JP2020195344A - オイル高蓄積有用藻類株の育種方法、藻類のオイル高蓄積変異株及びそれを用いた油脂の製造方法 - Google Patents

オイル高蓄積有用藻類株の育種方法、藻類のオイル高蓄積変異株及びそれを用いた油脂の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、昼夜といった環境変化のある条件でも十分な油脂蓄積速度を達成できる藻株を提供することも目的とする。【解決手段】上記課題を解決するための本発明は、昼夜条件における油脂含有率が30重量%以上である、藻類のオイル高蓄積変異株である。藻類のオイル高蓄積変異株の昼夜条件におけるデンプン含有率は20重量%以下であり、油脂生産速度は150g/m3/日以上であることが好ましい。上記藻類は、クラミドモナス・スピーシーズであることがより好ましい。【選択図】なし

Description

本発明は、藻類にイオンビームを照射し得られた培養物からのオイル高蓄積有用藻類株の育種方法、昼夜のある条件でも十分にオイル高蓄積できる藻類のオイル高蓄積変異株、及びそれを用いた油脂の製造方法に関する。
藻類や水圏微生物を利用したバイオエネルギー生産のための基盤技術が注目されている。水圏には、脂質や糖類の蓄積能力が高く、多様性に富み、高い増殖能力をもった藻類が多い。藻類は優れた炭酸固定能を持ち、光合成能は陸上植物の数十倍とも言われている。このような藻類については、工業的培養が半世紀以上に渡って行われており、燃料、飼料、ファインケミカル、健康食品等の原料として高い需要がある。特に、今後化石燃料の枯渇化が懸念されることから、代替燃料の早期探索の必要性が高まり、バイオ燃料のソースとして藻類生産への関心がより高まっている。
藻類を用いた油脂の生産方法としては、生産効率の高い特定の海洋性緑藻クラモドモナス・スピーシーズ(Chlamydomonas species)株を用いた方法が知られている(特許文献1参照)。特許文献1に開示されているクラモドモナス・スピーシーズ株(JSC4)は、光独立栄養・海水塩濃度条件において高い増殖性と油脂含有率を両立する優れた藻株であり、バイオ燃料の材料として有望視されている。しかし、屋外での培養を行うと、実験室内での培養の場合と比較して、油脂の生産効率が大幅に低下してしまうという不都合があった。
国際公開第2015/025553号
このような状況の中、本発明者らは、上記屋外での藻類の培養において油脂の生産効率が大幅に低下してしまうことの原因のひとつが、昼夜における光環境の周期的変化であることを見出した。そこで、本発明は、昼夜のある条件でも十分な油脂蓄積速度を達成でき、油脂の生産効率の高い藻株を創出することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために、従来から知られているクラモドモナス・スピーシーズの特定の株(JSC4株)に対して、イオンビーム照射によるランダムな突然変異誘発と、フローサイトメトリ―による高速スクリーニングを組合せた選抜育種を実施し、昼夜のある条件でも油脂蓄積速度が速い株を創出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。なお、本発明において、昼夜のある条件とは、光強度の周期的変化のある条件をいう。
[1]12h明期/12h暗期の昼夜周期条件における油脂含有率が30重量%以上である、藻類のオイル高蓄積変異株。
[2]12h明期/12h暗期の昼夜周期条件におけるデンプン含有率が20重量%以下である、[1]に記載のオイル高蓄積変異株。
[3]12h明期/12h暗期の昼夜周期条件における油脂生産速度が150g/m/日以上である、[1]又は[2]に記載のオイル高蓄積変異株。
[4]上記藻類が、クラミドモナス・スピーシーズである、[1]から[3]のいずれかに記載のオイル高蓄積変異株。
[5]上記クラミドモナス・スピーシーズが、配列番号1〜625で表されるDNA配列とそれぞれ80%以上の相同性を有するDNA配列を有する、[4]に記載のオイル高蓄積変異株。
[6]配列番号1〜625で表されるDNA配列を有する、[4]又は[5]に記載のオイル高蓄積変異株。
[7]配列番号1〜625で表されるDNA配列を有する、藻類のオイル高蓄積変異株。[8][1]から[7]のいずれかに記載のオイル高蓄積変異株を培養する工程、及び生産された油脂を回収する工程を含む、油脂の製造方法。
本発明の藻類のオイル高蓄積変異株は、昼夜ある条件で培養を行っても、油脂蓄積速度が従来のクラモドモナス・スピーシーズJSC4株の2倍以上と、高い生産効率を示す。そのため、本発明の藻類のオイル高蓄積変異株を用いることで、昼夜の存在する屋外培養においても十分に高い効率で油脂生産を行うことが可能となった。本発明を活用することで、バイオディーゼル燃料の開発が進むことが期待できる。
