JP2021078497A - 不飽和脂肪酸の酸化成分に起因する臭いのマスキング - Google Patents

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Abstract

【課題】不飽和脂肪酸含有組成物について、酸化によって生じる劣化臭をマスキングする方法を提供する。【解決手段】高甘味度甘味料を含有する、不飽和脂肪酸の酸化成分に起因する臭いのマスキング剤を提供する。【選択図】 なし

Description

本発明は不飽和脂肪酸の酸化成分に起因する臭いの抑制に使用されるマスキング剤に関する。また本発明は不飽和脂肪酸又は/および不飽和脂肪酸の酸化成分を含有する組成物について、不飽和脂肪酸の酸化成分に起因する臭いを抑制する方法、当該臭いが抑制されてなる組成物、及びその製造方法に関する。
オレイン酸、リノール酸、及びリノレン酸などの不飽和脂肪酸は自動酸化や光増感酸化を受けて分解され、揮発性化合物を生成することが知られている。特にリノール酸は、酸化を受けやすい脂質成分であり、酸素の影響や光照射や加熱を受けることで比較的容易に酸化し、ヘキサナール(hexanal)や(E,E)−2,4−デカジエナール((E,E)-2,4-decadienal)等のアルデヒド、及び1−オクテン−3−オン(1-octen-3-one)等のケトンを始めとする、種々のカルボニル化合物を生成する。また、オレイン酸も酸化されるとヘプタナール(heptanal)、ノナナール(nonanal)、及びデカナール(decanal)といったカルボニル化合物を生成する。これらのカルボニル化合物は、比較的閾値の低い臭気化合物であり、脂質の劣化臭の原因化合物でもある。例えば、ヘキサナールは青臭い草臭(青草臭:green)、(E,E)−2,4−デカジエナールは揚げ物油の臭い(deep-fried)、1−オクテン−3−オンはマッシュルーム様の臭い又は金属臭、ヘプタナールはオイリー、脂肪様の臭い(oily, fatty)、ノナナールはせっけん様、油っぽい臭い(soap-fruity, tallowy)、及びデカナールはオレンジピールのような臭い(orange―peel like)といった、それぞれ特有の臭いを呈している(以上、非特許文献1及び2等参照)。
このため、不飽和脂肪酸を含む製品は、製造加工時又は貯蔵中に酸化を受けて、前記の酸化成分に起因する不快臭(酸化劣化臭:オフフレーバー)を生じやすい。特に臭いが製品の品質に大きく影響する飲食物や香粧品等において、不快臭の発生は品質低下に直結する重要な問題である。
このため、従来、劣化臭の生成を抑制する方法が、種々研究され、提案されている。例えば、非特許文献3には、牛乳に光照射した際に生じるヘキサナールが、抗酸化剤として公知のビタミンC、酵素処理イソクエルシトリン、およびヤマモモ抽出物により、生成が抑制されることが記載されている。また、特許文献1には、乳製品に光照射した際に生じる1−オクテン−3−オンの臭いが、ネロール、アセトアルデヒド、メチルサリシレート、又は1,8−シネオールを配合することでマスキングできることが知られている。また、最近の本出願人らの研究により、果汁含有製品に光照射した際に生じる(E,E)−2,4−デカジエナールについては、乳酸エチル、2−ブタノン、2−ペンタノン、アセタール、サリチル酸メチル、1,8−シネオール、酢酸エチル、p−メンタン−3−オン、γ−ヘキサラクトン、ジヒドロアクチニジオリド、2−オクタノン、クロトン酸エチル、1,4−シネオール、乳酸メンチル、2−メチル−2−ヘプテン−6−オン、ヘキサナール、アネトール、酪酸エチル、スクラレオリド、及びイソ吉草酸エチルがマスキング剤として有効であることがわかっている(本出願時未公開)。
国際公開 WO2017/073720号
Food Chemistry 4th Ed. 203-207 Lipids secondary products, 2008 遠藤泰志、「食用油脂の臭気成分」 日本油化学会誌 第48巻、第10号(1999)、p.1133-1140 FFI Journal, Vol.217, No.1, 2012, p.108-112
本発明は不飽和脂肪酸又は/および不飽和脂肪酸の酸化成分、特にリノール酸の酸化成分であるヘキサナール、(E,E)−2,4−デカジエナール、1−オクテン−3−オン、又はオレイン酸の酸化成分であるヘプタナール、ノナナール、デカナールといったカルボニル化合物を含有する組成物について、当該不飽和脂肪酸の酸化成分に起因する臭いをマスキングするための技術を提供することを目的とする。より詳細には、第1に、本発明は不飽和脂肪酸の酸化成分に起因する臭い(以下、これを「不飽和脂肪酸酸化劣化臭」又は単に「酸化劣化臭」とも称する)の抑制に使用されるマスキング剤に関する。第2に、当該酸化劣化臭がマスキングされてなる、不飽和脂肪酸又は/および不飽和脂肪酸の酸化成分を含有する組成物を提供することを目的とする。第3に、当該組成物を製造する方法を提供することを目的とする。当該製造方法は、不飽和脂肪酸又は/および不飽和脂肪酸の酸化成分を含有する組成物について前記酸化劣化臭を抑制する方法であるともいえる。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねていたところ、高甘味度甘味料(以下、これらを総称して「本成分」とも称する)に、リノール酸の酸化によって生じるヘキサナール、(E,E)−2,4−デカジエナール、及び1−オクテン−3−オンに起因する臭い(リノール酸酸化劣化臭)、並びにオレイン酸の酸化によって生じるヘプタナール、ノナナール、及びデカナールに起因する臭い(オレイン酸酸化劣化臭)を抑制する作用があることを見出し、またその作用は甘味を付与しない量(甘味閾値未満の量)でも発揮することを確認した。
これらの知見から、当該本成分を不飽和脂肪酸酸化劣化臭のマスキング剤として、リノール酸、オレイン酸、およびそれらの酸化成分よりなる群から選択される少なくとも1種を含む組成物に配合することで、当該酸化劣化臭が抑制された組成物が得られることを確認し、さらに研究を重ねて、本発明を完成した。
本発明は、下記の実施形態を有する。
(I)不飽和脂肪酸酸化劣化臭マスキング剤
(I−1)高甘味度甘味料を含有する、不飽和脂肪酸の酸化成分に起因する臭いのマスキング剤であって、
当該酸化成分が、(E,E)−2,4−デカジエナール、1−オクテン−3−オン、ヘキサナール、ヘプタナール、ノナナール、およびデカナールよりなる群から選択される少なくとも1種である、マスキング剤。
(I−2)前記高甘味度甘味料が、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ステビア抽出物、ラカンカ抽出物、ソーマチン及びネオテームよりなる群から選択される少なくとも1種である、(I−1)に記載するマスキング剤。
(I−3)不飽和脂肪酸を含有する組成物の酸化劣化臭を抑制するためのマスキング剤である、(I−1)又は(I−2)記載のマスキング剤。
(I−4)前記不飽和脂肪酸がリノール酸、及びオレイン酸からなる群から選択される少なくとも1種である、(I−1)〜(I−3)のいずれかに記載のマスキング剤。
(II)不飽和脂肪酸又は/および不飽和脂肪酸酸化成分含有組成物、及びその製造方法
(II−1)(I−1)〜(I−4)のいずれかに記載するマスキング剤を含有する、不飽和脂肪酸、およびその酸化成分よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する組成物。
(II−2)前記不飽和脂肪酸がリノール酸、及びオレイン酸からなる群から選択される少なくとも1種である、(II−1)記載の組成物。
(II−3)高甘味度甘味料を、不飽和脂肪酸、及びその酸化成分よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する組成物に配合する工程を有する、前記酸化成分に起因する臭いがマスキングされた組成物の製造方法。
