JP2021055718A - 摺動部材及びピストンリング - Google Patents

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【課題】有機モリブデン系化合物を含む潤滑油下での摺動において、高い耐摩耗性とより低い摩擦係数の両立を実現することが可能な摺動部材を提供する。【解決手段】本開示の摺動部材100は、有機モリブデン系化合物を含む潤滑油の存在下で使用される摺動部材であって、基材10と、該基材10上に形成され、表面20Aが摺動面となる非晶質炭素皮膜20と、を有し、前記非晶質炭素皮膜20は、ケイ素:2原子%以上20原子%以下、及びホウ素:2原子%以上15原子%以下を含み、残部が炭素からなる実質的に水素を含まない成分組成を有することを特徴とする。【選択図】図1

Description

本発明は、摺動部材、特にピストンリング等の自動車部品など、高い信頼性を要求される摺動部材に関する。
近年、自動車エンジンを中心とする内燃機関において、高出力化、長寿命化、燃費向上が求められている。そこで、例えば内燃機関等で使用される摺動部材の摺動面には、摩擦係数が低いことで知られている硬質炭素皮膜を形成することが一般的に行われている。また、摺動環境において、有機モリブデン系化合物を含有する潤滑油を用いることも、一般的に行われている。
この硬質炭素皮膜としては、ダイヤモンドライクカーボン(Diamond Like Carbon:DLC)と呼ばれる非晶質炭素が例示される。DLCの構造的本質は、炭素の結合としてダイヤモンド結合(SP3結合)とグラファイト結合(SP2結合)とが混在したものである。よって、DLCは、ダイヤモンドに類似した硬度、耐摩耗性、熱伝導性、化学安定性を有し、一方でグラファイトに類似した固体潤滑性を有することから、例えば自動車部品などの保護膜として好適である。また、有機モリブデン系化合物を含有する潤滑油を用いた潤滑環境下での摺動においては、有機モリブデン系化合物が分解されて生成する二硫化モリブデン(MoS2)が固体潤滑剤として作用するため、効果的に摩擦係数を低減することができることが知られている。
特許文献1には、「モリブデンを含む潤滑油中において低摩擦係数を示す低摩擦摺動部材を提供する」ことを目的として、「潤滑油を用いた湿式条件で使用され、基材と該基材の表面に形成され相手材と摺接する非晶質硬質炭素膜とを備える低摩擦摺動部材であって、前記潤滑油は、モリブデン(Mo)を100ppm以上含み、硫黄(S)およびリン(P)のうちの少なくとも一種ならびに亜鉛(Zn)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ナトリウム(Na)、バリウム(Ba)および銅(Cu)のうちの少なくとも一種を合計で500ppmを超えて含み、前記非晶質硬質炭素膜は、炭素(C)を主成分とし、該非晶質炭素膜全体を100原子%としたときに、水素(H)を5原子%以上25原子%以下含み、硼素(B)を4原子%以上25原子%以下含むことを特徴とする低摩擦摺動部材」が記載されている。
特許文献2には、「DLC膜で被覆された摺動部材と潤滑油の新たな組み合わせにより、著しく低い摩擦係数を実現できる摺動機械を提供する」ことを目的として、「相対移動し得る対向した摺動面を有する一対の摺動部材と、該対向する摺動面間に介在し得る潤滑油と、を備えた摺動機械であって、前記摺動面の少なくとも一方は、膜全体を100原子%(単に「%」という。)としたときに、合計で1〜30%となるボロン(B)、チタン(Ti)、バナジウム(V)またはモリブデン(Mo)の少なくとも一種以上からなる特定元素と、0〜25%の水素(H)と、残部が炭素(C)および不純物とからなる非晶質炭素膜で被覆された被覆面からなり、前記潤滑油は、モリブデン(Mo)の三核体からなる化学構造を有する油溶性モリブデン化合物を、該潤滑油全体に対するMoの質量割合で25〜800ppm含むことを特徴とする摺動機械」が記載されている。
