JP2021075203A - インホイールモータ駆動装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】平行軸歯車減速機を用いたインホイールモータ駆動装置の耐久性・静粛性を高める。【解決手段】電動モータ部Aの回転を減速して車輪用軸受部Cに出力する減速機部Bに、各歯車がはすば歯車で構成された平行軸歯車減速機30を用いたインホイールモータ駆動装置21において、軸方向から見て、中間歯車軸36の軸心O2と出力歯車軸37の軸心O3とを結ぶ直線Pを、中間歯車軸36の軸心O2を中心として中間歯車軸36の正転力行時の回転方向に回転させて、中間歯車軸36の軸心O2と入力歯車軸35の軸心O1とを結ぶ直線Qに達するまでの回転角度を入力軸配置角βとしたとき、入力軸配置角βが270°〜360°となるように、入力歯車軸35、中間歯車軸36および出力歯車軸37を配置する。【選択図】図2
Description
本発明は、インホイールモータ駆動装置に関する。
インホイールモータ駆動装置は、装置全体がホイール内部に収容された状態で使用される関係上、その重量や大きさが車両のばね下重量や客室スペースの広さに影響を及ぼすため、できるだけ軽量・コンパクトであることが望まれる。その一方、インホイールモータ駆動装置は、車輪を駆動するために大きなトルクを必要とする。このため、インホイールモータ駆動装置においては、駆動力を発生させる電動モータと、車輪を回転自在に支持する車輪用軸受との間に、電動モータの回転を減速して車輪用軸受に出力する減速機を設けるのが一般的である。例えば下記の特許文献1〜3に記載されたインホイールモータ駆動装置では、互いに平行に配置された入力歯車軸、中間歯車軸および出力歯車軸を備えた多段減速式の平行軸歯車減速機を採用している。
特許文献3では、各歯車軸に設けられる歯車に、歯すじがつるまき線状となったはすば歯車を採用している。この場合、同時に噛み合う歯数が増え、歯当たりが分散されるため、静粛でトルク変動が小さい減速機を実現する上で有利となる。
インホイールモータ駆動装置において、平行軸歯車減速機にはすば歯車を採用した場合、各歯車軸には歯車同士の噛合いによってラジアル荷重のみならずアキシャル荷重も作用する。例えば、図12に示すような一対のはすば歯車軸G1、G2の噛み合いでは、噛み合い部Mで生じるアキシャル荷重によって両歯車軸G1、G2が同じ方向に傾斜するため、相対的なミスアライメントは小さく、噛み合い部Mへの影響は小さい(図12では変位量を誇張している)。一方、図13に示すような歯車軸G1〜G3からなる3軸2段の平行軸歯車減速機の場合、複数の噛み合い部M1、M2が形成される。この場合、一方の噛み合い部M1(又はM2)で生じるアキシャル荷重が他方の噛み合い部M2(又はM1)に影響を及ぼすため、両噛み合い部M1、M2に平行誤差や食い違い誤差が生じやすい。なお、図14に模式的に示すように互いに噛み合う一対の平行な歯車軸の軸心をL1、L2としたとき、一方の歯車軸が他方の歯車軸に対して、両歯車軸の軸心L1、L2を含む平面H内で傾斜することで生じるずれΔHを「平行誤差」と言い、一方の歯車軸が他方の歯車軸に対して、自身の軸心L1を含み、且つ、平面Hと直交する平面V内で傾斜することで生じるずれΔVを「食い違い誤差」と言う。このような歯車同士の噛み合い誤差(平行誤差および食い違い誤差)により、歯面同士が軸方向端部付近で互いに当接する「片当たり」が生じやすくなる。歯面同士の片当たりが生じると、歯の摩耗や折損等が生じ易くなり、減速機の耐久性や音振性能に悪影響が及ぶ。
例えば上記の特許文献4の図6(b)には、歯車の歯面にクラウニング(歯すじクラウニング)を施すことによって、歯車の片当たりを防止することが記載されている。しかし、歯面にクラウニングを設けるだけでは、片当たりを十分に防止できない場合がある。例えば、クラウニングの曲率を大きくすれば、片当たりは生じにくくなるが、この場合、ミスアライメントが小さい条件では歯当たりが減少して実噛合い率が低下するため、歯の折損、異音・振動の発生などといった問題が生じ易くなる。
以上の事情に鑑み、本発明は、2段以上の平行軸はすば歯車減速機を適用したインホイールモータ駆動装置において、歯面の形状修正以外の方法により歯面同士の片当たりを抑えて、耐久性および静粛性を高めることを目的とする。
