以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
図1を参照して、本実施形態に係る挙動予測装置の構成を説明する。挙動予測装置は、物体検出装置1と、自車位置推定装置2と、地図取得装置3と、マイクロコンピュータ50とを有している。
挙動予測装置は、自動運転機能を有する車両に適用されてもよく、自動運転機能を有しない車両に適用されてもよい。また、挙動予測装置は、自動運転と手動運転とを切り替えることが可能な車両に適用されてもよい。以下、挙動予測装置が適用された車両を自車両という。
自動運転とは、例えば、ブレーキ、アクセル、ステアリングなどのアクチュエータのうち、少なくとも一つのアクチュエータが乗員の操作なしに制御されている状態のことを指す。そのため、その他のアクチュエータが乗員の操作により作動していたとしても構わない。また、自動運転とは、加減速制御、横位置制御などのいずれかの制御が実行されている状態であればよい。また、本実施形態における手動運転とは、例えば、ブレーキ、アクセル、ステアリングを乗員が操作している状態のことを指す。
物体検出装置1は、自車両に搭載された、レーザレーダ、ミリ波レーダ、カメラなどの複数の物体検出センサを備える。物体検出装置1は、複数の物体検出センサを用いて自車両周囲の物体を検出する。物体検出装置1は、他車両、バイク、自転車、歩行者を含む移動物体、及び駐車車両、建物を含む静止物体を検出する。例えば、物体検出装置1は、移動物体及び静止物体の自車両に対する位置、姿勢(ヨー角)、大きさ、速度、加速度、減速度、ヨーレートを検出する。
自車位置推定装置2は、GPS(グローバル・ポジショニング・システム)、オドメトリなどの位置推定技術を利用して、自車両の絶対位置を計測する。自車位置推定装置2は、位置検出センサを用いて、自車両の絶対位置、すなわち、所定の基準点に対する自車両の位置、車速、加速度、操舵角、姿勢を計測する。自車位置推定装置2には、GPS受信器、慣性航法装置、ブレーキペダルやアクセルペダルに設けられたセンサ、車輪速センサやヨーレートセンサなど車両の挙動を取得するセンサ、レーザレーダ、カメラなどが含まれている。
地図取得装置3は、自車両が走行する道路の構造を示す地図情報を取得する。地図取得装置3が取得する地図情報には、車線の絶対位置、車線の接続関係、相対位置関係などの道路構造の情報、交通規則、道路標識などが含まれる。また、地図取得装置3が取得する地図情報には、道路脇の私有地である駐車場、ガソリンスタンドなどの施設情報も含まれる。その他、地図情報には、信号機の位置、信号機の種別などの信号機情報が含まれる。地図取得装置3は、地図情報を格納した地図データベースを所有してもよいし、クラウドコンピューティングにより地図情報を外部の地図データサーバから取得してもよい。また、地図取得装置3は、車車間通信、路車間通信を用いて地図情報を取得してもよい。
マイクロコンピュータ50は、物体検出装置1の検出結果、自車位置推定装置2による推定結果、及び地図取得装置3の取得結果に基づいて、自車両周囲の物体の挙動を予測する。また、マイクロコンピュータ50は、予測した物体の挙動に基づいて、自車両の走行状態を制御する。
マイクロコンピュータ50は、CPU(中央処理装置)、メモリ、及び入出力部を備える汎用のマイクロコンピュータである。マイクロコンピュータには、挙動予測装置として機能させるためのコンピュータプログラム(挙動予測プログラム)がインストールされている。コンピュータプログラムを実行することにより、マイクロコンピュータは、挙動予測装置が備える複数の情報処理回路として機能する。なお、本実施形態では、ソフトウェアによって挙動予測装置が備える複数の情報処理回路を実現する例を示すが、もちろん、以下に示す各情報処理を実行するための専用のハードウェアを用意して、情報処理回路を構成することも可能である。また、複数の情報処理回路を個別のハードウェアにより構成してもよい。