(II−4)前記高甘味度甘味料が、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ステビア抽出物、ラカンカ抽出物、ソーマチン及びネオテームよりなる群から選択される少なくとも1種である、(I−3)に記載する製造方法。
(II−5)前記不飽和脂肪酸がリノール酸、及びオレイン酸からなる群から選択される少なくとも1種である、(II−3)又は(II−4)記載の製造方法。
(II−6)リノール酸の酸化成分が、(E,E)−2,4−デカジエナール、1−オクテン−3−オン、及びヘキサナールであり、オレイン酸の酸化成分がヘプタナール、ノナナール、及びデカナールである、(II−3)〜(II−5)のいずれかに記載する製造方法。
(III)不飽和脂肪酸酸化劣化臭のマスキング方法
(III−1)高甘味度甘味料を、不飽和脂肪酸、及びその酸化成分よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する組成物に配合することを特徴とする、前記酸化成分に起因する臭いのマスキング方法。
(III−2)前記高甘味度甘味料が、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ステビア抽出物、ラカンカ抽出物、ソーマチン及びネオテームよりなる群から選択される少なくとも1種である、(III−1)に記載するマスキング方法。
(III−3)前記不飽和脂肪酸がリノール酸、及びオレイン酸からなる群から選択される少なくとも1種である、(III−1)又は(III−2)に記載するマスキング方法。
本発明の不飽和脂肪酸酸化劣化臭マスキング剤(以下、単に「本マスキング剤」とも称する)によれば、不飽和脂肪酸、特にリノール酸及び/又はオレイン酸を含む組成物の酸化によって生じる成分である(E,E)−2,4−デカジエナール、1−オクテン−3−オン、ヘキサナール、ヘプタナール、ノナナール、又は/及びデカナールに起因する臭い(不飽和脂肪酸酸化劣化臭)をマスキングすることができる。特に、ステビア抽出物、ラカンカ抽出物、及びソーマチンによれば、甘味の閾値未満の量で、前記すべての酸化成分に起因する酸化劣化臭をマスキングすることができるため、対象とする組成物の味に影響を与えることなく、目的の酸化劣化臭をマスキングすることができる。同様に、スクラロースは(E,E)−2,4−デカジエナール、1−オクテン−3−オン、ヘキサナール、及びヘプタナールに起因する臭いを、ネオテームは(E,E)−2,4−デカジエナール、1−オクテン−3−オン、ヘキサナール、ヘプタナール、及びデカナールに起因する臭いを、それぞれ甘味の閾値未満の量でマスキングすることができる。
本マスキング剤は、不飽和脂肪酸を含む組成物のなかでも、特に光透過性容器(非遮光性容器)に収容されて蛍光灯やLED灯等の光照射下で流通、保存又は陳列される組成物(製品)や、製造加工時に加熱処理される組成物(製品)に対して、好適に用いることができる。かかる組成物に対して、光照射前又は光照射後に、又は加熱処理前又は後に、本発明のマスキング剤を配合することで、当該組成物の不飽和脂肪酸酸化劣化臭をマスキングすることができる。つまり、本マスキング剤、及び本発明のマスキング方法によれば、不飽和脂肪酸、又は/及び不飽和脂肪酸酸化成分を含有する組成物に対して、不飽和脂肪酸酸化劣化臭をマスキングする効果を発揮し、当該劣化臭による風味の低下に伴なう品質低下が抑制されてなる組成物(例えば、飲食物、香粧品など)を調製し提供することができる。
(I)不飽和脂肪酸酸化劣化臭マスキング剤
本発明の不飽和脂肪酸酸化劣化臭マスキング剤は、高甘味度甘味料を含有することを特徴とする。高甘味度甘味料とは、砂糖の甘味の数十倍以上、好ましくは数百倍以上の甘味度を有する可食性の甘味料であり、人工甘味料と天然甘味料のいずれもが含まれる。好ましくは、食品衛生法において、砂糖の代替される食品添加剤として認可され使用されている高甘味度甘味料であり、具体的には、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ステビア抽出物、ラカンカ抽出物、ソーマチン及びネオテームを例示することができる。本発明において、これらの高甘味度甘味料は1種単独で使用しても、又は2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。
(スクラロース)
スクラロース(化学名: 1,6-Dichloro-1,6-dideoxy-β-D-fructofuranosy l-4-chloro-4-deoxy-α-D-galactopyranoside)は、ショ糖(砂糖)の約600倍の甘味度を有していることが知られている甘味成分である。水に溶けやすく、安定性に優れているため、甘味料としてだけでなく、従来広く様々な用途で食品に使用されている成分である。ちなみにスクラロースの甘味の閾値は約5ppmである。スクラロースは商業的に入手することができ、例えば三栄源エフ・エフ・アイ株式会社から「サンスイート(登録商標)SU―100」等の名称で市販されている。
(アスパルテーム)
アスパルテーム(化学名:N-(L-α-Aspartyl)-L-phenylalanine, 1-methyl ester)は、ショ糖(砂糖)の100〜200倍の甘味度を有するアミノ酸に由来する甘味成分であり、フェニルアラニンのメチルエステルと、アスパラギン酸とがペプチド結合した構造を持つジペプチドのメチルエステルである。ちなみにアスパルテームの甘味の閾値は約28ppmである。アスパルテームは商業的に入手することができ、例えば味の素株式会社から、「パルスイート」(登録商標)といった商品名で市販されている。
(アセスルファムカリウム)
アセスルファムカリウム(化学名:6−メチル−1,2,3−オキサチアジン−4(3H)−オン−2,2−ジオキシドカリウム)は、ショ糖(砂糖)の約200倍の甘味度を有する甘味成分であり、pH及び熱安定性が高いことを特徴とする。ちなみにアセスルファムカリウムの甘味の閾値は約15ppmである。アセスルファムカリウムは、商業的に容易に入手することができ、例えばMCフードスペシャリティーズ株式会社から、「サネット」とう名称で販売されている。
(ステビア抽出物)
ステビアレバウディアナ・ベルトニ(Stevia rebaudiana(Bertoni)Bertoni)(本発明では「ステビア」と略称する)は、南米パラグアイを原産地とするキク科ステビア属に属する植物である。本発明が対象とするステビア抽出物は、製造の別を問わず、例えばステビアの葉又は茎などから、水又はエタノール等の有機溶媒を用いて抽出された物が含まれる。また、本発明が対象とするステビア抽出物には、任意のステビオール配糖体を多く又は精製された状態で含むように、前記抽出処理後、濃縮や分画などの精製処理を施したものであってもよい。つまり、本発明が対象とするステビア抽出物は、ステビオール配糖体を粗精製された状態で含むものであってもよいし、また精製された状態で含むものであってもよい。当該ステビオール配糖体は、ステビオール骨格を有する配糖体であればよく、制限されないものの、例えば、ステビオサイド、レバウディオサイドA、レバウディオサイドB、レバウディオサイドC、レバウディオサイドD、レバウディオサイドE、レバウディオサイドF、レバウディオサイドG、レバウディオサイドH、レバウディオサイドI、レバウディオサイドJ、レバウディオサイドK、レバウディオサイドL、レバウディオサイドN、レバウディオサイドO、ズルコサイドA、ズルコサイドB、レブソサイド、ステビオ―ルモノサイド、ステビオールビオサイド等が例示される。なお、レバウディオサイドAは、ショ糖(砂糖)の300〜450倍の甘味度を有していることが知られている甘味成分でもある。また、本発明が対象とするステビア抽出物は、ステビオール骨格を有する配糖体又はそれを含む限り、前記天然物から抽出又は精製されたものに限らず、発酵技術を用いて調製されるステビオール配糖体又はそれを含むものであってもよい。