本発明者の解析によると、2段以上(3軸以上)の平行軸はすば歯車減速機では、歯面同士の片当たりの強弱は歯車軸のレイアウトの影響を受けることが分かった。具体的には、複数(3軸以上)の歯車軸を所定のレイアウトで配置することによって、歯車軸の平行誤差に起因して生じる片当たりと、歯車軸の食い違い誤差に起因して生じる片当たりとが相殺し、その結果、歯面同士の片当たりを抑えることができる。従って、使用頻度の高い正転力行時において片当たりが弱くなるようなレイアウトで、各歯車軸を配置すればよい。
また、インホイールモータ駆動装置に2段以上の平行軸歯車減速機を適用する際には、減速機のコンパクト化を図るために、入力歯車軸の軸心と中間歯車軸の軸心とを結ぶ直線と中間歯車軸の軸心と出力歯車軸の軸心とを結ぶ直線とで挟まれた角度(以下、「歯車軸の配置角α」という。図2参照。)が90°より小さくなるように、各歯車軸を配置することが好ましい。
以上の知見に基づいてなされた本発明は、駆動力を発生させる電動モータ部と、車輪を回転自在に支持する車輪用軸受部と、互いに平行に配置された入力歯車軸、中間歯車軸および出力歯車軸を有し、前記入力歯車軸に入力された前記電動モータ部の回転を2段以上で減速して前記車輪用軸受部に出力する減速機部とを備え、各歯車軸に設けられた歯車がはすば歯車で構成されたインホイールモータ駆動装置において、軸方向から見て、前記中間歯車軸の軸心と前記出力歯車軸の軸心とを結ぶ直線を、前記中間歯車軸の軸心を中心として前記中間歯車軸の正転力行時の回転方向に回転させて前記入力歯車軸の軸心に達するまでの回転角度を入力軸配置角としたとき、入力軸配置角が270°〜360°となるように、前記入力歯車軸、前記中間歯車軸および前記出力歯車軸を配置したことを特徴とするインホイールモータ駆動装置を提供する。
上記のインホイールモータ駆動装置をホイール内に配置するためには、サスペンションとの干渉を回避しなければならない。特に、電動モータ部はインボード側に大きく突出しているため、サスペンションの構成部品であるロアアームやショックアブソーバと干渉しやすい。そこで、上記のインホイールモータ駆動装置では、サスペンションとの干渉を回避するために、減速機部の入力歯車軸の軸心を、出力歯車軸の軸心よりも車両後方側に配置し、且つ、軸方向から見て、出力歯車軸の軸心を通る水平線を出力歯車軸の軸心を中心として±45°回転させた2直線の間の角度範囲内に配置することが好ましい。
本発明のインホイールモータ駆動装置によれば、平行軸歯車減速機の各歯車軸を上記のように配置することで、歯面の片当たりが抑えられるため、歯の摩耗や折損を防止し、減速機の耐久性および静粛性を高めることができる。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
まず、図10および図11に基づき、インホイールモータ駆動装置を搭載した電気自動車11の概要を説明する。図10に示すように、電気自動車11は、シャシー12と、操舵輪として機能する一対の前輪13と、駆動輪として機能する一対の後輪14と、左右の後輪14のそれぞれを駆動するインホイールモータ駆動装置21とを備える。図11に示すように、後輪14は、シャシー12のホイールハウジング15の内部に収容され、懸架装置16を介してシャシー12の下部に取り付けられている。
懸架装置16は、左右に延びるサスペンションアームによって後輪14を支持すると共に、コイルスプリングおよびショックアブソーバを含むストラットによって、後輪14が路面から受ける振動を吸収してシャシー12の振動を抑制する。懸架装置16は、路面の凹凸に対する追従性を向上し、後輪14の駆動力を効率よく路面に伝達するために、左右の車輪を独立して上下させる独立懸架式が好ましいが、その他の懸架方式が採用される場合もある。
この電気自動車11では、左右のホイールハウジング15の内部に、左右の後輪14それぞれを回転駆動させるインホイールモータ駆動装置21が組み込まれるので、シャシー12上にモータ、ドライブシャフトおよび差動装置等を設ける必要がなくなる。そのため、この電気自動車11は、客室スペースを広く確保でき、しかも、左右の後輪14の回転をそれぞれ制御することができるという利点を有する。
