JP2021017412A - チペピジンとcyp2d6阻害剤の組み合わせ医薬 - Google Patents

チペピジンとcyp2d6阻害剤の組み合わせ医薬 Download PDF

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明公 水野
俊介 神夏磯
Shunsuke Kamigaso
俊介 神夏磯
徳子 井上
Noriko Inoue
徳子 井上
一晃 川浦
Kazuaki Kawaura
一晃 川浦
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Abstract

【課題】中枢機能障害、特にADHDを治療する薬剤として、従来の薬剤よりも安全でかつ効果の高い新たな薬剤の提供、又は新たな治療方法の提供。【解決手段】チペピジン又は医薬的に許容されるその塩とCYP2D6阻害剤との組み合わせを特徴とする医薬。【選択図】図14

Description

本発明は、中枢機能障害、特に注意欠如・多動性障害を治療するための薬剤及び方法を提供する。より詳細には、チペピジンとチペピジン代謝阻害剤との組み合わせにかかる中枢機能障害の治療に関する。
注意欠如・多動性障害(Attention-deficit hyperactivity disorder:ADHD)は、多動性(過活動)や衝動性、また不注意を症状の特徴とする発達障害の一つとされ、生来的で体質的な脳機能障害を背景に出現するものと理解されているが、その病因は十分に解明されていない。ADHDは、幼少期から発症し、年齢が上がるにつれて見かけ上の多動は減少するため、小児に特徴的であり(小児ADHD)、成人になるに従って改善されると考えられていたが、近年は成人期にもいくつかの症状が残存していることが報告され(成人のADHD)、全生涯を通して持続する慢性疾患である。また、自閉症スペクトラム症、特異的学習症、チック症等、他の発達障害、あるいは気分障害、不安障害、物質関連障害等、他の精神疾患との合併が認められやすいとされている。
治療方法としては、世界保健機関や日本のガイドラインでは児童へは心理療法が優先されるが、十分な効果が得られなかった場合に心理療法に加えて薬物療法を開始することが推奨されている。薬物による治療として、中枢刺激薬のメチルフェニデートや非中枢刺激薬のアトモキセチンが第一選択薬として使用されるが、多様な症状のため十分な効果が得られない場合があり、また副作用の発現により使用が制限されるなどの問題があり、ADHDに対する新たな治療薬が求められている。また、一定数の患者では心理療法と薬物療法により小児期の症状は寛解するが、成人期以降も症状が継続して認められる場合があり、長期に渡り安全に投与可能な薬剤が求められている。
チペピジンは、コデインリン酸塩と同等又はそれ以上の鎮咳作用を有すると共に、去痰作用を併有する物質であり、そのうえ非麻薬性であるため医療用及び一般用医薬品の鎮咳去痰薬やかぜ薬として古くから汎用されている。このため、チペピジンの安全性は確立されており、年齢を問わずに使用でき、小児に対する使用実績も多く懸念事項はほとんどない。
近年、チペピジンが、Gタンパク質共役型内向き整流性Kイオン(GIRK)チャンネルを抑制することがわかり、上記の鎮咳去痰薬やかぜ薬としての用途以外に、中枢機能障害、例えば、ADHD、うつ病などの気分障害若しくは感情障害、環境化学物質等に起因する脳機能障害、強迫性障害、パーキンソン病、統合失調症、神経因性疼痛、排尿障害、アミロイドβ蛋白質により誘発される認知症(特にアルツハイマー病)等への用途についても報告されている(特許文献1〜9)。また、非特許文献1には、チペピジンが小児のADHD症状を改善し、また重篤な有害事象がなく、他の薬物で認められる副作用も発現しなかったことが記載されている。
これまで、チペピジンは、チペピジンヒベンズ酸塩を有効成分とする錠剤、散剤、シロップ剤等の経口用製剤の形で、用いられている。チペピジンヒベンズ酸塩は、最高血漿中濃度に到達するのに、経口投与後約1.3時間、血漿中半減期は約1.8時間であり、短時間しか有効ではなく、1日3回投与型の経口剤として患者に処方されてきた。ADHDやうつ病などを適用とした予防・治療薬の用途では、その効果が安定的、持続的に作用することが望ましく、外出先での服用をできるだけ控えることや服薬アドヒアランスの向上を考慮した、1日1回又は2回投与型の経口製剤が報告されている(特許文献10)。
投与された薬物の多くは、体内で吸収され、標的組織に分布して薬効を発現するが、一方で生体にとっては異物であるため、代謝を経て、もしくはそのまま尿などから排泄されるという過程をたどる。大部分の薬物(有効成分)は、肝臓での代謝によって排泄されやすい代謝物(無効成分)となり体外に排出されることから、代謝は、薬効を左右する重要なファクターの一つである。薬物代謝は、第一相反応と第二相反応に大別され、第一相反応は酸化、還元、加水分解などの官能基形成や開裂反応であるのに対し、第二相反応はグルクロン酸、硫酸、グリシンなどとの抱合反応であるが、薬物の薬効を論じる上では、有効成分から無効成分への初発の代謝である第一相反応がより重要である。第一相反応を担う薬物代謝酵素の中でも、シトクロムP450(CYP)は、臨床で使用されている大部分の薬物を代謝している主要な酵素である。
CYPは、薬物代謝における第一相反応を担う主要な酵素である。主に肝臓に存在し、肝以外にも腎、肺、消化管、副腎、脳、皮膚などほとんどすべての臓器に少量ながら存在する。CYPは、基質特異性の異なる複数の分子種からなる遺伝子スーパーファミリーを形成しており、ヒトでは50種類程度の分子種が知られている。その中でもCYP2D6は、遺伝子多型により基質(当該酵素の代謝の対象)となる薬物の代謝速度に大きな個人差が現れることが知られている。遺伝子型(genotype)が形質として表に現れたものを表現型(phenotype)と呼び、代謝速度の速い順に、超急速代謝型(ultrarapid metabolizer(UM))、高速代謝型(extensive metabolizer(EM))、中間速代謝型(intermediate metabolizer(IM))、低速代謝型(poor metabolizer(PM))の大きく四つに分類される。このように、例えば薬物がCYP2D6の基質になる場合は、その有効成分の曝露、すなわち薬効に大きな個人差が生じることになるため、当該薬物がいずれの代謝酵素で代謝されるかを特定することは、薬効を最大限に活かすこと、副作用を軽減すること、あるいは薬物の潜在的薬効を見出すことに繋がるという観点からも非常に有益である。現在、臨床で使用されている多くの薬物において、その代謝酵素は特定されているが、チペピジンはいずれの代謝酵素で代謝されるか知られていない。
特再公表2007-37258 特開2009-227631 特再公表2007-139153 特開2012-62272 特開2011-246446 特開2013-63958 特再公表2012-118172 特開2007-204366 特開2017-36242 特再公表2017-209106
Sasaki, et al. Neuropsychiatr Dis Treat. 2014;10:147-51.