マイクロコンピュータ50は、複数の情報処理回路として、検出統合部4と、物体追跡部5と、地図内位置推定部6と、挙動予測部10と、車両制御部17とを備えている。
検出統合部4は、物体検出装置1が備える複数の物体検出センサの各々から得られた複数の検出結果を統合して、各物体に対して一つの検出結果を出力する。具体的には、物体検出センサの各々から得られた物体の挙動から、各物体検出センサの誤差特性などを考慮した上で最も誤差が少なくなる合理的な物体の挙動を算出する。具体的には、既知のセンサ・フュージョン技術を用いることにより、複数の物体検出センサで取得した検出結果を総合的に評価して、より正確な検出結果を得る。
物体追跡部5は、検出統合部4によって検出された物体を追跡する。具体的に、物体追跡部5は、異なる時刻に出力された物体の挙動から、異なる時刻間における物体の同一性の検証(対応付け)を行い、かつ、その対応付けを基づいて物体を追跡する。
地図内位置推定部6は、自車位置推定装置2により得られた自車両の絶対位置、及び地図取得装置3により取得された地図情報から、地図上における自車両の位置を推定する。具体的には、地図内位置推定部6は、自車両が地図上のどの車線を走行しているかを推定する。
挙動予測部10は、自車両周囲の物体の中から、挙動予測の対象となる予測物体を特定し、予測物体の挙動を予測する。挙動予測部10は、車線判定部11と、車両特定部12と、変化要因判定部13と、予測方法決定部14と、予測方法切替部15と、予測処理部16とを有している。
車線判定部11は、自車両周囲の物体(車両など)が地図上のどの車線に位置しているのかを判定する。また、車線判定部11は、自車両周囲の物体(歩行者など)が、地図上のどの位置(歩道、交差点の周囲)にいるのかを判定する。車線判定部11は、検出統合部4及び物体追跡部5で得られた物体の追跡結果と、地図内位置推定部6において得られた地図上での自車両の位置(車線)とに基づいて判定を行う。
車両特定部12は、車線判定部11の判定結果に基づいて、自車両周囲の物体の中から予測物体を特定する。
変化要因判定部13は、自車両周囲の物体又は自車両周囲の走行環境に基づいて、予測物体の挙動変化に繋がる変化要因があるか否かを判定する。変化要因判定部13は、車線判定部11の判定結果に基づいて自車両周囲の物体を認識することができる。また、変化要因判定部13は、地図取得装置3が取得した地図情報などから、自車両周囲の走行環境を認識することができる。
予測方法決定部14は、変化要因判定部13の判定結果に基づいて、挙動予測の方法を決定する。挙動予測の方法には、短期予測による挙動予測と、長期予測による挙動予測との二種類がある。
予測方法切替部15は、予測方法決定部14で決定された挙動予測の方法について切り替えを行う。
予測処理部16は、予測方法決定部14によって決定された挙動予測の方法で、又は、予測方法切替部15により切り替えられた挙動予測の方法で、予測物体の挙動を予測する。
短期予測の場合、予測処理部16は、自車両周囲の物体から得られる情報のうちで、予測物体から得られる情報のみに基づいて、予測物体の挙動を予測する。具体的には、予測処理部16は、予測物体の状態の遷移に基づいて、予測物体の挙動を予測する。換言すれば、予測処理部16は、予測物体の現在又は過去の状態(速度、位置など)に基づいて予測物体の予測軌道を計算し、その予測軌道に基づいて予測物体に想定される進路候補を評価して、評価された進路候補に基づいて予測物体の挙動を予測する。
