図1に本発明の誘導モータの横断面図の例を示す。7相の全節巻き、集中巻き、14スロット、2極の誘導モータであり、1Tはステータ、1Qはロータである。11はA2相ステータ磁極、12はA/2相ステータ磁極である。13はB2相ステータ磁極、14はB/2相ステータ磁極である。15はC2相ステータ磁極、16はC/2相ステータ磁極である。17はD2相ステータ磁極、18はD/2相ステータ磁極である。19はE2相ステータ磁極、1AはE/2相ステータ磁極である。1BはF2相ステータ磁極、1CはF/2相ステータ磁極である。1DはG2相ステータ磁極、1EはG/2相ステータ磁極である。各ステータ磁極の間、即ち、ステータの歯の間は各全節巻き巻線を巻回するスロットを構成している。各歯と各スロットの外形側は、ステータのバックヨークである。なお、本発明モータの各部の名称に関して、図1のモータモデルの番号を2とし、各相の名称の末尾に2を付けている。図88のモータモデルの番号が1である。また、A相の位相と電気角で180°異なる位相をA/相とし、/の文字に反対位相の意味を持たせている。
各スロットに各相巻線を巻回し、巻線のシンボルで示している。電流の方向は巻線シンボルの方向である。1NはAD2相巻線で、そのコイルエンド1Fを通って、1PのAD/2相巻線へ全節巻き構成で巻回している。AD2相巻線1Nの電流Iadの通電方向は電流シンボルの方向で、紙面の表側から裏側へ通電し、AD/2相巻線1Pの電流方向は紙面の裏側から表側へ通電へ通電する。各電流の単位は[A]とする。同様に、コイルエンド1Gで示す巻線は、BE2相巻線である。コイルエンド1Hで示す巻線はCF2相巻線で、通電電流はIcfである。コイルエンド1Jで示す巻線はDG2相巻線で、通電電流はIdgである。コイルエンド1Kで示す巻線はEA2相巻線で、通電電流はIeaである。コイルエンド1Lで示す巻線はFB2相巻線で、通電電流はIfbである。コイルエンド1Mで示す巻線はGC2相巻線で、通電電流はIgcである。各全節巻き巻線の巻き回数はNws/2[turn]である。なお、前記電流Iadなどは、各全節巻き巻線へ通電する電流であり、後に示す励磁電流成分とロータ電流成分の和でもある。
図1のロータ1Qにはその外周部近傍にロータ巻線RWを配置していて、1Sはロータ巻線RWをシンボル的に示している。例えば、A2相ステータ磁極11に対向する1Uのロータ巻線、A/2相ステータ磁極12に対向するロータ巻線1Vであり、図1では28個のロータ巻線の例を示している。28個はステータスロット数の2倍であり、説明が比較的容易な数としている。実際にはステータ電流との干渉を避けるため、トルクリップルを低減するため、素数の積などのを選ぶ。ロータ巻線の数も、製作の容易さを考慮しながら、できるだけ大きな数とする。例えば、素数3と素数5の積の2倍で30個、あるいは、33個等も可能である。また、トルクリップル低減のため、ステータ巻線とロータ巻線との相対関係でスキューを加えることもできる。また、ロータ巻線の断面形状は、1U、1Vの丸印のシンボルで示しているが、実際には、その銅損を低減するため、巻線の断面積が大きくなるように工夫する。
なお、ロータ巻線の構成は、導体がアルミダイカストの構成、銅バーなどを使用したかご形導体の構成、そして、絶縁巻き線の構成などがある。アルミダイカストとかご形は製作性に優れるものの、軟磁性体との電気的絶縁が不完全であり、軟磁性体部を通して不要な電流が流れる問題がある。横流の問題などがある。本発明では、電気角180°のピッチで、巻回数Nwr/2[turn]の全節巻きで両端を短絡した短絡巻線を、基本のロータ巻線構成として説明する。2極のロータの場合、スロット数の1/2の数の全節巻き短絡巻線をロータの円周上に配置した構成となる。後に示す図52の場合、7個の全節巻きロータ巻線の例である。図1の場合、14個の全節巻き線をロータに配置した構成となる。図1ではロータ巻線のコイルエンドは図示していない。なお、本発明の誘導モータのロータ構成として、アルミダイカスト構成、かご形導体構成のロータも使用できる。
1Sなどのロータ巻線RWには、ステータの励磁電流成分Isf[A]で作られる界磁磁束φm[Wb]が鎖交し、すべり周波数Fs[Hz]により、各ロータ巻線の磁束鎖交数Ψ[Wb・turn]が時間的に変化して各ロータ電圧Vr[V]が発生し、各ロータ電流Ir[A]が流れる。ロータをモデル化し、図4のように、各ロータ巻線RWは巻線抵抗Rr[Ω]と漏れインダクタンスLrw[H]があり、ロータ電圧Vrに対して、概略、1次遅れのロータ電流Ir[A]となる。後に説明するが、ロータ電圧Vrの供給制約とロータ電流Irの遅れの特性、及び、ロータ電流の検出が難しく、銅線、アルミニウム線の抵抗率の温度係数が約40%/100℃と大きいことが誘導モータの制御、駆動を複雑にしている。1Rはロータ軸である。
前記の様に、本発明の説明では、図88、図1など多くのモータモデルを使用して説明する。これらのモータモデルの区別を容易にするため、ステータ磁極、巻線などの各記号の末尾、及び、各電流などの各変数の末尾に、モデル番号1、2、3・・・・などを付ける。例えば、図88のモータは前記の様にモデル番号が1で、図1のモータは前記の様にモデル番号が2である。
また、本発明の説明では、図1の誘導モータに示すように、各巻き線の電流I[A]と電圧V[V]、ステータとロータ間のエアギャップ部の磁束密度B[Wb]、磁界の強さ[A/m]などを使用してその制御方法などを説明する。これらの変数が制御状態、成分などにより、多くの形態について記述する必要があり、煩雑になる。ここでは、これらの煩雑な変数名称の付け方、本発明の明細書内のルールについて、説明する。なお、本発明の明細書内では、大文字と小文字の違いは、一部を除いて、異なる文字として認識し、全角文字と半角文字の違いは同一の文字として扱い、区別しない。各図の符号は全角文字で示し、各変数は文字数が多くなることが多いので半角文字で示す。
特に主要な制御対象である電流は種類が多い。ステータ電流かロータ電流かで大別する。各相の電流の内容は、励磁電流成分とロータ電流成分とで大別する。巻線の種類は、全節巻きか仮想の集中巻きかで大別する。座標は固定の実軸座標か回転座標かで大別する。電流の内容、意味は、指令値か検出値か計算値か誤差量かなどである。具体例として、電流IsfbeFXcのsはステータ電流を指し、その他にrはロータ電流であることを指す。fは界磁の励磁電流成分を指し、その他にrはロータ電流の換算値成分であることを指す。beはBE相の全節巻き電流を示しており、B相とE/相の間の変数を示す。前記beがbの場合はB相を示し、例えば、IbはB相の集中巻き巻線のB相電流を示す。また、前記be、あるいは、bの位置がnの場合は、全ての相の各相電流を指す。Fは全節巻き巻線の電流であることを示していて、その他にCの場合は集中巻き巻線の電流であることを示す。Xは固定した座標で例えば図1の断面図通りの実軸座標の値であることを示していて、その他に、Mの場合は界磁磁束に同期した回転座標であることを示す。また、名称末尾のcは指令値を示し、名称末尾のdは検出値であること、名称末尾のaは計算値であること、名称末尾のeは誤差量であることを示す。しかし、記述内容によりこれらの定義の必要性が低い場合は、例えば、図1のAD2相全節巻き電流をIadとし、仮想のA2相集中巻き電流をIaとして、不要な部分を省略して簡素に表現する。
ロータ電流Irについても、全節巻き巻線の電流と集中巻き巻線の電流として扱うことが可能であり、等価変換を行うことができる。しかし、本発明では、全節巻き巻線の電流として扱うので、ステータ電流に比較して、ロータ電流Irの変数名称の表現は簡単である。1次遅れの電圧方程式を解く前の初期値をIr1xとし、制御時間Δtを経過した後の解いた値をIr2xとし、ステータ電流へ換算するために内挿計算等によりロータ位置を変更して計算したロータ電流推測値をIr3yの表現形態とする。
先に、従来の誘導モータの特性について、図88のモータ構成、図5のベクトル図、図6の誘導モータの特性例を示して、その基本動作と誘導モータの問題点について説明した。力率、効率が低下する問題、ロータのスキューが必要でトルクが減少する問題、正弦波電圧に制約されて磁性材料の特性に余裕を持たせる必要があり磁気的な余裕の問題もある。特に、トルクの大きい領域において、力率、効率が低い問題と最大トルクが制約される問題がある。モータの大きさは耐熱性で決められるため、トルクの大きい領域での効率、発熱量で決まる。駆動回路の電流容量は、即ち、パワートランジスタの電流容量は、トルクの大きい領域での力率で決まる。
従来誘導モータのインバータを利用した駆動は、可変速駆動ができ、高速回転領域での定出力制御もでき、多くの用途で活用されている。また、いわゆるベクトル制御では、図5で前記したように、界磁励磁電流成分Isfとロータ電流のステータ側成分であるトルク電流成分Isrに分けて制御し、その合成電流Isを制御する。両電流成分は正弦波分布であることを前提に制御しているので、正弦波交流理論により、ベクトル加算が可能である。両電流成分の算術的な分離および合成が容易にできる特徴が有る。また、実際のモータ制御において、合成電流Isに電流振幅、電流位相の制御誤差が発生した場合では、IsfとIsrの比率が多少変わっただけのように誘導モータは動作し、その場合トルク変動が小さいので、制御誤差に対して発生トルクは相当に不感であり、その点で正弦波電流制御は比較的安定に制御できる。これは、正弦波電流制御の大きな特徴の一つである。
しかし、従来の誘導モータのインバータ制御では、3相正弦波交流の特性を踏襲して制御しており、前記の誘導モータの問題点もそのまま残っている。電気自動車などのモータ用途では、急坂の登坂運転、加減速などでは大きなトルクが必要であり、一方で、モータと駆動回路の両方に小型化、軽量化、低コスト化が求められる。前記の図6のモータ特性において、トルク特性62は、破線で示す66へ改善、最大トルクの増大が求められる。効率ηの65の改善も求められる。なお、63の力率cos(θpf)は、後に示す非正弦波であれば、力率の意味が変わる。
本発明では、正弦波交流、正弦波分布ではなく、非正弦波交流、自在な分布を可能とするモータ構成、制御技術、駆動回路、各種検出技術を提案する。構成と作用の詳細は、順次、後に述べる。本発明の目的は、トルクが最大値となる近傍での効率を改善すること、モータの利用率を改善すること、駆動回路の利用率を改善することである。また、最大トルクを増大することである。本発明の効果は、誘導モータの小型化、軽量化、低コスト化であり、駆動回路の小型化、軽量化、低コスト化である。
なお、前記の自在な分布とは、円周方向に台形波形状の磁束密度分布、電流分布などであるが、回転数、トルクなどの運転状態に応じて分布形状を適正化しながら制御する。また、自在な分布形状の一つは正弦波分布であり、高速回転運転、低騒音運転などでは正弦波交流の利点が有り、従来制御技術と混在させて制御することができる。また、ロータ電流Irの位相遅れを補い、補償する制御も提案する。
本発明では、非正弦波交流、自在な分布を可能とするために、次に列記するいくつかの技術が必要となる。目標分布関数を設定し、ステータ磁極即ち歯で分割される離散的な分布を、多相の電流で制御する。目標分布関数は、回転数とトルク指令に応じて、適正な目標分布関数へ修正して制御する。各多相の電流は、相対的な関係は無く、自在な値を取り、あらゆる、離散的な値をとりえる。ステータの巻線と電流は、全節巻き巻線と全節の電流だが、仮想の集中巻き巻線と集中巻き電流を使用して表現する。これは、界磁磁束を各ステータ磁極ごとに自在に表現するためには集中巻き巻線の方が容易に表現できるためである。全節巻きと集中巻きとの電流の等価変換、電圧の等価変換を行う。また、現実の固定した各ステータ磁極を示す実軸座標と、界磁磁束φmに同期した回転座標をMN座標と称し、使用する。いずれも、自在な分布を表現するため、独立した多相の変数を含む座標とする。そして、実軸座標とMN座標は必要に応じて座標変換を行う。各ロータ電流は、それぞれ、電圧方程式を用いて、それぞれの電流の遅れを含めて求める。また、各ロータ電流の遅れを電圧方程式に順じて補い、補償する制御も付加する。電圧のフィードフォワード制御も付加する。必要に応じて、電流検出、磁束検出、位置検出を行う。なお、本発明の誘導モータの制御において、多くの等価的な制御形態を実現できるので、代表例について説明するが、制御各部の組み替えが可能であり、何れも本発明に含むものとする。後に、これら技術を順次説明する。
図2は誘導モータの速度制御の概略を示すもので、本発明のブロックダイアグラムの例である。ここでは、本発明の個々技術を説明していくために、図2の全体の概略だけを説明する。図2の各ブロックの動作内容詳細については、後に順次説明する。速度指令の角周波数指令ωrc[rad/sec]に対して、検出値であるロータ角周波数ωr[rad/sec]を加算器29でフィードバック制御して、2Aの比例積分補償器を経てトルク指令Tcを出力し、21の誘導モータの速度を制御する。誘導モータ21の電流を界磁励磁電流成分と、トルク成分であるロータ電流成分に分けて制御し、後方で両電流の指令成分を合成し、フィードフォワード成分を加算し、24のPWM制御器でパルス幅変調し、直流電圧源とパワートランジスタなどで構成する25の駆動回路で誘導モータ21へ電圧、電流を供給する。各変数の信号伝達方向を示す矢印線で、2重線の矢印はその変数が多相の変数であることを示す。例えば、7相のモータの場合、2重線の矢印で示す電流信号は7相分の電流信号を含んでいて、各相の電流を、それぞれに、並列に制御することを示している。図42のように、それぞれに並列して制御する状態を示している。
少し具体的な制御の例は、各相の界磁励磁電流指令成分IsfnCMcと界磁励磁電流検出成分IsfnCMdとを、フィードバック制御により制御する。これらの信号は仮想の集中巻き巻線の電流値であって、回転座標であるMN座標上の値である。また、各相のロータ電流指令成分IsrnFMcとロータ電流検出成分IsrnFMdとを、フィードバック制御により制御する。これらの信号は全節巻き巻線の電流値であって、回転座標であるMN座標上の値である。
ここで、誘導モータの電流について、前記のように、各電流成分に分類し、分けて制御する例を説明したが、分け方は様々な変形が可能であり、分けない方法もある。また、各変数は各部分において、全節巻き巻線の値と集中巻き巻線の値とのどちらの値で制御しても等価で有る。また、固定座標である実軸座標の値と回転座標であるMN座標の値とのどちらの値で制御しても等価である。それらは、後に示す方法により相互に変換できる。従って、図2のブロックダイアグラムを多くの形態に、等価的に変形できる。
図3は、図1の全節巻き巻線を仮想の集中巻き巻線へ変換したモータの横断面図である。全節巻き巻線に流れる全節巻き電流を、仮想の集中巻巻き線へ集中巻き電流を、電磁気的に等価となるように通電する。集中巻き巻線31と32はA2相集中巻き巻線で、通常、逆方向に直列に接続し、A2相電流Iaを通電する。各電流の方向は、図3の巻線シンボルの方向である。これらの巻回数はNws/2で、31と32の直列巻線の巻回数の和はNws[turn]である。巻線32の巻方向は巻線31の逆向きであり、前記A2相電流Iaは図3のA2相ステータ磁極11とA/2相ステータ磁極12の間に、矢印付きの2重線で示すA2相磁束成分φa[Wb]を生成する。そして、A2相の集中巻き巻線31と32の鎖交磁束はφaで、磁束鎖交数はNws×φa[turn・Wb]である。
また、前記A2相電流Iaは、他の相の磁束成分を励磁することはなく、他の相の巻線との電磁気的な相互作用はなく、各相の巻線間の相互インダクタンスは単純モデル的には0である。そして、各相電流と各ステータ磁極を通過する磁束との関係が単純であり、誘導モータの磁束、磁束密度を制御、あるいは、表現する上で、仮想の集中巻き巻線とその集中巻き電流は都合が良い。
同様に、図3のB2相集中巻き巻線33と34には、B2相集中巻き電流Ibを通電し、B2相ステータ磁極13とB/2相ステータ磁極14の間にB2相磁束成分φbを生成する。C2相集中巻き巻線35と36には、C2相集中巻き電流Icを通電し、C2相ステータ磁極15とC/2相ステータ磁極16の間にC2相磁束成分φcを生成する。D2相集中巻き巻線37と38には、D2相集中巻き電流Idを通電し、D2相ステータ磁極17とD/2相ステータ磁極18の間にD2相磁束成分φdを生成する。E2相集中巻き巻線39と3Aには、E2相集中巻き電流Ieを通電し、E2相ステータ磁極19とE/2相ステータ磁極1Aの間にE2相磁束成分φeを生成する。F2相集中巻き巻線3Bと3Cには、F2相集中巻き電流Ifを通電し、F2相ステータ磁極1BとF/2相ステータ磁極1Cの間にF2相磁束成分φfを生成する。G2相集中巻き巻線3Dと3Eには、G2相集中巻き電流Igを通電し、G2相ステータ磁極1DとG/2相ステータ磁極1Eの間にG2相磁束成分φgを生成する。
一方、前記図1の誘導モータにおける、各全節巻き巻線の界磁励磁電流成分と鎖交磁束の関係は、前記図3の誘導モータの仮想の各集中巻き巻線に比べると、複雑である。なお、現在の市場では、従来の3相交流の全節巻き巻線を使用した正弦波電流制御が広く採用されている。全節巻き巻線は、巻線ピッチが電気角で180°なので、短節係数が1.0と大きくスロット内銅損が小さいという長所があり、dq軸の回転座標を用いた正弦波波形のいわゆるベクトル制御との相性も良い。しかし、前記図1の全節巻きの界磁励磁電流成分の起磁力の作用とその範囲、全節巻き巻線に鎖交する磁束について確認する。例えば、前記図1のAD2相巻線1Nの電流Iadは、全てのステータ磁極に起磁力が作用する。そして、AD2相巻線1Nへ全ての相の磁束成分が鎖交するので、巻線の電圧が複雑である。
但し、従来の正弦波交流理論に従って制御する場合においては、各電流の加減算がベクトルの加減算で比較的容易に求まり、起磁力、磁束などの円周方向分布が正弦波分布となるものと仮定して計算することにより、前記の複雑さの問題を解消できる。また、従来の誘導モータ、及び、図1の誘導モータのトルク電流成分であるロータ電流成分については、各相の界磁磁束の値が分かるのであれば、トルクはロータ電流と界磁磁束の磁束密度の積に比例して求まり、全節巻き電流であることにより計算が難しくはならない。トルク計算は、前記短節巻きより全節巻き電流の方が容易である。
本発明では、円周方向の磁束分布を台形波形状など、モータの運転条件に応じてより適正な分布形状として制御する。従って、各ステータ磁極の界磁励磁電流成分を各相ごとに個別に制御するためには、前記の仮想の集中巻き巻線の集中巻き電流での制御が、解り易く、フィードバック制御も容易なので、好ましい。また、前記の様に、トルクについては、全節巻き電流の方が制御が容易である。図2に示すブロックダイアグラムの例は、その詳細を後に示す様に、界磁電流成分を仮想の集中巻き電流で制御し、トルク電流成分を全節巻き電流で制御し、最終的には全節巻き電流へ合計して、誘導モータの全節巻き巻線へ通電する例である。但し、制御の各部において、全節巻きと集中巻とを適宜選択することができるので、制御の難易さはあるものの、どちらでも可能である。なお、この全節巻き電流と仮想の集中巻き電流との相互変換方法については後述する。そして、全節巻き電圧と仮想の集中巻き電圧との相互変換方法についても後述する。例えば、大半を全節巻き巻線の電流、電圧で指令、検出、計算、制御することも可能である。
また、エアギャップ部の円周方向の磁束分布を台形波状などに自在に制御するためには、誘導モータの相数が大きい方が自由度が増し好ましい。エアギャップ部の磁束は、各相ステータ磁極の円周方向幅に磁気的に規制され、離散化される。全節巻き巻線で、かつ、分布巻きではないという意味の集中巻きの場合、(360°/(相数×2))の角度が円周方向の分解能となる。なお、相数の数え方には、正相と逆相の解釈で紛らわしい点があるので、後に、本発明での考え方を図81の各相ベクトルに示し説明する。
2相の場合、円周方向分解能は電気角で90°と大きく、180°の幅に台形波形状の分布を描くことは困難である。3相の場合、ステータ磁極の数は6個で、円周方向分解能は電気角で60°となり、180°の幅に台形波形状の分布を描くことは不可能ではないが、限界の分解能である。理想とする分布形状に対する誤差成分が多くなる。4相の場合、ステータ磁極の数は8個で、円周方向分解能は電気角で45°となり、180°幅に4個の要素を設定できる。一方、台形波形状を大雑把に増加部、一定部、減少部を4個の要素で描くなど、理想とする分布形状に対する誤差成分が急激に減少する。さらに、相数が多いほどより緻密に制御できるが、特に、5相、7相、11相などの素数の相は、トルクリップルなどの原因となる高調波成分を相殺する効果が大きい。即ち、磁束、電圧の不要な高調波成分を全周で相殺する効果があり、大変好ましい。但し、ステータ磁極の数は10個以上に多くなる。
実施例には、図1の誘導モータ、図2のブロックダイアグラムでは、7相の例を示している。5相については、図43と図44等と各式で説明する。なお、各相の磁束分布を自在に制御するために、制御が複雑化する。相数が多くなると制御における計算量が増加する。しかし、近年のマイクロプロセッサー、メモリーなどの高速化、高集積化などにより、制御時間的な問題、制御回路の大きさの問題、コスト的問題などは解消されてきている。
次に、全節巻き巻線の全節巻き電流と、集中巻き巻線の集中巻き電流との関係、及び、相互変換式について説明する。図1、及び、図3に示す誘導モータは、構造がモータ中心に対して点対称で、点対称の位置にある巻線の通電電流の値はお互いに負の値である。そして、図示するように、円周方向に均等配置の構成である。この様な規則性のあるモータ構成では、各電流、各電圧の値を比較的簡素な関係式で示すことができる。
図1の前記全節巻き巻線の各相電流Iad、Ibe、Icf、Idg、Iea、Ifb、Igcと、図3の前記仮想の集中巻き巻線の各相電流Ia、Ib、Ic、Id、Ie、If、Igとの関係を、各スロット内の電流の関係から次式で表せる。集中巻き電流から全節巻き電流への変換式である。
Iad=Ia+Id (1)
Ibe=Ib+Ie (2)
Icf=Ic+If (3)
Idg=Id+Ig (4)
Iea=Ie+Ia (5)
Ifb=If+Ib (6)
Igc=Ig+Ic (7)
例えば、図3のA2相巻線31と32へ集中巻き電流であるA2相電流Iaだけを通電した状態は、図1の全節巻き電流である(1)式のAD2相電流IadへIaを通電し、(5)式のEA2相電流IeaへIaを通電した状態と電磁気的に等価である。なお、両状態において、コイルエンドの形状が異なるが、原理的にコイルエンド部の電流は周辺空間部の磁気抵抗が大きいのでモータ内動作への影響が極めて小さく、無視する。また、各巻線の巻回数は、何れもNws/2である。これらの電流変換を行う手段を全節巻き変換器IFPCと呼ぶ。
次に、図3の前記仮想の集中巻き巻線の各相電流Ia、Ib、Ic、Id、Ie、If、Igを、図1の前記全節巻き巻線の各相電流Iad、Ibe、Icf、Idg、Iea、Ifb、Igcで次式に示す。例えば、図3のA2相ステータ磁極11とA/2相ステータ磁極12との間に生成するA2相磁束φa[Wb]を生成するA2相起磁力Qa[A・turn]が釣り合うように考える。正および負の極性は、起磁力の作用する方向を図1と図3との巻線配置関係から選択できる。図1の巻線近傍に、見易いように括弧付きで電流を示している。
Qa=(Iad−Ibe−Icf−Idg+Iea+Ifb+Igc)・Nws/2=Ia・Nws (8)
Qb=(Iad+Ibe−Icf−Idg−Iea+Ifb+Igc)・Nws/2=Ib・Nws (9)
Qc=(Iad+Ibe+Icf−Idg−Iea−Ifb+Igc)・Nws/2=Ic・Nws (10)
Qd=(Iad+Ibe+Icf+Idg−Iea−Ifb−Igc)・Nws/2=Id・Nws (11)
Qe=(−Iad+Ibe+Icf+Idg+Iea−Ifb−Igc)・Nws/2=Ie・Nws (12)
Qf=(−Iad−Ibe+Icf+Idg+Iea+Ifb−Igc)・Nws/2=If・Nws (13)
Qg=(−Iad−Ibe−Icf+Idg+Iea+Ifb+Igc)・Nws/2=Ig・Nws (14)
前記の様に、(8)式で、図3のA2相磁束φa[Wb]は、仮想の集中巻き巻線31と32に通電するA2相電流Iaに励磁される。31と32は直列に接続していて、合計巻回数はNwsであり、A2相起磁力QaはIa・Nws[A・turn]である。また、他の集中巻き巻線の電流は、A2相磁束φaの方向に起磁力を発生しない。なお、アンペアの周回積分の法則に従っているとも言え、反してはいない。
また、前記A2相起磁力Qa[A・turn]について、補足して説明する必要がある。(1)式(14)式では、ステータ巻線の電流について説明したが、誘導モータにはロータ電流も通電する。従って、誘導モータ内部で発生する各部の磁束は、全ての電流の起磁力を合計した各部の起磁力[A・turn]が各部に磁束が生成する。さらに具体的には、誘導モータのロータ電流Irとステータ側のロータ電流成分Isrとは、電流の大きさ[A・turn]が同じで電流の向きが逆になる様に制御するので、IrとIsrとの両電流の合計起磁力[A・turn]は0となるように制御し、ステータ側の励磁電流成分Isfが界磁磁束φmを励磁することになる。例えば、前記A2相起磁力Qa[A・turn]に比例して前記A2相磁束φaが生成されるわけではない。また、前記(1)式(14)式は、全節巻き電流が発生する起磁力と、集中巻き電流が発生する起磁力とが、電磁気的に等しくなるように、両電流を等価変換しているだけであり、界磁磁束φmの大きさなどには関係しない。
次に、図1の全節巻き巻線の場合は、各巻線の電流がA2相起磁力Qa[A・turn]に関わる。図3と照らし合わせて、この(8)式について説明する。AD2相巻線1FのAD2相電流Iadは、A2/相ステータ磁極12からA2相ステータ磁極11へ向かうA2相磁束φa[Wb]の磁気回路へ起磁力Iad・Nws/2[A・turn]を与える。AD2相巻線1Fの巻回数は、Nws/2[turn]である。同様に、BE2相巻線1GのBE2相電流Ibeは、A/2相ステータ磁極12からA2相ステータ磁極11へ向かうA2相磁束φa[Wb]の磁気回路へ起磁力Ibe・Nws/2[A・turn]を与えるが、その起磁力方向は反対方向なので正負符号を負とする。同様に、CF2相巻線1HのCF2相電流Icfは、その起磁力方向が反対方向なので正負符号を負とする。DG2相巻線1JのDG2相電流Idgは、その起磁力方向が反対方向なので正負符号を負とする。EA2相巻線1KのEA2相電流Ieaは、その起磁力方向が同一方向なので正負符号を正とする。FB2相巻線1LのFB2相電流Ifbは、その起磁力方向が同一方向なので正負符号を正とする。GC2相巻線1MのGC2相電流Igcは、その起磁力方向が同一方向なので正負符号を正とする。以上の様に、(8)式は全ての全節巻き電流の起磁力を足し合わせた値が、図3のA2相の仮想の集中巻き巻線31と32に通電するA2相電流Iaの起磁力と等しくなる。
B2相以降の各相の(9)式から(14)式についても、同様に各全節巻き電流の起磁力方向で正負符号を決定し、電磁気的に等価な関係を求めることができる。そして、(8)式から(14)式を書き換えると、次式の(15)式から(21)式となる。全節巻き電流から仮想の集中巻き電流への変換式である。
Ia=(Iad−Ibe−Icf−Idg+Iea+Ifb+Igc)/2 (15)
Ib=(Iad+Ibe−Icf−Idg−Iea+Ifb+Igc)/2 (16)
Ic=(Iad+Ibe+Icf−Idg−Iea−Ifb+Igc)/2 (17)
Id=(Iad+Ibe+Icf+Idg−Iea−Ifb−Igc)/2 (18)
Ie=(−Iad+Ibe+Icf+Idg+Iea−Ifb−Igc)/2 (19)
If=(−Iad−Ibe+Icf+Idg+Iea+Ifb−Igc)/2 (20)
Ig=(−Iad−Ibe−Icf+Idg+Iea+Ifb+Igc)/2 (21)
なお、これらの関係式は任意の電流値について成り立ち、勿論正弦波であっても成り立つ。これらの電流変換を行う手段を集中巻き変換器IRFPCと呼ぶ。
次に、図1の全節巻き巻線の電圧と、図3の仮想の集中巻き巻線の電圧との関係、及び、それらの相互変換式について説明する。図1の全節巻き巻線の電圧名称は、コイルエンド1FのAD2相巻線の電圧をVad、コイルエンド1GのBE2相巻線の電圧をVbe、コイルエンド1HのCF2相巻線の電圧をVcf、コイルエンド1JのDG2相巻線の電圧をVdg、
コイルエンド1KのEA2相巻線の電圧をVea、コイルエンド1LのFB2相巻線の電圧をVfb、コイルエンド1MのGC2相巻線の電圧をVgcとする。各巻線の巻回数はNws/2[turn]である。電圧の方向は、図1の巻線シンボルの方向である。
図3の仮想の集中巻き巻線の電圧は、A2相巻線の31と32とを、電流方向、電圧方向が同一方向となるように、逆方向に直列に接続し、その電圧をVaとする。31と32との巻回数の合計はNws[turn]である。電圧の方向は、図3の巻線シンボルの方向である。同様に、B2相巻線の33と34の電圧をVbとし、C2相巻線の35と36の電圧をVcとし、D2相巻線の37と38の電圧をVdとし、E2相巻線の39と3Aの電圧をVeとし、F2相巻線の3Bと3Cの電圧をVfとし、G2相巻線の3Dと3Eの電圧をVgとする。
図1の全節巻き巻線の電圧は、ファラデーの電磁誘導の法則から、巻回数Nws/2と鎖交磁束の時間変化率の積として求められるので、図3の各磁束成分と照らし合わせて、次式となる。
Vad=Nws/2・d(φa+φb+φc+φd−φe−φf−φg)/dt (22)
Vbe=Nws/2・d(−φa+φb+φc+φd+φe−φf−φg)/dt (23)
Vcf=Nws/2・d(−φa−φb+φc+φd+φe+φf−φg)/dt (24)
Vdg=Nws/2・d(−φa−φb−φc+φd+φe+φf+φg)/dt (25)
Vea=Nws/2・d(φa−φb−φc−φd+φe+φf+φg)/dt (26)
Vfb=Nws/2・d(φa+φb−φc−φd−φe+φf+φg)/dt (27)
Vgc=Nws/2・d(φa+φb+φc−φd−φe−φf+φg)/dt (28)
図3の仮想の集中巻き巻線の各電圧は、巻回数Nwsと鎖交磁束の時間変化率の積として求められ、次式となる。そして、(22)式から(28)式を代入して、全節巻き電圧から仮想の集中巻き電圧への変換式を求めることができる。
Va=Nws・dφa/dt=Vad+Vea (29)
Vb=Nws・dφb/dt=Vbe+Vfb (30)
Vc=Nws・dφc/dt=Vcf+Vgc (31)
Vd=Nws・dφd/dt=Vdg+Vad (32)
Ve=Nws・dφe/dt=Vea+Vbe (33)
Vf=Nws・dφf/dt=Vfb+Vcf (34)
Vg=Nws・dφg/dt=Vgc+Vdg (35)
また、(22)式から(28)式は、仮想の集中巻き電圧へ置き換えて、仮想の集中巻き電圧から全節巻き電圧への変換式として求めることができる。
Vad=(Va+Vb+Vc+Vd−Ve−Vf−Vg)/2 (36)
Vbe=(−Va+Vb+Vc+Vd+Ve−Vf−Vg)/2 (37)
Vcf=(−Va−Vb+Vc+Vd+Ve+Vf−Vg)/2 (38)
Vdg=(−Va−Vb−Vc+Vd+Ve+Vf+Vg)/2 (39)
Vea=(Va−Vb−Vc−Vd+Ve+Vf+Vg)/2 (40)
Vfb=(Va+Vb−Vc−Vd−Ve+Vf+Vg)/2 (41)
Vgc=(Va+Vb+Vc−Vd−Ve−Vf+Vg)/2 (42)
前記の様に、全節巻き巻線と仮想の集中巻き巻線との間で、相互に、電流と電圧とを変換できるようにし、図2のブロックダイアグラムに示す様な誘導モータの制御を、より制御の容易な形態を選択して制御することができる。なお、本発明では、誘導モータのステータの界磁励磁電流成分Isfと、ステータのロータ電流成分Isrとに分けて制御し、それぞれについて、全節巻き電流と仮想の集中巻き電流とを選択して制御することができる。その他にロータ電流Irがあり、ロータ電流Irは全節巻き電流として扱うが、ロータに仮想の集中巻き巻線を考え、集中巻き電流として扱い、制御することも可能である。
次に、図1などの誘導モータに使用する軟磁性体の磁気特性について説明する。ステータロータの歯およびバックヨークを構成する電磁鋼板の励磁特性である。図7にその磁気特性の例を、横軸は磁界の強さH[A/m]、縦軸は磁束密度B[T]として、71に示す。ケイ素鋼板の場合、通常、磁束密度Bが2.0[T]に近づくにつれて比透磁率μjが小さくなる特性である。特性71の例では、動作点73の磁束密度が1.5[T]、磁界の強さH1が800[A/m]、比透磁率μjが1500の、電磁鋼板の動作点の例である。真空透磁率μ0は4π/10,000,000である。
なお、図1の2極で1極対のステータ形状では、各相の磁束が通過するバックヨークの磁路長はステータ外周の半周になり、長くなるのでその磁気抵抗も大きくなる。図1では説明のし易さから2極、1極対の構成を示しているが、50[kW]などの実用化モータ設計では8極、4極対等に多極化することが想定され、バックヨーク長は1/4に短縮する。今、その想定で、A2相ステータ磁極11とA/2相ステータ磁極12を通過するA2相磁束φ2の一周の磁路長Ltbが0.2[m]と仮定する。また、エアギャップ長Lgapが0.0005[m]と仮定して、図7の動作点73の1.5[T]に励磁する起磁力[A・turn]について考えてみる。電磁鋼板部の起磁力Qtb、エアギャップ部の起磁力Qgapとすると次のようになる。
Qtb=H1×Ltb=800×0.2=160 [A・turn] (43)
Qgap=B/μ0×Lgap×2=1.5/(4π/10,000,000)×0.0005×2
=1193[A・turn] (44)
この動作点の例では、電磁鋼板部の起磁力Qtbが160[A・turn]で、エアギャップ部の起磁力Qgapの1193[A・turn]の方が大きく、支配的となる。実用化モータでは、多極化して磁路長を短縮し、バックヨーク部の幅に余裕を持たせることにより、概略計算では、バックヨーク部の磁気抵抗をエアギャップ部の磁気抵抗に比較して相対的に無視できる程度に小さくできる。
本発明の説明では、図7に示す様な非線形で、実際の磁気特性を前提とする。しかし、その非線形性がさほど重要でない部分の説明では、図7に破線で示す簡略化した直線的な磁気特性74であるかのように説明する。また、(43)、(44)式で示したように、エアギャップ部の磁気抵抗が支配的であるかのように説明する。モータの励磁電流成分とエアギャップ部の磁束密度が比例するような、簡素化したモータモデルで考え、実制御では後に補正すると考えることができる場合が少なくない。なお、図7の左上の76の領域の面積は、単位体積当たりの磁気エネルギー[J]を示しており、無効電力として作用し、制御時には直流電源電圧Vpwと誘導モータの間で界磁励磁に同期して行き来する。図7の右下の75の領域の面積は、コエネルギー、あるいは、随伴エネルギーと言われる。
次に、エアギャップ部磁束密度の円周方向の目標分布関数Dist1と、ステータ磁極である歯の歯幅に制約されて離散値化された離散分布関数Dist2について説明する。本発明で使用する目標分布関数Dist1とは、制御で目標とする理想的な円周方向の分布関数である。磁束密度の目標分布関数Dist1は、誘導モータの断面図、例えば、図1において、紙面の右方向を原点として、界磁磁束φmの中心の円周方向角度はθscs=0の方向と定義する。離散分布関数Dist2とは、ステータの歯幅に制約された、円周方向に離散的な分布関数である。また、各歯の近傍のエアギャップ部のラジアル方向磁束密度を示すもので、各スロットの電流により原理的に実現可能であって、制御可能な磁束分布である。離散分布関数Dist2の各部の磁束密度の値は、その歯の平均磁束密度、あるいは、その歯の中央部のステータ回転角位置θscsの目標分布関数Dist1の値など、その歯の代表する磁束密度の値である。
本発明では、目標分布関数Dist1に近くなるように、回転位置、回転速度などの制御状態により、適正な離散分布関数Dist2の値をその都度計算し、変換する。この変換により、現実に、各相の電流、電圧が制御可能となる。なお、本発明の特徴の一つは、前記の様に、誘導モータの円周方向の磁束密度分布を、自在な多相制御により、より適正な分布形状として制御することである。その結果、誘導モータの高効率化、最大トルクの増大を実現する。また、自在な磁束密度の分布形状を実現するためには、誘導モータがより多相である方が好ましく、その観点で図1に7相の誘導モータの例を示している。
本発明の目的の一つは、誘導モータとその駆動回路の小型化と低コスト化である。図8の81、82、83、84に、各歯の近傍のエアギャップ部の磁束密度分布を示す、目標分布関数Dist1の例を示す。81、82、83は何れも台形波形状だが、変化部の勾配が異なる。84は正弦波形状である。前記台形波形状の変化部を急勾配にすると矩形波に近づく。ここで、誘導モータの前記磁束密度分布が矩形波分布で、ロータ電流分布も同期して矩形波分布であると仮定した場合について、その時の発生トルク、ロータ銅損の特性を考察する。単純に振幅が同じであると仮定して、正弦波状の磁束密度分布で正弦波状のロータ電流分布である場合に比較すると、矩形波状の場合はトルクが2倍になり、ロータ銅損が2倍になる。比較のため、正弦波状の電流を2倍にしてトルクを2倍にすると、そのロータ銅損は4倍になる。この相対比較の結果、磁束密度と電流が同一の振幅であれば、矩形波は正弦波に比較してトルクが2倍になる。トルクが同じ場合の銅損比較では、矩形波の方が相対的には1/2の銅損となる。従って、この条件での比較の結果では、矩形波駆動は、誘導モータを高効率化でき、駆動回路の電流容量を1/2にできる。そして、誘導モータと駆動回路の低コスト化、小型化、軽量化が可能となる。なお、誘導モータを矩形波に近い電流で駆動することは、ごく低速回転でしか実現できず、その他にも種々の駆動上の制約がある。以下、いくつかの駆動条件の例について説明する。また、後に、図41にモータ出力特性と用途の例を示す。
前記目標分布関数Dist1の具体的な形状例は、図8の82に示す様な台形波形状である。
82は、例えば、図1の誘導モータのエアギャップ部のラジアル方向磁束密度分布[T]を示していて、その縦軸の最大磁束密度を1.0[T]としている。図8の横軸は円周方向の角度θscsで、−180°から−90°、0°、90°、180°と全周360°を示している。図1の紙面において、θscs=−180°はエアギャップ部の左端で、−90°は紙面の下端で、0°は紙面の右端、90°は紙面の上端、180°は左端である。図8の84は、磁束密度が正弦波分布である場合の目標分布関数Dist1の特性例である。なお、図8の最大磁束密度を1.0[T]とする場合、スロットスペースが必要なので、歯の最大磁束密度は、電磁鋼板の最大磁束密度である2.0[T]に近づく。
図8の目標分布関数Dist1の台形波形状は、誘導モータが低速回転領域である場合には、界磁磁束φmを励磁する励磁電流の増減に時間的な余裕が有るので、図8の81のように、勾配のきつい台形形状とできる。逆に、高速回転になると、図8の83のように、勾配のゆるやかな台形形状とする必要がある。そして、さらに高速回転になると、図8の84のように、正弦波形状とする。また、界磁弱めを行うような高速回転での定出力制御などの領域では、磁束密度の振幅を減少して制御する。この時、界磁磁束φmを励磁する励磁電流Isfの周波数が高くなり、振幅が小さくなる。
これらの図8の目標分布関数Dist1は、円周方向に連続的に変化する部分があり、通常の誘導モータで、この様な磁束の分布形状を実現することは困難である。例えば、理想的には、歯幅の極端に小さくし、相数を大きくして多くの各スロットへそれぞれの相の巻線を巻回する必要がある。そして、多くの相の電流を作成し、通電しなければならならず、駆動回路が複雑化する問題がある。従って、現実には限られた相数のモータと駆動回路となるので、離散値化した離散分布関数Dist2を制御条件、状態に応じて指令値として作成し、それに応じて制御する。目標分布関数Dist1は、離散分布関数Dist2の基準であり、離散値化する前の元関数である。
次に、離散分布関数Dist2の例を示し、説明する。図9は、図8の84に示す正弦波状の目標分布関数Dist1に対し、図1の14個のステータ磁極である各歯のエアギャップ部のラジアル方向磁束密度の例を示している。図9の縦軸、横軸は図8と同じである。各歯ごとに通過する磁束が離散的なり、各歯ごとにその歯幅内では磁束密度が均一化している例である。各スロットの7相の正弦波状の励磁電流成分により、この様な階段状の磁束分布となる。図9のステータ回転角位置θscsが0°から360°/14=25.7°までは、図1のA2相ステータ磁極11の磁束密度Baである。同様に、θscsが51.4°から77.1°まではB2相ステータ磁極13の磁束密度Bb、θscsが102.9°から128.6°まではC2相ステータ磁極15の磁束密度Bc、θscsが154.3°から167.1°まではD2相ステータ磁極17の磁束密度Bd、θscsが205.7°から218.6°まではE2相ステータ磁極19の磁束密度Be、θscsが257.1°から270.0°まではF2相ステータ磁極1Bの磁束密度Bf、θscsが308.6°から321.4°まではG2相ステータ磁極1Dの磁束密度Bgである。そして、前記の様に、180°先で反対側のステータ磁極の磁束密度は、同じ大きさで負の値になる。例えば、A/2相ステータ磁極12の磁束密度は−Baとなる。
なお、従来の3相の正弦波交流で誘導モータを制御する場合は、歯の数が電気角360°の間に6個であり、図9に比較して階段状の分布が2倍以上に粗くなる。しかし、ある程度高速で回転する場合は、界磁の回転と共に各歯の磁束密度が変化して、平均値的に作用するので正弦波分布に近い効果が得られ、正弦波電圧、正弦波電流の制御として実用されている。そして、図1のモータで、図9の階段状の磁束密度分布の制御においても、回転時には同様の効果が得られ、回転時には平均値的に作用し、正弦波電圧、正弦波電流に近い動作となる。
次に、図9の磁束分布と、図1の通電状態との関係の例について説明する。ここで、ロータを回転しないように固定して、界磁磁束のすべり周波数Fsを5[Hz]とし、すべり角周波数ωs=31.416[rad/sec]と仮定する。電磁鋼板部の磁気抵抗は0であると仮定してモータモデルの単純化をはかり、エアギャップ長Lgapは0.5[mm]、スロット開口部の円周方向開口幅は0[mm]であり、エアギャップ部の界磁磁束成分φmはラジアル方向へ通過すると仮定する。図1の14個のステータ磁極を励磁する7個の全節巻き巻線へ、次式の7相の正弦波状の励磁電流成分を通電する。(1)式から(7)式の全節巻き電流に相当する。なお、電流の変数名称は、その素性が認識できるように、前記の符号を追加する。
例えば、IsfadFXは、sfはステータ電流の励磁電流成分を表し、adはAD相を表し、Fは全節巻きを表し、Xは後に示す実軸座標の値であることを表す。また、AD2相の2はモータモデルを示す記号としていて、各変数名称にはモータモデル記号を含めないこととする。
IsfadFX=Io・sin(ωt) (45)
IsfbeFX=Io・sin(ωt−360°/7) (46)
IsfcfFX=Io・sin(ωt−2×360°/7) (47)
IsfdgFX=Io・sin(ωt−3×360°/7) (48)
IsfeaFX=Io・sin(ωt−4×360°/7) (49)
IsffbFX=Io・sin(ωt−5×360°/7) (50)
IsfgcFX=Io・sin(ωt−6×360°/7) (51)
これらの各電流は、Ioを1.0とすると、図10の各電流波形となる。横軸は時間t[sec]である。ここで、各全節巻き巻線の巻回数はNws/2である。
また、(45)式から(51)式を、(15)式から(21)式の集中巻への変換式を用いて仮想の集中巻き電流へ変換すると次式となる。前記の様に、電流の各変数名称において、例えば、IsfaCXのaCは、Cで集中巻きを、aでA2相を表している。これらの各電流波形は図11となる。なお、全節巻き電流の起磁力は、全てのステータ磁極へ印加するので、仮想の集中巻き巻線の励磁電流成分の振幅値は、相対的に2.24698倍になる。全節巻きのAD2相電流IsfadFXと集中巻きのA2相電流IsfaCXとは位相が(90°−360°/28)=(3×360°/14)=77.14286°異なる。各集中巻き巻線の巻回数はNws/2である。
IsfaCX=2.247×Io・sin(ωt+3×360°/14) (52)
IsfbCX=2.247×Io・sin(ωt+360°/14) (53)
IsfcCX=2.247×Io・sin(ωt−360°/14) (54)
IsfdCX=2.247×Io・sin(ωt−3×360°/14) (55)
IsfeCX=2.247×Io・sin(ωt−5×360°/14) (56)
IsffCX=2.247×Io・sin(ωt−7×360°/14) (57)
IsfgCX=2.247×Io・sin(ωt−9×360°/14) (58)
図9の84の特性のθscs=0の状態は、磁束密度は1.0[T]で、(45)式から(51)式の時間tは0[sec]であり、その界磁磁束φmの方向は図1のθscs=0の方向、即ち、紙面で右側であり、AD2相巻線1Nの方向である。次に、この状態における、具体的な各相の励磁電流成分の値、即ち、Ioの値を求める。前記前提条件では、エアギャップ部磁束密度Bgap=1.0[T]とエアギャップ部の磁界の強さHgap[A/m]は次式の関係となる。μ0は真空透磁率である。
Bgap=μ0×Hgap (59)
今、図3の集中巻きの断面図において、A/2相ステータ磁極12からA2相ステータ磁極11へ通過するA2相磁束φaの通過経路を考える。集中巻きの2個の巻線の励磁電流[A・turn]と2個のエアギャップ部に作用する起磁力が釣り合うので次の近似式となる。
2.247×Io×Nws/2×2=Hgap×Lgap×2 (60)
Io=(Bgap/μ0)×Lgap×2/(2.247×Nws)
=354.1/Nws [A] (61)
例えば、各全節巻き巻線の巻回数Nws/2が40[turn]の場合は、(45)式から(51)式のIoの値が4.427[A]となる。以上の様に、図9の離散分布関数Dist2を実現する各相励磁電流成分の値を求める例を示した。但し、概略値の試算例であり、軟磁性体部の磁気抵抗を0として、磁気回路モデルを簡略化した。なお、前記のA2相磁束φa[Wb]は、図1、図3のA2相ステータ磁極11を通過する磁束なので、11のエアギャップ部のA2相磁束密度Bgapaと11の面積[m2]の積である。例えば、図1、図3のA2相磁束φaは、次式となる。Mrはロータの半径で、Wmは誘導モータの軸方向有効長さである。また、他の相の磁束についても同様である。
φa=Bgapa×2π・Mr/14×Wm (62)
次に、(52)式から(58)式に示した仮想集中巻きの励磁電流の、時間t=0の離散分布関数Dist2として図12に示す。横軸はステータ回転角位置θscsで、縦軸は集中巻き励磁電流[1000/Nws×A]である。しかし、図3に示す様に、各巻線は各スロットへ離散的に配置しており、実際には電流が離散的な配置である。図3のA2相の集中巻き巻線31へ通電する仮想のA2相集中巻き電流IsfaCXのt=0の値は、図12のθscsの0°から360°/14までの平均値Iaveを読み取り、A2相ステータ磁極11がその角度範囲へその電流が発生する起磁力(Iave×Nws/2)[A・turn]を供給していると解釈することとする。θscsの0°から360°/14までの範囲は、図3に示すA2相ステータ磁極の円周方向幅である。従って、集中巻き巻線の場合、図12は励磁電流成分分布であるが、起磁力分布の意味合いでもある。
同様に、B2相の集中巻き巻線33へ通電する仮想のB2相集中巻き電流IsfbCXのt=0の値は、図12のθscsの2×360°/14から3×360°/14までの平均値を読み取ることにする。C2相の集中巻き巻線35の電流IsfcCXのt=0の値は、図12のθscsの4×360°/14から5×360°/14までの平均値を読み取ることにする。D2相の集中巻き巻線37の電流IsfdCXのt=0の値は、図12のθscsの6×360°/14から7×360°/14までの平均値を読み取ることにする。E2相の集中巻き巻線39の電流IsfeCXのt=0の値は、図12のθscsの-6×360°/14から-5×360°/14までの平均値を読み取ることにする。F2相の集中巻き巻線3Bの電流IsffCXのt=0の値は、図12のθscsの-4×360°/14から-3×360°/14までの平均値を読み取ることにする。G2相の集中巻き巻線3Dの電流IsfgCXのt=0の値は、図12のθscsの-2×360°/14から-360°/14までの平均値を読み取ることにする。
次に、(45)式から(51)式に示した全節巻きの励磁電流成分の、時間t=0の離散分布関数Dist2として図13に示す。横軸はステータ回転角位置θscsで、縦軸は全節巻き励磁電流[1000/Nws×A]である。この場合も、各巻線は各スロットへ離散的に配置しており、実際には電流が離散的な配置である。全節巻き電流の起磁力は図1の全周方向に発生するので、図12の集中巻き電流の起磁力の様な解釈、表現は、複数の相電流の起磁力が重畳して印加されることになり、図13では起磁力での表現は複雑になり難しい。図13の全節巻き電流の励磁電流成分分布については、その電流の円周方向位置と電流の大きさについて、改めて、定義する。
図13の全節巻き電流の円周方向位置θscsは、図1に示す様に、AD2相巻線1Fは0°であり、図13におけるその範囲を−360°/28から+360°/28までとし、この励磁電流成分IsfadFXの大きさはその範囲の平均値とする。同様に、図13のBE2相巻線は図1の1Gで4×360°/28の位置にあり、図13におけるその範囲を3×360°/28から5×360°/28までとし、この励磁電流成分IsfbeFXの大きさはその範囲の平均値とする。同様に、CF2相巻線1Hは8×360°/28の位置であり、その範囲を7×360°/28から9×360°/28までとし、この励磁電流成分IsfcfFXの大きさはその範囲の平均値とする。DG2相巻線1Jは12×360°/28の位置であり、その範囲を11×360°/28から13×360°/28までとし、この励磁電流成分IsfdgFXの大きさはその範囲の平均値とする。EA2相巻線1Kは−12×360°/28の位置であり、その範囲を−13×360°/28から−11×360°/28までとし、この励磁電流成分IsfeaFXの大きさはその範囲の平均値とする。FB2相巻線1Lは−8×360°/28の位置であり、その範囲を−9×360°/28から−7×360°/28までとし、この励磁電流成分IsffbFXの大きさはその範囲の平均値とする。GC2相巻線1Mは−4×360°/28の位置であり、その範囲を−5×360°/28から−3×360°/28までとし、この励磁電流成分IsfgcFXの大きさはその範囲の平均値とする。
図12、図13において、電流の範囲と平均値について説明した。これは、図8に示す様な目標分布関数であって、電流の位置を固定して扱う場合には、電流の円周方向位置と電流の値を決めるだけで良い。しかし、ロータの回転に伴って、界磁磁束位置をCCWへ回転させると、目標分布関数をCCWへ回転させることになり、図1の各ステータ磁極が分担する磁束を変化させていく必要がある。また、目標分布関数が図8の84のような正弦波であって、数式化が容易な関数であれば、(45)式から(58)式と時間tで表現することもできる。しかし、数式化が難しい磁束密度分布の場合で、かつ、各巻線が円周方向に離散的に配置する場合には、励磁電流成分について、各電流の分担範囲などを取り決めておく必要がある。また、平均値の取り方についても、単純平均でも良いが、目標分布関数に応じた重み付け平均の方がより精度良く誘導モータを制御できる。後に、界磁磁束位置をCCWへ回転させた例を、図8の82に関する図20、図21、図22の例などで、電流の範囲と平均値について説明する。
次に、台形波形状である図8の83の目標分布関数Dist1を変換し、図1の誘導モータを駆動可能とする、磁束密度の離散分布関数Dist2を図14に示す。図14は、時間t=0の場合の例である。そして、図14の磁束密度分布を実現する各相励磁電流成分の例について、仮想の集中巻き巻線である場合と、図1の全節巻き巻線である場合を説明する。なお、目標分布関数Dist1が、81、82、83のような台形波形状の分布の場合は、84の正弦波形状の(45)式などの励磁電流成分で数式化して簡単に表現することができない。図14に示す離散分布関数Dist2は、図1、及び、図3の各歯近傍のエアギャップ部の磁束密度を、14個の各歯ごとに階段状に示している。これら14個の各歯ごとの磁束密度を実現する各相の励磁電流成分の求め方は、図9の例で示した正弦波分布状の離散分布関数Dist2の励磁電流成分の求め方とは異なる方法である。以下に示す方法は平均値を取るなどの方法で、14個、7種類、7相の磁束密度が非線形な関係の値であっても、その励磁電流を求められる方法とする必要がある。なお、図9の正弦波分布状の磁束密度の離散分布関数Dist2を実現する励磁電流も、図12、図13で説明した前記方法ではなく、以下の方法で求めることもできる。
図14の階段状で示す14個の磁束密度の例は、図8の83において、各歯の中央部に位置する83の値をその歯の磁束密度代表値としている。即ち、目標分布関数Dist1である83の値から各歯を代表する磁束密度の値を作り、図14の離散分布関数Dist2を作っている。そして、図14の磁束分布は、図1の各歯近傍のエアギャップ部の磁束密度である。図14と図1を照らし合わせて、A2相磁束密度Baは1.0[T]、B2相磁束密度Bbは0.6[T]、C2相磁束密度Bcは−0.6[T]、D2相磁束密度Bdは−1.0[T]、E2相磁束密度Beは−1.0[T]、F2相磁束密度Bfは0[T]、G2相磁束密度Bgは1.0[T]である。また、180°反対側の相の磁束密度は、それぞれの負の値であり、例えば、A2/相の磁束密度Ba/は−1.0[T]である。
ここで求めた各相の磁束密度の値は、図1において界磁磁束φmが、紙面の左側から右側へ向かっている時の磁束分布の例である。その状態から界磁磁束φmを反時計回転方向CCWへ回転させると、各相の前記磁束密度が変化して行く。その回転座標と、図1に示す固定したステータ磁極である実軸座標との関係については、後に説明する。
図14の前記各磁束密度を励磁する電流は、図3の仮想の集中巻き巻線のモデルを用いて仮想の集中巻き電流を求めて制御する。なお、最終的に図1の各巻線へ通電する前に、(1)式から(7)式を用いて、全節巻き電流へ変換して通電する。A2相磁束密度Baの1.0[T]を励磁するA2相励磁電流成分IsfaCXは次の近似式となる。(63)式は、IsfaCXによる起磁力[A×turn]と、エアギャップ部の磁界の強さHgapa[A/m]の等式関係である。Lgapは0.0005[m]とする。なお、ここでは、A2相磁束密度BaをBgapaと置き換えている。
IsfaCX×Nws/2×2=Hgapa×Lgap×2 (63)
IsfaCX=(Bgapa/μ0)×Lgap×2/Nws=795.8/Nws [A] (64)
同様に、B2相励磁電流成分IsfbCXは477.5/Nws[A]、C2相励磁電流成分IsfcCXは−477.5/Nws[A]、D2相励磁電流成分IsfdCXは−795.8/Nws[A]、E2相励磁電流成分IsfeCXは−795.8/Nws[A]、F2相励磁電流成分IsffCXは0/Nws[A]、G2相励磁電流成分IsfgCXは795.8/Nws[A]である。なお、これらの計算は、図1の誘導モータがモータ中心点に対して対象な構造、対象な電磁気作用であることを前提とし、磁性材料の磁気抵抗を0として簡素なモータモデルとした計算方法である。また、スロット開口部の円周方向開口幅は単純モデル化して0[mm]と仮定し、エアギャップ部の磁束はラジアル方向へ通過すると仮定する。
