本発明は、上記課題を解決するために、高い静音性を実現でき、かつ、省電力を実現することが可能なソレノイドを提供することを目的とする。
請求項1に記載の発明は、コイルワイヤを略円筒状をなすように巻回して形成されると共に空胴部を備えた励磁コイルと、磁性材からなると共に、前記励磁コイルの外周面及び一方の端面の周辺、並びに、前記励磁コイルの前記空胴部に設けられた固定的磁極構成部材と、前記固定的磁極構成部材の前記励磁コイルの前記空胴部に設けられた部分に対して接近するように、又は、離隔するように摺動可能に設けられたプランジャと、略円筒状に、かつ、中心軸が前記プランジャの摺動方向に平行となるように形成された円筒状部を備えた補助磁極とを有するソレノイドであって、前記プランジャは、少なくとも前記補助磁極に挿通されている部分が略円筒状、又は、略円柱状に形成されると共に、互いに接するように、かつ、前記摺動方向に沿って配置された第1の磁性部材、永久磁石部材及び第2の磁性部材を備え、前記第1の磁性部材、前記永久磁石部材及び前記第2の磁性部材は、前記固定的磁極構成部材の前記励磁コイルの前記空胴部に設けられた前記部分に遠い側から近い側に向かってこの順序で配列され、前記補助磁極は、前記円筒状部の内周面の前記中心軸の方向における中間領域又はその近傍領域に前記中心軸を環状に囲む環状凹陥部が形成されることによって、前記円筒状部の前記内周面が前記固定的磁極構成部材の前記励磁コイルの前記空胴部に設けられた前記部分から遠い側の第1の内周面と、記前記固定的磁極構成部材の前記励磁コイルの前記空胴部に設けられた前記部分に近い側の第2の内周面とに分割され、前記プランジャが前記固定的磁極構成部材の前記励磁コイルの前記空胴部に設けられた前記部分に最も接近した状態にあるときに、前記摺動方向において、前記永久磁石部材と前記第2の磁性部材との境界が前記円筒状部の前記第2の内周面の前記固定的磁極構成部材の前記励磁コイルの前記空胴部に設けられた前記部分に最も近い縁辺の近傍に位置し、かつ、前記第1の磁性部材と前記永久磁石部材との境界が前記円筒状部の前記第1の内周面の前記固定的磁極構成部材の前記励磁コイルの前記空胴部に設けられた前記部分に最も近い縁辺よりも前記固定的磁極構成部材の前記励磁コイルの前記空胴部に設けられた前記部分に近いところに位置すると共に、前記円筒状部の前記摺動方向における長さが前記プランジャの前記摺動方向における長さより短く、かつ、前記永久磁石部材の前記摺動方向における長さより長くなるように形成され、前記励磁コイルに通電していないときは、前記永久磁石部材によって、磁束が前記固定的磁極構成部材、前記第2の磁性部材、前記永久磁石部材、前記第1の磁性部材及び前記補助磁極の順に巡って前記固定的磁極構成部材に戻る第1の磁気回路と、磁束が前記第2の磁性部材、前記永久磁石部材、前記第1の磁性部材及び前記補助磁極の前記第1の内周面の近傍部分及び前記第2の内周面の近傍部分の順に巡って前記第2の磁性部材に戻る第2の磁気回路とが生成され、前記第1の磁気回路の磁束が前記第2の磁気回路よりも小さいことによって前記第1の磁性部材が前記補助磁極の前記第1の内周面の近傍に位置し、かつ、前記第2の磁性部材が前記補助磁極の前記第2の内周面の近傍に位置するように前記プランジャが保持され、前記励磁コイルに所定方向に通電したときに、前記第1の磁気回路の磁束が前記第2の磁気回路よりも大きくなることによって、前記プランジャが摺動して前記固定的磁極構成部材の前記励磁コイルの前記空胴部に設けられた前記部分に直接的に、又は、緩衝材を介して吸着された状態になるようになされたことを特徴とするソレノイドである。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記プランジャが前記固定的磁極構成部材の前記励磁コイルの前記空胴部に設けられた前記部分に直接的に、又は、前記緩衝材を介して吸着された状態において、前記励磁コイルに前記所定方向とは逆方向に通電したときに、前記第1の磁気回路の磁束が前記第2の磁気回路よりも小さくなることによって、前記第1の磁性部材が前記補助磁極の前記第1の内周面の近傍に位置し、かつ、前記第2の磁性部材が前記補助磁極の前記第2の内周面の近傍に位置するところまで前記プランジャが前記逆方向に摺動するようになされたことを特徴とするソレノイドである。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記固定的磁極構成部材は、略円筒状に形成されると共に、第1の開口部、第2の開口部及び中空部を備え、前記励磁コイルが前記中空部に設けられたケースと、略円筒状に形成されると共に一部が前記励磁コイルの前記空胴部に設けられると共に、前記ケースに対して直接的に又は間接的に固定されたベースとを備え、前記プランジャは、前記ベースの前記ケースの前記第1の開口部側に設けられると共に、前記ベースに対して接近するように、又は、離隔するように摺動可能に設けられていることを特徴とするソレノイドである。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記固定的磁極構成部材は、前記ケースの前記第2の開口部側に固定されて前記第2の開口部を閉止すると共に、前記ベースが固定された蓋部材をさらに備えていることを特徴とするソレノイドである。
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記蓋部材は、中央寄りの領域に開口部が形成され、前記ベースは、前記蓋部材の前記開口部への圧入によって前記蓋部材に固定されていることを特徴とするソレノイドである。
