JP2021023726A - 生体固定用接着剤組成物 - Google Patents

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絵利香 一色
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Kei Kondo
圭 近藤
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Kenichi Ishizaki
謙一 石▲崎▼
岡崎 栄一
Eiichi Okazaki
栄一 岡崎
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Abstract

【課題】硬化後において、水により容易に剥離又は除去することが可能な生体固定用接着剤組成物を提供すること。
【解決手段】式(1)で表される2−シアノアクリレート化合物を含む生体固定用接着剤組成物。式(1)中、Lはそれぞれ独立に、−CHCH−、−CH(R)CH−又は−CHCH(R)−を表し、Rは炭素数1〜3のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜4の直鎖又は分岐のアルキル基を表し、pは3〜6の整数を表し、また、式(1)におけるp個の−L−O−のうち、2個〜4個が−CHCH−O−であり、0個〜2個が−CH(R)CH−及び/又は−CHCH(R)−O−である。

【選択図】なし

Description

本発明は、生体固定用接着剤組成物に関する。
2−シアノアクリレート化合物を含有する接着剤組成物は、主成分である2−シアノアクリレート化合物が有する特異なアニオン重合性により、被着体表面に付着する僅かな水分等の微弱なアニオンによって重合を開始し、各種材料を短時間で強固に接合することができる。そのため、いわゆる、瞬間接着剤として、工業用、医療用、家庭用等の広範な分野において用いられている。
2−シアノアクリレート化合物を含有する接着剤組成物は、その硬化物が硬く、優れたせん断接着強さを有する反面、接着性があまりに強力であることから、接着剤組成物を硬化させた後に剥離又は除去しようとした場合、時間がかかったり、被着物の破損が生じたりする場合がある。
2−シアノアクリレート化合物を含有する接着剤組成物の硬化物を剥離する技術として、例えば、特許文献1には、シアノアクリレートに水溶性ポリオキシアルキレングリコール系溶剤と水溶性界面活性剤を配合してなる硬化後の水溶解性を改良したシアノアクリレート接着剤組成物を熱水または加圧熱水に浸漬して剥離することが記載されている。
また、特許文献2には、石英ガラスの被加工物を固定剤で定盤に固定し、機械加工した後に加熱によって定盤から被加工品を剥離する方法であって、固定剤が紫外線硬化樹脂であり、被加工品を定盤から剥離する前に含ハロゲン有機溶媒を含浸させることを特徴とする剥離方法が記載されており、固定剤としてシアノアクリル系接着剤を用いることが記載されている。
特開2000−73015号公報 特開2011−104747号公報
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、接着剤組成物を剥離するため、硬化物を熱水又は加圧熱水(100℃〜130℃)に20分〜80分間浸漬する必要があり、特許文献2に記載の技術では、硬化物を水中で水が沸騰するまで加熱し、水が沸騰してから更に約5分〜約20分間保持する必要があった。
そのため、例えば、生体固定に用いた場合には、火傷やたんぱく質の変性等、生体に影響がでてしまうという問題があった。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、硬化後において、水により容易に剥離又は除去することが可能な生体固定用接着剤組成物を提供することである。
前記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 下記式(1)で表される2−シアノアクリレート化合物を含む生体固定用接着剤組成物。
式(1)中、Lはそれぞれ独立に、−CHCH−、−CH(R)CH−又は−CHCH(R)−を表し、Rは炭素数1〜3のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜4の直鎖又は分岐のアルキル基を表し、pは3〜6の整数を表し、また、式(1)におけるp個の−L−O−のうち、2個〜4個が−CHCH−O−であり、0個〜2個が−CH(R)CH−及び/又は−CHCH(R)−O−である。
<2> 前記接着剤組成物1.0gにN,N−ジメチル−p−トルイジンを1μL添加し撹拌した後、23℃60%RHで24時間放置して硬化させた直径25mm、厚さ2mmの円盤状の硬化物1.0gを23℃の純水50gに入れ、1時間撹拌した後の水への不溶分の残存率が、90質量%以下である、<1>に記載の生体固定用接着剤組成物。
<3> 前記接着剤組成物0.05gを、糸の重さ453.6gあたり長さ7,681m、密度510g/mの綿帆布を5cm×5cmの大きさに裁断したものの中央部に染み込ませ、23℃60%RHで24時間放置し、23℃の水80g中に2時間浸漬した後の接着剤残存率が、90質量%以下である、<1>又は<2>に記載の生体固定用接着剤組成物。
<4> 前記接着剤組成物0.05gを、糸の重さ453.6gあたり長さ7,681m、密度510g/mの綿帆布を5cm×5cmの大きさに裁断したものの中央部に染み込ませ、23℃60%RHで24時間放置し、40℃の水80g中に0.5時間浸漬した後の接着剤残存率が、90質量%以下である、<1>〜<3>のいずれか1つに記載の生体固定用接着剤組成物。
<5> 前記接着剤組成物0.18gを23℃の水90gと混合し、得られた懸濁液の全光線透過率が、20%以上である、<1>〜<4>のいずれか1つに記載の生体固定用接着剤組成物。
<6> 前記接着剤組成物0.18gを23℃の水90gと混合し、得られた懸濁液のヘーズ値が、90%以下である、<1>〜<5>のいずれか1つに記載の生体固定用接着剤組成物。
<7> 前記接着剤組成物のガラスに対する接触角が、38.0°以上である、<1>〜<6>のいずれか1つに記載の生体固定用接着剤組成物。
<8> 水溶性化合物を更に含む<1>〜<7>のいずれか1つに記載の生体固定用接着剤組成物。
<9> 前記水溶性化合物が、エチレンカーボネート、ジメチルスルホン、スルホラン、γ−ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリオキシアルキレンデシルエーテル、及び、脂肪酸ポリオキシエチレングリセロールボレートよりなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、<8>に記載の生体固定用接着剤組成物。
