JP2021051006A - 光学特性評価方法、眼鏡レンズの製造方法および眼鏡レンズ - Google Patents

光学特性評価方法、眼鏡レンズの製造方法および眼鏡レンズ Download PDF

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Abstract

【課題】眼鏡レンズの光学特性の適切な評価を通じて、眼鏡レンズに屈折異常進行の抑制効果を十分に発揮させるようにする。【解決手段】透過光が所定位置で焦点を結ぶように形成された第1の屈折領域と、透過光が所定位置とは異なる位置で焦点を結ぶように形成された第2の屈折領域と、を有する眼鏡レンズについて、当該眼鏡レンズを透過した光の波面データを取得する工程(S101)と、波面データに対するクラスタ分析を行って、第1の屈折領域に関するデータ群と第2の屈折領域に関するデータ群とを分類する工程(S103)と、分類したデータ群毎にカーブフィッティングを行って得られた曲面データを組み合わせて、眼鏡レンズを透過する光の波面についての基準波面データを抽出する工程(S104)と、波面データと基準波面データとを比較して、波面データの基準波面データからの乖離度を求める工程(S105)と、を経て光学特性の評価を行う。【選択図】図5

Description

本発明は、光学特性評価方法、眼鏡レンズの製造方法および眼鏡レンズに関する。
近視等の屈折異常の進行を抑制する眼鏡レンズとして、透過光が所定位置(例えば、眼球の網膜上の位置)で焦点を結ぶように形成された第1の屈折領域と、透過光が所定位置とは異なる位置(例えば、眼球の網膜上以外の位置)で焦点を結ぶように形成された第2の屈折領域と、を有するものがある。具体的には、物体側の面である第1の屈折領域としての凸面に、当該凸面とは異なる曲面を有して当該凸面から突出する複数の凸状領域が第2の屈折領域として形成されたものがある(例えば、特許文献1参照)。かかる構成の眼鏡レンズによれば、物体側の面から入射し眼球側の面から出射する光線が、原則的には装用者の網膜上に焦点を結ぶが、凸状領域の部分を通過した光線については網膜上よりも物体側寄りの位置で焦点を結ぶようになっており、これにより近視の進行が抑制されることになる。
米国特許出願公開第2017/131567号明細書
上述の眼鏡レンズについては、当該眼鏡レンズの光学特性を評価するための一手法として、レンズ表面の三次元形状を測定して解析することが考えられる。しかしながら、レンズ表面の三次元形状を基にする手法では、必ずしも眼鏡レンズの光学特性の評価を適切に行えるとは限らない。例えば、眼鏡レンズの表面がハードコート膜等で被膜されている場合や、屈折率が異なる複数の部材からなる積層体の界面に凸状領域が形成されている場合等には、凸状領域の形状がレンズ表面に正確に反映されないことがあり得るからである。
本発明は、眼鏡レンズの光学特性の適切な評価を通じて、眼鏡レンズに屈折異常進行の抑制効果を十分に発揮させることを可能にする技術の提供を目的とする。
本発明は、上記目的を達成するために案出されたものである。
本発明の第1の態様は、
透過光が所定位置で焦点を結ぶように形成された第1の屈折領域と、前記透過光が前記所定位置とは異なる位置で焦点を結ぶように形成された第2の屈折領域と、を有する眼鏡レンズについて、当該眼鏡レンズを透過した光の波面データを取得する工程と、
前記波面データに対するクラスタ分析を行って、前記第1の屈折領域に関するデータ群と前記第2の屈折領域に関するデータ群とを分類する工程と、
分類したデータ群毎にカーブフィッティングを行って得られた曲面データを組み合わせて、前記眼鏡レンズを透過する光の波面についての基準波面データを抽出する工程と、
前記波面データと前記基準波面データとを比較して、前記波面データの前記基準波面データからの乖離度を求める工程と、
を備える光学特性評価方法である。
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の光学特性評価方法において、
前記波面データは、前記眼鏡レンズを透過した光の干渉縞の測定結果に基づいて取得する。
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に記載の光学特性評価方法において、
前記第1の屈折領域に関するデータ群と、前記第2の屈折領域に関するデータ群とを、前記波面データから導出された閾値に基づいて分類する。
本発明の第4の態様は、第1から第3のいずれかの1態様に記載の光学特性評価方法において、
閾値は、前記波面データを最小二乗法で近似し、その近似結果についてのベアリング曲線を活用して決定したものである。
本発明の第5の態様は、第1から第4のいずれかの1態様に記載の光学特性評価方法において、
前記第2の屈折領域が複数存在する場合に、k平均法を利用して、複数の前記第2の屈折領域のそれぞれに関するデータ群の分類を行う。
本発明の第6の態様は、第1から第5のいずれかの1態様に記載の光学特性評価方法において、
前記波面データを各データ群に分類する工程では、前記波面データを、前記第1の屈折領域に関するデータ群と、前記第2の屈折領域に関するデータ群と、前記第1の屈折領域と前記第2の屈折領域との間の遷移領域である境界近傍領域に関するデータ群と、に分類する。
本発明の第7の態様は、
第1から第6のいずれかの1態様に記載の光学特性評価方法を含む、
眼鏡レンズの製造方法である。
本発明の第8の態様は、第7の態様に記載の眼鏡レンズの製造方法において、
乖離度を求めた結果を反映させて前記眼鏡レンズの製造を行う。
本発明の第9の態様は、
透過光が所定位置で焦点を結ぶように形成された第1の屈折領域と、前記透過光が前記所定位置とは異なる位置で焦点を結ぶように形成された第2の屈折領域と、を有する眼鏡レンズであって、
前記眼鏡レンズを透過した光の干渉縞を測定して得られる波面データに基づいて、当該眼鏡レンズを透過する光の波面についての基準波面データが特定されているとともに、
前記波面データの前記基準波面データからの乖離度が特定されており、
前記乖離度のうち、前記第1の屈折領域と前記第2の屈折領域との間の遷移領域である境界近傍領域に関する乖離度の大きさが、前記第2の屈折領域の波面突出高さの15%以下である
眼鏡レンズである。
本発明の第10の態様は、第9の態様に記載の眼鏡レンズにおいて、
前記乖離度の大きさが0.1μm以下である。
