JP6712893B2 - 油脂高含有ユーグレナの製造方法 - Google Patents
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Description
このように、葉緑体の機能に関係する以外のユーグレナ変異体はこれまで獲得されておらず、またユーグレナのワックスエステルの生産性を向上可能な品種改良方法は、これまで知られていない。
従来、細胞壁をもたず、比較的サイズが大きいユーグレナは、処理中に細胞が損傷を受け易いため、蛍光標識細胞分取処理を施すことが困難であったが、本発明では、このように構成しているため、ユーグレナに、ハイスループットによる蛍光標識細胞分取処理を施すことが可能となった。
その結果、本発明の油脂高含有ユーグレナの製造方法の処理を経た後のユーグレナ生細胞の生存率を高く維持することが可能となる。
このように、ボロンジピロメテンを用いるため、天然の細胞機能に干渉を生じず、毒性もなく、ユーグレナ生細胞内の中性脂質の染色が可能となる。
このように構成することにより、ユーグレナ生細胞内の油脂含有量を更に高めることが可能となる。
本発明の製造方法で製造される油脂高含有ユーグレナは、好気的条件で培養したときの藻体内の中性脂質含有量が、野生型のユーグレナを好気的条件で培養したときの野生型のユーグレナ藻体内の中性脂質含有量よりも高く、好気的条件で培養したときの藻体内の炭水化物含有量が、前記野生型のユーグレナを好気的条件で培養したときの野生型のユーグレナ藻体内の炭水化物含有量よりも低く、野生型のユーグレナの変異株である。また、本発明の製造方法で製造される油脂高含有ユーグレナは、ワックスエステルを好気的条件下で合成するワックスエステル合成亢進ユーグレナである。
文中で特に断らない限り、本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解される意味と同様の意味を有する。本明細書に記載されたものと同様又は同等の任意の方法及び材料は、本発明の実施又は試験において使用することができるが、好ましい方法及び材料を以下に記載する。
本発明において、原料となる「ユーグレナ」は、動物学や植物学の分類でユーグレナ属(Euglena)に分類される種、その変種、その変異種のすべてを含む。
ここで、ユーグレナ属(Euglena)の微生物とは、動物学では原生動物門(Protozoa)の鞭毛虫綱(Mastigophorea)、植物鞭毛虫亜綱(Phytomastigophorea)に属するミドリムシ目(Euglenida)のユーグレノイディナ亜目(Euglenoidina)に属する微生物である。一方、ユーグレナ属の微生物は、植物学ではミドリムシ植物門(Euglenophyta)のミドリムシ藻類綱(Euglenophyceae)に属するミドリムシ目(Euglenales)に属している。
ユーグレナ属は、池や沼などの淡水中に広く分布しており、これらから分離して使用してもよく、また、すでに単離されている任意のユーグレナ株を使用してもよい。
本実施形態の油脂高含有ユーグレナの製造方法は、図1のフローに従い、次の工程を順次実施することにより行われる。
まず、変異原を用いて、ユーグレナ細胞に対して突然変異誘発処理を行う突然変異誘発工程を行う。
エネルギー線の中でもエネルギー付与率が高く、大きな影響を生体に与える重イオンビームを用いると、短時間での効率的な変異原処理が可能となり、効率よく油脂高含有ユーグレナを得ることができる。
この突然変異誘発工程を経ることにより、ユーグレナ個々の細胞にランダムに変異が導入された変異体からなる集団が形成される。
蛍光試薬としては、細胞中に蓄積される中性脂質を染色する蛍光試薬であって、細胞への毒性のないものであれば、どのようなものでも用いることができる。蛍光試薬としては、ボロンジピロメテン(boron-dipyrromethene,BODIPY(登録商標))、好ましくは、ボロンジピロメテンの一つであるBODIPY(登録商標)505/515 (4,4-Difluoro-1,3,5,7-Tetramethyl-4-Bora-3a,4a-Diaza-s-Indacene)を用いると好適である。また、ボロンジピロメテンの代わりに、π拡張BODIPY(登録商標)を用いてもよい。
