JP2020177970A - ヒ化ガリウム基板、エピタキシャル基板、ヒ化ガリウム基板の製造方法およびエピタキシャル基板の製造方法 - Google Patents

ヒ化ガリウム基板、エピタキシャル基板、ヒ化ガリウム基板の製造方法およびエピタキシャル基板の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】LPDの個数が低減したエピタキシャル膜を形成することが可能なヒ化ガリウム基板を提供する。【解決手段】主面を有するヒ化ガリウム基板であって、前記ヒ化ガリウム基板は、前記主面の表面から深さ1nmまでの領域をXPS分析により測定した場合、前記領域におけるAsの原子数に対するGaの原子数の比が0.8以上1以下となる。【選択図】図1

Description

本開示は、ヒ化ガリウム基板、エピタキシャル基板、ヒ化ガリウム基板の製造方法およびエピタキシャル基板の製造方法に関する。
特開平05−291233号公報(特許文献1)は、以下のようなGaAsウエハの洗浄方法を開示している。すなわち上記洗浄方法は、まずGaAsウエハを鏡面研磨し、有機洗浄し、水洗する。次に、水およびイソプロピルアルコール(以下、「IPA」とも記す)の双方に可溶な溶剤に上記ウエハを浸漬することにより、上記ウエハ表面の付着水を上記溶剤で置換する。その後IPAによる蒸気乾燥を行う。特許文献1では、上記洗浄方法を実行することにより、GaAsウエハにエピタキシャル成長させた膜(以下、「エピタキシャル膜」とも記す)を形成した場合、エピタキシャル膜の表面の欠陥を低減できるとしている。
特開平05−291233号公報
エピタキシャル膜の表面の欠陥の一つとしてLPD(Light Point Defect)があり、その数が増大することとデバイス特性が低下することとが相関することが知られる。LPDとは、エピタキシャル膜の表面に光を照射することによって上記表面の平滑性(段差の有無)を評価するときに用いられる用語であって、LPDの個数が多い程、上記エピタキシャル膜の表面に多くの段差が存在することを意味する。当該段差は、たとえばヒ化ガリウム基板にエピタキシャル膜を成長させたときに生じる積層欠陥(スタッキングフォルト)に由来する。このため、表面の平滑性が高いヒ化ガリウム基板を実現することにより、LPDの個数を低減させることが要求されている。特許文献1に開示されたGaAsウエハに対しても、LPDの個数をより一層低減させることが要求される場合があった。
以上の点に鑑み、本開示は、LPDの個数が低減したエピタキシャル膜を形成することが可能なヒ化ガリウム基板、エピタキシャル基板、ヒ化ガリウム基板の製造方法およびエピタキシャル基板の製造方法を提供することを目的とする。
本開示に係るヒ化ガリウム基板は、主面を有するヒ化ガリウム基板であって、上記ヒ化ガリウム基板は、上記主面の表面から深さ1nmまでの領域をXPS分析により測定した場合、上記領域におけるAsの原子数に対するGaの原子数の比が0.8以上1以下となる。
本開示に係るエピタキシャル基板は、上記ヒ化ガリウム基板と、上記ヒ化ガリウム基板の上記主面に形成されたエピタキシャル膜とを含む。
本開示に係るヒ化ガリウム基板の製造方法は、ヒ化ガリウム基板前駆体から、主面を有するヒ化ガリウム基板を得るための洗浄工程を有するヒ化ガリウム基板の製造方法であって、上記洗浄工程は、上記ヒ化ガリウム基板前駆体を、有機溶剤で洗浄する工程と、上記ヒ化ガリウム基板前駆体を、塩基性化合物を0.1質量%以下含むアルカリ性溶液で洗浄する工程と、上記ヒ化ガリウム基板前駆体を、水で洗浄する工程と、上記ヒ化ガリウム基板前駆体に対し、その表面に付着した上記水をイソプロピルアルコールに置換する工程と、上記ヒ化ガリウム基板前駆体に対し、イソプロピルアルコール蒸気を用いて加熱乾燥することにより上記ヒ化ガリウム基板を得る工程とを含み、上記塩基性化合物は、金属元素を含まない有機化合物および金属元素を含まない無機化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
本開示に係るエピタキシャル基板の製造方法は、上記ヒ化ガリウム基板の製造方法により製造されたヒ化ガリウム基板の上記主面に、エピタキシャル膜を形成する工程を含む。
本開示によれば、LPDの個数が低減したエピタキシャル膜を形成することが可能なヒ化ガリウム基板、エピタキシャル基板、ヒ化ガリウム基板の製造方法およびエピタキシャル基板の製造方法を提供することができる。
図1は、ヒ化ガリウム基板の主面の表面から深さ1nmまでの領域(極表面)に対しXPS分析により測定した結果を表したグラフであって、特にGa酸化物およびGaAsを表す信号のピークが検出されるGa3dスペクトルが現れる束縛エネルギーが16eV以上25eV以下の範囲を表したグラフ(第1グラフ)である。 図2は、ヒ化ガリウム基板の主面の表面から深さ1nmまでの領域(極表面)に対しXPS分析により測定した結果を表したグラフであって、特にAs酸化物およびGaAsを表す信号のピークが検出されるAs3dスペクトルが現れる束縛エネルギーが37eV以上50eV以下の範囲を表したグラフ(第2グラフ)である。 図3は、本実施形態に係るヒ化ガリウム基板の製造方法において、主に洗浄工程に注目して説明するフロー図である。
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
[1]本開示の一態様に係るヒ化ガリウム基板は、主面を有するヒ化ガリウム基板であって、上記主面の表面から深さ1nmまでの領域をXPS分析により測定した場合、上記領域におけるAsの原子数に対するGaの原子数の比が0.8以上1以下となる。このような特徴を備えるヒ化ガリウム基板は、その主面の表面の平滑性が高まるため、上記主面の表面にエピタキシャル膜を形成した場合、エピタキシャル膜の膜表面におけるLPDの個数を低減させることができる。
[2]上記ヒ化ガリウム基板は、上記領域におけるGaAsの個数をGaAs量とし、上記領域におけるGa酸化物の個数およびAs酸化物の個数の和を酸化物量とした場合、上記GaAs量に対する上記酸化物量の比が2.7以下であることが好ましい。これにより、ヒ化ガリウム基板における主面の表面の平滑性をより一層高めることができるため、上記主面の表面にエピタキシャル膜を形成した場合、エピタキシャル膜の膜表面におけるLPDの個数をより一層低減させることができる。
[3]上記XPS分析は、エネルギーが150eVであるX線を用いて実行されることが好ましい。これにより、ヒ化ガリウム基板の主面の表面から深さ1nmまでの領域を精度良くXPS分析することができる。もってヒ化ガリウム基板の主面の表面にエピタキシャル膜を形成した場合、エピタキシャル膜の膜表面におけるLPDの個数を容易に低減させることができる。
[4]上記ヒ化ガリウム基板は、上記主面が(100)面から0°以上15°以下のオフ角を有する面であることが好ましい。これにより上記主面は、電気的特性および光学的特性に優れる面となる。もって本開示では、ヒ化ガリウム基板の電気的特性および光学的特性に優れる面に対しエピタキシャル膜を形成することができ、この場合においてエピタキシャル膜の膜表面におけるLPDの個数を低減させることができる。
[5]上記ヒ化ガリウム基板は、75mm以上300mm以下の直径を有する円盤状の形状であることが好ましい。後述のように本開示では、ヒ化ガリウム基板の形状として75mm以上の直径を有する大型基板を適用することができる。これにより75mm以上の直径を有する大型のヒ化ガリウム基板に対し、その主面の表面にエピタキシャル膜を形成することができ、この場合においてエピタキシャル膜の膜表面におけるLPDの個数を低減させることができる。