本発明によれば、眼鏡レンズの光学特性の適切な評価を通じて、眼鏡レンズに屈折異常進行の抑制効果を十分に発揮させることが可能になる。
本発明の一実施形態における評価対象の眼鏡レンズの一例の形状を示す正面図である。 図1に示す眼鏡レンズの構成例を示す断面図である。 図1に示す眼鏡レンズを透過する光の経路を示す概略断面図(その1)である。 図1に示す眼鏡レンズを透過する光の経路を示す概略断面図(その2)である。 本発明の一実施形態に係る評価方法の手順の概要を示すフロー図である。 本発明の一実施形態における評価対象の眼鏡レンズを透過した光の干渉縞の測定結果の一部を例示する説明図である。 図6に示す干渉縞の測定結果から得られる波面データを例示する説明図である。 図5の評価方法におけるクラスタ分析の具体的な手順を示すフロー図である。 本発明の一実施形態に係る評価方法によるデータ分類および基準波面データ抽出の具体例を模式的に示す説明図である。 本発明の一実施形態に係る評価方法によって得られる測定波面(実測した波面データ)と近似球面波(基準波面データ)との乖離度の一具体例を示す説明図であり、眼鏡レンズの横断面についての乖離度を示す図である。 本発明の一実施形態に係る評価方法によって得られる測定波面(実測した波面データ)と近似球面波(基準波面データ)との乖離度の一具体例を示す説明図であり、眼鏡レンズの縦断面についての乖離度を示す図である。 図10および図11に示す乖離度をプロットして得られる波面データを例示する説明図である。 本発明の一実施形態における評価対象の眼鏡レンズの他の構成例を示す断面図(その1)である。 本発明の一実施形態における評価対象の眼鏡レンズの他の構成例を示す断面図(その2)である。
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
(1)眼鏡レンズの構成
まず、本実施形態で例に挙げる眼鏡レンズの構成について説明する。
本実施形態で例に挙げる眼鏡レンズは、眼鏡装用者の眼の屈折異常の進行を抑制する屈折異常進行抑制レンズである。屈折異常進行抑制レンズは、眼の屈折異常を矯正する処方に基づく第1の屈折力を有する第1の屈折領域と、第1の屈折力とは異なる屈折力を有し、眼の屈折異常の進行を抑制するように眼の網膜以外の位置に焦点を結ばせる機能を有する第2の屈折領域と、を有して構成されたものである。
屈折異常進行抑制レンズには、近視の進行を抑制する近視進行抑制レンズと、遠視の進行を抑制する遠視進行抑制レンズとがある。以下の説明では、近視進行抑制レンズを例に挙げる。
図1は、本実施形態における評価対象の眼鏡レンズの一例の形状を示す正面図である。図2は、図1に示す眼鏡レンズの構成例を示す断面図である。図3および図4は、図1に示す眼鏡レンズを透過する光の経路を示す概略断面図である。
(全体構成)
図1に示すように、眼鏡レンズ1は、レンズ中心の近傍に規則的に配列された複数の凸状領域6を有する。凸状領域6については、詳細を後述する。
また、図2に示すように、眼鏡レンズ1は、物体側の面3と眼球側の面4とを有する。「物体側の面」は、眼鏡レンズ1を備えた眼鏡が装用者に装用された際に物体側に位置する表面である。「眼球側の面」は、その反対、すなわち眼鏡レンズ1を備えた眼鏡が装用者に装用された際に眼球側に位置する表面である。本実施形態において、物体側の面3は凸面であり、眼球側の面4は凹面である。つまり、眼鏡レンズ1は、メニスカスレンズである。
また、眼鏡レンズ1は、レンズ基材2と、レンズ基材2の凸面側および凹面側のそれぞれに形成されたハードコート膜8と、各ハードコート膜8のそれぞれの表面に形成された反射防止膜(AR膜)10と、を備えて構成されている。なお、眼鏡レンズ1は、ハードコート膜8および反射防止膜10に加えて、さらに他の膜が形成されたものであってもよい。
(レンズ基材)
レンズ基材2は、例えば、チオウレタン、アリル、アクリル、エピチオ等の熱硬化性樹脂材料によって形成されている。なお、レンズ基材2を構成する樹脂材料としては、所望の屈折度が得られる他の樹脂材料を選択してもよい。また、樹脂材料ではなく、無機ガラス製のレンズ基材としてもよい。
レンズ基材2の物体側の面(凸面)には、当該面から物体側に向けて突出するように、複数の凸状領域6aが形成されている。各凸状領域6aは、レンズ基材2の物体側の面とは異なる曲率の曲面によって構成されている。このような凸状領域6aが形成されていることで、レンズ基材2の物体側の面には、平面視したときに、レンズ中心の周囲に周方向および軸方向に等間隔に、略円形状の凸状領域6aが島状に(すなわち、互いに隣接することなく離間した状態で)配置されることになる。
(ハードコート膜)
ハードコート膜8は、例えば、熱可塑性樹脂またはUV硬化性樹脂を用いて形成されている。ハードコート膜8は、ハードコート液にレンズ基材2を浸漬させる方法や、スピンコート等を使用することにより、形成することができる。このようなハードコート膜8の被覆によって、眼鏡レンズ1の耐久性向上が図れるようになる。
(反射防止膜)
反射防止膜10は、例えば、ZrO、MgF、Al等の反射防止剤を真空蒸着により成膜することにより、形成されている。このような反射防止膜10の被覆によって、眼鏡レンズ1を透した像の視認性向上が図れるようになる。
(物体側の面形状)
上述したように、レンズ基材2の物体側の面には、複数の凸状領域6aが形成されている。したがって、その面をハードコート膜8および反射防止膜10によって被覆すると、レンズ基材2における凸状領域6aに倣って、ハードコート膜8および反射防止膜10によっても複数の凸状領域6bが形成されることになる。つまり、眼鏡レンズ1の物体側の面(凸面)3には、当該面3から物体側に向けて突出するように、凸状領域6aおよび凸状領域6bによって構成される凸状領域6が配置されることになる。
凸状領域6は、レンズ基材2の凸状領域6aに倣ったものなので、当該凸状領域6aと同様に、レンズ中心の周囲に周方向および軸方向に等間隔で、すなわちレンズ中心の近傍に規則的に配列された状態で、島状に配置される。
各々の凸状領域6は、例えば、以下のように構成される。凸状領域6の直径は、0.8〜2.0mm程度が好適である。凸状領域6の突出高さ(突出量)は、0.1〜10μm程度、好ましくは0.7〜0.9μm程度が好適である。凸状領域6の曲率半径は、50〜250mmR、好ましくは86mmR程度の球面状が好適である。このような構成により、凸状領域6の屈折力は、凸状領域6が形成されていない領域の屈折力よりも、2.00〜5.00ディオプター程度大きくなるように設定される。