特開2011−32429号公報 特開2014−224239号公報
しかしながら、DLC皮膜が摺動面を構成する摺動部材を、有機モリブデン系化合物を含む潤滑油下で摺動させると、DLC皮膜の摩耗が促進されて、十分な耐摩耗性を得ることができないという問題があった。特許文献1及び2の技術では、摩擦係数を低下させることに着目しているに過ぎず、耐摩耗性の向上については何も対処されていない。DLC皮膜の摩耗促進の問題は、特許文献1のように、DLC皮膜が水素を含有する場合には顕著である。また、特許文献2の技術では、水素フリーのDLC皮膜において所定量のホウ素(B)を含有させると、摩擦係数は低下するものの、逆に摩耗量は増加してしまうという問題があった。
さらに、特許文献1及び2の技術は、有機モリブデン系化合物を含む潤滑油下でのDLC皮膜の摺動において、摩擦係数を低下させることに対しては一定の効果を有するものの、さらに低い摩擦係数を得る観点から改善の余地があった。
そこで本発明は、上記課題に鑑み、有機モリブデン系化合物を含む潤滑油下での摺動において、高い耐摩耗性とより低い摩擦係数の両立を実現することが可能な摺動部材を提供することを目的とする。
上記課題を解決すべく本発明者らが鋭意検討したところ、摺動部材の摺動面を形成する非晶質炭素皮膜(DLC皮膜)を、所定量のケイ素(Si)及びホウ素(B)を含み、かつ、残部が炭素からなる実質的に水素を含まない成分組成とすることによって、高い耐摩耗性とより低い摩擦係数の両立を実現することができるとの知見を得た。特に、SiとBとの組み合わせによって、摩耗量を顕著に低減することができ、かつ、摩擦係数もより一層低下させることができるという顕著な効果を奏することを見出した。
上記知見に基づき完成された本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)有機モリブデン系化合物を含む潤滑油の存在下で使用される摺動部材であって、
基材と、
該基材上に形成され、表面が摺動面となる非晶質炭素皮膜と、
を有し、
前記非晶質炭素皮膜は、ケイ素:2原子%以上20原子%以下、及びホウ素:2原子%以上15原子%以下を含み、残部が炭素からなる実質的に水素を含まない成分組成を有することを特徴とする摺動部材。
(2)前記成分組成が、窒素:15原子%以下をさらに含む、上記(1)に記載の摺動部材。
(3)前記成分組成において、窒素含有量が5原子%以上12原子%以下である、上記(2)に記載の摺動部材。
(4)前記成分組成が、酸素:10原子%以下をさらに含む、上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の摺動部材。
(5)前記成分組成において、酸素含有量が2原子%以上である、上記(4)に記載の摺動部材。
(6)前記基材と前記非晶質炭素皮膜との間に、Cr、Ti、Co、V、Mo、Si及びWからなる群から選択された一つ以上の元素またはその炭化物、窒化物、炭窒化物からなる中間層を有する、上記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の摺動部材。
(7)前記有機モリブデン系化合物が、モリブデンジチオカーバメイト(Mo−DTC)及びモリブデンジチオフォスフェート(Mo−DTP)から選択される1以上の有機モリブデン系化合物である、上記(1)〜(6)のいずれか一項に記載の摺動部材。
(8)上記(1)〜(7)のいずれか一項に記載の摺動部材からなるピストンリングであって、その外周面が前記摺動面であるピストンリング。
本発明の摺動部材は、有機モリブデン系化合物を含む潤滑油下での摺動において、高い耐摩耗性とより低い摩擦係数の両立を実現することが可能である。
本発明の一実施形態による摺動部材100の模式断面図である。 本発明の一実施形態によるピストンリング200の断面斜視図である。 往復摺動試験の形態を示す模式図である。 摩耗深さの算出方法を説明する模式図である。
(摺動部材)