[6]本開示の一態様に係るエピタキシャル基板は、上記ヒ化ガリウム基板と、上記ヒ化ガリウム基板の上記主面に形成されたエピタキシャル膜とを含む。このような特徴を備えるエピタキシャル基板は、エピタキシャル膜の膜表面におけるLPDの個数を低減させることができる。
[7]上記エピタキシャル基板は、上記エピタキシャル膜における上記ヒ化ガリウム基板側とは反対側の膜表面に長径が10μm以上のLPDが存在し、上記膜表面1cm2当たりの上記LPDの個数が100個以下であることが好ましい。これによりエピタキシャル膜の膜表面におけるLPDの個数をより一層低減させることができる。
[8]上記エピタキシャル膜は、Al1-y-zGayInzAsからなる化合物膜であり、上記yは、0以上1以下であり、上記zは、0以上1以下であり、上記yと上記zとの和は、0以上1以下であることが好ましい。後述のように本開示では、ヒ化ガリウム基板の主面に形成するエピタキシャル膜として、Al1-y-zGayInzAs(0≦y≦1、0≦z≦1、0≦y+z≦1)からなる化合物膜を適用することができる。これにより、デバイスとして汎用されている化合物膜を形成したエピタキシャル基板において、エピタキシャル膜の膜表面におけるLPDの個数を低減させることができる。
[9]本開示の一態様に係るヒ化ガリウム基板の製造方法は、ヒ化ガリウム基板前駆体から、主面を有するヒ化ガリウム基板を得るための洗浄工程を有するヒ化ガリウム基板の製造方法であって、上記洗浄工程は、上記ヒ化ガリウム基板前駆体を、有機溶剤で洗浄する工程と、上記ヒ化ガリウム基板前駆体を、塩基性化合物を0.1質量%以下含むアルカリ性溶液で洗浄する工程と、上記ヒ化ガリウム基板前駆体を、水で洗浄する工程と、上記ヒ化ガリウム基板前駆体に対し、その表面に付着した上記水をイソプロピルアルコールに置換する工程と、上記ヒ化ガリウム基板前駆体に対し、イソプロピルアルコール蒸気を用いて加熱乾燥することにより上記ヒ化ガリウム基板を得る工程とを含み、上記塩基性化合物は、金属元素を含まない有機化合物および金属元素を含まない無機化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である。このような特徴を備えるヒ化ガリウム基板の製造方法は、主面の表面にエピタキシャル膜を形成した場合、エピタキシャル膜の膜表面におけるLPDの個数が低減したヒ化ガリウム基板を得ることができる。
[10]上記ヒ化ガリウム基板に対し、上記主面の表面から深さ1nmまでの領域をXPS分析する工程をさらに含むことが好ましい。これにより、ヒ化ガリウム基板の主面の表面から深さ1nmまでの領域を精度良くXPS分析することができ、もって主面の表面にエピタキシャル膜を形成した場合、エピタキシャル膜の膜表面におけるLPDの個数が低減したヒ化ガリウム基板を容易に得ることができる。
[11]上記ヒ化ガリウム基板は、上記主面の表面から深さ1nmまでの領域をXPS分析により測定した場合、上記領域におけるAsの原子数に対するGaの原子数の比が0.8以上1以下となることが好ましい。これによりヒ化ガリウム基板における主面の表面の平滑性を高めることができ、もって主面の表面にエピタキシャル膜を形成した場合、エピタキシャル膜の膜表面におけるLPDの個数が低減したヒ化ガリウム基板を得ることができる。
[12]本開示の一態様に係るエピタキシャル基板の製造方法は、上記ヒ化ガリウム基板の製造方法により製造されたヒ化ガリウム基板の上記主面に、エピタキシャル膜を形成する工程を含む。このような特徴を備えるエピタキシャル基板の製造方法は、膜表面におけるLPDの個数が低減したエピタキシャル膜をヒ化ガリウム基板上に形成したエピタキシャル基板を得ることができる。
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態(以下「本実施形態」とも記す)について、図面を参照しながら詳細に説明する。本明細書において「A〜B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。さらに、本明細書において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。たとえば「AlGaAs」と記載されている場合、AlGaAsを構成する原子比はAl:Ga:As=0.5:0.5:1に限られず、従来公知のあらゆる原子比が含まれる。このことは、「AlGaAs」以外の化合物の記載についても同様である。
〔ヒ化ガリウム基板〕
本実施形態に係るヒ化ガリウム基板(以下、「GaAs基板」とも記す)は、主面を有するGaAs基板である。上記GaAs基板は、上記主面の表面から深さ1nmまでの領域(以下、この領域を「極表面」とも記す)をXPS分析により測定した場合、上記領域におけるAsの原子数に対するGaの原子数の比が0.8以上1以下となる。このような特徴を備えるGaAs基板は、その主面の表面の平滑性が高まるため、上記主面の表面にエピタキシャル膜を形成した場合、エピタキシャル膜の膜表面におけるLPDの個数を低減させることができる。
本発明者らは、LPDの個数が低減したエピタキシャル膜を形成することが可能なGaAs基板の開発を進める中で、従来に比べGaAs基板における主面の表面の状態をより精度良く分析することができる放射光を用いたXPS(X線光電子分光:X−ray Photoelectron Spectroscopy)分析に注目した。具体的には、上記放射光をX線源として利用したXPS分析を実行することにより、GaAs基板における主面の表面の平滑性を悪化させている原因を特定し、かつ上記原因を解消することによってLPDの個数が低減したエピタキシャル膜を形成することが可能なGaAs基板に到達することを試みた。ここでXPS分析とは、試料に対してX線を照射し、上記試料から放出される光電子の運動エネルギーの分布を測定することにより、上記試料の表面に存在する元素の種類、存在量、化学結合状態などについての知見を得る分析手法をいう。
従来、GaAs基板の主面の表面をXPS分析により測定する場合、上記XPS分析は、エネルギーが1.5keVに固定されたX線(硬X線)を用いて実行されていた。この場合、GaAs基板の主面の表面状態に関する知見は、GaAs基板の主面の表面から深さ5nmまでの領域を平均化した状態として得られていた。上記領域は、原子層に換算すれば約20原子層に相当する。このため従来のXPS分析は、GaAs基板の主面のより表面に近い領域、すなわちより表面の少ない原子層のみを捕らえることができず、GaAs基板の主面の表面状態を精度良く分析することが困難となっていた。
これに対し本開示では、GaAs基板の主面の表面に対して実行するXPS分析のX線源として放射光を利用する。この場合、XPS分析に用いるX線のエネルギーを柔軟に選択することができる。本開示では、一般的に低エネルギーであるといわれる軟X線を選択し、これをXPS分析に用いる。具体的には、XPS分析は、エネルギーが150eVであるX線を用いて実行されることが好ましい。この場合、GaAs基板の主面の表面から深さ1nmまでの領域である極表面に対し、XPS分析を実行することができる。上記領域は、原子層に換算すれば約4原子層に相当し、もってGaAs基板の主面の表面状態を、従来に比してより一層精度良く分析することができる。
本実施形態に係るGaAs基板は、後述する実施例(試料1〜試料6)において示されるように、上記極表面を上記放射光を用いたXPS分析により測定した場合、極表面におけるAsの原子数に対するGaの原子数の比が0.8以上1以下となる。このようなGaAs基板における主面の表面にエピタキシャル膜を成長させた場合、上記エピタキシャル膜の膜表面1cm2当たり、長径が10μm以上のLPDの個数が100以下となる。