<10> 前記接着剤組成物1.0gにN,N−ジメチル−p−トルイジンを1μL添加し撹拌した後、23℃60%RHで24時間放置して硬化させた直径25mm、厚さ2mmの円盤状の硬化物1.0gを23℃の純水50gに入れ、500rpmの条件により1時間撹拌した後の水への残存率が、90質量%以下であり、前記撹拌を開始してから、目視で前記硬化物の固形物が消失するまでの時間が、24時間以下である、<1>〜<9>のいずれか1つに記載の生体固定用接着剤組成物。
<11> 医療用接着剤組成物である、<1>〜<10>のいずれか1つに記載の生体固定用接着剤組成物。
<12> 皮膚固定用接着剤組成物である、<1>〜<10>のいずれか1つに記載の生体固定用接着剤組成物。
<13> 人工爪用接着剤組成物である、<1>〜<10>のいずれか1つに記載の生体固定用接着剤組成物。
<14> 人工まつ毛用接着剤組成物である、<1>〜<10>のいずれか1つに記載の生体固定用接着剤組成物。
<15> 生体と部材又は他の生体との間に<1>〜<14>のいずれか1つに記載の生体固定用接着剤組成物からなる接着層を形成する工程、及び、前記生体と前記部材又は他の生体との間に形成された前記接着層を硬化させて硬化物とし、前記硬化物により前記生体と前記部材又は他の生体とを固定する工程を含む生体固定方法。
本発明によれば、硬化後において、水により容易に剥離又は除去することが可能な生体固定用接着剤組成物を提供することができる。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本発明において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。
また、本発明において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。
(生体固定用接着剤組成物)
本発明の生体固定用接着剤組成物(以下、単に「接着剤組成物」ともいう。)は、下記式(1)で表される2−シアノアクリレート化合物を含む。
式(1)中、Lはそれぞれ独立に、−CHCH−、−CH(R)CH−又は−CHCH(R)−を表し、Rは炭素数1〜3のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜4の直鎖又は分岐のアルキル基を表し、pは3〜6の整数を表し、また、式(1)におけるp個の−L−O−のうち、2個〜4個が−CHCH−O−であり、0個〜2個が−CH(R)CH−及び/又は−CHCH(R)−O−である。
本発明者らが鋭意検討した結果、前記構成をとることにより、硬化した後に水により剥離又は除去可能な生体固定用接着剤組成物を提供できることを見出した。
これによる優れた効果の作用機構は明確ではないが、以下のように推定している。
前記式(1)で表される2−シアノアクリレート化合物が、3個〜6個の1,2−アルキレンオキシ構造を有することにより、得られる硬化物における親水性が向上し、また、硬化物への水の浸透性に優れるため、前記硬化物の吸水及び膨潤による硬化物の脆化、並びに、わずかな外力で解体が生じ、また、接着界面への水の浸透、及び、接着力の低下が生じることにより、硬化した後における水による剥離又は除去性(本発明において「水易解体性」ともいう。)に優れると推定される。
本発明の接着剤組成物は、水易解体性に優れるため、熱水又は加圧熱水により短時間で容易に剥離又は除去可能であることは勿論、例えば、常温(15℃〜25℃)からぬるま湯程度の温度(30℃〜45℃)範囲の水に浸漬等することにより、剥離又は除去することも可能である。
また、本発明の生体固定用接着剤組成物は、2−シアノアクリレート化合物を含むため、例えば、空気中の水分により、容易に硬化でき、また、硬化速度にも優れる。
本発明の生体固定用接着剤組成物により固定(接着)する生体としては、生物であれば特に制限はなく、人体又は動物の体(皮膚、体内組織(血管、筋肉、骨、筋、腱等)、爪、毛髪等)、植物、菌類等が挙げられる。
本発明の生体固定用接着剤組成物は、生体同士、又は、生体と非生体である部材、例えば、以下のような被接着材(部材)を、固定(接着)することができる。
被接着材としては、特に制限はなく、金属、宝石等の鉱物、ガラス、セラミック、樹脂、低分子の有機化合物、木材等の材質のものが挙げられる。
本発明の生体固定用接着剤組成物は、空気中の水分により容易かつ迅速に硬化し、固定することができ、更に、例えば、23℃の水により容易に剥離することができるため、医療用接着剤組成物、皮膚固定用接着剤組成物、人工爪用接着剤組成物、又は、人工まつ毛用接着剤組成物として特に好適に用いることができる。
医療用接着剤組成物としては、組織同士を接着する接着剤、出血の防止ための又は開いた創傷を覆うための封止剤等が好適に挙げられる、例えば、体液の漏出、組織の接近、外科的に切開した又は外傷によって裂かれた組織の付着を防止すること;創傷からの血流を遅延すること;薬物を送達すること;火傷に包帯を巻くこと;皮膚又は他の表面若しくは深部の組織表層の創傷(例えば擦り傷、擦りむいた又は生の皮膚、及び/又は口内炎)に包帯を巻くこと;及び生体組織の修復と再生を助けること、などの用途が挙げられる。
また、包帯、ガーゼ、絆創膏等の固定にも好適に用いることができ、更に、包帯、ガーゼ、絆創膏に付与及び硬化させることにより、空気及びそれに含まれる細菌、バクテリア等からの密閉剤としても好適に用いることができる。
また、美容整形等の外科的処置時の仮固定用接着剤組成物としても好適に用いることができる。
皮膚固定用接着剤組成物としては、前述した包帯、ガーゼ、絆創膏等の皮膚への固定に用いることができ、また、アクセサリ(例えば、ビンディなど)等の宝飾品、タグ、ヘアーエクステンション、かつら、ウィッグ等の皮膚への固定に用いることができる。
また、皮膚固定用接着剤組成物は、着色剤等で着色させることにより、それ自体でフェイスペインティング及びボディペインティング用の塗料としても用いることができる。
人工爪用接着剤組成物としては、ヒト又は動物の爪と人工爪(付け爪等)との接着剤;ネイルアート用の接着剤;ヒト又は動物の爪の保護剤又は補強剤;マニキュア、ジェルネイル、ペディキュア等を塗布する際の保護剤又は剥離剤;等として好適に用いることができる。
人工まつ毛用接着剤組成物としては、ヒト又は動物のまぶた又はまつ毛と人工まつげ(つけまつ毛、まつ毛エクステンション用のアイラッシュ等)との接着剤等として好適に用いることができる。
<式(1)で表される2−シアノアクリレート化合物>
本発明の接着剤組成物は、前記式(1)で表される2−シアノアクリレート化合物を含む。
式(1)におけるRはそれぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1〜3のアルキル基を表し、また、直鎖アルキル基であっても、分岐アルキル基であってもよい。前記置換基としては、アリール基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アリーロキシ基、シアノ基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基が挙げられる。中でも、ハロゲン原子、又は、アルコキシ基が好ましく挙げられ、ハロゲン原子がより好ましく挙げられる。