なお、インホイールモータ駆動装置21は、上記のように後輪14を駆動輪とした後輪駆動タイプの電気自動車11のみならず、前輪13を駆動輪とした前輪駆動タイプの電気自動車や、前輪13および後輪14の双方を駆動輪とした四輪駆動タイプの電気自動車に適用することもできる。
電気自動車11の走行安定性およびNVH特性を向上するためには、ばね下重量を抑える必要がある。また、電気自動車11の客室スペースを拡大するためには、インホイールモータ駆動装置21をできるだけコンパクト化する必要がある。そこで、以下に説明するようなインホイールモータ駆動装置21を採用する。
図1に、本発明の一実施形態に係るインホイールモータ駆動装置21、より詳細には、電気自動車11(図10参照)の右側の駆動輪を回転駆動させるインホイールモータ駆動装置21の断面図を示す。このインホイールモータ駆動装置21は、車輪を駆動するための駆動力を発生させる電動モータ部Aと、電動モータ部Aの回転を減速して出力する減速機部Bと、減速機部Bの出力を駆動輪に伝達する車輪用軸受部Cとを備えている。電動モータ部Aおよび減速機部Bはケーシング22に収容され、車輪用軸受部Cはケーシング22に取り付けられている。なお、以下の説明では、インホイールモータ駆動装置21をホイールハウジング15(図11参照)内に取り付けた状態で車幅方向外側および車幅方向内側となる側を、それぞれ、アウトボード側およびインボード側という。図1においては、紙面左側がアウトボード側であり、紙面右側がインボード側である。
電動モータ部Aは、ケーシング22に固定された筒状のステータ23と、図示外の径方向隙間を介してステータ23の内周に配置されたロータ24と、外周にロータ24を装着したモータ回転軸25とを有するラジアルギャップ型の電動モータ26を備える。モータ回転軸25は、その軸方向の二箇所に離間して配置された転がり軸受40,41によってケーシング22に対して回転自在に支持されており、毎分1万数千回程度の回転速度で回転可能である。なお、電動モータ部Aには、ラジアルギャップ型に替えてアキシャルギャップ型の電動モータを採用しても良い。
減速機部Bは、入力歯車軸35、中間歯車軸36、および出力歯車軸37が互いに平行に配置された平行軸歯車減速機30を備える。入力歯車軸35は入力歯車31を有し、中間歯車軸36は入力側中間歯車32および出力側中間歯車33を有し、出力歯車軸37は出力歯車34を有する。図2にも示すように、この平行軸歯車減速機30では、入力歯車31と入力側中間歯車32とが噛み合い、出力側中間歯車33と出力歯車34とが噛み合っている。入力側中間歯車32の歯数は、入力歯車31および出力側中間歯車33の歯数よりも多く、出力歯車34の歯数は、出力側中間歯車33の歯数よりも多い。以上の構成により、平行軸歯車減速機30は、モータ回転軸25の回転を二段階で減速して出力する。
図1に示すように、入力歯車軸35は、モータ回転軸25と同軸に配置され、スプライン嵌合によってモータ回転軸25と一体回転可能に連結されている。入力歯車軸35は転がり軸受42,43により、中間歯車軸36は転がり軸受44,45により、また、出力歯車軸37は転がり軸受46,47により、ケーシング22に対して回転自在に支持されている。
図3および図4に示すように、入力歯車31、両中間歯車32,33および出力歯車34には、何れも、歯31a〜34aの歯すじがつるまき線状に形成された(歯すじが軸方向に対して傾斜した)はすば歯車を用いている。はすば歯車は、同時に噛合う歯数が多く、歯当たりが分散されるため、噛合い時の音が静かでトルク変動が少ないという利点を有する。従って、はすば歯車を用いれば、静粛かつトルク伝達効率に優れた平行軸歯車減速機30を実現する上で有利となる。
各歯車31〜34がはすば歯車で構成される関係上、インホイールモータ駆動装置21の駆動中、入力歯車31と入力側中間歯車32の噛合い部M1、および出力側中間歯車33と出力歯車34の噛合い部M2には、回転方向の荷重やラジアル荷重だけでなくアキシャル荷重が作用する。これらの荷重は、主に歯車軸35〜37を支持する転がり軸受42〜47によって支持される。従って、転がり軸受42〜47には、ラジアル荷重およびアキシャル荷重の双方を受けることができる軸受、例えば深溝玉軸受が使用される。