本発明において、各種ステビオール配糖体は、ステビア抽出物から精製された状態で使用することもできるし、また、2種以上のステビオール配糖体が混合した状態で使用することもできる。本発明において「ステビア抽出物」の用語には、これらの両方の意味が包含される。ステビア抽出物中のレバウディオサイドAを始めとするステビオール配糖体の含有量は、本発明の効果を奏することを限度として制限されないが、全体の90質量%以上であることが好ましい。より好ましくは95質量%以上である。なお、本発明が対象とするステビア抽出物には、α−グルコシルトランスフェラーゼ等を用いて、上記ステビア抽出物にグルコースやフルクトース等の糖を転移した酵素処理ステビア抽出物も含まれる。当該酵素処理ステビア抽出物には、α−グルコシル化ステビオール配糖体を主成分としたステビア抽出物も含まれる。
こうしたステビア抽出物は、ステビアの葉や茎等を原料として抽出し、さらに必要に応じて精製処理することで調製することも可能であるが、簡便には商業的に入手することができる。例えば、市販されているステビア抽出物として、「レバウディオJ−100」、及び「レバウディオAD」(以上、いずれも守田化学工業(株)製)などを挙げることができる。これらの製品はレバウディオサイドAを90質量%以上の割合で含有するレバウディオサイドA含有製品(ステビア抽出物)である。
(ラカンカ抽出物)
羅漢果(学名:Siraitia grosvenorii(Swingle)C.Jeffrey ex A.M.Lu & Zhi Y.Zhang (Momordica grosvenorii Swingle))は、中国を原産地とするウリ科ラカンカ属のつる性の多年生植物である。本発明が対象とするラカンカ抽出物は、産地の別を問わず、羅漢果の果実、好ましくは羅漢果の生果実から、水又はエタノール等の有機溶媒を用いて抽出されたモグロシドVを含有する抽出物である。モグロシドVは、ラカンカ抽出物に含まれているトリテルペン系配糖体であり、ショ糖(砂糖)の約300倍の甘味度を有していることが知られている甘味成分でもある。
本マスキング剤で用いられるラカンカ抽出物のモグロシドV含有量は、本発明の効果を奏することを限度として、特に制限されない。言い換えれば、本マスキング剤において、ラカンカ抽出物は、モグロシドVを精製した状態でラカンカ抽出物として使用することもできるし、また、モグロシドVに加えて、ラカンカ抽出物に含まれる他のトリテルペン系配糖体(モグロール、モグロシドIE1、モグロシドIA1、モグロシドIIE、モグロシドIII、モグロシドIVa、モグロシドIVE、シアメノシド、11-オキソモグロシドV、5α,6α-エポキシモグロシド)との混合物の状態で使用することもできる。本発明において「ラカンカ抽出物」の用語には、これらの両方の意味が包含される。ラカンカ抽出物中のモグロシドVの含有量は、全体の10質量%以上であることが好ましい。より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、よりさらに好ましくは40質量%以上であり、とりわけ好ましくは50質量%以上である。
こうしたラカンカ抽出物は、羅漢果の果実から抽出し、さらに必要に応じて精製処理することで調製することも可能であるが、簡便には商業的に入手することができる。例えば、市販されているラカンカ抽出物として「サンナチュレ(登録商標) M30」(30質量%モグロシドV含有物)、「サンナチュレ(登録商標) M50」(50質量%モグロシドV含有品)[以上、いずれも三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製]等を例示することができる。
(ソーマチン)
ソーマチンは、西アフリカ原産のクズウコン科の植物Thaumatococcus daniellii (Benn.)Benth. & Hook. f.の種子に多く含まれる分子量約21000の蛋白質(植物性蛋白)であり、ショ糖(砂糖)の3000〜8000倍もの甘味度を有するため天然甘味料として使用されている。ちなみにソーマチンの甘味の閾値は約1ppmである。これは商業的に入手することができ、例えばソーマチンを10質量%の割合で含有する甘味料(サンスイート(商標登録)T−147)が三栄源エフ・エフ・アイ株式会社から市販されている。
(ネオテーム)
ネオテーム(N−[N−(3,3−ジメチルブチル)−L−α−アスパルチル]−L−フェニルアラニン 1−メチルエステル)は、アスパルテームの還元的N-アルキル化によって合成されるジペプチドメチルエステル誘導体であり、ショ糖(砂糖)の約10,000倍の甘味度を有することが知られている甘味成分である。これは商業的に入手することができ、例えばネオテームを2質量%の割合で含有する甘味料(ミラスィ(商標登録)200)DSP五協フード&ケミカル株式会社から市販されている。
(本マスキング剤)
本マスキング剤は、前述する高甘味度甘味料、好ましくはスクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ステビア抽出物、ラカンカ抽出物、ソーマチン及びネオテームよりなる群から選択される少なくとも1種を含有するものであればよく、これらを1種単独で含有するものであっても、また2種以上を組み合わせて含有するものであってもよい。なお、本マスキング剤に含まれる高甘味度甘味料の割合は、不飽和脂肪酸又は/及び不飽和脂肪酸酸化成分を含有する組成物に添加配合することで、不飽和脂肪酸酸化成分に起因する劣化臭をマスキングするという目的に適うものであればよく、その限りにおいて、100質量%を限度として適宜設定することができる。
本マスキング剤の有効成分のうち、リノール酸の酸化成分に起因する劣化臭をマスキングする効果に優れているものとして、好ましくはソーマチン、ネオテーム、スクラロース、ラカンカ抽出物、及びステビア抽出を挙げることができる。より好ましくはソーマチン、ネオテーム、ラカンカ抽出物、及びステビア抽出である。本マスキング剤の有効成分のうち、オレイン酸の酸化成分に起因する劣化臭をマスキングする効果に優れているものとして、甘味の閾値未満で効果を発揮する点で、好ましくはラカンカ抽出物、ステビア抽出物、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、及びソーマチンを挙げることができる。
本マスキング剤は2種以上の有効成分を組み合わせて用いることもできる。その態様は、特に制限されないが、一例を挙げると、少なくともラカンカ抽出物とステビア抽出物が含まれる組み合わせを例示することができる。
本マスキング剤は、不飽和脂肪酸酸化成分含有組成物の劣化臭(不飽和脂肪酸酸化劣化臭)をマスキングするために用いられる。その形態を問わないが、粉末状、顆粒状、タブレット状、及びカプセル剤状などの固体の形態、ならびにシロップ状、乳液状、懸濁液状、液状、及びジェル状などの半固体又は液体の形態を有することができる。また一剤の形態のほか、二剤の形態(例えば、ラカンカ抽出物を含有する製剤とステビア抽出物を含有する製剤との組み合わせ物など、2つの有効成分を組み合わせて使用する場合)を有するものであってもよい。
本マスキング剤は、本発明の効果を妨げないことを限度として、高甘味度甘味料を製剤形態に調製する際に、その形態に応じて、対象とする組成物に配合可能な担体(基剤)や添加剤を適宜配合することもできる。例えば対象とする組成物が飲食品である場合、かかる担体や添加剤としては、本マスキング剤の作用効果に影響を与えない範囲で、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖などのオリゴ糖類;デキストリン、セルロース、アラビアガム、及びでん粉(コーンスターチ等)などの多糖類;及び水などの溶媒を挙げることができる。また、本マスキング剤の作用効果に悪影響を与えないことを限度として、乳糖、ブドウ糖、果糖、果糖ブドウ糖液糖などの糖類;ソルビトール、エリスリトール、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、キシリトール、還元パラチノースなどの糖アルコール類などの配合も排除するものではない。さらに本マスキング剤の作用効果に悪影響を与えないことを限度として、飲食品に通常使用されるような色素、又は防腐剤などを配合することもできる。なお、限定されるものではないが、本マスキング剤は、かかる担体又は添加剤として、構成糖がグルコース、マンノース又はこれらの組み合わせである二糖を配合することなく製造することができる。