式(1)におけるRとしては、例えば、メチル基、クロロメチル基、エチル基、クロロエチル基、プロピル基等が挙げられる。
中でも、水易解体性の観点から、Rはそれぞれ独立に、炭素数1又は2のアルキル基であることが好ましく、メチル基、クロロメチル基、又は、エチル基であることがより好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
また、式(1)における全てのRは、同じ基であることが好ましい。
式(1)におけるRは、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表し、また、直鎖アルキル基であっても、分岐アルキル基であってもよい。前記置換基としては、Rにおいて前述した置換基が挙げられる。
式(1)におけるRは、水易解体性の観点から、炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、又は、イソブチル基であることがより好ましく、メチル基、又は、エチル基であることが特に好ましい。
式(1)におけるpは、3〜5の整数であることが好ましく、3又は4であることがより好ましく、3であることが特に好ましい。
式(1)におけるLはそれぞれ独立に、水易解体性の観点から、−CHCH−又は−CHCH(R)−であることが好ましく、−CHCH−であることがより好ましい。
式(1)においては、水易解体性の観点から、p個の−L−O−のうち、2個〜4個が−CHCH−O−であり、0個又は1個が−CH(R)CH−又は−CHCH(R)−O−であることが好ましく、p個の−L−O−が、3個又は4個の−CHCH−O−であることがより好ましく、p個の−L−O−が、3個の−CHCH−O−であることが特に好ましい。
また、式(1)において、p個の−L−O−における−CHCH−O−と−CH(R)CH−及び/又は−CHCH(R)−O−との配列は、ランダム状であっても、同じ構造が連続するブロック状であってもよい。例えば、式(1)における2−シアノアクリロキシ基と−CHCH−O−、−CH(R)CH−又は−CHCH(R)−O−のいずれが結合していてもよいし、式(1)におけるRと、−CHCH−O−、−CH(R)CH−又は−CHCH(R)−O−のいずれが結合していてもよい。
前記式(1)で表される2−シアノアクリレート化合物として、具体的には例えば、2−シアノアクリル酸の2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エチル、2−[2−(2−エトキシエトキシ)エトキシ]エチル、2−[2−(2−プロピルオキシエトキシ)エトキシ]エチル、2−[2−(2−ブチルルオキシエトキシ)エトキシ]エチル、2−[2−(2−ペンチルオキシエトキシ)エトキシ]エチル、2−[2−(2−ヘキシルオキシエトキシ)エトキシ]エチル、2−[2−(2−メトキシプロピルオキシ)エトキシ]エチル、2−[2−(2−メトキシブチルオキシエトキシ]エチル、2−[2−(2−メトキシペンチルオキシ)エトキシ]エチル、2−[2−(2−メトキシエトキシ)プロピルオキシ]エチル、2−[2−(2−メトキシエトキシ)ブチルオキシ]エチル、2−[2−(2−メトキシエトキシ)ペンチルオキシ]エチル、2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]プロピル、2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]ブチル、2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]ペンチル、2−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}エチル、2−{2−[2−(2−メトキシプロピルオキシ)エトキシ]エトキシ}エチル、2−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)プロピルオキシ]エトキシ}エチル、2−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]プロピルオキシ}エチル、2−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}プロピル、2−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}エチル等のエステルが好適に挙げられる。
中でも、水易解体性の観点から、2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エチル−2−シアノアクリレート、又は、2−[2−(2−エトキシエトキシ)エトキシ]エチル−2−シアノアクリレートが好ましく、2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エチル−2−シアノアクリレート(下記式(2)で表される化合物)がより好ましい。
本発明の接着剤組成物に用いられる前記式(1)で表される2−シアノアクリレート化合物は、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の接着剤組成物における前記式(1)で表される2−シアノアクリレート化合物の含有量は、水易解体性、接着性及び硬化性の観点から、接着剤組成物の全質量に対し、40質量%以上100質量%以下であることが好ましく、50質量%以上99.5質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上90質量%以下であることが更に好ましく、70質量%以上85質量%以下であることが特に好ましい。
<水溶性化合物>
本発明の接着剤組成物は、水易解体性の観点から、水溶性化合物を更に含むことが好ましい。
前記水溶性化合物は、水易解体性、及び、前記式(1)で表される2−シアノアクリレート化合物への相溶性の観点から、本発明の接着剤組成物に含有される前記式(1)で表される2−シアノアクリレート化合物に溶解可能であることが好ましい。
本発明において、水溶性化合物が、前記式(1)で表される2−シアノアクリレート化合物に溶解可能であるとは、使用する前記式(1)で表される2−シアノアクリレート化合物100質量部に対し、使用する水溶性化合物1質量部を25℃において混合撹拌し、目視により相分離が見られず、均一な混合物を形成できることを表す。
また、本発明において、「水溶性化合物」とは、水と任意の混合比で混和し溶液となるか、又は、水に対する溶解度(25℃)が1g/100g以上の化合物を意味する。