図1は、親株(JSC4株)と本発明のオイル高蓄積変異株(KOR1)の電子顕微鏡写真である。 図2は、親株(JSC4株)及び本発明のオイル高蓄積変異株(KOR1〜4)の培養液上清中に含まれるNaNO濃度を示した図である。 図3は、親株(JSC4株)及び本発明のオイル高蓄積変異株(KOR1〜4)の培養液当たりのバイオマス量を示した図である。 図4は、親株(JSC4株)及び本発明のオイル高蓄積変異株(KOR1〜4)のデンプン含有量(%)を示した図である。 図5は、親株(JSC4株)及び本発明のオイル高蓄積変異株(KOR1〜4)の油脂含有量(%)を示した図である。 図6は、親株(JSC4株)及び本発明のオイル高蓄積変異株(KOR1〜4)の培養液当たりの油脂(オイル)生産量(mg/L)を示した図である。 図7は、親株(JSC4株)及び本発明のオイル高蓄積変異株(KOR1〜4)の油脂(オイル)生産速度(mg/L/day(日))を示した図である。 図8は、親株(JSC4株)及び本発明のオイル高蓄積変異株(KOR1〜4)のパルミチン酸含有量を示した図である。 図9は、親株(JSC4株)及び本発明のオイル高蓄積変異株(KOR1〜4)のステアリン酸含有量を示した図である。 図10は、親株(JSC4株)及び本発明のオイル高蓄積変異株(KOR1〜4)のオレイン酸含有量を示した図である。 図11は、親株(JSC4株)及び本発明のオイル高蓄積変異株(KOR1〜4)のリノール酸含有量を示した図である。 図12は、親株(JSC4株)及び本発明のオイル高蓄積変異株(KOR1〜4)のリノレン酸含有量を示した図である。 図13は、親株(JSC4株)及び本発明のオイル高蓄積変異株(KOR1〜4)のその他の脂肪酸含有量を示した図である。 図14は、親株(JSC4株)及び本発明のオイル高蓄積変異株(KOR1)のルテイン含有量を示した図である。 図15は、親株(JSC4株)及び本発明のオイル高蓄積変異株(KOR1)のβカロテン含有量を示した図である。 図16は、親株(JSC4株)及び本発明のオイル高蓄積変異株(KOR1)のクロロフィルa含有量を示した図である。 図17は、親株(JSC4株)及び本発明のオイル高蓄積変異株(KOR1)のクロロフィルb含有量を示した図である。
以下、本発明の藻類のオイル高蓄積変異株について詳細に説明する。なお、本明細書における分子生物学的実験は、特に明記しない限り、当業者に公知の一般的実験書に記載の方法又はそれに準じた方法により行うことができる。また、本明細書中で使用される用語は、特に言及しない限り、当該技術分野で通常用いられる意味で解釈される。
<藻類のオイル高蓄積変異株>
本発明の藻類のオイル高蓄積変異株は、昼夜ある条件で培養を行っても、十分な油脂蓄積速度を示し、高い油脂生産効率を示す株である。
[藻類]
藻類とは、水中生活をする同化色素を有する植物の総称であり、ミドリムシ植物、黄色植物(珪藻類を含む)、黄褐色植物、藍藻植物、褐藻植物、緑藻植物(車軸藻類を含む)及び紅藻植物が含まれる。油脂成分を高い効率で産生するという観点から、本発明においては、緑藻植物に属するクラミドモナス(Chlamydomonas)属の藻類が好ましい。
クラミドモナスは、緑藻綱クラミドモナス目(若しくはオオヒゲマワリ目)に属する単細胞の鞭毛虫からなる属である。クラミドモナスの多くは淡水産であるが、海水中に生育するものもある。本発明において好ましいクラミドモナス属の藻類は、海産、汽水産及び海水塩を含む培地で生育可能なものであり、海生のものである。
[オイル高蓄積変異株]
本発明における藻類のオイル高蓄積変異株は、従来の藻類に対してイオンビーム照射によるランダムな突然変異誘発と、フローサイトメトリ―による高速スクリーニングを組合せた選抜育種を実施して得られた株である。このような藻類としては、上述したとおり、緑藻植物に属するクラミドモナス(Chlamydomonas)属の藻類が好ましく、クラミドモナスの中でも、特に油脂成分を高い効率で産生するクラミドモナス・スピーシーズJSC4株(Chlamydomonas sp. JSC4:本明細書中、単に「JSC4株」ともいう)が好ましい。
(クラミドモナス・スピーシーズJSC4株)
ここで、クラミドモナス・スピーシーズJSC4株は以下の手順により得られた株である。即ち、台湾中西部の海岸で採取した汽水試料から、常法により1細胞だけを単離し、無菌化した。これを、HSM寒天培地を用いて、20℃、8〜15μmol photons/m/s、12時間明期12時間暗期の光条件で培養し、2週間に1度植え継ぐことで藻株を確立し、形態観察その他よりクラミドモナス属の緑藻と同定して、JSC4株と名づけられた。このJSC4株は、2014年3月5日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)にプタベスト条約の規定下で受託番号FERM BP−22266として、国際寄託されている。JSC4株のクラミドモナス・スピーシーズJSC4株の藻類学的性質は以下の通りである。
形態的性質
(1)栄養型細胞は、楕円形であり、大きさは、約10μmである。栄養型細胞において、細胞長の約等倍の鞭毛を2本有する。栄養型細胞は、運動性を有する。
(2)栄養型細胞は外囲を細胞壁に囲まれ、内部に核、葉緑体が一個存在し、その他、ミトコンドリア、ゴルジ体、液胞、デンプン粒、油滴等が認められる。葉緑体内の基底部にピレノイドを有する。
生殖様式
(1)内生胞子は栄養細胞内に二〜八個形成され、細胞内に均等に分布する。内生胞子はその細胞内に核、葉緑体を一個有する。
(2)二分裂による増殖も行う。
生理学・生化学性状
(1)培養液:海産や汽水産及び海水塩を含む培養液中で生育できる。
(2)光合成能:光合成による光独立栄養生育ができる。
(3)含有色素:クロロフィルa、クロロフィルb、及び他のカロテノイド類
(4)同化貯蔵物質:デンプン
(5)生育温度域:15℃〜35℃(至適温度25℃)
(6)生育pH域:pH6.0〜10.0(至適pHは7.0)
本発明のオイル高蓄積変異株は、屋外のような昼夜のある条件でも油脂蓄積速度が速く、昼夜条件における油脂生産速度が150g/m/日以上である。
(本発明のオイル高蓄積変異株の取得)
(1)突然変異の導入