これらの各相励磁電流成分は、時間t=0の場合の例で、図15の電流分布として表すことができる。横軸はステータ回転角位置θscsで、縦軸は集中巻き励磁電流[1000/Nws×A]である。図15の励磁電流成分の見方は、例えば、図3のA2相の集中巻き巻線31へ通電する仮想のA2相集中巻きの励磁電流成分IsfaCXのt=0の値は、図15のθscsの0°から360°/14までの平均値Iaveを読み取り、A2相ステータ磁極11がその角度範囲へその電流が発生する起磁力(Iave×Nws/2)、単位[A・turn]を供給していると解釈することとする。θscsの0°から360°/14までの範囲は、図3に示すA2相ステータ磁極の円周方向幅である。従って、集中巻き巻線の場合、図15は励磁電流成分分布であるが、起磁力分布の意味合いでもある。
同様に、B2相の集中巻き巻線33へ通電する仮想のB2相集中巻きの励磁電流成分IsfbCXの値は、図15のθscsの2×360°/14から3×360°/14までの平均値を読み取ることにする。C2相の集中巻き巻線35の電流IsfcCXの値は、図15のθscsの4×360°/14から5×360°/14までの平均値を読み取ることにする。D2相の集中巻き巻線37の電流IsfdCXの値は、図15のθscsの6×360°/14から7×360°/14までの平均値を読み取ることにする。E2相の集中巻き巻線39の電流IsfeCXの値は、図15のθscsの-6×360°/14から-5×360°/14までの平均値を読み取ることにする。F2相の集中巻き巻線3Bの電流IsffCXの値は、図15のθscsの-4×360°/14から-3×360°/14までの平均値を読み取ることにする。G2相の集中巻き巻線3Dの電流IsfgCXの値は、図15のθscsの-2×360°/14から-360°/14までの平均値を読み取ることにする。
次に、これら仮想の集中巻き電流を(1)式から(7)式を用いて、全節巻き電流へ変換する例を図16に示し、説明する。AD2相励磁電流成分IsfadFX[A]は、(1)式より次式のように求める。
IsfadFX=IsfaCX+IsfdCX=795.8/Nws+(−795.8/Nws)=0 (65)
同様に、AD2相励磁電流成分Isfad、AD2相励磁電流成分Isfad、AD2相励磁電流成分Isfad、AD2相励磁電流成分Isfad、AD2相励磁電流成分Isfad、AD2相励磁電流成分Isfad[A]を次式で求める。
IsfbeFX=IsfbCX+IsfeCX=−318.3/Nws (66)
IsfcfFX=IsfcCX+IsffCX=−477.5/Nws (67)
IsfdgFX=IsfdCX+IsfgCX=0 (68)
IsfeaFX=IsfeCX+IsfaCX=0 (69)
IsffbFX=IsffCX+IsfbCX=477.5/Nws (70)
IsfgcFX=IsfgCX+IsfcCX=318.3/Nws (71)
以上により、磁束密度分布図14を実現する励磁電流成分の離散分布関数Dist2を求め、図16に示す。(65)式から(71)式の各電流であり、図16に示す電流分布は、図1の全節巻き巻線の各相励磁電流成分である。図14の界磁磁束φmの中心位置が、その回転位置θscs=0の方向に向いていて、図14の界磁磁束φmが、紙面の左側から右側へ向かっている状態の磁束分布の例である。なお、界磁磁束φmが回転して移動する場合は、その回転位置θscsに応じて、各相の各励磁電流を計算する必要がある。
これらの各相励磁電流成分は、時間t=0の場合の例で、図16の電流分布として表すことができる。横軸はステータ回転角位置θscsで、縦軸は全節巻き励磁電流[1000/Nws×A]である。図16の場合も、各巻線は各スロットへ離散的に配置しており、実際には電流が離散的な配置である。全節巻き電流の起磁力は、図1の全方向に発生するので、図15の集中巻き電流の起磁力の様な単純な解釈、表現はできない。複数の電流の起磁力が重畳して各歯へ印加されるので、図16の全節巻き電流では各歯に印加する起磁力の計算を(15)から(21)式のように加算して計算する必要がある。
図16の全節巻き電流の円周方向位置θscsは、図1に示す様に、AD2相巻線1Fは0°であり、図16におけるその範囲を−360°/28から+360°/28までとし、この励磁電流成分IsfadFXの大きさはその範囲の平均値とする。同様に、図16のBE2相巻線は図1の1Gで4×360°/28の位置にあり、図16におけるその範囲を3×360°/28から5×360°/28までとし、この励磁電流成分IsfbeFXの大きさはその範囲の平均値とする。同様に、CF2相巻線1Hは8×360°/28の位置であり、その範囲を7×360°/28から9×360°/28までとし、この励磁電流成分IsfcfFXの大きさはその範囲の平均値とする。DG2相巻線1Jは12×360°/28の位置であり、その範囲を11×360°/28から13×360°/28までとし、この励磁電流成分IsfdgFXの大きさはその範囲の平均値とする。EA2相巻線1Kは−12×360°/28の位置であり、その範囲を−13×360°/28から−11×360°/28までとし、この励磁電流成分IsfeaFXの大きさはその範囲の平均値とする。FB2相巻線1Lは−8×360°/28の位置であり、その範囲を−9×360°/28から−7×360°/28までとし、この励磁電流成分IsffbFXの大きさはその範囲の平均値とする。GC2相巻線1Mは−4×360°/28の位置であり、その範囲を−5×360°/28から−3×360°/28までとし、この励磁電流成分IsfgcFXの大きさはその範囲の平均値とする。
次に、同様に台形波形状である図8の82の目標分布関数Dist1を変換し、図1の誘導モータを駆動可能とする、磁束密度の離散分布関数Dist2を図17に示す。図17は、時間t=0の場合の例である。そして、各相励磁電流成分について説明する。なお、その計算手法は、図14の場合と同じである。各歯の中央部に位置する82の値をその歯の磁束密度代表値としている。A2相磁束密度Baは1.0[T]、B2相磁束密度Bbは1.0[T]、C2相磁束密度Bcは−1.0[T]、D2相磁束密度Bdは−1.0[T]、E2相磁束密度Beは−1.0[T]、F2相磁束密度Bfは0[T]、G2相磁束密度Bgは1.0[T]である。
ここで、各磁束密度の値が2.0と−2.0の値となり両極端であるが、界磁磁束φmが回転すると、これらの磁束密度の値は図8の83の特性に従って1.0から−1.0の間の種々値に変化する。ロータの回転中には各相磁束密度が平均値的に作用するので、時間的に平均値を取ると各相の磁束密度平均値は図8の83の磁束分布となる。
図17の前記各磁束密度を励磁する電流は、図3の仮想の集中巻き巻線のモデルを用いて仮想の集中巻き電流を求め、A2相磁束密度Baの1[T]を励磁するA2相励磁電流成分IsfaCXは、(63)式、(64)式と同じで、次の値となる。IsfaCX=(Bgap/μ0)×Lgap×2/Nws=795.8/Nws[A]、同様に、B2相励磁電流成分Isfbは795.8/Nws[A]、C2相励磁電流成分IsfcCXは−795.8/Nws[A]、D2相励磁電流成分IsfdCXは−795.8/Nws[A]、E2相励磁電流成分IsfeCXは−795.8/Nws[A]、F2相励磁電流成分IsffCXは0/Nws[A]、G2相励磁電流成分IsfgCXは795.8/Nws[A]である。
これらの各相励磁電流成分は、時間t=0の場合の例で、図18の電流分布として表すことができる。横軸はステータ回転角位置θscsで、縦軸は集中巻き励磁電流[1000/Nws×A]である。図3のA2相の集中巻き巻線31へ通電する仮想のA2相集中巻きの励磁電流成分IsfaCXのt=0の値は、図18のθscsの0°から360°/14までの平均値Iaveを読み取り、A2相ステータ磁極11がその角度範囲へその電流が発生する起磁力(Iave×Nws/2)、単位[A・turn]を供給していると解釈することとする。θscsの0°から360°/14までの範囲は、図3に示すA2相ステータ磁極の円周方向幅である。従って、集中巻き巻線の場合、図18は励磁電流成分分布であるが、起磁力分布の意味合いでもある。
同様に、B2相の集中巻き巻線33へ通電する仮想のB2相集中巻きの励磁電流成分IsfbCXの値は、図18のθscsの2×360°/14から3×360°/14までの平均値を読み取ることにする。C2相の集中巻き巻線35の電流IsfcCXの値は、図18のθscsの4×360°/14から5×360°/14までの平均値を読み取ることにする。D2相の集中巻き巻線37の電流IsfdCXの値は、図18のθscsの6×360°/14から7×360°/14までの平均値を読み取ることにする。E2相の集中巻き巻線39の電流IsfeCXの値は、図18のθscsの-6×360°/14から-5×360°/14までの平均値を読み取ることにする。F2相の集中巻き巻線3Bの電流IsffCXの値は、図18のθscsの-4×360°/14から-3×360°/14までの平均値を読み取ることにする。G2相の集中巻き巻線3Dの電流IsfgCXの値は、図18のθscsの-2×360°/14から-360°/14までの平均値を読み取ることにする。
次に、これら仮想の集中巻き電流を(1)式から(7)式を用いて、全節巻き電流へ変換する。AD2相励磁電流成分IsfadFXは、(1)式より次式のように求める。IsfadFX=IsfaCX+IsfdCX=795.8/Nws+(−1591.5/Nws)=0、同様に、IsfbeFX=IsfbCX+IsfeCX=0/Nws、IsfcfFX=IsfcCX+IsffCX=−795.8/Nws、IsfdgFX=IsfdCX+IsfgCX=0、IsfeaFX=IsfeCX+IsfaCX=0、IsffbFX=IsffCX+IsfbCX=795.8/Nws 、IsfgcFX=IsfgCX+IsfcCX=0/Nws[A]と各相の励磁電流成分が求められる。
これらの各相励磁電流成分は、時間t=0の場合の例で、図19の電流分布として表すことができる。横軸はステータ回転角位置θscsで、縦軸は全節巻き励磁電流[1000/Nws×A]である。図19の場合も、各巻線は各スロットへ離散的に配置しており、実際には電流が離散的な配置である。全節巻き電流の起磁力は、図1の全方向に発生するので、図18の集中巻き電流の起磁力の様な単純な解釈、表現はできない。複数の全節巻き電流の起磁力が重畳して各歯へ印加されるので、図19の全節巻き電流では各歯に印加する起磁力の計算を(15)から(21)式のように加算して計算する必要がある。
図19の全節巻き電流の円周方向位置θscsは、図1に示す様に、AD2相巻線1Fは0°であり、図19におけるその範囲を−360°/28から+360°/28までとし、この励磁電流成分IsfadFXの大きさはその範囲の平均値とする。同様に、図19のBE2相巻線は図1の1Gで4×360°/28の位置にあり、図19におけるその範囲を3×360°/28から5×360°/28までとし、この励磁電流成分IsfbeFXの大きさはその範囲の平均値とする。同様に、CF2相巻線1Hは8×360°/28の位置であり、その範囲を7×360°/28から9×360°/28までとし、この励磁電流成分IsfcfFXの大きさはその範囲の平均値とする。DG2相巻線1Jは12×360°/28の位置であり、その範囲を11×360°/28から13×360°/28までとし、この励磁電流成分IsfdgFXの大きさはその範囲の平均値とする。EA2相巻線1Kは−12×360°/28の位置であり、その範囲を−13×360°/28から−11×360°/28までとし、この励磁電流成分IsfeaFXの大きさはその範囲の平均値とする。FB2相巻線1Lは−8×360°/28の位置であり、その範囲を−9×360°/28から−7×360°/28までとし、この励磁電流成分IsffbFXの大きさはその範囲の平均値とする。GC2相巻線1Mは−4×360°/28の位置であり、その範囲を−5×360°/28から−3×360°/28までとし、この励磁電流成分IsfgcFXの大きさはその範囲の平均値とする。
次に、界磁磁束φmのステータ円周方向位置θscs=0°からCCWへ90°進み、回転してθscs=90°となる場合の、図20の磁束密度分布、図21の仮想の集中巻き励磁電流成分の分布、図22の全節巻き励磁電流成分の分布について説明する。各図において、各値のステータ円周方向位置θscsを、紙面の右側へ90°シフトする方法である。目標分布関数は、前記図8の82であり、前記の図17、図18、図19の目標分布関数と同じである。なお、前記図8の目標分布関数82と界磁磁束φmのステータ円周方向位置θscs=90°の条件から、前記図20、図21、図22を直接作図したり、求める方法でも良い。
界磁磁束φmのθscs=90°の場合、磁束密度分布は図17から図20となり、磁束密度分布が紙面で右側へ90°移動する。同様に、仮想の集中巻き励磁電流成分の分布は、図18から図21となり、紙面で右側へ90°移動する。この時、図3のA2相ステータ磁極31の範囲はθscs=0°から360°/14までなので、図21ではA2相集中巻き電流IsfaCXはその中間部の360°/28の点で段差が発生しており、平均値を取って、(0+1591.5)/2/Nws=397.9/Nws[A]となる。図18の例では、各巻線の範囲で段差が発生していなかったが、誘導モータの界磁励磁が進み、界磁磁束φmが図1、図3の紙面上で回転すると、前記図17の段差部が円周方向へ移動し、当然、各ステータ磁極の円周方向範囲の中で移動することになる。
同様に、B2相の集中巻き巻線33へ通電する仮想のB2相集中巻き電流IsfbCXの値は、図21のθscsの2×360°/14から3×360°/14まで値であり、795.8/Nws[A]である。C2相の集中巻き巻線35の電流IsfcCXの値は、図21のθscsの4×360°/14から5×360°/14までの値であり、795.8/Nws[A]である。D2相の集中巻き巻線37の電流IsfdCXの値は、図21のθscsの6×360°/14から7×360°/14までの平均値を取って、(1591.5+0)/2×Nws=397.9/Nws[A]となる。E2相の集中巻き巻線39の電流IsfeCXの値は、図21のθscsの-6×360°/14から-5×360°/14までの値であり、−795.8/Nws[A]である。F2相の集中巻き巻線3Bの電流IsffCXの値は、図21のθscsの-4×360°/14から-3×360°/14までの値であり、−795.8/Nws[A]である。G2相の集中巻き巻線3Dの電流IsfgCXの値は、図21のθscsの-2×360°/14から-360°/14までの値であり、−795.8/Nws[A]である。その結果、各相の範囲で平均値を取ると、図21の破線の特性となる。なお、例えば、各集中巻き巻線の巻回数Nws/2が40[turn]の場合は、前記C2相の集中巻き電流IsfcCX=795.8/Nws[A]の値は9.95[A]である。
次に、これら仮想の集中巻き電流を(1)式から(7)式を用いて、全節巻き電流へ変換した図22の全節巻き励磁電流成分の分布について説明する。図22の全節巻き電流の円周方向位置θscsは、図1に示す様に、AD2相巻線1Fは0°であり、図22におけるその範囲を−360°/28から+360°/28までとし、この励磁電流成分IsfadFXの値は、795.8/Nws[A]である。同様に、図22のBE2相巻線は図1の1Gで4×360°/28の位置にあり、図22におけるその範囲を3×360°/28から5×360°/28までとし、この励磁電流成分IsfbeFXのその範囲の値は0である。同様に、CF2相巻線1Hは8×360°/28の位置であり、その範囲を7×360°/28から9×360°/28までとし、この励磁電流成分IsfcfFXの値は0である。DG2相巻線1Jは12×360°/28の位置であり、その範囲を11×360°/28から13×360°/28までとし、この励磁電流成分IsfdgFXの値は(0−1591.5/Nws)/2=−397.9/Nwsである。EA2相巻線1Kは−12×360°/28の位置であり、その範囲を−13×360°/28から−11×360°/28までとし、この励磁電流成分IsfeaFXの値は(−1591.5/Nws+0)/2=−397.9/Nwsである。FB2相巻線1Lは−8×360°/28の位置であり、その範囲を−9×360°/28から−7×360°/28までとし、この励磁電流成分IsffbFXの値は0である。GC2相巻線1Mは−4×360°/28の位置であり、その範囲を−5×360°/28から−3×360°/28までとし、この励磁電流成分IsfgcFXの値は0である。その結果、各全節巻き線の近傍の範囲で平均値を取ると、図22の破線の特性となる。なお、例えば、各全節巻き巻線の巻回数Nws/2が40[turn]の場合は、前記AD2相の全節巻き電流IsfadFX=795.8/Nws[A]の値は9.95[A]である。
次に、図8の81の目標分布関数Dist1の場合についても、同様の手法で、その離散分布関数Dist2と各相の励磁電流成分を求めることができる。ここで、各歯の中央部に位置する81の値を離散分布関数Dist2のその歯の代表値とするアルゴリズムの場合、81の離散分布関数Dist2は、82の離散分布関数Dist2と同じになる。これは、台形形状が急勾配の時に発生するもので、81の磁束密度の離散分布関数Dist2は、82と同じ図17の磁束密度分布となっている。しかし、目標分布関数Dist1である81と82には明らかな形状の違いがあり、界磁磁束φmの進行、回転に伴ってそれらの違いが、磁束密度分布、そして、集中巻き電流の分布に出てくる。磁束密度分布が81の場合、界磁磁束φmがCCWへ1/2歯幅、即ち、12.86°進むと、仮想の集中巻き巻線の電流分布は、図23の実線形状の分布となる。同様に、82の場合は、図23の破線形状の分布となり、差が明確になる。
前記の図18、図19、図21、図22、図13では、その瞬間の電流分布を見て、その瞬間の状態を認識し、分析するには都合の良い分布図である。例えば、励磁電流成分と界磁磁束φmの関係を確認できる。しかし、界磁磁束φmや励磁電流成分の時間経過、そして平均値的な作用、効果については解り難い。後に示す回転座標であるMN座標上で観測すれば、回転中の界磁磁束φmや励磁電流成分がどのような制御状態であるかが解り易い。ロータが回転中には、該当する歯が高速に移り変わるので、平均値的に作用し、電磁気的な作用は図8の目標分布関数Dist1に近づいていく。
なお、目標分布関数Dist1を回転させて、その後にその回転位置で、離散分布関数Dist2を求めても同じ値となる。また、図20の磁束密度分布を求めた段階で、各歯、各ステータ磁極の平均磁束密度を求めても良い。ここでは、後に示す回転座標とその他の諸計算の都合から、前者の方法で説明している。さらには、回転座標を用いない制御方法も可能であり、本発明の趣旨の範囲で計算方法を選択でき、本発明に含むものとする。また、平均値の取り方についても、単純平均、重み付け平均など変形が可能である。
以上、目標分布関数Dist1の設定例、磁束密度の離散分布関数Dist2の求め方、仮想の集中巻き励磁電流成分の求め方、全節巻き励磁電流成分の求め方等について、いくつかの例を示して説明した。その結果、前記方法においては、磁束密度分布と仮想の集中巻き励磁電流の分布が一致すること、従って、磁束分布を励磁電流に変換する容易な方法であることが確認できる。また、仮想の集中巻き励磁電流は、誘導モータの全節巻き巻線の電流へ、電流変換式により容易に変換できることを示した。そして、図17のような単純な磁束分布の場合には、図19の全節巻き励磁電流の分布が視覚的にも単純であることを示し、逆に、磁束分布が不規則で複雑な場合は全節巻き励磁電流の値を求める計算が複雑になることを示した。これら諸例の全体として、前記の励磁電流の計算手法では、いかなる磁束密度分布の場合でも一定のアルゴリズムで通電すべき励磁電流成分を求められることを示し、その例を示した。なお、前記目標分布関数Dist1は、誘導モータの回転数Nr[rpm]、出力トルクT[Nm]、電源電圧Vpw[V]、高効率運転等の制御モード指令CRMなどに関わった分布形状を記憶させておき、これらの運転状況に応じて分布の形状、大きさを適正化しながら誘導モータを運転、制御することができる。制御の具体例は後述する。
次に、本発明で使用する実軸座標とMN座標について説明する。実軸座標とは、図1の断面図に示す様な、現実のモータ状態を表す座標であり、前記の図1の各部名称、各変数名称とその値で状態を表す。MN座標とは、実軸座標における界磁磁束φmの円周方向回転角θscsが0°となるような座標であり、界磁磁束φmに同期して回転移動する座標である。誘導モータの場合、ロータ回転に同期する回転座標ではない。特に本発明では、正弦波分布に限らず、任意の分布形状を表す。また、具体的な誘導モータのエアギャップの円周方向分布を表す場合には、ステータ磁極及びスロットにより離散値化した値である、多相化した磁束密度、多相化した磁束、多相化した各相電流等の分布状態を表す。従って、例えば、制御的に定常状態においては、MN座標上の界磁磁束がほぼ固定した状態となる。
そして、実軸座標における界磁磁束φmの円周方向回転角θscsの値をθmnとする。従って、実軸座標とMN座標との回転角の差はθmnであり、0°から360°の範囲の値で示す。一方、界磁磁束φmの円周方向回転角は変数としてθfで表し、360°以上の値、あるいは、負の値も示すものとする。従って、θfが0°から360°の範囲の値の場合は、θf=θmnである。また、MN座標内での円周方向角度をθscmで示すことにする。
次に、前記MN座標の特徴について説明する。実軸座標における界磁磁束に同期する磁束、電流などの変数の基本波成分は交流である。しかし、前記交流の変数の基本波成分は、回転座標であるMN座標上では、振幅と位相で表すことができる。従って、振幅は直流成分の様に扱うことができる。MN座標上の仮想のステータ磁極ごとに離散値化して表していて、磁束密度、励磁電流成分、ロータ電流成分、各電圧成分、トルクを直流成分として扱うことができる。そして、MN座標では、磁束密度などを、離散的で多相の磁束密度分布として扱うので、台形形状などの任意の分布形状を表すこと、制御することが容易である。また、これらの変数の状態、変化の把握などが容易である。
各電流などの変数のフィードバック制御を直流成分で行うことができ、フィードバック誤差量を比例積分制御(PI制御)を効果的に活用することができる。そして、比例積分制御、比例積分補償により過渡誤差の低減だけでなく、定常誤差を低減し、高精度化できる。即ち、周波数特性が改善する。また、微分補償も含め、PID制御としても良い。また、実軸座標においては、各電流は交流の値であり、それらの主成分は回転周波数となる。そして、実軸座標では、回転数が上昇すると、電流の主成分の周波数領域に関して、比例積分制御のフィードバック制御ループのゲインが低下するので、各電流の制御誤差が大きくなる問題がある。回転座標であるMN座標で各電流を制御する場合は、高速回転領域においても、各相電流成分を直流値として扱い、比例積分補償するので、高速回転領域において各電流の制御誤差が大きくなる問題が少ない。図2を変形した構成で、各相の磁束密度あるいは磁束をフィードバック制御する場合も同様である。
特に、全節巻き巻線の構成を仮想の集中巻き巻線の構成に変換し、MN座標で制御する場合、各相ごとに磁束密度と励磁電流成分とをフィードバック制御し、比例積分補償を効果的に活用できる。制御的にメリットがあり、任意の磁束分布状態を制御する点でも、電磁気的に現象を把握、制御し易く、優れている。具体的には、図2のブロックダイアグラムの例で後に示す。なお、通常、従来のdq軸座標は、正弦波分布であることを前提としており、正弦波以外では高調波成分で示すなど、特殊な扱いとなる。
次に、実軸座標とMN座標でのモータ構成とその名称について説明する。モータ構成として、相、ステータ磁極、全節巻き巻線、仮想の集中巻き巻線、ロータ巻線がある。前記のA2相、B2相などは、実軸座標の場合、A2X相、B2X相等のように末尾にXを付加し、MN座標の場合、A2M相、B2M相等のように末尾にMを付加する。但し、実軸座標、及び、MN座標を区別する必要がない場合は、前記のX、Mを省略する。
次に、実軸座標とMN座標での各種変数の名称について説明する。変数の種類には、ステータの電流I[A]、ステータの電圧V[V]、エアギャップ部磁束φ[Wb]、エアギャップ部磁束密度B[T]、該当する磁路の全周に作用する起磁力Q[A・turn]、エアギャップ部の磁界の強さH[A/m]、そして、ロータ電流[A]、ロータ巻線の抵抗値R[Ω]、ロータ巻線のインダクタンスL[H]、各電流の検出値Id[A]、各磁束密度の検出値Bd[T]などがある。その中で、ステータの電流I、ステータの電圧Vには、集中巻きと全節巻きとがある。既に、図1の誘導モータの電流で、IsfadFX、IsfaCM等の変数を使用したように、変数末尾のFは全節巻きを示し、Cは集中巻きを示す。変数末尾のXは実軸座標を示し、MはMN座標を示す。この様に、変数名は組み合わせで存在し、その数が多いので、各個別の変数名は明細書で使用の都度説明する。なお、図1のA2X相ステータ磁極11などの構成要素の名称にはモデル番号である2を含める。しかし、IsfadFXなどの変数名には、ステータの励磁電流のsf、実軸座標のX、全節巻き線のF、AD2相のadを含めるが、モータモデル番号の2を変数名IsfadFXには入れないことにする。
次に、実軸座標の磁束密度分布の具体的な例は、前記の図17、図20などであり、図1の誘導モータのエアギャップ部の磁束密度分布を横軸の直線状に展開した図である。前記の様に、図17は、図8の82の目標分布関数Dist1を、ステータ磁極の幅に離散値化した離散分布関数Dist2である。この図17の界磁磁束φmの中心の円周方向角度はθscs=0の方向であり、図17の紙面の左右中心位置であり、図1の紙面の右方向である。実軸座標では、図17の界磁磁束方向θscs=0を原点として、界磁磁束方向を図17の紙面の左右に移動して制御する。図1の紙面では、θscs=0の回転角位置を原点として、界磁磁束方向を回転して制御する。例えば、図1のA2X相ステータ磁極11は、図17の表示ではθscsが0°から25.7°の範囲である。また、界磁磁束を時間関数として表現する場合は、時間t=0を原点として制御する。
実軸座標では、界磁磁束φmの位置は、図17の紙面の横軸θscsの位置であり、紙面で左右に移動して制御する。例えば、ロータを回転を固定した簡素な条件では、すべり周波数fsが5[Hz]で、時間tが0[sec]から0.05[sec]へ進む場合に、界磁磁束φmのステータ回転角位置θscsが0°から360°×0.05/(1/5)=90°へ進む。実軸座標の磁束密度分布の状態では、図17のt=0°の状態から、図20の状態へ、界磁磁束φmが紙面の右方向へ90°移動する。図1では、界磁磁束φmが紙面の右へ向いた状態からCCWへ90°回転し、界磁磁束φmが紙面で上の方向へ向いた状態へ回転する。
実軸座標での各励磁電流成分の分布状態の例を説明する。前記の様に、図17の界磁磁束分布の場合、仮想の集中巻きの励磁電流成分は図18であり、全節巻きの励磁電流成分は図19である。また、位相が90°進んだ図20の界磁磁束分布の場合、仮想の集中巻きの励磁電流成分は図21であり、全節巻きの励磁電流成分は図22である。
次に、MN座標における分布図の例について説明する。前記の様に、MN座標は界磁磁束φmの方向を座標軸とするので、MN座標上では界磁磁束φmの方向が変化しない。実軸座標において、界磁磁束φmの方向がθscs=0の時の磁束密度などの各種変数の分布形状がMN座標の分布形状と一致する。実軸座標の図17の磁束密度の分布状態は、MN座標では図24と界磁磁束φmの回転角θmnとで示す。また、図24のMN座標内での円周方向角度をθscmとしている。
このMN座標の状態から、図1上での界磁磁束φmがCCWへ90°回転した状態は、MN座標は図24とMN座標の回転角θmn=90°の情報で示す。界磁磁束φmが回転しても、界磁磁束φmを中心に示す回転座標なので、磁束密度の分布図は変わらない。実軸座標上の図1を、MN座標上のモータ断面図とした例を図25に示す。図25の誘導モータは、実在するわけではないので、回転座標上の仮想のモータである。各部分を示す符号が換わり、図1の円周方向回転角θscsが、図25ではθscmに変える。各巻線に通電する変数名が変えて表現する。例えば、図1に括弧を付けて付記しているAD2相電流はIsadFXは、MN座標の図25の251のAD2M相電流の場合はIsadFMとする。
しかし、回転座標であるMN座標上の各ステータ磁極は、実軸座標上の各ステータ磁極とは異なる。実軸座標からMN座標への座標変換MNCが必要である。例えば、MN座標の回転角θmnがステータ磁極幅の整数倍の2倍、2×360°/14=51.4°である場合、図1と図25の構成配置から解るように、実軸座標のB2X相ステータ磁極13は、MN座標のA2M相ステータ磁極251に相当する。同様に、F/2X相ステータ磁極1CはMN座標のE/2M相ステータ磁極25Aに相当する。同様に、C2X相ステータ磁極15はMN座標のB2M相ステータ磁極253、G/2X相ステータ磁極1EはMN座標のF/2M相ステータ磁極25C、D2X相ステータ磁極17はMN座標のC2M相ステータ磁極255、A/2X相ステータ磁極12はMN座標のG/2M相ステータ磁極25E、E2X相ステータ磁極19はMN座標のD2M相ステータ磁極257、B/2X相ステータ磁極14はMN座標のA/2M相ステータ磁極252、F2X相ステータ磁極1BはMN座標のE2M相ステータ磁極259、C/2X相ステータ磁極16はMN座標のB/2M相ステータ磁極254、G2X相ステータ磁極1DはMN座標のF2M相ステータ磁極25B、D/2X相ステータ磁極18はMN座標のC/2M相ステータ磁極256、A2X相ステータ磁極11はMN座標のG2M相ステータ磁極25D、E/2X相ステータ磁極1AはMN座標のD/2M相ステータ磁極258に相当する。前記の様に、MN座標の回転角θmnがステータ磁極幅の整数倍であれば、各ステータ磁極の回転位置が変わるだけであり、簡単である。前記は、相対的な関係の概略を示した。しかし当然通常は、MN座標の回転角θmnがステータ磁極幅の整数倍でなく、端数倍であることの方が多い。
MN座標の回転角θmnがステータ磁極幅Pstの端数倍であるMN座標のステータ磁極は、実軸座標の隣接する2つのステータ磁極のそれぞれの一部に、位置的に該当し、その比率に応じて分担するように計算すれば良い。例えば、磁束密度について、MN座標の回転角θmnがステータ磁極幅Pstの1.3倍、即ち、θmn=1.3×360°/14=33.4[°]の場合では、図25のMN座標のA2M相ステータ磁極は、図1の実軸座標のB2X相ステータ磁極13のCW側の30%とE/2X相ステータ磁極1AのCCW側の70%に該当する。従って、単純な平均で計算する場合、MN座標のA2M相ステータ磁極251の磁束密度BaMは、実軸座標のB2X相ステータ磁極13の磁束密度BbXの30%とE/2X相ステータ磁極1Aの磁束密度BE/Xの70%を加え合わせて得ることができる。この様に、MN座標の回転角θmnがステータ磁極幅Pstの端数倍であっても、実軸座標からMN座標へ変換することができる。また、集中巻き励磁電流成分の分布状態、全節巻き励磁電流成分の分布状態についても、同様に、実軸座標からMN座標へ変換することができる。
なお、実軸座標からMN座標への変換MNCに関して、ロータが回転しているので界磁磁束φmが多くのステータ磁極を乗りついで回転することになり、MN座標の各相の磁束が平均値化の効果により、当初に意図した目標分布関数Dist1へ近づく効果がある。また、低速回転では前記の平均値化の効果が少なくなるので、平均値の取り方により制御の高精度化を図ることができる。具体的には、図8に示したような目標分布関数Dist1に応じて、各歯内部で目標とする磁束分布を勘案し、歯内部の磁束分布を目標分布関数Dist1に近づける工夫をし、重み付けをした平均値を取ることもできる。この様に、実軸座標からMN座標への変換方法には種々の工夫が可能である。なお、前記の様に、MN座標では、モータ制御に使用する界磁励磁電流などの各変数を直流量として扱え、特に、仮想の集中巻き巻線で、MN座標で制御する場合、各相ごとに磁束密度と励磁電流成分とをフィードバック制御し、比例積分補償を効果的に活用して制御できる。制御的にメリットがあり、任意の磁束分布状態を制御する点でも、電磁気的な現象を把握し易く、制御し易い。
次に、MN座標から実軸座標への変換方法RMNCについて説明する。変換方法RMNCの具体的な方法は、前記の変換方法MNCの逆を行えば良い。手法としては同じである。当然、変換の対象となるステータ磁極が入れ変わる。例えば、MN座標の回転角θmnがステータ磁極幅の1.3倍、即ち、θmn=1.3×360°/14=33.4[°]の場合では、図1の実軸座標のA2X相ステータ磁極11は、図25のMN座標のG2M相ステータ磁極25DのCCW側の30%とD/2M相ステータ磁極258のCW側の70%に該当する。従って、単純な平均で計算する場合、実軸座標のA2X相ステータ磁極11の磁束密度BaXは、MN座標のG2M相ステータ磁極25Dの磁束密度BgMの30%とD/2相ステータ磁極258の磁束密度Bd/Mの70%を加え合わせて得ることができる。この様に、MN座標の回転角θmnがステータ磁極幅の端数倍であっても、MN座標から実軸座標へ変換することができる。また、集中巻き励磁電流成分の分布状態、全節巻き励磁電流成分の分布状態についても、同様に、MN座標から実軸座標へ変換することができる。
なお、変換方法RMNCにおいても、前記の様に、重み付けを加味した平均値を取ることもできる。また、MN座標から実軸座標への変換方法RMNCは、各種制御の演算をMN座標で行った後に、実際の図1の誘導モータの実軸座標へ変換する。モータ各相の磁束と電流の制御に効果的に使用できる。
図1の誘導モータの各部形状の記号、変数名を、既に使用しているものもあるが、ここにまとめて記述する。ロータ半径はMr[m]、ロータの軸方向有効長さはWm[m]とする。複数の全節巻きのロータ巻線を円周上に配置し、それぞれの巻回数をNwr/2とする。各ロータ巻線は相互に電気的絶縁が保たれると仮定する。しかし、各ロータ巻線の1カ所が相互に繋がっていても各ロータ電流は変わらないので、例えば、星形結線状のロータ巻線なども含む。
また、ロータ巻線の各相の全節巻き巻線の巻回数Nwr/2は、巻線の種類、スロットの形状などの都合、ロータ巻線の使い方などにより、巻回数Nwr/2の数を選択でき、電気回路的には等価である。また、ロータの円周方向に配置するロータ巻線の数は多いほどきめ細かな特性となるが、ロータ巻線の種類、製作上の都合などにより選択できる。また、全節巻きロータ巻線の巻回数Nwr/2を1[turn]とし、ロータ巻線のロータ軸方向端を、相互に各ロータ巻線間で接続しても各ロータ電流は変わらず、電磁気的にも等価である。そして、その状態は、ロータの良く知られたアルミダイカスト巻線、銅バーなどを接続して構成するかご形巻線と同じ状態であり、等価である。本発明では、何れの巻線も使用できるが、説明の都合上、各全節巻きロータ巻線の巻回数Nwr/2を1[turn]とした例を使用して、主に説明する。
なお、前記アルミダイカスト巻線などでは、ロータ巻線両端のコイルエンド部の抵抗値が無視できない点、横流が流れる点が、絶縁したロータ巻線と特性的に差異がある。特性の差異はあるが、差異を考慮した修正を行うなど、本発明の対象とする誘導モータとして使用できる。また、アルミダイカスト巻線などの両端の短絡環の電気的抵抗を小さくする改良、横流を少なくする改良も可能である。
また、ロータ内のロータ巻線の数は、ここでは限定しない。各全節巻ロータ巻線の巻回数をNwr/2=1[turn]、各ロータ巻線の漏れインダクタンスはLrw[H]、各ロータ巻線の抵抗をそれぞれRr[Ω]、それらのロータ巻線の誘起電圧はVr[V]、それらのロータ巻線の電流はIr[A]とする。
図1のステータで、180°反対側のスロットとの間に配置する1つの相の全節巻き巻線の巻回数はNws/2[turn]とする。その全節巻き電流はIsFX[A]で、IsFXの内、全節巻き巻線の励磁電流成分はIsfFX[A]、全節巻き巻線のロータ電流成分はIsrFX[A]とする。その全節巻き誘起電圧はVsFX[V]とする。また、ステータの各相の全節巻き巻線の励磁電流成分はIsfFX[A]は、仮想の集中巻線に換算し、各相の集中巻き巻線の励磁電流成分IsfCX[A]として表す。ステータとロータ間のエアギャップ部磁束密度はBgap[T]、エアギャップの厚みはLgap[m]とする。
なお、AD2相の全節巻き励磁電流はIsfadFX[A]であり、添え字のadは相を表す。特定の相では無く、全ての相を示す場合は、相を示す添え字adを無くしIsfFX[A]とする。また、図2のような、誘導モータの制御全体を示すブロックダイアグラムにおいて、各相それぞれの電流についての制御を表す場合は、各相の意味で添え字nを付加し、IsfnFX[A]とする。そして、この添え字のルールは、起磁力Q[A・turn]、磁界の強さH[A/m]、エアギャップ部磁束密度Bgap[T]、磁束φ[Wb]、電圧V[V]、トルク[Nm]、パワーP[W]についても同様とする。また、すべり周波数はFs[Hz]、すべり角周波数ωsは[rad/sec]、ロータ巻線の速度はVELr[m/sec]とする。誘導モータの制御における1制御サンプル時間はΔt=0.0002[sec]と仮定する。
次に、ステータとロータ間のエアギャップ部の磁束密度Bgapとその励磁電流成分について説明する。例えば、図1のA2相ステータ磁極11に対向するロータ巻線1Uと、A/2相ステータ磁極12に対向するロータ巻線1Vとの周辺の磁束密度とその励磁電流について検討する。図1の各全節巻き巻線で1Uと1Vと周辺を励磁する電流を求めることは難しいので、図1を等価変換した、仮想の集中巻き線構造の図3で考えることにする。図3に示すA2相磁束成分φa、その磁束密度Bgapaは、仮想のA2相集中巻き巻線31と仮想のA/2相集中巻き巻線32とを直列に接続し、通電する、A2相集中巻き励磁電流成分IsfaCXで励磁する。
31と32の各巻回数はNws/2で直列接続した時の巻回数合計はNwsで、エアギャップ長Lgap=0.0005[m]とする。また、歯、バックヨークのエアギャップ部の磁気抵抗は、エアギャップ部の磁気抵抗に比較して小さいので無視して、ここでは、モータモデルを単純化して説明する。図3の構成と、(59)式、(63)式、(64)式から、励磁電流成分IsfaCXとA2相磁束密度Bgapaは次式の関係となる。
IsfaCX=2×(Bgapa×Lgap)/(μ0×Nws) (72)
例えば、集中巻き巻線の巻回数Nws/2が40[turn]で、A2相磁束密度Bgapaが1[T]の場合は、IsfaCXは9.95[A]となる。同様に各相の励磁電流成分を求められるので、誘導モータ制御の指令値である磁束密度分布が定まれば、各相の励磁電流成分を求めることができる。そして、仮想の集中巻き励磁電流成分は、前記の様に全節巻き変換を行って、全節巻き励磁電流成分を求められる。
次に、すべり角周波数ωs[rad/sec]とロータ巻線の電圧Vr、ロータ電流Ir、即ち、トルク電流成分との関係について説明する。ロータ巻線の誘起電圧Vr[V]、ロータ巻線の電流Ir[A]、図1、図3のロータ巻線1Uと1Vとが全節巻き巻線RW1であると仮定する。前記ロータ巻線1Uと1Vとが全節巻きロータ巻線RW1であると仮定して、図3に示す様に、その磁束密度がA2相ステータ磁極11のA2相磁束密度Bgapaであるとする。前記の様に、円周上には14個の全節巻きロータ巻線が配置されていて、各巻線は相互に電気的に絶縁され、各ロータ巻線の巻回数をNwr/2=1[turn]と簡略化し、各全節巻きロータ巻線の抵抗をそれぞれRr[Ω]、各ロータ巻線の漏れインダクタンスはLrw[H]とする。1個の全節巻きロータ巻線の等価回路は図4となる。
前記の様に、界磁磁束φmは任意の磁束分布で指定され、前記の様に、図3の仮想の集中巻き励磁電流成分により励起される。そして、各ロータ巻線と界磁磁束φmの相対速度VELr[m/sec]、即ち、CCW方向の前記すべり角周波数ωs[rad/sec]が与えられ、ロータ巻線RW1の誘起電圧Vr1[V]が発生する。相対速度VELrなので、ロータの回転角速度ωr[rad/sec]には関係なく、例えば、ロータ固定の場合は界磁磁束φmがωsでCCWへ移動し、あるいは、界磁磁束φmが固定の場合はロータがωsでCCWへ移動する状態である。この時、ロータ巻線の有効長さは、全節巻きなので往復するのでロータ有効長さWm[m]の2倍となり、ロータの各スロットのロータ巻線の巻回数Nwr/2を1[turn]とするので、ロータ巻線RW1の誘起電圧Vr1は磁束密度Bgapaと巻線速度VELrから次式となる。
Vr1=Nwr/2×VELr×Bgapa×Wm×2
=VELr×Bgapa×Wm×2
=ωs・Mr×Bgapa×Wm×2 (73)
誘起電圧Vr1の電圧方向は、ロータ巻線1Uの紙面の裏側から表側に発生する電圧である。他の全節巻きロータ巻線RWnも、(73)式と同様の関係である。
但し、(73)式では、図3のA2相磁束φaの磁束密度Bgapaであって、一定値の界磁磁束φmがすべり角周波数ωsでロータ巻線RW1と相対運動をしていると仮定している。また、界磁磁束φmの大きさが変化することも想定すると、ロータ巻線RW1の鎖交磁束をφr1として、ファラデーの電磁誘導の法則から(74)の誘起電圧Vr1と表現できる。
Vr1=Nwr/2×dφr1/dt (74)
前記ロータ巻線1Uと1Vで構成するロータ巻線RW1の鎖交磁束φr1は、図3の紙面で下方から上方へ鎖交する磁束は、(φb+φc+φd−φe−φf−φg)とA2相磁束φaの一部である。界磁磁束φmの大きさが一定とは限らないので、ロータ巻線RW1の誘起電圧Vr1の定義としては(74)式の方が(73)式より厳密だが、ロータ巻線RW1の鎖交磁束をφr1の算出は難しくなる。
具体的な制御の例として、制御サンプリング時間Δtごとに計算するとして、(74)を次式に変形し、ロータ巻線RW1の誘起電圧Vr1を計算できる。
Vr1=Nwr/2×Δφr1/Δt (75)
=Nwr/2×(φr13−φr11)/Δt (76)
磁束φr13は今回の制御時のロータ巻線RW1の鎖交磁束で、磁束φr11は先回の制御時のロータ巻線RW1の鎖交磁束である。(76)式で、各ロータ巻線の誘起電圧の計算を行う場合、毎制御サンプリング時間Δtごとに、各ロータ巻線の鎖交磁束を計算して求めれば良い。そしてこの時、ロータ回転位置θrと界磁磁束位置θfと磁束密度の離散分布関数Dist2が必要となる。各ロータ巻線に鎖交する磁束を計算できる。
なお、磁束密度の離散分布関数Dist2を目標分布関数Dist1で代用することもできる。また、各ステータ磁極の磁束、あるいは、磁束密度を検出する場合は、磁束検出値で計算することもできる。また、界磁磁束φmが一定値で、すべり角速度ωsでトルク制御を行う場合は、ロータ巻線RW1の誘起電圧Vr1を、最初の(73)式で計算することができる。また、界磁磁束φmの大きさの時間的変化がロータ巻線の回路時定数より大きく、時間的変化がゆるやかであれば、界磁磁束φmの時間的な変化に関わる計算を簡素化することも可能である。
次に、界磁磁束φmとロータ巻線との相対速度、ロータ巻線電圧Vr、ロータ巻線電流Irの関係について検討しているので、モータモデルを簡単にするため、ロータの回転角速度ωr=0[rad/sec]と仮定する。ロータ巻線の電圧方程式は、ロータ電流Ir[A]がロータ巻線の漏れインダクタンスLrw[H]、ロータ巻線抵抗Rrと作用するので、概略は次式の微分方程式となり、ロータ電流Irは1次遅れの特性となる。
Vr=Lrw・dIr/dt+Ir・Rr (77)
(77)式により、種々制御状態における各相のロータ電流を、それぞれのロータ巻線について特定し、求めることができる。
(77)式の左辺であるロータ巻線RW1に誘起する電圧Vrは、(73)、(74)、(76)式などのいずれかで計算でき、界磁磁束φmによって誘起される。一方、(77)式の右辺の前記漏れインダクタンスLrw[H]は、ロータ巻線のスロット周辺の漏れ磁束やロータ巻線のコイルエンド周辺に発生する漏れ磁束φrwに関する漏れインダクタンスである。例えば、前記の様に、図1、図3のロータ巻線1Uと1Vとが全節巻きロータ巻線RW1であると仮定する。ロータ巻線の巻回数をNwr/2とすると、このロータ巻線の漏れ磁束φrw[Wb]に関わる磁束鎖交数Ψrw[turn×Wb]は次式のように表すことができる。
Ψrw=Lrw・Ir=Nwr/2・φrw (78)
前記漏れインダクタンスLrw[H]に関わる電圧成分は次式に変形することもできる。
Lrw・dIr/dt=Nwr/2・dφrw/dt (79)
なお、前記漏れ磁束φrwはロータ巻線に沿って散在するような不明瞭な磁束成分でもある。
そして、(77)式の右辺のLrw・dIr/dtは(79)式の右辺の漏れ磁束φrwに関わる電圧であり、左辺とは異なる磁束成分に関わる電圧である。これらのφmとφrwは大きさが随分違う。また、このロータ巻線の漏れ磁束φrwは大きな値ではないが、ロータ巻線が漏れインダクタンスLrw[H]、ロータ巻線抵抗Rrとで短絡される巻線であるため、各ロータ電流IrがT=Lrw/Rrの時定数の1次遅れの電流となるため、誘導モータの動作に与える影響が大きい。
また、各ステータ巻線の漏れインダクタンスLsw、漏れ磁束φswは、モータ特性としては無視できないが、(22)式から(42)式では界磁磁束φmを対象としていて、各ステータ巻線の各漏れ磁束φswを無視している。また、ステータ巻線抵抗Rsもモータ銅損を発生する重要なパラメータであるが、誘導モータのステータ側なので、Lsw、φsw、Rsに関わる電圧降下を駆動回路で容易に補うことが可能であり、制御の応答遅れなどの弊害を吸収できる。本発明では、Lsw、φsw、Rsは別の課題と位置付け、触れない。
次に、誘導モータのトルクT[Nm]と出力パワー[W]について説明する。各ロータ巻線のトルクTrnは、次式となる。各巻線が発生する力はFrn[N]である。ローレンツ力で、各向きはフレミングの左手の法則で確認できる。それぞれのトルクTrnを求め、それらの総合計が誘導モータのトルクT[Nm]となる。
Frn=Bgapn・Irn・Wm×2 (80)
Trn=Frn×Mr=Bgapn・Irn・Wm×2×Mr (81)
T=ΣTrn (82)
トルクTにロータの回転角速度ωr[rad/sec]を掛けると、モータの出力パワーP[W]となる。
P=T×ωr (83)
なお、(73)式、(77)式などにより、ロータ電流Irを求めることができるが、ここで使用しているロータ抵抗Rrの値が温度により変化するので、誘導モータの制御で制御誤差の要因となる。銅、アルミニウムは、共に、抵抗率の温度係数が大きく、抵抗値が約40%/100℃程度変化するので、ロータの温度変化が誘導モータの制御精度に大きな影響を与える。この対応策には、ロータ電流を計測して温度影響を受けないようにする方法、ロータの温度を計測してロータ抵抗値を補正することにより制御誤差を低減する方法、ステータ側からパルス電圧を与えるなどの方法でロータ抵抗を計測する方法、制御回路の動作やモータ動作などからロータ抵抗を推定したり、学習する方法などが考えられる。いずれの方法も本発明へ応用することができる。
次に、(73)式、(77)式、(80)式に基づいて、誘導モータをサンプリング制御する場合の初期段階において、すべり角周波数ωsを計算する方法の例について説明する。それは、前記(77)式の電圧方程式に示されるように、ロータ電流Irが微分方程式となっており、ロータ電流Irが1次遅れの応答なので、(73)式のロータ電圧Vr、そして、すべり角周波数ωsを、時間的な経緯を無視して特定できない。この対応策としてのすべり角周波数ωsを計算する一つの方法である。後で、図2の誘導モータの速度制御例で詳細を説明するが、前記制御の初期段階で、速度誤差に基づくトルク指令Tcとロータの回転角速度ωrに基づく磁束密度の目標分布関数Dist1、あるいは、離散分布関数Dist2が得られる。そして、(77)式の右辺の第1項を無視し、仮定のロータ電流Irxを次式の定常項だけに置き換えて、概略の計算を進めることもできる。
Irxn=Vrn/Rr (84)
なおこの時、(84)式のIrxnの値は、(77)式の漏れインダクタンスLrwを無視した値なので、少し大きい値となることが多い。この誤差を低減するために、過去のすべり角周波数ωsなどから計算誤差を推測して、(84)式のIrxnの値を修正しても良い。即ち、このIrxnの値を、すべり角周波数ωs及びロータ回転角周波数ωrに応じて、小さめの値に補正しても良い。
今、図1、及び、図3のモータの場合、円周上に28個のロータ巻線があり、全節巻線と仮定すると、14個のロータ全節巻き線を配置している。各ロータ巻線の巻回数Nwr/2を1[turn]とする。1Uのロータ巻線をRW1として、CCWへ順にRW1からRW14とし、それらの各ロータ電流をIrx1からIrx14とし、各ロータ巻線部分の磁束密度をBgap1からBgap14とし、各巻線のトルクをTr1からTr14と想定する。各ロータ巻線に対応する磁束密度は、目標分布関数Dist1からBgap1からBgap14の値が求められる。1Uのロータ巻線をRW1の位置からCCWへ180°の間の、各ロータ巻線の14カ所のBgap1からBgap14の値で示すエアギャップ部の磁束密度である。なお、図3に示す各相の磁束φa、φb、φc、φd、φe、φf、φg[Wb]は、各相ごとの磁束を示しているので、異なる表現方法である。
ロータ巻線RW1が発生するトルクTr1は、(81)式、(84)式、(73)式より次式となる。
Tr1=Bgap1・Ir1・Wm×Mr×2
=Bgap1・Vr1/Rr・Wm×Mr×2
=Bgap1・ωs・Mr×Bgap1×Wm×2/Rr・Wm×Mr×2
=4×(Bgap1・Mr・Wm)2×ωs/Rr (85)
他のロータ巻線が発生するトルク成分Tr2、Tr3、・・・・Tr13、Tr14も同様である。
モータトルクTは、(81)、(82)式より次式として表せる。
T=ΣTrn
=(Bgap12+Bgap22+・・・・+Bgap132+Bgap142)
×4×(Mr・Wm)2×ωs/Rr (86)
(86)式のモータトルクTは前記トルク指令値Tcとすると、すべり角周波数ωsを次式として求められる。
ωs=1/4×Tc×Rr/{(Bgap12+Bgap22+・・・
・・・+Bgap132+Bgap142)×(Mr・Wm)2} (87)
以上の様に、図2の誘導モータの速度制御例の初期段階で、すべり角周波数ωsを設定する方法の例を示した。その後のロータ電流の値は、後に示す様に、(77)式の電圧方程式に従って計算し、制御することができる。ロータ電流の値が過去の値から継続した値となる。
なお、すべり角周波数ωsのこの初期設定の方法では、(77)式の過渡項と定常項の内の過渡項を無視する方法なので、すべり角周波数ωsの初期値がやや小さく計算されがちだが、誘導モータを速度制御し、速度フィードバック制御ループの一部なので、この影響をフィードバック制御で吸収できる。また、直近の過去のすべり角周波数などから計算誤差を推測して、(87)式のωsの値を修正しても良い。また、他の方法として、ロータ巻線の回路時定数に起因する電流の遅れを、遅れ補償用のの磁束を付加して、(77)式の過渡項を小さくすることもでき、後に説明する。また、ロータ電流の応答遅れを低減するため、トルク指令値を求める比例、積分、微分のPID補償器機能において、前記応答遅れを低減する程度の微分補償を働かせて、応答遅れを伝達関数としてキャンセルする方法もある。この場合には、PID補償器の設定の問題となる。
次に、誘導モータが(77)式のロータ巻線の電圧方程式に従って動作する場合の具体的な特性例、波形形状の例について説明する。そして、本発明によりトルクを増加する具体的な考え方、波形形状の例について説明する。なお、トルクの増加などの特性改善を、改良点の定性的な説明だけで差異を明らかにすることは難しい。そこで、誘導モータのモデル形状を設定し、改良点の定性的な説明と、トルク増加などの数値比較などの定量的な説明の両面を示す。モータモデルは、図1の構成とし、ロータ半径Mrは0.075[m]、ロータ軸方向の有効長さWmは0.1[m]とする。前記のように、ステータは、7相、14スロットで全節巻き巻線を巻回する。前記のように、ロータ巻線はコイル端に短絡板が配置される構成であっても、短絡板の抵抗値が極めて小さければ等価的に、28個のスロットに、14組の全節巻き巻線を配置するロータ巻線構成であると仮定する。その各ロータ巻線の巻回数は1[turn]で、各ロータ巻線の巻線抵抗Rrは0.002[Ω]、各ロータ巻線の漏れインダクタンスLrwは0.00005[H]と仮定する。
次に、図1のロータ巻線に流れるロータ電流について計算する例について説明する。いくつかの条件を設定し、その条件下でのロータ電流Ir[A]である。まず、図1のロータ巻線1Uと1Vは、前記の様に、全節巻き線であって、他のロータ巻線とは電気的に絶縁されていると仮定する。誘導モータの界磁磁束励磁は、CCWへの励磁、駆動を想定し、より簡単な駆動モードとして、ロータを固定したロータ回転数が0の状態で、界磁磁束φmをすべり周波数Fs[Hz]でCCWへ回転させる。さらに、その状態は、前記ロータ巻線1U、1Vにとって、界磁磁束φmを固定して、ロータをすべり周波数Fs[Hz]で反対方向のCWへ回転させた状態と等価なので、その状態へ置き換えて、ロータ電流Irの動作モデルを考える。
即ち、言い換えると、実軸座標上で、ロータを固定した状態で界磁磁束φmをすべり周波数Fs[Hz]でCCWへ回転させる状態は、回転座標であるMN座標上では、勿論界磁磁束φmを固定し、ロータをすべり周波数Fs[Hz]で反対方向のCWへ回転させた状態となる。
また、ここで、本発明で扱う、誘導モータの主要な諸物理量とそれらの関係について確認する。仮想の集中巻き巻線の励磁電流成分Isfa[A]とエアギャップ部の磁束密度Bgap[T]は、簡素化したモータモデルでは、(63)式、(64)式で示される。すべり周波数Fs[Hz]あるいはすべり角周波数ωs[rad/sec]とBgap[T]とロータ電圧Vr[V]は(73)式で示される。ロータ電圧Vr[V]とロータ電流Ir[A]は(77)式で示される。あるロータ巻線のトルクTrn[Nm]とその巻線部分のBgap[T]とロータ電流Ir[A]とは(81)式で示される。これらの変数は相互に一連の関係となっている。従って、この誘導モータの動作を何れかの変数で扱い、記述すれば良いが、表現する現象ごとに基準とする変数が変わると、複雑で紛らわしくなる。そこで本発明のこの明細書では、主に、エアギャップ部の磁束密度Bgapを基準にして前記の各変数の値を求め、記述することにする。なお、ステータ電流に通電すべきロータ電流成分については、後に説明する。
繰り返しになるが、界磁磁束φmを固定して、ロータをすべり周波数Fs[Hz]で反対方向のCWへ回転させた状態では、図1の前記ロータ巻線1U、1Vのロータ電圧Vr[V]は(73)式で示される。そして、ロータ電流Irを(77)式に従って計算するが、制御サンプリングタイムΔtの微少時間ごとに計算する制御ソフトウェアでは次式の様に計算する。
ΔIr=(Vr−Ir・Rr)×Δt/Lrw (88)
Ir=Ir+ΔIr (89)
なお、(88)は、(77)式に対して、微少変化量で表しているので近似式である。また、(89)は等式ではなく、(今までのIrにΔIrを加え、新しいIrとする)という意味で、ソフトウェアでは良く使用される、制御サンプリングタイムΔtごとの割り込み処理における置き換え式である。これらの計算の結果、ロータ電流Irは、(77)式の微分方程式に従って、ロータ電圧Vrに対して1次遅れの電流値となる。界磁磁束φmの分布は、図8の84に示す正弦波でその最大磁束密度を1[T]とし、すべり周波数Fsは5[Hz]とする。ここでは、目標分布関数Dist1である理想的な正弦波磁束分布の場合について説明する。
