JP2020171945A - 溶鋼流動制御装置、溶鋼流動制御方法、およびプログラム - Google Patents
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Abstract
【課題】鋳型内の溶鋼偏流を検出して、より適切に偏流を緩和するように溶鋼流動制御手段を制御する。【解決手段】連続鋳造機の鋳型に配置された測温装置による測温値を含むデータに基づいて鋳型内での溶鋼流動パターンを認識する溶鋼流動パターン認識部と、認識された溶鋼流動パターンに対して溶鋼流動制御手段が実行可能な複数のアクションについてそれぞれ設定された行動価値に基づいて、複数のアクションのうちのいずれかを溶鋼流動制御手段に実行させる溶鋼流動制御部とを備える溶鋼流動制御装置が提供される。【選択図】図6
Description
本発明は、溶鋼流動制御装置、溶鋼流動制御方法、およびプログラムに関する。
連続鋳造機で偏平比の大きい矩形断面をもつスラブを鋳造する場合、浸漬ノズルの吐出口は矩形断面の両方の短辺面に向けられる。浸漬ノズル内に介在物などの固着によるつまりがない場合には、両側の吐出口からの溶鋼流量はほぼ均等であるが、浸漬ノズル内につまりが発生するとその付近で溶鋼流が乱れるため、両側の溶鋼流量が均等ではなくなる。また、吐出口からの溶鋼流は設計上、両方の短辺面に向けられているが、上記のつまりなどの影響で溶鋼流の方向がいずれかの長辺面の側に傾く場合がある。このような、両側の吐出口からの溶鋼流量、および溶鋼流の方向の変化が、浸漬ノズルを中心とする鋳型内の溶鋼流の非対称性、すなわち偏流を発生させる。
特許文献1には、上記のような連続鋳造機の鋳型内での溶鋼偏流に伴う操業トラブルを回避するための技術が記載されている。具体的には、特許文献1には、溶鋼から鋳型用の冷却水までの間に凝固シェル、モールドパウダー層、鋳型の各熱伝導体が存在する連続鋳造において、浸漬ノズルを挟む左右位置それぞれに埋設された測温装置の測定値に基づいて決定される熱伝達係数の比に基づいて溶鋼偏流が発生しているか否かを推定し、偏流が発生している場合には鋳造速度を減少させる連続鋳造方法が記載されている。
上記の特許文献1に記載された方法では、浸漬ノズルを挟む左右位置それぞれに埋設された測温装置の測定値に基づいて決定される熱伝達係数の比から溶鋼の偏流が発生しているか否かを推定する。左右位置の測温装置は、溶鋼のメニスカスから同じ深さ位置に配置される。この場合、当該深さ位置における溶鋼偏流の発生については適切に推定することが可能である。しかしながら、本発明者らの知見によれば、偏流のような鋳型内の溶鋼流動は深さ方向について一様ではない場合がある。そのような場合、特許文献1に記載された方法では推定しきれない溶鋼偏流が発生している可能性がある。
そこで、本発明は、鋳型内の溶鋼偏流を検出して、より適切に偏流を緩和するように溶鋼流動制御手段を制御することを可能にする、新規かつ改良された溶鋼流動制御装置、溶鋼流動制御方法、およびプログラムを提供することを目的とする。
本発明のある観点によれば、連続鋳造機の鋳型に配置された測温装置による測温値を含むデータに基づいて鋳型内での溶鋼流動パターンを認識する溶鋼流動パターン認識部と、認識された溶鋼流動パターンに対して溶鋼流動制御手段が実行可能な複数のアクションについてそれぞれ設定された行動価値に基づいて、複数のアクションのうちのいずれかを溶鋼流動制御手段に実行させる溶鋼流動制御部とを備える溶鋼流動制御装置が提供される。
上記の構成によれば、適切な行動価値を設定することによって、溶鋼偏流が検出された場合に適切に偏流を緩和するように溶鋼流動制御手段を制御することができる。
上記の構成によれば、適切な行動価値を設定することによって、溶鋼偏流が検出された場合に適切に偏流を緩和するように溶鋼流動制御手段を制御することができる。
本発明の別の観点によれば、連続鋳造機の鋳型に配置された測温装置による測温値を含むデータに基づいて鋳型内での溶鋼流動パターンを認識する溶鋼流動パターン認識工程と、認識された溶鋼流動パターンに対して溶鋼流動制御手段が実行可能な複数のアクションについてそれぞれ設定された行動価値に基づいて、複数のアクションのうちのいずれかを溶鋼流動制御手段に実行させる溶鋼流動制御工程とを含む溶鋼流動制御方法が提供される。
本発明のさらに別の観点によれば、連続鋳造機の鋳型に配置された測温装置による測温値を含むデータに基づいて鋳型内での溶鋼流動パターンを認識する溶鋼流動パターン認識部と、認識された溶鋼流動パターンに対して溶鋼流動制御手段が実行可能な複数のアクションについてそれぞれ設定された行動価値に基づいて、複数のアクションのうちのいずれかを溶鋼流動制御手段に実行させる溶鋼流動制御部とを備える溶鋼流動制御装置としてコンピュータを動作させるためのプログラムが提供される。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
図1は、本発明の一実施形態における連続鋳造機の鋳型付近の構成を示す図である。図1に示されるように、鋳型1の開口部の中心に浸漬ノズル2が配置され、浸漬ノズル2の吐出口3から溶鋼が供給される。鋳型1に接触した溶鋼は、冷却されて鋳型1に沿った凝固シェルを形成する。連続鋳造機では、凝固シェルをロール(図示せず)で支持しながら連続的に鋳型1から引き抜き、さらに鋳型1外で冷却水を吹き付けて溶鋼を完全に凝固させることによって鋳片を製造する。
本実施形態では、鋳型1の各面で、鋳型1の周方向(図中のx方向)および鋳造方向、すなわち鋳型1の深さ方向(図中のz方向)に、鋳型1を構成する銅板の温度を測定するための測温装置4が配列される。測温装置4は、例えば熱電対、または光ファイバを用いたFBG(Fiber Bragg Grating)測温装置などの測温素子である。測温装置4の測温点は、熱電対の場合は接合点、FBG測温装置の場合は光ファイバのグレーチングの位置である。測温点は、例えば、鋳型1の各面の垂直方向中心線について対称に、かつ対向する各面の間で対応する位置に配置することが好ましい。
また、鋳型1の長辺面に対向する位置に、電磁ブレーキ装置5が配置される。図1に示す例では、2組の電磁ブレーキ装置5が、鋳型1の長辺面の幅方向中心線を基準として両側に配置されている(第1および第2の電磁ブレーキ装置)。電磁ブレーキ装置5は、溶鋼流動制御手段の例であり、鋳型1を挟むようにN極とS極を配置した電磁石を備え、コイルに直流電流を流して溶鋼の吐出流に対して垂直な方向(N極からS極に向かう方向)に磁場を発生させることによって、ローレンツ力により吐出流の速度を抑制する。他の実施形態では、電磁ブレーキ装置5以外の溶鋼流動制御手段が配置されてもよい。電磁ブレーキ装置5は、後述する溶鋼流動制御方法に従って制御される。
なお、本実施形態において、後述する溶鋼流動制御方法は、測温装置4および電磁ブレーキ装置5にそれぞれ接続された演算装置10において実行される。なお、簡単のため、測温装置4および電磁ブレーキ装置5と演算装置10とを接続する通信線は、一部だけが図示されている。演算装置10は、例えばCPU(Central Processing Unit)、記憶装置、通信装置、入出力手段などを備え、プログラムに従って各種の演算を実行する。プログラムは、記憶装置に格納されるか、またはリムーバブル記憶媒体に格納されて演算装置10に読み込まれる。演算装置10は、プログラムに従って動作することによって、溶鋼流動制御装置として機能する。
図2は、図1に示した鋳型の拡大断面図である。図2に示されるように、鋳型1はめっきをした銅板6を筒状に組み合わせることによって形成されている。銅板6の外側に冷却水7を流すことによって、銅板6を介して溶鋼から抜熱され、鋳型1内面に凝固シェル8が形成される。鋳型1内の溶鋼と凝固シェル8との間では対流熱伝達により熱が伝えられる。この熱伝達における熱流束qは、熱伝達係数βを用いて以下の式(1)のように表される。なお、zは鋳型深さ方向位置、tは時刻、T0は溶鋼温度、Tsは凝固シェルと溶鋼の界面温度である。
