JP2021024852A - 機能不全ミトコンドリアを消去するための複合体、および細胞老化を抑制するための複合体 - Google Patents

機能不全ミトコンドリアを消去するための複合体、および細胞老化を抑制するための複合体 Download PDF

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Abstract

【課題】老化細胞を死滅させずに酸化傷害(細胞老化関連分泌形質:SASP)を抑制し、機能回復を狙うための複合体、該複合体を含む医薬組成物の提供。【解決手段】機能不全ミトコンドリア除去のためのミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤を対象細胞に共送達するための複合体に関する。当該複合体は、ミトコンドリア膜電位低下剤と細胞機能(細胞周期)回復のためのp53阻害剤の共送達が可能なキャリアを含む複合体を提供する。また、当該複合体を含む医薬組成物に関する。さらに、ミトコンドリア膜電位低下剤およびp53阻害剤を複合化するための複合化剤に関する。【選択図】なし

Description

本出願は、ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤を対象細胞に共送達するための複合体に関する。当該複合体は、ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤の共送達が可能なキャリア、ミトコンドリア膜電位低下剤、およびp53阻害剤を含む。本出願はまた、当該複合体を含む医薬組成物に関する。本出願はさらに、ミトコンドリア膜電位低下剤およびp53阻害剤を複合化するための複合化剤に関する。
正常細胞は細胞分裂を繰り返しながら成長・増殖するが、幹細胞等を除く一般的な細胞は分裂回数に上限が決まっており、その上限に達すると不可逆的な細胞分裂の停止が引き起こされる。細胞分裂ごとに染色体の末端にあるテロメアが短小し、テロメア領域が短くなるとDNA損傷シグナルが活性化され細胞周期を停止させる。
しかし、細胞分裂を繰り返す過程で、活性酸素種(ROS)や炎症物質、放射線等の外因性ストレスによりDNAがダメージを受けると、テロメアの短小を待たずに細胞分裂の不可逆的な停止が引き起こされる。この現象は(早期)細胞老化(cellular senescence)と呼ばれ、上記の細胞分裂回数の増加に伴う継代老化(replicative senescence)とは異なる。
細胞老化は、DNA修復酵素やアポトーシス(プログラム的細胞死)と並び、DNAダメージやミトコンドリア障害により変異した遺伝子が蓄積して生じるがん化からの防御機構の一つとして働いている。特にミトコンドリアの機能不全が細胞の老化に大きく関わることが明らかになってきた(非特許文献1)。
ところが、細胞老化を引き起こした細胞(老化細胞)は正常細胞とは異なり、アポトーシスによる細胞の死滅が行われないため体内に蓄積され、細胞老化関連分泌形質(SASP)により多量の炎症性物質(炎症性サイトカイン)や過剰量の活性酸素種(ROS)を細胞や組織に放出し続ける。その結果、自身の細胞老化の亢進に加え周辺細胞へも影響を与え、体内にSASPを発する老化細胞が多量に増える。それにより更なるSASPが引き起こされ、過剰な炎症作用が起こり、細胞組織等は機能障害を誘発され、アルツハイマーやパーキンソン病、糖尿病、動脈硬化や心臓疾患等を含む様々な老化関連疾患や炎症性疾患を引き起こして個体の老化を誘発する原因の一つとなっていることが明らかとされている。
このように、元来がん化からの防御機構の1つであると考えられていた細胞老化は、その老化レベルが進行するにつれて老化関連疾患を有することになる。従って、老化関連疾患の発症・進行・誘発を防ぎ治療するためには、細胞老化を抑制することが不可欠かつ有効な手段である。
現在、細胞老化を抑制する方法として、老化細胞を特異的に死滅させる老化細胞融解剤(老化細胞除去薬もしくは老化細胞死誘導剤:senolytics)の開発が行われている(非特許文献2)。
しかしながら、上述の非特許文献の提案にかかる老化細胞除去薬もしくは老化細胞死誘導剤(senolytics)を用いる治療法では、過剰な細胞死により、組織や臓器の機能低下が引き起こされ、免疫不全症候群やパーキンソン病などの神経変性疾患等を誘発する重篤な副作用が懸念される。
そのため、老化細胞を死滅させずにSASPを減少させ、細胞機能維持や機能回復を起こす手法の確立が必要であり、それを可能とする治療法や治療薬(細胞老化抑制剤:senostatics)の開発が要望されている(非特許文献3)。
Ermolaeva, M. et al., Nature Reviews Molecular Cell Biology, 19, 594-610 (2018). Kirkland, J. L. et al., EBioMedicine, 21, 21-28 (2017). Short, S. et al., EBioMedicine, 41, 683-692 (2019).
上述のように、細胞老化に伴う機能不全ミトコンドリアの蓄積と老化細胞による酸化傷害(細胞老化関連分泌形質:SASP)を抑制するために、老化細胞融解剤を用いた細胞の死滅が行われているが、この方法では過剰な細胞死により、神経変性症や免疫不全症を含む重篤な副作用が懸念される。そのため、老化細胞を死滅させずにSASPを抑制し、機能回復を狙う必要があり、機能不全ミトコンドリアの除去と老化細胞による酸化傷害の抑制を同時に治療することを可能にするための、新しい治療法の開発が求められている。
本出願は、細胞老化が関わる老化関連疾患に対して、先ずは機能不全ミトコンドリアの除去を行う。機能不全ミトコンドリアの蓄積が老化細胞による酸化傷害(SASP)を誘発するため、その除去が可能となれば、酸化傷害の抑制も同時に行うことができる。さらに細胞老化で見られる細胞周期の停止などの回復にも繋がり、最終的には細胞老化の抑制が可能となる。本出願は、ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤を対象細胞に共送達するための複合体を提供する。当該複合体は、ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤の共送達が可能なキャリア、ミトコンドリア膜電位低下剤、およびp53阻害剤を含む。本出願はまた、当該複合体を含む医薬組成物を提供する。本出願はさらに、ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤を複合化するための複合化剤を提供する。
本発明者らは、上記課題を解決するための、細胞老化が関わる老化関連疾患の治療戦略について鋭意研究を行った。細胞老化が関わる老化関連疾患の病理メカニズムとして、マイトファジー不活性化による異常ミトコンドリアの蓄積が提唱されている。このことから、本発明者らは老化関連疾患の治療のために、ミトコンドリア膜電位の低下によるマイトファジーの再活性化および細胞老化誘導因子p53の阻害による細胞機能(細胞周期)の回復という2種類のターゲットを同時に治療する戦略について検討した。そのために、機能不全ミトコンドリア除去のためのミトコンドリア膜電位低下剤、細胞機能(細胞周期)回復のためのp53阻害剤、および当該ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤の共送達が可能なキャリア、を含む複合体を用いたところ、老化モデル細胞(ヒト線維芽細胞であるWI−38に過酸化水素を用いて処理を施して作製)において優れたマイトファジーによる異常ミトコンドリアの排除・マイトファジー誘発効果および細胞周期の回復効果・細胞老化抑制効果が観察された。当該知見に基づいて、本発明は完成された。
すなわち、一態様において、本発明は以下のとおりであってよい。
[1] ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤を対象細胞に共送達するための複合体であって、ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤の共送達が可能なキャリア、ミトコンドリア膜電位低下剤、およびp53阻害剤を含む、前記複合体。
[2] ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤の共送達が可能なキャリアがリポソームである、上記[1]に記載の複合体。
[3] リポソームがカチオン性リポソームであり、当該カチオン性リポソームは、以下

N−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウム(DOTMA);
ジドデシルジメチルアンモニウム ブロミド(DDAB);
1,2−ジオレオイルオキシ−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP);
1,2−ジステアロイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DSTAP);
ジオレオイル−3−ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP);
ジオクタデシル−ジメチルアンモニウム クロリド(DODAC);
1,2−ジミリストイルオキシプロピル−3−ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE);
2,3−ジオレイルオキシ−N−[2−(スペルミンカルボキサミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパナミウム トリフルオロアセテート(DOSPA);
3β−N−(N’,N’−ジメチル−アミノエタン−カルバモイル−コレステロール)(DC−Chol);および
O,O’−ジテトラデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミン クロリド;
からなる群より選択される少なくとも1つのカチオン性脂質、および以下:
ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE);
ジアシルホスファチジルエタノールアミン;
ジアシルホスファチジルコリン;
リゾホスファチジルコリン;
ジアシルホスファチジルグリセロール;
ジアシルホスファチジン酸;
ジアシルホスファチジルセリン;
スフィンゴミエリン;
セラミド;
ジアシルグリセロール;および
コレステロール;
からなる群より選択される少なくとも1つの非カチオン性脂質(ここで非カチオン性脂質に含まれるアシル基は、炭素数が12〜20の飽和または不飽和アシル基である)、により構成される、上記[2]に記載の複合体。
[4] ミトコンドリア膜電位低下剤がポルフィリン系ミトコンドリア膜電位低下剤であり、当該ポルフィリン系ミトコンドリア膜電位低下剤は、
下記式(I)で表されるカチオン性金属ポルフィリン錯体:
(式中、
は、遷移金属元素または卑金属元素を示し、
は、以下:
からなる群より選択される基を示し、式中、R、R、R、およびRは、それぞれ同一または異なる基であって、それぞれ水素、アルキル基およびアルコキシ基からなる群より選択される基を示し、
、R、およびRは、それぞれ同一または異なる基であって、それぞれ以下:
からなる群より選択される基を示し、式中、Rは、それぞれ同一または異なる基であって、それぞれ水素、アルキル基、およびアルコキシ基からなる群より選択される基を示す)