また、誘導モータの一般的で、モデル的な条件であるが、ロータ巻線とステータ巻線との相互インダクタンスは十分に大きく、ロータ電流Ir[A]とその巻回数Nwr/2[turn]の積と同じ大きさで、逆方向に通電するステータのロータ電流成分Isr[A]をステータ巻線へ供給すると仮定する。この時のステータ巻線の巻回数をNws/2[turn]とすると次式となる。
Ir・Nwr/2=−Isr・Nws/2
この状態では、ステータの界磁電流成分Isfとロータ電流成分Isrとがロータ電流Irを誘導しているが、この時、ステータのロータ電流成分Isrとロータ電流Irとの起磁力[A×turn]が相互に相殺する関係でもある。ここで、界磁磁束φmはステータの界磁電流成分Isfで励磁している。なお、回りくどい表現をしているが、これらの関係は、定電圧電源に接続した変圧器における1次の励磁電流成分と負荷に流れる2次電流、及び、1次に流れる2次電流成分の関係と類似している。この時、2次電流と1次に流れる2次電流成分の起磁力は、変圧器の鉄心内で相殺している。
前記条件で、表計算ソフトで計算したロータ電流などの諸特性の例を図26に示す。図26の紙面の横軸は時間t[sec]で、左端は−0.1[sec]、右端は0.1[sec]の0.2secの横軸幅であり、それは5[Hz]の1周期である。前記の様に、界磁磁束φm固定でロータがCWへ回転する。図26の下段に、参考のため、誘導モータの回転角の換算値を示す。261は、図1のロータ巻線1Uと1Vが通過する部分のエアギャップ部の磁束密度Bgapで、最大値を1[T]としている。図26の磁束密度261の時間軸の形状は、界磁磁束φmを固定した状態を想定しているので、当然、図1の磁束密度の分布形状に比例する。前記の様に、図1の磁束分布を、図8の84の正弦波分布としている。
なお、図26では、前記の磁束密度Bgapの分布状態について、歯の磁気的離散性を無視した矛盾がある。図8の84の正弦波分布は、目標分布関数Dist1であって、連続状の理想的な正弦波分布形状である。一方、図1に示す7相の誘導モータは、14個のステータ磁極でエアギャップ部の磁束密度Bgapを生成するので、円周方向に離散的であり、実際には理想的な正弦波分布形状を作り出すことはできない。従って、図26では、図1の7相より何倍も多相のモータで、界磁励磁電流成分も(45)式から(51)式より何倍も多相の電流を仮定している。要するに、図26では、図1のエアギャップ部の磁束分布が理想的な正弦波分布を仮定した場合のロータ巻線1Uと1Vに流れるロータ電流Irなどの例を示している。
なお、(45)式等の角周波数ω[rad/sec]は、通常、次式である。
ω=ωr+ωs (90)
ωr=2π・Fr (91)
ωs=2π・Fs (92)
ωrはロータ回転角周波数[rad/sec]で、Frは回転周波数[Hz]、ωsはすべり角周波数[rad/sec]で、Fsはすべり周波数[Hz]である。結果として、図26の例では、界磁磁束φmを円周方向に固定する例なので、所望の界磁磁束分布が各界磁励磁電流成分により励磁、生成することを前提に、所望の界磁磁束分布を表計算ソフトの入力に与えて図26のロータ電流Ir、トルクTなどを計算している。なお、勿論、ロータ固定としてωrを0とし、ωsを2π×5[rad/sec]として、界磁磁束φmをCCWへ回転移動して計算しても良く、その場合のロータ電流Irなどの計算結果は同じ値になる。
図26の界磁磁束φmの分布状態は、図8の84の磁束密度分布であり、図1では、界磁磁束φmが紙面の左側から右側へ通過している。その状態で、ロータを負のすべり周波数Fsで回転する。即ち、ロータをCWへ回転する。
図26の261は前記ロータ巻線1U、1Vに作用する磁束密度で、262は(73)式に従って発生する電圧Vr[V]である。263は、(77)式において漏れインダクタンスLrwが0[H]であるとした場合の仮定のロータ電流Ir[A]であり、振幅は235.6[A]でる。264は、(77)式の微分方程式に従ったロータ電流Ir[A]で振幅は187.4[A]であり、263に比較して振幅が79.5%に減少し、位相が36°遅れた、1次遅れの値となる。なお、この264は、ロータが負のすべり周波数Fsで回転し続けた時の定常波形を計算し、示している。265は、(81)式に従ったトルクT[×2 Nm]である。また、このトルクの周期は180°となる。前記ロータ巻線1U、1Vが発生するトルクの平均値は1.136[Nm]となる。この時、ロータ銅損の平均値は35.1[W]である。そして、図1の誘導モータの合計のトルク平均値は(82)式に従い、ロータの14個の全節巻きロータ巻線のロータ電流が発生するトルクであり、15.903[Nm]となる。
なお、このトルクの値は、後述する台形波状の磁束密度分布の例などと比較して説明する。また、前記の様に簡素にモデル化した誘導モータについては、磁束密度分布とすべり角速度ωsとが定まれば、その各電流値、トルク、パワーなどを前記方法で計算することができる。後述するように、本発明では、磁束密度分布形状は正弦波状に限らず、あらゆる形状の磁束密度分布を生成することができ、電流、トルクなどを計算し、制御することができる。但し、ステータ側巻線へは、計算する電流値を正確に通電する必要がある。後に、それらの個々技術について説明する。それらの結果、平均トルクの増大、ピークトルクの増大、効率改善、誘導モータの小型化、駆動回路の小型化などが可能となる。
次に、図8の83に示す目標分布関数Dist1の場合のロータ電流Ir、トルクTなどの特性を図27に示し、説明する。図27の駆動条件等は、前記の図26の場合と同じである。ロータを固定して界磁磁束φmをCCWへすべり周波数Fsで回転させる代わりに、界磁磁束φmを固定してロータをCWへすべり周波数Fsで回転させている。その状態でロータ電流Ir[A]、トルク[Nm]などを計算する。図27の271は、図1のロータ巻線1Uと1Vが通過するエアギャップ部の磁束密度Bgapであり、横軸を時間t[sec]で示している。最大値を1[T]としている。すべり周波数Fsは5[Hz]とする。その時間波形は台形状で、Bgapの変化時間は1/5×3/14=0.0428[sec]の幅であり、磁束密度が1[T]で一定の区間は1/5×4/14=0.0571[sec]の幅である。この界磁磁束φmはステータの励磁電流で励磁していて、図8の83は仮想の理想的な台形波磁束密度分布の例である。
図27の272は、(73)式に従った前記ロータ巻線1U、1Vに発生する電圧Vr[V]である。273は、(77)式において漏れインダクタンスLrwが0[H]であると仮定した場合のロータ電流Ir[A]であり、振幅は235.6[A]でる。274は、(77)式の微分方程式に従ったロータ電流Ir[A]で振幅は215.8[A]であり、273に比較して振幅が91.6%に減少し、位相が遅れて、台形形状が歪んだ波形形状となる。また、274は、ロータが負のすべり周波数−Fsで回転し続けた時の定常波形を示している。275は、(81)式に従ったトルクであり、前記ロータ巻線1U、1Vが発生するトルクの平均値は1.592[Nm]となる。ロータ銅損の平均値は49.16[W]である。そして、図1の誘導モータの合計のトルク平均値は(82)式に従い、14倍の22.288[Nm]となる。
ここで、異なる通電モードにおけるトルクの比較方法について考える。265の平均トルク1.136[Nm]に比較して、275の平均トルク1.592[Nm]は増加している。磁束密度の最大値1[T]の条件で、図26の正弦波に比較し、平均トルクが40.1%増加し、トルク増大効果が確認できる。なおこの時、銅損も増加しているので、モータ損失と温度上昇の観点で、ロータ銅損が同じ値となるようなすべり周波数Fsを調べ、その時の、同じロータ銅損時のトルクで比較し、トルクの増加率を評価する。
図28は、図27のすべり周波数Fsの5[Hz]を3.9[Hz]に小さくし、図26の正弦波分布のロータ銅損平均値35.1[W]と等しくした特性である。時間軸は変わる。図28の281は、図1のロータ巻線1Uと1Vが通過するエアギャップ部の磁束密度Bgapで、最大値を1[T]としている。282は、(73)式に従った前記ロータ巻線1U、1Vに発生する電圧Vr[V]であり、Fsが3.9[Hz]なので小さな値になっている。283は、(77)式において漏れインダクタンスLrwが0[H]であると仮定した場合のロータ電流Ir[A]であり、振幅は183.8[A]に小さくなっている。284は、(77)式の微分方程式に従ったロータ電流Ir[A]で振幅は177.2[A]である。285は、(81)式に従ったトルクT[Nm]であり、前記ロータ巻線1U、1Vが発生するトルクの平均値は1.454[Nm]となる。ロータ銅損の平均値は35.1[W]である。
図26の正弦波時のトルク平均値1.136[Nm]に比べ、図28の台形波状磁束密度分布の場合、同じロータ銅損の条件で比較して、トルクTが28%増加した。従って、図8に示す磁束密度の目標分布関数Dist1で比較して、84の正弦波より83の台形波の方が、大きなトルクを出力できることを確認した。また、図27の274のロータ電流波形に比較し、図28の284のロータ電流波形は台形状に近づいている。すべり周波数Fsを5[Hz]から3.9[Hz]に小さくすると、ロータ電流の振幅が小さくなる効果と、逆に、ロータ電流の波形が改善する効果とが確認できる。トルクが小さく、すべり周波数Fsが小さい領域の方が、磁束密度分布に対するロータ電流の位相遅れが減少し、(81)式によりトルクが発生するので、位相遅れの弊害を低減できる。
次に、図8の82に示す目標分布関数Dist1の場合のロータ電流Ir、トルクTなどの特性を図29に示し、説明する。図29の駆動条件等は、前記の図26の場合と同じである。図29の291は、図1のロータ巻線1Uと1Vが通過するエアギャップ部の磁束密度Bgapであり、横軸を時間t[sec]で示している。最大値を1[T]としている。すべり周波数Fsは5[Hz]とする。その時間波形は台形状で、Bgapの変化時間は1/5×2/14=0.0287[sec]の幅であり、磁束密度が1[T]で一定の区間は1/5×5/14=0.07143[sec]の幅である。この界磁磁束φmはステータの励磁電流で励磁していて、図8の83は仮想の理想的な台形波磁束密度分布の例である。
図29の292は、(73)式に従った前記ロータ巻線1U、1Vに発生する電圧Vr[V]である。293は、(77)式において漏れインダクタンスLrwが0[H]であると仮定した場合のロータ電流Ir[A]であり、振幅は235.6[A]でる。294は、(77)式の微分方程式に従ったロータ電流Ir[A]で振幅は221.6[A]であり、293に比較して振幅が94.1%に減少し、位相が遅れて、台形形状が歪んだ波形形状となる。また、294は、ロータが負のすべり周波数−Fsで回転し続けた時の定常波形を示している。295は、(81)式に従ったトルクT[Nm]であり、前記ロータ巻線1U、1Vが発生するトルクの平均値は1.754[Nm]となる。ロータ銅損の平均値は54.1[W]である。図26の正弦波時のトルク平均値1.136[Nm]に比べ、54.4%の増加である。
次に、図30は、図29のすべり周波数Fsの5[Hz]を3.65[Hz]に小さくし、図26の正弦波分布のロータ銅損平均値35.1[W]と等しくした特性である。時間軸は変わる。図30の301は、図1のロータ巻線1Uと1Vが通過するエアギャップ部の磁束密度Bgapで、最大値を1[T]としている。302は、(73)式に従った前記ロータ巻線1U、1Vに発生する電圧Vr[V]であり、Fsが3.65[Hz]なので小さな値になっている。303は、(77)式において漏れインダクタンスLrwが0[H]であると仮定した場合のロータ電流Ir[A]であり、振幅は172.0[A]に小さくなっている。304は、(77)式の微分方程式に従ったロータ電流Ir[A]で振幅は165.2[A]である。305は、(81)式に従ったトルクT[Nm]であり、前記ロータ巻線1U、1Vが発生するトルクの平均値は1.556[Nm]となる。ロータ銅損の平均値は35.2[W]である。
図26の正弦波時のトルク平均値1.136[Nm]に比べ、図30の台形波状磁束密度分布の場合、同じロータ銅損の条件で比較して、トルクTが37%増加した。図28の28%増加よりさらに改善している。従って、図8に示す磁束密度の目標分布関数Dist1で比較して、82の台形波特性は、84の正弦波、83の台形波より大きなトルクを出力できることを確認した。また、図29の294のロータ電流波形に比較し、図pmの304のロータ電流波形は台形状に近づいている。すべり周波数Fsを5[Hz]から3.65[Hz]に小さくすると、ロータ電流の振幅が小さくなる効果と、逆に、ロータ電流の波形が改善する効果とが確認できる。
前記の様に、磁束密度の目標分布関数Dist1が図8の84の正弦波形状、83の台形波形状、82の台形波形状について説明した。誘導モータの回転数、トルク、低損失制御などの制御モードに応じて、より適切な磁束密度分布で制御することができる。
図8の84の正弦波形状は電流変化率を小さく、滑らかな電流波形とできるので高速回転駆動に適している。一方、低速回転の大きなトルク領域では、モータの高効率化、小型化のため、また駆動回路の小型化のため、図8の81、さらに、矩形波に近づいた台形波特性が適している。
次に、図8に示す台形波形状の勾配部を極限まで高めた形状である矩形波形状について、ロータ電流Ir、トルクTなどの特性を図31に示し、説明する。矩形波駆動は、過電流、トルク脈動が懸念され現実的でない面もあるが、台形波の極限値の特性を知ることに意味がある。なお、図31の矩形波は、図8の他の磁束密度の目標分布関数Dist1と同様に、仮想の理想的な矩形波分布形状である。図31の駆動条件等は、前記の図26の場合と同じである。図31の311は、図1のロータ巻線1Uと1Vが通過するエアギャップ部の磁束密度Bgapであり、横軸を時間t[sec]で示している。最大値を1[T]としている。すべり周波数Fsは5[Hz]とする。
図qnの312は、(73)式に従った前記ロータ巻線1U、1Vに発生する電圧Vr[V]である。313は、(77)式において漏れインダクタンスLrwが0[H]であると仮定した場合のロータ電流Ir[A]であり、振幅は235.6[A]でる。314は、(77)式の微分方程式に従ったロータ電流Ir[A]で振幅は228.1[A]であり、313に比較して振幅が96.8%に減少し、位相が遅れて、矩形形状が歪んだ波形形状となる。また、314は、ロータが負のすべり周波数−Fsで回転し続けた時の定常波形を示している。315は、(81)式に従ったトルクT[Nm]であり、前記ロータ巻線1U、1Vが発生するトルクの平均値は1.921[Nm]となる。ロータ銅損の平均値は58.87[W]である。図26の正弦波時のトルク平均値1.136[Nm]に比べ、69.1%の増加である。
次に、図32は、図31のすべり周波数Fsの5[Hz]を3.425[Hz]に小さくし、図26の正弦波分布のロータ銅損平均値35.1[W]と等しくした特性である。時間軸は変わる。図32の321は、図1のロータ巻線1Uと1Vが通過するエアギャップ部の磁束密度Bgapで、最大値を1[T]としている。322は、(73)式に従った前記ロータ巻線1U、1Vに発生する電圧Vr[V]であり、Fsが3.425[Hz]なので小さな値になっている。323は、(77)式において漏れインダクタンスLrwが0[H]であると仮定した場合のロータ電流Ir[A]であり、振幅は161.4[A]に小さくなっている。324は、(77)式の微分方程式に従ったロータ電流Ir[A]で振幅は160.6[A]である。325は、(81)式に従ったトルクT[Nm]であり、前記ロータ巻線1U、1Vが発生するトルクの平均値は1.664[Nm]となる。ロータ銅損の平均値は35.1[W]である。
図26の正弦波時のトルク平均値1.136[Nm]に比べ、図32の矩形波状磁束密度分布の場合、同じロータ銅損の条件で比較して、トルクTが46.5%増加した。図28の28%増加、図30の37%増加よりさらに改善している。従って、図8に示す磁束密度の目標分布関数Dist1で比較して、矩形状の特性は、84の正弦波、83の台形波、82の台形波より大きなトルクを出力できることを確認した。また、図31の294のロータ電流波形に比較し、図30の304のロータ電流波形は矩形状に近づいている。すべり周波数Fsを5[Hz]から3.425[Hz]に小さくすると、ロータ電流の振幅が小さくなる効果と、逆に、ロータ電流の波形が改善する効果とが確認できる。
なお、前記結果より、トルクが小さく、すべり周波数Fsが小さい領域の方が、磁束密度分布に対するロータ電流の位相遅れが減少し、(81)式によりトルクが発生するので、位相遅れの弊害を低減できる。また、これらの台形波状、矩形波状の磁束密度分布で誘導モータを制御する場合、特に低速回転領域では、駆動回路の電力素子の電流容量、耐電圧が増加することはない。従って、トルクが増加する分だけ駆動回路を小型化できる。それは、各電力素子をより効果的に活用していて、各電力素子の利用率が改善した結果でもある。誘導モータについても同様であり、台形波状、矩形波状の磁束密度分布とすることにより、同一のロータ銅損の状態でトルクが増加しており、駆動方法により誘導モータを小型化できることを示している。さらには、前記の各電流波形は理想的ではなく、改善の余地がある。電流の位相遅れの補償技術により、さらなる改善が可能であり、後述する。
次に、磁束密度の円周方向分布が理想的な関数分布ではなく、ステータの各歯ごとの離散的な分布である場合について、各歯の磁束密度Bgap[T]、ロータ電流Ir[A]、そのトルクTrn[Nm]、誘導モータの合計トルクT[Nm]などを求める方法を図33に示し、説明する。図1の誘導モータの各スロットに巻回するステータ巻線へ通電して界磁磁束φmを生成するためには、理想的な分布である目標分布関数Dist1から、各歯ごとの現実的な磁束密度を示す離散分布関数Dist2へ変換する必要がある。界磁磁束φmの離散分布関数Dist2を計算できれば、(64)式のように各相、各歯の仮想の集中巻き巻線の界磁励磁電流成分IsfnCX[A]を、それぞれ各歯ごとに求めることができる。そして、それらを(1)式から(7)式で全節巻き変換を行って、図1の全節巻き巻線の各相の界磁励磁電流成分IsfnFX[A]を求めることができる。なお、これらの式では、各巻線の巻回数をNws/2としている。また、後に説明する図2のブロックダイアグラムの例では、集中巻き励磁電流成分で指令し、集中巻き換算の励磁電流成分を検出し、フィードバック制御する例を示す。
図33の331は、図1のロータ巻線1Uと1Vが通過するエアギャップ部の磁束密度Bgapであり、横軸を時間t[sec]で示している。最大値を1[T]としている。すべり周波数Fsは5[Hz]とする。そして、331の磁束密度分布Bgap[T]は、図8の83の台形状の目標分布関数Dist1を離散分布関数Dist2へ変換した図14と同じである。各歯ごとに離散値化した磁束密度であり、階段状の形状となる。331の磁束密度分布Bgap[T]を励磁して実現する励磁電流成分は、前記の図15の集中巻き巻線の電流、あるいは、図16の全節巻き巻線の電流である。また、図33の駆動条件等は、前記の図26の場合と同じである。
図33の332は、(73)式に従った前記ロータ巻線1U、1Vに発生する電圧Vr[V]である。331の磁束密度分布Bgap[T]に比例して階段状となる。333は、(77)式において漏れインダクタンスLrwが0[H]であると仮定した場合のロータ電流Ir[A]であり、振幅は235.6[A]でる。334は、(77)式の微分方程式に従ったロータ電流Ir[A]で振幅は213.9[A]であり、333に比較して振幅が90.8%に減少する。334のロータ電流Ir[A]の形状は、位相が遅れて、階段状磁束密度の影響で、折れ線状になっている。しかし、ロータ回路の時定数Lrw/Rrは0.00005/0.002=0.025[sec]であり、比較的滑らかな電流波形となる。また、334は、ロータが負のすべり周波数−Fsで回転し続けた時の定常波形を示している。335は、(81)式に従ったトルクT[Nm]であり、前記ロータ巻線1U、1Vが発生するトルクの平均値は1.491[Nm]となる。ロータ銅損の平均値は46[W]である。この場合、図1の誘導モータ全体のトルクは、1.491×14=20.874[Nm]となる。
ここで、図8の83の目標分布関数Dist1である理想的な台形形状の磁束密度分布から計算した図27と、離散分布関数Dist2へ変換した離散的な図14の磁束密度分布から計算した図33とを比較すると、磁束密度分布と電圧は階段状になり変わるが、ロータ電流には大きな差がないことが分かる。図27のトルク平均値は1.592[Nm]だったので、図33のトルクは6.3%低下している。この例では、離散分布関数Dist2の方が少し小さなトルク値となったが、目標分布関数Dist1で計算した値と大きな差とはならない。
前記説明では、界磁束が固定の状態で、ロータがCWへすべり周波数Fsで回転する場合のロータ電流、トルクなどについて説明した。実際には、ロータが回転するので、ステータへ供給する各相の周波数が回転数と共に上がり、各相の巻線の電圧Vxyが界磁磁束φmと周波数に比例して大きくなり変化する。しかしこの時、ロータ側の電圧、電流、トルクは、定性的に、磁束密度分布とすべり周波数に依存する特性であり、前記説明の特性と大きな差は無い。誘導モータの出力パワーP[W]は、(80)式から(83)式となる。
また、各ステータ磁極の歯の磁束、各相の電流、各相の電圧は円周方向に離散的であり、各磁束密度は前記離散分布関数Dist2となり、不連続な値となる。しかし、ロータの回転数が0から増加すると、ステータの各歯に作用する界磁磁束φmの位相が高速に変化することになり、前記不連続性が薄れて、次第に平均値的に作用するようになる。そして、特にロータ電流Irは(77)式の1次遅れ電流なので平滑化効果があるので、結果として、誘導モータの動作が、図8の前記目標分布関数Dist1の動作に近づいて、種々脈動の少ない特性になる。なお、ステータ電流、ステータ電圧の具体的な作成方法は後述する。具体的な制御方法についても後述する。
前記の様に、図1の磁束分布に関わって、最初は、図8の目標分布関数Dist1に示す理想的な正弦波、台形波で、ロータ電流、トルクなどの代表的な特性の概略、傾向について説明した。その後、離散分布関数Dist2へ変換した離散的な図14の磁束密度分布から、図1の各巻線へ通電すべき励磁電流成分を計算し、トルクを計算する例を示した。実際の誘導モータの制御では、前記の例のように、種々の磁束分布形状に応じて、各相の電流指令値を求めて、ロータ回転に応じて逐次計算し制御する。
ここで、請求項1の主旨について説明する。従来の界磁磁束の扱いが正弦波分布などのひとかたまりの扱いであったのに対し、請求項1では、界磁磁束のエアギャップ面の円周方向の磁束密度を各歯ごとに離散化して扱い、複数に離散化した磁束密度の分布をそれぞれに独立して制御する方法である。具体的には、エアギャップ面円周方向の前記離散分布関数Dist2を求め、各相の励磁電流成分を求め、指令して制御する。そして、それらに関わるステータ巻線構成、ステータの波の構成、ロータ巻線構成、駆動回路、モータ制御手段を備えている。それらの具体的構成、及び、制御方法の一部は後述する。ここでは、まだ、ステータ電流の通電方法を説明していない。分布状態の自在な制御を実現するためには、順次説明しているように、多くの技術が必要となる。
前記構成、制御方法の結果、エアギャップ面円周方向の磁束密度分布を自在に制御することが可能となり、ロータ電流をトルク発生に効果的な電流波形となるように制御できる。そして、誘導モータのトルクの増大、効率向上、小型化、低コスト化などが可能となる。駆動回路の電流容量低減、小型化も可能となる。
なお、前記目標分布関数Dist1、及び、離散分布関数Dist2の対象としてエアギャップ部の磁束密度分布の制御の例を説明したが、磁束密度分布とは限らない。制御的には、例えば、エアギャップ面の磁界の強さH[A/m]の分布、あるいは、起磁力Q[A]の分布、あるいは、ステータ巻線の電流分布などに置き換えることもできる。それらも本発明に含むものとする。また、エアギャップ部以外の磁気抵抗を0と仮定して、誘導モータ簡素化モデルで説明しているが、エアギャップ部以外の各部の磁気抵抗に磁気抵抗の値を持たせて計算することもできる。即ち、例えば図7の特性などから磁気抵抗値を計算しても良い。計算が難しくなるが、ステータの歯周辺の磁気抵抗に限られるので、近似したモデルとすることもできる。それらも本発明に含むものとする。なお、請求項1の実施例については、後に改めて説明する。
次に、誘導モータのロータ電流の波形をさらに改善し、トルクを増大し、効率を向上する方法について説明する。図8の81、82、83、84などの磁束密度分布に、さらに、任意形状の磁束密度分布を部分的に付加し、その付加磁束φadd[Wb]によりロータ電流の波形を改善する。それは、図26、図27、図29等に示したロータ電流Irが、(77)式に従い、ロータ回路時定数T=Lrw/Rrである0.00005/0.002=0.025[sec]の時定数で位相遅れを発生した結果、平均トルクが減少している。その位相遅れの一部を補償して改善し、平均トルクを増大する方法として活用できる。
図34は、図8の84に示す、正弦波状の磁束密度の目標分布関数Dist1に、ロータ電流Irの位相遅れを補うように、補償用の付加磁束φadd[Wb]を付加した特性の例である。φaddを付加する前の特性は、84の正弦波状磁束密度分布の前記図26である。図34の駆動条件等は、前記図26の場合と同じである。図34の各特性は、図1のロータ巻線1Uと1Vが通過するエアギャップ部の磁束密度Bgap、ロータ電流Ir、トルクであり、横軸を時間t[sec]で示している。すべり周波数Fsは5[Hz]とする。
図34の342は、付加する磁束密度成分の例を示す特性である。図1のステータ円周方向位置θscs[°]では、−51.4[°]から−25.7[°]の間で+0.25[T]の付加磁束φadd[Wb]を付加し、+128.6[°]から+154.3[°]の間で−0.25[T]の付加磁束φadd[Wb]を付加した例である。この区間を、図1のロータ巻線1Uと1Vが回転しながら通過するので、図34の時間軸で示す342の成分は、−0.0286[sec]から−0.0143[sec]までの間+0.25[T]となり、+0.0714[sec]から+0.0.0857[sec]までの間−0.25[T]の磁束密度成分となっている。図34の341は、図26の正弦波状の磁束密度分布の特性である261へ前記342の成分を付加し、加算した特性であり、ロータ巻線が通過する場所の磁束密度を時間軸で示した特性である。
図34の346は、図26のロータ電流264であり、比較のため示している。344は、341の磁束密度で、(73)式により電圧が発生し、(77)式の電圧方程式に従って通電するロータ電流Ir[A]である。344は前記346に比較して、部分的に電流が増加していることを確認できる。345は、(81)式により界磁磁束φmとロータ巻線の電流Irが発生するトルクであり、その平均値は1.278[Nm]である。図1の誘導モータの合計のトルク平均値は(82)式に従い、14倍の17.892[Nm]となる。そして、付加磁束φadd[Wb]を付加した図34のトルク平均値1.278[Nm]は、それ以前の図26のトルク平均値1.136[Nm]に比較して12.5[%]増加した。
次に、図35は、図8の83に示す理想的な台形状の磁束密度分布の目標分布関数Dist1の特性として示した前記図27へ、付加磁束φadd[Wb]を付加した特性の例である。
図35の駆動条件等は、前記図26、図34の場合と同じである。すべり周波数Fsは5[Hz]とする。
図35の時間軸で示す352の成分は、図1のロータ巻線1Uと1Vが回転しながら前記付加磁束φadd[Wb]を通過するときの磁束密度Bgap[T]の成分である。なお、この352は、前記図34の342と同じ例である。図35の351は、図27の理想的な台形状の磁束密度分布の特性である271へ前記352の成分を付加し、加算した特性であり、ロータ巻線が通過する場所の磁束密度を時間軸で示した特性である。図35の356は、図27のロータ電流274であり、比較のため示している。354は、351の磁束密度で、(73)式により電圧が発生し、(77)式の電圧方程式に従って通電するロータ電流Ir[A]である。354は前記356に比較して、部分的に電流が増加していることを確認できる。355は、(81)式により界磁磁束φmとロータ巻線の電流Irが発生するトルクであり、その平均値は1.754[Nm]である。図1の誘導モータの合計のトルク平均値は(82)式に従い、14倍の24.563[Nm]となる。そして、付加磁束φadd[Wb]を付加した図35のトルク平均値1.754[Nm]は、それ以前の図27のトルク平均値1.592[Nm]に比較して10.2[%]増加した。
次に、図36は、図14に離散分布関数Dist2の特性例として示した磁束密度分布へ、付加磁束φadd[Wb]を付加した特性の例である。図35の、理想的な台形状の磁束密度分布の目標分布関数Dist1の特性に、対比して示す。図36の駆動条件等は、前記図26、図34、図35の場合と同じである。すべり周波数Fsは5[Hz]とする。
図36の時間軸で示す362の成分は、図1のロータ巻線1Uと1Vが回転しながら前記付加磁束φadd[Wb]を通過するときの磁束密度Bgap[T]の成分である。なお、この362は、前記図34の342、及び、前記図35の352と同じ例である。図36の361は、図33の離散的な台形状の磁束密度分布の特性である271へ前記362の成分を付加し、加算した特性であり、ロータ巻線が通過する場所の磁束密度を時間軸で示した特性である。図36の366は、図33のロータ電流334であり、比較のため示している。
364は、361の磁束密度で、(73)式により電圧が発生し、(77)式の電圧方程式に従って通電するロータ電流Ir[A]である。364は前記366に比較して、部分的に電流が増加していることを確認できる。365は、(81)式により界磁磁束φmとロータ巻線の電流Irが発生するトルクであり、その平均値は1.651[Nm]である。図1の誘導モータの合計のトルク平均値は(82)式に従い、14倍の23.114[Nm]となる。そして、付加磁束φadd[Wb]を付加した図35のトルク平均値1.651[Nm]は、それ以前の図33のトルク平均値1.491[Nm]に比較して10.7[%]増加した。また、図35の目標分布関数Dist1の理想的な台形状分布である場合と比較して、大きな差はなく、同様のトルク増大効果が得られる。
以上、図34、図35、図36に、ロータ電流の位相遅れによるトルク低下を補償するために、付加磁束φadd[Wb]を付加してトルクを増加させる具体的な例を示した。本発明では、各歯ごとの励磁を自在にできるので、付加磁束φadd[Wb]を付加することができる。前記の例では、磁束密度の分布が矩形形状で単純な例を、それぞれの図の例に付加した。しかし、付加磁束φadd[Wb]の円周方向位置、数、分布の形状は自由に選択できる。他方、軟磁性体の最大磁束密度の制約、モータ回転数の制約、駆動回路の電力素子の電流、電圧、モータの振動、騒音などの制約などがある。そして、この付加磁束φaddは、モータの回転数、トルクの発生状況、駆動回路の電源電圧Vpwなどの運転状況に応じて、分布の形状などを変えながら制御することができる。また、付加磁束φaddの目的も、トルク増加だけでなく、力率改善、振動や騒音の低減などに活用しても良い。
次に、ロータ電流Irを電流指令値の通りに通電する方法について示す。ここで、指令値通りのロータ電流Ircとは、例えば、図27において、磁束密度分布Bgapを初期値として与えてロータ巻線の磁束密度の時間関数を得て、(73)式、(77)式によりロータ電流Irを求める時に、漏れインダクタンスLrwを0と仮定した、ある意味理想的なロータ電流Irである。その理想的なロータ電流の例は、図27の273である。
図27では、ロータ電流Irは、(77)式の関係であることから、ロータ電圧Vrに対して1次遅れの電流となっている。今、これとは逆に、例えば図27の273をロータ電流指令値Ircとして与え、必要なロータ電圧Vrcを求める。
Vrc=Lrw・dIrc/dt+Irc・Rr
=Lrw・ΔIrc/Δt+Irc・Rr (93)
この時、Δtは制御サンプリングタイムで、ΔIrcは図27の273の該当部におけるΔt間の変化量である。ロータ電流指令値とする273を通電するために必要な電圧を計算したことになる。そして、ロータ巻線へこのロータ電圧Vrcを発生可能な磁束密度Bgapを、(73)式を変形した次式で求める。
Bgap=Vrc/(ωs・Mr×Wm×2) (94)
なお、これら(93)式、(94)式で求めた磁束密度Bgapは理論上の磁束密度であり、モータの電磁鋼板の飽和磁束密度、例えば2.0[T]を超えた計算値になることも多い。
そのように、許容値以上に大きな磁束密度Bgapであったり、磁束密度の時間変化率が異常に大きい場合などは、現実に制御できない計算値となる。この状態を回避するため、(94)式で求めた磁束密度Bgapの計算値を、制御可能な値に制限する、補正することができる。磁束密度Bgapの制限、補正を行った後は、図26、図27、図35、図33、図36等に示したように、(73)式でロータ巻線の電圧Vrを改めて計算する。そして、ロータ電流Irを(77)式に従った(88)式、(89)式で改めて再計算する。そして、(81)式で該当するロータ巻線のトルクTrnなどを計算し、モータ制御に活用する。
図37は、前記の様に、初期のロータ電流指令値Ircを与え、正確に制御、通電する具体的な計算例である。誘導モータへの通電の諸条件は図27と同じで、ロータはCWへすべり周波数5[Hz]で回転する。モータ諸定数も同じである。前記ロータ電流指令値Ircは、図27の273であり、図37の374である。図37の376は、図27の274のロータ電流Irであり、対比して比較するため、参考に記載している。373は(93)式で求めたロータ電圧Vrcで、371は(94)式で求めたロータ巻線の磁束密度Bgapである。375は、(81)式で求めたロータ巻線のトルクである。372は、(93)式の右辺第1項の(Lrw・dIrc/dt)の電圧成分を(94)式で磁束密度成分へ換算した値である。それは、図27の271の磁束密度から図37の371の磁束密度への変化量であり、追加された磁束密度成分である。従って、372の磁束密度成分を追加することにより、図27のロータ電流Irの1次遅れを解消し、補償したとも言える。
図37の375のトルクの平均値は、2.584[Nm]で、図27のトルク平均値1.592[Nm]に比較して62.3%増加している。しかし、図37では、エアギャップ部の磁束密度Bgapの最大値が2.166[T]にもなり、歯の最大磁束密度はその2倍近くの4[T]程度の磁束密度になるので、磁性材料的に困難であり、計算上の架空の値である。例えば、磁束密度を半分以下に小さな値とすれば、磁束密度Bgapの最大値を1[T]程度とすることができ、先の比較は相対的に成り立つ。なお、前記371の磁束密度Bgapは374のロータ電流指令値Ircから逆算した値なので、当然、371の磁束密度Bgapをモータへ与えた場合に(88)式、(89)式で計算されるロータ電流Irは374のロータ電流指令値Ircに一致する。
次に、図37の特性において、371の磁束密度Bgapが1[T]を越えないように制限を加えた例を図38に示す。図38の381は、ロータ巻線の磁束密度Bgapで、前記371を最大値が1[T]、最小値が−1[T]となるように制限した特性である。この場合、図27の271の磁束密度Bgapに対して付加する磁束密度が図38の382となる。383は、(73)式で求まるロータ電圧Vrである。そして、(88)式、(89)式で計算されるロータ電流Irは384となる。386は、図27の274のロータ電流Irであり、対比して比較するため、参考に記載している。385は、(81)式で求で求めたロータ巻線のトルクである。
図38の385のトルクの平均値は、1.847[Nm]で、図27のトルク平均値1.592[Nm]に比較して16%増加している。図38の付加磁束382は、最大値をカットしただけで、付加磁束の適正化までは行っていないので、改良の余地がある。
次に、図37の371では、過大な磁束密度Bgapが発生する誘導モータの動作領域の例を示した。この磁束密度Bgapは、(93)式、(94)式で示したように、トルクが大きく、すべり周波数Fs[Hz]が大きい領域の特性の例である。トルクが1/2程度の動作領域で、すべり周波数Fsを5[Hz]から2.5[Hz]へ半減し、Bgapの最大磁束密度を1[T]とした例を図39に示す。391はロータ巻線の磁束密度Bgapである。図27の特性において、すべり周波数Fsを5[Hz]から2.5[Hz]へ半減した時のロータ電流が図39の396であり、その時の磁束密度に対して付加する磁束密度が図39の392となる。393は、(73)式で求まるロータ電圧Vrである。そして、(88)式、(89)式で計算されるロータ電流Irは394となる。395は、(81)式で求で求めたロータ巻線のトルクである。図39の395のトルクの平均値は、1.184[Nm]で、図27のすべり周波数Fsを2.5[Hz]とした時のトルク平均値1.105[Nm]に比較して7.1%増加した。さらに改良の余地がある。なお、最大磁束密度を設定してソフトウェアで制御する方法は、例えば、(94)式の計算結果が最大値を超えた場合、その許容する最大値へ置き換えて制御でき、困難な計算ではない。結果として、(93)式、(94)式での計算を部分的に使用することになる。また、対象とする目標分布関数Dist1は、例で示した台形波以外へも適用できる。
なお、前記図37、図38、図39等の例では、理論的に解り易くするため、磁束密度Bgapが急激に立ち上がり、磁束密度Bgapの時間変化率が大きい部分がある。この磁束励磁には、励磁電流をステップ的に増加する必要があり、極低速回転以外では現実的に困難である。現実的には、ロータ回転数に合わせて、磁束密度Bgapの急激な立ち上がりを緩和して、急激な立ち上がりを傾斜を持たせた特性に修正する必要がある。また、前記図8の目標分布関数Dist1の81、82、83では、解り易くするために、単純な台形波形状で説明している。そして、図27等の時間関数の台形形状に関しては、台形形状の角部に相当する時間微分値がステップ関数で不連続な値となり、その励磁電流成分を駆動する電圧がステップ的になる制御的な困難さがある。要するに、矩形波形状、台形波形状においても、その角部形状に丸みを持たせて滑らかな形状とすることにより、前記の細かな困難さを解消することができる。誘導モータの静音化の効果も期待できる。
なお、すべり周波数Fsが小さい時は、ロータ電流の位相遅れが小さく、ここで述べている位相遅れの改善手法の効果は小さくなる。誘導モータの出力が大きく、トルクが大きい時はすべり周波数Fsが大きくなり、ロータ電流Irの位相遅れが大きくなるのでその弊害が大きくなり、位相遅れの改善手法の効果大きい。また、正弦波の磁束分布の場合、(93)式、(94)式により磁束を付加しても、正弦波の加算はやはり正弦波となるので、この改善手法だけでの効果は無い。図34の例の様に非正弦波とする必要がある。
以上、ここまで、主に、図1の断面図に示す7相交流、2極、14歯、14スロット、各相の全節巻き巻線、ロータで構成する誘導モータの例について、本発明の誘導モータ制御に使用する個別技術について説明した。ここで、改めてそれらの個別技術の概要を記述する。
具体的な個別技術の一つは、全節巻き巻線と仮想の集中巻き巻線とそれらの電流の相互関係、相互の電流変換、相互の電圧変換に関わる技術である。各歯のエアギャップ部の磁束密度Bgapを仮想の集中巻き巻線の電流IsfnCで容易に表現し、数値化できる。他の個別技術の一つは、誘導モータのエアギャップ部円周方向の磁束密度Bgapの分布状態を定義する技術である。例えば、図8に示す理想的な形状目標分布関数Dist1と、各歯により離散値化された現実の分布状態である離散分布関数Dist2とがあり、それらの間で相互変換も行う。離散分布関数Dist2は、例えば、図9、図14等である。他の個別技術の一つは、図1の断面図上の誘導モータを、7相それぞれの変数で表して分布状態も含めて表現する座標であり、実軸座標と称している。他方、界磁磁束の回転状態を基準に表す回転座標で、こちらについても、7相それぞれの変数で表して分布状態も含めて表現する座標であり界磁磁束φmの回転位置をθscmと共に表し、MN座標と称している。そして、実軸座標とMN座標との座標変換を行う。
他の個別技術の一つは、正弦波状、台形波状、矩形波状などの自在な分布状態の磁束密度Bgapからステータの励磁電流成分を導く方法である。他の個別技術の一つは、磁束密度の前記分布状態とすべり周波数Fs[Hz]から、電圧方程式に基づいて、個別のロータ巻線のロータ電圧Vr[V]、ロータ電流Ir[A]、トルクT[Nm]のその瞬時の過渡的な値を継続的に求める方法である。誘導モータの動作が定常状態にある場合には、特に、一つのロータ巻線のトルク平均値にロータ巻線の数を乗じて誘導モータの合計トルクを求めることができる。また、各ロータ巻線の各相トルクを合計してトルク瞬時値も計算できる。また、基本構造に起因するトルクリップル成分を求めることもできる。他の個別技術の一つは、図1の制御モード指令CRM、ロータ回転数Nr、トルク指令Tcにより、前記図8の目標分布関数Dist1の81、82、83、84などを選択し、より適した制御状態で駆動することである。他の個別技術の一つは、ロータ電流Irの1次遅れを補うような磁束密度の分布を付加し、電流の遅れを補償し、モータのトルク増加、モータ効率の改善を行うことである。
これらの各個別技術は、本発明の主要な技術である、各歯ごとの磁束密度の制御、即ち、誘導モータのエアギャップ部円周方向の磁束密度Bgapの分布状態を、例えば、矩形形状に近い台形波から正弦波に近い台形波、そして、正弦波の分布状態で制御するために使用する技術である。以下、これらの技術を使って、図2の制御ブロックダイアグラムの例について説明する。なお、前記以外の他の個別技術については、説明の過程で都度開示する。
図2は誘導モータの速度制御の概略を示すもので、本発明制御のブロックダイアグラムの例である。図2に記載している各ブロックの個々技術について、本発明の要素技術でもあるので、先に説明しているものもある。少し重複するが、図2の機能の概要について、ここで再度説明する。その後に、各ブロックの機能について、関連する式などを含めて順次詳細に説明する。
図2では、誘導モータの速度指令22である、角周波数指令ωrc[rad/sec]に対して、検出値である速度角周波数ωr[rad/sec]をフィードバック制御して、21の誘導モータの速度を制御する。誘導モータ21の電流を界磁励磁電流成分と、トルク成分であるロータ電流成分に分けて制御し、図2の後方で両電流の指令成分を合成し、また、必要に応じて2Rのフィードフォワード成分を加算し、24のPWM制御器でパルス幅変調し、図82、図83などの直流電圧源とパワートランジスタなどで構成する25の駆動回路で誘導モータ21へ電圧、電流を供給する。また、図2の2Xは各相の電流のそれぞれを検出する電流検出器で、2Yはステータの各歯の磁束[Wb]あるいは磁束密度[T]を検出する磁束検出器で、2Zはロータの位置および速度を検出する位置検出器である。なお、これらの検出器には種々の構成があり、センサレス検出の場合もあり、具体的手段を特に限定しない。28は位置検出器のインターフェイスである位置情報手段PORDで、ロータの回転角位置θr[°]と回転角速度[rad/sec]を検出する。また、図2の23の制御モード指令CRMは、通常運転モード、高感度運転モード、低感度運転モード、高効率運転モードなどの誘導モータの運転モードを指令することができる。
各変数の信号伝達方向を示す矢印付き単線で示し、矢印付き2重線はその変数が多相の変数であることを示す。例えば、7相のモータの場合、矢印付き2重線で示す電流信号は7相分の電流信号を含んでいて、各相の電流を、それぞれに、並列に制御することを示している。図42のように、それぞれに並列して、フィードバック制御する状態を示している。他方、図2の22の速度の角周波数指令ωrc[rad/sec]、すべり角周波数ωs[rad/sec]、トルク誤差補正ωster[rad/sec]などは矢印付き単線で示していて、各相に共通の変数である。
次に、具体的な制御方法を説明する。各相の界磁励磁電流指令成分IsfnCMcと界磁励磁電流検出成分IsfnCMdとは、界磁電流成分をフィードバック制御により制御する。これらの信号は仮想の集中巻き巻線の電流値であって、回転座標であるMN座標上の値である。また、各相のロータ電流指令成分IsrnFMcとロータ電流検出成分IsrnFMdとを、フィードバック制御により制御する。これらの信号は全節巻き巻線の電流値であって、回転座標であるMN座標上の値である。
このように、各変数は各部分において、全節巻き巻線の値と仮想の集中巻き巻線の値とのどちらの値で制御しても技術的には等価であり、どちらでも表現できる。また、物理的にも、図1の全節巻き巻線のモータ構成を集中巻き巻線へ変更することもでき、全節巻き巻線と集中巻き巻線とが混在した構成とすることもできる。また、全節巻きと集中巻きの関係は、電流検出器2X、磁束検出器についても同様であり、形態を変形できる。また、誘導モータの電流について、前記のように、各電流成分に分類し、分けて制御する例を説明したが、分け方は様々な変形が可能であり、分けない方法もある。また、固定座標である実軸座標の値と回転座標であるMN座標の値とのどちらの値で制御しても等価である。それらは、後に示す方法により相互に変換できる。このように、図2のブロックダイアグラムの各部分のそれぞれを、他の形態で表現することができ、制御的には等価である。従って、図2のブロックダイアグラムを多くの形態に変形することができる。
次に、図2の速度制御部について説明する。22の速度の角周波数指令ωrc[rad/sec]からロータの速度検出値であるロータ角周波数ωr[rad/sec]を加算器29で減算し、フィードバック制御する。その速度誤差を比例積分補償器2Aへ出力し、2Aの出力としてトルク指令Tcを生成する。なお、比例積分補償器は、入力の比例計算、入力の積分計算、あるいは、入力の微分計算などを行い、各々比例定数を乗じてそれらを加算して合計値を出力する。また、それらの値には最大値を制限するリミッター機能を設けるなど、種々工夫をすることも多く、一般的に広く使用されているものである。
2Bは電流指令発生手段IAGである。トルク指令Tcとロータの角周波数ωrと23の制御モード指令CRMとを入力とし、各相のエアギャップ面の磁束密度Bgapnとすべり角周波数ωsを出力する。各相の磁束密度Bgapn[T]の発生には、図8に示す様な目標分布関数Dist1を発生する必要がある。なお、図2の磁束密度Bgapnなどを示す2重線の信号伝達の記号は、前記の様に、各相の7相分の変数を含んでいて、各相の信号を、それぞれに、並列に制御することを示している。例えば、2重線の信号伝達で示す、図2の各相の磁束密度Bgapnの周辺を具体的に図示すると、図42のような構成となる。
図2の各相の磁束密度Bgapnとは、図1の誘導モータのA2相ステータ磁極11のエアギャップ面の磁束密度Bgapa、B2相ステータ磁極13の磁束密度Bgapb、C2相ステータ磁極15の磁束密度Bgapc、D2相ステータ磁極17の磁束密度Bgapd、E2相ステータ磁極19の磁束密度Bgape、F2相ステータ磁極1Bの磁束密度Bgapf、G2相ステータ磁極1Dの磁束密度Bgapgであり、図42の各値である。これらをまとめて磁束密度Bgapnと称している。従って、これらの磁束密度の値を定めると、誘導モータのエアギャップ面の磁束密度の分布状態である前記離散分布関数Dist2を定めたことでもある。
図2の2Bの電流指令発生手段IAGでは、制御モード指令CRMが通常運転モードの場合、トルク指令Tc[Nm]と誘導モータの回転角速度ωr[rad/sec]と駆動回路の電源電圧Vpw[V]とを勘案し、誘導モータのエアギャップ面の磁束密度Bgap[T]の、図8に示す様な目標分布関数Dist1を発生する。例えば、図1のステータのAD2相全節巻き巻線1Nと1Pの巻線電圧Vad[V]は、ファラデーの電磁誘導の法則から次式となる。
Vad=ωf×Mr×Bgap×Wm×2×Nws/2
=ωf×Bgap×Mr×Wm×Nws (95)
Mr[m]はロータの半径、Wm[m]はロータの有効長、Nws/2[turn]は各スロットの巻回数で、各相の全節巻き巻線の巻回数である。また、界磁磁束φmの界磁角周波数ωf[rad/sec]は、ロータの回転角速度ωrとすべり角周波数ωsの和であり、次式である。
ωf=ωr+ωs (96)
目標分布関数Dist1の最大磁束密度Bmax[T]は、各巻線電圧が電源電圧Vpw[V]を越えないように、また、高速回転での定出力特性を配慮して、(95)式より、概略次式で計算できる。
Bmax=Vpw/(ωf×Mr×Wm×Nws) (97)
なお、目標分布関数Dist1の一部が最大磁束密度Bmax[T]を越える場合には、その部分で計算誤差が発生することになるが、無視して速度フィードバックループでその誤差を挽回する、あるいは、前記計算誤差を例外処理的に補正することも可能である。
ここで、誘導モータのトルクTを発生する各ロータ電流Irnの指令値について、その制御条件等を確認する。あるロータ巻線に通電するロータ電流Irは、前記(77)式の電圧方程式で示される。ロータ電流Irは微分方程式となり、ロータ電流Irが1次遅れの値となるので、ロータ電流Irの特定には時間経緯の情報が必要である。また、そもそも、ロータの電流値を高速で制御できない原因は、ロータ巻線が回転側にあって、ロータ電流Irを電気回路で直接駆動できない点にある。また、誘導モータの制御の各制御サイクルにおいて、電流指令発生手段IAGの計算は、通常、その制御サイクルの時間Δtである0.0002[sec]というような時間の中で、比較的早めに行うことが多い。そのため、誘導モータ制御の各制御サイクルにおいて、電流指令発生手段IAGの計算段階では、前記関係から、磁束密度の分布状態である前記離散分布関数Dist2とすべり角周波数ωsを指令しても、その時点ではロータ電流IrとトルクTを特定できないという曖昧さが残る。後に説明するように、速度フィードバック、磁束密度検出、電流検出などにより、適切なトルクが発生するようにロータ電流を制御し、結果として、ロータ電流とトルクが適正値となるように収束させる。この様な制御条件であって、誘導モータの種々の制御方法が考えられる。その一つの制御例を図2のブロックダイアグラムに示している。図2の種々変形が可能である。
2Bの電流指令発生手段IAGでは、その一つの方法として、トルク指令Tcとロータ回転角周波数ωrの入力より、磁束密度の目標分布関数Dist1とすべり角周波数ωsのデータを求めて誘導モータを制御する。具体的には図40の例に示す様に、マップ形式の表データの形態にして、Dist1とωsの有限個数の情報を記憶し、全ての動作点の目標分布関数Dist1とすべり角周波数ωsを内挿計算で求めて制御に使用する。図40のωr1、ωr2、ωr3等の横軸はロータ回転角周波数ωrの各値であり、T1、T2、T3などの縦軸はトルク指令Tcの各値である。データ欄のDt11、Dt33、Dt55等には、各々、該当するトルク指令Tcであり該当する回転角周波数ωrにおける目標分布関数Dist1とすべり角周波数ωsのデータを記憶しておく。なお、この表データは、制御対象の誘導モータの諸特性を含めて、事前に作成しておく。ほとんどの場合、IAGの入力のトルク指令Tcとロータ回転数ωrの値は表の上には無いので、表上の各値から内挿計算で、目標分布関数Dist1とすべり角周波数ωsを求める。なお、2BDは、図2の各ブロックで必要となる種々データを記憶するメモリーである。
例えば、図2の電流指令発生手段IAGの入力であるロータ回転角周波数ωrの値が図40のωr1とωr2の間の値Pであり、トルク指令Tcの値がT3とT4の間の値Qである場合の内挿計算の例を示す。まず、IAGの前記入力条件から、図40のデータ欄のDt14、Dt24、Dt13、Dt23の範囲内にあることが分かる。次に、ロータ回転角周波数ωrに関わる内挿計算として、ωr1とPとωr2の値の関係から、Dt14とDt24に記憶しているデータを比例配分して図40のデータDtPQを求める。同様に、Dt13、Dt23に記憶しているデータを比例配分して図40のデータDtRSを求める。次に、トルク指令Tcに関わる内挿計算として、T3とQとT4の値の関係から、DtRSとDtPQを比例配分して図40のデータDtXYを求める。データDtXYが、ロータ回転角周波数ωrの値がPで、トルク指令Tcの値がQである動作点の目標分布関数Dist1とすべり角周波数ωsのデータである。なお、内挿計算の方法は、単純に比例配分する内挿計算、曲率を配慮した内挿計算などが使用できる。また、ロータ回転角周波数ωrの代わりに界磁励磁角周波数ωfなどを使用することもできる。
前記の様に、図40のDt14、Dt24、Dt13、Dt23などのデータには、誘導モータの諸特性、制御装置の駆動方法などを埋め込むことになる。一つの例として、電気自動車EVの主機用モータの回転数とトルクの特性例を図41に示す。特に、太線部は各回転数における最大出力値を示している。領域Aは低速回転での大トルク領域で、登坂運転度に必要である。領域Cは定出力特性の領域で、界磁弱め制御を行う。領域Bは高速回転領域で、周波数の問題、誘導モータの巻線インダクタンスと電圧の問題などがある。領域Dは市街地走行など、高頻度に使用される領域なので、省エネルギーモード運転が求められる。なお、用途により、求められる図41の様なモータ出力特性は異なる。図40の各データとして、回転角周波数ωrとトルク指令Tcに応じた、目標分布関数Dist1、すべり角周波数ωsなどのデータをメモリー2BDへ記憶しておく。また、図2の制御モード指令CRMに応じて、図40の様なマップ形式の表データを複数持ち、切り替えることもできる。例えば、前記省エネルギーモード運転の場合は、界磁励磁電流成分とトルク電流成分の比率を変えて、モータ損失を低減することができる。
次に、電流指令発生手段IAGの中で、求めた前記目標分布関数Dist1から離散分布関数Dist2へ変換する。具体的には、図36に示す様な目標分布関数Dist1から、図12、図14、図17に示す様な離散分布関数Dist2へ変換する。これらの各図の特性は、前記の様に、各相、各歯近傍のエアギャップ部の磁束密度を示している。そして、これらの特性から、電流指令発生手段IAGの出力である各相の磁束密度Bgapn[T]が得られる。なお、図36の目標分布関数Dist1、図14、図17などの離散分布関数Dist2では、最大磁束密度が1[T]の代表例を示しているが、図41の領域C、領域B等の運転では界磁弱め制御を行う領域なので、最大磁束密度0.5あるいは0.25[T]等に弱めて制御することになる。
また、前記の様な、図2の2重線の内容を示す例として図42を示し、その構成と作用について説明する。図42は、図2の電流指令発生手段IAGから励磁電流発生手段IFG、そして、フイードバック制御を行う加算器2Eの周辺を、2重線が意味する各相の構成として示している。なお、ここでは、2重線の意味する構成について主に説明し、IAG、IFG、2Eの加算器などの機能詳細は後に説明する。また、図2の内、図42が示す領域は回転座標であるMN座標で各変数を扱っている。図1の誘導モータの例で説明する。また、図2と図42で同一記号のものは同一のものを指している。
