JP2021030357A - 表面被覆切削工具 - Google Patents

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Keizo Tanaka
敬三 田中
今村 晋也
Shinya Imamura
晋也 今村
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Abstract

【課題】耐剥離性に優れる表面被覆切削工具を提供すること。【解決手段】基材と、上記基材上に設けられている被覆層とを含む表面被覆切削工具であって、上記被覆層は、第一単位層と、第二単位層とを含み、上記被覆層は、最下層が上記第二単位層であり、上記第二単位層は、立方晶型のAla(TiαCr1−α)bX1−a−bNの結晶粒及び六方晶型のAla(TiαCr1−α)bX1−a−bNの結晶粒を含み、上記第一単位層は、立方晶型のAlc(TiβCr1−β)dZ1−c−dNの結晶粒を含み、上記第一単位層は、六方晶型のAlc(TiβCr1−β)dZ1−c−dNの結晶粒を含まない表面被覆切削工具。【選択図】なし

Description

本開示は、表面被覆切削工具に関する。
従来より、超硬合金等からなる切削工具を用いて、鋼及び鋳物等の切削加工が行われている。このような切削工具は、切削加工時において、その刃先が高温及び高応力等の過酷な環境に曝されるため、刃先の摩耗及び欠けが招来される。
したがって、刃先の摩耗及び欠けを抑制することが切削工具の寿命を向上させる上で重要である。
切削工具の切削性能の改善を目的として、超硬合金等の基材の表面を被覆する被膜の開発が進められている。例えば、特開2014−193521号公報(特許文献1)には、炭化タングステン基超硬合金焼結体からなる工具基体の表面に硬質被覆層が蒸着形成された表面被覆切削工具において、(a)前記硬質被覆層の組成が、組成式:(AlTi1−x)N(0.5≦x≦0.8)で表され、前記硬質被覆層の平均層厚が0.5μm以上7.0μm以下であり、(b)前記硬質被覆層が、平均粒径5nm以上50nm以下の微細結晶粒から成り、(c)前記微細結晶粒には、岩塩型構造を有する立方晶系結晶粒と、ウルツ鉱型構造を有する六方晶系結晶粒とが混在し、かつ、(d)前記工具基体の表面に垂直に、前記立方晶系結晶粒の{200}、および前記六方晶系結晶粒の{11−20}が配向されている、ことを特徴とする表面被覆切削工具が開示されている。
また、特開2018−059146号公報(特許文献2)には、Al、Cr及びNを含有する硬質皮膜であって、AlCr1−m1−x−y−zの組成式からなり、前記組成式において、mはAl、Crの合計に対するAlの原子比、1−mはAl、Crの合計に対するCrの原子比、1−x−y−zはN、C、B、Oの合計に対するNの原子比、xはN、C、B、Oの合計に対するCの原子比、yはN、C、B、Oの合計に対するBの原子比、zはN、C、B、Oの合計に対するOの原子比をそれぞれ示し、0.70<m≦0.85の関係式が満たされており、前記硬質皮膜の硬さをH(GPa)、前記硬質皮膜のヤング率をE(GPa)としたときに、ヤング率に対する硬さの比であるH/Eが0.050以上0.058未満であり且つHが20GPa以上であることを特徴とする、硬質皮膜が開示されている。
特開2014−193521号公報 特開2018−059146号公報
しかし、特許文献1に記載の表面被覆切削工具における硬質被覆層、及び特許文献2に記載の硬質皮膜は耐剥離性が低く、高効率な切削加工(送り速度が大きい切削加工等)へ適用する際には更なる性能(例えば、耐欠損性、耐剥離性等)の向上が求められる。
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、耐剥離性に優れる表面被覆切削工具を提供することを目的とする。
本開示に係る表面被覆切削工具は、
基材と、上記基材上に設けられている被覆層とを含む表面被覆切削工具であって、
上記被覆層は、第一単位層と、第二単位層とを含み、
上記被覆層は、最下層が上記第二単位層であり、
上記第二単位層は、立方晶型のAl(TiαCr1−α1−a−bNの結晶粒及び六方晶型のAl(TiαCr1−α1−a−bNの結晶粒を含み、
上記第一単位層は、立方晶型のAl(TiβCr1−β1−c−dNの結晶粒を含み、
上記第一単位層は、六方晶型のAl(TiβCr1−β1−c−dNの結晶粒を含まず、
上記Al(TiαCr1−α1−a−bNにおいて、XはSi、Nb、Mo、Ta、W及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、aは0.5を超えて0.8未満であり、bは0.2以上0.5未満であり、1−a−bは0を超えて0.1未満であり、αは0以上1以下であり、
上記Al(TiβCr1−β1−c−dNにおいて、ZはSi、Nb、Mo、Ta、W及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、cは0.5を超えて0.8未満であり、dは0.2を超えて0.5未満であり、1−c−dは0を超えて0.1未満であり、βは0以上1以下である。
上記によれば、耐剥離性に優れる表面被覆切削工具を提供することが可能になる。
図1は、表面被覆切削工具の一態様を例示する斜視図である。 図2は、本実施形態の一態様における表面被覆切削工具の模式断面図である。 図3は、本実施形態の他の態様における表面被覆切削工具の模式断面図である。 図4は、本実施形態の別の他の態様における表面被覆切削工具の模式断面図である。 図5Aは、本実施形態の第一単位層における電子線回折パターンを示す画像の一例である。 図5Bは、本実施形態の第二単位層における電子線回折パターンを示す画像の一例である。
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
[1]本開示に係る表面被覆切削工具は、
基材と、上記基材上に設けられている被覆層とを含む表面被覆切削工具であって、
上記被覆層は、第一単位層と、第二単位層とを含み、
上記被覆層は、最下層が上記第二単位層であり、
上記第二単位層は、立方晶型のAl(TiαCr1−α1−a−bNの結晶粒及び六方晶型のAl(TiαCr1−α1−a−bNの結晶粒を含み、
上記第一単位層は、立方晶型のAl(TiβCr1−β1−c−dNの結晶粒を含み、
上記第一単位層は、六方晶型のAl(TiβCr1−β1−c−dNの結晶粒を含まず、
上記Al(TiαCr1−α1−a−bNにおいて、XはSi、Nb、Mo、Ta、W及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、aは0.5を超えて0.8未満であり、bは0.2以上0.5未満であり、1−a−bは0を超えて0.1未満であり、αは0以上1以下であり、