長期予測の場合、予測処理部16は、自車両周囲の物体から得られる情報のうちで、予測物体から得られる情報のみでなく、予測物体から得られる情報と予測物体周囲にいる周囲物体から得られる情報とに基づいて、予測物体の挙動を予測する。具体的には、予測処理部16は、周囲物体との相互作用、すなわち、周囲物体から予測物体に及ぼされる影響を考慮して、予測物体の挙動を予測する。換言すれば、予測処理部16は、周囲物体に想定される進路候補に基づいて予測物体に想定される進路候補を評価して、評価された進路候補に基づいて予測物体の挙動を予測する。
車両制御部17は、挙動予測部10において予測された予測物体の挙動に基づいて、自車両の制御を行う。車両制御部17は、自車両の各種アクチュエータ(ステアリングアクチュエータ、アクセルペダルアクチュエータ、ブレーキアクチュエータなど)を制御して、自動運転制御又は運転支援制御(例えば減速制御)を実行する。
なお、挙動予測装置は、図示しない通信装置を備えていてもよい。この場合、挙動予測部10は、車車間通信又は路車間通信を用いて自車両前方の走行環境(道路構造、交通規則、渋滞など)の情報を取得してもよい。
つぎに、図2を参照し、本実施形態に係る挙動予測の処理手順を説明する。この処理手順は、イグニッションスイッチ(IGN)のオンをトリガーとして呼び出され、マイクロコンピュータ50によって実行される。なお、自車両が電気自動車である場合、イグニッションスイッチの代わりに、パワースイッチのオンをトリガーとすればよい。
まず、ステップS10において、検出統合部4は、物体検出装置1から物体情報、すなわち、自車両周囲の物体の情報を取得する。物体情報が取得されると、検出統合部4は、物体情報に基づいて物体の挙動を算出する。また、物体追跡部5は、検出統合部4によって検出された物体を追跡する。
ステップS11において、地図内位置推定部6は、地図取得装置3から地図情報を取得する。
ステップS12において、地図内位置推定部6は、自車位置推定装置2から自車両の位置情報を取得する。
これらの情報が取得されると、地図内位置推定部6は、地図上における自車両の位置(走行車線)を推定する。車線判定部11は、物体追跡部5による物体の追跡結果と、地図内位置推定部6による自車両の位置情報とに基づいて、自車両周囲の物体、特に車両が地図上のどの走行車線に属しているかを判定する。また、車線判定部11は、自車両周囲の物体、特に歩行者が地図上のどの位置にいるのかを判定する。
ステップS13において、車両特定部12は、自車両周囲の物体の中から予測物体を特定する。予測物体は、自車両の挙動に影響を与える可能性がある物体である。予測物体の典型は車両であり、以下、予測物体として車両(以下「予測車両」という)を前提に説明を行う。
以下、図3を参照し、自車両Vaが直線道路を走行している状況を例に、予測車両を特定する処理について説明する。同図に示す例では、自車両Vaよりも後方を他車両Vb2が走行し、自車両Vaよりも前方を他車両Vb1、Vb3、Vb4、Vb5が走行している。他車両Vb3は、自車両Vaと同一の車線を走行し、他車両Vb1、Vb2は、自車両Vaが走行する車線の右側に隣接する車線を走行している。また、他車両Vb4は、他車両Vb1、Vb2が走行する車線の右側に隣接する車線を走行し、他車両Vb5は、他車両Vb4が走行する車線の右側に隣接する車線を走行している。
他車両Vb1が左側の車線(自車両Vaが走行する車線)へと車線変更した場合、自車両Vaが走行する車線、かつ自車両Vaの前方に他車両Vb1が出現することとなる。自車両Vaと他車両Vb1との車間距離によっては、自車両Vaに減速などの行動が必要となる。他車両Vb1は、自車両Vaの挙動に影響を与える可能性があるので、予測車両となる。また、他車両Vb3は、自車両Vaが走行する車線、かつ自車両Vaの前方に存在する。他車両Vb3が減速した場合、自車両Vaに減速などの行動が必要となる。他車両Vb3は、自車両Vaの挙動に影響を与える可能性があるので、予測車両となる。