図2の電流指令発生手段IAGの2重線で示す出力Bgapnは、図42に示す様に、7相の離散的な磁束密度Bgapa、Bgapb、Bgapc、Bgapd、Bgape、Bgapf、Bgapgを表している。図2の2Cは励磁電流発生手段IFGで、図42に示す様に、7相の各相の励磁電流発生手段IFGa、IFGb、IFGc、IFGd、IFGe、IFGf、IFGgwを構成し、それぞれ、7相の各相の励磁電流指令IsfaCMc、IsfbCMc、IsfcCMc、IsfdCMc、IsfeCMc、IsffCMc、IsfgCMcを出力する。図2の2Eはフイードバック制御を行う加算器で、図42に示す様に、7相の各相の加算器42Ea、42Eb、42Ec、42Ed、42Ee、42Ef、42Egに分かれている。そして、7相の各相の加算器は、それぞれ、励磁電流指令から励磁電流検出値を減算して励磁電流誤差を求め、比例積分補償器を通して、各相の励磁電圧成分を出力する。例えば、A2M相の場合は、IsfaCMcからIsfaCMdを減算し、比例積分補償器を通して、A2M相の励磁電圧成分VsfaCMを出力する。他の相も同様である。
図42で示した様に、図2の2重線で示す信号伝達の記号は、図1の誘導モータ、図2の各相の制御処理を並行して行うことを示している。そして、各相のステータ磁極のエアギャップ部の磁束密度を、それぞれ、独立に制御することが可能な構成としている。また、図2、図57、図58に示す他の2重線も、図42と同様に、各相を並行に制御することを示している。なお、各相の巻線へ供給する電流、電圧についても自由度が必要であり、図82、図83などの駆動回路が必要となる。各相の電流検出は勿論のこと、図2の構成の場合、各相の磁束の検出も必要であり、後に示す。磁束密度などを各相ごとに制御することにより、図27から図39に示したようなトルクの増加が可能となり、誘導モータの高効率化、小型化、低コスト化が可能となる。また、駆動回路の利用率も向上し、小型化、低コスト化が可能となる。
次に、請求項1の実施例について説明する。請求項1は本発明の基本的な構成であり、その実施例は図2を始め、いくつかの図に関わっている。また、請求項1については、目標分布関数Dist1、及び、離散分布関数Dist2の説明に関わり、概略の趣旨等を先に説明している。
請求項1の実施例は、図1の7相の誘導モータと、図82、図83の7相の駆動回路と、図82の制御装置826の構成である。そして、制御装置826の機能として、図2のブロックダイアグラムに示す様に、各相ごとに各歯のエアギャップ部の磁束密度を設定してステータの励磁電流指令成分IsfFXcを求め、ロータ巻線に流れるロータ電流Irを求めてステータ巻線へ流れるロータ電流成分IsrFXへ換算し、前記励磁電流成分IsfFXcと前記ロータ電流成分IsrFXcを重畳してステータの各巻線へ通電する誘導モータとその制御装置である。
なお、前記の各技術の詳細については、本明細書の別紙で個々に説明している。また、集中巻きから全節巻きへの変換技術、全節巻きから集中巻きへの変換技術、目標分布関数Dist1から離散分布関数Dist2への変換技術、離散分布関数Dist2から目標分布関数Dist1への変換技術についても説明した。ロータ電流Irを電圧方程式に基づいて求める方法、ロータ電流Irをステータのロータ電流成分IsrFXへ換算する方法についても記載する。また、相数については7相の例を説明しているが、後に示す5相などの他の相数の誘導モータにも同様に適用することができる。
また、各歯を通過する磁束がエアギャップ部で分布する円周方向範囲を、請求項では磁性区間という言葉で定義している。これは、歯の円周方向幅が比較的狭く、スロットの開口部が広い誘導モータもあり、歯の円周方向幅では定義できないためである。また後に説明する、歯の無いいわゆるコアレス構造の誘導モータにおける、各相の磁気的な円周方向範囲を定義するためでもある。
また、交流モータの相数は、その数が紛らわしい。電気工学的には、図1の誘導モータの相数を7相交流と呼んでいる。例えば、図1の1Fの1個の全節巻き巻線で、AD2相巻線1Nと、その逆相であるAD2/相巻線1Pとを兼ねている。そのため、7個の巻線で図1の誘導モータを構成している。しかし、物理的、数学的には、図1の誘導モータは14個のスロット、巻線を持っている。巻線技術的にも、巻線の変形を行って、例えば、トロイダル状の環状巻線を使用する場合、集中巻き巻線を使用する場合において、巻線の数が14個になる。有限要素法での電磁界解析で、図1の各電流要素を定義する場合においても、14個の要素を定義することになる。本発明では、図1の誘導モータを従来の7相交流と呼ぶ場合と、個別要素を説明する時の「14個」とを使い分ける。
また、誘導モータのステータ磁極を構成する歯の存在は必須条件ではない。後に述べる、いわゆるコアレス構造のモータがその例であり、歯が存在しない。あるいは、それらの中間的なステータ磁極の構成も可能である。それらは、それぞれの長所、短所がある。この様な場合において、従来の通常使用する軟磁性体の歯などに相当する領域を指す言葉として、本発明では磁性区間という言葉も使用している。歯の区間と磁性区間とは、電磁気的に同じ意味で使用している。
次に、請求項2の実施例について説明する。請求項2は請求項1の従属項でその実施例は、図1の7相の誘導モータと、図82の7相の駆動回路と、図82の制御装置826の構成である。そして、制御装置826の機能として、図2のブロックダイアグラムに示す様に、ロータ回転角周波数ωrとトルク指令Tc及び制御モード指令CRMに応じて図8に示す様な目標分布関数Dist1を設定し、ステータの歯などの前記磁性区間に制約して、図14などの様に各歯ごとに円周方向に離散した分布関数Dist2へ変換し、各歯ごとのエアギャップ部の磁束密度をそれぞれ制御する誘導モータとその制御装置である。即ち、請求項2は、台形波形状などの理想的な分布関数から、現実の離散的な歯の階段状の磁束密度分布へ変換する技術である。
図8には81、82、83、84の4種類の目標分布関数Dist1の例を示し、図12から図24に離散分布関数Dist2の種々例を示した。なお、誘導モータの出力トルクの大きさの観点では、84の正弦波よりもより矩形波に近い81の台形波の方が大きなトルクを発生できる。しかし、駆動回路の電流供給の制限から電流変化率の制約があり、高速回転でも81の台形波形状で駆動できるわけではない。また、図12から図24では主に最大磁束密が1[T]の例について、モデル的に示しているが、例えば、高速回転では電源電圧の都合で界磁弱めが必要であり、最大磁束密度を0.5あるいあは0.25[T]等と小さくする必要がある。また、歯の電磁鋼板の部分も、その磁気的非線形性と鉄損特性から各磁束密度を使い分けることになり、例えば、高効率運転では1.6から1.8[T]程度が現実的であるなど、用途によって円周方向の歯幅とスロット幅の比率を選択することになる。また、82、83、84の台形波の形状についても、直線をつなぎ合わせた形状の例を示しているが、角部を丸みを持たせた曲線上にしても良く、直線部も緩やかな曲線にしても良く、非対称な形状に変形しても良い。例えば、図8の82を一点鎖線で示すような、角部が丸みを帯びた目標分布関数Dist1へ変形することができる。これらの形状は、誘導モータの特性と図2の電流指令発生手段IAGの入力であるトルク指令Tcとロータ回転角周波数ωrの条件などにより都合の良い目標分布関数Dist1を選択、設計することができる。
次に、請求項3の実施例について説明する。請求項3は請求項1の従属項でその実施例は、図1の7相の誘導モータと、図82の7相の駆動回路と、図82の制御装置826の構成である。そして、図2のブロックダイアグラムで示す誘導モータの制御を行う。図2の電流指令発生手段IAGにおいて、図8の81、82、83、84などの目標分布関数Dist1に対して、ロータ電流Irの位相遅れを補うように、界磁磁束φmの進行方向先端部の近傍に、ロータ電流の位相遅れを低減するためにその補償用の付加磁束φadd[Wb]を付加する。
具体的には、前記図34で、342で示す磁束を付加し、トルクが12.5%向上した例を示した。前記図35で、352で示す磁束を付加し、トルクが10.7%向上した例を示した。前記図36で、352で示す磁束を付加し、トルクが10.7%向上した例を示した。このように、界磁磁束φmの一部に電流の位相遅れを低減するような、補償用の付加磁束φadd[Wb]を付加し、トルクを増加することが可能である。但し、位相遅れの補償用の付加磁束φadd[Wb]は、磁束密度や回転角速度ωrなどの制約があるので、付加磁束φaddの位相、形状を適正な値とする必要がある。
次に、請求項4の実施例について説明する。その実施例の構成は、図1の7相の誘導モータと、図82の7相の駆動回路と、図82の制御装置826の構成である。そして、制御装置826の機能として、図2のブロックダイアグラムに沿ってソフトウェアで実現する。具体的な波形例を図37、図38に示す。この実施例の機能は、その瞬間のロータ電流Irの目標分布関数Dist1を設定し、そのロータ電流指令値Ircを正確に通電することである。通常、ロータ電流Irは(77)式に示す微分方程式に従うので、ロータ巻線に発生するロータ電圧Vrに対して1次遅れの電流となるので、図26、図27、図29、図31等の例に示す様に、電流Irの位相が遅れ、電流Irの振幅が低下し、電流Irの波形も変わる。この対策として、(77)式のロータ電流Irへロータ電流指令値Ircを代入し、(93)式よりロータ電圧Vrcを求める。
ここで、具体例として、ロータ電流指令値Ircが前記図27の273である場合について説明する。前記の様に、273は、図8の83に示す、磁束密度の目標分布関数Dist1である時に、漏れインダクタンスLrwを0と仮定した、ある意味理想的なロータ電流Irである。273をロータ電流指令値Ircとした各成分の特性は、前記図37である。(93)式で求めた前記ロータ電圧Vrcは、図37の373である。次に、このロータ電圧Vrcを発生することのできる磁束密度Bgapを(73)式あるいは(94)式で求め、図37の371となる。なお、372は(93)式の第1項の電圧成分を(94)式で磁束密度へ変換した値であり、図37のエアギャップ部磁束密度371は図27の磁束密度271に前記372付加した値である。また、図37の216は図27のロータ電流274であり、ロータ電流Irが376から374へ大きく変わっていることが確認できる。
もし、ステータの相数が多く、ロータ巻線も多く、それぞれの円周方向の離散性が小さければ、図37の374に示すロータ電流Irが通電することになる。しかし実際には、図1のように14個の歯で離散的に構成している。従って、371で示す磁束密度の目標分布関数Dist1を、前記図33で示したように、離散分布関数Dist2へ変換してロータ電流Irを、改めて計算する必要がある。改めて計算するロータ電流Irは、図33の例のように、各歯の磁束密度が離散的になるため、少し脈動的になるが、ある程度の回転数以上になれば、平均化効果により脈動分は低減する。
前記の磁束密度の離散分布関数Dist2が求められた後、図2のブロックダイアグラムに示す様に制御する。それらの動作は、各々、後に説明する。それらの概略の動作は、磁束密度の前記離散分布関数Dist2から各歯の磁束密度Bgapnを抽出し、(64)式のように各歯の仮想の集中巻き励磁電流成分IsfnCMへ変換し、駆動回路を含めてフィードバック制御する。後に詳しく説明する。
一方、ロータ電流成分は、各歯の磁束密度Bgapnを(73)式へ代入してロータ巻線のロータ電圧Vrを求め、(77)式でロータ電流Irを求める。そして、後で説明する方法で、ロータ電流Irをステータの各相のロータ電流成分Isrnへ換算する。各相のロータ電流成分Isrnは、駆動回路を含めてフィードバック制御する。そして、ステータ励磁電流制御の誤差電圧とロータ電流制御の誤差電圧を加算し、各相の誤差電圧を求める。そして、以上の計算はMN座標で行っていたので、実軸座標の各相誤差電圧へ変換する。各相誤差電圧をPWM制御し、電力変換し、誘導モータの各相巻線へ電圧、電流を供給する。これらの図2のブロックダイアグラムの各動作は、後に説明する。
前記図37では、単純に理論的に展開する例を説明したが、エアギャップ部の磁束密度371が2[T]になり、現実には無理で大きすぎる値である。前記図38に、最大磁束密度を小さくし、1[T]となるように修正した例を示した。図37の付加した磁束密度成分372を、図38の382のように修正し、磁束密度の目標分布関数Dist1が381の様にし、エアギャップ部の最大磁束密度を1[T]と修正した。その結果、ロータ電流Irの分布状態は、図37の374から図38の384へ減少する。しかしそれでも、当初の図27の274のロータ電流Irである図38の386より大きな値である。
図38の385は、円周方向のトルクの分布状態である。なお、このトルクは、ロータ巻線の仮定する円周方向間隔当たりの発生トルクである。また、円周方向の連続関数である目標分布関数Dist1の延長で計算した値を示しているが、実際のシミュレーションとしては、図36のように、各歯の磁束密度を離散分布関数Dist2へ変換して各ロータ電流Irを計算した方が、原理に忠実である。また、MN座標上で示しているので、図2のブロックダイアグラムなどのいずれかの処理で、MN座標から実軸座標へ変換して、誘導モータの各相巻線の電圧、電流とする必要がある。以上のように、図38では、常時、(93)式、(94)式に従った制御を行うわけではなく、部分的に(93)式、(94)式に従って制御する例を示した。
また、前記図37の371では一部で2[T]もの過大な磁束密度Bgapとなり、図38では最大磁束密度を1[T]とした。また、前記図39では、すべり周波数Fsを5[Hz]から2.5[Hz]へ半減する状態では、(93)式の第1項が減少し、(94)式の磁束密度Bgapの値も低下する例を示す。また、図39では、図38の様に、最大磁束密度が1[T]を越えないような処置も行っている。図39の各波形は前記の通りである。なお、図27の特性をすべり周波数Fsを2.5[Hz]とした時のロータ電流Irは396である。これに対し、図39のロータ電流Irは394であり、電流位相が進んでいて、ロータ電流の位相遅れが相当に解消されている。
以上の図37、図38の例は、図41の回転数とトルクの特性上では、領域Aから領域Cのような、比較的大きな磁束密度Bgapで、大きなすべり角周波数ωsでの動作を示す図である。一方で、図39はすべり周波数Fs[Hz]を1/2とした特性で、相対的にトルクが1/2の領域の特性である。図41において、使用頻度の高い領域Dでは、べり周波数Fs[Hz]と磁束密度Bgapが小さな領域で使用することが多い。例えば、高効率運転等の制御モード指令CRMの場合で、トルク指令Tcが小さい場合は、磁束密度Bgapを小さな値とすることも多い。ロータ電流Irの位相遅れを低減する技術は、図41においてトルク指令Tcが小さい領域で効果的である。
次に、請求項5の実施例について説明する。請求項5は請求項1、請求項2の従属項でその実施例は、図1の7相の誘導モータと、図82の7相の駆動回路と、図82の制御装置826の構成である。そして、制御装置826の機能として、図2のブロックダイアグラムに示す様に、誘導モータの界磁磁束φm、各巻線の電圧、電流などを制御する。図2の2Bは前記の様に電流指令発生手段IAGであり、各相の歯の近傍エアギャップ部のA2相磁束密度Ba、B2相磁束密度Bb、C2相磁束密度Bc、D2相磁束密度Bd、E2相磁束密度Be、F2相磁束密度Bf、G2相磁束密度Bgを生成する。
従って、図1の誘導モータの界磁磁束φmの大きさ[Wb]は、各歯のエアギャップ面の面積を掛けて次式となる。Mr[m]はロータ半径、Wm[m]はロータの有効長さである。
φm=(Ba−Be+Bb−Bd+Bg−Bc+Bf)×2π・Mr/14×Wm (98)
なおここで、界磁磁束φm[Wb]は、MN座標において、図8上で、ステータの円周方向角度位置θscsが−90°から+90°までの磁束とする。また、MN座標を想定した図1上で、θscsが−90°からCCWへ+90°までのエアギャップ部を通過する磁束である。なお、MN座標における各歯の名称、各磁束密度の名称を、現実の誘導モータであって実軸座標である図1の名称をそのまま同じ名称を使用することとする。従って、例えば、実軸座標のA2相の歯11は、MN座標上のA2相の歯と、MN座標において示す界磁磁束の回転角位置θmnだけ円周方向位置が異なる。また、各歯は円周方向に歯幅だけ離散化しているので、実軸座標とMN座標を相互に変える時には、離散化に関わる校正も必要である。
この様な状態、条件で、界磁磁束φmの大きさ[Wb]ができるだけ変化しないように制御する。それは、MN座標上の(98)式の界磁磁束φm[Wb]を一定値に制御することである。誘導モータは、界磁磁束φm[Wb]を円周方向に移動することにすべり角周波数ωsを発生し、トルクにほぼ比例する有効なロータ電流を発生する。しかし、界磁磁束φm[Wb]の大きさが変化すると、その大きさの時間変化率に比例した無効電圧成分がロータ巻線に誘起し、(77)式の左辺に発生し、ロータ巻線に無効電流成分が発生する。この無効電流成分は、トルク発生に寄与せず、ロータ銅損が発生するのでモータ効率が低下する。また、誘導モータの電磁気的動作に誤差が発生することにもなり、問題である。
但し、前記無効電流成分は、有限の値であり、ロータ銅損の増加も有限であり、許容値以下であれば大きな問題とはならない。ステータの歯幅があり、離散的な磁束分布であり、前記無効電流成分を0とすることは無理である。また、界磁磁束φm[Wb]の意図的な可変制御も行う。例えば、図41の領域Cでモータ回転数が変化する場合は、界磁弱めが必要であり、界磁磁束φmを意図的に可変することになる。また、誘導モータを領域Dなどで高効率運転する場合には、界磁励磁電流成分とトルク電流成分とのバランスを取って制御するので、界磁励磁電流成分の増減を行うことになる。定性的には、界磁磁束φmの大きさの時間変化率が小さければ、ロータ巻線に発生する無効電圧が小さく、実用上の問題は少ない。また、モータ回転数がある程度高速になれば、回転に伴う界磁磁束の変動成分はモータ回転数に伴って高周波になる。この様な場合、ロータ巻線の回路時定数より十分に高周波であれば、(77)式で発生するロータの無効電流成分も限定的になり、弊害も少ない。逆に、低速回転では、各歯の磁束密度が歯幅の単位で離散的になるため、各ロータ巻線の鎖交磁束が変化して無効電流が増加する問題がある。また、界磁磁束φmの変動成分の周波数がロータ巻線の回路時定数の前後である場合は、ロータ電流の無効電流成分が大きくなり易く、ロータ銅損が増加し好ましくない。
次に、請求項6の実施例について説明する。請求項6は請求項1、請求項2の従属項でその実施例は、図1の7相の誘導モータと、図82の7相の駆動回路と、図82の制御装置826の構成である。そして、制御装置826の機能として、図2のブロックダイアグラムに示す様に、誘導モータの界磁磁束φm、各巻線の電圧、電流などを制御する。図2の2Bは前記の様に電流指令発生手段IAGであり、前記図8の81、82、83、84などのように、エアギャップ面の磁束密度目標分布関数Dist1を設定し、誘導モータの磁束分布形状を制御する。
請求項6は、ステータの界磁磁束φmのエアギャップ部の磁束密度を円周方向に任意形状の目標とする分布状態の関数Dist1を、ロータ回転角速度ωr、あるいは、トルク指令Tcの値に応じて可変して制御する。例えば、図41の回転数とトルクの特性上で、領域Aの0[rpm]近傍で大きなトルクを出力する時には、MN座標上において、図8の81の磁束密度の目標分布関数Dist1として、界磁励磁電流成分IsfFMを求めて制御する。図31等の例に示したように、磁束密度の分布が矩形形状に近づいた方が大きなトルクを出力でき、モータ効率も良い。しかし、回転数が増加すると、界磁励磁電流成分IsfFM及びロータ電流成分IsrFMの時間変化率が回転数と共に大きくなって、台形の急勾配部の通電が困難になってくる。そこで、図41の領域Aの0[rpm]から回転数が増加すると、徐々に、82そして83の目標分布関数Dist1の形状を変えていく。回転数の増加と共に、台形形状の勾配部の時間変化率を減少して、ステータ電流の通電を容易にする。
ここで、各相の電流通電を容易にするため、82の実線から一点鎖線のように波形形状を滑らかに変形しても良い。また、高速回転では、台形形状から84の正弦波波形としても良い。さらに高速回転で電流値も大きく、電流の通電が困難になる領域では、電流の振幅を小さくせざるを得ない。図41の領域Cは、界磁弱めによる定出力制御の領域であり、回転数と共に磁束密度を低減する必要がある。界磁磁束φm[Wb]を小さくする必要がある。前記の様に、高速回転では、84の正弦波波形としても良い。
また、磁束密度の目標分布関数Dist1は、回転数だけでなく、トルク指令Tcの大きさにより選択し、可変することもできる。例えば、トルク指令Tcが小さな領域では、強いてモータ効率を重視する必要がなく、84の正弦波波形としても良い。また、図2の制御モード指令CRMが高効率運転モードで、トルク指令Tcが小さい場合は、磁束密度を小さめにした方が良いこともある。また、制御モード指令CRMが低騒音運転モードで、トルク指令Tcが小さい場合は、磁束密度を小さめにし、磁束密度の目標分布関数Dist1は正弦波波形にした方が良いこともある。なお、これらの目標分布関数Dist1の選択、および、可変は、例えば、前記の図40の様なマップ形式の表に関係するデータを埋め込み、前記の様に、内挿計算で求めることができる。このように、請求項6は、ロータ回転角速度ωr、あるいは、トルク指令Tcの値に応じて目標分布関数Dist1を可変する制御である。
次に、請求項8の実施例について説明する。前記の様に、界磁磁束φmの円周方向回転位置θmnを基準として回転する座標をMN座標とし、現実の座標を実軸座標とする。両座標は、相互に座標変換する。そして、各磁束密度、電流などの多相の変数を、相間で独立に制御する。あるいは、各磁束密度、電流などの自在に可変できる分布形状の状態を制御する。
例えば、前記図8の各目標分布関数81、82、83、84は、界磁磁束φmの回転角位置θfが0°の例なので、θmn=0[°]であり、実軸座標とMN座標との波形形状が同じ例である。また、前記図17は、図8の磁束密度Bgapの目標分布関数82を、図1の7相、14歯の誘導モータを対象として、離散分布関数Dist2へ変換した実軸座標の図であり、界磁磁束φmの回転角位置θfが0°の例である。例えば、A2相ステータ磁極11の磁束密度Baは、図17のθscsが0°から360°/14=25.7°までの範囲であり、Baは1[T]である。一方、図24は、図17の状態を座標変換してMN座標で示していて、MN座標の回転角θmnは0°である。なお、図24の横軸はθscmで表現している。この時のA2相ステータ磁極11の磁束密度は、図24のθscmが0°から360°/14=25.7°までの範囲であり、Baは1[T]である。
また、前記図20は、実軸座標で、界磁磁束φmが図17の状態からCCWへ90°進んだ状態を示している。例えば、この時のA2相ステータ磁極11の磁束密度Baは、図20のθscsが0°から360°/14=25.7°までの範囲である。この範囲での磁束密度Baは、図示するように一定値ではないので前記の様に平均値を取り、0.5[T]である。一方、図24は、図20の状態を座標変換したMN座標でもあり、この場合のMN座標の回転角θmnは90°である。この時のA2相ステータ磁極11の磁束密度は、図24のθscmが(0°−90°)=−90°から(360°/14−90°)=−64.3°までの範囲である。この時のA2相ステータ磁極11の磁束密度は、図24のθscmが−90°から(360°/14−90°)=−64.3°までの範囲であり、この範囲での磁束密度Baは、図示するように一定値ではないので前記の様に平均値を取り、0.5[T]である。以上示した図17、図24、図20の例は、離散分布関数Dist2の状態で座標変換を行った例である。
次に、請求項9の実施例について説明する。請求項9は請求項8において、実軸座標とMN座標との座標変換を、該当する各変数の円周方向幅の平均値を取って座標変換後の値とする方法である。離散分布関数Dist2の変数の場合、円周方向の値がステータの各歯幅Pstで離散値化しているので、MN座標の回転角θmnが歯幅Pstの整数倍でない場合は、何らかの平均値化の計算が必要となる。変換後の歯の領域が、変換前の2つの歯幅Pstにまたがる関係となる。
即ち、実軸座標とMN座標との座標変換では、MN座標の回転角θmnだけ各変数の分布を回転させること、円周方向に離散値化した各相の変数の値を各相の領域により平均化することが必要になる。なお、目標分布関数Dist1を実軸座標とMN座標とで座標変換を行っても良い。その場合には、目標分布関数Dist1は円周方向に離散値化していないので、各相の変数の値を円周方向の歯幅Pstの範囲を換算して平均化するという必要がない。従って、この場合の座標変換は、単純に、回転座標の円周方向角度θmnを変えるだけで良い。
前記図25は、実軸座標のモータ断面である図1をMN座標の円周方向角度θmnだけ回転したモータ断面のイメージである。この図25上では、界磁磁束φmがMN座標内での円周方向角度θscm=0[°]の方向、即ち、紙面の右側に向いている。界磁磁束φmの実軸座標における円周方向移動は、その円周方向角度θmnで示す。
実軸座標からMN座標への座標変換MNCで、単純平均の例について説明する。前記の様に、例えば、磁束密度について、MN座標の回転角θmnがステータ磁極幅Pstの1.3倍、即ち、θmn=1.3×360°/14=33.4[°]の場合では、図25のMN座標のA2M相ステータ磁極は、図1の実軸座標のB2X相ステータ磁極13のCW側の30%とE/2X相ステータ磁極1AのCCW側の70%に該当する。従って、単純な平均で計算する場合、MN座標のA2M相ステータ磁極251の磁束密度BaMは、実軸座標のB2X相ステータ磁極13の磁束密度BbXの30%とE/2X相ステータ磁極1Aの磁束密度Be/Xの70%を加え合わせて得ることができる。この様に、MN座標の回転角θmnがステータ磁極幅Pstの端数倍であっても、実軸座標からMN座標へ変換することができる。また、集中巻き励磁電流成分の分布状態、全節巻き励磁電流成分の分布状態についても、同様に、実軸座標からMN座標へ変換することができる。
図25の他のステータ磁極についても同様に求めることができる。
次に、MN座標から実軸座標への変換方法RMNCについて説明する。変換方法RMNCの具体的な方法は、前記の変換方法MNCと同じである。ただ、変換の対象となるステータ磁極が入れ変わる。例えば、MN座標の回転角θmnがステータ磁極幅Pstの1.3倍、即ち、θmn=1.3×360°/1433.4[°]の場合では、図1の実軸座標のA2X相ステータ磁極は、図25のMN座標のG2M相ステータ磁極25DのCCW側の30%とD/2M相ステータ磁極258のCW側の70%に該当する。従って、単純な平均で計算する場合、実軸座標のA2X相ステータ磁極11の磁束密度BaXは、MN座標のG2M相ステータ磁極25Dの磁束密度BgMの30%とD/2相ステータ磁極258の磁束密度Bd/Mの70%を加え合わせて得ることができる。
また、離散分布関数Dist2の座標変換における平均値の計算方法は、他の方法でも良い。例えば、各変数についてその目標分布関数Dist1が解っている場合は、前記のステータ磁極幅Pstの1.3倍において、2つの歯にかかる幅が30%と70%の単純比例配分では無く、目標分布関数Dist1の重み付けを加味した平均値を取ることもできる。例えば、座標変換前の離散化されたある歯の磁束密度を、そのステータ磁極幅Pstの範囲で均一とは考えず、そのステータ磁極幅Pstの範囲で目標分布関数Dist1に比例した不均一な分布があると想定して計算する。そして、座標変換前の2つの歯にまたがる、座標変換後の歯の範囲幅Pstで磁束密度を面積積分して平均値を求め、座標変換後の磁束密度とする。各歯について、同様に計算する。この様に、離散分布関数Dist2の座標変換を、目標分布関数Dist1に基づいて、各ステータ磁極幅Pstの範囲内で仮想の分布を作ることにより、座標変換に起因する誤差を低減できる。
次に、請求項10の実施例について説明する。請求項10は、誘導モータの電流制御において、全節巻き電流成分と仮想の集中巻き電流成分とを相互に変換して制御する方法である。例えば、図1に示す全節巻き巻線で構成する誘導モータを、前記図3に示す仮想の集中巻き巻線で構成する誘導モータを想定し、全節巻き電流を集中巻き電流へ換算することができる。逆に、集中巻き電流を全節巻き電流へ換算することができる。
前記図3で示したように、仮想の集中巻き巻線を想定すると、各歯のエアギャップ部の磁束密度と集中巻き電流の関係が単純で、その制御的な処理が容易である。後で示す様に、各歯の磁束密度を検出する場合、その時の励磁電流成分を容易に計算できる。ここで、前記図7の磁界の強さH[A/m]と磁束密度B[T]との関係で、各励磁電流成分は(59)式から(71)式のように求められる。なお、図7の簡略化した特性74で説明しているが、勿論、71の正確な特性で計算、制御する方が精度良く誘導モータを制御できる。但し、図1、図3の場合、全節巻き巻線の短節巻係数は、集中巻き巻線の短節巻係数の数倍なので、銅損が大きくなるため、集中巻き巻線は実用的には不利である。
図1の全節巻き巻線は、全節巻き電流と磁束密度の積に比例してトルクを生成できるので、集中巻きに比較して効率良くトルクを生成でき、トルクの計算、制御も容易なので都合が良い。従って、計算、制御の段階で集中巻き電流成分を使用しても、実際の通電段階では全節巻き電流へ変換して、図1の全節巻き巻線へ通電する。
なお、前記の仮想の集中巻き巻線の集中巻き電流を使用せず、都度、全節巻き電流成分で界磁励磁電流成分を表現することもできるので、その方法を否定するものではない。例えば、A2相の集中巻き電流Iaは、(1)式と(5)式の一部として位置付けて、集中巻き電流成分と考えずに制御することもできる。また、モータの内径側と外径側に2個のモータ複合したような複合モータの場合、トロイダル状の環状巻線とすることができ、図1の全節巻き線が2個に分離したような構成とできる。モータの軸方向に2個のモータ複合したような複合モータの場合も同じである。
なお、ロータの全節巻きロータ巻線でMN座標の値であるロータ電流IrFMを求め、ステータのロータ電流成分IsrFMへ換算する方法については後に示す。また、ロータ電流IrFMとステータのロータ電流成分IsrFMとの起磁力が相殺し、誘導モータが正確に制御された場合には、両電流が原理的には界磁磁束φmにほとんど影響しない点についても後に示す。
次に、請求項11の実施例について説明する。請求項11は、全節巻き巻線の全節巻き電流と、仮想の集中巻き巻線の集中巻き電流とが電磁気的に等価となるように、相互に電流変換を行う方法である。例えば、前記図1の7相の全節巻き巻線の誘導モータと、図1に等価で、前記図3の仮想の7相の集中巻き巻線の誘導モータの各電流について説明する。これら誘導モータは、ロータ中心に対して点対称の構成である。しかし、電流の通電方向は、図1の全節巻き巻線の場合、180°反対側のスロットに巻回する巻線にはお互いに反対向きの電流を通電する。図3の集中巻き巻線の場合は、例えば、図3のA2相巻線31とA/2相巻線32に流れるA2相電流Iaは逆向きであり、図示するA2相磁束φaを生成する。図1の各全節巻き巻線の巻回数はNws/2である。図3の各集中巻き巻線の巻回数はNws/2である。例えば、A2相磁束φaを生成するA2相巻線31とA/2相巻線32にはA2相電流Iaを通電し、これら2つの巻線の巻回数の和はNwsである。
図3の仮想の7相の集中巻き巻線の各相の電流を、電磁気的に等価に、図1の全節巻き巻線の各相の電流へ電流変換する方法は、前記の様に、(1)式から(7)式である。逆に、図1の全節巻き巻線の各相の電流を、電磁気的に等価に、図3の仮想の7相の集中巻き巻線の各相の電流へ電流変換する方法は、前記の様に、(15)式から(21)式である。相数の異なる誘導モータ、分布巻きの誘導モータ、あるいは、モータ構成を変形した誘導モータについても、同様の方法で、電流変換式を導くことができる。
図43と図44に、5相の誘導モータの横断面図の例を示す。図43は各巻線が全節巻き巻線であり、図44は各巻線が仮想の集中巻き巻線で、図43を電磁気的に等価に置き換えたものである。図43と図44との関係は、7相の図1と図3との関係と同じである。図43と図44は、ステータ磁極である歯の数、スロットの数が10個で、ロータには20個のロータ巻線を配置していて、これらは両モータに共通である。
図43の431はA3相ステータ磁極で、432はA/3相ステータ磁極である。433はB3相ステータ磁極で、434はB/3相ステータ磁極である。435はC3相ステータ磁極で、436はC/3相ステータ磁極である。437はD3相ステータ磁極で、438はD/3相ステータ磁極である。439はE3相ステータ磁極で、43AはE/3相ステータ磁極である。コイルエンド43Fで示す巻線は、AC3相の全節巻き巻線であり、AC3相電流Iacを通電する。コイルエンド43Gで示す巻線は、BD3相の全節巻き巻線であり、BD3相電流Ibdを通電する。コイルエンド43Hで示す巻線は、CE3相の全節巻き巻線であり、CE3相電流Iceを通電する。コイルエンド43Jで示す巻線は、DA3相の全節巻き巻線であり、DA3相電流Idaを通電する。コイルエンド43Kで示す巻線は、EB3相の全節巻き巻線であり、eb3相電流Iebを通電する。なお、ステータのこれら各相の電流は、界磁励磁電流成分とロータ電流成分を含んでいる。また、AC3相等の名称末尾の3はモータモデルを判別する番号である。
図44の441はA3相の集中巻き巻線で、442はA/3相の集中巻き巻線であり、両巻線は通常直列に接続し、A3相電流Iaを通電し、Iaの界磁励磁電流成分はA3相磁束φaを生成する。同様に、443はB3相、444はB/3相の集中巻き巻線であり、両巻線へB3相電流Ibを通電し、B3相磁束φbを生成する。445はC3相、446はC/3相の集中巻き巻線であり、両巻線へC3相電流Icを通電し、C3相磁束φcを生成する。447はD3相、448はD/3相の集中巻き巻線であり、両巻線へD3相電流Idを通電し、D3相磁束φdを生成する。449はE3相、44AはE/3相の集中巻き巻線であり、両巻線へE3相電流Ieを通電し、E3相磁束φeを生成する。なお、ここでは、各相電流は界磁励磁電流成分だけについて各相の磁束との関係を述べている。ステータの各相電流にはロータ電流成分も通電するが、ロータの各ロータ電流Irとステータ巻線のロータ電流成分Isrとは電磁気的に起磁力が相殺するように制御するので、各相の磁束はステータの励磁電流成分により生成する。
図43の各相の全節巻き電流と図44の各相の集中巻き電流との関係は、(1)式から(7)式と同様に、次式となる。
Iac=Ia+Ic (99)
Ibd=Ib+Id (100)
Ice=Ic+Ie (101)
Ida=Id+Ia (102)
Ieb=Ie+Ib (103)
図44の各相の集中巻き電流と図43の各相の全節巻き電流との関係は、(15)式から(21)式と同様に、次式となる。
Ia=(Iac−Ibd−Ice+Ida+Ieb)/2 (104)
Ib=(Iac+Ibd−Ice−Ida+Ieb)/2 (105)
Ic=(Iac+Ibd+Ice−Ida−Ieb)/2 (106)
Id=(−Iac+Ibd+Ice+Ida−Ieb)/2 (107)
Ie=(−Iac−Ibd+Ice+Ida+Ieb)/2 (108)
(104)式から(108)式は、該当する磁路、磁束に対する各全節巻き電流の起磁力方向で正負符号を決定し、電磁気的に等価な関係を求めている。例えば、図44のA3相磁束φaについては、A3相の集中巻き巻線441とA/3相の集中巻き巻線442に流れるA3相電流Iaだけが励磁に寄与する。一方、図43では、全ての全節巻き巻線の電流がA3相磁束φaに起磁力を与えている。図44の状態と図43の状態とが等しいとして、(104)式から(108)式となる。なお、アンペアの周回積分の法則に従っているとも言える。(99)式から(108)式により、図43の5相の誘導モータについて、全節巻き電流と仮想の集中巻き電流との相互の電流変換ができる。
次に、請求項12の実施例について説明する。請求項12は、全節巻き巻線の全節巻き電圧と、仮想の集中巻き巻線の集中巻き電圧とが電磁気的に等価となるように、相互に電圧変換を行う方法である。例えば、前記図1の7相の全節巻き巻線の誘導モータと、図1に等価で、前記図3の仮想の7相の集中巻き巻線の誘導モータの各電圧について、(22)式から(42)式に説明した。この誘導モータの前提条件として、円周方向に電気角180°離れた位置に逆相のステータ磁極を配置した構造であれば、これらの式で表現できる。ごく普通のモータ構成である。相数の異なる誘導モータ、分布巻きの誘導モータ、あるいは、モータ構成を変形した誘導モータについても、同様の方法で、電圧変換式を導くことができる。
(22)式から(42)式は、図1に示すAD2相全節巻き巻線1fなどの各相の全節巻き巻線と電圧と、図3のA2相磁束成分φa、B2相磁束成分φb等と関係を示す式である。(29)式から(35)式は、各相の仮想の集中巻き巻線の電圧と図3のA2相磁束成分φa、B2相磁束成分φb等と関係を示す式である。なお、これらの関係は、ファラデーの電磁誘導の法則に従っているとも言える。
また、(29)式から(35)式は、全節巻き電圧から仮想の集中巻き電圧への変換式を兼ねている。(36)式から(42)式は、仮想の集中巻き電圧から全節巻き電圧への変換式である。但し、これらの電圧式では、各巻線抵抗の電圧降下成分を無視している。各巻線の漏れインダクタンス成分を無視している。また、電磁鋼板などの磁性材料の鉄損に起因する電圧成分も無視している。なお、必要に応じて、無視したそれらの電圧成分を付加して、より正確な電圧式に修正することもできる。
次に、図43と図44に示した5相の誘導モータの場合の電圧の変換式について説明する。図43のAC3相の全節巻き巻線43fの電圧Vac等の各相の電圧と、A3相磁束成分φa等との関係は次式となる。図44に示す各磁束成分が各全節巻き線へ鎖交していて、各相の磁束が鎖交する方向により、発生する電圧の極性を決めている。
Vac=Nws/2・d(φa+φb+φc−φd−φe)/dt (109)
Vbd=Nws/2・d(−φa+φb+φc+φd−φe)/dt (110)
Vce=Nws/2・d(−φa−φb+φc+φd+φe)/dt (111)
Vda=Nws/2・d(φa−φb−φc+φd+φe)/dt (112)
Veb=Nws/2・d(φa+φb−φc−φd+φe)/dt (113)
図44のA3相の仮想の集中巻き巻線441、442のA3相電圧Va等と、A3相磁束成分φa等との関係は次式となる。
Va=Nws・dφa/dt=Vac+Vda (114)
Vb=Nws・dφb/dt=Vbd+Veb (115)
Vc=Nws・dφc/dt=Vce+Vac (116)
Vd=Nws・dφd/dt=Vda+Vbd (117)
Ve=Nws・dφe/dt=Veb+Vce (118)
また、(114)式から(118)式は、全節巻き電圧から仮想の集中巻き電圧への変換式を兼ねている。なお、各相の磁束φa、φb、φc、φd、φeは、各相のステータ磁極のエアギャップ部の磁束密度Bgapnとステータ磁極の面積の積であり、歯数が異なるが(62)の様に求める。また、各磁束密度Bgapnは、前記の様に、図2の電流指令発生手段IAGにおいて、図8の81、82、83、84などの目標分布関数Dist1で与えられ、離散分布関数Dist2などを計算して求める。
また、(109)式から(113)式は、仮想の集中巻き電圧へ置き換えて、仮想の集中巻き電圧から全節巻き電圧への変換式として求めることができる。
Vac=(Va+Vb+Vc−Vd−Ve)/2 (119)
Vbd=(−Va+Vb+Vc+Vd−Ve)/2 (120)
Vce=(−Va−Vb+Vc+Vd+Ve)/2 (121)
Vda=(Va−Vb−Vc+Vd+Ve)/2 (122)
Veb=(Va+Vb−Vc−Vd+Ve)/2 (123)
次に、請求項7の実施例について説明する。その実施例は、5相で分布巻線の誘導モータであり、図45、図46、図47の横断面図に示し、説明する。図43は、5相、全節巻き、集中巻き、10スロットの誘導モータである。図45は、図43を変形し、5相、全節巻き、分布巻き、20スロットに変更した誘導モータである。図45の分布巻き構成では、ステータ電流の相数は5相で同じであるが、ステータ巻線、ステータ磁極を分割するので、各種計算に用いる式などが少しずつ異なる。各相のステータ磁極の磁束密度を、正弦波状の分布だけでなく、自在な磁束密度分布に制御するために必要な技術である。
なお、ここで、「全節巻き」と「短節巻き」と「集中巻き」と「分布巻き」という言葉の意味が、曖昧に使われることがあるので、改めて、本発明で使用する「全節巻き」と「短節巻き」と「集中巻き」と「分布巻き」という言葉について確認する。「全節巻き」は巻線のピッチが電気角で180°であり、「短節巻き」は巻線のピッチが電気角で180°未満の意味で使用する。「集中巻き」は一つの相の巻線が一つのコイルにまとまっている状態で、「分布巻き」は一つの相の巻線が二つ以上のコイルに分かれていて二つ以上のスロットに分かれて配置し、通常、直列に接続する状態である。なお、この「集中巻き」の言葉は、一つの歯の周囲にまとまって巻回する巻線という意味にもとれるので、紛らわしい。
従って、図43の43Fは、全節巻き、集中巻きである。一つのスロットに1個のコイルを配置する構成である。図44の441は、巻線ピッチが360°/10なので、短節巻き、集中巻きであり、また、図43に等価な仮想の巻線である。なお、441は一つの歯の周囲にまとまって巻回する巻き線で集中しているが、一つのスロットに2個のコイルを配置する構成である。図45の45Mは、全節巻き、分布巻きである。図46の461は、巻線ピッチが360°/20なので、短節巻き、集中巻きであり、また、図45に等価な仮想の巻線である。これらは、新たな定義ではなく、種々文献に記載されている電気工学の基本的用語と考える。
なお、巻線係数は短節係数と分布係数の積として使用されており、電圧と電流が正弦波駆動の場合に限って、短節巻き電流の有効率、分布巻き電流の有効率を表す。本発明における台形波形状の電流の場合は、従来の巻線係数の定義は当てはまらない。また、同様に、正弦波駆動における力率についても、本発明における台形波形状の電流の場合は、電力の有効率として別の定義が必要になる。例えば、矩形波電圧と同位相の矩形波電流の場合、従来力率へ換算して、力率200%相当と見ることもできる。本発明では、台形波形状から矩形波形状などを利用してモータ利用率、インバータ利用率を向上する技術も示す。
図45の誘導モータは、5相、20歯、20スロットで、各相の巻線を2つのスロットに分けて配置する分布巻きの構成としている。451はAx4相ステータ磁極、452はAy4相ステータ磁極で、453はAx/4相ステータ磁極、454はAy/4相ステータ磁極である。455はBx4相ステータ磁極、456はBy4相ステータ磁極で、457はBx/4相ステータ磁極、458はBy/4相ステータ磁極である。459はCx4相ステータ磁極、45AはCy4相ステータ磁極で、45BはCx/4相ステータ磁極、45CはCy/4相ステータ磁極である。45DはDx4相ステータ磁極、45EはDy4相ステータ磁極で、45FはDx/4相ステータ磁極、45GはDy/4相ステータ磁極である。45HはEx4相ステータ磁極、45JはEy4相ステータ磁極で、45KはEx/4相ステータ磁極、45LはEy/4相ステータ磁極である。なお、Ax4相等の名称末尾の4はモータモデルを判別する番号である。
巻線のコイルエンド部で示す45Mと45Nは、AC4相巻線の分布した全節巻き巻線で、巻回数はそれぞれNws/4であって直列に接続し、AC4相電流Iacを通電する。同様に、45Pと45Qは、BD4相巻線の分布した全節巻き巻線で、巻回数はそれぞれNws/4であって直列に接続し、BD4相電流Ibdを通電する。45Rと45Sは、CE4相巻線の分布した全節巻き巻線で、巻回数はそれぞれNws/4であって直列に接続し、CE4相電流Iacを通電する。45Tと45Uは、DA4相巻線の分布した全節巻き巻線で、巻回数はそれぞれNws/4であって直列に接続し、DA4相電流Idaを通電する。45Vと45Wは、EB4相巻線の分布した全節巻き巻線で、巻回数はそれぞれNws/4であって直列に接続し、EB4相電流Iebを通電する。
図46は、図45の各全節巻き巻線を、電磁気的に等価な仮想の集中巻き巻線へ置き換えた誘導モータである。図45と図46のステータ磁極は同じで、同じ名称を使用している。461と463は、Ax4相の集中巻き巻線で、巻回数はそれぞれNws/4であって直列に接続し、Ax4相電流Iaxを通電し、Iaxの内の励磁電流成分は図示するAx4相磁束成分φaxを生成する。462と464は、Ay4相の集中巻き巻線で、巻回数はそれぞれNws/4であって直列に接続し、Ay4相電流Iayを通電し、Iayの内の励磁電流成分は図示するAy4相磁束成分φayを生成する。465と467は、Bx4相の集中巻き巻線で、巻回数はそれぞれNws/4であって直列に接続し、Bx4相電流Ibxを通電し、Ibxの内の励磁電流成分は図示するBx4相磁束成分φbxを生成する。466と468は、By4相の集中巻き巻線で、巻回数はそれぞれNws/4であって直列に接続し、By4相電流Ibyを通電し、Ibyの内の励磁電流成分は図示するBy4相磁束成分φbyを生成する。469と46Bは、Cx4相の集中巻き巻線で、巻回数はそれぞれNws/4であって直列に接続し、Cx4相電流Icxを通電し、Icxの内の励磁電流成分は図示するCx4相磁束成分φcxを生成する。46Aと46Cは、Cy4相の集中巻き巻線で、巻回数はそれぞれNws/4であって直列に接続し、Cy4相電流Icyを通電し、Icyの内の励磁電流成分は図示するCy4相磁束成分φcyを生成する。46Dと46Fは、Dx4相の集中巻き巻線で、巻回数はそれぞれNws/4であって直列に接続し、Dx4相電流Idxを通電し、Idxの内の励磁電流成分は図示するDx4相磁束成分φdxを生成する。46Eと46Gは、Dy4相の集中巻き巻線で、巻回数はそれぞれNws/4であって直列に接続し、Dy4相電流Idyを通電し、Idyの内の励磁電流成分は図示するDy4相磁束成分φdyを生成する。46Hと46Kは、Ex4相の集中巻き巻線で、巻回数はそれぞれNws/4であって直列に接続し、Ex4相電流Iexを通電し、Iexの内の励磁電流成分は図示するEx4相磁束成分φexを生成する。46Jと46Lは、Ey4相の集中巻き巻線で、巻回数はそれぞれNws/4であって直列に接続し、Ey4相電流Ieyを通電し、Ieyの内の励磁電流成分は図示するEy4相磁束成分φeyを生成する。
図45の相数は5相であり、5種類の全節巻き電流を通電する。しかし、図46では、電磁気的に等価にするためには、5相でありながら、10種類の仮想の電流を通電する必要がある。例えば、図45の45Mと45NはAC4相巻線で、同じAC4相電流Iacを通電するが、Ax4相ステータ磁極451を通過する磁束成分φaxとAy4相ステータ磁極452を通過する磁束成分φayとは異なる値である。その結果、Ax4相の集中巻き巻線461と463へ通電するAx4相電流Iaxと、Ay4相の集中巻き巻線462と464へ通電するAy4相電流Iayとは異なる電流となる。しかし、後で説明するように、これらIaxとIayは一定の関係はある。
図45と図46の各スロットに流れる各電流が等しいとして、次式の関係となる。なお、各巻線の巻回数は、2つに分布するので、Nws/4とする。
Iac=Iax+Icy (124)
Iac=−Iax+Iay (125)
Ibd=Ibx+Idy (126)
Ibd=−Ibx+Iby (127)
Ice=Icx+Iey (128)
Ice=−Icx+Icy (129)
Ida=Idx+Iay (130)
Ida=−Idx+Idy (131)
Ieb=Iex+Iby (132)
Ieb=−Iex+Iey (133)
(124)式から(133)式の関係から、次式の関係でもある。
Iac=(Iay+Icy)/2 (134)
Ibd=(Iby+Idy)/2 (135)
Ice=(Icy+Iey)/2 (136)
Ida=(Idy+Iay)/2 (137)
Ieb=(Iey+Iby)/2 (138)
(124)式から(138)式は、図46の仮想の集中巻き電流から、図45の全節巻き巻線の電流への変換式である。例えば、AC4相の全節巻き巻線の電流Iacは、(124)式、(125)式、(134)式のどの式で計算しても良い。
一方で、(124)式から(133)式の各仮想の集中巻き巻線の電流は、相互に次式の制約の関係があり、それぞれの集中巻き巻線の電流値を自由に設定できない。5相の自由度しか無いので、10個の集中巻き電流を自由に設定できない。
Iax=(Iay−Icy)/2 (139)
Ibx=(Iby−Idy)/2 (140)
Icx=(Icy−Iey)/2 (141)
Idx=(Idy−Iay)/2 (142)
Iex=(Iey−Iby)/2 (143)
次に、図45の全節巻き巻線の電流を図46の仮想の集中巻き電流へ変換する式を次式に示す。
Iax=(Iac−Iac−Ibd−Ibd−Ice−Ice+Ida+Ida+Ieb+Ieb)/2
=−Ibd−Ice+Ida+Ieb (144)
Iay=(Iac+Iac−Ibd−Ibd−Ice−Ice+Ida+Ida+Ieb+Ieb)/2
=Iac−Ibd−Ice+Ida+Ieb (145)
Ibx=(Iac+Iac+Ibd−Ibd−Ice−Ice−Ida−Ida+Ieb+Ieb)/2
=Iac−Ice−Ida+Ieb (146)
Iby=(Iac+Iac+Ibd+Ibd−Ice−Ice−Ida−Ida+Ieb+Ieb)/2
=Iac+Ibd−Ice−Ida+Ieb (147)
Icx=(Iac+Iac+Ibd+Ibd+Ice−Ice−Ida−Ida−Ieb−Ieb)/2
=Iac+Ibd−Ida−Ieb (148)
Icy=(Iac+Iac+Ibd+Ibd+Ice+Ice−Ida−Ida−Ieb−Ieb)/2
=Iac+Ibd+Ice−Ida−Ieb (149)
Idx=(−Iac−Iac+Ibd+Ibd+Ice+Ice+Ida−Ida−Ieb−Ieb)/2
=−Iac+Ibd+Ice−Ieb (150)
Idy=(−Iac−Iac+Ibd+Ibd+Ice+Ice+Ida+Ida−Ieb−Ieb)/2
=−Iac+Ibd+Ice+Ida−Ieb (151)
Iex=(−Iac−Iac−Ibd−Ibd+Ice+Ice+Ida+Ida+Ieb−Ieb)/2
=−Iac−Ibd+Ice+Ida (152)
Iey=(−Iac−Iac−Ibd−Ibd+Ice+Ice+Ida+Ida+Ieb+Ieb)/2
=−Iac−Ibd+Ice+Ida+Ieb (153)
なお、これらの式は、アンペアの周回積分の法則に従っている。
図2の制御のブロックダイアグラムでは、電流指令発生手段IAGにおいて、図8の81、82、83、84などのエアギャップ部の磁束密度の目標分布関数Dist1が決められ、離散分布関数Dist2などを計算して各相の磁束密度Bgapnを求める。具体的には、図45、図46の場合、Ay4相ステータ磁極452の磁束密度Bgapay、By4相ステータ磁極456の磁束密度Bgapby、Cy4相ステータ磁極45Aの磁束密度Bgapcy、Dy4相ステータ磁極45Eの磁束密度Bgapdy、Ey4相ステータ磁極45Jの磁束密度Bgapeyの値を求める。次に、それらの磁束密度Bgapnを実現する仮想集中巻き巻線の各相励磁電流成分IsfnCXを、(63)式、(64)式を変形した次の近似式により求める。
IsfnCX×Nws/4×2=Hgap×Lgap×2 (154)
IsfnCX=(Bgapn/μ0)×Lgap×4/Nws (155)
(155)式で求めるAy4相の励磁電流成分IsfnCXはIayの励磁電流成分で、Cy4相の励磁電流成分IsfnCXはIcyの励磁電流成分である。IayとIcyの励磁電流成分を(139)式へ代入して、Ax4相のIaxの励磁電流成分を求める。同様に、By4相、Dy4相、Ey4相のIby、Idy、Ieyの励磁電流成分を(155)で求め、(140)から(143)へ代入して、Bx4相、Cx4相、Dx4相、Ex4相のIbx、Icx、Idx、Iexの励磁電流成分を求める。図46の全ての仮想集中巻き巻線の励磁電流成分が求まった。図2の制御では、各相の界磁磁束の励磁電流成分は、仮想集中巻き巻線の状態で制御する例であり、後に説明する。
この様に、(124)式から(155)式を使用して、分布巻き巻線の各電流を求め、誘導モータを制御することができる。なお、各電流は、界磁磁束の励磁電流成分とロータ電流成分が含まれているので、それらを分けて計算し、制御する必要がある。また、(124)式から(153)式は、励磁電流成分とロータ電流成分とが含まれた状態で成立する式である。(154)式と(155)式は、励磁電流成分だけを表す式である。
複雑さについて、図45、図46の5相、全節巻き、分布巻き、20スロットの誘導モータと、図43、図44の5相、全節巻き、集中巻き、10スロットの誘導モータとを比較する。数が2倍なので、図45の分布巻きの方が、構成は複雑である。電流制御の観点では、図45、図43の両モータ共に5相の電流であり、同じである。仮想の集中巻き電流から全節巻き電流の変換については、図43の全節巻き、集中巻きの誘導モータは(99)式から(103)式で、図45の全節巻き、分布巻きの誘導モータは(139)式から(143)式で、類似している。全節巻き電流から仮想の集中巻き電流への変換については、図43の全節巻き、集中巻きの誘導モータは(104)式から(108)式で、図45の全節巻き、分布巻きの誘導モータは(144)式から(153)式であり、式の数が2倍になるが、類似している。これらの比較から、制御的な複雑さの観点では、分布巻きの構成とする図45の分布巻きの誘導モータが不利とはならないと言える。また、性能の観点では、図45の分布巻きの誘導モータはより滑らかな起磁力分布を生成でき、高調波成分を低減できる。なお、製造の観点では、誘導モータを簡素な構成としたい場合には、図43の全節巻き、集中巻きの誘導モータの方が適している。
また、分布巻き巻線の誘導モータは、相数が少ない場合にその高調波を低減する効果が大きい。その意味で、5相、7相の誘導モータの高調波成分は少ないので、分布巻きによる高調波低減の効果は、相対的に小さい。また、誘導モータの巻線として平角形状の導線を使用するなどの都合で多スロットにしたい場合、あるいは、精密な誘導モータ制御の実現したい場合などでは、分布巻きは有力な手段の一つである。さらには、本発明技術を応用、変形して、千鳥結線など、他の巻線技術へも使用できる。
次に、図46に示す、仮想の集中巻き巻線の各電圧を次式とする。Ax4相の集中巻き巻線461と463を直列に接続し、両端電圧をVaxとする。他の相も同様である。
Vax=Nws/2・dφax/dt (156)
Vay=Nws/2・dφay/dt (157)
Vbx=Nws/2・dφbx/dt (158)
Vby=Nws/2・dφby/dt (159)
Vcx=Nws/2・dφcx/dt (160)
Vcy=Nws/2・dφcy/dt (161)
Vdx=Nws/2・dφdx/dt (162)
Vdy=Nws/2・dφdy/dt (163)
Vex=Nws/2・dφex/dt (164)
Vey=Nws/2・dφey/dt (165)
次に、図45の5相、全節巻き、分布巻き巻線の各相電圧を、図46の仮想の集中巻き巻線の各相の電圧で示す。図2の制御で用いる各磁束成分、その電圧成分を用いて、実際に電圧、電流を駆動する図45の各相の全節巻き巻線の電圧を求める。それは、仮想の集中巻き巻線の各相の電圧を図1の全節巻き、分布巻きの各相電圧へ変換する電圧変換式でもある。図45のAC4相の全節巻き巻線45Mと45Nとを直列に接続した電圧Vacと、Ax4相磁束成分φax、Ay4相磁束成分φay等との関係は次式となる。他の相も同様の関係である。図46に示す各磁束成分が各全節巻き線へ鎖交していて、各相の磁束が鎖交する方向により、発生する電圧の極性を決めている。
Vac=Nws/4・d(φax+φay+φbx+φby+φcx+φcy−φdx−φdy−φex−φey
−φax+φay+φbx+φby+φcx+φcy−φdx−φdy−φex−φey)/dt