請求項6に記載の発明は、請求項3乃至請求項5のいずれか一項に記載の発明において、前記プランジャの前記第2の磁性部材は、前記永久磁石部材側に配置された円板状部と、前記ベース側に配置されると共に略円柱状に形成された突出部とを備え、前記ベースは、前記第2の磁性部材に対向する面に凹部が形成され、前記凹部は、前記突出部が進入可能な大きさに形成されていることを特徴とするソレノイドである。
請求項7に記載の発明は、請求項3乃至請求項6のいずれか一項に記載の発明において、前記補助磁極は、前記摺動方向において前記円筒状部の前記ベースに最も近い部分、又は、前記ベースから最も遠い部分から外側にフランジ状に張り出すように形成されると共に、前記ケースの前記第1の開口部側に固定された環状板部をさらに備えていることを特徴とするソレノイドである。
請求項8に記載の発明は、請求項6に記載の発明において、前記プランジャは、前記永久磁石部材の径が前記第1の磁性部材及び前記第2の磁性部材の前記円板状部の径よりも小さくなるように形成されていることを特徴とするソレノイドである。
請求項1に記載の発明によれば、励磁コイルに通電していない状態では、永久磁石部材の磁束によって第1の磁気回路及び第2の磁気回路が生成されるが、磁束は主として第1の内周面の近傍部分及び第2の内周面の近傍部分を経由する第2の磁気回路を巡るので、第2の磁気回路が主として作用し、第1の磁性部材と第2の磁性部材とが第1の内周面の近傍部分と第2の内周面の近傍部分とに強く吸引され、プランジャが補助磁極の円筒状部に接近した状態で保持される。そして、励磁コイルに対して所定方向に通電して永久磁石部材によって生成された磁束と同方向に磁束が流れるような磁界を発生させると、磁束は主として第1の磁気回路を巡るようになるので、プランジャが固定的磁極構成部材の励磁コイルの空胴部に設けられた部分に吸引されるようにプランジャが摺動する。また、励磁コイルへの通電を停止し、このソレノイドを装着している装置からの反発力によってプランジャが押し返されたときには、永久磁石部材によって生成された第2の磁気回路によって、プランジャが補助磁極の円筒状部に接近したところで呈する。したがって、このソレノイドを、通常時にはプランジャが補助磁極の円筒状部に接近している状態で使用し、必要なときのみ励磁コイルに通電するという用途において使用すると、通常時はコイルに通電しないので節電性が非常に高いものとなる。また、コイルへの通電を停止してプランジャが元の位置に復帰するときにはプランジャがソレノイドを構成する他の部材に衝突することなく停止するので、衝突音が発生せず、高い静音性が実現される。
請求項2に記載の発明によれば、励磁コイルに所定方向とは逆方向に通電することによって、ソレノイドを装着している装置からの反発力がなくても、プランジャを固定的磁極構成部材の励磁コイルの空胴部に設けられた部分から自在に離隔させることができる。ひいては、低消費電力で静音性が高い2方向に動作可能な自己保持型ソレノイドを実現されることができる。
請求項3に記載の発明によれば、ケースとベースとを別体としているので、ケースとベースとの材料や肉厚を個別に設定することができ、設計の自由度が高まると共に、ソレノイドの組立性を向上させることができる。
請求項4に記載の発明によれば、ベースとは別部材の蓋部材によってケースの第2の開口部を閉止するので、ベースの役割を磁路に限定することができ、蓋部材としての機能を併せ持つ構成よりも設計の自由度が高まる。
請求項5に記載の発明によれば、蓋部材の開口部にベースを圧入することによって、ベースの一部が外部に露出した状態になる。すなわち、コイルボビンの配置スペースを蓋部材に接するところまで確保でき、摺動方向におけるソレノイド全体の長さに対してベースの長さを相対的に大きくできるようになるので、ターン数が多い長い励磁コイルに対応させることができる。ひいては、ソレノイドの径に比して強い磁界を発生させる励磁コイルを装着することが可能となり、非常に強力な磁力を持つ永久磁石部材を装着した場合においても、第1の磁気回路の磁束を瞬時に打ち消すことができる。
請求項6に記載の発明によれば、プランジャに突出部を形成し、ベース側に凹部を形成することによって励磁コイルに通電して第1の磁気回路の磁束を打ち消すような磁界を発生させたときに、これらの部位を平坦に形成したソレノイドよりも相対的に小さな消費電力でプランジャを摺動させることができる。
請求項7に記載の発明によれば、永久磁石部材として、磁力が強い一方、比較的に脆いものを採用しても、ソレノイド組立時に永久磁石部材の角部に他の部材が当たって亀裂を生じることを防止できる。
請求項8に記載の発明によれば、環状板部をケースの曲げ加工によって補助磁極全体を固定するので、組立が容易になる上に、円筒状部自体をケースに圧入する場合よりも、摺動方向におけるソレノイドの長さを短くすることができる。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るソレノイドにおける非励磁状態における断面図である。図1において、10はソレノイド、20はプランジャ、21は永久磁石部材、22は第1の磁性部材、23は第2の磁性部材、24aは円板状部、24bは突出部、25はシャフト、26は径小部、27は径大部、28は段差面、29は環状部、30はベース、31は中間部、32は軸受嵌合部、33は環状突出部、34は外部突出部、35はケース35は本体部、37は第1の開口部側肉薄部分。38は第2の開口部側肉薄部分、39は第1の軸受、40は蓋部材、40aは開口部、41は縁辺部、42は励磁コイル、43はコイルボビン、44は巻胴部、45は第1のフランジ部、46は第2のフランジ部、47は補助磁極、48は円筒状部、48aは環状凹陥部、49は環状板部、50は補助構造部材、51は先端部、52は中間部、53は基端部、54は可動部材、55は第2の軸受、56は緩衝材である。