(光学特性)
以上のような構成の眼鏡レンズ1では、物体側の面3に凸状領域6を有することで、以下のような光学特性が実現され、その結果として眼鏡装用者の近視等の屈折異常の進行を抑制することができる。
図3に示すように、眼鏡レンズ1において、凸状領域6が形成されていない領域(以下「ベース領域」という。)の物体側の面3に入射した光は、眼球側の面4から出射した後、眼球20の網膜20A上に焦点を結ぶ。つまり、眼鏡レンズ1を透過する光線は、原則的には、眼鏡装用者の網膜20A上に焦点を結ぶ。換言すると、眼鏡レンズ1のベース領域は、所定の位置Aである網膜20A上に焦点を結ぶように、眼鏡装用者の処方に応じて曲率が設定されている。したがって、眼鏡レンズ1のベース領域は、眼鏡装用者の眼の屈折異常を矯正する処方に基づく第1の屈折力を有する「第1の屈折領域」として機能することになる。
その一方で、図4に示すように、眼鏡レンズ1において、凸状領域6に入射した光は、眼球側の面4から出射した後、眼球20の網膜20Aよりも物体側寄りの位置で焦点を結ぶ。つまり、凸状領域6は、眼球側の面4から出射する光を、所定の位置Aよりも物体側寄りの位置Bに収束させる。この収束位置Bは、複数の凸状領域6の各々に応じて、位置B、B、B、・・・Bとして存在する。したがって、複数の凸状領域6の各々は、眼鏡装用者の眼の屈折異常の進行を抑制するように網膜20A以外の位置Bに焦点を結ばせる「第2の屈折領域」として機能することになる。
このように、眼鏡レンズ1は、原則として物体側の面3から入射した光線を眼球側の面4から出射させて所定の位置Aに収束させる一方で、凸状領域6が配置された部分においては、所定の位置Aよりも物体側寄りの位置B(B、B、B、・・・B)に光線を収束させる。つまり、眼鏡レンズ1は、眼鏡装用者の処方を実現するための光線収束機能とは別の、物体側寄りの位置Bへの光線収束機能を有する。このような光学特性を有することで、眼鏡レンズ1は、眼鏡装用者の近視等の屈折異常の進行を抑制する効果(以下「近視抑制効果」という。)を発揮させることができる。
(2)光学特性の評価手順
次に、上述した構成の眼鏡レンズ1の光学特性を評価する手順、すなわち本実施形態に係る光学特性評価方法の手順の一例について、具体的に説明する。
(評価の必要性)
上述した構成の眼鏡レンズ1において、近視抑制効果を十分に発揮させるためには、所望のとおりの光学特性が得られているか否かを評価すべきである。
眼鏡レンズ1の光学特性を評価するための一手法として、レンズ表面の三次元形状を測定して解析することが考えられる。具体的には、眼鏡レンズ1の物体側の面3と眼球側の面4のそれぞれの三次元形状を測定し、その三次元形状に基づいて光線追跡計算を行うことで、眼鏡レンズ1の光学特性を評価することができるようになる。
しかしながら、レンズ表面の三次元形状を基にする手法では、必ずしも眼鏡レンズ1の光学特性の評価を適切に行えるとは限らない。例えば、眼鏡レンズ1の表面がハードコート膜8等で被膜されていると、凸状領域6aの形状がレンズ表面に正確に反映されないことがあり得るからである。また、三次元形状に基づく光線追跡計算には、一般に大きな処理負荷を要するため、処理効率という観点においても、必ずしも適切であるとはいえない。
以上の点を鑑み、鋭意検討を重ねた結果、本願の発明者は、眼鏡レンズ1を透過した光の波面データを利用することで、当該眼鏡レンズ1の光学特性を正しく評価することができる評価手順を案出するに至った。以下、その評価手順(すなわち、本実施形態に係る評価方法の手順)について説明する。
(評価手順の概要)
図5は、本実施形態に係る評価方法の手順の概要を示すフロー図である。
図5に示すように、眼鏡レンズ1の光学特性の評価にあたっては、先ず、第1の工程として、評価対象となる眼鏡レンズ1を透過した光の波面データを取得する(ステップ101、以下ステップを「S」と略す。)。波面データの取得は、眼鏡レンズ1を透過した光の干渉縞の測定結果に基づいて行えばよい。
図6は、本実施形態における評価対象の眼鏡レンズを透過した光の干渉縞の測定結果の一部を例示する説明図である。図7は、図6に示す干渉縞の測定結果から得られる波面データを例示する説明図である。
眼鏡レンズ1を透過した光の干渉縞は、公知の干渉計を用いて測定することができる。具体的には、例えば、フィゾー型干渉方式によるコンパクトレーザー干渉計である富士フィルム株式会社製のフジノン(FUJINON)F601を用いて、眼鏡レンズ1の物体側の面3から眼球側の面4へ透過した光の干渉縞を測定すればよい。これにより、例えば、図6に示すような干渉縞の測定結果が得られる。なお、図6は、眼鏡レンズ1を透過した光の干渉縞の測定結果の一部分を示している。
また、干渉縞の測定結果を得たら、その測定結果に基づいて、眼鏡レンズ1を透過した光の波面データを取得することができる。具体的には、例えば、干渉縞の測定結果に対して、公知の縞解析アルゴリズムを適用することで、眼鏡レンズ1の各点を透過した光の波面を特定するデータを算出することができる。各点の波面を特定するデータの集合体が、眼鏡レンズ1を透過した光の波面データに相当する。したがって、各点の波面を特定するデータを各点毎にプロットすると、例えば、図7に示すような波面データが得られることになる。
なお、以下の説明において、波面データについては、波面進行方向に沿った方向をZ座標方向または高さ方向とし、これと直交する平面を構成する二次元方向をX座標方向およびY座標方向とする。
波面データを取得したら、図5に示すように、続いて、第2の工程として、後述する各データ群への分類に必要となる閾値の決定を行う(S102)。閾値の決定は、取得した波面データから導出することによって行う。
具体的には、取得した波面データを構成する各点毎のプロットデータについて、そのデータ全体を例えば最小二乗法で球面近似を行い、いわゆる形状除去を実施する。そして、その近似結果(すなわち、形状除去後のデータ)について、粗さ評価で一般に使われる、粗さ曲線の負荷曲線(以下「ベアリング曲線」ともいう。)の計算手法を活用して、凸状領域6の部分についてのデータ(以下「セグメントデータ」という。)とベース面領域の部分についてのデータ(以下「ベース面データ」という。)とを分類する一定の高さ閾値を決定する。
