JP6712893B2 - 油脂高含有ユーグレナの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、油脂高含有ユーグレナの製造方法に関する。
微細藻類由来の生物学的製剤は、産業界及び学界において注目を集めてきた。微細藻類は、高等植物よりも高効率で光合成を行い、従来農業利用されてきた土地を用いずに培養可能である。微細藻類のこのような特徴から、ヒト及び他の動物の代替食物源として期待されており、これまで栄養価の高いArthrospira及びChlorellaのような微細藻類の大量培養が実現されている。大量培養された微細藻類からのバイオマスは、栄養補助食品,医薬品及び化粧品に用いるためのβ−カロテン,アスタキサンチン及び多価不飽和脂肪酸等の化学物質源としても利用されている。更に、微細藻類の多くの種は、窒素欠乏のような栄養条件下及び環境条件下において、油脂を生産し貯蔵することが知られている。未解決の技術的課題は多く残っているが、次世代のエネルギー源として、大量培養された微細藻類の蓄積する油脂から経済的に維持可能なバイオ燃料を製造することが、大いに期待されている。
単細胞原生生物であるユーグレナは、既に食用利用されている微細藻類の一つである。ユーグレナのうちE. gracilisは、栄養価が高く、窒素欠乏時は貯蔵多糖として、パラミロン(結晶状のβ−1,3−グルカン)を蓄積することが知られている。最近の報告では、パラミロンが、肝保護,アトピー治療,結腸癌抑制等の機能性を有することが示唆されている。このような特徴に基づき、大量培養されたE. gracilisが、機能性食品やパラミロンの原料として、商業的に供給されている。E. gracilisはまた、低酸素状態において、細胞内のパラミロンを消費して酸素なしにエネルギーを獲得することも知られている。このプロセスには、ワックスエステル(主に、C14:0飽和脂肪酸であるミリスチン酸及びミリスチルアルコールから構成されるエステル)の生成が付随して起こる。脂肪酸及びアルコールが比較的短い鎖からなるため、当該油脂は特にバイオディーゼル及びバイオジェット燃料への利用に適している。
競争の厳しい燃料市場で利用可能とするには、ユーグレナのワックスエステルの生産性を向上し、バイオ燃料の原料バイオマスとしての有用性を向上するために、利用しているユーグレナ株の品種改良、及び有効な品種改良方法の開発が必要である。これまで、数多くのE. gracilisの変異体が取得されてきたが、殆どは、葉緑体ゲノムにおける変異由来であり(例えば、非特許文献1)、育種に有効な核ゲノムの変異体の獲得が困難であることが示唆される。更に、UV照射による死滅曲線は、E. gracilisが多倍体であることを示し、これに由来する冗長性が核ゲノムの変異の効果が発現しにくいことの原因と示唆される。
このように、葉緑体の機能に関係する以外のユーグレナ変異体はこれまで獲得されておらず、またユーグレナのワックスエステルの生産性を向上可能な品種改良方法は、これまで知られていない。
Schiff, J. A., Lyman, H. & Russell, G. K. [2] Isolation of mutants of Euglena gracilis: An addenum. Methods Enzymol. 69, 23-29 (1980).
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、バイオ燃料の原料となるワックスエステルを好気的条件下で合成するワックスエステル合成亢進ユーグレナである、油脂高含有ユーグレナの製造方法を提供することにある。
前記課題は、本発明の油脂高含有ユーグレナの製造方法によれば、変異原を用いて、ユーグレナ生細胞の突然変異を誘発する突然変異誘発工程と、該突然変異誘発工程を経た前記細胞を、細胞内脂質を染色する蛍光試薬で染色した後、蛍光標識細胞分取により、染色した前記細胞から所定の強度以上の蛍光強度を有する前記細胞を分取して、前記突然変異で細胞内油脂含量が高められた変異体を濃縮する変異体濃縮工程と、前記変異体を培養する変異体培養工程と、を行い、前記変異体濃縮工程では、前記染色した細胞を含む液体を、100μm以上130μm以下の径のノズルから流して前記蛍光標識細胞分取を行うこと、により解決される。
このように構成された製造方法により、同一培養条件で従来のユーグレナよりも細胞内油脂含量が高められた新規なユーグレナを得ることができる。その結果、より低コストで、エネルギー効率のよいユーグレナ由来のバイオ燃料の製造が可能となる。また、本発明の高含有ユーグレナの製造方法の全体のプロセスは、数週間で完了するため、短期間で、高含有ユーグレナ育種株を得ることができる。
従来、細胞壁をもたず、比較的サイズが大きいユーグレナは、処理中に細胞が損傷を受け易いため、蛍光標識細胞分取処理を施すことが困難であったが、本発明では、このように構成しているため、ユーグレナに、ハイスループットによる蛍光標識細胞分取処理を施すことが可能となった。
その結果、本発明の油脂高含有ユーグレナの製造方法の処理を経た後のユーグレナ生細胞の生存率を高く維持することが可能となる。
前記変異体濃縮工程では、前記蛍光試薬として、ボロンジピロメテンを用い、前記細胞を前記ボロンジピロメテンに曝露することにより、前記細胞内脂質を染色してもよい。
このように、ボロンジピロメテンを用いるため、天然の細胞機能に干渉を生じず、毒性もなく、ユーグレナ生細胞内の中性脂質の染色が可能となる。
前記変異体培養工程の後で、前記変異体から、無作為に複数の変異体を分離し、独立に培養して変異株を樹立する変異体分離培養工程と、樹立した前記変異株から、フローサイトメトリーにより、最も前記蛍光試薬に染色された株を選択する選択工程と、を行ってもよい。
前記選択工程の後で、選択された前記株を、好気的条件で培養後、低酸素条件で培養してもよい。
このように構成することにより、ユーグレナ生細胞内の油脂含有量を更に高めることが可能となる。