これに対し、従来のGaAs基板の極表面を上記放射光を用いたXPS分析により測定した場合、後述する比較例(試料101〜試料103)において示すように、極表面におけるAsの原子数に対するGaの原子数の比が0.8未満となる。このようなGaAs基板における主面の表面にエピタキシャル膜を成長させた場合、上記エピタキシャル膜の膜表面1cm2当たり、長径が10μm以上のLPDの個数が100を超える。本明細書においてエピタキシャル膜の「膜表面」とは、エピタキシャル膜におけるヒ化ガリウム基板側とは反対側の表面をいう。
ここで学術的には、GaAs基板の極表面を上記XPS分析により測定した場合に得られるGa3dスペクトルにおけるGa酸化物のピーク面積をa、Ga3dスペクトルにおけるGaAsのピーク面積をb、As3dスペクトルにおけるAs酸化物のピーク面積をc、As3dスペクトルにおけるAs酸化物のピーク面積をdとした場合、上記a〜dの値を求めることにより、GaAs基板の極表面におけるAsの原子数とGaの原子数との比を知り得ることができるとされる。具体的には、上記cと上記dとの和に6.9を乗じた値と、上記aと上記bとの和に6.8を乗じた値との比を求めることにより、GaAs基板の極表面におけるAsの原子数とGaの原子数との比を知ることができる。換言すれば「6.8(a+b)/6.9(c+d)」の計算式(以下、「計算式(1)」とも記す)を用いることにより、GaAs基板の極表面におけるAsの原子数とGaの原子数との比を知ることができる。上記計算式(1)に基づけば、本実施形態に係るGaAs基板は、その極表面におけるAsの原子数に対するGaの原子数の比が、0.8以上1以下と算出される。一方、従来のGaAs基板は、その極表面におけるAsの原子数に対するGaの原子数の比が、0.8未満と算出される。本明細書において、「ピーク面積」、「Ga3dスペクトル」および「As3dスペクトル」の各用語については、後述の説明により定義される。さらに上記a〜dの値を算出する方法についても後述する。
以上によれば、GaAs基板における主面の表面の平滑性を悪化させている原因(LPDの個数を増加させている原因)の一つが、GaAs基板の極表面に存在するAsの原子数と、上記極表面に存在するGaの原子数との間の比のズレであると推察される。具体的には、GaAs基板の極表面におけるGa:Asで表される原子数の比が1:1から逸脱すればするほど、上記主面の表面の平滑性が悪化し、上記主面の表面にエピタキシャル膜を形成した場合においてエピタキシャル膜の膜表面におけるLPDの個数が増加すると考えられる。一方、本実施形態に係るGaAs基板は、その極表面におけるAsの原子数に対するGaの原子数の比が0.8以上であり、GaAs基板の主面の表面におけるGa:Asで表される原子数の比が1:1に近い。これにより本実施形態に係るGaAs基板は、その主面の表面の平滑性が改善し、もって上記主面の表面にエピタキシャル膜を形成した場合、エピタキシャル膜の膜表面におけるLPDの個数を低減させることができる。このようなGaAs基板は、たとえば後述するGaAs基板の製造方法を実行することにより得ることができる。
本実施形態に係るGaAs基板は、極表面におけるAsの原子数に対するGaの原子数の比が0.83以上1以下であることが好ましく、0.9以上1以下であることがさらに好ましい。これによりGaAs基板は、エピタキシャル膜の膜表面におけるLPDの個数をより一層低減させることができる。
さらにGaAs基板は、上記領域におけるGaAsの個数をGaAs量とし、上記領域におけるGa酸化物の個数およびAs酸化物の個数の和を酸化物量とした場合、上記GaAs量に対する上記酸化物量の比が2.7以下であることが好ましい。すなわち上記a〜dの値が、a/b+c/d≦2.7の関係式(以下、「関係式(2)」とも記す)を満たすことが好ましい。上記関係式(2)は、GaAs基板の極表面に存在するGaAsの個数を意味するGaAs量に対し、上記極表面に存在するGa酸化物の個数およびAs酸化物の個数の和を意味する酸化物量の比が2.7以下であること、換言すれば、GaAs基板の極表面における酸化物量はGaAs量に比して2.7倍以内に抑えられていることを意味する。すなわち上記a〜上記dの値を求めることにより、GaAs基板の極表面におけるGaAs量と酸化物量との比も知り得ることができる。
これにより、GaAs基板における主面の表面の酸化物量を従来に比して抑制し、もってGaAs基板における主面の表面の平滑性をより一層高めることができる。このため上記主面の表面にエピタキシャル膜を形成した場合、エピタキシャル膜の膜表面におけるLPDの個数をより一層低減させることができる。GaAs基板は、上記領域におけるGaAs量に対する酸化物量の比が2.65以下であることが好ましい。GaAs基板の上記領域におけるGaAs量に対する酸化物量の比の下限は、特に制限されるべきではないが、エピタキシャル膜の表面平坦性を保つ観点から2.10以上であることが好ましい。
<GaAs基板の極表面を対象としたXPS分析>
(Asの原子数に対するGaの原子数の比、およびGaAs量に対する酸化物量の比の算出方法)
以下、放射光をX線源としたXPS分析を用いてGaAs基板の極表面におけるAsの原子数に対するGaの原子数の比、およびGaAs量に対する酸化物量の比を算出する方法を、図1および図2に基づいて説明する。まず従来公知のGaAs基板の製造方法、または後述するGaAs基板の製造方法を実行することによりGaAs基板を得る。このGaAs基板における主面の表面に対し、エネルギーが150eVであるX線を用いて上記XPS分析を実行する。
この場合において上記XPS分析では、GaAs基板から放出される光電子の運動エネルギーの分布等について、たとえば高分解能XPS分析装置(商品名:「R3000」、Scienta Omicron社製)を用いることにより解析することができる。さらに上記XPS分析では、精度良く測定する観点から、所定の束縛エネルギーの範囲をナロースキャンすることによりGa3dスペクトルおよびAs3dスペクトルを得ることが好ましい。具体的には、束縛エネルギーが16〜25eVである範囲をナロースキャンすることにより、上記範囲を横軸とし、縦軸を信号強度とした第1グラフにGa3dスペクトルを現し、かつ束縛エネルギーが37〜50eVである範囲をナロースキャンすることにより、上記範囲を横軸とし、縦軸を信号強度とした第2グラフにAs3dスペクトルを現すことができる。以上から、GaAs基板の極表面をXPS分析により測定した結果を、図1の第1グラフに現れるGa3dスペクトル、および図2の第2グラフに現れるAs3dスペクトルとして得ることができる。
ここで本明細書において「Ga3dスペクトル」とは、束縛エネルギーが16〜25eVである範囲において、上記高分解能XPS分析装置が検出したGa(Ga酸化物およびGaAsに含まれるGa)の3d軌道から放出された光電子の信号強度を表すスペクトルをいう。「As3dスペクトル」とは、束縛エネルギーが37〜50eVである範囲において、上記高分解能XPS分析装置が検出したAs(As酸化物およびGaAsに含まれるAs)の3d軌道から放出された光電子の信号強度を表すスペクトルをいう。
次に、GaAs基板の極表面におけるAsの原子数に対するGaの原子数の比を、上記Ga3dスペクトルおよび上記As3dスペクトルから以下に説明する方法を用いて上記a〜dの値を求めることにより算出する。
まず図1の第1グラフに現れたGa3dスペクトルにおいて、点Aから点Bまでの積分値を算出する。この点Aから点Bまでの積分値は、Ga3dスペクトルにおけるGa酸化物のピーク面積を意味する。すなわち点Aから点Bまでの積分値が上記aの値を表す。Ga3dスペクトルにおいて点Aは、定常状態を示すほぼ横軸と平行な波形から、Ga酸化物の信号強度が最大となるピーク1(以下、「Ga第1ピーク1」とも記す)に向けて急峻に立ち上がる波形へと変化が生じる点をいう。Ga3dスペクトルにおいて点Bは、Ga第1ピーク1を表す波形がガウス分布を示すと仮定して作成される仮想線(図1において一点鎖線で示す)において、Ga第1ピーク1より急峻に下がる波形から、定常状態を示すほぼ横軸と平行な波形へと変化が生じる点をいう。