図1に示すように、本実施形態では、中間歯車軸36のインボード側の端部を支持する転がり軸受44に、中間歯車軸36のアウトボード側の端部を支持する転がり軸受45よりも大径のもの、すなわち負荷容量が大きいものを用いると共に、出力歯車軸37の軸方向中央部付近を支持する転がり軸受47に、出力歯車軸37のインボード側の端部を支持する転がり軸受46よりも大径のものを用いている。また、入力側中間歯車32を部分的に肉取りして入力側中間歯車32の内周に中間歯車軸36のインボード側の端部を支持する転がり軸受44を配置すると共に、出力歯車34を部分的に肉取りして出力歯車34の内周に出力歯車軸37の軸方向中央部付近を支持する転がり軸受47を配置している。平行軸歯車減速機30が以上の構成を有することにより、高い減速比を確保しつつ、軸方向のコンパクト化が図られる。
減速機部Bを径方向にコンパクト化する観点から、本実施形態では、図2に示す歯車軸の配置角α(入力歯車軸35と中間歯車軸36の軸心O1,O2を結ぶ直線と、中間歯車軸36と出力歯車軸37の軸心O2,O3を結ぶ直線とで挟まれた角度)が90°未満、具体的には60〜80°の範囲内となるように、各歯車軸35〜37が配置されている。なお、図2および図4には、電気自動車11がインホイールモータ駆動装置21の駆動力を受けて前進移動するとき(電動モータ26の正転力行時)の各歯車軸35〜37の回転方向を白抜き矢印で示している。
本実施形態では、図3および図4に示すように、両中間歯車32,33の歯32a,33aのねじれ方向は同じであり、図示例では右ねじれ(軸方向を上下方向として歯面を外周から見たとき、右肩上がりとなる形状)とされる。入力歯車31および出力歯車34は、中間歯車32、33と噛み合うためにこれらとねじれ方向が逆になっており、図示例では左ねじれ(軸方向を上下方向として歯面を外周から見たとき、左肩上がりとなる形状)とされる。これにより、動作頻度が最も多い電動モータ26の正転力行時に、中間歯車軸36に入力されるアキシャル荷重、すなわち、入力側中間歯車32に作用するアキシャル荷重F1、および出力側中間歯車33に作用するアキシャル荷重F2が、互いに逆向きになって相殺する。
図3では、矢印F1,F2の長さを相互に異ならせているが、これは、出力側中間歯車33が入力側中間歯車32よりも動力伝達方向の後段側に位置して大きな回転トルクを伝達するものである関係上、出力側中間歯車33に作用するアキシャル荷重の方が入力側中間歯車32に作用するアキシャル荷重よりも大きいことを意味している。なお、電動モータ26の逆転回生時には上記と同じ向きのアキシャル荷重が加わる。一方、電動モータ26の逆転力行時および正転回生時には、図5に黒塗り矢印で示すように、上記と逆向きのアキシャル荷重F1、F2が加わる。
図1に示すように、車輪用軸受部Cは、いわゆる内輪回転タイプの車輪用軸受50を備える。車輪用軸受50は、ハブ輪51および内輪52からなる内方部材53と、外輪54と、ボール57と、図示外の保持器とを備えた複列アンギュラ玉軸受からなる。この車輪用軸受50では、ハブ輪51および内輪52の外周にそれぞれ形成された内側軌道面55と、外輪54の内周に形成された複列の外側軌道面56とで形成される複列のボールトラックに、それぞれ複数のボール57が組み込まれている。詳細な図示は省略しているが、車輪用軸受50の内部空間には、潤滑剤としてのグリースが充填されている。軸受内部空間への異物侵入および軸受外部へのグリース漏洩を防止するため、車輪用軸受50の軸方向両端部にはシール部材が設けられている。
ハブ輪51は、スプライン嵌合によって平行軸歯車減速機30の出力歯車軸37と一体回転可能に連結されている。ハブ輪51のアウトボード側の端部には、径方向外向きに延びたフランジ部51aが設けられ、このフランジ部51aに車輪(駆動輪)が取り付けられる。また、ハブ輪51のインボード側の端部には、車輪用軸受50に予圧を付与するため、内輪52を加締め固定してなる加締め部51bが形成されている。
外輪54のアウトボード側の端部には、径方向外向きに延びたフランジ部が設けられ、このフランジ部にアタッチメント58がボルト止めされている。そして、車輪用軸受部Cは、アタッチメント58を介してケーシング22に対してボルト止めされている。
