次に、添付図面に基づいて、本発明に係る紙葉類搬送装置の実施形態につき説明する。なお、搬送対象である紙葉類とは、紙幣や書面といった保形性のある紙類(ティッシュペーパーのように、搬送流に対して保形性を有しないものを除く)、樹脂製のフィルム(プラスティック紙幣を含む)や薄いカード類などが適用できる。本実施形態の紙葉類搬送装置においては、紙製の紙幣を搬送対象とした紙幣搬送装置として説明する。また、搬送用流体としては、気体に限らず液体を用いることも可能であるが、本実施形態の紙幣搬送装置においては、空気(エア)を搬送用流体として用いた。また、本実施形態では、紙幣を重力方向に立てた状態で搬送するので、便宜上、紙幣の二面が臨む方向を左右または側方、これに直交する重力方向を上下という。
図1に示す紙幣搬送装置1は、例えば遊技店に設置され、遊技媒体貸出装置やカード販売装置等へ投入された紙幣を回収して一箇所へ集めるような使い方が可能である。搬送管2内を通過させて搬送する搬送対象の紙幣3は、適所に設けた紙幣導入部4から搬送管2内へ導入される。搬送管2の一方端には送風機5を設け、他方端には紙幣回収部6を設ける。すなわち、送風機5を設けた上流から紙幣回収部6を設けた下流に向けて、搬送用流体としての空気が搬送管2内を流れるのである。なお、下流である紙幣回収部6側に吸引機を設けることで、搬送用流体としての空気が搬送管2内を上流から下流へ流れるようにすることもできる。
搬送管2は、所要長さまで連結して、設置場所や状況に応じた流路に調整できる。搬送管2は、紙幣の2面に対向するよう内面側が配置された一対の主搬送壁部である第1主搬送壁211および第2主搬送壁212と、第1,第2主搬送壁211,212の上下両端部に設ける端部カバーとしての上部カバー体221と下部カバー体222をそれぞれ設けた構成である。これら、第1,第2主搬送壁211,212と上,下部カバー体221,222により、圧縮空気を送り出せる流体通過空間23が内部に形成される。この流体通過空間23のうち、第1主搬送壁211の内壁面211bと第2主搬送壁212の内壁面212bとで挟まれた空間が主搬送路231となり、この主搬送路231を通って紙幣3が搬送されるのである。なお、これら第1,第2主搬送壁211,212と上,下部カバー体221,222は、個別のパーツとして形成し、組み立てても良いし、射出成形や押出成形といった樹脂加工技術により複合パーツを形成して組み立てるようにしても良い。また、樹脂加工に限らず、厚さ1〜2〔mm〕程度の板材を加工して、第1,第2主搬送壁211,212と上,下部カバー体221,222を作っても良い。
また、第1,第2主搬送壁211,212には、外壁面211a,212aから内壁面211b,212bに搬送用エアが通過し得るエア帰還孔24を所要間隔で設ける。本構成の搬送管2においては、上部カバー体221に対応させた第1,第2主搬送壁211,212の上部と、下部カバー体222に対応させた第1,第2主搬送壁211,212の下部とに、それぞれ等間隔で一列状に設けた(例えば、図2(B)を参照)。
各エア帰還孔24は、上流側開口縁241と下流側開口縁242と端部側開口縁243と中央側開口縁244とで囲まれた略四角形状である。上流側開口縁241は、エア帰還孔24の上流側縁部で、搬送方向にほぼ直交する。下流側開口縁242は、エア帰還孔24の下流側縁部で、上流側開口縁241とほぼ平行である。端部側開口縁243は、エア帰還孔24の上部カバー体221または下部カバー体222の配設側縁部で、搬送方向にほぼ平行である。中央側開口縁244は、エア帰還孔24の中央側縁部(上,下部カバー体221,222配設側の反対側で、第1、第2主搬送壁211,212の上下方向中央に近い縁部)で、端部側開口縁243とほぼ並行である。よって、全てのエア帰還孔24は、搬送方向と平行な中心線CL(図1中、一点鎖線で示す)に対して、上下方向(搬送方向に直交する向き)に対称な開口形状となる。
なお、本構成例の搬送管2におけるエア帰還孔24は略四角形状としたが、その開口形状や開口面積、配置間隔等は、特に限定されるものではなく、後述するように、必要十分な帰還流を得ることができれば良い。日本の紙幣3を搬送する場合、第1,第2主搬送壁211,212の高さを80〔mm〕程度、対向間隔を10〜15〔mm〕程度とすると、上下2箇所に配列状に設ける各エア帰還孔24の上下方向高さは20〜30〔mm〕が適当である。なお、エア帰還孔24の搬送方向幅は、エア帰還孔24の配設間隔に応じて、適宜な風量や風速が得られるように定めれば良い。
また、第1主搬送壁211に設ける全てのエア帰還孔24と、第2主搬送壁212に設ける全てのエア帰還孔24とが、主搬送路231を挟んで正対するように、各エア帰還孔24の開設位置を設定することが望ましい。しかしながら、第1主搬送壁211側のエア帰還孔24と第2主搬送壁212側のエア帰還孔24が、紙幣3の搬送方向あるいは上下方向に多少ずれていても、極端に偏った帰還流が紙幣3の二面へ両側から作用しなければ、紙幣3の安定搬送を実現できる。
上部カバー体221は、第1,第2主搬送壁211,212の各内壁面211b,212b側から各外壁面211a,212a側へ搬送用エアをそれぞれ誘導する流体誘導空部を生じさせる分岐誘導部を備える。本構成の上部カバー体221においては、第1主搬送壁211の内壁面211b側から外壁面211a側へ搬送用エアを誘導するための第1分岐誘導部221a1と、第2主搬送壁212の内壁面212b側から外壁面212a側へ空気を誘導する第2分岐誘導部221b1を設けた。すなわち、本構成の上部カバー体221は、第1主搬送壁211の上端縁の上方空間に第1流体誘導空部232aを生じさせる滑らかな凹曲面状の第1分岐誘導部221a1と、第2主搬送壁212の上端縁の上方空間に第2流体誘導空部232bを生じさせる第2分岐誘導部221b1を備える。紙幣3を搬送対象とする場合、第1,第2分岐誘導部221a1,221b1の左右幅はそれぞれ15〔mm〕程度、凹曲面最奥部までの距離は5〔mm〕程度である。
上部カバー体221の第1分岐誘導部221a1に連なる第1外方誘導部221a2は、第1流体誘導空部232aを介して第1主搬送壁211の外壁面211a側へ誘導された搬送用エアをエア帰還孔24へ誘導可能な第1帰還誘導空部233aを生じさせる。同様に、上部カバー体221の第2分岐誘導部221b1に連なる第2外方誘導部221b2は、第2流体誘導空部232bを介して第2主搬送壁212の外壁面212a側へ誘導された搬送用エアをエア帰還孔24へ誘導可能な第2帰還誘導空部233bを生じさせる。なお、第1外方誘導部221a2の下端は、滑らかに湾曲させて第1主搬送壁211の外壁面211aに密着する終端屈曲部221a2−eとし、エア帰還孔24の若干下方位置にて第1帰還誘導空部233aが閉塞されるようにしておく。同様に、第2外方誘導部221b2の下端は、滑らかに湾曲させて第2主搬送壁212の外壁面212aに密着する終端屈曲部221b2−eとし、エア帰還孔24の若干下方位置にて第2帰還誘導空部233bが閉塞されるようにしておく。紙幣3を搬送対象とする場合、第1,第2外方誘導部221a2,221b2の上下高さは30〜35〔mm〕程度である。