本発明によれば、同一培養条件で従来のユーグレナよりも細胞内油脂含量が高められた新規なユーグレナを得ることができる。その結果、より低コストで、エネルギー効率のよいユーグレナ由来のバイオ燃料の製造が可能となる。また、本発明の油脂高含有ユーグレナの製造方法の全体のプロセスは、数週間で完了するため、短期間で、油脂高含有ユーグレナを得ることができる。
本実施形態の油脂高含有ユーグレナの製造方法の手順を示す概略説明図である。 本発明の一実施形態で用いられるフローサイトメーター及びセルソーターの機構の概略説明図である。 励起光波長350nmにおけるE. gracilis細胞の自家蛍光スペクトルである。 励起光波長488nmにおけるE. gracilis細胞の自家蛍光スペクトルである。 励起光波長635nmにおけるE. gracilis細胞の自家蛍光スペクトルである。 BODIPY(登録商標)505/515で染色したE. gracilis細胞の蛍光スペクトルである。 BODIPY(登録商標)505/515で染色したE. gracilis細胞の観察画像であって、上段は微分干渉観察(DIC)画像,下段は蛍光画像である。 BODIPY(登録商標)505/515で染色したE. gracilis細胞であって、低酸素培養を行ったものと行わなかったものについて、フローサイトメトリー分析によって得られたヒストグラムである。 径70μmのノズルを用いたハイスループット分取後の細胞の顕微鏡画像である。 3つの異なるノズルサイズに対するハイスループット分取後の細胞の生存率を示すグラフである。 好気的従属栄養培養されたBODIPY(登録商標)505/515染色E. gracilis WT Z株及びB1ZFeL細胞の蛍光画像である。 従属栄養培養時のE. gracilis WT Z株及びB1ZFeL細胞の増殖曲線である。 BODIPY(登録商標)505/515染色WT Z株及びB1ZFeL細胞のフローサイトメトリー分析結果を示すグラフである。 低酸素培養を行った場合のBODIPY(登録商標)505/515染色E. gracilis WT Z株及びB1ZFeL細胞のフローサイトメトリー分析結果を示すグラフである。 低酸素培養を行った場合と行っていない場合の従属培養液中のE. gracilis WT Z株及びB1ZFeL細胞における脂質含量を示すグラフである。 低酸素培養を行った場合と行っていない場合の従属培養液中のE. gracilis WT Z株及びB1ZFeL細胞におけるパラミロン含量を示すグラフである。 低酸素条件で培養したE. gracilis WT Z株及びB1ZFeL細胞の中性脂質における脂肪酸の構成比率を示すグラフである。 低酸素条件で培養したE. gracilis WT Z株及びB1ZFeL細胞の中性脂質における脂肪アルコールの構成比率を示すグラフである。
本発明は、油脂高含有ユーグレナの製造方法である。本発明の一実施形態に係る油脂高含有ユーグレナの製造方法について、以下、詳細に説明する。
本発明の製造方法で製造される油脂高含有ユーグレナは、好気的条件で培養したときの藻体内の中性脂質含有量が、野生型のユーグレナを好気的条件で培養したときの野生型のユーグレナ藻体内の中性脂質含有量よりも高く、好気的条件で培養したときの藻体内の炭水化物含有量が、前記野生型のユーグレナを好気的条件で培養したときの野生型のユーグレナ藻体内の炭水化物含有量よりも低く、野生型のユーグレナの変異株である。また、本発明の製造方法で製造される油脂高含有ユーグレナは、ワックスエステルを好気的条件下で合成するワックスエステル合成亢進ユーグレナである。
本発明の製造方法の一実施形態で製造される油脂高含有ユーグレナは、原料である野生株のユーグレナに重イオンビーム照射により変異導入し新奇形質を獲得した、ユーグレナの重イオンビーム誘発突然変異株である。
文中で特に断らない限り、本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解される意味と同様の意味を有する。本明細書に記載されたものと同様又は同等の任意の方法及び材料は、本発明の実施又は試験において使用することができるが、好ましい方法及び材料を以下に記載する。
<ユーグレナ>
本発明において、原料となる「ユーグレナ」は、動物学や植物学の分類でユーグレナ属(Euglena)に分類される種、その変種、その変異種のすべてを含む。
ここで、ユーグレナ属(Euglena)の微生物とは、動物学では原生動物門(Protozoa)の鞭毛虫綱(Mastigophorea)、植物鞭毛虫亜綱(Phytomastigophorea)に属するミドリムシ目(Euglenida)のユーグレノイディナ亜目(Euglenoidina)に属する微生物である。一方、ユーグレナ属の微生物は、植物学ではミドリムシ植物門(Euglenophyta)のミドリムシ藻類綱(Euglenophyceae)に属するミドリムシ目(Euglenales)に属している。
ユーグレナ属の微生物としては、具体的には、Euglena acus、Euglena caudata、Euglena chadefaudii、Euglena deses、Euglena gracilis(以下、「E. gracilis」という。)、Euglena granulata、Euglena intermedia、Euglena mutabilis、Euglena oxyuris、Euglena proxima、Euglena spirogyra、Euglena viridis、Euglena vermiformis、Euglena intermedia, Euglena pirideなどが挙げられる。このうち特に、広く研究に利用されているユーグレナ グラシリス(Euglena gracilis)が好適である。特に、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis)Z株が挙げられる。
また、そのほか、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis)Z株の変異株SM−ZK株(葉緑体欠損株)や変種のvar. bacillaris、これらの種の葉緑体の変異株等の遺伝子変異株を用いてもよい。また、その他のユーグレナ類、例えばAstaia longaを用いてもよい。