=Nws/2・d(φay+φbx+φby+φcx+φcy−φdx−φdy−φex−φey)/dt
=Vay+Vbx+Vby+Vcx+Vcy−Vdx−Vdy−Vex−Vey (166)
Vbd=Nws/4・d(−φax−φay+φbx+φby+φcx+φcy+φdx+φdy−φex−φey
−φax−φay−φbx+φby+φcx+φcy+φdx+φdy−φex−φey)/dt
=Nws/2・d(−φax−φay+φby+φcx+φcy+φdx+φdy−φex−φey)/dt
=−Vax−Vay+Vby+Vcx+Vcy+Vdx+Vdy−Vex−Vey (167)
Vce=Nws/4・d(−φax−φay−φbx−φby+φcx+φcy+φdx+φdy+φex+φey
−φax−φay−φbx−φby−φcx+φcy+φdx+φdy+φex+φey)/dt
=Nws/2・d(−φax−φay−φbx−φby+φcy+φdx+φdy+φex+φey)/dt
=−Vax−Vay−Vbx−Vby+Vcy+Vdx+Vdy+Vex+Vey (168)
Vda=Nws/4・d(+φax+φay−φbx−φby−φcx−φcy+φdx+φdy+φex+φey
+φax+φay−φbx−φby−φcx−φcy−φdx+φdy+φex+φey)/dt
=Nws/2・d(φax+φay−φbx−φby−φcx−φcy+φdy+φex+φey)/dt
=Vax+Vay−Vbx−Vby−Vcx−Vcy+Vdy+Vex+Vey (169)
Veb=Nws/4・d(+φax+φay+φbx+φby−φcx−φcy−φdx−φdy+φex+φey
+φax+φay+φbx+φby−φcx−φcy−φdx−φdy−φex+φey)/dt
=Nws/2・d(φax+φay+φbx+φby−φcx−φcy−φdx−φdy+φey)/dt
=Vax+Vay+Vbx+Vby−Vcx−Vcy−Vdx−Vdy+Vey (170)
次に、図45の5相、全節巻き、分布巻き、20スロットの誘導モータをより簡単に制御する例を図47に示し、説明する。図45の分布巻きの誘導モータの簡素化制御とは、図43の全節巻き、集中巻き、10スロットの誘導モータを制御するように計算し、その計算の一部を修正する方法である。元々、図45の全節巻き、分布巻きの誘導モータは、図43の全節巻き、集中巻きの誘導モータと類似していて、共通点も多い。そこで、前記簡素化制御では、共通点を流用し、異なる点については簡単な計算で処理する方法である。
ここで、図45の簡素化制御を行うモータモデルとして、図47の誘導モータを説明する。図47の各ステータ磁極は、図45と同じで、20個である。図47の各ステータ巻線は、図43と同じで、5組の全節巻き線である。図示するように、図47の半分のスロットへは巻線を配置していない。471はAC5相の全節巻き、集中巻きの巻線で、図43のAC3相の全節巻き、集中巻きの巻線43Fと同じである。同様に、472はBD5相巻線で、図43のBD3相巻線43Gと同じである。473はCE5相巻線で、図43のCE3相巻線43Hと同じである。474はDA5相巻線で、図43のDA3相巻線43Jと同じである。475はEB5相巻線で、図43のEB3相巻線43Kと同じである。
図45の全節巻き、分布巻きの誘導モータの前記計算式(124)式から(170)式について、図43の全節巻き、集中巻きの誘導モータの前記計算式(99)式から(118)式と比較し、分析する。最初に、図45、図46、図47のAy4相、By4相、Cy4相、Dy4相、Ey4相のステータ磁極に作用する起磁力に着目する。図45の(134)式から(138)式は、図43の(99)式から(103)式に類似している。図45、図46では各巻線の巻回数が半分のNws/4なので、各式が1/2となっている。しかし、起磁力Q[A・turn]で考えると同じ式である。
このことから、図43の誘導モータの各相巻線と図45、図46の誘導モータの各相相巻線へ同じ5相電流を通電すると、同じ起磁力が図43、図44のA3相ステータ磁極431と図45、図46のAy4相ステータ磁極452へ作用する。同様に、図43、図44のB3相ステータ磁極433と図45、図46のBy4相ステータ磁極456へ同じ起磁力が作用する。図43、図44のC3相ステータ磁極435と図45、図46のCy4相ステータ磁極45Aへ同じ起磁力が作用する。図43、図44のD3相ステータ磁極437と図45、図46のDy4相ステータ磁極45Eへ同じ起磁力が作用する。図43、図44のE3相ステータ磁極439と図45、図46のEy4相ステータ磁極45Jへ同じ起磁力が作用する。
これらの結果から、図45、図46のAy4相、By4相、Cy4相、Dy4相、Ey4相のステータ磁極に作用する起磁力Iay、Iby、Icy、Idy、Ieyは、図43、図44のA3相、B3相、C3相、D3相、E3相のステータ磁極に作用する起磁力Ia、Ib、Ic、Id、Ieで計算できる。
Iay=2・Ia (171)
Iby=2・Ib (172)
Icy=2・Ic (173)
Idy=2・Id (174)
Iey=2・Ie (175)
なお、この考察は、アンペアの周回積分の法則から考えても妥当である。
次に、図45、図46のAx4相、Bx4相、Cx4相、Dx4相、Ex4相のステータ磁極に作用する起磁力Iax、Ibx、Icx、Idx、Iexについて考察する。(139)式は、図45、図46のAx4相ステータ磁極451へ作用する起磁力は、図45、図46のAy4相ステータ磁極452へ作用する起磁力とCy4相ステータ磁極45Cへ作用する起磁力との平均値であることを示している。同様に、(140)式より、Bx4相へ作用する起磁力は、By4相の起磁力とDy4相の起磁力との平均値で得られる。(141)式より、Cx4相へ作用する起磁力は、Cy4相の起磁力とEy4相の起磁力との平均値で得られる。(142)式より、Dx4相へ作用する起磁力は、Dy4相の起磁力とAy4相の起磁力との平均値で得られる。(143)式より、Ex4相へ作用する起磁力は、Ey4相の起磁力とBy4相の起磁力との平均値で得られる。
これらの結果から、図45、図46のAx4相、Bx4相、Cx4相、Dx4相、Ex4相のステータ磁極に作用する起磁力は、図43、図44のA3相、B3相、C3相、D3相、E3相のステータ磁極に作用する起磁力で計算できる。
Iax=(Iay−Icy)/2=Ia−Ic (176)
Ibx=(Iby−Idy)/2=Ib−Id (177)
Icx=(Icy−Iey)/2=Ic−Ie (178)
Idx=(Idy−Iay)/2=Id−Ia (179)
Iex=(Iey−Iby)/2=Ie−Ib (180)
また、(171)式から(180)式の図46の仮想の集中巻き電流から図45の全節巻き電流への変換は、(124)式から(138)式の何れかで得られる。5相の自由度しかなく、各仮想の集中巻き電流に相関関係があるので、各全節巻き電流の式がそれぞれ3個の式で表しているが、何れも同じ値となる。
以上のことから、図45の5相、全節巻き、分布巻き、20スロットの誘導モータの各相の電流成分を、図43の5相、全節巻き、集中巻き、10スロットの誘導モータの計算結果からでも求められることを示した。即ち、図45の誘導モータを図47の誘導モータの様にイメージして計算し、仮想集中巻き巻線の電流を(171)式から(180)式で置き換える方法である。なお、図2の制御における、その後のロータ電流の計算、フィードバック制御などは、後に示すが、図45、図46のモータモデルで計算することができる。
また、図45の5相、全節巻き、分布巻き、20スロットの誘導モータの制御を、さらに簡素化して行うこともできる。それは、図43の5相、全節巻き、集中巻き、10スロットの誘導モータであるかのように制御する方法である。なお、この時、図43のモータの各電流の振幅の調整と、各相の電流中心位置が移動するので、例えば、電流位相を円周方向へ図45の1/2スロットピッチ程度シフトすることもできる。この簡素化の方法は、原理的な厳密さは低下するものの、相当の制御精度は得られる。
また、例えば、図45の45Mと45Nの各巻線をそれぞれ2個の全節巻線に分割して4個のAC4相巻線とし、45Nの1個の巻線をCCWへ1スロット分移動し、45Mの1個の巻線をCCWへ1スロット分移動し、各相巻線について同様構成とすることもできる。AC4相の4個の巻線が3個のスロットに分けて配置することになる。それは、図45の構成では、巻線ピッチを360°×9/20=162°とするような構成で、短節巻き、分布巻きである。トルクの高調波成分を低減する効果があり、良く使用される。
そして、多くの巻線形態の誘導モータが可能であり、それらの具体的な計算方法、制御方法は、(124)式から(180)式で示したような、モータモデルと各電流の起磁力などを、近似式ではあるが、忠実に計算、制御する方法があり、他方、図43、図45などの類似した特性の誘導モータのモデルで近似して計算、制御する方法もある。これらの種々巻線形態の誘導モータとその制御装置へ本発明技術を適用でき、本発明に含むものである。
次に、図48に示す、全節巻き巻線と集中巻き巻線との両方の巻線を巻回した誘導モータも可能である。図48の1fは、図1のAD2相全節巻き巻線1Fと同じ構成である。図48の符号を付けていなくて、コイルエンドも記入していない巻線も、図1の各相の全節巻き巻線と同じものである。図48の481、482はA2相の集中巻き巻線、483、484はB2相の集中巻き巻線、485、486はC2相の集中巻き巻線、487、488はD2相の集中巻き巻線、489、48AはE2相の集中巻き巻線、48B、48CはF2相の集中巻き巻線、48D、48EはG2相の集中巻き巻線であり、図3の各相の集中巻き巻線と同じ構成である。
この様に、全節巻き巻線と集中巻き巻線との両方を巻回しておき、界磁磁束の励磁電流成分、ステータ側のロータ電流成分、あるいは、ロータ電流の遅れを補償する電流成分なとを、制御的な都合を勘案して両巻線へ分担して通電することができる。両巻線にはそれぞれの特徴があるので、特長を生かした制御が行えるとも言える。例えば、図2の制御では、後で示す様に、界磁磁束が各歯ごとの集中巻き励磁電流に比例するので、図48の481、482のような集中巻き巻線が磁束励磁には都合が良い。一方、トルク電流、即ち、ロータ電流成分は、全節巻きの各電流とその場所の磁束密度がトルクに比例するので、全節巻き巻き線がトルク制御には都合が良い。この様に、図48の各巻線を使い分けても良い。特に本発明では、各相ごとに、各歯ごとに、磁束密度の大きさを制御するので、界磁磁束制御を簡素化できる。また、界磁電流はロータ電流成分の最大値に比べて小さいので、界磁励磁を集中巻き巻線で行っても、図1のモータに比較して図48の巻線負担の増加は小さい。但し、図48の場合、駆動回路のパワートランジスタの素子数は増加する。
次に、請求項13の実施例について説明する。請求項13は、請求項1、請求項2において、誘導モータのトルク指令Tcとロータ回転角速度ωrとから、すべり角周波数ωsと磁束密度の任意形状の分布形状Dist1あるいは、前記磁束密度に相当する励磁電流成分の任意形状の分布形状Dist1を求めて誘導モータの電流制御を行うものである。磁束密度の分布形状とは、誘導モータのエアギャップ部の円周方向の分布形状である。特に、任意形状の分布形状Dist1とは、図8の84のような正弦波分布だけでなく、83、82、81のような台形波、あるいは、全く自在な分布形状も含む。請求項13の具体的実施例は、図2のブロックダイアグラムの2Bの電流指令発生手段IAGに含んでいる。なお、IAGは回転座標であるMN座標で表現し、その例を示す。
電流指令発生手段IAGの内部構成の例を図49に示す。破線の枠2BでIAGの範囲を示している。電流指令発生手段IAGの入力は、トルク指令Tc[Nm]とロータ回転角周波数ωr[rad/sec]であり、その出力はすべり角周波数ωs[rad/sec]と誘導モータの各歯のエアギャップ部近傍の磁束密度Bgapnである。図49の491は磁束密度Bgapnの最大値を求める最大磁束密度設定手段BMMである。ロータ回転角周波数ωrが小さい領域では、磁束密度の最大値は誘導モータの構造、磁性材料で決まり、図1の誘導モータでは、例として、エアギャップ部の各相磁束密度Bgapnの最大値を1.0[T]としている。ステータの歯では磁束が集まるので2.0[T]に相当する。ロータ回転角周波数ωrが基底回転数を超えるような高速回転になると、例えば、図82の駆動回路の場合、直流電圧源825の電源電圧Vpw[V]に各巻線電圧が制限されるようになる。そして、最大磁束密度は、(95)式、(97)式で示した様なBmax[T]の値として制限する。
図49の492は、入力のトルク指令Tc、最大磁束密度Bmax、ロータ回転角周波数ωrの条件から磁束密度の目標分布関数Dist1を求める。図8の81、82、83、84等の分布形状と最大磁束密度を求める。低速回転で大きなトルクの場合には81のような矩形波に近い台形波とする。高速回転では電流変化率に限界があるので、例えば、84の正弦波形状とする。誘導モータがより大きなトルクを出力するためには、より大きな磁束密度とし、より矩形波に近い目標分布関数Dist1が好ましい。モータの銅損と駆動回路の電流値を低減できる。
目標分布関数Dist1を求める方法の一つは、図8に示す様な台形波の勾配などのパラメータを、図49の492の入力であるトルク指令Tc、最大磁束密度Bmax、ロータ回転角周波数ωrにより関数化しておく方法である。関数化により、492の入力が決定すると、目標分布関数Dist1を求めることができる。また、目標分布関数Dist1を求める他の方法は、図40の例で示した様に、492の入力条件に応じた目標分布関数Dist1をあらかじめ計算してパラメータ化して図40の表に大別してそれらの有限個数のデータを格納しておき、使用時には、492の入力に応じて内挿計算を行って目標分布関数Dist1のパラメータを求め、目標分布関数Dist1を作成する方法である。何れの場合も、492は目標分布関数Dist1の発生器である。
また、図49の492、あるいは、493において、ロータ電流の遅れを補償するために遅れ補償磁束を目標分布関数Dist1へ追加することもできる。遅れ補償磁束とは、図35から図39で詳細に示した様な付加する磁束であり、この遅れ補償磁束により出力トルクを増加することができる。また、前記遅れ補償磁束は、図40の表のデータに付加しておくことでも実現できる。なお、ロータ電流の時間的な遅れを補償磁束で改善してトルクを増加する前記の具体化方法は、請求項3、請求項4の具体化方法でもある。
図49の493は、492の出力である磁束密度の目標分布関数Dist1を、各歯ごとの磁束密度の離散分布関数Dist2へ変換する変換器である。前記の様に、例えば、図1の各歯の近傍のエアギャップ部の磁束密度は、歯が磁気インピーダンスの小さい軟磁性体でできているので、歯の円周方向幅の範囲の磁束密度はほぼ均一となる。即ち、図8に示す様な、磁束密度の目標分布関数Dist1は自在な分布形状を設定することが可能である。しかし、図1のエアギャップ部の磁束密度分布は、各歯の円周方向幅に離散値化した状態になる。具体的な例を図9、図14、図17、図20、図24に示した。
これらの分布図は、横軸がステータ内の円周方向角度θscsで示していて、各歯の円周方向幅をθscsの角度範囲で決めている。例えば、図1のA2相ステータ磁極11のエアギャップ部近傍の磁束密度は、図9の場合、θscsが0°から360°/14の範囲の磁束密度である。B2相ステータ磁極13は、図9のθscsが2×360°/14°から3×360°/14の範囲の磁束密度である。図9等の様に、磁束密度の分布形状は、離散値化した結果、各歯ごとに階段状の分布図となる。
離散分布関数Dist2への変換器である493の出力は各歯の磁束密度分布Bgapnであり、図1の誘導モータの場合、7個の各相磁束密度データBgapa、Bgapb、Bgapc、Bgapd、Bgape、Bgapf、Bgapgである。前記の図42のように、励磁電流発生手段IFGとロータ電流発生器IRGへ出力する。
なお、磁束密度の離散分布関数Dist2の各値は、前記の様に、目標分布関数Dist1において、各歯が該当する円周方向幅の値の平均値を取る。平均値の計算方法は、目標分布関数Dist1の該当幅について面積を計算し単純に平均とを取る方法があるが、種々工夫を加えても良い。例えば、各歯に該当する磁束の励磁電流を計算する時には磁束密度の平均値を使用して励磁電流を求めるが、ロータ電流成分の計算では目標分布関数Dist1の磁束分布形状を使用することもできる。なお、離散分布関数Dist2は、回転座標であるMN座標を用いて実軸座標との変換を行う場合に各歯の該当する角度範囲が変わるので、目標分布関数Dist1の磁束分布関数のまま、各回転位置の磁束分布を計算し、その後に各歯の平均磁束密度を計算しても良い。
次に、図49の494はすべり角周波数発生器SCMで、制御装置のサンプリング制御時の初期のすべり角周波数ωsを発生する。前記の様に、初期のすべり角周波数ωsを(87)式で求めることができる。しかし、(84)式から(87)式は、各ロータ巻線の漏れインダクタンスLrwを0と仮定した近似式なので、各ロータ電流Irnの減少と応答遅れには注意を要し、各種対応策が効果的である。この対応策の一つは、(84)式のロータ電流Irnの見積もりを減少し、(87)式のすべり角周波数ωsを増加することである。
また、前記応答遅れの対応策として、図2の2Aの比例積分補償器に微分補償器の要素も含めて、トルク指令Tcの位相を進めて応答遅れを補うこともできる。また、2H3の比例積分補償器の出力であるトルク誤差補正ωsterを追加する方法、あるいは、2Uの比例積分補償器の出力であるロータ電流誤差補正ωsierを追加する方法については、後に説明する。以上の様に、トルク指令Tcとロータ回転角周波数ωrの入力より、磁束密度の目標分布関数Dist1と離散分布関数Dist2であるBgapnとすべり角周波数ωsのデータを得ることができる。
なお、図2の電流指令発生手段IAGにおいて、磁束密度の分布状態を求めた。即ち、IAGの内部構成例を示す図49の491の最大磁束密度設定手段、492の磁束密度の目標分布関数Dist1を求める機能、493の離散分布関数Dist2への変換器、494のすべり角周波数発生器SCMのそれぞれにおいて、磁束密度の分布状態を求めた。しかし、エアギャップ部の磁束密度とその励磁電流成分との間には、(64)式で示した様に、一定の関係がある。正確には非線形性などの誤差、近似することにより発生した誤差などもあるが、補正することができる。従って、図2のIAG、即ち、図49の各機能で扱った磁束密度の分布状態は、励磁電流成分の分布状態に置き換えることもでき、等価である。本発明では、磁束密度の分布状態と励磁電流成分の分布状態を等価なものとし、どちらでの表現も本発明に含むものとする。
次に、請求項14の実施例について説明する。請求項14は、請求項1、請求項2において、前記の様に、エアギャップ部の磁束密度の任意形状の目標分布関数Dist1から離散分布関数Dist2に変換し、各歯の仮想の集中巻き巻線CW1、CW2、CW3、CW4・・・・の励磁電流指令成分Isf1Cc、Isf2Cc、Isf3Cc、Isf4Cc・・・・を求める。図1の誘導モータの場合、図2の電流指令発生手段IAGにおいて、この磁束密度の目標分布関数Dist1は図8に示した様な分布形状であり、各相の各歯のエアギャップ部の磁束密度Bgapn、即ち、Bgapa、Bgapb、Bgapc、Bgapd、Bgape、Bgapf、Bgapgの離散分布関数Dist2へ変換する。そして、図2の2Cの励磁電流発生手段IFGにより、各相の励磁電流成分へ変換する。なお、この離散分布関数Dist2の例は、図9から図23に示したような分布形状である。
図1の全節巻き巻線は、図3の仮想の集中巻き巻線とその集中巻き電流に置き換えて考えることができる。(1)式から(42)式である。各電流成分と各磁束密度の関係は、(43)式から(62)式の様な関係である。そして、図3の仮想の集中巻き巻線のA2相電流IsaCMの内、A2相励磁電流成分IsfaCMcは前記(64)式で示され、指令値である。図2の2Cで示す励磁電流発生手段IFGの機能である。IsfaCMcは、(64)式が示す様に、そのギャップ長Lgapの間に磁束密度Bgapaを励磁する励磁電流である。同様に、B2相からG2相についても同様に、エアギャップ部の磁束密度から励磁電流成分IsfbCMc、IscfCMc、IsfdCMc、IsfeCMc、IsffCMc、IsfgCMcの各指令値へ変換する。なお、(64)式では実軸座標のA2相励磁電流成分IsfaCXを記述しているが、図2のIAGとIFGなどは回転座標であるMN座標で示しており、A2相励磁電流成分をIsfaCMcとしている。また、前記の様に、例えば、電流の変数名IsfaCMcはその順に、sはステータ、fは励磁電流成分、aは図1、図3の誘導モータなのでA2相、Cは集中巻き、MはMN座標、cは指令値を示している。
なお、前記の様に、図2の電流指令発生手段IAGにおいて、磁束密度の分布状態を励磁電流成分の分布状態に置き換えて制御する場合は、励磁電流発生手段IFGの機能は既に実行されていることになり、図2上の2CのIFGは不要である。
次に、請求項15の実施例について説明する。請求項15は、請求項1、請求項2、請求項14において、誘導モータの各相の磁束密度を推定し、仮想の集中巻き巻線の励磁電流検出成分を求め、各相それぞれについて、前記励磁電流指令成分から励磁電流検出成分を差し引いて励磁電流誤差を求めてフィードバック制御する。
図2の2Yは各相のエアギャップ部の磁束密度を検出する磁束密度検出器である。種々の磁束、磁束密度検出手段、方法、装置が可能であるが、ここでは、歯の内部、あるいは、近傍に配置するホール素子等による磁束密度検出を想定し、説明する。27は磁束密度情報手段φDETであり、2Yの出力から図1のA2相の磁束密度Bgapad、B2相の磁束密度Bgapbd、C2相の磁束密度Bgapcd、D2相の磁束密度Bgapdd、E2相の磁束密度Bgaped、F2相の磁束密度Bgapfd、G2相の磁束密度Bgapgd[T]を、それぞれ、求める。そして、271の励磁電流発生手段IFGにより、A2相の磁束密度Bgapadを、前記(64)式により、仮想の集中巻き巻線の励磁電流成分IsfaCXd[A]へ変換する。B2相の磁束密度Bgapbd等の他の相も、それぞれ同様に、各相の励磁電流成分IsfbCXd、IsfcCXd、IsfdCXd、IsfeCXd、IsffCXd、IsfgCXdを計算する。なお、271は前記2Cの励磁電流発生手段IFGと同じ機能である。
図2の2Dは、集中巻きの励磁電流成分を実軸座標からMN座標へ変換するMN座標変換器CMNCであり、前記の各相の励磁電流成分IsfaCXd、IsfbCXd、IsfcCXd、IsfdCXd、IsfeCXd、IsffCXd、IsfgCXdをMN座標上の仮想の集中巻き巻線の励磁電流成分IsfaCMd、IsfbCMd、IsfcCMd、IsfdCMd、IsfeCMd、IsffCMd、IsfgCMdへ変換する。図1の誘導モータのMN座標上の仮想のモータは、図25である。図25の各歯の磁束、磁束密度は、前記の様に、磁気的に歯幅に離散値化している。座標を回転する場合には、各歯の円周方向範囲が変わるので、各歯の磁束を分割して換算し、再配分する必要がある。なお、前記の検出磁束密度と検出励磁電流成分の信号名末尾のdは、検出信号を示す。
MN座標変換器MNCにおける磁束、磁束密度の再配分の一つの方法は、単純に面積平均を計算する方法である。図50、図51に示し説明する。例として、図50に、図1の誘導モータにおける、磁束密度分布の状態を実軸座標で示す。図50の状態は、ロータ回転角θrが3.3×360°/14の位置にあり、横軸θscsはステータ内の円周方向角度位置である。界磁磁束の方向は、θscs=3.3×360°/14の方向である。縦軸は、仮想の集中巻き巻線の電流IsfnCXである。A2相の励磁電流成分IsfaCXは(64)式で示され、他相も同様である。なお、実軸座標なので、図50のθscsが0°から360°/14=25.7°までは、図1のA2相ステータ磁極11の磁束密度を示している。また、2×360°/14=51.4°から3×360°/14=77.1°まではB2相ステータ磁極13の磁束密度を示している。他の相も同様で、図1の円周方向磁束密度を示している。
図51は、実軸座標の図50をMN座標に変換した特性で、横軸はMN座標におけるステータ内の円周方向角度位置である。そして、MN座標における界磁位置を示すθmnは3.3×360°/14=84.9°である。縦軸は、MN座標における、仮想の集中巻き巻線の電流IsfnCMである。図51の破線の特性は、図50の波形を、紙面で左側へ84.9°移動した波形で、同じ形状である。図1の誘導モータモデルの場合、図51のMN座標の分布図においても、図25の円周方向に並んだ14個の仮想の歯を想定する。図51のθscmが0°から360°/14の間は、図25のA2M相のステータ磁極251である。同様に、θscmが2×360°/14から3×360°/14の間はB2M相のステータ磁極253、θscmが4×360°/14から5×360°/14の間はC2M相のステータ磁極255、θscmが6×360°/14から7×360°/14の間はD2M相のステータ磁極257、θscmが−6×360°/14から−5×360°/14の間はE2M相のステータ磁極259、θscmが−4×360°/14から−3×360°/14の間はF2M相のステータ磁極25B、θscmが−2×360°/14から−360°/14の間はG2M相のステータ磁極25Dである。なお、図50、図51共に、円周方向の歯幅で磁束密度が離散値化しているので、離散分布関数Dist2でもある。
図51において、破線で示した磁束密度分布は、MN座標におけるステータ磁極の円周方向幅の間で破線の値が変化していて、後の計算のため磁束を再配分して、図25の各ステータ磁極の磁束密度を計算する必要がある。図51の実線の特性が、再配分して計算した値の例である。図51の実線で示す様に、前記のMN座標における各相のステータ磁極の円周方向幅の範囲において、実線の磁束密度の値は均一な値を示しており、その値は破線の平均値としていて、実線が示す磁束[Wb]の平均値と破線の磁束[Wb]の平均値とが等しい。また、実線と破線とは、紙面において、各ステータ磁極の磁束密度の面積が等しいとも言える。その場合、ロータ軸方向有効長さをWm[m]、ロータ半径をMr[m]として計算する。
前記図50と図51との座標変換の例は磁束[Wb]が等しくなる方法であるが、他の方法でも良い。例えば、図50の分布波形を14分割から2倍の28分割へ変換する。あるいは、4倍にする。その時、目標分布関数Dist1の分布波形で重み付けをして、磁束を分配する。その後に、図51の様に円周方向へ移動し、磁束密度の面積が等しくなるようにMN座標変換を行う。
次に、図2の2Eは各相の加算器で、各相の励磁電流成分の指令値から検出値を差し引いてフイードバック制御を行い、2Fの比例積分補償器へ出力する。これらの計算は、図42に示した様に、各相ごとに並列にフイードバック制御を行なう。なお、図42では、図2の2Cで示す励磁電流発生手段IFGをIFGaの様に各相ごとに示し、2Eで示す加算器も42Eaの様に各相ごとに示している。
図1の誘導モータは交流のモータであるが、図2のMN座標上では、各相の磁束、各相の電流、各相の電圧が常に同一の位相であるため、直流の制御量になる。そして、それらの誤差量に対して、2Fの比例積分補償器を使用することが可能となり、種々の周波数特性を持たせることが可能となる。例えば、積分機能により微少な誤差量であっても増幅し、その誤差を低減して、低周波応答であるが高精度に制御することが可能となる。ダイナミックな高周波領域の応答特性は主に比例機能で制御する。そして、制御条件により任意の周波数特性を選択し、持たせることができる。なお、比例積分補償器を活用する技術自体は、従来の一般的な制御技術である。
図2の2Fの出力は各相の電流フィードバック制御において各相の励磁電流成分の誤差量IsfaCMer2、IsfbCMer2、IsfcCMer2、IsfdCMer2、IsfeCMer2、IsffCMer2、IsfgCMer2である。図2の2Gは、MN座標において、各相の集中巻き巻線電流を各相の全節巻き巻線の電流へ変換する全節巻き変換器IFPCである。前記(1)式から(7)式は、実軸座標における全節巻き電流への変換である。MN座標における全節巻き電流への変換は、実軸座標とは回転角位置がθmnだけ異なるので、該当するステータ磁極、該当する電流が円周方向に異なるが、電流の全節巻き変換式は前記(1)式から(7)式と同じ形となるので、そのまま流用する。2Gの電流の全節巻き変換器IFPCの出力は、MN座標において、ステータ巻線における界磁の励磁電流成分の誤差量であり、IsfadFMer2、IsfbeFMer2、IsfcfFMer2、IsfdgFMer2、IsfeaFMer2、IsffbFMer2、IsfgcFMer2となる。
なお、図2では、界磁磁束の磁束密度を励磁電流成分へ変換して、励磁電流成分をフィードバック制御する例を示しているが、磁束密度を指令してフィードバックするなどの変形も可能である。また、後に、これらの電流の誤差量は、ステータのロータ電流成分の誤差量と加算器2Qで加算する。両誤差量共に、MN座標で、全節巻き巻線に換算した電流量である。そして、これらの各相の電流量は、実軸座標の各相の電流値に変換し、実軸座標の各相の電圧指令に変換し、電力変換器を等して図1の各相の全節巻き巻線へ電圧、電流を供給する。後にロータ電流成分、実軸座標変換器RMNC、実軸座標の各相の電圧指令、PWM変換器、電力変換器などを説明する。
次に、請求項16の実施例について説明する。請求項16は、ロータに複数のロータ巻線を仮想して設定し、各ロータ巻線に発生する各ロータ電圧を各ステータ磁極が生成する磁束密度に基づいて求め、各ロータ巻線の各ロータ電流をロータ巻線の抵抗値と漏れインダクタンスを含めて継続的に計算して誘導モータを制御する。誘導モータのロータ電流は、概略として1次遅れの電流となるため、応答遅れなどに起因する複雑な現象となる。請求項16では、各ステータ磁極の任意の磁束密度の分布に対して、各ロータ巻線の電圧、電流、トルクを継続的に計算して制御するので、制御精度を高めることができ、誘導モータの高トルク化、高効率化が可能となる。また、制御性能を高めることもできる。
請求項16では、図1の誘導モータの各ロータ巻線に発生する各ロータ電圧を求め、各ロータ電流を計算し、求める。図1では、ロータ巻線が円周上に28個配置した例を示している。本発明では、ロータ巻線の数、ロータの回転位相に依存しない様なロータ電流の計算、ステータ巻線へ通電すべきロータ電流成分の計算方法を示す。
各ロータ巻線とロータ電流の説明を簡素化するために、図25の誘導モータのロータ巻線を14個に減少した構成の横断面図を図52に示す。なお、図25はMN座標での表現であり、実軸座標で示す図1の誘導モータを座標変換したものである。図52の各ステータ磁極と各ステータ全節巻き巻線は図25と同じであるが、コイルエンド部の接続関係の表示を、図の表示を簡素化するため省略している。図52の251はA2M相ステータ磁極で252はA/2M相ステータ磁極で、253はB2M相ステータ磁極で254はB/2M相ステータ磁極で、255はC2M相ステータ磁極で256はC/2M相ステータ磁極で、257はD2M相ステータ磁極で258はD/2M相ステータ磁極で、259はE2M相ステータ磁極で25AはE/2M相ステータ磁極で、25はF2M相ステータ磁極で25CはF/2M相ステータ磁極で、
25はG2M相ステータ磁極で25EはG/2M相ステータ磁極である。図52の25Nと25PはAD2M相の全節巻き巻線である。同様に、521と522はBE2M相、523と524はCF2M相、525と526はDG2M相、527と528はEA2M相、529と52AはFB2M相、52Bと52CはGC2M相の全節巻き巻線である。
次に、図52のロータ巻線の構成の例について説明する。各ロータ巻線は全節巻き線で、コイルエンド部の接続関係を指して示している。図52のロータに第1の仮想ロータ巻線RWC11、RWC12、RWC13、RWC14、RWC15、RWC16、RWC17を四角のマークで示す。これらの各電流は、Ir11、Ir12、Ir13、Ir14、Ir15、Ir16、Ir17である。第2の仮想ロータ巻線RWC21、RWC22、RWC23、RWC24、RWC25、RWC26、RWC27を白丸のマークで示す。これらの各電流は、Ir21、Ir22、Ir23、Ir24、Ir25、Ir26、Ir27である。これらの各ロータ巻線は全節巻き巻線で、それぞれが短絡した誘導巻線となっている。ここでは、各ロータ巻線の巻回数を1[turn]と仮定して説明する。
なお、例えば、ロータ巻線RWC11の等価回路は図4となる。他のロータ巻線も同じである。絶縁した巻線であれば、他のロータ巻線の電圧などの電気回路的な影響を受けない。また、図52のロータのコイルエンド部の抵抗値が十分に小さければ、銅バーなどで構成するかご形巻線、アルミダイカスト製のロータ巻線などと、ステータ側から見た電気回路上の等価回路はほぼ同じになる。逆に言えば、従来のかご形巻線ロータ、アルミダイカスト製のロータを図52のロータとして使用できる。この時、ロータ軸25Rに対して、電磁気的に対象となる条件も必要だが、ステータ巻線が全節巻き巻線であれば、電気角で180°離れた巻線へは相互に負の値となる電流が流れることになり、この条件は満たされる。なお、電磁気的に対象でない構成の場合でも、本発明例として示す方法を修正し、適用することができる。
次に、図2の2H、2J、2N、2Pの構成を各相ごとの構成とし、変数名を書き加えて、図53に示す。図2と同一のものは同一符号で示している。また、図53のこれらの機能はMN座標で計算している。図2、図53の2Hはロータ電流発生器IRGで、各ロータ巻線に流れる各ロータ電流を531のロータ電流計算手段IRSIMで計算し、求める。ロータ電流の計算方法は、最初に都合の良い個数のロータ巻線を仮定して設定し、次に、磁束密度B[T]とすべり角周波数ωs[rad/sec]から各ロータ電流を、継続して、計算し続ける。駆動する誘導モータのロータ巻線数が、例え100個と多くても、都合の良いロータモデル、ロータ巻線数とする。図52の場合、14個のロータ巻線、7組のロータ巻線と仮定している。このロータ電流発生器IRGでは制御、計算に都合の良いロータ巻線数を選択し、例えば図52の様な、7個の全節巻きロータ巻線の仮想のロータモデルを設定し、計算する。ロータ電流の計算方法を次に示すが、その目的は、ロータ電流のステータ換算値を求めることであり、誘導モータの制御に必要である。また、一方で、何らかの方法でロータ電流は計測されたり、推測されるので、その都度、前記のロータ電流の計算値を校正しながら継続して計算する。
ロータ電流発生器IRGの入力は、図53に示す様に、電流指令発生手段IAGの前記出力である各相の磁束密度Bgapa、Bgapb、Bgapc、Bgapd、Bgape、Bgapf、Bgapgとすべり角周波数ωs[rad/sec]である。第1の仮想のロータ巻線RWC11、RWC12、RWC13、RWC14、RWC15、RWC16、RWC17に発生する電圧は、前記(73)式のVrとして、各ロータ巻線ごとに求めることができる。すべり角周波数ωsは全ロータ巻線に共通なので、各ロータ巻線へ作用する前記磁束密度が分かれば、各ロータ巻線の電圧Vrが(73)式で求まる。そして、各ロータ巻線の電流Ir11、Ir12、Ir13、Ir14、Ir15、Ir16、Ir17は(77)式でそれぞれを求めることができる。なお、図53の各相の磁束密度Bgapn[T]の例は、図9、図14、図17、図24の離散分布関数Dist2で示した様な特性である。図53の各相の磁束分布、各電流、各電圧はMN座標で与える。
(77)式は微分方程式の構成なので、各ロータ電流は1次遅れの値となり、過去の電流値の影響を受けながら通電することになる。従って、これらのそれぞれのロータ電流Ir11、Ir12、Ir13、Ir14、Ir15、Ir16、Ir17を、(77)式で計算し、毎計算時間Δtごとに時間的に継続して行う。
実際の誘導モータの制御は、制御ソフトウエアのサンプリング制御で行い、この明細書の本発明例では、制御サンプリングタイムΔtを0.2[msec]として説明する。各ロータ電流を(77)式に従って制御ソフトウエアで計算する場合、(88)式と(88)式で計算する。請求項16では、この様に、各第1の仮想のロータ巻線の各ロータ電流を、個別に、かつ、時間的に継続して計算する。
なお、界磁磁束の方向はロータ巻線に対してすべり角周波数ωs[rad/sec]で移動するので、界磁磁束位置を固定とするMN座標においては、この図52の第1の仮想のロータ巻線の円周方向位置は、毎サンプリング制御ごとに負のすべり角周波数と制御サンプリングタイムΔtの積(−ωs×Δt)[rad]で、毎回継続的に移動する。各ロータ電流値も時間的に継続して変化する。そして、誘導モータの制御で良好な応答特性を得るには、第1の仮想のロータ電流Ir11、Ir12、Ir13、Ir14、Ir15、Ir16、Ir17のそれぞれを時間的に継続して計算することが重要である。
次に、請求項17の実施例について説明する。請求項17は、任意な電流分布の各ロータ電流を、各ステータ巻線のロータ電流成分へ等価に変換する。この時、ロータ電流とステータのロータ電流成分の正負符号は逆となる。そして、これらのステータのロータ電流成分を指令値として誘導モータを制御する。なお、図2の2Jのステータ電流変換器RSCでは、これらの制御をMN座標で行う。
図2、図53の2Hのロータ電流発生器IRGでは、図52の四角のマークで示す第1の仮想のロータ巻線の各ロータ電流Ir11、Ir12、Ir13、Ir14、Ir15、Ir16、Ir17を求めた。図2の2Jのステータ電流変換器RSCでは、図52の各ステータ巻線にエアギャップを介して対向する白丸のマークで示す第2の仮想ロータ巻線RWC21、RWC22、RWC23、RWC24、RWC25、RWC26、RWC27の電流分布を、第1の仮想のロータ巻線の各ロータ電流を等価変換して求める。第2の仮想ロータ巻線は、ロータ電流を各ステータ巻線の電流への換算を容易にするために設定する、計算用の中継の仮想の巻線である。後で示す様に、各ステータ巻線にエアギャップを介して対向するロータ電流[A×turn]であれば、その値に(−1)を乗じて負の値とし、簡単にステータ換算のロータ電流成分Isr[A×turn]として求められる。即ち、第1の仮想のロータ巻線の各ロータ電流Ir11、Ir12、Ir13、Ir14、Ir15、Ir16、Ir17を変換して、第2の仮想ロータ巻線の各ロータ電流Ir21、Ir22、Ir23、Ir24、Ir25、Ir26、Ir27を求める。この時、第1の仮想のロータ電流の電流分布と第2の仮想のロータ電流の電流分布とがほぼ等価となる様に換算し、変換する。なお、第1の仮想のロータ巻線はロータ回転と共に回転移動するが、第2の仮想のロータ巻線の回転位置は、前記の目的のため、いつまでも、MN座標上のステータの各巻線に対向した図52の回転位置である。また、これらの計算には、界磁磁束の回転位置とロータの回転位置との情報が必要である。
次に、第1の仮想のロータ電流と第2の仮想のロータ電流との換算方法について説明する。図52のステータ回転角θscmが−180°の位置からCCW円周方向に並ぶロータ巻線の電流値は、RWC11の(−Ir11)から順に、Ir15、−Ir12、Ir16、−Ir13、Ir17、−Ir14、Ir11、−Ir15、Ir12、−Ir16、Ir13、−Ir17、Ir14の順である。例えば、第1の仮想のロータ巻線RWC11のステータ回転角θscmが0.3×360°/14であって、CCW方向に第1の仮想のロータ巻線が360°/14のピッチで並んでいると仮定する。そして、それらの値が、図54に示す四角マークの電流値であるとし、(−180°+0.3×360°/14)から(6.3×360°/14)までの14個のポイント間を折れ線でつないでいる。それは、第1の仮想のロータ巻線の電流分布であり、図52の分布順に図54にその電流値の例を示している。
他方の第2の仮想ロータ巻線RWC21、RWC22、RWC23、RWC24、RWC25、RWC26、RWC27は図52に白丸のマークで示していて、エアギャップを介してステータ巻線に対向するステータ回転角θscmの位置なので、θscmが−180°から6×360°/14までCCWへ360°/14のピッチで並んでいる。図54における第2の仮想ロータ巻線の各電流の−180°からの並び順は、−Ir21、Ir25、−Ir22、Ir26、−Ir23、Ir27、−Ir24、Ir21、−Ir25、Ir22、−Ir26、Ir23、−Ir27、Ir24であり、図54の白丸のマークで示している。
第2の仮想ロータ巻線の各電流値は、円周方向の前後に位置する第1の仮想のロータ巻線の電流値から、それぞれに内挿計算した値である。単純な比例配分の内挿計算の場合、図54では、第1の仮想のロータ巻線の電流値で作成した前記の折れ線の上に、第2の仮想ロータ巻線の各電流の値がある。例えば、図54の第1の仮想のロータ電流Ir12の値は−0.7で、−Ir16の値は−0.8として、その間に位置する第2の仮想のロータ電流−Ir26の値は、(0.3×(−0.8)+0.7×(−0.7))=−0.77として内挿計算することができる。他の第2の仮想のロータ電流の値も同様に内挿計算して求められる。
各ステータ巻線のロータ電流成分Isrnは、エアギャップを介して対向する各ロータ電流Irnとの関係で、2つの電流成分を足し合わせると0になる様な関係である。即ち、正負符号が逆の関係となる。ロータ巻線の巻回数をNwr/2とし、ステータ巻線の巻回数をNws/2とすると次の関係となる。両辺の電流と巻回数の積[A×turn]が等しくなる。
Isrn×Nws/2=−Irn×Nwr/2
Isrn=−Nwr/Nws×Irn (181)
前記図54の例では、ロタ巻線の巻回数Nwr/2を1として説明している。なお、(181)式の関係は、商用電源を電圧変換する変圧器における、2次電流と1次側の2次電流成分の関係に類似している。
(181)式が示す、図25、図52のAD2M相の全節巻き巻線25N、25Pのロータ電流成分IsradFMcは、図53に示す様に、ロータ電流成分の指令値となる。同様に、BE2M相の全節巻き巻線521、522のロータ電流成分の指令値はIsrbeFMcで、CF2M相の全節巻き巻線523、524のロータ電流成分の指令値はIsrcfFMcで、DG2M相の全節巻き巻線525、526のロータ電流成分の指令値はIsrdgFMcで、EA2M相の全節巻き巻線527、528のロータ電流成分の指令値はIsreaFMcで、FB2M相の全節巻き巻線529、52Aのロータ電流成分の指令値はIsrfbFMcで、GC2M相の全節巻き巻線52B、52Cのロータ電流成分の指令値はIsrgcFMcである。図2の2Jのステータ電流変換器RSCでこれらの値を求める。図53の2Jには、各相ごとにその前後を少し詳しく示し、入出力関係を示している。
なお、図52、図54の例では、ロータ巻線の数とステータ巻線の数が同じ14個の場合について説明した。しかし、ロータ電流の円周方向分布の観点、離散性の観点では、ロータ巻線数の数が多い方が離散性が少なくより正確に計算できる。その意味で、ロータ巻線の数をステータ巻線の数より多くした場合、例えば、図25の様に、ロータ巻線の数が28個と2倍の場合は、(181)式の関係は2倍にする必要がある。
また、図52の四角のマークで示す第1の仮想のロータ巻線は、前記の様に、時間的に継続して計算し、MN座標上で毎サンプリング制御ごとに(−ωs×Δt)[rad]の角度移動し回転するが、白丸のマークで示す第2の仮想ロータ巻線はMN座標上で固定である。従って、第2の仮想のロータ巻線は説明の都合で存在しているだけで、それ以上の意味は無い。第1の仮想のロータ巻線の各電流値Ir11、Ir12、Ir13、Ir14、Ir15、Ir16、Ir17から内挿計算などのより第2の仮想ロータ巻線の各ロータ電流Ir21、Ir22、Ir23、Ir24、Ir25、Ir26、Ir27を求めた時点で、各値を(181)式へ代入すれば、第2の仮想のロータ巻線は存在させなくても良く、計算上の問題は無い。
以上の様に、請求項16では、ロータの磁束密度分布より計算された第1の仮想のロータ巻線の各電流値からステータのロータ電流成分の各相指令値IsrnFMcを求める方法を示した。なお、これらの各相指令値IsrnFMcとエアギャップ部を介して対向するロータ電流IrnFMとは正負の符号は逆なので、各相の両電流成分の起磁力[A×turn]の和は0であり、両電流成分が両電流の外部に磁気的な起磁力を生成しない。従って、両ロータ電流成分は、界磁磁束には定性的にほとんど影響しないと言える。しかし、両ロータ電流成分は、エアギャップ部に円周方向の磁束成分Bcirを生成し、マクスウェルの応力式より導かれる円周方向の力Fcir、ラジアル方向の力Fradに関わっている。後に説明する。なお、FcirとFradは、ローレンツ力とフレミングの左手の法則から導いた(80)式、(81)式、(85)式のトルク式と矛盾するものではない。
次に、請求項18の実施例について説明する。請求項18は、各相の全節巻き電流の検出値から各相の界磁励磁電流成分を差し引いて、ステータの各相のロータ電流成分の検出値を求める方法である。この各相のロータ電流検出においても、台形形状分布等の任意な各相の電流分布を制御するために各相ごとの電流値を求める。
図2の2Xは図1の誘導モータの全節巻き電流を検出するステータ電流検出手段MCDMであり、26はそのインターフェイスの電流情報手段IDETである。2Xと26で、AD2相の全節巻き電流IsadFXd、BE2相の全節巻き電流IsbeFXd、CF2相の全節巻き電流IscfFXd、DG2相の全節巻き電流IsdgFXd、EA2相の全節巻き電流IseaFXd、FB2相の全節巻き電流IsfbFXd、GC2相の全節巻き電流IsgcFXdの電流値[A]を検出する。
一方、前記の271の励磁電流発生手段IFGにより、各相の励磁電流成分IsfaCXd、IsfbCXd、IsfcCXd、IsfdCXd、IsfeCXd、IsffCXd、IsfgCXdを計算した。これらの電流は、図3の仮想の集中巻き巻線に換算した電流である。これらの電流を2Kの全節巻き変換器IFPCにより、(1)式から(7)式で全節巻き電流へ変換し、IsfadFXd、IsfbeFXd、IsfcfFXd、IsfdgFXd、IsfeaFXd、IsffbFXd、IsfgcFXdを計算する。その具体的な全節巻き変換の図、分布状態の例は、図12から図19の例で示した。2Lは各相のロータ電流を減算して求める加算器である。図2に示す様に、各相の全節巻き電流から界磁励磁電流成分を差し引いて、各相のロータ電流成分を求める。これらは、全節巻き電流で実軸座標の検出値である。
IsradFXd=IsadFXd−IsfadFXd
IsrbeFXd=IsbeFXd−IsfbeFXd
IsrcfFXd=IscfFXd−IsfcfFXd
IsrdgFXd=IsdgFXd−IsfdgFXd
IsreaFXd=IseaFXd−IsfeaFXd
IsrfbFXd=IsfbFXd−IsffbFXd
IsrgcFXd=IsgcFXd−IsfgcFXd (182)
次に、請求項19の実施例について説明する。
請求項19は、各相のロータ電流制御において、台形形状分布等の任意なロータ電流分布を制御するために、各相のロータ電流成分ごとに指令値と検出値とを個別にフィードバック制御する。図2の制御では、MN座標で各相のロータ電流成分をフィードバック制御する。
図2の2Jのステータ電流変換器RSCの出力は、前記の各相ロータ電流成分の指令値IsradFMc、IsrbeFMc、IsrcfFMc、IsrbdgMc、IsreaFMc、IsrfbFMc、IsrgcFMcである。他方、2Lの加算器の出力は、(182)式の各相のロータ電流成分の検出値であり、これらは実軸座標の値である。これらの値を2MのMN座標変換器MNCにより、実軸座標からMN座標の検出値へ変換し、IsradFMd、IsrbeFMd、IsrcfFMd、IsrbdgMd、IsreaFMd、IsrfbFMd、IsrgcFMdの電流値とする。なお、実軸座標からMN座標へのMN座標変換器MNCでの変換は、図50から図51への変換の例で示した様に、円周方向に離散値化された角度幅の領域における平均値が等しくなる様に変換し、円周方向に離散値化する角度幅の領域を変更する。MN座標では、実軸座標における界磁磁束の方向の情報が必要であり、界磁回転角位置θmnの情報を付加する。
そして、図2の加算器2Nにより、各相ロータ電流成分の指令値から各相ロータ電流成分の検出値を差し引き、それぞれの相のロータ電流誤差量を求め、フィードバック制御を行う。図2の加算器2Nの周辺の各相の変数関係を図53に示している。前記のそれぞれの相の誤差量は、図2、図53に示す各相の比例積分補償器2Pを通して処理し、各相のロータ電流成分の電流誤差IsradFMer2、IsrbeFMer2、IsrcfFMer2、IsrdgFMer2、IsreaFMer2、IsrfbFMer2、IsrgcFMer2を各相の電圧の加算器2Qへ出力する。なお、これらの計算はMN座標で行っている。
次に、請求項20の実施例について説明する。請求項20では、図2の2Bの電流指令発生手段IAGで生成した駆動条件に従って、2Hで電圧方程式に基づいてロータ電流をシミュレーション計算する。そして、誘導モータの発生トルクを計算し、トルク指令Tcとの差分Terを計算し、その比例積分補償を行った後にトルク誤差補正ωsterを求め、すべり角周波数ωsに追加して加え、補正する。なお、このトルク誤差補正ωsterの追加は、図2の制御において必須条件ではないが、前記比例積分補償の定数を小さくすることができる。応答は多少遅れるが、速度制御部と2Aの比例積分補償器により、すべり角周波数ωsの誤差をカバーすることができる。
図2の2Hのロータ電流発生器IRGでは、ロータ電流とその発生トルクをシミュレーション計算する。図53の破線部にロータ電流発生器IRGを詳しく示す。前記の様に、531のロータ電流計算手段IRSIMで、第1の仮想のロータ巻線RWC11、RWC12、RWC13、RWC14、RWC15、RWC16、RWC17のロータ電流Ir11、Ir12、Ir13、Ir14、Ir15、Ir16、Ir17を求めた。図53の534のトルク計算手段TSIMでは、ロータ電流Ir11、Ir12、Ir13、Ir14、Ir15、Ir16、Ir17とそれぞれが位置する場所の磁束密度から、(81)式に従って各トルクを計算し、2H1の合計トルクTsをシミュレーション計算する。そして、532のトルク指令TcからシミュレーションのトルクTsを2H2の加算器で減算してトルク誤差Terを求め、2H3の比例積分補償器を通して、すべり角周波数ωsを補正するトルク誤差補正ωsterを得る。
Ter=Tc−Ts (183)
例えば、トルクの大きさが小さく見込まれる場合は、ωsterによりすべり角周波数を補って、トルクを増加する。
次に、請求項21の実施例について説明する。請求項21では、図2の2Nの加算器で得られた前記相のロータ電流誤差量からすべりのロータ電流誤差補正ωsierを求め、すべり角周波数ωsに追加して加え、補正する。なお、このロータ電流誤差補正ωsierの追加は、図2の制御において必須条件ではなく、直列に接続した比例積分補償の定数を限りなく小さくすることもできる。応答は多少遅れるが、速度制御部と2Aの比例積分補償器により、すべり角周波数ωsの誤差をカバーすることができる。
前記の様に、図2の加算器2Nの出力は、ステータ巻線換算の各相のロータ電流成分の制御誤差IsrnFMerである。図53では、各相に分けて図示しており、それぞれの相の値は次式の関係となる。
IsradFMer=IsradFMc−IsradFMd
IsrbeFMer=IsrbeFMc−IsrbeFMd
IsrcfFMer=IsrcfFMc−IsrcfFMd
IsrdgFMer=IsrdgFMc−IsrdgFMd
IsreaFMer=IsreaFMc−IsreaFMd
IsrfbFMer=IsrfbFMc−IsrfbFMd
IsrgcFMer=IsrgcFMc−IsrgcFMd (184)
これら各相のロータ電流誤差IsrnFMerは、図2の2Tのロータ電流誤差検出手段ISRERでそれらの合計値Isrerを求める。合計値を計算する方法は、MN座標で図8のような分布の時、−90°から+90°までの値、即ち、−IsrcfFMer、+IsrgcFMer、−IsrdgFMer、+IsradFMer、−IsreaFMer、+IsrbeFMer、−IsrfbFMerを単純に加算する方法、あるいは、図8で0°近傍の中央部分の値を大きめにする重み付け加算を行う方法などを適用できる。そして、前記合計値Isrerを2Uの比例積分補償器を通して、すべり角周波数ωsを補正するロータ電流誤差補正ωsierを求める。ロータ電流に誤差が発生した場合には、ωsierですべり角周波数ωsを補正する。例えば、主回路の駆動用電源電圧が低下してロータ電流誤差が発生する場合には、印加電圧を増加することができないので、すべり角周波数を増加して各相のロータ電流を増加する。なお、図2では5個の比例積分補償器を示しているが、それぞれの目的に応じて、比例定数、積分定数、微分定数など選択し、それぞれの目的に応じた機能、特性とする。
次に、請求項22の実施例について説明する。請求項22では、すべり角周波数の最終的な値を求め、実軸座標における界磁磁束の回転位置θf3値を求め、MN座標で計算した結果を実軸座標へ変換する。なお、ロータ電流は、界磁磁束φmとロータ巻線とのすべり角周波数により相対速度が与えられ、ファラデーの電磁誘導の法則でロータ電圧が発生し、ロータ電流が流れる。一方で、このロータ電流に対し、並行して、ステータ側へ電流方向が逆向きのロータ電流成分を通電する。この時、ステータ巻線の漏れインダクタンス分による電圧が、界磁磁束φmによる誘起電圧に重畳する。前記の図5のベクトル図の例では、51は界磁励磁電流Isfを通電する。そして、55のロータ電流成分Isrを供給すると同時に、58のステータ巻線抵抗Rsの電圧降下Is・Rs、59の漏れリアクタンス降下Is・Xsの電圧を与える必要がある。その時、ステータ巻線には、界磁磁束φmと鎖交して発生する57の誘起電圧Esが重畳する。この様に、ステータのロータ電流成分を供給するために、界磁磁束のすべり角周波数だけでなく、前記各電圧を供給する。
図2の2Wの界磁指令位置の発生手段POFGにおいて、すべり角周波数ωsへ前記トルク誤差補正ωsterとロータ電流誤差補正ωsierを加算して修正したすべり角周波数ωs3[rad/sec]を次式の様に求める。そして、軸実座標における界磁磁束の回転位置θf3[°]の値を次式の様に求める。ここで、θrはロータ回転角位置[°]で、θs1[°]は先回の制御サイクルにおける界磁磁束の回転位置θf3[rad]の値で、Δt[sec]は制御のサイクルタイムでこの明細書の説明例では0.0002[sec]としている。
ωs3=ωs+ωster+ωsier (185)
θf3=θr+θs1+360°/(2π)×Δt×ωs3 (186)
なお、θr等の回転角の単位は、都度、[rad]と[°]のどちらかで表現しており、360°と(2π)の換算が必要である。
一方、ステータの各ロータ電流成分については、図2と図53に示す様に、加算器2Nによって、(184)式に示した各相のロータ電流成分の制御誤差IsrnFMerが求められた。そして、図53に示す様に、これらの値を2Pの比例積分補償器を通して、ステータ巻線におけるロータ電流成分の誤差量IsradFMer2、IsrbeFMer2、IsrcfFMer2、IsrdgFMer2、IsreaFMer2、IsrfbFMer2、IsrgcFMer2を得る。加算器2Qは、前記ロータ電流成分の誤差量とステータ巻線における界磁励磁電流成分の前記誤差量を加え、次式の様に、ステータ巻線の各相の電流の電流誤差量IsnFMerを得る。MN座標上の値である。
IsadFMer=IsradFMer2+IsfadFMer2
