JP2020501589A - がんの治療 - Google Patents

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Abstract

腫瘍を有する小児対象でがんを治療する方法における使用のための腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスが記載されており、その際に、腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスは、腫瘍内に投与される。【選択図】なし

Description

本出願は、2016年12月23日出願のイギリス特許出願第1622214.3号および2017年2月17日出願のイギリス特許出願第1702565.1号の優先権を主張するものであり、これらの内容および要素は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
本願発明は、がんの治療における腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスの使用に関する。
腫瘍溶解性ウイルス療法は、がん細胞に選択的に感染し死滅させる溶解性ウイルスの使用に関わりがある。腫瘍溶解性ウイルスは、がん細胞の複製に対し鋭い選択性を発揮し、腫瘍内で自己制限的に繁殖する結果として毒性の副作用がより少ないことから、有望な療法である。いくつかの腫瘍溶解性ウイルスは、臨床で極めて有望であることが示されている(Bell, J., Oncolytic Viruses: An Approved Product on the Horizon? Mol Ther. 2010; 18(2): 233-234)。
一態様では、腫瘍を有するヒト小児対象でがんを治療する方法での使用のための腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスが提供され、その際に、腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスは、腫瘍内に投与される。
一態様では、ヒト小児対象でがんを治療する方法が提供され、この方法は、腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスを、腫瘍を有する小児対象に投与することを含み、その際に、腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスは、腫瘍内に投与される。
一態様では、ヒト小児対象でがんを治療する方法での使用のための医薬の製造における腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスの使用が提供され、この方法は、腫瘍を有する小児対象に腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスを投与することを含み、その際に、本腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスは、腫瘍内に投与される。
本腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスは、腫瘍内注射によって投与され得る。
腫瘍は、固形腫瘍であり得る。
本腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスは、画像誘導下注射によって投与され得る。
上記治療方法は、細胞毒性剤もしくは細胞分裂阻害剤、免疫調節剤、または放射線照射療法を用いて同時に、逐次に、または別々に投与することを含み得る。
この方法は、腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスを用いた治療の前、腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスを用いた治療コースの間、および/または腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスを用いた治療コースの終結に続いて、対象におけるTreg細胞のレベルを判定することを含み得る。
この方法は、対象における制御性T細胞(Treg)の応答または集団を抑制する剤を同時に、逐次に、または別々に投与することを含み得る。
この方法は、腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスを用いた治療の前、腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスを用いた治療コースの間、および/または腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスを用いた治療コースの終結に続いて、腫瘍の偽性進行を判定することを含み得る。
一態様では、腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスを用いた継続的な治療のためにヒト対象を選択する方法が提供され、本方法は、ヒト対象への腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスの投与に続いて前記対象で腫瘍の代謝活性の変化を検出すること、腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスの投与をさらに受けるための変化の検出された対象を選択することを含む。
代謝活性の変化を検出することは、偽性進行を検出することを含み得る。
代謝活性の変化は、代謝活性の増加であり得る。
代謝活性の変化または偽性進行の検出は、例えば、陽電子放出断層撮影(PET)および8F−デオキシグルコースなどの適切に標識化された代謝活性造影剤、コンピューター断層撮影(CT)スキャニング、または核磁気共鳴画像法(MRI)を使用して、腫瘍をイメージングすることによって検出され得る。腫瘍のイメージングおよび代謝活性の変化または偽性進行の検出は、腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスを用いた治療コースの前、間、および/または後の異なる時点で、1回を超える検出(例えばイメージング)を実施することによって、判定され得る。
腫瘍の偽性進行は、進行性の疾患を刺激する治療に関連する、病変サイズの増加として現れる場合がある。この増加は、一過性であることがある。偽性進行は、免疫療法の施療の間に生じる可能性があり、そのような治療では、腫瘍の初期のイメージングにより、例えば代謝活性またはサイズの増加を介して進行が示唆される一方で、モニタリングを延長することにより、治療に対する腫瘍の良好な応答が示される。この現象は、Parvez K, Parvez A, Zadeh G. The Diagnosis and Treatment of Pseudoprogression, Radiation Necrosis and Brain Tumor Recurrence. International Journal of Molecular Sciences. 2014; 15(7):1 1832-1 1846. doi: 10.3390/ijms15071 1832, and Brandes et al., Neuro-Oncology, Volume 10, Issue 3, 1 June 2008, Pages 361-367にさらに議論されている。
対象への腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスの投与は、腫瘍内投与によるものであり得る。
対象への腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスの投与は、腫瘍内注射によるものであり得る。
対象は、小児対象であり得る。
腫瘍は、固形腫瘍であり得る。
以下の段落は、本明細書に開示される態様および実施形態の広範な組み合わせの記述を含む。
小児対象でがんを治療する方法であって、腫瘍を有する小児対象に腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスを投与することを含み、腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスが腫瘍内注射によって投与される方法。
腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスが腫瘍内注射によって投与される、腫瘍を有する小児対象でがんを治療する方法における使用のための腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルス。
腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスが腫瘍内注射によって投与される、腫瘍を有する小児対象でがんを治療する方法での使用のための医薬の製造における腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスの使用。
本腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスは、画像誘導下注射、例えばコンピューター断層撮影誘導下注射によって、投与され得る。
上記治療方法は、細胞毒性剤もしくは細胞分裂阻害剤、免疫調節剤、または放射線照射療法を用いて同時に、逐次に、または別々に投与することをさらに含み得る。
上記方法は、腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスを用いた治療の前、腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスを用いた治療コース/プログラムの間、および/または腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスを用いた治療コース/プログラムの終結に続いて、前記対象におけるTreg細胞のレベルを判定する工程を含み得る。この判定は、対象から得られた試料、例えば血液、血清、または血漿の試料の分析を含み得る。腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスを用いた治療および/またはそれに伴う化学療法もしくは放射線療法に対する応答におけるTreg細胞のレベルの判定、例えば、Treg細胞の低減を判定することを使用して、腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスを用いた継続的な治療および/またはそれに伴う化学療法もしくは放射線療法のための対象を選択することがある。Treg細胞を判定する方法は、当技術分野に周知であり、例えば、Collison LW, Vignali DAA. In Vitro Treg Suppression Assays. Methods in molecular biology (Clifton, NJ). 2011; 707:21-37; Clark et al. Toxicol Pathol. 2012;40(1): 107-12. Epub 2011 Oct 27を参照されたい。
上記治療方法は、対象における制御性T細胞(Treg)の応答または集団の抑制をさらに含み得る。
上記治療方法は、対象における制御性T細胞(Treg)の応答または集団を抑制する作用因を同時に、逐次に、または別々に投与することをさらに含み得る。
制御性T細胞(Treg)の応答または集団を抑制する作用因は、化学療法剤、例えば薬剤、または放射線照射療法であり得る。
対象への腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスの投与に続いて対象における腫瘍の代謝活性を検出することを含む方法。
本方法は、本腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスを用いた治療に対する対象の応答を判定する方法であり得る。本方法は、がんの治療方法の一部を成すことがある。その治療方法は、対象における腫瘍への腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスの腫瘍内注射を含み得る。
