JP2020187083A - 既設樹脂材の経年劣化評価方法及びその評価装置 - Google Patents
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Abstract
Description
本発明の樹脂材の経年劣化評価方法は、評価対象である既設樹脂材の設置現場において、既設樹脂材の表面に、砥粒と液体が混合された投射粒子(以下「スラリー」という。)を一定量投射することにより摩耗痕を生成(以下「エロージョン」という。)し、生成された摩耗痕の摩耗度合いを検知し、検知した摩耗度合いと、樹脂材の引張試験による引張破壊ひずみとの相関関係に基づいて、既設樹脂材の劣化度を評価する方法である。
本発明の既設樹脂材の経年劣化評価装置は、既設樹脂材の設置現場において、既設樹脂材の表面に一定量のスラリーを噴射(投射)し、当該既設樹脂材の表面をエロージョンにより摩耗痕を生成する粒子投射装置(以下「スラリー装置」という。)と、生成された摩耗痕を計測して少なくとも摩耗痕の深さを検知できる計測装置を備えたものである。前記スラリー装置はスラリーを圧縮空気で加速投射するスラリー投射部(投射ガン及び投射ノズル)を備え、前記計測装置はエロージョンにより形成された摩耗痕の少なくとも深さを検知できる計測子を備えている。スラリー投射部と計測子は一つにまとめて、既設樹脂材に脱着可能なハンディタイプ試験機としてある。前記スラリー投射部はハンディタイプ試験機が既設樹脂材の表面に固定された状態でスラリー投射位置と退避位置に移動可能であり、前記計測子はハンディタイプ試験機の固定状態で摩耗痕計測位置と退避位置に移動可能である。これら移動はハンディタイプ試験機に設けてある移動機構により行うことができるようにしてある。ハンディタイプ試験機はスラリーを貯留するスラリーポット、スラリー投射部から投射したスラリーの飛散を防止するカバーを備えたものであってもよい。
(1)既設樹脂材の設置場所で、既設樹脂材の一部を評価試料として切り出す必要がなく、非破壊で評価できるので、評価作業を迅速に行うことができる。また、切り出し跡を修復する面倒も、修復跡が残って体裁が悪くなることもない。
(2)既設樹脂材の劣化度を、強度劣化と相関関係のある、樹脂材の引張試験による引張破懐ひずみ(引張破壊呼びひずみ)に基づいて評価するので、既設樹脂材の強度劣化を適切に評価できる。
(3)既設樹脂材の摩耗度合いと初期品の摩耗度合いとの比率、増加量や数値によって劣化度を評価するので、既設樹脂材の経年劣化を適切に評価できる。
(1)少なくともスラリー投射部と計測子をまとめて既設樹脂材の表面に脱着可能なハンディタイプ試験機としてあるため、既設樹脂材表面へのハンディタイプ試験機の脱着作業が容易になる。
(2)既設樹脂材に固定されたハンディタイプ試験機のスラリー投射部がスラリー投射位置と退避位置に、計測子が摩耗痕計測位置と退避位置に移動可能であるため、スラリー装置と計測装置を既設樹脂材へ付け替えることなくエロージョンによる摩耗痕の形成と摩耗痕の計測ができ、摩耗痕の形成と計測を簡易、迅速に行うことができる。
本件発明者は、本発明である既設樹脂材の経年劣化評価方法の開発に先立って、高速道路の透光性遮音板に使われているポリカーボネート(PC)を試料(試験検体)として、次の試験を行って以下の知見を得た。この試験は、本件発明者の一人である松原亨が先に開発し、同人が代表取締役を務める株式会社パルメソが特許取得した試験検体計測評価装置(MSE試験装置:この試験装置を使用した試験法は「MSE試験法」と呼ばれて世の中に普及している。「MSE」は株式会社パルメソの登録商標)を使用して行った。このMSE試験装置は、図1(a)(b)に示すように、スラリーAを圧縮空気(エアー)と共に、投射ガンBにて混合し、投射ノズルCから高速投射A’で試験検体Oに衝突させて、試験検体Oを表面側からエロージョン(摩耗)して摩耗痕Dを生成し、その摩耗痕Dに計測装置Eの触針Fを接触させて、摩耗痕中心の深さを計測して、試験検体Oの摩耗強度その他の機械的特性を評価することができる装置である。