本マスキング剤の不飽和脂肪酸酸化成分含有組成物に対する使用量としては、本マスキング剤の主成分である高甘味度甘味料(本成分)に起因する甘味を考慮して、目的に応じて選択設定することができる。例えば、前述するように、スクラロースの甘味度はショ糖の600倍、アスパルテームの甘味度はショ糖の100〜200倍、アセスルファムカリウムの甘味度はショ糖の200倍、レバウディオサイドAの甘味度はショ糖の300〜450倍、モグロシドVの甘味度はショ糖の350〜400倍、配合比が50:50〜99:1のレバウディオサイドAとモグロシドVの混合物の甘味度はショ糖の300〜450倍、ソーマチンの甘味度はショ糖の3000〜8000倍、及びネオテームの甘味度はショ糖の10,000倍である。このため、例えば、本マスキング剤を、不飽和脂肪酸酸化成分含有組成物に対して、不飽和脂肪酸酸化劣化臭をマスキングするだけでなく甘味付与を目的として配合する場合は、本マスキング剤を、不飽和脂肪酸、及びその酸化成分からなる群より選択される少なくとも1種を含有する組成物に甘味を付与する量(甘味の閾値以上の量)で配合することが好ましい。具体的には、例えばスクラロースの配合量としては0.0005質量%以上、アスパルテームの配合量としては0.0028質量%以上、アセスルファムカリウムの配合量としては0.0015質量%以上、ラカンカ抽出物(モグロシドV含有量50%)の配合量としては0.002質量%以上、ステビア抽出物(レバウディオサイドA含有量90%以上)の配合量としては0.002質量%以上、ソーマチンの配合量としては0.0001質量%以上、ネオテームの配合量としては0.0001質量%以上となるような範囲で適宜調整することができる。また本マスキング剤がレバウディオサイドAとモグロシドVとの配合比が50:50〜99:1となるステビア抽出物とラカンカ抽出物との混合物である場合、レバウディオサイドAとモグロシドVの合計量が全体の0.0025質量%以上になるように、最終の不飽和脂肪酸酸化成分含有組成物に対して配合することができる。一方、本マスキング剤を、不飽和脂肪酸酸化成分含有組成物に対して、不飽和脂肪酸酸化劣化臭をマスキングするだけで、甘味付与を目的としない場合や甘味付与が許容されない場合は、本マスキング剤を、不飽和脂肪酸酸化成分の存在下で甘味を付与しない量(甘味の閾値未満の量)で配合する。具体的には、スクラロースの配合量としては0.0005質量%未満、アスパルテームの配合量としては0.0028質量%未満、アセスルファムカリウムの配合量としては0.0015質量%未満、ラカンカ抽出物(モグロシドV含有量50%)の配合量としては0.002質量%未満、ステビア抽出物(レバウディオサイドA含有量90%以上)の配合量としては0.002質量%未満、ソーマチンの配合量としては0.0001質量%未満、ネオテームの配合量としては0.0001質量%未満となるような範囲で適宜調整することができる。また本マスキング剤がレバウディオサイドAとモグロシドVとの配合比が50:50〜99:1のラカンカ抽出物とステビア抽出物の混合物である場合、レバウディオサイドAとモグロシドVの合計量が全体の0.0025質量%未満になるように、最終の不飽和脂肪酸酸化成分含有組成物に対して配合することができる。なお、本成分の不飽和脂肪酸酸化成分の存在下における甘味の閾値(認知閾値)は、具体的には適用する不飽和脂肪酸酸化成分含有組成物毎に個別に設定することが好ましく、この場合の閾値の設定は専門のパネルを用いて極限法に従って行うことが好ましい。
本発明が対象とする不飽和脂肪酸には、多価不飽和脂肪酸であるリノール酸、及び一価不飽和脂肪酸であるオレイン酸が含まれる。また本発明が対象とする不飽和脂肪酸の酸化成分には、リノール酸の酸化成分である(E,E)−2,4−デカジエナール、1−オクテン−3−オン、及びヘキサナール、並びにオレイン酸の酸化成分であるヘプタナール、ノナナール、及びデカナールといったカルボニル化合物が含まれる。
本発明が対象とする「不飽和酸化劣化臭」とは、好ましくは前述する不飽和脂肪酸の酸化成分の少なくとも1つに起因する臭いである。なお、不飽和脂肪酸は、油脂を含む食品や食品素材に広く含まれている成分である。例えば、制限されるものではないが、食用油脂、魚介類、畜肉類、畜乳、野菜、果物、及び穀豆類等、並びにこれらを用いて製造される各種の加工食品(例えば、魚介類加工品、食肉加工品、菓子、パン、マヨネーズ、カップ麺、総菜、野菜・果物汁を含む飲食品、牛乳等の乳加工品、豆乳、茶飲料、コーヒー飲料等)に広く含まれている。具体的には、リノール酸は、サフラワー(紅花)油、ひまわり油、綿実油、大豆油、コーン油、ごま油、落花生油、米糠油、及び菜種油等の食用油に多く含まれており、また紫蘇油、えごま油、あまに油にも含まれている。オレイン酸は、オリーブ油、菜種油、調合サラダ油、ヘッド(牛脂)、ラード(豚脂)、落花生油、米糠油、パーム油、ごま油、コーン油、綿実油、及びサフラワー(紅花)油等の食用油脂に多く含まれている。こうした不飽和脂肪酸含有製品が光照射を受けたり、酸素存在下で保存されたり、又は/及び加熱処理をうけること等で、酸化されると、リノール酸からは(E,E)−2,4−デカジエナール、1−オクテン−3−オン、及びヘキサナールよりなる群から選択される少なくとも1種のカルボニル化合物が生成し、またオレイン酸からはヘプタナール、ノナナール、及びデカナールよりなる群から選択される少なくとも1種のカルボニル化合物が生成し、それに起因する不快臭(酸化劣化種臭)が生じることが知られている。なお、前記の光には可視光が含まれ、例えば蛍光灯やLED灯等からの照射光の他、太陽光等の可視域内の光を含む照射光が含まれる。
なお、本発明が対象とする不快臭(不飽和脂肪酸酸化劣化臭)は、前述するカルボニル化合物そのものに起因するものであれば足り、当該カルボニル化合物が不飽和脂肪酸に由来して生じたものである必要は必ずしもない。このため、本明細書において「不飽和脂肪酸酸化成分」とは、それが不飽和脂肪酸に由来するものであるか否かを問わず、(E,E)−2,4−デカジエナール、1−オクテン−3−オン、ヘキサナール、ヘプタナール、ノナナール、及びデカナールといったカルボニル化合物を総称する用語として用いられる。また同様に、本明細書において、「不飽和脂肪酸酸化劣化臭」又は「酸化劣化臭」とは、それが不飽和脂肪酸の酸化により生じた臭いであるか否かを問わず、前記カルボニル化合物に起因する臭いを総称する用語として用いられる。
また本発明が対象とする「不飽和脂肪酸酸化劣化臭」には、前記のカルボニル化合物(不飽和脂肪酸酸化成分)を含有する組成物の臭いを鼻で嗅いで直接感じる臭い(オルソネーザル)、及び当該組成物を口に含んだとき、又は飲み込んだときに、喉の奥から口腔内を通じて鼻腔内で感じる臭い(レトロネーザル)のいずれか一方、又はその両方が含まれる。
