JP2021019719A - 移植用補助剤及び移植用キット - Google Patents

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Yasuhiko Tabata
泰彦 田畑
陽介 平岡
Yosuke Hiraoka
陽介 平岡
啓司 塚本
Keiji Tsukamoto
啓司 塚本
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Abstract

【課題】移植部位における移植物の定着性が向上した移植用補助剤及び移植用キットを提供すること。【解決手段】ゼラチンと、カルボキシル基を有するポリマーとを含む移植用補助剤であって、上記移植用補助剤は、多価の金属カチオンを含むゲル化剤と、移植物と共に対象の移植部位へ投与するように用いられる、移植用補助剤。【選択図】なし

Description

本発明は、移植用補助剤及び移植用キットに関する。
細胞移植は、心不全、パーキンソン病、加齢黄斑変性及び腎不全等の治療、種々の組織又は臓器の障害又は損傷を補う等の治療、並びに、遺伝子導入したT細胞を用いた癌治療等に用いられる治療方法である。なかでも、注射による細胞移植は、外科的手術を必要としないため、患者への負担が少ない治療法として最近注目されている。
例えば、Cytotherapy、11、726−737、2009(非特許文献1)には、移植用の細胞(移植細胞)を生理食塩水等に懸濁させた細胞懸濁液を調製し、上記細胞懸濁液を対象の移植部位に投与する方法が開示されている。しかし、細胞懸濁液による投与の場合、上記移植細胞が上記移植部位にとどまらず他の部位へ流出するため(図1参照)、移植細胞の定着性に改善の余地がある。
一方、Biomaterials.、101、217−228、2016(非特許文献2)には、ゲル化可能な高分子と共に移植細胞を移植部位に投与し、移植部位において当該高分子をゲル化させる方法が開示されている。しかし、当該高分子は分子間で化学結合を形成することでゲル化しているため、移植部位においてゲル化した当該高分子が分解しにくい傾向がある。その結果、移植した移植細胞は、移植部位において増殖が妨げられるため(図2参照)、更なる改善が求められている。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、移植部位における移植物の定着性が向上した移植用補助剤及び移植用キットを提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を進めた結果、ゼラチンと、カルボキシル基を有するポリマーとを含む移植用補助剤を、多価の金属カチオンを含むゲル化剤と、移植物と共に対象の移植部位へ投与することで、上述の課題を解決できることを見いだし、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]ゼラチンと、カルボキシル基を有するポリマーとを含む移植用補助剤であって、上記移植用補助剤は、多価の金属カチオンを含むゲル化剤と、移植物と共に対象の移植部位へ投与するように用いられる、移植用補助剤。
[2]上記カルボキシル基を有するポリマーは、アルギン酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ペクチン、ゼラチン由来ペプチド、及びカルボキシメチルセルロースからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、[1]に記載の移植用補助剤。
[3]上記多価の金属カチオンは、Fe3+、Sr3+、Al3+及びTi3+からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、[1]又は[2]に記載の移植用補助剤。
[4]上記ゼラチンは、その重量平均分子量が2000〜300000である、[1]〜[3]のいずれかに記載の移植用補助剤。
[5]上記移植部位において、上記多価の金属カチオンの濃度が0.05〜50mMとなるように、上記ゲル化剤と上記移植物と共に上記移植部位へ投与するように用いられる、[1]〜[4]のいずれかに記載の移植用補助剤。
[6]水を更に含む、[1]〜[5]のいずれかに記載の移植用補助剤。
[7]上記ゼラチンは、上記移植用補助剤の全体に対して、その濃度が0.2〜1質量%である、[6]に記載の移植用補助剤。
[8]上記カルボキシル基を有するポリマーは、上記移植用補助剤の全体に対して、その濃度が0.2〜1質量%である、[6]又は[7]に記載の移植用補助剤。
[9]上記移植物は、細胞又は薬剤を含む[1]〜[8]のいずれかに記載の移植用補助剤。
[10]上記[1]〜[9]のいずれかに記載の移植用補助剤と、
多価の金属カチオンを含むゲル化剤と、を含む移植用キット。
[11]移植用器具を更に含む、[10]に記載の移植用キット。
[12]ゼラチンと、カルボキシル基を有するポリマーとを含む移植用補助剤を、多価の金属カチオンを含むゲル化剤と、移植物と共に対象の移植部位へ投与することを含む、移植物の移植方法。
[13]移植用補助剤を製造するための、ゼラチン及びカルボキシル基を有するポリマーの使用であって、
上記移植用補助剤は、多価の金属カチオンを含むゲル化剤と、移植物と共に対象の移植部位へ投与するように用いられる、使用。
[14]多価の金属カチオンを含むゲル化剤と、移植物と共に対象の移植部位へ投与するための、ゼラチン及びカルボキシル基を有するポリマー。
本発明によれば、移植部位における移植物の定着性が向上した移植用補助剤及び移植用キットを提供することが可能になる。