昼夜条件におけるオイル高蓄積株(KOR)の育種は、従来の藻株を親株として実施することができ、親株は特に限定されないが、より効率的にオイル高蓄積変異株が得られるという観点から、上述のクラミドモナス・スピーシーズJSC4株(Chlamydomonas sp. JSC4)を親株とすることが好ましい。突然変異の導入は、細胞集団に対して、イオンビームを照射することで実施することができる。イオンビームは細胞核を通過するときに、DNA二本鎖をランダムに切断する。細胞は自らが持つ修復機能によりDNA鎖をつなぎ直すが、その際にDNA欠失など様々な突然変異が発生するとされる。照射するイオンビームとしては、突然変異を導入可能なものであれば特に限定されないが、例えば、炭素(C)、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)あるいはアルゴン(Ar)等が挙げられ、藻類への変異導入の効率の観点から、125+が好ましい。クラミドモナス属に属する藻類に125+イオンビームを照射する場合、線量の範囲は、10〜250Gyが好ましく、20〜75Gyがより好ましい。イオンビーム照射後は、数日間の回復培養後、得られた細胞集団を変異体ライブラリとし、後述するスクリーニングを行うことができる。なお、上記回復培養は、適切な光強度の昼白色蛍光灯等の条件下で3日間以上静置することにより行われる。
(2)スクリーニング
昼夜条件におけるオイル高蓄積株の一次スクリーニングは蛍光活性セルソーター(fluorescence activated cell sorter,FACS)を用いて行うことができる。昼夜条件で培養した細胞の細胞内油滴を蛍光色素BODIPY、ナイルレッド等で染色し、蛍光強度の強い細胞をFACSにて分取する。個々の細胞のBODIPY蛍光、ナイルレッド蛍光等の細胞内油滴の染色に由来する蛍光及びクロロフィルの自家蛍光(細胞サイズの指標として利用)の強度をFACSで解析し、クロロフィル自家蛍光あたりのBODIPY蛍光、ナイルレッド蛍光等の細胞内油滴の染色に由来する蛍光が高い細胞(上位1〜0.5%)を分取することができる。また、上記のような昼夜条件での培養とFACSによる分取を複数回繰り返し実施することで、標的とする細胞を濃縮することも可能である。
ここで、本発明において昼夜条件とは、屋外での日照条件、或いは、屋外での日照条件に近い条件を人工的に整えた条件(昼夜周期条件)、例えば、日光の光に近い光量子束密度である50μmol photons/m・秒 〜 2,000μmol photons/m・秒で12時間点灯し、その後12時間は消灯するというサイクルを繰り返す12h明期/12h暗期の昼夜周期条件、14時間点灯し10時間消灯する14h明期/10h暗期の昼夜周期条件、16時間点灯し8時間消灯する16h明期/8h暗期の昼夜周期条件等が挙げられる。明期及び暗期の時間は、適宜変更することができるが、一般的な昼夜周期条件として、明期が8〜16時間、暗期が16〜8時間の範囲であることが好ましい。
点灯時の光量子束密度としては、通常50μmol photons/m・秒 〜 2,000μmol photons/m・秒の範囲であり、通常80μmol photons/m・秒 〜 1,000μmol photons/m・秒の範囲であることが好ましく、通常100μmol photons/m・秒 〜 500μmol photons/m・秒の範囲であることがより好ましい。
分取後の細胞は寒天培地に播種し、光強度50μmol photons/m・秒程度の昼白色蛍光灯下でコロニーを形成するまで静置培養する。一次スクリーニングで得られた候補株については、マイクロウェルプレートで培養し、細胞から油脂を蓄積してガスクロマトグラフィー質量分析(gas chromatography−mass spectrometry,GC−MS)で解析することで、昼夜条件におけるオイル高蓄積株の二次スクリーニングを実施する。二次スクリーニングにおいては、後述する方法に従ってバイオマス量の測定、油脂の測定等を行い、油脂含有率を算定し、最終的に明暗周期条件での培養によってオイルを高蓄積する変異株を選定することができる。
(本発明のオイル高蓄積株の特徴)
(1)培養
変異育種により獲得した各オイル高蓄積株は、1%〜5%CO条件、好ましくは1.5%〜2.5%CO条件、より好ましくは2%CO条件で、15℃〜40℃、好ましくは20℃〜35℃、より好ましくは25℃〜30℃の条件で、フラスコ等の培養器中、後述する培地に懸濁し、光合成が可能な光条件下で、2〜7日間、好ましくは3〜5日間、より好ましくは4日間程度の前培養を行い、順調に生育し、細胞数が十分となったところで、拡大培養を行い、10〜20日間、好ましくは12〜16日間、より好ましくは14日間程度、上記同様光合成が可能な光条件下にて本培養を行う。
光条件については、最終的に回収できる油脂量が多くなる条件が好ましく、光合成可能な条件で継続培養してもよいし、100〜250μmol photons/m・秒程度の昼白色蛍光灯による12h明期、及び12h暗期等の昼夜周期条件で培養してもよい。なお、本発明のオイル高蓄積株は、屋外での培養を想定した昼夜周期条件でも十分量の油脂蓄積が得られる点が大きな特徴である。
本発明に用いる培養方法としては、静置培養法を用いることも可能であるが、藻類の藻体生産性と油脂成分の生産性を考えると、振盪培養法又は深部通気撹拌培養法による培養が好ましい。振盪培養は、往復振盪であっても、回転振盪であってもよい。
上記培養に用いられる培地としては、クラミドモナス属に属する藻類が生育する可能な培地であれば特に制限はないが、海水塩を含む培地が、海水、濃縮海水、又は人工海水を含むものが油脂産生能を向上させることから好ましい。例えば、基礎培地としては、Modified Bold 6N(MB6N)培地、TAP培地、HSM培地、BG−11培地、BBM培地等が挙げられ、高効率で油脂成分を産生できることから、MB6N培地がより好ましい。さらに、これらの基礎培地に0.5〜5重量%、好ましくは2〜5重量%、より好ましくは2〜3重量%のsea salt(海水塩)を添加したものを用いることができる。なお、藻類の大量培養を想定した場合には、利便性のある海水を培地のベースとして用いることもできる。