また、図2は、本発明の第1の実施の形態に係るソレノイドにおける非励磁状態における正面図である。図2において用いた符号は、すべて図1と同じものを示す。さらに、図3は、本発明の第1の実施の形態に係るソレノイドにおける非励磁状態を示し、(a)は平面図、(b)は底面図である。図3において用いた符号は、すべて図1と同じものを示す。くわえて、図4は、本発明の第1の実施の形態に係るソレノイドにおける順方向励磁時の動作を示す断面図(1)である。図4において用いた符号は、すべて図1と同じものを示す。また、図5は、本発明の第1の実施の形態に係るソレノイドにおける順方向励磁時の動作を示す断面図(2)である。図5において用いた符号は、すべて図1と同じものを示す。
まず、本発明の第1の実施の形態に係るソレノイド10の概要について説明する。ソレノイド10は、図2及び図3に示すように、略円筒状の外観を呈しており、ケース35、蓋部材40及び補助構造部材50によって外殻が形成されている。また、ソレノイド10は、図1、図4及び図5に示すように、シャフト25が直進運動する直動型ソレノイドであるが、プランジャを励磁コイル42の励磁による磁束によって所定位置に保持するのではなく、永久磁石部材21を設けたことによって生成される磁束によって保持する点に大きな特徴がある。なお、ソレノイド10においては、プランジャ20、シャフト25、ベース30、ケース35、励磁コイル42、コイルボビン43、及び、補助磁極47の円筒状部48の中心軸は、すべて一致している。また、プランジャ20は、その中心軸に沿って摺動するように構成されている。したがって、プランジャ20の摺動方向は、シャフト25、ベース30、ケース35、励磁コイル42、コイルボビン43、及び、補助磁極47の円筒状部48の中心軸方向と一致している。そこで、本件明細書において「中心軸」と記載した場合には、プランジャ20、シャフト25、ベース30、ケース35、励磁コイル42、コイルボビン43、及び、補助磁極47の円筒状部48に共通する上述の中心軸を示すものとする。また、特許請求の範囲における「中心軸」もまた、プランジャ、ベース、ケース、励磁コイル、及び、補助磁極の円筒状部において互いに一致している。くわえて、本件明細書及び特許請求の範囲において「摺動方向」と記載した場合には、中心軸と平行な方向を示すものとする。くわえて、ベース30、プランジャ20、補助磁極47、ケース35及び蓋部材40は、全て磁性材から形成されており、永久磁石部材21、又は、励磁コイル42への通電によって生成される磁束の経路となる。また、この形態に係るソレノイド10において、磁束の経路となるベース30、ケース35及び蓋部材40は、補助磁極47のように磁束の流れを調整する能動的な役割を持たない固定的な部材であるので、これら3つの部材のうちいずれか2つ、あるいは、3つ全てを1つの固定的磁極構成部材として一体に形成してもよい。さらに、特許請求の範囲において「固定的磁極構成部材」とした部材は、この形態に係るソレノイド10のベース30、ケース35及び蓋部材40に相当する部材を示すものとする。
続けて、第1の実施の形態に係るソレノイド10を構成する各部材について詳しく説明する。図14は、本発明の第1の実施の形態に係るソレノイドの補助磁極を示し、(a)は正面図、(b)は底面図、(c)は断面図である。図14において、47a及び47bは角部、48bは第2の内周面、48cは第1の内周面、48dは外周面、49aは上面、49bは下面であり、その他の符号は図1同じものを示す。くわえて、図15は、本発明の第1の実施の形態に係るソレノイドのプランジャを示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は断面図、(d)は分離状態の正面図、(e)は分離状態の断面図である。図15において、20aは貫通孔、20bは外周面、21aは貫通孔、21bは外周面、22aは貫通孔、22bは外周面、23aは貫通孔、23bは外周面であり、その他の符号は図1同じものを示す。さらに、図16は、本発明の第1の実施の形態に係るソレノイドのベースを示し、(a)は正面図、(b)は平面図、(c)は底面図、(d)は断面図である。図16において、30aは段差面、31a及び32aは貫通孔、33aは凹部、33bは底面、34aは外周面であり、その他の符号は図1同じものを示す。
ソレノイド10のプランジャ20は、図15(d)及び(e)に示すように、それぞれ個別に形成された永久磁石部材21、第1の磁性部材22及び第2の磁性部材23の3つの構成部品を永久磁石部材21の前後に第1の磁性部材22と第2の磁性部材23を図15(a)乃至(c)に示すように配置している。また、永久磁石部材21と第1の磁性部材22とは、円板状に形成されると共に、中心近傍の領域に貫通孔20aと貫通孔21aとが形成されている。第2の磁性部材23は、永久磁石部材21側に配置される円板状部24aと、ベース30側に配置される突出部24bとを備えている。また、第1の磁性部材22、永久磁石部材21及び第2の磁性部材23は、互いに接着されては居らず、後述する工程によって一体のものとしている。円板状部24aは、円板状に形成されると共に、中心近傍の領域に貫通孔23aが形成されている。貫通孔23aは、突出部24bまで連続しており、第2の磁性部材23を中心軸方向に貫通している。なお、永久磁石部材21、第1の磁性部材22及び第2の磁性部材23は、例えば外周面に回転防止用のキー溝を形成するなど、完全な円筒状、又は、円柱状でなくてもよい。