図1は、従来の細胞移植の方法を説明する模式図である。 図2は、他の従来の細胞移植の方法を説明する模式図である。 図3は、本実施形態に係る移植用補助剤を用いた細胞移植の方法を説明する模式図である。 図4は、本実施形態に係る移植用器具の一態様を示す写真である。 図5は、本実施形態に係る移植用補助剤によって形成されたハイドロゲルの消失率を示すグラフである。 図6は、本実施形態に係る移植用補助剤によって形成されたハイドロゲル中における細胞の生存率を示すグラフである。 図7は、本実施形態に係る移植用補助剤によって形成されたハイドロゲル中における細胞の増殖率を示すグラフである。 図8は、本実施形態に係る移植用補助剤によって形成されたハイドロゲル中における細胞の機能評価を示すグラフである。 図9は、本実施形態に係る移植用補助剤を用いて細胞移植を行った後の生体内における移植細胞の定着率を示すグラフである。
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」とも記す。)を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。ここで、本明細書において「A〜B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
また、「Pro」、「Hyp」及び「Gly」は、それぞれプロリン、4−ヒドロキシプロリン及びグリシンを意味する。
≪移植用補助剤≫
本実施形態に係る移植用補助剤は、ゼラチンと、カルボキシル基を有するポリマーとを含む。上記移植用補助剤は、多価の金属カチオンを含むゲル化剤と、移植物と共に対象の移植部位へ投与するように用いられる。
上記移植用補助剤はゾルの状態とゲルの状態とを取り得る。ゾルの状態である上記移植用補助剤は、上記ゲル化剤と接触することでゲルの状態に変化する。本実施形態において「ゾル」とは、分散質と分散媒とからなる分散系において、分散媒が液体状である分散系を意味する。「ゲル」とは、分散質と分散媒とからなる分散系において、分散質が架橋構造を形成し、分散系全体として流動性を失った状態を意味する。上述の現象は、上記移植用補助剤に含まれるゼラチン及びカルボキシル基を有するポリマーが、上記ゲル化剤に含まれる多価の金属カチオンによって形成される配位結合または塩架橋によって、架橋構造を形成するためであると、本発明者らは考えている。上述のゲルの状態は、例えば、拡散現象等で上記多価の金属カチオンが上記ゲルから遊離すると、再びゾルの状態に変化する。
このように上記移植用補助剤は、ゾルからゲルへ、またゲルからゾルへの変化が容易である。そのため、例えば上記移植補助剤と上記ゲル化剤と共に移植物として細胞を移植した直後には、移植部位において上記移植用補助剤は、流動性を失ったゲルの状態(インジェクタブルゲル、又はハイドロゲル)を維持し、上記細胞を上記移植部位に定着させることができる。上記細胞を移植して所定の期間が経過した後は、上記細胞は上記移植部位における細胞外マトリックス等によって定着している。そのため、上記移植用補助剤がゲルからゾルに変化しても上記細胞は上記移植部位にとどまっている。ゾルに変化した移植用補助剤は拡散によって上記移植部位から消失する。その後、粗になった移植部位は、移植した上記細胞が増殖することで埋められていき、再生が進むと考えられる(たとえば、図3)。
さらに、上述したように移植物として細胞を用いた場合、上記移植用補助剤は、上記移植部位において当該細胞が有する生物機能を維持又は向上するという作用を有しうる。ここで、「生物機能」とは、細胞、組織、臓器等が本来有する生物学的な機能を意味する。上記生物機能としては、例えば、細胞の増殖、細胞の分化、細胞における生理活性物質の産生、組織又は臓器の再生等が挙げられる。
本実施形態において「移植用補助剤」とは、移植物が移植部位から拡散することを抑制し、移植部位への定着を補助する薬剤を意味する。上記移植用補助剤は、固体状態(乾燥状態)であってもよいし、液体状態(例えば、水溶液又はコロイド溶液の状態)であってもよい。すなわち、上記移植用補助剤は、水を更に含んでもよい。
「移植物」とは、移植部位へ移し植える目的物を意味する。移植物としては、例えば、細胞、薬剤(例えば、徐放性を有する薬剤等)、細胞増殖因子、細胞分化因子及び細胞遊走因子等のタンパク質及び生理活性ペプチド、並びに、細胞の足場となるような粒子状の材料、繊維状の材料、フィルム状の材料及びチューブ状の材料等が挙げられる。上述の細胞としては、例えば、人工多能性幹細胞(iPS細胞)由来の分化細胞、骨髄間葉系幹細胞及び胚性幹細胞(ES細胞)等、キメラ抗原受容体−T細胞(CAR−T細胞)等のような遺伝子導入した細胞、ミューズ細胞、並びに、組織前駆細胞、成熟細胞、炎症・免疫細胞等が挙げられる。
「移植部位」とは、上述の移植物が定着するための生体の一部位を意味する。移植部位としては、移植による治療を目的とする部位が挙げられ、具体的には心臓、腎臓、脳、網膜等が挙げられる。本実施形態の一側面において、上記移植部位は、上述した特定の組織及び臓器に限られず、すべての組織及び臓器が対象となる。
<ゼラチン>
本実施形態において「ゼラチン」とは、コラーゲンの三重らせん構造が熱変性及び酸変性等によってほどけたポリペプチド、その化学修飾体及びその薬学上許容される塩を意味する。「コラーゲン」とは、脊椎動物などの真皮、靭帯、腱、骨、軟骨などにおける細胞外基質を由来とするタンパク質を意味する。コラーゲンは、3本のペプチド鎖からなる右巻きのらせん構造を有し、そのペプチド鎖を構成するアミノ酸残基は、グリシン残基が3残基ごとに繰り返される一次構造(所謂コラーゲン様配列)を有している。
上記ゼラチンは、後述するように多くの生物が保有するコラーゲンに由来するポリペプチドである。そのため、上記ゼラチンは生体適合性に優れており、上記移植補助剤の一成分として好適である。