q(z,t)=β(z,t)(T0−Ts) ・・・(1)
q(z,t)=β(z,t)(T0−Ts) ・・・(1)
熱伝達係数βは、溶鋼と凝固シェル8との間の境界層が層流境界層である場合は、溶鋼流速の1/2乗に比例して大きくなる。すなわち、凝固シェル8に沿う溶鋼流速成分が大きい位置では、熱伝達係数βが高くなる。また、鋳型1内の溶鋼温度はほぼ均一であるため、銅板6内部の温度分布は熱伝達係数βの分布を反映する。ある位置で熱伝達係数βが大きくなると、当該位置における銅板6への熱流入が増加し、銅板6に埋設された測温装置4の測温値も高くなるためである。
ここで、伝熱逆問題は、測定されるデータから熱伝導方程式における境界条件を推定する方法である。本実施形態における鋳型1の伝熱逆問題は、冷却水7について鋳型1の各面ごとの流量、および冷却水配管の入側および出側の温度差を測定し、測温装置4による銅板6の測温値の鋳型深さ方向(z方向)分布と冷却水7の温度差のデータとを用いて、図2に示した凝固シェル8と銅板6の表面との間のモールドフラックス9中の熱伝導および熱伝達を含めた総括熱伝達係数α(W/K/m2)と、溶鋼と凝固シェル8との間の熱伝達係数β(W/K/m2)と、各測温装置4の位置における凝固シェル厚みs(mm)を算出することである。
上述の通り、鋳型1内の溶鋼流には、浸漬ノズル2内のつまりなどを原因として偏流が発生する場合がある。偏流が発生すると、鋳型1内の溶鋼流速分布に非対称性が生じる。これによって、上記で説明したように溶鋼流速を反映する凝固シェル8と溶鋼との間の熱伝達係数βの分布、および測温装置4の測温値の分布にも非対称性が生じる。このような非対称性は、例えば、図1に示したx軸およびz軸で構成される鋳型1の長辺面内、および鋳型1の対向する面の間に現れる。
図3および図4は、鋳型1内の溶鋼流動に偏りがある場合の熱伝達係数βの分布の例を示す等高線図である。図3および図4はそれぞれ異なる鋳造のケースであり、図1に示した鋳型1の2つの長辺面における熱伝達係数βの分布を示す。なお、以下の説明では、図3(A)および図4(A)に示された鋳型1の長辺面をF面(Fixed Side)、図3(B)および図4(B)に示された鋳型1の長辺面をL面(Loose Side)ともいう。F面およびL面は、いずれも同じ方向(例えば図1の手前側)から見たものとして図示されている。
図示されているように、それぞれのケースにおいて、図3(B)および図4(B)に示すL面では、幅方向中心(x座標が0の位置)よりも左側(x座標の負の側)の方が右側(正の側)よりも熱伝達係数βが高くなっている。従って、どちらのケースでも、L面側において、浸漬ノズル2の左側の吐出口3における溶鋼流速が右側の溶鋼流速よりも大きいことが推測される。その一方で、図3(B)に示す例ではL面の左側における熱伝達係数βが全体的に右側の熱伝達係数βよりも高いのに対して、図4(B)に示す例ではL面の左側における熱伝達係数βが、鋳型1の下側(z座標が小さい側)では右側の熱伝達係数βよりも高いが、上側では右側の熱伝達係数とあまり変わらない。
ここで、鋳型1の深さ方向(図1のz軸方向)の所定位置における熱伝達係数βの左側と右側とにおける比に基づいて偏流の発生を検出する場合を考える。具体的には、図3および図4に示されるように、深さ方向では各長辺面の上端から350mm、水平方向(図1のx軸方向)では各長辺面の幅方向中心から左右それぞれ350mmの位置に点A,Bをとり、点A,Bにおける熱伝達係数βの比βA/Bを算出する。そうすると、図3の例ではF面でβA/B=1.13、L面でβA/B=1.71である。また、図4の例ではF面でβA/B=1.19、L面でβA/B=1.25である。このような算出結果に対して、例えばβA/B=1.30を閾値として偏流の発生を検出した場合、図3の例では偏流の発生が検出されるが、図4の例では偏流の発生が検出されない。
上記の例のように、偏流のような鋳型1内の溶鋼流の変化は、深さ方向について必ずしも一様ではなく、従って深さ方向について特定の点での熱伝達係数βや測温値を比較することによっては偏流の発生が検出されない場合もありうる。そこで、本実施形態では、以下で説明するような、鋳型1の各面における熱伝達係数β(または測温値)の分布に基づいて溶鋼流動パターンを認識することで偏流を検出し、その結果に基づいて電磁ブレーキ装置などを制御することで偏流を抑制する。
本実施形態の溶鋼流動制御方法によれば、鋳型1内の溶鋼流動の偏りを認識し、溶鋼流動制御手段である電磁ブレーキ装置5を適切に制御することによって、偏流を緩和することが可能になる。その結果として、例えば、偏流に起因する凝固シェルの再溶解によるブレークアウトや、凝固シェルのカブレ疵、偏流による湯面変動に起因するパウダー巻き込みによる鋳片欠陥などを、鋳造速度を低下させることなく防止することができる。
図5は、本発明の一実施形態に係る溶鋼流動制御方法のフローチャートである。まず、データサンプリング工程(S11)において、溶鋼流動制御装置100は、鋳型1を構成する銅板6に埋め込まれた測温装置4による測温値、冷却水7の流量および温度変化、溶鋼温度、および鋳造速度などのデータをサンプリングする。なお、ここで、サンプリングは、所定のデータを時系列で(例えば所定の間隔で)逐次取得することを意味する。次に、熱伝達係数推定工程(S12)において、溶鋼流動制御装置100は、サンプリングされたデータに基づいて各測温点(測温装置4の設置位置)での熱伝達係数α,β、および凝固シェル厚みsを算出する。なお、図5の破線で示されているように、測温値に基づいて溶鋼流動パターンを認識する場合は、熱伝達係数推定工程(S12)を実行しなくてもよい。次に、データ形式変換工程(S13)において、溶鋼流動制御装置100は、熱伝達係数βまたは測温値の分布を、認識モデルの入力に適したデータ形式に変換する。次に、溶鋼流動パターン認識工程(S14)において、溶鋼流動制御装置100は、熱伝達係数βまたは測温値の分布と、溶鋼流動パターンとの関係を学習済みの認識モデルを用いて、データサンプリング工程(S11)または熱伝達係数推定工程(S12)の処理時点での溶鋼流動パターンを認識する。次に、溶鋼流動制御工程(S15)において、溶鋼流動制御装置100は、後述するように溶鋼流動パターン認識工程(S14)で認識された溶鋼流動パターンに対して設定された行動価値に基づいて、電磁ブレーキ装置5のアクション、具体的には出力電流値の減少、保持、または増加を決定し、決定されたアクションを本実施形態における溶鋼流動制御手段である電磁ブレーキ装置5に実行させる。さらに、溶鋼流動制御装置100は、溶鋼流動制御工程(S15)で参照する行動価値を逐次更新する制御パラメータ学習工程(S16)を実行してもよい。
なお、図1を参照して説明したように演算装置10が溶鋼流動制御装置として機能する場合、図6に示すように、溶鋼流動制御装置100(演算装置10)は、上記のデータサンプリング工程(S11)を実行するデータサンプリング部110と、熱伝達係数推定工程(S12)を実行する熱伝達係数推定部120と、データ形式変換工程(S13)を実行するデータ形式変換部130と、溶鋼流動パターン認識工程(S14)を実行する溶鋼流動パターン認識部140と、溶鋼流動制御工程(S15)を実行する溶鋼流動制御部150とを含む。溶鋼流動制御装置100は、制御パラメータ学習工程(S16)を実行する制御パラメータ学習部160をさらに含んでもよい。例えば、データサンプリング部110は、演算装置10が備えるCPUがプログラムに従って動作して通信装置を介して測温装置4などからデータを受信することによって実現される。熱伝達係数推定部120、データ形式変換部130、溶鋼流動パターン認識部140、および制御パラメータ学習部160は、演算装置10が備えるCPUが、プログラムに従って演算を実行することによって実現される。溶鋼流動制御部150は、演算装置10が備えるCPUが、プログラムに従って動作して通信装置を介して電磁ブレーキ装置5に制御信号を送信することによって実現される。コンピュータである演算装置10を、上記のような溶鋼流動制御装置100として機能させるための、リムーバブル記憶媒体またはネットワークを介して提供されるプログラムが提供されてもよい。
