JP2021007309A - 形質転換体およびそれを用いたd−乳酸の生産方法 - Google Patents

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【課題】D−乳酸のみを生産することができるエンテロコッカス・フェカリスの形質転換体、および、その形質転換体を用いてグリセロールから光学純度の高いD−乳酸を効率的かつ簡便に生産することができる生産方法を提供すること。【解決手段】本発明のエンテロコッカス・フェカリスは、主要なL−乳酸デヒドロゲナーゼ(ldhL1)遺伝子を破壊したΔldhL1株にプラスミドを用いてD−乳酸デヒドロゲナーゼ(ldhD)遺伝子の発現系を導入したΔldhL1(ldhD+)株であり、L−乳酸生産能を消失させてD−乳酸生産能を付加したエンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)の形質変換体である。そのため、炭素源としてグリセロールを含有する原料を用いて、D−乳酸のみを生産させることができる。また、このとき0.5mol/L以上のグリセロールを含有する培地を用いて好気条件下で生産を行うことが好適である。【選択図】図1

Description

本発明は、グリセロールからD−乳酸を生産することができるエンテロコッカス・フェカリスの形質変換体、および、この形質変換体を用いてグリセロールからD−乳酸を生産する生産方法に関するものである。
乳酸はヒドロキシ酸のひとつであり、pH調整剤、調味料・酸味料、サプリメントなどとして食品および医薬品分野で広く使用されている。さらに近年ではバイオプラスチックであるポリ乳酸の原料としても使用され、その需要が年々増加している。バイオプラスチックは、生物資源から製造されるプラスチックの総称であり、生分解性およびカーボンニュートラルの特性からサスティナブル(持続可能)社会の構築を可能にする重要な資材である。また、乳酸には、不斉炭素がひとつ含まれることから左旋性のL−乳酸と右旋性のD−乳酸があり、高品質なポリ乳酸の製造には、光学純度の高いそれぞれの乳酸が要求される。
一方、グリセロールは、食品、化粧品、医薬品などに広く使用されている3価のアルコールである。近年、生物由来の油の主成分であるトリアシルグリセロールから軽油代替燃料であるバイオディーゼル燃料(脂肪酸メチルエステル)が盛んに製造され、それに伴ってグリセロールを含む廃液が大量に副生されている。この廃液はバイオディーゼル廃液と呼ばれ、グリセロール以外の不純物を多く含むことから有効な活用法がなく、その多くが産業廃棄物として焼却処理されている。したがって、バイオディーゼル廃液などに含まれるグリセロールから価値のある物質を生産する方法が強く望まれている。
上記問題を解決する方法として、グリセロール資化性を有する乳酸菌を用いてグリセロールから乳酸を生産する方法が開発されている。例えば、特許文献1にはラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)を用いて嫌気条件下でグリセロールから乳酸を生産する方法が記載されている。また、非特許文献1にはエンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis) QU 11株を、特許文献2にはエンテロコッカス・フェカリス W11株を用いて嫌気あるいは低酸素条件下でグリセロールから乳酸を生産する方法がそれぞれ記載されている。しかしながら、ラクトバチルス・ペントーサスはL−乳酸とD−乳酸を、エンテロコッカス・フェカリスはL−乳酸を生産することから、これらの乳酸菌の野生株を用いてグリセロールから光学純度の高いD−乳酸を生産することはできない。
そこで、グリセロール資化性を有する細菌にD−乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を導入した形質転換体を用いてグリセロールからD−乳酸を生産する方法が開発されている。例えば、非特許文献2および非特許文献3にはエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)の形質転換体、非特許文献4にはクレビシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)の形質転換体を用いてグリセロールからD−乳酸を生産する方法がそれぞれ記載されている。しかしながら、ここに挙げられた方法ではD−乳酸を高収率で得るためにグリセロール添加速度や通気量などをそれぞれ厳密に調整する必要があり、さらにその最適条件は培養環境に即して複数試験を繰り返すことで見出さなければならないことから、生産プロセスの再現性と汎用性に課題を残す。
近年、非特許文献5において、炭素源として高濃度(1.0mol/L)のグリセロールを与えられたエンテロコッカス・フェカリスが好気培養条件下にもかかわらず乳酸発酵によってグリセロールからL−乳酸を積極的に生産する形質「好気性乳酸生産(Aerobic lactate production)」が発見および報告された。この形質を利用すれば、グリセロールから容易に100g/L以上のL−乳酸を高収率(>95%)で生産することが可能である。
したがって、エンテロコッカス・フェカリスにD−乳酸のみを生産させることができれば、「好気性乳酸生産」を利用してグリセロールからD−乳酸を効率的かつ簡便に生産することが可能になる。しかしながら、エンテロコッカス・フェカリスをはじめとした乳酸菌の形質転換体を用いてグリセロールからD−乳酸のみを生産する技術は開発されていない。
特開2011−103879号公報 特開2011−229476号公報
Murakami N et al. (2016) J Biosci Bioeng 121:89-95 Wang ZW et al. (2015) J Agric Food Chem 63:9583-9589 Chen X et al. (2014) Green Chem 16:342-350 Feng X et al. (2013) Bioresour Technol 172:269-275 Doi Y (2018) Appl Microbiol Biotechnol 102:10183-10192