下部カバー体222も上部カバー体221と同様に、第1,第2主搬送壁211,212の各内壁面211b,212b側から各外壁面211a,212a側へ空気をそれぞれ誘導する流体誘導空部を生じさせる分岐誘導部を備える。本構成の下部カバー体222においては、第1主搬送壁211の内壁面211b側から外壁面211a側へ空気を誘導するための第1分岐誘導部222a1と、第2主搬送壁212の内壁面212b側から外壁面212a側へ空気を誘導する第2分岐誘導部222b1を設けた。すなわち、本構成の下部カバー体222は、第1主搬送壁211の下端縁の下方空間に第1流体誘導空部232aを生じさせる滑らかな凹曲面状の第1分岐誘導部222a1と、第2主搬送壁212の下端縁の下方空間に第2流体誘導空部232bを生じさせる第2分岐誘導部222b1を備える。紙幣3を搬送対象とする場合、第1,第2分岐誘導部222a1,222b1の左右幅はそれぞれ15〔mm〕程度、凹曲面最奥部までの距離は5〔mm〕程度である。
下部カバー体222の第1分岐誘導部222a1に連なる第1外方誘導部222a2は、第1流体誘導空部232aを介して第1主搬送壁211の外壁面211a側へ誘導された搬送用エアをエア帰還孔24へ誘導可能な第1帰還誘導空部233aを生じさせる。同様に、下部カバー体222の第2分岐誘導部222b1に連なる第2外方誘導部222b2は、第2流体誘導空部232bを介して第2主搬送壁212の外壁面212a側へ誘導された搬送用エアをエア帰還孔24へ誘導可能な第2帰還誘導空部233bを生じさせる。なお、第1外方誘導部222a2の上端は、滑らかに湾曲させて第1主搬送壁211の外壁面211aに密着する終端屈曲部222a2−eとし、エア帰還孔24の若干上方位置にて第1帰還誘導空部233aが閉塞されるようにしておく。同様に、第2外方誘導部222b2の上端は、滑らかに湾曲させて第2主搬送壁212の外壁面212aに密着する終端屈曲部222b2−eとし、エア帰還孔24の若干上方位置にて第2帰還誘導空部233bが閉塞されるようにしておく。紙幣3を搬送対象とする場合、第1,第2外方誘導部222a2,222b2の上下高さは30〜35〔mm〕程度である。
上述したように、上部カバー体221には第1,第2分岐誘導部221a1,221b1を設け、下部カバー体222には第1,第2分岐誘導部222a1,222b1を設ければ、主搬送路231の上方左右および下方左右へ均等に搬送用エアを誘導できる。なお、上,下部カバー体221,222に設ける分岐誘導部は左右一対の構造に限定されない。例えば、第1外方誘導部221a2と第2外方誘導部221b2、或いは第1外方誘導部222a2と第2外方誘導部222b2を滑らかな曲面で連結する一つの分岐誘導部を用いて、上部カバー体221或いは下部カバー体222を構成しても良い。また、端部カバー体として、上部カバー体221と下部カバー体222の両方を設けず、一方端のみに端部カバー体を設けておき、第1,第2主搬送壁211,212にエア帰還孔24をそれぞれ一列だけ設けてもよい。かくする場合、端部カバー体を設けない他方端では、第1主搬送壁211と第2主搬送壁212の間を遮蔽壁等で塞ぐことにより、搬送用エアが漏れない密閉状の流体通過空間23を形成すれば良い。
エア帰還孔24を設けた第1,第2主搬送壁211,212の外壁面211a,212a側には、上,下部カバー体221,222の第1,第2外方誘導部221a2,221b2にて誘導された搬送用エアをエア帰還孔24へ導く帰還ガイド部25を設ける。帰還ガイド部25は、少なくともエア帰還孔24の上流側開口縁241にエア導入開口25aが位置し、エア帰還孔24の下流側開口縁242に向かって狭まる突出体で、その横断面は略三角形状とした(図2(C)を参照)。また、帰還ガイド部25の上流側の上下部は、乱流を生じやすい角部とせず、滑らかな曲面部で構成した。この上下2箇所の曲面部が、エア帰還孔24の下流側開口縁242の上端部または下端部へ向かって徐々に収束することで、帰還ガイド部25の内面上部には上方誘導湾曲面が形成され、内面下部には下方誘導湾曲面が形成される。すなわち、エア導入開口25aから帰還ガイド部25内へ導かれ、上方誘導湾曲面に誘導された搬送用エアは、エア帰還孔24を抜けると上向きに広がり易い帰還流となり、下方誘導湾曲面に誘導された搬送用エアは、エア帰還孔24を抜けると下向きに広がり易い帰還流となる。なお、エア帰還孔24と帰還ガイド部25は、樹脂加工により第1,第2主搬送壁211,212を形成するとき、同時に形成できる。無論、別体として形成した構造体をエア帰還孔24の縁部に沿って取り付けることにより、帰還ガイド部25を形成するようにしても良い。
紙幣3を搬送対象とし、上,下カバー体221,222に各々対応させて二列状にエア帰還孔24を設ける場合、帰還ガイド部25の上下高さを20〜30〔mm〕程度、搬送方向幅を8〜15〔mm〕程度にすると、帰還ガイド部25の突出量は3〜6〔mm〕程度が望ましい。エア帰還孔24から主搬送路231へ流入する帰還流の流入角度(帰還流の流入方向と搬送方向とが成す鋭角)を15〜30゜の範囲で調整できるからである。帰還流が強い場合には、帰還流の流入角度を小さくして、帰還流が主搬送路231の中央付近を流れる紙幣3に到達するまでの距離を長くする。かくすれば、強すぎる帰還流の流下勢は紙幣3へ到達するまでに減衰してゆき、程良い流下勢となった帰還流が紙幣3に作用する。一方。帰還流が弱い場合には、帰還流の流入角度を大きくして、帰還流が主搬送路231の中央付近を流れる紙幣3に到達するまでの距離を短くする。かくすれば、帰還流が消失する前に紙幣3へ到達させることができ、紙幣3を下流へ搬送する力を帰還流から与えることができる。
更に、搬送管2の第1主搬送壁211の内壁面211bと、第2主搬送壁212の内壁面212bには、各エア帰還孔24の上流側へ乱流抑制手段としての流体制御プレート26を設ける。乱流抑制手段とは、エア帰還孔24から主搬送路231へ戻った前記帰還流が、主搬送路231内を流れる搬送用エアと干渉して乱流を生じないよう、主搬送路231内を流れる搬送用エアが各エア帰還孔24の開口面へ上流から流れ込むことを抑制する機能である。