以上の構成を有するインホイールモータ駆動装置21の全体的な作動態様を簡単に説明する。まず、電動モータ部Aにおいて、電動モータ26のステータ23に交流電流が供給されると、これに伴って生じる電磁力によりロータ24およびモータ回転軸25が一体回転する。モータ回転軸25の回転は、減速機部Bの平行軸歯車減速機30によって減速された上で車輪用軸受50に伝達される。そのため、低トルクで高回転型の電動モータ(小型の電動モータ)26を採用した場合でも、駆動輪に必要なトルクを伝達することができる。
図示は省略しているが、インホイールモータ駆動装置21は、電動モータ部Aおよび減速機部Bの各部に潤滑油を供給するための潤滑機構を有する。そして、インホイールモータ駆動装置21の駆動中には、上記潤滑機構から供給される潤滑油により、電動モータ部Aの各部が冷却されると共に、減速機部Bの各部が潤滑および冷却される。
本実施形態のインホイールモータ駆動装置21の基本的構成は以上のとおりであるが、本実施形態のインホイールモータ駆動装置21は、その駆動時に、平行軸歯車減速機30を構成する歯車軸35、36、37に相対的な傾きが生じるのに起因して、歯車同士が片当たりするのを可及的に防止可能とした点に主たる特徴がある。以下、まず、歯車軸35〜37に相対的な傾きが生じる主な理由を説明し、その後、本発明で採用している特徴的な構成(歯車軸35〜37のレイアウト)について説明する。
インホイールモータ駆動装置21(電動モータ26)の駆動中、歯車軸35〜37の噛み合い部M1、M2にはアキシャル荷重が作用する。具体的に説明すると、電動モータ26の正転力行時には、図3および図4に示すように、入力側中間歯車32にはインボード側に指向したアキシャル荷重F1が作用し、出力側中間歯車33にはアウトボード側に指向したアキシャル荷重F2が作用する。このように、中間歯車軸36に対し、2箇所の噛み合い部M1、M2に起因するアキシャル荷重F1、F2が作用することによって、中間歯車軸36に、入力歯車軸35および出力歯車軸37と異なる方向に傾いて噛み合い誤差(平行誤差および食い違い誤差)が生じ、各噛合い部M1、M2で、歯面同士が軸方向端部付近で互いに当接する、いわゆる「片当たり」が生じる。
本発明者は、各歯車軸35〜37のレイアウトによって、各噛合い部M1、M2における片当たりの態様がどのように変化するかを解析した。ここでは、図6に示すように、中間歯車軸36の軸心O2と出力歯車軸37の軸心O3とを結ぶ直線Pを、中間歯車軸36の軸心O2を中心として中間歯車軸36の正転力行時の回転方向(矢印方向)に回転させて、中間歯車軸36の軸心O2と入力歯車軸35の軸心O1とを結ぶ直線Qに達するまでの回転角度を入力軸配置角βとする。そして、入力軸配置角βが0°〜90°の場合(入力歯車軸35が第一象限A1にある場合)、90°〜180°の場合(入力歯車軸35が第二象限A2にある場合)、180°〜270°の場合(入力歯車軸35が第三象限A3にある場合)、および270°〜360°の場合(入力歯車軸35が第四象限A4にある場合)のそれぞれの場合において、正転力行時の各噛合い部M1、M2における平行誤差および食い違い誤差に起因する片当たりの発生箇所および片当たり量を解析した。
初めに、インホイールモータ駆動装置が右側の駆動輪に取り付けられる場合(図1および図2に示すインホイールモータ駆動装置21)、すなわち、正転力行時に出力歯車軸37および入力歯車軸35がアウトボード側から見て時計回り方向に回転する場合について解析した。その結果を下記の表1および図7に示す。なお、表1の「手前」とは、各噛合い部M1、M2において片当たりが図2および図4の紙面手前側(アウトボード側)で発生する場合を表し、「奥」とは、各噛合い部M1、M2において片当たりが紙面奥側(インボード側)で発生する場合を表す。
表1および図7に示されるように、入力軸配置角βが0°〜90°(第一象限A1)である場合、噛合い部M1では平行誤差および食い違い誤差に起因する片当たりが共に奥側で生じ、噛合い部M2では平行誤差および食い違い誤差に起因する片当たりが共に手前側で生じている。このため、各噛合い部M1、M2において、平行誤差および食い違い誤差に起因する片当たり量が合算され、合計の片当たり量が大きくなる。また、入力軸配置角βが180°〜270°(第三象限A3)である場合も、各噛合い部M1、M2において平行誤差と食い違い誤差に起因する片当たりが同じ側で生じているため、合計の片当たり量が大きくなる。