本発明の目的は、D−乳酸のみを生産することができるエンテロコッカス・フェカリスの形質転換体、および、その形質転換体を用いてグリセロールから光学純度の高いD−乳酸を効率的かつ簡便に生産する生産方法を提供することにある。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、エンテロコッカス・フェカリスの主要なL−乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(ldhL1遺伝子)を破壊し、そのldhL1遺伝子のプロモーター下にD−乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(ldhD遺伝子、微生物によってはldhA遺伝子)を融合させた遺伝子を導入することで、好気性乳酸生産によってグリセロールから効率よくD−乳酸のみを生産できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることによって完成したものである。すなわち、本発明は、下記(1)〜(10)に関するものである。
(1) 主要なL−乳酸デヒドロゲナーゼ(ldhL1)遺伝子を破壊したΔldhL1株にプラスミドを用いてD−乳酸デヒドロゲナーゼ(ldhD)遺伝子の発現系を導入したΔldhL1(ldhD)株であることを特徴とするエンテロコッカス・フェカリス。
(2) 前記ldhD遺伝子を発現させるために、当該エンテロコッカス・フェカリスは、その前記ldhL1遺伝子由来のプロモーター領域が用いられている(1)に記載のエンテロコッカス・フェカリス。
(3) エンテロコッカス・フェカリスを用いてグリセロールからD−乳酸を生産することを特徴とする生産方法。
(4) 前記エンテロコッカス・フェカリスは、主要なL−乳酸デヒドロゲナーゼ(ldhL1)遺伝子を破壊したΔldhL1株にプラスミドを用いてD−乳酸デヒドロゲナーゼ(ldhD)遺伝子の発現系を導入したΔldhL1(ldhD)株である(3)に記載の生産方法。
(5) 前記ldhD遺伝子を発現させるために、前記エンテロコッカス・フェカリスの前記ldhL1遺伝子由来のプロモーター領域を用いる(4)に記載の生産方法。
(6) 当該生産方法において、初発基質として0.5mol/L以上の前記グリセロールを添加して、生育期にある前記エンテロコッカス・フェカリスの生物化学的酸素要求量を満たす量の酸素を供給する(3)ないし(5)のいずれかに記載の生産方法。
(7) 前記グリセロールは、バイオディーゼル廃液由来の廃棄グリセロールである(6に記載の生産方法。
(8) 当該生産方法において、ペプトン、乾燥酵母エキス、アンモニウム塩、およびリン酸緩衝液を含む培地を使用する(6)または(7)に記載の生産方法。
(9) 前記培地は、そのpHが7.0以上8.0以下に保たれる(8)に記載の生産方法。
(10) 前記培地中の前記グリセロール濃度の低下に伴って、新たに前記グリセロールを追加添加する(8)または(9)に記載の生産方法。
本発明によれば、グリセロールから微生物すなわちエンテロコッカス・フェカリスの形質変換体を用いて光学純度の高いD−乳酸を効率的かつ簡便に生産することができる。
プラスミドpAM-PldhL1-ldhDの設計図である。PldhL1、ldhL1遺伝子のプロモーター領域;ldhD、D−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子;RBS、リボソーム結合サイト(Ribosome binding site)。−35および−10はPldhL1における−35ボックスおよび−10ボックスを、+1は転写開始点をそれぞれ示し、NruI、SalI、XbaIはその制限酵素の切断サイトを示す。記載の塩基配列はエンテロコッカス・フェカリス W11株由来の塩基配列であり、株によって若干の差異が生じる。本申請におけるプロモーター領域は、―35ボックスから開始コドン(3´末端のATG)までを指す。 ジャーファーメンターを用いてMRS改変培地で培養されたエンテロコッカス・フェカリス OG1RF株由来のΔldhL1(ldhDLD )株およびエンテロコッカス・フェカリス W11株由来のΔldhL1(ldhDLD )株の生育と培地中のグリセロール、D−乳酸、およびL−乳酸の濃度の経時変化を示した図である。 バッフル付三角フラスコを用いてMRS改変培地および検証培地1〜4で培養されたエンテロコッカス・フェカリス W11株由来のΔldhL1(ldhDLD )株の生育を示した図である。 バッフル付三角フラスコを用いて検証培地4〜6で培養されたエンテロコッカス・フェカリス W11株由来のΔldhL1(ldhDLD )株の生育を示した図である。 ジャーファーメンターを用いて検証培地4で培養されたエンテロコッカス・フェカリス W11株由来のΔldhL1(ldhDLD )株の生育と培地中のグリセロール、D−乳酸、およびL−乳酸の濃度の経時変化を示した図である。 ジャーファーメンターを用いて基質に廃棄グリセロールを含む検証培地4で培養されたエンテロコッカス・フェカリス W11株由来のΔldhL1(ldhDLD )株の生育と培地中のグリセロール、D−乳酸、およびL−乳酸の濃度の経時変化を示した図である。 ジャーファーメンターを用いて各撹拌速度下で培養されたエンテロコッカス・フェカリス W11株由来のΔldhL1(ldhDLD )株の生育と培地中の溶存酸素濃度およびグリセロール濃度の経時変化を示した図である。 ジャーファーメンターを用いて培養され、さらにグリセロールの資化に伴って新たなグリセロールを追加添加されたエンテロコッカス・フェカリス W11株由来のΔldhL1(ldhDLD )株の生育と培地中のグリセロール、D−乳酸、およびL−乳酸の濃度の経時変化を示した図である。
以下、本発明の形質転換体の作製方法およびそれを用いたD−乳酸の生産方法を、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