上記Al(TiβCr1−β1−c−dNにおいて、ZはSi、Nb、Mo、Ta、W及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、cは0.5を超えて0.8未満であり、dは0.2を超えて0.5未満であり、1−c−dは0を超えて0.1未満であり、βは0以上1以下である。
上記表面被覆切削工具における上記被覆層は、最下層が上記第二単位層である。ここで、「最下層」とは、上記被覆層を構成する層のうち、上記基材から最も近い層を意味する。上記第二単位層は、硬度に優れる立方晶型の結晶粒に加えて、靱性に優れる六方晶型の結晶粒を含む。そのため、上記被覆層は基材に対する密着性に優れる。すなわち、上記表面被覆切削工具は、上述のような構成を備えることによって、優れた耐剥離性を有することが可能になる。「耐剥離性」とは、上記基材から上記被覆層が剥離することに対する耐性を意味する。
[2]上記第二単位層の硬度Hは28GPa以上60GPa以下であり、上記第二単位層のヤング率Eは280GPa以上860GPa以下であり、上記第二単位層における上記ヤング率Eに対する上記硬度Hの比H/Eが0.07以上0.1以下である。このように規定することで、上記表面被覆切削工具は優れた耐剥離性を有することに加えて、優れた耐摩耗性を有することが可能になる。
[3]上記第二単位層における、立方晶型のAl(TiαCr1−α1−a−bNの結晶粒及び六方晶型のAl(TiαCr1−α1−a−bNの結晶粒の平均粒径は、2nm以上20nm以下である。このように規定することで、上記表面被覆切削工具は更に優れた耐剥離性を有することが可能になる。
[4]上記第一単位層における、立方晶型のAl(TiβCr1−β1−c−dNの結晶粒の平均粒径は、2nm以上20nm以下である。このように規定することで、上記表面被覆切削工具は優れた耐剥離性に加えて、優れた耐摩耗性を有することが可能になる。
[5]上記第一単位層及び上記第二単位層は、それぞれが交互に1層以上積層された多層構造を形成しており、上記多層構造において、上記第一単位層及び上記第二単位層はそれぞれ1層以上10層以下含まれる。このように規定することで、上記表面被覆切削工具は優れた耐剥離性を有することに加えて、優れた耐摩耗性を有することが可能になる。
[6]上記第一単位層は、1層あたりの厚みが100nm以上3μm以下である。このように規定することで、上記表面被覆切削工具は優れた耐剥離性を有することに加えて、優れた耐摩耗性を有することが可能になる。
[7]上記第二単位層は、1層あたりの厚みが100nm以上3μm以下である。このように規定することで、上記表面被覆切削工具は優れた耐剥離性を有することに加えて、優れた耐摩耗性を有することが可能になる。
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す。)について説明する。ただし、本実施形態はこれに限定されるものではない。本明細書において「A〜B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。さらに、本明細書において、例えば「TiC」等のように、構成元素の組成比が限定されていない化学式によって化合物が表された場合には、その化学式は従来公知のあらゆる組成比(元素比)を含むものとする。このとき上記化学式は、化学量論組成のみならず、非化学量論組成も含むものとする。例えば「TiC」の化学式には、化学量論組成「Ti」のみならず、例えば「Ti0.8」のような非化学量論組成も含まれる。このことは、「TiC」以外の化合物の記載についても同様である。
≪表面被覆切削工具≫
本開示に係る表面被覆切削工具は、
基材と、上記基材上に設けられている被覆層とを含む表面被覆切削工具であって、
上記被覆層は、第一単位層と、第二単位層とを含み、
上記被覆層は、最下層が上記第二単位層であり、
上記第二単位層は、立方晶型のAl(TiαCr1−α1−a−bNの結晶粒及び六方晶型のAl(TiαCr1−α1−a−bNの結晶粒を含み、
上記第一単位層は、立方晶型のAl(TiβCr1−β1−c−dNの結晶粒を含み、
上記第一単位層は、六方晶型のAl(TiβCr1−β1−c−dNの結晶粒を含まず、
上記Al(TiαCr1−α1−a−bNにおいて、XはSi、Nb、Mo、Ta、W及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、aは0.5を超えて0.8未満であり、bは0.2以上0.5未満であり、1−a−bは0を超えて0.1未満であり、αは0以上1以下であり、
上記Al(TiβCr1−β1−c−dNにおいて、ZはSi、Nb、Mo、Ta、W及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、cは0.5を超えて0.8未満であり、dは0.2を超えて0.5未満であり、1−c−dは0を超えて0.1未満であり、βは0以上1以下である。
本実施形態に係る表面被覆切削工具(以下、単に「切削工具」という場合がある。)は、例えば、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ等であり得る。
図1は表面被覆切削工具の一態様を例示する斜視図である。このような形状の切削工具10は、旋削加工用刃先交換型切削チップとして用いられる。
図1に示される切削工具10は、上面、下面及び4つの側面を含む表面を有しており、全体として、上下方向にやや薄い四角柱形状である。また、切削工具10には上下面を貫通する貫通孔が形成されており、4つの側面の境界部分においては、隣り合う側面同士が円弧面で繋がれている。
上記切削工具10では、通常、上面及び下面がすくい面1aを成し、4つの側面(及びこれらを相互に繋ぐ円弧面)が逃げ面1bを成し、すくい面1aと逃げ面1bとを繋ぐ円弧面が刃先部1cを成す。「すくい面」とは、被削材から削り取った切りくずをすくい出す面を意味する。「逃げ面」とは、その一部が被削材と接する面を意味する。刃先部は、切削工具の切れ刃を構成する部分に含まれる。
上記表面被覆切削工具が刃先交換型切削チップである場合、上記切削工具10は、チップブレーカーを有する形状も、有さない形状も含まれる。図1において刃先部1cは円弧面で表されているが、刃先部1cの形状はこれに限られない。すなわち、刃先部1cの形状は、シャープエッジ(すくい面と逃げ面とが交差する稜)、ホーニング(シャープエッジに対してアールを付与した形状)、ネガランド(面取りをした形状)、ホーニングとネガランドを組み合わせた形状の中で、いずれの形状も含まれる。