また、他車両Vb4が左側の車線(他車両Vb1が走行する車線)へと車線変更した場合、他車両Vb1が左側の車線(自車両Vaが走行する車線)へと車線変更する可能性がある。この場合、上述したように、他車両Vb1の行動が自車両Vaの挙動に影響を与えることとなる。他車両Vb4は、他車両Vb1を介して、自車両Vaの挙動に影響を与える可能性があるので、予測車両となる。また、他車両Vb5が左側の車線(他車両Vb4が走行する車線)へと車線変更した場合、他車両Vb4が左側の車線(他車両Vb1が走行する車線)へと車線変更する可能性がある。この場合、先に述べたように、他車両Vb4の行動によって他車両Vb1が自車両Vaが走行する車線へと車線変更する可能性がある。そして、他車両Vb1の行動が自車両Vaの挙動に影響を与える。他車両Vb5は、他車両Vb1、Vb4を介して、自車両Vaの挙動に影響を与える可能性があるので、予測車両となる。
一方、他車両Vb2は、自車両Vaの後方を走行しているので、自車両Vaの挙動に影響を与える可能性は低い。よって、他車両Vb2は、予測車両とはならない。
このように、自車両Vaの挙動に直接的に影響を与える他車両Vb1、Vb3のみならず、自車両Vaの挙動に間接的に影響する他車両Vb4、Vb5も予測車両に該当する。車両特定部12は、自車両Vaの挙動に直接的に影響を与える他車両、及び、自車両Vaの挙動に間接的に影響を与える他車両を、予測車両として特定する。
なお、図3に示す例は直線道路を想定している。そのため、自車両Vaと同一方向に進行する他車両Vb1、Vb3〜Vb5が予測車両として特定される。しかしながら、予測車両は、自車両Vaと同一方向に進行する他車両に限定されない。例えば、自車両Vaの進路の前方に交差点があるような走行環境では、対向車線を交差点に向かって走行する対向車両も予測車両となり得る。
ステップS14において、変化要因判定部13は、予測車両の挙動変化に繋がる変化要因を検出する。変化要因判定部13は、自車両Va周囲の物体又は自車両Va周囲の走行環境に基づいて、変化要因を検出する。
以下、図4A乃至図4Hを参照し、変化要因について説明する。図4A乃至図4H(図4Fを除く)には、自車両Vaと、自車両Vaと同一方向に走行する他車両Vb1、Vb2、Vb3と、対向車線を走行する対向車両Vc1、Vc2とが描かれている。図4A乃至図4H(図4Fを除く)において、他車両Vb1、Vb2、Vb3のうち、他車両Vb2、Vb3が予測車両に該当する。また、図4Fには、自車両Vaと、自車両Vaの前方を走行する他車両Vb1とが描かれている。図4Fにおいて、他車両Vb1は予測車両に該当する。
変化要因の一例は、予測車両の進路上に存在して予測車両の進行を妨げる事象が予測車両から所定距離以内に発生した場合である。なおここで、前述の所定距離とは将来回避行動を取るか否かの判断が必要な距離であり、予め設定された距離あるいは車速によって設定された距離である。この変化要因における予測車両の進路とは、予測車両が現在の車線に沿って走行した場合における進路をいう。予測車両の進行を妨げる事象としては、例えば停止車両Vdが挙げられる(図4A)。停止車両Vdは、絶対的な速度がゼロとなる車輌である。ただし、予測車両の進行を妨げる事象となり得ればよく、本実施形態における停止車両Vdは、予測車両との速度差が所定値以上となる低速の車両まで広く含むものである。また、予測車両の進行を妨げる事象としては、例えば道路工事E1が挙げられる(図4B)。
予測車両の進行が妨げられる場合、事象を安全に通過するために、予測車両が減速したり、予測車両が隣接する車線へ車線変更したりする回避行動を実行することが予想される。したがって、予測車両の進行を妨げる事象は、予測車両の挙動変化に繋がる変化要因となる。