一方、入力軸配置角βが90°〜180°(第二象限A2)である場合、噛合い部M1では、食い違い誤差に起因する片当たりは奥側で生じ、平行誤差に起因する片当たりは手前側で生じている。また、噛合い部M2では、食い違い誤差に起因する片当たりは手前側で生じ、平行誤差に起因する片当たりは奥側で生じている。これらの場合、平行誤差に起因する片当たりと食い違い誤差に起因する片当たりとが互いに相殺されるため、合計の片当たり量が小さくなる。また、入力軸配置角βが270°〜360°(第四象限A4)である場合も、各噛合い部M1、M2において平行誤差および食い違い誤差に起因する片当たりが互いに相殺されるため、合計の片当たり量が小さくなる。
以上の結果から、噛合い部M1、M2における片当たり量を小さくするためには、入力軸配置角βを90°〜180°あるいは270°〜360°とすればよい(表1の太枠参照)。一方、上述のように、減速機部Bを径方向にコンパクト化する観点から、本実施形態では、歯車軸の配置角αが90°未満、すなわち、入力軸配置角βが0°〜90°あるいは270°〜360°(−90°〜0°)の範囲となるように、各歯車軸35〜37が配置される。従って、噛合い部M1、M2における片当たり量の抑制と、減速機部Bのコンパクト化を両立させるためには、入力軸配置角βを270°〜360°(−90°〜0°)の範囲に設定すればよい。すなわち、入力軸歯車35の軸心O1を、図6の第四象限A4(斜線領域)に配置すればよい。
次に、インホイールモータ駆動装置が左側の車輪に取り付けられる場合、すなわち、正転力行時に出力歯車軸37および入力歯車軸35がアウトボード側から見て反時計回り方向(図2の矢印と反対方向)に回転する場合について、上記と同様の解析を行った。その結果を下記の表2に示す。
表2に示されるように、回転方向が逆の場合、片当たりが生じる部位が表1とは全く逆になるが、平行誤差と食い違い誤差に起因する片当たりが互いに相殺される角度範囲は同じである(表2の太枠参照)。従って、上記と同様に、入力軸配置角βを270〜360°(−90°〜0°)の範囲に設定すればよい。
次に、右輪および左輪のそれぞれに取り付けられるインホイールモータ駆動装置において、各歯車31〜34のねじれ方向が上記とは逆向きである場合、すなわち、入力歯車31および出力歯車34を右ねじれとし、両中間歯車32,33を左ねじれとした場合に、上記と同様の解析を行った。その結果を下記の表3、4に示す。
表3に示すように、右輪のインホイールモータ駆動装置21の歯車31〜34のねじれ方向を表1と逆にすると、歯面同士の片当たりの態様は表2と同様の結果となった。また、表4に示すように、左輪のインホイールモータ駆動装置21の歯車31〜34のねじれ方向を表2と逆にすると、表1と同様の結果となった。従って、歯車のねじれ方向が逆の場合、片当たりが生じる部位が逆になるが、平行誤差と食い違い誤差に起因する片当たりが互いに相殺される角度範囲は同じである(表3、4の太枠参照)。よって、上記と同様に、入力軸配置角βを270〜360°(−90°〜0°)の範囲に設定すればよい。
尚、インホイールモータ駆動装置を左輪に取り付けた場合(表2参照)、右輪に取り付けた場合と歯車軸の回転方向が逆になるため、正転力行時には、中間歯車軸36に図5に示す向きのアキシャル荷重F1、F2が加わる。また、インホイールモータ駆動装置の各歯車31〜34のねじれ方向を逆にした場合(表3参照)も、正転力行時には、中間歯車軸36に図5に示す向きのアキシャル荷重F1、F2が加わる。このとき、上述のように、出力側中間歯車33に作用するアキシャル荷重F2の方が入力側中間歯車32に作用するアキシャル荷重F1よりも大きいため、中間歯車軸36には、これらのアキシャル荷重の差(F2−F1)の分だけインボード側にアキシャル荷重が作用する。この場合、中間歯車軸36に加わるアキシャル荷重を、中間歯車軸36を支持する二つの転がり軸受44,45のうち負荷容量が相対的に大きい転がり軸受44で支持することができる。また、出力歯車軸37には、図5のアキシャル荷重F2の反力として、アウトボード側にアキシャル荷重が作用する。この場合、出力歯車軸37に加わるアキシャル荷重を、出力歯車軸37を支持する二つの転がり軸受46,47のうち負荷容量が相対的に大きい転がり軸受47で支持することができる。