ユーグレナ属は、池や沼などの淡水中に広く分布しており、これらから分離して使用してもよく、また、すでに単離されている任意のユーグレナ株を使用してもよい。
本発明のユーグレナ属は、その全ての変異株を包含する。また、これらの変異株の中には、遺伝的方法、たとえば組換え、形質導入、形質転換等により得られたものも含有される。
<油脂高含有ユーグレナの製造方法>
本実施形態の油脂高含有ユーグレナの製造方法は、図1のフローに従い、次の工程を順次実施することにより行われる。
まず、変異原を用いて、ユーグレナ細胞に対して突然変異誘発処理を行う突然変異誘発工程を行う。
変異原とは、自然突然変異よりも高い割合で突然変異を誘発する物理的,化学的,生物的因子の総称である。本実施形態において、変異原としては、X線,γ線,中性子線,粒子線,重イオンビーム等を含むエネルギー線等の物理的変異原,アルキル化剤や核酸塩基アナログ等を含む化学変異原,ウイルス等の生物的変異原のいずれを用いてもよいが、物理的変異原,特に、重イオンビームを用いると好適である。
エネルギー線の中でもエネルギー付与率が高く、大きな影響を生体に与える重イオンビームを用いると、短時間での効率的な変異原処理が可能となり、効率よく油脂高含有ユーグレナを得ることができる。
この突然変異誘発工程を経ることにより、ユーグレナ個々の細胞にランダムに変異が導入された変異体からなる集団が形成される。
次いで、ユーグレナ変異体集団を、蛍光試薬で染色し、蛍光標識細胞分取を行うことにより、濃縮する変異体濃縮工程を行う。
蛍光試薬としては、細胞中に蓄積される中性脂質を染色する蛍光試薬であって、細胞への毒性のないものであれば、どのようなものでも用いることができる。蛍光試薬としては、ボロンジピロメテン(boron-dipyrromethene,BODIPY(登録商標))、好ましくは、ボロンジピロメテンの一つであるBODIPY(登録商標)505/515 (4,4-Difluoro-1,3,5,7-Tetramethyl-4-Bora-3a,4a-Diaza-s-Indacene)を用いると好適である。また、ボロンジピロメテンの代わりに、π拡張BODIPY(登録商標)を用いてもよい。
蛍光標識細胞分取は、FACS(登録商標)(fluorescence activated cell sorting)とも呼ばれ、蛍光抗体で染色した細胞の細胞浮遊液をフローセル内で高流速のシース流の中心に流し、この細胞浮遊液/シース流をフローセル下端の円錐状のノズルから流路に連続的に流し、流路のフローにレーザー光を照射して、個々の細胞が発する蛍光を測定することによって細胞の持つ染色物質を定量的に測定し、目的の細胞を発見した上でその細胞を含む液滴を静電力により分取する手法である。
前段の個々の細胞の蛍光を定量的に測定する部分は、流体を使用した細胞測定法の一般名称であるフローサイトメトリーとほぼ同義である。
本明細書では、蛍光標識細胞分取のうち、個々の細胞の蛍光を定量的に測定することによって細胞の持つ染色物質を定量的に測定する前段のプロセスを、フローサイトメトリーと称する。フローサイトメトリーのみ行う機器は、フローサイトメーターと呼ばれている。
また、フローサイトメトリーによる測定から、目的の細胞を発見した上でその細胞を含む液滴を静電力により分取するまでのプロセスを、蛍光標識細胞分取と称する。蛍光標識細胞分取では、細胞分析により測定した生物学的特性に基づき、特定の細胞だけを生きたまま無菌的に分取することが可能である。フローサイトメトリーの機能と分取機能を兼ね備えた機器は、セルソーターと呼ばれている。
本変異体濃縮工程では、後者のセルソーターを用いる。
フローサイトメトリー及び蛍光標識細胞分取は、フロー中のレーザーで励起されたそれぞれの細胞からの蛍光を検出することにより、細胞を1個ずつ高感度,高分解能,高速に測定する。フローサイトメトリー及び蛍光標識細胞分取は、10,000セル/秒より大きいハイスループットが得られる、大きな異種細胞集団の計数及び特性評価のための強力なツールである。
流体力学的絞り込みを用いたフローサイトメーター及びセルソーターの機構の概念図を、図2に示す。
図2の装置1は、細胞浮遊液チューブ2及びシース液チューブ3の排出口が上端に連結され、下端に先端が絞り込まれたノズル5を備えたフローセル4を備えている。フローセル4は、上方から流入するシース流の中心に細胞浮遊液を流して、先端のノズル5から細胞/シース流が層流のまま飛び出して下方へ落下するように構成されている。
フローサイトメトリーでは、細胞に光源6からレーザーを照射して、通過した細胞から発せられた散乱光と蛍光を検出器7で検出し、検出した情報を用いて細胞の特性分析を行う。
蛍光標識細胞分取では、ノズル5からシース液に包まれた細胞浮遊液をジェット噴出させ、その直後に光源6からレーザーを照射し、データをデータ処理系8で取り込む。このとき、不図示のピエゾ素子でノズル5を振動させ、細胞を含んでいるジェット流を液滴化し、データのソーティング領域に基づき、目的細胞の入った液滴が形成される直前にチャージをかける。目的細胞が入り帯電した(+もしくは−)液滴は,水平方向の電場9内を落下するにつれ、電荷に応じて左右に偏向し、試験管10に分取される。
本実施形態では、ノズル5として、ノズル径が70μmより大きく、150μm以下のもの、好ましくは、100μm以上であり、130μm以下,より好ましくは115μmのものを用いる。ノズル径が70μmより大きいと、分取後又はフローサイトメトリー後のユーグレナ細胞の十分な生存率が確保できる。ノズル径が100μm以上になると、分取又はフローサイトメトリーにより発生する死細胞の比率が数%となり、分取又はフローサイトメトリーによるユーグレナ細胞の歩留まりが、100%に近い値となる。ノズル径が130μmより大きくなると、液適の形成が困難となると共にスループットも低下する。また、試薬の取扱いが難しくなって、例えば、自動補正機能が機能しにくくなることもある。従って、正確なフローサイトメトリー及び蛍光標識細胞分取の実行が難しくなる。