対象は、小児対象であり得る。
本方法は、腫瘍の代謝活性の変化の検出を含み得る。この変化は、代謝活性の増加であり得る。この腫瘍は、腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスが腫瘍内注射によって投与されている腫瘍であり得る。さらに、またはあるいは、それは、腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスが直接的に、例えば腫瘍内注射によって、投与されていない腫瘍であり得る。
代謝活性は、腫瘍/検出部位での/その周囲での細胞代謝、炎症、ウイルス複製、または細胞死を表すことがある。
腫瘍の代謝活性の検出は、当業者に公知のイメージング手法を使用して、例えば陽電子放出断層撮影(PET)および8F−デオキシグルコースなどの適切に標識化された代謝活性造影剤、コンピューター断層撮影(CT)スキャニング、または核磁気共鳴画像法(MRI)を使用して、可能である。
代謝活性の検出は、腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスの投与の前および/または後に実施され得る。腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスの投与に続く代謝活性の一過的な変化は、治療に対する生物応答、例えば免疫応答と一致することがあり、対象が腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスを用いた治療をさらに受けるのに適することを標示していることがある。
このように、腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスを用いた継続的な治療のために患者を選択する方法が提供され、本方法は、対象への腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスの、例えば腫瘍内注射による投与に続いて、対象における腫瘍の代謝活性の変化を検出することと;腫溶解性ヘルペス単純ウイルスの投与をさらに受けるために変化、例えば増加が検出される対象を選択することとを含む。
本発明は、記載される態様と好適な特長との組み合わせを含むが、そのような組み合わせが明確に容認できないものであるか、または明白に回避されるものである場合を除く。
本発明の原理を説明する実施形態および実験を、これより付属の図面を参照して記載する。
図1Aおよび図1Bは、PET/CTによって検出された、ウイルス注射に続く炎症反応を示す図である。ベースライン画像、針の軌跡および注射部位(矢印)、ならびにフォローアップスキャンを、ウイルス注射に続くSUV取込みが一過的に増加し、最終的にベースライン近くに戻るという経験をした2人の患者について示す。当初は腫瘍の進行として解釈されたが、レトロスペクティブには、自然減により、この取込みはウイルスに対する一過的な炎症反応(偽性進行)によるものであったことが示唆される。(A)患者HSV06。腫瘍塊を白色の輪郭で表示し、C=サイクル、D=日数である。取込みの範囲が0に低下しているが、それはまさにその取込みの地理的分布における腫瘍の壊死を示唆することに注目されたい。(B)患者HSV08。PETシグナルの増加と同時に発達した胸水貯留(白の矢印)があり、どちらも自然に消散したことに注目されたい。注射された右胸壁の病変に加えて、非注射の左門部の病変もPETシグナルの一過的な増加を示し、このことは、全身効果を示唆する。 患者の診断、年齢、事前の化学療法レジメン、過去の放射線照射療法、診断から治療までの時間、治験登録申込み時の疾患、投与されたHSV1716の用量、および注射された腫瘍の場所を示す表1である。 単用量の腫瘍内HSV1716に対する患者の血清学的応答を示す表2である。 腫瘍内のHSV1716投与に起因する可能性、蓋然性、または確実性のある有害事象を示す表3である。 腫瘍内HSV1716の各用量投与後の注射された各腫瘍におけるベースラインに対する疾患応答およびPETのSUV変化を示す表4である。 同上。 非注射の標的病変における腫瘍内HSV1716の単用量投与後の、ベースラインに対する疾患応答およびPETのSUV変化を示す表5である。 同上。
本願発明の態様および実施形態を、付属の図面を参照してこれより記載する。さらに別の態様および実施形態は、当業者に明らかになるものとなる。この文章で言及されたあらゆる文書は、本明細書に参照により組み込まれる。
腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルス
腫瘍溶解性ウイルスとは、好ましくは優先的または選択的な様式でがん細胞を溶解(腫瘍溶解)するものとなるウイルスである。非分裂細胞よりも分裂細胞で選択的に複製するウイルスは、多くの場合、腫瘍溶解性である。
腫瘍溶解性ウイルスは、当技術分野に周知であり、Molecular Therapy Vol.18 No.2 Feb 2010 pg 233-234に概説されている。
ヘルペス単純ウイルス(HSV)ゲノムは、ロング(L)およびショート(S)とよばれる2つの共有結合したセグメントを含む。各セグメントは、逆位末端リピート配列の対が側面に位置するユニークな配列を含有する。ロングリピート(RLまたはR)とショートリピート(RSまたはR)は、別個である。
広く研究されているHSV ICP34.5(γ34.5ともよばれる)遺伝子は、HSV−1株Fおよびsyn17+ならびにHSV−2株HG52で配列が明らかにされている。1コピーのICP34.5遺伝子が、RL繰り返し領域のそれぞれの中に位置する。ICP34.5遺伝子の一方または両方のコピーを不活化している変異体は、神経病原性を欠いている、すなわち、非病原性かつ非神経病原性であり[非神経病原性とは、致死的な脳炎を引き起こすことなく動物または患者に高力価のウイルス{およそ10プラーク形成単位(pfu)}を導入する能力により定義され、それゆえ動物、例えばマウス、またはヒト患者におけるLD50は、およそ>10pfuの範囲にある]、腫瘍溶解性であることが知られている。
好適な腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルス(oHSV)は、複製能のあるウイルスであり、少なくとも標的腫瘍/がん細胞での複製能がある。
本願発明で使用され得る腫瘍溶解性HSVとしては、一方または両方のγ34.5(ICP34.5ともよばれる)遺伝子が(例えば、欠失、挿入、付加、または置換であり得る変異によって)改変されており、それゆえにそれぞれの遺伝子が機能性のICP34.5タンパク質を発現できない、例えばコードできない、HSVが挙げられる。好ましくは、本発明によるHSVでは、両コピーのγ34.5遺伝子が改変されており、それゆえに改変HSVは、機能性のICP34.5タンパク質を発現すること、例えば生産することができない。
実施形態によっては、本腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスは、ICP34.5ヌル変異体であり得るが、そこでは、ヘルペス単純ウイルスゲノムに存在する全コピーのICP34.5遺伝子(通常2コピーが存在する)が破壊され、それゆえにヘルペス単純ウイルスが機能性ICP34.5遺伝子産物を生産できない。他の実施形態では、本腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスは、発現可能なICP34.5遺伝子を少なくとも1つ欠いていることがある。実施形態によっては、本ヘルペス単純ウイルスは、発現可能なICP34.5遺伝子を1つのみ欠いていることがある。他の実施形態では、本ヘルペス単純ウイルスは、両方の発現可能なICP34.5遺伝子を欠いていることがある。さらに他の実施形態では、本ヘルペス単純ウイルスに存在する各ICP34.5遺伝子は、発現可能ではないことがある。発現可能なICP34.5遺伝子の欠落とは、例えば、ICP34.5遺伝子の発現の結果として機能性のICP34.5遺伝子産物を生じないことを意味する。
腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスは、HSVの任意の実験用株または臨床分離株(非実験用株)を含む任意のHSVを由来とし得る。いくつかの好適な実施形態では、このHSVは、HSV−1またはHSV−2の変異体である。あるいは、このHSVは、HSV−1とHSV−2とのタイプ間の組換え体であり得る。変異体は、実験用株であるHSV−1株17、HSV−1株F、またはHSV−2株HG52のうち1つのものであり得る。変異体は、非実験用株JS−1のものであり得る。好ましくは、変異体は、HSV−1株17の変異体である。本ヘルペス単純ウイルスは、HSV−1株17変異体1716、HSV−1株F変異体R3616、HSV−1株F変異体G207、HSV−1変異体NV1020、またはそれらのさらに別の、HSVゲノムが追加の変異および/または1つもしくは複数の異種ヌクレオチド配列を含有する変異体のうちの1つであり得る。追加の変異は、障害をもたらす変異を含むことがあり、この変異は、ウイルスの病原性またはその複製能力に影響を及ぼすことがある。例えば、変異は、ICP6、ICPO、ICP4、ICP27のうちいずれか1つまたは複数に作られることがある。好ましくは、これらの遺伝子のうち1つにある(適切な場合には任意選択で両コピーの遺伝子にある)変異によって、対応の機能性ポリペプチドをHSVが発現できない(またはその能力が低減する)ものとなる。例として、HSVゲノムの追加の変異は、ヌクレオチドの付加、欠失、挿入、または置換によって達成され得る。
いくつかの腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスが当技術分野で公知である。例としては、HSV1716、R3616(例えばChou & Roizman, Proc. Natl. Acad. Sci. Vol.89, pp.3266-3270, April 1992を参照)、G207(Toda et al, Human Gene Therapy 9:2177-2185, October 10, 1995)、NV1020[Geevarghese et al, Human Gene Therapy 2010 Sep; 21 (9):1119-28]、RE6[Thompson et al, Virology 131 , 171-179 (1983)]、 およびOncovex(商標)[Simpson et al, Cancer Res 2006; 66:(9) 4835-4842 May 1, 2006; Liu et al, Gene Therapy (2003): 10, 292-303]、dlsptk、hrR3、R4009、MGH−1、MGH−2、G47Δ、Myb34.5、DF3v34.5、HF10、NV1042、RAMBO、rQNestin34.5、R5111、R−LM113、CEAICP4、CEAv34.5、DF3v34.5、KeM34.5(Manservigi et al, The Open Virology Journal 2010; 4: 123-156)、rRp450、M032(Campadelli-Fiume et al, Rev Med. Virol 201 1 ; 21 :213-226)、Baco1(Fu et al, Int. J. Cancer 2011; 129(6):1503-10)ならびにM032およびC134(Cassady et al, The Open Virology Journal 2010; 4: 103-108)が挙げられる。