本発明で使用が可能なsea salt(海水塩)は、公知慣用の海水塩を挙げることができる。本発明で用いられる海水塩は、海水を蒸発乾固させて得られたものであっても、海水や海水の濃縮液を用いてもよいが、培地中に含まれる濃度を調整するためには、海水の固形分である海水塩を用いる方がより好ましい。
本発明のオイル高蓄積株に用いられる培養の特徴として、培地中の窒素源濃度が低い条件下での培養が挙げられる。窒素源濃度が低い条件下での培養は、増殖に伴う窒素消費による窒素欠乏状態下における培養であっても、藻体を窒素源濃度が低い培地に移植させる等による培養であってもよい。窒素源濃度が低い条件下での培養により、高効率で油脂成分を産生させることが可能となる。なお、本発明において、培地中に含まれる窒素源濃度は、培地中に含まれる硝酸塩の濃度を波長220nmにおける光学密度(OD220)を指標として測定する方法、イオンセンサー、発色試薬による吸光度測定等の方法により測定することができる。
(2)バイオマス量
本発明において、バイオマス量は、細胞の乾燥重量を指標として算出することができる。バイオマス量の測定は、当業者に公知の方法により行うことができ、その方法は限定されないが、例えば以下のように行うことができる。即ち、上記培養によって得られたオイル高蓄積株の細胞を秤量済みマイクロチューブに必要量回収し、蒸留水で洗浄してから終夜凍結乾燥する。乾燥後、再度マイクロチューブの重量を測定し、空のマイクロチューブ重量を減算することで回収した乾燥藻体の乾燥重量(mg)を求める。さらにこれを測定に使用した培養液量で除算することで培養液中に含まれるバイオマス量(g/L)を算出することができる。秤量後、乾燥藻体は後述するデンプン、油脂、色素類の測定に用いる。本発明のオイル高蓄積株のバイオマス量は、昼夜条件での培養によっても、十分な量となる。
(3)デンプン量
本発明のオイル高蓄積株は、デンプン量が少ないことが特徴であり、12h明期/12h暗期の昼夜周期条件におけるデンプン含有率が20重量%以下である。本発明において、デンプン(炭水化物)の測定は、当業者に公知の方法により行うことができ、その方法は限定されないが、例えば以下のように行うことができる。なお、デンプンの測定には、上記バイオマスの測定実験で準備した乾燥藻体を用いる。この乾燥藻体をガラスバイアルに秤量し、4%(w/v)硫酸を加える。120℃で30分処理し、温度が十分下がったら22%(w/v)炭酸ナトリウムを添加して中和する。中和液をマイクロチューブに移し、遠心操作により固形物を除去する。上清100μLをフィルター濾過し、高速液体クロマトグラフィー(high performance liquid chromatography、HPLC)によりグルコース含有量を測定する。同様の処理を可溶性デンプンについても実施することで検量線を作成し、それをもとに乾燥藻体中に含まれるデンプン含有率(重量%)を算出することができる。
なお、本発明において、「12h明期/12h暗期の昼夜周期条件におけるデンプン含有率」とは、14日間の本培養において達成したデンプン含有率の最大値をいう。
(4)油脂
本発明のオイル高蓄積株は、油脂含有率が高いことが特徴であり、12h明期/12h暗期の昼夜周期条件における油脂含有率が通常20重量%以上であり、30重量%以上であることが好ましく、40重量%以上であることがより好ましい。また、本発明のオイル高蓄積株は、油脂生産速度が速いことも特徴であり、12h明期/12h暗期の昼夜周期条件における油脂生産速度が120g/m/日以上であり、150g/m/日以上であることが好ましく、180g/m/日以上であることがより好ましい。
本発明において、油脂の測定は、当業者に公知の方法により行うことができ、その方法は限定されないが、例えば以下のように行うことができる。なお、油脂の測定には、上記バイオマスの測定実験で準備した乾燥藻体を用いる。この乾燥藻体を破砕専用マイクロチューブに秤量して測定に供する。0.5mm径ガラスビーズをマイクロチューブに加えてマルチビーズショッカー装置により細胞を破砕する。細胞中の油脂を、脂肪酸メチル化キット(ナカライ社製等)を用いてメチル化し、それによって生成した脂肪酸メチルエステルをガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)により定量し、乾燥藻体当たりの油脂含有率(重量%)、培養液当たりの油脂(オイル)生産量(mg/L)を算出することができる。なお、培養液当たりの油脂(オイル)生産量(mg/L)は、油脂含有率とバイオマス量の掛け算によって算出される。また、オイル高蓄積株を経時的に採取し、乾燥藻体当たりの油脂含有率(重量%)、培養液当たりの油脂(オイル)生産量(mg/L)の経時的な増減を確認することができる。さらに、単位培養液(L)から1日に得られる油脂量を測定することで、油脂(オイル)生産速度(mg/L/day(日)を算出することができる。なお、油脂生産速度は培養0日目を起点として、培養にかかった日数で油脂生産量(lipid production,mg/L)を割り算することにより算出することができる。
なお、本発明において、「12h明期/12h暗期の昼夜周期条件における油脂生産速度」とは、14日間の本培養において達成した油脂生産速度の最大値をいう。また、「12h明期/12h暗期の昼夜周期条件における油脂含有率」とは、14日間の本培養において達成した乾燥藻体当たりの油脂含有率の最大値をいう。