なお、ソレノイドの全長を非常に長いものにした場合、第1の磁性部材22、永久磁石部材21、及び、第2の磁性部材23の円板状部24aを比較的長い円柱状又は円筒状にする場合もあるので、これらの径と中心軸方向の長さの比は図15等に示したものに限られるものではない。また、突出部24bは、図1に示すように、ベース30に向かって円柱が突出したような形状になされている。突出部24bは、後述するように、ベース30の凹部33aと共に、ソレノイド10をコニカル型のソレノイドにやや近い推力特性を得るために形成されたものである。なお、ソレノイド10に求められる特性によっては、突出部24bの先端部近傍にテーパ面を形成する、あるいは、径の異なる複数の円柱をベースに向かって順次径が小さくなるように配置した構成にしてもよい。この場合、ベースにおいても、突出部の構成に対応させるべく、突出部に向かって順次径が小さくなるようにした複数の円柱状空間が連続するものに形成することが好ましい。
また、永久磁石部材21の外周面21bは、第1の磁性部材22の外周面22b及び第2の磁性部材23の外周面22bよりも僅かに中心寄りに後退している。すなわち、永久磁石部材21の径は、一般的な永久磁石材料の脆さを考慮して、第1の磁性部材22及び第2の磁性部材23の径よりも僅かに小さくなるように設定されている。これは、外周面21bと外周面22b及び外周面23bとが同じ円筒面をなすように形成されていると、ソレノイドの組立工程において、あるいは、使用中にプランジャ20の外周面20bに衝撃が加わったときに、永久磁石部材21の角部に亀裂を生じる可能性があることによる。言い換えると、永久磁石部材21の径が第1の磁性部材22及び第2の磁性部材23の径よりも小さければ、外周面21bが外周面22b及び外周面22bより内側に後退し、永久磁石部材21の角部が他の部材に触れにくい状態になるからである。なお、永久磁石部材21の径と第1の磁性部材22及び第2の磁性部材23の径との差は、より強い磁界を得るという観点から、小さい方が好ましいと言える。また、第1の磁性部材22の径と第2の磁性部材23の径とは、この実施の形態に係るソレノイド10では同一であるが、特定の動作特性を得るために両者に多少の差を設けてもよい。
さらに、プランジャ20は、図1に示すように、その摺動方向に沿って配置された第1の磁性部材22、永久磁石部材21及び第2の磁性部材23をベース30に遠い側から近い側に向かってこの順序で配列している。後述するように、永久磁石部材21、第1の磁性部材22及び第2の磁性部材23の配列、及び、中心軸方向における長さは、プランジャ20が他の部材に衝突することなく、補助磁極47の円筒状部48に接近したところで停止させるために必要なものとなる。さらに、第1の磁性部材22、永久磁石部材21及び第2の磁性部材23にそれぞれ形成された円形の貫通孔22a、貫通孔21a及び貫通孔23aは、シャフト25の径小部26を挿通し、後述する方法によって固定することで、永久磁石部材21、第1の磁性部材22及び第2の磁性部材23を互いに密着させ、かつ、互いの中心軸が一致した状態で固定させるようにすることを目的とする。さらに、貫通孔22a、貫通孔21a及び貫通孔23aは、図15(c)及び(e)に示すように、全て同じ径に形成されている。また、貫通孔22a、貫通孔21a及び貫通孔23aは、第1の磁性部材22、永久磁石部材21及び第2の磁性部材23の母材に対して個別に形成されるが、ソレノイド10の組立工程の終了後には、これら3つで1つの貫通孔20aを構成する。
ベース30は、図1に示すように、外部突出部34以外の部分がコイルボビン43の巻胴部44の中空部、つまり、励磁コイル42の空胴部に配置されている。また、ベース30は、図16に示すように、円筒状に形成された中間部31の蓋部材40側の端面から外部突出部34が突出している。外部突出部34は、蓋部材40の開口部40aに圧入して固定されるので、外周面34aは蓋部材40に密着した状態となる。また、中間部31のプランジャ20側の端面には、前述したコニカル型に近い構成とするための凹部33aが形成されている。凹部33aは、第2の磁性部材23の突出部24bに対応するために円柱状の空間として形成され、かつ、突出部24bが進入可能な大きさに形成されている。凹部33aの底面33bは、緩衝材56に当接するが、突出部24bには直接接触しない。なお、凹部33aの形状は、前述のように、図1等に示した形状に限られるものではない。
凹部33aを環状に囲むように存在する環状突出部33は、永久磁石部材21又は励磁コイル42への通電によって生成される磁束の主要な経路となる部分である。また、中間部31及び外部突出部34には、中心軸に沿って貫通孔31aが形成されている。この実施の形態に係るソレノイド10では貫通孔31aに軸受を設けていないが、貫通孔31aの外部突出部34側に軸受を設けることも可能である。貫通孔31aの外部突出部34側に軸受を設けると、この軸受と第2の軸受55とが互いに遠い部位に位置することから、シャフト25が中心軸に対して非常に傾きにくくなるので、シャフト25が中心軸方向に対して傾かないことが強く要求される場合に特に好適な配置となる。軸受嵌合部32は、中間部31のプランジャ20側に連続する形成されており、中間部31と同じ外径を持つ。また。軸受嵌合部32には中心軸に沿って貫通孔32aが形成されている。貫通孔32aの径は、第1の軸受39を圧入するために、貫通孔31aの径よりやや大きくなるように形成されている。したがって、貫通孔32aと貫通孔31aとの境界には段差面30aが形成されるが、段差面30aは第1の軸受39を過剰に深く圧入することを規制するための手段となる。