変化要因の別の例は、予測車両が走行している道路において予測車両から所定距離内に進入する可能性がある進入物体である。なおここで、前述の所定距離とは将来回避行動を取るか否かの判断が必要な距離であり、予め設定された距離あるいは車速によって設定された距離である。進入物体としては、例えば道路に進入する進入車両Veが挙げられる(図4C)。進入車両Veは、道路外、すなわち道路脇の私有地又は脇道などから、予測車両が走行している道路に進入する。また、進入物体としては、自車両Vaが走行する道路上の横断歩道を渡る歩行者Peが挙げられる(図4D)。
進入物体が道路に進入する可能性がある場合、進入物体に進路を譲ったり、進入物体を安全に通過したりするために、予測車両が減速したり、予測車両が隣接する車線へ車線変更したりする回避行動を実行することが予想される。したがって、進入物体は、予測車両の挙動変化に繋がる変化要因となる。
変化要因の別の例は、予測車両から所定距離内において、予測車両の進路候補と他の物体の進路候補とが交錯することである。なおここで、前述の所定距離とは将来回避行動を取るか否かの判断が必要な距離であり、予め設定された距離あるいは車速によって設定された距離である。例えば、図4Eに示すように、予測車両である他車両Vb3は、他車両Vb2が右斜め前方を走行する。他車両Vb3は、右側の車線に車線変更することができないので、現在の車線を直進する進路候補R31のみを有する。直進の進路候補R31の発生確率は、基準値(例えば60%)以上の100%になる。
一方、他車両Vb3の周囲を走行する他車両Vb2は、現在の車線を直進する進路候補R21と、左側の車線へと車線変更する進路候補R23とを有している。通常、直進の進路候補R21の発生確率と車線変更の進路候補R23の発生確率とはそれぞれ50%になる。一方、他車両Vb2の位置が左側の車線方向に推移している、或いは、左側のウインカーを点灯しているといった状況では、車線変更の進路候補R23の発生確率が高くなる。例えば、直進の進路候補R21の発生確率が20%になり、車線変更の進路候補R23の発生確率が基準値(例えば60%)以上の80%になるといった如くである。
発生確率に従って状況が推移し、他車両Vb2が左側の車線へと車線変更した場合、他車両Vb2との車間距離を確保するために、他車両Vb3が減速することが予想される。したがって、他車両Vb2の進路候補R23と他車両Vb3の進路候補R31とが交錯することは、予測車両の挙動変化に繋がる変化要因となる。
変化要因判定部13は、予測車両について想定される進路候補の発生確率を演算する。そして、変化要因判定部13は、予測車両の進路候補の発生確率が予め定めた基準値以上となり、かつ、この進路候補が予測車両周囲の周囲物体について想定される進路候補とが交錯するか否かを判定する。そして、変化要因判定部13は、進路候補同士が交錯すると判定した場合に、これを変化要因として検出する。
変化要因の別の例は、交通規則上の優先度が予測車両よりも高く、予測車両の進路を横切るように移動する優先物体である。優先物体としては、予測車両である他車両Vb1が走行する道路に対して交差する交差道路を走行する消防用自動車などの緊急自動車Vfが挙げられる(図4F)。また、予測車両が走行する道路に対して交差する交差道路の方が優先度が高い場合、この交差道路を走行する車両も優先物体に該当する。
優先物体が横切る場合、優先物体の移動を優先させるため、予測車両が減速することが予想される。したがって、優先物体は、予測車両の挙動変化に繋がる変化要因となる。
変化要因の別の例は、予測車両の進路上に挙動変化を伴う交通規則があることである。交通規則としては、例えば最高速度などの速度制限E21、E23が挙げられる(図4G)。予測車両である他車両Vb2、Vb3は、速度制限E21、E23に従って道路を走行する。したがって、交通規則は、予測車両の挙動変化に繋がる変化要因となる。なお、挙動変化を伴う交通規則には、速度制限以外にも、停止線、信号機、右折専用又は左折専用などの専用車線、道路に関する優先又は非優先の区別などが考えられる。