前段の個々の細胞の蛍光を定量的に測定する部分は、流体を使用した細胞測定法の一般名称であるフローサイトメトリーとほぼ同義である。
また、フローサイトメトリーによる測定から、目的の細胞を発見した上でその細胞を含む液滴を静電力により分取するまでのプロセスを、蛍光標識細胞分取と称する。蛍光標識細胞分取では、細胞分析により測定した生物学的特性に基づき、特定の細胞だけを生きたまま無菌的に分取することが可能である。フローサイトメトリーの機能と分取機能を兼ね備えた機器は、セルソーターと呼ばれている。
本変異体濃縮工程では、後者のセルソーターを用いる。
図2の装置1は、細胞浮遊液チューブ2及びシース液チューブ3の排出口が上端に連結され、下端に先端が絞り込まれたノズル5を備えたフローセル4を備えている。フローセル4は、上方から流入するシース流の中心に細胞浮遊液を流して、先端のノズル5から細胞/シース流が層流のまま飛び出して下方へ落下するように構成されている。
フローサイトメトリーでは、細胞に光源6からレーザーを照射して、通過した細胞から発せられた散乱光と蛍光を検出器7で検出し、検出した情報を用いて細胞の特性分析を行う。
なお、従来、E. gracilisに対する、フローサイトメトリーの適用については、固定化の後プロピジウムヨウ化物又はHoechst 33258で染色して、細胞分裂周期を分析するために用いられた例がある。しかしながら、生細胞へのフローサイトメトリーの適用例はなく、前述のようにE. gracilisが比較的大きく、せん断力に弱いことから、生細胞にフローサイトメトリー及び蛍光標識細胞分取を適用することは困難であった。
この変異体濃縮工程では、蛍光標識細胞分取において、蛍光の強度が所定強度以上、例えば、蛍光の強度が、上位0.1〜2.0%,好ましくは、0.3〜1.0%,更に好ましくは、0.4〜0.6%,更に好ましくは、0.5%以上の強度である細胞を分取する。これにより、中性脂質を多く含有する細胞を分取できる。
この工程では、後述するCM培地又はKH培地等の公知の培地で、5日〜10日間,好ましくは1週間培養する。
次いで、変異体分離培養工程で樹立した変異株について、フローサイトメトリーにより、最もよく染色された株を更なる特性評価のために選択する選択工程を行う。
本選択工程では、上記変異体濃縮工程で記載したフローサイトメーターを用い、ノズルとして、ノズル径が70μmより大きく、150μm以下のもの、好ましくは、100μm以上であり、130μm以下のものを用いる。
本実施形態の油脂高含有ユーグレナの製造方法で得られる油脂高含有ユーグレナは、好気的条件で培養した場合には、7〜9重量%、好気的条件で培養後に4日間低酸素培養した場合には、17〜19重量%の油脂を含み、突然変異誘発工程前の原料ユーグレナに対し、好気的条件で培養後に4日間低酸素培養した場合の油脂含有量が40%程度高いものである。
また、好気的条件で培養した場合には、23〜27重量%、好気的条件で培養後に4日間低酸素培養した場合には、4〜6重量%の炭水化物を含み、突然変異誘発工程前の原料ユーグレナに対し、好気的条件で培養後に4日間低酸素培養した場合の炭水化物量が66%程度低いものである。
なお、低酸素培養とは、供給される酸素量が低減された条件下での培養をいい、実質的に酸素を供給しない嫌気状態も含む。
本実施例では、ユーグレナとして、IAM(日本)より提供され、株式会社ユーグレナで10年間維持されたE. gracilis Z株(野生株)(以下、「WT Z株」という。)及びOda, Y.ほかの文献(Utilization and Toxicity of Exogenous Amino Acids in Euglena gracilis. J. Gen. Microbiol. 128, 853-858 (1982).)に記載された葉緑体欠損株のE. gracilis SM-ZK株を用いた。