補助磁極47は、図1及び図14に示すように、略円筒状に、かつ、中心軸がプランジャ20の摺動方向に平行となるように形成された円筒状部48とケース35の第1の開口部側肉薄部分37に固定された環状板部49とを備えている。円筒状部48は、中空部にプランジャ20が挿入されており、プランジャ20の摺動を規制し、さらにプランジャ20を所定位置に保持する役割を持つ。すなわち、円筒状部48は、内周面に環状凹陥部48aが形成されている。環状凹陥部48aは、中心軸方向において、円筒状部48の中間領域よりもベース30に近いところ、つまり、中間領域の近傍領域に内周面を1周するように、つまり、中心軸に直交する円を描くように形成されている。したがって、円筒状部48は、その内周面が環状凹陥部48aによって、ベース30から遠い側の第1の内周面48cと、ベース30に近い側の第2の内周面48bとに分割されている。発明者が磁場解析及び実験で得た知見によれば、円筒状部48の内周面をやや深く彫り込んで環状凹陥部48aを形成し、第1の内周面48cと第2の内周面48bとの2つの内周面に分割することによって、環状凹陥部48aを形成しない場合よりも、プランジャ20の摺動を規制すると共にプランジャ20を所定位置に保持する作用が強力になることが分かった。そこで、本件発明では、第1の磁性部材22の外周面22b及び第2の磁性部材23の外周面23bと環状凹陥部48aの底面、つまり最も深い領域とのエアギャップが第1の磁性部材22の外周面22bと第2の磁性部材23の外周面23bと第1の内周面48cと第2の内周面48bとのエアギャップよりも十分に大きくなるように、円筒状部48の内周面aをやや深く彫り込んでいる。
また、図1及び図5に示すように、第1の内周面48cと第2の内周面48bとは、プランジャ20の摺動前後のいずれにおいても、第1の磁性部材22と第2の磁性部材23とに対してそれぞれ最も近いところに位置する磁性部材となるように構成されている。さらに、補助磁極47は、図5及び図14に示すように、プランジャ20がベース30に最も接近した状態、つまり、緩衝材56がベース30に接した状態にあるときに、プランジャ20の摺動方向において、永久磁石部材21と第2の磁性部材23との境界が円筒状部48のベース30に最も近い部分となる角部47aの近傍に位置し、かつ、第1の磁性部材22と永久磁石部材21との境界が円筒状部48のベース30から最も遠い部分となる角部47bよりもベース30に近いところに位置すると共に、プランジャ20の摺動方向における円筒状部48の長さ、つまり中心軸方向における円筒状部48の長さがプランジャ20の摺動方向におけるプランジャ20の長さより短く、かつ、プランジャ20の摺動方向における永久磁石部材21の長さより長くなるように形成されている。円筒状部48をこのような長さにした理由は、後述するソレノイド10の動作を実現するためである。
環状板部49は、円筒状部48のベース30側の端部からフランジ状に拡がるように形成されており、ケース35の第1の開口部(図1において下側の開口部)の近傍部分に設けられた第1の開口部側肉薄部分37に挿入した上で、第1の開口部側肉薄部分37を曲げ加工することによってケース35に固定される。また、環状板部49は、補助磁極47の固定手段としての役割の他に、円筒状部48とケース35という2つの磁路を接続する役割も持ち、永久磁石部材21、又は、励磁コイル42への通電によって生成される磁束の経路となる。なお、後述するように、補助磁極47は、図14に示した形状に限られるものではなく、円筒状部48の内周面48bが円筒状で、かつ、中心軸がプランジャ20の摺動方向に平行となるように形成され、環状板部49がケース35に固定されているのであれば、例えば、円筒状部48の外周面48dをテーパ面にする、あるいは、環状板部49の上面49a又は下面49bをテーパ面にするなど、要求される推力特性等に応じて異なる形状に形成することが可能である。
ケース35は、図1に示すように、円筒状に形成された本体部36と、第1の開口部、つまり補助構造部材50を設ける側の開口部の内周面側の肉を切削して形成された第1の開口部側肉薄部分37と、第2の開口部、つまり蓋部材40を設ける側の開口部の内周面側の肉を切削して形成された第2の開口部側肉薄部分38を備えている。第1の開口部側肉薄部分37は、補助磁極47の環状板部49と補助構造部材50とをこの順序で挿入した後、曲げ加工することによって環状板部49及び補助構造部材50の縁辺部を固定する。第2の開口部側肉薄部分38も同様に、蓋部材40をこの順序で挿入した後、曲げ加工することによって蓋部材40の縁辺部を固定する。
蓋部材40は、ケース35の第2の開口部を閉止すると共に、ベース30を所定位置に固定する、さらに永久磁石部材21、又は、励磁コイル42への通電によって生成される磁束の経路という3つの役割を果たす。すなわち、蓋部材40は、略円板状に形成されており、縁辺部41には、第2の開口部側肉薄部分38の曲げ加工で固定することを容易にするために、周縁に向かって肉厚が薄くなるようなテーパ面が形成されている。また、中央寄りの領域に形成された円形の開口部には、前述のように、ベース30の外部突出部34が圧入され、この圧入によってベース30が蓋部材40に固定される。シャフト25は、プランジャ20を構成する第1の磁性部材22、永久磁石部材21及び第2の磁性部材23をベース30に遠い側から近い側に向かってこの順序で一体化し、かつ、摺動可能に保持するものである。コイルボビン43は、略円筒状に形成された巻胴部44の両端部に略円板状に形成された第1のフランジ部45と第2のフランジ部46とが設けられている。第1のフランジ部45は補助磁極47に接しており、第2のフランジ部46は蓋部材40に接しており、コイルボビン43は補助磁極47と蓋部材40とに挟持されている。励磁コイル42は、コイルボビン43の巻胴部44にコイルワイヤを巻回することによって形成されている。なお、このコイルワイヤに接続されたリード線については、記載を省略している。