上記背景を鑑みて、中枢機能障害、特にADHDを治療する薬剤として、従来の薬剤よりも安全でかつ効果の高い新たな薬剤の提供、又は新たな治療方法の提供を目的とする。
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、チペピジンがCYP2D6で代謝されることを突き止め、チペピジンとCYP2D6阻害剤を組み合わせて投与することによって、チペピジンの代謝を抑制し、チペピジン代謝の比較的速い患者でも、血漿中濃度を上昇・持続させることが可能であること、すなわち、中枢機能障害に対し、遺伝子多型によらず安定した治療が可能であることを見出し、発明を完成させた。
即ち本発明は、
(1)チペピジン又は医薬的に許容されるその塩とCYP2D6阻害剤との組み合わせを特徴とする医薬、
(2)中枢機能障害の治療又は予防用である(1)に記載の医薬、
(3)注意欠如・多動性障害、うつ病、双極性障害、統合失調症、不安障害、認知症、強迫性障害、パーキンソン病、排尿障害、疼痛及び神経性疼痛からなる群より選ばれる疾患の治療又は予防用である(1)又は(2)に記載の医薬、
(4)CYP2D6阻害剤がキニジン(Quinidine)、キニン(Quinine)、テルビナフィン(Terbinafine)、ベルベリン(Berberine)、シナカルセト(Cinacalcet)、パロキセチン(Paroxetine)、メトクロプラミド(Metoclopramide)、セレコキシブ(Celecoxib)、ペルゴリド(Pergolide)、プロパフェノン(Propafenone)、ミラベグロン(Mirabegron)、イミプラミン(Imipramine)、アセナピン(Asenapine)、デュロキセチン(Duloxetine)、ブプロピオン(Bupropion)、デシプラミン(Desipramine)、フルオキセチン(Fluoxetine)、キナクリン(Quinacrine)、アジマリシン(Ajmalicine)、プロトピン(Protopine)、ジヒドロキニジン(Dihydroquinidine)及びロベリン(Lobeline)からなる群より選ばれる少なくとも1種である(1)に記載の医薬、
である。
本発明の注意欠如・多動性障害治療剤は、体内におけるチペピジンのCYP2D6による代謝を阻害することによって、遺伝子多型による血漿中濃度の大きな個体間差を抑制し、安定した曝露を維持できる。これにより、これまで代謝が速く、未変化体の曝露が低いため奏功しなかったと考えられるEMなどの患者に、有効な薬剤を提供できる。
実施例1のチペピジン徐放性製剤を健康成人男性に投与後のチペピジン血漿中濃度推移を示す。 実施例2のヒト肝ミクロソームを用いた各CYP分子種阻害剤のチペピジン代謝阻害率を示す。 実施例3のチペピジン徐放性製剤を健康成人男性に投与後のCYP2D6表現型毎のチペピジン血漿中濃度推移を示す。 実施例4の全被験者における用量別のADHD RS-IV-J(investigator)トータルスコア変化量の推移を示す。 実施例4のCYP2D6表現型毎における用量別のADHD RS-IV-J(investigator)トータルスコアの変化量を示す。 実施例4のCYP2D6表現型毎における体重換算用量別のADHD RS-IV-J(investigator)トータルスコアの変化量を示す。 実施例5のヒト肝ミクロソームを用いたCYP2D6阻害剤のチペピジン代謝阻害率を示す。 実施例5のラット肝ミクロソームを用いたCYP2D6阻害剤のチペピジン代謝阻害率を示す。 実施例6の幼若SHRにチペピジンヒベンズ酸塩を腹腔内投与後のチペピジン血漿中濃度推移を示す。 実施例7の幼若SHRにチペピジンヒベンズ酸塩を単剤、又はキニン若しくはキニジンと併用投与後のチペピジン血漿中濃度推移を示す。 実施例8の幼若SHRにチペピジンヒベンズ酸塩を単剤、又はテルビナフィンと併用投与後のチペピジン血漿中濃度推移を示す。 実施例9の幼若SHRにチペピジンヒベンズ酸塩を単剤、又はSKF−525Aと併用投与後のチペピジン血漿中濃度推移を示す。 実施例10のチペピジンヒベンズ酸塩単剤のADHD動物モデルに対する効果を示す。 実施例10のチペピジンヒベンズ酸塩とキニジンまたはSKF−525Aとの併用のADHD動物モデルに対する効果を示す。 実施例10のチペピジンヒベンズ酸塩とキニンとの併用のADHD動物モデルに対する効果を示す。 実施例10のチペピジンヒベンズ酸塩とテルビナフィンとの併用のADHD動物モデルに対する効果を示す。
チペピジンは、フリー体としても使用可能であり、また医薬的に許容されるチペピジンの塩としても使用可能である。医薬的に許容されるチペピジンの塩としては、チペピジンヒベンズ酸塩、チペピジンクエン酸塩、チペピジンステアリル硫酸エステル塩等が挙げられる。
本発明において、「CYP2D6阻害剤」とは、ヒト生体内酵素のCYP分子種の一種であるCYP2D6による代謝を阻害する化合物である。
CYPとは、シトクロムP450のことであり、生体に存在する生体異物を代謝する酵素である。CYPには様々な分子種が存在しており、ヒトにおける主要な分子種は、例えば、CYP1A2、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP3A4等が挙げられる。これらのうち、多くの薬物の代謝にはCYP3A4が重要な役割を担っており、ついでCYP2C9、CYP2C19、CYP2D6の関与が多いと言われている。
CYP2D6は、肝における比含量が少ないにもかかわらず、代謝する薬物の種類が多いという特徴がある。CYP2D6により代謝を受ける主な物質として、フルボキサミン、アミトリプチリン、プロプラノロール、ハロペリドール、などが挙げられ、抗うつ薬、抗不整脈薬、抗精神病薬などの臨床上重要な役割の薬を代謝することが明らかにされており、多型を示すCYPの中では最も重要な分子種の一つである。