IsbeFMer=IsrbeFMer2+IsfbeFMer2
IscfFMer=IsrcfFMer2+IsfcfFMer2
IsdgFMer=IsrdgFMer2+IsfdgFMer2
IseaFMer=IsreaFMer2+IsfeaFMer2
IsfbFMer=IsrfbFMer2+IsffbFMer2
IsgcFMer=IsrgcFMer2+IsfgcFMer2 (187)
なお、後に示す様に、図2の2Rのフィードフォワード電圧発生手段FFの出力が加えられる場合は、界磁磁束φmが各ステータ巻線に鎖交して発生する誘起電圧成分の指令はそちら側で負担することになる。図5のベクトル図の例では、52の界磁磁束φmの鎖交により発生する57の誘起電圧Esに相当する。その結果、ステータの界磁電流成分のフィードバックループの一部の値である(187)式の各電流誤差量には、界磁磁束φmが各ステータ巻線に鎖交して発生する誘起電圧成分は必要がなくなる。
また、例えば、図52のロータの各ロータ電流と図1のステータのロータ電流成分とは(181)式の様な関係であり、両電流がその他の部分へ作用する起磁力が相殺するように通電する。従って、ロータ電流成分は、モータ内のその他の部分へ磁束を発生しない様に制御している。例えば、図5の例では、54のロータ電流Irと55のステータのロータ電流成分Isrの関係であり、両電流の起磁力が相殺するので、ロータ電流に関わる電機子反作用は発生しない。この様に、トルク電流成分が電機子反作用を発生しない特性は大きな特徴であり、同期モータ等の電機子反作用の特性とは異なる。誘導モータのこの特性をさらに発展できる可能性があり、後に詳しく説明する。
次に、図2の2Vの実軸座標変換RMNCについて説明する。図2のここまでの動作説明の大半は、回転座標であるMN座標で行ってきた。しかし、図1の誘導モータの各巻線へ電圧を印加するためには、実軸座標の電圧指令値へ変換する必要がある。また、2Rのフィードフォワード電圧発生手段FFでの各巻線の誘起電圧計算も実軸座標で行う。
2Vの実軸座標変換RMNCは、(187)式で求めたステータ巻線の各相の電流の電流誤差量IsnFMerを入力とし、MN座標から実軸座標の電流誤差量IsadFXer、IsbeFXer、IscfFXer、IsdgFXer、IseaFXer、IsfbFXer、IsgcFXerへ座標変換する。実軸座標への座標変換の方法は、請求項8及び請求項9の実施例で示した方法である。図25のMN座標で表わす(187)式の各相の電流誤差量を、図1の実軸座標の各相の電流誤差量へ変換する。この時、MN座標の界磁磁束の位置情報である界磁回転角位置θmnとして、(186)式で示した界磁磁束の回転位置θf3[rad]をその制御サイクルにおける値として使用する。そして、2Vではさらに電圧係数を乗じて、各相の電流誤差に基づく電圧指令値VsiadFXc、VsibeFXc、VsicfFXc、VsidgFXc、VsieaFXc、VsifbFXc、VsigcFXcへ変換し、加算器2Sへ出力する。
なお、前記の界磁磁束の回転位置θf3[rad]を、すべり角周波数ωsへ前記トルク補正ωsterと前記ロータ電流補正ωsierを加える方法を示したが、種々の変形した方法が可能である。例えば、トルク補正ωster、ロータ電流補正ωsierを省略することも可能である。あるいは、2Hのロータ電流発生器IRGにおいて、トルクのシミュレーション計算を行った後に、トルク指令値Tcとの差分Terを求め、初期のすべり角周波数ωsを修正することもできる。さらに、すべり角周波数ωsの修正を、トルク指令値Tcとの差分Terが許容値に入るまで複数回繰り返すことも可能である。あるいは、トルク指令値Tcとその時の各相のロータ電流の値から、ロータ電流の位相遅れを考慮した角周波数ωsを求めて制御することも可能である。
次に、請求項23の実施例について説明する。請求項23では、誘導モータの全節巻き巻線の各相の誘起電圧成分を計算し、各相の電圧指令値に加える。最初に、図1の各相のステータ磁極のエアギャップ部の磁束密度を求め、各相の磁束の時間変化率から集中巻き巻線の電圧成分を求め、全節巻き変換し、各相の誘起電圧成分を計算する。図5のベクトル図の例では、57の誘起電圧に相当する。ただし、本発明では、多相の独立した全節巻き巻線の誘起電圧である。これらの誘起電圧成分と前記の電流誤差に基づく各相の電圧指令値VsinFXcと加算し、各相の電圧指令値VsnFXcとする。
図1、図3の誘導モータ、図2のブロックダイアグラムにおける、全節巻き巻線の各相の誘起電圧成分を計算する具体的な方法の例を図55に示し、説明する。図55の破線で囲う2Rの範囲が、図2の2Rのフィードフォワード電圧発生手段FFである。図55の551は、図2の2Bの電流指令発生手段IAGで生成した、磁束密度の目標分布関数Dist1、あるいは、離散分布関数Dist2である。これらはMN座標の値なので界磁磁束位置θmnとの組み合わせとなっている。
552では、551の情報から、実軸座標の磁束密度の離散分布関数を求める。551の情報を磁束密度の目標分布関数Dist1とする場合は、この目標分布関数Dist1の値と界磁磁束中心位置θmnの情報から、実軸座標の実態である図1の各ステータ磁極へ振り分け、各相のエアギャップ部の磁束密度Bgapa、bgapb、Bgapc、bgapd、Bgape、bgapf、Bgapgを求める。553の値である。551の情報を磁束密度の離散分布関数Dist2とする場合は、MN座標上の磁束密度分布を実軸座標上の磁束密度分布へ実軸座標変換RMNCを行い、図1の各ステータ磁極のエアギャップ部の磁束密度Bgapa、bgapb、Bgapc、bgapd、Bgape、bgapf、Bgapg[T]を求める。
554では、前記磁束密度より(62)のように、各相のエアギャップ部の磁束φa、φb、φc、φd、φe、φf、φg[Wb]を求める。これらの磁束は、図3に示した各磁束である。そして、556では、(29)から(35)式で示した、図3の仮想の集中巻き巻線の各相電圧Va、Vb、Vc、Vd、Ve、Vf、Vg[V]を求める。なお、時間幅Δtのサンプリング制御を行う場合の具体的な計算方法は、例えば(29)式のA2相電圧Vaの場合、時間幅Δtの間の磁束の変化量として、(29)式を次の様に近似式へ変形して求める。
Va=Nws・dφa/dt=Nws・(φa−φa1)/Δt (188)
φa1は、1回前のサンプリング制御時のA2相磁束である。図3のA2相ステータ磁極11の巻線31とA/2相ステータ磁極11の巻線32の巻回数は、それぞれ、Nws/2[turn]である。A2相電圧Vaは巻線31と32の電圧の和である。A2相以外のB2相、C2相等も同様に計算する。
次に、558は前記各相の仮想の集中巻き巻線の電圧を全節巻き巻線の電圧Vad、Vbe、Vcf、Vdg、Vea、Vfb、Vgc[V]へ全節巻き変換する。この変換に(36)から(42)式を使用する。これらの値は、図1の誘導モータの各相の全節巻き巻線の誘起電圧成分であり、全節巻き巻線の巻回数はNws/2[turn]である。これらの電圧の名称を、各相の誘起電圧成分の電圧指令値VseadFXc、VsebeFXc、VsecfFXc、VsedgFXc、VseeaFXc、VsefbFXc、VsegcFXcへ変更して、加算器2Sへ出力する。なお、図5のベクトル図の例では、57の誘起電圧成分Esに相当する。さらに、図5のベクトル図の58のステータ巻線抵抗の電圧降下IsRs、59のステータ巻線漏れインダクタンスの電圧降下Is×Xsを、前記電圧指令値へ加えても良い。また、図55の説明では、その各構成を新たに計算する方法を説明したが、図57の572、573の計算と重複する部分があり、共通化することもできる。
次に、図1の各全節巻き巻線の最終の電圧指令値VsadFXc、VsbeFXc、VscfFXc、VsdgFXc、VseaFXc、VsfbFXc、VsgcFXcを2Sの加算器で、各相の電流誤差に基づく電圧指令値VsinFXcと各相の誘起電圧成分の電圧指令値VsenFXcの和として、次式の様に求める。
VsadFXc=VsiadFXc+VseadFXc
VsbeFXc=VsibeFXc+VsebeFXc
VscfFXc=VsicfFXc+VsecfFXc
VsdgFXc=VsidgFXc+VsedgFXc
VseaFXc=VsieaFXc+VseeaFXc
VsfbFXc=VsifbFXc+VsefbFXc
VsgcFXc=VsigcFXc+VsegcFXc (189)
次に、(189)式の電圧指令値は、24のパルス幅変調器PWMにより、パワートランジスタなどによるオン、オフのスイッチング動作に適した信号へ変換する。そして、25の駆動回路INVERTERで電力増幅し、21の誘導モータ、即ち、図1などの誘導モータの各巻線へ電圧を印加し、電流を通電する。なお、25の駆動回路は種々の構成が可能であり、具体例を後に説明する。21の誘導モータは、図1の7相の誘導モータ、図43の5相の誘導モータ、図45の分布巻きの構成、短節巻きの構成、図48の様な全節巻き巻線と集中巻き巻線とが混在した構成、トロイダル巻線を活用した構成等が可能である。特に、内外径へ、あるいは、ロータ軸方向へ、2個の誘導モータを組み込んで複合化したモータでは、トロイダル巻線の活用によりコイルエンド部の巻線長さを短縮でき、巻線の占積率を向上できるので、銅損低減、生産性の向上、効率向上、小型化の点でも優れている。なお、25の電力素子には、IGBT、パワーMOSFET、SiO2、GaNなどの電力素子があり、本発明ではパワートランジスタと表現する。
次に、図57に、図2を変形した制御ブロックダイアグラムの例を示す。図57の構成は、図2を簡素化した構成としている。図57が大きく異なる点は、回転座標であるMN座標を使用せず、回転座標で制御する点である。また、図2の磁束検出器2Yも省略した構成である。しかし、円周方向に任意な磁束密度分布を制御可能とする構成、制御方法は同じである。また、トルク指令Tc等の条件により、円周方向に任意な磁束密度分布を指令する点は同じである。また、多相の任意な電流で制御する点も同じである。同じ構成、同じ制御の部分も多い。
図57の構成要素の内、図2と同じ符号の場合は同じ構成、機能である。ロータ角周波数ωrに関わる速度制御は図2と同じであり、トルク指令Tcは同じである。571から576の構成は、図57では実軸座標で制御する。571の電流指令発生手段IAGを実軸座標で行うので、その出力である磁束密度の円周方向分布は、図2の磁束密度の分布状態とは異なる。図57の実軸座標では、界磁磁束の中心の回転角方向がθmnの大きさで円周方向へ移動する。従って、図57の571の電流指令発生手段IAGの出力は図56に各相ごとの信号を示していて、そのBgapaは図1の11のA2相ステータ磁極のエアギャップ部近傍の磁束密度を示している。他方、例えば、図2の電流指令発生手段IAGの出力は図42に各相ごとの信号を示していて、BgapaはMN座標上の値である。MN座標上でのモータ断面を示す図25の251のA2相ステータ磁極のエアギャップ部近傍の磁束密度を示している。そして、例えば、界磁磁束の回転位置θmnが(360°×2/14)=51.4°の場合、Bgapaの値は実軸座標である図1で、始点から51.4°CCW方向の13のB2相ステータ磁極のエアギャップ部近傍の磁束密度を示している。Bgapb、Bgapc等の磁束密度もCCW方向へ51.4°シフトする。なお、同じ符号を使用しているので、この明細書では、MN座標と実軸座標のどちらの座標で動作しているのかを示す。
572の励磁電流発生手段IFGの機能は、図2の2Cの励磁電流発生手段IFGの機能と同じで、磁束密度をその励磁に必要な仮想集中巻きの励磁電流成分へ、(64)式の様に、各相を変換する。573の電流の全節巻き変換器IFPCは、図2の2Gの電流の全節巻き変換器IFPCと同じで、仮想集中巻きの電流を全節巻きの電流へ、(1)から(7)式の関係で、電流の全節巻き変換を行う。
図57の574、575、576、577の各相ごとに示す構成を図56に示す。図56の紙面で左側の入力である各相の磁束密度Bgyapa、Bgyapb、Bgyapc、Bgyapd、Bgyape、Bgyapf、Bgyapg、及び、すべり角周波数ωsは、図57の571の電流指令発生手段IAGの出力である。図56はいずれも実軸座標で示している。なお、図2の一部である、先に説明した図53と同じ部分であるが、図53の531の531のロータ電流計算手段IRSIMと2Jのステータ電流変換器RSCはMN座標で動作している状態で計算した。従って、MN座標の状態を示す図25、及び、特にロータの仮想巻線を想定した図52では、界磁磁束を固定した状態を示し、計算の例を示した。図52では、界磁磁束がCCW方向に進んでいる状態では、界磁磁束を固定とし、ロータがCWへすべり角周波数ωsで相対的に回転していると仮定して、図53の説明で計算した。図53の531のロータ電流計算手段IRSIMで、第1の仮想のロータ巻線RWC11、RWC12、RWC13、RWC14、RWC15、RWC16、RWC17に流れる各ロータ電流Ir11、Ir12、Ir13、Ir14、Ir15、Ir16、Ir17の計算である。
これに対し、図56では、図1の状態で界磁磁束ががCCWへ回転角周波数(ωr+ωs)で移動し、ロータがCCWへ回転角周波数ωrで回転する状態での各ロータ電流を計算する必要がある。図1の誘導モータが6000[rpm]で、すべり角周波数ωsが(5×360°/(2π))で回転している状態では、制御サンプリング時間Δtが0.0002[sec]の間に、界磁磁束は7.56[°]の角度CCWへ回転する。ロータは7.2[°]CCWへ回転する。例えば、誘導モータが4極対であれば、Δtの間に回転する電気角は4倍になる。高速回転なので、Δtの間の回転量が制御誤差となる問題がある。従って、正確に計算するためには、ロータの回転速度と各ステータ磁極の円周方向の離散性を考慮する必要がある。
しかし、図56の実軸座標においても、界磁磁束とロータ巻線との相対速度はすべり角周波数ωsであることには変わりない。種々の近似計算が可能である。例えば、図56は実軸座標での計算であるが、ロータ電流の計算は図53で示した様にMN座標であるかの様に計算しても、7相などの様に相数が大きければ大きな誤差は発生しない。また、図56の564はトルク計算手段TSIMで、図53の534と同様に、(81)式に従って各トルクを計算し、565の合計トルクTsをシミュレーション計算する。そして、トルク指令TcとトルクTsの値のよりすべり角周波数ωsを修正できる。あるいは、修正したωsで再度シミュレーション計算を行い、すべり角周波数ωsの精度を向上してトルク精度を向上することもできる。
図57、図56の475はステータ電流変換器RSCであり、図53の2Jの場合と同様に計算する。但し、図57、図56は実軸座標での計算なので、ロータ巻線とステータ巻線の相対位置が変わる。次に、図57、図56の476は加算器で、ステータのロータ電流成分IsrnFXcと473の電流の全節巻き変換器の出力IsfnFXcとを加算して、図1のステータの全節巻き線の電流指令値IsnFXcを次式の様に求める。
IsadFXc=IsradFXc+IsfadFXc
IsbeFXc=IsrbeFXc+IsfbeFXc
IscfFXc=IsrcfFXc+IsfcfFXc
IsdgFXc=IsrdgFXc+IsfdgFXc
IseaFXc=IsreaFXc+IsfeaFXc
IsfbFXc=IsrfbFXc+IsffbFXc
IsgcFXc=IsrgcFXc+IsfgcFXc (190)
図57の477は、(190)式に示したステータ電流の指令値IsnFXcからステータ電流の検出値IsnFXdを差し引いてステータ電流の誤差量IsnFXerを求め、フィードバック制御を行う各相の加算器である。ここで、これらの変数IsnFXc、IsnFXd、IsnFXerは、界磁磁束の回転角周波数(ωr+ωs)に依存する交流の変数である。従って、図2のMN座標での計算の様に変数を直流化できない。その結果、フィードバックループへ比例積分補償器を配置する場合、高速回転時のステータ電流の制御精度が低下する問題が発生することがある。
479は、各相のステータ電流の誤差量IsnFXerを各相の電圧指令値VsnFXcへ変換する電圧指令発生手段である。この電圧指令値VsnFXcの作成方法は、種々の構成が可能である。単純な方法は、入力を比例倍した電圧を生成する。また、ステータ電流の前記指令値IsnFXcは、主に回転周波数の交流電流となる。そして、前記電流誤差量IsnFXerも、主に回転周波数の交流電流となる。もし、電圧指令発生手段479が比例積分補償器である場合、通常、低周波ゲインは大きく、高周波ゲインは低いので、高速回転でステータ電流の制御誤差が大きくなる問題が発生することがある。前記と同様である。もし、高周波ゲインも大きくすると、その周波数領域で不安定になる問題が発生し易い。MN座標ではこの問題が少ない。
なお、図57において、この問題の対応策として、加算器577の前後の制御だけMN座標に変換して、各相の電流制御をMN座標で制御し、各相の電流を直流で制御できるようにし、比例積分補償器を挿入し、各相電流の制御精度を向上することも可能である。具体的には、加算器476の出力である(190)式の各値を、476と477の間にMN座標への変換器MNCを挿入して、MN座標の値の変換する。そして、26と477の間にMN座標変換器MNCを挿入し、実軸座標の各全節巻き巻線の検出電流値である、前記IsadFXd、IsbeFXd、IscfFXd、IsdgFXd、IseaFXd、IsfbFXd、IsgcFXdをMN座標の値IsadFMd、IsbeFMd、IscfFMd、IsdgFMd、IseaFMd、IsfbFMd、IsgcFMdへ変換する。このMN座標変換器は、例えば、図2の2Mと同じものである。そして、図57において、579を取り除いてその代わりに、図2の比例積分補償器2Pと実軸座標変換器2Vを挿入する。この構成の結果、ステータの各相の電流を一度MN座標に変換して制御し、その後に実軸座標に変換して制御することになり、比例積分補償器の効果が得られるので、高速回転でのステータ電流の制御精度を向上することができる。
次に、図58に、図1、図84などのモータの各ロータ巻線に流れる電流を検出する場合の制御ブロックダイアグラムの例を示し、説明する。図58では、581のロータ電流検出器を備え、逆に、図2の磁束検出器2Yを備えていない。誘導モータの制御において、界磁磁束φmの検出とロータ電流Irの検出は重要な課題である。界磁磁束φmは界磁励磁電流成分Isfで代用することができる。ステータ電流Isは界磁励磁電流成分Ifとロータ電流Irのステータ換算電流Isrの和で、定性的に、次式の関係である。
Is=Isf+Isr
従って、ステータ電流Isは容易に検出できるので、界磁磁束φm、あるいは、ロータ電流Irのどちらかが検出できれば、誘導モータの制御が容易になる。勿論、界磁磁束φmとロータ電流Irの両方を検出できれば、その方が制御精度、応答性の点などで有利である。なお、各ロータ巻線のロータ電流を検出する方法の例は、後に、図85、図86、図87に示し、その例を説明する。
図58の制御ブロックダイアグラムは、図2に比較し、581から586までのロータ電流検出器と各電流値の計算部分が異なるが、その他は図2と同じ構成である。図58の581はロータ電流検出器であり、ロータの各巻線に流れる電流情報を計測する。582はロータ電流検出手段であり、各ロータ巻線の各ロータ電流を求め、さらに、ステータ側の各相のロータ電流換算値Isrとして計算する。583は実軸座標の全節巻き電流を、回転座標であるMN座標の全節巻き電流へ変換する。そしてこの出力はロータ電流検出値として、前記加算器2Nで各相のロータ電流成分Isrのフィードバック値として使用される。
584は加算器で、次式に示す様に、各相のステータ電流からステータ側の各相のロータ電流換算値Isrを差し引き、各相の界磁励磁電流成分Isfを求める。
Isf=Is−Isr
585は実軸座標の全節巻き電流を、回転座標であるMN座標の全節巻き電流へ変換する。586は集中巻き変換器であり、全節巻き電流の各相の界磁励磁電流成分Isfを集中巻き電流へ、(15)から(21)式で換算する。これらの電流値は、前記加算器2Eで各相の界磁励磁電流成分のフィードバック値として使用される。その他は図2と同じ構成である。
誘導モータの各ロータ電流Irの値は、(77)式に示す様に、1次遅れの電流になり、また、ロータ巻線抵抗値Rrの温度係数が大きく温度変化も大きいので、その推測計算が難しく、誤差が大きくなりがちである。その点で、図58の制御では各ロータ電流を計測する方法なので、高精度、高応答に制御できる。但し、後に説明するようなロータ電流検出が必要である。
図57の制御ブロックダイアグラムは、図2とはいくつかの点で異なる構成である。図57では、前記の様に、回転座標であるMN座標を使用せず、実軸座標で制御している。また、(190)式の様に、ステータの界磁励磁電流成分IsfnFXcとロータ電流成分IsrnFXcとをまとめて、ステータ電流IsnFXcとして制御する。従って、界磁励磁電流とロータ電流成分の個別のフィードバックは無い。また、図58の制御ブロックダイアグラムは、ロータ電流検出器を備え、逆に、図2の磁束検出器2Yを備えていない。これら図2、図57、図58の制御ブロックダイアグラムの例に示したように、本発明の構成と制御技術は、種々の変形が可能である。それぞれに、長所、短所がある。これらの変形した制御についても、本発明の趣旨のものは、本発明に含むものとする。
次に、請求項24の実施例について説明する。請求項24は、図2あるいは図57のような誘導モータの駆動、制御において、一部の計算を行わず、シミュレーションあるいは実際の駆動により、必要な駆動データDATAの収集を事前に行い、2BDのメモリーへ格納しておく。そして、誘導モータの駆動時に、23の制御モード指令CRM、トルク指令Tc、ロータ回転角速度ωrに応じて、前記駆動データDATAより各相の電流指令値などを読み出し、各相電流を駆動し、制御する。前記駆動データDATAの作成には、図40に示した様に、データ使用時には内挿計算を行うことを前提として、記録データを圧縮することができる。前記駆動データDATAを使用して制御する場合には、図40に示した様に、制御状態から記録データの内挿計算を行い、きめ細かで誤差の少ない制御を行うことができる。
図2の説明では、誘導モータの近似モデル、近似式に基づいて基本的なアルゴリズムを説明した。しかし、実際には、近似に起因する誤差、非線形性の誤差、磁気的な磁性体の飽和、駆動装置の電流制限、電源電圧の制限、電源電圧の変動、温度特性による変動、異常診断等に対処するため、制御の処理項目が大幅に増加する。そして処理時間が増加する問題がある。前記駆動データDATAを活用する方法では、一部の処理時間を省略できるので、各制御サイクル時間Δtにおける演算時間を短縮して高速化することができる。また、前記の非線形性などについては、詳細に補正した駆動条件を前記駆動データDATAへ記憶しておくことが可能なので、制御性能を向上できる面もある。但し、この方法は、事前に特性の明らかな誘導モータ、あるいは試運転が可能な誘導モータへは適用できるが、詳細特性不明な誘導モータの制御へは適用できない。即ち、汎用用途へは適用が難しく、類似特性の誘導モータをグループ分けするなどの工夫が必要である。
請求項24の実施例として、図2の制御において、23の制御モード指令CRM、トルク指令Tc、ロータ回転角速度ωrに応じて、図42の説明で示した各相の励磁電流指令IsfaCMc、IsfbCMc、IsfcCMc、IsfdCMc、IsfeCMc、IsffCMc、IsfgCMcとすべり角周波数ωsを、前記駆動データDATAの読み出し、内挿計算により得る方法がある。エアギャップ部の磁気抵抗だけでなく、誘導モータに使用する軟磁性体の磁気抵抗、軟磁性体の非線形性の特性、磁気飽和対応などを盛り込むことができる。また、すべり角周波数ωsについても、より詳細なシミュレーションなどにより高精度化を図れる。例えば、漏れインダクタンスLrwを無視した(84)式は少し乱暴な式なので、その誤差の低減が期待できる。各制御サイクル時間Δtにおける演算時間の短縮が期待できる。
請求項24の他の実施例として、図57の制御において、23の制御モード指令CRM、トルク指令Tc、ロータ回転角速度ωr、そして、界磁回転角位置θfに応じて、図1のステータの全節巻き線の電流指令値IsnFXcである(190)の値を、界磁回転角位置θfと前記駆動データDATAの読み出し、内挿計算より求めることができる。各制御サイクル時間Δtにおける演算時間の短縮が期待できる。
また、制御モード指令CRMが低損失モード、あるいは、高効率モードである場合、誘導モータの低損失化を図ることもできる。同一のトルクであっても、界磁励磁電流とロータ電流との大きさのバランスを採って、誘導モータの銅損を低減できる。低速回転で低トルク領域の運転では効果的である。また回転数が増加すると、鉄損も考慮した、界磁励磁電流とロータ電流との大きさのバランスも選択できる。これらの制御モード指令CRMに基づく制御について、図2の説明でそのアルゴリズムを説明しなかったが、追加することができる。また、それらの駆動データDATAを2BDのメモリーへ格納しておく方法もある。
次に、請求項25の実施例を図59に示し、説明する。本発明を図1の例で説明したが、1F、1G、1H、1J、1K、1L、1Mのコイルエンド部が長いのでコイルエンド部の銅損が大きくなる問題がある。コイルエンド部によりモータ長さが大きくなる問題がある。巻線の製作性が劣り、巻線占積率が低下する問題がある。図1は誘導モータの基本構成を示し、説明するため、あえて、2極の構成、即ち、1極対の構成を示した。実用的には、例えば、4極対の構成などを使用するので、前記のコイルエンドの問題は相当に改善する。しかし、それでもコイルエンドの前記問題は残る。
図59の誘導モータは、内径側の第1のモータと外径側の第2のモータと、2個のモータを配置する複合モータである。何れのモータも2極、即ち、1極対のモータで、円周方向の関係は同期している。591は内径側の第1のロータで、592はそのロータ巻線である。593は内径側の第1のステータのA6相ステータ磁極であり、その円周方向に配置したE/6相、B6相、F/6相、C6相、G/6相、D6相、A/6相、E6相、B/6相、F6相、C/6相、G6相、D/6相と各相のステータ磁極が図示する様に続く。594は外径側の第2のステータのA6相ステータ磁極であり、その円周方向に配置したE/6相、B6相、F/6相、C6相、G/6相、D6相、A/6相、E6相、B/6相、F6相、C/6相、G6相、D/6相と各相のステータ磁極が図示する様に続く。597の部分は、内径側の第1のモータと外径側の第2のモータとの共通のステータバックヨークである。この共通のステータバックヨークを介して、図示する様に、内径側と外径側とで同一の相のステータ磁極を配置する。596は外径側の第2のロータのロータ巻線である。595は外径側の第2のロータである。特に、図示する595の部分は第2ロータのバックヨーク部分であり強固なので、第2のロータのロータ巻線596に発生する遠心力を保持することができる。
598、599、59Aは内径側の第1のモータと外径側の第2のモータとに共通のAD6相の巻線である。このAD6相の巻線の598の部分は内径側の第1のモータのスロットを通過し、59Aの部分は外径側の第2のモータのスロットを通過する。599の部分はコイルエンド部で、図示する様に、内径側と外径側とのステータ磁極の相をステータバックヨークに対して対象に配置しているので、コイルエンドの長さを短くすることができる。
また、180°反対側に位置する59Hの巻線はAD6相の巻線で、巻線59Aと逆向きに巻回しているが同一の電流を通電する。従って、巻線59Aと巻線59Hとを電流方向が同一となる様に直列に接続して駆動することができる。また、AD6相巻線59A及び59Hと同様に、59BはBE6相巻線、59CはCF6相巻線、59DはDG6相巻線、59EはEA6相巻線、59FはFB6相巻線、59GはGC6相巻線である。それぞれ、180°反対側に位置する巻線と直列に接続して同一の電流を通電できる。その結果、2組のモータの巻線を全節巻き巻線とした時と同じ関係の電流を通電できる。
これらの巻線の形状は、いわゆる、トロイダル形状の巻線で、環状巻線とも言い、簡素な形状である。図1のような長いコイルエンドを短縮でき、至近距離で巻き付けることができるので製作性が良く、巻線の重なり具合も確認できるので巻線占積率を高めることができる。モータの極対数を大きくするとモータの軸方向長さの短縮も可能である。また、内径側のスロットと外径側のスロットの円周方向位置をずらし、スロット形状に丸みを持たせて工夫することにより、各ステータ磁極の各歯のスペースに597のバックヨーク部の機能を担わせることができ、モータの小型化が可能である。
図59は内径側と外径側とに2つの誘導モータを配置した例であるが、ロータ軸方向に2つの誘導モータを配置する複合モータも構成できる。いわゆる、アキシャルギャップ型のモータは、ステータとロータがロータ軸方向に対向した構成である。アキシャルギャップ型の誘導モータのステータを背中合わせに配置して、軸方向の両サイドにロータを配置する複合モータの構成である。両ステータの各スロットには、トロイダル形状の環状巻線を各相に巻回し、配置する。ロータ軸方向の複合モータの場合、モータが大径化しないような設計が容易、2つのロータの接続と回転支持が容易という特徴が加わる。但し、磁束の方向が3次元的になるので、軟磁性材料の選択、構成の工夫などが必要となる。
また、図59のステータ巻線は、トロイダル巻線で、環状巻線としているので、前記の様に、コイルエンドを短縮でき、巻線の製作性に優れていて占積率も高いという特徴がある。従って、特に薄型のモータではその効果が大きい。比較的薄型のモータでは、図59の2組のモータの内、1組のモータを取り除いた構成でも、トロイダル巻線の効果が大きく、実用的である。
次に、請求項26の実施例について、図60にその例を示し説明する。後で説明するが、ロータの軟磁性体で構成する歯を無くし、各ロータ巻線の漏れインダクタンスLrwを小さくしている。図60の誘導モータの構成の目的の一つは、誘導モータの最大トルクを増加することである。図4にロータ巻線の一つの等価回路の例に示す様に、漏れインダクタンスLrwを小さくなれば、回路時定数tr=Lrw/Rrが小さくなり、ロータ電流Irの位相遅れが低減する。正弦波駆動の場合は、図5の54のロータ電流Irの位相遅れθsが小さくなり、ロータ電流Irの振幅も増加する。特に、大きなトルクを発生する場合には、すべり角周波数ωsが増加するので、位相遅れθsが急激に大きくなる。そして、従来の誘導モータの特性の例を示す図6において、62のトルクTが示す様に、漏れインダクタンスLrwによりトルク最大値がその極大値に制限される。図60の誘導モータでは、図6の破線で示す66のトルク特性とし、最大トルクを増加することを目的としている。
図61は、誘導モータのステータ巻線の断面形状の例、ロータ巻線の断面面形状の例を示している。図1の誘導モータの断面図では、ステータ巻線とロータ巻線をシンボルで簡略化して示している。図61では、図1の右上の1/4について拡大して示し、かつ、各スロットの形状と巻線の形状をより具体的に示した例である。
図61のステータは、図1のステータと同じで、7相交流、14スロットの例であり、ステータ磁極11、1A、13は図1と同一の符号としている。
611はAD2相、612はEA/2相、613はBE2相、614はFB2/相の全節巻き巻線である。ステータ巻線は、これらのように、スロットのスペース一杯に巻回される。
615、616、617、618は各ロータ巻き線の断面図例であり、図示するように、スロットのスペース一杯に巻回される。
なお、ロータ巻線の数が全周で14個の例であり、多数個としてより均一化できる。
また、アルミダイキャストのロータ巻線構成、銅バーなどを用いたかご形巻線のロータ巻線とすることもできる。
先に述べたが、例えば、ロータ巻線617の巻き回数Nwr/2[turn]として、そのロータ電流Ir[A]により619の示すような漏れ磁束φrw[Wb]が周囲の軟磁性体などを通って生成される。このφrwは各ロータ巻線へは部分的に鎖交するが、界磁磁束φmとしてトルク発生には役立っていないような磁束でもある。さらに、この漏れ磁束φrwにはロータ巻線617の一部の巻線にしか鎖交しないような部分的な磁束成分もある。
このロータ巻線の漏れインダクタンスLrw[H]と漏れ磁束φrwとは前記(78)式の関係であり、磁束鎖交数Ψrw[turn×Wb]は次式となる。
Ψrw=Lrw・Ir=Nwr/2・φrw
そして、漏れ磁束φrwに起因する電圧成分は(79)式で表される。また、ロータ電流Ir[A]は(77)式の関係なので、界磁磁束φmとすべり角速度ωsにより発生する誘起電圧成分Vr[V]に対して、ロータ電流Irが漏れ磁束φrwに関わる1次遅れ関数の電流となっている。
Vr=Lrw・dIr/dt+Ir・Rr
即ち、漏れ磁束φrwが増加するとロータ電流Irの1次遅れ時定数T=Lrw/Rr[sec]が大きくなり、漏れ磁束が減少すると1次遅れ時定数Tが小さくなる。この漏れ磁束φrwは、特にロータの磁気回路構成により大きく変わる。前記の様に、この漏れインダクタンスLrwが図5の54のロータ電流Irの位相遅れθsに関わり、図6の62のトルク特性に関わっている。誘導モータにおいて最大トルクを大きくする必要がある場合は、ロータ巻線の漏れインダクタンスLrw[H]が重要なパラメータである。作用、効果としては、ロータ電流Irの1次遅れ時定数T=Lrw/Rr[sec]が重要なパラメータである。また、61AはBE2相ステータ巻線613の電流Isbeにより生成される漏れ磁束で、ロータ電流の漏れ磁束と同様の関係である。この漏れ磁束61Aの電圧成分は好ましくないが、ステータ側なので誘導モータの駆動回路で補うことができる。
図61のモータについてまとめると、ステータ磁極とロータ磁極とが大半の部分でエアギャップを介して対向していて、相互の磁気抵抗が小さい。従って、ステータ電流による界磁磁束φmの励磁電流を小さくできること、また、ステータ巻線とロータ巻線との相互インダクタンスが大きいことの特長がある。しかし、ロータのスロットは軟磁性体で囲われていて、ロータ巻線の漏れインダクタンスLrwが大きくなり、(77)式で示されるロータ電流Irは界磁磁束φmの位置に対して位相の遅れが大きくなるので力率が低下する問題がある。さらには、図61のモータ構成の場合、図6の62に示す様な飽和したトルク特性となるため、効率良く最大トルクを発生できない問題がある。
前記の様に、古くから、多くの誘導モータが手動の開閉器、あるいは、電磁接触器のオン、オフによる3相電源への直入れ駆動で使用されてきた。しかし、誘導モータをインバータで駆動するようになり、制御の自在性が大幅に改善することから、誘導モータの特性に合わせた制御が可能となった。一方で、直入れ駆動用の誘導モータとの互換性も必要なせいか、誘導モータの特性を大幅に変えようという試みは少ないように思う。具体的には、直入れ駆動では、ある程度の大きさの漏れインダクタンスLrwは有用でもある。しかし、誘導モータの最大トルクを従来の2倍程度に大きくする、さらには、従来の2倍を遙かに超えるトルクを出力する場合には、ロータ巻線の前記漏れインダクタンスLrw[H]の値、ロータ巻線の時定数T=Lrw/Rr[sec]は大きな問題である。また、ロータ巻線の抵抗値の低減、ステータ巻線とロータ巻き線との近接配置、界磁磁束の分布状態、各相電流の自在な通電と電流分布などの課題がある。これらの課題解決により、誘導モータの効率向上、駆動回路の小型化などの種々改善ができる。
図60のステータは、図1の前記誘導モータと同じ構成である。図60では、ロータの軟磁性体の各歯を無くし、ロータ表面にロータの各相の巻線を円周方向に並べている。ロータ巻線の数は14個で、7組の全節巻き巻線の例である。ロータ巻線のコイルエンド部601で、ロータの第1相の全節巻き巻線を接続している。同様に、602は第2相の全節巻き巻線のコイルエンド部である。そして、603は第3相、604は第4相、605は第5相、606は第6相、607は第7相のそれぞれのコイルエンド部を示している。
なお、図60の例では、ロータの全節巻き巻線の数が7個の例を、説明のし易さから示しているが、前記の様に、トルクリップルの低減などのためにはロータ巻線数は多い方が好ましく、また、ステータ巻線数とは異なる素数を含む数が好ましい。また、図60のロータ巻線が全節巻き巻線ではなく、アルミダイカストロータのように、ロータ巻線のロータ軸方向端で各相のロータ巻線が、かご形誘導モータのロータの様に、相互に短絡された構成であっても良い。
図60の誘導モータはロータの歯が無いので、各ステータ磁極の歯の先端から軟磁性体で構成するロータバックヨーク609までの距離Lgrbyが大きくなり、界磁磁束のステータ励磁電流成分Isfの負担が大幅に増加する。しかし、逆に、ロータの歯が無いので、単純計算で、各ロータ巻線の径方向厚み、即ち、前記距離Lgrbyを図1の元の姿に比較して約1/2にできる。他方、ロータ巻線の漏れインダクタンスLrwは、ロータ巻線がロータスロットに配置している状態に比較して、図60のスロットの無い巻線構造では大幅に低下することになる。仮定の話だが、図60の界磁磁束φmの大きさが図1、図61と同じとし、ロータ巻線抵抗も同じとし、ロータ電流Irの大きさも同じの場合、図60のトルクの方が、ロータ電流の位相遅れθsが減少する分だけ、大きくなる。その状態で、すべり角速度ωsを大きくしてロータ電流を増加した場合、ますますトルクの差が大きくなる。
さらに少し詳しく言うと、図60の誘導モータが連続定格トルク近傍で動作する時には、前記ステータ励磁電流成分Isfが増加する分だけステータ電流が増加し、ステータのロータ電流成分Isrは変わらないと仮定して、トルクTは前記θsの遅れが減少する分だけやや増加するが大きくは変わらない。しかし、図60の誘導モータの出力トルクが最大トルク近傍へ増加する時には、前記図5の位相遅れθsが小さいので、図6のトルク特性が62から66へ変わり、最大トルクを大幅に増加できるようになる。この結果、図60の誘導モータは、連続定格トルク近傍でのモータ効率は低下するが、最大トルクを大幅に増加することができる。
また、図60の誘導モータのトルクTは、(81)式からステータ電流Isの内容を見直し、界磁励磁電流成分Isfとロータ電流成分Isrのバランスを変更することもできる。
低トルク領域では、単純理論的には、界磁励磁電流成分Isfとロータ電流成分Isrとが等しい時に、銅損が最小となる。鉄損等も含め、総損失が最低となる駆動、即ち、高効率駆動が可能である。
図60のロータ巻線の具体的な実現方法、及び、形状保持、強化の方法は、いくつかの方法がある。例えば、ロータ巻き線を高耐熱、高強度の樹脂グラスファイバーを充填して構成することができる。ロータ外周を、グラスファイバーなどの高耐熱、高強度、非磁性、非導通の材料で覆い、固定しても良い。また、後に説明するように、図63の634のような部分的な突起形状でロータ巻き線を保持、補強することも可能である。また、ロータ巻線の形状保持、強化のため、アウターロータ構成とすることもできる。ロータ巻線の線材は、銅線、アルミダイカストロータ、銅板等が使用できる。銅板の加工方法は、金型でのプレス、切断加工、レーザ切断、レーザ溶接などの種々方法が可能である。また、後述の超電導巻線を使用することもできる。
比較のため、図1の誘導モータと図60の誘導モータの特性を相対的に試算して、ロータに関わる特性を比較する。両モータのエアギャップ長Lgapを0.5[mm]、図1のロータ巻線を配置するスロットの径方向深さを15[mm]とする。もしこの状態で単純にロータの歯を取り去ると、ステータの励磁電流成分の相対比は、(15+0.5)/0.5=31となり、約31倍必要となる。しかし、図60のロータでは、ロータの歯のスペースにロータ巻線を配置できること、ロータ巻線の占積率を約2倍に高めることにより、前記の15[mm]を1/4に減少できると仮定する。その場合、励磁電流成分は、(15/4+0.5)/0.5=8.5となり、増加分を縮小できる。それでも、図1に比較し、図60の励磁電流成分は約8.5倍必要となる。
この例では、図60のモータの励磁電流成分が約8.5倍になり、界磁励磁の負担が大幅に増加し、問題である。しかし前記の様に、各ロータ巻線の漏れインダクタンスLrwは大幅に低下し、回路時定数T=Lrw/Rr[sec]が大幅に低下する特長がある。例えば、定性的に、連続定格トルクの1/3以下の軽負荷時には、励磁電流成分Isfを小さくし、すべり速度を大きくすれば、同じ程度の大きさのトルクが得られ、モータ電流の増加、効率低下の問題を軽減できる。連続定格トルクの近傍では、励磁電流成分Isfが増加するので、図5の位相遅れθsは減少するものの、効率は低下する。しかし、連続定格トルクの3倍などの大きなトルクでの前記位相遅れθsを低減でき、トルク電流成分の効率は改善する。
また、図60の誘導モータは特に、3倍以上の大きなトルク領域での位相遅れθsの低減効果がある。図6の62のトルク特性が66のトルク特性に近くなるので、大きなトルクの発生が可能となる。この大きなトルクは、位相遅れθsの低減と同時に、前記の様に、各ロータ電流Irnとステータの各ロータ電流成分Isrnにより両巻線の外部へ起磁力を発生しないので、界磁磁束φmが乱され難いという特徴が効果的に作用する。即ち、誘導モータは、いわゆる電機子反作用が発生しない構成である。なお、図69の表面永久磁石型同期モータの場合、大きなトルクを発生する時に、電機子反作用の問題と永久磁石の減磁の問題がある。図60の誘導モータはそれらの問題が少ない。
この様に、図60の誘導モータは、励磁電流成分Isfが増加する問題があるものの、大きなトルク領域で強みを発揮する。インバータ等のモータ駆動装置は、最大トルクの大きさで決まるので、使い方により、むしろその小型化、低コスト化も可能となる。用途としては、例えば、軽負荷での運転時間が長く、時々大きなトルクを必要とする用途がある。大きな電流を通電しても、短時間であれば発熱の問題を軽減できる。大きなトルクを必要とする用途は、電気自動車駆動の一部、工作機械等の産業機械駆動の一部、あるいは、家電などの一部にあり、少なくない。また、これらの特性は、後に説明する図62、図63、図64の誘導モータにも、定性的に共通する特性である。
次に、請求項27の実施例について、図62にその例を示し説明する。図62の誘導モータの構成の目的の一つは、図60の誘導モータと同様に、ロータ巻線の漏れインダクタンスLrwを小さくし、図5の54のロータ電流Irの位相遅れθsを小さくし、図6の62のトルクTのトルク最大値を大きくすることである。図62の誘導モータの他の目的の一つは、トルクの大きな領域において、界磁磁束φmの磁束密度平均値を約2倍に大きくすることである。これは、ステータの歯を通過する磁束の制限が無くなるので、エアギャップ部の磁束密度を大きくすることができる。その結果、磁束密度が約2倍になれば、ロータ電流成分Isrのトルク定数は2倍になり、(81)式の各トルクが2倍となる。ステータの励磁電流成分Isfは増えるが、ロータ電流成分Isrを小さくできる。図62の誘導モータの他の目的の一つは、巻線の製作性、生産性の改善であり、また、導線の占積率の向上である。これは、ステータのバックヨークからロータのバックヨークまでの距離Lgbyの短縮、励磁電流成分Isfの低減にも繋がる。
図62のロータは、図60のロータと同じ構成である。図62のステータは、図1、図クのステータ磁極の各歯を無くし、ステータ表面にステータの各相の巻線を円周方向に並べている。ステータ巻線の数は14個で、7組の7相の全節巻き巻線の例である。62Aは、ステータのAD7相とAD/7相の全節巻き巻線のコイルエンド部である。同様に、62BはBE7相、62CはCF7相、62DはDG7相、62EはEA7相、62FはFB7相、62GはGC7相の巻線のコイルエンド部である。なお、図62のロータ巻線は、ステータ巻線と類似した構成を図示しているが、前記の様に、ロータ巻線の数、形態は変えることができる。
図62の誘導モータは、ロータ巻線の周辺の磁性体が図60の構成よりも少なくなり、ロータ巻線の漏れインダクタンスLrwを図60の場合より小さくすることができる。その結果、トルクTのトルク最大値をより大きくすることができる。また、前記の様に、ステータの歯を通過する磁束の制限が無くなるので、エアギャップ部の磁束密度を大きくすることができる。その結果、磁束密度が約2倍になれば、ロータ電流成分Isrのトルク定数は2倍になり、(81)式の各トルクが2倍となる。ステータの励磁電流成分Isfは増えるが、ロータ電流成分Isrは減少する。
なお、この作用、効果については誘導モータ特有の特性が関わっている。即ち、後に図70、図71、図72で説明するが、誘導モータのロータ電流Irとステータのロータ電流成分Isrとは、電流の大きさ[A×turn]が同じで、電流の向きが逆方向であり、IrとIsrの和は0となるので、それらの外部へ与える電磁気的影響が小さく、界磁磁束φmへ与える影響が小さい。直流モータ、同期モータなどで問題となる電機子反作用に相当する作用が小さいとも言える。そしてさらに、後に示す、エアギャップ部の円周方向磁束密度Bcirを大きくすることができ、(193)式の円周方向の力Fcirを大きくできる。
従来の誘導モータの構造、特性は、定格トルク近傍での効率、力率を追求した一つの形態である。そして、古くからの3相正弦波交流理論に則っていて、50/60[Hz]の商用電源へ直入れして駆動できるということも大きな特徴となっている。それらの結果、従来の誘導モータの特性は、図6の様な特性であって、ロータ巻線の漏れインダクタンスLrwが比較的大きい。
本発明では、矩形波に近い台形波形状から正弦波形状までの誘導モータと制御技術と駆動回路を提案している。また、ロータ巻線の漏れインダクタンスLrwを小さくした誘導モータとし、図5の54のロータ電流Irの位相遅れθsを小さくし、図6の62のトルク特性を破線で示す66の特性とし、最大トルクを増加することもできる。また、それらの実現には多くの新たな課題が発生するので、課題を克服する技術を提案している。また、本発明の誘導モータの基本特性には優れた面があり、直流モータ、同期モータ、リラクタンスモータなどの電機子反作用の問題、トルク飽和の問題を解決する可能性がある。後に、図70、図71、図72、図73で説明する
図62の誘導モータには軟磁性体の歯が無いので、各巻線を従来のスロットに挿入する必要がなく、従来とは異なる巻線構成とすることができる。後述の巻線製作方法の例のように、巻線占積率を向上することができ、図62のステータ巻線の径方向厚み、ロータ巻線の径方向厚みを小さくすることができる。そして、ステータのバックヨークからロータのバックヨークまでの距離Lgbyを小さくできるので、ステータの励磁電流成分Isfを小さくすることができる。また、軟磁性体の歯が無いので、コギングトルクリップルを低減できる。
図60のロータ巻線、図62のステータ巻線、ロータ巻線は、例えば、巻線束を樹脂などで固定して整形することができる。また、銅板を打抜き加工により必要とする巻線形状とすることもできる。耐熱性が高く、強度の大きい樹脂、接着剤、及び、グラスファイバー等を使用できる。そして、図62の断面図に示す様な、円筒形状の巻線を製作できる。
また、図62のステータ巻線は、その右上の1/4を示す図63の633の巻線固定部により巻線を保持、固定することもできる。631はBE7相巻線、632はFB/7相巻線である。また、ロータ巻線についても、634の巻線固定部により巻線を保持、固定することもできる。
次に、請求項28の実施例について、図64にその例を示し説明する。図60、図62の誘導モータでは、ロータ巻線の漏れインダクタンスLrwを減少できるが、ステータの軟磁性体とロータの軟磁性体の距離が大きくなるので、励磁電流Isfが増加する問題がある。特にトルクの小さい領域における励磁電流Isfの負担が大きい。図64の構成では、ロータのバックヨーク645に軟磁性体の突起部644を追加し、ステータの軟磁性体部までの距離を短縮し、特に界磁磁束φmが小さい領域での励磁電流成分Isfを低減している。また、同様に、ステータのバックヨーク646に軟磁性体の突起部643を追加し、ロータの軟磁性体部までの距離を短縮し、特に界磁磁束φmが小さい領域での励磁電流成分Isfを低減することが可能となる。641はBE8相巻線、642はFB/8相巻線である。
ここで、図64の軟磁性体の突起部643、644の形状の高さ、幅は自在に選択できる。円周方向に配置する突起部643、644の数についても変えられる。突起部643、644の形状についても種々形状が可能である。この様に、図64の軟磁性体の突起部643、644を適正化することにより、ロータ巻線の漏れインダクタンスLrwを適度な値とし、かつ、ステータの軟磁性体からロータの軟磁性体までの距離を実質的に短縮することにより、特にトルクの小さい領域における励磁電流成分Isfを低減することが可能である。また、図64の647のロータ巻き線数と644の突起部の数を大きくして、ロータの円周方向の磁気的、電気的特性の平滑化が必要である。また、図64の軟磁性体の突起部643、644の形状等は、巻線の固定に都合の良い形状とすることもできる。ロータを外形側に配置し、ロータ強度を向上することもできる。
図64のステータの前記突起部643、ロータの前記突起部644の具体的な形状として、ステータのバックヨークからロータのバックヨークまでのラジアル方向の距離Lgbyに対して、ステータの突起部643の先端からロータの突起部644の先端までのラジアル方向の距離をLgby/2以下とする。その構成では、特にトルクの小さい領域における励磁電流成分Isfを半分程度に低減できるので、軽負荷でのモータ効率を改善できる。また、大きな負荷に対しては、図64の前記突起部644の形状において、突起部を相互に円周方向に離して配置しているので、ロータ巻線の漏れインダクタンスLrwを適度に小さくできる。そして、大きなトルクを発生できる。なおこの時、ステータの突起部643の先端の相互の円周方向距離が小さくなる場合は、ロータ巻線の漏れインダクタンスLrwが増加するので、ステータの突起部643の先端からロータの突起部644の先端までのラジアル方向の距離をLgby/10以上とする。その結果、このモータ構成は、軽負荷と大きな負荷との両方に対応できるので、実用的なモータ特性である。そのような特性のモータ用途は少なくない。
次に、請求項29の実施例について説明する。図60、図62に示す前記ロータ巻線は、各相が全節巻き巻線の構成の例である。全節巻き巻線は、コイルエンド部が長くなり、各相の巻線が交差するので、大きく複雑になる問題がある。特にロータ巻線は、回転するので簡素な構成が好ましく、遠心力もかかる。なお、前記の様に、誘導モータのロータの全節巻きの短絡巻線は、アルミダイカストロータ及びかご形回転子と電気回路的に等価である。但し、これらの導体と軟磁性体は電気的に繋がることによる弊害、コイルエンドの短絡部のインピーダンスが十分に低くないことに起因して想定外の電流が流れる問題もある。
請求項29では、図60、図62、図64に示すロータ巻線を、図65、図66に示す方法で実現する。ロータ巻線を銅、アルミニウム等の導体の板を用いて、高占積率でロータ巻線を実現し、アルミダイカストロータのように、コイルエンド部を短絡してロータ巻線を簡素化する。図65の(a)はシート状の銅板を加工するもので、651は細長い穴でスリットであり、銅板の円周方向の電気的な絶縁を行い、ロータ巻線652などを形成する。このロータ巻線652は図1のロータの場合、ロータスロット内のロータ巻線に相当する。14個のスリットを設けており、14個のロータ巻線を形成している例である。653と654はコイルエンド部で各相のロータ巻線を短絡している。なお、前記スリット651は電気的な絶縁が目的であり、部分的な切断加工でわずかな隙間を作り絶縁することもできる。切断面を設けるだけで、所々に金属接触部が残っても、平均の電気抵抗を10倍以上に増大できる。
次に、図65の(a)の銅板を図66の(a)の断面図のように、円筒状に変形する。
破線で示す661は図65のスリット651である。662は図65のロータ巻線652である。663は接合部であり、図65の(a)の紙面で、コイルエンド部653と654の左右の両端に相当する部位である。663の接合部は、相互に機械的に電気的に結合する。そして、この円筒形状のロータ巻線のユニットを図60、図62のロータに取り付け、固定する。図65の651のスリットの幅は、電気的に分離できる程度で、ごく小さな幅で良く、ロータ巻線の占積率は100%に近くできる。コイルエンド部は単純な板状となり、簡素で強度も大きくできる。但し、回転時の遠心力に対してはグラスファイバーなどでの補強する方法、あるいは、アウターロータ構成としてロータ各部にかかる遠心力をロータ外周部の補強材で受ける構成とすることもできる。
図65の(a)の銅板の製作は、金型を使用した打ち抜き加工などの機械加工で製作できるので、生産性が良い。全周のロータ巻線数の増加も容易で、ロータ巻線のスキューなどの工夫も容易である。また、加工用レーザを使用した切断加工、溶接加工なども使用でき、金型加工との組み合わせも可能である。また、図65の(a)の平板状の銅板を図60、図62のロータへ円筒状に変形させながら成型して組み付け、図66の663の部分をレーザ溶接などで結合することもできる。なお、ロータ巻線とロータバックヨークとの間は、電気的な絶縁が可能であり、その方が好ましい。
また、図65、図66では、1層分の円周方向長さの銅板を示しているが、厚板の加工は難しさがある。そのため、薄板の銅板を複数枚重ねて多層にして、図66の(a)の円筒形状のロータ巻線のユニットを製作することができる。薄板を多層に重ねる構成には、いくつかの製作方法が考えられ、どの方法であっても良い。薄板の多層を構成する一つの方法は、図66の(a)の構成を単純に多層に重ねる。
他の方法として、円周方向に長い銅板を多層巻きにし、一連の作業を同時並行することもできる。即ち、例えば、銅シートを巻き付けた原材料のドラムから銅シートを引き出し、銅シートへレーザ加工で図65の651、655のスリットを加工し、銅シートを図60、図62、図64、図67のロータへ、順次巻き付ける方法である。この時、銅シートへのレーザ加工形状は変化して行くが、形状の計算は可能なので、ロータへの巻き付け状況に合わせて加工位置、形状を可変できる。また、シート表面の絶縁技術、銅シート間の接着技術、コイルエンド部を多層間でレーザ溶接により結合して電気的、機械的に結合する技術、ロータの外周を樹脂を含むグラスファイバーのテープなどで固定する技術などが使える。銅シートへの巻き付け時の機械的な干渉は、銅シートが変形可能なことと、各部形状の修正、レーザ溶接などで解決できる。また、逆に、銅シートを円周方向に分割して配置し、レーザ溶接などで接続することもできる。また、銅板、銅シートではなく、アルミニウム板なども使用できる。超電導材料、他の新たな導体なども使える。
次に、図64に示すロータ巻線の形状の場合は、図65の(a)と(b)の銅板形状を使用できる。図65の(b)は655のスリット部、即ち、細長い穴の形状の幅を、651に比較して大きくしている。656はロータ巻線、657と658はロータのコイルエンド部である。例えば、図65の(a)と(b)を重ねて円筒形状にすると、図66の(b)の様になる。665は661と同じスリット、666は662と同じロータ巻線、667は図65の655の幅広のスリット、668は内径側のロータ巻線、669と66Aは663と同様の接合部である。
図64の645のロータへの各ロータ巻線の組み付けは、図65の(b)での銅板で構成する、図66の(b)の内径側の円筒状のロータ巻線を最初に組み付け、次に、図66の(b)の外径側の円筒状のロータ巻線を組み付ける。それらの銅板を多層の構成とすることもできる。また、前記の各加工技術、組み立て技術も使用することができる。その結果、巻線占積率を向上することができる。生産方法を適正化し、製作性、生産性を改善できる。
