流出する流出口196bとが設けられている。ノズル部196aは、熱媒体を先端から噴射することにより発熱体ユニット190の表面に吹き付ける。格納容器196には、少なくとも1つ以上のノズル部196aと、少なくとも1つ以上の流出口196bとが設けられる。図29では、発熱体ユニット190と対向する2つの壁部のそれぞれにノズル部196aが設けられ、各ノズル部196aが設けられた壁部とは異なる2つの壁部のそれぞれに流出口196bが設けられている。
ノズル部196aは、熱媒体を噴射する噴射部198と、噴射部198と接続する配管部199とを有する。噴射部198はノズル部196aの先端に設けられている。配管部199は熱媒体を噴射部198へ案内する。噴射部198から噴射され、発熱体ユニット190に吹き付けられた熱媒体は、流出口196bから格納容器196の外部へ流出する。図29では、各ノズル部196aはそれぞれ11個の噴射部198を有する。
以上のように、発熱体ユニット190は、密閉容器191の容器本体193を平板状に形成し、容器本体193の第1の内面193aと第2の内面193bに複数の発熱体55を配置することにより形成することができるので、製造が容易であり、製造コストを抑えることができる。
発熱体ユニット190は密閉容器191が容器本体193からなる構成であるが、容器本体193の外面にはフィンを設けてもよい。
図30に示すように、発熱体ユニット200は、発熱体ユニット190の密閉容器191の代わりに密閉容器201を備える。密閉容器201は、容器本体193と、容器本体193の外面に設けられたフィン202とを有する。密閉容器201は、少なくとも1以上のフィン202を有する。フィン202は、複数のリブ203により形成されている。図30は、複数のリブ203により形成された密閉容器201の平面図である。なお、密閉容器201には発熱構造体192(図27および図28参照)が収容される。すなわち、発熱体ユニット200は、水素系ガスが供給される密閉容器201と、密閉容器201に収容される発熱構造体192とを備えるものである。
図31は、複数のリブ203により形成されたフィン202を有する密閉容器201の側面図である。図31に示すように、容器本体193の外面のうち、互いに対向する2つの面のそれぞれにフィン202が設けられている。複数のリブ203は、容器本体193の外面から突出している。この例では、容器本体193の外面のうち、互いに対向する2つの面のそれぞれに16個のリブ203が設けられている。
フィン202を有する発熱体ユニット200は、例えば、格納容器176(図24参照)やノズル部196aが設けられた格納容器196(図29参照)などに格納される。例えば格納容器196にフィン202を有する発熱体ユニット200を格納する場合は、複数のリブ203の長手方向が熱媒体の流通方向と一致するように発熱体ユニット200を配置することが好ましい。発熱体ユニット200は、フィン202を有することにより、熱媒体との接触面積を増大させることができるので、発熱構造体192と熱媒体との熱交換効率を向上させることができる。
格納容器176や格納容器196を複数準備して直列に接続してもよい。発熱体ユニット190や発熱体ユニット200の数が増えるので、出力の向上が図れる。
図24に示す発熱ユニット174、図25に示す発熱体ユニット185、図27に示す発熱体ユニット190、図30に示す発熱体ユニット200は、図16に示す発熱体ユニット103の代わりに、発熱装置101に用いることができる。