いくつかの好適な実施形態では、本ヘルペス単純ウイルスは、HSV−1株17変異体1716(HSV1716)である。HSV1716は、腫瘍溶解性の非神経病原性のHSVであり、欧州特許第0571410号、国際出願公開WO92/13943、Brownら[Journal of General Virology (1994), 75, 2367-2377]、および MacLeanら[Journal of General Virology (1991), 72, 631-639]に記載されている。HSV1716は、1992年1月28日、欧州動物細胞培養収集機関、ワクチン研究・製造研究所、公衆衛生臨床検査サービス、ポートンダウン、ソールズベリー、ウィルトシャー、SP4 0JG、イギリスに、特許手続上の微生物の寄託の国際承認に関するブダペスト条約(本明細書では「ブダペスト条約」と称する)の規定に従って、受入番号V92012803の下で寄託されている。実施形態によっては、本ヘルペス単純ウイルスとは、両方のICP34.5遺伝子が例えばICP34.5遺伝子の変異(例えば挿入、欠失、付加、置換)によって機能性遺伝子産物を発現しないが、それ以外は野生型の親ウイルスHSV−1株17+のゲノムに類似するかまたは実質的に類似するように改変された、HSV−1株17の変異体である。すなわち、このウイルスは、HSV−1株17+の両コピーのICP34.5遺伝子を不活化するように変異されたゲノムを有するが、それ以外は他のタンパク質コード配列を挿入または欠失/改変するように変えられていない、HSV1716のバリアントであり得る。
実施形態によっては、本願発明による腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスのゲノムは、さらに改変されて、ウイルスとは異種の(すなわち野生型ウイルスには通常見出されない)少なくとも1コピーのポリペプチドをコードする核酸を含有することがあり、それゆえにそのポリペプチドをその核酸から発現できる。そのため、本腫瘍溶解性ウイルスはまた、発現ベクターであることがあり、ポリペプチドは、そのベクターから発現され得る。そのようなウイルスの例は、国際出願公開WO2005/049846およびWO2005/049845に記載されている。
ポリペプチドの発現をもたらすために、ポリペプチドをコードする核酸は、好ましくは、そのポリペプチドをコードする核酸の転写をもたらすことのできる調節配列、例えばプロモーターに、動作可能に連結される。ヌクレオチド配列に動作可能に連結されている調節配列(例えばプロモーター)は、上記配列に隣接してまたは近接して位置することがあり、それゆえに調節配列は、ヌクレオチド配列の産物の発現をもたらすおよび/または制御できる。そのため、ヌクレオチド配列のコード産物は、上記調節配列から発現可能であり得る。いくつかの好適な実施形態では、本腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスは、そのウイルスとは異種の少なくとも1コピーのポリペプチド(または他の核酸によりコードされた産物)をコードする核酸を含有するように改変されていない。すなわち、このウイルスは、異種ポリペプチドまたは他の核酸によりコードされた産物がそこから発現され得る発現ベクターではない。そのようなoHSVは、遺伝子治療方法に適していないかまたは有用ではなく、それらの採用される医学的処置の方法は、任意選択で、遺伝子治療を含まないものであり得る。
ヘルペス単純ウイルスの投与
ヘルペス単純ウイルスの投与は、規則的な間隔での、例えば毎週または隔週での投与を含み得る。例えば、用量が、少なくとも1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、または1か月、2か月、3か月、4か月、5か月、もしくは6か月のうち1つの期間にわたって、規則的な規定された間隔で与えられ得る。
そのため、複数用量のヘルペス単純ウイルスが投与され得る。例えば、1用量、2用量、3用量、4用量、5用量、6用量、7用量、8用量、9用量、10用量またはそれを超える用量のヘルペス単純ウイルスが、治療コースの一部として対象に投与され得る。実施形態によっては、少なくとも1用量、2用量、3用量、または4用量ののうち1つのヘルペス単純ウイルスが対象に、好ましくは規則的な間隔で(例えば毎週)投与される。
ヘルペス単純ウイルスの用量は、所定の時間間隔により分けられることがあり、この間隔は、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日、21日、22日、23日、24日、25日、26日、27日、28日、29日、30日、もしくは31日、または1か月、2か月、3か月、4か月、5か月、もしくは6か月のうち1つとなるように選択され得る。例として、用量が7日毎、14日毎、21日毎、または28日毎(プラスまたはマイナス3日、2日、または1日)に1回、与えられることがある。各用量投与時点で与えられるヘルペス単純ウイルスの用量は、同じであり得るが、これは必須ではない。例えば、第1、第2および/または第3の用量投与時点で高めのプライミング用量を与えることが適切であり得る。
腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスの投与は、1回または複数回の治療サイクル、例えば1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回またはそれを超える治療サイクルのものであり得る。複数回の治療サイクルを受ける対象は、治療から間断を入れることなく、後続の治療サイクルを続けて与えられることもあれば、治療から間断を入れることで、例えば、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、もしくは9日、または約1週間、2週間、3週間、もしくは4週間の間断を入れることで、全てのまたは選択された治療サイクルを分けることがある。腫瘍の進行および/または対象にとっての許容できない毒性により立証されたために治療が失敗となるまで、腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスの投与が続くことがある。
実施形態によっては、治療サイクルは、4用量の腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルス、4週間にわたって週当たり1用量を、含むかまたはそれらからなることがある。実施形態によっては、治療サイクルは、8用量の腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルス、8週間にわたって週当たり1用量を、含むかまたはそれらからなることがある。毎週用量は、7±1日または7±2日に分けられることがある。例えば、毎週用量は、1日目、8日目、15日目、および22日目に与えられることがある。
実施形態によっては、治療サイクルは、4用量の腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルス、2週間にわたって週当たり2用量を、含むかまたはそれらからなることがある。実施形態によっては、治療サイクルは、8用量の腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルス、4週間にわたって週当たり2用量を、含むかまたはそれらからなることがある。週2回用量は、4±1日または4±2日で分けられることがある。例えば、毎週用量は、1日目、5日目、8日目、13日目、または1日目、5日目、8日目、12日目に与えられることがある。
対象は、所与の治療サイクル内の各回の投与で同じ投薬量を、例えば、1×10iuもしくは1×10iuの、または1×10と1×10iuとの間の、または1×10iuと1×10iuとの間の投薬量を受けることがある。実施形態によっては、最初の1回、2回、または3回の治療サイクルが、各投与で低めの投薬量、例えば1×10iuの投与を含むことがあり、後期の治療サイクルが、各投与で高めの投薬量、例えば1×10iuの投与を含み得る。
血液または血清の試料は、初期の対象の評価の段階で(腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスを用いた治療の前に)および1回または各回の治療サイクルの間に、例えば毎週投与では1日目、8日目、15日目、22日目に、週2回投与では1日目、5日目、8日目、13日目、または1日目、5日目、8日目、12日目に、採取され得る。血液または血清の試料は、ウイルス応答の存在および/または維持を判定するために、使用され得る。
ヘルペス単純ウイルスの適した投薬量は、10から10iuまたは2×10から10iuの範囲にあることがある。
ヘルペス単純ウイルスの各用量は、好ましくは1×10または2×10iuよりも多い。ウイルスの各用量は、2×10から9×10iu、2×10から5×10iu、5×10から9×10iu、2×10から1×10iu、2×10から5×107iu、2×10から1×10iu、2×10から5×108iu、2×10から1×10iu、5×10から1×10iu、5×10から5×10iu、5×10から1×10iu、5×10から5×10iu、5×10から1×10iu、5×10から5×10iu、1×10から9×10iu、1×10から5×10iu、1×10から9×10iu、1×10から5×10iuからなる群から選択される範囲にあることがある。実施形態によっては、適した用量は、2×10から9×10iu、1×10から9×10iu、または1×10から9×10iuの範囲にあることがある。実施形態によっては、適した用量は、約1×10iuまたは1×10iuであり得る。投薬量の図は、任意選択で+/−二分位の対数値であり得る。
用語「感染単位」は、TCID50法を用いて得られるウイルス濃度を参照するために、「プラーク形成単位(pfus)」は、プラークベースアッセイの結果を参照するために使用される。1iuは、力価測定アッセイにおいて単一のプラークを形成するものとなるため、1iuは、1pfuに等しい。
概して、投与は、好ましくは「有効量」である。実際の投与される量、および投与の速度およびタイムコースは、治療されている疾患の性質および重症度に依存するものとなる。
治療の処方、例えば投薬量などの決定は、一般医および他の医学博士の担当の範囲にあり、典型的には、治療される障害、個々の患者の状態、送達部位、投与方法、および実務者に知られている他の要因を考慮に入れる。上述の手法およびプロトコールの例は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 20th Edition, 2000, pub. Lippincott, Williams & Wilkinsに見ることができる。
腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスは、例えば、局所、非経口、全身、静脈内、動脈内、筋肉内、くも膜下腔内、眼球内、腫瘍内、皮下、経口、または経皮の任意の所望のルートによって投与され得る。いくつかの好適な実施形態では、腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスは、腫瘍内に、すなわち腫瘍に直接的に投与される。そのような実施形態では、イメージング手法(例えばコンピューター断層撮影、MRI)の使用によって補助され得る、注射による投与が好適であり得る。
腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスは、化学療法または放射線療法と同時にまたは逐次に投与され得る。
併用療法は、腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスおよび化学療法または放射線療法の同時または逐次の投与を含み得る。
同時投与とは、本腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスと化学療法/放射線療法とを一緒に、例えば、両方の剤を含有する医薬組成物として、または互いの後に直ちに、および任意選択で同じ投与ルートを介して、例えば同じ腫瘍、動脈、静脈、または他の血管に、投与することを指す。
逐次投与とは、本腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスまたは化学療法/放射線療法のうち一方を投与し、続いて所与の時間間隔の後に他方の剤を別途投与することを指す。実施形態によってあてはまることではあるが、この2剤が同じルートによって投与されることは必要ではない。上記時間間隔は、任意の時間間隔であり得る。