シャフト25は、蓋部材40側に配置されると共に相対的に径が大きい略円柱状に形成された径大部27と、補助構造部材50側に配置されると共に相対的に径が小さい略円柱状に形成された径小部26と、径小部26の径大部27とは反対側となる先端部に設けられると共にかしめ加工される環状部29を備えている。径大部27は、第1の軸受39によって摺動可能に支持されており、大部分がベース30の貫通孔31aの内部に挿入された状態になっている。また、径大部27の径小部26とは反対側となる先端部及びその近傍部分は、励磁コイル42に通電していない状態において。外部突出部34から外部に突出している。径小部26には、ベース30に遠い側から近い側に向かって、可動部材54、第1の磁性部材22、永久磁石部材21、第2の磁性部材23及び緩衝材56がこの順序で挿通され、かつ、固定されている。すなわち、径小部26に対して、緩衝材56、第2の磁性部材23、永久磁石部材21、第1の磁性部材22、可動部材54の順序で挿通した後、環状部29をかしめ加工することによって、これら挿通されたものが径大部27と径小部26との段差面28と環状部29とに挟持された状態になる。環状部29のかしめ加工による固定は、これら挿通されたものを互いに密着できる上に、圧入と比べて永久磁石部材21に亀裂や欠け生じにくいという利点がある。
可動部材54は、非磁性材からなり、中心軸がプランジャ20の摺動方向に平行となるような略円筒状に形成されている。また、可動部材54は、第2の軸受55によって摺動可能に支持されている。したがって、シャフト25は、可動部材54を介して第2の軸受55によって摺動可能に支持されていると言える。補助構造部材50は、プランジャ20及びシャフト25を第2の軸受55を介して摺動可能に支持する役割を持ち、さらに、プランジャ20等を塵埃等から保護するケースとしての役割も併せ持っている。また、補助構造部材50は、先端部51、中間部52及び基端部53を備えており、すべて非磁性材からなる。先端部51は、略円板状に形成されており、第2の軸受55を圧入して固定するために、中央寄りの領域に貫通孔が形成されている。また、先端部51は、中心軸方向において、この貫通孔の長さを第2の軸受55の長さよりもやや長くするために、肉厚が中間部52の肉厚よりもかなり大きくなるように形成されている。中間部52は、中心軸がプランジャ20の摺動方向に平行となるような略円筒状に形成されており、プランジャ20の摺動に必要な空間を確保する役割を持つ。基端部53は、中間部52の先端部51とは反対側の端部に形成されており、ケース35に固定される部分である。また、基端部53は、第1の開口部側肉薄部分37の曲げ加工で固定することを容易にするために、周縁に向かって肉厚が薄くなるようなテーパ面が形成されている。
さらに、第1の実施の形態に係るソレノイド10の動作について説明する。図4は、本発明の第1の実施の形態に係るソレノイドにおける順方向励磁時の動作を示す断面図(1)である。図4において用いた符号は、すべて図1と同じものを示す。また、図5は、本発明の第1の実施の形態に係るソレノイドにおける順方向励磁時の動作を示す断面図(2)である。図5において用いた符号は、すべて図1と同じものを示す。さらに、図6は、本発明の第1の実施の形態に係るソレノイドにおける順方向励磁時の磁束の状態を示す模式図(1)である。図6において15は第1の磁気回路、16は第2の磁気回路であり、その他の符号は図1と同じものを示す。くわえて、図7は、本発明の第1の実施の形態に係るソレノイドにおける順方向励磁時の磁束の状態を示す模式図(2)である。図7において用いた符号は、すべて図6と同じものを示す。また、本発明の第1の実施の形態に係るソレノイドにおける順方向励磁時の磁束の状態を示す模式図(3)である。図8において用いた符号は、すべて図6と同じものを示す。また、本発明の第1の実施の形態に係るソレノイドにおける摺動停止時の磁束の状態を示す模式図である。図9において用いた符号は、すべて図6と同じものを示す。なお、図6乃至図9に記載した矢印付きの曲線は磁束を示すが、概略のみを記載したものであり、実際の磁束はこれらの記載に限られるものではない。
ソレノイド10は、励磁コイル42に通電していない状態では、図6に示すように、永久磁石部材21の磁束によって第1の磁気回路15及び第2の磁気回路16が生成されている。第1の磁気回路15は、永久磁石部材21から、第1の磁性部材22、円筒状部48の第1の内周面48cの近傍部分、環状板部49、ケース35、蓋部材40、ベース30、第2の磁性部材23を経由し、永久磁石部材21に戻る回路であり、第2の磁気回路16は、永久磁石部材21から、第1の磁性部材22、円筒状部48の第1の内周面48cの近傍部分、円筒状部48の第2の内周面48bの近傍部分、第2の磁性部材23を経由し、永久磁石部材21に戻る回路である。なお、この2つの磁気回路以外も磁気回路は存在するが、微弱なものであり、敢えて考慮する必要はない。前述のように、円筒状部48に環状凹陥部48aを形成したことに加えて、ベース30と第2の磁性部材23とのエアギャップが第1の磁性部材22の外周面22b及び第2の磁性部材23の外周面23bと円筒状部48の第1の内周面48c及び第2の内周面48bとのエアギャップよりも相当に大きいことから、磁束は主として第2の磁気回路16を巡ることになる。したがって、プランジャ20は円筒状部48に最も接近している図6の状態のままで強く保持される。