さらに上記Ga3dスペクトルにおいて、点Cより点Dまでの積分値を算出する。この点Cより点Dまでの積分値は、Ga3dスペクトルにおけるGaAsのピーク面積を意味する。すなわち点Cから点Dまでの積分値が上記bの値を表す。Ga3dスペクトルにおいて点Cは、GaAsの信号強度が最大となるピーク2(以下、「Ga第2ピーク2」とも記す)を表す波形がガウス分布を示すと仮定して作成される仮想線(図1において一点鎖線で示す)において、定常状態を示すほぼ横軸と平行な波形から、Ga第2ピーク2に向けて急峻に立ち上がる波形へと変化が生じる点をいう。Ga3dスペクトルにおいて点Dは、Ga第2ピーク2より急峻に下がる波形から、定常状態を示すほぼ横軸と平行な波形へと変化が生じる点をいう。
続いて、図2の第2グラフに現れたAs3dスペクトルにおいて点Eより点Fまでの積分値を算出する。この点Eより点Fまでの積分値は、As3dスペクトルにおけるAs酸化物のピーク面積を意味する。すなわち点Eより点Fまでの積分値が上記cの値を表す。As3dスペクトルにおいて点Eは、定常状態を示すほぼ横軸と平行な波形から、As酸化物の信号強度が最大となるピーク3(以下、「As第1ピーク3」とも記す)に向けて急峻に立ち上がる波形へと変化が生じる点をいう。As3dスペクトルにおいて点Fは、As第1ピーク3を表す波形がガウス分布を示すと仮定して作成される仮想線(図2において一点鎖線で示す)において、As第1ピーク3より急峻に下がる波形から、定常状態を示すほぼ横軸と平行な波形へと変化が生じる点をいう。
さらに上記As3dスペクトルにおいて、点Gより点Hまでの積分値を算出する。この点Gより点Hまでの積分値は、As3dスペクトルにおけるGaAsのピーク面積を意味する。すなわち点Gより点Hまでの積分値が上記dの値を表す。As3dスペクトルにおいて点Gは、GaAsの信号強度が最大となるピーク4(以下、「As第2ピーク4」とも記す)を表す波形がガウス分布を示すと仮定して作成される仮想線(図2において一点鎖線で示す)において、定常状態を示すほぼ横軸と平行な波形から、As第2ピーク4に向けて急峻に立ち上がる波形へと変化が生じる点をいう。Ga3dスペクトルにおいて点Hは、As第2ピーク4より急峻に下がる波形から、定常状態を示すほぼ横軸と平行な波形へと変化が生じる点をいう。
最後に、各積分値であるa(Ga3dスペクトルにおけるGa酸化物のピーク面積)、b(Ga3dスペクトルにおけるGaAsのピーク面積)、c(As3dスペクトルにおけるAs酸化物のピーク面積)およびd(As3dスペクトルにおけるGaAsのピーク面積)の値を、上述した計算式(1)に代入する。これによりGaAs基板の極表面におけるAsの原子数に対するGaの原子数の比を求めることができる。
さらにGaAs基板の極表面におけるGaAs量に対する酸化物量の比を、上記a〜dの値を上述した関係式(2)に代入することにより求めることができる。具体的には、上記a〜dの値を上述した関係式(2)に代入することにより、GaAs基板の極表面におけるGaAs量に対する酸化物量の比が2.7以下であるか否かを判定することができる。Ga3dスペクトルおよびAs3dスペクトルから、各積分値である上記a〜dの値を得るには、たとえば解析用ソフトウエア(商品名:「MultiPak」、Ulvac−phi社製)を用いることができる。
<GaAs基板のオフ角>
本実施形態に係るGaAs基板は、上記主面が(100)面から0°以上15°以下のオフ角を有する面であることが好ましい。上記主面が(100)面から0°以上15°以下のオフ角を有する面である場合、GaAs基板において電気的特性および光学的特性に優れる方位を有する面に、LPDの個数が低減したエピタキシャル膜を形成することができる。もってLPDの個数を低減させた効果を、GaAs基板のデバイス特性の向上に有効に生かすことができる。GaAs基板は、上記主面が(100)面から0°以上6°以下のオフ角を有する面であることがより好ましい。GaAs基板は、上記主面が(100)面から2°±0.2°(1.8〜2.2°)のオフ角を有する面であることが最も好ましい。
GaAs基板の主面における(100)面からのオフ角については、従来公知の単結晶方位測定装置(たとえば商品名:「X‘Pert PRO MRD」、Malvern Panalytical社製)を用いることにより測定することができる。
<GaAs基板の形状>
本実施形態に係るGaAs基板は、75mm以上300mm以下の直径を有する円盤状の形状であることが好ましい。すなわち本開示は、75mm以上300mm以下の直径を有する大型のGaAs基板を提供することができる。GaAs基板は、100mm以上150mm以下の直径を有する円盤状の形状であることがより好ましい。これにより75mm以上の直径を有する大型のGaAs基板に対し、その主面の表面にエピタキシャル膜を形成した場合、エピタキシャル膜の膜表面におけるLPD数を低減させることができる。
ここで本明細書において、「75mmの直径」のGaAs基板には、3インチのGaAs基板を含むものとする。「100mmの直径」のGaAs基板には、4インチのGaAs基板を含むものとする。同様に、「150mmの直径」のGaAs基板には、6インチのGaAs基板を含むものとする。「300mmの直径」のGaAs基板には、12インチのGaAs基板を含むものとする。
<GaAs基板の表面粗さ>
さらにGaAs基板は、算術平均粗さ(Ra)で表される基板の主面の表面粗さが0.1nm以下であることが好ましい。これによりGaAs基板における主面の表面の平滑性をより向上させることができるため、LPDの個数がより一層低減したエピタキシャル膜を形成することができる。GaAs基板の主面は、上記表面粗さが0.05nm以下であることがより好ましい。
GaAs基板の算術平均粗さ(Ra)については、従来公知の表面粗さ測定装置(たとえば商品名:「Dimension Edge」、Bruker社製)を用いることにより測定することができる。
〔エピタキシャル基板〕
本実施形態に係るエピタキシャル基板は、上記ヒ化ガリウム基板(GaAs基板)と、上記GaAs基板の主面に形成されたエピタキシャル膜とを含むことが好ましい。このような特徴を備えるエピタキシャル基板は、従来に比べて主面の表面の平滑性が向上したGaAs基板に対し、エピタキシャル膜を成長させることができるので、エピタキシャル膜の膜表面におけるLPDの個数を低減させることができる。このようなエピタキシャル基板は、たとえば後述するエピタキシャル基板の製造方法を実行することにより得ることができる。
<エピタキシャル膜>
エピタキシャル基板は、上述のように、GaAs基板の主面に形成されたエピタキシャル膜を含むことが好ましい。特にエピタキシャル基板は、上記エピタキシャル膜における上記ヒ化ガリウム基板側とは反対側の膜表面に長径が10μm以上のLPDが存在し、上記膜表面1cm2当たりの上記LPDの個数が100個以下であることがより好ましい。この場合、エピタキシャル膜の膜表面におけるLPDの個数をより一層低減させることができる。長径が10μm以上のLPDの個数は、上記膜表面1cm2当たり50個以下であることがより好ましい。この数値は0(ゼロ)であることが最も好ましい。本明細書において「LPD」とは、エピタキシャル基板に向けてレーザー光(アルゴンイオン)を照射した場合において、エピタキシャル膜の膜表面に現れる凹部および凸部を意味する。さらにLPDの「長径」とは、上記LPDの外郭線上において最も離れた2点間の距離を意味する。