次に、上記の各工程S11〜S16について詳細に説明する。
(データサンプリング工程)
データサンプリング工程(S11)では、データサンプリング部110が、各測温装置が出力した鋳型温度を同時に一定時間間隔でサンプリングして取得する。
データサンプリング工程(S11)では、データサンプリング部110が、各測温装置が出力した鋳型温度を同時に一定時間間隔でサンプリングして取得する。
(熱伝達係数推定工程)
熱伝達係数推定工程(S12)では、熱伝達係数推定部120が、例えば特開2011−251308号公報に記載された伝熱逆問題の手法を用いて、データサンプリング工程(S11)におけるサンプリング時刻の各測温点での熱伝達係数α,β、および凝固シェル厚みsを算出する。具体的な算出方法について、以下で説明する。
熱伝達係数推定工程(S12)では、熱伝達係数推定部120が、例えば特開2011−251308号公報に記載された伝熱逆問題の手法を用いて、データサンプリング工程(S11)におけるサンプリング時刻の各測温点での熱伝達係数α,β、および凝固シェル厚みsを算出する。具体的な算出方法について、以下で説明する。
本方法では、Tを凝固シェルの温度、T0を溶鋼温度、Tsを溶鋼と凝固シェルとの界面温度、uを鋳造速度、λsを凝固シェルの熱伝導率、csを凝固シェルの比熱、ρsを凝固シェルの密度、Lを凝固シェルの潜熱、dを銅板の凝固シェル側の表面から測温装置までの距離、λmを銅板の熱伝導率として、鋳造方向をz軸、鋳造方向と鋳型周方向に直交する方向をy軸とする2次元座標上で、凝固シェル厚みs(z,t)および鋳型側の凝固シェル表面温度T(0,z,t)を表す式(A),(B)と、凝固シェルの鋳型側の表面−モールドパウダー層−熱電対間の熱収支に基づいて、鋳型を通過する熱流束qm(z,t)を表す式(C)とを用いて、熱伝達係数α(z,t)及び熱伝達係数β(z,t)を同時に決定し、凝固シェル厚みs(z,t)を計算する。
また、熱流束qm(z,t)は、dwを測温装置から水冷位置までの距離、hwを鋳型と冷却水との間の熱伝達係数、Twを冷却水温度、λmを鋳型の熱伝導率として、測温装置の測温値Tm_obs(z,t)に基づいて、式(D)のようにも表される。
本方法では、上記の式(A)〜(D)を連立して解くことによって、位置z、時刻tにおける熱伝達係数α(z,t)およびβ(z,t)、凝固シェル厚みs(z,t)および銅板表面温度Tm(0,z,t)を算出する。連立方程式は非線形方程式なので、緩和法などの繰り返し計算の手法を用いればよい。本方法を鋳造方向に整列した測温装置4の列に含まれる各段の測温装置4に適用することを、鋳型周方向(図1に示すx軸方向)に並んだ測温装置4の各列に対して繰り返すことにより、鋳型1の各面全域における熱伝達係数α(x,z,t)、β(x,z,t)、および凝固シェル厚みs(x,z,t)の分布を算出することができる。
(データ形式変換工程)
データ形式変換工程(S13)では、データ形式変換部130が、時刻tにおける鋳型1の各測温点における熱伝達係数β(x,z,t)または測温値Tm_obs(x,z,t)の分布を、鋳型1の各面の鋳型周方向における隣接関係を保存した行列形式データに変換する。この行列形式データは、鋳型1内の溶鋼流動パターンの認識が容易になるように、熱伝達係数βまたは測温値Tm_obsの値を規則的に配置したものである。
データ形式変換工程(S13)では、データ形式変換部130が、時刻tにおける鋳型1の各測温点における熱伝達係数β(x,z,t)または測温値Tm_obs(x,z,t)の分布を、鋳型1の各面の鋳型周方向における隣接関係を保存した行列形式データに変換する。この行列形式データは、鋳型1内の溶鋼流動パターンの認識が容易になるように、熱伝達係数βまたは測温値Tm_obsの値を規則的に配置したものである。
図7および図8は、溶鋼流動制御方法におけるデータ形式変換の例を示す図である。この例では、図7に示すように、鋳型1の各長辺面(F面およびL面)を幅方向中心で仮想的に分割し、長辺面の右側(F−R、L−R)および右短辺面(E−R)を含む鋳型1の右側半分の面を長辺面において180度回転させて、長辺面の左側(F−L、L−L)および左短辺面(E−L)を含む鋳型1の左側半分の面の上に接続する。このような変形後に各面を展開すると、図8に示すように、鋳型1の右側半分の面と左側半分の面とは、右側半分および左側半分での長辺面と短辺面との隣接関係は維持した状態で、それぞれの上端が接するように接続される。
図8に示したように展開された熱伝達係数βまたは測温値Tm_obsの分布を示す2次元行列形式データでは、鋳型1の長辺面の幅方向中心に対して対称な位置にある深さ方向の測温点が1列に配置されるため、長辺面の幅方向における熱伝達係数βまたは測温値Tm_obsの分布の非対称性が、深さ方向の非対称性に変換される。つまり、変換後の2次元行列形式データは、鋳型1の各面における熱伝達係数βまたは測温値Tm_obsの幾何学的分布を反映し、かつ長辺面の幅方向における分布の非対称性を維持している。なお、連続鋳造機では鋳型1の短辺面を移動させて鋳造するスラブの幅を変更する場合があるが、その結果として短辺面よりも外側になり、溶鋼に接しないことになった長辺面の測温点のデータは、図8にNULLとして示すように無効値(空白値またはヌル値など)を割り当てて、展開された面の外側に配置する。
(溶鋼流動パターン認識工程)
溶鋼流動パターン認識工程(S14)では、溶鋼流動パターン認識部140が、熱伝達係数βまたは測温値Tm_obsの分布と、予め定めた溶鋼流動パターンとの関係を学習済みの認識モデルを用いて、上記のデータサンプリング工程(S11)または熱伝達係数推定工程(S12)の処理時点での溶鋼流動パターンを認識する。溶鋼流動パターンは、少なくとも実績データを用いて浸漬ノズル2の位置(多くの場合鋳型1の長辺面の幅方向中心に一致する)を中心線とする右側と左側との間で熱伝達係数βまたは測温値Tm_obsの分布が対称であるか非対称であるか、非対称である場合はどのように非対称であるかを示す。例えば、熱伝達係数βまたは測温値Tm_obsが相対的に大きい測温点がある場合、当該測温点で銅板6に衝突または接近する溶鋼の流速が大きくなっていると推定されるため、溶鋼流動が当該測温点の側に偏っていることを示す溶鋼流動パターンを特定することができる。
溶鋼流動パターン認識工程(S14)では、溶鋼流動パターン認識部140が、熱伝達係数βまたは測温値Tm_obsの分布と、予め定めた溶鋼流動パターンとの関係を学習済みの認識モデルを用いて、上記のデータサンプリング工程(S11)または熱伝達係数推定工程(S12)の処理時点での溶鋼流動パターンを認識する。溶鋼流動パターンは、少なくとも実績データを用いて浸漬ノズル2の位置(多くの場合鋳型1の長辺面の幅方向中心に一致する)を中心線とする右側と左側との間で熱伝達係数βまたは測温値Tm_obsの分布が対称であるか非対称であるか、非対称である場合はどのように非対称であるかを示す。例えば、熱伝達係数βまたは測温値Tm_obsが相対的に大きい測温点がある場合、当該測温点で銅板6に衝突または接近する溶鋼の流速が大きくなっていると推定されるため、溶鋼流動が当該測温点の側に偏っていることを示す溶鋼流動パターンを特定することができる。