前記水溶性化合物の溶解性パラメータ(SP値)は、水易解体性、及び、前記式(1)で表される2−シアノアクリレート化合物への相溶性の観点から、8.0(cal/cm0.5以上23.4(cal/cm0.5以下であることが好ましく、8.3(cal/cm0.5以上15.0(cal/cm0.5以下であることがより好ましく、8.3(cal/cm0.5以上14.0(cal/cm0.5以下であることが更に好ましく、9.0(cal/cm0.5以上14.0(cal/cm0.5以下であることが特に好ましい。
また、前記水溶性化合物のSP値は、水による剥離及び解体速度の観点からは、高い値であることが好ましい。
なお、本発明における溶解性パラメータ(SP値)は、R.F.Fedorsにより著された「Polymer Engineering and Science」14(2),147(1974)に記載の計算方法によって、算出する値である。具体的には、式(3)に示す計算方法による。なお、2.0455(cal/cm0.5=1MPa0.5である。
δ:SP値((cal/cm1/2
ΔEvap:各原子団のモル蒸発熱(cal/mol)
V:各原子団のモル体積(cm/mol)
また、2種以上を併用している場合は、以下の式により算出するものとする。
(混合物のSP値)=(成分1の体積分率)×(成分1のSP値)+(成分2の体積分率)×(成分2のSP値)+・・・
本発明に用いられる水溶性化合物は、低分子化合物であっても、高分子化合物であってもよい。前記低分子化合物は、分子量1,000未満であることが好ましく、前記高分子化合物は、重量平均分子量1,000以上であることが好ましく、重量平均分子量1,000以上1,000,000以下であることがより好ましい。
なお、本発明における高分子化合物の数平均分子量(Mn)、及び、重量平均分子量(Mw)の値は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定するものとする。
水溶性化合物としては、特に制限はないが、水易解体性、及び、前記式(1)で表される2−シアノアクリレート化合物への相溶性の観点から、エステル結合、カーボネート結合及びスルホニル結合よりなる群から選ばれた少なくとも1種の結合を有する化合物であることが好ましく、カーボネート結合及びスルホニル結合よりなる群から選ばれた少なくとも1種の結合を有する化合物であることがより好ましい。
また、水溶性高分子化合物としては、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、酢酸セルロース、セルロースアセテートブチレート等が好ましく挙げられる。
更に、水溶性化合物として、水易解体性、及び、粘性の観点から、低分子化合物、及び、高分子化合物を併用することも好ましい。
中でも、水溶性化合物としては、水易解体性、及び、前記式(1)で表される2−シアノアクリレート化合物への相溶性の観点から、エチレンカーボネート、ジメチルスルホン、スルホラン、γ−ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンジアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアセテート、ポリオキシアルキレンジアセテート、脂肪酸ポリオキシエチレングリセロールボレートよりなる群から選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましく、エチレンカーボネート、ジメチルスルホン、スルホラン、プロピレンカーボネート、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンジアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアセテート、ポリオキシアルキレンジアセテート、及び、脂肪酸ポリオキシエチレングリセロールボレートよりなる群から選択される少なくとも1種の化合物であることがより好ましい。
また、汎用性の観点からは、水溶性化合物としては、エチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホン、プロピレンカーボネート、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンジアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアセテート、及び、ポリオキシアルキレンジアセテートよりなる群から選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
上述のポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンジアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアセテート、ポリオキシアルキレンジアセテートとしては、例えば、下記式(1)で表される構造を有する化合物が好ましい。
R−(OCHCHX)・(OCHCH−OR’
(式(1)中、R、R’は水素原子又は直鎖若しくは分岐の炭素数1〜20のアルキル基若しくはアルキルアセテート基、Xは炭素数1〜10のアルキル基、nは0〜20の整数、mは0〜20の整数である。)
上述の脂肪酸ポリオキシエチレングリセロールボレートとしては、例えば、東邦化学工業(株)製、エマルボン(登録商標)T−20(ポリオキシエチレングリセロールボレート−ラウレート)、同T−40(ポリオキシエチレングリセロールボレート−パルミテート)、同T−60(ポリオキシエチレングリセロールボレート−ステアレート)、同T−66(ポリオキシエチレングリセロールボレート−ステアレート)、同T−80(ポリオキシエチレングリセロールボレート−オレート)、同T−83(ポリオキシエチレングリセロールボレート−オレート)、同T−160(ポリオキシエチレングリセロールボレートイソステアレート)等が好ましく挙げられる。
本発明の接着剤組成物に用いられる水溶性化合物は、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の接着剤組成物における水溶性化合物の含有量は、水易解体性の観点から、接着剤組成物の全質量に対し、0.5質量%以上50質量%以下であることが好ましく、1質量%以上40質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上35質量%以下であることが更に好ましく、10質量%以上30質量%以下であることが特に好ましい。
<その他の成分>
本発明の接着剤組成物は、前記式(1)で表される2−シアノアクリレート化合物及び前記水溶性化合物以外のその他の成分を含有していてもよい。
その他の成分としては、従来、2−シアノアクリレート化合物を含有する接着剤組成物に配合して用いられている安定剤、硬化促進剤、可塑剤、増粘剤、粒子、着色剤、香料、溶剤、強度向上剤等を、目的に応じて、接着剤組成物の硬化性及び接着強さ等を損なわない範囲で適量配合することができる。
また、本発明の生体固定用接着剤組成物は、その他の成分として、2−シアノアクリレート化合物の硬化に影響を与えない、抗生物質、抗炎症剤、抗菌剤、血液凝固剤、徐放剤等の公知の薬剤を用いてもよい。