さらに詳しくは、高さ閾値の決定にあたり、負荷曲線グラフの縦軸に、形状除去後の波面の高さデータの最小値から最大値までをとり、その間を細かく分割し一定ピッチで目盛る。そして、各目盛りが指す高さ位置に対し、形状除去後の波面の各高さデータが高い位置にある比率を求め、その比率を負荷曲線グラフの横軸にプロットし、各プロット点を繋いで負荷曲線(ベアリング曲線)とする。このように、縦軸に高さ、横軸に比率をとったグラフにおいて、負荷曲線(ベアリング曲線)の横軸50%から60%の間に位置する点と70%から80%の間に位置する点とを直線で結び、その直線と縦軸とが交わる高さ目盛りの値を、高さ閾値(すなわち、波面データから導出した閾値)として決定する。
なお、閾値決定は、上述したようなベアリング曲線を活用した計算手法の他に、例えば、形状除去後の波面の高さデータ最小値と最大値との中間高さ、例えば最小値と最大値との距離の最小から20〜40%高さ程度の位置を経験データに基づき決めて高さ閾値とする、といった手法を用いることも可能である。
閾値を決定した後は、次いで、第3の工程として、その閾値を用いつつ、取得した波面データに対するクラスタ分析を行って、その波面データについて各データ群への分類を行う(S103)。分類される各データ群には、少なくとも凸状領域6に関するデータ群とベース領域に関するデータ群とが含まれ、好ましくはこれらに加えて詳細を後述する境界近傍領域に関するデータ群が含まれている。なお、クラスタ分析を活用した各データ群への分類の具体的な手順については、詳細を後述する。
各データ群への分類を行った後は、次に、第4の工程として、分類したデータ群毎にカーブフィッティングを行って、これにより得られた曲面データを組み合わせて、眼鏡レンズ1を透過する光の波面を近似し、かつ基準となるデータ(これを「基準波面データ」と呼ぶ)を抽出する(S104)。カーブフィッティングは、分類したデータ群のそれぞれについて個別に行う。具体的には、各凸状領域6に関するデータ群と、ベース領域に関するデータ群とについて、例えば最小二乗法で球面近似を行う。これにより、各凸状領域6とベース領域とのそれぞれについて、近似球面を表す曲面データが個別に得られる。そして、このようにして得られた個別の曲面データを組み合わせて、一つの波面についての波面データとする。これにより、眼鏡レンズ1を透過する光の波面について、粗さやダレ等の誤差成分を除去した波面(すなわち、基準となる波面)に関する波面データが、基準波面データとして抽出されることになる。
基準波面データを抽出したら、その後は、第5の工程として、取得した波面データと抽出した基準波面データとを比較して、波面データの基準波面データからの乖離度を求める(S105)。乖離度は、波面データのXY座標点毎のZ座標方向における基準波面データからの差分データによって構成される。差分データは、予め規定されたものであれば、例えば、Z座標方向の差分の絶対値であってもよいし、ベース領域が曲面であることを考慮して当該曲面の径方向の差分絶対値であってもよい。
以上のような各工程を経ることで、眼鏡レンズ1を透過する光の波面について、基準波面データからの乖離度が評価結果として得られる。そして、乖離度が予め設定された許容範囲内にあれば、眼鏡レンズ1を透過する光の波面は、近視抑制効果を発揮させる上で適切なものであると評価されることになる。一方、乖離度が予め設定された許容範囲内になければ、眼鏡レンズ1を透過する光の波面は、近視抑制効果を発揮させる上で適切なものではないと評価されることになる。
(クラスタ分析の詳細)
続いて、第3の工程におけるクラスタ分析を活用した各データ群への分類について、具体的な手順を説明する。
図8は、クラスタ分析の具体的な手順を示すフロー図である。
図8に示すように、第3の工程においては、取得した波面データの中から、あるXYZ座標値データに注目し、そのXYZ座標値データにおけるZ座標値を抽出する(S201)。Z座標値の抽出にあたっては、例えば、周辺の座標点のZ座標値を利用した平滑化を行うことで、ノイズ成分の除去を行うようにしてもよい。また、Z座標値の抽出対象となる波面データの範囲は、その波面データに含まれるXYZ座標値データの全てについてであってもよいし、あるいは特定のトリミング範囲(例えば、一辺が所定の大きさの矩形範囲)内に限ってもよい。
Z座標値を抽出したら、続いて、そのZ座標値を閾値(高さ閾値)と比較し、その閾値よりも大きいか否かを判断する(S202)。その結果、Z座標値が閾値を超えていなければ、相対的に突出していない位置に存在することになるので、そのXYZ座標値データについては、ベース面領域についてのものであると分類し、ベース面データを構成するデータ群に属する旨の識別フラグを紐付ける(S203)。一方、Z座標値が閾値を超えていれば、相対的に突出した位置に存在することになるので、そのXYZ座標値データについては、凸状領域6についてのものであると分類し、セグメントデータを構成するデータ群に属する旨の識別フラグを紐付ける(S204)。
そして、セグメントデータを構成するデータ群に属するXYZ座標値データについては、さらに、複数の凸状領域6のうちのどの凸状領域6に関するものであるかの分類を行う(S205)。複数の凸状領域(以下、凸状領域を「セグメント」ともいう。)6のそれぞれに関するデータ群の分類は、例えば、k平均法(K−means)を利用したクラスタリング(グループ分け)によって行う。
具体的には、セグメントデータとして紐付けされたXYZ座標値データを一つ一つ見ていき、最初のXYZ座標値データを「第1のクラスタ」に登録して、そのグループ(データ群)に属するXYZ座標値データとする。第1のクラスタの中心座標点は、そのグループに属するXYZ座標値データが1つである状況下では、そのXYZ座標値データのXY座標点となる。そして、次のXYZ座標値データがあれば、そのXYZ座標値データのXY座標点と既に登録済みのクラスタの中心座標点との距離を求め、一番距離が近いクラスタに属するように登録する。ただし、求めた距離が予め定められた距離値以上である場合には、新たなクラスタ(例えば「第2のクラスタ」)を作成し、その新たなクラスタに属するように登録する。
このような手順のクラスタリングによって、セグメントデータとして紐付けされたXYZ座標値データは、予め各凸状領域6の位置を明らかにしておくことを要することなく、どの凸状領域6に関するデータ群のものであるかが分類されることになる。