WT Z株は、Cramer, M. & Myers, Jの文献(Growth and Photosynthetic Characteristics of Euglena gracilis. 17, 384-402 (1952).)に記載の通りに作製したCM培地(pH3.5)で維持され、SM-ZK株は、Koren, L. E. & Hutner, S. H.の文献(High-yield media for photosynthesizing Euglena gracilis Z. J. Protozool. (1967).)に記載の通りに作製したKH培地(pH3.5)で維持された。
E. gracilisの独立栄養培養及び従属栄養培養では、それぞれ、CM培地及びKH培地を用いた。
ターゲット細胞を蛍光色素及び特定のプローブで染色する蛍光発光は、細胞の同定のために一般的に用いられており、蛍光標識細胞分取の重要な要件である。微細藻類では、細胞内光合成色素が、しばしば強い自家蛍光を発してターゲット細胞の蛍光標識細胞分取認識のノイズとなるため、適切な蛍光色素及び検出テクニックを注意深く選定することが、不可欠である。
蛍光標識細胞分取の必須の要件を決定するため、E. gracilis細胞、特に、独立栄養及び従属栄養条件下で培養されたWT Z株と従属栄養条件下で培養された葉緑体欠損変異株SM-ZKを、350nm,488nm及び635nm(蛍光標識細胞分取において一般的に用いられる波長)の励起光で励起したときの自家蛍光を検討した。
自家蛍光測定には、CM培地又はKH培地で培養したWT Z株と、KH培地で培養した葉緑体欠損SM-ZK株とを用いた。それぞれの培地を遠心分離し(2,000 g, 30 sec)、水で3回洗浄した。105 E. gracilis染色細胞のサンプルを、水で、1mLになるように希釈した。株からの蛍光は、蛍光光度計(F-2500, Hitachi)を用い、350nm, 488nm, 又は635nmの励起光で測定した。BODIPY(登録商標)505/515染色細胞の自家蛍光測定には、低酸素培養を行った細胞及び低酸素培養を行っていない細胞を用いた。低酸素培養は、1.5 mLのチューブに細胞を107 cells/mL含むKH培地で満たし、23℃の暗下でチューブを2日間インキュベートすることにより行った。
図3に示すように、350nmでの励起により、各株において400nmの強い蛍光及び450nmの弱い蛍光が誘導された。弱い蛍光の原因は、NAD(P)Hと推測されるが、強い蛍光の原因は不明である。
図4に示すように、488nmでの励起により、WT Z株において700nmの蛍光が誘導された。葉緑体欠損SM-ZK株が、この励起波長において蛍光を発しなかったことから、この蛍光の原因は、クロロフィルと思われる。
図5に示すように、635nmでの励起により、WT Z株の700nmの蛍光が誘導された。
E. gracilis生細胞のスペクトル特性に続いて、脂溶性の緑色蛍光色素であるBODIPY(登録商標)505/515の性能について検討した。Nile Redは、脂質の収率などの天然の細胞機能に干渉を生じ、毒性を有するのに対し、BODIPY(登録商標)505/515は、Nile Redと同じように、細胞中に蓄積される中性脂質を染色するがその毒性が比較的低いことが知られる。
BODIPY(登録商標)505/515の原液は、DMSOにBODIPY(登録商標)505/515を1mMの濃度で溶解することにより調製した。原液は、使用直前に10μMになるよう水で希釈した。染色用の細胞は、前記の通り培養した。2,000gで30秒間遠心分離した細胞を、水に懸濁した。調製した10μMのBODIPY(登録商標)505/515溶液200μLを、水中に2×105cellを含む細胞懸濁液200 μLに添加した。混合物を穏やかに混合し、暗下で5分間インキュベートした。その後、細胞は、サンプルを2,000gで30秒遠心分離し水で再懸濁する操作を繰り返すことにより、水で3回洗浄した。染色細胞は、使用時まで、遮光保存した。