1)本試験では、実環境下に設置後5〜30年経過した劣化品(劣化PC)と未劣化品(未使用の初期品)を、5mm板厚に限定して強度試験に供用した。
2)劣化による強度低下の確認は引張試験方法で行い、この試験で得られた応力ひずみ曲線(図2)からその変化特性を探った。
知見1:PCは設置年数や環境によって劣化度合いに強弱があることが確認でき、劣化度合いに応じた引張破壊ひずみが低下することが認められた。
知見2:劣化が進行しているPCであるにもかかわらず、降伏点に変化がないことから、降伏点応力は劣化度の指標には使用できないこと、劣化進行と引張破壊ひずみは相関関係にあることから、劣化度合いは引張破壊ひずみの低下度合いが判定基準になることがわかった。
前記試験検体を使ってMSE試験装置にて強度劣化の様相を探った。MSE試験装置の試験条件(使用粒子、投射力等)を固定し、その条件で当該試験装置の投射ノズルC(図1(a))から、劣化PC(試験検体O)の表面に一定量のスラリーAを投射して、当該PCに摩耗痕Dを生成した後、摩耗痕Dの深さ計測をする。摩耗度合いは単位投射量当たりの摩耗深さを計算しエロージョン率とした。同じ位置に繰り返し試験を行い、エロージョン率と深さの関係(図3)を取得した。エロージョン率は材料が劣化などで弱くなるほど大きくなる関係があり、図3を劣化パターン図とし、PC表面からの劣化度合いの分布を示している。
知見3:図3より、劣化年数や劣化環境に応じて、劣化パターンの強弱が確認できた。新たな知見として、どの劣化PCも表面部の劣化度が大きく(エロージョン率が大きく)、内部に向かって急速に劣化の進行が少なくなっていること、各試験検体の劣化の程度に応じた深さ方向のエロージョン率分布のパターンが異なることが判明した。
試験した複数の劣化PCのエロージョン率の深さ分布曲線(図3)から、投射量一定又は摩耗深さ一定の条件でエロージョン率の平均化(以下「エロージョン率平均」という。)を行うと、劣化度合いの数値化が可能になることがわかった。
1)MSE試験での劣化量は投射量と摩耗深さの関係から、一定深さ又は一定投射量でのエロージョン率平均を数値化することができる。
2)引張破壊のひずみ率とMSE試験のエロージョン率平均は、2次曲線で反比例する関係が見られた(図4)。引張破壊ひずみ率は未使用の初期品を100%としてその低下度合いで示した。
3)引張破壊のひずみ率の低下度合いは、劣化したPCの残存強度を示していることから、相関が得られるMSE試験のエロージョン率平均で劣化度合いを試験計測できることがわかった。
本件発明者は前記試験により次の知見も得、それら知見に基づいて、透光性遮音板の劣化度合いの判定法を見出した。
1)自然環境における劣化PCの劣化挙動は主に表面部に劣化が発生、内部の劣化発生は少ない。
2)表面の劣化度合いに応じて引張破壊ひずみ率が小さくなる関係があり、引張破壊ひずみが小さくなると靭性が低くなり破壊しやすくなる関係がわかった。
3)MSE試験法は試験検体の表面からの粒子投射摩耗によって透光性遮音板の表面部劣化度合いを数値化でき、繰り返し試験にて試験検体の表面から内部まで精密にエロージョン率の分布が得られ、一定の深さまでの平均で数値化されたエロージョン率平均は引張破壊ひずみ率との相関関係にあることがわかった。
前記試験で使用したMSE試験装置は、既設樹脂材の表面から内部まで精密にエロージョン率が得られるが、スラリー装置のスラリー投射部、スラリーポット、計測装置の計測子のサイズが大きく、重くて現場に持ち込みにくい等の面から現場作業での使用に難点があった。そこで、本発明では、前記MSE試験装置の基本的構成を踏襲した上で、スラリー装置のスラリー投射部と計測装置の計測子の合計の重さ、或いはそれらにスラリーポット及びスラリー回収装置を付加した合計の重さを約15kg以下の軽量にし、それらをまとめて既設樹脂材に脱着可能なサイズのハンディタイプにした改良型のMSE試験装置を開発した。この試験装置を以下の説明ではハンディタイプ試験機という。