また本発明において、不飽和脂肪酸酸化劣化臭の抑制又はマスキングの意味には、不飽和脂肪酸酸化成分に起因する臭い(酸化劣化臭)を消失又は低減することが含まれる。具体的には、不飽和脂肪酸酸化成分含有組成物に、本マスキング剤を添加することで、本マスキング剤を添加しない同組成物と比較して、酸化劣化臭が有意に抑制されることを意味する。また、前記カルボニル化合物の酸化前駆体である不飽和脂肪酸を含有する組成物(これを「不飽和脂肪酸含有組成物」と総称する)にあらかじめ本マスキング剤を添加しておくことで(前添加)、当該組成物が酸素、光又は熱に晒された場合でも酸化劣化臭が認知されないか、又は酸化劣化臭が生じたとしても(酸化劣化臭を認知したとしても)、本マスキング剤を添加せずに酸素、光又は熱に光に晒された場合と比較して、酸化劣化臭が有意に抑制されることを意味する。また、不飽和脂肪酸含有組成物が酸素、光又は熱に晒された場合、当該不飽和脂肪酸含有組成物にあとから本マスキング剤を添加しても(後添加)、生じた酸化劣化臭を消失又は低減することが可能である。
こうした本マスキング剤による酸化劣化臭マスキング効果は、通常、訓練された専門パネルによる官能試験によって評価判定することができる。具体的には、対象とする不飽和脂肪酸酸化成分含有組成物に酸化劣化臭マスキング剤(候補物を含む)を添加して、酸素、光又は熱に晒した場合と、酸化劣化臭マスキング剤を添加せずに同処理をした場合とで、不飽和脂肪酸酸化成分含有組成物の処理前後の臭いの変化(臭いの変質)の程度と比較して、マスキング剤を添加した方が添加しない方よりも、処理前後で臭いの変化が小さい場合は、マスキング剤の添加によって、酸化劣化臭がマスキング(抑制)されていると判断することができる。
また、不飽和脂肪酸含有組成物に酸化劣化臭マスキング剤を前添加する場合、対象とする不飽和脂肪酸含有組成物にマスキング剤(候補物を含む)を添加して前記処理をした場合に、処理前後の組成物の臭いの変化(臭いの変質)の程度が、当該マスキング剤を添加することなく処理をした場合における処理前後の不飽和脂肪酸含有組成物の臭いの変化の程度と比較して、小さい場合は、マスキング剤の添加によって、酸化劣化臭がマスキング(抑制)されていると判断することができる。また、不飽和脂肪酸含有組成物に酸化劣化臭マスキング剤を後添加する場合、対象とする不飽和脂肪酸含有組成物を処理した後に、マスキング剤(候補物を含む)を添加した場合、添加後の組成物の臭いが、添加前の組成物の臭いと比較して抑制されている場合、マスキング剤の添加によって、酸化劣化臭がマスキング(抑制)されたと判断することができる。
なお、具体的な判断手法は、後述する実験例に記載する方法を参考にすることができる。
不飽和脂肪酸酸化成分含有組成物に含まれている前記酸化成分の量、並びに不飽和脂肪酸含有組成物に含まれている不飽和脂肪酸の量は、公知の方法で分析することができる。例えば、高速液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、及びGC/O分析(ガスクロマトグラフィー/オルファクトメトリー分析)等を挙げることができる。
GC/O分析の測定条件を下記に示す。
・GC/O装置:6890N(Agilent Technologies社製)/CharmAnalysis(TM)(Datu社製)
・カラム::DB−WAX/長さ15m、内径0.32mm(Agilent Technologies社製)
・カラム温度条件:40〜220℃、6℃/分昇温
・キャリアガス::ヘリウム。
不飽和脂肪酸又は/及び不飽和脂肪酸酸化成分含有組成物としては、前述するように、制限されるものではないが、各種食用油脂、魚介類、畜肉類、畜乳、豆乳、野菜、果物、及び穀豆類等、並びにこれらを用いて製造される各種の加工食品(例えば、魚介類加工品、食肉加工品、菓子、パン、マヨネーズ、カップ麺、総菜、野菜・果物汁を含む飲食品、牛乳等の乳加工品、豆乳、茶飲料、コーヒー飲料等)等を挙げることができる。を挙げることができる。
(II)本不飽和脂肪酸又は/及び不飽和脂肪酸酸化成分含有組成物、及びその製造方法
本発明が対象とする組成物は、前述する不飽和脂肪酸酸化成分に加えて、前述する本マスキング剤を含有する組成物である。これらの組成物としては、好ましくは経口的又は口内で使用される可食性組成物、特に飲食品を挙げることができる。しかし、これらに限らず、例えば、香粧品等、不飽和脂肪酸酸化成分を含み得るものであればよい。
また、本発明が対象とする組成物には、不飽和脂肪酸酸化成分の前駆化合物を含む組成物(これを「不飽和脂肪酸含有組成物」という)も含まれる。このような不飽和脂肪酸含有組成物は、前述するように、酸素、光、又は熱などに晒されることで不飽和脂肪酸酸化成分を生成するため、本マスキング剤を配合しておくことで、生じ得る不飽和脂肪酸酸化劣化臭を抑えることが可能になる。
以下、本明細書では、本マスキング剤を配合する対象の不飽和脂肪酸酸化成分を含有する組成物を「被不飽和脂肪酸酸化成分含有組成物」と称し、これに本マスキング剤を配合した組成物を「本不飽和脂肪酸酸化成分含有組成物」と称する。また、本マスキング剤を配合する対象の不飽和脂肪酸含有組成物を「被不飽和脂肪酸含有組成物」と称し、これに本マスキング剤を配合した組成物を「本不飽和脂肪酸含有組成物」と称する。また、両者を総称して、それぞれ「被組成物」及び「本発明組成物」と称する。
当該本発明組成物は、被組成物に本マスキング剤を添加配合することで調製することができる。
本発明が対象とする被組成物は、前述するように、不飽和脂肪酸又は/及び不飽和脂肪酸酸化成分のいずれか少なくとも1種を含有するものであればよい。好ましくは飲食物を挙げることができる。具体的には、不飽和脂肪酸酸化劣化臭がその風味に影響を及ぼすもの、つまり当該酸化劣化臭をマスキングする課題が存在する飲食物(言い換えれば、酸化劣化臭をマスキングすることで風味が改善する飲食物)であればよく、その限りにおいて特に制限されるものではない。
例えば、前述するように油脂を含む飲食物、例えば、前述する各種の食用油脂、魚介類、畜肉類、畜乳、豆乳、野菜、果物、及び/又は穀豆類等を用いて製造される各種の加工食品(例えば、魚介類加工品、食肉加工品、菓子、パン、マヨネーズ、カップ麺、総菜、野菜・果物汁を含む飲食物、牛乳等の乳加工物、豆乳、茶飲料、コーヒー飲料等)等を制限なく例示することができる。好ましくは、流通、保管時又は陳列時に光照射に晒される可能性のある組成物であり、こうしたものとして、光透過性・非遮光性の容器(PET等のプラスチック製容器や非遮光性のガラス容器)に充填されて流通、保管又は陳列される飲食物を挙げることができる。
被組成物に対する本マスキング剤の配合割合は、これを配合することによって調製される本組成物が、本発明の効果を奏するものであればよく、その限りにおいて特に制限されない。
配合する本マスキング剤の種類によって異なるが、例えば本マスキング剤としてスクラロースを配合して本組成物を調製する場合、本組成物中のスクラロースの含有量としては0.00005質量%以上の範囲を例示することができる。好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.0003質量%以上を例示することができる。なお、上限は特に制限されないが、スクラロースは、不飽和脂肪酸酸化成分の存在下、濃度が0.0005質量%を超えると甘味を呈するようになるため、スクラロースを甘味を付与しない量で使用する場合は、これよりも少ない量で調整することが好ましい。スクラロースを甘味を付与する量で使用する場合は、前記量に拘泥されることなく上限値を設定することができる。この場合でも、本組成物の風味を考慮して、例えばスクラロースの最終濃度が0.015質量%以下になるように調整することができる。
また、被組成物にアスパルテームを配合して本組成物を調製する場合、本組成物中のアスパルテームの含有量としては0.003質量%以上の範囲を例示することができる。好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.008質量%以上を例示することができる。なお、アスパルテームは、不飽和脂肪酸酸化成分の存在下、濃度が0.0028質量%以下になると甘味を呈さず、また本発明の効果を奏しなくなる傾向が認められる。このため、アスパルテームは、甘味閾値以上の例えば前述する割合で用いることが好ましい。アスパルテームを甘味を付与する量で使用する場合は、前記量に拘泥されることなく上限値を設定することができる。この場合でも、本組成物の風味を考慮して、例えばアスパルテームの最終濃度が0.045質量%以下になるように調整することができる。