どのクラスタに属するかを分類した後は、その分類されたクラスタ(すなわち、XYZ座標値データが追加されたクラスタ)について、そのクラスタに属する各XYZ座標値データのXY座標点の重心位置を計算する(S206)。そして、重心位置の計算結果を中心座標点とするように、そのクラスタの中心座標点を更新する。つまり、XYZ座標値データがどのクラスタに属するかを分類する度に、そのXYZ座標値データが追加されたクラスタについては、その中心座標点が更新されることになる。
以上のような手順のデータ分類処理を、処理対象となるXYZ座標値データの全てについて終了するまで(S207)、それぞれのXYZ座標値データに対して繰り返し行う(S201〜S207)。
このようにして、セグメントデータとして紐付けされたXYZ座標値データに対するクラスタリングを行った後は、さらに、各クラスタ毎に再クラスタリングを行って、凸状領域6とベース領域との間の遷移領域である境界近傍領域に関するデータ(以下「境界近傍データ」という。)を、それぞれのクラスタから分離する(S208)。
具体的には、各クラスタの中心座標点から所定距離の範囲内(例えば、中心座標から半径0.45mmの範囲内)のXYZ座標値データを当該クラスタに属するデータとし、それ以外のXYZ座標値データについては当該クラスタから分離して境界近傍データとするように、再クラスタリングを行う。なぜならば、上述したような高さ閾値によって一律に分類したのでは、各凸状領域6の周囲のベース領域のうねり程度の違いによって、凸状領域6とベース領域とを上手く分類できない場合があり得るからである。これに対して、閾値によってベース面データとセグメントデータとを分類した上で、上述したクラスタリングによってセグメントデータを各クラスタにグループ分けし、それぞれのクラスタの中心座標点(例えば、重心位置)を求め、その中心座標点から所定距離の範囲内の領域のデータをセグメントデータとすれば、凸状領域6とベース領域とを適切かつ的確に分類することができる。
以上のような手順の処理を経ることで、第3の工程で処理される波面データは、各凸状領域6のそれぞれに関するセグメントデータについてのデータ群と、ベース領域に関するベース面データについてのデータ群と、凸状領域6とベース領域との間の遷移領域である境界近傍領域に関する境界近傍データについてのデータ群と、に分類されることになる。
(データ分類および基準波面データ抽出の具体例)
ここで、第3の工程での各データ群への分類と、第4の工程での基準波面データの抽出とについて、具体例を挙げて説明する。
図9は、データ分類および基準波面データ抽出の具体例を模式的に示す説明図である。
図9に示すように、波面データを取得すると、眼鏡レンズ1を実際に透過した光の波面についてのXYZ座標値データ(図中黒丸印参照)のデータ群が得られるので、そのデータ群から閾値(図中一点鎖線参照)を導出するとともに、その閾値を用いて、各XYZ座標値データをベース面データ(閾値を超えない高さ位置のもの)とセグメントデータ(閾値を超える高さ位置のもの)とに分類する。そして、セグメントデータについては、クラスタリングによって、どの凸状領域6に関するものであるか(すなわち、どのクラスタに属するものであるか)の分類を行う。さらには、再クラスタリングによって、各クラスタに属するXYZ座標値データのうち、中心座標から所定距離の範囲外のものを境界近傍データとして分離する。
これにより、波面データを構成する各XYZ座標値データは、各凸状領域6のそれぞれに関するセグメントデータと、ベース領域に関するベース面データと、境界近傍領域に関する境界近傍データと、のいずれかに分類される。
データ分類の後は、続いて、分類したデータ群毎にカーブフィッティングを行う。具体的には、ベース面データについては、そのベース面データのみでカーブフィッティングを行って、ベース領域の近似波面を表す波面データを得る。また、セグメントデータについては、各クラスタ別(すなわち、各凸状領域6別)に個別にカーブフィッティングを行って、各凸状領域6の近似波面を表す波面データを得る。そして、それぞれの波面データを個別に得たら、これらを組み合わせて一つの波面データとすることで、眼鏡レンズ1を透過した光の波面についての基準波面データ(図中実線参照)を抽出する。
このように、分類したデータ群毎にカーブフィッティングを行って基準波面データを抽出すれば、例えば、測定した波面データにおいて境界近傍領域にダレが生じていても、基準波面データについては、そのダレの影響を排除することができる。つまり、基準波面データの抽出に際して、その抽出の適切化が図れる。
(乖離度の具体例)
次に、上述した手順の評価方法による評価結果である乖離度について、具体例を挙げて説明する。
図10および図11は、本実施形態に係る評価方法によって得られる測定波面(実測した波面データ)と近似球面波(基準波面データ)との乖離度の一具体例を示す説明図である。図10は、眼鏡レンズ1の横断面についての乖離度の具体例である。また、図11は、眼鏡レンズ1の縦断面についての乖離度の具体例である。
既に説明したように、乖離度は、取得した波面データと抽出した基準波面データとの差分データによって構成される。つまり、眼鏡レンズ1を実際に透過した光の波面についての測定波面(実測した波面データ)と、その眼鏡レンズ1を透過する光の波面についての近似球面波(基準波面データ)との差分が、乖離度として求められる。このような「乖離度」という指標を用いることで、眼鏡レンズ1を透過する光の波面について、曲面成分を除去した上で評価を行うことができる。つまり、眼鏡レンズ1の光学特性評価にあたり、曲面成分を除去して、ダレが生じている部分等の無効成分を見える化することができる。
具体的には、ダレ等の見える化によって、図10または図11に示すように、境界近傍領域の部分において、乖離度が突出的に大きくなっており、極大値が存在している。これは、レンズ基材2をハードコート膜8および反射防止膜10で被覆したときに、凸状領域6とベース領域との間の境界近傍領域の部分において、ダレが生じてしまうからである。
図10および図11に示す乖離度について、各点毎にプロットすると、例えば、図12に示すような波面データが得られる。
図12は、図10および図11に示す乖離度をプロットして得られる波面データを例示する説明図である。