本発明におけるCYP2D6阻害剤としては、具体的には、例えば、キニジン、キニン、テルビナフィン、ベルベリン、シナカルセト、パロキセチン、メトクロプラミド、セレコキシブ、ペルゴリド、プロパフェノン、ミラベグロン、イミプラミン、アセナピン、デュロキセチン、ブプロピオン、デシプラミン、フルオキセチン、キナクリン、アジマリシン、プロトピン、ジヒドロキニジン、ロベリン、エリグルスタット、エスシタロプラム、アリピプラゾール、アトモキセチン、フルボキサミン、ハロペリドール、メマンチン、オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、セルトラリン、ベンラファキシン、ジプラシドン等が挙げられ、CYP2D6を阻害する薬剤であれば、特に限定されない。後述の実施例10に記載されている動物モデル(ラット5-trial inhibitory avoidance試験)において有効性を確認ずみであるという観点から、好ましくは、キニジン、キニン、テルビナフィンであり、さらに好ましくは、キニジンである。
遺伝子多型(polymorphism)とは遺伝子を構成しているDNAの配列の個体差であり、一般に集団の1%以上の頻度であるものと定義されることが多い。遺伝子多型は遺伝子型(genotype)と表現型(phenotype)に区別される。遺伝子型は遺伝子解析から分類される型で、遺伝子診断によって決定される。薬物代謝酵素においては、表現型は実際の酵素活性として現れる型で、医薬品を投与したときに通常の代謝能をもつ高速代謝型(extensive metabolizer(EM))と酵素活性の低下あるいは欠損で低い薬物代謝能をもつ低速代謝型(poor metabolizer(PM))、EMよりも高い代謝活性をもつ超急速代謝型(ultrarapid metabolizer(UM))、EMとPMの間の代謝能を持つ中間速代謝型(intermediate metabolizer(IM))などに分類される。EMは、さらにホモEM、ヘテロEMに分類され、ホモEMはヘテロEMより代謝活性が高い。
本発明において「中枢機能障害」とは、例えば、注意欠如・多動性障害(ADHD)、うつ病(例えば、治療抵抗性うつ病)、双極性障害、統合失調症、不安障害、認知症、強迫性障害(例えば、治療抵抗性強迫性障害)、パーキンソン病、排尿障害、疼痛、神経性疼痛、アミロイドβ蛋白質により誘発される認知症(特にアルツハイマー病)等が挙げられ、中枢機能が障害されることで生じる症状、疾患であれば、特に限定されない。本発明における中枢機能障害においては、薬物治療における薬剤選択の幅が少ないという観点から、好ましくはADHDであり、小児において、より安全性が担保された治療法が必要であることから、さらに好ましくは、小児ADHDである。
本発明において「ADHD」とは、多動性及び衝動性症状と不注意症状があり、ある一定の期間以上にわたり持続している脳機能障害を背景とした発達障害の一つである。
本発明において「治療」とは、中枢機能障害が改善されることのほか、改善された症状が続くこと、中枢機能が安定化されることのほか、再発抑制、他の治療(心理療法や他の薬物療法)の低減等、中枢機能障害に関連する医学的治療全てを含み、中枢機能障害を有する者の生活の質の向上も含む。
本発明に係る治療剤は、通常、全身的又は局所的に、経口又は非経口の形で投与される。その投与量は、年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なり、投与量は種々の条件により変動する。
本発明に係る「組み合わせを特徴とする治療剤」は、有効成分であるチペピジンとCYP2D6阻害剤を単一の製剤(配合剤)又は別々に製剤化して得られる2種以上の製剤とすることができる。
上記製剤は、通常行われる手段に従って、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、乳剤、懸濁剤、シロップ剤などに、あるいは無菌性溶液、懸濁液剤などの注射剤にすることができる。これらの有効成分を別々に製剤化して得られる2種以上の製剤とした場合には、個々の製剤を同時又は別々に投与することが可能である。
本発明に係る治療剤を有効成分毎に異なる2種以上の製剤とする場合は、同時に、又は極めて短い間隔で(連続的に)投与する可能性が高いため、例えば、市販されている医薬の添付文書や販売パンフレット等の文書に、それぞれを併用する旨を記載するのが好ましい。また、チペピジンとCYP2D6阻害剤との組み合わせを主要な構成とするキットとするのも好ましい。
本発明のチペピジンの投与量は、投与対象、投与方法等により異なるが、例えば経口投与の場合は、患者に対して、1日にチペピジンクエン酸塩相当量として5〜240mg、好ましくは、30〜120mgとなるように投与する。
これに対し、チペピジンと組み合わせるCYP2D6阻害剤の1日の投与量は、例をあげて説明すると、キニジン(経口剤)の場合は、期外収縮、発作性頻拍や慢性心房細動などの成人患者に対して、1日にキニジン硫酸塩水和物として100〜2000mg投与することができるが、本発明のCYP2D6阻害剤としての用途としては、チペピジン代謝阻害作用以外の作用を最小限とするという観点から10mg以下の投与とすることが好ましい。また、例えばキニン(経口剤;キニーネともいう)の場合は、マラリアに罹患した成人患者に対して、1日にキニン塩酸塩水和物として1500mg投与することができ、テルビナフィン(経口剤)の場合は、抗真菌剤として成人患者に125mg投与することができるが、本発明のCYP2D6阻害剤としての用途としては、チペピジン代謝阻害作用以外の作用を最小限とするという観点から、可能な限り低用量とすることが好ましく、例えば、テルビナフィンの場合は125mgより低い投与量とすることが好ましい。
前記用量は、医師用添付文書で指示される量、若しくは当該用量より大幅に少ない量であるが、少ない量でもCYP2D6阻害効果を示す量であれば、チペピジンの代謝を阻害することによって、目的とする血漿中チペピジン濃度を維持でき、薬理効果を期待できる。
本発明のチペピジンとCYP2D6阻害剤の配合比は、薬剤の種類、投与対象、投与方法等により異なるが、例えば、本発明の医薬をヒトに投与する場合には、チペピジン1質量部に対してCYP2D6阻害剤を、通常0.0002〜400質量部の割合で組み合わせた場合に、好ましくは、0.0004〜70質量部の割合で組み合わせた場合に、チペピジンの優れた作用を得ることが可能である。