ここで本開示では、エピタキシャル膜の膜表面に存在するLPDのうち、長径が10μm以上のLPDのみを、その個数として数えることとする。その理由は、長径が10μm以上のLPDの個数が、デバイス特性の優劣の差として直接現れるからである。すなわちエピタキシャル膜の膜表面に存在する長径が10μm以上のLPDが、上記膜表面1cm2当たり100個以下であることにより、デバイス特性に非常に優れたエピタキシャル基板を提供することができる。
LPDの長径の最大値は、特に制限されるべきではないが、60μmとすればよい。長径が60μmを超える大きさのLPDは、GaAs基板における主面の表面の非平滑性(凹凸等)とは異なる原因により生じていると考えられるからである。
エピタキシャル膜は、Al1-y-zGayInzAsからなる化合物膜であり、上記yは、0以上1以下であり、上記zは、0以上1以下であり、上記yと上記zとの和は、0以上1以下であることがより好ましい。すなわち本開示は、GaAs基板の主面に形成するエピタキシャル膜として、Al1-y-zGayInzAs(0≦y≦1、0≦z≦1、0≦y+z≦1)からなる化合物膜を適用することができる。これにより、デバイスとして汎用されている化合物膜を形成したエピタキシャル基板において、エピタキシャル膜の膜表面におけるLPDの個数を低減させることができる。さらに上述した化合物膜は、いずれもGaAs基板に格子整合するため、GaAs基板における主面の表面のコンディションが最も反映された膜を形成することができる。
エピタキシャル膜は、0.5〜10μmの厚みを有することが好ましい。エピタキシャル膜の厚みが上述の範囲である場合、エピタキシャル基板は広範囲の用途に適用可能となる。エピタキシャル膜は、1〜5μmの厚みを有することがより好ましい。
エピタキシャル膜の厚みが0.5μm未満である場合、GaAs基板の主面の表面における平滑性と、LPDの個数とが相関しない恐れがある。エピタキシャル膜の厚みが10μmを超える場合、GaAs基板の主面の表面における平滑性の改善が、LPDの個数の低減に生かされない恐れがある。
<LPDの個数の測定方法>
本実施形態に係るエピタキシャル基板において、そのエピタキシャル膜の膜表面に存在するLPDについては、表面検査装置(商品名:「Surf Scan 6220」、KLA−Tencor社製)を用いることにより観察することができ、かつその個数を求めることができる。具体的な観察方法(LPDの個数の測定方法)は、以下のとおりである。
まず上記表面検査装置を用い、エピタキシャル基板におけるエピタキシャル膜の膜表面に対してレーザーで走査することにより、長径が10μm以上のLPDの総数を求める。次に、上記LPDの総数を上記エピタキシャル膜の膜表面の全面積で除算することにより、上記エピタキシャル膜における膜表面1cm2当たりのLPDの個数を求めることができる。この場合において、上記エピタキシャル膜の膜表面の全面積には、エピタキシャル基板の外縁から3mm内側までの範囲を含まないものとする。
〔ヒ化ガリウム基板の製造方法〕
本実施形態に係るヒ化ガリウム基板(GaAs基板)の製造方法は、ヒ化ガリウム基板前駆体から、主面を有するGaAs基板を得るための洗浄工程を有する。上記洗浄工程は、上記ヒ化ガリウム基板前駆体を、有機溶剤で洗浄する工程(有機洗浄工程)と、上記ヒ化ガリウム基板前駆体を、塩基性化合物を0.1質量%以下含むアルカリ性溶液で洗浄する工程(アルカリ洗浄工程)と、上記ヒ化ガリウム基板前駆体を、水で洗浄する工程(水洗浄工程)と、上記ヒ化ガリウム基板前駆体に対し、その表面に付着した上記水をイソプロピルアルコールに置換する工程(IPA置換工程)と、上記ヒ化ガリウム基板前駆体に対し、イソプロピルアルコール蒸気を用いて加熱乾燥することにより上記GaAs基板を得る工程(IPA蒸気加熱乾燥工程)とを含む。上記塩基性化合物は、金属元素を含まない有機化合物および金属元素を含まない無機化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
GaAs基板の製造方法は、上記洗浄工程を含むことにより、GaAs基板の主面にエピタキシャル膜を形成した場合、エピタキシャル膜の膜表面におけるLPDの個数が低減したGaAs基板を得ることができる。GaAs基板の製造方法は、GaAs基板に対し、上記主面の表面から深さ1nmまでの領域をXPS分析する工程(XPS分析工程)をさらに含むことが好ましい。これにより、GaAs基板の主面にエピタキシャル膜を形成した場合、エピタキシャル膜の膜表面におけるLPDの個数が低減したGaAs基板を容易に得ることができる。ここで本明細書において「ヒ化ガリウム基板前駆体(以下、「GaAs基板前駆体」とも記す)」とは、GaAs単結晶成長装置で製造された後に、円盤状に切り出されたGaAs単結晶基板をいい、特に、上記洗浄工程に含まれる各工程が実行される対象物となるGaAs単結晶基板をいう。
本発明者らは、上述したXPS分析に基づく知見に基づき、主面の表面におけるGa:Asで表される原子数の比が1:1に近いGaAs基板を得ることができる製造方法を鋭意検討した。この中で、GaAs単結晶からGaAs基板を製造する過程で行われる従来の洗浄工程において、GaAs基板の主面の表面に存在する酸化物(Ga酸化物、As酸化物など)を十分に除去できておらず、もって上記主面の表面のGaとAsとの原子数の比が1:1から大きく逸脱する場合があることを知見した。
この知見に基づき、本発明者らは、GaAs基板の主面の表面に存在する酸化物に対し、これをアルカリ性溶液で除去することに注目した。特に、アルカリ性溶液で洗浄する工程において、GaAs基板の主面の表面に存在する酸化物をエッチングが過度に進行しないような条件で除去することにより、上記主面の表面におけるGa:Asで表される原子数の比が1:1に近いGaAs基板を得ることに想到し、本開示を完成させた。
以下、本実施形態に係るGaAs基板の製造方法が有する洗浄工程に含まれる各工程について、図3に基づいて具体的に説明する。
<洗浄工程>
(研磨工程S1)
GaAs基板の製造方法は、まず研磨工程S1を含むことが好ましい。研磨工程S1は、GaAs単結晶から切り出されたGaAs基板前駆体の表面を研磨する工程である。研磨工程S1により、GaAs基板前駆体の表面が鏡面化される。研磨工程S1における研磨方法としては、従来公知の方法を用いることができ、各種の機械的研磨、化学的研磨などの研磨方法を用いることができる。
(有機洗浄工程S2)
GaAs基板の製造方法は、GaAs基板前駆体を有機溶剤で洗浄する工程(有機洗浄工程S2)を含む。有機洗浄工程S2は、研磨工程S1において表面が鏡面化されたGaAs基板前駆体に対し、その表面に付着した研磨剤中の異物を洗浄する工程である。有機洗浄工程S2における洗浄方法としては、従来公知の方法を用いることができる。有機洗浄工程S2に用いる有機溶剤としては、従来公知の有機溶剤を用いることができ、たとえばトリクレン、アセトン、メタノールからなる群より選ばれる1種を単独で用いることができ、あるいは2種以上を併用することができる。
(アルカリ洗浄工程S3)
GaAs基板の製造方法は、GaAs基板前駆体を、塩基性化合物を0.1質量%以下含むアルカリ性溶液で洗浄する工程(アルカリ洗浄工程S3)を含む。アルカリ洗浄工程S3は、具体的には、有機洗浄工程S2において表面が洗浄されたGaAs基板前駆体を、塩基性化合物を0.1質量%以下含むアルカリ性溶液を用いて洗浄するとともに、このアルカリ性溶液中でGaAs基板前駆体に対して超音波を与える工程である。