本発明は、D−乳酸のみを生産することができるエンテロコッカス・フェカリスの形質転換体と、その形質転換体を用いてグリセロールから光学純度の高いD−乳酸を効率よく生産する方法を提供することにある。
前記エンテロコッカス・フェカリスの形質転換体は、下記の工程(1)、(2)によって作製される。すなわち、
(1)エンテロコッカス・フェカリスのldhL1遺伝子を破壊する工程と、
(2)工程(1)で作製されたエンテロコッカス・フェカリスのldhL1遺伝子破壊株に、ldhD遺伝子の発現系、すなわちエンテロコッカス・フェカリスのldhL1遺伝子のプロモーター領域の下流にldhD遺伝子を融合させた遺伝子を導入する工程を有する。
まず、工程(1)では、ldhL1遺伝子破壊用プラスミドをエレクトロポレーション法によってエンテロコッカス・フェカリスに形質転換し、相同組み換えによってそのゲノムDNA上のldhL1遺伝子にカナマイシン耐性遺伝子を挿入することでldhL1遺伝子が破壊されたΔldhL1株を作製した。ldhL1遺伝子破壊用のプラスミドは、PCR法によって増幅させたエンテロコッカス・フェカリスのldhL1遺伝子をエシェリヒア・コリ用のクローニングベクターであるpHSG396(タカラバイオ株式会社、滋賀)のマルチクローニングサイトに挿入し、これを再び制限酵素で消化してldhL1遺伝子の中央付近にpHSG298(タカラバイオ株式会社)からPCR法を用いて増幅させたカナマイシン耐性遺伝子を挿入することで作製した。ΔldhL1株の選別は、抗生物質耐性、乳酸生産能の有無、PCR法によって行った。ldhL1遺伝子破壊プラスミドをエンテロコッカス・フェカリスに形質転換した後、10g/Lのカナマイシン硫酸塩を含むBHI(Brain heart infusion)平板培地(Becton, Dickinson and Co.、MD、USA)に塗布して生育が認められた形質転換体をさらに2g/Lの炭酸カルシウムを含むMRS(de Man, Rogosa and Sharpe)平板培地(Becton, Dickinson and Co.)に塗布した。形成されたコロニー周辺の炭酸カルシウムが生産されたL−乳酸によって溶解されない形質転換体をさらにPCR法に供し、ldhL1遺伝子が破壊されていることを確認した。
上記工程において使用されるエンテロコッカス・フェカリスは、好気性乳酸生産を行うことができれば特に限定はされない。公知の菌株を使用してもよいし、新たにスクリーニングなどによって得られる菌株を使用してもよい。ldhL1遺伝子の破壊は相同組み換え法が最も容易であるが、紫外線または遺伝子変異剤などを使用することもできる。また、ldhL1遺伝子の破壊に用いる薬剤耐性マーカー遺伝子とプラスミドは上述のものに限定されないが、遺伝子の破壊に用いる薬剤耐性とプラスミドにコードされている薬剤耐性の種類が重複しないことが好ましい。なお、プラスミドを用いたエンテロコッカス・フェカリスの形質転換はプロトプラスト法を用いることも可能であるが、高い形質転換効率が得られるエレクトロポレーション法が好適である。
次いで、工程(2)では、エンテロコッカス・フェカリスのldhL1遺伝子のプロモーター領域の3´末端側にldhD遺伝子を融合させた遺伝子を含むプラスミドをエレクトロポレーション法によって工程(1)で作製されたΔldhL1株に形質転換することで、当該破壊株にldhD遺伝子を導入および発現させたΔldhL1(ldhD)株を作製した。ここで使用したプラスミドpAM-PldhL1-ldhDは、PCR法を用いて増幅させたエンテロコッカス・フェカリスのldhL1遺伝子のプロモーター領域をエシェリヒア・コリ-エンテロコッカス・フェカリス間のシャトルベクターであるpAM401(ATCC[登録商標] 37429TM;American Type Culture Collection、VA、USA)のクローニングサイトに挿入した後、その3´末端側にPCR法を用いて増幅させた微生物由来のldhD遺伝子を挿入することで作製した。このpAM-PldhL1-ldhDが導入された形質転換体(以下、ΔldhL1(ldhD)株)の選別は、抗生物質耐性および乳酸生産能の有無によって行った。pAM-PldhL1-ldhDをΔldhL1株に形質転換した後、10mg/Lのクロラムフェニコールを含むラクトース非添加のM17平板培地(Becton, Dickinson and Co.)に塗布して生育が認められた形質転換体をさらに20mg/Lのクロラムフェニコールと0.2g/Lの炭酸カルシウムを含むMRS平板培地(Becton, Dickinson and Co.)に塗布し、形成されたコロニー周辺の炭酸カルシウムが生産されたD−乳酸によって溶解されることを確認した。
なお、工程(2)で作製されたプラスミドpAM-PldhL1-ldhDの設計図を図1に示す。また、図1に記載の塩基配列は、エンテロコッカス・フェカリス W11株由来の塩基配列であり、株によって若干の差異が生じる。本申請におけるldhL1遺伝子のプロモーター領域は、−35ボックスからその開始コドン(ATG)までを指す。
上記工程(2)において、シャトルベクターpAM401はストレプトコッカス属(およびエンテロコッカス属)の細胞内で複製が可能なプラスミドpGB354とエシェリヒア・コリの細胞内で複製が可能なプラスミドpACYC184を結合したハイブリッドプラスミドである。したがって、各々のプラスミドの複製に必要な領域を含んでいれば使用するシャトルベクターはpAM401に限定されないが、それにコードされている薬剤耐性の種類がldhL1遺伝子の破壊に用いた薬剤耐性のそれと重複しないことが好ましい。使用するldhD遺伝子は、微生物由来かつニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)を補酵素として利用するD−乳酸デヒドロゲナーゼ(EC:1.1.1.28)をコードしているものであれば特に限定されない。なお、ldhD遺伝子は開始コドンを省いた状態でldhL1遺伝子のプロモーター領域の下流に挿入することが好ましいが必須ではない。