以上、切削工具10の形状及び各部の名称を、図1を用いて説明したが、本実施形態に係る表面被覆切削工具の基材において、上記切削工具10に対応する形状及び各部の名称については、上記と同様の用語を用いることとする。すなわち、上記表面被覆切削工具の基材は、すくい面と、逃げ面と、上記すくい面及び上記逃げ面を繋ぐ刃先部とを有する。
上記切削工具10は、基材11と、上記基材11上に設けられている被覆層12とを含む(図2)。上記切削工具10は、上記被覆層12の他にも、上記基材11と上記被覆層12との間に設けられている下地層13を更に備えていてもよい(図4)。上記切削工具10は、上記被覆層12上に設けられている表面層14を更に備えていてもよい(図4)。下地層13及び表面層14等の他の層については、後述する。
なお、上記基材上に設けられている上述の各層をまとめて「被膜」と呼ぶ場合がある。すなわち、上記切削工具10は上記基材11を被覆する被膜20を備え、上記被膜20は上記被覆層12を含む(図2)。また、上記被膜20は、上記下地層13、又は上記表面層14を更に含んでいてもよい(図4)。
<基材>
本実施形態の基材は、この種の基材として従来公知のものであればいずれのものも使用することができる。例えば、上記基材は、超硬合金(例えば、炭化タングステン(WC)基超硬合金、WCの他にCoを含む超硬合金、WCの他にCr、Ti、Ta、Nb等の炭窒化物を添加した超硬合金等)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム等)、立方晶型窒化硼素焼結体(cBN焼結体)及びダイヤモンド焼結体からなる群から選ばれる1種を含むことが好ましい。
これらの各種基材の中でも、特に超硬合金(特にWC基超硬合金)、サーメット(特にTiCN基サーメット)を選択することが好ましい。その理由は、これらの基材が特に高温における硬度と強度とのバランスに優れ、上記用途の表面被覆切削工具の基材として優れた特性を有するためである。
基材として超硬合金を使用する場合、そのような超硬合金は、組織中に遊離炭素又はη相と呼ばれる異常相を含んでいても本実施形態の効果は示される。なお、本実施形態で用いる基材は、その表面が改質されたものであっても差し支えない。例えば、超硬合金の場合はその表面に脱β層が形成されていたり、cBN焼結体の場合には表面硬化層が形成されていてもよく、このように表面が改質されていても本実施形態の効果は示される。
<被膜>
本実施形態に係る被膜は、被覆層を含む。「被膜」は、上記基材の少なくとも一部(例えば、すくい面の一部)を被覆することで、切削工具における耐剥離性、耐欠損性、耐クレータ摩耗性等の諸特性を向上させる作用を有するものである。上記被膜は、上記基材の全面を被覆することが好ましい。しかしながら、上記基材の一部が上記被膜で被覆されていなかったり被膜の構成が部分的に異なっていたりしていたとしても本実施形態の範囲を逸脱するものではない。
上記被膜は、その厚みが0.2μm以上20μm以下であることが好ましく、1μm以上12μm以下であることがより好ましい。ここで、被膜の厚みとは、被膜を構成する層それぞれの厚みの総和を意味する。「被膜を構成する層」としては、例えば、上記被覆層、上述した下地層及び表面層等の他の層が挙げられる。上記被膜の厚みは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、基材の表面の法線方向に平行な断面サンプルにおける任意の10点を測定し、測定された10点の厚みの平均値をとることで求めることが可能である。このときの測定倍率は、例えば10000倍である。上記断面サンプルとしては、例えば、イオンスライサ装置で上記切削工具の断面を薄片化したサンプルが挙げられる。上記被覆層、上述した下地層及び表面層等のそれぞれの厚みを測定する場合も同様である。透過型電子顕微鏡としては、例えば、日本電子株式会社製のJEM−2100F(商品名)が挙げられる。
(被覆層)
本実施形態に係る被覆層12は、第一単位層121と、第二単位層122とを含む(図2)。上記被覆層12は、最下層が上記第二単位層122である。上記被覆層12は、本実施形態に係る表面被覆切削工具が奏する効果を維持する限り、第一単位層121と第二単位層122との間に設けられている中間層123を更に備えていてもよい(図4)。上記被覆層は、本実施形態に係る表面被覆切削工具が奏する効果を維持する限り、上記基材の直上に設けられていてもよいし、下地層等の他の層を介して上記基材の上に設けられていてもよい(図4)。上記被覆層は、表面被覆切削工具が奏する効果を維持する限り、その上に表面層等の他の層が設けられていてもよい(図4)。また、上記被覆層は、上記被膜の表面に設けられていてもよい。
上記被覆層は、上記基材のすくい面を被覆することが好ましい。上記被覆層は、上記基材の逃げ面を被覆していてもよい。上記被覆層は、上記基材の全面を被覆することがより好ましい。しかしながら、上記基材の一部が上記被覆層で被覆されていなかったりしていたとしても本実施形態の範囲を逸脱するものではない。
上記被覆層は、その厚みが0.2μm以上20μm以下であることが好ましく、1μm以上12μm以下であることがより好ましく、3μm以上8μm以下であることが更に好ましい。このようにすることで、上記表面被覆切削工具は優れた耐剥離性を有することに加えて、優れた耐摩耗性を有することが可能になる。当該厚みは、例えば、上述したような上記表面被覆切削工具の断面を透過型電子顕微鏡を用いて倍率10000倍で観察することで測定可能である。
(第二単位層)
本実施形態において、第二単位層は、立方晶型のAl(TiαCr1−α1−a−bNの結晶粒及び六方晶型のAl(TiαCr1−α1−a−bNの結晶粒を含む。すなわち、上記第二単位層は、多結晶のAl(TiαCr1−α1−a−bNを含む層である。
立方晶型のAl(TiαCr1−α1−a−bNの結晶粒と六方晶型のAl(TiαCr1−α1−a−bNの結晶粒とは、例えば、電子線回折により得られる回折パターンにより識別される(例えば、図5B参照)。詳細な手順は以下の通りである。まず上述の断面サンプルにおいて上記第二単位層の電子線回折測定を行う。次に、測定によって得られた電子線回折像において各結晶構造に固有の回折パターンにより結晶構造の同定を行う。このとき、事前にX線回折法で測定した各結晶構造における面間隔を用いて、上記電子線回折像の指数付けを行い、結晶構造を同定する。
上記Al(TiαCr1−α1−a−bNにおいて、XはSi(ケイ素)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、Ta(タンタル)、W(タングステン)及びB(ホウ素)からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。