本発明のオイル高蓄積株が蓄積する油脂としては、パルミチン酸、リノール酸、ステアリン酸、リノレン酸、オレイン酸等の脂肪酸によって構成されるトリグリセリドが挙げられ、燃焼効率が高く、バイオディーゼル燃料等として、有用である。
(5)色素類
本発明のオイル高蓄積株は、各種色素類を含み、特にルテイン及びβカロテンの含有量が多いことが特徴である。本発明において、色素類の測定は、当業者に公知の方法により行うことができ、その方法は限定されないが、例えば以下のように行うことができる。上記バイオマスの測定実験で準備した乾燥藻体を破砕専用マイクロチューブに秤量し、マルチビーズショッカー等を用いて破砕する。具体的には、例えば、ガラスビーズ300μL分とアセトン:メタノール=1:1混合液500μLを添加し、2,700rpm,4℃,60sec ON+60sec OFF条件で30回程度処理することにより行う。破砕液を遠心分離(10,000×g,1min,4℃)し、上清を新しいマイクロチューブに回収する。破砕専用マイクロチューブに残った沈殿物にアセトン:メタノール=1:1混合溶液を加え、もう一度遠心分離操作(10,000×g,1min,4℃)により上清を回収する。この抽出操作を数回行い、破砕液上清を回収する。破砕液上清のうちの一部を新しいマイクロチューブに移し、遠心エバポレーターを用いて終夜乾固する。乾固物をクロロホルムに再溶解し、クロロホルム:アセトニトリル=2:8混合液及び20μM トランス−β−アポ−8’−カロテナール(内部標準として使用)を添加し、これを専用ガラスバイアルに100μL移し、超高速高分離液体クロマトグラフィー/フォトダイオードアレイ検出器(ultra−performance liquid chromatography/photo−diode−array、UPLC/PDA)による定量分析を行う。濃度既知の標準品を同条件で分析し、保持時間、波長445nmにおける吸収スペクトル、ピークエリア値を指標として同定と定量を行う。各種色素(ルテイン、βカロテン、クロロフィルa、クロロフィルb)の解析を行うことができる。
本発明のオイル高蓄積株としては、12h明期/12h暗期の昼夜周期条件における油脂生産速度が150g/m/日以上、同条件における油脂含有率が30重量%以上、同条件におけるデンプン含有率が20重量%以下であるクラミドモナス・スピーシーズJSC4株の変異株が好ましく、このようなオイル高蓄積変異株としては、配列番号1〜625で表される配列とそれぞれ少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは95%、更に好ましくは97%、より更に好ましくは99%、特に好ましくは100%の相同性を有するゲノム配列を有するクラミドモナス・スピーシーズがより好ましい。
<オイル高蓄積株を用いた油脂の製造方法>
本発明は、上述の本発明のオイル高蓄積株を用いた油脂の製造方法も含む。本発明の油脂の製造方法は、本発明のオイル高蓄積変異株を培養する工程、及び生産された油脂を回収する工程を含むことを特徴とする。
(本発明のオイル高蓄積変異株を培養する工程)
本工程については、上述のオイル高蓄積変異株の項の培養の説明を参照されたい。
(生産された油脂を回収する工程)
上記培養工程で得られたオイル高蓄積株から油脂成分を抽出する方法としては、通常の油脂の抽出方法を用いることができ、特に、Folch法やBligh−Dyer法に代表されるクロロホルム/メタノール系等の有機溶媒による一般的な抽出方法を用いることが可能であるが、これらに限らない。
<オイル高蓄積有用藻類株の育種方法>
本発明は、オイル高蓄積有用藻類株の育種方法も含む。即ち、本発明のオイル高蓄積有用藻類株の育種方法は、クラミドモナス属に属する藻類にイオンビームを照射してランダムな突然変異を導入する工程、及び得られた変異細胞集団から油脂含有率が高い変異株、好ましくは20重量%以上、より好ましくは30重量%以上である変異株を分離する工程を有することを特徴とする。本発明の方法によると、油脂含有率が高く、油脂の生産効率の高い有用なクラミドモナス属に属する藻類株を得ることができる。
(突然変異を導入する工程)
本工程においては、クラミドモナス属に属する藻類の細胞集団に対して、イオンビームを照射する。照射するイオンビームとしては、突然変異を導入可能なものであれば特に限定されないが、例えば、炭素(C)、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)あるいはアルゴン(Ar)等が挙げられ、藻類への変異導入の効率の観点から、125+が好ましい。クラミドモナス属に属する藻類に125+イオンビームを照射する場合、線量の範囲は、10〜250Gyが好ましく、20〜75Gyがより好ましい。イオンビーム照射後は、数日間の回復培養後、得られた細胞集団を変異体ライブラリとし、後述するスクリーニングを行うことができる。なお、上記回復培養は、例えば、適切な光強度の昼白色蛍光灯等の条件下で3日間以上静置することにより行われる。
(変異株を分離する工程)
本工程においては、上記工程で得られた変異細胞集団から、油脂含有率が高い変異株、好ましくは20重量%以上、より好ましくは30重量%以上である変異株を分離する。具体的な分離方法としては、オイル高蓄積株を蛍光活性セルソーター(fluorescence activated cell sorter,FACS)を用いて分離することができる。目的とする条件、例えば昼夜条件で培養した変異細胞集団の細胞内油滴を蛍光色素BODIPY、ナイルレッド等で染色し、蛍光強度の強い細胞をFACSにて分取する。個々の細胞のBODIPY蛍光、ナイルレッド蛍光等の細胞内油滴の染色に由来する蛍光及びクロロフィルの自家蛍光(細胞サイズの指標として利用)の強度をFACSで解析し、クロロフィル自家蛍光あたりのBODIPY蛍光、ナイルレッド蛍光等の細胞内油滴の染色に由来する蛍光が高い細胞(上位1〜0.5%)を分取することができる。また、上記のような条件での培養とFACSによる分取を複数回繰り返し実施することで、目的とする細胞を濃縮することも可能である。