図1を参照して、本発明の一実施形態による摺動部材100は、基材10と、この基材10上に形成され、表面20Aが摺動面となる非晶質炭素皮膜(DLC皮膜)20と、を有する。また、任意で、基材10と非晶質炭素皮膜20との間に中間層12を有してもよい。
本実施形態による摺動部材100は、有機モリブデン系化合物を含む潤滑油の存在下で使用される。すなわち、摺動部材100と、有機モリブデン系化合物を含む潤滑油とを組み合わせた使用も、本発明を構成する。さらには、摺動部材100と、任意の相手側摺動部材と、これら両者の摺動面に供給される有機モリブデン系化合物を含む潤滑油と、を含む摺動構造も、本発明を構成する。
有機モリブデン系化合物は、モリブデンジチオカーバメイト(Mo−DTC)及びモリブデンジチオフォスフェート(Mo−DTP)から選択される1以上の有機モリブデン系化合物であることが好ましい。これらの有機モリブデン系化合物は、摺動による熱によって分解して、DLC皮膜と摺動する相手材の摺動面に二硫化モリブデン(MoS2)のトライボフィルムを形成することができる。
[基材]
基材10の材質は、摺動部材の基材として必要な強度を有するものであれば特に限定されない。本実施形態の摺動部材100をピストンリングとする場合、基材10の好ましい材料としては、鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、高級鋳鉄等が挙げられる。本実施形態の摺動部材100をCVTなどのシールリングとする場合、基材10の材料としては樹脂が挙げられ、コンプレッサのベーンなどとする場合、基材10の材料としてはアルミ合金等が挙げられる。
[中間層]
中間層12は、基材10とDLC皮膜20との間に形成されることにより基材10との界面の応力を緩和し、DLC皮膜20の密着性を高める機能を有する。この機能を発揮する観点から、中間層12は、Cr、Ti、Co、V、Mo、Si及びWからなる群から選択された一つ以上の元素またはその炭化物、窒化物、炭窒化物からなるものとすることが好ましい。DLC皮膜20の密着性を十分に高める観点から、中間層12の厚さは、0.1μm以上であることが好ましく、0.2μm以上であることがより好ましい。また、摺動時に中間層12が塑性流動を起こしてDLC皮膜20が剥離することを十分に抑制する観点から、中間層12の厚さは、0.6μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。
中間層12の形成方法としては、例えばスパッタリング法を挙げることができる。洗浄後の基材10をPVD成膜装置の真空チャンバ内に配置し、Arガスを導入した状態でターゲットのスパッタ放電によって、中間層12を成膜する。ターゲットは、Cr、Ti、Co、V、Mo、Si及びWから選択すればよい。中間層12の厚さは、ターゲットの放電時間により調整できる。
[DLC皮膜]
本実施形態において、DLC皮膜20は、ケイ素(Si):2原子%以上20原子%以下、及びホウ素(B):2原子%以上15原子%以下含み、残部が炭素からなる実質的に水素を含まない成分組成を有することが肝要である。DLC皮膜20は、さらに所定量の窒素(N)及び酸素(O)の一方又は両方を含むことが好ましい。なお、非晶質炭素であることは、ラマン分光光度計(Arレーザ)を用いたラマンスペクトル測定により確認できる。このような成分組成とすることにより、有機モリブデン系化合物を含む潤滑油下での摺動において、高い耐摩耗性とより低い摩擦係数の両立を実現することが可能である。このような効果が得られる作用について、本発明者は以下のように考えている。
一般に、有機モリブデン系化合物を含む潤滑油の存在下では、DLC皮膜中のカーボンのダングリングボンドと潤滑油中のMoが結合し、硬質なモリブデンカーバイド(MoC)粒子が生成する。このMoC粒子が、DLC皮膜の摩耗を促進する。さらに、MoC粒子は、固体潤滑剤として作用するMoS2の生成を阻害するため、摩擦係数の低減をも阻害する。