安定剤としては、(1)二酸化硫黄及びメタンスルホン酸等の脂肪族スルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の芳香族スルホン酸、三弗化ホウ素メタノール、三弗化ホウ素ジエチルエーテル等の三弗化ホウ素錯体、HBF、トリアルキルボレート等のアニオン重合禁止剤、(2)ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、t−ブチルカテコール、カテコール及びピロガロール等のラジカル重合禁止剤などが挙げられる。これらの安定剤は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
硬化促進剤は、2−シアノアクリレート系接着剤組成物のアニオン重合を促進するものであれば、いずれも使用することができる。硬化促進剤としては、例えば、ポリエーテル化合物、カリックスアレン類、チアカリックスアレン類、ピロガロールアレン類、及びオニウム塩等が挙げられる。これらの硬化促進剤は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、可塑剤としては、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、セバシン酸ジメチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソトリデシル、フタル酸ジペンタデシル、テレフタル酸ジオクチル、イソフタル酸ジイソノニル、トルイル酸デシル、ショウノウ酸ビス(2−エチルヘキシル)、2−エチルヘキシルシクロヘキシルカルボキシレート、フマル酸ジイソブチル、マレイン酸ジイソブチル、カプロン酸トリグリセライド、安息香酸2−エチルヘキシル、ジプロピレングリコールジベンゾエート等が挙げられる。これらの中では、2−シアノアクリレート化合物との相溶性がよく、かつ可塑化効率が高いという点から、アセチルクエン酸トリブチル、アジピン酸ジメチル、フタル酸ジメチル、安息香酸2−エチルヘキシル、ジプロピレングリコールジベンゾエートが好ましい。これらの可塑剤は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
増粘剤としては、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチルとアクリル酸エステルとの共重合体、メタクリル酸メチルとその他のメタクリル酸エステルとの共重合体、アクリルゴム、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン、セルロースエステル、ポリアルキル−2−シアノアクリル酸エステル及びエチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。これらの増粘剤は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
接着剤組成物に配合してもよい粒子は、接着剤組成物を使用した際の接着剤層の厚さを調整するためのものである。
前記粒子の平均粒子径は、10μm〜200μmであることが好ましく、15μm〜200μmであることがより好ましく、15μm〜150μmであることが更に好ましい。
粒子の材質は、使用する2−シアノアクリレート化合物に不溶であり、重合等の変質を引き起こさないものであれば特に限定されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド等の熱可塑性樹脂;不飽和ポリエステル、ジビニルベンゼン重合体、ジビニルベンゼン−スチレン共重合体、ジビニルベンゼン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ジアリルフタレート重合体等の架橋樹脂;球状シリカ、ガラスビーズ、ガラスファイバー等の無機化合物;シリコーン化合物;有機ポリマー骨格とポリシロキサン骨格を含んでなる有機無機複合粒子等が挙げられる。
また、粒子の含有量は特に限定されないが、2−シアノアクリレート化合物の含有量を100質量部とした場合に、0.1質量部〜10質量部であることが好ましく、1質量部〜5質量部であることがより好ましく、1質量部〜3質量部であることが更に好ましい。前記0.1質量部〜10質量部の範囲であると、硬化速度や接着強さに与える影響を少なくすることができる。
本発明における粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の平均値である。
<硬化物の残存率>
本発明の接着剤組成物1.0gにN,N−ジメチル−p−トルイジンを1μL添加し撹拌した後、23℃60%RHで24時間放置して硬化させた直径25mm、厚さ2mmの円盤状の硬化物1.0gを23℃の純水50gに入れ、1時間撹拌した後の水への不溶分の残存率は、水易解体性の観点から、80質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましく、1質量%以下であることが特に好ましく、0質量%であることが最も好ましい。
前記残存率は、以下のように測定する。
接着剤組成物を1gにN,N−ジメチル−p−トルイジンを1μL添加し撹拌した後、23℃60%RHで24時間放置して硬化させた直径25mm、厚さ2mmの円盤状の硬化物1.0gを23℃の純水50gに入れ、1時間撹拌し、撹拌後、硬化物が分散及び/又は溶解した液を、JIS P3801で規定される5種Aのろ紙で濾別し、不溶分の残存率を計算する。
残存率(質量%)=(不溶分の乾燥質量)/(使用した硬化物の質量)×100
また、本発明の接着剤組成物1.0gにN,N−ジメチル−p−トルイジンを1μL添加し撹拌した後、23℃60%RHで24時間放置して硬化させた直径25mm、厚さ2mmの円盤状の硬化物1.0gを23℃の純水50gに入れ、500rpmの条件により1時間撹拌した後の水への残存率は、水易解体性の観点から、90質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましく、0質量%であることが特に好ましい。
更に、前記撹拌を開始してから、目視で前記硬化物の固形物が消失するまでの時間は、水易解体性の観点から、24時間以下であることが好ましく、18時間以下であることがより好ましく、12時間以下であることが更に好ましく、3時間以下であることが特により好ましく、1時間以下であることが最も好ましい。なお、下限は特に限定されないが、45分以上であることが好ましい。
<綿帆布に浸透及び硬化させた後、水に浸漬後の硬化物の残存率>
本発明の接着剤組成物0.05gを、糸の重さ453.6g(1ポンド)あたり長さ7,681m(8,400ヤード)、密度510g/mの綿帆布(JIS L3102(1997)に規定される綿帆布9号)を5cm×5cmの大きさに裁断したものの中央部に染み込ませ、23℃60%RHで24時間放置し、23℃の水80g中に2時間浸漬した後の接着剤残存率は、水易解体性の観点から、80質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましく、1質量%以下であることが特に好ましく、0質量%であることが最も好ましい。