上記ゼラチンは、その重量平均分子量が2000〜300000であることが好ましく、10000〜200000であることがより好ましい。上記重量平均分子量は、例えば、ゲル濾過クロマトグラフィーによって求めることが可能である。
具体的には、以下の条件にてゲル濾過クロマトグラフィーによる測定を行い、重量平均分子量を求めることが可能である。
移動相 :0.1%トリフルオロ酢酸含有45%アセトニトリル(55%水)、
固定相 :TSK−Gel−2000SWXLカラム(TOSOH製)、
流速 :1.0ml/min、
カラム温度 :40℃、
分析時間 :15分、
インジェクション量:10μl、
検出波長 :214nm。
また、上記ゼラチンは、入手方法、製造方法は特に制限されない。上記ゼラチンは、例えば、天然のコラーゲン由来のポリペプチド、リコンビナントポリペプチド又は合成されたポリペプチドであってもよい。
「天然のコラーゲン」としては、例えば、牛、豚等の哺乳動物、鳥類等に由来するコラーゲン、サメ、鯛、ティラピア等の魚類に由来するコラーゲン等が挙げられる。これらは、上記哺乳動物や鳥類の骨、皮、腱等の部分、上記魚類の骨、皮、鱗部分等の結合組織から得ることができる。具体的には、上記骨、皮、鱗等に脱脂処理、脱灰処理、酸処理、アルカリ処理又は抽出処理等の従来公知の処理を施せばよい。
「天然のコラーゲン由来のポリペプチド」としては、例えば、天然のコラーゲンを酵素処理等によって加水分解することで得られるポリペプチドが挙げられる。上記酵素処理に用いる酵素としては、例えば、コラゲナーゼ、チオールプロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、酸性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼ、メタロプロテアーゼ等が挙げられる。上述の酵素は、これらを単独で、又は複数組み合わせて用いることができる。上記チオールプロテアーゼとしては、植物由来のキモパパイン、パパイン、ブロメライン、フィシン、動物由来のカテプシン、カルシウム依存性プロテアーゼ等が挙げられる。また、上記セリンプロテアーゼとしては、トリプシン、カテプシンD等が挙げられる。上記酸性プロテアーゼとしては、ペプシン、キモトリプシン等が挙げられる。なお、使用する酵素としては、得られたポリペプチドを医薬に利用することを考慮すると、病原性微生物由来の酵素以外の酵素(例えば、非病原性の微生物に由来する酵素)を用いることが好ましい。上記酵素の由来となる非病原性の微生物としては、Bacillus Iicheniforms、Bacillus subtillis、Aspergillus oryzae、Streptomyces、Bacillus amyloliquefaciens等が挙げられる。上記酵素は、1種の上記非病原性の微生物に由来する酵素を用いてもよいし、複数種の上記非病原性の微生物に由来する酵素を組み合わせて用いてもよい。酵素処理の具体的な方法は、従来から知られている方法を用いればよい。また、非リボソーム型ペプチド合成酵素等を用いてペプチドを合成してもよい。
「リコンビナントポリペプチド」とは、大腸菌、酵母、培養細胞等を宿主として、遺伝子組換え技術を用いて人工的に作製したポリペプチドを意味する。リコンビナントポリペプチドの製造方法としては、従来から知られている方法を用いればよい。具体的には、例えば以下の方法が挙げられる。まず、目的のポリペプチドをコードする塩基配列を有するベクター及びアミノ酸のヒドロキシル化を行う酵素(例えば、L−プロリンcis−4−水酸化酵素)をコードする塩基配列を有するベクターを宿主である大腸菌に導入し、形質転換を行う。形質転換した大腸菌を所定の培地で培養することによって、当該大腸菌に目的のポリペプチドを合成させる。
また、以下のような方法も可能である。まず、遺伝子組換え技術を用いてペプチド結合形成酵素を有する大腸菌を作製し、当該酵素を当該大腸菌に合成させた後に単離する。単離された上記酵素とアミノ酸とを反応させることによって、目的とするアミノ酸配列を有するポリペプチドを合成する。アミノ酸のヒドロキシル化においては、従来技術である、L−プロリンcis−4−水酸化酵素を用いた方法を採用してもよい。
「合成されたポリペプチド」とは、原料であるアミノ酸を逐次結合させていくことによって生成されるポリペプチドを意味する。アミノ酸からの合成方法としては、例えば、固相合成法と液相合成法が挙げられる。固相合成法としては、例えば、Fmoc法、Boc法等が挙げられる。本実施形態に係るポリペプチドは、いずれの方法で合成してもよい。
例えば、上記ポリペプチドは、プロリンを担体ポリスチレンに固定し、アミノ基の保護としてfluorenyl−methoxy−carbonyl基(Fmoc基)又はtert−Butyl Oxy Carbonyl基(Boc基)を使用する公知の固相合成法により合成することができる。すなわち、表面をアミノ基で修飾した直径0.1mm程度のポリスチレン高分子ゲルのビーズを固相として用い、縮合剤としてジイソプロピルカルボジイミド(DIC)を用いた脱水反応によってFmoc基でアミノ基を保護したプロリンにヒドロキシプロリンを結合(ペプチド結合)させる。その後、上記固相を溶媒でよく洗い、残ったヒドロキシプロリン等を除去する。この後、固相に結合しているプロリンの保護基を除去(脱保護)することにより、Pro−Hypの配列を含むジペプチドを合成することができる。続いて、同様の方法で、このジペプチドのヒドロキシプロリン残基におけるアミノ基にグリシンを結合(ペプチド結合)させることで、Pro−Hyp−Glyの配列を含むトリペプチドを得ることができる。このようにして、アミノ酸を順次結合していくことで、目的のポリペプチド(すなわち、ゼラチン)を合成することができる。