なお、ホウ素は通常、金属元素と非金属元素との中間の性質を示す半金属として捉えられる。ただし、本実施形態においては自由電子を有する元素を金属であるとみなしてホウ素を金属元素の範囲に含むものとする。
上記Xは、Al、Ti及びCrに対して原子半径の差が大きい元素を選択することが好ましい。このようにすることで、Al(TiαCr1−α1−a−bNの結晶粒に歪みが生じやすくなり、ひいては靱性が向上する傾向がある。本実施形態の一側面において上記Xは、Si又はNbを含むことが好ましい。
上記Al(TiαCr1−α1−a−bNにおいて、aは0.5を超えて0.8未満であり、0.65以上0.75以下であることが好ましい。上記aは、上述の断面サンプルをTEMに付帯のエネルギー分散型X線分光法(TEM−EDX)で、第二単位層の全体を元素分析することによって求めることが可能である。このときの観察倍率は、例えば、20000倍である。具体的には、上記断面サンプルの第二単位層における任意の10点それぞれを測定して上記aの値を求め、求められた10点の値の平均値を上記第二単位層におけるaとする。ここで当該「任意の10点」は、上記第二単位層中の互いに異なる結晶粒から選択するものとする。後述するb及びα、並びに、後述する第一単位層におけるc、d及びβの同定の場合も同様である。上記EDX装置としては、例えば、日本電子株式会社製のJED−2300(商品名)が挙げられる。
上記Al(TiαCr1−α1−a−bNにおいて、bは0.2以上0.5未満であり、0.25以上0.35以下であることが好ましい。上記bは、上述の断面サンプルをTEM−EDXで、第二単位層の全体を元素分析することによって求めることが可能である。
上記Al(TiαCr1−α1−a−bNにおいて、1−a−bは0を超えて0.1未満であり、0.01以上0.05以下であることが好ましい。Xが2種以上の元素を含む場合、上述の1−a−bの値は、上記2種以上の元素の合計の値を意味する。上記1−a−bの値は、上記a及び上記bの値を1から減ずることで求められる。
上記Al(TiαCr1−α1−a−bNにおいて、αは0以上1以下であり、0.3以上0.7以下であることが好ましい。αの値が小さい場合、上記第二単位層の耐熱性が向上する傾向がある。αの値が大きい場合、上記第二単位層の硬度が向上する傾向がある。上記αは、上述の断面サンプルをTEM−EDXで、第二単位層の全体を元素分析することによって求めることが可能である。
Al(TiαCr1−α1−a−bNで表される化合物としては、例えば、AlTiSiN、AlCrSiN、Al(TiCr)SiN、AlTiNbN、AlCrNbN、Al(TiCr)NbN、及びAl(TiCr)BN等が挙げられる(ただし、具体的な化合物中のa、b及びαで示される添え字は省略した。)。
上記第二単位層の硬度Hは28GPa以上60GPa以下であることが好ましく、32GPa以上40GPa以下であることがより好ましい。上記硬度H及び後述するヤング率Eは、「ISO 14577−1: 2015 Metallic materials−Instrumented indentation test for hardness and materials parameters−」において定められている標準手順によるナノインデンテーション法によって、求めることが可能である。このとき、上記硬度H及び後述するヤング率Eを正確に求める観点から、圧子の押し込み深さは、当該圧子の押し込み方向における上記第二単位層の厚みの1/10を超えないようにする。サンプルは、上記第二単位層の断面積が上記圧子に対して十分な広さを確保できるのであれば、上述の断面サンプルを用いてもよい。また、上記第二単位層の断面積が上記圧子に対して十分な広さを確保できるように、基材の表面の法線方向に対して傾斜した断面を有するサンプルを用いてもよい。
上記第二単位層のヤング率Eは280GPa以上860GPa以下であることが好ましく、320GPa以上570GPa以下であることがより好ましい。
上記第二単位層における上記ヤング率Eに対する上記硬度Hの比H/Eは、0.07以上0.1以下であることが好ましく、0.085以上0.095以下であることが好ましい。
本実施形態の一側面において、上記第二単位層の硬度Hは28GPa以上60GPa以下であり、上記第二単位層のヤング率Eは280GPa以上860GPa以下であり、上記第二単位層における上記ヤング率Eに対する上記硬度Hの比H/Eが0.07以上0.1以下であることが好ましい。このようにすることで、上記表面被覆切削工具は優れた耐剥離性を有することに加えて、優れた耐摩耗性を有することが可能になる。
上記第二単位層における、立方晶型のAl(TiαCr1−α1−a−bNの結晶粒及び六方晶型のAl(TiαCr1−α1−a−bNの結晶粒の平均粒径は、2nm以上20nm以下であることが好ましく、5nm以上10nm以下であることがより好ましい。このようにすることで、上記表面被覆切削工具は更に優れた耐剥離性を有することが可能になる。当該平均粒径は、例えば、上述したような上記表面被覆切削工具の断面を透過型電子顕微鏡を用いて倍率200万倍で観察することで測定可能である。
具体的には、当該断面の撮影画像から、個々の結晶粒の粒径(Heywood径:等面積円相当径)を算出し、その平均値をAl(TiαCr1−α1−a−bNの結晶粒の平均粒径とする。測定する結晶粒の数は、少なくとも10個以上とし、更に20個以上とすることが好ましい。また、被覆層内に複数の第二単位層が含まれる場合は、以下のように当該結晶粒の平均粒径を求めるのが好ましい。まずそれぞれの第二単位層において上記画像解析を行い各第二単位層における結晶粒の平均粒径を求める。次に、各第二単位層で求められた結晶粒の平均粒径の平均値を求める。求められた平均値を上記Al(TiαCr1−α1−a−bNの結晶粒の平均粒径とする。画像解析を行う視野の数は、2視野以上であることが好ましく、4視野以上であることがより好ましく、10視野以上であることが更に好ましい。上述したような結晶粒の平均粒径を算出する一連の操作は、画像解析ソフトウェアを用いて行ってもよい。画像解析ソフトウェアとしては、画像解析式粒度分布ソフトウェア(株式会社マウンテック社製「Mac−View」)を好適に用いることができる。
上記第二単位層は、1層あたりの厚みが100nm以上3μm以下であることが好ましく、200nm以上1μm以下であることがより好ましい。このようにすることで、上記表面被覆切削工具は優れた耐剥離性を有することに加えて、優れた耐摩耗性を有することが可能になる。当該厚みは、例えば、上述したような上記表面被覆切削工具の断面を透過型電子顕微鏡を用いて倍率10000倍で観察することで測定可能である。
(第一単位層)