アルカリ洗浄工程S3に用いるアルカリ性溶液は、上述のように塩基性化合物を0.1質量%以下含む。さらに上記アルカリ性溶液は、過酸化水素水を0.01〜1質量%含むことが好ましい。上記塩基性化合物は、金属元素を含まない有機化合物および金属元素を含まない無機化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である。これによりアルカリ性溶液がGaAs基板前駆体に対し、電気特性に悪影響を与えることがない。アルカリ性溶液に含まれる塩基性化合物の濃度は、エッチングが過度に進行しないようにする観点から、0.1質量%未満とすることが好ましく、0.08質量%以下とすることがより好ましく、0.06質量%以下とすることがさらに好ましい。上記塩基性化合物の濃度の下限は、特に制限されないが0.01質量%とすることができる。塩基性化合物の例示としては、アンモニアのほか、コリン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)などの第4級アンモニウム水酸化物、第4級ピリジニウム水酸化物などを挙げることができる。特に、塩基性化合物としてはアンモニア(水酸化アンモニウム)であることが好ましい。
さらにアルカリ洗浄工程S3において、アルカリ性溶液中でGaAs基板前駆体に与える超音波は、所望の効果を奏するGaAs基板を効率的に得る観点から、出力を200〜1000Wとすることが好ましく、400〜800Wとすることがより好ましく、500〜700Wとすることがさらに好ましい。このとき超音波の周波数を、低周波数(800kHz程度)から高周波数(3MHz程度)まで連続的に変化させることも好ましい。アルカリ洗浄工程S3は、所謂バッチ式の洗浄方法を用いることができ、所謂枚葉式の洗浄方法を用いることもできる。
(水洗浄工程S4)
GaAs基板の製造方法は、GaAs基板前駆体を水で洗浄する工程(水洗浄工程S4)を含む。水洗浄工程S4は、具体的には、アルカリ洗浄工程S3において表面が洗浄されたGaAs基板前駆体を、水を用いて洗浄する工程である。水洗浄工程S4における水を用いた洗浄方法は、特に制限されないが、GaAs基板前駆体の表面の酸化を抑制するため、電気抵抗率が0.1MΩ・cm以上である純水を用いて上記表面を洗浄することが好ましい。純水の電気抵抗率は、15MΩ・cm以上であることがより好ましい。さらに純水は、たとえば溶存酸素濃度(DO)が100ppb以下であることが好ましく、50ppb以下であることがより好ましい。純水の全有機炭素(TOC)は、40ppb以下であることが好ましい。
(IPA置換工程S5)
GaAs基板の製造方法は、GaAs基板前駆体に対し、その表面に付着した上記水をイソプロピルアルコールに置換する工程(IPA置換工程S5)を含む。IPA置換工程S5は、具体的には水洗浄工程S4の後に、GaAs基板前駆体をIPAで満たされた槽に数回、数分間浸漬することにより、GaAs基板前駆体の表面に付着した水をイソプロピルアルコールに置換する工程である。IPA置換工程S5は、たとえばIPAで満たされた槽に2回、5分間GaAs基板前駆体を浸漬することにより、その表面に付着した水をイソプロピルアルコールに置換することができる。IPA置換工程S5では、IPAで満たされた槽に循環濾過装置を取り付け、これを作動することにより槽に満たされたIPAを常時濾過し続けることが好ましい。
(IPA蒸気加熱乾燥工程S6)
GaAs基板の製造方法は、GaAs基板前駆体に対し、イソプロピルアルコール蒸気を用いて加熱乾燥することによりGaAs基板を得る工程(IPA蒸気加熱乾燥工程S6)を含む。IPA蒸気加熱乾燥工程S6は、具体的には、IPA置換工程S5の後に、従来公知のIPA蒸気乾燥装置を用い、GaAs基板前駆体を82.5℃以上のIPA蒸気雰囲気中で乾燥させる工程である。これにより、主面の表面におけるGa:Asで表される原子数の比が1:1に近いGaAs基板を得ることができる。特に、極表面におけるAsの原子数に対するGaの原子数の比が、0.8以上1以下であるGaAs基板を得ることができる。
<XPS分析工程S7>
GaAs基板の製造方法は、GaAs基板に対し、上記主面の表面から深さ1nmまでの領域をXPS分析する工程(XPS分析工程S7)をさらに含むことが好ましい。XPS分析工程S7は、具体的には、上記洗浄工程を経ることにより得たGaAs基板に対し、上述した放射光をX線源として用いたXPS分析を実行する工程である。XPS分析工程S7では、上述したようにGaAs基板の主面の表面に対し、エネルギーが150eVである軟X線を用いてXPS分析を実行することができる。これによりGaAs基板に対し、主面の表面から深さ1nmまでの領域(極表面)におけるAsの原子数に対するGaの原子数の比が0.8以上であるか否かを評価することができる。上記XPS分析工程S7を実行した場合、上記GaAs基板の製造方法により得たGaAs基板は、極表面におけるAsの原子数に対するGaの原子数の比が、0.8以上1以下となる。XPS分析工程S7において、GaAs基板の極表面におけるAsの原子数に対するGaの原子数の比は、上述した算出方法を用いて求めた上記a〜dの値を計算式(1)に代入することによって求めることができる。
XPS分析工程S7においては、上述した算出方法を用いて求めた上記a〜dの値を関係式(2)に代入することよって、GaAs基板の極表面におけるGaAs量に対する酸化物量の比が2.7以下であるか否かも判定することができる。その場合、上記GaAs基板の製造方法により得たGaAs基板は、極表面におけるGaAs量に対する酸化物量の比が2.7以下となる。さらに上記GaAs基板の製造方法により得たGaAs基板は、主面が有する方位を(100)面から0°以上15°以下のオフ角を有する面とすることができ、75mm以上300mm以下の直径を有する円盤状の形状を備えることができる。GaAs基板の主面の算術平均粗さ(Ra)で表される表面粗さについても、上述したGaAs基板と同じ(0.1nm以下)とすることができる。
<作用>
上述のようにGaAs基板の製造方法により得たGaAs基板は、主面の表面から深さ1nmまでの領域(極表面)に存在するAsの原子数に対するGaの原子数の比が0.8以上1以下となる。このようなGaAs基板の主面にエピタキシャル膜を成長させた場合、上記エピタキシャル膜は、長径が10μm以上のLPDの個数を、膜表面1cm2当たり100以下とすることができる。もってLPDの個数が低減したエピタキシャル膜を形成することが可能なGaAs基板を得ることができる。
〔エピタキシャル基板の製造方法〕
本実施形態に係るエピタキシャル基板の製造方法は、上記ヒ化ガリウム基板(GaAs基板)の製造方法により製造されたGaAs基板の上記主面に、エピタキシャル膜を形成する工程を含む。このような特徴を備えるエピタキシャル基板の製造方法は、膜表面のLPDの個数が低減したエピタキシャル膜がGaAs基板上に形成されたエピタキシャル基板を得ることができる。
上記エピタキシャル膜を形成する工程において、GaAs基板の主面にエピタキシャル膜を形成する方法は、従来公知の方法を用いることができる。本工程において得られるエピタキシャル膜は、膜表面におけるLPDの個数および大きさ、エピタキシャル膜の種類および厚みを上述したエピタキシャル膜と同じとすることができる。すなわちエピタキシャル基板の製造方法により得たエピタキシャル基板は、エピタキシャル膜の膜表面に存在する長径10μm以上のLPDの個数を、上記膜表面1cm2当たり100個以下とすることができ、もってデバイス特性に優れることができる。エピタキシャル基板は、その用途として電界効果型トランジスタ、マイクロ波ダイオードなどのデバイス、その他の集積回路などに適用することができる。
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[試料1〜試料6および試料101〜試料103の製造]
〔試料1〕
<GaAs基板の製造>
(GaAs基板前駆体の準備)
垂直ブリッジマン(VB)法で成長させたGaAs単結晶を、その厚みが1mmとなるようにワイヤーソーでスライスし、そのエッジ部を研削して外形を整えることにより、GaAs基板前駆体を2枚準備した。さらに、ワイヤーソーで生じたソーマークを除去するために、上記GaAs基板前駆体の主面を平面研削機で研削し、かつ外周の面取り部をゴム砥石で研磨することにより上記GaAs基板前駆体を直径100mmとした。