である、上記[1]ないし[3]のいずれか1項に記載の複合体。
[5] p53阻害剤が、以下:
ピフィスリン−α臭化水素酸塩(PFT−α、別名:2−(2−ルミノ−4,5,6,7−テトラヒドロベンゾチアゾール−3−イル)−1−p−トリルエタノン ヒドロブロミ
ド);
ピフィスリン−μ(PFT−μ、別名:ピフィトリン-μ、2−フェニルエチンスルホンアミド);および
p−ニトロピフィスリン−α臭化水素酸塩(p−nitro−PFT−α、別名:1−(4−ニトロフェニル)−2−(4,5,6,7−テトラヒドロ−2−イミノ−3(2H)−ベンゾチアゾール)エタノン ヒドロブロミド);
からなる群より選択される、上記[1]ないし[4]のいずれか1項に記載の複合体。
[6] プラスミドDNAをさらに含む、上記[1]〜[5]のいずれか1項に記載の複合体。
[7] 上記[1]ないし[6]のいずれか1項に記載の複合体を含む、医薬組成物。
[8] 細胞老化および/または老化関連疾患を治療するための医薬組成物であって、上記[1]ないし[6]のいずれか1項に記載の複合体を含む、前記医薬組成物。
[9] 細胞老化および/または老化関連疾患を治療するための医薬組成物であって、ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤の共送達が可能なキャリア、ミトコンドリア膜電位低下剤、およびp53阻害剤を含み、
ここで、ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤の共送達が可能なキャリアが、N−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウム(DOTMA)およびジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)で構成されるリポソームであり、
ミトコンドリア膜電位低下剤が、下記式(II):
で表されるカチオン性Mnポルフィリン錯体であり、そして
p53阻害剤が、下記式(III)、(IV)、または(V):
で表されるp53阻害剤(それぞれ、ピフィスリン−α(PFT−α)、ピフィスリン−μ(PFT−μ)、またはp−ニトロピフィスリン−α(p−nitro−PFT−α))である、
前記医薬組成物。
[10] プラスミドDNAをさらに含む、上記[9]に記載の医薬組成物。
[11] プラスミドDNAが、pGL3をコードするプラスミドDNAである、上記[10]に記載の医薬組成物。
[12] ミトコンドリア膜電位低下剤およびp53阻害剤を複合化するための複合化剤であって、カチオン性リポソームからなる群より選択され、ここでカチオン性リポソームは、以下:
N−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウム(DOTMA);
ジドデシルジメチルアンモニウム ブロミド(DDAB);
1,2−ジオレオイルオキシ−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP);
1,2−ジステアロイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DSTAP);
ジオレオイル−3−ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP);
ジオクタデシル−ジメチルアンモニウム クロリド(DODAC);
1,2−ジミリストイルオキシプロピル−3−ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE);
2,3−ジオレイルオキシ−N−[2−(スペルミンカルボキサミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパナミウム トリフルオロアセテート(DOSPA);
3β−N−(N’,N’−ジメチル−アミノエタン−カルバモイル−コレステロール)(DC−Chol);および
O,O’−ジテトラデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミン クロリド;
からなる群より選択される少なくとも1つのカチオン性脂質、および以下:
ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE);
ジアシルホスファチジルエタノールアミン;
ジアシルホスファチジルコリン;
リゾホスファチジルコリン;
ジアシルホスファチジルグリセロール;
ジアシルホスファチジン酸;
ジアシルホスファチジルセリン;
スフィンゴミエリン;
セラミド;
ジアシルグリセロール;および
コレステロール;
からなる群より選択される少なくとも1つの非カチオン性脂質(ここで非カチオン性脂質に含まれるアシル基は、炭素数が12〜20の飽和または不飽和アシル基である)、により構成されるものである、前記複合化剤。
[13] 細胞老化を抑制する方法であって、上記[1]〜[6]のいずれか1項に記載の複合体をインビトロで対象細胞と接触させて、細胞老化を抑制することを含む、前記方法。
[14] 細胞老化を抑制することが、細胞サイズ、細胞内部構造の複雑さ、ミトコンドリア膜電位、マイトファジー活性、細胞周期、細胞増殖、p53の発現、およびp21の発現から選択される1以上の指標により評価される細胞の老化の度合いを低減させることである、上記[13]に記載の方法。
[15] 上記[1]〜[6]のいずれか1項に記載の複合体を対象細胞と接触させて、老化細胞の割合が減少した細胞群を得る方法。
本発明の複合体は、対象細胞において、ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤の共送達により、機能不全ミトコンドリアの消去による細胞老化の改善と老化細胞から放出される細胞老化関連分泌形質の抑制を同時に行うことができるものである。したがって、本発明の複合体は、細胞老化と細胞老化関連分泌形質が病理に関わる老化関連疾患に対する根治治療のために有用である。
図1は、リポソームナノキャリアによる老化細胞のミトコンドリア膜電位に対する効果を、フローサイトメトリーにより評価した結果を示す図である。図1−1は、リポソームナノキャリアを添加4時間後に培地交換を行い、さらに24時間インキュベートした細胞における結果を示す。 図1は、リポソームナノキャリアによる老化細胞のミトコンドリア膜電位に対する効果を、フローサイトメトリーにより評価した結果を示す図である。図1−2は、リポソームナノキャリアを添加4時間後に培地交換を行い、さらに72時間インキュベートした細胞における結果を示す。 図2は、リポソームナノキャリアによる老化細胞の細胞サイズおよび内部構造の複雑さに対する効果を、フローサイトメトリーにより評価した結果を示す図である。 図3は、リポソームナノキャリアによる老化細胞におけるp53阻害効果を、ウェスタンブロットにより評価した結果を示す図である。 図4は、リポソームナノキャリアによる老化細胞におけるマイトファジーに対する効果を、ウェスタンブロットにより評価した結果を示す図である。 図5は、リポソームナノキャリアによる老化細胞中のp21発現に対する効果を、ウェスタンブロットにより評価した結果を示す図である。 図6は、リポソームナノキャリアによる老化細胞の細胞周期へ与える効果を、フローサイトメトリーにより評価した結果を示す図である。 図7は、p53阻害剤を変えたリポソームナノキャリアによる老化細胞の細胞増殖に与える効果を、アラマーブルーアッセイにより評価した結果を示す図である。 図8は、プラスミドDNAおよび凍結融解なしで調製されたMndMImPPおよびPFT−α含有リポソームナノキャリアによる老化細胞中のp21発現に対する効果を、ウェスタンブロットにより評価した結果を示す図である。
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本明細書で特段に定義されない限り、本発明に関連して用いられる科学用語および技術用語は、当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。
細胞老化に伴う機能不全ミトコンドリアの蓄積と老化細胞による酸化傷害(細胞老化関連分泌形質)を抑制するために、老化細胞融解剤を用いた細胞の死滅が行われている。しかし、この方法では過剰な細胞死により、神経変性症や免疫不全症を含む重篤な副作用が懸念される。そのため、老化細胞を死滅させずにSASPを抑制し、機能回復を狙う必要がある。
そこで本発明者らは、細胞老化の発症要因・細胞老化を誘発・更新する主要因の一つである「マイトファジー不活性化による機能障害を起こしたミトコンドリア(異常ミトコンドリア)の蓄積」に着目した。
マイトファジーとは、オートファジー(自食作用)を介した異常ミトコンドリアの選択的分解機構である。正常細胞内では、ミトコンドリアに機能障害が生じるとミトコンドリア膜電位の低下が誘発され、細胞質中に存在するPINK1が異常ミトコンドリアに集積し、それに続いてParkinが集積することにより、マイトファジーが誘発される。この機構によって、障害を受けた異常ミトコンドリアは細胞から排除される。
しかし、炎症性サイトカインや炎症性ケモカイン等のSASP因子やROS(活性酸素種)等の外因性刺激により障害を受けると、細胞質内に細胞老化誘導因子(およびがん抑制遺伝子)であるp53が過剰に発現する。細胞老化が亢進すると、細胞質中に過剰に発現したp53がParkinと結合することによって異常ミトコンドリアへのParkinの集積を阻害するため、上述のPINK1-Parkin経路によるマイトファジーが不活性化される。その結果、異常ミトコンドリアが細胞内に蓄積する。
このp53は、ストレス応答によりp21をアップレギュレーションする。p21はpRbの活性化を介して、細胞周期を正常に回すCDKファミリーの阻害剤として働き、細胞周期を不可逆的に停止させる。
変異体のミトコンドリアDNAを有する異常ミトコンドリアからは、過剰なROSの産生やSASP因子の分泌、炎症性サイトカインの放出が起こり、染色体異常(DNAダメージ)を亢進する。さらに、変異体ミトコンドリアDNAはグリコリシス(glycolysis)
と酸化的リン酸化(OXPHOS)のバランスを崩すことにより、エピジェネティクス補酵素の発現を変化させる。それにより、エピジェネティクス変異が引き起こされ、細胞老化の誘発に影響を与え、細胞老化が亢進する。
細胞内にDNAダメージが誘発されると、正のフィードバックとして、エピジェネティクに遺伝子発現を抑制するDNAメチル化酵素DNMT1の発現レベルが低下する。このDNMT1にはDNAのメチル化以外にもクロマチンにおいてエピジェネティクに遺伝子発現を制御するヒストンメチル化酵素G9aと結合し、G9a/GLPのプロテアソームに依存的なタンパク質分解が促進され、SASP遺伝子の転写制御領域におけるヒストンH3の9番目のリジン残基のジメチル化レベルの低下をひき起こす。その結果、SASP遺伝子の発現活性に関してはこの機構が関与している。
このように、マイトファジーの不活化による異常ミトコンドリアの蓄積は、細胞老化誘発の上流段階の概念であるため、老化細胞内に存在するp53の活性を阻害し、かつ異常ミトコンドリア膜電位の低下を亢進し、それに伴うParkin活性を向上させれば、マイトファジーを誘発することができ、細胞老化およびSASPの抑制に繋がると考えられる。
本発明者らは、老化細胞に対して特異的にマイトファジーを誘発するための2種類の薬剤を封入したリポソームナノキャリアを調製し、老化モデル細胞(ヒト線維芽細胞であるWI−38に過酸化水素を用いて処理を施して作製)に対するマイトファジー誘発効果および細胞老化抑制効果を評価した。