特に、CYP2D6阻害剤がキニジンの場合、チペピジン1質量部に対してキニジンが通常、0.02〜400質量部、好ましくは、0.04〜0.4の割合で組み合わせることができる。これにより、チペピジン単独で投与した場合よりも、充分な効果を得ることができ、また、副作用の少ない医薬とすることが可能である。
本発明に係る組み合わせ医薬は、ADHDのために、さらに他の薬剤(チペピジン以外の他の注意欠如・多動性障害治療剤、又は必要に応じて1又は2つ以上のCYP2D6阻害剤を含む)とともに組み合わせて使用してもよいし、他の治療(心理社会的治療等)とともに組み合わせて使用してもよい。
この際、本発明に係る医薬と他の薬剤の投与時期と治療時期は限定されず、これらを投与対象に対し、同時に投与してもよいし、時間差をおいて投与してもよい。さらに、本発明に係る治療剤と他の薬剤とは、それぞれ異なる製剤として投与されてもよいし、全ての活性成分を含む単一の製剤として投与されてもよい。他の薬剤の投与量は、臨床上用いられている用量を基準として適宜選択することができる。また、本発明に係る治療剤と他の薬剤の配合比は、投与対象、投与ルート、対象疾患、症状、組み合わせなどにより適宜選択することができる。
他の治療と組み合わせて使用する場合も、同様に、投与時期と治療時期は限定されず、同時に実施してもよいし、時間差をおいて実施してもよい。
本発明は、中枢機能障害を改善する方法も提供する。より詳細には、チペピジンとCYP2D6阻害剤を併用することで、中枢機能障害、特に小児ADHDを改善する方法である。
本発明においては、投与対象におけるCYP2D6に関する遺伝子型を特定、又は表現型を特定することで、チペピジン代謝が遅い患者、特に、表現型がIM、PMの患者ではチペピジン単剤でも効果が示されている。したがって、遺伝子型又は表現型をあらかじめ特定し投与する医薬、いわゆる個別化医療に対応する医薬品としても利用可能である。この場合、CYP2D6の表現型がIM、PMの患者には、チペピジン単剤を投与することでも効果が期待でき、CYP2D6表現型がUM、EMの患者にはチペピジンとCYP2D6阻害剤を組み合わせて投与することで、チペピジンの効果が期待できる。
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、これらは本発明を限定するものではなく、また本発明の範囲を逸脱しない範囲で変化させてもよい。
(実施例1)チペピジンの血漿中濃度、個体間変動の検討
<方法>
以下に記載する実施例1、3及び4の臨床試験は「ヘルシンキ宣言」に基づく倫理的原則、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 第14条第3項及び第80条の2」に規定する基準及び平成9年3月27日付厚生省令第28号「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP:Good Clinical Practice)に関する省令」を遵守して実施された。また本臨床試験は、実施の適否に関し、倫理的、科学的及び医学的妥当性の観点から実施医療機関または医療機関が選択した審査委員会の審査を受け、承認を得た。本臨床試験への参加については、被験者本人または代諾者から自由意思による同意を文書により得た。
チペピジン徐放性製剤30mg錠を健康成人男性に投与し、チペピジン血漿中濃度推移を検討した。
チペピジン徐放性製剤とは、チペピジンヒベンズ酸塩を有効成分とし、製剤からのチペピジンの溶出をコントロールすることで血漿中濃度の持続を意図した徐放性製剤であり、チペピジン徐放性製剤30mg錠の1錠中にはチペピジンクエン酸塩30mg相当量、すなわちチペピジンヒベンズ酸塩を33.21mg含有する。
日本人健康成人男性32名にチペピジン徐放性製剤30mg錠1錠を水150mLとともに投与し、経時的に血液を採取し、チペピジン血漿中濃度を測定した。採血ポイントは、投与前、投与後0.25、0.5、1、2、3、4、5、6、8、12、14、16、24、48時間とした。被験者は投与前10時間以上、投与後4時間まで絶食とした。
チペピジン血漿中濃度はAB Sciex社製 API4000を用い、液体クロマトグラフ−タンデムマススペクトロメトリー(LC−MS/MS法)により測定した。すなわち、ヒト血漿50μLにアセトニトリル/メタノール混液(9:1, v/v)を添加し、除蛋白することによってチペピジン未変化体を抽出し、水/アセトニトリル/ギ酸混液を添加、混和したものをLC−MS/MSでの測定に供した。ポジティブイオンモード、selected reaction monitoring にてモニターし、内部標準法にて定量した。薬物動態パラメータの算出は、チペピジン血漿中濃度からモデル非依存的方法(ノンコンパートメント解析法)により算出した。
<結果>
チペピジン徐放性製剤を健康成人男性に経口投与後のチペピジン血漿中濃度(血漿中未変化体濃度)推移を図1に、血漿中濃度推移より求めた薬物動態パラメータを表1に示す。チペピジン徐放性製剤を経口投与後の最高血漿中濃度(Cmax)で54倍、無限大時間までの血漿中濃度−時間曲線下面積(AUC0-∞)で155倍とチペピジン血漿中濃度推移には大きな個体間変動が認められた。
(実施例2)チペピジンのヒト代謝酵素の同定・推定
<方法>
チペピジンのヒト代謝酵素を推定する目的で、各CYP分子種に対する特異的阻害剤を用いたヒト肝ミクロソーム(Sekisui Xenotech, LLC、製品番号:H2630A)におけるチペピジン代謝への影響を確認した。用いたCYP阻害剤を表2に示した。
チペピジン1nmol/L、ヒト肝ミクロソームにおけるタンパク濃度0.05mg/mL、反応時間6分の条件におけるチペピジンの代謝率を評価した。代謝反応は、37℃インキュベート下、補酵素としてNADPH generating systemを添加することで開始させた。反応開始から6分経過時にアセトニトリル/メタノール混液(9:1, v/v)を反応溶液と等量添加することで反応を停止させ、十分に混和した後、遠心分離(3,974 ×g, 10min,4℃)し、上清を評価サンプルとしてLC−MS/MS測定に供した。代謝率は反応時間0分におけるチペピジン濃度を基準として、反応時間6分におけるチペピジン濃度の減少率として算出した。さらに、各CYP分子種阻害剤をチペピジンと同時添加した際のチペピジン代謝率を評価した。阻害剤非添加条件のチペピジン代謝率を基準にして、式1に従い、各CYP分子種阻害剤のチペピジン代謝阻害率を算出した。