変化要因の別の例は、予測車両の進路上に挙動変化を伴う道路構造があることである。道路構造としては、例えば車線減少が挙げられる(図4H)。予測車両である他車両Vb3は、車線減少に伴い、右側の車線へと車線変更することが予想される。したがって、道路構造は、予測車両の挙動変化に繋がる変化要因となる。なお、挙動変化を伴う道路構造には、車線減少以外にも、カーブ、坂道などが考えられる。
図2に示すステップS15において、変化要因判定部13は、ステップS14の検出結果に基づいて変化要因があるか否かを判定する。変化要因がある場合には、ステップS15において肯定判定される。この場合、予測方法決定部14は、挙動予測の方法を長期予測に決定し、その上で、ステップS16に進む。一方、変化要因がない場合には、ステップS15において否定判定される。この場合、予測方法決定部14は、挙動予測の方法を短期予測に決定し、その上で、ステップS18に進む。
ステップS16において、予測処理部16は、長期予測による挙動予測を開始する。
図5を参照し、長期予測による挙動予測の処理手順を説明する。
ステップS30において、予測処理部16は、予測車両及び予測車両周囲の周囲物体の行動パターンを算出する。行動パターンとは、予測車両又は物体について想定される行動の類型をいう。図6には、交差点の手前を走行する他車両Vb1と、交差点で右折をする対向車両Vc1とが一例として示されている。他車両Vb1は予測車両であり、対向車両Vc1は、他車両Vb1周囲の周囲物体である。他車両Vb1には、(1)左側の車線へ車線変更して交差点を直進する行動パターン、(2)現在の車線を維持したまま交差点を直進する行動パターン、(3)現在の車線を維持して交差点で右折する行動パターン、(4)左側の車線へ車線変更して交差点で左折する行動パターンが想定される。一方、対向車両Vc1には、(1)交差点で右折する行動パターンが想定される。予測処理部16は、予測車両及び周囲物体が走行する車線の情報、予測車両及び周囲物体の前方の走行環境などに基づいて、行動パターンを算出する。
ステップS31において、予測処理部16は、地図情報と、算出された行動パターンとに基づいて、行動パターンに応じた進路候補を算出する。図6に示すように、予測処理部16は、他車両Vb1の4つの行動パターンに対応する4つの進路候補Rb1、Rb2、Rb3、Rb4を算出する。同様に、予測処理部16は、対向車両Vc1の1つの行動パターンに対応する1つの進路候補Rc1を算出する。
ステップS32において、予測処理部16は、算出された進路候補に基づいて、予測車両と周囲物体との進路候補の組み合わせを算出する。図6に示す例では、予測車両である他車両Vb1に4つの進路候補Rb1、Rb2、Rb3、Rb4があり、周囲物体である対向車両Vc1に1つの進路候補Rc1がある。この場合、予測処理部16は、「4×1」通りの進路候補の組み合わせを算出する。具体的には、予測処理部16は、以下の組み合わせを算出する。
(1)左側の車線へ車線変更して交差点を直進する他車両Vb1の進路候補Rb1と、交差点で右折する対向車両Vc1の進路候補Rc1との組み合わせ
(2)現在の車線を維持したまま交差点を直進する他車両Vb1の進路候補Rb2と、交差点で右折する対向車両Vc1の進路候補Rc1との組み合わせ
(3)現在の車線を維持して交差点で右折する他車両Vb1の進路候補Rb3と、交差点で右折する対向車両Vc1の進路候補Rc1との組み合わせ
(4)左側の車線へ車線変更して交差点で左折する他車両Vb1の進路候補Rb4と、交差点で右折する対向車両Vc1の進路候補Rc1との組み合わせ
ステップS33において、予測処理部16は、進路候補が算出された各物体の状態を算出する。物体の状態とは、加速中であるとか、減速中であるといった物体の移動状態、及び、道路上における位置をいう。