ただし、本実施形態においては、クラスタ分析やデータ群毎のカーブフィッティング等を通じて、基準波面データの抽出の適切化を図っている。そのため、凸状領域6とベース領域との境界が明確となり、境界近傍領域の部分にダレが生じていても、眼鏡レンズ1を透過した光の波面を正しく評価することが可能となる。つまり、本実施形態において、境界近傍領域の部分についての乖離度は、正しく評価されたものであり、非常に信頼性が高いものとなる。
求められた乖離度は、予め設定された許容範囲内にあるか否かが判断され、その判断結果によって眼鏡レンズ1を透過した光の波面が適切であるか否かが判断される。ここでいう「適切」とは、眼鏡レンズ1が所望の光学特性を有すること、すなわち近視抑制効果を発揮させ得ることを意味する。
具体的には、乖離度に関する許容範囲については、以下のように設定することが考えられる。例えば、乖離度のうち、境界近傍領域に関する乖離度の大きさ(すなわち、乖離度の極大値の大きさ)が、凸状領域6の突出高さ(突出量)の15%以下であれば、許容範囲内にあると判断する。凸状領域6の突出高さが0.1〜10μm程度、好ましくは0.7〜0.9μm程度である場合、乖離度の大きさが0.015〜1.5μm程度、好ましくは0.105〜0.135μm程度であれば、凸状領域6の突出高さの15%以下となり、許容範囲内となる。
より好ましくは、凸状領域6の突出高さによらず、乖離度の大きさが0.1μm以下であれば、許容範囲内にあると判断する。
このように、境界近傍領域の乖離度を、凸状領域6の突出高さの15%以下または0.1μm以下に抑えれば、その境界近傍領域の表面形状が眼鏡レンズ1の光学特性に悪影響を及ぼしてしまうのを抑制することができる。つまり、乖離度が上記範囲に収まるように、境界近傍領域におけるダレの大きさを適切にコントロールすることで、物体側の面3が被膜されてなる眼鏡レンズ1であっても、所望の光学特性が得られるようになる。
以上のことから、眼鏡レンズ1については、その眼鏡レンズ1を実際に透過した光の波面について測定した波面データに基づいて、その眼鏡レンズ1についての基準波面データが特定されているとともに、測定した波面データの基準波面データからの乖離度が特定されており、特定された乖離度のうち、凸状領域6とベース領域との間の境界近傍領域に関する乖離度の大きさが、凸状領域6の突出高さの15%以下であるように構成されていることが、所望の光学特性を有して近視抑制効果を発揮させる上では好ましい。
また、眼鏡レンズ1については、境界近傍領域に関する乖離度の大きさが、0.1μm以下であるように構成されていることが、より一層好ましい。乖離度の大きさが0.1μm以下であれば、凸状領域6の突出高さによらず、ハードコート膜8または反射防止膜10の膜厚にもよらず、確実に眼鏡レンズ1が所望の光学特性を有して近視抑制効果を発揮させ得るようになるからである。
(3)眼鏡レンズの製造方法
次に、上述した構成の眼鏡レンズ1の製造方法について説明する。
眼鏡レンズ1の製造にあたっては、まず、レンズ基材2を、注型重合等の公知の成形法により成形する。例えば、複数の凹部が備わった成形面を有する成形型を用い、注型重合による成形を行うことにより、少なくとも一方の表面に凸状領域6を有するレンズ基材2が得られる。
そして、レンズ基材2を得たら、次いで、そのレンズ基材2の表面に、ハードコート膜8を成膜する。ハードコート膜8は、ハードコート液にレンズ基材2を浸漬させる方法や、スピンコート等を使用することにより、形成することができる。
ハードコート膜8を成膜したら、さらに、そのハードコート膜8の表面に、反射防止膜10を成膜する。ハードコート膜8は、反射防止剤を真空蒸着により成膜することにより、形成することができる。
このような手順の製造方法により、物体側に向けて突出する複数の凸状領域6を物体側の面3に有する眼鏡レンズ1が得られる。
ところで、本実施形態における製造方法は、上述した手順の光学特性評価方法を含む。すなわち、上述した第1から第5の工程を経て乖離度を求める。そして、乖離度を求めた結果を反映させて、眼鏡レンズ1の製造を行う。
具体的には、例えば、サンプルとなるテストレンズを作成後、そのテストレンズについての乖離度を求め、乖離度が許容範囲から外れていれば、ハードコート膜8または反射防止膜10の成膜条件を変更して、再度テストレンズを作成する。乖離度が許容範囲内であれば、テストレンズと同じ条件で、製品版となる眼鏡レンズ1を作成する。このように、乖離度を求めた結果を反映させて作成を行えば、乖離度が許容範囲内にある眼鏡レンズ1が得られるようになる。
なお、ここでは、テストレンズを利用して乖離度を反映させる場合を例に挙げたが、これに限定されることはない。例えば、物体側の面3に対する修正加工が可能であれば、乖離度が許容範囲から外れている場合に、修正加工を行って許容範囲内に収まるようにすることで、乖離度を反映させるようにしてもよい。
(4)本実施形態による効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
(a)眼鏡レンズ1を実際に透過した光の波面の測定結果である波面データに基づいて基準波面データを抽出し、その基準波面データからの波面データの乖離度を求めるので、異なる曲面の組み合わせによって構成された眼鏡レンズ1の光学特性を評価する場合であっても、その表面についての波面データや設計データ等を必要としない。つまり、眼鏡レンズ1の表面形状に依らずに光学特性を評価できるので、例えば、物体側の面3が被膜されてなる眼鏡レンズ1であっても、その光学特性を正しく評価することができる。
クラスタ分析を利用して分類したデータ群毎にカーブフィッティングを行って基準波面データを抽出するので、設計データを要することなく、また設計データとのマッチング(整合)を要することもなく、基準波面データを特定することが可能となる。また、測定した波面データにダレが生じていても、基準波面データについては、そのダレの影響を排除することができる。さらには、クラスタ分析を利用した分類の結果から、凸状領域6とベース領域との境界部分を明確に特定することも可能となる。したがって、特に凸状領域6とベース領域との間の境界近傍領域を正しく評価する上で、非常に好適なものとなる。
基準波面データにはダレの影響が及ばないので、測定した波面データと基準波面データとの乖離度を求めることで、その波面データに生じているダレの大きさを正しく評価することができる。