なお、フローサイトメトリー及び蛍光標識細胞分取の方式としては、細胞浮遊液を高流速のシース流の中心に流し、円錐状のノズルから流路に連続的に流し、流路のフローに、集光されたレーザービームを照射して、レーザーで励起されたそれぞれの細胞からの蛍光を検出する流体力学的絞り込みを用いた図2の方式のほか、マイクロキャピラリーを用いることによってシース液を用いないフローセルや、超音波を照射することによって流れの中心に粒子を集積させる音響絞り込み(acoustic focusing)と呼ばれる方式を用いてもよい。
蛍光標識細胞分取は、基礎医学研究及び臨床において一般的に用いられているが、混合培養物から微細藻類の単独の種の分離や、微細藻類の純培養物を作製するためにも用いられてきた。蛍光試薬Nile Redでの染色が、検出及び油脂高含有の藻類細胞の検出と選別のために、蛍光標識細胞分取と併用して用いられる。
なお、従来、E. gracilisに対する、フローサイトメトリーの適用については、固定化の後プロピジウムヨウ化物又はHoechst 33258で染色して、細胞分裂周期を分析するために用いられた例がある。しかしながら、生細胞へのフローサイトメトリーの適用例はなく、前述のようにE. gracilisが比較的大きく、せん断力に弱いことから、生細胞にフローサイトメトリー及び蛍光標識細胞分取を適用することは困難であった。
本変異体濃縮工程では、蛍光標識細胞分取を行うことにより、ユーグレナ変異体の濃縮を行う。
この変異体濃縮工程では、蛍光標識細胞分取において、蛍光の強度が所定強度以上、例えば、蛍光の強度が、上位0.1〜2.0%,好ましくは、0.3〜1.0%,更に好ましくは、0.4〜0.6%,更に好ましくは、0.5%以上の強度である細胞を分取する。これにより、中性脂質を多く含有する細胞を分取できる。
次いで、分取した細胞を培養する変異体培養工程を行う。
この工程では、後述するCM培地又はKH培地等の公知の培地で、5日〜10日間,好ましくは1週間培養する。
その後、変異体濃縮工程と変異体培養工程とを繰り返し、全部で4回ずつ行う繰返し工程を行う。
変異体濃縮工程と変異体培養工程とを、4回ずつ行った後、無作為に15の変異体候補を分離し、別個独立に培養して変異株を樹立する変異体分離培養工程を行う。
次いで、変異体分離培養工程で樹立した変異株について、フローサイトメトリーにより、最もよく染色された株を更なる特性評価のために選択する選択工程を行う。
本選択工程では、上記変異体濃縮工程で記載したフローサイトメーターを用い、ノズルとして、ノズル径が70μmより大きく、150μm以下のもの、好ましくは、100μm以上であり、130μm以下のものを用いる。
その後、選択工程で選択された株の脂質含有量を定量化する定量化工程を行い、本実施形態の油脂高含有ユーグレナの製造方法を完了する。
本実施形態の油脂高含有ユーグレナの製造方法で得られる油脂高含有ユーグレナは、好気的条件で培養した場合には、7〜9重量%、好気的条件で培養後に4日間低酸素培養した場合には、17〜19重量%の油脂を含み、突然変異誘発工程前の原料ユーグレナに対し、好気的条件で培養後に4日間低酸素培養した場合の油脂含有量が40%程度高いものである。
また、好気的条件で培養した場合には、23〜27重量%、好気的条件で培養後に4日間低酸素培養した場合には、4〜6重量%の炭水化物を含み、突然変異誘発工程前の原料ユーグレナに対し、好気的条件で培養後に4日間低酸素培養した場合の炭水化物量が66%程度低いものである。
なお、低酸素培養とは、供給される酸素量が低減された条件下での培養をいい、実質的に酸素を供給しない嫌気状態も含む。
以下、具体的実施例により、本発明をより詳細に説明する。但し、本発明は、実施例の記載により限定されるものではない。
<株及び培地>
本実施例では、ユーグレナとして、IAM(日本)より提供され、株式会社ユーグレナで10年間維持されたE. gracilis Z株(野生株)(以下、「WT Z株」という。)及びOda, Y.ほかの文献(Utilization and Toxicity of Exogenous Amino Acids in Euglena gracilis. J. Gen. Microbiol. 128, 853-858 (1982).)に記載された葉緑体欠損株のE. gracilis SM-ZK株を用いた。
WT Z株は、Cramer, M. & Myers, Jの文献(Growth and Photosynthetic Characteristics of Euglena gracilis. 17, 384-402 (1952).)に記載の通りに作製したCM培地(pH3.5)で維持され、SM-ZK株は、Koren, L. E. & Hutner, S. H.の文献(High-yield media for photosynthesizing Euglena gracilis Z. J. Protozool. (1967).)に記載の通りに作製したKH培地(pH3.5)で維持された。
E. gracilisの独立栄養培養及び従属栄養培養では、それぞれ、CM培地及びKH培地を用いた。
<予備実験1:E. gracilis生細胞の自家蛍光>
ターゲット細胞を蛍光色素及び特定のプローブで染色する蛍光発光は、細胞の同定のために一般的に用いられており、蛍光標識細胞分取の重要な要件である。微細藻類では、細胞内光合成色素が、しばしば強い自家蛍光を発してターゲット細胞の蛍光標識細胞分取認識のノイズとなるため、適切な蛍光色素及び検出テクニックを注意深く選定することが、不可欠である。
一般的に蛍光物質と定義される物質以外においても蛍光を生じる物質が存在し、特に短波長領域(紫外〜可視)では無染色の細胞においても細胞の構成要素(NADPH、リボフラビンなど)が比較的強い蛍光を生じる。それらを称して細胞の「自家(自己)蛍光」という。
蛍光標識細胞分取の必須の要件を決定するため、E. gracilis細胞、特に、独立栄養及び従属栄養条件下で培養されたWT Z株と従属栄養条件下で培養された葉緑体欠損変異株SM-ZKを、350nm,488nm及び635nm(蛍光標識細胞分取において一般的に用いられる波長)の励起光で励起したときの自家蛍光を検討した。
・自家蛍光測定