また、本発明の接着剤組成物0.05gを、糸の重さ453.6g(1ポンド)あたり長さ7,681m(8,400ヤード)、密度510g/mの綿帆布(JIS L3102(1997)に規定される綿帆布9号)を5cm×5cmの大きさに裁断したものの中央部に染み込ませ、23℃60%RHで24時間放置し、40℃の水80g中に0.5時間浸漬した後の接着剤残存率は、水易解体性の観点から、80質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが更に好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。
前記接着剤残存率は、以下のように測定する。
接着剤組成物0.05gを、5cm角の糸の重さ453.6g(1ポンド)あたり長さ7,681m(8,400ヤード)、密度510g/mの綿帆布(JIS L3102(1997)に規定される綿帆布9号)の中央部に染み込ませる。23℃60%RHで24時間放置し、接着剤組成物を硬化させた後、23℃又は40℃の水、80mLに2時間浸漬させる。布の表面を23℃の水で洗い流した後、23℃で24時間乾燥させた後の重量から、残存率を算出する。
なお、本発明の接着剤組成物は、前記式(1)で表される2−シアノアクリレート化合物を含むため、23℃において空気中の水分により硬化する。
綿帆布における残存率(質量%)={(浸漬前の綿帆布(接着剤の硬化物を含む)の質量)−(浸漬後乾燥させた綿帆布(残留した接着剤の硬化物を含む)の乾燥質量)}/(使用した接着剤組成物の質量)×100
<全光線透過率、及び、ヘーズ値>
本発明の接着剤組成物0.18gを23℃の水90gと混合し、得られた懸濁液の全光線透過率は、20%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、60%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが特に好ましい。
また、本発明の接着剤組成物0.18gを23℃の水90gと混合し、得られた懸濁液のヘーズ値が、90%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましく、50%以下であることが更に好ましく、40%以下であることが特に好ましい。
前記全光線透過率、及び、ヘーズ値は、以下のように測定する。
接着剤組成物0.18gを23℃の水90gに撹拌しながら添加し、そのまま室温(23℃)で15分間撹拌し、懸濁液を得る。得られた懸濁液を濁度計用50mLセルに入れ、濁度計(日本電色工業(株)製NDH2000)を用いて、全光線透過率及びヘーズ値をJIS K0115に準拠して測定する。
<ガラスとの接触角>
本発明の接着剤組成物のガラスに対する接触角は、38.0°以上であることが好ましく、39.0°以上であることがより好ましく、40.0°以上であることが特に好ましい。
前記ガラスとの接触角は、以下のように測定する。
JIS R3703に準拠した白ガラス(松波硝子工業(株)製S111)を使用し、JIS R3257に準じ、接触角測定装置(英弘精機(株)製OCA20)を用いて、接着剤組成物のガラスに対する接触角を測定する。なお、測定条件は、滴下量:8μL、滴下速度:5μL/s、測定までの時間:3秒とする。
本発明の生体固定用接着剤組成物は、特に制限はなく、種々の用途に用いることができる。
中でも、本発明の生体固定用接着剤組成物は、接着した箇所の接着剤組成物又は不要な箇所に付着し硬化した接着剤組成物を、水により簡便に剥離又は除去することができる。
なお、用途としては、前述した用途が好適に挙げられる。
本発明の生体固定用接着剤組成物は、例えば、常温(15℃〜25℃)からぬるま湯程度の温度(30℃〜45℃)範囲の水に浸漬等することにより、剥離又は除去することが可能であるため、例えば、手指などの不要な箇所に付着し硬化しても、水により容易に剥離又は除去することができる。また、常温からぬるま湯程度の温度範囲の水により、剥離又は除去することが可能であるため、熱による生体へのダメージ(火傷やたんぱく質の変性など)等を抑制することができる。
本発明の生体固定用接着剤組成物は、生体固定方法にも好適に用いることができる。
即ち、本発明の生体固定方法は、
生体と部材又は他の生体との間に本発明の生体固定用接着剤組成物からなる接着層を形成する工程(以下、「接着層形成工程」ともいう。)、及び、
前記生体と前記部材又は他の生体との間に形成された前記接着層を硬化させて硬化物とし、前記硬化物により前記生体と前記部材又は他の生体とを生体固定する工程(以下、「生体固定工程」ともいう。)を含むことが好ましく、
前記硬化物を少なくとも水を含む組成物と接触させ前記生体と前記部材又は他の生体とを剥離する工程(以下、「剥離工程」ともいう。)を更に含むことがより好ましい。
また、本発明の生体固定方法は、人間を治療する方法を除く方法であってもよい。
以下、本発明の生体固定方法が有する各工程について説明する。
また、本発明の生体固定方法は、本発明の生体固定用接着剤組成物を作製する工程(以下、「接着剤組成物作製工程」ともいう。)を含んでいてもよい。
接着剤組成物作製工程は、2−シアノアクリレート化合物と、水溶性化合物とを混合し、本発明に係る生体固定用接着剤組成物を作製する工程であることが好ましい。
本工程に用いることができる2−シアノアクリレート化合物及び水溶性化合物については前記したとおりである。
本工程において、2−シアノアクリレートと水溶性化合物とを混合、撹拌し、均一液を得ることで、生体固定用接着剤組成物を作製することができる。2−シアノアクリレートと水溶性化合物とを混合する方法は特に限定されないが、室温から60℃以下の温度で、混合液を放置するか、撹拌機等を使って混合することによって作製することができる。
接着層形成工程は、生体と部材又は他の生体との間に本発明の生体固定用接着剤組成物からなる接着層を形成する工程である。
接着層形成工程は、例えば、生体固定する部材の一方又は複数の部材の被着面に接着剤組成物を塗布し、該塗布した箇所に他の部材を重ねること、及び、その繰り返しを行う工程とすることができる。本形態において、塗布するためには、使用する部材の形状に合わせて、ディスペンサー、コーター、ロール、はけ、へら、スプレー、塗布冶具等を用いてもよい。あるいは、予め積層した被着体を接着剤組成物に浸し、被着体の隙間に接着剤組成物を浸み込ませる方法もあげられる。使用する部材としては、接着剤組成物及び常温からぬるま湯程度の温度の水で変質しないものであることが好ましく、金属、セラミックス、プラスチックなどを好適に用いることができる。