上述のように、鋳型1内の溶鋼流動は複雑であるため、例えば1つの長辺面内で2点の測温点のみの熱伝達係数βまたは測温値Tm_obsを比較することによって偏流の発生をもれなく検出することは困難である。従って、本実施形態では、図1に示したように鋳型1の全体に配置された測温点における熱伝達係数βまたは測温値Tm_obsを認識モデルの入力とし、入力データの少数の局所的な特徴ではなく入力データの全体に基づいて溶鋼流動パターンを認識する。従って、認識モデルとして、例えばニューラルネットワークやそれを多層化した深層学習モデルを用いると効果的である。
溶鋼流動パターンの分類は、測温点の幾何学的な配置に基づいてマッピングされた熱伝達係数βまたは測温値Tm_obsのデータと、予め定めた各分類の代表的データとの類似性に基づいて判定される。各分類の代表的データは、例えば、特定の溶鋼流動パターン(例えばある種類の偏流)が発生している時の鋳型1内の溶鋼湯面の状態などについての操業上の知見から判定される溶鋼流動パターンを、熱伝達係数βまたは測温値Tm_obsの分布に結び付けることによって決定される。あるいは、各分類の代表的データは、鋳型1内の溶鋼流動の数値シミュレーションによる解析結果から推定される熱伝達係数βまたは測温値Tm_obsの分布に基づいて決定されてもよい。溶鋼流動パターンの分類は、操業上の知見などに基づいて決定されてもよいし、実績データについてk−means法などのクラスタリング手法を用いることによって自動的に決定されてもよい。あるいは、クラスタリング手法によって自動的に決定された分類を、操業上の知見などによって修正、統合、または分割してもよい。
溶鋼流動パターン認識工程(S14)で認識される溶鋼流動パターンの例を、以下の表1に示す。この例では、熱伝達係数βの鋳型表面上の値の分布に基づいて、浸漬ノズル2の各吐出口3における溶鋼流速の偏りの有無および偏りの方向、ならびに各吐出口3からの溶鋼流の方向の鋳型厚み方向中心線に対する傾きの有無および傾きの方向を組み合わせることによって、9種類の溶鋼流動パターンが設定されている。
表1の左欄には、溶鋼流動パターンの分類名が示されている。表1の右欄には、鋳型1を上方から見たときの図であって、各溶鋼流動パターンの典型例が図示されている。矢印は、左右両方の吐出口3からの吐出流の主流方向を表している。矢印の大きさは主流の流速を表す。2つの矢印の方向および大きさの組み合わせが、偏流の有無および種類を示す。また、表1の右欄では、銅板6上の熱伝達係数βまたは測温値Tm_obsの分布が他の部分よりも相対的に大きい部分を黒色の帯によって図示している。なお、簡単のため、表1の右欄の図では熱伝達係数βまたは測温値Tm_obsの鋳型1の深さ方向での分布を表現していないが、上述の通り溶鋼流動パターンは、鋳型1の全体に配置された測温点における熱伝達係数βまたは測温値Tm_obsを認識モデルの入力として認識される。従って、例えば、鋳型1の異なる深さ方向位置で、表1の右欄の図に示すような熱伝達係数βまたは測温値Tm_obsの分布が異なる2つのケースは、異なる溶鋼流動パターンに分類されうる。
ここで、上記のように鋳型1の異なる深さ方向位置で熱伝達係数βまたは測温値Tm_obsの分布が異なる2つのケースを、同じ溶鋼流動パターンに分類するか異なる溶鋼流動パターンに分類するかは、例えば後述する溶鋼流動制御工程(S15)で用いる電磁ブレーキ装置の構成により決定すればよい。例えば、電磁ブレーキ装置が鋳型の長辺面の幅方向中心線の両側位置に1組ずつ配置されるような場合には、鋳型1の異なる深さ方向位置で熱伝達係数βまたは測温値Tm_obsの分布が異なる2つのケースが同じ溶鋼流動パターンに分類されるようにしてもよい。一方、電磁ブレーキ装置が鋳型の長辺面の幅方向中心線の両側で異なる深さ方向位置に1組ずつ、すなわち合計4組設置されるような場合には、鋳型1の深さ方向について電磁力の分布を変更することが可能なので、上記のような2つのケースを異なる溶鋼流動パターンに分類してもよい。
(溶鋼流動制御工程)
溶鋼流動制御工程(S15)では、溶鋼流動制御部150が、溶鋼流動パターン認識工程(S14)において認識された溶鋼流動パターンに対して設定された行動価値に基づいて、電磁ブレーキ装置5のアクション、具体的には出力電流値の減少、保持、または増加を決定し、決定されたアクションを電磁ブレーキ装置5に実行させる。行動価値の詳細については後述するが、例えば、鋳型1の長辺面の幅方向について溶鋼流速が非対称であることを示す溶鋼流動パターン(第1のパターン;例えば表1に示したパターンP2〜P4、およびパターンP6〜P8)が認識された場合に、当該溶鋼流動パターンによって示される溶鋼流動の非対称性を緩和するアクション、具体的には溶鋼流速が相対的に大きい側に配置された電磁ブレーキ装置の磁場出力が、溶鋼流速が相対的に小さい側に配置された電磁ブレーキ装置の磁場出力に対して相対的に上昇するようなアクションについて相対的に高い行動価値が設定されてもよい。
溶鋼流動制御工程(S15)では、溶鋼流動制御部150が、溶鋼流動パターン認識工程(S14)において認識された溶鋼流動パターンに対して設定された行動価値に基づいて、電磁ブレーキ装置5のアクション、具体的には出力電流値の減少、保持、または増加を決定し、決定されたアクションを電磁ブレーキ装置5に実行させる。行動価値の詳細については後述するが、例えば、鋳型1の長辺面の幅方向について溶鋼流速が非対称であることを示す溶鋼流動パターン(第1のパターン;例えば表1に示したパターンP2〜P4、およびパターンP6〜P8)が認識された場合に、当該溶鋼流動パターンによって示される溶鋼流動の非対称性を緩和するアクション、具体的には溶鋼流速が相対的に大きい側に配置された電磁ブレーキ装置の磁場出力が、溶鋼流速が相対的に小さい側に配置された電磁ブレーキ装置の磁場出力に対して相対的に上昇するようなアクションについて相対的に高い行動価値が設定されてもよい。
上記の第1のパターンの例では、溶鋼流動の非対称性が浸漬ノズル2の左右の吐出口3での溶鋼流速の偏差が原因で生じるため、この偏差が小さくなるように電磁ブレーキ装置5を制御する。例えば、溶鋼流速が相対的に大きい側に配置された電磁ブレーキ装置5が電磁石の磁場出力を強めることによって、吐出流を減速させてもよい。あるいは、溶鋼流速が相対的に小さい側に配置された電磁ブレーキ装置5が電磁石の磁場出力を弱めることによって、吐出流を増速させてもよい。電磁石の磁場出力は、電磁石コイルへの印加電流に比例して変動する。従って、例えば電磁石コイルへの印加電流が既に上限値に近いような場合には、溶鋼流速が相対的に小さい側で電磁石の磁場出力を弱める制御が有効でありうる。
上記のように、本実施形態において、鋳型1の長辺面に対向する位置に配置された2組の電磁ブレーキ装置5は、溶鋼流速が相対的に大きい側に配置された電磁ブレーキ装置5の磁場出力が、溶鋼流速が相対的に小さい側に配置された電磁ブレーキ装置5の磁場出力に対して相対的に上昇するように制御される。なお、このような制御が実行される前の時点で、両側の電磁ブレーキ装置5の磁場出力は必ずしも同じではないため、制御が実行された後の時点で、溶鋼流速が相対的に大きい側での電磁ブレーキ装置5の磁場出力が、溶鋼流速が相対的に小さい側での電磁ブレーキ装置5の磁場出力よりも大きくなるとは限らない(相対的に上昇するが、大小関係は変わらない場合がありうる)。
(溶鋼流動制御工程で参照される行動価値)