(研磨工程および有機洗浄工程)
クリーンルーム(クラス100)内で、GaAs基板前駆体の表面を、塩素系研磨剤およびシリカパウダーの混合物を含む硬質研磨布により研磨した。次にGaAs基板前駆体の表面を、INSEC NIB研磨剤(株式会社フジミインコーポレーテッド製)で研磨することにより鏡面化した。さらに、表面を鏡面化したGaAs基板前駆体を、メタノールを用いて洗浄した。
(アルカリ洗浄工程)
アンモニア、過酸化水素および水を準備し、これらからアンモニアの濃度が0.1質量%であり、過酸化水素の濃度が0.02質量%となるアルカリ性溶液を調製した。このアルカリ性溶液を30℃に加温した上で、枚葉式の洗浄方法として上記GaAs基板前駆体の表面に対してスプレーすることにより洗浄した。同時に、このGaAs基板前駆体の全面に対し、アルカリ性溶液を通じて超音波を出力600Wで付与した。これにより、GaAs基板前駆体の表面をアルカリ洗浄した。
(水洗浄工程)
次に、GaAs基板前駆体のアルカリ洗浄された表面を、電気抵抗率が15MΩ・cmの純水に5分間浸漬することにより洗浄した。
(IPA置換工程)
上述の純水で洗浄したGaAs基板前駆体を、IPAで満たされた槽に2回、5分間ずつ浸漬することにより、GaAs基板前駆体の表面に付着した水をIPAに置換した。この場合において、IPAで満たされた槽にはポア径が0.1μmであるフィルターを備えた循環濾過装置を取り付け、これを作動することにより槽に満たされたIPAを濾過し続けた。
(IPA蒸気加熱乾燥工程)
次に、IPA置換工程を経たGaAs基板前駆体を、IPA蒸気乾燥装置内に配置することにより、82.5℃以上のIPA蒸気雰囲気中で乾燥させた。これにより試料1のGaAs基板を製造した。試料1のGaAs基板は、100mmの直径を有する円盤状の形状を備える。試料1のGaAs基板の主面は、(100)面から2°のオフ角を有する。試料1のGaAs基板は、上述のとおりGaAs基板前駆体が2枚準備されたことから、2枚製造された。
<エピタキシャル基板の製造>
上記GaAs基板の2枚のうち1枚に対し、その主面上に常法の有機金属気相エピタキシャル成長法(OMVPE)法を用い、エピタキシャル膜として厚さ3μmのGaAs膜を成長させることにより、試料1のエピタキシャル基板を得た。
〔試料2〕
<GaAs基板の製造>
GaAs基板前駆体を準備するための原料となるGaAs単結晶が、試料1において原料としたGaAs単結晶と表面状態が異なること以外、試料1のGaAs基板と同じ製造方法を適用することにより試料2のGaAs基板を得た。試料2のGaAs基板は、100mmの直径を有する円盤状の形状を備える。試料2のGaAs基板の主面は、(100)面から2°のオフ角を有する。試料2のGaAs基板も2枚製造された。
<エピタキシャル基板の製造>
試料2のGaAs基板の2枚のうち1枚に対し、その主面上に常法の有機金属気相エピタキシャル成長法(OMVPE)法を用い、エピタキシャル膜として厚さ3μmのInGaAs膜を成長させることにより、試料2のエピタキシャル基板を得た。
〔試料3〕
<GaAs基板の製造>
GaAs基板前駆体を準備するための原料となるGaAs単結晶が、試料1および試料2においてそれぞれ原料としたGaAs単結晶と表面状態が異なること以外、試料1のGaAs基板と同じ製造方法を適用することにより試料3のGaAs基板を得た。試料3のGaAs基板は、100mmの直径を有する円盤状の形状を備える。試料3のGaAs基板の主面は、(100)面から2°のオフ角を有する。試料3のGaAs基板も2枚製造された。
<エピタキシャル基板の製造>
試料3のGaAs基板の2枚のうち1枚に対し、その主面上に常法の有機金属気相エピタキシャル成長法(OMVPE)法を用い、エピタキシャル膜として厚さ3μmのAlGaAs膜を成長させることにより、試料3のエピタキシャル基板を得た。
〔試料4〕
<GaAs基板の製造>
GaAs基板前駆体を準備するための原料となるGaAs単結晶が、試料1〜試料3においてそれぞれ原料としたGaAs単結晶と表面状態が異なり、かつGaAs基板前駆体の直径を150mmとしたこと以外、試料1のGaAs基板と同じ製造方法を適用することにより試料4のGaAs基板を得た。試料4のGaAs基板は、150mmの直径を有する円盤状の形状を備える。試料4のGaAs基板の主面は、(100)面から6°のオフ角を有する。試料4のGaAs基板も2枚製造された。
<エピタキシャル基板の製造>
試料4のGaAs基板の2枚のうち1枚に対し、その主面上に常法の有機金属気相エピタキシャル成長法(OMVPE)法を用い、エピタキシャル膜として厚さ3μmのGaAs膜を成長させることにより、試料4のエピタキシャル基板を得た。
〔試料5〕
<GaAs基板の製造>
GaAs基板前駆体を準備するための原料となるGaAs単結晶が、試料1〜試料4においてそれぞれ原料としたGaAs単結晶と表面状態が異なり、かつGaAs基板前駆体の直径を150mmとしたこと以外、試料1のGaAs基板と同じ製造方法を適用することにより試料5のGaAs基板を得た。試料5のGaAs基板は、150mmの直径を有する円盤状の形状を備える。試料5のGaAs基板の主面は、(100)面から6°のオフ角を有する。試料5のGaAs基板も2枚製造された。
<エピタキシャル基板の製造>
試料5のGaAs基板の2枚のうち1枚に対し、その主面上に常法の有機金属気相エピタキシャル成長法(OMVPE)法を用い、エピタキシャル膜として厚さ3μmのInGaAs膜を成長させることにより、試料5のエピタキシャル基板を得た。
〔試料6〕
<GaAs基板の製造>
GaAs基板前駆体を準備するための原料となるGaAs単結晶が、試料1〜試料5においてそれぞれ原料としたGaAs単結晶と表面状態が異なり、かつGaAs基板前駆体の直径を150mmとしたこと以外、試料1のGaAs基板と同じ製造方法を適用することにより試料6のGaAs基板を得た。試料6のGaAs基板は、150mmの直径を有する円盤状の形状を備える。試料6のGaAs基板の主面は、(100)面から6°のオフ角を有する。試料6のGaAs基板も2枚製造された。
<エピタキシャル基板の製造>
試料6のGaAs基板の2枚のうち1枚に対し、その主面上に常法の有機金属気相エピタキシャル成長法(OMVPE)法を用い、エピタキシャル膜として厚さ3μmのAlGaAs膜を成長させることにより、試料6のエピタキシャル基板を得た。
〔試料101〕
<GaAs基板の製造>
試料1のGaAs基板の製造方法においてアルカリ洗浄工程を行わなかったこと以外、試料1のGaAs基板と同じ製造方法を適用することにより試料101のGaAs基板を得た。すなわち試料101のGaAs基板については、GaAs基板前駆体を準備するための原料となるGaAs単結晶を試料1と同じとした。試料101のGaAs基板も2枚製造された。
<エピタキシャル基板の製造>
試料101のGaAs基板の2枚のうち1枚に対し、試料1のエピタキシャル基板と同じ製造方法を適用することにより試料101のエピタキシャル基板を得た。
〔試料102〕
<GaAs基板の製造>
試料2のGaAs基板の製造方法においてアルカリ洗浄工程を行わなかったこと以外、試料2のGaAs基板と同じ製造方法を適用することにより試料102のGaAs基板を得た。すなわち試料102のGaAs基板については、GaAs基板前駆体を準備するための原料となるGaAs単結晶を試料2と同じとした。試料102のGaAs基板も2枚製造された。
<エピタキシャル基板の製造>
試料102のGaAs基板の2枚のうち1枚に対し、試料2のエピタキシャル基板と同じ製造方法を適用することにより試料102のエピタキシャル基板を得た。