生体固定工程は、前記生体と前記部材又は他の生体との間に形成された前記接着層を硬化させて硬化物とし、前記硬化物により前記生体と前記部材又は他の生体とを生体固定する工程である。
前記生体固定用接着剤組成物は、僅かな湿気で瞬間的に硬化可能であるため、特別な装置や特殊な条件を設ける必要なく硬化物を得ることができる。硬化反応を促進するために、生体固定する部材に影響がない範囲、例えば30℃から45℃程度に加熱して硬化を行っても良い。
剥離工程は、前記硬化物を少なくとも水を含む組成物と接触させ前記生体と前記部材又は他の生体とを剥離する工程である。
剥離工程においては、硬化物を水に接触させる方法としては、生体固定された部材を水に浸漬する、流水に曝す、生体固定された部材に水を噴霧する方法などが挙げられる。処理時間は、水の接触方法や加熱温度にもよるが、例えば、10秒〜3分の範囲であることが好ましい。また、生体固定された部材と常温からぬるま湯程度の温度の水とが接触する時、生体固定された部材に機械的な外力を加えたり、超音波を照射したりして、分離を促進することも好ましい。
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。また、以下において「部」及び「%」は、特に断らない限り、「質量部」及び「質量%」をそれぞれ意味する。
各種物性値は、以下のように測定した。
<硬化物を水に浸漬した後の残存率>
接着剤組成物の硬化物を水に浸漬した後の残存率は、以下のように測定した。
接着剤組成物1.0gにN,N−ジメチル−p−トルイジンを1μL添加し撹拌した後、23℃60%RHで24時間放置して硬化させ得られた直径25mm、厚さ2mmの円盤状の硬化物1.0gを23℃の純水50gに入れ、1時間撹拌し、撹拌後、硬化物が分散及び/又は溶解した液を、JIS P3801(1995)で規定される5種Aのろ紙で濾別し、不溶分の残存率を計算した。
残存率(質量%)=(不溶分の乾燥質量)/(使用した硬化物の質量)×100
<綿帆布に浸透及び硬化させた後、硬化物を水に浸漬した後の残存率>
綿帆布に浸透及び硬化させた後、硬化物を水に浸漬した後の残存率は、以下のように測定した。
接着剤組成物0.05gを5cm角の糸の重さ453.6g(1ポンド)あたり長さ7,681m(8,400ヤード)、密度510g/mの綿帆布(JIS L3102(1997)に規定される綿帆布9号)の中央部に染み込ませた。23℃60%RHで24時間放置し、接着剤組成物を硬化させた後、23℃又は40℃の水、80mLに2時間浸漬させた。布の表面を23℃の水で洗い流した後、23℃で24時間乾燥させた後の質量から、残存率を算出した。
綿帆布における残存率(質量%)={(浸漬前の綿帆布(接着剤を含む)の質量)−(浸漬後乾燥させた綿帆布(残留した接着剤の硬化物を含む)の乾燥質量)}/(使用した接着剤組成物の質量)×100
<全光線透過率、及び、ヘーズ値>
全光線透過率、及び、ヘーズ値は、以下のように測定した。
接着剤組成物0.18gを23℃の水90gに撹拌しながら添加し、そのまま室温(23℃)で15分間撹拌し、懸濁液を得た。得られた懸濁液を濁度計用50mLセルに入れ、濁度計(日本電色工業(株)製NDH2000)を用いて、全光線透過率及びヘーズ値をJIS K0115に準拠して測定した。
<ガラスとの接触角>
ガラスとの接触角は、以下のように測定した。
JIS R3703(1998)に準拠した白ガラス(松波硝子工業(株)製S111)を使用し、JIS R3257(1999)に準じ、接触角測定装置(英弘精機(株)製OCA20)を用いて、接着剤組成物のガラスに対する接触角を測定した。なお、測定条件は、滴下量:8μL、滴下速度:5μL/s、測定までの時間:3秒とした。
(実施例1、並びに、比較例1及び2)
<試験片作製>
表1に記載の2−シアノアクリレート化合物を接着剤組成物とした。
得られた接着剤組成物を、直径25mmのポリエチレン容器に約1g流し込んだ。N,N−ジメチル−p−トルイジンを1μL添加し撹拌した後、室温(23℃)60%RHで24時間静置し、完全に硬化させた。直径25mm、厚さ2±0.2mmの範囲内の厚さの硬化物を作製した。硬化後、容器から硬化物を取り出し、それを前記試験及び評価に使用した。
<皮膚上における布の固定及び剥離試験>
被験者の手の皮膚上に、得られた接着剤組成物を1滴に滴下し、直後に縦2cm×横2cmの木綿片(ガーゼ片)を重ねて硬化させた。この状態で、23℃60%RHで1分間静置した。後述するいずれの例でも、問題なく固定された。
その後、前記木綿片が固定された皮膚部分を23℃の水に5分間浸漬し、前記木綿片を人の手により動かすことにより、前記皮膚と前記木綿片とが剥離した場合は「可」、前記皮膚と前記木綿片とが剥離されなかった場合は「不可」とした。
評価結果を表1に示す。
<皮膚上における樹脂部材の固定及び剥離試験>
被験者の手の皮膚上に、得られた接着剤組成物を1滴に滴下し、直後に縦2mm×横2mm×厚さ0.4mmのポリエステル樹脂片を重ねて硬化させた。この状態で、23℃60%RHで1分間静置した。後述するいずれの例でも、問題なく固定された。
その後、前記樹脂片が固定された皮膚部分を40℃のぬるま水に2分間浸漬し、前記樹脂片を人の手により動かすことにより、前記皮膚と前記樹脂片とが剥離した場合は「可」、前記皮膚と前記樹脂片とが剥離されなかった場合は「不可」とした。
評価結果を表1に示す。
<爪上における樹脂部材の固定及び剥離試験>
被験者の手の爪上に、得られた接着剤組成物を1滴に滴下し、直後に縦2mm×横2mm×厚さ0.4mmのポリエステル樹脂片を重ねて硬化させた。この状態で、23℃60%RHで1分間静置した。後述するいずれの例でも、問題なく固定された。
その後、前記樹脂片が固定された爪を40℃のぬるま水に2分間浸漬し、前記樹脂片を人の手により動かすことにより、前記爪と前記樹脂片とが剥離した場合は「可」、前記爪と前記樹脂片とが剥離されなかった場合は「不可」とした。
評価結果を表1に示す。
なお、表1の比較例1及び2において、硬化物を水に浸漬した後の残存率が100質量%を超える値であるのは、硬化物の内部へわずかに吸水し質量が増加したためと推定している。
表1に示すように、実施例1の生体固定用接着剤組成物は、比較例1又は2の接着剤組成物に比べ、硬化後において、水により容易に剥離又は除去することができた。
また、実施例1の生体固定用接着剤組成物は、硬化物を浸水した際の残存率が小さい値であり、また、綿帆布に硬化物が付着した場合であっても、硬化物が付着した綿帆布を浸水した際の残存率が小さい値であり、硬化物の除去性に優れるものであった。
(実施例2〜4)
表2に記載の2種の2-シアノアクリレート化合物を、表2に記載の混合比(質量比)にて混合し、それぞれ実施例2〜4の接着剤組成物とした。
実施例2〜4の接着剤組成物、並びに、前記で作製した実施例1の接着剤組成物、比較例1及び2の接着剤組成物をそれぞれ使用し、以下の評価を行った。評価結果を表2に示す。
<硬化物を水に浸漬した後の残存率(撹拌あり)>