本実施形態において、第一単位層は、立方晶型のAl(TiβCr1−β1−c−dNの結晶粒を含む。すなわち、上記第一単位層は、多結晶のAl(TiβCr1−β1−c−dNを含む層である。また、上記第一単位層は、六方晶型のAl(TiβCr1−β1−c−dNの結晶粒を含まない。本実施形態の一側面において、上記第一単位層は、立方晶型のAl(TiβCr1−β1−c−dNの結晶粒のみからなっていてもよい。
本実施形態において、Al(TiβCr1−β1−c−dNの組成は、上記第二単位層におけるAl(TiαCr1−α1−a−bNの組成と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
立方晶型のAl(TiβCr1−β1−c−dNの結晶粒は、例えば、上述した電子線回折により得られる回折パターンにより識別される(例えば、図5A参照)。なお、上記第一単位層に六方晶型のAl(TiβCr1−β1−c−dNの結晶粒が極微量含まれていたとしても、上述の回折パターンにおいて、上記六方晶型に対応するパターン(図5Bにおける矢印で示されているパターン)が観察されない場合は、「第一単位層は、六方晶型のAl(TiβCr1−β1−c−dNの結晶粒を含まない」と判断する。
上記Al(TiβCr1−β1−c−dNにおいて、ZはSi、Nb、Mo、Ta、W及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。上記Zは、上記Xと同一の元素であってもよいし、異なる元素であってもよい。
上記Zは、Al、Ti及びCrに対して原子半径の差が大きい元素を選択することが好ましい。このようにすることで、Al(TiβCr1−β1−c−dNの結晶粒に歪みが生じやすくなり、ひいては靱性が向上する傾向がある。本実施形態の一側面において上記Zは、Si又はNbを含むことが好ましい。
上記Al(TiβCr1−β1−c−dNにおいて、cは0.5を超えて0.8未満であり、0.55以上0.65以下であることが好ましい。上記cは、上述の断面サンプルをTEM−EDXで、第一単位層の全体を元素分析することによって求めることが可能である。
上記Al(TiβCr1−β1−c−dNにおいて、dは0.2を超えて0.5未満であり、0.35以上0.45以下であることが好ましい。上記dは、上述の断面サンプルをTEM−EDXで、第一単位層の全体を元素分析することによって求めることが可能である。
上記Al(TiβCr1−β1−c−dNにおいて、1−c−dは0を超えて0.1未満であり、0.01以上0.05以下であることが好ましい。Zが2種以上の元素を含む場合、上述の1−c−dの値は、上記2種以上の元素の合計の値を意味する。上記1−c−dの値は、上記c及び上記dの値を1から減ずることで求められる。
上記Al(TiβCr1−β1−c−dNにおいて、βは0以上1以下であり、0.3以上0.7以下であることが好ましい。βの値が小さい場合、上記第一単位層の耐熱性が向上する傾向がある。βの値が大きい場合、上記第一単位層の硬度が向上する傾向がある。上記βは、上述の断面サンプルをTEM−EDXで、第一単位層の全体を元素分析することによって求めることが可能である。
Al(TiβCr1−β1−c−dNで表される化合物としては、例えば、AlTiSiN、AlCrSiN、Al(TiCr)SiN、AlTiNbN、AlCrNbN、Al(TiCr)NbN、及びAl(TiCr)BN等が挙げられる(ただし、具体的な化合物中のc、d及びβで示される添え字は省略した。)。
上記第一単位層における、立方晶型のAl(TiβCr1−β1−c−dNの結晶粒の平均粒径は、2nm以上20nm以下であることが好ましく、5nm以上14nm以下であることがより好ましい。このように規定することで、上記表面被覆切削工具は更に優れた耐剥離性を有することに加えて、優れた耐摩耗性を有することが可能になる。当該平均粒径は、例えば、上述したような上記表面被覆切削工具の断面を透過型電子顕微鏡を用いて倍率200万倍で観察することで測定可能である。具体的には、上記Al(TiαCr1−α1−a−bNの結晶粒の平均粒径を求める場合と同様に、当該断面の撮影画像から、個々の結晶粒の粒径(Heywood径:等面積円相当径)を算出し、その平均値をAl(TiβCr1−β1−c−dNの結晶粒の平均粒径とする。
上記第一単位層は、1層あたりの厚みが100nm以上3μm以下であることが好ましく、200nm以上1μm以下であることがより好ましい。このようにすることで、上記表面被覆切削工具は優れた耐チッピング性を有することに加えて、優れた耐摩耗性を有することが可能になる。当該厚みは、例えば、上述したような上記表面被覆切削工具の断面を透過型電子顕微鏡を用いて倍率10000倍で観察することで測定可能である。
(多層構造)
上記第一単位層及び上記第二単位層は、それぞれが交互に1層以上積層された多層構造を形成しており(例えば、図3)、上記多層構造において、上記第一単位層及び上記第二単位層はそれぞれ1層以上10層以下含まれることが好ましい。このようにすることで、上記表面被覆切削工具は更に優れた耐摩耗性を有することに加えて、優れた耐摩耗性を有することが可能になる。ここで上記多層構造は、上記第二単位層から積層を開始する。すなわち、上記多層構造における最下層は上記第二単位層である。一方、上記多層構造における最外層は、上記第一単位層又は上記第二単位層のどちらであってもよい。ここで、「最外層」とは、上記被覆層を構成する層のうち、上記基材から最も離れた層を意味する。
(中間層)
本実施形態に係る表面被覆切削工具が奏する効果を維持する限り、上記第一単位層121と上記第二単位層122との間に中間層123が設けられていてもよい(図4)。上記多層構造において、上記第一単位層及び上記第二単位層がそれぞれ2層以上含まれている場合、上記中間層は、複数ある上記第一単位層と上記第二単位層との界面のうち、1つの界面だけに設けられていてもよいし、複数の界面に設けられていてもよい。上記中間層は、例えば、AlCrNで表される化合物からなる層であってもよい。上記中間層の厚みは、例えば、0.1μm以上1μm以下であることが挙げられる。
(他の層)
本実施形態の効果を損なわない限り、上記被膜は、他の層を更に含んでいてもよい。上記他の層としては、例えば、上記基材と上記被覆層との間に設けられている下地層及び上記被覆層上に設けられている表面層等が挙げられる。上記下地層は、例えば、TiWNで表される化合物からなる層であってもよい。上記表面層は、例えば、TiCNで表される化合物からなる層であってもよい。上記他の層の厚みは、本実施形態の効果を損なわない範囲において、特に制限はないが例えば、0.1μm以上2μm以下が挙げられる。
≪表面被覆切削工具の製造方法≫
本実施形態に係る表面被覆切削工具の製造方法は、