同時投与または逐次投与は、本腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスと化学療法/放射線療法との両方が同じ腫瘍組織に送達されて治療をもたらすようにすることを意図され得る一方で、両剤が同時に活性形態で腫瘍組織に存在することは必須ではない。
しかし、逐次投与の実施形態によっては、本腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスおよび化学療法/放射線療法が同時に活性形態で腫瘍組織に存在し、それによって腫瘍の治療における2剤の複合効果、相加効果、または相乗効果を可能にすることが期待されるように、時間間隔が選択される。そのような実施形態では、選択される時間間隔とは、5分以内、10分以内、15分以内、20分以内、25分以内、30分以内、45分以内、60分以内、90分以内、120分以内、180分以内、240分以内、300分以内、360分以内、もしくは720分以内、または1日以内、もしくは2日以内のうちいずれか1つであり得る。
化学療法
化学療法とは、薬剤を用いた腫瘍の治療を指す。例えば、薬剤は、化学物質、例えば低分子医薬、タンパク質阻害剤(例えば酵素阻害剤、キナーゼ阻害剤)、または生物剤、例えば抗体、抗体断片、核酸、またはペプチドアプタマー、核酸(例えばDNA、RNA)、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質であり得る。薬剤は、医薬組成物または医薬として製剤化され得る。製剤は、1つまたは複数の薬剤(例えば1つまたは複数の活性剤)を1つまたは複数の医薬的に許容可能な希釈剤、賦形剤、または担体と共に含み得る。
治療は、1種を超える薬剤の投与を含み得る。薬剤は、治療される状態に応じて、単独でも他の治療と組み合わせても、同時または逐次のどちらでも、投与され得る。例えば、化学療法は、2種の薬剤/剤の投与を含む併用療法であることがあり、そのうち1つまたは複数は、腫瘍を治療することを意図され得る。本願発明では、腫瘍溶解性ウイルスおよび化学療法剤は、同時にも、別々にも、逐次にも投与され得るが、このことは、治療を要する腫瘍に同時に2剤が存在することで、相加的または相乗的となり得る複合的な治療効果を提供することを可能とすることがある。
化学療法は、1つまたは複数の投与ルート、例えば、非経口、動脈内の注射または輸注、静脈内の注射または輸注、腹腔内、腫瘍内、または経口によって投与され得る。
投与は、好ましくは「治療有効量で」であり、これは、個体にベネフィットを示すのに十分なものである。実際に投与される量、ならびに投与の速度およびタイムコースは、治療されている疾患の性質および重症度に依存するものとなる。治療の処方、例えば投薬量などの決定は、一般医および他の医学博士の担当の範囲にあり、典型的には、治療される障害、個々の患者の状態、送達部位、投与方法、および実務者に知られている他の要因を考慮に入れる。上述の手法およびプロトコールの例は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 20th Edition, 2000, pub. Lippincott, Williams & Wilkinsに見ることができる。
化学療法は、治療レジームに従って投与され得る。治療レジームは、化学療法投与の所定のタイムテーブル、予定、スキーム、またはスケジュールであることがあり、それらは、医師または医療実務者によって作成され得るものであり、治療を要する患者に適するように調整され得る。
治療レジームは、患者に投与する化学療法のタイプ、各薬剤の用量、投与間の時間間隔、各治療の長さ、あれば任意の休治療日の数および性質などのうち1つまたは複数を示すことがある。併用療法には、どのように各薬剤/剤が投与されるかを示す、単一の治療レジームが提供されることがある。
実施形態によっては、化学療法剤は免疫調節剤であることがあり、免疫調節剤は免疫チェックポイント阻害剤であり得る。
用語「免疫チェックポイント阻害剤」とは、1つまたは複数の免疫チェックポイントタンパク質を全体的にまたは部分的に低減、阻害、干渉、または変調する分子を指す。阻害剤は、免疫チェックポイントタンパク質とそのリガンドまたは受容体のうち1つとの相互作用を阻害または遮断することがある。
免疫チェックポイントタンパク質は、T細胞の活性化または機能を負に調節する。数多くの免疫チェックポイントタンパク質が公知であり、例えばCTLA−4(細胞毒性のT−リンパ球関連タンパク質4)ならびにそのリガンドCD80およびCD86;ならびにPD−1(プログラム死1)とそのリガンドPD−L1およびPD−L2(Pardoll, Nature Reviews Cancer 12:252-264, 2012)、TIM−3(T細胞免疫グロブリンドメインおよびムチンドメイン3)、LAG−3(リンパ球活性化遺伝子3)、BTLA(CD272またはBおよびTリンパ球アテニュエーター)、KIR(キラー細胞免疫グロブリン様受容体)、VISTA(T細胞活性化のVドメイン免疫グロブリン抑制因子)、ならびにA2aR(アデノシンA2A受容体)などがある。これらのタンパク質は、T細胞応答の下方制御を担う。免疫チェックポイントタンパク質は、自己寛容ならびに生理学的免疫応答の継続期間および振幅を調節および維持する。免疫チェックポイント阻害剤としては、抗体および低分子阻害剤が挙げられる。
細胞毒性Tリンパ球関連抗原4(CTLA−4)は、T細胞活性化の経路を下方制御する免疫チェックポイントタンパク質である(Fong et al., Cancer Res. 69(2):609-5 615, 2009; Weber Cancer Immunol. Immunother, 58:823-830, 2009)。CTLA−4は、T細胞活性化の負の調節因子である。CTLA−4の遮断によって、T細胞の活性化および増殖が増大することが示されている。CTLA−4の阻害剤としては、抗CTLA−4抗体が挙げられる。抗CTLA−4抗体は、CTLA−4に結合して、CTLA−4とそのリガンドであり抗原提示細胞上に発現されるCD80/CD86との相互作用を遮断し、それによって、これらの 分子の相互作用によって惹起される免疫応答の負の下方制御を遮断する。抗CTLA−4抗体の例は、米国特許第5,811,097号、第5,811,097号、第5,855,887号、第6,051,227号、第6,207,157号、第6,682,736号、第6,984,720号、および第7,605,238号に記載されている。
抗CDLA−4抗体としては、トレメリムマブ、(チシリムマブ、CP−675,206)、イピリムマブ[IODI、MDX−DOIOとしても知られる;ヤーボイ(商標)という名称の下で販売されている、および]切除不能または転移性のメラノーマの治療に認可されたCTLA−4に結合する完全ヒトモノクローナルIgG抗体が挙げられる。
別の免疫チェックポイントタンパク質は、プログラム細胞死1(PD−1)である。CD279ともよばれるPD−1は、PDCD1遺伝子によってヒトにコードされるタイプI膜タンパク質である。それは2つのリガンド、すなわちPD−L1およびPD−L2を有する。PD−1経路は、T細胞の疲弊の極めて重要な免疫阻害メディエーターである。この経路を遮断することにより、T細胞の活性化、増殖、およびエフェクター機能の増強をもたらすことができる。そのため、PD−1は、T細胞の応答を負に調節する。PD−1は、慢性の病態における疲弊T細胞のマーカーとして同定されており、PD−1:PD−1L相互作用の遮断によって、T細胞の機能が部分的に回復することが示されている(Sakuishi et al., JEM Vol. 207, September 27, 2010, pp2187-2194)。PD−1は、感染に対する炎症応答時に末梢組織におけるT細胞の活性を制限して、自己免疫を制限する。in vitroでPD−1を遮断することにより、特異的な抗原標的によるかまたは混合リンパ球反応での同種細胞による曝露に応答して、T細胞の増殖とサイトカインの生産とが亢進される。PD−1の発現と応答との強い相関が、PD−1の遮断を用いて示されている(Pardoll, Nature Reviews がん, 12: 252-264, 2012)。PD−1の遮断は、PD−1またはそのリガンドであるPD−L1、または可溶性PD−1デコイ受容体(例えばsPD−1、Pan et al., Oncology Letters 5: 90-96, 2013を参照)に結合する抗体を含めた、種々の機構によって達成することができる。PD−1遮断剤およびPD−L1遮断剤の例は、米国特許第7,488,802号、第7,943,743号、第8,008,449号、第8,168,757号、第8,217,149号、およびPCT特許出願公開番号W003042402、W02008156712、W02010089411、W02010036959、W02011066342、W02011159877、W02011082400、およびW02011161699に記載されている。
PD−1遮断剤としては、抗PD−L1抗体およびタンパク質性結合剤が挙げられる。ニボルマブ(BMS−936558)は、メラノーマの治療のために、2014年7月に日本で認可された抗PD−1抗体である。それは、PD−1に結合して、そのリガンドであるPD−L1およびPD−L2による活性化を遮断する、完全ヒトlgG4抗体である。他の抗PD−L1抗体としては、ランブロリズマブ(ペムブロリズマブ;MK−3475またはSCH900475)、PD−1に対するヒト化モノクローナルlgG4抗体;PD−1に結合するCT−011ヒト化抗体が挙げられる。AMP−224は、B7−DCの融合タンパク質;抗体Fc部分;PD−L1(B7−HI)を遮断するためのBMS−936559(MDX−1105−01)である。他の抗PD−1抗体は、国際出願公開WO2010/077634、WO2006/121168、WO2008/156712、およびWO2012/135408に記載されている。AUNP−12(Aurigene)は、PD−1とPD−L1またはPD−L2との相互作用の29アミノ酸の分岐ペプチドアンタゴニストであり、がんの前臨床モデルにおいて腫瘍の成長および転移を阻害することが示されている。
T細胞免疫グロブリンムチン3(TIM−3)は、疲弊CD8T細胞上で上方制御されるものとして同定された免疫応答レギュレーターである(Sakuishi et al., JEM Vol. 207, September 27, 2010, pp2187-2194およびFourcade et al., 2010, J. Exp. Med. 207:2175-86)。TIM−3は、元々、IFN−vを分泌するTh1細胞およびTc1細胞上で選択的に発現されるものとして同定された。TIM−3とそのリガンドであるガレクチン9との相互作用によって、TIM−3T細胞に細胞死が誘発される。抗TIM−3抗体は、Ngiowら(Cancer Res. 201 1 May 15;71 (10):3540-51)および米国特許第8,552,156号に記載されている。
他の免疫チェックポイント阻害剤としては、リンパ球活性化遺伝子3(LAG−3)阻害剤、例えば可溶性Ig融合タンパク質であるIMP321(Brignone et al., 2007, J. Immunol.179:4202-4211)などが挙げられる。他の免疫チェックポイント阻害剤としては、B7阻害剤、例えばB7−H3阻害剤やB7−H4阻害剤などが挙げられる。具体的には、抗B7−H3抗体MGA271(Loo et al., 2012, 5 Clin. Cancer Res. July 15 (18) 3834)である。
「抗体」への言及には、その断片もしくは誘導体、または合成抗体もしくは合成抗体断片が含まれる。抗体は、単離された形態で提供されることもあれば、医薬または医薬組成物として、例えば医薬的に許容可能なアジュバント、担体、希釈剤、または賦形剤と組み合わせて、製剤化され得る。