本発明者らは、老化細胞に対して特異的にマイトファジーを誘発するための2種類の薬剤を封入したリポソームナノキャリアの代表例として、まず、薬剤を送達するキャリアには高い細胞内取り込み能を有するカチオン性脂質であるN−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウム(DOTMA)と非カチオン性脂質(中性脂質)であるジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)で構成されるリポソームを選択した。そして、マイトファジーを誘発するための2種類の薬剤としては、マイトファジーの引き金となるミトコンドリア膜電位の低下を誘発する為に、ミトコンドリア指向性を有し、ミトコンドリア内にHを産生することが可能なイミダゾール型のカチオン性マンガンポルフィリン錯体(MndMImP )を選択するとともに、p53によるParkin阻害を抑制する為に、p53阻害剤であるピフィスリン−αを選択した。
これらの材料により、ミトコンドリア膜電位低下能を有するカチオン性マンガンポルフィリン錯体とp53阻害剤を同一細胞中に共送達可能なリポソームナノキャリアを、ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤を対象細胞に共送達するための複合体として合成し、老化細胞のミトコンドリアにおけるマイトファジーの誘発、およびそれによる細胞老化の抑制を試みた。その結果、上記の複合体は、ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤を対象細胞への共送達により、ミトコンドリア膜電位低下剤による機能不全ミトコンドリアの消去と、p53阻害剤による改善を同時に達成することができるものであることを確認した。この知見に基づいて、以下の発明が完成された。
ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤を対象細胞に共送達するための複合体
一態様において、本出願は、ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤を対象細胞に共送達するための複合体であって、ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤の共送達が可能なキャリア、ミトコンドリア膜電位低下剤、およびp53阻害剤、を含む、前記複合体に関する。
ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤の共送達が可能なキャリア、ミトコンドリア膜電位低下剤、およびp53阻害剤としては、以下に詳述するものを用いることができる。
本明細書において、「対象細胞」とは、本発明の複合体を作用させる細胞をいう。細胞の種類は特に限定されないが、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、イヌ、霊長類、ヒト)の細胞である。好ましい態様において、対象細胞は老化した細胞である。老化した細胞は、細胞の肥大化(細胞サイズの増大)、細胞の高密度化、ミトコンドリア膜電位の低下、p21の発現増加、およびG2/M期における細胞周期の停止、から選択される細胞老化の指標の少なくとも一つを満たす細胞である。これらの細胞老化の指標は、当業者に周知の手法により、例えばフローサイトメトリーおよび/またはウェスタンブロットにより、計測することが可能である。
本明細書において「共送達」とは、ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤の共送達が可能なキャリアに複合体化されているミトコンドリア膜電位低下剤とp53の両方が、対象細胞内へ移行し、対象細胞内で作用することを意味する。
ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤の共送達が可能なキャリア、ミトコンドリア膜電位低下剤、およびp53阻害剤で構成される複合体を作製する手順は、これらの成分を含む複合体が形成される限りにおいて特に制限はない。先に任意の二つの成分で複合体を形成した後、残りの一つの成分をさらに追加して複合体を形成してもよい。あるいは、三つの成分すべてを同時に混合して複合体を形成してもよい。複合体を形成する条件は、当業者が適宜選択することができる。
例えば、ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤の共送達が可能なキャリアがリポソームである場合には、以下の手順により複合体を形成することができる。
1.リポソームを構成する脂質とp53阻害剤を先に有機溶媒中で混合した後、有機溶媒を留去して乾燥薄膜を得る;
2.得られた乾燥薄膜に、ミトコンドリア膜電位低下剤を含む水溶液を加え、超音波撹拌を行い、リポソームの分散液を得る。
このような手順で作成した複合体は、リポソームの脂質二重層の内部に疎水性の薬剤であるp53阻害剤を含み、リポソームの内水相に親水性の薬剤であるミトコンドリア膜電位低下剤を含む形態をとると考えられる。
ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤を対象細胞に共送達するための複合体は、さらにデオキシリボ核酸(DNA)を含んでいてもよい。DNAは、好ましくはプラスミドDNAであってよい。
DNAは、リポソームのカチオン性を弱めるために本発明の複合体にさらに複合化するものであってもよい。本発明の複合体または当該複合体を含む医薬組成物を医薬として対象に投与する場合には、リポソームのカチオン性が強いと細胞毒性を生じる可能性がある。本発明の複合体にDNAを含めることで、複合体全体としてのカチオン性を弱めることにより、そのような不利益を低減することが可能である。このような目的で用いられるDNAは、例えば、pGL3をコードするプラスミドDNAが挙げられる。
あるいは、DNAは、本発明の複合体を適用する対象において酵素またはタンパク質の発現量または活性を変調するために、本発明の複合体にさらに複合化するものであってもよい。この場合、本発明の複合体にさらに複合化されるDNAは、例えば、プラスミドDNAであって、酵素またはタンパク質をコードするDNA;対象において酵素またはタンパク質の発現を抑制するアンチセンス核酸または二本鎖RNAをコードするDNA;あるいは酵素またはタンパク質に結合する抗体またはそのフラグメントをコードするDNA;を含むプラスミドDNAが挙げられる。
ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤の共送達が可能なキャリア/ミトコンドリア膜電位低下剤およびp53阻害剤を複合化するための複合化剤
ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤の共送達が可能なキャリアは、ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤の両方を対象に投与する際に保持することができ、そしてミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤の両方を対象の細胞内に送達することができるキャリアであれば特に限定されない。ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤の共送達が可能なキャリアには、例えば、リポソームが含まれる。
ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤の共送達が可能なキャリアとして用いられるリポソームは、好ましくはカチオン性リポソームである。カチオン性リポソームは、少なくとも1つのカチオン性脂質により構成されるものであってもよい。あるいは、カチオン性リポソームは、少なくとも1つのカチオン性脂質と少なくとも1つの非カチオン性脂質により構成されるものであってもよい。
カチオン性リポソームを構成するカチオン性脂質は、特に限定されないが、以下:
N−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウム(DOTMA);
ジドデシルジメチルアンモニウム ブロミド(DDAB);
1,2−ジオレオイルオキシ−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP);
1,2−ジステアロイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DSTAP);
ジオレオイル−3−ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP);
ジオクタデシル−ジメチルアンモニウム クロリド(DODAC);
1,2−ジミリストイルオキシプロピル−3−ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE);
2,3−ジオレイルオキシ−N−[2−(スペルミンカルボキサミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパナミウム トリフルオロアセテート(DOSPA);
3β−N−(N’,N’−ジメチル−アミノエタン−カルバモイル−コレステロール)(DC−Chol);および
O,O’−ジテトラデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミン クロリド;
からなる群より選択されるものであってもよい。好ましいカチオン性脂質としては、N−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウム(DOTMA)が挙げられる。
カチオン性リポソームを構成する非カチオン性脂質は、特に限定されないが、以下:
ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE);
ジアシルホスファチジルエタノールアミン;
ジアシルホスファチジルコリン;
リゾホスファチジルコリン;
ジアシルホスファチジルグリセロール;
ジアシルホスファチジン酸;
ジアシルホスファチジルセリン;
スフィンゴミエリン;
セラミド;
ジアシルグリセロール;および
コレステロール;
からなる群より選択されるものであってもよく、ここで上記非カチオン性脂質に含まれるアシル基は、炭素数が12〜20の飽和または不飽和アシル基である。例えば、上記非カチオン性脂質に含まれるアシル基は、ドデカノイル基(ラウロイル基)、テトラデカノイル基(ミリストイル基)、ペンタデカノイル基、ヘキサデカノイル基(パルミトイル基)、9−ヘキサデセノイル基(パルミトレノイル基)、ヘプタデカノイル基(マルガロイル基)、オクタデカノイル基(ステアロイル基)、9−オクタデセノイル基(オレオイル基)、11−オクタデセノイル基(バクセノイル基)、9,12−オクタデカジエノイル基(リノレオイル基)、9,12,15−オクタデカントリエノイル基(9,12,15−リノレノイル基)、6,9,12−オクタデカトリエノイル基(6,9,12−リノレノイル基)、エイコサノイル基(アラキジノイル基)、8,11−エイコサジエノイル基、5,8,11−エイコサトリエノイル基、5,8,11−エイコサテトラエノイル基(アラキドノイル基)、などが挙げられる。好ましい非カチオン性脂質としては、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)が挙げられる。