本実施形態においてポリペプチド(ゼラチン)の「化学修飾体」とは、当該ポリペプチドを構成するアミノ酸残基におけるアミノ基、カルボキシル基又はヒドロキシ基が化学修飾されたポリペプチドを意味する。化学修飾を受けたポリペプチドは、水に対する溶解性、等電点等を変化させることができる。具体的には、ヒドロキシプロリン残基のヒドロキシ基については、O−アセチル化等の化学修飾が挙げられる。グリシン残基のα−カルボキシル基については、エステル化、アミド化等の化学修飾が挙げられる。プロリン残基のα−アミノ基については、ポリペプチジル化、スクシニル化、マレイル化、アセチル化、脱アミノ化、ベンゾイル化、アルキルスルホニル化、アリルスルホニル化、ジニトロフェニル化、トリニトロフェニル化、カルバミル化、フェニルカルバミル化、チオール化等の化学修飾が挙げられる。また、エチレンジアミン化、スペルミン化等を行うことで、特定のペプチドを塩基性にすることもできる。
ポリペプチドの化学修飾の具体的手段及び処理条件は、通常のポリペプチドの化学修飾技術が適用される。ヒドロキシプロリン残基のヒドロキシ基の化学修飾について、例えば、O−アセチル化は水溶媒中又は非水溶媒中で無水酢酸を作用させること等により、行うことができる。グリシン残基のα−カルボキシル基の化学修飾について、例えば、エステル化はメタノールへの懸濁後に乾燥塩化水素ガスを通気すること等により行うことができる。グリシン残基のα−カルボキシル基の化学修飾について、アミド化はカルボジイミド等を作用させることにより行うことができる。
本実施形態においてポリペプチド(ゼラチン)の「薬学上許容される塩」とは、薬学上許容され、元となるポリペプチドの所望の活性(例えば、ゲル化能)を有する塩を意味する。薬学上許容される塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩及び臭化水素酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、フマル酸塩及びマレイン酸塩等の有機酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩及びカルシウム塩等の無機塩基塩、トリエチルアンモニウム塩等の有機塩基塩等が挙げられる。常法に従って、特定のペプチドを薬学上許容される塩にすることができる。
上記ゼラチンは、市販品を用いてもよい。市販品としては例えば、新田ゼラチン株式会社製のbeMatrixゼラチン(商品名)、牛骨ゼラチン(Bタイプ)500G(商品名)等が挙げられる。
上記移植用補助剤が固体状態である場合、上記ゼラチンは、上記移植用補助剤の全体に対して、その含有割合が2〜98質量%であることが好ましく、10〜80質量%であることがより好ましい。
上記移植用補助剤が液体状態である場合(例えば、上記移植用補助剤が水を更に含む場合)、上記ゼラチンは、上記移植用補助剤の全体に対して、その濃度が0.2〜3質量%であることが好ましく、0.4〜2質量%であることがより好ましい。
<カルボキシル基を有するポリマー>
本実施形態において「カルボキシル基を有するポリマー」とは、カルボキシル基を有するモノマーに由来する構成単位を含む高分子重合体を意味する。本実施形態において「カルボキシル基を有する」とは、通常のカルボキシル基(−COOH)を有する場合だけではなく、カルボキシレート基(−COO)を有する場合も含まれる。上記カルボキシル基を有するポリマーが上記移植用補助剤に含まれることによって、後述するゲル化剤に含まれる多価の金属カチオンが低濃度(例えば、10mM)であっても上記移植用補助剤はゲル化が可能となる。上記カルボキシル基を有するポリマーは、酸の形態であってもよいし、塩の形態(例えば、ナトリウム塩)であってもよい。上記カルボキシル基を有するポリマーは、アルギン酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ペクチン、ゼラチン由来ペプチド、及びカルボキシメチルセルロースからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことが好ましい。
上記カルボキシル基を有するポリマーがゼラチン由来ペプチドを含む場合、上記ゼラチン由来ペプチドは、2〜20アミノ酸残基のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを含むことが好ましく、2〜15アミノ酸残基のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを含むことがより好ましい。
上記カルボキシル基を有するポリマーは、その重量平均分子量が2000〜5000000であることが好ましく、5000〜3000000であることがより好ましい。上記重量平均分子量は、上述したように、例えばゲル濾過クロマトグラフィーによって求めることが可能である。
上記カルボキシル基を有するポリマーは、市販品を用いてもよい。上記カルボキシル基を有するポリマーとしてアルギン酸を用いる場合、特に制限はないが、例えば、株式会社キミカ製のアルギン酸又はアルギン酸ナトリウムを用いてもよい。
上記移植用補助剤が固体状態である場合、上記カルボキシル基を有するポリマーは、上記移植用補助剤の全体に対して、その含有割合が2〜98質量%であることが好ましく、20〜80質量%であることがより好ましい。
上記移植用補助剤が液体状態である場合(例えば、上記移植用補助剤が水を更に含む場合)、上記カルボキシル基を有するポリマーは、上記移植用補助剤の全体に対して、その濃度が0.2〜2質量%であることが好ましく、0.2〜1質量%であることがより好ましい。