乱流抑制手段として機能するために、流体制御プレート26の流体誘導面26aは、上流から下流のエア帰還孔24へ向かうにしたがって内壁面211b,212bからの突出量が徐々に増す滑らかな曲面形状とした。この流体誘導面26aに沿って流れる搬送用エアは、下流に位置するエア帰還孔24の上流側開口縁241へ近づくほど、内壁面211b,212bから遠ざかるので、エア帰還孔24から出てきた直後の帰還流とぶつかることがない。後述するように、エア帰還孔24の開口面から出た帰還流の勢いが強いと、各エア帰還孔24の開口面へ上流から流れ込んだ搬送用エアとぶつかって乱流が発生し、搬送方向への層流およびエア帰還孔24からの帰還流が阻害される。このため、紙幣3を安定搬送できなくなる危険性が生ずる。したがって、乱流制御手段としての流体制御プレート26を備えた搬送管2によれば、紙幣3の安定搬送が可能になる。
流体制御プレート26は、搬送方向にほぼ直交する上流側縁部261を可能な限り薄くすることで、内壁面211b、212bとの間に生ずる段差をなくし、搬送用エアを内壁面211b、212bから流体誘導面26aへ円滑に誘導できる。なお、第1,第2主搬送壁211,212と流体制御プレート26を樹脂成形等で一体的に設ければ、内壁面211b、212bから流体誘導面26aへ段差無く誘導できる理想的な曲面の流体制御プレート26を得られる。無論、別体として作成した流体制御プレート26を、第1,第2主搬送壁211,212の内壁面211b,212bの適所へ取り付けるようにしても構わない。また、流体誘導面26aは、横断面が任意の半径(例えば、70〜100〔mm〕)を持つ曲線で徐々に立ち上がる面を例示したが、これに限らず、楕円曲線や直線で立ち上がる面で流体誘導面26aを構成しても良い。
また、流体制御プレート26において、上流側縁部261に対向する下流側端面262は、エア帰還孔24の上流側縁部241と一致するように設けておく。かくすれば、エア帰還孔24の上流側縁部241に沿って主搬送路231内に流入した帰還流は、エア帰還孔24の開口面から下流側端面262の厚さ分だけ遠ざかったところで、搬送方向へ流れる搬送用エアと交わることになるので、効果的に乱流発生を抑制できる。紙幣3を搬送対象とする場合、流体制御プレート26の下流側端面262の厚さは、1.5〜3〔mm〕程度が望ましい。下流側端面262を厚くし過ぎると、流路を狭め過ぎて、搬送用エアの風量を減らしてしまい、紙幣3の安定搬送が阻害される可能性があり、逆に下流側端面262が薄すぎると、乱流抑制の効果を得られない。
なお、流体制御プレート26の端部側端面263は、エア帰還孔24の端部側開口縁243と一致させるように設けても良いが、若干(例えば、1〜3〔mm〕程度)端部側へ突出するようにした。エア帰還孔24の開口面から主搬送路231内に流入した帰還流は、流入角度の方向に揃った層流だけではなく、端部方向(第1,第2流体誘導空部232a,232bに近い方向)や中央方向(第1,第2流体誘導空部232a,232bから遠ざかる方向)への流れもある。端部側端面263を端部側開口縁243よりも端部側へ突出させておけば、エア帰還孔24の端部側開口縁243の端部側へ内壁面211b,212bに沿って搬送用エアが流れてくることを防げるので、エア帰還孔24の端部側での乱流発生を抑制できる。同様に、流体制御プレート26の中央側端面264は、エア帰還孔24の中央側開口縁244と一致させるように設けても良いが、若干(例えば、1〜3〔mm〕程度)縦方向の中央側へ突出するようにした。かくすれば、エア帰還孔24の中央側開口縁244の中央側部位へ内壁面211b,212bに沿って搬送用エアが流れて来ることを防げるので、エア帰還孔24の中央側での乱流発生を抑制できる。
以上のように構成した本実施形態の紙幣搬送装置1では、流体制御プレート26を設けることによって乱流の発生を抑制し、効率良く帰還流を紙幣3に作用させ、搬送管2内で紙幣3の安定した搬送を行うことができる。この流体制御プレート26の有用性を説明するため、流体制御プレート26を備えていない搬送管2−0を用いた場合の搬送動作を説明する。図3に示すように、搬送管2−0は、第1,第2主搬送壁211,212の内壁面211b,212bに、流体制御プレート26のような乱流抑制手段に相当する機能は設けていない。
流体制御プレート26を備えていない搬送管2−0における帰還流の発生原理を図4(A),(B)に示す。なお、図4(B)は、上、下部カバー体221,222の第2流体誘導空部232bおよび第2帰還誘導空部233bを透かして、第2主搬送壁212の外壁面212a側を見た状態を示す。
前述したように、加圧した搬送用エアが送り込まれる搬送管2内では、上下左右の壁面を外向きに押す圧力が生じる。上,下部カバー体221,222の第1,第2分岐誘導部221a1,222a1,221b1,222b1を外向きに押す力は、搬送用エアを第1,第2流体誘導空部232a,232bから第1,第2帰還誘導空部233a,233bへ誘導する力として作用する。なお、上,下部カバー体221,222には、第1主搬送壁211と第2主搬送壁212の中間部位より左右両側に第1分岐誘導部221a1,222a1と第2分岐誘導部221b1,222b1を設けたので、左右に偏り無く気流が分岐して行く。
しかも、第1,第2分岐誘導部221a1,221b1の内面は外側(主搬送路231から遠ざかる方向)に突出して滑らかに第1,第2外方誘導部221a2,221b2に連なる凸面形状の誘引流動面となるので、コアンダ効果により、第1,第2帰還誘導空部233a,233bへ誘導され易い。なお、コアンダ効果とは、粘性流体が近接した壁面に沿って流れる性質のことで、搬送用エアも粘性流体であるから、上部カバー体221および下部カバー体222の内面に沿って流れて行くことは理に適っている。
したがって、搬送管2内へ圧送された搬送用エアの一部は、主搬送路231から第1,第2流体誘導空部232a,232bへ、更には第1,第2帰還誘導空部233a,233bへ誘導され、第1,第2主搬送壁211,212の外壁面211a,212a側へ回り込む。この気流は途切れること無く続くので、第1,第2主搬送壁211,212の外壁面211a,212a側へ回り込んだ搬送用エアが、極端に減圧されることは無い。第1,第2主搬送壁211,212の外壁面211a,212a側へ至った搬送用エアは、第1,第2帰還誘導空部233a,233b内を下流へ向かいつつ、主搬送路231の中央側(上部カバー体221では下方、下部カバー体222では上方)へ誘導される。