好ましい態様において、上記ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤の共送達可能なキャリアは、N−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウム(DOTMA)およびジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)で構成されるリポソームである。
ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤の共送達が可能なキャリアとして用いられるリポソームの調製は、当業者に公知の手法により行うことができる。例えば、上記の少なくとも1つのカチオン性脂質と少なくとも1つの非カチオン性脂質をクロロホルムなどの有機溶媒に溶解させた後、有機溶媒を留去して乾燥薄膜を作製し、得られた乾燥薄膜に水(または水溶液)を加えて超音波撹拌を行い、リポソームをその分散液として得ることができる。
また、上記ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤の共送達可能なキャリアは、ミトコンドリア膜電位低下剤およびp53阻害剤を複合化するための複合化剤としても把握されるものである。
ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤の共送達が可能なキャリア、またはミトコンドリア膜電位低下剤およびp53阻害剤を複合化するための複合化剤は、さらにDNA、好ましくはプラスミドDNAを複合化可能、および/または送達可能なものであってもよい。
ミトコンドリア膜電位低下剤
本発明の複合体に含まれるミトコンドリア膜電位低下剤は、ミトコンドリア指向性でミトコンドリア膜電位低下能を有する化合物である限り特に限定されないが、例えば、ポルフィリン系ミトコンドリア膜電位低下剤であってもよい。
ポルフィリン系ミトコンドリア膜電位低下剤として、例えば、カチオン性金属ポルフィリン錯体が挙げられる。好ましい態様において、ポルフィリン系ミトコンドリア膜電位低下剤は、下記式(I):
(式中、
は、遷移金属元素または卑金属元素を示し、
は、以下:
からなる群より選択される基を示し、式中、R、R、R、およびRは、それぞれ
同一または異なる基であって、それぞれ水素、アルキル基およびアルコキシ基からなる群より選択される基を示し、
、R、およびRは、それぞれ同一または異なる基であって、それぞれ以下:
からなる群より選択される基を示し、式中、Rは、それぞれ同一または異なる基であって、それぞれ水素、アルキル基、およびアルコキシ基からなる群より選択される基を示す)
で表されるカチオン性金属ポルフィリン錯体であってもよい。
前記式(I)における中心金属Mは、遷移金属元素または卑金属元素であれば特に制限はない。遷移金属元素の例としては、マンガン原子、ニッケル原子、鉄原子、同原子、コバルト原子が挙げられる。卑金属元素の例としては、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アルミニウム原子、または亜鉛原子が挙げられる。好ましい態様において、前記式(I)における中心金属Mは遷移金属元素であり、さらに好ましくはマンガン原子である。
式(I)で表されるカチオン性金属ポルフィリン錯体において、アルキル基は、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10、さらに好ましくは炭素数1〜5の直鎖状または分枝状のアルキル基であってよい。また、アルコキシ基は、前記したアルキル基を含むアルコキシ基であってもよい。
好ましい態様において、式(I)で表されるカチオン性金属ポルフィリン錯体におけるRは、
であり、式中、R及びRは、それぞれ同一または異なる基であって、それぞれ、水素、アルキル基およびアルコキシ基から成る群より選択される基であり、好ましくはR及びRは共にメチルである。
別の好ましい態様において、式(I)で表されるカチオン性金属ポルフィリン錯体におけるR、R、およびRは共に
であり、式中、Rは、それぞれ同一または異なる基であって、それぞれ水素、アルキル基、およびアルコキシ基からなる群より選択される基であり、好ましくはRはすべて水素である。
さらに別の好ましい態様において、ミトコンドリア膜電位低下剤は、式(II)
で表されるカチオン性マンガンポルフィリン錯体である。
p53阻害剤
本発明の複合体に含まれるp53阻害剤は、p53の機能または作用を阻害する化合物である限り特に限定されないが、例えば、下記式(III)、(IV)、または(V):
で表されるp53阻害剤であってもよい。式(III)のp53阻害剤は、ピフィスリン−α臭化水素酸塩(PFT−α、別名:2−(2−ルミノ−4,5,6,7−テトラヒドロベンゾチアゾール−3−イル)−1−p−トリルエタノン ヒドロブロミド)である。式(IV)のp53阻害剤は、ピフィスリン−μ(PFT−μ、別名:ピフィトリン-μ、2−フェニルエチンスルホンアミド)である。式(V)のp53阻害剤は、p−ニトロピフィスリン−α臭化水素酸塩(p−nitro−PFT−α、別名:1−(4−ニトロフェニル)−2−(4,5,6,7−テトラヒドロ−2−イミノ−3(2H)−ベンゾチアゾール)エタノン ヒドロブロミド)である。
好ましい態様において、本発明の複合体に含まれるp53阻害剤は、ピフィスリン−α臭化水素酸塩(構造式:式(III))である。
医薬組成物/治療方法
一態様において、本出願は、ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤を対象細胞に共送達するための複合体を含む医薬組成物に関する。
本発明のミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤を対象細胞に共送達するための複合体を有効成分とする医薬組成物による予防や治療に適する疾患としては、例えば細胞老化および/または老化関連疾患が挙げられる。老化関連疾患とは、細胞老化によって引き起こされる疾患の総称である。老化関連疾患の例としては、特に限定されないが、呼吸系疾患(COPDなど)、糖尿病、癌(例えば、膵臓癌)、心筋系疾患、アルツハイマー型認知症、等が挙げられる。
別の態様において、本出願は、細胞老化および/または老化関連疾患の治療または予防が必要な対象において当該疾患を治療する方法であって、ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤を対象細胞に共送達するための複合体を当該対象に投与することを含む、前記方法、に関する。
また別の態様において、本出願は、細胞老化および/または老化関連疾患の治療または予防が必要な対象において当該疾患を治療するための、ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤を対象細胞に共送達するための複合体の使用、に関する。
さらに別の態様において、本出願は、細胞老化および/または老化関連疾患の治療または予防が必要な対象において当該疾患を治療するための医薬組成物の製造における、ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤を対象細胞に共送達するための複合体の使用、に関する。
本発明の医薬組成物または複合体は、経口投与、または、静脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、筋肉内投与、もしくは経直腸投与などの非経口投与により投与することができる。経口投与に適した製剤には、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、溶液剤、シロップ剤などが挙げられる。非経口投与に適した製剤として、本発明の医薬組成物を無菌溶液または坐剤として調製してもよい。本発明の医薬組成物は公知の方法により製剤化することができ、投与方法や患者の属性に応じて適宜製剤化することができる。例えば、本発明の医薬組成物は、本発明のミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤を対象細胞に共送達するための複合体を有効成分として含有し、これに製薬上許容される担体、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着香料、着色剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などと共に公知の方法により製剤化することができる。
本発明の医薬組成物または複合体の有効投与量または治療有効量は、病態や患者により相違するが、一般的には、1日あたりミトコンドリア膜電位低下剤が1μg〜1g、p53阻害剤が0.6mg〜600mgになるように投与することができる。本発明の医薬組成物または複合体は、1回で投与する、1日数回にわけて投与する。あるいは、連続的に投与する。医師をはじめとする医療従事者は、患者の属性および/または病態等に応じて、本発明の医薬組成物または複合体の投与量、投与間隔、投与時間、投与手順、投与部位等の用法または用量を適宜決定することができる。そのようにして適宜決定される用法または用量で投与される本発明の医薬組成物または複合体もまた、本発明の範囲内である。
インビトロでの細胞老化の抑制
一態様において、本出願は、ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤を対象細胞に共送達するための複合体を用いて、細胞老化を抑制する方法に関する。具体的には、本発明のミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤を対象細胞に共送達するための複合体を、細胞と接触させることにより、細胞老化を抑制することができる。細胞老化を抑制することには、細胞老化シグナルを低減すること、細胞老化レベルの進行を阻止すること、細胞機能を維持すること、細胞機能を回復させること、細胞中の機能不全ミトコンドリアを除去すること、細胞周期の停止を回復させること、などが含まれる。
好ましい態様において、本発明の細胞老化を抑制する方法は、インビトロで実施される。例えば、本発明のミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤を対象細胞に共送達するための複合体を、培養細胞に添加することにより、細胞老化シグナルが低減した細胞を得ることができる。
この方法が適用される細胞の種類は特に限定されないが、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、イヌ、霊長類、ヒト)の細胞である。好ましい態様において、対象細胞は老化した細胞(すでに細胞老化を引き起こした細胞)である。老化した細胞は、細胞の肥大化(細胞サイズの増大)、細胞の高密度化、ミトコンドリア膜電位の低下、p21の発現増加、およびG2/M期における細胞周期の停止、から選択される細胞老化の指標の少なくとも一つを満たす細胞である。別の好ましい態様において、対象細胞は、未だ細胞老化を引き起こした状態とまではいえないが、老化の抑制が望まれる細胞である。具体的には、対象細胞は、培養に伴う細胞老化の抑制が望まれる細胞であることができる。例えば、対象細胞は、幹細胞や免疫細胞であることができる。本発明の方法が適用可能な幹細胞の例としては、ES細胞やiPS細胞のような多能性幹細胞や、体性幹細胞(造血幹細胞、神経幹細胞、間葉系幹細胞などが含まれる)を挙げることができ、免疫細胞としては、NK細胞、T細胞、NKT細胞などを挙げることができる。