「乖離度」という指標を用いることで、眼鏡レンズ1を透過した光の波面について、曲面成分を除去した上で評価を行うことができる。つまり、眼鏡レンズ1の光学特性の評価にあたり、曲面成分を除去して、ダレが生じている部分等の無効成分を見える化することができる。
以上のように、本実施形態では、凸状領域6を有する眼鏡レンズ1の光学特性を正しく評価することができ、その結果としてダレの大きさを適切にコントロールすることができる。したがって、本実施形態によれば、光学特性の適切な評価を通じて、眼鏡レンズ1に近視抑制効果を十分に発揮させることが可能になる。
(b)本実施形態では、凸状領域6に関するデータ群と、ベース領域に関するデータ群とを、波面データから導出された閾値に基づいて分類する。このように、各データ群を分類するための閾値を波面データ(すなわち測定結果)から導出することで、その閾値が現実の被評価物である眼鏡レンズ1に即したものとなり、その結果として、各データ群への分類を経て行う光学特性の評価の適切化が図れる。例えば、測定対象の眼鏡レンズ1が傾いた状態で設置されていても、その傾きの影響を排除することができる。
(c)本実施形態では、閾値として、波面データを最小二乗法で近似し、その近似結果についてのベアリング曲線を活用して決定したものを用いる。このように、ベアリング曲線を活用して閾値を決定することで、その閾値は、物体側の面3に複数の凸状領域6を有する眼鏡レンズ1の光学特性分析に適用して非常に好適なものとなる。
(d)本実施形態では、k平均法を利用して、複数の凸状領域6のそれぞれに関するデータ群の分類を行う。このように、k平均法を利用したクラスタリングによるデータ分類を行うことで、特に、多数の凸状領域6が並ぶように物体側の面3に配置された眼鏡レンズ1の光学特性分析に適用して非常に好適なものとなる。
(e)本実施形態において、波面データを各データ群に分類する工程では、その波面データを、凸状領域6に関するデータ群と、ベース領域に関するデータ群と、境界近傍領域に関するデータ群と、に分類する。このように、境界近傍領域に関するデータ群についても分類を行うようにすれば、その境界近傍領域の範囲が明確になるので、その境界近傍領域に生じるダレを正しく評価する上で非常に好適なものとなる。
(f)本実施形態では、眼鏡レンズ1の製造にあたり、乖離度を求めた結果を反映させる。このように、乖離度を求めた結果を反映させることで、乖離度が許容範囲内にある眼鏡レンズ1が確実に得られるようになる。
(g)本実施形態では、眼鏡レンズ1について、凸状領域6とベース領域との間の境界近傍領域に関する乖離度の大きさが、凸状領域6の突出高さの15%以下であり、好ましくは0.1μm以下となっている。このように、境界近傍領域の乖離度を、凸状領域6の突出高さの15%以下または0.1μm以下に抑えれば、その境界近傍領域の表面形状が眼鏡レンズ1の光学特性に悪影響を及ぼしてしまうのを抑制することができる。つまり、乖離度が上記範囲に収まるように、境界近傍領域におけるダレの大きさを適切にコントロールすることで、物体側の面3が被膜されてなる眼鏡レンズ1であっても、所望の光学特性が得られるようになる。
このことは、「乖離度」という指標を用いたこと、すなわち眼鏡レンズ1の物体側の面3の表面形状の曲面成分を除去して、ダレが生じている部分等の無効成分を見える化することによって、実現が可能となるものである。
(5)変形例等
以上に本発明の実施形態を説明したが、上述した開示内容は、本発明の例示的な実施形態を示すものである。すなわち、本発明の技術的範囲は、上述の例示的な実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
例えば、上述の実施形態では、評価対象となる眼鏡レンズ1として、物体側の面3に凸状領域6を有する構成のものを例に挙げたが、本発明は他の構成の眼鏡レンズに適用することも可能である。
図13は、評価対象の眼鏡レンズの他の構成例を示す断面図である。
図13に示す眼鏡レンズは、レンズ基材2とハードコート膜8との界面11に複数の凸状領域6aが形成されているが、物体側の面3には凸状領域6aの形状が反映されておらず、物体側の面3(すなわち、眼鏡レンズの最表面部分)が平滑な面となっている。
本明細書における「平滑」とは、最表面の凹凸が0.5μm以下である状態を指す。「最表面の凹凸」とは、4φにおける最近似球面からの乖離距離の最大値と最小値の差のことを指す。「最近似球面」とは、該4φの状態において、最表面の測定値(高さ分布)から最小二乗法で算出した面形状のことである。
表面平均パワーの観点から、以下のように「平滑」を定義してもよい。表面任意位置での表面平均パワー(単位:D)の任意方向の変化率が0.5D/mm以下(好適には0.4D/mm以下)の面の状態を指す。なお、表面平均パワーは以下の式で表される。
表面平均パワー=曲面平均曲率(単位:1/m)*(屈折率−1.0)
また、以下のように「平滑」を定義することも可能である。すなわち、表面平均パワーの最小値と最大値の差が、透過度数の最小値と最大値の差(埋め込んだセグメントによって付加されたパワー)よりも小さい状態を「平滑」としてもよい。
このような構成の眼鏡レンズであっても、界面11を挟み込む2種の部材2,3における各々の屈折率が互いに異なり、レンズ基材2の屈折率>ハードコート膜8の屈折率という関係にあれば、凸状領域6aが形成されていないベース領域の部分が、眼鏡装用者の眼の屈折異常を矯正する処方に基づく第1の屈折力を有する「第1の屈折領域」として機能するとともに、複数の凸状領域6の各々の部分が、眼鏡装用者の眼の屈折異常の進行を抑制するように網膜以外の位置に焦点を結ばせる「第2の屈折領域」として機能することになる。つまり、最表面が平滑であっても、眼鏡レンズの内部の界面部分の凸部または凹部という形状と、該界面部分を挟み込む2種の面基材の屈折率の差とを適切に設定すれば、近視進行抑制効果が得られる。
上述した構成の眼鏡レンズは、屈折率が異なる複数の部材2,8からなる積層体の界面11に凸状領域6aが形成されており、物体側の面3が平滑な面となっていることから、レンズ表面の三次元形状を基にする手法では、眼鏡レンズの光学特性を適切に評価することができない。ところが、本発明を適用して評価を行えば、眼鏡レンズを透過した光の波面データを用いるので、凸状領域6aが埋め込まれて構成されており物体側の面3が平滑である眼鏡レンズについても、光学特性を適切に評価することができる。したがって、眼鏡レンズの光学特性の適切な評価を通じて、眼鏡レンズに近視進行の抑制効果を十分に発揮させることが可能になる。