第1,第2帰還誘導空部233a,233bへ誘導された搬送用エアは、エア帰還孔24の帰還ガイド部25へ到達すると、エア導入開口25aから導入され、エア帰還孔24を介して第1主搬送壁211の内壁面211b側へ戻される帰還流となる。なお、搬送用エアが帰還ガイド部25に到達しないまま第1帰還誘導空部233aの下方部に至っても、第1帰還誘導空部233aの下部は終端屈曲部221a2−eで閉塞されているため、終端屈曲部221a2−eに沿って更に下流へ流れる。その下流にもエア帰還孔24を適宜な間隔で設けてあるので、下流のエア帰還孔24の帰還ガイド部25へ到達した搬送用エアの一部は、エア導入開口25aから導入されて帰還流となる。
なお、搬送管2−0内へ圧送された搬送用エアの一部は、主搬送路231から第1,第2流体誘導空部232a,232bへ至るものの、そのまま第1,第2流体誘導空部232a,232b内を下流へ流れてゆく搬送用エアの割合が多い。搬送管2−0の実験結果では、第1,第2流体誘導空部232a,232bから第1,第2帰還誘導空部233a,233bへ誘導される搬送用エアは50%以下であった。したがって、第1,第2流体誘導空部232a,232bから効率良く第1,第2帰還誘導空部233a,233bへ搬送用エアを誘導するために、誘導プレート7(図3中、二点鎖線で示す)を設けるようにしても良い。
図3に示すように、例えば、上,下部カバー体221,222にそれぞれ設ける第1,第2分岐誘導部221a1,221b1,222a1,222b1に、第1,第2流体誘導空部232a,232b内に突出する誘導プレート7を設ける。誘導プレート7は、半円弧状の板材を弦方向に引き延ばした外観の板状体であり、一方の第1面が上流側に、他方の第2面が下流側に向くよう、第1,第2分岐誘導部221a1,221b1,222a1,222b1へ斜めに取り付ける。このため、誘導プレート7における弧状の曲縁部は、第1,第2分岐誘導部221a1,221b1,222a1,222b1の凹状内面と密に接するような曲率に設定しておく。そして、第1,第2分岐誘導部221a1,221b1,222a1,222b1に取り付けた誘導プレート7の平坦縁部は、搬送用エアの送風方向WDとほぼ平行となり、主搬送路231と第1,第2流体誘導空部232a,232bの境界近傍に位置する。
また、上部カバー体221において、第1分岐誘導部221a1に設ける誘導プレート7の上流側端部と、第2分岐誘導部221b1に設ける誘導プレート7の上流側端部は、第1分岐誘導部221a1と第2分岐誘導部221b1との連結部にて当接、或いは近接させる。第1分岐誘導部221a1と第2分岐誘導部221b1との連結部は、第1,第2主搬送壁211,212の中間位置となるので、左右一対の誘導プレート7,7は、主搬送路231から上方へ圧入しつつ下流へ向かう搬送用エアを二等分するV字状の楔として機能する。下部カバー体222においても同様に、左右一対の誘導プレート7,7は、第1分岐誘導部222a1と第2分岐誘導部222b1との連結部にて当接、或いは近接させる。
一方、誘導プレート7の下流側端部は、第1,第2分岐誘導部221a1,221b1と第1,第2外方誘導部221a2,221b1との連結部(或いは、第1,第2分岐誘導部222a1,222b1と第1,第2外方誘導部222a2,222b1との連結部)近傍に位置させる。かくすれば、第1,第2分岐誘導部221a1,221b1,222a1,222b1に各々設けた誘導プレート7により、第1,第2流体誘導空部232a,232bから第1,第2帰還誘導空部233a,233bへ円滑に搬送流を誘導できる。
このように誘導プレート7を配置すると、主搬送路231から上,下部カバー体221,222へ圧入された搬送用エアは、誘導プレート7に沿って、滑らかに第1,第2主搬送壁211,212の外壁面211a,212a側へ誘導される。誘導プレート7を設けた搬送管2,2−0の実験結果では、第1,第2流体誘導空部232a,232bから第1,第2帰還誘導空部233a,233bへ誘導される搬送用エアは80%以上と大幅に改善された。
次に、各エア帰還孔24から主搬送路231へ流入した帰還流の挙動を図5に基づいて説明する。なお、図5(A)〜(C)は、搬送管2−0の上部カバー体221を搬送方向へ略水平に切り欠いて、主搬送路231と第1,第2帰還誘導空部233a,233bを情報から見た状態を示す。図5(A)〜(C)において、第1,第2流体誘導空部232a,232bから第1,第2帰還誘導空部233a,233bへ導かれた循環流Fgが帰還ガイド部25のエア導入開口25aから導入されて帰還流となる。また、エア導入開口25aへ導入されずに帰還ガイド部25の下流側へ至った搬送用エアの一部は、更に下流のエア帰還孔24から帰還流となる可能性がある。
図5(A)に示すのは、理想的な設計の搬送管2−0aであり、第1,第2主搬送壁211,212の各帰還孔24からの帰還流によって、内壁面211b,212bに沿った側方流Fr,Frが形成され、これらに挟まれて搬送方向へ直進する中央流Fcが形成される。搬送管2−0aにおいては、搬送用エアが各エア帰還孔24の開口面へ上流から流れ込んで、帰還流と干渉して乱流を生ずることはないので、帰還ガイド部25の角度調整により制御できる流入角度で帰還流を中央流Fc内へ到達させることができる。
なお、中央流Fcを両側から中央へ閉じ込め得るような流速の側方流Fr,Frが得られる場合、各エア帰還孔24の開口面へ上流から流れ込まない構造の搬送管2−0aを設計することは現実的でないが、あくまで仮想上の理想設計である。搬送管2−0aでは、紙幣3の両側面へ帰還流を到達させると、紙幣3は中央流Fc内を左右に大きく蛇行すること無く、略中央へ安定的に保持され、更には、帰還流より搬送方向(下流)へ向かう力を受けて、効率良く搬送されることとなる。
このとき、紙幣3の両側面へ到達する帰還流の流速は、強過ぎたり、弱過ぎたりしない、程良い流速が望ましい。帰還流が強過ぎて、主搬送路231の中央付近を超えると、対抗する帰還流との干渉の関係で乱流が発生し、紙幣3がこの乱流に巻き込まれてしまうため、搬送効率が低下してしまう。帰還流が弱くて、主搬送路231の中央付近にある紙幣3まで届かなければ、搬送方向への力を紙幣3に与えることができず、紙幣3は左右へフラフラと蛇行することになり、効率的な搬送は困難である。すなわち、紙幣3の両側面へ到達する帰還流の流速は、対向する帰還流の干渉による乱流が生じるほど強過ぎず、主搬送路231の中央付近へ届く程度の流速が望ましいのである。