(式1)
チペピジン代謝阻害率(%)={1-(阻害剤添加後のチペピジン代謝率(%)/阻害剤非添加条件のチペピジン代謝率(%))}×100
<結果>
各CYP分子種阻害剤によるチペピジン代謝阻害率を図2に示した。1−ABTがチペピジン代謝をほぼ完全に阻害していることから、ヒト肝ミクロソームにおけるチペピジン代謝はCYPのみを介していることが確認された。また、CYP1A2阻害剤であるフラフィリン、CYP2D6阻害剤であるキニジンにおいてもチペピジン代謝が阻害され、その阻害率はそれぞれおよそ20%、80%であった。
以上の結果からヒト肝ミクロソームにおけるチペピジン代謝の大部分がCYP2D6を介したものであることが分かった。
(実施例3)チペピジン血漿中濃度の個体差におけるCYP2D6酵素活性の影響
<方法>
実施例1に参加した被験者のうちCYP2D6遺伝子解析に対する同意が得られた29例に対し、CYP2D6表現型とチペピジン徐放性製剤投与後のチペピジン血漿中濃度との関連について検討した。DNAの抽出、及び遺伝子多型の測定・解析及び表現型の割り付けは、株式会社LSIメディエンス中央総合ラボラトリー(東京都)にて実施した。
FlexiGene DNA Kit(250)(株式会社キアゲン)を用い、全血よりDNAを単離・精製し、Luminex xTAG CYP2D6v3 RUO(ルミネックス・ジャパン株式会社)を用いPCR-rSSO法(ポリメラーゼ連鎖反応−逆配列−特異的オリゴヌクレオチド法)によりCYP2D6遺伝子型を解析した。解析した遺伝子型の組み合わせにより表3に基づき、CYP2D6表現型(Phenotype)を分類した。例を挙げると、通常活性型アレル(1、2、35)どうしの組み合わせでは表現型はCYP2D6代謝活性の高いホモ接合型高速代謝型(以下、「ホモ接合型EM」又は「ホモEM」ともいう)に分類される。また、一方に通常活性型アレルを、残りが不活性型アレル(3、4、5、6、7、8、11、12、14、15)の組み合わせ、または活性低下型アレル(9、10、17、29、41)の場合、ヘテロ接合型高速代謝型(以下、「ヘテロ接合型EM」又は「ヘテロEM」ともいう)に分類される。不活性型アレルどうしの組み合わせではCYP2D6活性の最も低い低速代謝型(以下、「PM」とも言う)に分類される。活性低下型アレルどうし、または活性低下型アレルと不活性型アレルとの組み合わせの場合、中間型の活性を示す中間速代謝群(以下、「IM」ともいう)に分類される。また、通常活性型アレル同士の組み合わせで遺伝子の重複が認められる場合、著しく代謝活性の亢進する超急速代謝型(以下、「UM」ともいう)に分類される。表3の分類は、表4に記載の引用文献を参照して作成した。
<結果>
実施例1の試験に参加した32例のうち、CYP2D6遺伝子解析に対する同意が得られた29例について遺伝子解析を行い、表現型を分類した。その結果、PMが1例、IMが2例、ヘテロ接合型EMが17例、ホモ接合型EMが8例、UMが1例であった。各表現型のチペピジン血漿中濃度(血漿中未変化体濃度)推移を図3に示す。また、各表現型の薬物動態パラメータを表5に示す。チペピジン徐放性製剤30mg錠投与時のCmax及びAUC0-∞は、PM、IM、EM、UMの順に高値を示し、酵素活性に応じた曝露の変化が認められた。
以上の結果から、チペピジン血漿中濃度の個体間変動の主要因は、チペピジンの主要代謝酵素であるCYP2D6の酵素活性の違いによるものと結論された。
(実施例4)チペピジン徐放性製剤のADHD患児における有効性の検討
<方法>
被験者は6歳以上18歳未満の日本人ADHD患児を対象とした。チペピジンヒベンズ酸塩を有効成分とする徐放性製剤を8週間投与したときの有効性をプラセボ対照二重盲検比較試験により検討した。
チペピジン徐放性製剤とは、実施例1と同様に、チペピジンヒベンズ酸塩を有効成分とする徐放性製剤であり、チペピジン徐放性製剤30mg錠の1錠中にはチペピジンクエン酸塩30mg相当量、すなわちチペピジンヒベンズ酸塩を33.21mg含有する。
チペピジン徐放性製剤30mg錠及びチペピジンヒベンズ酸塩を含まないプラセボ錠を用いた。
対象患者は、以下の基準を満たす患児とした。
・精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、以下「DSM−5」とも言う。「American Psychiatric Association, Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 5th edition. Washington DC:2013」参照)の疾患診断基準に基づき診断名がADHDである
・6歳以上18歳未満の外来患者
・診断・対応のためのADHD評価スケール(以下、「ADHD-RS」とも言う。「『DSM準拠』チェックリスト、標準値とその臨床的解釈、ジョージ・J・デュポール、トーマス・J・パワー、アーサー・D・アナストポウロス、ロバート・リード著、市川宏伸・田中康雄監修、坂本律訳、2008」参照)に記載の「注意欠如・多動性障害評価尺度(医師評価)(以下、「ADHD RS-IV-J(investigator)」とも表記する)」のトータルスコアが23以上
・「ADHD-RS」に記載の「ADHD臨床全般重症度」のスコアが3以上
本試験は観察期と試験薬投与期から構成されている。観察期は、約2週間のスクリーニング及びウォッシュアウト期間である。また、試験薬投与期は、約8週間の二重盲検比較投与期間である。投与群として、プラセボ群、30mg群、60mg群及び120mg群、計4群を設定した。
プラセボ群にはチペピジン徐放性製剤のプラセボ錠を1回2錠、朝及び夕方に投与した。30mg群では、徐放性製剤30mg錠及びプラセボ錠を1錠ずつ朝に投与し、プラセボ2錠を夕方投与した。60mg群では、チペピジン徐放性製剤30mg錠を2錠朝に投与し、プラセボ2錠を夕方に投与した。120mg群では、チペピジン徐放製剤30mg錠2錠ずつを朝及び夕方に投与した。