本発明で使用するグリセロールは、精製されたグリセロールを用いてもよいし、本発明で使用するΔldhL1(ldhD)株の生育に悪影響を及ぼさない限り、グリセロール以外の成分を含有するグリセロール含有組成物(例えば、廃棄グリセロールなど)であってもよい。
本発明で使用する培地に添加することができるグリセロール濃度としては0.25mol/L以上1.0mol/L以下となる範囲、より好ましくは0.5mol/L以上1.0mol/L以下となる範囲を挙げることができる。培養開始時における培地のグリセロール濃度が0.5mol/Lよりも著しく少ないとD−乳酸の生産が十分に行われない傾向が現れ、1.0mol/Lよりも多いとΔldhL1(ldhD)株の生育(グリセロール代謝)に阻害が現れるおそれがある。菌株のグリセロールの資化量によっては、培養途中にグリセロールを追加で適宜添加してもよい。この場合、培地中のグリセロール濃度が上述の範囲になるように添加することが好ましい。
本発明で使用する培地は、グリセロール、10mg/L以上20mg/L以下のクロラムフェニコール、および0.2mol/L以上のリン酸塩を含む液体培地である限り、前記ΔldhL1(ldhD)株の生育が可能であることを限度として特に制限されない。ただし、その成分中にL−乳酸が含まれていないものが好ましい。例えば、後述の実施例で示すようなペプトンと乾燥酵母エキスをそれぞれ5g/L以上10g/L以下含み、さらに窒素源として2g/L以上10g/L以下のアンモニア塩を含む培地を挙げることができる。
前記ΔldhL1(ldhD)株を培養する前記培地のpHとしては、培地が弱塩基性を示すpH7.0以上8.0以下となる範囲が好ましく、より好ましくは7.5を挙げることができる。培地のpHが酸性側に傾くほどD−乳酸の代わりにアセトインが生産される傾向が現れ、培地のpHが6.0以下あるいは8.5以上では菌株のグリセロール代謝が著しく低下していく。したがって、D−乳酸の生産に伴う培地のpHの低下は強塩基である水酸化カリウムや水酸化ナトリウムなどの高濃度水溶液を用いて上述するpH範囲まで適時中和することが好ましい。中和の方法としては、一定時間ごとに強塩基水溶液を添加しても良いし、後述の実施例で示すようなpHセンサーを用いて強塩基水溶液を自動的に添加しても良い。
前記培地に前記ΔldhL1(ldhD)株を接種する方法としては、平板培地上に形成された当該菌株のコロニーを白金耳等で回収して滅菌した生理食塩水などに懸濁した菌体懸濁液を添加する方法や、液体培地を用いて培養した当該菌株の菌体培養液を添加する方法を挙げることができる。ここで使用する平板培地および液体培地は10mg/L以上20mg/L以下のクロラムフェニコールを含む培地である限り、前記ΔldhL1(ldhD)株の生育が可能であることを限度として特に制限されないが、その成分中に炭素源(糖など)が含まれていないものが好ましい。例えば、後述の実施例で示すようなラクトースを含まないM17培地(Becton, Dickinson and Co.)を挙げることができる。
前記培地への前記ΔldhL1(ldhD)株の接種は、接種後の前記培地の菌体濃度(濁度、OD600)が0.1未満、好ましくは0.01以下となるように添加することが好ましい。接種後の前記培地の菌体濃度が0.1を上回ると、使用培地によってはΔldhL1(ldhD)株のグリセロール代謝が著しく抑制され、D−乳酸が生産されないことがある。また、接種後の前記培地の菌体濃度の下限については特に制限はない。
培養条件については、培養温度としてはエンテロコッカス・フェカリスが良好な生育を示すとされている25℃以上37℃以下、好ましくは30℃を挙げることができる。また、酸素供給量としては生育期にあるΔldhL1(ldhD)株の生物化学的酸素要求量を満たす量、より具体的にはその培養液中の溶存酸素濃度が好ましくは0.01mg/L、より好ましくは0.1mg/Lを下回らないように酸素が供給される条件が好ましい。培地の溶存酸素濃度が不足するとΔldhL1(ldhD)株のグリセロール資化速度が著しく低下するだけでなく、D−乳酸の代わりにエタノールが生産される傾向が現れる。培地の溶存酸素濃度の上限については特に制限はないが、上記期間における培地の溶存酸素濃度が飽和に近づくとD−乳酸の代わりにアセトインが生産される傾向が現れることから、大過剰な酸素供給は避ける方が好ましい。溶存酸素濃度にかかる空気の供給速度ならびに培地の攪拌速度は培養の形状や培地の容量によって異なり、一律に規定することはできないが、例えば後述の実施例で示すような1.5L容ジャーファーメンターに1.0Lの培地を加えて培養を行う場合は、空気供給速度として1.0vvm、培地の攪拌速度として300rpmを挙げることができる。
こうして得られたD−乳酸は、例えば、濾過、遠心分離、フィルタープレス等の公知の分離手段を用いて当該培養液から菌体および固形分を除去した後、さらに公知・慣用の乳酸回収手段を用いて濃縮または精製等を行うことによって回収することができる。
以上、本発明の形質転換体、および、それを用いたD−乳酸の生産方法を好適実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、生産方法では、任意の目的で、1以上の工程を追加することができる。
以下、本発明を実施例によって例示するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
(実施例1)使用菌株の検証
使用するエンテロコッカス・フェカリスの由来がΔldhL1(ldhD)株のグリセロールからのD−乳酸生産に与える影響を検証した。
[使用菌株]
ラクトバチルス・デルブリュッキー(Lactobacillus delbrueckii)のldhD遺伝子を用いて作製したプラスミドpAM-PldhL1-ldhDLDをエンテロコッカス・フェカリス OG1RF株由来のΔldhL1株に形質転換したΔldhL1(ldhDLD )株およびエンテロコッカス・フェカリス W11株由来のΔldhL1株に形質転換したΔldhL1(ldhDLD )株を使用した。
[培地組成]