上述したように、エア帰還孔24から主搬送路231へ流入する帰還流が強い場合には、帰還流が主搬送路231の中央付近を流れる紙幣3に到達するまでの距離を長くすれば良い。また、エア帰還孔24から主搬送路231へ流入する帰還流が弱い場合には、帰還流の流入角度を大きくして、帰還流が主搬送路231の中央付近を流れる紙幣3に到達するまでの距離を短くすれば良い。しかしながら、帰還流を主搬送路231の中央付近へ届かせるために流入角度を大きくする(90゜に近づける)と、搬送方向へ向かわせる力が弱くなり、本来の搬送機能が損なわれる。
よって、エア帰還孔24から得られる帰還流が弱すぎる場合には、誘導プレート7を設けるといった対策を行うことが望ましい。このほか、適切な帰還流を得るための対策として、第1,第2帰還誘導空部233a,233bへ導かれた循環流Fgを効率良くエア導入開口25aへ流入させることが考えられる。エア導入開口25aへ流入せずに帰還ガイド部25の下流側へ至った搬送用エアは、上,下部カバー体221,222の内壁面と帰還ガイド部25の傾斜面とで形成される拡開空間内で乱流を生じ、循環流Fgとは異なる向きの流れとなるため、下流の循環流Fgに悪影響を及ぼす可能性がある。その影響を減らすために、帰還ガイド部25の配設間隔(エア帰還孔24の配設間隔)、帰還ガイド部25の傾斜角度(帰還流の流入角度)、エア導入開口25aの開口形状等を適切に設定すると、適切な帰還流を得られる可能性がある。
図5(B)に示すのは、十分な帰還流が得られない設計となった搬送管2−0bであり、内壁面211b,212bに沿った両サイドの側方流Fr,Frが弱いために、中央流Fcが左右に広がってしまった状態である。搬送管2−0bにおいては、搬送用エアが各エア帰還孔24の開口面へ上流から流れ込んでも、帰還流と干渉して有害な乱流を生じ難い反面、帰還流を中央流Fc内中心付近の紙幣3まで到達させることは困難である。側方流中央流Fc内中心付近の紙幣3の両側面へ帰還流を到達させることができないと、上述した搬送管2−0aのような高い搬送効率は得難い。
搬送管2−0bにおいては、帰還流が弱いために内壁面211b,212b付近にしか影響を与えられないので、紙幣3は左右に広がった中央流Fc内を左右に大きく蛇行しながら流れてゆく可能性が高く、紙幣3は不安定な状態となってしまう。また、なんらかの理由で紙幣3が内壁面211b,212bに接触しエア帰還孔24を塞いでしまうと、帰還流が発生しなくなり、そのまま内壁面211b,212bに紙幣3が張り付いてしまう危険性がある。そうなると、外部から力を加えない限り、紙幣3は内壁面211b,212bから外れないため、搬送されなくなってしまう。
図5(C)に示すのは、強すぎる帰還流がエア帰還孔24より主搬送路231内へ流入する設計となった搬送管2−0cであり、搬送用エアが各エア帰還孔24の開口面へ上流から流れ込んで、強い帰還流と干渉して渦状の乱流を生じてしまった状態である。この乱流の影響で、主搬送路231の中央付近を流れる紙幣3には細かな振動が繰り返し生じるため、効率的な搬送は実現できない。
加えて、搬送管2−0cのように帰還流が強すぎる場合、更なる問題が生じる可能性がある。例えば、図6に示す紙幣(癖札3′)のように、表面3aと裏面3bが非対称となる折り目を付けられると、癖札3′の両側から同じ強さの帰還流が作用しても、癖札3′の表面3aと裏面3bが異なる力を受ける可能性がある。
図6(A),(B)の癖札3′は、長手方向の上縁31tおよび下縁31bとほぼ平行で等間隔の上折れ線32a、中折れ線32b、下折れ線32cで折り曲げ癖が付けられている。上折れ線32aは表面3a側が谷(裏面3b側が山)、中折れ線32bは表面3a側が山(裏面3b側が谷)、下折れ線32cは表面3a側が谷(裏面3b側が山)である。このため、上縁31tと上折れ線32aとの間である第1折れ部331、上折れ線32aと中折れ線32bとの間である第2折れ部332、中折れ線32bと下折れ線32cとの間である第3折れ部333、下折れ線32cと下縁31bとの間である第4折れ部334は、互いに傾斜方向が異なる。例えば、上縁31tが上に、下縁31bが下になるように癖札3′を立てておいたとき、第1折れ部331と第3折れ部333は表面31a側が上向きの面、第2折れ部332と第4折れ部334は裏面31b側上向きの面となる。
この癖札3′の表面31a側が第1主搬送壁211に、裏面31b側が第2主搬送壁212に対向するように、搬送管2−0cの主搬送路231中央付近に配置した状態を図7(a)に示す。第1主搬送壁211の各エア帰還孔24からの帰還流と、第2主搬送壁212の各エア帰還孔24からの帰還流は同等で、極端な偏りは無く、他方の内壁面211b,212bまで到達し得るほどの強さとする。しかしながら、癖札3′の表面3aと裏面3bで受ける力が異なるため、図7(B)に示すように、癖札3′は、第1主搬送壁211側へ押圧されることとなる。
具体的には、第2主搬送壁212に面した癖札3′の裏面3bの上半部では、上側のエア帰還孔24からの帰還流を第1折れ部331と第2折れ部332で受け、その流体圧は上折れ線32aへ集中する。同じく、癖札3′の裏面3bの下半部では、下側のエア帰還孔24からの帰還流を第3折れ部333と第4折れ部334で受け、その流体圧は下折れ線32cへ集中する。したがって、癖札3′の裏面3bには、帰還流によって第1主搬送壁211側へ押圧する力が効率良く作用する。
一方、第1主搬送壁211に面した癖札3′の表面3aの上半部では、上側のエア帰還孔24からの帰還流を第1折れ部331と第2折れ部332で受けるが、第1折れ部331の流体圧は上方へ抜けてしまい、横方向に受ける圧力は減ぜられる。同じく、癖札3′の表面3aの下半部では、下側のエア帰還孔24からの帰還流を第3折れ部333と第4折れ部334で受けるが、第4折れ部334の流体圧は下方へ抜けてしまい、横方向に受ける圧力は減ぜられる。したがって、癖札3′の表面3aには、第2折れ部332と第3折れ部333で受けた帰還流が中折れ線32bへ集中して、第2主搬送壁212側へ癖札3′を押す力として作用するが、第1折れ部331と第4折れ部334への押圧力はさほど作用しない。
図7に示すように、第1主搬送壁211の各エア帰還孔24から流入する帰還流と、第2主搬送壁212の各エア帰還孔24から流入する帰還流とが同等であっても、癖札3′の裏面3bに作用する力が癖札3′の表面3aに作用する力に勝る。このため、癖札3′は第1主搬送壁211の内壁面211bに押しつけられることとなり、結果的に搬送不能状態となる危険性がある。
このように、流体制御プレート26を設けていない搬送管2−0では、乱流の発生を抑制して、効率良く帰還流を紙幣3に作用させ、紙幣3の安定した搬送を行うことができない。一方、本実施形態の紙幣搬送装置1では、搬送管2内に流体制御プレート26を設けることで、エア帰還孔24の開口面付近での乱流発生を抑制し、効率良く帰還流を紙幣3に作用させ、紙幣3の安定した搬送を行うことが可能となる。以下、流体制御プレート26の有用性を、図8に基づいて説明する。