評価ポイントは、服薬開始前日、服薬開始2、4、8週後とした。
DSM−5のADHD診断基準に該当することが確認された患児を一次登録し、その中で前記基準を満たす患児を、CYP2D6表現型の層別因子割り付けにより、プラセボ群、30mg群、60mg群及び120mg群に1:1:1:1の比で、無作為に割り付けた。CYP2D6表現型は、実施例3で分類した方法に基づきPM、IM、EM、UMの4種類に分類し、EMにはヘテロEM及びホモEMを含めた。割り付けは、初回投与時の前日の診察の時点で行った。目標症例数は、有効性解析対象例として 1 群50例、合計200例とした。薬剤が1回でも投与された211例(プラセボ群52例、30mg群54例、60mg群52例、120mg群53例)を解析対象とした。
主要な有効性評価項目は、ADHD RS-IV-J(investigator)に関して、服薬開始前日の測定値(以下、「投与前値」)と試験終了時の測定値(以下、「試験終了値」)におけるトータルスコアの差、すなわち、投与前値と試験終了値の変化量とした。また、ADHD RS-IV-J(investigator)トータルスコアの経時的推移を評価した。なお、試験終了時の測定値には、投与開始後8週時点の測定結果を採用するが、8週時点の評価が欠測あるいは不採用となった場合、投与開始時より後の評価結果のうち最も遅い評価時期のものを採用した。
<結果1>全被験者を対象とした有効性解析
ADHD RS-IV-J(investigator)トータルスコアについて、投与前値と試験終了値の変化量の結果を表6に、投与前値と試験終了値までの経時的推移を図4に示す。チペピジン徐放性製剤のいずれの用量群でもプラセボ群に対する有意な改善は認められなかった。
<結果2>薬物代謝酵素(CYP2D6)表現型別有効性解析(1)
ADHD RS-IV-J(investigator)トータルスコアについてCYP2D6表現型を対象とした部分集団解析を行った。ADHD RS-IV-J(investigator)トータルスコアに関し、投与前値と試験終了値の変化量の結果を表7、図5に示す。CYP2D6表現型がIMの部分集団におけるADHD RS-IV-J(investigator)トータルスコアの変化量は、プラセボ群が−6.1±11.1(9例)に対し120mg群−11.2±9.5(11例)となり、プラセボ群よりも大きかった。
<結果3>薬物代謝酵素(CYP2D6)表現型別有効性解析(2)
結果2に記載したCYP2D6表現型毎の部分集団解析に、さらに体重調整を加えた解析を行った。すなわち、CYP2D6表現型毎のADHD RS-IV-J(investigator)トータルスコア変化量を体重で調整した用量(チペピジンクエン酸塩換算用量(mg)/体重(kg))ごとの部分集団により層別解析した。投与前値と試験終了値の変化量の結果を表8、図6に示す。
ADHD RS-IV-J(investigator)トータルスコアの変化量はIM群では1.5〜2.5mg/kg群で−5.2、2.5〜3.5mg/kg群で−7.8、3.5mg/kg以上の群で−15.6と、体重あたりの用量が大きな群で変化量は大きかった。
以上の結果から、ADHD RS-IV-J(investigator)トータルスコアについて、全被験者を対象とした解析ではいずれの用量群においてもプラセボ群に対する有意な改善は認められなかった。一方で、CYP2D6表現型別の解析では、チペピジン曝露が高いと考えられるPM、又は120mg群におけるCYP2D6表現型がIMの被験者では、ADHD RS-IV-J(investigator)トータルスコアの変化量が大きくなった。また、CYP2D6表現型別の体重調整解析結果では、変化量の差は体重換算用量が大きくなるに伴い大きくなった。これらのことから、チペピジンの曝露が上昇することで、ADHDに対する有効性が上昇するものと考えられた。
(実施例5)CYP2D6阻害剤の探索、ヒト及びラット肝ミクロソーム代謝におけるチペピジン代謝阻害作用
<方法>
DIDBTM Platform(Metabolism & Transport Drug Interaction Database, University of Washington’s Department of Pharmaceutics)を用いて、CYP1A2、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP3A4、UGT1A1、UGT2B7阻害剤を網羅的に検索した。検索された阻害剤の各CYP分子種に対する阻害定数(IC50)を比較し、他の分子種よりCYP2D6の阻害能が10倍以上強い化合物をCYP2D6阻害剤として選出した。
選出された阻害剤は、キニジン、キニン、テルビナフィン、ベルベリン、シナカルセト、パロキセチン、メトクロプラミド、セレコキシブ、ペルゴリド、プロパフェノン、ミラベグロン、イミプラミン、アセナピン、デュロキセチン、ブプロピオン、デシプラミン、フルオキセチン、キナクリン、アジマリシン、プロトピン、ジヒドロキニジン、ロベリンの22剤であり、これら阻害剤を用いて、チペピジン代謝阻害能を評価した。
ヒト及びラット肝ミクロソーム(ヒト肝ミクロソーム:Sekisui Xenotech, LLC、製品番号:H2630A、ラット肝ミクロソーム:BD Biosciences、製品番号:452501)を用いた。肝ミクロソームにおけるタンパク濃度は、ヒト、ラットともに、0.25mg/mLで評価した。代謝が線形である反応条件として、ヒトでは15分、ラットでは5分であることを確認し、当該反応条件でチペピジン代謝と阻害剤の影響を検討した。チペピジン濃度は1μmol/L、前記22種の阻害剤の濃度は、フリー体として10μmol/Lになるように反応溶液に添加した。