表2は、溶鋼流動制御工程(S15)で参照される行動価値テーブルの例を示す表である。表2に示されるように、本実施形態において、行動価値qは、溶鋼流動パターン認識工程(S14)において認識される溶鋼流動パターン(表1に示したパターンP1〜P9)に対して電磁ブレーキ装置5が実行可能なアクションについてそれぞれ設定される(出力電流値について、電流減少の行動価値q1、電流保持の行動価値q2、電流増加の行動価値q3)。また、表2の例において、行動価値qは、電磁ブレーキ装置5のうち鋳型1の長辺面の幅方向左側に配置された電磁ブレーキ装置(左側電磁ブレーキ装置、または第1のブレーキ装置)、および同右側に配置された電磁ブレーキ装置(右側電磁ブレーキ装置、または第2のブレーキ装置)がそれぞれ実行可能な複数のアクションについて設定される。
表2は、溶鋼流動制御工程(S15)で参照される行動価値テーブルの例を示す表である。表2に示されるように、本実施形態において、行動価値qは、溶鋼流動パターン認識工程(S14)において認識される溶鋼流動パターン(表1に示したパターンP1〜P9)に対して電磁ブレーキ装置5が実行可能なアクションについてそれぞれ設定される(出力電流値について、電流減少の行動価値q1、電流保持の行動価値q2、電流増加の行動価値q3)。また、表2の例において、行動価値qは、電磁ブレーキ装置5のうち鋳型1の長辺面の幅方向左側に配置された電磁ブレーキ装置(左側電磁ブレーキ装置、または第1のブレーキ装置)、および同右側に配置された電磁ブレーキ装置(右側電磁ブレーキ装置、または第2のブレーキ装置)がそれぞれ実行可能な複数のアクションについて設定される。
さらに、表2に示された例において、行動価値qは、左側電磁ブレーキ装置および右側電磁ブレーキ装置のそれぞれの出力電流実績値ごとに設定される。より具体的には、行動価値qは、例えばデータサンプリング工程(S11)または熱伝達係数推定工程(S12)の処理時点での電磁ブレーキ装置5の出力電流実績値をm段階に区分した区分値(SL1〜SLm,SR1〜SRm)ごとに設定される。この場合、溶鋼流動制御工程(S15)において、溶鋼流動制御部150は、溶鋼流動パターン認識工程(S14)において認識された溶鋼流動パターン(パターンP1〜P9のいずれか)と、電磁ブレーキ装置5の出力電流実績値(左側電磁ブレーキ装置について、SL1〜SLmのいずれか。右側電磁ブレーキ装置について、SR1〜SRmのいずれか)をキーにして抽出される行動価値qのセットを参照する。例えば、溶鋼流動パターンP2が認識され、左側電磁ブレーキ装置の出力電流実績値がSL1、右側電磁ブレーキ装置の出力電流実績値がSR2である場合、溶鋼流動制御部150は、左側電磁ブレーキ装置のアクションを決定するために行動価値qのセット(q1P2_SL1,q2P2_SL1,q3P2_SL1)を参照し、右側電磁ブレーキ装置のアクションを決定するために行動価値qのセット(q1P2_SR2,q2P2_SR2,q3P2_SR2)を参照する。
ここで、溶鋼流動制御工程(S15)において、溶鋼流動制御部150は、例えば単純に行動価値qが最大になるアクションを選択して電磁ブレーキ装置5に実行させてもよい。この場合、例えば行動価値qのセット(q1P2_SL1,q2P2_SL1,q3P2_SL1)を参照し、大小関係がq3P2_SL1>q1P2_SL1>q2P2_SL1であれば、左側電磁ブレーキ装置の出力電流値をm段階の区分で1段階増加させるアクションが選択される。
あるいは、溶鋼流動制御部150は、例えば行動価値qから以下の式(1)によって算出される確率値prob1(qi)、または式(2)に示すような確率値prob2(qi)に従ってアクションを選択してもよい。ここで、式(2)におけるTは温度パラメータと呼ばれるものであり、同じqiの組み合わせに対して温度パラメータTが小さいほど確率値の差が大きくなる。温度パラメータTは、例えば後述するような報酬値が設定された場合に、最適アクション探索時のばらつきを調整するパラメータとして用いられる。
上記のように、溶鋼流動制御部150が確率値に従ってアクションを選択することによって、処理時点において行動価値qが最大でないアクションが選択されるケースが生じる。より具体的には、例えば、行動価値qのセット(q1P2_SL1,q2P2_SL1,q3P2_SL1)から算出される確率値がprob1(q3P2_SL1)=0.50、prob1(q1P2_SL1)=0.30、prob1(q2P2_SL1)=0.20である場合、平均すれば10回のうち5回は「電流増加」アクションが選択されるが、うち3回は「電流減少」アクションが選択され、2回は「電流維持」アクションが選択されることになる。このような行動価値qが最大でないアクションの選択は、後述する制御パラメータ学習工程(S16)において行動価値の更新を実施する場合の最適アクションの探索にあたる。従って、制御パラメータ学習工程(S16)を実行しない場合、上記のように確率値に従ってアクションを選択する必要はない。
(制御パラメータ学習工程)
制御パラメータ学習工程(S16)では、制御パラメータ学習部160が、電磁ブレーキ装置5による溶鋼流動制御の結果に基づいて上述したごとく、溶鋼流動制御工程(S15)で選択されたアクションに関する行動価値qを更新する。より具体的には、制御パラメータ学習工程(S16)において、制御パラメータ学習部160は、溶鋼流動制御工程(S15)で選択されたアクションを電磁ブレーキ装置5が実行した結果に従って算出される報酬値rに基づいて、選択されたアクションについて設定された行動価値qを更新する。例えば、電磁ブレーキ装置5によるアクションの実行、具体的には出力電流値の減少、保持、または増加によって、溶鋼流動パターン認識工程(S14)により溶鋼流動の非対称性を緩和されたと認識された場合、アクションについて設定された行動価値qを上昇させる。逆に、電磁ブレーキ装置5によるアクションの実行によって、溶鋼流動パターン認識工程(S14)により溶鋼流動の非対称性が増長されたと認識された場合、アクションについて設定された行動価値qを低下させる。
制御パラメータ学習工程(S16)では、制御パラメータ学習部160が、電磁ブレーキ装置5による溶鋼流動制御の結果に基づいて上述したごとく、溶鋼流動制御工程(S15)で選択されたアクションに関する行動価値qを更新する。より具体的には、制御パラメータ学習工程(S16)において、制御パラメータ学習部160は、溶鋼流動制御工程(S15)で選択されたアクションを電磁ブレーキ装置5が実行した結果に従って算出される報酬値rに基づいて、選択されたアクションについて設定された行動価値qを更新する。例えば、電磁ブレーキ装置5によるアクションの実行、具体的には出力電流値の減少、保持、または増加によって、溶鋼流動パターン認識工程(S14)により溶鋼流動の非対称性を緩和されたと認識された場合、アクションについて設定された行動価値qを上昇させる。逆に、電磁ブレーキ装置5によるアクションの実行によって、溶鋼流動パターン認識工程(S14)により溶鋼流動の非対称性が増長されたと認識された場合、アクションについて設定された行動価値qを低下させる。
鋳型1内の溶鋼流動は乱流発生のためにばらつきが大きく、例えば数値解析モデルによって流動シミュレーション計算を実施しても、結果を正しく予測することは容易ではない。そこで、制御パラメータ学習工程(S16)では、溶鋼流動制御工程(S15)における確率値に従ったアクションの選択を最適アクションの探索として利用して、溶鋼流動の非対称性を緩和するためにより適切なアクションの行動価値qが相対的に高く設定され、そうではないアクションの行動価値qが相対的に低く設定されるように、行動価値qを逐次更新する。