<その他の成分>
本実施形態に係る移植用補助剤は、本発明の効果が奏される限りにおいて、その他の成分を含んでいてもよい。上述のその他の成分としては、例えば、成長因子、分化因子、ホルモン、ケモカイン、サイトカイン、細胞接着分子、走化因子、酵素、酵素インヒビター、補酵素、鉱物、脂肪、脂質、糖類、抗生物質、炎症阻害剤、免疫抑制剤、緩衝物質、安定剤及びビタミン等が挙げられる。
<移植用補助剤のpH>
上記移植用補助剤が水を更に含む場合、上記移植用補助剤はそのpHが6〜8.5であることが好ましく、6.5〜7.5であることがより好ましい。pHの調整は公知の緩衝物質等を添加することで調整できる。
≪移植用キット≫
本実施形態に係る移植用キットは、上記移植用補助剤と、多価の金属カチオンを含むゲル化剤とを含む。
<ゲル化剤>
本実施形態において「ゲル化剤」とは、金属イオンによる配位結合又は塩架橋で、ゼラチン及びカルボキシル基を有するポリマー等を架橋する薬剤を意味する。上記ゲル化剤は、固体状態(乾燥状態)であってもよいし、液体状態(例えば、水溶液の状態)であってもよい。すなわち、上記ゲル化剤は、水を更に含んでもよい。
上記多価の金属カチオンは、Fe3+、Sr3+、Al3+及びTi3+からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。上記多価の金属カチオンを含む化合物としては、例えば、塩化鉄(III)、酢酸鉄(III)、水酸化鉄(III)、臭化鉄(III)、塩化アルミニウム(III)及び塩化ストロンチウム(III)等が挙げられる。すなわち、上記ゲル化剤は、塩化鉄(III)、酢酸鉄(III)、水酸化鉄(III)、臭化鉄(III)、塩化アルミニウム(III)及び塩化ストロンチウム(III)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことが好ましい。
上記ゲル化剤が固体状態である場合、上記多価の金属カチオンを含む化合物は、上記ゲル化剤の全体に対して、その含有割合が1〜100質量%であることが好ましく、10〜90質量%であることがより好ましい。
上記ゲル化剤が液体状態である場合(例えば、上記ゲル化剤が水を更に含む場合)、上記多価の金属カチオンを含む化合物は、上記ゲル化剤の全体に対して、そのモル濃度が0.05〜50mMであることが好ましく、0.1〜20mMであることがより好ましい。当該モル濃度が上記範囲の上限を超えると、上記ゲル化剤が細胞毒性を有する傾向がある。
<ゲル化剤のpH>
上記ゲル化剤が水を更に含む場合、上記ゲル化剤はそのpHが6〜8.5であることが好ましく、6.5〜7.5であることがより好ましい。pHの調整は公知の緩衝物質等を添加することで調整できる。
<移植用器具>
上記移植用キットは、移植用器具を更に含んでもよい。上記移植用器具としては、例えば、注入用シリンジ、注射針、留置針等が挙げられる。
≪移植物の移植方法≫
本実施形態に係る移植物の移植方法は、ゼラチンと、カルボキシル基を有するポリマーとを含む移植用補助剤を、多価の金属カチオンを含むゲル化剤と、移植物と共に対象の移植部位へ投与することを含む。
上記対象としては、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、サル及びヒト等の哺乳動物が挙げられる。上記対象は、ヒトであることが好ましい。
上記移植物を移植する経路(投与経路)は、例えば、局所投与、胸腔内投与、腹腔内投与、関節胞内投与等が挙げられる。本実施形態の一側面において、移植部位へ上記移植物を投与する方法としては、投与の直前に上記移植用補助剤、上記移植物及び上記ゲル化剤を混合して、得られた混合物を上記移植部位へ投与する方法が挙げられる。本実施形態の他の側面において、移植部位へ上記移植物を投与する方法としては、上記移植用補助剤及び上記移植物の混合物と、上記ゲル化剤とを同時に直接上記移植部位に投与する方法が挙げられる。
本実施形態において、上記移植用補助剤は、上記移植部位において、上記ゼラチンの濃度が0.2〜3質量%(好ましくは、0.4〜2質量%)となるように、上記ゲル化剤と上記移植物と共に上記移植部位へ投与するように用いられることが好ましい。
本実施形態において、上記移植用補助剤は、上記移植部位において、上記カルボキシル基を有するポリマーの濃度が0.2〜2質量%(好ましくは、0.2〜1質量%)となるように、上記ゲル化剤と上記移植物と共に上記移植部位へ投与するように用いられることが好ましい。
本実施形態において、上記移植用補助剤は、上記移植部位において、上記多価の金属カチオンの濃度が0.05〜50mM(好ましくは、0.1〜20mM)となるように、上記ゲル化剤と上記移植物と共に上記移植部位へ投与するように用いられることが好ましい。
上記移植物の移植の頻度(投与の頻度)は、移植物が有効に移植部位に定着すれば、特に制限されないが、例えば、1週間に一度であってもよいし、3日に一度であってもよいし、1日に1度であってもよい。
本実施形態に係る移植物の移植方法は、上記移植物を対象の移植部位へ投与することと併せて、他の処置が施されてもよい。当該他の処置としては、移植部位への薬剤の投与、細胞の足場の投与又は移植等が挙げられる。
≪他の実施態様≫
本実施形態の他の態様として、移植用補助剤を製造するための、ゼラチン及びカルボキシル基を有するポリマーの使用であって、
上記移植用補助剤は、多価の金属カチオンを含むゲル化剤と、移植物と共に対象の移植部位へ投与するように用いられる、使用が挙げられる。
本実施形態の別の他の態様として、多価の金属カチオンを含むゲル化剤と、移植物と共に対象の移植部位へ投与するための、ゼラチン及びカルボキシル基を有するポリマーが挙げられる。