自家蛍光測定には、CM培地又はKH培地で培養したWT Z株と、KH培地で培養した葉緑体欠損SM-ZK株とを用いた。それぞれの培地を遠心分離し(2,000 g, 30 sec)、水で3回洗浄した。105 E. gracilis染色細胞のサンプルを、水で、1mLになるように希釈した。株からの蛍光は、蛍光光度計(F-2500, Hitachi)を用い、350nm, 488nm, 又は635nmの励起光で測定した。BODIPY(登録商標)505/515染色細胞の自家蛍光測定には、低酸素培養を行った細胞及び低酸素培養を行っていない細胞を用いた。低酸素培養は、1.5 mLのチューブに細胞を107 cells/mL含むKH培地で満たし、23℃の暗下でチューブを2日間インキュベートすることにより行った。
図3は、励起光波長350nmにおけるE. gracilis細胞の自家蛍光スペクトルである。図3グラフ中左側のバーは、励起光の波長を示す。
図3に示すように、350nmでの励起により、各株において400nmの強い蛍光及び450nmの弱い蛍光が誘導された。弱い蛍光の原因は、NAD(P)Hと推測されるが、強い蛍光の原因は不明である。
また、図4は、励起光波長488nmにおけるE. gracilis細胞の自家蛍光スペクトルである。図4グラフ中左側のバーは、励起光の波長を示す。
図4に示すように、488nmでの励起により、WT Z株において700nmの蛍光が誘導された。葉緑体欠損SM-ZK株が、この励起波長において蛍光を発しなかったことから、この蛍光の原因は、クロロフィルと思われる。
図5は、励起光波長635nmにおけるE. gracilis細胞の自家蛍光スペクトルである。図5グラフ中左側のバーは、励起光の波長を示す。
図5に示すように、635nmでの励起により、WT Z株の700nmの蛍光が誘導された。
<予備実験2:E. gracilis生細胞のBODIPY(登録商標)505/515染色の性能>
E. gracilis生細胞のスペクトル特性に続いて、脂溶性の緑色蛍光色素であるBODIPY(登録商標)505/515の性能について検討した。Nile Redは、脂質の収率などの天然の細胞機能に干渉を生じ、毒性を有するのに対し、BODIPY(登録商標)505/515は、Nile Redと同じように、細胞中に蓄積される中性脂質を染色するがその毒性が比較的低いことが知られる。
・蛍光測定用のBODIPY(登録商標)505/515染色
BODIPY(登録商標)505/515の原液は、DMSOにBODIPY(登録商標)505/515を1mMの濃度で溶解することにより調製した。原液は、使用直前に10μMになるよう水で希釈した。染色用の細胞は、前記の通り培養した。2,000gで30秒間遠心分離した細胞を、水に懸濁した。調製した10μMのBODIPY(登録商標)505/515溶液200μLを、水中に2×105cellを含む細胞懸濁液200 μLに添加した。混合物を穏やかに混合し、暗下で5分間インキュベートした。その後、細胞は、サンプルを2,000gで30秒遠心分離し水で再懸濁する操作を繰り返すことにより、水で3回洗浄した。染色細胞は、使用時まで、遮光保存した。
BODIPY(登録商標)505/515は、微細藻類の細胞内脂質の染色に用いられてきた。488nmの光で励起したとき、BODIPY(登録商標)505/515で染色したE. gracilis細胞は、515nmの蛍光を発する。この蛍光波長領域には、E. gracilisは強い自家蛍光を発することはないため利用に適している。E. gracilisの細胞内脂質がBODIPY(登録商標)505/515で染色可能かを試験するために、低酸素条件下でE. gracilis細胞の従属栄養培養を行い、パラミロンからワックスエステルへの転換を誘導した。
一連の条件の研究の後、最適な染色手順として、細胞を水中で5μMのBODIPY(登録商標)505/515に曝露することに到達した。
図6は、染色した細胞の蛍光スペクトルを示している。
また、図7は、染色した細胞の観察画像を示している。上段、下段は、それぞれ、BODIPY(登録商標)505/515で染色したE. gracilis細胞であって2日間低酸素条件下にあったものの微分干渉観察(DIC)画像及び蛍光画像である。図7では、細胞は、顆粒状の蛍光分布様式を有している。
更に、蛍光の定量化の為、蛍光標識細胞分取により、染色した細胞の細胞集団の分析を行った。
図8は、BODIPY(登録商標)505/515で染色したE. gracilis細胞であって、低酸素培養を行ったものと行わなかったものについて、フローサイトメトリー分析によって得られたヒストグラムである。
図8に示すように、低酸素条件下の細胞は、好気条件下で培養された細胞よりも、強い蛍光を示した。蛍光強度は、529/28バンドパスフィルター(透過中心波長529nm,平均透過率>90% over 28nm)を通過した光の強度を示す。
<高生存率のE. gracilis生細胞のハイスループット分取>
E. gracilisの自家蛍光及び蛍光の結果に続き、蛍光標識細胞分取装置の適したノズルの検討を行った。
細胞分取装置の代表的なノズル径である70μmでは、Euglenaがノズル部分で損傷を受け生細胞の分取は困難であった。これは、E. gracilisが細胞壁をもたず、比較的サイズが大きいことから、他の微細藻類と比較してせん断力に対して脆弱であるためと考えられる。このノズル部分が細胞分取装置中の細胞が通過する流路の最も細くなる部分であり、ここを太くすることで生細胞の分取が可能となる可能性が考えられた。一方で、このノズルの細さが細胞分取装置の処理速度を決定するために、処理速度と生存率がトレードオフになると考えられ、最適な条件を決定する必要があった。図9に、径70μmのノズルを用いたハイスループット分取後の細胞の顕微鏡画像を示す。この蛍光標識細胞分取における分析では、40%より多いE. gracilis細胞が、70μmのノズルを用いた分析及び分取プロセス中に死滅した。図9の矢印は、分取後の死細胞を示している。
細胞の損傷が最小限となる条件を検討するため、径が70μm,100μm及び120μmのノズルを用いて、KH培地を満たした複数のウェルを備えたプレートを用い、E. gracilis細胞の分取の最適条件について検討,決定した。2週間の静止培養で増殖させた後、細胞が生存しているウェルの数を計数し、細胞の生存率を決定した。