〔試料103〕
<GaAs基板の製造>
試料3のGaAs基板の製造方法においてアルカリ洗浄工程を行わなかったこと以外、試料3のGaAs基板と同じ製造方法を適用することにより試料103のGaAs基板を得た。すなわち試料103のGaAs基板については、GaAs基板前駆体を準備するための原料となるGaAs単結晶を試料3と同じとした。試料103のGaAs基板も2枚製造された。
<エピタキシャル基板の製造>
試料103のGaAs基板の2枚のうち1枚に対し、試料3のエピタキシャル基板と同じ製造方法を適用することにより試料103のエピタキシャル基板を得た。
[各種の分析]
〔GaAs基板に対するXPS分析〕
<XPS分析工程>
佐賀県立九州シンクロトロン光研究センター内の住友電気工業株式会社専用ビームラインの一つである「BL17」を利用することにより、エネルギーが150eVであるX線を準備した。このX線を試料1〜試料6および試料101〜試料103のGaAs基板における主面の表面に対してそれぞれ照射することにより、上記GaAs基板の主面の表面から深さ1nmまでの領域である極表面を対象としてXPS分析を実行した。上記XPS分析において、GaAs基板から放出される光電子の運動エネルギーの分布等については、上記高分解能XPS分析装置(商品名:「R3000」、Scienta Omicron社製)を用いて測定した。
さらに上記領域をXPS分析により測定した結果を、横軸を束縛エネルギーとし、縦軸を信号強度とする第1グラフおよび第2グラフに表した。次いで、この第1グラフおよび第2グラフに現れたGa3dスペクトルおよびAs3dスペクトルから上述した算出方法に基づいて、GaAs基板の極表面におけるAsの原子数に対するGaの原子数の比、およびGaAs量に対する酸化物量の比を試料毎に求めた。結果を表1に示す。表1中、上記極表面におけるAsの原子数に対するGaの原子数の比を「Ga/As原子数比」として表し、上記極表面におけるGaAs量に対する酸化物量の比を「酸化物/GaAs比」として表す。さらに図1および図2には、試料1および試料101のGaAs基板を対象とした上記XPS分析の結果であるGa3dスペクトルおよびAs3dスペクトルを示した。
<長径10μm以上のLPDの個数>
試料1〜試料6および試料101〜試料103のエピタキシャル基板におけるエピタキシャル膜の膜表面に対し、上述した測定方法に基づいて表面検査装置(商品名:「Surf Scan 6220」、KLA−Tencor社製)を用いて観察することにより、エピタキシャル膜の膜表面1cm2当たりにおける長径10μm以上のLPDの個数を求めた。結果を表1に示す。試料1〜試料6が実施例であり、試料101〜試料103が比較例である。
Figure 2020177970
〔考察〕
表1によれば、試料1〜試料6のGaAs基板は、主面の表面から深さ1nmまでの領域(極表面)におけるAsの原子数に対するGaの原子数の比が0.8以上1以下であり、この場合において上記GaAs基板の主面に形成したエピタキシャル膜は、膜表面1cm2当たり長径10μm以上のLPDの個数が100以下であった。一方、試料101〜試料103のGaAs基板は、上記極表面におけるAsの原子数に対するGaの原子数の比が0.8未満であり、この場合において上記GaAs基板の主面に形成したエピタキシャル膜は、膜表面1cm2当たり長径10μm以上のLPDの個数が100を超えた。
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行ったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 Ga酸化物の信号強度が最大となるピーク、2 GaAsの信号強度が最大となるピーク、3 As酸化物の信号強度が最大となるピーク、4 GaAsの信号強度が最大となるピーク、 A〜H 点。

Claims (12)

  1. 主面を有するヒ化ガリウム基板であって、
    前記ヒ化ガリウム基板は、前記主面の表面から深さ1nmまでの領域をXPS分析により測定した場合、前記領域におけるAsの原子数に対するGaの原子数の比が0.8以上1以下となる、ヒ化ガリウム基板。
  2. 前記ヒ化ガリウム基板は、前記領域におけるGaAsの個数をGaAs量とし、前記領域におけるGa酸化物の個数およびAs酸化物の個数の和を酸化物量とした場合、前記GaAs量に対する前記酸化物量の比が2.7以下である、請求項1に記載のヒ化ガリウム基板。
  3. 前記XPS分析は、エネルギーが150eVであるX線を用いて実行される、請求項1または請求項2に記載のヒ化ガリウム基板。
  4. 前記ヒ化ガリウム基板は、前記主面が(100)面から0°以上15°以下のオフ角を有する面である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のヒ化ガリウム基板。
  5. 前記ヒ化ガリウム基板は、75mm以上300mm以下の直径を有する円盤状の形状である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のヒ化ガリウム基板。
  6. 請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のヒ化ガリウム基板と、前記ヒ化ガリウム基板の前記主面に形成されたエピタキシャル膜とを含む、エピタキシャル基板。
  7. 前記エピタキシャル膜における前記ヒ化ガリウム基板側とは反対側の膜表面に長径が10μm以上のLPDが存在し、
    前記膜表面1cm2当たりの前記LPDの個数が100個以下である、請求項6に記載のエピタキシャル基板。
  8. 前記エピタキシャル膜は、Al1-y-zGayInzAsからなる化合物膜であり、
    前記yは、0以上1以下であり、
    前記zは、0以上1以下であり、
    前記yと前記zとの和は、0以上1以下である、請求項6または請求項7に記載のエピタキシャル基板。
  9. ヒ化ガリウム基板前駆体から、主面を有するヒ化ガリウム基板を得るための洗浄工程を有するヒ化ガリウム基板の製造方法であって、
    前記洗浄工程は、
    前記ヒ化ガリウム基板前駆体を、有機溶剤で洗浄する工程と、
    前記ヒ化ガリウム基板前駆体を、塩基性化合物を0.1質量%以下含むアルカリ性溶液で洗浄する工程と、
    前記ヒ化ガリウム基板前駆体を、水で洗浄する工程と、
    前記ヒ化ガリウム基板前駆体に対し、その表面に付着した前記水をイソプロピルアルコールに置換する工程と、
    前記ヒ化ガリウム基板前駆体に対し、イソプロピルアルコール蒸気を用いて加熱乾燥することにより前記ヒ化ガリウム基板を得る工程とを含み、
    前記塩基性化合物は、金属元素を含まない有機化合物および金属元素を含まない無機化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、ヒ化ガリウム基板の製造方法。
  10. 前記ヒ化ガリウム基板に対し、前記主面の表面から深さ1nmまでの領域をXPS分析する工程をさらに含む、請求項9に記載のヒ化ガリウム基板の製造方法。
  11. 請求項9または請求項10に記載のヒ化ガリウム基板の製造方法により製造されたヒ化ガリウム基板は、前記主面の表面から深さ1nmまでの領域をXPS分析により測定した場合、前記領域におけるAsの原子数に対するGaの原子数の比が0.8以上1以下となる、ヒ化ガリウム基板の製造方法。
  12. 請求項9から請求項11のいずれか1項に記載のヒ化ガリウム基板の製造方法により製造されたヒ化ガリウム基板の前記主面に、エピタキシャル膜を形成する工程を含む、エピタキシャル基板の製造方法。
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