ここで、本発明において設定される培養条件のうち、昼夜条件とは、屋外での日照条件、或いは、屋外での日照条件に近い条件を人工的に整えた条件(昼夜周期条件)、例えば、日光の光に近い光量子束密度である50μmol photons/m・秒 〜 2,000μmol photons/m・秒で12時間点灯し、その後12時間は消灯するというサイクルを繰り返す12h明期/12h暗期の昼夜周期条件、14時間点灯し10時間消灯する14h明期/10h暗期の昼夜周期条件、16時間点灯し8時間消灯する16h明期/8h暗期の昼夜周期条件等が挙げられる。明期及び暗期の時間は、適宜変更することができるが、一般的な昼夜周期条件として、明期が6〜1416時間、暗期が18〜48時間の範囲であることが好ましい。
点灯時の光量子束密度としては、通常50μmol photons/m・秒〜2,000μmol photons/m・秒の範囲であり、通常80μmol photons/m・秒〜1,000μmol photons/m・秒の範囲であることが好ましく、通常100μmol photons/m・秒〜500μmol photons/m・秒の範囲であることがより好ましい。
本工程により得られた分取後の細胞は寒天培地に播種し、光強度50μmol photons/m・秒程度の昼白色蛍光灯下でコロニーを形成するまで静置培養する。一次スクリーニングで得られた候補株については、マイクロウェルプレートで培養し、細胞から油脂を蓄積してガスクロマトグラフィー質量分析(gas chromatography−mass spectrometry,GC−MS)で解析することで、目的の条件、例えば昼夜条件におけるオイル高蓄積株の二次スクリーニングを実施することができる。二次スクリーニングにおいては、上述の方法に従ってバイオマス量の測定、油脂の測定等を行い、油脂含有率を算定し、最終的に目的の条件、例えば明暗周期条件での培養によってオイルを高蓄積する変異株を選定することができる。
以下の実施例にて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
1.オイル高蓄積株の変異育種
(1)突然変異の導入
昼夜条件におけるオイル高蓄積株(KOR)の育種は、クラミドモナス・スピーシーズJSC4株(Chlamydomonas sp. JSC4)を親株として実施した。突然変異の導入は国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構高崎量子応用研究所のイオン照射研究施設(TIARA: Takasaki Ion accelerators for Advanced Radiation Application)にてJSC4細胞集団にイオンビームを照射することで実施した。
具体的には、寒天培地から藻体を適量取り、下記条件にて3日間の前培養を実施した。波長750nmにおける光学密度(OD750)が0.04となるように継代し、下記条件にてさらに2日間の本培養を実施した。培養後、OD750が0.5となるようにTAP培地で希釈し、希釈液100μLをTAP寒天培地に塗布した。AVFサイトクロンにて加速したイオンビーム125+を線量50Gyで寒天培地上の藻細胞に照射した。イオンビームの照射後、光強度50μmol photons/m/sの昼白色蛍光灯下で3日間以上静置することで回復培養を実施した。これをJSC4の変異体ライブラリとして以下の実験に使用した。
(培養条件)
2段式フラスコを使用
培地:70mL mTAP
CO:2%CO
光:100μmol photons/m/s蛍光灯
温度:30℃
撹拌:100rpm
(2)一次スクリーニング
昼夜条件におけるオイル高蓄積株の一次スクリーニングは蛍光活性セルソーター(fluorescence activated cell sorter,FACS)を用いて実施した。昼夜条件で培養した細胞の細胞内油滴を蛍光色素BODIPYで染色し、蛍光強度の強い細胞をFACSにて分取した。
上記で準備した変異体ライブラリの寒天培地から藻体を適量取り、下記条件にて3日間の前培養を実施した。OD750が0.04となるように継代し、下記条件にてさらに7日間の本培養を実施した。培養後の細胞を回収し、5×10cells/mLとなるようにPBSに懸濁した。これに蛍光色素BODIPYを50μMとなるように添加して暗所に5分間置いて細胞内油滴を蛍光染色した。個々の細胞のBODIPY及びクロロフィルの自家蛍光(細胞サイズの指標として標準化に利用)の強度をFACS(SONY SH800)で解析し、クロロフィル自家蛍光あたりのBODIPY蛍光が高い細胞(上位1〜0.5%)を分取した。蛍光の検出に使用したフィルターセットを下記に示す。分取後の細胞はTAP寒天培地に播種し、光強度50μmol photons/m/sの昼白色蛍光灯下でコロニーを形成するまで静置培養した。
(培養条件)
2段式フラスコを使用
培地:70mL MB6N+2%sea salt
CO:2%CO
光:250 μmol photons/m/s 蛍光灯(12h明期+12h暗期の昼夜周期条件)
温度:30℃
撹拌:100rpm
(FACS解析条件)
BODIPY蛍光:励起:488nmレーザー
蛍光:PEフィルター(570nm〜630nm)
クロロフィル蛍光:励起:488nmレーザー
蛍光:PerCP−Cy5.5フィルター(690nm〜750nm)
(3)二次スクリーニング