前培養には、ラクトースを含まないM17培地(M17lac培地;Becton, Dickinson and Co.)を使用し、本培養には表1に示すMRS改変培地を使用した。いずれの培地にも少量のジメチルホルムアミドに溶解させたクロラムフェニコールを終濃度で20mg/Lになるように添加した。これらの培地成分を脱イオン水で溶解し、6.0mol/Lの塩酸水溶液でpHを7.5に調整後、121℃で15分間オートクレーブ滅菌を行った。pHの調整はpHメーター(pH Meter F-21;堀場製作所、京都)を用いた。
[培養方法]
前培養として、M17lac平板培地上に形成されたコロニーから菌体を白金耳によって同液体培地に接種し、好気条件下30℃で12時間培養した。その後、培養液を0.05%(v/v)の割合で本培養液1.0Lに接種して回分培養を72時間行った。本培養は、1.5L容のジャーファーメンター(MA−1000A;東京理化器械株式会社、東京)を用いて30℃、攪拌速度300rpmで行い、培養液にはエアーコンプレッサー(Aeration Unit MAU-1;東京理化器械株式会社)を用いて空気を1.0vvm(volume-culture/volume-Air minute)で供給した。培地のpHは、pHコントローラー(DJ−1023P;エイブル、東京)を用いて15mol/L水酸化カリウム水溶液を自動添加することで常に7.45〜7.50の間を示すように設定した。また、培養中には過剰な発泡を抑制するためにごく少量の消泡剤を適時添加した。
[菌体濃度の測定、基質および生産物濃度の定量]
菌体濃度は培養液の濁度(OD600)を分光光度計(GENESYSTM 10S UV-Vis;サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社、東京)により測定した。培養液中のグリセロール、D−乳酸、およびL−乳酸の濃度は、サンプルを遠心分離(4℃、15,000rpm、15分間)して得られた上清をBF−7バイオセンサ(王子計測、兵庫)に供して定量した。
[実験結果]
エンテロコッカス・フェカリス OG1RF株由来のΔldhL1(ldhDLD )株およびエンテロコッカス・フェカリス W11株由来のΔldhL1(ldhDLD )株の生育と培地中のグリセロール、D−乳酸、L−乳酸の濃度の測定結果を図2に示す。図2の結果は、いずれのΔldhL1(ldhDLD )株も培養開始から72時間で1.0mol/Lグリセロールを資化して0.90mol/L以上のD−乳酸を生産することを示した。OG1RF株はAmerican Type Culture Collectionから販売されているエンテロコッカス・フェカリス(ATCC[登録商標] 47077TM)であり、W11株は特許文献2において自然界から分離および同定されたエンテロコッカス・フェカリスである。OG1RF株およびW11株は、高濃度のグリセロール存在下において好気性乳酸生産を行うことがすでに非特許文献5で示されている。このことから、これらの結果は、本発明を用いることでグリセロールからD−乳酸のみを90%以上の変換効率で生産できること、さらに本発明で使用するエンテロコッカス・フェカリスはグリセロールから好気性乳酸生産を行うことができれば特に限定されないことを示した。
(実施例2)使用するldhD遺伝子の検証
プラスミドpAM-PldhL1-ldhDの作製に用いるldhD遺伝子の由来がΔldhL1(ldhD)株のグリセロールからのD−乳酸生産に与える影響を検証した。
[使用菌株]
コントロールとして実施例1に記載したエンテロコッカス・フェカリス W11株由来のΔldhL1(ldhDLD )株、検証用としてエンテロコッカス・フェカリス W11株由来のΔldhL1株にラクトバチルス・ペントーサスのldhD遺伝子を用いて作製したプラスミドpAM-PldhL1-ldhDを形質転換したΔldhL1(ldhDLP )株およびエシェリヒア・コリのldhD遺伝子を用いて作製したプラスミドpAM-PldhL1-ldhDを形質転換したΔldhL1(ldhDEC )株を使用した。
[培地組成]
実施例1と同様にして行った。
[培養方法]
実施例1と同様にして行った。
[菌体濃度の測定、基質および生産物濃度の定量]
培地中のグリセロール、D−乳酸、およびL−乳酸の定量は実施例1と同様にして行い、酢酸およびエタノールはF−kit(F. Hoffmann-La Roche Ltd.、Basel、Switzerland)を用いて、アセトインはGrundyらの方法(Mol Microbiol, 1993, vol.10, pp.259-271)に従って定量した。
[実験結果]
ΔldhL1(ldhDLD )株、ΔldhL1(ldhDLP )株、ΔldhL1(ldhDEC )株によって生産された代謝産物の組成を表2に示す。ΔldhL1(ldhDLP )株およびΔldhL1(ldhDEC )株は、ΔldhL1(ldhDLD )株と同様に培養開始から72時間で1.0mol/Lグリセロールを資化して0.88〜0.94mol/LのD−乳酸を生産した。これらの結果は、プラスミドpAM-PldhL1-ldhDの作製に使用するldhD遺伝子として、微生物由来かつNADを補酵素として利用するD−乳酸デヒドロゲナーゼをコードしているldhD遺伝子であれば、特に限定されないことを示唆した。
(実施例3)使用する培地の検証1
使用する培地の成分がΔldhL1(ldhD)株のグリセロールを炭素源とした生育に与える影響を検証した。
[使用菌株]
実施例1に記載したエンテロコッカス・フェカリス W11株由来のΔldhL1(ldhDLD )株を使用した。
[培地組成]
前培養には、M17lac培地(Becton, Dickinson and Co.)を使用し、本培養には表1に示したMRS改変培地および表3から表8に示す検証培地1〜6を使用した。培地の作製および調整は実施例1と同様にして行った。
[培養方法]
前培養として、M17lac平板培地上に形成されたコロニーから菌体を白金耳によってM17lac液体培地に接種し、好気条件下30℃で12時間培養した。その後、前培養液を0.05%(v/v)の割合で本培養液40mLに接種して回分培養を48時間行った。本培養は、シリコ栓(信越ポリマー株式会社、東京)を用いて栓をした200mL容のバッフル付き三角フラスコを用いて30℃、140rpmで行った。培地のpHはコンパクトpHメーター(PH−11B;堀場製作所)を用いて測定し、8.0mol/L水酸化カリウム水溶液を用いて6時間おきにpH8.0に調整した。