前記接着剤組成物1.0gにN,N−ジメチル−p−トルイジンを1μL添加し撹拌した後、23℃60%RHで24時間放置して硬化させた直径25mm、厚さ2mmの円盤状の硬化物1.0gを23℃の純水50gに入れ、500rpmの条件により1時間撹拌した後、硬化物が分散及び/又は溶解した液を、JIS P3801(1995)で規定される5種Aのろ紙で濾別し、不溶分の残存率を計算した。
残存率(質量%)=(不溶分の乾燥質量)/(使用した硬化物の質量)×100
<硬化物を水に浸漬した後の目視で前記硬化物の固形物が消失するまでの時間(撹拌あり)>
前記接着剤組成物1.0gにN,N−ジメチル−p−トルイジンを1μL添加し撹拌した後、23℃60%RHで24時間放置して硬化させた直径25mm、厚さ2mmの円盤状の硬化物1.0gを23℃の純水50gに入れ、500rpmの条件により撹拌を続け、前記撹拌を開始してから、目視で10分毎に確認を行い、前記硬化物の固形物が消失するまでの時間を測定した。
なお、比較例1及び2の接着剤組成物は、72時間(4,320分)後であっても、前記硬化物の固形物が消失しなかった。
また、表2の比較例1及び2において、硬化物を水に浸漬した後の残存率が100質量%を超える値であるのは、硬化物の内部へわずかに吸水し質量が増加したためと推定している。
本発明の生体固定用接着剤組成物は、2−シアノアクリレート化合物を含有し、生体固定用の瞬間接着剤として一般家庭用、教材用、建築材料用、医療分野等の他、各種産業界などの広範な製品、技術分野において利用することができる。特に、医療用接着剤組成物、皮膚固定用接着剤組成物、又は、人工爪用接着剤組成物として有用である。
また、本発明の生体固定用接着剤組成物は、生体同士間だけでなく、特に生体と異種の被接着材との間(例えば、皮膚と樹脂との間)の接着に好適に使用することができる。

Claims (15)

  1. 下記式(1)で表される2−シアノアクリレート化合物を含む
    生体固定用接着剤組成物。

    式(1)中、Lはそれぞれ独立に、−CHCH−、−CH(R)CH−又は−CHCH(R)−を表し、Rは炭素数1〜3のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜4の直鎖又は分岐のアルキル基を表し、pは3〜6の整数を表し、また、式(1)におけるp個の−L−O−のうち、2個〜4個が−CHCH−O−であり、0個〜2個が−CH(R)CH−及び/又は−CHCH(R)−O−である。
  2. 前記接着剤組成物1.0gにN,N−ジメチル−p−トルイジンを1μL添加し撹拌した後、23℃60%RHで24時間放置して硬化させた直径25mm、厚さ2mmの円盤状の硬化物1.0gを23℃の純水50gに入れ、1時間撹拌した後の水への不溶分の残存率が、90質量%以下である、請求項1に記載の生体固定用接着剤組成物。
  3. 前記接着剤組成物0.05gを、糸の重さ453.6gあたり長さ7,681m、密度510g/mの綿帆布を5cm×5cmの大きさに裁断したものの中央部に染み込ませ、23℃60%RHで24時間放置し、23℃の水80g中に2時間浸漬した後の接着剤残存率が、90質量%以下である、請求項1又は請求項2に記載の生体固定用接着剤組成物。
  4. 前記接着剤組成物0.05gを、糸の重さ453.6gあたり長さ7,681m、密度510g/mの綿帆布を5cm×5cmの大きさに裁断したものの中央部に染み込ませ、23℃60%RHで24時間放置し、40℃の水80g中に0.5時間浸漬した後の接着剤残存率が、90質量%以下である、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の生体固定用接着剤組成物。
  5. 前記接着剤組成物0.18gを23℃の水90gと混合し、得られた懸濁液の全光線透過率が、20%以上である、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の生体固定用接着剤組成物。
  6. 前記接着剤組成物0.18gを23℃の水90gと混合し、得られた懸濁液のヘーズ値が、90%以下である、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の生体固定用接着剤組成物。
  7. 前記接着剤組成物のガラスに対する接触角が、38.0°以上である、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の生体固定用接着剤組成物。
  8. 水溶性化合物を更に含む請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の生体固定用接着剤組成物。
  9. 前記水溶性化合物が、エチレンカーボネート、ジメチルスルホン、スルホラン、γ−ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリオキシアルキレンデシルエーテル、及び、脂肪酸ポリオキシエチレングリセロールボレートよりなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、請求項8に記載の生体固定用接着剤組成物。
  10. 前記接着剤組成物1.0gにN,N−ジメチル−p−トルイジンを1μL添加し撹拌した後、23℃60%RHで24時間放置して硬化させた直径25mm、厚さ2mmの円盤状の硬化物1.0gを23℃の純水50gに入れ、500rpmの条件により1時間撹拌した後の水への残存率が、90質量%以下であり、前記撹拌を開始してから、目視で前記硬化物の固形物が消失するまでの時間が、24時間以下である、請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の生体固定用接着剤組成物。
  11. 医療用接着剤組成物である、請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の生体固定用接着剤組成物。
  12. 皮膚固定用接着剤組成物である、請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の生体固定用接着剤組成物。
  13. 人工爪用接着剤組成物である、請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の生体固定用接着剤組成物。
  14. 人工まつ毛用接着剤組成物である、請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の生体固定用接着剤組成物。
  15. 生体と部材又は他の生体との間に請求項1〜請求項14のいずれか1項に記載の生体固定用接着剤組成物からなる接着層を形成する工程、及び、
    前記生体と前記部材又は他の生体との間に形成された前記接着層を硬化させて硬化物とし、前記硬化物により前記生体と前記部材又は他の生体とを固定する工程を含む
    生体固定方法。
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