上記で表2に示した例のように行動価値qが設定される場合、行動価値qは例えば以下に示す式(3)〜(6)を用いて更新される。式(3)〜(6)において時刻tは整数であり、データサンプリング工程(S11)および溶鋼流動制御工程(S15)が実行される周期ごとに・・・,t−1,t,t+1,・・・のように進行する。式(3)では、時刻t−1の時点における行動価値qi(t−1)の修正量Δqi(t−1)を、時刻tの時点における報酬値r、および行動価値qi(i=1,2,3)の最大値に基づいて算出する。ここで、報酬値rは、時刻tにおける溶鋼流動パターンPj(t)、すなわち電磁ブレーキ装置5が時刻t−1の溶鋼流動制御工程(S15)で選択されたアクションを実行した結果に従って算出される。また、行動価値qiPj(t)_SLk(t)(i=1,2,3)は、電磁ブレーキ装置5が時刻t−1の溶鋼流動制御工程(S15)で選択されたアクションを実行した結果である溶鋼流動パターンPj(t)に対して、時刻tにおいて電磁ブレーキ装置5が実行可能な複数のアクション(出力電流値の減少、保持、または増加)に対してそれぞれ設定されている。式(4)では、式(3)で算出された修正量Δq(t−1)を用いて、時刻t−1の時点における行動価値qi(t−1)を更新して時刻tの時点における行動価値qi(t)を得る。
ここで、上述した式(3)および式(4)は左側電磁ブレーキ装置について設定される行動価値qの更新処理を表し、式(5)および式(6)は同様に右側電磁ブレーキ装置について設定される行動価値qの更新処理を表す。本実施形態では、このように、行動価値qが左側電磁ブレーキ装置(第1の電磁ブレーキ装置)および右側電磁ブレーキ装置(第2の電磁ブレーキ装置)がそれぞれ実行可能な複数のアクションについて設定され、溶鋼流動制御部150は左側および右側の電磁ブレーキ装置のそれぞれにそれぞれ異なるアクションを実行させ、制御パラメータ学習部160は左側および右側の電磁ブレーキ装置のそれぞれについて独立して行動価値qの更新を実行する。これは、電磁ブレーキ装置のアクション、すなわち出力電流値の増減に対する溶鋼流動の応答が鋳型1の長辺面の幅方向左側と右側とで非対称になることがあり、その影響を打ち消すためである。このような状況は、例えば、1つのタンディッシュから複数のストランドで同時に鋳造する場合に、タンディッシュ底面中央からの距離の差によるストランドごとの吐出流の鋳型内での方向の偏りがあることによって生じる。なお、以下では、式(3)の要素についてさらに説明を加えるが、式(5)の要素についても同様である。
本実施形態において、式(3)の報酬値rは、例えば鋳型1内の溶鋼流動が対称である場合(例えば、表1に示したパターンP1が認識された場合)には正の値をとる。加えて、電磁ブレーキ装置5の出力電流値が例えば数値シミュレーションなどの事前のプロセス知識による平均的な設定値に近いほど大きくなるように報酬値rを設定してもよい。上記の場合、報酬値rは、鋳型1内の溶鋼流動が非対称である場合(例えば、表1に示されたパターンP2〜P9が認識された場合)は0または負の値をとる。加えて、溶鋼流動が偏っている側で電磁ブレーキ装置5の出力電流値が相対的に低いほど小さくなるように報酬値rを設定してもよい。一方、式(3)において行動価値qi(i=1,2,3)の最大値に乗じる定数γは、0≦γ<1の値をとり、時刻t−1の時点において選択されたアクションの行動価値qi(t−1)の修正量Δqi(t−1)に反映させる、将来の時刻tにおける最良のアクションの選択によって得られる行動価値を割り引いて評価に加える作用を持つ。γ=0にすると、将来における最良の行動価値は時刻t−1において実際に選択されたアクションの行動価値qに反映されない。また、γ<1にすることは行動価値qの発散を防止するために必要である。aは、学習の速度を定める、正の値をとる定数である。
次に、上記の実施形態に係る溶鋼流動制御方法の実施例について説明する。実施例で使用した連続鋳造機は、図1に示したような鋳型1付近の構成であり、浸漬ノズル2の左右両側(鋳型1の長辺面に対向する位置)にそれぞれ、直流電磁石コイルを備えた電磁ブレーキ装置5が配置される。電磁ブレーキ装置5は、演算装置10から送信される制御信号に従って、電磁石コイルに印加する電流値を制御することが可能である。測温装置4は、鋳型1の各長辺面では12列6段、各短辺面では3列6段(列はx軸方向、段はz軸方向)で配置された。また、認識モデルの構築のために、予め集計された操業データ(具体的には、鋳造速度、電磁ブレーキ印加電流、湯面レベル測定値、スライドゲート開度、タンディッシュ溶鋼重量等)および測温装置4による測温値のデータから、鋳型1の各面全域における熱伝達係数α(x,z,t)、熱伝達係数β(x,z,t)、および凝固シェル厚みs(x,z,t)の分布を算出し、これと鋳造条件(具体的には、鋳型幅、鋳型厚、モールドフラックス種類、鋼種、溶鋼成分等)をリンクしたレコードを蓄積したデータベースを作成した。
本実施例では、認識モデルとして、図9に示すような7層の多層型ニューラルネットワーク、いわゆる深層学習モデルを用いた。上記で説明したようなデータ形式変換工程によって、鋳型1の全体に配置された測温点のデータを12行15列の行列に変換した。さらに行列の各成分を3行3列の同じ値をもつ行列に拡大し、行方向および列方向について元の行列の3倍の大きさをもつ、36行45列の行列を認識モデルの入力データとした。この例を図10に示す。
本認識モデルにおいて、ネットワークは中間層が5層、出力層が1層である。中間層の第1層および第3層は畳み込み層と呼ばれ、畳み込みネットワークと呼ばれる機能を有する。これは、上流側の層から出力された行列データ(最上流層は入力データ)に対して、フィルタと呼ばれる4行4列の部分行列の各成分に重み係数を乗じた和に、ReLU(Rectified Linear Unit)関数と呼ばれるy=0(x<0の場合)またはy=x(0≦xの場合)となる非線形関数を作用させる。このようなフィルタに対する操作を、上流側の層から出力された行列データの(1,1)成分の位置から行方向および列方向に、部分行列が重なりをもつようにずらしながら実行する。畳み込み層は、16個の係数をもつフィルタを複数個もち、上流側の層から出力された行列データに対して上記のように位置をずらしながら実行した操作によって生成されたデータを再び(1,1)成分の位置に合わせて行列形式に配置することによって、フィルタ個数分の出力データ行列をもつ。本実施例では、中間層の第1層が50個のフィルタをもち、第3層が100個のフィルタをもつ。
中間層の第2層および第4層は最大値プーリング層と呼ばれ、上流側の層から出力された行列データから2行2列の部分行列を取り出し、その中の最大値を部分行列の代表値として出力する機能を有する。最大値プーリング層は、畳み込み層とは異なり、上流側の層から出力された行列データの(1,1)成分の位置から部分行列が重なり合わないようにずらしながら上記の操作を実行し、生成されたデータを再び(1,1)成分の位置に合わせて行列形式に配置することによって、行列データのサイズを縮小する。これを畳み込み層の各フィルタによって出力される行列データに対して繰り返す。本実施例では、中間層の第2層が50個のプーリング結果行列をもち、第4層が100個のプーリング結果行列をもつ。
中間層の第5層は全結合ネットワークと呼ばれ、500個のReLU関数からなるベクトルデータを出力する。各関数は、第4層の最大値プーリング層から出力される行列データの各成分に対して各ReLU関数に対応する重み係数を用いた線形結合を入力として、各入力に対してReLU関数を作用させることによって算出される。
出力層は、上記で表1に示した溶鋼流動パターンの分類の数と同じ11個の線形結合関数からなり、中間層の第5層の出力値に対して各分類に対応する重み係数を用いた線形結合和を出力値として算出する。本認識モデルの出力は溶鋼流動パターンの分類であるが、分類の選び方としてはソフトマックス法と呼ばれる、各分類に対応する出力層の線形結合関数出力に対する指数の自然指数関数に比例する確率でいずれかの分類を選択する方法を用いた。