図6は、染色した細胞の蛍光スペクトルを示している。
また、図7は、染色した細胞の観察画像を示している。上段、下段は、それぞれ、BODIPY(登録商標)505/515で染色したE. gracilis細胞であって2日間低酸素条件下にあったものの微分干渉観察(DIC)画像及び蛍光画像である。図7では、細胞は、顆粒状の蛍光分布様式を有している。
更に、蛍光の定量化の為、蛍光標識細胞分取により、染色した細胞の細胞集団の分析を行った。
図8に示すように、低酸素条件下の細胞は、好気条件下で培養された細胞よりも、強い蛍光を示した。蛍光強度は、529/28バンドパスフィルター(透過中心波長529nm,平均透過率>90% over 28nm)を通過した光の強度を示す。
E. gracilisの自家蛍光及び蛍光の結果に続き、蛍光標識細胞分取装置の適したノズルの検討を行った。
細胞分取装置の代表的なノズル径である70μmでは、Euglenaがノズル部分で損傷を受け生細胞の分取は困難であった。これは、E. gracilisが細胞壁をもたず、比較的サイズが大きいことから、他の微細藻類と比較してせん断力に対して脆弱であるためと考えられる。このノズル部分が細胞分取装置中の細胞が通過する流路の最も細くなる部分であり、ここを太くすることで生細胞の分取が可能となる可能性が考えられた。一方で、このノズルの細さが細胞分取装置の処理速度を決定するために、処理速度と生存率がトレードオフになると考えられ、最適な条件を決定する必要があった。図9に、径70μmのノズルを用いたハイスループット分取後の細胞の顕微鏡画像を示す。この蛍光標識細胞分取における分析では、40%より多いE. gracilis細胞が、70μmのノズルを用いた分析及び分取プロセス中に死滅した。図9の矢印は、分取後の死細胞を示している。
図10は、3つの異なるノズルサイズに対するハイスループット分取後の細胞の生存率を示すグラフである。図10に示すように、100μm及び120μmのノズルではそれぞれウェルの97%(187 wells / 192 wells)及び99%(190 wells / 192 wells)がそれぞれ増殖していたのに対し、70μmのノズルではウェルの57%が増殖するにとどまっていた。この結果、径が70μmより大きいノズル,好ましくは、100μmのノズルを利用することで十分な生存率が得られることを確認した。
BODIPY(登録商標)505/515での脂質染色及びハイスループット分取の結果は、蛍光標識細胞分取が、脂質含量に基づくE. gracilisの品種改良に効果的なハイスループットツールであることを示唆している。このことを実践するために、図1に示すように、好気的培養条件でもワックスエステルを生産する変異体を濃縮するスクリーニング手順をデザインした。
具体的には、E. gracilis細胞を50 GyのFe-イオンビームで照射して突然変異を誘導し、その後蛍光標識細胞分種により目的変異体を濃縮し、十分に濃縮された後に各変異体を単離し候補株とし、最後に候補株の表現型をそれぞれフローサイトメトリーにより調べ、最適な表現型を示した株を育種株として確立した。
E. gracilis細胞は、Feイオン照射により、突然変異誘発した。つまり、CM培地中のE. gracilis 細胞(4×105cells/mL) 1mLを、5×7cmのハイブリダイゼーションバッグに密閉し、理化学研究所のRIビームファクトリー(日本国埼玉県和光市)において、50GyでFeイオン(LET(線エネルギー付与):650keV/μm)照射した。培養物は、変異体選別の前に、各々が細胞105を含む4つの独立したグループに分け24ウェルプレートのKH培地1mL中で1週間リカバリーさせた。リカバリーさせた培養物は、29℃で100μmol photons/m2/secの連続照明下においた。