モノクローナル抗体技術に関する今日の手法を考慮すると、抗体は、大抵の抗体に対し調製することができる。抗原結合部分は、抗体(例えばFab断片)または合成抗体断片[例えば単鎖Fv断片(ScFv)]の一部であり得る。選択された抗原に対する適したモノクローナル抗体は、公知の手法、例えば「Monoclonal Antibodies: A manual of techniques」, H Zola (CRC Press, 1988)に、および「Monoclonal Hybridoma Antibodies: Techniques and Applications」, J G R Hurrell (CRC Press, 1982) に開示されたものによって、調製され得る。キメラ抗体は、Neuberger ら (1988, 8th International Biotechnology Symposium Part 2, 792-799)によって議論されている。
モノクローナル抗体(mAb)は、本発明の方法に有用であり、抗原上の単一のエピトープを特異的に標的とする均一な抗体の集団である。
ポリクローナル抗体もまた、本発明の方法では有用であり得る。単一特異性のポリクローナ抗体が好適である。適したポリクローナル抗体は、当技術分野に周知の方法を使用して調整できる。
抗体の断片、例えばFab断片やFabΣ断片などもまた、遺伝子工学的に開発された抗体および抗体断片とできるものとして提供され得る。抗体の重鎖可変(V)ドメインおよび軽鎖可変(V)ドメインは、抗原認識に関与し、事実の1つは、初期のプロテアーゼ消化実験によって最初に認めた。さらに進んだ確定が、齧歯類抗体の「ヒト化」によって見出された。結果として生じる抗体が、齧歯類を母体とする抗体の抗原特異性を保持するように、齧歯類由来の可変ドメインが、ヒト由来の定常ドメインに融合され得る(Morrison et al (1984) Proc. Natl. Acad. Sd. USA 81, 6851-6855)。
この抗原特異性は、可変ドメインによってもたらされ、定常ドメインとは無関係であるが、それらは、抗体断片の微生物による発現を含む実験から知られ、その全ての断片が1つまたは複数の可変ドメインを含有するものである。これらの分子には、Fab様分子[Better et al (1988) Science 240, 1041];Fv分子[Skerra et al (1988) Science 240, 1038];VおよびVのパートナードメインが可撓性のオリゴペプチドを介して連結されている、単鎖Fv(ScFv)分子[Bird et al (1988) Science 242, 423; Huston et al (1988) Proc. Natl. Acad. Sd. USA 85, 5879]、および単離Vドメインを含む単ドメイン抗体(dAb)[Ward et al (1989) Nature 341, 544]が含まれる。その特異的な結合部位を保持する抗体断片の合成に関与する手法の総説は、Winter & Milstein (1991 ) Nature 349, 293- 299に見出され得る。
「ScFv分子」とは、VHおよびVLのパートナードメインが、例えば可撓性のオリゴペプチドによって、共有結合している分子を意味している。
Fab抗体断片、Fv抗体断片、ScFv抗体断片、およびdAb抗体断片は全て、大腸菌で発現し分泌することができ、それゆえに大量の前記断片を容易に生産することが可能となる。
全抗体、およびF(ab’)断片は、「2価」である。「2価」とは、前記抗体およびF(ab’)断片が2つの抗原結合部位を有することを意味する。それに対して、Fab断片、Fv断片、ScFv断片、およびdAb断片は、1価であり、ただ1つの抗原結合部位を有する。また、免疫チェックポイントタンパク質に結合する合成抗体は、当技術分野に周知のようなファージディスプレイ技術を使用して作製され得る。
医薬および医薬組成物
ウイルスは、臨床での使用のために医薬、ワクチン、または医薬組成物として製剤化されることがあり、そのような製剤中では、医薬的に許容可能な担体、希釈剤、またはアジュバントと組み合わされ得る。上記組成物は、局所、非経口、全身、膣内、静脈内、動脈内、筋肉内、くも膜下腔内、眼球内、腫瘍内の、皮下、経口、または経皮の注射を含め得る投与ルートに用いるために、製剤化され得る。適した製剤は、滅菌のまたは等張の媒体にウイルスを含み得る。医薬および医薬組成物は、ゲルを含めた流体の形態に製剤化され得る。流体の製剤は、ヒトまたは動物の身体の選択された領域に、注射によってまたはカテーテルを介して投与するために、製剤化され得る。
がん
がんは、任意の望まれない細胞増殖(または望まれない細胞増殖によってそれ自体が現れる任意の疾患)、新生物、または腫瘍、または望まれない細胞増殖、新生物、もしくは腫瘍のリスクの増加もしくはその素因であり得る。がんは、良性または悪性であり得、原発性または続発性(転移性)であり得る。新生物または腫瘍は、任意の細胞の異常な成長または増殖であり得、任意の組織に位置し得る。がんは、任意選択で中枢神経系または脳に位置しないことがある。
治療されるがんとしては、非CNS固形腫瘍、肉腫、脊索腫、斜台脊索腫、末梢神経鞘腫瘍、悪性末梢神経鞘腫瘍、または腎細胞癌が挙げられ得る。
実施形態によっては、上記がんは、固形腫瘍であり得る。固形腫瘍は、例えば、膀胱、骨、乳房、眼、胃、頭頸部、生殖細胞、腎臓、肝臓、肺、神経組織、卵巣、膵臓、前立腺、皮膚、柔組織、副腎、上咽頭、甲状腺、網膜、および子宮にあることがある。固形腫瘍としては、メラノーマ、横紋筋肉腫、ユーイング肉腫、および神経芽細胞腫が挙げられる。
上記がんは、小児固形腫瘍、すなわち子どもの固形腫瘍であることがあり、例えば骨肉腫、軟骨芽細胞腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性生殖細胞腫瘍、ウィルムス腫瘍、悪性棒状体腫瘍、肝芽腫、肝細胞癌、神経芽細胞腫、メラノーマ、アドレノコルチコイド癌、鼻咽頭癌、甲状腺癌、網膜芽細胞腫、柔組織肉腫、横紋筋肉腫、類腱腫、線維肉腫、脂肪肉腫、悪性線維性組織球腫、神経線維肉腫であり得る。
上記がんは、肉腫であり得る。実施形態によっては、上記がんは、小児肉腫である。
上記がんは、再燃性または難治性であり得る。上記がんは、進行期または後期であり得る。
上記がんは、骨がんであり得る。この骨がんは、原発性がん/腫瘍であり得る。骨がんは、悪性、例えば骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、または線維肉腫であり得る。骨がんは、小児固形腫瘍であり得る。
上記がんは、骨肉腫または横紋筋肉腫であり得る。
上記骨肉腫は、骨芽球性、軟骨芽細胞性、線維芽細胞性、混合性、高悪性度表在性、傍骨性、骨膜性、末梢血管拡張性、または小細胞性の骨肉腫である。
対象
治療される対象は、任意の動物またはヒトであり得る。この対象は、好ましくはヒトである。この対象は、ヒトの子どもであり得る。この対象は、雌でも雄でもあり得る。この対象は、患者であり得る。対象は、がんと診断されているか、またはがんであることが疑われていることがある。
上記対象は、好ましくは小児対象である。小児対象は、18歳未満、または16歳未満、または14歳未満、または12歳未満、または10歳未満のヒト対象であり得る。この対象は、任意選択で最低年齢7歳であり得る。そのため、この対象は、7歳から18歳まで、または7歳から16歳まで、または7歳から14歳まで、または7歳から12歳まで、または7歳から10歳までであり得る。この年齢は、腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスを用いた最初の用量投与の時点で、または診断の時点で、判定され得る。
対象は、任意選択で腫瘍組織の外科的除去(本明細書では「腫瘍切除」と称する)について標示されることがある。例えば、彼らは、医療実務者が腫瘍組織のうちいくらかまたは全てを除去する手術が可能であると考えているがんであり得る。
そのような対象では、治療の方法は、手術前に、外科的除去について標示された腫瘍に、腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスを直接的に腫瘍内投与することを含み得る。これは、腫瘍の成長を安定化させること、手術前に腫瘍塊を低減すること、または外科的除去について標示されていない腫瘍の一部、例えば身体の他の場所および/または組織にある転移性の病変を治療することを意図されていることがある。手術前の腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスの投与は、ネオアジュバント化学療法または放射線照射療法を伴うことがある。
手術の間または後に、上記腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスは、切除範囲に隣接してもしくはその縁に、または切除できなかった腫瘍内に、直接的に組織内に投与され得る。
対象は、以前の治療に対し臨床応答を開始していない対象であるために、治療のために選択され得る。
対象は、免疫応答性または免疫無防備状態であり得る。
上記対象は、腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスを用いた最初の投与の前にHSV−1またはHSV−2に血清反応陰性であり得る。
上記対象は、最初の腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスの投与前にリンパ球数が少ないことがある。
上記対象は、最初の腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスの投与前のリンパ球数が、マイクロリットル当たり1500個未満、1400個未満、1300個未満、1200個未満、1100個未満、1000個未満、900個未満、800個未満、700個未満、600個未満、500個未満、400個未満、300個未満、200個未満、または100個未満であり得る。
試料
試料は、対象の任意の組織または体液から採取され得る。この試料は、腫瘍組織から、または体液、さらに好ましくは体内を通じて循環するものから、採取され得る。したがって、試料は、血液もしくは血液由来試料、またはリンパ試料もしくはリンパ由来物であり得る。血液由来試料は、患者の血液の選択された画分、例えば、選択された細胞含有画分または血漿もしくは血清の画分であり得る。選択された細胞含有画分は、目的の細胞タイプを含有することがあり、そのようなものとしては、白血球細胞(WBC)、具体的には末梢血単核細胞(PBC)および/または顆粒球、および/または赤血球細胞(RBC)が挙げられ得る。
必要に応じて、前述の記載に、または下記の特許請求の範囲に、または付属の図面に開示され、かつ特定の形態で、または開示された機能を実施するための手段、もしくは開示された結果を得るための方法もしくはプロセスに関して、表現された特長は、別々に、またはそのような特長を任意に組み合わせて、本発明をその多様な形態で実現するために利用され得る。
本発明は、上記に記載された例示的な実施形態と併せて記載されてきたが、一方で、この開示を所与として、数多くの等価の改変および変形が当業者に明らかとなる。したがって、上記に記載された本発明の例示的な実施形態は、説明的であるものと考えられ、限定するものではない。記載された実施形態に対する様々な変更が、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなくなされ得る。
いかなる疑義も回避するために、本明細書に示されるいかなる理論的な説明も、読み手の理解を高める目的で提供される。発明者らは、これらの理論的な説明のいずれに縛られることを望むものではない。
本明細書に使用されるいかなる項の見出しも、編成上の目的のためであるに過ぎず、記載されている主題を限定するものとは解されないものとする。
この明細書を通じて、続きの特許請求の範囲を含めて、コンテクストが別段に要しない限り、用語「含む(comprise)」および「含む(include)」、ならびに「含む(comprises)」、「含むこと(comprising)」や「含むこと(including)」などの変形は、述べられている整数もしくは工程または整数もしくは工程の群を含むが、他の任意の整数もしくは工程または整数もしくは工程の群を排除しないことを、含意するものと理解されるものとなる。