本実施例における認識モデルの学習は、上記で説明したReLU関数または線形結合関数の重み係数を、教師データの認識誤差が最小になるように最適化することである。本実施例では、データベースに蓄積された各レコードに与えた分類結果に対して、レコードに含まれる測温装置4による測温値Tm_obsを入力とする認識モデルを作成した。従って、入力データは各測温点の測温値Tm_obsからなる行列である。認識モデルの最適化には、誤差逆伝搬法を用いた。
(溶鋼流動制御および行動価値の更新)
本実施例では、溶鋼流動パターン認識工程(S14)において表1に示した9つの溶鋼流動パターンP1〜P9が認識されるものとし、左側および右側の電磁ブレーキ装置の出力電流実績値を弱(SL1,SR1)、中(SL2,SR2)、および強(SL3,SR3)の3段階に区分する(表2においてm=3)。従って、本実施例では、左側および右側の電磁ブレーキ装置について、それぞれ9×3×3=81通りの行動価値qが設定される。なお、溶鋼流動制御部150は行動価値qから上記の式(2)で算出される確率値prob2(qi)に従ってアクションを選択するものとし、温度パラメータTは10とした。
本実施例では、溶鋼流動パターン認識工程(S14)において表1に示した9つの溶鋼流動パターンP1〜P9が認識されるものとし、左側および右側の電磁ブレーキ装置の出力電流実績値を弱(SL1,SR1)、中(SL2,SR2)、および強(SL3,SR3)の3段階に区分する(表2においてm=3)。従って、本実施例では、左側および右側の電磁ブレーキ装置について、それぞれ9×3×3=81通りの行動価値qが設定される。なお、溶鋼流動制御部150は行動価値qから上記の式(2)で算出される確率値prob2(qi)に従ってアクションを選択するものとし、温度パラメータTは10とした。
その一方で、本実施例では、時刻t+1における溶鋼流動パターンPj(t+1)が、時刻tにおける溶鋼流動パターンPj(t)と、左側および右側の電磁ブレーキ装置の出力電流実績値SLk(t),SRk(t)によって定まる確率分布に従って発生するものとする。この確率分布に以下の表3〜表14のような値を設定して、溶鋼流動の時間応答特性をモデル化した。上述した制御パラメータ学習工程(S16)が適切に実行されれば、行動価値qは溶鋼流動の時間応答特性に適応して最適化されるはずである。
(1)浸漬ノズルに詰まりがなく左右の吐出孔に均等に溶鋼が流出している場合
表3〜表5は、左側および右側のそれぞれの電磁ブレーキ装置の出力電流値が同じである場合の確率分布である。この場合、確率分布は出力電流値が強いほど偏りがない状態の安定性が強いことを反映している。
表3〜表5は、左側および右側のそれぞれの電磁ブレーキ装置の出力電流値が同じである場合の確率分布である。この場合、確率分布は出力電流値が強いほど偏りがない状態の安定性が強いことを反映している。
表6および表7は、左側電磁ブレーキ装置の出力電流値が右側電磁ブレーキ装置の出力電流値よりも強い場合の確率分布である。この場合、確率分布は左側吐出口からの溶鋼流に対する減速効果を反映し、右側に偏った流動分布になる確率が相対的に高くなる。出力電流値の差が大きいほど、上記の傾向は強くなる。
表8および表9は、右側電磁ブレーキ装置の出力電流値が左側電磁ブレーキ装置の出力電流値よりも強い場合の確率分布である。この場合、確率分布は右側吐出口からの溶鋼流に対する減速効果を反映し、左側に偏った流動分布になる確率が相対的に高くなる。出力電流値の差が大きいほど、上記の傾向は強くなる。
(2)右側の浸漬ノズル吐出孔に詰まりがあり、左側吐出孔からの溶鋼流出量が多い場合
表10〜表12は、左側および右側のそれぞれの電磁ブレーキ装置の出力電流値が同じである場合の確率分布である。この場合、確率分布は左側に偏った流動分布が継続しやすく、一度右側に流れが偏った場合にのみ、次の時刻に偏りがない流動分布になりやすいことを反映している。
表10〜表12は、左側および右側のそれぞれの電磁ブレーキ装置の出力電流値が同じである場合の確率分布である。この場合、確率分布は左側に偏った流動分布が継続しやすく、一度右側に流れが偏った場合にのみ、次の時刻に偏りがない流動分布になりやすいことを反映している。
表13および表14は、上記のような右側詰まりの状況で、左側電磁ブレーキ装置の出力電流値が右側電磁ブレーキ装置の出力電流値よりも強い場合の確率分布である。表13の確率分布では、電磁ブレーキ装置の作用で右側詰まりの影響が打ち消され、偏りのない分布に遷移する確率が高くなる。一方、出力電流値の差がより大きい表14の確率分布では、左側吐出孔の溶鋼流の減速効果が過剰であり、右側に偏った分布に遷移する確率が高くなる。
表15および表16は、上記のような右側詰まりの状況で、右側電磁ブレーキ装置の出力電流値が左側電磁ブレーキ装置の出力電流値よりも強い場合の確率分布である。
表17に、本実施例で設定した左側電磁ブレーキ装置の報酬値r(Pj,SLk)および右側電磁ブレーキ装置の報酬値r(Pj,SRk)を示す。鋳型1内の溶鋼流動が対称である場合(パターンP1)には報酬値rを正の値にし、電磁ブレーキ装置の出力電流値「中」が平均的な設定値であるものとして、出力電流値SL2,SR2の場合により大きな報酬値rを設定した。一方、鋳型1内の溶鋼流動が非対称である場合(パターンP2〜P9)には報酬値rを0または負の値にし、溶鋼流動が偏っている側で電磁ブレーキ装置の出力電流値が相対的に低い場合(パターンP2〜P4(左偏り)と出力電流値SL1,SL2との組み合わせ、およびパターンP6〜P8(右偏り)と出力電流値SR1,SR2との組み合わせ)、ならびに流動が偏っている側の反対側で電磁ブレーキ装置の出力電流値が相対的に高い場合(パターンP2〜P4(左偏り)と出力電流値SR2,SR3との組み合わせ、およびパターンP6〜P8(右偏り)と出力電流値SL2,SL3との組み合わせ)により小さな負の値の報酬値rを設定し、それ以外の場合には報酬値rを0に設定した。また、上記の式(3)および式(5)におけるγの値は0.99とし、学習の速度を定める定数aを0.1とした。
(シミュレーション結果)
図11および図12は、時刻t=1,...,5000について、500回ごとに上記(1)の溶鋼流動が対称な状態と上記(2)の右側詰まりの状態とが入れ替わる場合に、左側および右側の電磁ブレーキ装置の出力電流値がいずれも「中」に固定する比較例と、上記のような溶鋼流動パターンの認識、行動価値qに基づく電磁ブレーキ装置のアクションの選択および行動価値qの更新を実行する実施例とで溶鋼流動制御を実施した場合のシミュレーション結果を示すグラフである。
図11および図12は、時刻t=1,...,5000について、500回ごとに上記(1)の溶鋼流動が対称な状態と上記(2)の右側詰まりの状態とが入れ替わる場合に、左側および右側の電磁ブレーキ装置の出力電流値がいずれも「中」に固定する比較例と、上記のような溶鋼流動パターンの認識、行動価値qに基づく電磁ブレーキ装置のアクションの選択および行動価値qの更新を実行する実施例とで溶鋼流動制御を実施した場合のシミュレーション結果を示すグラフである。
図11は、時刻t=1,...,1000で、上記(1)の溶鋼流動が対称な状態と上記(2)の右側詰まりの状態とを1回ずつ経た時点までの溶鋼流動パターン出現比率を示すグラフである。ここでは、比較例と実施例との間に出現比率の大きな違いはない。一方、図12は、t=4001,...,5000で、上記(1)の溶鋼流動が対称な状態と上記(2)の右側詰まりの状態とをそれぞれ4回ずつ経た後、5回目のそれぞれの状態が発生している間における溶鋼流動パターンの出現比率を示すグラフである。ここでは、比較例の溶鋼流動パターン出現比率が図11の場合とほぼ同じであるのに対して、実施例の溶鋼流動パターン出現比率では溶鋼流動が対称であることを示すパターンP1の出現比率が増加し、その分だけパターンP2〜P5(左偏りおよびL偏り)の出現比率が減少している。この結果から、本発明の実施形態では、制御パラメータ学習工程(S16)によって溶鋼流動の時間応答特性に適応して最適化された行動価値qを用いて電磁ブレーキ装置を適切に制御し、鋳型1内の溶鋼偏流を緩和できていることがわかる。