このように、本発明は、レンズ表面に凸状領域6を有する近視進行抑制レンズのみならず、レンズ表面が平滑である近視進行抑制レンズについても、適用することが可能である。特に、レンズ表面が平滑である近視進行抑制レンズについては、レンズ表面の三次元形状を基にした評価が行えないのに対して、本発明を適用すれば光学特性を適切に評価できるので、眼鏡レンズに近視進行の抑制効果を十分に発揮させる上で非常に有効である。
また、例えば、上述の実施形態では、評価対象となる眼鏡レンズが近視進行抑制レンズである場合を例に挙げたが、本発明は遠視進行抑制レンズに適用することも可能である。
図14は、評価対象の眼鏡レンズの他の構成例を示す断面図であり、遠視進行抑制レンズの一例を示す図である。
図14に示す眼鏡レンズは、凹状領域6cが設けられたデフォーカス面基材2aと、デフォーカス面基材2aを挟み込むように設けられたレンズ基材2bと、を有して構成されている。つまり、かかる眼鏡レンズは、デフォーカス面基材2aとレンズ基材2bとの界面11に複数の凹状領域6cが形成されており、物体側の面3(すなわち、眼鏡レンズの最表面部分)が平滑な面となっている。なお、デフォーカス面基材2aは、レンズ基材2bと異なる屈折率を有するものであれば、その形成材料が特に限定されるものではない。
このような構成の眼鏡レンズにおいて、界面11を挟み込む2種の部材2a,2bにおける各々の屈折率が互いに異なり、デフォーカス面基材2aの屈折率<レンズ基材2bの屈折率という関係にあれば、凹状領域6cが形成されていないベース領域が、眼鏡装用者の眼の屈折異常を矯正する処方に基づく第1の屈折力を有する「第1の屈折領域」として機能するとともに、複数の凹状領域6cの各々の部分が、眼鏡装用者の眼の屈折異常の進行を抑制するように網膜以外の位置(具体的には、網膜よりも奥の位置)に焦点を結ばせる「第2の屈折領域」として機能することになる。これにより、眼鏡レンズは、第1の屈折領域を透過する光を眼鏡装用者の眼の網膜上に収束させる一方で、第2の屈折領域を透過する光については、網膜よりも奥の位置(すなわち、物体側から離れた位置)に収束させることで、眼鏡装用者の遠視等の屈折異常の進行を抑制する効果(すなわち、遠視抑制効果)を発揮させることができる。
上述した構成の眼鏡レンズについても、屈折率が異なる複数の部材2a,2bからなる積層体の界面11に凹状領域6cが形成されており、物体側の面3が平滑な面となっていることから、レンズ表面の三次元形状を基にする手法では、眼鏡レンズの光学特性を適切に評価することができない。ところが、本発明を適用して評価を行えば、眼鏡レンズを透過した光の波面データを用いるので、凹状領域6cが埋め込まれて構成されており物体側の面3が平滑である眼鏡レンズについても、光学特性を適切に評価することができる。したがって、眼鏡レンズの光学特性の適切な評価を通じて、眼鏡レンズに遠視進行の抑制効果を十分に発揮させることが可能になる。
1…眼鏡レンズ、2,2a…レンズ基材、2b…デフォーカス面基材、3…物体側の面、4…眼球側の面、6,6a,6b…凸状領域、6c…凹状領域、8…ハードコート膜、10…反射防止膜、11…界面、20…眼球、20A…網膜

Claims (10)

  1. 透過光が所定位置で焦点を結ぶように形成された第1の屈折領域と、前記透過光が前記所定位置とは異なる位置で焦点を結ぶように形成された第2の屈折領域と、を有する眼鏡レンズについて、当該眼鏡レンズを透過した光の波面データを取得する工程と、
    前記波面データに対するクラスタ分析を行って、前記第1の屈折領域に関するデータ群と前記第2の屈折領域に関するデータ群とを分類する工程と、
    分類したデータ群毎にカーブフィッティングを行って得られた曲面データを組み合わせて、前記眼鏡レンズを透過する光の波面についての基準波面データを抽出する工程と、
    前記波面データと前記基準波面データとを比較して、前記波面データの前記基準波面データからの乖離度を求める工程と、
    を備える光学特性評価方法。
  2. 前記波面データは、前記眼鏡レンズを透過した光の干渉縞の測定結果に基づいて取得する
    請求項1に記載の光学特性評価方法。
  3. 前記第1の屈折領域に関するデータ群と、前記第2の屈折領域に関するデータ群とを、前記波面データから導出された閾値に基づいて分類する
    請求項1または2に記載の光学特性評価方法。
  4. 前記閾値は、前記波面データを最小二乗法で近似し、その近似結果についてのベアリング曲線を活用して決定したものである
    請求項3に記載の光学特性評価方法。
  5. 前記第2の屈折領域が複数存在する場合に、k平均法を利用して、複数の前記第2の屈折領域のそれぞれに関するデータ群の分類を行う
    請求項1から4のいずれか1項に記載の光学特性評価方法。
  6. 前記波面データを各データ群に分類する工程では、前記波面データを、前記第1の屈折領域に関するデータ群と、前記第2の屈折領域に関するデータ群と、前記第1の屈折領域と前記第2の屈折領域との間の遷移領域である境界近傍領域に関するデータ群と、に分類する
    請求項1から5のいずれか1項に記載の光学特性評価方法。
  7. 請求項1から6のいずれか1項に記載の光学特性評価方法を含む
    眼鏡レンズの製造方法。
  8. 前記乖離度を求めた結果を反映させて前記眼鏡レンズの製造を行う
    請求項7に記載の眼鏡レンズの製造方法。
  9. 透過光が所定位置で焦点を結ぶように形成された第1の屈折領域と、前記透過光が前記所定位置とは異なる位置で焦点を結ぶように形成された第2の屈折領域と、を有する眼鏡レンズであって、
    前記眼鏡レンズを透過した光の干渉縞を測定して得られる波面データに基づいて、当該眼鏡レンズを透過する光の波面についての基準波面データが特定されているとともに、
    前記波面データの前記基準波面データからの乖離度が特定されており、
    前記乖離度のうち、前記第1の屈折領域と前記第2の屈折領域との間の遷移領域である境界近傍領域に関する乖離度の大きさが、前記第2の屈折領域の波面突出高さの15%以下である
    眼鏡レンズ。
  10. 前記乖離度の大きさが0.1μm以下である
    請求項9に記載の眼鏡レンズ。
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