明細書および添付の特許請求の範囲で使用される際に、単数形「a」、「an」、および「the」は、コンテクストが別段に明確に規定しない限り、複数の言及を含むことに留意しなければならない。範囲は、「約」具体的なある値からおよび/または「約」具体的な別の値までとして、本明細書に表現され得る。そのような範囲が表現されると、別の実施形態は、その具体的なある値からおよび/または他方の具体的な値までを含む。同様に、先の「約」の使用により、値が近似値として表現される際に、それは、その具体的な値が別の実施形態を形成するものと理解されるものとなる。数値に関連しての用語「約」は、任意選択的であり、例えば+/−10%を意味する。
実施例1:腫瘍溶解性ヘルペスウイルスであるHSV1716の腫瘍内注射は、安全であり、若年のがん患者において免疫応答およびウイルス複製のエビデンスを示す。
ヘルペス単純ウイルス−1の腫瘍溶解性のバリアントは、メラノーマ、神経膠腫、および他のがんに罹っている成人において抗腫瘍の効能を示してきた。そのような腫瘍溶解性HSVの1つであるHSV1716は、がん細胞を標的とするように、ウイルス複製およびがん細胞の溶解について遺伝子改変されている。我々とその他は、HSV1716が、前臨床モデルにおいて、腫瘍の成長を遅延させ、様々な小児がんに対する細胞毒性を有することを示してきた。がんに罹っている子どもと若年成人における腫瘍溶解性HSV−1のこの最初の評価では、我々は、注射により腫瘍内に直接的に投与されたHSV1716の安全性および忍容性を評価した。HSV1716は、小児集団で安全であり、認められた毒性は最小限であった。我々はまた、PET/CTイメージングにて、血液および急性炎症におけるウイルス複製のエビデンスを見出した。この第1相試験では臨床応答は観察されなかったものの、これらの知見は、至適のウイルスの用量投与、ウイルスの送達の方法、ならびに化学療法および/または免疫調節剤などの他のがん治療との併用療法へと、さらに進んだ検討を促すものであった。
目的:HSV1716は、脳腫瘍内および表在性腫瘍内への注射を介して成人で試験された腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルス−1である。HSV1716を小児がん患者に投与することの安全性を判定するために、我々は、再燃性または難治性の頭蓋外がんの若年患者において画像誘導下注射の第1相試験を実施した。
患者および方法:我々は、コンピューター断層撮影誘導下の腫瘍内注射を介して、単用量の105〜107感染単位のHSV1716を送達し、イメージングによって腫瘍応答を測定した。患者は、疾患安定を達成した場合に、さらに3用量までの適格性があるものとした。我々は、HSV−1の血清中の力価および脱落を、ポリメラーゼ連鎖反応および培養によってモニタリングした。
結果:我々は、単用量のHSV1716を8名の患者に、2用量を1名の患者に投与した。用量制限毒性は何ら観察されなかった。ウイルスに起因する有害事象には、低度の発熱、悪寒、軽度の血球減少が含まれていた。ベースラインにあった8名のHSV−1血清反応陰性の患者のうち6名が、28日目に血清転換を示した。9名の患者のうち6名が、末梢血中にポリメラーゼ連鎖反応により検出可能なHSV−1ゲノムを有し、それは、+4日目にde novoのウイルス複製と一致して現れた。2名の患者が、18フッ素−デオキシグルコース陽電子放出断層撮影にて、代謝活性の一過的な局所増加があり、それは炎症反応と一致していた。1症例では、のちにフレアの広がった同じ地理的領域が、イメージングでは壊死性に現れた。HSV1716に対し客観的応答のあった患者はいなかった。
結論:腫瘍内のHSV1716は、後期の高侵襲性がんに罹っている子どもおよび若年成人において、安全であり、脱落することなく良好な忍容性があった。ウイルス複製および一過的な炎症反応に一致したウイルス血症では、将来のHSV1716研究が期待される。
序論
最近、FDAが、ヘルペス単純1型ウイルスであるタリモジーン・ラハーパレプベックを病巣内注射によるメラノーマ適応で認可したことにより、腫瘍溶解性ウイルス療法は、効果的で安全ながん療法としてますます認知されるようになっている。腫瘍溶解性ウイルスは、その腫瘍選択性のために、限定的な毒性効果を備えた高い治療指数を有する。実際に、タリモジーン・ラハーパレプベックは、進行性メラノーマの患者における単独療法の際に、16%の持続的応答率を引き出した(1)。HSV−1は、最も特徴が明らかにされているヒトウイルスの1つであり(2、3)、その疾患の病態形成がよく記載されている(4)ことから、ウイルス療法のための魅力的なプラットフォームである。診断アッセイは標準化されており、実務者は、HSV−1感染に対処する十分な臨床経験を有している。特に、HSVは、安全かつ臨床的に証明された抗ウイルス療法が利用できる、数少ないヒトウイルス性病原体の1つである。我々は、タリモジーン・ラハーパレプベックに類似したウイルスであり、HSV−1株17を由来とする腫瘍溶解性ウイルスである、HSV1716を研究した。どちらのウイルスも、その野生型のカウンターパートから、神経病原性をもたらすICP34.5をコードするRL1遺伝子の変異によって弱毒化されたものである(5,6)。タリモジーン・ラハーパレプベックは、主要組織適合複合体クラス1および2の分子に対する抗原提示を遮断するICP47をコードする遺伝子をも欠失しており、ICP34.5の場所には、ヒト顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子のコード配列が挿入されている。HSV1716は、中枢神経系では複製できず(6〜8)、in vitroおよびin vivoの両方で広く特徴を明らかにされている。それは、アシクロビルの投与により標的とすることが可能なチミジンキナーゼの発現を維持しており、それによって、ウイルス複製のエスケープおよび毒性という異常な状況下で「治療上のセーフティーネット」をもたらす。前臨床では、ヒトの肉腫および神経芽細胞腫がんが、培養細胞およびマウスのヒト異種移植モデルで、HSV変異体の複製を顕著な抗腫瘍効果と共に示した(9〜12)。80名を超えるCNS腫瘍、メラノーマ、および頭頸部扁平上皮細胞癌の成人がん患者における第1相試験では、HSV1716の安全性が最小限の毒性と共に示された(グレード3またはそれよりも高い毒性に帰属し得るものはなかった)(13〜16)。HSV1716は、多形性神経膠芽腫(GBM)の成人の第1相試験において効能を示し、それは、12名の患者のうち3名に追加的な医療介入があったことを除いて、応答の持続と生存率の増大とを示したことによるものであった(15)。GBMの1名の患者は、追加的に医療介入することなく、HSV1716注射の10年後に腫瘍が進行することなく、少なくとも経過観察中は生き続けた(未公表)。
本明細書にて、我々は、小児がん患者におけるHSV1716の最初の臨床試験を報告する。我々は、非CNS固形腫瘍を有する子どもと若年成人におけるHSV1716の腫瘍内注射の安全性を判定すること、および腫瘍内のHSV1716の用量制限毒性(DLT)を判定することを目指した。我々の第2の目的は、腫瘍内HSV1716注射後の抗ウイルス免疫応答、全身性ウイルス血症、およびウイルスの脱落を評価することであった。我々はまた、第1相試験の範囲内でHSV1716の抗腫瘍活性を測定した。
患者および方法
この治験は、アメリカ国立衛生研究所の組換えDNA諮問委員会から、公的な議論の義務に関して適用免除を受けたものである。各参加施設の所内の治験審査委員会は、この治験を承認した。それは、FDAの新薬臨床試験開始申請BB−13196の下で実施され、clinical trials.govに登録された(NCT00931931)。我々は、18歳以上の患者から、および/または18歳未満の患者の親または法定後見人から、インフォームドコンセントを取得した。子どもの同意は、施設の所内の方針に従って取得した。
適格性−選択基準
治験集団は、再発性または難治性の不治の非CNS固形腫瘍を有する患者を含み、患者は、ウイルス注射の時点で>7歳から<30歳までであった。患者には、>50%のカルノフスキー(>16歳)またはランスキー(<16歳)行動スコアを有することを求めた。器官の機能の要件には、適切な骨髄機能(72時間のG−CSF不在下または14日間のPEG−GCSF不在下での絶対好中球数>750/mL、血小板数>100,000/mL、およびヘモグロビン>9g/dL;適切な腎機能(血清クレアチニン<1.5×年齢での正常の上限またはクレアチニンのクリアランスまたは放射線同位体GFR>70mL/分/1.73m2)、適切な肝機能(総ビリルビン<年齢での正常の上限の2倍、アラニントランスアミナーゼ(ALT)<2.5×年齢での正常の上限、およびアルブミン>2g/dL)、適切な止血機能(PT/INRおよびaPTT<1.5×年齢でのULN)、適切な中枢神経系機能(CTCAE v3.0によるベースラインCNS状態<グレード2)、ならびに適切な心臓機能(心エコー像による左室内径短縮率>25%、心電図に局所壁の運動異常がなく虚血または有意な不整脈の証拠がないこと)を含めた。原発性の脳の悪性病変を有する患者を治験から除外したが、脳の転移を治療した無症候の患者は、登録に適格であるものとした。我々は、治験登録申込み時またはその前の3か月以内にB型肝炎表面抗原、C型肝炎抗体、ならびにHIV−1抗体およびHIV−2抗体について陰性であった被験患者を要した。患者はまた、治験登録前に以前の療法の急性毒性から完全に回復していなければならないものとした。患者は、試験登録申込み前の28日以内に骨髄抑制の化学療法を、または14日以内に非骨髄抑制の療法を、受けることができないものとし;治験登録申込み前の7日以内に生物剤を受けることができないものとし;治験登録申込み前の14日以内に局所の対症的な放射線照射療法がなく、42日以内に骨髄破壊的な放射線照射療法がなく;治験登録申込み前の6か月以内に免疫破壊的または骨髄破壊的な幹細胞移植がなく、治験登録申込み前の28日以内に治験剤がなかったものとした。
さらに、患者は、過度のリスクなくイメージング誘導を介した針によるHSV1716投与を適用することのできる、少なくとも1つのがん病変を有する必要があるものとした。病変は、注射されるHSV1716の体積よりも少なくとも3倍大きくなければならないものとした(利用可能なロットに基づいて、体積は、用量レベル1および2には注射するHSV1716を1mL、用量レベル3には5mLとした)。1箇所の病変は、最初の2つの用量レベルの基準を満たさねばならず、3箇所までの病変の総和が、第3の用量レベルの基準を満たすことができるものとした。我々は、注射された標的病変の最長径(LD)をベースラインLDとして記録し、それを対照として使用して、さらに客観的腫瘍応答の特性を明らかにした。注射された標的病変の応答によって、患者が治験のパート2に適格であるか否かを判定した。ここで、患者は、追加の毎月のHSV1716の用量を3回まで受けることに同意することができるものとした。適格となるには、注射された全ての腫瘍が、固形腫瘍の応答評価基準(RECIST)の改定版を用いて、疾患安定またはより良好であるものとして特徴付けられることが必要であった。また、全ての測定可能かつ未注射の腫瘍を同定し、イメージングにて追跡し、限局であるかまたは原発性腫瘍の部位からの遠隔転移であるものとして分類した。
適格性−除外基準
除外基準には、同種幹細胞移植の履歴、現在の妊娠または授乳、インフォームドコンセント/アセントを得られないかまたはその意志がないこと、著しい感染または他の重い全身疾患またはPIにより重大とみなされる医学的/外科的状態があること、治験登録申込みの14日以内のPEG−GCSFまたは72時間以内のG−CSF、およびHSV1716投与の2日前からHSV1716投与の28日後までの間に抗ウイルス療法を使用する予定があることを含めた。
臨床試験の設計および治療