[菌体濃度の測定]
実施例1と同様にして行った。
[実験結果]
各培地で培養されたΔldhL1(ldhDLD )株の生育(OD600)を図3および図4に示す。検証培地1を用いて培養されたΔldhL1(ldhDLD )株の生育速度および最大細胞濃度(最大OD600)はMRS改変培地で培養されたΔldhL1(ldhDLD )株のそれらとほとんど同等であった。このことは、酢酸ナトリウムおよびポリオキシエチレンソルビタンモノオレアートの添加が不要であること、そしてクエン酸鉄アンモニウムは塩化アンモニウムで代替可能であることを示した。一方、検証培地1に含まれる肉エキスを省いた検証培地2を用いて培養されたΔldhL1(ldhDLD )株の生育速度と最大細胞濃度は著しく低下したが、それらの低下は含まれる乾燥酵母エキスの量を倍加させた検証培地3を用いることで大幅に改善され、さらに最大細胞濃度は検証培地3に含まれる塩化アンモニウムの量を2.0g/Lから5.0g/Lまで増加させた検証培地4を用いることでMRS改変培地におけるそれを上回るまで向上した。ただし、図4に示すように、含まれる塩化アンモニウムの量を10g/Lまで増加させた検証培地5を用いてもΔldhL1(ldhDLD )株の最大細胞濃度は検証培地4におけるそれと同等であった。肉エキスにはL−乳酸が含まれていることからD−乳酸生産用の培地成分としては不適切である。これらの結果は、肉エキスを乾燥酵母エキスと塩化アンモニウムで代替可能であることを示し、検証培地4が本発明で使用する最適培地のひとつであることを示唆した。また、pH緩衝剤として添加されているリン酸塩の濃度を0.2mol/Lから0.1mol/Lに低下させた検証培地6を用いると、ΔldhL1(ldhDLD )株の生育と最大細胞濃度は大きく低下した。この結果は、pH調整の方法・頻度にかかわらず、培地に添加するリン酸塩の濃度は0.2mol/L以上が好適であることを示した。
(実施例4)使用する培地の検証2
使用する培地の成分がΔldhL1(ldhD)株のグリセロールからのD−乳酸生産に与える影響を検証した。
[使用菌株]
実施例1に記載したエンテロコッカス・フェカリスW11株由来のΔldhL1(ldhDLD )株を使用した。
[培地組成]
前培養には、M17lac培地(Becton, Dickinson and Co.)を使用し、本培養には表6に示した検証培地4を使用した。培地の作製および調整は実施例1と同様にして行った。
[培養方法]
実施例1と同様にして行った。
[菌体濃度の測定、基質および生産物濃度の定量]
実施例1および2と同様にして行った。
[実験結果]
ΔldhL1(ldhDLD )株の生育と培地中のグリセロール、D−乳酸、L−乳酸の濃度の測定結果を図5に、生産された代謝産物の組成を表9に示す。図5が示すように、検証培地4を用いて培養されたΔldhL1(ldhDLD )株は、1.0mol/Lグリセロールを72時間で資化して0.85mol/LのD−乳酸を生産した。このD−乳酸生産量は、実施例1で示したMRS改変培地を用いて培養されたΔldhL1(ldhDLD )株が示すそれよりもやや低い。表9の結果は、この低下の原因は酢酸の生産量がやや増加したことに起因することを示した。なお、図5および表9のいずれの結果からも、培地中にL−乳酸の存在はほとんど認められなかった。これらの結果は、本発明における検証培地4の適性、すなわち検証培地4を使用してΔldhL1(ldhDLD )株を培養すると若干のD−乳酸生産量の低下を伴うものの、MRS改変培地を用いた場合よりも高い光学純度でD−乳酸を生産することが可能であることを実証した。
(実施例5)グリセロール濃度の検証
培地に含まれるグリセロールの濃度がΔldhL1(ldhD)株のグリセロールからのD−乳酸生産に与える影響を検証した。
[使用菌株]
実施例1に記載したエンテロコッカス・フェカリス W11株由来のΔldhL1(ldhDLD )株を使用した。
[培地組成]
前培養には、M17lac培地(Becton, Dickinson and Co.)を使用し、本培養には実施例3の表6に示した検証培地4に含まれるグリセロール濃度を0.25mol/Lまたは0.50mol/Lに変更した培地をそれぞれ使用した。培地の作製および調整は実施例1と同様にして行った。
[培養方法]
実施例1と同様にして行った。ただし、0.25mol/Lのグリセロールを含む検証培地4を用いた場合は24時間、0.05mol/Lのグリセロールを含む検証培地4を用いた場合は48時間培養を行った。
[菌体濃度の測定、基質および生産物濃度の定量]
実施例1と同様にして行った。
[実験結果]
各グリセロール濃度下で培養されたΔldhL1(ldhDLD )株が生産したD−乳酸量を表10に示す。ΔldhL1(ldhDLD )株によるグリセロールからD−乳酸への変換率は、培地に含まれるグリセロール濃度の上昇に伴って向上していき、0.50mol/L以上のグリセロールを含む培地で最大値である約85%を示した。これらの結果は、ΔldhL1(ldhDLD )株によってグリセロールからD−乳酸を高効率で生産するには0.50mol/L以上のグリセロールを含む培地で培養を開始することが好適であることを示した。
(実施例6)基質の検証
バイオディーゼル廃液由来の廃棄グリセロールを基質に用いて培養されたΔldhL1(ldhD)株のグリセロールからのD−乳酸生産性を検証した。
[使用菌株]
実施例1に記載したエンテロコッカス・フェカリス W11株由来のΔldhL1(ldhDLD )株を使用した。
[培地組成]
前培養には、M17lac培地(Becton, Dickinson and Co.)を使用し、本培養には実施例3の表6に示した検証培地4に含まれるグリセロールをバイオディーゼル廃液由来のそれに変更した培地を使用した。培地の作製および調整は実施例1と同様にして行った。なお、培地に添加したバイオディーゼル廃液からの廃棄グリセロールの分離は、上記の非特許文献5に記載の方法に従って行った。