これに対して、本実施形態では、実質的に水素を含まないDLC皮膜20が所定量のSi及びBを含有する。この場合、摺動によってDLC皮膜20の表面が高温になると、DLC皮膜20中のSi及びBが酸素と反応することによって、DLC皮膜20の表面に緻密なSiO2及びB23により構成される酸化物層が形成される。この酸化物層が潤滑油中の有機モリブデン系化合物の分解・硫化反応によるMoS2の生成を促進する結果、より低い摩擦係数と高い耐摩耗性を実現することができる。
さらに、本実施形態では、DLC皮膜20が所定量のSi及びBを含有するため、DLC皮膜20中のカーボンのダングリングボンド密度が減少し、その結果、硬質なMoC粒子の生成が抑制される。その結果、高い耐摩耗性とより低い摩擦係数の両立を実現することができる。
DLC皮膜中のケイ素及びホウ素は、SiC、B4C及びSiBCの少なくとも一種からなる炭化物の形態で含有されることが好ましく、DLC皮膜が窒素を含む場合には、さらにSi34及びBNの少なくとも一種からなる窒化物の形態でも含有されることが好ましく、DLC皮膜が酸素を含む場合には、さらにSiO2、B23及びSiBOxの少なくとも一種からなる酸化物の形態でも含有されることが好ましい。この場合、DLC皮膜の表面に形成される上記の炭化物、窒化物、及び酸化物の層が、潤滑油中の有機モリブデン系化合物の分解・硫化反応によるMoS2の生成を促進する結果、摩擦係数及び耐摩耗性を改善することができると考えられる。
Si含有量が2原子%未満の場合、又は、B含有量が2原子%未満の場合、DLC皮膜の表面に連続的な酸化物層を形成することができず、また、上記カーボンダングリングボンド密度の減少の効果を十分に得ることができず、その結果、高い耐摩耗性とより低い摩擦係数の両立を実現することができない。よって、Si含有量は、2原子%以上とし、5原子%以上とすることが好ましく、B含有量は2原子%以上とし、5原子%以上とすることが好ましく、Si含有量とB含有量の合計は10原子%以上とすることが好ましい。
Si含有量が20原子%超えの場合、炭素のsp3結合が大幅に減少するため、所望の硬度を有するDLC皮膜を得ることができず、また、摩擦係数及び耐摩耗性ともに劣化する。B含有量が15原子%超えの場合、C/B合金カソードの放電が非常に不安定になるため、所望の硬度を有するDLC皮膜を得ることができず、また、摩擦係数及び耐摩耗性ともに劣化する。よって、Si含有量は、20原子%以下とし、15原子%以下とすることが好ましく、B含有量は15原子%以下とし、12原子%以下とすることが好ましい。Si含有量とB含有量の合計は30原子%以下とすることが好ましい。
DLC皮膜が水素を含有する場合、摺動によってDLC皮膜が高温になると、水素が脱離してDLC皮膜が劣化することによって、DLC皮膜の摩耗が促進される。よって、本実施形態において、DLC皮膜20は、実質的に水素を含まないものとする。これにより、高温環境下における水素の離脱に起因する耐摩耗性の劣化を回避することができる。ここで、本明細書において「実質的に水素を含まない」とは、DLC皮膜中の水素含有量が3原子%以下であることを意味する。
本実施形態において、DLC皮膜20は窒素(N)を含んでもよい。Nを含有させることによって、B−N結合及びSi−N結合が形成される。BNはせん断抵抗の低い層状格子構造を有するため、摩擦低減効果を発揮し、Si34は優れた破壊靭性を有するため、耐摩耗性の向上に寄与する。この観点から、N含有量は5原子%以上とすることが好ましい。ただし、N含有量が15原子%超えになると、炭素のsp3結合の形成を阻害するため、所望の硬度を有するDLC皮膜を得ることができず、また、摩擦係数及び耐摩耗性ともに劣化する。よって、DLC皮膜20が窒素を含む場合、そのN含有量は15原子%以下とし、好ましくは12原子%以下とする。