また、ホイール内にインホイールモータ駆動装置21を配置するためには、サスペンションとの干渉を回避しなければならない。具体的には、図8および9に示すように、サスペンションの構成部品であるロアアーム61がインホイールモータ駆動装置21のケーシング22の下部に取り付けられ、サスペンションの構成部品であるショックアブソーバ62がケーシング22の上部に取り付けられる。インホイールモータ駆動装置21のうち、特に電動モータ部Aはインボード側に大きく突出するため(図9参照)、電動モータ部Aおよびこれと同軸に配される入力歯車軸35は、ロアアーム61およびショックアブソーバ62との干渉を回避するために、出力歯車軸37と略同じ高さに配置することが好ましい。具体的には、図8に示すように、軸方向から見て、出力歯車軸37の軸心O3を通る水平線Hを軸心O3を中心として±45°回転させた2直線の間の角度範囲K内に、入力歯車軸35の軸心O1を配置することが好ましい。
ところで、本実施形態では、上述のように、歯面の片当たりを抑えるために、入力軸配置角βが270°〜360°(−90°〜0°)の範囲に設定される。このような歯車軸35〜37の相対的な位置関係を維持しながら、電動モータ部Aを出力歯車軸37よりも車両前方側に配すると、中間歯車軸36が出力歯車軸37よりも下方に配置されるため、中間歯車軸36がロアアーム61に干渉するおそれがある。これに対し、図8に示すように、入力軸配置角βを270°〜360°の範囲に設定しながら、電動モータ部Aを出力歯車軸37よりも車両後方側に配すると、中間歯車軸36が出力歯車軸37よりも上方に配置される。このとき、図9に示すように、減速機部Bに設けられた中間歯車軸36はインボード側への突出量が小さいため、ショックアブソーバ62とは干渉しない。以上より、インホイールモータ駆動装置21とサスペンションとの干渉を回避するためには、入力歯車軸35の軸心O1を、上記の角度範囲K内で、且つ、出力歯車軸37の軸心O3よりも車両後方側に配置することが好ましい。
以上の実施形態では、入力歯車軸35と出力歯車軸37の間に一軸の中間歯車軸36を配置してなる2段減速式(3軸タイプ)の平行軸歯車減速機30を採用したインホイールモータ駆動装置21に本発明を適用した場合について説明したが、本発明の適用範囲はこれに限られない。すなわち、「はすば歯車からなる歯車同士の噛合い部に生じるアキシャル荷重のモーメントにより中間歯車軸に傾きが生じ、これに伴って歯車同士の噛合い部で片当たりが生じる」という問題は、3段以上の平行軸歯車減速機においても同様に生じる。従って、本発明は、例えば入力歯車軸35と出力歯車軸37との間に2軸の中間歯車軸36を配置してなる3段減速タイプ(4軸タイプ)の平行軸歯車減速機を採用したインホイールモータ駆動装置(図示省略)にも同様に適用し得る。
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得る。すなわち、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
21 インホイールモータ駆動装置
22 ケーシング
26 電動モータ
30 平行軸歯車減速機
31 入力歯車
32 入力側中間歯車
33 出力側中間歯車
34 出力歯車
35 入力歯車軸
36 中間歯車軸
37 出力歯車軸
50 車輪用軸受
61 ロアアーム
62 ショックアブソーバ
A 電動モータ部
B 減速機部
C 車輪用軸受部
M1、M2 噛合い部
α 配置角
β 入力軸配置角
22 ケーシング
26 電動モータ
30 平行軸歯車減速機
31 入力歯車
32 入力側中間歯車
33 出力側中間歯車
34 出力歯車
35 入力歯車軸
36 中間歯車軸
37 出力歯車軸
50 車輪用軸受
61 ロアアーム
62 ショックアブソーバ
A 電動モータ部
B 減速機部
C 車輪用軸受部
M1、M2 噛合い部
α 配置角
β 入力軸配置角
Claims (2)
- 駆動力を発生させる電動モータ部と、車輪を回転自在に支持する車輪用軸受部と、互いに平行に配置された入力歯車軸、中間歯車軸および出力歯車軸を有し、前記入力歯車軸に入力された前記電動モータ部の回転を2段以上で減速して前記車輪用軸受部に出力する減速機部とを備え、各歯車軸に設けられた歯車がはすば歯車で構成されたインホイールモータ駆動装置において、