図6に示す状態において、励磁コイル42に永久磁石部材21と同じ方向の磁束を生成する方向に通電すると、図7に示すように、励磁コイル42を取り囲んでいる第1の磁気回路15の磁束が第2の磁気回路16の磁束を上回る。このとき、第2の磁性部材23とベース30との対抗する角部近傍に磁束が集中するので、プランジャ20がベース30に強く吸引されて摺動する。図8に示すように、緩衝材56がベース30に当接したところでプランジャ20は停止するが、中心軸方向に十分な肉厚を持つ緩衝材56を設けているので、プランジャ20の打撃音は十分に低減される。また、図9に示すように、励磁コイル42への通電を停止すると、第1の磁気回路15が第2の磁気回路16がよりも強く作用するので、プランジャ20がベース30に吸引されて摺動し、最後には図6に示す状態に復帰する。このとき、プランジャ20はどこにも当接せずに停止するので、打撃音を生じることがない。なお、プランジャ20がベース30に吸引されて図6の状態に戻るときの吸引力はあまり強くないので、プランジャ20を図6に示す位置に復帰させる補助的手段として、復帰用スプリングの弾発力や負荷装置からの反発力を利用することも可能である。また、外部からの衝撃などによって第1の磁性部材22が円筒状部48の第1の内周面48cから遠ざかり始めるところまで過剰に摺動すると、第1の磁性部材22の外周面22b及び第2の磁性部材23の外周面23bと円筒状部48の第1の内周面48c及び第2の内周面48bとの間に強力な吸引力が作用するので、プランジャ20は遠ざかる方向にそれ以上摺動せず、逆に図6に示す位置に直ちに戻る。
発明者は、ソレノイド10のような構成を有する実施例に対する実験や、実施例を解析モデルとして磁場解析を行ったところ、以下のような知見を得た。まず、補助磁極については、プランジャがベースに最も接近した状態にあるとき、つまり、図1におけるプランジャ20とベース30との位置関係にあるときに、(1)プランジャの摺動方向において、永久磁石部材と第2の磁性部材との境界が円筒状部のベースに最も近い部分の近傍に位置し、かつ、(2)第1の磁性部材と永久磁石部材との境界が円筒状部のプランジャのベースから最も遠い部分よりもベースに近いところに位置すると共に、(3)円筒状部の摺動方向における長さがプランジャの前記摺動方向における長さより短く、かつ、永久磁石部材の前記摺動方向における長さより長い必要があることが分かった。これらの条件は、逆に言うならば、プランジャがベースに最も接近した状態にあるとき、(1)プランジャの摺動方向において、永久磁石部材と第2の磁性部材との境界が円筒状部のベースに最も近い部分(図14における角部47aに相当)の近傍に位置していないと、エアギャップが大きすぎて第2の磁気回路を流れる磁束が非常に微弱なものになる。ひいては、励磁コイルに通電して、第1の磁気回路を逆方向に巡る逆方向磁束を生成させても動かない。(2)第1の磁性部材と永久磁石部材との境界が円筒状部のプランジャのベースから最も遠い部分よりもさらにベースから遠いところに位置すると、励磁コイルに通電して、第1の磁気回路を逆方向に巡る逆方向磁束を生成させた時点において、磁束の流れができて、プランジャが押し戻す力が働く。ひいては、励磁コイルに通電して、第1の磁気回路を逆方向に巡る逆方向磁束を生成させても動かない。(3)円筒状部の摺動方向における長さがプランジャの摺動方向における長さより長いと、第1の磁性部材又は第2の磁性部材と円筒状部との間の磁束がプランジャの摺動方向と直交する方向、又は、直交する方向に近い方向に流れるので、プランジャを摺動させる力にならない。さらに、円筒状部の摺動方向における長さが永久磁石部材の摺動方向における長さより短いと、やはり、第1の磁性部材又は第2の磁性部材と円筒状部との間の磁束がプランジャの摺動方向と直交する方向、又は、直交する方向に近い方向に流れるので、プランジャを摺動させる力にならない。(4)円筒状部の内周面に中心軸を取り囲む(中心軸と直交する円を描くように1周する)環状凹陥部を軽視して、円筒状部の内周面を2つに分割すると、補助磁極によるプランジャの保持力が増大する。そこで、低消費電力で静音性が高い自己保持可能なソレノイドを実現するためには、上述のような条件を満たす必要があると言える。
以上のように、本発明の第1の実施の形態に係るソレノイドにおいては、励磁コイル42に通電していない状態では、永久磁石部材21の磁束によって第1の磁気回路15及び第2の磁気回路16が生成されるが、磁束は主として第2の磁気回路16を巡るので、第2の磁気回路16が第1の磁気回路15よりも強く作用し、プランジャ20は円筒状部48に最も接近している状態のままで強く保持される。そして、励磁コイル42に永久磁石部材21と同じ方向の磁束を生成する方向に通電すると、プランジャ20がベース30に強く吸引されて摺動する。さらに、励磁コイル42への通電を停止すると、第2の磁気回路16によってプランジャ20の第2の磁性部材23が補助磁極47に吸引されるようにプランジャ20が摺動する。しかし、第1の磁性部材22が補助磁極47から遠ざかり始めるところまで摺動すると、今度は第1の磁性部材22が補助磁極47の円筒状部48に吸引され、この吸引力によってプランジャ20の過剰な摺動が阻止される。したがって、プランジャ20は、ソレノイド10を構成する他の部材に衝突することなく停止する。したがって、ソレノイド10の動作時における衝突音が発生せず、高い静音性が実現される。また、プランジャ20に突出部24bを形成し、ベース30のプランジャ20側に凹部33aを形成することによって、いわゆるコニカル型のソレノイドにやや近い構成となり、励磁コイル42に通電して第1の磁気回路15の磁束を打ち消すような磁界を発生させたときに、フラット型のソレノイドよりも相対的に小さな消費電力でプランジャ20を摺動させることができる。