[培養方法]
実施例1と同様にして行った。
[菌体濃度の測定、基質および生産物濃度の定量]
実施例1と同様にして行った。
[実験結果]
ΔldhL1(ldhDLD )株の生育と培地中のグリセロール、D−乳酸、L−乳酸の濃度の測定結果を図6に示す。その生育およびグリセロール資化速度は、純粋なグリセロールを使用した結果(図5)と比較して若干低下した。それに伴ってD−乳酸の生産速度にも低下が認められたが、結果としてΔldhL1(ldhDLD )株は1.0mol/L相当のグリセロールから0.80mol/LのD−乳酸を生産した。廃棄グリセロールを基質に用いた場合、純粋なグリセロールを基質に用いた場合と比較してエンテロコッカス・フェカリスの乳酸生産量が若干低下することはすでに非特許文献5で報告されている。これらは、ΔldhL1(ldhDLD )株によってバイオディーゼル廃液由来の廃棄グリセロールからもD−乳酸を生産することが可能であることを示した。
(実施例7)通気量の検証
培地への通気量がΔldhL1(ldhD)株を用いたグリセロールからのD−乳酸生産に与える影響を検証した。
[使用菌株]
実施例1に記載したエンテロコッカス・フェカリス W11株由来のΔldhL1(ldhDLD )株を使用した。
[培地組成]
前培養には、M17lac培地(Becton, Dickinson and Co.)を使用し、本培養には実施例3の表6に示した検証培地4を使用した。培地の作製および調整は実施例1と同様にして行った。
[培養方法]
前培養を実施例1と同様にして行った。本培養は攪拌速度200rpm、300rpmあるいは500rpmでそれぞれ行い、それ以外は実施例1と同様にして行った。培養液中の溶存酸素濃度はDOコントローラー(DJ−1033;エイブル)を用いて計測した。
[菌体濃度の測定、基質および生産物濃度の定量]
実施例1と同様にして行った。
[実験結果]
各撹拌速度条件下で培養されたΔldhL1(ldhDLD )株の生育と培地中の溶存酸素濃度およびグリセロール濃度の測定結果を図7に、72時間後の培地中のD−乳酸の濃度を表11に示す。図7の結果は、撹拌速度300rpmでは生育期にあるΔldhL1(ldhDLD )株の生物化学的酸素要求量(BDO;Biochemical oxygen demand)とほぼ同等の酸素量が、撹拌速度500rpmでは常にΔldhL1(ldhDLD )株のBDOを上回る酸素量が培地に供給されていたのに対して、撹拌速度200rpmにおける酸素供給量は常にΔldhL1(ldhDLD )株のBDOを下回っていたことを示した。続いてグリセロールの資化速度においては、撹拌速度300rpmまたは500rpmで培養されたΔldhL1(ldhDLD )株は培養開始から72時間で1.0mol/Lのグリセロールを全て資化したのに対し、撹拌速度200rpmで培養されたΔldhL1(ldhDLD )株が72時間で資化したグリセロール濃度はおよそ0.40mol/L程度であった。併せると、これらの結果は、ΔldhL1(ldhDLD )株を用いてグリセロールからD−乳酸を生産するにはそのBDO以上の酸素の供給が必要であることを実証した。ただし、表11に示したように、攪拌速度500rpmで培養されたΔldhL1(ldhDLD )株のD−乳酸生産量は300rpmで培養されたΔldhL1(ldhDLD )株のそれよりもやや少なかった。この結果は、BDOを過剰に上回る酸素供給よりはBDOをやや上回る程度の酸素供給量の方が好ましいことを示した。
(実施例8)培地のpHの検証
使用する培地のpHがΔldhL1(ldhD)株のグリセロールからのD−乳酸生産に与える影響を検証した。
[使用菌株]
実施例1に記載したエンテロコッカス・フェカリスW11株由来のΔldhL1(ldhDLD )株を使用した。
[培地組成]
前培養には、M17lac培地(Becton, Dickinson and Co.)を使用し、本培養には実施例3の表6に示した検証培地4を使用した。培地の作製および調整は実施例1と同様にして行った。
[培養方法]
前培養を実施例1と同様にして行った。本培養の培地のpHはpHセンサー(DJ−1023P;エイブル)を用いて15mol/L水酸化カリウム水溶液を自動添加することで常に6.45〜6.50、7.45〜7.50、8.45〜8.50の間を示すようにそれぞれ設定し、それ以外は実施例1と同様にして行った。
[菌体濃度の測定、基質および生産物濃度の定量]
実施例1および2と同様にして行った。
[実験結果]
各pH条件下で培養されたΔldhL1(ldhDLD )株によって生産された代謝産物の測定結果を表12に示す。pH7.5で培養されたΔldhL1(ldhDLD )株と比較して酸性側(pH6.5)および塩基性側(pH8.5)で培養されたΔldhL1(ldhDLD )株はいずれもグリセロールの資化速度が低下し、さらに酢酸やアセトインなどの代謝産物の生産量が増加した結果、D−乳酸の生産量は大きく低下した。これらの結果は、ΔldhL1(ldhDLD )株によってグリセロールからD−乳酸を生産するには、pH 7.5付近が好適であることを示した。
(実施例9)初期菌体濃度の検証
本培養開始時における菌体濃度がΔldhL1(ldhD)株のグリセロールからのD−乳酸生産に与える影響を検証した。
[使用菌株]
実施例1に記載したエンテロコッカス・フェカリス W11株由来のΔldhL1(ldhDLD )株を使用した。
[培地組成]
前培養には、M17lac培地(Becton, Dickinson and Co.)あるいは実施例3の表6に示した検証培地4を使用し、本培養には検証培地4のみを使用した。培地の作製および調整は実施例1と同様にして行った。
[培養方法]
前培養を実施例1と同様にして行い、その前培養液を本培養液の濁度(OD600)が0.001、0.01あるいは0.1になるようにそれぞれ接種して回分培養を72時間行った。本培養は実施例1と同様にして行った。
[菌体濃度の測定、基質および生産物濃度の定量]
実施例1および2と同様にして行った。
[実験結果]