図8(A1)は、帰還流が強過ぎない第1構成例の搬送管2Aにおける帰還流の流入角度θ1を示す。図8(A2)に示す搬送管2Aの各帰還ガイド部25は、概ねθ1の流入角度で主搬送路231内へ帰還流を流入させる設計である。
搬送管2Aでは、各エア帰還孔24の上流側に流体制御プレート26を設けてあるので、第1,第2主搬送壁211,212に沿って流れる搬送用エア(主に、側方流Fr,Frとなる帰還流)は流体誘導面26aに沿って徐々に中央側へ誘導され、流体圧が高まる。本来、帰還流はエア帰還孔24から遠ざかるにつれて流速が落ち、流体圧が低下するので、中央流Fcの閉じ込め効果が弱まり、紙幣3が左右に大きくふらつく可能性がある。何らかの要因で、第1,第2主搬送壁211,212まで大きくふらついた紙幣3がそのまま内壁面211b,212bに張り付いてしまう危険性もある。しかし、流体制御プレート26によって側方流Fr,Frの流耐圧を徐々に高めれば、下流側のエア帰還孔24へ至るまで、紙幣3を主搬送路231の中央付近へ安定的に保持させることができる。よって、紙幣3が内壁面211b,212bに張り付く現象を効果的に抑制できる。
また、流体制御プレート26によって主搬送路231の流路の左右幅が狭まると、搬送用エアの流耐圧が高まり、主搬送路231の上下方向の圧力を高めることにもなる。すなわち、主搬送路231から上,下部カバー体221,222の第1,第2流体誘導空部232a,232bへ搬送用エアが効率良く送り込まれ、循環流Fgを増やすことに寄与できる。
搬送用エアが流体制御プレート26を越えると、圧力が低下することで乱流が発生する可能性があるものの、流体制御プレート26における下流側端面262の厚さだけエア帰還孔24の開口面から離れているので、帰還流に及ぼす影響は少ない。したがって、エア帰還孔24から主搬送路231内へ流入角度θ1で流入した帰還流は、下流からの搬送用エアと干渉すること無く、程良い流下勢で主搬送路231の中央付近に位置する紙幣3に到達できる。
また、各エア帰還孔24の上流側に設けた流体制御プレート26は、下流側端面262がエア帰還孔24の上流側開口縁241から突出した状態となっているので、エア帰還孔24の開口面から下流側端面262の突出端までの適宜な段差が生じる。この段差によって、紙幣3がエア帰還孔24に密着して塞ぐことを確実に防止できる。
以上のように、搬送管2Aでは、流体制御プレート26の効果によって、適切な帰還流を紙幣3に作用させて安定搬送を実現できるのである。なお、帰還流の流入角度が大きいと、帰還流から紙幣3に与える搬送方向の力が小さくなってしまう。そこで、強い帰還流が得られる場合には、帰還流の流入角度を小さくして、帰還流から紙幣3に与える搬送方向の力を大きくすると、紙幣3の搬送速度を高めることができる。
図8(B1)は、強い帰還流が得られる第2構成例の搬送管2Bにおける帰還流の流入角度θ2(但し、θ1>θ2)を示す。図8(B2)に示す搬送管2Bの各帰還ガイド部25は、概ねθ2の流入角度で主搬送路231内へ帰還流を流入させる設計である。
流入角度θ1よりも小さい流入角度θ2で主搬送路231内に流入した帰還流は、第1構成例の搬送管2Aの帰還流よりも遠い位置で紙幣3に到達する。すなわち、到達距離が長くなっただけ、帰還流の減衰量が大きくなり、結果として、主搬送路231の中央付近に位置する紙幣3に到達した帰還流の強さはちょうど良くなる。しかも、帰還流の流入角度θ2が小さいと、それだけ紙幣3を第1,第2主搬送壁211,212へ押す力よりも搬送方向へ押す力が相対的に大きくなるので、紙幣3の搬送速度を効果的に高めることができる。なお、流入角度θは、小さければ良いわけでは無く、紙幣3の搬送においては、10〜30゜が実用的な調整範囲と考えられる。
上述した第1,第2構成例の搬送管2A,2Bでは、流体制御プレート26を設けることでエア帰還孔24の開口面との段差を生じさせ、紙幣3がエア帰還孔24を塞ぐことを確実に防げる。しかしながら、隣接するエア帰還孔24とエア帰還孔24との間の内壁面211b,212bに紙幣3が密着して搬送不能になる危険性が懸念される。そこで、図9に示す第3構成例の搬送管2Cにおいては、紙幣3が第1,第2主搬送壁211,212の内壁面211b,212bに密着することを阻止する凸状の密着阻止手段として、中央側区間リブ27を設けた。
中央側区間リブ27は、エア帰還孔24の上流側開口縁241と下流側開口縁242との間を含む上下方向(搬送方向に直交する方向)に連続した帯状の範囲である開口区間213aを避けて設ける突状体である。すなわち、隣り合う2つの開口区間213aの間である密着阻止区間213b内で、流体制御プレート26の中央側端面264に沿う位置(エア帰還孔24の中央側である中央側開口縁244と搬送方向に連なる位置)に設けた突状体が、中央側区間リブ27として機能する。なお、密着阻止手段としては、紙幣3が内壁面211b,212bに密着しないように、微小な凸状体(半球状、円柱状、三角錐状などの突起)を内壁面211b,212bへ分散配置しておいても良い。しかしながら、微少な凸状体とは言え、帰還流に何らかの悪影響が生じる可能性もある。そこで、本構成例の搬送管2Cでは、断面が略四角形の長尺材を搬送方向に配して成る中央側区間リブ27を密着阻止手段として用いた。
中央側区間リブ27の突出端面である密着阻止面27aは、内壁面211b,212bから徐々に突出量が増す弧状曲面部27a1と、流体制御プレート26における下流側端面262の突出端とほぼ面一な平坦面部27a2からなる。このように、密着阻止区間213bに中央側区間リブ27を設けておけば、密着阻止区間213bにおいて紙幣3が内壁面211b,212bに密着して搬送不能になる危険性を抑制できる。この中央側区間リブ27は、必ずしも流体制御プレート26における中央側端面264に沿う位置に設ける必要はなく、端部側あるいは中央側にずらして設けても良い。
なお、中央側区間リブ27は、密着阻止区間213bに設ければ良く、開口区間213a内では、上,下カバー体221,222に対応する上下2箇所にエア帰還孔24が開口して帰還流が流入しているので、紙幣3が密着するおそれはない。むしろ、中央側区間リブ27を延長して開口区間213aにまで設けることは好ましくない。エア帰還孔24から流入した帰還流は、搬送方向に流れるだけで無く、端部側開口縁243や中央側開口縁244から上下方向へ拡散する流れもあり、このような拡散流が紙幣3に到達することで、紙幣3の壁面吸着現象を抑制していると考えられる。したがって、エア帰還孔24の中央側開口縁244に沿わせるように中央側区間リブ27を延長して設けると、中央側への拡散流が阻害されて、紙幣3の壁面吸着現象を抑制できなくなる可能性がある。このことからも、中央側区間リブ27は、開口区間213aを避けて、密着阻止区間213bのみに設けることが望ましい。また、開口区間213aは、エア帰還孔24の上流側開口縁241と下流側開口縁242との間を含んでいれば良く、上流側開口縁241よりも適宜上流側、下流側開口縁242よりも適宜下流側まで開口区間213aとすることで、密着阻止区間213bを若干狭くしても良い。