蛍光標識細胞分取による分析及び蛍光標識細胞分取には、蛍光励起セルソーター(MoFlo XDP,Beckman Coulter)を用いた。このセルソーターは、波長488nm(Sapphire, Coherent)及び波長642nm(CUBE, Coherent)の二つの半導体レーザーを装備していた。642nmの半導体レーザーは、使用しなかった。
各細胞からの蛍光シグナルは、光学フィルタで、各波長帯に分割し、一連の光電子増倍管(H957-27,浜松ホトニクス(株))で検出した。BODIPY(登録商標)505/515染色細胞からの蛍光は、セルソーターのFL1-log-heightの値によって評価した。FL1-log-heightの値は、529/28バンドパスフィルターを通過した蛍光強度を示す。E. gracilisのハイスループット分取には、100μmノズル先端を用いた。
また、図12に、従属栄養培養時のWT Z株及びB1ZFeL細胞の増殖曲線を示す。図12のグラフにおいて、WT Z株及びB1ZFeLは、三角フラスコを用いてKH培地で培養した。7日目に、培養液の半分を回収し、残りは三角フラスコの上端を密閉して低酸素培養を行うと共に周囲の光から遮光した。N=3とした。図12のエラーバーは、標準誤差(SEM)を示す。
図11の蛍光の顕微鏡画像に示すように、B1ZFeL株は、低酸素条件にしないときには顆粒状に染色される特性を示した。また、図12のように、三角フラスコ内のB1ZFeL株の増殖率は、WT Z株の増殖率よりも少し低かった。
図13に示すように、フローサイトメトリー分析(細胞分取を伴わない蛍光標識細胞分取測定)により、B1ZFeL株は、BODIPY(登録商標)505/515染色後において、WT Z株よりも4.7倍強い蛍光を示した。図13の値は、それぞれの株の平均及び標準偏差を示している。
図14に示すように、低酸素培養後には、WT Z株及びB1ZFeL双方の分布の蛍光強度は上昇し、二つの株の相違は、8.3倍まで増加していた。
29℃、約100μmol photons/m2/secの連続照明下、ロータリーシェーカーに載せた三角フラスコ中で培養することにより、従属栄養条件におけるE. gracilis細胞の増殖試験を行った。三角フラスコの位置を毎日変えることにより、各フラスコに照射した光の強度を平均化した。KH培地で前培養を実施し、培養試験開始前にこの細胞を洗浄し実験に用いた。培養は、100mLのKH培地中における細胞数106 (OD680 ≒ 0.09)から開始した。毎日、細胞濃度を粒子分析器(CDA-1000, Sysmex)で測定した。6日目に、培養液の半分を、遠心分離(2,000g,2分)により回収して、フローサイトメトリー及び細胞内パラミロン及び油脂含量の定量を行った。残りの半分は、三角フラスコの上端を密封する共に周囲の光から遮光することにより低酸素培養を行った。4日間の低酸素培養の後、残りの半分を回収し、同様に分析した。
回収した細胞は、凍結乾燥機(FDV-1200, EYELA)で乾燥した。約10mg及び100mgの乾燥細胞のサンプルを、それぞれ、細胞内パラミロン及び油脂含量の定量に用いた。パラミロン含量は、Inui, H.らの論文(Wax ester fermentation in Euglena gracilis. FEBS Lett. 150, 89-93 (1982).)、Suzuki, Kらの論文(Selection and characterization of Euglena anabaena var. minor as a new candidate Euglena species for industrial application. Biosci. Biotechnol. Biochem. 79, 1730-6 (2015).)に記載の公知の方法により評価した。乾燥した細胞は、10mLのアセトンに短時間懸濁し、超音波処理器(UD-201, TOMY)を用いて90秒間で2回、ホモジナイズした。出物を遠心分離(800g,5分)により回収し、10mLの1%ドデシル硫酸ナトリウム中で30分煮沸し、10mLの1%ドデシル硫酸ナトリウムで2回洗浄し、その後水で洗浄した。抽出された炭水化物は、公知のフェノール硫酸法によりパラミロンとして定量した。