ステップS34において、予測処理部16は、ステップS32に算出された進路候補の組み合わせ毎に、物体間の相互関係を算出する。物体間の相互関係とは、予測車両とその周囲物体との相互の関係をいう。
図7には、交差点において想定される進路候補の組み合わせの一例が描かれている。交差点には、交差点で右折する自車両Vaと、交差点で右折する対向車両Vc1と、対向車両Vc1の後ろを走行する対向車両Vc2と、横断歩道を渡る歩行者Peとが存在している。対向車両Vc1、Vc2は、予測車両に相当し、歩行者Peは、対向車両Vc1、Vc2に対する周囲物体となる。自車両Vaは右折する進路候補Ra1を有し、対向車両Vc1、Vc2はそれぞれ右折する進路候補Rb1、Rb2を有している。また、歩行者Peも、横断歩道を横断する進路候補Rp1を有している。
上述したステップS33において、予測処理部16は、対向車両Vc1、Vc2、歩行者Peの状態を算出している。例えば、予測処理部16は、対向車両Vc1の状態を減速中、対向車両Vc2の状態を通常速度、歩行者Peの状態を通常速度、とそれぞれ計算する。また、予測処理部16は、対向車両Vc1の状態を直進可能又は右折可能な車線を走行している、対向車線Vc2の状態を直進可能又は右折可能な車線を走行している、歩行者Peの状態を道路上にいる、とそれぞれ計算する。
この場合、予測処理部16は、物体間の相互関係をつぎのように算出する。対向車両Vc1と他の物体との相互関係は、歩行者Peと近接している、対向車両Vc2と近接している、歩行者Peと進路が交錯している、対向車両Vc2の前方にいる、となる。対向車両Vc2と他の物体との相互関係は、歩行者Peと進路が交錯している、対向車両Vc1の後を追従している、となる。
ステップS35において、予測処理部16は、ステップS32に算出された進路候補の組み合わせ毎に、予測車両の進路候補の評価を算出する。具体的には、予測処理部16は、予測車両の進路候補の評価、すなわち、その進路候補が発生する蓋然性の程度、その進路候補をどのように走行するのかといった事情を評価する。この評価は、各物体の状態と物体間の相互関係とを予め定められたルールに当てはめることで、或いは、各物体の状態と物体間の相互関係とに基づいて所要の演算を行うことで行われる。以下、概要を説明する。
対向車両Vc1が右折可能な車線を走行し、かつ減速しているので、予測処理部16は、対向車両Vc1が右折する蓋然性が高いと評価する。例えば、予測処理部16は、進路候補Rc1の発生確率を90%と評価する。
歩行者Peが通常速度で歩行しているので、予測処理部16は、歩行者Peが横断歩道を横断する蓋然性が高いと評価する。例えば、予測処理部16は、進路候補Rp1の発生確率を90%と評価する。
また、歩行者Peが横断歩道を横断すると、歩行者Peと対向車両Vc1とが交錯することになる。この場合、歩行者Peが対向車両Vc1よりも優先されるので、予測処理部16は、対向車両Vc1の進路候補Rp1について、交差点の途中で一時停止してから右折すると評価する。
さらに、対向車両Vc1と対向車両Vc2とが近い場合、予測処理部16は、対向車両Vc2の進路候補Rc2について、対向車両Vc1の後方で一時停止すると評価する。これに対して、対向車両Vc1と対向車両Vc2とが遠い場合、予測処理部16は、対向車両Vc1の後方で一時停止する確率が、左側の車線へ車線変更する確率が同じであると評価する。
図2のステップS17において、変化要因判定部13は、変化要因が消滅したか否かを判定する。変化要因として進入車両Veを想定する(図4C)。図8に示すように、進入車両Veが道路に進入し、かつ速度も安定している状況にあっては、進入車両Veは他車両Vb2、Vb3の挙動変化には繋がらない。また、予測車両が変化要因を通過した場合にも、進入車両Veは他車両Vb2、Vb3の挙動変化には繋がらない。変化要因判定部13は、変化要因を監視し、この変化要因が消滅したか否かを判定する。