細胞老化シグナルの低減は、これらの細胞老化の指標を、正常細胞における同じ指標の程度と対比することにより判定することができる。細胞老化の指標は、当業者に周知の手法により、例えばフローサイトメトリーおよび/またはウェスタンブロットにより、計測することが可能である。例えば、本願実施例記載の方法に準じて、細胞サイズ、細胞内部構造の複雑さ、ミトコンドリア膜電位、マイトファジー活性、細胞周期、細胞増殖、p53の発現、および/またはp21の発現を観察・計測することで、細胞老化シグナルの低減を判定してもよい。
以下に本発明の具体例を示す。これらの具体例は、本発明を理解するための説明を提供することを目的とするものであって、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
実施例1:ミトコンドリア指向性Mnポルフィリン錯体(MndMImP P)の製造
(1)HMImPP(5−(1−メチルイミダゾール−2−イル)−10,15,20−トリフェニル−21H,23H−ポルフィリン)の合成
MImPPの構造式:
1Lの三つ口フラスコにプロピオン酸300mLを加え、窒素下170℃に加熱した。ベンズアルデヒド4.3mL、1−メチルイミダゾール−2−カルボキシアルデヒド2.0gを加え、続いて蒸留精製したピロールを4.2mL加えた。1時間加熱攪拌後、90℃まで放冷し、エチレングリコール200mLを滴下した。室温まで放冷した後、氷水浴で冷却した。冷却後の溶液を吸引濾過し、冷メタノールで洗浄して、紫色の固体867mgを回収した。得られた固体から、塩基性活性アルミナクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)によりTPP(テトラフェニルポルフィリン)を溶出した。次いで、得られたポルフィリンの混合物を、シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)により分離した。分画の溶媒を留去し、紫色の固体118mgを得た。合成の確認はUV-可視吸収スペクトル測定と質量分析およびH−NMRで行った。結果は次に示す。
MImPPの極大吸収波長:λmax 418nm(ソーレー帯)、515nm、550nm、588nm(Q帯)
MImPPのFAB−MS:619
MImPPのH−NMR(CDCl):8.90(2H)(ピロールのβ位の水素原子),8.85(4H)(ピロールのβ位の水素原子),8.78(2H)(ピロールのβ位の水素原子),8.25−8.15(6H)(フェニル基の水素原子),7.80−7.72(9H)(フェニル基の水素原子),7.67(1H)(イミダゾール基の水素原子),7.48(1H)(イミダゾール基の水素原子),3.47(3H)(メチル基の水素原子),−2.76(2H)(環内部の水素原子)
(2)HdMImPP(5−(1,3−ジメチルイミダゾリウム−2−イル)−10,15,20−トリフェニル−21H,23H−ポルフィリン)の合成
dMImPPの構造式:
100mLの三つ口フラスコに、前記(1)で得たポルフィリンHMImPP 1
18mgを加え、クロロホルム20mLに溶解させ、過剰量のヨウ化メチルを入れ、窒素気流下40℃で18時間加熱撹拌した。反応液を室温まで放冷後、ヘキサンを加え、吸引濾過して紫色の固体129mgを得た。合成の確認はUV−可視吸収スペクトル測定と質量分析およびH−NMRで行った。結果を次に示す。
dMImPPの極大吸収波長:λmax 422nm(ソーレー帯)、515nm、552nm、587nm(Q帯)
dMImPPのFAB−MS:633
dMImPPのH−NMR:9.09(2H)(イミダゾリウム環の4,5位の水素原子)8.89(4H)(ピロールのβ位水素原子)8.72(4H)(ピロールのβ位の水素原子)8.19(6H)(フェニル基の2,6位の水素原子)7.81−7.79(9H)(フェニル基3,4,5位の水素原子)3.92(6H)(メチル基の水素原子)−2.65(2H)(環内部の水素原子)
(3)HdMImPPへのMn導入
MndMImPPの構造式:
100mLの三つ口フラスコに前記(2)で得られたHdMImPP 34mgを加え、メタノール17mLに溶解させた後、塩化マンガン61mgを加え、80℃で48時間加熱撹拌した。UV-可視吸収スペクトルを用いてポルフィリンのソーレー帯のシフトおよび吸光度変化から中心金属の導入を確認した。反応終了後、溶媒を留去し、得られた固体を水に再溶解させ、不溶物を濾過で取り除いた。濾液にヘキサフルオロリン酸アンモニウムを適量加え、析出した紫色固体を吸引濾過により回収し、水で洗浄後、乾燥させた。回収した固体をアセトンに溶解し、テトラブチルアンモニウムクロリドを加え、濾過により析出固体を回収することで紫色の固体38mgを得た。合成の確認はUV-可視吸収スペクトル測定と質量分析で行った。結果を次に示す。
MndMImPPの極大吸収波長:λmax465nm(ソーレー帯)、557nm(Q帯)
MndMImPPのFAB−MS:721、686
実施例2:MndMImP PおよびPFT−α含有リポソームナノキャリアの調製(1)
(1)MndMImPPおよびPFT−α含有リポソームの調製
ナスフラスコに、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)1mg、N−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウム(DOTMA)1mg、およびPFT−α100mgを入れ、クロロホルム2mLに溶解させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、乾燥薄膜を作製した。
得られた乾燥薄膜に、MndMImPP 100mgを蒸留水に溶解させた水溶液2mLを加え、30分間超音波攪拌を行った。
得られたリポソーム分散液を、液体窒素を用いて凍結し、凍結後常温で融解させるステップを三回行うことにより、目的のMndMImPPおよびPFT−α含有リポソーム分散液を得た。粒径は117.6±31.0nmの値を示した。
(2)DNAとの複合化
上記(1)で調製したリポソームのカチオン性を弱めるために、DNAを複合化させた。
エッペンドルフチューブ内で上記(1)のリポソーム溶液とpGL3をコードしたプラスミドDNA(pDNA)溶液を任意のmol比で混合し、常温で1時間静置することでリポソームの構成成分であるカチオン性脂質DOTMAとアニオン性のpDNAの電荷比(+/−)が1となるように複合化させた。
粒径は、薬剤を封入していない空のリポソームおよび薬剤を一種、二種封入したリポソームにおいて大きな差は無く、110nm程度の粒径を示した。さらに、薬剤封入率はMndMImPPが37.1%およびPFT−αが87.8%の値を示した。
(3)比較
MndMImPPおよびPFT−α含有リポソームナノキャリア(MnP PFT)(以後、実施例において「実施例2で調製したリポソームナノキャリア」と表記することがある)、ならびに、リポソームのみ、PFT−α含有リポソーム(PFT)、およびMndMImPP含有リポソーム(MnP)の粒径や薬剤封入率を比較した。結果を下記の表に示す。
実施例3:アラマーブルーアッセイによるリポソームキャリアの細胞毒性評価
ヒト肺胞上皮細胞(A549細胞(がん細胞))およびヒト胎児肺繊維芽細胞(WI−38細胞(正常細胞))の培養は、10%FBS、1%抗生物質含有DMEM培地にて、5%CO、37℃の条件で行った。コンフルエントになった細胞を計測して、A549細胞は1×10細胞/ウェルの細胞密度で、WI−38細胞は5×10細胞/ウェルの細胞密度で、それぞれ96ウェルプレート上に播種し、24時間インキュベーター内で培養した。
実施例2で調製したリポソームナノキャリアを、脂質濃度が0.1mg/mLから1.0mg/mLとなるまで調製し、これらのサンプルを各ウェルに添加し、4時間インキュベートした。その後培地交換を行い、培地100μLとアラマーブルー10μL添加し、4時間インキュベート後、蛍光プレートリーダーにより細胞生存率を評価した。
結果
がん細胞であるA549細胞、および正常細胞であるWI−38細胞共に、脂質濃度1.0mg/mLまで細胞生存率にほとんど変化が見られず、このキャリアは脂質濃度1.0mg/mLまでは細胞毒性がないことが確認された。
実施例4:フローサイトメトリーによる老化モデル細胞の細胞形質変化の評価
(1)過酸化水素濃度の検討
ヒト肺胞上皮細胞(A549細胞(がん細胞))の培養は、10%FBS、1%抗生物質含有DMEM培地にて、5%CO、37℃の条件で行った。コンフルエントになった細胞を計測して、1×10細胞/ウェルの細胞密度で12ウェルプレート上に播種し、24時間インキュベーター内で培養した。
過酸化水素1μM〜100μMを各細胞・各ウェルに添加し、24時間インキュベートした。
培地除去後、トリプシンEDTA溶液を各ウェルに200μL添加し、5分間インキュベートした。その後、各ウェルに800μLのDMEM培地を加え、全量1000μLをエッペンドルフチューブに移し、1000rpmで5分間遠心分離した。遠心分離後、上澄み除去し1000μLの培地を添加してフローサイトメトリーにより評価した。
結果
正常なA549細胞に過酸化水素を添加すると、1μM〜10μMでは細胞サイズおよび密度に何も変化を及ぼさなかったが、100μM添加により細胞サイズおよび密度共に急激な上昇が確認された。
(2)インキュベート時間の検討
過酸化水素100μMを各細胞・各ウェルに添加し、4時間、24時間、48時間インキュベートしたほかは、(1)と同様にヒト肺胞上皮細胞(A549細胞(がん細胞))の培養、処理、および評価を行った。
結果
正常なA549細胞に過酸化水素100μM添加した場合、4時間のインキュベートでは細胞老化の指標の一つである細胞の肥大化および高密度化は確認されたが、過酸化水素添加前と比べ大きな変化は見られなかった。24時間のインキュベートでは著しいサイズ増大および高密度化が確認された。さらに、48時間インキュベートした場合ではより大きな増大が確認された。
実施例5:フローサイトメトリーによる正常細胞の細胞形質変化の評価
(1)過酸化水素濃度の検討
ヒト胎児肺繊維芽細胞(WI−38細胞(正常細胞))の培養は、10%FBS、DMEM培地にて、5%CO、37℃の条件で行った。コンフルエントになった細胞を計測して、5×10細胞/ウェルの細胞密度で12ウェルプレート上に播種し、24時間インキュベーター内で培養した。
過酸化水素1μM〜100μMを各細胞・各ウェルに添加し、4時間インキュベートした。
培地除去後、トリプシンEDTA溶液を各ウェルに200μL添加し、5分間インキュベートした。その後、各ウェルに800μLのDMEM培地を加え、全量1000μLをエッペンドルフチューブに移し、1000rpmで5分間遠心分離した。遠心分離後、上澄み除去し1000μLの培地を添加してフローサイトメトリーにより評価した。
結果
WI−38細胞に過酸化水素を1μM〜100μM添加し4時間インキュベートした場合では、細胞の肥大化と細胞の高密度化は確認されなかった。
(2)インキュベート時間の検討
過酸化水素100μMを各細胞に添加し、4時間または48時間インキュベートしたほかは、(1)と同様にヒト胎児肺繊維芽細胞(WI−38細胞(正常細胞))の培養、処理、および評価を行った。
結果
4時間インキュベートでは細胞の形質変化に差はほとんど見られなかったが、48時間インキュベート場合においては細胞のサイズの著しい増大と細胞密度の高密度化が確認された。