図15に示すように、結果は、BODIPY(登録商標)505/515染色E. gracilis細胞のフローサイトメトリー分析の結果と整合性が取れていた。好気条件下及び低酸素培養後の双方において、B1ZFeL変異体は、WT Z株よりも、脂質含量が1.4倍高かった。低酸素培養後において、B1ZFeL変異体の脂質含量は、18.0重量%であり、WT Z株の脂質含量は、12.8重量%であった。
図16は、低酸素培養を行った場合と行っていない場合の従属培養液中のWT Z株及びB1ZFeL細胞におけるパラミロン含量を示すグラフである。N=3とした。
図16に示すように、好気条件下及び低酸素培養後の双方において、パラミロンの細胞内含量は、B1ZFeL変異体の方が、WT Z株よりも低くなっていた。
パラミロン蓄積量の低下に伴ってB1ZFeL変異体の脂質含量が増加していることは、脂質の高含量が、細胞内でのワックス発酵経路が常に亢進されていることによって引き起こされていることを、示唆している。
表1,2及び図17及び図18に、低酸素条件で培養したWT Z株及びB1ZFeL細胞の中性脂質における脂肪酸とアルコールの構成比率を示す。比率は、それぞれの構成成分の推定重量を全体の推定重量で除すことにより算出した。
これらの結果は、B1ZFeL変異体の表現型は、特定の脂質代謝経路の機能不全によるものではなく、ワックス発酵経路の全般的な上方調節によるものであることを示唆している。
以上より、本発明の油脂高含有ユーグレナの製造方法により、野生株WT Z株よりも脂質含量比率が40%高い、産業上有用な変異株B1ZFeLが得られることが分かった。産生した株は、パラミロン貯蔵量の低減に伴ってワックスエステルを貯蔵することが確認されており、このことは、変異株内でのワックス発酵プロセスが常時上方制御されていることを示唆している。
ワックスエステル発酵プロセスは、パラミロンから得たグルコースの分解によってATPを獲得し、それに続くミトコンドリアでのピルビン酸からアシルCoAを生成するE. gracilis固有の脂肪酸合成経路は、全体として、エネルギー収支が0である。このため、ワックスエステル発酵プロセスは、全体を通してATPを獲得するエネルギー生産反応であることが知られる。
2 細胞浮遊液チューブ
3 シース液チューブ
4 フローセル
5 ノズル
6 光源
7 検出器
8 データ処理系
9 電場
10 試験管
Claims (4)
- 変異原を用いて、ユーグレナ生細胞の突然変異を誘発する突然変異誘発工程と、
該突然変異誘発工程を経た前記細胞を、細胞内脂質を染色する蛍光試薬で染色した後、蛍光標識細胞分取により、染色した前記細胞から所定の強度以上の蛍光強度を有する前記細胞を分取して、前記突然変異で細胞内油脂含量が高められた変異体を濃縮する変異体濃縮工程と、
前記変異体を培養する変異体培養工程と、を行い、
前記変異体濃縮工程では、前記染色した細胞を含む液体を、100μm以上130μm以下の径のノズルから流して前記蛍光標識細胞分取を行うことを特徴とする油脂高含有ユーグレナの製造方法。 - 前記変異体濃縮工程では、前記蛍光試薬として、ボロンジピロメテンを用い、前記細胞を前記ボロンジピロメテンに曝露することにより、前記細胞内脂質を染色することを特徴とする請求項1記載の油脂高含有ユーグレナの製造方法。
- 前記変異体培養工程の後で、前記変異体から、無作為に複数の変異体を分離し、独立に培養して変異株を樹立する変異体分離培養工程と、
樹立した前記変異株から、フローサイトメトリーにより、最も前記蛍光試薬に染色された株を選択する選択工程と、を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の油脂高含有ユーグレナの製造方法。 - 前記選択工程の後で、選択された前記株を、好気的条件で培養後、低酸素条件で培養することを特徴とする請求項3記載の油脂高含有ユーグレナの製造方法。
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