なお、図60、図62、図63、図64などの、円周方向のロータ巻線の数が少ない場合で、図65の(a)、(b)の様な導体板を使用すると平面部が広くなった所を界磁磁束が通過しようとするので、導体板の平面部で渦電流が増加する問題がある。その様な場合には、図65の(c)の65E、65Fに示す様な細いスリット、あるいは、単に切断面を設けることにより渦電流を大幅に低減できる。図65の(c)の破線で示す65Aは、図65の(b)の破線659の部分の拡大図である。65B、65C、65Dは、図65の(b)の655と同様のスリットであり、図65の(b)のその他の部分は656と同様のロータ巻き線の部分である。65Eと65Fは、電気的な導通を妨げるために、そのロータ巻き線の部分に加工された細いスリット、あるいは、単に部分的に切断面を作ったものである。この切断面は、打抜き加工のように比較的簡単に加工でき、切断加工後にほぼ元の位置に戻っても、相互の電気的な導通は大幅に低下する。また、切断加工用の金型等の工夫により、わずかに隙間ができるような切断面の加工も可能であり、電気的な導通を妨げることが可能である。この様にして渦電流の問題を低減できる。なお、円周方向のロータ巻線の数を多くすれば、渦電流成分は低減し、渦電流による損失が低減し、前記細いスリット、切断面65E、65Fの必要性は少なくなる。また、図65の(a)のスリット651も同様に、部分的な切断面でわずかな隙間を作り、円周方向の電気的な絶縁を行うことができる。
次に、図67のモータ構成例について説明する。ステータは、図1のステータの歯を変形しているが同一の配置構成であり、同一の符号を付けている。図67の歯をラジアル方向にほぼ直線状にし、スロット開口幅を大きくしている。図67の672はロータの歯であり、ラジアル方向にほぼ直線状にし、スロット開口幅を大きくしている。673、674はロータ巻線であり、図65、図66に示したような銅シートの積層構造である。図67の構成は、ロータ巻線の漏れインダクタンスLrwを小さくする誘導モータ構成の例である。ロータ外周を非磁性、非導通の強化材料で覆い、補強しても良く、いわゆる、アウターロータ構造としても良い。なお、図67の構成、形状は、説明を容易にするためステータとロータの歯数を同じにしたモデルであり、ロータが回転するとステータとロータ間の磁気抵抗が極端に変化し、実用的には使えない。実用化設計では、ロータ歯数とロータ巻き線数を多くし、3、5、7、11などの素数を使い、極対数を2以上に大きくし、円周方向の磁気的脈動を相殺し、合計で磁気的に平滑な特性とする必要がある。
図67のロータ巻線である銅シート673、674を円周方向に巻き付ける場合、幾何学的な干渉が発生する。この対策として、銅シートを変形させながら組み付けることができる。スリット形状の変形との軸方向長の長さを都合良く適正化できる。ロータ歯の軸方向端の形状を銅シートの組み付けが容易になるように短くできる。ロータ歯の形状を銅シートの組み付けに都合の良い形状へ変形することもできる。
図60、図62、図64、図67のステータ、ロータはそれぞれの組み合わせが可能である。図64の誘導モータの特徴は、ロータの突起部644を付加していて、ステータのバックヨークからロータのバックヨークまでの磁気抵抗MRsrを減少できる点である。この時、漏れインダクタンスLrwが増加するので、MRsrとLrwのバランスを考える必要がある。
また、例えば、図64のロータは、図60のステータとも組み合わせることができる。その結果、漏れインダクタンスLrwと磁気抵抗MRsrとを変え、選択できる。ロ−タ巻線と突起部644の形状、数などを設計することができる。即ち、ロータの突起部644の形状、数により、磁気抵抗MRsrの値を変え、小さくすることもできるので、特に、トルクが小さい領域での励磁電流成分を低減でき、低トルク域の効率を改善できる。
まとめると、先に説明したように、図61のモータは、ステータ磁極とロータ磁極との相互の磁気抵抗が小さく、界磁磁束φmの励磁電流を小さくできること、また、ステータ巻線とロータ巻線との相互インダクタンスが大きいことの特長がある。しかし、ロータのスロットは軟磁性体で囲われていて、ロータ巻線の漏れインダクタンスLrwが大きく、界磁磁束φmの位置に対するロータ電流Irの位相の遅れが大きくなるので力率が低下する問題、図6で示した最大トルクが小さくなる問題がある。これに対して、図60、図62、図64、図67などのモータは、ステータ磁極とロータ磁極との相互の磁気抵抗が大きくなり、界磁磁束φmの励磁電流が大きくなることを犠牲にし、ロータ巻線の漏れインダクタンスLrwを小さくし、界磁磁束φmの位置に対するロータ電流Irの位相の遅れを小さくし、図6で示した最大トルクの値を大きくする。
漏れインダクタンスLrwを小さくする具体策として、図60、図62、図63の様に、ロータ巻線の近傍の軟磁性体を取り除けば、漏れインダクタンスLrwは小さくできる。また、図64のロータの軟磁性体の突起部644の高さと、ステータの軟磁性体の突起部643の高さを適正化し、漏れインダクタンスLrwの低減と、ステータ巻線とロータ巻線との相互インダクタンスをある程度確保して、両特性を両立する構成とすることもできる。また、図67のように、ロータスロットの開口部、及び、ステータスロットの開口部を広くして漏れインダクタンスLrwを低減することできる。また、さらには、後に示す図76のように、ステータ巻線とロータ巻線の周辺に軟磁性体が存在しない構造では、ステータ巻線とロータ巻線との相互インダクタンスも小さいが、各ロータ巻線の漏れインダクタンスLrwを小さくできる。但し、図76のような場合には、後で示すように、ステータ電流とロータ電流との相互の作用を効果的に行う必要がある。
そして、後に示す図70、(193)式のように、ロータ電流が発生する起磁力成分とステータ電流が発生する起磁力成分がそれらの外側の部分に与える起磁力の作用を相殺する効果とロータ電流成分とステータ電流成分とがエアギャップ部の円周方向磁束密度成分Bcirを生成する効果とを活用し、前記本発明制御技術と組み合わせることにより、モータの最大トルクを増大する。即ち、モータと制御の相互の適正化により、モータの最大トルクをより効果的に増大できる。その結果、図6の66の特性のように、最大トルクを増大できる。なお、これらの作用、効果は、従来の同期モータ、リラクタンスモータ等の作用、効果とは異なる面がある。
これらの結果、ロータ巻線の漏れインダクタンスLrwを小さく、適度な大きさにできるので、用途に応じて、図5の位相遅れθsを小さくし、図6の62のトルク特性を破線で示す66の特性とし、最大トルクを増加できる。バックヨークからロータのバックヨークまでの磁気抵抗MRsrを低減でき、励磁電流成分Isfが課題となる問題についても、許容される程度に減少できる。励磁電流成分Isfとロータ電流成分Isrの配分バランスを選択して制御できる。トルクが大きな領域ではトルクを発生する動作部のラジアル方向磁束密度を2.0[T]近くまで増加できる。磁束の円周方向分布、電流の円周方向分布を、正弦波分布ではなく台形波分布を7相等の多相の電圧、電流で制御できる。また前記の様に、モータ駆動回路のパワートランジスタの大きさは、最大トルクの大きさに制約されていることが多く、むしろ、その小型化、低コスト化が可能となる。
次に、請求項30の実施例について説明する。図68のモータは、請求項30の実施例である。ステータ巻線とロータ巻線に、低温時に抵抗値が0となる超電導巻線を使用するモータである。また、ステータの構成と電流、ロータの構成と電流、及び、それらの作用、機能、特徴、問題点の相関関係について、図69、図70、図71、図72、図73に示し、説明する。
なお、請求項30では、各相の界磁励磁電流成分とロータ電流成分と界磁磁束φmの分布とでステータとロータとの電磁気的な作用を表現しているが、ステータの各相電流とロータの電流群との電磁気な作用は単純に記述することが難しい状態にもなり得る。現在のモータ技術ではトルクなどを有限要素法による電磁界解析で求めることが多く、例えば、後に示すマクスウェルの応力式から導かれた(193)、(194)式の値をエアギャップ面に沿って周回積分して正確に求めることができる。ここで、(193)、(194)式は、前記両電流群の結果として生成する各部の磁束密度成分Bcir、Bradだけで、発生する力成分Fcir、Fradを表している。しかしながら、請求項30などの請求項では、ローレンツ力の(191)式のように、界磁磁束φmの分布と前記両電流群の各電流成分の分布で表現するので、少し抽象的になり、限定的になることもある。そして、例えば、界磁磁束φmがステータ電流の一部成分とロータ電流成分の一部成分との両方で生成されることもあり、請求項の表現とは少し異なる電流制御状態も発生する。本発明はそれらの制御状態を除外するものではなく、それらも含むものとする。
超電導巻線の優れた点は、抵抗値を0にできること、電流密度を大きくできることである。従来の同期モータ、リラクタンスモータの銅などの巻線を超電導巻線へ単純に置き換えることにより、モータの高効率化、小型化、軽量化が可能である。また、この基本特性に基づく、超電導電磁石などの様々な特性が得られる。その反面、超電導巻線の問題も多くある。例えば、冷却が必要である。価格がまだまだ高価である。モータの電磁鋼板などの周辺部材の損失があり、それらの発熱が冷却の負担となる。誘導モータのロータ巻線を超電導巻線へ置き換えると、ロータが超電導電磁石になってしまい、界磁磁束を変更、可変できないので、誘導モータとして作用しない問題もある。
特に、超電導巻線を使用したロータでは、いわゆる、超電導電磁石が可能となり、永久磁石より強力な磁力を維持でき、JRの超電導電磁石を使用した、いわゆる、リニア新幹線が期待されている。しかし、これは、超電導電磁石が使われているだけであり、モータの超電導巻線利用は50%以下である。前記の様々な問題のため、超電導巻線は特殊用途で使用され、モータ用途では、高出力、小型などの特殊な用途へ検討されている程度であり、量産されていない。工業用、自動車用、家電用としての開発の情報は少ない。本発明では、超電導巻線を活用する新たなモータ技術、及び、超電導巻線と共に必要となる周辺技術に関して提案する。
次に、請求項30の実施例として、図68のモータを説明する。68Tはステータ、68Rはロータ軸、68Qはロータであり、ステータ巻線とロータ巻線に超電導巻線を使用している。各ステータ巻線とその接続関係、各ステータ磁極の配置関係は、図1の誘導モータと同じで、7相のステータである。ステータ巻線の抵抗値が0[Ω]で電流密度も大きくできるので、図1に比較し、スロットと巻線の断面形状の面積を小さくし、各歯幅が広くなり、バックヨークの厚みを大きくしている。681はA8相ステータ磁極、682はA/8相ステータ磁極、683はB8相ステータ磁極、684はB/8相ステータ磁極、685はC8相ステータ磁極、686はC/8相ステータ磁極、687はD8相ステータ磁極、688はD/8相ステータ磁極、689はE8相ステータ磁極、68AはE/8相ステータ磁極、68BはF8相ステータ磁極、68CはF/8相ステータ磁極、68DはG8相ステータ磁極、68EはG/8相ステータ磁極である。68Fのコイルエンドで示す全節巻き巻線は、AD8相巻線である。同様に、68GはBE8相巻線、68HはCF8相巻線、68JはDG8相巻線、68KはEA8相巻線、68LはFB8相巻線、68MはGC8相巻線である。
図68のロータ巻線は、説明の容易さなどから、14個の例を示している。しかし前記の様に、ロータ巻線数が多いほどより滑らかな駆動となり、ステータとの干渉を避けるためには素数の組み合わせが好ましい。WR18、WR28、WR38、WR48、WR58、WR68、WR78などは、各相のロータ巻線である。これらの接続は種々方法が可能である。例えば、円周方向に180°離れたロータ巻線と全節巻き巻線とすることができる。後に示す様に、各ロータ全節巻き線の相互接続もいくつかの方法がある。
図68のモータは、次の3通りのモータとして駆動できる。後に示す様に、第1の方法は、図74の構成として誘導モータとして駆動する。第2の方法は、図75の構成としては、ステータ電流とロータ電流とを供給し、それらの電磁気的相互作用でトルクを発生する。第3の方法は、超電導体を使用して超電導電磁石を構成し、同期モータとして駆動する種々方法が提案されている。本発明ではこの第3の方法には触れない。
図68のモータの作用について説明する前に、従来モータである図69の永久磁石同期モータとその問題点について説明する。図69の69Bはステータである。69Fはロータの永久磁石で、紙面の右側がN極である。69Gもロータの永久磁石で、紙面の左側がS極である。ステータ電流が0の場合は、52Cの2重破線の矢印で示す様に、紙面の左側から右側へ界磁磁束が生成される。表面磁石型同期モータSPMSMと言っている。この状態でCCW方向の大きなトルクを生成する場合は、691、693、695、697、699のステータ巻線へ、巻線のシンボルマークで示す様に、紙面の表側から裏側へ電流を通電し、692、694、696、698、69Aのステータ巻線へ紙面の裏側から表側へ電流を通電すれば良い。この時、各ステータ電流により、69Dの2重破線の矢印で示す起磁力が発生し、ステータ電流に起因する磁束成分が生成される。そして、合計の界磁磁束は69Eの2重線の矢印で示す界磁磁束となる。その結果、界磁束の方向とステータ電流分布の中心とに、例えば、30°というような位相ずれが発生し、大きなトルクを発生するための最適位相から位相が30°ずれる問題が発生する。
この問題に対して、前記位相ずれ30°の問題は良く解っているので、ステータ電流の位相をCCW方向へずらすことにより、トルク発生の適正化を行っている。あるいは、永久磁石をより高性能な特性に変更して前記位相ずれの問題を軽減している。また、家電用、工業用の磁石内蔵型のモータIPMSM、ハイブリッド自動車の主機用モータとして使用されている磁石内蔵型の同期モータIPMSMでは、弱め界磁制御による定出力特性を得る狙いもあり、ステータ電流の起磁力により界磁磁束の位相と大きさが大きく変化する。異なる視点、表現では、IPMSMの場合、界磁磁束がステータ電流の起磁力により変化することを、積極的に利用している。ステータ電流により界磁磁束を強めたり、弱めたりしている。
通常、永久磁石はそのH-B特性の第2象限の磁気特性で示され、例えば、磁気回路の磁気抵抗が増加すれば永久磁石は大きな起磁力を発生して磁束を保とうと作用する。同様に、図69の691、693、695、697、699のステータ電流が流れた場合、交換相互作用などにより、永久磁石側ではステータ電流に逆らうような等価電流が原子レベルで流れるようである。しかし、その大きさには限界があると考えられ、本発明では永久磁石のそれら効果には触れない。
これらの市販のSPMSM、IPMSMのトルク特性は、連続定格トルクに対して、前記の対応策を施すことにより、最大トルクはその300%位であることが多い。リラクタンスモータも同程度である。500%くらいのステータ電流では、前記の対応策の限界があるため、トルクが飽和する問題、永久磁石が減磁する問題などがある。リラクタンスモータの場合は、磁気的な飽和により吸引力に限界がある。そのトルク特性は、図73の731のような特性である。縦軸はトルクで、横軸はステータ電流であり、横軸の目盛りは連続定格トルクに対する倍率で、例えば、4は連続定格トルクの400%を示している。トルク特性が電流に対して非線形な領域に入り、トルクが飽和してきている。図69の表面磁石型同期モータSPMSMはトルク飽和の問題がある。また、高速回転時に界磁磁束φmを弱める界磁弱めができない問題、永久磁石の減磁の問題もある。
731のような現状モータのトルク飽和の特性に対し、今後の電気自動車用のモータ、航空機用のモータは、732の様な大きなトルクが望まれる可能性がある。小型化、軽量化、低コスト化も同時に求められる。本発明では、図73の732の様なトルクの増大、及び、小型化、軽量化、低コスト化を実現するモータと制御装置を提案する。なお、図73の732の様な大きな電流領域の動作では、モータの銅損などのジュール熱が問題となる。そのため、ジュール熱が0となる超電導巻線と並行して図73の732の特性を説明している。しかし、超電導巻線と図73の732の特性とは、直接的な関係は無い。後に示す、マクスウェルの応力式から導かれた(193)、(194)式と超電導巻線とも、直接的な関係は無い。
次に、図73の732の様な大きな力、大きなトルクを発生することが可能な基本構成について説明する。前記図69の永久磁石型同期モータSPMSMのトルクを手計算する場合、ローレンツ力から導かれるトルク式で計算する。即ち、界磁磁束の磁束密度B[T]と電流I[A×turn]と巻線の有効長さL[m]から次式で、力F[N]、巻線位置あるいはロータ半径Mr[m]としたトルクT[Nm]を次式で計算できる。
F=B×I×L (191)
T=F×Mr (192)
これらの式と図73の永久磁石型同期モータSPMSMの問題点は、前記説明のように、電流Iが界磁磁束φmの方向を変え、磁束密度Bが低下する問題である。なお、(191)式はファラデーの電磁誘導の法則から導かれ、常識的な式である。各ベクトルの相対的な方向を示す方法として、フレミングの左手の法則が知られている。
一方、現在のモータ設計では、有限要素法による電磁界解析が一般的に採用されている。筆者は磁界解析ツールを使用するものの、解析の内部計算のソフトウェアに精通しているわけではないが、解析では(191)式のようなローレンツ力よりも、マクスウェルの応力式などを用いた有限要素の磁界の分布で表現されている。そして、マクスウェルの応力式から導かれ、モータのエアギャップ部などで作用する力として次式が知られている。
Fcir=(Brad×Bcir)/μ0 (193)
Frad=(Brad2−Bcir2)/(2×μ0) (194)
(193)式のFcir[N]は円周方向の力成分であり、Frad[N]はラジアル方向の力成分である。Bcir[T]は円周方向の磁束密度成分であり、Brad[T]はラジアル方向の磁束密度成分である。μ0は真空透磁率である。
なお、トルクT[Nm]は、(192)式と同様に、次式となる。
T=Fcir×Mr (195)
また、モータの場合、(191)式の力F[N]と(193)式の力Fcir[N]は同じものである。但し、(191)式の力F[N]は巻線の有効長さL[m]当たりの力であり、(193)式の力Fcir[N]は単位面積当たりの力である。また、(193)式の円周方向に作用する力成分Fcirである。特に、(193)、(194)式は、電流を含まない表現であり、(191)式とその点で異なる。電流に力が作用しているわけでもない。
ここで、ローレンツ力である(191)式とマクスウェルの応力式から導かれた(193)式が矛盾するわけではないが、異なる表現である。特に本発明に関わることは、(193)式の円周方向の力成分Fcir[N]を発生する動作点近傍において、もし、円周方向の磁束密度成分Bcirを生成する電流成分Icirがラジアル方向の磁束密度成分Bradへ与える影響が小さい構成と作用であれば、界磁磁束φmに影響せずに前記電流成分Icirを大きな値とできることである。そして、円周方向の力Fcirを大きな値とすることができる。図73の732のトルク特性となり、大きなトルクを発生することができる。ここで、前記磁束密度成分Bradは、前記界磁磁束φmの一部の磁束密度である。これらの作用を図70等で説明する。
次に、(193)式で示される円周方向の力Fcirを効果的に発生する例、即ち、構成、電流、磁束、力を具体的に示す例を図70に示す。なお、(193)式、(194)式は磁束の分布状態における電磁力を表している。そしてその値は、コンピュータ上で、モータ各部を有限要素に分割して、多くのメモリーを使用して、磁場解析値として計算している。複雑なので、この紙面で説明できる力発生の構成モデルは、極めて簡素化した構成に限定される。
図70は、ステータとロータを水平に直線状に展開した展開断面図である。特に解り易い、特別の通電状態の例、即ち、簡単な電流分布の例である。このモータモデルは、前記図68のモータを図62のように、ステータの各相の歯とロータの各歯を取り除いて変形したモータである。そして、図70に示す様に、その断面形状を直線状に展開している。なお、図70に示す電流、磁束、力などの関係は、図68、図60、図62、図63、図64などにも共通する。また、これらのモータへ超電導巻線を適用することもできる。
図70の701はステータのバックヨークで、図68の68Tに相当する。702はロータのバックヨークで、図68の68Qに相当する。図70にロータ軸は記載していない。図70の紙面の下側にステータの回転角位置θscsを記載していて、中央がθscs=0°、右側がθscs=180°、左側がθscs=−180°である。ステータからロータまでのエアギャップはLgapの部分であり、実際には0.5[mm]程度の小さな隙間であるが、この小さな隙間の磁束分布が誘導モータなどの力の発生のほとんどの現象を生成しているので重要であり、このエアギャップ部を極端に拡大して図示している。例えば、図68のモータの外径を250[mm]と想定すると、エアギャップ長Lgapの0.5[mm]は、相対的にごくわずかな長さである。ステータのバックヨーク701からロータのバックヨーク702までの距離はLgbyとして図70に図示している。
ここで、他の断面図と物理的に同じ通電状態であっても、図70の直線展開図では断面図とは逆向きの電流方向表示であることについて説明する。図70では、前記の様に、紙面の右方向をステータ回転角位置θscsの正方向としている。それは数学等における、第1象限、第2象限などと同じ位置であり、同じ方向である。他方、図1、あるいは、図68などの断面図におけるロータのCCW回転が、直線展開図である図70では、右方向がステータ回転角位置θscsの正方向であり、ロータ回転角位置θrが増加する。それはタイムチャートなどで表現する場合の慣例である。それらの結果、図70は図1、あるいは、図68の断面図の紙面の裏側から見て直線展開した図であると考えることができる。即ち、例えば、図68のAB8相巻線68Nへ正の電流を通電する時、図70のAB8相巻線703では紙面の裏側から表側へその電流が通電し、それを電流シンボルで表記すると負の電流シンボルとなる。同じ電流でも、両図では電流シンボルを逆向きに表現する必要がある。時に誤解を生む恐れもあるが、本発明ではこの直線展開図の表現方法とする。
図70のステータ巻線とロータ巻線は、X字と丸印の正の電流シンボルと、点と丸印の負の電流シンボルとで模式的に示している。図70の703はステータのAB8相巻線で、705はステータのAB/8相巻線であり、図68の68Fのコイルエンドで示す全節巻き巻線であり、68Nと68Pの巻線に相当する。同様に、図70の708はBE8相巻線で、図68の68Gに相当する。図70の709はCF8相巻線で、図68の68Hに相当する。図70の704はDG8相巻線で、図68の68Jに相当する。図70の70PはEA8相巻線で、図68の68Kに相当する。図70の70AはFB8相巻線で、70QはFB/8相巻線であり、図68の68Lに相当する。図70の70BはGC8相巻線で、図68の68Mに相当する。
図70と図68のロータ巻線は、説明を容易にするため、ステータ巻線と同様に、14個の全節巻き巻線としている。図70の706のロータ巻線は、図68のWR18に相当する。
図70の70Sのロータ巻線は、図68のWR28に相当する。図70の70Tのロータ巻線は、図68のWR38に相当する。図70の70Uのロータ巻線は、図68のWR48に相当する。図70の707のロータ巻線は、図68のWR58に相当する。図70の70Mのロータ巻線は、図68のWR68に相当する。図70の70Rのロータ巻線は、図68のWR78に相当する。なお、前記の様に、ロータ巻線の数は、素数を多く含む大きな数が、トルクリップル低減などの観点で好ましい。
次に、ステータ巻線とロータ巻線へ電流を通電し、その電流分布と磁束の分布と発生する力の関係について、図70、図71、図72に示し、説明する。なお、請求項30は超電導巻線のモータであるが、図70、図71、図72、図73の説明は電磁気的な作用の説明であり、超電導巻線に限らない。しかし、超電導巻線は抵抗が0[Ω]で、電流密度が大きいので断面積が小さいことから、図60、図62、図63、図64、図68、図76、図77などへ適用することにより、これらモータの短所を補い、より優れたモータとできる。また、図68のモータの各超電導巻線へ電流を通電する例として、誘導モータとして動作させる図74の例と、ロータ巻線へも外部から電流を供給する図75の例とを示す。図74、図75の場合、各ロータ巻線の接続関係は、ここでは限定しない。前記の様に、図68のモータは超電導巻線なので、巻線断面積を小さくし、各歯幅とバックヨークの厚みを大きくした例である。
前記の様に、図70は図68の直線展開図で、各電流のごく簡単な通電の例を考える。図70の70Aと70QはFB8相電流を通電する全節巻き巻線で、正の励磁電流成分IsffbFX[A×turn]を、電流のシンボルマークで示すように通電し、界磁磁束成分70L、70C、70Dなどを生成する。X字と丸印の電流シンボルのロータ巻線へは、紙面の表側から裏側へ正の電流Ir8[A×turn]を通電する。70R、706、70Sなどの6個のロータ巻線で、Ir8は通電電流と巻回数の積[A×turn]で表す。点と丸印の電流シンボルのロータ巻線へは、紙面の裏側から表側へ電流Ir8[A×turn]を通電する。707、70T、70Uなどの6個のロータ巻線である。70Mと70Nの2個のロータ巻線の電流値を0[A×turn]とする。これらのロータ巻線は全節巻き巻線の例であり、電気角180°のピッチで接続した短絡巻線なので、説明しなかった残り6個のロータ巻線の電流も特定される。
ステータ巻線へ通電する電流は、前記70Aと70QのFB8相電流を除いて、エアギャップを介して対向するロータ電流に対して大きさは同じで正負が逆の電流[A×turn]を通電する。AB8相巻線の703からAB/8相巻線の705へは、AB8相電流IsrabFX=Ir8[A×turn]を通電する。なお、先に説明したように、図70の直線展開図は図68の断面図の紙面の裏側から見た図に相当するので、AB8相巻線703のAB8相電流IsrabFXが正の時、図70の紙面の裏側から表側に電流が流れ、図示するように703の電流シンボルマークを負とする。同様に、BE8相巻線708へはBE8相電流IsrbeFX=Ir8[A×turn]、CF8相巻線709へはCF8相電流IsrcfFX=−Ir8[A×turn]、DG8相巻線704へはDG8相電流IsrdgFX=−Ir8[A×turn]、EA8相巻線70PへはEA8相電流IsreaFX=−Ir8[A×turn]、GC8相巻線70BへはGC8相電流IsrgcFX=Ir8[A×turn]を通電する。各電流は、実際に通電する電流値と巻回数の積[A×turn]で表している。各電流の方向は図70の電流シンボルの方向である。FB8相巻線70AとFB/相巻線70Qには、前記FB8相電流IsffbFX[A×turn]を通電し、70Mの電流と70Nの電流は0[A×turn]で、それ以外の巻線の電流の大きさはIr8[A×turn]である。なお、簡単な通電例を示しているが、通常は、界磁の励磁電流成分とトルク電流成分とが重畳して、分布して、ロータ回転と共に変化して各ステータ巻線へ通電されることが多い。
図70に、前記通電状態における磁束の分布を、破線と二点鎖線で示している。前記70Aと70Qの負の値である励磁電流成分IsffbFX[A×turn]により、xシC、70L、70Dなどのような二点鎖線で示す界磁磁束φradを生成する。これらの界磁磁束φradは、図68のモータのエアギャップ部では、ラジアル方向の磁束成分φradである。前記励磁電流成分IsffbFX以外の、図70のステータ電流成分とロータ電流成分により、70F、70H、70E、70Gなどのような破線で示す磁束成分φcirが生成される。これらの界磁磁束は、図68のモータのエアギャップ部では、円周方向方向の磁束成分φcirである。
次に、図70の前記xシC、70L、70Dなどのようなラジアル方向の磁束成分φradと、前記70F、70H、70E、70Gなどの円周方向方向の磁束成分とφcirと、各電流が発生する磁界の強さ[A/m]を考察するために、図70を部分的に拡大した図71を示す。また、図71の一部であって、力の発生の基本的な構成とその作用を図72に示す。
図71の構成は、図70のほぼ中央部分の断面図構成であり、空間に、4個のステータ巻線711、712、713、714と4個のロータ巻線715、716、717、718とそれぞれの通電電流を示している。各ステータ巻線へは、負の電流−Is9[A×turn]を通電し、各ロータ巻線へは正の電流Ir9=Is9[A×turn]を通電する。図71の711と713は、図70の70Bと703に相当する。図71の715と717は、図70の70Rと706に相当する。
図72は図71の一部を取り出し、拡大して示す図である。721はステータ巻線で、図71の713、図70の703に相当する。722はロータ巻線で、図71の717、図70の706に相当する。そして、図71と図72の構成では、72A、727、728に示す様に、紙面の下側から上側へ界磁磁束φm9[Wb]が与えられ、その磁束密度をBrad[T]と想定する。
このような図71と図72の状態、条件における周辺の磁界の強さH[A/m]と磁束密度B[T]を、アンペアの周回積分の法則等に基づいて考察する。図71の71Cの1点鎖線の周回経路に沿った磁界の強さH[A/m]の積分値は、通過する電流が(−Is9+Is9)=0なので、0であり、その経路をたどる磁束φ[Wb]も0である。同様に、71Dなどの左右の1点鎖線の周回経路の磁界の強さH[A/m]の積分値、その経路をたどる磁束φも0である。そして、図71の8個の巻線の周りに描いている、71Eの1点鎖線の周回経路の磁界の強さH[A/m]の積分値、その経路をたどる磁束φも、同様に、0である。
図71の71Cと図72の725の経路は同じであり、その1点鎖線の周回経路の磁界の強さH[A/m]の積分値、その経路をたどる磁束φも、同様に、0である。
図72の723の経路を鎖交する電流721は、紙面の裏側から表側へ、前記の様に、Is9[A×turn]が流れていて、その1点鎖線の周回経路の磁界の強さH[A/m]の積分値はIs9[A×turn]である。ネ4の経路を鎖交する電流722は、紙面の表側から裏側へIr9=Is9[A×turn]が流れていて、その1点鎖線の周回経路の磁界の強さH[A/m]の積分値はIs9[A×turn]である。一方で、前記の様に、725の周回経路の磁界の強さH[A/m]は、鎖交する両電流の起磁力[A×turn]が相殺するので0であり、725の周回経路の磁束は0[Wb]である。そして、電流721と722の両電流の起磁力[A×turn]が同一方向に作用する726の磁束成分φcirが誘起される。なお、726の磁束成分φcirの方向は電流721と722がバランスしているので紙面の右方向となり、φcirの大きさはその磁束経路の全体の磁気抵抗に依存する。
また、図72の726は図71の71Bであり、図68の円周方向に並列に配置する各ステータ電流、各ロータ電流の起磁力が、図71では破線71Bの方向に作用する。図68、図70、図71の場合、隣り合う各ステータ電流、隣り合う各ロータ電流が、図71の71Bであり図70の70E、70Gである磁束成分φcirを共同で励磁する。従って、図70の70E、70Gの磁束経路から分かるように、各電流が励磁を分担するそれぞれの磁路長は、図70の紙面で水平方向のおおよそ各巻線間隔の幅となり、比較的小さい。その結果、この円周方向磁束成分φcirはエアギャップ中の磁気抵抗の大きい空間を円周方向に通過する磁束成分ではあるが、円周方向磁束密度Bcir[T]を大きな値とできる。但し、エアギャップ部のラジアル方向隙間である前記Lgapは0.5[mm]程度の小さな隙間なので、前記円周方向磁束成分φcir[Wb]は小さな値である。
次に、図71と図72において、各ステータ電流、各ロータ電流の起磁力が、前記ラジアル方向の磁束成分φrad、磁束密度成分Bradへ与える影響について説明する。図72において、前記の様に、725の周回経路の磁束は0であり、ラジアル方向の磁束成分φradへ与える平均値的な影響は小さい。但し、大きなトルクを発生する時には、エアギャップ部で円周方向磁束密度成分Bcirが大きな値となる。前記ラジアル方向の磁束密度成分Bradと円周方向磁束密度成分Bcirとの合成した磁束密度は、例えば、図72の729の様になり、磁束の方向が大きく変わる。しかし、エアギャップ長Lgapは、前記の様に小さな値なので、図71と図72のラジアル方向の磁束成分φradが、紙面で左右にずれる距離はわずかである。従って、図71に示す8個の巻線の電流は、マクロ的には、ラジアル方向磁束成分φrad、ラジアル方向磁束密度成分Bradの平均値にほとんど影響しないと言える。
次に、図70の構成に戻り、図71と図72との関係を示す。図70のエアギャップ部近傍の構成は、前記の様に、電気角で360°の間に、界磁磁束φmがロータ側から見てN極の部分とS極の部分とがある。ステータ回転角位置θscsが−90°から+90°の部分はN極の部分であり、θscsが+90°から180°、即ち、−180°を通って−90°の部分はS極の部分である。そして、θscsが−90°から+90°のN極部分ではステータ巻線に負の電流−Ir8[A×turn]を通電し、ロータ巻線に正の電流Ir8[A×turn]を通電している。θscsが+90°から180°、即ち、−180°を通って−90°のS極部分ではそれぞれに逆向きの電流を通電している。なお、全節巻き巻線の70Aと70QのFB8相電流IsffbFX[A×turn]は、負の界磁励磁電流を通電している。
図71は、図70のエアギャップ部近傍でロータ側から見てN極の部分を示していて、S極の部分は、図71には記載していないが、丁度、磁束の方向と電流の方向とが反対の方向となっている。従って、ロータ側から見てN極の部分とS極の部分の両方において、エアギャップを介してステータ電流成分とロータ電流成分とを逆向きに通電している。そして、界磁磁束成分φmも逆向きなのでトルク発生方向はCCWで同一方向である。またこの時、図71と図72で説明したように、N極の部分とS極の部分の両方において、前記のステータ電流とロータ電流はラジアル方向の界磁磁束φmへほとんど影響しない。
図70のエアギャップ部のラジアル方向の磁束成分φradと円周方向方向の磁束成分φcirの合成磁束の向きは、θscsが0°の位置で、70Jで示す矢印の方向になる。また、θscsが180°の位置では矢印70Kの方向となる。これら70Jと70Kは、磁束の向きが180°違うが、磁束が発生する吸引力は同一方向であり、ロータにはθscsの正の方向、即ち、CCWのトルクが発生する。なお、トルクは理論上、例えば、図68のエアギャップ部の中間位置を円周方向に(193)式で積分して計算できる。しかし、(193)式の計算方法は、技術者が手計算で行うのは難しく、通常、コンピュータを利用して有限要素法で解析計算を行うことになる。他方、トルクを求める他の方法は、図68、図70の各ロータ巻線の電流[A×turn]について、ローレンツ力から導かれた(191)式と(192)式で計算して積算できる。
図68、図70のモータとその通電方法の大きな特徴は、前記の様に、エアギャップを介して対向していて、相互に逆向きのステータ電流成分とロータ電流成分とはラジアル方向の界磁磁束φm、ラジアル方向の磁束密度成分Bradへほとんど影響しないことである。
前記図69のモータにおける、各ステータ電流が発生する起磁力による69Dの磁束成分が、図68、図70のモータで特定の電流を通電した場合には発生しない。ステータ電流が大きくなると、前記磁束成分69Dも大きな値となり、前記の様に、図69のモータのトルク特性は図73の731のようなトルクが飽和する特性となる。
一方、図68、図70のモータとその通電方法によれば、図73の732の特性となり、大きなトルクを発生できる。円周方向の力Fcirは、(193)式で表されるので、界磁励磁電流成分とその他のトルク電流成分の積に比例する。そして、磁気飽和が無く、モータの銅損などの内部損失が無いと仮定すれば、理論上のトルクは電流の2乗に比例することになり、図73の732の特性よりも大きなトルク増加率の特性となる。図68、図70のモータとその通電方法の最も簡素化した基本構成は、図72の構成である。722と723の正負符号が逆の2つの電流は起磁力が相殺するので、ラジアル方向の磁束密度Bradに与える影響が小さい。そして、円周方向磁束密度成分Bcirを生成し、ロータトルクを確実に生成できる。
なお、図71の構成は、直接は関係ないが、トロイダル線輪、トロイダルコイル、あるいは、環状ソレノイドと言われるものを直線展開した断面図と、同一の大きさで逆向きの電流が対向するという点で共通している。そして、このトロイダル線輪は、効率良く磁束を生成する代表的な構成として良く知られている。即ち、図71の構成は、トロイダル線輪と同程度に、効率良く円周方向磁束φcir、円周方向磁束密度Bcirを生成できる構成であると言える。
また、空気中における図71の構成において、円周方向の電流密度をIdens[A/m]として、エアギャップ部に生成する円周方向の磁束密度Bcirとし、(191)式のラジアル方向の磁束密度成分をBradとして、ローレンツ力である(191)式は次式に変形できる。
Bcir=μ0×H=μ0×Idens (196)
F=B×I×L
=Brad×Idens×L
=Brad×Bcir/μ0 (197)
図71の構成では、円周方向の電流密度Idens[A/m]がエアギャップ部の円周方向の磁界の強さH[A/m]と等しくなる。ローレンツ力である(191)式に(196)式を代入した(197)式は、(193)式と一致する。即ち、図70、図71の構成と通電方法に限定すれば、ローレンツ力から導かれるトルク式である(191)式と、マクスウェルの応力式から導かれた(193)式とが一致することを示した。そして、図70の構成と通電方法であれば、(193)式、(197)式のBcirを励磁する電流成分は、Bradへ大きく影響しない。その結果、図73の732の様に、トルク飽和をせず、大きなトルクを発生できる。
次に、請求項31の実施例について、図74にその例を示し説明する。超電導巻線を活用した誘導モータの構成である。図74に示す誘導モータの狙いは、後に説明するが、ロータ巻線の直列抵抗とロータ巻線の漏れインダクタンスの適正化により、図73の732に示す様な大きなトルクを実現することである。その時のジュール熱を低減し、高電流密度の特性からロータ巻線のスペースの問題も低減できる。図60、図62、図64、図76、図77、図78などのモータをより容易に実現できる。なお、従来の誘導モータのロータ巻線を超電導巻線へ単純に置き換える場合、いくつかの問題が発生する。問題の一つは、ロータが磁束の変化を妨げるような、いわゆる、超電導電磁石となってしまうため、誘導モータとして界磁磁束φmとロータ電流Irを可変して制御できなくなる基本的な問題である。この問題を解決するため、超電導巻線のロータ巻線へ抵抗器やインダクターを直列に付加した場合、そのジュール熱等の処理の問題がある。その時、図74に示す様に複雑になる問題もある。また、軟磁性体の鉄損、その他周辺部材の発熱が、超電導巻線の温度を上昇させて、超電導状態を保てなくなる問題もある。
図74の構成を含む誘導モータは、図68のモータ構成であり、ステータ巻線とロータ巻線に超電導巻線を使用する。なお、図68のモータ構成は、超電導巻線の周辺部材の発熱の問題と冷却の必要性などのため、図60、図62、図63、図64などの構成、形状へ変形するすることもできる。図74の741は、図68のモータのロータ巻線WR18であり、全節巻き巻線である。同様に、742はWR28で、743はWR38で、744はWR48で、745はWR58で、746はWR68で、747はWR78である。74Aは外付けの7個の抵抗器RWAであり、各ロータ巻線と直列に接続している。その抵抗値はRr[Ω]とする。ロータ巻線と抵抗器RWAの漏れインダクタンスをLrw[H]とする。これらの抵抗値Rr[Ω]と漏れインダクタンスLrw[H]は、誘導モータの特性に応じて選択できる。748と749は、8個の接続導体であり、各ロータ巻線と各抵抗器とを接続している。
前記741から747までの7個の全節巻き巻線のロータ巻線は、74Bで示す部分で各ロータ巻線の片端を接続している。各ロータ巻線の他端も相互に接続して短絡した場合、超電導巻線の抵抗値は0[Ω]なので、前記の様に、もし鎖交磁束が変化するとその鎖交磁束の変化を補うように電流が流れ、いわゆる、超電導電磁石を構成する。誘導電動機のロータとして動作させるため、74Aの抵抗器RWAを付加している。ロータ側で損失が無ければ界磁磁束を変化させることができない。前記抵抗値はRr[Ω]が大きいと発熱量が増加し、許容される最大値がある。モータとしての効率も低下する。ロータの回路時定数TrはLrw/Rrで、大きいと界磁磁束に対するロータ電流の位相遅れが増加し、最大トルクが低下する問題が発生する。これらの条件により、前記抵抗値Rr[Ω]と漏れインダクタンスLrw[H]の値を適正化する。特に、漏れインダクタンスLrw[H]の値は、ロータ鉄心の形状に大きく依存するので、ロータ構造の選択が重要となる。図68、図60、図62、図63、図64などのステータ構成、ロータ構成を選択、変形することができる。
このように、モータの構成の適正化、超電導巻線の活用、74Aの抵抗器RWAの抵抗値Rr[Ω]と漏れインダクタンスLrw[H]の適正な選択が、その誘導モータの特性を得るために大変重要である。代表的特性は、図73のトルク特性であり、732のような大きなトルク特性を得るためには、前記ロータ回路時定数Tr=Lrw/Rrを小さな値とする必要があり、また、発熱低減、効率向上の観点では74Aの抵抗器RWAの抵抗値Rr[Ω]を小さくする必要がある。また、それは、図5のロータ電流の遅れ位相θsを減少することであり、図6のトルク特性62を破線で示す66のトルク特性へ改善することでもある。超電導巻線を活用することにより、構成が限定されるものの、誘導モータの特性を大幅に向上することができる。また、図74の74Aの抵抗器RWAは熱を発生するので、各ロータ巻線とは熱的に分離する必要がある。図74の各領域ARC、ARM、ARHを示す様に、発熱、冷却、熱遮蔽、温度勾配、熱伝導への配慮が必要である。
なお、図68のモータ構成、図70に示す各電流の通電状態を図74の誘導モータのロータ構成で実現することの狙いは、前記の様に、ロータ巻線の直列抵抗とロータ巻線の漏れインダクタンスの適正化により、図73の732に示す様な大きなトルクを実現することである。即ち、図74の誘導モータの狙いは、図70の様なトルク飽和の発生しないモータ構造に、さらに、超電導巻線を適用することにより、抵抗値が0と、高い電流密度が得られ、大きな相乗効果を得て、誘導モータの高出力化、小型化、軽量化を実現することである。なお、ロータ巻線のジュール熱は0で、ロータ巻線のスペースも小さくできる。少し具体的には、図73の732に示す様な大きな電流領域のロータ電流を、図70に示した通電状態に近い関係で、誘導電流として供給して通電するためには、前記直列抵抗と漏れインダクタンスを最適化する必要がある。ステータ側からロータ巻線へ、電磁気的に誘導電流として、界磁磁束φmに対する位相遅れθsが小さく、かつ、大きなロータ電流を供給することである。他の方法で、図70に示した通電状態の大きなロータ電流を供給する場合、そのロータ電流供給装置は大がかりな構成となる。また、図74の誘導モータは、界磁磁束φmを制御できるので界磁弱め制御が可能であり、定出力制御、高速回転制御も可能である。他方、超電導電磁石を利用する同期モータの場合、界磁弱め制御、定出力制御が難しい。
なお、図68、図70、図74の誘導モータでは、図70に示す界磁磁束φmに対するロータ電流の位相遅れθsがトルク減少の原因となるので、位相遅れθsを小さな値に保つ必要がある。位相遅れθsは、図70の紙面では、界磁磁束φradとロータ電流との紙面の左右への位相ずれに相当する。
また、後に述べるが、図68、図60、図62、図63、図64などのモータを、ロータを外形側に配置する、いわゆる、アウターロータ構成とすること、軟磁性体を使用しない、あるいは、大幅に削減したモータ構成とすること、ステータ巻線の電流とロータ巻線の電流とが発生する反発力を使用した磁気軸受けを兼ねるモータ構成とすることが可能である。なお、これらは誘導モータに限定せず、図75のモータ構成などへ適用することも可能である。
次に、請求項32の実施例を説明する。超電導巻線を使用するモータにおいて、超電導状態を維持できる低温状態の領域ARCと、図74の74Aの抵抗器RWA等の熱源の近傍、あるいは、ステータへ電流を供給する駆動回路の周辺等の熱源の近傍の相対的に高温の領域ARHとが発生することを想定する。勿論、図74の全領域が超電導状態の低温状態を冷却装置により維持できる場合は、このような想定は不要である。そして、図74に示す様に、前記低温領域ARCと高温領域ARHとの間に、両領域を接続する中間接続領域ARMを設ける構成を考える。ここで、低温領域ARCは超電導状態を維持できる低温状態とする必要がある。前記高温領域ARHには熱源が有り、ある程度の温度上昇は避けられない。そして、高温領域ARHから前記中間接続領域ARMへの熱伝導は小さくしたい。中間接続領域ARMでは、超電導状態を維持できる低温状態が確保できない部分が発生することも想定されるので、銅、アルミニウムなどの常電導体であって、その電流の接続導体の導体断面積が大きく、抵抗値の小さい特性が必要である。なお、液体窒素での冷却で使用できる高温超電導物質での巻線が有力である。その場合、例えば航空機用途などの特殊な使用環境においても、液体窒素の原料である空気中の窒素はいくらでも調達できる。そして、ステータ側からロータ側各部へ液体、気体の冷却物質を吹きかけることも可能である。また、図74には冷却装置を図示していないが、前記ARC、ARM、ARHなどの領域を冷却する。
前記要件の具体策として、図74の748と749などの8個の接続導体を前記中間接続領域ARMへ設ける。抵抗器RWA等の熱源等を含む前記高温領域ARHから前記接続導体へ74C、74Dなどの接続線で接続する。前記接続導体748と749は銅、アルミニウムなどの良導体で構成し、その断面積は前記接続線74C、74Dの断面積の2倍以上とし、通電電流によるジュール熱を低減する。接続線74C、74Dの発熱も小さい方が好ましいが、74Aの抵抗器RWAの熱が伝わり難いように、接続線の断面積を小さくする。例えば、前記接続導体の平均電流密度が2.0[A/mm2]以下とすれば、F種絶縁、全閉構造、自冷のモータの巻線の平均電流密度が5.0[A/mm2]程度であることから、前記接続導体の平均銅損は相対的に16%以下となる。また、同時に、前記接続導体は液体窒素などでの冷却が容易な構成、形状とし、冷却能力を強化する。前記の様に、前記接続線は相対的に細くし、高温領域ARH側からの熱伝導をできるだけ低減する。この様に、超電導巻線を使用する低温領域ARCと抵抗器RWA等の熱源等を含む前記高温領域ARHとの間に接続導体の中間接続領域ARMを設けることにより、確実に超電導巻線の超電導状態を維持できる。なお、モータはその全体が限られたスペースに配置され、各構成要素が比較的密接することが多いので、前記の様に、発熱、冷却、熱遮蔽、温度勾配、熱伝導への配慮が重要である。
次に、図68のモータ断面形状であって、図70のステータ電流とロータ電流の通電状態を実現する、請求項30の実施例としていくつかの方法がある。前記の様に、ステータ及びロータの軟磁性体の変形も可能である。何れの構成も、ロータ電流の供給方法が技術的なポイントである。請求項30の実施例として、図75のモータの縦断面図とロータ電流の供給回路を示す。図75は、図68の具体的なモータの例である。
図75の751はステータで、753はステータ巻線のコイルエンドである。752はロータで、754はロータ巻線のコイルエンドである。751、753、752、754の横断面図は前記の図68である。図75のステータ751とステータ巻線753は、図68の説明で示したステータ68Tと7相の各相全節巻き巻線である。そして前記の様に、図68の横断面図を直線状に展開した図が図70である。図70には、具体的な通電例とその時に生成する磁束を示し、具体的なトルク発生方法と通電方法を示している。
756は単相の回転トランスのステータで、758は回転トランス756の環状のステータ巻線で、75Bは回転トランス756のロータで、759は環状のロータ巻線で、2点鎖線の75Kは作用する磁束を示している。図75の右側の図は、ロータ巻線754のロータ電流の通電回路であり、回転トランスと全波整流回路75Hと各ロータ巻線754との関係を示している。75Pは回転トランスの環状のステータ巻線で、758と同じものである。75Qは環状のロータ巻線で、759と同じものである。75Nは全波整流回路で、75Hである。WR78、WR18、WR28、WR38、WR48、WR58、WR68は、図68の同一名のロータ巻線であり、図75では全節巻きのロータ巻線の例とする。
ここで、図75のWR18は、図70のロータ回転位置では、706のロータ巻線であり、前記説明のように、正の電流[A×turn]を通電している。同様に、図75のWR28は、図70の70Sのロータ巻線であり、正の電流を通電する。図75のWR38は、図70の70Tのロータ巻線であり、負の電流を通電する。図75のWR48は、図70の70Uのロータ巻線であり、負の電流を通電する。図75のWR58は、図70の707のロータ巻線であり、負の電流を通電する。図75のWR78は、図70の70Rのロータ巻線であり、正の電流を通電する。また、図75のWR68は、図70の70Mから70Nのロータ巻線であり、負の電流を通電する。この場合、70Mと70Nのロータ電流の方向は、ステータのFB8相巻線70Aと70QのFB8相電流の方向と同じになり、ステータ電流とロータ電流の両方の電流成分で界磁磁束φmを励磁することになる。これらのロータ巻線は直列に接続しているので、各ロータ巻線の電流値Irscは同じである。あるいは、図74の説明の例のように、70Mから70NのWR68の電流を0[A×turn]としても良い。
図75のモータの図70に示す各巻線の通電状態における、各磁束成分の発生、各ロータ巻線の力の発生は、図68、図70、図71、図74で説明した状態、値と同じである。但し、前記の様に、WR68の70Mと70Nのロータ電流は、選択できる。また、図75のモータ構成の場合、各ロータ巻線の接続経路の自由度がある。各ロータ巻線の通電電流値と電流方向が固定されるので、各ロータ巻線への接続経路は電流方向が変わらなければ自由に選択できる。従って、巻線の製作性などの都合で接続順を変えても良い。例えば、各ロータ巻線が交差しないように、同心状に巻回することもできる。また、各ロータ巻線の巻回数を自在に変えて、ロータ電流[A×turn]の円周方向の分布状態を選択することもできる。
図75の75Rは抵抗器であり、図74の抵抗器74Aと類似した機能を持たせている。即ち、図75の各ロータ巻線WR78、WR18、WR28、WR38、WR48、WR58、WR68の各鎖交磁束の時間変化率で電圧が発生して、全鎖交磁束を保つように、超電導電磁石のように作用するので、抵抗器75Rを直列に接続して、鎖交磁束が減少できるように損失を発生させる。従って、抵抗器75Rの抵抗値は、界磁磁束φmが必要とされる減少速度が得られる程度の抵抗値とする。なお、全波整流回路75Nでもその電圧効果分で損失を発生できるので、その減少速度で十分な場合は、抵抗器75Rは0[Ω]で良く、不要である。
次に、図75のモータの電磁界動作について説明する。図75のモータは、図70で説明したように動作することもできるが、誘導モータとは異なる動作となる。前記ロータ電流Irscは図75の75Mの単相交流電圧により、自在に制御することができる。図75の7相のステータ電流は、図1や図68と同様に、各相電流を自在に制御できる。図70の例などで説明したように、ステータの電流の内、ロータの電流と同じ大きさで、通電方向が逆向きの電流成分[A×turn]があり、図1の誘導モータ等ではロータ電流成分と呼んだが、図75のモータでは共通電流成分Iccと呼ぶことにする。このIccのロータ側電流は、図70の電流分布に示す様に、各ロータ巻線が全節巻きで分布するので、円周方向に分布した電流の総称であり、各ロータ巻線に流れる電流の電気角360°の電流合計値は0[A×turn]である。Iccは、図70、図71、図72のように、エアギャップを介して対向するロータ巻線とステータ巻線へ同一の振幅で、反対向きに流れる電流成分である。そして、図72で説明した様に、共通電流成分Iccはステータ側電流成分とロータ側電流成分とで起磁力が相殺するので、Iccは界磁磁束φmへほとんど影響しない。一方、界磁磁束φmを励磁する界磁電流成分Ifは、共通電流成分Iccとは別の電流成分である。この界磁電流成分Ifは、やはり、図70に示す様な、円周方向に分布した電流の総称である。そして、Ifはステータ側とロータ側の両側に通電させることができる。
図75で発生する力は、界磁磁束φmと各ロータ側電流との間で(191)式のローレンツ力が作用する。ここで、各ロータ側電流とは、ロータ側の共通電流成分Iccとロータ側に通電する界磁電流成分であり、前記界磁電流成分Ifの一部の電流である。他方、界磁磁束φmと各ステータ側電流とで(191)式のローレンツ力が反対方向に作用する。そして、結局、界磁磁束φmを介して、ステータとロータ間に力が働くと考えることができる。なお、図1の場合、その界磁電流Ifと界磁磁束φmとの外積は0で力[N]は発生しないとの考えであったが、図75の界磁電流成分をステータ側とロータ側の両側に通電する場合は、界磁電流成分Ifの一部は力を発生していると考えられる。さらに正確な計算としては、マクスウエルの応力式から導かれた(193)、(194)式などで、有限要素法による磁場解析により計算できる。
図75のモータ電流制御に種々方法が考えられる。その一つの方法は、トルク指令Tcとロータ回転角速度ωrから最初に界磁磁束φmを設定する。次に、界磁磁束φmを生成する界磁電流成分Ifを設定する。この界磁電流成分Ifはステータ巻線とロータ巻線との両方へ分担させることもできる。次に、トルク指令Tcと界磁磁束φmからロータ電流Irscを設定する。そして、これら電流から共通電流成分Iccを求め、設定する。ステータ電流は、前記界磁電流成分Ifの一部と共通電流成分Iccのステータ側電流の和である。この様に、ステータの各相電流とロータ電流Irscの指令値を求め、図75のモータを駆動することができる。図75のモータの制御では、図2のブロックダイアグラムとは、ロータ電流Irscの制御、共通電流成分Iccの制御等が異なる。また、図75のモータでは、誘導モータのすべり角速度ωsが無い。
以上説明したように、図75のモータは、界磁磁束φmの励磁電流成分Ifをステータ巻線とロータ巻線との両方で通電し、前記共通電流成分Iccを通電し、前記ロータ電流Irscを通電して制御するモータである。前記の様に、界磁磁束φmの界磁弱め制御により定出力制御が可能であり、高速回転制御もできる。但し、図75に示す回転トランス、回転トランスへ入力する界磁励磁電流駆動用の単相交流の電圧源75M、全波整流回路75H、抵抗器75Rが必要である。なお、ロータ巻線754の消費電力は小さく、前記単相交流に大きな周波数の使用が可能なので、回転トランスの小型化が可能である。また、回転トランスの巻数比の選択ができるので、ロータ巻線754の各相電流を大電流化することもできる。その場合、ロータ巻線754の各相巻線の巻回数を1[turn]にするなど、単純化できる。また、図75には図68の断面形状のモータを適用した例を示しているが、図60、図62、図64、図76、図77、図78などの構成のモータを適用できる。
また、図75の様に、回転トランスを使用し、ロータ巻線を直列接続し、直流のロータ電流Irscを供給することは、他の方法でも実現できる。例えば、回転トランス等の代わりに、直流電流の駆動回路とブラシとスリップリングを使用してロータ電流Irscを供給することもできる。また、図75のステータ巻線の2倍など、整数倍の巻線ピッチの励磁巻線WPSを追加して巻回するか、あるいは、ステータ巻線を流用して励磁巻線WPSを構成し、ステータ側からロータ側へロータ電流用の交流電圧を供給することもできる。そして、ロータ側では、励磁巻線WPSと同一の巻線ピッチの受電用の2次巻線と整流回路を設けて、ロータ電流Irscを供給することができる。この時、ステータ巻線と励磁巻線WPSとは、巻線ピッチが整数倍と異なるので、電磁気的にそれぞれが影響せず、独立して作用できる。このように、図75のロータ電流Irscを他の方法で供給することもできる。