マイクロウェルプレートで候補株を培養し、細胞から油脂を蓄積してガスクロマトグラフィー質量分析(gas chromatography−mass spectrometry,GC−MS)で解析することで、昼夜条件におけるオイル高蓄積株の二次スクリーニングを実施した。
一次スクリーニングで獲得した候補変異株の藻体を寒天培地から適量取り、下記条件にて4日間の前培養を実施した。OD750が0.1となるように継代し、下記条件にてさらに8日間の本培養を実施した。本培養の4日目に各ウェルから全細胞を回収し、MB0N+2%sea saltに再懸濁して培養を継続した。培養後、各ウェルから2mLの培養液を回収し、後述する「バイオマスの測定」、及び「油脂の測定」の手順に従い油脂含有率を測定した。最終的に明暗周期条件での培養によってオイルを高蓄積する変異株としてKOR1、KOR2、KOR3、KOR4の4株を取得した。
(培養条件)
12ウェルプレートを使用した。
培地:前培養:3mL MB6N+2%sea salt
本培養1:3mL MB6N+2%sea salt
本培養2:3mL MB0N+2%sea salt
CO:2%CO
光:100μmol photons/m/s 白色LED(12h明期+12h暗期の昼夜周期条件)
温度:30℃
撹拌:100rpm
2.オイル高蓄積株の評価
(1)オイル高蓄積株の評価に向けた培養
変異育種により獲得した各オイル高蓄積株(KOR1〜4)は、本項に示す共通の培養条件にて培養し、下記の方法により評価した。
寒天培地から藻体を適量取り、下記条件にて4日間の前培養を実施した。OD750が0.04となるように継代し、下記条件にてさらに14日間の本培養を実施した。
(培養条件)
2段式フラスコを使用した。
培地:MB6N+2% sea salt
CO:2%CO
光:250μmol photons/m/s 昼白色蛍光灯(12h明期+12h暗期の昼夜周期条件)
温度:30℃
撹拌:100rpm
(2)電子顕微鏡解析
油脂蓄積期の細胞における油滴及びデンプン粒の観察には、化学固定法と樹脂包埋超薄切片法を組み合わせた電子顕微鏡解析を利用した。解析には上記手順(1)で準備した培養10.5日目のJSC4及びKOR1細胞を用いた。培養後の細胞を固定液 (2% パラホルムアルデヒド、2% グルタルアルデヒド、50 mMカコジル酸バッファーpH=7.4)に懸濁し、4℃に終夜置くことで固定した。JSC4及びKOR1細胞の電子顕微鏡写真を図1に示す。
図1に示すとおり、親株であるJSC4には、油滴と共に多数のデンプン粒が形成されていたのに対して、KOR1株には、大きなデンプン粒は形成されず、多数の油滴が蓄積されていた。
(3)窒素源の測定
上記オイル高蓄積株の評価に向けた培養実験で使用したMB6N+2%sea salt培地に含まれる窒素源は硝酸ナトリウムNaNOのみである。NaNOは波長220nmの光をよく吸収するため、培地中に含まれるNaNO量の測定では波長220nmにおける光学密度(OD220)を指標とした。遠心分離操作によって細胞を除去することで培養液上清を準備した。培養液上清を蒸留水で適度に希釈し、OD220を測定した。濃度既知のNaNOを含むMB6Nを用いて検量線を作成し、これをもとに培養液上清中に含まれるNaNO濃度を算出した。結果を図2に示す。
図2に示すとおり、培養液上清中に含まれるNaNO濃度は、いずれの株においても違いが見られず、培養4日目までに完全に消費された。
(4)バイオマスの測定
バイオマス量は細胞の乾燥重量を指標とした。上記オイル高蓄積株の評価に向けた培養実験にて培養した細胞を秤量済みマイクロチューブに必要量回収し、蒸留水で1回洗浄してから終夜凍結乾燥した。乾燥後、再度マイクロチューブの重量を測定し、空のマイクロチューブ重量を減算することで回収した細胞の乾燥重量(mg)を求めた。さらにこれを測定に使用した培養液量で除算することで培養液中に含まれるバイオマス量(g/L)を求めた。結果を図3に示す。なお、秤量後、乾燥藻体は後述するデンプン、油脂、色素類の測定に供した。
図3に示すとおり、KOR1〜4のバイオマス量は、NaNOが枯渇した培養4日目までは親株であるJSC4と同程度で推移した。NaNOが枯渇した培養4日目以降のバイオマス量は、JSC4が、KOR1〜4のいずれの株よりも多い結果となった。
(5)デンプンの測定
デンプン(厳密には炭水化物)の測定には上記バイオマスの測定実験で準備した乾燥藻体を用いた。約3mgの乾燥藻体を5mL容ガラスバイアルに秤量し、1mLの4%(w/v)硫酸を加えた。120℃で30分処理し、温度が十分下がったら22%(w/v)炭酸ナトリウムを1mL添加して中和した。中和液1mLを新しいチューブに移し、遠心操作により固形物を除去した。上清100μLをフィルター濾過し、高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography、HPLC)によりグルコース含有量を測定した。同様の処理を可溶性デンプンについても実施することで検量線を作成し、それをもとに乾燥藻体中に含まれるデンプン含有率を算出した。結果を図4に示す。
図4に示すとおり、乾燥藻体におけるデンプン含有率は、親株であるJSC4に比べて、KOR1〜4のいずれの株も顕著に低い値となり、培養日数によって変化があるものの、最も高くなる時期でも20重量%未満であった。それに対して、JSC4のデンプン含有率は、40重量%前後であり、最も高い時期には50重量%を超えていた。
(6)油脂の測定