また、密着阻止区間213b内で、流体制御プレート26の端部側端面263に沿う位置に端部側区間リブ27′を設けても良い(図9中、二点鎖線で示す)。但し、端部側区間リブ27′を設けるのは、主搬送路231から第1,第2流体誘導空部232a,232bへ効率良く搬送用エアが誘導されており、必要十分な帰還流が得られている場合に限る。端部側区間リブ27′は、未着阻止区間213bの全域に亘って搬送方向に突出するので、主搬送路231から第1,第2流体誘導空部232a,232bへ至る気流を乱してしまう。このため、第1,第2帰還誘導空部233a,233bへ導かれる循環流が激減し、十分な帰還流を得られなくなるような場合は、端部側区間リブ27′を設けることは望ましくない。なお、端部側区間リブ27′よりも適宜中央側(上,下部カバー体221,222配設側の反対側)であれば、第1,第2帰還誘導空部233a,233bへ導かれる循環流が極端に減ぜられないので、区間リブを設け易い。無論、複数箇所に複数の区間リブを設けて密着阻止手段としても良い。
上述した第3構成例の搬送管2Cでは、密着阻止手段として、中央側区間リブ27または端部側区間リブ27′を用いたが、リブは、本来途切れることなく連続した状態で設けることが望ましい。そこで、図10に示す第4構成例の搬送管2Dは、隣り合う2つのエア帰還孔24の間である密着阻止領域BAから、その密着阻止領域BAの上流側に位置するエア帰還孔24の上流側縁部まで通して設けた第1通しリブ28を備える。密着阻止領域BAは密着阻止区間213b内であって、エア帰還孔24の端部側開口縁243よりも中央側、エア帰還孔24の中央側開口縁244よりも端部側に制限された領域である。この密着阻止領域BAと、その上流側に位置するエア帰還孔24とが連続する範囲を基準連続範囲RCRとすると、第1通しリブ28は複数の基準連続範囲RCRに連続して設けられる。すなわち、第1通しリブ28は、2つ以上の基準連続範囲RCRで継ぎ目無く連続する長尺な凸状体である。
ただし、第1通しリブ28は、搬送方向とほぼ平行に設けることで、主搬送路231内へ流入する帰還流に悪影響が出ないようにする。さらに、第1通しリブ28は、各エア帰還孔24の上下方向中心位置(中心線CLを含む位置)に設けることが望ましい。第1通しリブ28がエア帰還孔24の上下方向中心位置よりも端部方向あるいは中央方向に設けられていると、前述したように、帰還流の上下方向への拡散に影響を与えてしまい、紙幣3の壁面吸着現象を抑制できなくなる可能性がある。しかしながら、上下方向に対称な開口形状としたエア帰還孔24の上下方向中心位置に第1通しリブ28を設けた場合には、帰還流の上下方向への拡散に殆ど影響を与えないので、紙幣3の壁面吸着現象を帰還流によって抑制できる。無論、帰還流の上下方向への拡散に悪影響が無い範囲であれば、エア帰還孔24の上下方向中心位置から若干上下にずらして第1通しリブ28を設けても良い。
第1通しリブ28の突出端面である密着阻止面28aは流体制御プレート26の下流側端面262とほぼ面一となる。また、流体制御プレート26は上下に二分割し、第1通しリブ28の端部側には第1分割流体制御プレート26S1を、第1通しリブ28の中央側には第2分割流体制御プレート26S2を取り付け、第1通しリブ28の連続性を阻害しないようにした。なお、第1通しリブ28と流体制御プレート26を樹脂等で一体成形しておき、第1,第2主搬送壁211,212の内壁面211b,212bへ取り付けるようにしても良い。無論、第1通しリブ28と流体制御プレート26を第1,第2主搬送壁211,212と共に一体成形しても良い。
第4構成例の搬送管2Dのように、長尺な第1通しリブ28を各エア帰還孔24の上下方向中央付近を通るように設ければ、リブの切れ目に紙幣3が当たって変形したり千切れたりして、主搬送路231内に詰まるおそれが無い。しかも、紙幣3の壁面吸着現象を抑制する帰還流を、第1通しリブ28が阻害してしまうおそれもない。
しかしながら、長尺な第1通しリブ28を用いた場合、その材質によっては自重によるダレや温度変化による伸縮が問題となる可能性もある。そこで、図11に示す第5構成例の搬送管2Eのように、1つの基準連続範囲RCRのみを通る長さの第2通しリブ28′を用いても良い。すなわち、第2通しリブ28′は、基準連続範囲RCR毎に設ければよいので、取り扱い易いサイズとなる。しかも、隣り合う2つの第2通しリブ28′の下流側端部と上流側端部の位置を精度良く合わせておけば、擬似的に、前述した第1通しリブ28と同等の長尺なリブとして機能する。
第2通しリブ28′も第1通しリブ28と同様に、搬送方向とほぼ平行で、各エア帰還孔24の上下方向中心位置(中心線CLを含む位置)に設けることが望ましい。なお、第2通しリブ28′と流体制御プレート26を樹脂等で一体成形しておき、第1,第2主搬送壁211,212の内壁面211b,212bへ取り付けるようにしても良い。無論、第2通しリブ28′と流体制御プレート26を第1,第2主搬送壁211,212と共に一体成形しても良い。
上述した第4構成例の搬送管2Dや第5構成例の搬送管2Eでは、第1,第2通しリブ28,28′を1つ以上の基準連続範囲RCRを通して設け、紙幣3でエア帰還孔24が塞がれるような事態を確実に防げるので、紙幣3の壁面吸着抑制には十分と考えられる。しかしながら、第1,第2通しリブ28,28′の端部側や中央側に比較的広い平坦面があると、紙幣3が内壁面211b,212bへ張り付く可能性もあるので、前述した中央側区間リブ27や端部側区間リブ27′を設けるようにしても良い。
また、上述した第4構成例の搬送管2Dや第5構成例の搬送管2Eでは、第1,第2通しリブ28,28′が1つ以上の基準連続範囲RCRを切れ目無く通る構造としたが、不連続なリブの配設位置を変えて、全体としてリブのない領域を無くしても良い。図12に示す第5構成例の搬送管2Fでは、密着阻止領域BAの途中から、その上流側のエア帰還孔24の上流側縁部241まで通して設けた第3通しリブ28″を備える。この第3通しリブ28″は、下流側の流体制御プレート26の上流側縁部261よりも上流側に設けることで、流体制御プレート26と重ならないものとした。