軸方向から見て、前記中間歯車軸の軸心と前記出力歯車軸の軸心とを結ぶ直線を、前記中間歯車軸の軸心を中心として前記中間歯車軸の正転力行時の回転方向に回転させて、前記中間歯車軸の軸心と前記入力歯車軸の軸心とを結ぶ直線に達するまでの回転角度を入力軸配置角としたとき、
入力軸配置角が270°〜360°となるように、前記入力歯車軸、前記中間歯車軸および前記出力歯車軸を配置したことを特徴とするインホイールモータ駆動装置。 - 前記入力歯車軸の軸心が、前記出力歯車軸の軸心よりも車両後方側に配置され、且つ、軸方向から見て、前記出力歯車軸の軸心を通る水平線を前記出力歯車軸の軸心を中心として±45°回転させた2直線の間の角度範囲内に配置された請求項1に記載のインホイールモータ駆動装置。
Priority Applications (2)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2019204756A JP2021075203A (ja) | 2019-11-12 | 2019-11-12 | インホイールモータ駆動装置 |
PCT/JP2020/038516 WO2021095418A1 (ja) | 2019-11-12 | 2020-10-12 | インホイールモータ駆動装置 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2019204756A JP2021075203A (ja) | 2019-11-12 | 2019-11-12 | インホイールモータ駆動装置 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
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JP2021075203A true JP2021075203A (ja) | 2021-05-20 |
Family
ID=75899333
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
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JP2019204756A Pending JP2021075203A (ja) | 2019-11-12 | 2019-11-12 | インホイールモータ駆動装置 |
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DE102022126832A1 (de) | 2022-10-14 | 2024-04-25 | Bayerische Motoren Werke Aktiengesellschaft | Getriebe für einen elektrischen Antriebsstrang eines Kraftfahrzeugs sowie elektrischer Antriebsstrang |
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JP2019157939A (ja) * | 2018-03-09 | 2019-09-19 | Ntn株式会社 | 車両駆動装置 |
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-
2019
- 2019-11-12 JP JP2019204756A patent/JP2021075203A/ja active Pending
-
2020
- 2020-10-12 WO PCT/JP2020/038516 patent/WO2021095418A1/ja active Application Filing
Also Published As
Publication number | Publication date |
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WO2021095418A1 (ja) | 2021-05-20 |
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