油脂の測定には上記バイオマスの測定実験で準備した乾燥藻体を用いた。約3mgの乾燥藻体を破砕専用マイクロチューブに秤量して測定に供した。0.5mm径ガラスビーズをマイクロチューブに加えてマルチビーズショッカー装置により細胞を破砕した。細胞中の油脂を脂肪酸メチル化キット(ナカライテスク社製)を用いてメチル化し、それによって生成した脂肪酸メチルエステルをガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)により定量した。乾燥藻体当たりの油脂含有率の結果を図5に示す。また、培養液当たりの油脂(オイル)生産量(mg/L)及び油脂(オイル)生産速度(mg/L/day(日))の経時変化を図6及び7に示す。
図5に示すとおり、乾燥藻体における油脂含有率は、親株であるJSC4に比べて、培地中のNaNOが枯渇した培養4日目以降、KOR1〜4の方が顕著に高い値となり、培養日数によって変化があるものの、最も高くなる時期では40重量%を超える株もあった。それに対して、JSC4の油脂含有率は、10〜25重量%の範囲であり、最も高い時期でも30重量%未満であった。また、図6に示すとおり、培養液当たりの油脂生産量は、親株であるJSC4に比べて、KOR1〜4では、培養の早い時期から高い数値を示しており、図7に示すとおり、親株であるJSC4に比べて、KOR1〜4の油脂生産速度が顕著に高いことが示された。
各種脂肪酸(パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、その他の脂肪酸)の含有量(重量%)についての結果を図8〜13に示す。
図8〜13に示すとおり、乾燥藻体における各種脂肪酸の含有率は、いずれの脂肪酸についても、親株であるJSC4に比べて、KOR1〜4の方が顕著に高い値であった。
なお、昼夜条件での結果を図2〜5に示したが、同様の比較試験を継続光条件でも行ったところ、親株であるJSC4に比べてKOR1〜4の方が、同様にオイル蓄積速度が速く、オイル含有率は高く、デンプン含有率は低い結果となった。継続光条件においてもKOR1〜4においてオイル生産量とオイル生産速度が向上していることがわかった(データは示していない)。
(7)色素類の測定
色素類の測定には上記バイオマスの測定実験で準備した乾燥藻体を用いた。約5mgの乾燥藻体を破砕専用マイクロチューブに秤量し、ガラスビーズ300μL分とアセトン:メタノール=1:1混合液500μLを添加した。細胞の破砕はマルチビーズショッカーを用いて次の条件にて実施した(2,700rpm,4℃,60sec ON+60sec OFF条件で30回処理)。破砕液を遠心分離(10,000×g,1min,4℃)し、上清を新しいマイクロチューブに回収した。破砕専用マイクロチューブに残った沈殿物にアセトン:メタノール=1:1混合溶液500μLを加え、もう一度遠心分離操作(10,000×g,1min,4℃)により上清を回収した。この抽出操作を計4回行い、計2mLの破砕液上清を回収した。破砕液上清のうち330μLを新しいマイクロチューブに移し、遠心エバポレーターを用いて終夜乾固した。乾固物を50μLのクロロホルムに再溶解し、425μLのクロロホルム:アセトニトリル=2:8混合液及び25μLの20μM トランス−β−アポ−8’−カロテナール(内部標準として使用)を添加した。これを専用ガラスバイアルに100μL移し、UPLC/PDAによる定量分析に供した。分析条件は下記の通りである。濃度既知の標準品を同条件で分析し、保持時間、波長445nmにおける吸収スペクトル、ピークエリア値を指標として同定と定量を行なった。
(分析条件)
UPLC/PDA
Mobile phase
A: MeOH:HO=1:1(v/v)
B: AcCN
Gradient
Time (min) %A %B
0 50 50
9 0 100
Column
BEH shield RP18(1.7μm,2.1mm×100mm)
Flow rate 0.6mL/min
Column temp. 30℃
Detector PDA(445nm)
各種色素(ルテイン、βカロテン、クロロフィルa、クロロフィルb)の解析結果を図14〜17に示す。
図14〜15に示すとおり、親株であるJSC4に比べてKOR1において、ルテイン及びβカロテンの含有量が培養6日目以降に増加していることが分かった。

Claims (9)

  1. 12h明期/12h暗期の昼夜周期条件における油脂含有率が30重量%以上である、藻類のオイル高蓄積変異株。
  2. 12h明期/12h暗期の昼夜周期条件におけるデンプン含有率が20重量%以下である、請求項1に記載のオイル高蓄積変異株。
  3. 12h明期/12h暗期の昼夜周期条件における油脂生産速度が150g/m/日以上である、請求項1又は2に記載のオイル高蓄積変異株。
  4. 上記藻類が、クラミドモナス・スピーシーズである、請求項1から3のいずれか1項に記載のオイル高蓄積変異株。
  5. 上記クラミドモナス・スピーシーズが、配列番号1〜625で表されるDNA配列とそれぞれ80%以上の相同性を有するDNA配列を有する、請求項4に記載のオイル高蓄積変異株。
  6. 上記クラミドモナス・スピーシーズが、配列番号1〜625で表されるDNA配列を有する、請求項4又は5に記載のオイル高蓄積変異株。
  7. 配列番号1〜625で表されるDNA配列を有する、藻類のオイル高蓄積変異株。
  8. 請求項1から7のいずれか1項に記載のオイル高蓄積変異株を培養する工程、及び生産された油脂を回収する工程を含む、油脂の製造方法。
  9. クラミドモナス属に属する藻類にイオンビームを照射してランダムな突然変異を導入する工程、及び得られた変異細胞集団から油脂含有率が30重量%以上である変異株を分離する工程
    を含む、オイル高蓄積有用藻類株の育種方法。
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