既設樹脂材12の経年劣化評価の作業手順の一例を図7に示す。
1)ハンディタイプ試験機の取り付け
ハンディタイプ試験機10を既設樹脂材12の表面に固定装置(吸盤)20にて吸着固定する(図5(b)、図9)。
2)スラリーの投入
ハンディタイプ試験機10のスラリーポット15(図5(a)(b))にスラリーを投入する。スラリー内の投射粒子は既存のMSE試験法で使用されている粒子と同じく、球形、無機材質であって直径30μm以下のものを使用した。スラリーの濃度は粒子の質量比で6mass%とした。
3)未投射面計測
スラリー投射前に、計測装置17を計測中心位置に移動し、現場の既設樹脂材12の未投射面の深さを計測し、第1基準深さとする。
4)既設樹脂材の表面洗浄用投射
既設樹脂材12の表面にはごみや汚れが付着している。それらを洗浄するため、当該表面にハンディタイプ試験機10のスラリー装置13の投射ノズル14bを投射中心位置に移動し、その投射ノズル14bよりスラリーを既設樹脂材12の表面に投射する。スラリーの投射量、投射力等の投射条件は既存のMSE試験法での圧力と同様に設定することができる。投射量は任意であるが、一例としては粒子量で5.5g程度である。
5)前記4)の投射後に計測装置17の計測子(プローブ)17aを計測中心位置に移動し、摩耗痕中心の深さを計測し、第2基準深さとする。
6)劣化計測用投射
既設樹脂材12の劣化度合い数値化のため、ハンディタイプ試験機10のスラリー装置13の投射ノズル14bを投射中心に移動し、前記4)の作業で汚れを除去した既設樹脂材12の表面に、投射ノズル14bよりスラリーを投射する。投射条件は前記4)と同じで、スラリー1の投射量、投射力等は既存のMSE試験法での圧力と同様に設定した。投射量は一定であれば任意であるが、例えば、粒子量で13.5g程度である。
7)摩耗痕深さ計測
前記6)の投射後に、計測装置17の計測子17aを計測中心位置に移動し、計測子17aを摩耗痕中心に接触させて摩耗痕中心の深さを計測し、第3基準深さとする。
8)エロージョン率平均の計算
摩耗度合いの検知は、投射した単位粒子投射量当たりの摩耗深さ、すなわちエロージョン率平均の検知により行った。ここでいうエロージョン率平均は、前記7)の摩耗深さにおける平均計算されたエロージョン率とする。エロージョン率は、摩耗深さを投射量で除した式で計算される。本事例では、摩耗深さは、前記7)で計測された第3基準深さから、前記5)で計測された第2基準深さを引き算して算出される。投射量は、前記6)で使用された粒子量で、事例では13.5gとなる。このような計算は試験機制御部30(図9)の演算処理部にて行われ、計算されたエロージョン率平均は劣化度合いの尺度になる。
1)ハンディタイプ試験機10によって摩耗痕Dを生成した場合でも、エロージョン率平均の数値で劣化度合いの判定ができることが確認できた。
2)ハンディタイプ試験機10からの粒子の投射、摩耗によって得られるエロージョン率平均などの指標は、環境にさらされている既設樹脂材12の劣化度合いの評価が可能である。
3)環境にさらされている既設樹脂材12であれば、ポリカーボネート(PC)だけでなく、アクリル樹脂(PMMA)、ナイロン樹脂(PA)、塩ビ樹脂(PVC)などの樹脂全般にわたって利用できる。また塗装等のコーティングされた樹脂材料にも応用できる。
本発明の既設樹脂材の経年劣化評価試験の実施形態を、プラスチック製透光性遮音板(既設樹脂材)が設置されている高速道路において、既設樹脂材を切り取ることなく非破壊で行った例を示す。ここで使用した評価装置(評価システム)は図9に示すものであり、前記ハンディタイプ試験機10に外部機器11を接続したものである。図9の外部機器11は試験機制御部30と、真空吸引機31と、コンプレッサー32と、これら機器に電源供給できる電源発電機33である。
11 外部機器
12 既設樹脂材
13 スラリー装置
14 スラリー投射部
14a 投射ガン
14b 投射ノズル
15 スラリーポット
16 カバー
17 計測装置
17a 計測子
18 架台(ベース)
20 固定装置