以下、実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
≪移植用補助剤の作製と性能試験≫
<移植用補助剤の作製>
ゼラチンとアルギン酸ナトリウムとを表1に記載の最終濃度となるようにPBS(リン酸緩衝生理食塩水)に溶解して各識別記号で示される7種類の移植用補助剤を作製した。上記ゼラチンは、新田ゼラチン株式会社製のアルカリ処理牛骨ゼラチン(重量平均分子量180000)を用いた。上記アルギン酸ナトリウムは、株式会社キミカ製のアルギン酸ナトリウム(重量平均分子量2300000)を用いた。表1において、試料番号2〜6は実施例に相当し、試料番号1及び7は比較例に相当する。
<ハイドロゲル形成能の評価>
上述の移植用補助剤と、塩化鉄(III)を含むPBS(濃度20mM)(以下、「ゲル化剤」という場合がある。)とを、それぞれ200μlずつ、エッペンドルフチューブ(1.5ml)に加えて混合液を得た。次に得られた混合液をボルテックスで撹拌した。その後ゲル化する様子を観察し、以下の基準でAランク、Bランクを判断した。結果を表1に示す。
ハイドロゲル形性能の判断基準
Aランク:ハイドロゲルが形成され、混合液の流動性が失われていた。
Bランク:ハイドロゲルがほとんど形成されておらず、混合液が流動性を有していた。
表1の結果から、試料番号1〜6の移植用補助剤は、ゲル化剤と混合することでハイドロゲルが形成されることが分かった。一方試料番号7の移植用補助剤は、鉄(III)イオンの濃度が低すぎたため上記ゲル化剤と混合してもハイドロゲルがほとんど形成されないことが分かった。この結果から、低濃度のゲル化剤で移植用補助剤をゲル化するためには、アルギン酸ナトリウム等の「カルボキシル基を有するポリマー」が必要であることが分かった。
一方、アルギン酸ナトリウム等の「カルボキシル基を有するポリマー」のみでは細胞毒性を示すことが懸念されるため、生体適合性に優れる移植用補助剤とするためには、上記カルボキシル基を有するポリマーの他に、ゼラチンが必須の成分であると考えられる。
<注射可能性の評価>
図4に示される装置を用いて、上記移植用補助剤の注射可能性を評価した。すなわち、まず2本の1mlシリンジそれぞれに、上記移植用補助剤と上記ゲル化剤とを200μlずつ注入した。上述の2本のシリンジを二又のチューブに取り付け、シリンジから押し出された2種類の液が二又のチューブの途中で混合されるようにした(図4参照)。2本のシリンジそれぞれに注入された上記移植用補助剤及び上記ゲル化剤が、同じ速度で押し出されるようにプランジャを押し、二又のチューブの先端から排出される混合液の様子を観察し、以下の基準でAランク、Bランクを判断した。結果を表1に示す。
注射可能性の判断基準
Aランク:混合液がゲル化しても、スムーズにチューブの先端から排出された。
Bランク:混合液のゲル化が進行してしまい、チューブの先端から混合液が排出されなかった。
表1の結果から、試料番号1〜7の移植用補助剤は、混合液がゲル化しても、スムーズにチューブの先端から排出されること(インジェクタブルであること)が分かった。
以上の結果から、試料番号2〜6の移植用補助剤は、ゲル化剤と混合することで、注射による投与が可能なハイドロゲルを形成することが分かった。
<ハイドロゲルの消失試験>
上述の移植用補助剤と、上述のゲル化剤とを、それぞれ200μlずつ、エッペンドルフチューブ(1.5ml)に加えて混合液を得た。次に得られた混合液をボルテックスで撹拌しハイドロゲルを得た。上記移植用補助剤は、試料番号5〜7をそれぞれ用いた。
次にコラゲナーゼ(新田ゼラチン株式会社製、商品名コラゲナーゼL)(最終濃度0.02%)を含有するPBS(500μl)に、上記ハイドロゲル(2mg)を加えて3〜96時間、37℃でインキュベートした。インキュベート後、PBS中に溶出したゼラチン及びアルギン酸ナトリウムの量(質量)を、それぞれBCA法及びフェノール硫酸法で定量し、以下の計算式に基づいてハイドロゲルの消失率(%)を算出した。結果を図5に示す。ここで、下記式中、「最初の質量」とは、上述のインキュベートを行う前のハイドロゲルの質量(すなわち、2mg)を意味する。また、「残存質量」とは、上述のインキュベート後にPBSに溶出したゼラチン及びアルギン酸ナトリウムの合計質量を、上記最初の質量から減じた質量を意味する。
ハイドロゲルの消失率(%)={1−(残存質量/最初の質量)}×100
図5の結果から、移植用補助剤中のゼラチンの割合が増加するにともなって、ハイドロゲルはより早く消失することが分かった。この結果は、移植細胞等と共に投与された移植用補助剤は、移植部位においてゲル化した後、適切なタイミングで移植部位に存在するコラゲナーゼ等の酵素によって分解されることを示唆している。
≪細胞を用いた移植用補助剤の性能評価≫
<ハイドロゲル中における細胞の生存率>
まず、上述のゲル化剤を48穴プレートに加えた(1ml/ウェル)。次に細胞を懸濁した上述の移植用補助剤(1×10細胞/ml)を上記48穴プレートに加えた(1ml/ウェル)。上記移植用補助剤は、試料番号1〜6をそれぞれ用いた。なお、上記細胞はマウス骨芽細胞様細胞株(MC3T3−E1)を用いた。その後、37℃で20分間静置することで、上記細胞が封入されたハイドロゲルを上記48穴プレート中で形成した。この48穴プレートの各ウェルに対して、イーグル最小必須培地α改変型(αMEM)(日本水産株式会社(ニッスイ)製)を1ml加えて、37℃で1日間培養したプレートと、37℃で3日間培養したプレートとを準備した。上記αMEMには、10体積%のウシ胎児血清(富士フイルム和光純薬株式会社製)と、それぞれ1質量%のペニシリン及びストレプトマイシン(富士フイルム和光純薬株式会社製)とが含まれていた。