なお、上述した実施例では認識モデルを7層ニューラルネットワークとしたが、例えば溶鋼流動の変動範囲が小さく、溶鋼流動パターンの分類がより少なくてよい場合には、ニューラルネットワークの中間層の数や、各中間層のフィルタの数を少なくしてもよい。逆に、溶鋼流動の変動範囲が大きい場合や、電磁ブレーキ装置5のような溶鋼流動制御手段が鋳型1の3つ以上の領域で個別に溶鋼流動を制御可能である場合には、ニューラルネットワークの中間層の数や、各中間層のフィルタの数を多くしてもよい。具体的には、例えば、電磁ブレーキ装置5が鋳型1の深さ方向について複数配置される場合、深さ方向の溶鋼流動の分布を含んで定義される溶鋼流動パターンを認識し、深さ方向で適切な位置にある電磁ブレーキ装置5を制御することによってより効果的に偏流を緩和できる。
また、上述した実施例では溶鋼流動パターンによって鋳型1内の溶鋼流速が非対称であることを認識したが、この例には限られず、例えば溶鋼流動パターンによって鋳型1の長辺面の幅方向の左右いずれかの側における溶鋼流速が実績データに基づく平均流速値よりも高いことを認識してもよい。この場合、行動価値qは、左側および右側の電磁ブレーキ装置のうち、溶鋼流速が平均流速値よりも高い側に配置された電磁ブレーキ装置の磁場出力が上昇するような左側または右側の電磁ブレーキ装置のアクションについて相対的に高く設定されてもよい。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
1…鋳型、2…浸漬ノズル、3…吐出口、4…測温装置、5…電磁ブレーキ装置、6…銅板、7…冷却水、8…凝固シェル、9…モールドフラックス、10…演算装置、100…溶鋼流動制御装置、110…データサンプリング部、120…熱伝達係数推定部、130…データ形式変換部、140…溶鋼流動パターン認識部、150…溶鋼流動制御部、160…制御パラメータ学習部。
Claims (10)
- 連続鋳造機の鋳型に配置された測温装置による測温値を含むデータに基づいて前記鋳型内での溶鋼流動パターンを認識する溶鋼流動パターン認識部と、
前記認識された溶鋼流動パターンに対して溶鋼流動制御手段が実行可能な複数のアクションについてそれぞれ設定された行動価値に基づいて、前記複数のアクションのうちのいずれかを溶鋼流動制御手段に実行させる溶鋼流動制御部と
を備える、溶鋼流動制御装置。 - 前記溶鋼流動制御部は、前記行動価値に基づいて算出される確率値に従って前記複数のアクションのうちのいずれかを選択し、
前記溶鋼流動制御装置は、前記溶鋼流動制御手段が前記選択されたアクションを実行した結果に従って算出される報酬値に基づいて、前記選択されたアクションについて設定された行動価値を更新する制御パラメータ学習部をさらに備える、請求項1に記載の溶鋼流動制御装置。 - 前記制御パラメータ学習部は、前記報酬値に加えて、前記溶鋼流動制御手段が前記選択されたアクションを実行した結果に対して前記溶鋼流動制御手段が実行可能な複数のアクションについてそれぞれ設定された行動価値の最大値に基づいて、前記選択されたアクションについて設定された行動価値を更新する、請求項2に記載の溶鋼流動制御装置。
- 前記溶鋼流動制御手段は、前記鋳型の長辺面の幅方向両側にそれぞれ配置された第1および第2の電磁ブレーキ装置を含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の溶鋼流動制御装置。
- 前記行動価値は、前記第1および第2の電磁ブレーキ装置がそれぞれ実行可能な複数のアクションについて設定され、
前記溶鋼流動制御部は、前記第1および第2の電磁ブレーキ装置にそれぞれ異なるアクションを実行させる、請求項4に記載の溶鋼流動制御装置。 - 前記行動価値は、前記第1および第2の電磁ブレーキ装置のそれぞれの出力電流実績値ごとに設定される、請求項4または請求項5に記載の溶鋼流動制御装置。
- 前記溶鋼流動パターンは、前記長辺面の幅方向について溶鋼流速が非対称であることを示す第1のパターンを含み、
前記行動価値は、前記第1のパターンが認識された場合に、前記第1および第2の電磁ブレーキ装置のうち、溶鋼流速が相対的に大きい側に配置された電磁ブレーキ装置の磁場出力が、溶鋼流速が相対的に小さい側に配置された電磁ブレーキ装置の磁場出力に対して相対的に上昇するような前記第1または第2の電磁ブレーキ装置のアクションについて相対的に高く設定される、請求項4から請求項6のいずれか1項に記載の溶鋼流動制御装置。 - 前記溶鋼流動パターンは、前記長辺面の幅方向のいずれかの側における溶鋼流速が実績データに基づく平均流速値よりも高いことを示す第2のパターンを含み、
前記行動価値は、前記第2のパターンが認識された場合に、前記第1および第2の電磁ブレーキ装置のうち、前記溶鋼流速が前記平均流速値よりも高い側に配置された電磁ブレーキ装置の磁場出力が上昇するような前記第1または第2の電磁ブレーキ装置のアクションについて相対的に高く設定される、請求項4から請求項7のいずれか1項に記載の溶鋼流動制御装置。 - 連続鋳造機の鋳型に配置された測温装置による測温値を含むデータに基づいて前記鋳型内での溶鋼流動パターンを認識する溶鋼流動パターン認識工程と、
前記認識された溶鋼流動パターンに対して溶鋼流動制御手段が実行可能な複数のアクションについてそれぞれ設定された行動価値に基づいて、前記複数のアクションのうちのいずれかを溶鋼流動制御手段に実行させる溶鋼流動制御工程と
を含む、溶鋼流動制御方法。 - 連続鋳造機の鋳型に配置された測温装置による測温値を含むデータに基づいて前記鋳型内での溶鋼流動パターンを認識する溶鋼流動パターン認識部と、
前記認識された溶鋼流動パターンに対して溶鋼流動制御手段が実行可能な複数のアクションについてそれぞれ設定された行動価値に基づいて、前記複数のアクションのうちのいずれかを溶鋼流動制御手段に実行させる溶鋼流動制御部と
を備える溶鋼流動制御装置としてコンピュータを動作させるためのプログラム。
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Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2019075545A JP2020171945A (ja) | 2019-04-11 | 2019-04-11 | 溶鋼流動制御装置、溶鋼流動制御方法、およびプログラム |
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JP2020171945A true JP2020171945A (ja) | 2020-10-22 |
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JP2019075545A Pending JP2020171945A (ja) | 2019-04-11 | 2019-04-11 | 溶鋼流動制御装置、溶鋼流動制御方法、およびプログラム |
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- 2019-04-11 JP JP2019075545A patent/JP2020171945A/ja active Pending
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