実施例6:フローサイトメトリーによる老化モデル細胞のキャリア添加後のミトコンドリア膜電位低下評価
ヒト胎児肺繊維芽細胞(WI−38細胞(正常細胞))の培養は、10%FBS、DMEM培地にて、5%CO、37℃の条件で行った。コンフルエントになった細胞を計測して、5×10細胞/ウェルの細胞密度で12ウェルプレート上に播種し、24時間インキュベーター内で培養した。
過酸化水素100μMを各細胞に添加し、48時間インキュベートした。培地交換後、実施例2で調製したリポソームナノキャリアを各ウェルに添加した。4時間後に培地交換を行い、24時間または72時間インキュベートした。
アスピレーターにより培地除去後、DMSOに溶かしたJC−1を最終添加濃度が30μMとなるようにDMEMの1%DMSO溶液に溶かし、各ウェルに1mLずつ添加し、10分間インキュベートした。PBS(−)による洗浄後、トリプシン−EDTAを200μL添加し、3分間インキュベートした。その後、各ウェルに800μLのDMEM培地を加え、全量1000μLをエッペンドルフチューブに移し、1000rpmで3分間遠心分離した。遠心分離後、上澄み除去し1000μLの培地を添加してフローサイトメトリーにより評価した。
結果
実施例2で調製したリポソームナノキャリアを添加し、培地交換を行った後、24時間インキュベートした細胞での結果を図1−1に、72時間インキュベートした細胞での結果を図1−2に示す。
上記72時間インキュベートした細胞では、老化モデル細胞(リポソームナノキャリアを添加しない対照)ではミトコンドリア膜電位が低下した細胞の割合が17.4%であったのに対し、実施例2で調製したリポソームナノキャリアを添加した老化モデル細胞ではミトコンドリア膜電位が低下した細胞の割合が12.4%まで低下した。これは異常ミトコンドリアがマイトファジーにより分解されたため、相対的にミトコンドリア膜電位の低下した細胞の割合が減少したことが考えられる。
実施例7:フローサイトメトリーによる老化モデル細胞の細胞形質変化評価(細胞サイズと細胞内部構造(細胞密度)の評価)
ヒト胎児肺繊維芽細胞(WI−38細胞(正常細胞))の培養は、10%FBS、DMEM培地にて、5%CO、37℃の条件で行った。コンフルエントになった細胞を計測して、5×10細胞/ウェルの細胞密度で12ウェルプレート上に播種し、24時間インキュベーター内で培養した。
過酸化水素100μMを各細胞に添加し、48時間インキュベートした。培地交換後、実施例2で調製したリポソームナノキャリアを各ウェルに添加した。4時間後に培地交換を行い、72時間インキュベートした。
PBS(−)による洗浄後、トリプシン−EDTAを200μL添加し、3分間インキュベートした。その後、各ウェルに800μLのDMEM培地を加え、全量1000μLをエッペンドルフチューブに移し、1000rpmで3分間遠心分離した。遠心分離後、上澄み除去し1000μLの培地を添加してフローサイトメトリーにより評価した。
結果
結果を図2に示す。正常細胞と比較して、作製した老化モデル細胞では、細胞サイズの増大および内部構造の複雑さの増大が確認された。さらに、そこに実施例2で調製したリポソームナノキャリアを添加して、マイトファジーを誘発することにより、細胞サイズおよび複雑さの減少が確認された。このことは、老化細胞の割合が減少し、正常細胞割合が増大したことを示している。
実施例8:ウェスタンブロット法による老化モデル細胞中のp53阻害効果の評価およびLC3-IIによるミトコンドリア膜電位低下誘導能評価
ヒト胎児肺繊維芽細胞(WI−38細胞(正常細胞))の培養は、10%FBS、DMEM培地にて、5%CO、37℃の条件で行った。コンフルエントになった細胞を計測して、5×10細胞/ウェルの細胞密度で12ウェルプレート上に播種し、24時間インキュベーター内で培養した。
過酸化水素100μMを各細胞に添加し、48時間インキュベートした。培地交換後、実施例2で調製したリポソームナノキャリアを各ウェルに添加した。4時間後に培地交換を行い、72時間インキュベートした。
培地除去後、200μLの細胞溶解液を各ウェルに添加し、15分間精静置して細胞溶解液を作製した。得られた細胞溶解液に10%メルカプトエタノール入りのサンプルバッファー(還元剤(×5):Tris 1.89g,SDS 5g,グリセロール10mL)を200μL加え、熱湯中に15分間静置し、ウェスタンブロット用サンプルを作製した。
作製したサンプルを、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)(濃縮ゲル:30%アクリルアミド、Tris pH6.8、10%SDS、10%APS、TEMED、DDW;分離ゲル:30%アクリルアミド、Tris pH8.8、10%SDS、10%APS、TEMED、DDW)によって分離し、タンク式ブロッティング装置を用いて、ゲルからPVDF膜へタンパクを転写した。
タンパクを転写した膜に一次抗体(抗p53ウサギ抗体または抗LC3A/Bウサギ抗体、及び抗β−アクチンウサギ抗体):washバッファー=1:1000溶液で一次抗体処理を一晩行い、次いで、二次抗体(HRP−複合化抗マウス抗体、HRP−複合化抗ウサギ抗体):washバッファー=1:1000溶液で二次抗体処理を行った。Amersharm ECL Prime Western Blotting Detection Reagent(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)を使用し、発光検出することでp53発現量を半定量的に評価した。
その際、ポリアクリルアミドゲル電気泳動用ゲルは以下の表を基にして作製した。
また、SDS-PAGEおよびウェスタンブロットは、以下の通りに行った。
・SDS-PAGE
SDS-PAGEバッファー(×10):Tris 90.0 g, SDS 30 g, Gly 432.3 g, 蒸留水(D.W.) 3Lを調製した。分離ゲルを調製し、その上に濃縮ゲルを調製した。ゲルが固まったら、SDS-PAGEバッファーで浸し、サンプルを20μL/レーンでロードした。0.03Aで1時間泳動した。
・ブロッティング
転写バッファー(×10):Tris 30.3g, Gly 144.2 g, D.W. 3Lを調製した。SDS-PAGEで泳動し、分離したタンパク質をPVDF膜に転写した。その際、電圧は100Vで1時間転写を行った。
・ブロッキング
wash バッファー(×10):Tris 24.2 g, 塩化ナトリウム 80g, D.W. 1Lを調製した。スキムミルクを1×washバッファーに分散させ、そこにブロッティングを行ったPVDF膜を浸漬させ、1時間振盪させた。振盪後、washバッファーにより膜を洗浄した。
・一次抗体反応
一次抗体をwashバッファーに添加し、よくタッピングした。袋にPVDF膜と一次抗体溶液を入れ、4℃で一晩静置した。
・二次抗体反応
一次抗体に浸した膜をwashバッファーで洗浄した。続いて、二次抗体をwashバッファーに添加し、一次抗体の場合と同様にPVDF膜を浸し、4℃で一晩静置した。
・検出
膜をwashバッファーで洗浄し、Amersharm ECL Prime Western Blotting Detection Reagent(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)で混合したものを膜全体に行き渡らせた。5分間遮光下で静置した後、EZ capture MG(アトー株式会社)により蛍光バンドを検出した。
結果(1):p53阻害効果
結果を図3に示す。WI−38細胞(正常細胞)におけるp53/β−アクチン(control)比の値を1.0に合わせた場合、老化モデル細胞のp53/β−アクチン比の値は、6.7まで増加することが確認された。そして、老化モデル細胞に実施例2で調製したリポソームナノキャリアを添加すると、p53/β−アクチン比の値は1.8まで減少することが確認された。MndMImPP含有リポソーム添加の場合では4.5、PFT−α含有リポソーム添加の場合では3.0までの減少であった。
結果(2):マイトファジー評価
結果を図4に示す。WI−38細胞(正常細胞)におけるLC3−II/LC3−I比の値を1.0に合わせた場合、老化モデル細胞のLC3−II/LC3−I比の値は0.8まで減少することが確認された。そして、老化モデル細胞に実施例2で調製したリポソームナノキャリアを添加すると、LC3−II/LC3−I比の値は5.4まで上昇することが確認された。MndMImPP含有リポソーム添加の場合では0.9、PFT−α含有リポソーム添加の場合では2.1までの上昇であった。
以上の結果から、実施例2で調製したリポソームナノキャリアによるMndMImPPとPFT−αの共送達は、ミトコンドリア膜電位の低下とp53阻害を同時に起こすことにより、効率的にマイトファジーを誘発していることが示唆された。
実施例9:ウェスタンブロット法による細胞老化因子p21の発現評価
(1)ヒト肺胞上皮細胞(A549細胞(がん細胞))の培養および評価
ヒト肺胞上皮細胞(A549細胞(がん細胞))の培養は、10%FBS、1%抗生物質含有DMEM培地にて、5%CO、37℃の条件で行った。コンフルエントになった細胞を計測して、1×10細胞/ウェルの細胞密度で12ウェルプレート上に播種し、24時間インキュベーター内で培養した。
過酸化水素100μMを各細胞に添加し、4時間、24時間、48時間インキュベートした。
培地除去後、200μLの細胞溶解液を各ウェルに添加し、15分間精静置して細胞溶解液を作製した。得られた細胞溶解液に10%メルカプトエタノール入りのサンプルバッファー(還元剤(×5):Tris 1.89g、SDS 5g、グリセロール10mL)を200μL加え、熱湯中に15分間静置し、ウェスタンブロット用サンプルを作製した。
作製したサンプルを、SDS-PAGEに供し、ウェスタンブロットを行った。SDS-PAGEは実施例8と同様に行った。ウェスタンブロットは、一次抗体として抗p21 Waf/Cip1ウサギ抗体、及び抗β−アクチンウサギ抗体を用いた他は、実施例8と同様に行った。
結果
過酸化水素100μM添加した細胞では、インキュベート時間が4時間では多少の増大が見られ、48時間に最も大きな増大が確認された。この結果は、実施例4(2)の細胞形質変化の結果と同様な傾向を示したため、過酸化水素100μM、インキュベート時間48時間では老化細胞の形成が示唆された。
(2)ヒト胎児肺繊維芽細胞(WI−38細胞(正常細胞))の培養および評価
細胞として、ヒト胎児肺繊維芽細胞(WI−38細胞(正常細胞))を用い、過酸化水素添加後のインキュベート時間を48時間とした他は、上記(1)と同様に細胞を培養し、ウェスタンブロット用サンプルを作製した。また、SDS-PAGEおよびウェスタンブロットも上記(1)と同様に行った。
結果
WI−38細胞(正常細胞)に過酸化水素100μM添加し、48時間インキュベートした場合は、サイクリンキナーゼ阻害タンパク質であるp21の発現量が著しく増大した。このことからも過酸化水素100μM添加において細胞老化の傾向が見られた。
(3)まとめ