本実施形態において、DLC皮膜20は酸素(O)を含んでもよい。Oを含有させることによって、摺動によってDLC皮膜20の表面が高温になった際に、SiO2及びB23の酸化物層が形成されやすくなり、潤滑油中の有機モリブデン系化合物の分解・硫化反応によるMoS2の生成を促進する結果、潤滑性が向上して、低摩擦かつ高い耐摩耗性を実現することができる。この観点から、O含有量は2原子%以上とすることが好ましい。ただし、O含有量が10原子%超えになると、C−O−C結合及びC=O結合が増え、DLC皮膜の密度が低下し、また、摩擦係数及び耐摩耗性ともに劣化する。よって、DLC皮膜20が酸素を含む場合、そのO含有量は10原子%以下とする。
また、低摩擦係数を維持しつつ、高い耐摩耗性を実現する観点から、窒素と酸素の合計含有量は15原子%以下とすることが好ましい。
[DLC皮膜の水素含有量の測定方法]
DLC皮膜の水素含有量の評価は、摺動部が平坦な面や曲率が十分大きな面に形成されたDLC皮膜に対してはRBS(Rutherford Backscattering Spectrometry)/HFS(Hydrogen Forward Scattering Spectrometry)によって評価することができる。これに対して、ピストンリングの外周面など平坦でない摺動面に形成されたDLC皮膜に対しては、RBS/HFS及びSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)を組み合わせることによって評価する。RBS/HFSは公知の皮膜組成の分析方法であるが、平坦でない面の分析には適用できないので、以下のようにしてRBS/HFS及びSIMSを組み合わせる。
まず、平坦な面を有する基準試料として、鏡面研磨した平坦な試験片(焼入処理を施したSKH51ディスク、φ25×厚さ5mm、硬さHRC60〜63)に、基準値の測定対象となる炭素皮膜を形成する。
基準試料への成膜は、反応性スパッタリング法を用いて、雰囲気ガスとしてC22、Ar、H2を導入して行う。そして、導入するH2流量及び/又はC22流量を変えることによって、炭素皮膜に含まれる水素量を調整する。このようにして水素と炭素によって構成され、水素含有率が異なる炭素皮膜を形成し、これらをRBS/HFSで水素含有量と炭素含有量を評価する。
次に、上記の試料をSIMSで分析し、水素と炭素の二次イオン強度を測定する。ここで、SIMS分析は、平坦でない面、例えばピストンリングの外周面に形成された皮膜でも測定できる。したがって、炭素皮膜が施された基準試料の同一の皮膜について、RBS/HFSによって得られた水素含有量と炭素含有量(単位:原子%)と、SIMSによって得られた水素と炭素の二次イオン強度の比率との関係を示す実験式(計量線)を求める。このようにすることで、実際のピストンリングの外周面について測定したSIMSの水素と炭素の二次イオン強度から、水素含有量と炭素含有量を算出することができる。なお、SIMSによる二次イオン強度の値は、少なくとも炭素皮膜の表面から20nm以上の深さ、且つ50nm四方の範囲において観測されたそれぞれの元素の二次イオン強度の平均値を採用する。
[DLC皮膜のSi、B、N及びO含有量の測定方法]
DLC皮膜のSi、B、N及びO含有量は、X線光電子分光法(XPS)により以下の条件下で測定するものとする。XPSにおける元素の定量分析は、光電子ピーク面積をもとに行う。ピーク面積は原子濃度および注目電子の感度に比例するので、ピーク面積を相対感度係数で割った値は原子濃度に比例した値となる。よって、各元素の定量値の和を100原子%とした相対定量ができる。
・測定装置:PHI社製 QuanteraSXM
・X線源:単色化Al(1486.6eV)
・検出領域:100μmφ
・検出深さ:約4〜5nm(取出角45°)
・測定スペクトル:ワイド,C1s,Si2p,B1s,N1s,O1s
DLC皮膜20の厚さは、特に限定されないが0.5μm以上40μm以下であることが好ましい。0.5μm以上であれば、DLC皮膜の耐久性が不足することがなく、40μm以下であれば、母材との密着性が不足となって剥離が生じることがないからである。なお、本発明において、DLC皮膜の厚さはカロテストにより測定するものとする。