なお、図70の状態は、特定の簡素な状態を定性的に示し説明した。実際にロータが回転する時には、ステータ巻線の電流が円周方向に離散的に配置する構成であるが、界磁磁束φmが円周方向に回転し、それらの平均値で等価的に作用する。また、図70のような通電状態において、円周方向の各電流が正負符号が切り替わるような境界領域では、ほとんどの場合で、励磁電流成分Ifとトルク電流成分Itとを重畳して通電することになり、図70の状態より複雑になる。なお、トルクは(193)式の円周方向の力Fcirを円周方向に積算して得られるものであって、各電流の円周方向の分布状態も台形波状などの複雑な関係であり、単純に、励磁電流成分Ifとトルク電流成分Itに分けて表現できるものでもない。しかし、界磁励磁電流成分Ifとロータ電流成分Irとに分けて定性的に理解する方法は解り易く、有用であり、少し曖昧な部分が残るが、本発明の説明で使用している。
次に、請求項33の実施例を説明する。通常、モータ設計の初期段階で決定するパラメータの一つは、磁気装荷と電気装荷の比率であり、ここでは代表例として、50%と50%として仮定する。具体的には、ステータの円周方向の歯幅と巻線を収めるスロットの円周方向の歯幅の比率である。モータの概略出力は、磁束の大きさと電流の積に比例するので、磁気装荷と電気装荷が50%と50%の時、モータ出力が大きくなる。今、外周側のバックヨークの厚みは、モータを小型、軽量とするため、必要最小限の厚みとする。モータの形状に関して、エアギャップ部の全周の長さをLgcir、モータの極対数をPnとし、磁気装荷が50%の場合、外周側のバックヨークの厚みMbyはLgcir/(8×Pn)より少し大きい程度の値である。その値であれば、図7のような磁気特性を前提として、バックヨーク部の軟磁性体の磁気抵抗が、軟磁性体の非線形性、磁気飽和により過大な値とならない。他方、バックヨークの厚みMbyを不要に大きな値にすると、モータが大型化し、重量もモータ外径の2乗に比例して重くなり、材料コストも増加する。
図1、図68などのモータは、図70、図71、図72で電流の通電方法、各磁束成分、生成する力成分について説明したように、界磁磁束φmがトルク電流成分の起磁力の影響を受けないこと、エアギャップ部の円周方向磁束成分φcirを効率良く生成できて円周方向磁束密度成分Bcirを大きくできることを示した。そして、トルクは(193)式、(195)式で示され、Brad、Bcirで表す値の円周方向積算値として求められ、図73の732のような大きなトルクを発生できることを説明した。即ち、各電流を大きな値としても、731のようなトルク飽和とならない特性である。
図73の732の様な大きなトルク領域では、各電流値[A×turn]も大きな値となり、軟磁性体が図7のような磁気特性であっても、各歯の先端部、及び、エアギャップ部の磁束密度は2.0[T]を遙かに超える値にもなる。そして、スロット部の非磁性体部の磁束密度も上昇する。その様な大きなトルク領域では、図1、図68などの歯のあるモータ形状よりも、図60、図62、図63、図64などのような、図70に示すバックヨーク間距離Lgbyを小さくできるような構成の方が、動作点での磁気抵抗を小さくでき、平均磁束密度も大きくできるので有利になる。この時、バックヨークを通過する磁束は増加し、次式のようなバックヨークの厚みMbyとすることが効果的である。
Mby > Lgcir/(6×Pn) (198)
さらに、前記磁気装荷の割合が50%以上に大きな場合には、前記バックヨークの厚みMbyの値は Lgcir/(4×Pn)以上など、比例して大きな値となる。
なお、図60、図62、図63、図64などのモータ構成の場合、各巻線の保持強度、固定強度の問題があり、ロータを外形側に配置した、いわゆる、アウターロータモータの構成とすることができる。その場合、外形側のバックチョーク厚みはロータのバックヨークの厚みとなる。また、超電導巻線を使用する場合には電流密度を大きくできるので、巻線断面積を小さくできる。そして、バックヨーク間距離Lgbyが小さいので、図60、図62、図63、図64などのモータ構成が有利である。なお、これらのモータ構成は、誘導モータに限らず、図75等のモータにも共通する。
次に、請求項34の実施例を説明する。前記の様な大きなトルク領域では、各電流値[A×turn]も大きな値となり、図70の様な巻線配置と通電方法では、図76の様に、ステータの各歯、ステータのバックヨーク、ロータの歯、ロータのバックヨーク等の軟磁性体を無くすことも可能である。767はロータ軸、762はロータ巻線、761はステータ巻線である。763、765は空間、あるいは、非磁性体、あるいは、比透磁率の小さな材料である。現実の構成では、763、765は軟磁性体を含むいくつか種類の部材で構成することになり、例えば、それらの平均の比透磁率が100以下の値である。通常の電磁鋼板の比透磁率は1000程度かそれ以上であり、比較すると1/10以下の平均透磁率である。764、767は、磁気的な遮蔽などであり、後に説明する。
図76の通電方法とは、図70の前記説明のように、界磁励磁電流成分Ifによる界磁磁束成分φmは、エアギャップ部にラジアル方向の磁束密度成分Bradを生成する。そして、トルク電流成分Itは、ステータ巻線とロータ巻線の両方に、エアギャップを介して等価的に同一の電流振幅で、反対向きの電流[A×turn]を通電して、エアギャップ部に円周方向磁束密度成分Bcirを生成する。その時、エアギャップ部に生成する力成分は(193)式、(194)式で表され、トルク成分は(195)式となる。モータの合計トルクは(195)式をモータ全周に積算すれば良い。なお、ここで、(193)式からも分かるように、ラジアル方向の磁束密度成分Bradと円周方向磁束密度成分Bcirとの円周方向の位相ずれが小さい条件も必要である。ここで、特に、図70の様な巻線配置と通電方法では、前記円周方向磁束密度成分Bcirを効率良く作り出せること、前記界磁磁束成分φm、及び、エアギャップ部の前記ラジアル方向磁束密度成分Bradがトルク電流成分Itの悪影響を受けにくいことが、重要な点である。
また、図76のモータ構成の誘導モータの場合は、(77)式に示したロータ電流Irの特性に関し、ロータ巻線の漏れインダクタンスLrwを小さくできる特徴がある。その結果、図5の位相遅れθsを小さくできることもあり、最大トルクの増大など優れたトルク特性を得ることができる。特に、磁束密度が2[T]を越えるような大きなトルク領域で特徴を発揮する。さらに言えば、軟磁性体の飽和磁束密度に制約されないモータでもある。また、図76の構成では、重量の大きい軟磁性体を取り除くので、モータを軽量化することができる。但し、図76には記載していないが、ステータ巻線とロータ巻線との周辺部材を非磁性体で構成し、それらを強固に保持、固定する必要がある。反面、図76のモータ構成は、小さなトルク領域では、界磁励磁電流成分If、トルク電流成分Itが増加し、銅損増加するので、モータが大型化する問題がある。短時間の大トルク出力であれば、巻線等が温度上昇するまで使用できるが、出力時間が長くなれば、強制冷却の装置等が必要になる。
また、図76の構成に764、767で示す様な磁性体を追加することもできる。その目的の一つは、モータが発生する起磁力が外部に漏れないような磁気遮蔽である。また、磁性体764、767に、バックヨークの機能の一部を担わせることもできる。そのモータ構成は、図62との中間的なモータ構成でもあり、ステータ巻線761、ロータ巻線762と、磁性体764、767との距離を選択できる。その場合、界磁励磁電流成分Ifとトルク電流成分Itの電流負担を軽減できることになり、図76の問題を軽減できる。
また、図76のステータ巻線761、ロータ巻線762へ超電導巻線を使用することもできる。その場合、前記銅損の問題を解決できる。図73の732に示す様な大きなトルクを発生することができる。また、超電導巻線は電流密度を大きくできるので、巻線スペースを縮小でき、モータを小型化し、軽量化できる。また、磁性体764、767に、バックヨークの機能の一部を担わせる場合には、界磁励磁電流成分Ifとトルク電流成分Itの電流負担を軽減することもできる。そして、超電導巻き線を使用する時に軟磁性体の鉄損、発熱が問題となるので、鉄損の小さいアモルファス鋼板を適量使用したバックヨーク構成とすることもできる。但し、超電導状態を維持するためには、液体窒素などを利用した冷却装置が必要となる。また、図76のモータが誘導モータである場合には、界磁磁束の可変制御必要であり、例えば、図74の様なモータ構成となる。また、図76のモータを図75で示したようなモータ構成とすることもできる。また、後に述べる非接触軸受けの機能を持たせること、ロータを超電導巻線電磁石とすること、直線状のリニアモータ化して磁気浮上の浮力を得ることも可能である。
次に、請求項35の実施例を図77、図78、図79に示し、説明する。ステータ電流とロータ電流により、特に、ステータとロータ間に作用する反発力成分を発生して、非接触でロータ軸位置を制御する非接触磁気軸受けを構成する。同時に、ステータとロータはモータとしてのトルク成分も発生することができる。即ち、非接触磁気軸受を兼ねたモータである。例えば、ステータとロータ間の吸引力が限定される様なモータ運転領域では、反発力を有効に活用して非接触磁気軸受けの制御を行える。また、主として反発力で非接触磁気軸受けを構成する場合は、回転軸のずれに対して能動的に制御的なずれ補正制御を行わず、受動的な自動調心作用による非接触磁気軸受けを構成することも可能である。モータが非接触磁気軸受けの機能を兼ねることにより、スペースの縮小が可能となる。なお、非接触磁気軸受けは、振動騒音の低減、軸受の高信頼性化、長寿命化、メンテナンス業務の削減などが可能である。
図77はモータ断面図であり、図1、図68、図70等のモータと同様の形態である。また、さらには、図60、図62、図76等のモータへも変形できる。図77は、特に、エアギャップ部の磁束分布を示すために、ステータとロータ間のエアギャップ長Lgapを10倍以上に拡大して示しており、その点は図70と同様である。通電状態は、先に説明した図70の直線展開図と同じで、磁束の分布状態も同じである。但し、前記の様に、図70の直線展開図は図68の紙面の裏側から見て、その形状を直線展開した図なので、図70と図77とで各電流の向きは逆方向になっている。例えば、図70の703はAD8相巻線で、図77の77YはAD9相巻線であり、同一の相、同一の電流であるが、巻線の電流シンボルは負電流と正電流で逆向きの表示をしている。なお、図68、図70のモータのモデル番号は8で、図77のモデル番号を9としているので、符号は異なる。
図77の771はA9相ステータ磁極、773はB9相ステータ磁極、775はC9相ステータ磁極、777はD9相ステータ磁極、779はE9相ステータ磁極、77BはF9相ステータ磁極、77DはG9相ステータ磁極である。図77のステータ巻線とロータ巻線は全節巻き巻線の例である。77YはAD9相巻線、77ZはAD/9相巻線、77WはBE9相巻線、77XはCF9相巻線、772はDG9相巻線、774はEA9相巻線、77UはFB9相巻線、776はGC9相巻線である。
図77の各巻線の通電電流は、図70と同様であり、非常に単純な通電の例を示している。図77の紙面の右側の6個のロータ巻線の通電電流は−Ir9[A×turn]で、左側の6個のロータ巻線の通電電流は+Ir9としている。図77のステータのAD9相巻線77YのAD9相電流は、エアギャップを介して対向するロータ電流とは逆向きで、+Ir9[A×turn]である。同様に、77WのBE9相電流と776のGC9相電流は+Ir9[A×turn]である。77XのCF9相電流と772のDG9相電流と774のEA9相電流−Ir9[A×turn]である。これらのロータ電流とステータ電流は、図77に示すように、77J、77K、77L、77Mの円周方向の磁束成分、及び、77E、77F、77G、77Hの円周方向の磁束成分を励磁している。これらの円周方向磁束成分は、エアギャップ部で、(193)、(194)式の円周方向磁束密度Bcirを生成している。
図77の77Uと77VはFB9相の全節巻き巻線で、励磁電流成分IsffbFX[A×turn]を電流のシンボルマークで示すように通電し、界磁磁束成分77Q、77R、77S、77Tなどを生成する。これらの磁束成分は、エアギャップ部でラジアル方向磁束成分となっていて、(193)、(194)式のラジアル方向磁束密度Bradを生成している。
ステータとロータとに相対的に作用する力は、(193)、(194)式で示される。モータのトルク成分は(193)式で示されるが、ステータとロータとのラジアル方向の吸引力、反発力は(194)式で示される。図69の様な従来の同期モータの場合、ステータとロータとのラジアル方向の力は吸引力となることが知られている。しかし、図70、図77の様な巻線配置として、その通電電流を図77の前記説明の様に制御すれば、図71と図72で説明したように、いわゆる電機子反作用はほとんど発生せず、円周方向磁束成分77E、77F、77G、77Hを効率良く生成することができる。その結果、Bcirを大きな値とすることができ、(194)式の値の全周平均値を正の値とすることができ、ステータとロータ間に反発力を発生することも可能となる。なお、この類似した作用は、図72に示す様な2つの並行した線電流の通電方向を同一方向とすると吸引力が発生し、逆方向とすると反発力が発生することは良く知られている。この時、この図72の反発力は、(191)式のローレンツ力で考えられる力である。一方で、図69のSPMSMにおける前記吸引力は従来モータ常識であり、図72の反発力とは異なる作用である。
次に、図77のモータが発生する力を利用して、ロータ軸に対して自在な方向のラジアル力を生成し、非接触磁気軸受を構成する方法について、図78に例を示し説明する。図78の横断面図は、2極対、4極であり、図77の1極対、2極のモータを2組含むモータ構成である。図78の紙面で、1点鎖線の右側に電気角で360°の円方向幅に1組のモータ構成し、左側に電気角で360°の円方向幅にもう1組のモータ構成を含んでいる。781は第1のステータ、782は第1のロータ、785は第2のステータ、786は第2のロータとし、789はステータ巻線、78Aはロータ巻線とする。
図78の紙面で、1点鎖線の右側の第1のモータは、図77と(193)、(194)式で説明したように、吸引力と反発力、及び、円周方向の力を発生し制御できる。1点鎖線の左側の第2のモータも同様であり、2つのモータを協調して制御し、図78の紙面の左右方向、上下方向へ任意に制御できる。ここで、第1のモータのステータ電流制御と、第2のモータのステータ電流制御とは、別の駆動回路でそれぞれ独立して制御する構成とする。例えば、図78のロータへ紙面の右側へ作用する力Fradhを発生する場合は、第1のモータの吸引力、反発力である783の(194)式の力Fradh1を大きくし、同時に、第2のモータの吸引力、反発力である787の力Fradh2を大きくし、次式のように制御すれば良い。
Fradh=Fradh1−Fradh2 (199)
また、図78のロータへ紙面の上側へ作用する力Fradvを発生する場合は、第1のモータのCCW方向の力である784の(193)式の力成分Fradv1を発生し、同時に、第2のモータのCW方向の力成分Fradv2を発生し、次式のように制御すれば良い。
Fcirv=Fcirv1−Fcirv2 (200)
但し、この時、Fcirv1と(−Fcirv2)が同じ値にならないと、紙面の上側に働くべき力Fcirvが傾いた方向となってしまうので、注意を要する。しかし、逆に、Fcirv1と(−Fcirv2)を異なる値とし、紙面で左右方向の力成分も発生し、応用できる。
この様に、基本的に、2極対のモータで、図78の紙面の左右方向、上下方向へ任意に制御できる。また、この時、モータの機能として回転トルクも重畳して発生する必要があるので、各電流値の計算が複雑になる。即ち、トルクに関わる電流成分を通電し、同時に(199)、(200)式の条件を満たす必要がある。また、通常、非接触磁気軸受けが効果的に使用される用途では、モータ回転数が高速であることが多く、界磁弱め制御、定出力制御が行われることが多い。その様な用途では、界磁磁束φmの制約があるので、(194)式の円周方向磁束密度Bcirでラジアル方向の力を効果的に使うことができる。また、図78のモータを4極対、8極に多極化することにより、制御の自由度はさらに向上する。なお、前記の非接触磁気軸受けの構成では、タッチダウンベアリングを設ける安全対策などは、実用化する上で前提条件となる。
ロータを非接触磁気軸受けで支える場合には、ロータ軸方向の2カ所に図78の構成を配置する必要がある。その場合には、図78のモータを軸方向に2分割する必要がある。その場合には、全体が大型化し、複雑化する問題がある。他の案として、片側の非接触磁気軸受として、従来の非接触磁気軸受けを使用しても良い。また、一つの実用的な構成案は、図79の構成である。791はロータ軸、792は図78のロータ、793は図78のステータである。794はころがり軸受の例である。スラスト方向の荷重も受ける。ころがり軸受794の近傍の機械的なアンバランスを極力精密に調整すると、モータのロータ792の近傍のアンバランスが多少残っていても、自動調心作用により静粛に回転することができる。その結果、片側にころがり軸受を使用しても、振動騒音の低減、軸受の高信頼化、長寿命化を達成でき、従来の非接触磁気軸受けに比較してスペースの縮小も可能となる。
図77のモータとして、図1等に示す誘導モータを使用することができる。また、図75などに示した様な、ロータ巻線へ電流を供給する構成のモータであっても良い。また、図77のモータ構成は、図60、図62、図64、図67、図68、図74、図75、図76等に示したような構造であっても良い。また、ステータ巻線、ロータ巻線として超電導巻線を使用することもできる。特に超電導巻線は最大電流密度[A/mm2]を大きく、巻線の断面積を小さくできるので、図77に示す円周方向磁束をエアギャップ近傍の狭いスペースへ閉じ込めることが可能となる。そして、ロータ軸が中心からずれた時の受動的な自動調心作用による非接触磁気軸受けの効果を大きくすることができる。この時、大きな反発力を発生していることが前提条件である。また、図77のモータ構成を直線状に変形し、リニアモータの構成とすることもでき、(194)式を負の大きな値として、反発力を磁気浮上力として活用することができる。また、図77のモータの巻線構成を変え、巻線を円周方向に巻回した環状巻線とすることもできる。ステータ巻線とロータ巻線をエアギャップを介して対向する環状巻線とし、相互に逆向きの直流電流、あるいは、交流電流を流した場合、反発力を発生し、受動的な自動調心作用による非接触磁気軸受けの効果を得ることができる。またその場合、ロータ軸方向に直線状駆動するリニアモータを兼用して構成することもできる。また、図79のころがり軸受794は、ラジアル方向軸受とスラスト方向軸受けの組み合わせでも良い。ころがり軸受、すべり軸受、固体軸受、あるいは、流体軸受けも使用できる。なお、図79の重力、負荷荷重が紙面の下方向にかかる場合、それらの力も自動調心の様に作用し、792、793の軸受の作用として有利である。
次に、請求項36の実施例を説明する。図1、図60、図62、図64、図67、図68、図74、図75、図76等に示したモータにおいて、ロータを外形側に配置し、ステータを内径側に配置するモータ構成である。本発明のこれらのモータは、ロータに巻線を備えており、高速回転時には大きな遠心力が作用することになり、強度的な問題が発生することもある。例えば、図1の誘導モータの場合、ロータ巻線をロータスロットへ挿入する構造のロータの場合、ロータスロットの開口部近傍の強度が大きくなく、高速回転時にロータ巻線の遠心力に耐えられるかを検討する必要がある。この対策の一つが、ロータを外形側に配置する構成である。その具体的な構成例は、図59の外径側の第2のモータの構成である。先に説明したように、最外径側に第2のロータ595を配置し、その内径側に第2のステータを配置している。特に、図示する595の部分は第2ロータのバックヨーク部分であり強固なので、第2のロータのロータ巻線596に発生する遠心力を保持することができる。
また、逆に考えると、ロータを外形側に配置するモータ構成を前提とする場合、遠心力問題が軽減されるので、新たなモータ構造が可能となる。例えば、図67のモータのように、ロータスロット形状が開いた構造でも、ロータを外径側に配置することにより、遠心力に強いモータ構成として問題無く使用できる。また、図60、図62、図63、図64、図65、図66などのモータ構成の場合、ロータ巻線とロータ巻線を保持する構造体の強度が小さい場合もある。その様な場合にも、ロータを外径側に配置することにより、ロータ巻線とその周囲構成をロータのバックヨークにより強固に保持することができる。また、図73の732に示す様な大きなトルクを発生できれば、変速機による高トルク化を必要としないインホイールモータも可能となり、モータロータで直接にホイールを駆動することにより、本発明特有の小型化、軽量化、低コスト化を実現できる。なお、ステータとロータの内径側、外径側の配置については、ファン用途などのように、外径側を回転させた方が都合の良い用途なども多くある。
次に、請求項37の実施例について説明する。従来の誘導モータとして図88の例を先に説明した。図80は、図88の誘導モータを駆動する駆動回路の例である。図80の807は、図88の889の全節巻き巻線であるAB1相巻線で、AB1相電流Iabを通電する。同様に、図80の808は、図88の88AのBC1相巻線で、BC1相電流Ibcを通電する。図80の809は、図88の88BのCA1相巻線で、CA1相電流Icaを通電する。80Xは直流電圧源で、80Yはモータ制御回路である。801、802、803、804、805、806はパワートランジスタである。
図80、図88の誘導モータは、3相の正弦波交流を前提としており、次式の電流制約がある。
Iab+Ibc+Ica=0 (201)
また、図3の様に集中巻き巻線に換算した電流をIa、Ib、Icとして、各全節巻き巻線の電流Iab、Ibc、Icaを各ステータ磁極の相電流Ia、Ib、Icに分解すると次式となる。
Iab=Ia+Ib
Ibc=Ib+Ic
Ica=Ic+Ia (202)
例えば、図88のロータの回転数が0で静止していて、トルクは0で、電流の全てが界磁励磁電流成分であるとする。そして、図88のロータの紙面の上側から下側へ界磁磁束が通過するような励磁電流は、例えば、Ifをある励磁電流値として、Ia=If、Ib=If、Ic=−Ifとする。界磁の磁束密度は、θscsが0から180°の範囲で均一になり、直線展開した形状では矩形波状の界磁の磁束密度分布となる。この時、(201)式の左辺の値は0ではなく、2×Ifとなる。即ち、(201)式の条件から外れるので、図80の駆動回路では矩形波状の界磁磁束を生成できない。また、図80の駆動回路では、矩形波状の界磁の励磁、あるいは、矩形波に近い台形形状の界磁の励磁も駆動できないという問題がある。そして同様に、トルク電流成分も円周方向に矩形波状の起磁力を発生することができないという問題がある。但し、(201)式の条件を満たす特定の台形波形状は、図80の駆動回路で駆動可能である。その結果、図8に示した目標分布関数Dist1の中で、84の正弦波分布の駆動は可能であるが、81、82などの台形波分布は駆動できない問題がある。
一方、本発明では、図1とその動作の説明で示したように、目標分布関数Dist1から導き出す各ステータ磁極ごとに離散化された離散分布関数Dist2に従って各ステータ磁極に自在な起磁力を生成し、モータを効率良く駆動する。その起磁力分布は、回転数、トルクなどの運転条件により、矩形波分布から各種台形波分布、そして正弦波分布まで自在に制御する。従って、各相の電流値を自在に制御する必要があり、(201)式のような制限があっては、それらの機能、制御を十分に実現できない。
図82は、図1の7相の誘導モータを駆動する駆動回路の例である。各相の電流値を他の相に制約されずに制御できる。即ち、各相の電流が独立している。図82の825は直流電圧源であり、826は駆動回路全体のモータ制御回路である。図82は7相モータの電圧、電流を自在に制御する駆動回路であり、例えば、82Aは図1のAD2相巻線1Fである。821、822、823、824はパワートランジスタなどの電力素子で、それぞれ逆並列のダイオードを備えており、巻線82Aへ正あるいは負の電圧を印加し、正あるいは負の電流を通電することができる。その印加電圧、通電電流は、(201)式のようなその他の巻線の影響を受けることはないので、自在に制御できて、前記問題を解消できる。破線で囲って示す82K、82L、82M、82N、82P、82Qは、破線で示す82Jと巻線82Aを除いて同じ構成である。図1の7相の誘導モータの例では、巻線82BはBE2相巻線1G、巻線82CはBE2相巻線1G、巻線82DはBE2相巻線1G、巻線82EはBE2相巻線1G、巻線82FはBE2相巻線1G、巻線82GはBE2相巻線1Gに相当する。なお、図1の7相の誘導モータの各巻線の電圧、電流の各種制御方法、具体的な値の例については、先に説明した。
ここで、図81に、モータのステータ磁極がロータへ印加する起磁力の相について、2相から7相までの起磁力のベクトルの例を示し、本発明における、A、B、Cなどの各相の名称の付け方を、改めて確認する。図81の(a)は2相、(b)は3相、(c)は4相、(d)は5相、(e)は6相、(f)は7相である。いずれも、図81の紙面で右側を始点としていて、第1象限、第2象限、第3象限、第4象限の順に各相の方向を定義している。各相は、中心点に対して円周方向に等分布に配置している。そして、それぞれの相の180°の角度位置には、電磁気的に反対向きに作用する相のベクトルがある。特に、3、5、7相の奇数相のベクトルが、中心に対して対称的であり、円周方向に等分布である。それに比較し、2、4、6相の偶数相では、名称の付け方の順が、円周方向に等分布とはならない点には注意を要する。
また、例えば、図1の7相の誘導モータの場合、図81の(f)のベクトルに相当する。
先に示したが、図1の11はA2相ステータ磁極で、12はA/2相ステータ磁極で、17はD2相ステータ磁極で、18はD/2相ステータ磁極である。そして、図1の7相の全節巻き巻線の構成の誘導モータは、図3の7相の集中巻き巻線の構成の誘導モータへ、理論的に等価で、置き換えることができる。図3の集中巻き巻線31と32はA2相集中巻き巻線で、通常、逆方向に直列に接続し、A2相電流Iaを通電し、アンペアの法則から、A2相ステータ磁極11とA/2相ステータ磁極12だけに起磁力を印加し、ロータに作用する。同様に、集中巻き巻線37と38はD2相集中巻き巻線で、通常、逆方向に直列に接続し、D2相電流Idを通電し、アンペアの法則から、D2相ステータ磁極17とD/2相ステータ磁極18だけに起磁力を印加し、ロータに作用する。そして、図1のA2相ステータ磁極11とA/2相ステータ磁極12とD2相ステータ磁極17とD/2相ステータ磁極18に囲まれたスロットに配置する全節巻きのAD2相巻線へ通電するAD2相電流Iadは、(1)式に示したように、次式となる。
Iad=Ia+Id
また、AD2相電流Iadは、アンペアの法則より、図1の全てのステータ磁極およびロータに起磁力を印加し、電磁気的な影響を与える。逆に、換算したA2相電流Iaは、アンペアの法則より、図1の全ての全節巻き巻線の電流の電磁気的影響を受けることになり、(15)式に示したように、次式となる。
Ia=(Iad−Ibe−Icf−Idg+Iea+Ifb+Igc)/2
以上示したような相の名称の付け方、電流名称の付け方、電磁気的な作用の関係とする。
図82の駆動回路は、図81に示すベクトル数、相数を持つモータに対して、図82の破線で示した駆動ユニットの数を合わせれば良い。例えば、図81の(d)の5相モータの場合は、図82の駆動回路の82Pと82Qを除去すれば良い。また、8相以上のモータの場合は、破線で示す駆動ユニットを追加すれば良い。
駆動ユニットの複雑さの点では、図82の駆動回路は1相について4個のトランジスタが必要であり、図80の星形結線では1相について2個のトランジスタであることに比較し、2倍の素子数となり複雑になる。しかし、図82の駆動回路は、図80の駆動回路に比較し、各巻線へ2倍の電圧を印加することができる。従って、素子数の2倍は、電圧の2倍で相殺できる。従って、例えば5相モータの駆動回路について考えると、図82の構成方法の駆動回路のパワートランジスタ数は20個で、図80の構成方法の駆動回路のパワートランジスタ数は10個となり、図82の構成方法の方がパワートランジスタ数が20/10=2倍となる。しかし、図82の構成方法では、各相の出力電圧が2倍となるので、パワートランジスタの電流容量は1/2とできる。従って、図82の構成方法の(トランジスタの電圧×トランジスタの電流×トランジスタの個数)で表す、駆動回路の電圧電流容量は、図82の構成方法と図80の構成方法とで同じになる。また例えば、50[kW]以上の大きさのモータを駆動する場合などでは、パワートランジスタを並列接続して使用することも多い。その場合には、図82の構成方法と図80の構成方法とでは、パワートランジスタ間の接続が変わるだけで、個数は変わらない。
また、矩形波電圧と矩形波電流の積は、正弦波電圧と正弦波電流の積の2倍であり、理論的、単純モデル的には、図82の駆動回路は波形形状の違いで2倍の出力が可能である。定性的比較では解り難いので、定量的な比較例で示す。例えば、トランジスタの最大電圧がV0で最大電流がI0として、図82の3個の破線部の駆動ユニットで構成する駆動回路による矩形波駆動と、図80の駆動回路による正弦波駆動の能力を定量的に比較してみる。図82の3個の破線部の駆動ユニットの最大出力は、3×V0×I0となる。図80の駆動回路による正弦波駆動の最大出力は、3/4×V0×I0となる。図82の最大出力は図80の4倍となり、素子数の分を差し引いても2倍となるので、駆動回路の合計の電力出力を揃えると、図82の駆動回路の方が1/2に小型化でき、軽量化、低コスト化もできることになる。なお、矩形波に近い台形波形状の駆動は低速回転で可能であっても、高速回転では巻線インダクタンスなどにより通電が困難となり、次第に正弦波に近い電流波形形状とせざるを得ないことが多い。しかし、低速回転で最大トルクを必要とし、高速回転ではさほどでも無い用途は、EV、産業機械、家電などに多くある。
図81の(a)の2相、(c)の4相、(e)の6相などの偶数相は、合計の電流値が偏るので、正弦波電流であっても、(201)式のように全ての相の電流値の合計が0[A]となる関係にはならない状態が発生する。勿論、矩形波、あるいは、台形波の電流駆動の場合には、全相電流の合計が0[A]とならない状態が発生する。従って、星形結線では駆動できないので、図80のように駆動できない。しかし、偶数相の場合で、矩形波、あるいは、台形波の電流駆動であっても、図82の駆動回路であれば問題無く駆動できる。なお、相数が大きくなると、(201)式のような電流制約であっても、次第に通電可能な台形波形状の領域が広くなる。また、現実的なモータ設計の視点で、特に台形波電圧、台形波電流の駆動においては、トルクの高調波成分の相殺効果が重要であり、5相、7相、11相が格段に優れていて、自在な磁束分布の制御という本発明の趣旨などの総合的評価で、必要最小の相数を選択することになる。
次に、請求項36の実施例を図83に示し、説明する。図83の835は直流電圧源で、836は駆動回路全体のモータ制御回路である。831、832はパワートランジスタで、それぞれ逆並列のダイオードを備えており、巻線83Aへ正あるいは負の電圧を印加し、正あるいは負の電流を通電することができる。破線で囲って示す83K、83L、83M、83N、83P、83Qは、破線で示す83Jと同じ構成であり、7相のモータ駆動の例である。83Kの出力は巻線83Bへ接続し、83Lの出力は巻線83Cへ接続し、83Mの出力は巻線83Dへ接続し、83Nの出力は巻線83Eへ接続し、83Pの出力は巻線83Fへ接続し、83Qの出力は巻線83Gへ接続している。これらの巻線の他端は共通に相互に接続した中性点83Hである。図83が3相の場合は、図80と類似した方法の構成である。一点鎖線で囲う駆動ユニット83Rには、831、832のパワートランジスタとそれぞれ逆並列のダイオードを備えており、その出力は前記中性点83Hへ接続している。
図83の駆動回路は、2個のトランジスタで1個の巻線の電圧、電流を駆動し、各巻線の他端の中性点83Hを前記駆動ユニット83Rで駆動している。83A、83B、83C、83D、83E、83F、83Gの各相巻線へ各相の正弦波電流を通電する場合、(201)式のように、合計電流Iallは0[A]となるが、矩形波電流あるいは矩形波に近い台形波状の電流を通電した場合には合計電流Iallは0[A]とならない。前記駆動ユニット83Rで合計電流Iallを駆動することにより、各巻線の電圧、電流を各相の正弦波電流あるいは台形状の電流として制御可能となる。図83は、例えば、図1の7相の誘導モータを駆動する駆動回路の例である。図83は、図82の場合と同様に、図81の示す各相数のモータについても、83L、83M、83N、83P、83Qなどの駆動ユニットの数を変更して駆動することができる。
図83の各駆動ユニットが各巻線へ出力できる電圧は、単純には、図82の各駆動ユニットが各巻線へ出力する電圧の1/2となる。図83の各駆動ユニットのパワートランジスタの数は2個で、図82の各駆動ユニットのパワートランジスタの数は4個である。図83の駆動回路は、図82に比較して、駆動ユニット83Rが必要である。図83と図82とのパワートランジスタの電力容量を比較すると、図83の方が駆動ユニット83Rが必要なので不利である。しかし、図83の駆動回路は、トランジスタの数が少なくてすむので、相対的に簡素化できる特徴がある。例えば、7相の場合、図83のパワートランジスタの数は16個であり、図82のパワートランジスタの数は28個であある。図83の駆動回路の特徴の一つは、全体の簡素化である。
また、各巻線には種々インダクタンス成分があるため、各巻線へ台形状の電流を増減するタイミングでは、各巻線ごとにそれぞれの位相で大きな電圧が必要となる。図83の駆動ユニット83Rは、前記中性点83Hを図83の駆動回路の平均電圧に保つように作用するだけでなく、各巻線ごとに必要となるそれぞれのタイミングでの過大な電圧を供給するように動作させることもできる。例えば、図83の直流電圧源835の電圧を400[V]とすると、単純には、各巻線へ印加できる最大電圧は200[V]であるが、電流を増減するタイミングでは例えば250[V]などと増加して印加することもできる。極端には、瞬時であれば、通常時の2倍の400[V]を印加できる可能性も有る。例えば、各相の電流波形が増減の急峻な台形波形状の場合、各相がそれぞれの電流を増減するタイミングで大きな電圧を必要とするので、その様な場合には、図83の駆動回路をより効果的に活用でき、全体の小型化が可能となる。
また、図83の駆動回路の変形が可能である。変形の一つは、直流電圧源835を2つの直列電圧源に分割して、中間電圧を作る方法であり、前記中性点83Hをその中間電圧に接続することにより、駆動ユニット83Rを排除することができる。また、他の方法として、前記中性点83Hと直流電圧源835のコモン線の間にコンデンサを配置して、直列電圧源の分割に代用することもできる。この場合も、駆動ユニット83Rを排除することができる。これらの様に、図83の駆動回路を簡素化することも可能である。
次に、図2のブロックダイアグラムに示す、各相のステータ電流を検出する電流検出器2Xについて説明する。本発明のモータ制御では、各相の磁束成分、トルクなどを制御するために、電流検出器2Xが必要である。従来の種々電流検出器を使用できる。また、ロータの回転位置検出器2Zも本発明のモータ制御に必要である。従来の種々回転位置検出器を使用できる。また、ソフトウェアを活用したセンサーレス位置検出も可能である。
次に、請求項39の実施例を図84に示し、説明する。本発明では、図1の誘導モータなどを効果的に、効率良く制御するために、誘導モータの磁束分布、即ち、各相の磁束を制御する。図57に示したように、誘導モータの制御状態を推測、予測して制御することも可能だが、より正確に制御するためには各相の磁束を検出する必要がある。図2のブロックダイアグラムに示した磁束検出器2Yは、例えば、図1の各歯の磁束[Wb]あるいは磁束密度[T]を検出する。磁束密度を直接検出する方法として、ホール素子、磁気抵抗素子などを使う方法がある。
図84は、図1に示したステータ、ロータと同じ構成の誘導モータであり、ホール素子、磁気抵抗素子などにより、各ステータ歯の磁束密度を検出する構成の例である。図84の841はステータ、842はロータ、849はロータ軸である。843は、B2相のステータ磁極の歯の先端部近傍に取り付けたホール素子であり、B2相のステータ磁極の歯を通過する磁束の磁束密度を検出する例である。また、他の例として、C2相のステータ磁極の一部にホール素子専用の磁路844を設け、専用の磁路844に845のホール素子を取り付ける例である。前記ホール素子専用の磁路844は、C2相のステータ磁極の軟磁性体部との間に樹脂などの非磁性体を設けるなどの構成とし、磁束密度検出用の磁束成分が通過できる構成とする。そして、その磁束がホール素子845を通過後に、外形側のステータバックヨークへ磁路が繋がるように構成する。このように、ステータ841の外形側に配置していても、C2相のステータ磁極の磁束密度をより正確に検出できる構成とする。なお、ホール素子専用の磁路844の形状は、ロータ軸方向の厚みが磁束密度検出に必要な最小限の長さとして、磁束検出スペースを小型化できる。従って、誘導モータ全体のトルクの低下を小さくできる。また、磁路844のロータ軸方向の配置位置は、ステータコアの軸方向端、あるいは、中央部など特に限定されない。
ホール素子845をステータ841の外径側に配置することにより、ホール素子845をモータの外径側から取り付けを可能にできる。ホール素子845への配線も容易で、冷却の工夫も可能である。また、図84の各ステータ巻線が全節巻き巻線で、モータ中心に対してモータ構成が点対称なので、例えば、A2相ステータ磁極846を通過する磁束と、A/2相ステータ磁極527を通過する磁束は、相対的に磁束の向きが逆方向で同じ大きさの磁束であると見なせる。また、磁束密度[T]に歯の断面積[m2]を乗じて磁束[Wb]を計算できる。従って、図84の全ての歯の磁束を検出するためには、14歯中の7個の歯の磁束密度検出ができれば良い。また、全ての磁束の和が0であることから、6個の歯の磁束密度検出でも良い。
また、各歯の磁束を検出する他の方法として、各歯に磁束検出用のサーチコイルを巻回して、その電圧を計測し、磁束を計算して求めることができる。図84の848は、D2相ステータ磁極へ巻回した2[turn]のサーチコイルの例である。サーチコイルの電圧Vscdは、サーチコイルの巻回数をNscとして、検出する磁束をφsdとすると次式となる。
Vscd=Nsc×dφsd/dt (203)
磁束φdは電圧の積分値として求められるが、積分定数が定まらないので、工夫が必要である。ある程度の回転数以上であれば、平均値が0となるように積分定数を特定できる。また、低速回転では積分定数の特定が難しくなるので、他の計測法と組み合わせて検出することもできる。あるいは、低速回転では、主に、誘導モータの理論的モデルと理論式に基づいて制御することも可能である。なお、サーチコイルを各歯に設けるのではなく、複数の歯にサーチコイルを券回するなどの変形を行い、後に各歯の磁束を計算して求めても良い。
また、全節巻きのステータ巻線の電圧から鎖交磁束を求めることもできる。図84のステータ巻線は図1に示す全節巻き巻線と同じで、各巻線電圧は(22)式から(28)式で表すことができる。そして、各相電圧は、(29)式から(35)式で表すことができる。これらの(29)式から(35)式は、前記のサーチコイルの電圧をあらわす(203)式と同一の形態の式である。従って、サーチコイル電圧から鎖交磁束を求める方法と同じ方法で各相のステータ磁極の磁束[Wb]を計算することができる。磁束密度[T]も計算できる。
なお、(22)式から(28)式は簡略化していて、巻線抵抗と全節巻き巻線の漏れインダクタンスを無視している。より正確に磁束を求める場合は、例えば図1のAD2相巻線1Fの電圧Vadは、(22)式から次式に補正することもできる。
Vad=Nws/2・d(φa+φb+φc+φd−φe−φf−φg)/dt
+Iad×Rst+Lst×d(Iad)/dt (204)
従って、補正したAD2相電圧Vadmは次式となる。
Vadm=Vad−(Iad×Rst+Lst×d(Iad)/dt) (205)
ここで、IadはAD2相電流[A]で、Rstは全節巻き巻線の抵抗値[Ω]で、Nws/2は全節巻き巻線の巻回数[turn]で、Lstはステータの全節巻き巻線の漏れインダクタンス[H]である。何れも計測時点で既知の値である。また、(23)式から(28)式の他の相の巻線電圧も、同様に補正することもできる。そして、(205)式のように補正したAD2相電圧Vadmを(22)式のVadの替わりに代入し、(23)式から(28)式も同様に代入すると、(29)式から(35)式を変形することなくそのまま使用でき、各相の磁束φa、φb、φcなどを計算できる。
なお、図1のステータの各相の巻線電圧Vad、Vbeなどは、駆動回路のパワートランジスタによりパルス幅変調PWMした電圧が印加され、PWM周波数が大きいので、その計測は容易ではない。例えば、PWM周波数が10[kHz]の場合、約100[μsec]の周期で高低の矩形波電圧が繰り返されるような、高速で変化する電圧波形である。
これらの各相の巻線電圧Vad、Vbeなどの計測方法としていくつかの方法が可能である。
巻線電圧の第1の計測方法は、モータ制御の計算段階において、前記のパルス幅変調PWMを行う前の電圧指令値、電流指令値を計測予測値として使用する方法である。PWM変調の前のデジタル信号なので信号処理が容易であり、必要に応じて平均値計算、フイルター処理、あるいは、計測される電流の制御誤差に基づく補正計算も可能である。
巻線電圧の第2の計測方法は、これらの各相の巻線電圧Vad、VbeなどをAD変換器で計測する方法である。通常、その場合、分圧による検出電圧の低電圧化、巻線電圧を差動電圧検出することにより計測回路に都合の良い電圧に変換、低周波フィルタによるPWM周波数成分の低減などが効果的である。また、電源電圧の監視回路、あるいは、各相の電流値を計測する電流検出回路などとの共通化も可能であり、例えば、計測電源の共用化、多チャンネルAD変換器の共用化などによりスペース低減、コスト低減などが可能である。また、第1の計測方法と第2の計測方法とを併用することもできる。そして、(29)式から(35)式により各相の磁束φa、φb、φc、φdなどを計算できる。また、計測電源の共用化、多チャンネルAD変換器の共用化などは、前記のホール素子を用いる方法、サーチコイルを用いる方法、ロータ電流を計測する方法などでも使用できる。
また、図1などの各ステータ磁極の磁束密度、あるいは、各相の励磁電流成分Isfを求める他の方法として、各ロータ電流Irを計測し、計算により求めることもできる。各ロータ電流Irを計測できれば、そのステータ換算電流Isrを計算して求めることができる。また、ステータの全節巻き線の各相電流Isは容易に検出できる。従って、前記各相の励磁電流成分Isfを次式のように求めることができる。
Isf=Is−Isr (206)
エアギャップ部と軟磁性体部へこの励磁電流成分Isfに起磁力が作用するので、計算して歯やエアギャップ部の磁束密度を求めることができる。なお、軟磁性体部の磁気特性は、例えば、図7などである。
次に、本発明におけるロータ巻線の温度、ロータ巻線抵抗、ロータ巻線の電流、ロータの磁束密度について説明する。本発明では、(77)式などのように、誘導モータの制御においてロータ巻線の抵抗値Rrは重要なパラメータである。しかし、ロータ巻線の材料として銅、アルミニウムが主として使用されるが、その抵抗率の温度変化が約40[%/100℃]と大きく、ロータ巻線抵抗の温度変化はロータ電流制御精度の観点で大きな問題である。F種絶縁でも155℃であり、100℃以上は変化する。具体的には、ロータ電流Irが(77)式で表されるので、Irはロータ巻線温度により大きく変化する問題である。従って、誘導モータの電流、トルクを制御する上で、ロータ巻線の抵抗値Rrは重要なパラメータである。
ロータ巻線の温度を計測する方法として、固定側であるステータ側から、回転しているロータ表面の輻射熱を計測して概略温度を計測できる。輻射熱のセンサーなどが市販されている。さらには、並行して、ロータの熱容量とロータ電流の履歴からロータ巻線温度をより正確に推測することもできる。また、モータの他の部分の温度もロータ巻線の温度に関わるので、それらの制御情報からロータ巻線温度を推測計算しても良い。
次に、請求項40の実施例について、図85、図87、にその例を示し説明する。誘導モータのロータの各ロータ巻線の各ロータ電流を検出し、各相の磁束、電圧、電流を制御し、トルク、速度を制御する。本発明では、ロータ電流を正確に通電し、制御することは基本技術であり、重要である。いくつかのロータ電流の検出方法を示す。なお、ロータは回転しているので、各ロータ巻線の各ロータ電流を検出することは容易ではない。
ロータ電流の第1の検出方法は、図85の(a)と(b)に示す方法であり、ホール素子、あるいは、磁気抵抗素子などを活用して各ロータ電流を計測する方法である。図85の(a)はロータの側面図であり、図84の横断面図に示すロータの軸方向端に、855で示すロータ電流検出ユニットを示している。この855の具体的構成は、図85の(a)、あるいは、(b)で示す。図85の(a)の破線で示す851はロータ軸であり、図84の849と同じものである。図85の(a)の破線で示す852はロータの歯であり、図84のロータの歯と同じものである。
853はロータのスロットに配置するロータ巻線であり、ロータ軸方向端では、ロータの外形側から内径側へその接続部で繋がっていて、各相のロータ巻線の短絡環である854の部分に接続する構成としている。この853の前記接続部では、前記ロータ電流検出ユニット855により、通過する電流を計測する。図85の(a)のロータ構成は、アルミダイキャストの構成の例である。各ロータ巻線は1[turn]である。金型等を使用して、ロータ巻線、そのロータ端の部分853、および、各相のロータ巻線の短絡環854を同時に製作できるので、生産性が良い。その他の各ロータスロットの各ロータ巻線も、同様であり、短絡環854へ接続し、各ロータ電流をそれぞれの前記ロータ電流検出ユニットで検出する。
図85の(b)は、図85の(a)の前記ロータ電流検出ユニット855の具体的な構成の例である。図85の(b)の紙面の左右方向はロータ回転方向で、紙面の上下方向はロータ軸方向である。図85の(b)の紙面の裏側から表側の方向は、図85の(a)の外形側から内径側へ向かうロータ巻線853の向かう方向である。856はロータ巻線を電流シンボルマークで示していて、図85の(a)のロータ巻線853の一部である。857は、ロータ巻線856のロータ電流が鎖交するように構成した軟磁性体のコアであり、ロータ巻線856に流れるロータ電流により858の磁束が生成する。軟磁性体のコア857は、その磁路中に859のホール素子を配置し、ロータ巻線853、856に流れるロータ電流を検出する。
図85の(a)の855、及び、図85の(b)のロータ電流検出ユニットは、回転するロータ側に配置しているので、その制御電源を供給し、検出した電流値などの出力信号を誘導モータの制御回路へ通信する必要がある。それは種々の方法で可能ではあるが、より小型で、高信頼で、低コストであることが実用上望まれる。図87は、制御電源、信号の通信などの経路の例を示す図である。871は誘導モータのロータ軸、872はステータコア、873はステータ巻線、874はロータコア、875はロータ巻線である。876は誘導モータの制御回路で、877は制御回路876から誘導モータへ供給する動力線であり、誘導モータを駆動する電圧、電流を供給する。878はロータ回転位置θrを検出する位置検出器のステータで、879はロータである。87Aは、位置検出器の一部に配置し、共用する制御回路電源、あるいは、ホール素子などの電流検出回路のインターフェイスなどである。
図87の87Cは、図85の(b)のホール素子への接続線などであり、ロータコア874の近傍の各種検出回路への制御電源の供給、及び、各種信号の通信等を行う。例えば、87Aは回転トランスであり、ステータ878とロータ879の間に電力を供給し、各種デジタル信号を重畳することもできる。また、87Dは、例えば、ステータの各歯の磁束密度を検出する制御線である。87Bは、ステータ878と制御回路876との接続線であり、制御電源、各種の通信線などである。この様に、各種の接続線が必要となるが、接続線87Bのように、モータ周りの入出力線をとりまとめて、あるいは共用して接続することにより、接続線の負担を軽減することができる。また、通信手段としては、有線のほかに無線、光ファイバ、ステータとロータ間の光通信等も使用できる。
なお、図85の(a)の各ロータ巻線が全節巻き巻線の場合は、前記短絡環854は無く、図60のロータに示す様な、601から607のコイルエンドの巻線で接続することになる。そしてこれらの巻線をそれぞれに図85の(b)の軟磁性体のコア857へ貫通させて、ロータ電流を計測する。この場合には、図85の(b)に示す電流検出器855は7個となる。また、同様に、図85の(a)に示す短絡環854の構成のロータの場合も、モータの対称性などから推測できるロータ電流もあり、必ずしも全てのロータ電流を検出しなくても良い。また、図85の(b)はホール素子を用いてロータ電流を検出しているが、磁気抵抗素子、あるいは、ロータ巻線へシャント抵抗を挿入するなど、その電圧降下からロータ電流を求めても良い。また、図85の様にロータに制御電源があり、通信手段も準備している場合には、近傍の温度、ロータ巻線の温度、ロータ各部の磁束密度などの検出も比較的容易に実現できる。例えば、前記ロータ電流検出ユニット855に温度検出器を並置できる。
次に、ロータ電流の第2の検出方法を、図85の(c)に示し、説明する。図85の(c)はロータ電流検出ユニットでその構成は、図85の(b)と異なり、そのロータ側の部分とステータ側、即ち、固定側の部分とに分けている。入出力線の必要なホール素子85Eをステータ側へ配置することが、図85の(c)の構成の狙いである。図85の(c)の紙面の左右方向はロータ回転方向で、紙面の上下方向はロータ軸方向である。図85の(c)の紙面の裏側から表側の方向は、図85の(a)の外形側から内径側へ向かうロータ巻線853の向かう方向である。85Aはロータ巻線を電流シンボルマークで示していて、図85の(a)のロータ巻線853の一部である。85Bは、ロータ巻線85Aのロータ電流が鎖交するように構成した、ロータ側の軟磁性体のコアである。85Cは固定側の軟磁性体コアで、エアギャップを介してロータ側の85Bに対向していて、ロータ側の85Bが回転してある特定区間にさしかかると、相互に対向して85Dの磁束が生成する。軟磁性体のコア85Cには、その磁路中に85Eのホール素子を配置する。そして、ホール素子85Eは、ロータ巻線85Aに流れるロータ電流により生成した前記磁束85Dを検出する。
図85の(c)のロータ電流検出ユニットの構成でロータが回転すると、1回転に1回だけ、限られたロータ回転角の範囲で、ホール素子85Eは巻線85Aに流れるロータ電流を検出できる。軟磁性体のコア85Cの円周方向幅は、検出可能なロータ角度幅を広げるため、図85の(b)のコア857より少し幅広にした例を図示している。また、図85の(c)のコア85Bがコア85Cへ対向する方向が、図85の(c)の状態より90°ねじれていて、コア85Bの各歯がロータの回転方向に向いていれば、検出可能なロータ角度幅を広げることができる。85B、85Cのコア形状を変形することもできる。
また、ホール素子85Eは、他のロータ巻線のロータ電流も同様に検出することができる。ロータ回転位置θrの情報により、どのロータ巻線の電流かを判別することができる。他方、図85の(a)と図85の(c)との組み合わせにより、ロータ電流検出ユニット855を円周方向に数多く配置することができる。図85の(c)のロータ側ユニットとステータ側ユニットとの構成を、円周方向に配置す位置、個数、2重配列などを工夫、変形できる。その結果、各ロータ電流検出ユニットの値とロータ回転位置θrの情報より、各ロータ巻線の電流値を高い頻度で検出できる。さらには、連続して検出することも可能である。
一方で、誘導モータの制御回路では、モータの制御状態などから、常時、各ロータ巻線の電流値を推測して計算している。従って、ロータ電流を検出できないタイミングが有っても、ロータ電流値の推測値で補うことができ、また、次に検出できた時に、前記推測値の誤差成分を修正することもできる。また、各ロータ電流の検出が可能であれば、ロータ巻線の抵抗Rrの値が温度変化していることを認識して、その値を校正することもできる。
同様に、その他のパラメータも校正することができる。
また、これら図85の(c)のコア85C、ホール素子85E等は固定側なので、図86の様に、861のドーナツ状のプリント基板の上に並べて円周上に配置することができて、多くのロータ電流検出ユニットを精度良く配置できて、デジタル入出力様のインターフェイスも搭載するなど、性能、機能、生産性などに優れた電流検出ユニットとすることもできる。862は、図85の(c)のコア85C、ホール素子85E等である。このドーナツ状のプリント基板861は、図85の(a)のロータの軸方向端のロータ巻線85A、コア85Bなどに、わずかなエアギャップを介して対向して配置する。ロータ側は回転し、プリント基板861は固定側なのでステータへ固定する。また、861はプリント基板に限定されるものではなく、多くの部品と配線を正確に固定できれば良いので、樹脂などでも良い。また、85B、85C等のコアについても、簡略化することも可能である。極端には、これらのコアが無くても、図85のロータ巻線853などの近傍には微弱な磁束が発生しているので、微弱な磁束から各ロータ電流値を計測することもできる。微弱な磁束密度に対して高感度に反応する磁気抵抗素子なども多く市販されている。なお、その様な場合には、電磁気的なシールドも必要に応じて使用できる。また、図85の(c)の例として、図85の(a)のロータ磁極方向端にドーナツ状のプリント基板上に、多くのコア85C、ホール素子85E等を配置する方法を示したが、ロータのラジアル方向、外形側、斜め方向、あるいは、内径側などに配置するように変形しても良い。ロータ電流を検出するために、ロータ長をステータ長より長くすることも可能である。
以上本発明について説明したが、種々の変形、応用、組み合わせが可能である。誘導モータの相数を5相、7相の変形でき、極数も選択できる。ステータ巻線を集中巻き、あるいは、分布巻き、短節巻き、トロイダル巻きなどの構成とすることができる。アウターロータ型モータ、アキシャルギャップ型モータ、あるいは、リニアモータなどのモータ形状を選択できる。内外径方向に、あるいは、ロータ軸方向に、2個のモータ要素とした複合モータの構成とすることができる。また、他の種類のモータ要素と組み合わせることも可能である。モータ磁気回路を構成する軟磁性体として、通常の電磁鋼板の他に圧分磁心、アモルファス金属の鉄心、パーメンジュールなどの種々の材料が使える。また、各巻線の誘起電圧、磁気特性がロータの回転と共に変化することを利用したセンサレス位置検出技術の活用も可能である。本発明構成に、これらの技術を応用、変形したものは本発明に含むものである。