上記(1)および(2)の結果より、がん細胞であるA549細胞、正常細胞であるWI−38細胞共に、過酸化水素100μMを添加し48時間インキュベートした後において、細胞のサイズが増大し、高密度化したことから細胞形質変化が引き起こされたことが確認された。また、細胞周期停止因子であるp21の発現やG2/M期でのセルサイクルの停止も確認された。これは、各細胞に過酸化水素添加することにより、ミトコンドリア機能障害やDNAダメージが誘発され、それに応じて細胞老化誘導因子であるp53が発現し細胞老化が引き起こされたためであると考えられる。p53の発現により、p53のカスケードであるp21は発現し、このp21がサイクリンキナーゼ1を阻害したため、細胞はG2/M期でのチェックポイントを通過できず分裂停止が観測されたと考えられる。さらに、G2期細胞の増大により、肥大化した細胞の割合が増加したため細胞サイズが上昇したと考えられる。さらに老化細胞中では異常なタンパク質合成やマイトファジーの不活性化が引き起こされるため、不要な細胞内オルガネラやタンパク質が増大し、細胞内の高密度化が引き起こされたことが示唆された。
また、過酸化水素濃度の更なる上昇やインキュベート時間の延長は、細胞内に過剰なROSを発生させて、p53由来のアポトーシスを引き起こすことが懸念される。したがって、本実施例で検討した、過酸化水素濃度100μM、インキュベート時間48時間において、効率的な老化モデル細胞の作製に成功した。
実施例10:ウェスタンブロット法による老化モデル細胞中のp21発現量評価
ヒト胎児肺繊維芽細胞(WI−38細胞(正常細胞))の培養は、10%FBS、1%抗生物質含有DMEM培地にて、5%CO、37℃の条件で行った。コンフルエントになった細胞を計測して、5×10細胞/ウェルの細胞密度で12ウェルプレート上に播種し、24時間インキュベーター内で培養した。
過酸化水素100μMを各細胞に添加し、48時間インキュベートした。培地交換後、実施例2で調製したリポソームナノキャリアを各ウェルに添加した。4時間後に培地交換を行い、72時間インキュベートした。
培地除去後、200μLの細胞溶解液を各ウェルに添加し、15分間静置して細胞溶解液を作製した。得られた細胞溶解液に10%メルカプトエタノール入りのサンプルバッファー(還元剤(×5):Tris 1.89g、SDS 5g、グリセロール10mL)を200μL加え、熱湯中に15分間静置し、ウェスタンブロット用サンプルを作製した。
SDS-PAGEおよびウェスタンブロットを、実施例9と同様に行った。
結果
結果を図5に示す。WI−38細胞(正常細胞)と比較して、作製した老化モデル細胞(Senescence)では著しいp21発現量の増加が確認された。そして、老化モデル細胞に実施例2で調製したリポソームナノキャリアを添加した細胞(liposome)ではp21発現量の大きな減少が確認された。
実施例11:フローサイトメトリーによるがん細胞(A549細胞)および正常細胞(WI−38細胞)に過酸化水素を添加した場合のセルサイクル(細胞周期)評価
ヒト肺胞上皮細胞(A549細胞(がん細胞))およびヒト胎児肺繊維芽細胞(WI−38細胞(正常細胞))の培養は、それぞれ、10%FBS、1%抗生物質含有DMEM培地にて、5%CO、37℃の条件で行った。コンフルエントになった細胞を計測して、1×10細胞/ウェルの細胞密度で12ウェルプレート上に播種し、24時間インキュベーター内で培養した。
過酸化水素100μMを各細胞に添加し、48時間インキュベートした。
培地除去後、トリプシン−EDTAを各ウェルに200μLずつ添加し、5分間インキュベートした。その後、各ウェルに800μLのDMEM培地を加え、全量1000μLをエッペンドルフチューブに移し、1000rpmで5分間遠心分離した。遠心分離後、−20℃で70%エタノールをボルテックスしながら1mL滴下し、2時間以上4℃で静置した後、5000rpmで10分間遠心分離を行い、エタノール除去を行った。エタノール除去後、PBS(−)を1mL添加し、再び5000rpmで10分間遠心分離を行い、上澄みを除去した。RNase 0.25mg/mL溶液を1mL添加し、37℃で30分間静置した後、ヨウ化プロピジウムを50μg/mLとなるように加え、よくタッピングしフローサイトメトリーにより評価した。
結果
がん細胞(A549細胞)ではG2/M期の細胞割合が13%程度であるのに対し、過酸化水素100μM添加した細胞ではG2/M期の細胞割合が42%程度まで増加した。
正常細胞(WI−38細胞)ではG2/M期の細胞割合が15%程度であるのに対し、過酸化水素100μM添加した細胞ではG2/M期の細胞割合が28%程度まで増加した。このことは、過酸化水素の添加により、G2/M期において細胞周期が停止したことを示しており、細胞老化が示唆された。
実施例12:細胞周期評価
ヒト胎児肺繊維芽細胞(WI−38細胞(正常細胞))の培養は、10%FBS、DMEM培地にて、5%CO、37℃の条件で行った。コンフルエントになった細胞を計測して、5×10細胞/ウェルの細胞密度で12ウェルプレート上に播種し、24時間インキュベーター内で培養した。
過酸化水素100μMを各細胞に添加し、48時間インキュベートした。培地交換後、
実施例2で調製したリポソームナノキャリアを各ウェルに添加した。4時間後に培地交換を行い、72時間インキュベートした。
PBS(−)による洗浄後、トリプシン−EDTAを200μL添加し、3分間インキュベート後、800μL培地を添加し、全量1000μLをエッペンドルフチューブに移し、1000rpmで3分間遠心分離した。遠心分離後、−20℃の70%エタノールをボルテックスしながら1mL滴下し、2時間以上4℃で静置した。その後、5000rpmで10分間遠心分離を行い、エタノール除去を行った。エタノール除去後、PBS(−)を1mL添加し、再び5000rpm、10分間遠心分離を行い上澄み除去した。RNase 0.25mg/mL溶液を1mL添加し、37℃で30分間静置した。静置後、ヨウ化プロピジウムを50μg/mLとなるように加え、よくタッピングしフローサイトメトリーにより評価した。
結果
結果を図6に示す。正常細胞(WI−38細胞)におけるG2/M期の細胞割合は約15%程度であるのに対し、過酸化水素添加により作製された老化モデル細胞ではG2/M期の細胞割合は28%程度まで増加していたため、セルサイクルの停止が示唆された。過酸化水素添加により作製された老化モデル細胞に、実施例2で調製したリポソームナノキャリアを添加した細胞ではG2/M期細胞の割合減少が確認された。
実施例13:MndMImP PおよびPFT−μ含有リポソームナノキャリアとMndMImP Pおよびp−nitro−PFT−α含有リポソームナノキャリアの調製
(1)MndMImP PおよびPFT−μ含有リポソームの調製
ナスフラスコに、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)1mg、N−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウム(DOTMA)1mg、およびPFT−μ100mgを入れ、クロロホルム2mLに溶解させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、乾燥薄膜を作製した。
得られた乾燥薄膜に、MndMImPP100mgを蒸留水に溶解させた水溶液2mLを加え、30分間超音波攪拌を行った。
得られたリポソーム分散液を、液体窒素を用いて凍結し、凍結後常温で融解させるステップを三回行うことにより、目的のMndMImPPおよびPFT−μ含有リポソーム分散液を得た。粒径は94.4±23.6nm(P.I. = 0.323)の値を示した。
(2)MndMImP Pおよびp−nitro−PFT−α含有リポソーム
ナスフラスコに、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)1mg、N−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウム(DOTMA)1mg、およびp−nitro−PFT−α100mgを入れ、クロロホルム2mLに溶解させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、乾燥薄膜を作製した。
得られた乾燥薄膜に、MndMImPP100mgを蒸留水に溶解させた水溶液2m
Lを加え、30分間超音波攪拌を行った。
得られたリポソーム分散液を、液体窒素を用いて凍結し、凍結後常温で融解させるステップを三回行うことにより、目的のMndMImPPおよびp−nitro−PFT−α含有リポソーム分散液を得た。粒径は89.2±17.9nm(P.I. = 0.369)の値を示した。
実施例14:p53阻害剤を変えた場合の細胞増殖評価
ヒト胎児肺繊維芽細胞(WI‐38細胞(正常細胞))の培養は、10%FBS含有DMEM培地にて、5%CO、37℃の条件で行った。コンフルエントになった細胞を計測して、5×10細胞/ウェルの細胞密度で96ウェルプレート上に播種し、24時間インキュベーター内で培養した。
過酸化水素100μMを各細胞に添加し、48時間インキュベートした。培地交換後、阻害剤をPFT−αからPFT−μまたはp−nitro−PFT−αに変えて実施例13記載の方法で調製したリポソームナノキャリアを各ウェルに添加した。4時間後に培地交換を行い、48時間インキュベートした。その後、培地を除去し、培地90μLおよびアラマーブルー試薬(invitrogen)10μLを添加し、4時間インキュベートした。インキュベート後、プレートリーダー(DTX800、ベックマンコールター)にてEx550nm、Em597nmの蛍光強度を測定した。過酸化水素を添加して、0,2,4日後の蛍光強度を測定した。
結果
結果を図7に示す。正常細胞と比較して、過酸化水素添加により作製された老化モデル細胞では、細胞増殖の遅れが確認されたのに対し、MndMImPPおよびPFT−μ含有リポソームナノキャリアやMndMImPPおよびp−nitro−PFT−α含有リポソームナノキャリアを添加した場合では、老化モデル細胞と比較して、細胞増殖の回復が確認された。
実施例15:MndMImP PおよびPFT−α含有リポソームナノキャリアの調製(2)
実施例2とは異なり、凍結融解工程を含まず、さらにDNAとの複合化もせず、MndMImPPおよびPFT−αを封入したリポソームナノキャリア(MnP PFT、pDNAおよび凍結融解なし)を調製した。
ナスフラスコに、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)1mg、N−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウム(DOTMA)1mg、およびPFT−α 100mgを入れ、クロロホルム2mLに溶解させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、乾燥薄膜を作製した。
得られた乾燥薄膜に、MndMImPP 100mgを蒸留水に溶解させた水溶液2mLを加え、氷水で冷やしながら20分間ボルテックスを行った。その後、20分間超音波攪拌を行い、目的のMndMImPPおよびPFT−α含有リポソーム分散液を得た。粒径は42.7±10.7nmの値を示した。
実施例16:ウェスタンブロット法による細胞老化因子p21の発現評価(実施例15で作製したリポソームナノキャリアを用いた場合)
実施例15で調製したリポソームナノキャリアを用いて、老化モデル細胞におけるp21の発現量を評価した。
ヒト胎児肺繊維芽細胞(WI−38細胞(正常細胞))の培養は、10%FBS、1%抗生物質含有DMEM培地にて、5%CO、37℃の条件で行った。コンフルエントになった細胞を計測して、5×10細胞/ウェルの細胞密度で12ウェルプレート上に播種し、24時間インキュベーター内で培養した。
過酸化水素200μMを各細胞に添加し、24時間インキュベートした。培地交換後、実施例15で調製したリポソームナノキャリアを各ウェルに添加した。4時間後に培地交換を行い、72時間インキュベートした。