さらに、永久磁石部材21として、磁力が強い一方、比較的に脆いものを採用しても、例えばソレノイド10の組立時に永久磁石部材18の角部に他の部材が当たって亀裂を生じることを防止できる。さらに、環状板部49をケース35の曲げ加工によって補助磁極47全体を固定するので、組立が容易になる上に、円筒状部48自体をケース35に圧入する場合よりも、摺動方向におけるソレノイド10の長さを短くすることができる。くわえて、蓋部材40の開口部にベースを圧入することによって、ベースの一部が外部に露出した状態になる。すなわち、コイルボビンの配置スペースを蓋部材に接するところまで確保でき、摺動方向におけるソレノイド全体の長さに対してベースの長さを相対的に大きくできるようになるので、ターン数が多い長い励磁コイルに対応させることができる。ひいては、ソレノイドの径に比して強い磁界を発生させる励磁コイルを装着することが可能となる。以上説明したように、本発明の第1の実施の形態に係るソレノイドは、低消費電力で静音性が高い自己保持可能なソレノイドである。
続けて、本発明の第2の実施の形態に係るソレノイドについて説明する。図10は、本発明の第2の実施の形態に係るソレノイドにおける逆方向励磁時の磁束の状態を示す模式図(1)である。図10において、11はソレノイドであり、その他の符号は図6と同じものを示す。また、図11は、本発明の第2の実施の形態に係るソレノイドにおける逆方向励磁時の磁束の状態を示す模式図(2)である。図11において用いた符号は、すべて図10と同じものを示す。さらに、図12は、本発明の第2の実施の形態に係るソレノイドにおける摺動停止時の磁束の状態を示す模式図である。図12において用いた符号は、すべて図10と同じものを示す。くわえて、図13は、本発明の第2の実施の形態に係るソレノイドにおける引き戻し時の磁束の状態を示す模式図である。図13において用いた符号は、すべて図10と同じものを示す。
本発明の第2の実施の形態に係るソレノイド11は、2方向において自己保持可能なソレノイドで、図示しない励磁コイルの駆動回路に特徴を有しており、励磁コイルに対して2方向に通電することが可能である。その他の構成は、図1、図4及び図5に示した第1の実施の形態に係るソレノイドと同じであるので、各部材の説明は省略する。ソレノイド11は、図10に示すように、緩衝材56がベース30に当接してプランジャ20がベース30に最も接近しているときに、励磁コイル42を逆励磁し、つまり、永久磁石部材21によって発生している磁束の流れを打ち消す方向に通電し、第1の磁気回路15を逆方向に巡る逆方向磁束を生成させる。逆方向の磁束によって第1の磁気回路15が打ち消され、又は、ほぼ打ち消される。その一方、第2の磁気回路16には逆方向の磁束の影響が軽微である。言い換えると、ソレノイド10において図7に示す方向に磁束を生成するように励磁コイル42に対して通電する電流方向を順方向、あるいは、順方向を所定方向とするならば、図10のソレノイド11では、順方向又は所定方向とは逆方向に通電する。なお、励磁コイル42への通電手順は、(1)順方向に通電、(2)通電を停止、(3)逆方向に通電の手順でも、(1)順方向に通電、(2)逆方向に通電の手順でもよく、ソレノイド11の用途などに応じて適宜選択可能である。
励磁コイル42に対してよって逆方向に通電することによって、図11に示すように、第2の磁気回路16の磁束によって、第2の磁性部材23の円板状部24aが円筒状部48に吸引され、プランジャ20はベース30から急速に離隔し、図12に示す位置まで摺動する。なお、プランジャ20が自体の加速度と外部からの衝撃や振動などによって図13に示す位置まで過剰に摺動したとしても、第1の磁性部材22の外周面22b及び第2の磁性部材23の外周面23bと円筒状部48の第1の内周面48c及び第2の内周面48bとの間に強力な吸引力が作用するので、プランジャ20は遠ざかる方向にそれ以上摺動せず、逆に図6に示す位置に直ちに戻る。
以上のように、本発明の第2の実施の形態に係るソレノイド11によれば、図示しない励磁コイルの駆動回路において励磁コイルへの通電方向を適宜変更することによって、多様な用途に対応可能な2方向自己保持型のソレノイドを提供することができる。
続けて、本発明の第3の実施の形態に係るソレノイドについて説明する。図17は、本発明の第3の実施の形態に係るソレノイドにおける非励磁状態における断面図である。図17において、12はソレノイド、60は補助磁極、61は円筒状部、61aは環状凹陥部、62は環状板部であり、その他の符号は図1と同じものを示す。
本発明の第3の実施の形態に係るソレノイド12は、補助磁極60の円筒状部61の内周面に形成した環状凹陥部61aの形状に変更を加えたものである。なお、環状板部62及びその他の部材の構成は図1等に示したソレノイド10と同じである。
以上のように、本発明の第3の実施の形態に係るソレノイド12によれば、円筒状部61の環状凹陥部61aの形状を僅かに変更するだけで、細かい動作特性を変更あることが可能である。なお、ソレノイドの用途等に応じて、補助磁極の環状板部を設けない一方、円筒状部の外径をケース35の第1の開口部側肉薄部分37の内径と同じものにしておき、円筒状部を第1の開口部側肉薄部分37に直接固定するようにしてもよい。
本発明は以上に説明した内容に限定されるものではなく、例えば、本発明の各実施の形態に係るソレノイド10乃至13において、補助磁極を2つの部材の組み合わせによって実現するなど、各請求項に記載した範囲を逸脱しない限りにおいて種々の構成にすることが可能である。