また、被組成物にアセスルファムカリウムを配合して本組成物を調製する場合、本組成物中のアセスルファムカリウムの含有量としては0.003質量%以上の範囲を例示することができる。好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.008質量%以上を例示することができる。なお、アセスルファムカリウムは、不飽和脂肪酸酸化成分の存在下、濃度が0.0015質量%以下になると甘味を呈さず、また本発明の効果を奏しなくなる傾向が認められる。このため、アセスルファムカリウムは、甘味閾値以上の例えば前述する割合で用いることが好ましい。アセスルファムカリウムを甘味を付与する量で使用する場合は、前記量に拘泥されることなく上限値を設定することができる。この場合でも、本組成物の風味を考慮して、例えばアセスルファムカリウムの最終濃度が0.045質量%以下になるように調整することができる。
また、被組成物にステビア抽出物を配合して本組成物を調製する場合、本組成物中のステビア抽出物の含有量としては0.0002質量%以上の範囲を例示することができる。これをステビア抽出物に含まれるレバウディオサイドA(RevA)の濃度に換算すると1.8ppm以上の範囲を挙げることができる。好ましくは0.0004質量%以上(RevAの量に換算して3.6ppm以上)、より好ましくは0.001質量%以上(RevAの量に換算して9ppm以上)を例示することができる。なお、上限は特に制限されないが、ステビア抽出物は、不飽和脂肪酸酸化成分の存在下、濃度が0.002質量%を超えると甘味を呈するようになるため、ステビア抽出物を甘味を付与しない量で使用する場合は、これよりも少ない量で調整することが好ましい。ステビア抽出物を甘味を付与する量で使用する場合は、前記量に拘泥されることなく上限値を設定することができる。この場合でも、本組成物の風味を考慮して、例えばステビア抽出物の最終濃度が0.03質量%以下(RevAの量に換算して270ppm以下)になるように調整することができる。
また、被組成物にラカンカ抽出物を配合して本組成物を調製する場合、本組成物中のラカンカ抽出物の含有量としては0.0002質量%以上の範囲を例示することができる。これをラカンカ抽出物に含まれるモグロシドV(MogV)の濃度に換算すると1ppm以上の範囲を挙げることができる。好ましくは0.0004質量%以上(MogVの量に換算して2ppm以上)、より好ましくは0.001質量%以上(MogVの量に換算して5ppm以上)を例示することができる。なお、上限は特に制限されないが、ラカンカ抽出物は、不飽和脂肪酸酸化成分の存在下、濃度が0.002質量%(MogVの量に換算して10ppm)を超えると甘味を呈するようになるため、ラカンカ抽出物を甘味を付与しない量で使用する場合は、これよりも少ない量で調整することが好ましい。ラカンカ抽出物を甘味を付与する量で使用する場合は、前記量に拘泥されることなく上限値を設定することができる。この場合でも、本組成物の風味を考慮して、例えばラカンカ抽出物の最終濃度が0.03質量%以下(MogVの量に換算して150ppm以下)になるように調整することができる。
また、被組成物にステビア抽出物とラカンカ抽出物の混合物を配合して本組成物を調製する場合、本組成物中のステビア抽出物及びラカンカ抽出物の総含有量としては、0.0002質量%以上の範囲を例示することができる。好ましくは0.0004質量%以上、より好ましくは0.001質量%以上、を例示することができる。なお、上限は特に制限されないが、不飽和脂肪酸酸化成分の存在下、ステビア抽出物及びラカンカ抽出物の総含有濃度が0.002質量%を超えると甘味を呈するようになるため、甘味を付与しない量で使用する場合は、これより少ない量になるように調整することが好ましい。ステビア抽出物及びラカンカ抽出物を甘味を付与する量で使用する場合は、前記量に拘泥されることなく上限値を設定することができる。この場合でも、例えば本組成物中のステビア抽出物及びラカンカ抽出物の総濃度が0.03質量%以下になるように調整することができる。
また、被組成物にソーマチンを配合して本組成物を調製する場合、本組成物中のソーマチンの含有量としては0.00001質量%以上の範囲を例示することができる。好ましくは0.00002質量%以上、より好ましくは0.00003質量%以上を例示することができる。なお、上限は特に制限されないが、ソーマチンは、不飽和脂肪酸酸化成分の存在下、濃度が0.0001質量%を超えると甘味を呈するようになるため、ソーマチンを甘味を付与しない量で使用する場合は、これよりも少ない量で調整することが好ましい。ソーマチンを甘味を付与する量で使用する場合は、前記量に拘泥されることなく上限値を設定することができる。この場合でも、本組成物の風味を考慮して、例えばソーマチンの最終濃度が0.003質量%以下になるように調整することができる。
また、被組成物にネオテームを配合して本組成物を調製する場合、本組成物中のネオテームの含有量としては0.00001量%以上の範囲を例示することができる。好ましくは0.00002質量%以上、より好ましくは0.00003質量%以上を例示することができる。なお、上限は特に制限されないが、ネオテームは、不飽和脂肪酸酸化成分の存在下、濃度が0.0001質量%を超えると甘味を呈するようになるため、ネオテームを甘味を付与しない量で使用する場合は、これよりも少ない量で調整することが好ましい。ネオテームを甘味を付与する量で使用する場合は、前記量に拘泥されることなく上限値を設定することができる。この場合でも、本組成物の風味を考慮して、例えばネオテームの最終濃度が0.001質量%以下になるように調整することができる。
なお、高甘味度甘味料(本成分)は、本組成物、特に本不飽和脂肪酸含有組成物の製造過程の任意の段階で添加することができる。また、酸素、光又は/及び熱に晒される前の状態にある被組成物、特に被不飽和脂肪酸含有組成物に対してこれらの本成分を配合して本組成物として製造してもよいし、また酸素、光又は/及び熱に晒された後の被組成物、特に被不飽和脂肪酸酸化成分含有組成物に対してこれらの本成分を配合して本組成物、特に不飽和脂肪酸酸化成分含有組成物を製造することもできる。
斯くして調製される本組成物は、高甘味度甘味料を含有することで、それを含有しない組成物(配合前の被組成物)と比べて、酸素、光又は/及び熱に晒された場合に生じる酸化劣化臭がマスキングされてなることを特徴とする。
本組成物について酸化劣化臭がマスキングされているか否かは、本マスキング剤(本成分)が配合された本組成物(被験組成物)を摂食した際に感じる不飽和脂肪酸酸化劣化臭を、本マスキング剤(本成分)が配合されていない以外は前記被験組成物と同じ組成の組成物(比較組成物)の当該酸化劣化臭と比較することで評価することができる。この評価において、比較組成物と比較して被験組成物のほうが酸化劣化臭が低減している場合に、被験組成物について本マスキング剤の配合により酸化劣化臭がマスキングされていると判断することができる。制限されないものの、具体的には、後述する実験例の記載に従って評価することができる。
このように、本マスキング剤(本成分)の配合により本組成物の酸素、光又は/及び熱による酸化劣化臭がマスキングされることで、製造加工時に加熱処理を施した場合であっても、また流通、保存又は陳列時に、蛍光灯やLED灯等の照射光に晒された場合であっても、対象とするリノール酸含有組成物の本来の風味を大きく損なうことなく、風味良好な組成物(飲食物)を提供することができる。
本組成物には、制限されないものの、下記の組成物が含まれる:
(a)不飽和脂肪酸酸化成分が(E,E)−2,4−デカジエナール、1−オクテン−3−オン、及びヘキサナールよりなる群から選択される少なくとも1種であり、スクラロース、ステビア抽出物、ラカンカ抽出物、ソーマチン及びネオテームよりなる群から選択される少なくとも1種を、1種又は2種以上組み合わせて、甘味の閾値未満の割合で含有する組成物。
(b)不飽和脂肪酸酸化成分がヘプタナールであり、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ステビア抽出物、ラカンカ抽出物、ソーマチン及びネオテームよりなる群から選択される少なくとも1種を、1種又は2種以上組み合わせて、甘味の閾値未満の割合で含有する組成物。
(c)不飽和脂肪酸酸化成分がノナナールであり、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ステビア抽出物、ラカンカ抽出物、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を、1種又は2種以上組み合わせて、甘味の閾値未満の割合で含有する組成物。
(d)不飽和脂肪酸酸化成分がデカナールであり、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ステビア抽出物、ラカンカ抽出物、ソーマチン及びネオテームよりなる群から選択される少なくとも1種を、1種又は2種以上組み合わせて、甘味の閾値未満の割合で含有する組成物。
(III)不飽和脂肪酸酸化劣化臭のマスキング方法
本発明の不飽和脂肪酸酸化劣化臭マスキング方法は、上記(II)で説明した被組成物に、前述する高甘味度甘味料(本成分)を添加配合することによって実施することができる。これらの本成分は、被組成物に対するそれらの配合割合を含めて、前記(I)〜(II)で説明した通りであり、前記の記載はここに援用することができる。また被組成物も前記(II)で説明した通りであり、前記の記載はここに援用することができる。
被組成物について、それに高甘味度甘味料(本成分)を配合することで、酸化劣化臭がマスキングされたか否かは、前述するように、本成分が配合された本組成物(被験組成物)を摂食した際に感じる酸化劣化臭を、本成分が配合されていない以外は前記被験組成物と同じ組成の組成物(比較組成物)の酸化劣化臭と比較することで評価することができる。この評価において、比較組成物と比較して被験組成物のほうが酸化劣化臭が低減している場合に、被験組成物について本成分の配合により酸化劣化臭がマスキングされていると判断することができる。制限されないものの、具体的には、後述する実験例の記載に従って評価することができる。
このように、本成分(本マスキング剤)の配合により被組成物が酸素、光及び/又は熱に晒されることによって生じる酸化劣化臭をマスキングすることができ、その結果、流通、保存又は陳列時に、蛍光灯やLED灯等の照射光に晒された場合であっても、前記組成物の本来の風味を大きく損なうことなく、風味良好な組成物(飲食物)を提供することができる。
本発明のマスキング方法には、制限されないものの、下記の方法が含まれる:
(a)前記被組成物が、不飽和脂肪酸酸化成分として(E,E)−2,4−デカジエナール、1−オクテン−3−オン、及びヘキサナールよりなる群から選択される少なくとも1種を含有する組成物であって、スクラロース、ステビア抽出物、ラカンカ抽出物、ソーマチン及びネオテームよりなる群から選択される少なくとも1種を、1種又は2種以上組み合わせて、甘味の閾値未満の割合で配合する、不飽和脂肪酸酸化劣化臭のマスキング方法。
(b)前記被組成物が、不飽和脂肪酸酸化成分としてヘプタナールを含有する組成物であって、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ステビア抽出物、ラカンカ抽出物、ソーマチン及びネオテームよりなる群から選択される少なくとも1種を、1種又は2種以上組み合わせて、甘味の閾値未満の割合で配合する、不飽和脂肪酸酸化劣化臭のマスキング方法。
(c)前記被組成物が、不飽和脂肪酸酸化成分としてノナナールを含有する組成物であって、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ステビア抽出物、ラカンカ抽出物、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を、1種又は2種以上組み合わせて、甘味の閾値未満の割合で配合する、不飽和脂肪酸酸化劣化臭のマスキング方法。
(d)前記被組成物が、不飽和脂肪酸酸化成分としてデカナールである組成物であって、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ステビア抽出物、ラカンカ抽出物、ソーマチン及びネオテームよりなる群から選択される少なくとも1種を、1種又は2種以上組み合わせて、甘味の閾値未満の割合で配合する、不飽和脂肪酸酸化劣化臭のマスキング方法。
なお、本明細書において、「含む」や「含有する」という用語には、「から実質的になる」及び「からなる」の意味が包含される。
本発明の内容を以下の実験例や実施例を用いて具体的に説明する。しかし、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。下記において、特に言及する場合を除いて、実験は大気圧及び常温条件下で行っている。また各実験例で採用したパネルはいずれも飲食品の味質の官能評価に従事し訓練して社内試験に合格した官能評価適格者である。また特に言及する場合を除いて、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
以下の実験例に使用したマスキング剤(被験マスキング剤)は下記の通りである。
(1)スクラロース
「サンスイート(登録商標)SU−100」(スクラロース15%含有)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製。ショ糖の約100倍の甘味度を有する甘味料製品。
(2)アスパルテーム
「パルスイートダイエット(登録商標)」味の素株式会社製。ショ糖の200倍の甘味度を有する甘味料製品。
(3)アセスルファムカリウム
「サネット」MCフードスペシャリティーズ株式会社製。ショ糖の約200倍の甘味度を有する甘味料製品。
(4)ステビア抽出物
「レバウディオJ−100」守田化学工業株式会社製
レバウディオサイドAを95%以上の割合で含有する、ショ糖の約300倍の甘味度を有する甘味料製品。
(5)ラカンカ抽出物
「サンナチュレ(登録商標)M50」三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製
モグロシドVを50%の割合で含有する、ショ糖の約300倍の甘味度を有する甘味料製品。
(6)ソーマチン
「サンスイート(登録商標)T−147(D)」(ソーマチン10%含有)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製。ショ糖の約300〜800倍の甘味度を有する甘味料製品。
(7)ネオテーム
「ミラスィー(登録商標)200」(ネオテーム2%含有)DSP五協フード&ケミカル株式会社製。ショ糖の約200倍の甘味度を有する甘味料製品。
実験例1 不飽和脂肪酸酸化劣化臭マスキング効果の評価(その1)
不飽和脂肪酸酸化成分として、リノール酸の酸化成分である(E,E)−2,4−デカジエナール、1−オクテン−3−オン、及びヘキサナールを用いて、それらが有する臭い(リノール酸酸化劣化臭)に対する、被験マスキング剤のマスキング効果を評価した。なお、(E,E)−2,4−デカジエナールの臭い閾値は0.2ppb、1−オクテン−3−オンの臭い閾値は0.05ppb、及びヘキサナールの臭い閾値は12ppbである。これはいずれも各化合物を水に溶解した場合の閾値である。
(1)実験方法
表1に示す濃度になるように、水に、各リノール酸酸化成分((E,E)−2,4−デカジエナール、1−オクテン−3−オン、ヘキサナール)を添加し、リノール酸酸化成分を各種濃度(質量%)で含む試料1〜3を調製した。