代謝反応は、37℃インキュベート下、補酵素としてNADP+を添加することで開始させた。反応開始後、ヒトでは15分、ラットでは5分経過時にDMSOを反応溶液の2倍量添加することで反応を停止させ、十分に混和した後、遠心分離(2,150 ×g以上,10min,4℃)し、上清を評価サンプルとしてLC−MS測定に供した。なお、反応時間0分におけるLC−MSクロマトグラムのピーク面積を基準として、各時点におけるピーク面積の減少率を代謝率として算出した。さらに、その代謝率をもとに、式2に従って各阻害剤による代謝阻害率を算出した。
(式2)
チペピジン代謝阻害率(%)={1-(阻害剤添加後のチペピジン代謝率(%)/チペピジン代謝率(%))}×100
<結果>
ヒト肝ミクロソームの結果を図7に、ラット肝ミクロソームの結果を図8に示す。選出した全ての阻害剤、すなわち前記22種の阻害剤において、チペピジン代謝阻害が認められた。
(実施例6)幼若SHRにチペピジンヒベンズ酸塩を腹腔内投与後のチペピジン血漿中濃度推移、及びチペピジン最高血漿中濃度(Cmax
<方法>
動物は幼若高血圧自然発症ラット(以下、高血圧自然発症ラット(spontaneously hypertensive rat)を「SHR」とも言う)を使用した。チペピジンヒベンズ酸塩5mg/kg(チペピジンとして2.66mg/kg)又は10mg/kg(チペピジンとして5.32mg/kg)を幼若SHR(雄性、4週齢)に腹腔内投与し、チペピジン血漿中濃度推移(採血ポイント:チペピジン投与後0.25、0.5、1、2、4、8時間)及びチペピジン最高血漿中濃度(Cmax)を取得した(n=4)。
なお、チペピジンヒベンズ酸塩5mg/kgは、後述する実施例10に記載の「ラット5-trial inhibitory avoidance試験」における無作用量であり、チペピジンヒベンズ酸塩10mg/kgは「ラット5-trial inhibitory avoidance試験」における最小有効用量である。
<結果>
Cmaxの結果を表9に、チペピジン血漿中濃度推移を図9に示す。
チペピジンヒベンズ酸塩5mg/kg、10mg/kgの投与量間で曝露に線形性が確認された。
(実施例7)幼若SHRにチペピジンヒベンズ酸塩を単剤、又はチペピジン代謝阻害剤(キニン若しくはキニジン)と併用投与後のチペピジン血漿中濃度推移、及びチペピジン最高血漿中濃度(Cmax
<方法>
幼若SHR(雄性、4週齢)に、チペピジンヒベンズ酸塩10mg/kgを腹腔内投与し、チペピジン血漿中濃度推移(採血ポイント:チペピジン投与後0.25、0.5、1、2、4、8時間)及びCmaxを取得し、目標値とした(n=4)。
上記とは別の幼若SHR(雄性、4週齢)に、チペピジンヒベンズ酸塩5mg/kgとキニン100mg/kg、又はチペピジンヒベンズ酸塩5mg/kgとキニジン80mg/kgとの混液を腹腔内投与し、チペピジン血漿中濃度推移(採血ポイント:混液投与後0.25、0.5、1、2、4、8時間)及びCmaxを取得した(各n=3)。
<結果>
Cmaxの平均値の結果を表10に、チペピジン血漿中濃度推移(平均値)の結果を図10に示す。いずれの阻害剤と併用した場合もチペピジンの曝露上昇が確認された。また、目標値と比較した際のCmax比(対目標値)はキニン100mg/kgで1.14倍、キニジン80mg/kgで0.826倍であった。
(実施例8)幼若SHRにチペピジンヒベンズ酸塩を単剤、又はチペピジン代謝阻害剤(テルビナフィン)と併用投与後のチペピジン血漿中濃度推移、及びチペピジン最高血漿中濃度(Cmax
<方法>
幼若SHR(雄性、4週齢)に、チペピジンヒベンズ酸塩10mg/kgを腹腔内投与した際のチペピジン血漿中濃度推移(採血ポイント:チペピジン投与後0.25、0.5、1、2、4、8時間)及びCmaxを取得し、目標値とした(n=4)。
上記とは別の幼若SHR(雄性、4週齢)に、テルビナフィン100mg/kgを腹腔内投与し、テルビナフィン投与30分後にチペピジンヒベンズ酸塩5mg/kgとテルビナフィン100mg/kgとの混液を腹腔内投与した。チペピジンヒベンズ酸塩とテルビナフィンとの混液を投与後のチペピジン血漿中濃度推移(採血ポイント:混液投与後0.25、0.5、1、2、4、8時間)及びCmaxを取得した(n=3)。
<結果>
Cmaxの平均値の結果を表11に、血漿中濃度推移(平均値)の結果を図11に示す。テルビナフィンと併用した場合のチペピジンの曝露は上昇し、目標値と比較した際のCmax比(対目標値)は1.27倍であった。
(実施例9)幼若SHRにチペピジンヒベンズ酸塩を単剤、又は非特異的代謝阻害剤(SKF−525A)と併用投与後のチペピジン血漿中濃度推移、及びチペピジン最高血漿中濃度(Cmax
<方法>
幼若SHR(雄性、4週齢)に、チペピジンヒベンズ酸塩 10mg/kgを腹腔内投与した際の血漿中濃度推移(採血ポイント:チペピジン投与後0.25、0.5、1、2、4、8時間)及びCmaxを取得し、目標値とした(n=3)。
上記とは別の幼若SHR(雄性、4週齢)に、チペピジンヒベンズ酸塩5mg/kgとSKF−525A (フリー体換算:50mg/kg)との混液を腹腔内投与し、チペピジン血漿中濃度推移(採血ポイント:混液投与後0.25、0.5、1、2、4、8時間)及びCmaxを取得した(n=3)。
<結果>
Cmaxの平均値の結果を表12に、血漿中濃度推移(平均値)の結果を図12に示す。SKF−525Aと併用した場合のチペピジンの曝露は上昇し、目標値と比較した際のCmax比(対目標値)は1.05倍であった。
(実施例10)不注意及び衝動性に対するチペピジンヒベンズ酸塩とチペピジン代謝阻害剤の併用効果を評価する目的で、ADHD動物モデルの一つである幼若SHRを用いた5-trial inhibitory avoidance試験を実施した。
<方法>
(1)5-trial inhibitory avoidance試験
5-trial inhibitory avoidance試験は、動物がステップスルーケージにおいて明室から暗室に移動した際に電気ショックを与えることにより、暗室へ移動するまでの時間が試行回数を重ねる毎に長くなる性質を利用した試験である。本試験においてADHDのモデル動物の一つとされる幼若SHRは、正常対照動物である幼若Wistar Kyoto(以下、WKY)ラットと比較して、暗室へ移動するまでの時間が短いことが認められており、これがADHD患者に見られる不注意及び衝動性を反映するとされている(Fox GB et al., Behav Brain Res., 131, 151-161(2002))。