NCT00931931は、シンシナティ小児病院医療センター(シンシナティ、オハイオ州)で単一施設の第I相試験として開始し、続いて拡大されてネイションワイド小児病院(コロンバス、オハイオ州)での登録を含めた。治験の用量漸増部分では、患者を3+3方式で登録した。ベースライン評価には、器官機能、HSVの血清学、ならびに関連のイメージング試験、例えばコンピューター断層撮影(CT)および/または核磁気共鳴画像法(MRI)ならびに18フッ素デオキシグルコース陽電子放出断層撮影(PET)/CTイメージングなどを含めた。全ての患者が、安全性と、イメージング誘導による適正な針の配置とを確保するために、全身麻酔を受けた。患者は、単用量のHSV1716を受けた。次いで、患者は、回復し、病院で一晩、任意の有害事象についてモニタリングされた。細菌の培養、HSVのPCRおよび培養に用いるために、末梢血を、0日目の注射前、ならびにHSV1716注射後の1日目、7日目、14日目、21日目、および28日目に採集した。HSVのPCRアッセイは、我々の標準的な病院内臨床検査室アッセイであったが、このアッセイは、野生型HSVとHSV1716の両方に存在する糖タンパク質Bをコードする遺伝子の148塩基対の断片に対するプライマーを利用する。患者は、24時間の実験室滞在の後に退院した、および/または患者宅に退院するのが医学的に適切であった。彼らは、AEおよび器官機能および免疫応答およびウイルス試験をモニタリングするために、4日目、7日目、14日目、21日目、および28日目に臨床検査および理学的検査に戻った。患者らは、治験のパート2に適格であり、その際に患者は、注射された病変で疾患安定またはより良好であるという腫瘍応答を示した場合に、28日後にさらに3用量まで受けることができ、そのそれぞれが最低28日を隔てるものとした。続きの用量の注射には、2回目のコンセント/アセントが必要であった。これは子どもにおける腫瘍溶解性ヘルペスウイルスの最初の研究であったため、ウイルス用量間、および患者間で、28日間隔を必要とすることが、FDAにより安全対策として求められた。また、これらの深部の腫瘍内にウイルスを安全に投与するために全身麻酔を必要としたことにより、腫瘍内のウイルスの送達の頻度が制限された。
用量制限毒性
毒性は、NCI共通毒性基準(CTCAE)v3.0に従ってグレード付けした。用量制限毒性は、任意のグレード3またはグレード4の毒性、グレード2〜4の神経性またはアレルギー性の毒性とし、この試験の参加に起因する可能性、蓋然性、または確実性があるものであった(グレード3の感冒様症状、グレード3の食欲不振、およびグレード3の注射部位の痛みまたは感染を除外)。試験され忍容された最も高い用量を、6名の患者のうち1名以下がDLTを経験した最も高い投与されたHSV1716の用量レベルとして、予め規定した。
臨床活性の評価
ベースラインのイメージングは、最初のHSV1716用量投与前の14日以内、次いで再度、注射に続く14日目(患者HSV03の後に修正を経て)および28日目、次いで治験から離脱するまで臨床的に指示された際に、取得した。全ての測定可能な病変は、標的病変と見なし、がんのタイプおよび場所に応じて適切に応答を追跡した。我々は、改変した固形腫瘍の応答評価基準(RECIST)ガイドラインに従って、14日目および28日目に応答を評価した。この改変は、最長径の和の代わりに最長径を測定した点で、RECIST v1.0とは異なる。
ウイルスの生産、操作、および投与
医薬品製造管理及び品質管理(GMP)に関する基準に従って、BioReliance(グラスゴー、イギリス)により、1.0×105感染単位(用量レベル1で使用)、または用量レベル2(1バイアル)および3(5バイアル)で使用される2.0×106感染単位(i.u.)のどちらかで、HSV1716のバイアルを製造した。感染単位は、mL当たりのプラーク形成単位(PFU)の等価として定義される。品質評価のHSV1716対照バイアルをVirttu Biologies(グラスゴー、イギリス)から入手した。HSV1716を、患者が到着するまで超低温冷凍庫(−80C)に保管した。
凍結バイアルを、インターベンショナルラジオロジー室にドライアイス上で移送し、針を配置するための蛍光透視/CTスキャニングの間は銅の遮蔽で覆い、手で解凍した後に真っ直ぐな針を通して注射し、続いて1mLの正常生理食塩水でフラッシュを行った。HSV1716バイアルの解凍には、平均で13分(5〜25の範囲)を要した。バイアルは、直ちに清澄さと微粒子物についてチェックし、70%エタノールを噴霧し拭き取った。解凍の完了から注射までに経過した時間は、平均で7分であった。全てのバイアルが、品質保証試験用に追加の0.1mLのHSV1716を含有していた。注射後直ちに、残りのHSV1716を含有するバイアルを、研究室に氷上で移送し、以前記載されたような標準的なプラークアッセイの手順(17)を使用して、施療後ウイルス力価の評価を行った。さらに、対照のHSV1716バイアルを解凍し、品質保証のためにアッセイした。我々は、バイオセーフティー基準レベル2の予防則に従った。10本の対照バイアルについて2×10iuで確立した許容範囲は、6.3×10〜6.3×10iu(2つの標準偏差)であった。注射後の全ての力価が、予想された範囲内にあった(表S1)。
結果
患者の特徴
8歳から30歳までの計9名の患者を登録し、安全性および毒性について完全に評価した。3名の患者を3用量レベル(1×10iu、2×10iu、および1×10iu)のそれぞれに配した。患者の診断には、種々の肉腫、斜台脊索腫、悪性の末梢神経鞘腫瘍(MPNST)、および腎細胞癌を含めた(表1を参照)。殆どの患者が、この治験への登録前に、再燃性または難治性の疾患に対する少なくとも2ラインの療法を受けていた(以前スニチニブを用いて治療されたのみであった腎細胞癌の患者という例外が1名あり)。用量レベル3の患者の3人全員が、異なる針に用量を分割された(患者のうち2名は、同じ腫瘍内に2本の針を配された;HSV09は、3つの別々の腫瘍に注射された)。
血清学的応答および毒性
9名の患者のうち8名が、ベースラインで抗HSV1抗体に対し血清学的に陰性であり、殆どの患者が、注射に続いて28日目までに転換した(表2)。HSV02のみがHSV1716前に血清学的に陽性であった。認められた用量制限毒性はいずれの患者にもなかった。2名の患者が、HSV1716および/または腫瘍内注射の手順に関連するグレード3の背痛(のちにグレード1に決定)を有していた。グレード1および2の有害事象は、HSV1716に起因する可能性または蓋然性があり、発熱、悪寒、および貧血や白血球減少などの軽度の臨床検査異常を含んでいた(表3)。用量を3つの異なる実質肺病変に分割されたHSV09は、追加の24時間にわたって入院を続けたが、それは、胸膜内腔および/または胸膜腔への針の挿入に関わる予想された合併症である、気胸をモニタリングするためであった。
注射された病変の+14日目または+28日目での疾患安定に基づき、治験のパート2(さらに多くのHSV1716用量)に適格であった4名の患者のうち3名は、治療担当の腫瘍専門医が選択したかまたは他の箇所での疾患の進行を懸念したために、さらに注射することを辞退した。患者HSV06(表4では「M」と表される)は、追加の注射を受けることを選び、どちらの用量を用いても認められた重大な有害事象はなかった。
ウイルス血症およびウイルス脱落
28日間を通じて全ての試験来診で、血液、頬側スワブ、および尿を含めて全てHSV−1培養物が陰性であったことから、この治験のどの患者にもウイルスの脱落が観察されなかった。HSV−1ゲノムのPCRもまた、全ての頬側スワブおよび尿の試料で陰性であった。HSV−1ゲノムの血液PCRは、ベースラインである0日目、およびウイルス注射に続く+1日目で陰性であった。それに対して、+4日目のHSV−1ゲノムの血液PCRは、用量レベル1の1名の患者、用量レベル2の2名の患者、および用量レベル3の3名全員の患者で陽性に戻った(計9名の患者のうち6名)。2名の患者で、PCRが+7日目に陽性のままであり、それらの患者のうち1名(HSV04)で、28日間を通じて陽性のままであった。残念ながら、この患者の疾患は速やかに進行し、ホスピスケアに至ったため、我々は、後期の時点でのウイルスのクリアランスを確定することができなかった。
疾患応答
直接的に注射された(表4)または未注射(表5)の病変に腫瘍の退縮があった患者はいなかった。+14日目に評価された5名の患者のうち4名が、断面イメージングにより疾患安定であった。+28日目に評価された7名の患者のうち3名が、疾患安定であり、これらの患者のうち1名が、PET SUVが減少していた(HSV09)。
興味深いことに、複数回のPET/CTを受けた3名の患者のうち2名で、我々は+14日目と+28日目のどちらかにSUVの増加を観察し、当初我々はそれらを疾患の進行として解釈したが、その後、後続のイメージ上にてベースラインまでまたはその近くへと後退する自然減少があった(図1)。1症例では、PETシグナルの増加のまさにその幾何学的配置が、後続のスキャン上では完全に陰性になった(図1A)。別の1名の患者でも、類似したフレアが未注射の転移性腫瘍に観察された(図1B)。
表4に示されるように、最初の2つの用量レベルで治療された患者は、生存期間の中央値が2.25か月であったのに対して、最高用量レベルで治療された3名の患者は、生存期間の中央値が7か月であった。これらの3名の患者はまた、HSV1716治療を中止した後に他の形態の療法に進んだ(HSV07はカボザンチニブを受け、HSV08は残りの腫瘍に凍結融解壊死治療を受け、HSV09はエベロリムスおよびパゾパニブを受けた)。
これは極めて少ない数の患者であり、その全てがHSV1716ののちに異なる療法を用いて治療されたことから、HSV1716が彼らの生存延長に果たした可能性がある役割について、我々は何らかの結論を引き出すことはできない。
考察
再燃性/難治性の固形腫瘍を有する子ども達は、極めて予後が悪く、様々ながん療法による毒性が非常に大きい。新規のストラテジーおよび治療モダリティが喫緊に求められている。腫瘍溶解性ウイルス療法の分野は、勢いを増し続けており、がん患者のために毒性をさらに少なく予後を向上させる可能性をもたらしている。我々の結果に基づくと、再燃性/難治性の非CNS固形腫瘍を有する子どもにおける単用量のHSV1716の腫瘍内投与が、安全でありかつ良好な耐容性があるものと我々は結論する。ウイルスに起因する可能性の高い観察された全ての有害事象は、グレードが低く一過性であった。この治験に登録された大多数の患者が、HSV−1血清反応陰性であり、このことは、既存の抗HSV−1免疫が抗腫瘍効能を減じることが結局見出された場合に、小児患者がHSVウイルス療法から最大の恩恵を受け得ることを示唆する。
殆どの患者において末梢血のPCRにより、初めに陰性であり、続いてHSV−1の出現があったことにも証明されるように、腫瘍内のHSV1716は、結果として全身性のウイルス血症を生じる。患者HSV01およびHSV02の末梢血にPCRシグナルを欠いていたことは、使用された用量が不十分であったか、その場所がウイルス血症を発生し易いものではなかったか、またはそれらの特定の腫瘍が堅牢なウイルス複製を支持しなかったことを反映するものと思われる。前臨床では、MPNSTモデルは、堅牢なヘルペスウイルス複製を示しているが(18)、この複製は、患者HSV03でさらに低い用量のHSV1716を用いてもPCRシグナルを成すものと思われる。患者HSV05でHSVのPCRシグナルを欠いていたことは、脊索腫細胞がウイルス複製を支持しないこと、および/またはある特定の解剖学的場所がウイルス血症を生じるのに好都合ではないこと(すなわち、鼻腔内および眼窩内に突き出しているスキル底の腫瘍)を、示唆するものと思われる。それに対して、HSV04は、PCRシグナルが持続し、このことは、この患者の骨肉腫内に堅牢な複製があったことを示唆している。興味深いことに、HSV04は、ウイルス注射時のALCが低い(600)が、この小さな試験では、低いALCがHSV1716の複製能力にどのほどの影響を与えるのか、何らかの結論を引き出すことは困難である。我々は、HSVの検出の持続の延長が、制御性T細胞などの腫瘍内の免疫抑制細胞の阻害に起因する可能性があるものと仮定しているが、ウイルスの持続と免疫微小環境との何らかの関係を決定するためには、さらに進んだ研究が必要である。
全てではないが殆どの患者は、ウイルス注射に続いてHSV−1の免疫血清学を転換した。血清反応陰性の患者と血清反応陽性の患者との間に毒性の違いは何も観察されなかった。この治験で試験された8名の患者のうち2名が血清反応陽性に転換できなかった理由は不明であるが、どちらも化学療法を用いて予め治療を濃密に受けていたことから、彼らは抗ウイルス免疫が不十分であったかまたは遅延していた可能性がある。どちらの患者も比較的正常なWBC、ALC、およびANCのレベルにあったが、彼らの免疫系の能力は未知である。がん治療の様々な時点での免疫系の機能性へのさらに進んだ研究は、免疫療法の治験を牽引するための根拠となろう。ウイルス血症に関して上記に含意されているように、腫瘍およびウイルス注射の場所もまた、免疫細胞のウイルス抗原への接近が制限されている場合に、血清転換において役割を果たすものと思われる。