本実施形態において、DLC皮膜20は、25GPa以上のインデンテーション硬さを有する。
[成膜条件]
本実施形態において、DLC皮膜20は、例えば、Si及びBを含有するカーボン合金ターゲットを用いた真空アーク放電(VA法)によるイオンプレーティング等のPVD法を用いて形成することができる。PVD法は、水素をほとんど含まない高硬度で耐摩耗性に優れたDLC皮膜を形成することができる。真空アーク放電によるイオンプレーティング法を用いて硬質炭素皮膜を成膜する場合、その硬さは、基材に印加するバイアス電圧によって調整できる。また、硬質炭素皮膜の膜厚は、ターゲットの放電時間等の条件を変えることで調整できる。当該方法でDLC皮膜を形成することによって、DLC皮膜中のSi及びBを炭化物の形態で含有させ、さらにDLC皮膜が窒素を含有する場合には、炭化物に加えて窒化物の形態で含有させることができる。なお、フィルター型陰極真空アーク方式(FCVA法)を用いることでもよい。
DLC皮膜20に所定量のSi及びBを含有させるためには、例えば、カソード材料として炭化ケイ素(SiC)及び炭化ホウ素(B4C)を含有するグラファイトを用いることができ、カソード材料中におけるこれらの含有量を調整することによって、DLC皮膜20中のSi含有量及びB含有量を制御することができる。また、DLC皮膜20中に所定量のNを含有させるためには、導入する不活性ガス中に窒素を含有すればよく、その流量を調整することにより、DLC皮膜20中のN含有量を制御することができる。また、DLC皮膜20中に所定量のOを含有させるためには、導入する不活性ガス中に酸素を含有すればよく、その流量を調整することにより、DLC皮膜20中のO含有量を制御することができる。また、B及びSiを含有するDLC皮膜を大気中で熱処理することにより、DLC皮膜に酸素を含有させることも可能である。
本発明の一実施形態による摺動部材100は、エンジンオイルなどの潤滑油が介在する内燃機関の摺動部に使用されるピストンリング、ピストン、ピストンピン、タペット、バルブリフタ、シム、ロッカーアーム、カム、カムシャフト、タイミングギア、タイミングチェーン等や、燃料供給系に使用されるベーン、インジェクタ、プランジャ、シリンダ等、種々の製品に適用することができる。
(ピストンリング)
図2を参照して、本発明の一実施形態によるピストンリング200は、外周面22、内周面24、及び上下面26A,26Bの4面によってリング形状を呈し、外周面22が図1に示すDLC皮膜20により形成される。すなわち、本実施形態のピストンリング200は、上記摺動部材100からなるものであり、その外周面22が図1に示すDLC皮膜の表面20Aとなる。これにより、摺動面となる外周面22では、有機モリブデン系化合物を含む潤滑油下での摺動において、高い耐摩耗性とより低い摩擦係数を実現することが可能である。
SUJ2材(JIS G 4805)の柱状体(φ6mm×高さ14mm)の表面に、表1及び表2に示す種々の水準のDLC皮膜を形成して、摺動部材を得た。なお、表1に示す水準では、中間層としてCr層又はTi層を形成した。DLC皮膜の成膜は、真空アーク方式による成膜装置を用い、バイアス電圧:−100V、放電電流80Aの条件下にて行った。カソード材料としては、炭化ケイ素(SiC)及び炭化ホウ素(B4C)を含有するグラファイトを用いた。また、表2に示す水準では、導入する不活性ガス中に窒素及び酸素の一方又は両方を含有させた。
各水準において、Si含有量、B含有量、N含有量、O含有量及び膜厚は、既述の方法で測定した。また、水素含有量はHFS分析により求めた。測定結果を表1及び表2に示す。また、各水準において、DLC皮膜のXPS分析を行い、そのスペクトルに基づいて、DLC皮膜中のSi及びBが炭化物の形態で含有され、DLC皮膜が窒素を含む水準では、さらに窒化物の形態でも含有され、DLC皮膜が酸素を含む水準では、さらに酸化物の形態でも含有されることが確認された。