雄性の幼若WKYラット(4週齢、日本チャールスリバー株式会社)及び雄性の幼若SHR(4週齢、日本チャールスリバー株式会社)を用いた。例数は1群につき10〜12例とした。ステップスルーケージ(室町機械株式会社)の明室の照度は約110ルクスとした。溶媒または薬剤投与後にステップスルーケージのギロチンドアを開けた状態でラットを明室に入れ、明室から暗室へ移動するまでの時間を測定した。ラットが暗室へ移動後、ドアを閉めて電気ショック(設定値:0.1mA、1秒間)を1回負荷した。電気ショック負荷後、速やかにラットを取りだし、ホームケージに戻した。一連の試行を5回(試行1から5: T1-T5)繰り返した。試行間のインターバルは60秒とした。T1は 60秒、T2からT5(T2-T5)は180秒をカットオフタイムとした。評価にはT2からT5までの暗室に移動するまでの時間の総和(秒/T2-T5)を用いた。
薬剤には、チペピジンヒベンズ酸塩(Syn-Tech Chem.&Pharm. Co., Ltd)、チペピジン代謝阻害剤であるキニジン(Sigma-Aldrich Co. LLC)、キニン(ナカライテスク株式会社)、塩酸テルビナフィン(三谷産業株式会社)ならびにSKF−525A(Sigma-Aldrich Co. LLC)を用いた。チペピジンヒベンズ酸塩、SKF−525A及び塩酸テルビナフィンの溶媒は20w/v%ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを、キニジン及びキニンの溶媒は20w/v%ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、6mol/L塩酸ならびに8mol/L水酸化ナトリウムを用いた。
統計は、多群間比較についてはSteelの検定(有意水準5%)を、2群間比較についてはWilcoxonの検定(有意水準5%)を用いた。
(2)薬剤の投与
i)チペピジンヒベンズ酸塩単独の作用
チペピジンヒベンズ酸塩(塩込み換算:5、10、20mg/kg)を試験の60分前に単回腹腔内投与した。
ii)チペピジンヒベンズ酸塩とチペピジン代謝阻害剤との併用効果
チペピジンヒベンズ酸塩は無作用量の5mg/kgを投与した。チペピジンヒベンズ酸塩及びキニジン(80mg/kg)、キニン(100mg/kg)又はSKF−525A(フリー体換算:50mg/kg)の混液を試験の60分前に単回腹腔内投与した。また、塩酸テルビナフィン(フリー体換算:100mg/kg)は試験の90分前に単独で単回腹腔内投与し、次いで試験の60分前に塩酸テルビナフィン(100mg/kg)及びチペピジンヒベンズ酸塩の混液を単回腹腔内投与した。
<結果>
チペピジンヒベンズ酸塩単剤の作用を図13に、チペピジンヒベンズ酸塩及びキニジン又はSKF−525Aの併用効果を図14に、チピジンヒベンズ酸塩及びキニンの併用効果を図15に、チペピジンヒベンズ酸塩及び塩酸テルビナフィンの併用効果を図16に示す。
1)幼若SHRにおける不注意及び衝動性様行動
幼若SHRの溶媒群は、幼若WKYラットの溶媒群と比較して暗室に移動するまでの時間(秒/T2-T5)が有意に短く、不注意及び衝動性様行動を示した(図13、図14、図15、図16)。
2)チペピジンヒベンズ酸塩単独の作用
チペピジンヒベンズ酸塩は10及び20mg/kgの用量で幼若SHRの溶媒群と比較して暗室に移動するまでの時間(秒/T2-T5)を有意に延長したが、5mg/kgでは有意な差はなかった(図13)。すなわち、チペピジンヒベンズ酸塩は、10及び 20mg/kgで不注意及び衝動性様行動を抑制し、5mg/kgではその作用を示さず無作用量であると考えられた。
3)チペピジンヒベンズ酸塩とチペピジン代謝阻害剤との併用効果
無作用量のチペピジンヒベンズ酸塩(5mg/kg)とキニジン(80mg/kg)、キニン(100mg/kg)、SKF−525A(50mg/kg)または塩酸テルビナフィン(100mg/kg,2回投与)との併用群は、幼若SHRの溶媒群と比較して暗室へ移動するまでの時間が有意に延長した(図14、図15、図16)。したがって、無作用量のチペピジンヒベンズ酸塩はチペピジン代謝阻害剤との併用により、幼若SHRの不注意及び衝動性行動を抑制し併用効果が認められた。
以上より、チペピジンはヒトにおいて、その大部分がCYP2D6で代謝され、CYP2D6阻害剤との併用によりチペピジン血漿中濃度が上昇すること、及びチペピジン代謝阻害によるチペピジン血漿中濃度上昇により、ADHDに対する効果が認められることが示された。
本発明により、チペピジンとCYP2D6阻害剤を併用投与することで、チペピジンの代謝を阻害することにより、遺伝子多型に起因する血漿中濃度の大きな個体間差を抑制することが可能となる。その結果、CYP2D6遺伝子型に関わらず安定したチペピジン血漿中濃度が維持され、チペピジン又は医薬的に許容されるその塩の安定した治療効果を期待できる。

Claims (4)

  1. チペピジン又は医薬的に許容されるその塩とCYP2D6阻害剤との組み合わせを特徴とする医薬。
  2. 中枢機能障害の治療又は予防用である請求項1に記載の医薬。
  3. 注意欠如・多動性障害、うつ病、双極性障害、統合失調症、不安障害、認知症、強迫性障害、パーキンソン病、排尿障害、疼痛及び神経性疼痛からなる群より選ばれる疾患の治療又は予防用である請求項1又は2に記載の医薬。
  4. CYP2D6阻害剤がキニジン、キニン、テルビナフィン、ベルベリン、シナカルセト、パロキセチン、メトクロプラミド、セレコキシブ、ペルゴリド、プロパフェノン、ミラベグロン、イミプラミン、アセナピン、デュロキセチン、ブプロピオン、デシプラミン、フルオキセチン、キナクリン、アジマリシン、プロトピン、ジヒドロキニジン及びロベリンからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の医薬。
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