KH培地で満たした96ウェルプレートで192のE. gracilis細胞を分離した後、増殖を示す細胞のウェル数を数えた。生存率は、増殖したセルの入ったウェルの数を192で除することにより計算した。
図10は、3つの異なるノズルサイズに対するハイスループット分取後の細胞の生存率を示すグラフである。図10に示すように、100μm及び120μmのノズルではそれぞれウェルの97%(187 wells / 192 wells)及び99%(190 wells / 192 wells)がそれぞれ増殖していたのに対し、70μmのノズルではウェルの57%が増殖するにとどまっていた。この結果、径が70μmより大きいノズル,好ましくは、100μmのノズルを利用することで十分な生存率が得られることを確認した。
<実施例1:脂質含量の高いE. gracilis変異株の産生>
BODIPY(登録商標)505/515での脂質染色及びハイスループット分取の結果は、蛍光標識細胞分取が、脂質含量に基づくE. gracilisの品種改良に効果的なハイスループットツールであることを示唆している。このことを実践するために、図1に示すように、好気的培養条件でもワックスエステルを生産する変異体を濃縮するスクリーニング手順をデザインした。
具体的には、E. gracilis細胞を50 GyのFe-イオンビームで照射して突然変異を誘導し、その後蛍光標識細胞分種により目的変異体を濃縮し、十分に濃縮された後に各変異体を単離し候補株とし、最後に候補株の表現型をそれぞれフローサイトメトリーにより調べ、最適な表現型を示した株を育種株として確立した。
・Feイオン照射
E. gracilis細胞は、Feイオン照射により、突然変異誘発した。つまり、CM培地中のE. gracilis 細胞(4×105cells/mL) 1mLを、5×7cmのハイブリダイゼーションバッグに密閉し、理化学研究所のRIビームファクトリー(日本国埼玉県和光市)において、50GyでFeイオン(LET(線エネルギー付与):650keV/μm)照射した。培養物は、変異体選別の前に、各々が細胞105を含む4つの独立したグループに分け24ウェルプレートのKH培地1mL中で1週間リカバリーさせた。リカバリーさせた培養物は、29℃で100μmol photons/m2/secの連続照明下においた。
各グループは、従属栄養条件下で1週間リカバリーさせてパラミロン(変異体でワックスエステルに変換された)を蓄積させ、その後BODIPY(登録商標)505/515で染色し、細胞分取を行った。
・フローサイトメトリーによる蛍光標識細胞分取(FACS(登録商標))
蛍光標識細胞分取による分析及び蛍光標識細胞分取には、蛍光励起セルソーター(MoFlo XDP,Beckman Coulter)を用いた。このセルソーターは、波長488nm(Sapphire, Coherent)及び波長642nm(CUBE, Coherent)の二つの半導体レーザーを装備していた。642nmの半導体レーザーは、使用しなかった。
各細胞からの蛍光シグナルは、光学フィルタで、各波長帯に分割し、一連の光電子増倍管(H957-27,浜松ホトニクス(株))で検出した。BODIPY(登録商標)505/515染色細胞からの蛍光は、セルソーターのFL1-log-heightの値によって評価した。FL1-log-heightの値は、529/28バンドパスフィルターを通過した蛍光強度を示す。E. gracilisのハイスループット分取には、100μmノズル先端を用いた。
蛍光標識細胞分取試験において偏りのない結果を得るために、サンプルは、混合するとすぐに試験に供し、セルソーターの吸入管にセットする必要があった。ワックスエステル含量の多い細胞の比重が低いために、サンプル吸入プローブ付近におけるワックスエステル含量の多い細胞の割合が、測定期間中に亘って変化するからである。そのため、すべてのサンプルは、セルソーターにセットする前によく混合し、蛍光標識細胞分取試験を行った。株樹立後のフローサイトメトリーデータ取得は、1分以内に完了した。変異体濃縮における蛍光標識細胞分取では、2-3分おきに、沈殿した細胞を懸濁して細胞分取を行った。
BODIPY(登録商標)505/515の蛍光シグナルによる染色細胞の全細胞集団のうち上位0.5%を回収し、同じ条件で培養した。分取ステップの間隔を1週間として、変異体を濃縮するために、この手順を、4回繰り返した後、15の変異体候補を、それぞれの変異体の貯蔵物中から無作為で分離した。それぞれの候補の後代の表現型を、BODIPY(登録商標)505/515染色し蛍光標識細胞分取で評価した。最後に、蛍光強度が最大の株を選択した。この株は、表現型を示すBODIPY(登録商標)505/515染色の“B”と変異原を示すFe-イオン照射の“Fe”を付し、過去のユーグレナ変異体命名法に従い、B1ZFeLと命名した。これを更に表現型の特性評価に適用した。
図11に、好気的従属栄養培養されたBODIPY(登録商標)505/515染色WT Z株及びB1ZFeL細胞の蛍光画像を示す。
また、図12に、従属栄養培養時のWT Z株及びB1ZFeL細胞の増殖曲線を示す。図12のグラフにおいて、WT Z株及びB1ZFeLは、三角フラスコを用いてKH培地で培養した。7日目に、培養液の半分を回収し、残りは三角フラスコの上端を密閉して低酸素培養を行うと共に周囲の光から遮光した。N=3とした。図12のエラーバーは、標準誤差(SEM)を示す。
図11の蛍光の顕微鏡画像に示すように、B1ZFeL株は、低酸素条件にしないときには顆粒状に染色される特性を示した。また、図12のように、三角フラスコ内のB1ZFeL株の増殖率は、WT Z株の増殖率よりも少し低かった。
図13は、BODIPY(登録商標)505/515染色WT Z株及びB1ZFeL細胞のフローサイトメトリー分析結果を示すグラフである。図12における培養7日目にあたる低酸素培養を行っていない細胞をBODIPY(登録商標)505/515染色し、フローサイトメトリーを行った。蛍光強度は、529/28バンドパスフィルターを通過した光の強度である。3つのグラフは、それぞれの株の独立した培養液の結果を示している。プロットの値は、それぞれの株の蛍光値の平均であり、標準偏差を記載した。N=3とした。