上記基材を準備する工程(以下、「第1工程」という場合がある。)と、
物理的蒸着法を用いて、上記基材上に上記被覆層を形成する工程(以下、「第2工程」という場合がある。)と、を含み、
上記被覆層は、上記第一単位層と、上記第二単位層とを含み、
上記被覆層は、最下層が上記第二単位層である。
物理蒸着法とは、物理的な作用を利用して原料(「蒸発源」、「ターゲット」ともいう。)を気化し、気化した原料を基材等の上に付着させる蒸着方法である。特に、本実施形態で用いる物理的蒸着法は、カソードアークイオンプレーティング法を用いる。
カソードアークイオンプレーティング法は、装置内に基材を設置するとともにカソードとしてターゲットを設置した後、このターゲットに高電流を印加してアーク放電を生じさせる。これにより、ターゲットを構成する原子を蒸発させイオン化させて、負のバイアス電圧を印可した基材上に堆積させて被膜を形成する。
<第1工程:基材を準備する工程>
第1工程では基材を準備する。例えば、基材として超硬合金基材が準備される。超硬合金基材は、市販の基材を用いてもよく、一般的な粉末冶金法で製造してもよい。一般的な粉末冶金法で製造する場合、例えば、ボールミル等によってWC粉末とCo粉末等とを混合して混合粉末を得る。該混合粉末を乾燥した後、所定の形状に成形して成形体を得る。さらに該成形体を焼結することにより、WC−Co系超硬合金(焼結体)を得る。次いで該焼結体に対して、ホーニング処理等の所定の刃先加工を施すことにより、WC−Co系超硬合金からなる基材を製造することができる。第1工程では、上記以外の基材であっても、この種の基材として従来公知のものであればいずれも準備可能である。
<第2工程:被覆層を形成する工程>
第2工程では、物理的蒸着法を用いて、上記基材上に上記被覆層を形成する。その方法としては、形成しようとする被覆層の組成に応じて、各種の方法が用いられる。例えば、Ti、Cr及びAl等の粒径をそれぞれ変化させた合金製ターゲットを使用する方法、それぞれ組成の異なる複数のターゲットを使用する方法、成膜時に印可するバイアス電圧をパルス電圧とする方法、成膜時にガス流量を変化させる方法、又は、成膜装置において基材を保持する基材ホルダの回転速度を調整する方法等を挙げることができる。
例えば、第2工程は、次のようにして行なうことができる。まず、成膜装置のチャンバ内に、基材として任意の形状のチップを装着する。例えば、基材を、成膜装置のチャンバ内において中央に回転可能に備え付けられた回転テーブル上の基材ホルダの外表面に取り付ける。基材ホルダには、バイアス電源を取り付ける。上記基材をチャンバ内の中央で回転させた状態で、反応ガスとして窒素ガス等を導入する。さらに、基材を温度300〜400℃(第二単位層の場合)又は550〜650℃(第一単位層の場合)に、反応ガス圧を3〜6Paに、バイアス電源の電圧を−50〜−30V(直流電源)の範囲にそれぞれ維持しながら、第一単位層形成用の蒸発源又は第二単位層形成用の蒸発源に100〜200Aのアーク電流を供給する。これにより、第一単位層形成用の蒸発源又は第二単位層形成用の蒸発源から金属イオンを発生させ、所定の時間が経過したところでアーク電流の供給を止めて、基材の表面上に被覆層(第一単位層及び第二単位層)を形成する。このとき、成膜時間を調節することにより、被覆層の厚みが所定範囲になるように調整する。上記第2工程は、切削加工に関与する部分(例えば、切れ刃付近のすくい面)に加えて、切削加工に関与する部分以外の上記基材の表面上に被覆層が形成されていてもよい。
本実施形態では、温度300〜400℃において第二単位層を形成する。そのため、上記第二単位層は立方晶と六方晶とを含む構成となる。さらに、温度550〜650℃において第一単位層を形成する。そのため上記第一単位層は立方晶を含む構成となる。本実施形態では、第二単位層を先に形成する。一方、最後は第一単位層又は第二単位層のいずれかを形成することで、被覆層の形成が完了する。こうすることで上記被覆層における最下層が上記第二単位層となる。
(第二単位層の原料)
上記第2工程において、第二単位層の原料は、Ti及びCrのいずれか1種又はその両方、並びにAlを含む。上記第二単位層の原料は、Si、Nb、Mo、Ta、W及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種(上述のXで表される元素)を更に含む。上記第二単位層の原料は、粉末状であってもよいし、平板状であってもよい。
上記Alの含有割合(原子数比)は、第二単位層の原料全体を1とした場合、0.5を超えて0.8以下であることが好ましく、0.65以上0.75以下であることがより好ましい。ここで、原料全体に対する上記Alの含有割合は、通常、第二単位層における上記Alの組成比に対応する。後述するTi、Cr及び上記Xで表される元素等の他の元素についても同様である。
上記Tiと上記Crとの合計の含有割合(原子数比)は、第二単位層の原料全体を1とした場合、0.17以上0.5未満であることが好ましく、0.25以上0.35以下であることがより好ましい。
ここで、上記Tiと上記Crとの合計に対する上記Tiの含有割合(原子数比)は、上記Tiと上記Crとの合計を1とした場合、0以上1以下であることが好ましく、0.3以上0.7以下であることがより好ましい。
上記Xで表される元素の含有割合(原子数比)は、第二単位層の原料全体を1とした場合、0を超えて0.1未満であることが好ましく、0.01以上0.05以下であることがより好ましい。
(第一単位層の原料)
上記第2工程において、第一単位層の原料は、Ti及びCrのいずれか1種又はその両方、並びにAlを含む。上記第一単位層の原料は、Si、Nb、Mo、Ta、W及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種(上述のZで表される元素)を更に含む。上記第一単位層の原料の組成は、上記第二単位層の原料の組成と同一であってもよいし、異なっていてもよい。上記第一単位層の原料は、粉末状であってもよいし、平板状であってもよい。
上記Alの含有割合(原子数比)は、第一単位層の原料全体を1とした場合、0.5を超えて0.8未満であることが好ましく、0.55以上0.65以下であることがより好ましい。ここで、原料全体に対する上記Alの含有割合は、通常、第一単位層における上記Alの組成比に対応する。後述するTi、Cr及び上記Zで表される元素等の他の元素についても同様である。
上記Tiと上記Crとの合計の含有割合(原子数比)は、第一単位層の原料全体を1とした場合、0.2を超えて0.5未満であることが好ましく、0.35以上0.45以下であることがより好ましい。