培地除去後、200μLの細胞溶解液を各ウェルに添加し、15分間静置して細胞溶解液を作製した。得られた細胞溶解液に10%メルカプトエタノール入りのサンプルバッファー(還元剤(×5):Tris 1.89g、SDS 5g、グリセロール10mL)を200μL加え、熱湯中に15分間静置し、ウェスタンブロット用サンプルを作製した。
SDS-PAGEおよびウェスタンブロットを、実施例9と同様に行った。
結果
結果を図8に示す。WI−38細胞(正常細胞)と比較して、作製した老化モデル細胞ではp21発現量の増加が確認された。そして、老化モデル細胞に実施例15で調製したリポソームナノキャリアを添加した細胞(72時間後)では未処理の老化細胞と比較して、p21発現量の著しい低下が確認された。
本出願の複合体は、ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤を対象細胞への共送達により、ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤による機能不全ミトコンドリアの消去と酸化傷害の抑制を同時に達成することができるものである。したがって、細胞老化や老化細胞が発する細胞老化関連分泌形質が病理に関わる老化関連疾患(閉塞性肺疾患、糖尿病、アルツハイマー、パーキンソン病や心臓疾患等を含む)の根治治療への応用が期待される。

Claims (15)

  1. ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤を対象細胞に共送達するための複合体であって、ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤の共送達が可能なキャリア、ミトコンドリア膜電位低下剤、およびp53阻害剤を含む、前記複合体。
  2. ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤の共送達が可能なキャリアがリポソームである、請求項1に記載の複合体。
  3. リポソームがカチオン性リポソームであり、当該カチオン性リポソームは、以下:
    N−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウム(DOTMA);
    ジドデシルジメチルアンモニウム ブロミド(DDAB);
    1,2−ジオレオイルオキシ−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP);
    1,2−ジステアロイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DSTAP);
    ジオレオイル−3−ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP);
    ジオクタデシル−ジメチルアンモニウム クロリド(DODAC);
    1,2−ジミリストイルオキシプロピル−3−ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE);
    2,3−ジオレイルオキシ−N−[2−(スペルミンカルボキサミド)エチル]−N,
    N−ジメチル−1−プロパナミウム トリフルオロアセテート(DOSPA);
    3β−N−(N’,N’−ジメチル−アミノエタン−カルバモイル−コレステロール)
    (DC−Chol);および
    O,O’−ジテトラデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミン クロリド;
    からなる群より選択される少なくとも1つのカチオン性脂質、および以下:
    ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE);
    ジアシルホスファチジルエタノールアミン;
    ジアシルホスファチジルコリン;
    リゾホスファチジルコリン;
    ジアシルホスファチジルグリセロール;
    ジアシルホスファチジン酸;
    ジアシルホスファチジルセリン;
    スフィンゴミエリン;
    セラミド;
    ジアシルグリセロール;および
    コレステロール;
    からなる群より選択される少なくとも1つの非カチオン性脂質(ここで非カチオン性脂質に含まれるアシル基は、炭素数が12〜20の飽和または不飽和アシル基である)、により構成される、請求項2に記載の複合体。
  4. ミトコンドリア膜電位低下剤がポルフィリン系ミトコンドリア膜電位低下剤であり、当該ポルフィリン系ミトコンドリア膜電位低下剤は、
    下記式(I)で表されるカチオン性金属ポルフィリン錯体:
    (式中、
    は、遷移金属元素または卑金属元素を示し、
    は、以下:
    からなる群より選択される基を示し、式中、R、R、R、およびRは、それぞれ同一または異なる基であって、それぞれ水素、アルキル基およびアルコキシ基からなる群より選択される基を示し、
    、R、およびRは、それぞれ同一または異なる基であって、それぞれ以下:
    からなる群より選択される基を示し、式中、Rは、それぞれ同一または異なる基であって、それぞれ水素、アルキル基、およびアルコキシ基からなる群より選択される基を示す)
    である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合体。
  5. p53阻害剤が、以下:
    ピフィスリン−α臭化水素酸塩(PFT−α、別名:2−(2−ルミノ−4,5,6,7−テトラヒドロベンゾチアゾール−3−イル)−1−p−トリルエタノン ヒドロブロミド);
    ピフィスリン−μ(PFT−μ、別名:ピフィトリン-μ、2−フェニルエチンスルホンアミド);および
    p−ニトロピフィスリン−α臭化水素酸塩(p−nitro−PFT−α、別名:1−(4−ニトロフェニル)−2−(4,5,6,7−テトラヒドロ−2−イミノ−3(2H)−ベンゾチアゾール)エタノン ヒドロブロミド);
    からなる群より選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合体。
  6. プラスミドDNAをさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合体。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載の複合体を含む、医薬組成物。
  8. 細胞老化および/または老化関連疾患を治療するための医薬組成物であって、請求項1〜6のいずれか1項に記載の複合体を含む、前記医薬組成物。
  9. 細胞老化および/または老化関連疾患を治療するための医薬組成物であって、ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤の共送達が可能なキャリア、ミトコンドリア膜電位低下剤、およびp53阻害剤を含み、
    ここで、ミトコンドリア膜電位低下剤とp53阻害剤の共送達が可能なキャリアが、N−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウム(DOTMA)およびジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)で構成されるリポソームであり、
    ミトコンドリア膜電位低下剤が、下記式(II):
    で表されるカチオン性Mnポルフィリン錯体であり、そして
    p53阻害剤が、下記式(III)、(IV)、または(V):
    で表されるp53阻害剤(それぞれ、ピフィスリン−α(PFT−α)、ピフィスリン−μ(PFT−μ)、またはp−ニトロピフィスリン−α(p−nitro−PFT−α))である、
    前記医薬組成物。
  10. プラスミドDNAをさらに含む、請求項9に記載の医薬組成物。
  11. プラスミドDNAが、pGL3をコードするプラスミドDNAである、請求項10に記載の医薬組成物。
  12. ミトコンドリア膜電位低下剤およびp53阻害剤を複合化するための複合化剤であって、カチオン性リポソームからなる群より選択され、ここでカチオン性リポソームは、以下

    N−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウム(DOTMA);
    ジドデシルジメチルアンモニウム ブロミド(DDAB);
    1,2−ジオレオイルオキシ−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP);
    1,2−ジステアロイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DSTAP);
    ジオレオイル−3−ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP);
    ジオクタデシル−ジメチルアンモニウム クロリド(DODAC);
    1,2−ジミリストイルオキシプロピル−3−ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE);
    2,3−ジオレイルオキシ−N−[2−(スペルミンカルボキサミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパナミウム トリフルオロアセテート(DOSPA);
    3β−N−(N’,N’−ジメチル−アミノエタン−カルバモイル−コレステロール)(DC−Chol);および
    O,O’−ジテトラデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミン クロリド;
    からなる群より選択される少なくとも1つのカチオン性脂質、および以下:
    ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE);
    ジアシルホスファチジルエタノールアミン;
    ジアシルホスファチジルコリン;
    リゾホスファチジルコリン;
    ジアシルホスファチジルグリセロール;
    ジアシルホスファチジン酸;
    ジアシルホスファチジルセリン;
    スフィンゴミエリン;
    セラミド;
    ジアシルグリセロール;および
    コレステロール;
    からなる群より選択される少なくとも1つの非カチオン性脂質(ここで非カチオン性脂質に含まれるアシル基は、炭素数が12〜20の飽和または不飽和アシル基である)、により構成されるものである、前記複合化剤。
  13. 細胞老化を抑制する方法であって、請求項1〜6のいずれか1項に記載の複合体をインビトロで対象細胞と接触させて、細胞老化を抑制することを含む、前記方法。
  14. 細胞老化を抑制することが、細胞サイズ、細胞内部構造の複雑さ、ミトコンドリア膜電位、マイトファジー活性、細胞周期、細胞増殖、p53の発現、およびp21の発現から選択される1以上の指標により評価される細胞の老化の度合いを低減させることである、請求項13に記載の方法。
  15. 請求項1〜6のいずれか1項に記載の複合体を対象細胞と接触させて、老化細胞の割合が減少した細胞群を得る方法。
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