Figure 2021078497
前記試料2を被験試料とし、これに各マスキング剤を、後述する表2〜4に記載する割合で添加して、各リノール酸酸化成分と本マスキング剤(本成分)とを含有する組成物(本組成物)を調製した。これらの本組成物(水溶液)を、パネル(n=4〜6)に飲用してもらい、鼻と口腔内で感じる臭いを、評価してもらった。
なお、本組成物の臭いの評価は、同パネルに、本マスキング剤(本成分)を添加しない試料1〜3(対照試料1〜3)を同様に飲用してもらい、それらの臭いと、下記の基準に従って、比較することで実施した。下記に示すように、評価スコアが0よりも高いほど、マスキング効果が高いことを意味する。
[評価基準]
3:対照試料1よりも臭いが少ない
2:対照試料1の臭いと同等
1:対照試料1の臭いよりも強いが対照試料2より弱い
0:対照試料2の臭いと同等
−1:対照試料2の臭いよりも強いが対照試料3より弱い
−2:対照試料3の臭いと同等
(2)実験結果
リノール酸酸化成分が、(E,E)-2,4-デカジエナールである場合の結果を表2、1-オクタン-3-オンである場合の結果を表3、及びヘキサナールである場合の結果を表4に、それぞれ示す。
Figure 2021078497
Figure 2021078497
Figure 2021078497
表2〜4に示すように、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ステビア抽出物、ラカンカ抽出物、ソーマチン及びネオテームはいずれも、リノール酸の酸化成分である(E,E)-2,4-デカジエナール、1-オクタン-3-オン、及びヘキサナールに起因する臭いを抑制する効果を発揮することが確認された。その効果は、ソーマチン、ネオテーム、スクラロース、ラカンカ抽出物、及びステビア抽出物の順に、強いことが確認された。また、これらの成分のち、スクラロース、ステビア抽出物、ラカンカ抽出物、ソーマチン及びネオテームは、甘さの閾値以上の濃度だけでなく、甘さの閾値未満の濃度でも、上記効果を発揮することが確認された。
この結果から、これらの成分によれば、リノール酸を含む油脂やその加工食品を酸素、光及び/又は熱に晒すことで生じる(E,E)-2,4-デカジエナール、1-オクタン-3-オン、及びヘキサナールに起因するオフフレーバー(酸化劣化臭)をマスキングできると考えられる。
実験例2 不飽和脂肪酸酸化劣化臭マスキング効果の評価(その2)
不飽和脂肪酸酸化成分として、オレイン酸の酸化成分であるヘプタナール、ノナナール、及びデカナールを用いて、それらが有する臭い(オレイン酸酸化劣化臭)に対する、被験マスキング剤のマスキング効果を評価した。なお、ヘプタナールの臭い閾値は50ppb、ノナナールの臭い閾値は260ppb、及びデカナールの臭い閾値は75ppbである。これはいずれも各化合物を水に溶解した場合の閾値である。
(1)実験方法
表5に示す濃度になるように、水に、各オレイン酸酸化成分(ヘプタナール、ノナナール、デカナール)を添加し、オレイン酸酸化成分を各種濃度で含む試料1〜3を調製した。
Figure 2021078497
実験例1と同様に、前記試料2を被験試料とし、これに各マスキング剤を、後述する表6〜8に記載する割合で添加して、各オレイン酸酸化成分と本マスキング剤(本成分)とを含有する組成物(本組成物)を調製した。これらの本組成物(水溶液)を、パネル(n=4〜6)に飲用してもらい、鼻と口腔内で感じる臭いを、評価してもらった。
本組成物の臭いの評価は、実験例1と同様に、同パネルに、本マスキング剤(本成分)を添加しない試料1〜3(対照試料1〜3)を同様に飲用してもらい、それらの臭いと比較することで実施した。
(2)実験結果
オレイン酸化成分が、ヘプタナールである場合の結果を表6、ノナナールである場合の結果を表7、及びデカナールである場合の結果を表8に、それぞれ示す。
Figure 2021078497
Figure 2021078497
Figure 2021078497
表6〜8に示すように、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ステビア抽出物、ラカンカ抽出物、ソーマチン及びネオテームはいずれも、オレイン酸の酸化成分であるヘプタナール、ノナナール、及びデカナールに起因する臭いを抑制する効果を発揮することが確認された。アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ステビア抽出物、ラカンカ抽出物、及びソーマチンは、甘さの閾値以上の濃度だけでなく、甘さの閾値未満の濃度でも、上記効果を発揮することが確認された。またスクラロースは、ヘプタナールに起因する臭いに対して、甘さの閾値以上の濃度だけでなく、甘さの閾値未満の濃度でもマスキング効果を発揮した。ネオテームは、ヘプタナール、及びデカナールに起因する臭いに対して、甘さの閾値以上の濃度だけでなく、甘さの閾値未満の濃度でもマスキング効果を発揮した。
この結果から、これらの成分によれば、オレイン酸を含む油脂やその加工食品を酸素、光及び/又は熱に晒すことで生じるヘプタナール、ノナナール、及びデカナールに起因するオフフレーバー(酸化劣化臭)をマスキングできると考えられる。

Claims (8)

  1. 高甘味度甘味料を含有する、不飽和脂肪酸の酸化成分に起因する臭いのマスキング剤であって、
    当該酸化成分が、(E,E)−2,4−デカジエナール、1−オクテン−3−オン、ヘキサナール、ヘプタナール、ノナナール及びデカナールよりなる群から選択される少なくとも1種である、マスキング剤。
  2. 前記高甘味度甘味料が、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ステビア抽出物、ラカンカ抽出物、ソーマチン及びネオテームよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載するマスキング剤。
  3. 不飽和脂肪酸を含有する組成物の酸化劣化臭を抑制するためのマスキング剤である、請求項1又は2記載のマスキング剤。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載するマスキング剤を含有する、不飽和脂肪酸及びその酸化成分よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する組成物。
  5. 高甘味度甘味料を、不飽和脂肪酸及びその酸化成分よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する組成物に配合する工程を有する、前記酸化成分に起因する臭いがマスキングされた組成物の製造方法。
  6. 前記高甘味度甘味料が、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ステビア抽出物、ラカンカ抽出物、ソーマチン及びネオテームよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項5に記載する製造方法。
  7. 高甘味度甘味料を、不飽和脂肪酸及びその酸化成分よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する組成物に配合することを特徴とする、前記酸化成分に起因する臭いのマスキング方法。
  8. 前記高甘味度甘味料が、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ステビア抽出物、ラカンカ抽出物、ソーマチン及びネオテームよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項7に記載するマスキング方法。
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