ここで、上記Tiと上記Crとの合計に対する上記Tiの含有割合(原子数比)は、上記Tiと上記Crとの合計を1とした場合、0以上1以下であることが好ましく、0.3以上0.7以下であることがより好ましい。
上記Zで表される元素の含有割合(原子数比)は、第一単位層の原料全体を1とした場合、0を超えて0.1未満であることが好ましく、0.01以上0.1以下であることがより好ましい。
本実施形態の一側面において、第一単位層と第二単位層との間に中間層を形成させてもよい。中間層の原料としては、例えば、AlCrNが挙げられる。
本実施形態において、上述した反応ガスは、上記被覆層の組成に応じて適宜設定される。上記反応ガスとしては、例えば、窒素ガス等が挙げられる。
被覆層を形成した後、上記被覆層に圧縮残留応力を付与してもよい。靭性が向上するからである。圧縮残留応力は、例えばブラスト法、ブラシ法、バレル法、イオン注入法等によって付与することができる。
<その他の工程>
本実施形態に係る製造方法では、上述した工程の他にも、第1工程と第2工程との間に、上記基材の表面をイオンボンバードメント処理するイオンボンバードメント処理工程、基材と上記被覆層との間に下地層を形成する下地層被覆工程、上記被覆層の上に表面層を形成する表面層被覆工程及び、表面処理する工程等を適宜行ってもよい。上述の下地層及び表面層等の他の層を形成する場合、従来の方法によって他の層を形成してもよい。具体的には、例えば、上述したPVD法によって上記他の層を形成することが挙げられる。表面処理をする工程としては、例えば、弾性材にダイヤモンド粉末を担持させたメディアを用いた表面処理等が挙げられる。上記表面処理を行う装置としては、例えば、株式会社不二製作所製のシリウスZ等が挙げられる。
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
≪切削工具の作製≫
<基材の準備>
まず、被膜を形成させる対象となる基材として、表面被覆フライス加工用超硬チップ(JIS規格、P30相当超硬合金、SEMT13T3AGSN−G)を準備した(第1工程:基材を準備する工程)。
<イオンボンバードメント処理>
後述する被膜の作製に先立って、以下の手順で上記基材の表面にイオンボンバードメント処理を行った。まず、上記基材をアークイオンプレーティング装置にセットした。次に、以下の条件によってイオンボンバードメント処理を行った。
ガス組成 : Ar(100%)
ガス圧 : 0.5Pa
バイアス電圧: −600V(直流電源)
処理時間 : 60分
<被膜の作製>
イオンボンバードメント処理を行った上記基材の表面上に、被覆層、並びに必要に応じて下地層、中間層及び表面層を形成することによって、被膜を作製した。以下、被覆層、下地層、中間層及び表面層の作製方法について説明する。
(被覆層の作製)
試料No.1〜42においては、基材をチャンバ内の中央で回転させた状態で、反応ガスとして窒素ガスを導入した。さらに、基材を温度400℃(第二単位層の場合)又は550℃(第一単位層の場合)に、反応ガス圧を6.0Paに、バイアス電源の電圧を−50V(直流電源)にそれぞれ維持して第一単位層形成用の蒸発源または第二単位層用の蒸発源にそれぞれ150Aのアーク電流を供給した。これにより、第一単位層形成用の蒸発源または第二単位層形成用の蒸発源から金属イオンを発生させ、基材の表面上に表3及び表4に示す組成の被覆層を形成した(第2工程:被覆層を形成する工程)。ここで、第一単位層形成用の蒸発源または第二単位層形成用の蒸発源は、表1及び表2に記載の原料組成のものを用いた。
(下地層、中間層又は表面層の作製)
試料No.37については、通常のPVD法を用いて基材と上記被覆層との間にTiWNで示される化合物からなる下地層を形成した。試料No.38については、通常のPVD法を用いて第一単位層と第二単位層との間にAlCrNで示される化合物からなる中間層を1層形成した。言い換えると、試料No.38における被膜は、1層の中間層を含む構成とした。試料No.39については、通常のPVD法を用いて被覆層の表面上にTiCNで示される化合物からなる表面層を形成した。
以上の工程によって、試料No.1〜42の表面被覆切削工具を作製した。
≪切削工具の特性評価≫
上述のようにして作製した試料No.1〜42の切削工具を用いて、以下のように、切削工具の各特性を評価した。なお、試料No.1〜39の切削工具は実施例に対応し、試料No.40〜42の切削工具は比較例に対応する。
<被膜を構成する各層の厚みの測定>
被膜を構成する各層の厚み(すなわち、被覆層(第一単位層、第二単位層)、下地層、中間層及び表面層それぞれの厚み)は、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子株式会社製、商品名:JEM−2100F)を用いて、基材の表面の法線方向に平行な断面サンプルにおける任意の10点を測定し、測定された10点の厚みの平均値をとることで求めた。このときの観察倍率は、10000倍であった。結果を表3及び表4に示す。表3及び表4における被覆層の「合計厚み」について例えば、試料No.18の「6μm×3」の表記は、1層の第一単位層(3μm)と1層の第二単位層(3μm)とからなる層構造(合計6μm)が3回繰り返されていることを意味している。すなわち、上記第一単位層及び上記第二単位層は、それぞれが交互に1層以上積層された多層構造を形成しており、上記多層構造において、上記第一単位層及び上記第二単位層はそれぞれ3層含まれる。なお、表4に示されていないが、試料No.37における下地層の厚み、試料No.38における中間層の厚み及び試料No.39における表面層の厚みは、それぞれ500nmであった。
<被膜を構成する各層の組成分析>
被膜を構成する各層の組成は、TEMに付帯のエネルギー分散型X線分光法(TEM−EDX)で、各層の全体を分析することによって求めた。具体的には、上記断面サンプルを用いて、組成分析の対象となる層における任意の10点それぞれを、TEM−EDXで測定して各構成元素の組成比を算出した。このときの観察倍率は、20000倍であった。各構成元素について、求められた10点の組成比の平均値を当該組成分析の対象となる層における当該構成元素の組成比とした。ここで当該「任意の10点」は、上記組成分析の対象となる層中の互いに異なる結晶粒から選択した。EDX装置としては、日本電子株式会社製のJED−2300(商品名)を用いた。求められた各層の組成を表3及び表4に示す。
また、TEM−EDXで被覆層を分析することによって、被覆層における最外層が第一単位層であるのか、第二単位層であるのかを同定した(表3及び表4)。
<第一単位層及び第二単位層の電子線回折分析>