[摩耗深さ及び摩擦係数の評価]
摺動相手材としてSUJ2材(JIS G 4805)のディスク(φ25mm×t8mm)を用意し、各水準の摺動部材について、図3に模式図を示した振動摩擦摩耗試験(オプチモール社:SRV試験機)により、次の試験条件で往復動試験を行った。
試験時間 : 60min
荷重 : 500N
往復動周波数 : 50Hz
振幅 : 3mm
潤滑油 : エンジンオイル0W−20(Mo−DTC添加オイル)
潤滑油温 : 80℃
表1に示す水準について、試験終了時における摩擦係数をSRV試験機から読み取った。また、表1及び表2に示す水準について、図4を参照して、試験終了後の摺動部材について、摺動痕幅aを光学顕微鏡により測定し、以下に式に基づいて摩耗深さdを算出した。結果を表1及び表2に示す。なお、表1の摩耗深さ及び摩擦係数は、比較例No.11との相対比で示し、表2の摩耗深さは、発明例No.17との相対比で示した。
摩耗深さd=r−(r2−a21/2
Figure 2021055718
Figure 2021055718
表1及び表2から明らかなように、発明例では高い耐摩耗性とより低い摩擦係数の両立を実現することができた。
また、各水準において、試験終了後のディスクの摺動痕をラマン分析した。MoS2は、381cm-1と408cm-1付近における2つの特徴的なラマンピークとして検出される。そこで、408cm-1のピーク強度に基づき、マッピングを作成した。その結果、発明例では比較例よりもMoS2が多く生成されていることが確認できた。
本発明の摺動部材は、有機モリブデン系化合物を含む潤滑油下での摺動において、高い耐摩耗性とより低い摩擦係数の両立を実現することが可能である。
100 摺動部材
10 基材
12 中間層
20 非晶質炭素皮膜
20A 非晶質炭素皮膜の表面(摺動面)
200 ピストンリング
22 ピストンリングの外周面
24 ピストンリングの内周面
26A ピストンリングの上面(上側面)
26B ピストンリングの下面(下側面)

Claims (8)

  1. 有機モリブデン系化合物を含む潤滑油の存在下で使用される摺動部材であって、
    基材と、
    該基材上に形成され、表面が摺動面となる非晶質炭素皮膜と、
    を有し、
    前記非晶質炭素皮膜は、ケイ素:2原子%以上20原子%以下、及びホウ素:2原子%以上15原子%以下を含み、残部が炭素からなる実質的に水素を含まない成分組成を有することを特徴とする摺動部材。
  2. 前記成分組成が、窒素:15原子%以下をさらに含む、請求項1に記載の摺動部材。
  3. 前記成分組成において、窒素含有量が5原子%以上12原子%以下である、請求項2に記載の摺動部材。
  4. 前記成分組成が、酸素:10原子%以下をさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の摺動部材。
  5. 前記成分組成において、酸素含有量が2原子%以上である、請求項4に記載の摺動部材。
  6. 前記基材と前記非晶質炭素皮膜との間に、Cr、Ti、Co、V、Mo、Si及びWからなる群から選択された一つ以上の元素またはその炭化物、窒化物、炭窒化物からなる中間層を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の摺動部材。
  7. 前記有機モリブデン系化合物が、モリブデンジチオカーバメイト(Mo−DTC)及びモリブデンジチオフォスフェート(Mo−DTP)から選択される1以上の有機モリブデン系化合物である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の摺動部材。
  8. 請求項1〜7のいずれか一項に記載の摺動部材からなるピストンリングであって、その外周面が前記摺動面であるピストンリング。
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