第3通しリブ28″は、流体制御プレート26と重ならないために、密着阻止領域BAの搬送方向全域に連続しないが、中央側区間リブ27と端部側区間リブ27′を設けることで、密着阻止区間213bの全域をカバーできる。すなわち、開口区間213aと密着阻止区間213bの一部を第3通しリブ28″が、密着阻止区間213bの全域を中央側区間リブ27と端部側区間リブ27′がカバーすることで、紙幣3の壁面吸着に対して十分な抑制効果を発揮できる。しかも、第5構成例の搬送管2Fでは、第3通しリブ28″の中央側に中央側区間リブ27を、端部側に端部側区間リブ27′をそれぞれ設けることにより、リブが多段構造となり、紙幣3が張り付くような比較的広い平坦面が形成され難い。よって、第3通しリブ28″と中央側区間リブ27と端部側区間リブ27′とで密着阻止手段を構成すれば、紙幣3の壁面吸着抑制に一層効果がある。
なお、第3通しリブ28″は、下流側の流体制御プレート26とは重ならないが、上流側の流体制御プレート26とは接続するので、第3通しリブ28″と上流側の流体制御プレート26を樹脂等で一体成形しておき、第1,第2主搬送壁211,212の内壁面211b,212bへ取り付けるようにしても良い。このとき、中央側区間リブ27と端部側区間リブ27′も併せて一体成形しても良い。無論、第3通しリブ28″と中央側区間リブ27と端部側区間リブ27′と流体制御プレート26を第1,第2主搬送壁211,212と共に一体成形しても良い。
上述した第3〜第5構成例の搬送管2C〜2Eでは、搬送方向に長尺なリブを設けることで、紙幣3が第1,第2主搬送壁211,212の内壁面211b,212bに張り付かない密着阻止手段を構成したが、密着阻止手段は、これに限定されない。図13に示す第6構成例の搬送管2Gでは、エア帰還孔24の下流側開口縁242に連なる曲面形状の誘引流動面29aを備えた誘導体29を密着阻止手段とする。
誘導体29の上流側縁部291と下流側縁部292は、第1,第2主搬送壁211,212の内壁面211b,212bと極端な段差が生じないよう、可能な限り薄くしておくことが望ましい。誘引流動面29aは、上流側に位置するエア帰還孔24の下流側開口縁242とほぼ一致する上流側縁部291より下流へ向かって徐々に突出量が増し、最大突出部位を越えると、下流へ向かって徐々に突出量が減り、下流側縁部292に至る滑らかな曲面である。
また、誘導体29の端部側端面293は、エア帰還孔24の端部側開口縁243と一致させるように設けても良いが、若干端部側へ突出するようにした。かくすれば、エア帰還孔24の下流側開口縁242から端部側へ拡散した帰還流の一部を誘引流動面29aに沿わせて誘導できる。同様に、誘導体29の中央側端面294は、エア帰還孔24の中央側開口縁244と一致させるように設けても良いが、若干縦方向の中央側へ突出するようにした。かくすれば、エア帰還孔24の下流側開口縁242から中央側へ拡散した帰還流の一部を誘引流動面29aに沿わせて誘導できる。
上記のように構成した誘導体29は、エア帰還孔24からの帰還流が比較的弱い場合に効果を発揮する。エア帰還孔24から主搬送路231内へ流入した帰還流、特に下流側開口縁242に沿って流入した帰還流は、コアンダ効果により誘引流動面29aに沿って流れ、更に付近の帰還流を巻き込んで、主搬送路231の左右方向中央へ向かう層流が形成され易くなる。これにより、弱い帰還流でも紙幣3を主搬送路231の中央付近を安定して流れるような閉じ込め効果が得られ、前述した搬送管2−0bの如く、紙幣3が左右に大きくふらついて内壁面211b,212bに張り付くことを防止できる。
しかも、誘引流動面29aによって帰還流が中央へ向かうようにガイドされることで、比較的弱い帰還流であっても、主搬送路231内中央付近に位置する紙幣3まで届き易くなり、効率的な紙幣搬送を実現できる。加えて、誘導体29によって主搬送路231の流路の左右幅が狭まると、搬送用エアの流耐圧が高まり、主搬送路231の上下方向の圧力を高めることにもなる。すなわち、主搬送路231から上,下部カバー体221,222の第1,第2流体誘導空部232a,232bへ搬送用エアが効率良く送り込まれ、循環流を増やすことに寄与できる。
なお、誘導体29を設ける搬送管2Gは、帰還流が比較的弱いので、誘導体29の下流側縁部292を越え、内壁面211b,212bに沿って更に下流へ流れる側方流も強くはない。よって、この弱い側方流が下流に位置するエア帰還孔24の開口面へ流れ込んでも、エア帰還孔24から流入した帰還流と干渉して強い乱流が生ずる可能性は低く、敢えて流体制御プレート26を設ける必要はない。しかしながら、誘導体29と共に流体制御プレート26(図13中、破線で示す)を設けておけば、より確実な乱流抑制効果が得られると共に、流体制御プレート26による諸々の効果も期待できる。
以上、本発明に係る紙葉類搬送装置を実施形態に基づき説明したが、本発明は、この実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の構成を変更しない限りにおいて実現可能な全ての紙葉類搬送装置を権利範囲として包摂するものである。
前記課題を解決するために、上流から下流に向けて搬送用流体が流れる搬送管にて、紙葉類を上流から下流へ搬送する紙葉類搬送装置であって、前記紙葉類を搬送する主搬送路を含む流体通過空間が内部に形成される前記搬送管は、前記紙葉類の主たる2面に対向するよう内壁面側が配置された一対の主搬送壁部と、これら対向する主搬送壁部における前記紙葉類の搬送方向に直交する二方向の少なくとも一方端側に設ける端部カバーとを備え、前記対向する主搬送壁部における前記端部カバー配設側には、各外壁面側から各内壁面側に前記搬送用流体が通過し得る流体帰還孔を、前記搬送方向へ所要間隔でそれぞれ設け、前記端部カバーは、前記対向する主搬送壁部の各内壁面側から各外壁面側へ前記搬送用流体をそれぞれ誘導する流体誘導空部を生じさせる分岐誘導部と、前記流体誘導空部を介して前記対向する主搬送壁部の各外壁面側へ誘導された前記搬送用流体を前記流体帰還孔へ誘導可能な帰還誘導空部を生じさせる一対の外方誘導部と、を備え、前記主搬送壁部の内壁面側における各流体帰還孔の上流側に設けられ、上流から下流へ向かうにしたがって前記内壁面からの突出量が徐々に増す流体誘導面を備えた流体制御プレートを設けることで、前記外方誘導部から前記流体帰還孔を経て前記主搬送路へ戻った帰還流が、前記主搬送路内を流れる前記搬送用流体と干渉して乱流を生じないよう、前記主搬送路内を流れる前記搬送用流体が前記流体帰還孔の開口面へ上流から流れ込むことを抑制するようにした構成とする。