本培養開始時の菌体濃度を0.001、0.01、および0.1にそれぞれ調整されたΔldhL1(ldhDLD )株によって生産された代謝産物の測定結果を表13に示す。前培養に用いた培地がM17lac培地あるいは検証培地4にかかわらず、初期菌体濃度を0.01以下に設定して本培養を開始したΔldhL1(ldhDLD )株はいずれもグリセロールを資化してD−乳酸を生産した。一方、初期菌体濃度を0.1に設定した場合、M17lac培地で前培養されたΔldhL1(ldhDLD )株はほとんどグリセロールを資化せず、D−乳酸をはじめとした各代謝産物も生産しなかった。これらの結果は、ΔldhL1(ldhDLD )株によってグリセロールからD−乳酸を生産するには、本培養開始時の菌体濃度が0.01以下であることが好適であることを示した。
(実施例10)D−乳酸の最大生産量の検証
ΔldhL1(ldhDLD )株を用いてグリセロールから生産することができるD−乳酸の最大生産量を検証した。
[使用菌株]
実施例1に記載したエンテロコッカス・フェカリス W11株由来のΔldhL1(ldhDLD )株を使用した。
[培地組成]
前培養には、M17lac培地(Becton, Dickinson and Co.)を使用し、本培養には実施例3の表6に示した検証培地4を使用した。培地の作製および調整は実施例1と同様にして行った。
[培養方法]
前培養を実施例1と同様にして行い、その前培養液を0.05%(v/v)の割合で本培養液0.8Lに接種して回分培養を行った。本培養は実施例1と同様にして行い、さらに菌株のグリセロールの資化に伴って培地総量の0.5molに相当する量のグリセロールを新たに添加した。
[菌体濃度の測定、基質および生産物濃度の定量]
実施例1と同様にして行った。
[実験結果]
ΔldhL1(ldhDLD )株の生育と培地中のグリセロール、D−乳酸、L−乳酸の濃度の測定結果を図8に、生産された代謝産物の測定結果を表13に示す。ΔldhL1(ldhDLD )株はその生育が定常期に達した48時間目以降もグリセロールの資化とD−乳酸の生産を続け、最終的に1.86mol/Lのグリセロールを資化して1.71mol/LのD−乳酸を生産した。なお、表14に示すように、グリセロールから生産されたL−乳酸は0.02mol/Lであった。これらの結果は、ΔldhL1(ldhDLD )株を好適条件下で培養することで、98%以上の光学純度を示すD−乳酸をグリセロールから90%以上の変換効率で少なくとも1.71mol/L(157g/L)生産することが可能であることを実証した。
[総括]
本実施例においては、エンテロコッカス・フェカリス由来のΔldhL1株にプラスミドpAM-PldhL1-ldhDを導入したΔldhL1(ldhD)株のうち、特にW11株由来のΔldhL1(ldhDLD )株を用いてグリセロールからD−乳酸を効率的に生産する方法を検討した。その結果、好適条件下、すなわちΔldhL1(ldhDLD )株を菌体濃度0.01以下になるように接種した検証培地4を用いて、30℃、pH7.5、生育期の菌体のBDO以上の酸素供給下で培養することによって、1.8mol/L以上のグリセロールから90%以上の変換効率で98%以上の光学純度を示すD−乳酸を生産することが可能であることが明らかになった。
本発明のエンテロコッカス・フェカリスは、主要なL−乳酸デヒドロゲナーゼ(ldhL1)遺伝子を破壊したΔldhL1株にプラスミドを用いてD−乳酸デヒドロゲナーゼ(ldhD)遺伝子の発現系を導入したΔldhL1(ldhD)株である。このエンテロコッカス・フェカリスを用いて、グリセロールからD−乳酸を生産する本発明の方法によれば、グリセロールおよびグリセロール以外の成分を含有するグリセロール含有組成物から高い光学純度を示すD−乳酸を簡便かつ効率よく生産することが可能になる。生産されたD−乳酸は、pH調整剤、調味料・酸味料、サプリメント、ポリ乳酸(バイオプラスチック)などの原料として有用である。従って、本発明のエンテロコッカス・フェカリスおよびそれを用いたD−乳酸の生産方法は、産業上の利用可能性を有する。

Claims (10)

  1. 主要なL−乳酸デヒドロゲナーゼ(ldhL1)遺伝子を破壊したΔldhL1株にプラスミドを用いてD−乳酸デヒドロゲナーゼ(ldhD)遺伝子の発現系を導入したΔldhL1(ldhD)株であることを特徴とするエンテロコッカス・フェカリス。
  2. 前記ldhD遺伝子を発現させるために、当該エンテロコッカス・フェカリスは、その前記ldhL1遺伝子由来のプロモーター領域が用いられている請求項1に記載のエンテロコッカス・フェカリス。
  3. エンテロコッカス・フェカリスを用いてグリセロールからD−乳酸を生産することを特徴とする方法。
  4. 前記エンテロコッカス・フェカリスは、主要なL−乳酸デヒドロゲナーゼ(ldhL1)遺伝子を破壊したΔldhL1株にプラスミドを用いてD−乳酸デヒドロゲナーゼ(ldhD)遺伝子の発現系を導入したΔldhL1(ldhD)株である請求項3に記載の生産方法。
  5. 前記LdhD遺伝子を発現させるために、前記エンテロコッカス・フェカリスの前記LdhL1遺伝子由来のプロモーター領域を用いる請求項4に記載の生産方法。
  6. 当該生産方法において、初発基質として0.5mol/L以上の前記グリセロールを添加して、生育期にある前記エンテロコッカス・フェカリスの生物化学的酸素要求量を満たす量の酸素を供給する請求項3ないし5のいずれか1項に記載の生産方法。
  7. 前記グリセロールは、バイオディーゼル廃液由来の廃棄グリセロールである請求項6に記載の生産方法。
  8. 当該生産方法において、ペプトン、乾燥酵母エキス、アンモニウム塩、およびリン酸緩衝液を含む培地を使用する請求項6または7に記載の生産方法。
  9. 前記培地は、そのpHが7.0以上8.0以下に保たれる請求項8に記載の生産方法。
  10. 前記培地中の前記グリセロール濃度の低下に伴って、新たに前記グリセロールを追加添加する請求項8または9に記載の生産方法。
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