図13に示すように、フローサイトメトリー分析(細胞分取を伴わない蛍光標識細胞分取測定)により、B1ZFeL株は、BODIPY(登録商標)505/515染色後において、WT Z株よりも4.7倍強い蛍光を示した。図13の値は、それぞれの株の平均及び標準偏差を示している。
図14は、BODIPY(登録商標)505/515染色WT Z株及びB1ZFeL細胞のグラフであるが、図13と異なり、図12における培養11日目の低酸素培養を4日間行った後の細胞を用いており、細胞をBODIPY(登録商標)505/515染色し、フローサイトメトリーを行ったものである。
図14に示すように、低酸素培養後には、WT Z株及びB1ZFeL双方の分布の蛍光強度は上昇し、二つの株の相違は、8.3倍まで増加していた。
・変異体の特性評価
29℃、約100μmol photons/m2/secの連続照明下、ロータリーシェーカーに載せた三角フラスコ中で培養することにより、従属栄養条件におけるE. gracilis細胞の増殖試験を行った。三角フラスコの位置を毎日変えることにより、各フラスコに照射した光の強度を平均化した。KH培地で前培養を実施し、培養試験開始前にこの細胞を洗浄し実験に用いた。培養は、100mLのKH培地中における細胞数106 (OD680 ≒ 0.09)から開始した。毎日、細胞濃度を粒子分析器(CDA-1000, Sysmex)で測定した。6日目に、培養液の半分を、遠心分離(2,000g,2分)により回収して、フローサイトメトリー及び細胞内パラミロン及び油脂含量の定量を行った。残りの半分は、三角フラスコの上端を密封する共に周囲の光から遮光することにより低酸素培養を行った。4日間の低酸素培養の後、残りの半分を回収し、同様に分析した。
回収した細胞の実際の中性脂質含量を直接定量化するため、n-ヘキサンで抽出した中性脂質の重量比率を測定した。
回収した細胞は、凍結乾燥機(FDV-1200, EYELA)で乾燥した。約10mg及び100mgの乾燥細胞のサンプルを、それぞれ、細胞内パラミロン及び油脂含量の定量に用いた。パラミロン含量は、Inui, H.らの論文(Wax ester fermentation in Euglena gracilis. FEBS Lett. 150, 89-93 (1982).)、Suzuki, Kらの論文(Selection and characterization of Euglena anabaena var. minor as a new candidate Euglena species for industrial application. Biosci. Biotechnol. Biochem. 79, 1730-6 (2015).)に記載の公知の方法により評価した。乾燥した細胞は、10mLのアセトンに短時間懸濁し、超音波処理器(UD-201, TOMY)を用いて90秒間で2回、ホモジナイズした。出物を遠心分離(800g,5分)により回収し、10mLの1%ドデシル硫酸ナトリウム中で30分煮沸し、10mLの1%ドデシル硫酸ナトリウムで2回洗浄し、その後水で洗浄した。抽出された炭水化物は、公知のフェノール硫酸法によりパラミロンとして定量した。
同様に、n-ヘキサンを溶剤として用いて、乾燥した細胞から中性脂質を抽出した。乾燥した細胞に、10mLのn-hexaneを加えた。懸濁液を、超音波処理器(UD-201, TOMY)を用いて90秒間ホモジナイズした。液相を、グラスファイバーフィルターペーパーで濾過して回収した。残渣について、同様のヘキサン抽出をさらに一回行った。回収した脂質が溶解したヘキサンを、ロータリーエバポレーションシステム(N-1100 and NVC-2100, EYELA)を用いて濃縮した。乾燥後、フラスコに残った油脂の質量を、抽出された全中性脂質として定量した。
図15は、低酸素培養を行った場合と行っていない場合の従属培養液中のWT Z株及びB1ZFeL細胞における脂質含量を示すグラフである。N=3とした。
図15に示すように、結果は、BODIPY(登録商標)505/515染色E. gracilis細胞のフローサイトメトリー分析の結果と整合性が取れていた。好気条件下及び低酸素培養後の双方において、B1ZFeL変異体は、WT Z株よりも、脂質含量が1.4倍高かった。低酸素培養後において、B1ZFeL変異体の脂質含量は、18.0重量%であり、WT Z株の脂質含量は、12.8重量%であった。
高い脂質含量の作用機序を検討するため、細胞中のパラミロンの重量比率についても検討した。
図16は、低酸素培養を行った場合と行っていない場合の従属培養液中のWT Z株及びB1ZFeL細胞におけるパラミロン含量を示すグラフである。N=3とした。
図16に示すように、好気条件下及び低酸素培養後の双方において、パラミロンの細胞内含量は、B1ZFeL変異体の方が、WT Z株よりも低くなっていた。
パラミロン蓄積量の低下に伴ってB1ZFeL変異体の脂質含量が増加していることは、脂質の高含量が、細胞内でのワックス発酵経路が常に亢進されていることによって引き起こされていることを、示唆している。
また、中性脂質は、70℃で3時間、5%HCl/MeOH処理を行い、FAME(脂肪酸メチルエステル)及び脂肪アルコールに転換した。分解物質は、n-ヘキサンで回収し、濃縮し、クロロホルムに再度溶解させた。溶解して得た溶液は、GC-MS分析を行い、ステアリン酸メチルを内部標準として用いて、それぞれの成分の定量化を行った。
表1,2及び図17及び図18に、低酸素条件で培養したWT Z株及びB1ZFeL細胞の中性脂質における脂肪酸とアルコールの構成比率を示す。比率は、それぞれの構成成分の推定重量を全体の推定重量で除すことにより算出した。
表1,2及び図17及び図18の結果より、抽出された脂質を構成する脂肪酸及び脂肪アルコールの比率は、WT Z株及びB1ZFeL変異体において殆ど一致していることが分かった。