1日間又は3日間培養した後の48穴プレートの各ウェル毎に生細胞及び死細胞の数を計数し、以下の式でハイドロゲル中における細胞の生存率を算出した。細胞の計数は通常のトリパンブルー染色法で行った。結果を図6に示す。
細胞の生存率(%)={(生細胞の数)/(生細胞及び死細胞の合計数)}×100
図6の結果から、ハイドロゲル中のゼラチンの割合が増加するとともに、細胞の生存率が増加することが分かった。特に試料番号2〜6の移植用補助剤を用いた場合は、封入3日後の細胞の生存率が60%を超えていた。
<ハイドロゲル中における細胞の増殖率>
上記「ハイドロゲル中における細胞の生存率」に記載されている方法と同じ方法によって、上記細胞が封入されたハイドロゲルを上記48穴プレート中で形成した。このとき、上記移植用補助剤は、試料番号1〜6をそれぞれ用いた。一方、別の48穴プレートを準備して、各ウェルにαMEM(10体積%のウシ胎児血清、それぞれ1質量%のペニシリン及びストレプトマイシンを含む)を1ml加えた。αMEMが加えられた48穴プレートに上記細胞が封入されたハイドロゲルを移し替えて、37℃で1日間培養したプレートと、37℃で3日間培養したプレートとを準備した。
1日間又は3日間培養した後の48穴プレートの各ウェル毎に全細胞数(生細胞及び死細胞の合計数)を計数し、以下の式でハイドロゲル中における細胞の増殖率を算出した。細胞の計数は通常のトリパンブルー染色法で行った。結果を図7に示す。図7中、「TCPS」と表記されているものは、通常使用するポリスチレンの培養ディッシュを用いて、ハイドロゲル中ではなく液体培地中で培養したときの増殖率を示している。
細胞の増殖率=(所定期間培養後の全細胞数/培養開始直後の全細胞数)×100
図7の結果から、ハイドロゲル中においても細胞が増殖することが確認された。ハイドロゲル中のゼラチンの割合が増加すると共に、細胞の増殖率が高くなる傾向であった。特に試料番号5(A3G7)及び試料番号6(A2G8)の移植用補助剤を用いた場合、細胞の増殖率は2.3倍程度であり、TCPSに匹敵する増殖率であった。
<ハイドロゲル中における細胞の機能評価>
上記「ハイドロゲル中における細胞の生存率」に記載されている方法と同じ方法によって、上記細胞が封入されたハイドロゲルを上記48穴プレート中で形成した。上記移植用補助剤は、試料番号6を用いた。この48穴プレートの各ウェルに対して、上記αMEM(10体積%のウシ胎児血清、それぞれ1質量%のペニシリン及びストレプトマイシンを含む)を1ml加えて、37℃で3日間培養した。次に、48穴プレートの各ウェルに対して、100mMのEDTA−2Na(エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム)を更に含む上記αMEMを1ml加えて、37℃で10分間培養し、ハイドロゲルを消失させた。
その後、上記細胞を含む培養液を遠心分離用のチューブに回収し、遠心分離(1000rpm、3分間)によって上記細胞を回収した。回収した細胞を上記αMEM(10体積%のウシ胎児血清、それぞれ1質量%のペニシリン及びストレプトマイシンを含む)で2日間培養した。培地を骨分化用培地に交換して、7日間培養したプレートと、14日間培養したプレートとを準備した。ここで上記骨分化用培地は、上記αMEMにデキサメタゾン(最終濃度10nM)、L−アスコルビン酸(最終濃度0.2mM)及びβ−グリセロフォスフェート(最終濃度10mM)を更に加えた培地である。上記骨分化用培地で培養した細胞を回収し、RUNX2の発現の評価、アルカリフォスファターゼ(ALP)活性の評価及びカルシウム沈着の評価を行った。より具体的には、RUNX2の発現は、リアルタイムPCR法で評価した(図8の(a))。ALP活性は、ラボアッセイALP(富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名)を用いて評価した(図8の(b))。カルシウム沈着は、カルシウムE−HAテストワコー(富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名)を用いてカルシウムを定量することで評価した(図8の(c))。結果を図8に示す。
図8の結果から、ハイドロゲルの中で培養した細胞は、骨分化能を維持していることが分かった。
≪動物を用いた移植用補助剤の性能評価≫
<生体内における移植細胞の定着率の評価>
まず、以下の手順でマウスの3TS−E1細胞を蛍光色素であるPKH26赤色蛍光細胞リンカー(富士フイルム和光純薬株式会社製)で標識した。PKH26(10mM)を含む細胞培養液中で上記3TS−E1細胞を2時間培養した。その後、上記3TS−E1細胞に結合していない遊離のPKH26を遠沈洗浄にて除去した。
上述の蛍光色素で標識した細胞(以下、「標識細胞」という場合がある。)を、PBS又は上記移植用補助剤(試料番号6)で、1×10細胞/mlとなるように懸濁させた。得られた細胞懸濁液と、上記ゲル化剤とを等量(200μlずつ)で混合し、マウス(系統:BALB/c)の背部皮下部位(移植部位)に注射で移植した。
移植後のマウスは、1日間飼育したマウスと3日間飼育したマウスとがあった。飼育後、移植部位の組織片(サイズ10mm×10mm)を採取した。採取した組織片を0.4%のコラゲナーゼを含むPBS及び100mMのEDTA−2Naを含むPBSでそれぞれ10分間、37℃でインキュベートした。インキュベートした後の細胞を回収して、αMEM(10体積%のウシ胎児血清、それぞれ1質量%のペニシリン及びストレプトマイシンを含む)で更に3日間培養した。上記細胞を含む培養液を遠心分離用のチューブに回収し、遠心分離(1000rpm、3分間)によって上記細胞を回収した。回収した細胞を蛍光顕微鏡で観察し、蛍光色素で標識され、かつトリパンブルーで染色されていない細胞の数(以下、「標識された生細胞の数」という場合がある。)をカウントした。その後、以下の式に基づいて、移植した細胞の残存率(%)を求めた。結果を図9に示す。細胞の残存率が高いほど、移植部位における移植細胞の定着性が高いことを示している。