第一単位層及び第二単位層について電子線回折法による分析を行って、各層に含まれる結晶型について分析した。立方晶のみの回折パターン(例えば、図5A)と、立方晶と六方晶を含む回折パターン(例えば、図5B)により同定を行った。結果を表5及び表6に示す。
<第一単位層及び第二単位層それぞれにおける結晶粒の平均粒径>
第一単位層及び第二単位層それぞれにおける結晶粒の平均粒径は、上記断面サンプルをTEMを用いて倍率200万倍で観察することで測定した。具体的には、当該断面の撮影画像から、個々の結晶粒の粒径(Heywood径:等面積円相当径)を算出し、その平均値を当該結晶粒の平均粒径とした。測定する結晶粒の数は、10個とした。また、被覆層は、複数の第一単位層及び第二単位層が含まれているため、以下のようにして当該結晶粒の平均粒径を求めた。まずそれぞれの第一単位層(又はそれぞれの第二単位層)において上記画像解析を行い各第一単位層(又は第二単位層)における結晶粒の平均粒径を求めた。次に、各第一単位層(又は各第二単位層)で求められた結晶粒の平均粒径の平均値を求めた。求められた平均値を測定対象の層における結晶粒の平均粒径とした。画像解析を行う視野の数は、4視野とした。上述した結晶粒の平均粒径を算出する一連の操作は、画像解析ソフトウェア(株式会社マウンテック社製「Mac−View」)を用いて行った。結果を表5及び表6に示す。
<第二単位層の硬度及びヤング率>
「ISO 14577−1: 2015 Metallic materials−Instrumented indentation test for hardness and materials parameters−」において定められている標準手順によるナノインデンテーション法によって、各切削工具における第二単位層の硬度とヤング率とを測定した。ここで、押し込み深さは100nmに設定した。第二単位層の上に他の層が形成されている場合は、研磨によって第二単位層を露出させてから測定した。測定装置は、株式会社エリオニクス製のENT−1100(商品名)を用いた。結果を表5及び表6に示す。
≪切削試験≫
<フライス加工試験>
上述のようにして作製した試料No.1〜42の切削工具を用いて、以下の切削条件により切削工具に欠損が発生するまでの切削距離を測定した。その結果を表5及び表6に示す。切削距離が長いほど耐剥離性に優れる切削工具として評価することができる。
切削条件
被削材 :SUS316
切削速度 :150m/min
送り量 :0.2mm/t
切込み量(ap):2mm、dry
切削試験について、表5及び表6の結果から試料No.1〜39の切削工具は、切削距離が2.2m以上の良好な結果が得られた。一方試料No.40〜42の切削工具は、切削距離が1.5m未満であった。以上の結果から、試料No.1〜39の切削工具は、耐剥離性に優れることが分かった。
以上のように本発明の実施形態及び実施例について説明を行なったが、上述の各実施形態及び各実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
今回開示された実施の形態及び実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態及び実施例ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1a すくい面
1b 逃げ面
1c 刃先部
10 表面被覆切削工具
11 基材
12 被覆層
13 下地層
14 表面層
20 被膜
121 第一単位層
122 第二単位層
123 中間層。

Claims (7)

  1. 基材と、前記基材上に設けられている被覆層とを含む表面被覆切削工具であって、
    前記被覆層は、第一単位層と、第二単位層とを含み、
    前記被覆層は、最下層が前記第二単位層であり、
    前記第二単位層は、立方晶型のAl(TiαCr1−α1−a−bNの結晶粒及び六方晶型のAl(TiαCr1−α1−a−bNの結晶粒を含み、
    前記第一単位層は、立方晶型のAl(TiβCr1−β1−c−dNの結晶粒を含み、
    前記第一単位層は、六方晶型のAl(TiβCr1−β1−c−dNの結晶粒を含まず、
    前記Al(TiαCr1−α1−a−bNにおいて、XはSi、Nb、Mo、Ta、W及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、aは0.5を超えて0.8未満であり、bは0.2以上0.5未満であり、1−a−bは0を超えて0.1未満であり、αは0以上1以下であり、
    前記Al(TiβCr1−β1−c−dNにおいて、ZはSi、Nb、Mo、Ta、W及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、cは0.5を超えて0.8未満であり、dは0.2を超えて0.5未満であり、1−c−dは0を超えて0.1未満であり、βは0以上1以下である、表面被覆切削工具。
  2. 前記第二単位層の硬度Hは28GPa以上60GPa以下であり、前記第二単位層のヤング率Eは280GPa以上860GPa以下であり、前記第二単位層における前記ヤング率Eに対する前記硬度Hの比H/Eが0.07以上0.1以下である、請求項1に記載の表面被覆切削工具。
  3. 前記第二単位層における、立方晶型のAl(TiαCr1−α1−a−bNの結晶粒及び六方晶型のAl(TiαCr1−α1−a−bNの結晶粒の平均粒径は、2nm以上20nm以下である、請求項1又は請求項2に記載の表面被覆切削工具。
  4. 前記第一単位層における、立方晶型のAl(TiβCr1−β1−c−dNの結晶粒の平均粒径は、2nm以上20nm以下である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
  5. 前記第一単位層及び前記第二単位層は、それぞれが交互に1層以上積層された多層構造を形成しており、前記多層構造において、前記第一単位層及び前記第二単位層はそれぞれ1層以上10層以下含まれる、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
  6. 前記第一単位層は、1層あたりの厚みが100nm以上3μm以下である、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
  7. 前記第二単位層は、1層あたりの厚みが100nm以上3μm以下である、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
JP2019152250A 2019-08-22 2019-08-22 表面被覆切削工具 Pending JP2021030357A (ja)

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