2名の患者は顕著に、PET取込みの一過的な増加があり、それは自然に消散した。グルコースの利用の増加の原因としてあり得るのは、腫瘍の進行または偽性進行であり、後者は、ウイルス感染または抗腫瘍免疫の刺激に起因する炎症に由来する。患者HSV06では、我々は、取込み部位に第2の用量を投与し、12日後のシグナルの持続に続いて、27日目までにシグナルの完全な消失を観察したが、このことは、腫瘍の範囲が壊死性であったことを示唆している。残念ながら、この子の大きな腫瘍塊の残りは進展を続け、遂にこの子は死に屈した。患者HSV08では、やはり、即時の腫脹とPETシグナルの一過的な増加とが観察された。このPETシグナルが自然に減衰したという事実は、それがウイルスに対する炎症応答に一致していた可能性が極めて高いことを示唆している。この患者が、続いて治療担当の医師の選択により化学療法切除を受けたことから、我々は、浮腫または腫瘍の進展に起因するものと思われるこの腫脹もまた、やがて減少するものとなったのか否かを知らない。未注射の病変もPET上で一過的にフレアが広がったという事実は、限局したHSV1716感染が全身性の抗腫瘍免疫効果を有していたことを示すものと思われる。
2種の非病原性の野生型の腫瘍溶解性ウイルス(セニカバレーウイルスおよびレオウイルス)ならびに1種の弱毒化病原性ウイルス(ワクシニアウイルス)もまた、子どもにおいて試験され、毒性を殆ど示さなかったが、疾患応答のエビデンスが殆どなかった(19〜21)。これらと今回の小児の治験のうち、HSV1716を用いたこの治験およびワクシニアウイルスを用いた治験は、腫瘍内ウイルス投与を利用したのに対し、他の2つの治験は、静脈内投与または全身投与を使用した。ウイルス送達の最も良い方法は、依然として不明である。そのため、我々はまた、この臨床治験の平行部分を実施中であり、そこでは、再燃性/難治性の固形腫瘍を有する小児患者において、HSV1716を静脈内に投与している。確かに、静脈内用量投与は、鎮静もイメージング誘導も必要としないために、複雑さがかなり少ないものとなる。全身的な用量投与についてあり得る懸念は、腫瘍部位への全身性送達を制限し得る抗ウイルス抗体の発達であり、それゆえに、殆どの患者が血清反応陰性である小児の設定においては、それを使用することが有利であることが立証されよう。小児がん患者は、典型的には疾患の後期に第1相試験に参入し、その際に殆どは腫瘍の負荷が高く、がんの侵襲性が高かった。それに対して、成人でのタリモジーン・ラハーパレプベックのAmgen治験における患者は、進行期にあったとはいえ成長の遅いメラノーマを有していた。メラノーマの治験では、疾患応答の平均時間は4か月であり、患者は、108感染単位のウイルスを2週間毎に最短24週間、その間に疾患の進行があったものの注射された(1、22)。直接的な溶解作用によるというよりもむしろ、含意されるのは、大部分の応答が抗腫瘍免疫の結果として生じ、堅牢なものとなるまで数週間から数か月かかるものと思われることである。そのため、小児がん患者のためのベネフィットの向上を達成するための1つの合理的なアプローチは、我々の治験で与えたものよりも高用量または多用量の腫瘍溶解性ウイルスを送達することである。我々は今や、この治験で示されたように、腫瘍溶解性ヘルペスウイルスを用いた安全性に関するさらに多くのエビデンスを有していることから、後続の試験において、さらに頻度の多い用量投与の検討を計画している。タリモジーン・ラハーパレプベックの治験はまた、さらに高い用量の腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスが成人で病巣内注射により安全であったことを示した。しかし、これらのデータは、我々の臨床治験の終了近くになるまで利用できなかった。そのため、我々は、1e7pfuまでの用量漸増を含めるのみとしたが、それは、これがHSV1716を用いて成人で試験された最高用量であったためである。しかし、メラノーマとは異なり、単剤としてのウイルス療法の延長は、殆どの小児の固形腫瘍が速やかに成長することを考慮すると相応しいとは思われない。そのため、ウイルスの有効使用には、腫瘍の成長を遅延させるとともにウイルス溶解性効果またはウイルス免疫療法効果を発達させる時間を与えるための、標的療法、化学療法、または低用量の放射線療法との併用療法が必要であるものと思われる。前臨床試験はこれらのアプローチを支持している(23〜25)。但し、同時療法は、ウイルス複製(26)またはウイルス誘導性抗腫瘍免疫の発達に干渉しないように選択され、そしておそらくは入念に時間調整されるべきである。さらに、疾患の過程の早期に腫瘍溶解性ウイルス療法を与えることによって、抗腫瘍免疫応答を発達させる時間も与えられるものと思われる。最終的には、ヘルペスウイルス療法は、T細胞チェックポイント阻害剤などの他の免疫補助剤との併用によって亢進されるものと思われる(27、28)。
結論として、客観的応答を有する患者はいなかったものの、我々が小児がん患者においてHSV1716の腫瘍内注射に続いて観察したウイルス複製のエビデンスおよび炎症反応は期待できる。我々は、他の細胞毒性剤または細胞分裂阻害剤、放射線照射、および/または他の免疫調節剤との併用試験に加えて、さらに多くの用量のHSV1716を用いることが、さらに進んだ検討の根拠となるものと提言する。我々はまた、腫瘍溶解性ヘルペスウイルス療法の効能を最大にするために、ウイルス複製と小児がんにおける抗腫瘍免疫の発達との関係に関してさらに進んだ研究を行うことを提言する。
参考文献
本発明および本発明の関連する技術分野の記述をさらに充分に記載し開示するために、数多くの刊行物が上記に引用されている。これらの参考文献の全列挙を下記に示す。これらの参考文献のそれぞれの全体が、本明細書に組み込まれる。
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標準的な分子生物学の手法については、Sambrook, J., Russel, D.W. Molecular Cloning, A Laboratory Manual. 3 ed. 2001 , Cold Spring Harbor, New York: Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照されたい。

Claims (16)

  1. 腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスが腫瘍内に投与される、腫瘍を有するヒト小児対象でがんを治療する方法における使用のための腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルス。
  2. 腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスが腫瘍内注射によって投与される、請求項1に記載のがんを治療する方法における使用のための腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルス。
  3. 前記腫瘍が固形腫瘍である、請求項1または2に記載のがんを治療する方法における使用のための腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルス。
  4. 腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスが画像誘導下注射によって投与される、請求項1から3のいずれか1項に記載のがんを治療する方法における使用のための腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルス。
  5. 前記治療方法が、細胞毒性剤もしくは細胞分裂阻害剤、免疫調節剤、または放射線照射療法を用いて同時に、逐次に、または別々に投与することを含む、請求項1から4のいずれか1項に記載のがんを治療する方法における使用のための腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルス。
  6. 前記方法が、腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスを用いた治療の前、腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスを用いた治療コースの間、および/または腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスを用いた治療コースの終結に続いて、前記対象におけるTreg細胞のレベルを判定することを含む、請求項1から5のいずれか1項に記載のがんを治療する方法における使用のための腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルス。
  7. 前記方法が、前記対象における前記制御性T細胞(Treg)の応答または集団を抑制する作用因を同時に、逐次に、または別々に投与することを含む、請求項1から6のいずれか1項に記載のがんを治療する方法における使用のための腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルス。
  8. 前記方法が、腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスを用いた治療の前、腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスを用いた治療コースの間、および/または腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスを用いた治療コースの終結に続いて、前記腫瘍の偽性進行を判定することを含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の腫瘍を有する小児対象でがんを治療する方法における使用のための腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルス。
  9. 腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスを用いた継続的な治療のためにヒト対象を選択する方法であって、ヒト対象への腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスの投与後に前記対象で腫瘍の代謝活性の変化を検出すること、腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスの投与をさらに受けるための変化が検出された対象を選択することを含む方法。
  10. 代謝活性の変化を検出することが、偽性進行を検出することを含む、請求項9に記載の方法。
  11. 前記代謝活性の変化が、代謝活性の増加である、請求項9または10に記載の方法。
  12. 前記代謝活性の変化が、陽電子放出断層撮影によって検出される、請求項9から11のいずれか1項に記載の方法。
  13. 前記対象への腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスの投与が、腫瘍内投与である、請求項9から12のいずれか1項に記載の方法。
  14. 前記対象への腫瘍溶解性ヘルペス単純ウイルスの投与が、腫瘍内注射によるものである、請求項9から13のいずれか1項に記載の方法。
  15. 前記対象が小児対象である、請求項9から14のいずれか1項に記載の方法。
  16. 前記腫瘍が固形腫瘍である、請求項9から15のいずれか1項に記載の方法。
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HUMAN GENE THERAPY, vol. 25(12), JPN6021048919, 2014, pages 5 - 6, ISSN: 0004807311 *

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