21 ガイドレール
30 試験機制御部
31 真空吸引機
32 コンプレッサー
33 電源発電機
A スラリー
B 投射ガン
C 投射ノズル
D 摩耗痕
E 計測装置
F 触針
O 試験検体
Claims (9)
- 既設環境にさらされている既設樹脂材の経年劣化を評価する方法において、
既設樹脂材の設置現場において、既設樹脂材の表面にスラリーを一定量投射して当該表面をエロージョンして摩耗痕を生成し、その摩耗痕の深さを計測して摩耗度合いを検知し、この摩耗度合いと、前記既設樹脂材の引張試験による引張破懐ひずみとの相関関係に基づいて既設樹脂材の経年劣化度合いを評価する、
ことを特徴とする既設樹脂材の経年劣化評価方法。 - 既設環境にさらされている既設樹脂材の経年劣化を評価する方法において、
既設樹脂材の設置現場において、既設樹脂材の表面にハンディタイプ試験機を固定し、そのハンディタイプ試験機が備えているスラリー装置から既設樹脂材の表面にスラリーを一定量投射して当該表面をエロージョンして摩耗痕を生成し、前記ハンディタイプ試験機が備えている計測装置により前記摩耗痕の深さを計測して摩耗度合いを検知し、この摩耗度合いと前記既設樹材の引張試験による引張破壊ひずみとの相関関係に基づいて既設樹脂材の経年劣化度合いを評価する、
ことを特徴とする既設樹脂材の経年劣化評価方法。 - 請求項1又は請求項2記載の既設樹脂材の経年劣化評価方法において、
スラリーを一定量投射する方法が、圧縮空気によりノズルから高速投射する方法である、
ことを特徴とする既設樹脂材の経年劣化評価方法。 - 請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の既設樹脂材の経年劣化評価方法において、
摩耗度合いを検知する方法が、単位粒子投射量当たりの摩耗深さすなわちエロージョン率を採用した、
ことを特徴とする既設樹脂材の経年劣化評価方法。 - 請求項4記載の既設樹脂材の経年劣化評価方法において、
採用したエロージョン率は一定の投射深さまでの平均又は一定投射量当たりの平均であるエロージョン率平均である、
ことを特徴とする既設樹脂材の経年劣化評価方法。 - 既設環境にさらされている既設樹脂材の経年劣化評価装置において、
既設樹脂材の設置現場において、既設樹脂材の表面にスラリーを投射し、既設樹脂材をエロージョンして、既設樹脂材に摩耗痕を生成するスラリー装置と、スラリー装置により生成された摩耗痕の深さを計測する計測装置と、両装置を既設樹脂材に脱着可能に固定できる固定装置とを備え、
前記スラリー装置はスラリーを加速投射するスラリー投射部を備え、
前記計測装置は前記摩耗痕の深さを計測する計測子を備え、
少なくとも前記スラリー投射部と計測子はまとめて、前記固定装置により既設樹脂材に脱着可能に固定できるハンディタイプ試験機である、
ことを特徴とする既設樹脂材の経年劣化評価装置。 - 請求項6記載の既設樹脂材の経年劣化評価装置において、
スラリー装置がスラリーを貯留できるスラリーポットをも備え、そのスラリーポットもハンディタイプ試験機に装備されている、
ことを特徴とする既設樹脂材の経年劣化評価装置。 - 請求項6又は請求項7記載の既設樹脂材の経年劣化評価装置において、
スラリー装置がスラリー投射部から既設樹脂材に投射されたスラリーの飛散を防止するカバーをも備え、そのカバーはスラリー投射部の投射方向先方であって既設樹脂材への衝突部周囲にあり、そのカバーもハンディタイプ試験機に装備されている、
ことを特徴とする既設樹脂材の経年劣化評価装置。 - 請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の既設樹脂材の経年劣化評価装置において、
ハンディタイプ試験機がスラリー投射部をスラリー投射位置と退避位置に、計測子を摩耗痕計測位置と退避位置に移動可能な移動機構を装備している、
ことを特徴とする既設樹脂材の経年劣化評価装置。
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