細胞の残存率(%)=(採取した組織片に存在する上記標識された生細胞の数/移植した標識細胞の数)×100
図9の結果から、上記移植用補助剤を用いて移植した場合、単に細胞懸濁液を移植部位に投与した場合(残存率:5%未満)と比較して、移植した細胞の残存率が有意に高い(約30%)ことが分かった。従来のインジェクタブルゲルを用いた細胞移植(図2)では、移植細胞の残存率が20%程度であることを踏まえると、本実施例に係る移植用補助剤は、細胞の移植に特に適していることが示された。
上述の「細胞を用いた移植用補助剤の性能評価」及び「動物を用いた移植用補助剤の性能評価」の結果から、ゼラチンと、カルボキシル基を有するポリマーとを含む移植用補助剤は、多価の金属カチオンを含むゲル化剤と、移植物と共に対象の移植部位へ投与することで、上記移植部位における上記移植物の定着性が向上することが分かった。さらに、上記移植用補助剤を用いて移植細胞を移植部位に移植した場合、上記移植細胞が移植部位において生存、増殖及び分化できることが分かった。
≪組成が異なる移植用補助剤の作製、及びその性能評価≫
<カルボキシル基を有するポリマーの検討>
アルギン酸ナトリウムの代わりに、カルボキシメチルセルロース(重量平均分子量:10000)又は、ポリアクリル酸(重量平均分子量:100000)を用いたこと以外は、上述の<移植用補助剤の作製>における試料番号6(A2G8)と同じ条件で移植用補助剤を作製した。得られた移植用補助剤を、上述の<ハイドロゲル形成能の評価>と同じ手順でゲル化を行い、ハイドロゲル形成能を評価した。その結果、カルボキシメチルセルロース及びポリアクリル酸いずれを用いた場合も、ハイドロゲルが形成され、混合液の流動性が失われていたことを確認した。
<ゲル化剤の検討>
塩化鉄(III)の代わりに、塩化アルミニウム(III)又は、塩化ストロンチウム(III)を用いたこと以外は、上述の<移植用補助剤の作製>における試料番号6(A2G8)と同じ条件で移植用補助剤を作製した。得られた移植用補助剤を、上述の<ハイドロゲル形成能の評価>と同じ手順でゲル化を行い、ハイドロゲル形成能を評価した。その結果、塩化アルミニウム(III)及び塩化ストロンチウム(III)いずれを用いた場合も、ハイドロゲルが形成され、混合液の流動性が失われていたことを確認した。
以上のように本発明の実施形態及び実施例について説明を行なったが、上述の各実施形態及び各実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
今回開示された実施の形態及び実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態及び実施例ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

Claims (11)

  1. ゼラチンと、カルボキシル基を有するポリマーとを含む移植用補助剤であって、
    前記移植用補助剤は、多価の金属カチオンを含むゲル化剤と、移植物と共に対象の移植部位へ投与するように用いられる、移植用補助剤。
  2. 前記カルボキシル基を有するポリマーは、アルギン酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ペクチン、ゼラチン由来ペプチド、及びカルボキシメチルセルロースからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、請求項1に記載の移植用補助剤。
  3. 前記多価の金属カチオンは、Fe3+、Sr3+、Al3+及びTi3+からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1又は請求項2に記載の移植用補助剤。
  4. 前記ゼラチンは、その重量平均分子量が2000〜300000である、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の移植用補助剤。
  5. 前記移植部位において、前記多価の金属カチオンの濃度が0.05〜50mMとなるように、前記ゲル化剤と前記移植物と共に前記移植部位へ投与するように用いられる、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の移植用補助剤。
  6. 水を更に含む、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の移植用補助剤。
  7. 前記ゼラチンは、前記移植用補助剤の全体に対して、その濃度が0.2〜1質量%である、請求項6に記載の移植用補助剤。
  8. 前記カルボキシル基を有するポリマーは、前記移植用補助剤の全体に対して、その濃度が0.2〜1質量%である、請求項6又は請求項7に記載の移植用補助剤。
  9. 前記移植物は、細胞又は薬剤を含む請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載の移植用補助剤。
  10. 請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載の移植用補助剤と、
    多価の金属カチオンを含むゲル化剤と、を含む移植用キット。
  11. 移植用器具を更に含む、請求項10に記載の移植用キット。
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