これらの結果は、B1ZFeL変異体の表現型は、特定の脂質代謝経路の機能不全によるものではなく、ワックス発酵経路の全般的な上方調節によるものであることを示唆している。
<まとめ>
以上より、本発明の油脂高含有ユーグレナの製造方法により、野生株WT Z株よりも脂質含量比率が40%高い、産業上有用な変異株B1ZFeLが得られることが分かった。産生した株は、パラミロン貯蔵量の低減に伴ってワックスエステルを貯蔵することが確認されており、このことは、変異株内でのワックス発酵プロセスが常時上方制御されていることを示唆している。
好気条件下及び低酸素培養後における中性脂質含量が、WT Z株よりもB1ZFeLにおいて1.4倍しか高くなっていないのに対し、好気条件下及び低酸素培養後において、BODIPY(登録商標)505/515に基づく蛍光が、それぞれ、WT Z株よりもB1ZFeLにおいて4.7倍及び8.3倍高くなっていた。このような相違が生じたのは、BODIPY(登録商標)505/515で染色した顆粒内に、n-ヘキサンで抽出された脂質含量全体のうち一部の油脂しか含まれていなかったか、又は、B1ZFeL変異体に染色試薬の透過性が高まるなどの追加の表現型を示していたためであると、推定できる。
B1ZFeL変異体を獲得したスクリーニング条件は、好気的条件下で油脂を蓄積する変異体を獲得できるようにデザインされた。このような表現型は、環境認識メカニズムの修正によって達成されていることを想定しており、つまり好気条件下で周囲の環境を低酸素状態であると認識する変異体がとれると予想していた。しかしながら、実際に獲得したB1ZFeL変異体は、好気的条件下でもWT Z株よりも高い脂質含量を示したが、低酸素培養後に脂質含量が更に増加した。このことから、B1ZFeLの、環境認識能力が完全には失われていないと解釈できる。これは、予め決定された標的遺伝子の弱い変異アレルを持っている、もしくは、冗長な遺伝子経路の一方が阻害されている可能性などが考えられる。獲得した変異体を用いた油脂生産には、パラミロンを脂質に効率よく変換するために、依然としてワックス発酵プロセスが必要であるが、この株を用いることによりその効率を顕著に高めることができる。
本実験例では、Feイオン照射によってランダムに変異導入した105の独立したゲノム(細胞)の4つのグループから変異体の選択を行ったが、よりよい変異株を獲得するためには、同じプロセスによる選択の規模を拡大することが好ましい。
ワックスエステル発酵プロセスは、パラミロンから得たグルコースの分解によってATPを獲得し、それに続くミトコンドリアでのピルビン酸からアシルCoAを生成するE. gracilis固有の脂肪酸合成経路は、全体として、エネルギー収支が0である。このため、ワックスエステル発酵プロセスは、全体を通してATPを獲得するエネルギー生産反応であることが知られる。
このため、ワックスエステル発酵が亢進していると考えられるB1ZFeLでは、WT Z株と比較してエネルギー的に不利とは考えられない。しかし、実際にはB1ZFeL変異体は、WT Z株よりも遅い増殖を示すため(図12)、TCAサイクルに供給されるはずのグルコースのうちのいくらかが、ワックス生成に利用され、このため獲得細胞分裂等に利用するエネルギーが相対的に少なくなっていることが考えられる。低酸素培養後の脂質含量がB1ZFeLにおいて1.4倍高かったのに対し、従属栄養培養の6日目では、B1ZFeL細胞数は、WT Z株の細胞数の約85%であった。これらの数字は、同じ期間培養した後であっても、B1ZFeL変異株は、20%高い脂質量を生産し、全体として油脂生産性が向上していることを示している。
E. gracilis以外にも、800以上のEuglena近縁種が存在することが知られ、多くの種はパラミロン及びワックスの蓄積の特性が共通する。E. gracilisは、高増殖率で急激に増殖する点で特徴的であるが、他の多くの種もまた産業的利用に有益な特徴を有する。例えば、E. anabaena var. minorは、容易に沈降し、E. mutabilisは、産生鉱山廃水でも増殖し、E. sanguineaは、カロテノイドのアスタキサンチンを生成する。本実験例の蛍光標識細胞分取又はフローサイトメトリーの有用性は、E. gracilisの生細胞分取には限られず、これら他のEuglena種にも適用可能である。
1 装置
2 細胞浮遊液チューブ
3 シース液チューブ
4 フローセル
5 ノズル
6 光源
7 検出器
8 データ処理系
9 電場
10 試験管

Claims (4)

  1. 変異原を用いて、ユーグレナ生細胞の突然変異を誘発する突然変異誘発工程と、
    該突然変異誘発工程を経た前記細胞を、細胞内脂質を染色する蛍光試薬で染色した後、蛍光標識細胞分取により、染色した前記細胞から所定の強度以上の蛍光強度を有する前記細胞を分取して、前記突然変異で細胞内油脂含量が高められた変異体を濃縮する変異体濃縮工程と、
    前記変異体を培養する変異体培養工程と、を行い、
    前記変異体濃縮工程では、前記染色した細胞を含む液体を、100μm以上130μm以下の径のノズルから流して前記蛍光標識細胞分取を行うことを特徴とする油脂高含有ユーグレナの製造方法。
  2. 前記変異体濃縮工程では、前記蛍光試薬として、ボロンジピロメテンを用い、前記細胞を前記ボロンジピロメテンに曝露することにより、前記細胞内脂質を染色することを特徴とする請求項1記載の油脂高含有ユーグレナの製造方法。
  3. 前記変異体培養工程の後で、前記変異体から、無作為に複数の変異体を分離し、独立に培養して変異株を樹立する変異体分離培養工程と、
    樹立した前記変異株から、フローサイトメトリーにより、最も前記蛍光試薬に染色された株を選択する選択工程と、を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の油脂高含有ユーグレナの製造方法。
  4. 前記選択工程の後で、選択された前記株を、好気的条件で培養後、低酸素条件で培養することを特徴とする請求項記載の油脂高含有ユーグレナの製造方法。
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