変化要因が消滅した場合には、ステップS17で肯定判定される。この場合、予測方法切替部15は、挙動予測の方法を長期予測から短期予測に切り替え、その上で、ステップS18に進む。一方、変化要因が消滅していない場合には、ステップS17で否定判定され、ステップS19に進む。
ステップS18において、予測処理部16は、短期予測による挙動予測を開始する。
図9を参照し、短期予測による挙動予測の処理手順を説明する。
ステップS40において、予測処理部16は、予測車両が走行する車線の情報、予測車両の走行環境などに基づいて、予測車両の行動パターンを算出する。図10には、自車両Vaと、自車両Vaの右斜め前方を走行する他車両Vb1とが一例として示されている。他車両Vb1は予測車両に該当する。他車両Vb1には、(1)左車線へ車線変更する行動パターン、(2)現在の車線を維持したまま直進する行動パターン、が想定される。
ステップS41において、予測処理部16は、地図情報と、算出された行動パターンとに基づいて、行動パターンに応じた予測車両の進路候補を算出する。図10に示す例では、予測処理部16は、他車両Vb1の2つの行動パターンに対応する2つの進路候補Rb1、Rb2を算出する。
進路候補の算出にあたり、予測処理部16は、車線の中央に車線中央線La1、Lb2をそれぞれ設定する。直進の進路候補Rb2の場合、予測処理部16は、現在の他車両Vb1の走行位置を基準に、車線中央線La2と平行となるように進路候補Rb2を計算する。一方、車線変更の進路候補Rb1の場合、予測処理部16は、車線変更が完了するまでに要する時間と、現在の他車両Vb1の走行速度とに基づいて、車線変更が完了するまでに他車両Vb1が進む走行距離を算出する。車線変更に要する時間は、例えば一般のドライバーの運転傾向から事前に設定された値であり、例えば3秒などである。予測処理部16は、算出された走行距離に基づいて、車線変更が完了したときの位置を、車線中央線La1上に設定する。そして、予測処理部16は、現在の走行位置と、車線変更が完了したときの位置とを任意の曲線、例えばクロソイド曲線で結び、これを進路候補Rb1とする。
ステップS42において、予測処理部16は、予測車両の走行状態の遷移に基づいて、所定時間後の予測車両の軌道を予測した予測軌道を計算する。具体的には、予測処理部16は、予測車両の過去の走行軌道、現在の予測車両の位置及び速度ベクトルなどに基づいて、予測軌道を計算する。
ステップS43において、予測処理部16は、予測車両の進路候補の評価を算出する。図11には、予測車両である他車両Vb1が車線変更する進路候補Rb2と、予測軌道Rb0とが示されている。進路候補の評価は、進路候補Rb2上の各位置q1〜q4と、予測軌道Rb0上の各位置p1〜p4とにおいて、進路候補Rb2と予測軌道Rb0との差を算出することで行う。予測処理部16は、複数ある進路候補の中から、予測軌道Rb0との差が最も小さくなる進路候補を、発生確率が最も高い進路候補と評価する。
図2のステップS19において、変化要因判定部13は、変化要因と予測車両との関係に変化があるか否かを判定する。変化要因として、進入車両Veを想定する(図4C)。図12Aに示すように、進入車両Veが道路に進入したとしても、進入車両Veが加速している状況にあっては、変化要因が消滅したとはいえないまでも、進入車両Veと他車両Vb2、Vb3との関係が変化したといえる。一方、図12Bに示すように、進入車両Veが道路に進入しておらず、かつ、他車両Vb2、Vb3が進入車両Veを通過していない状況にあっては、進入車両Veと他車両Vb2、Vb3との関係が変化していないといえる。
変化要因と予測車両との関係が変化していない場合には、ステップS19において否定判定され、ステップS20に進む。一方、変化要因と予測車両との関係が変化した場合には、ステップS19において肯定判定され、ステップS21に進む。
ステップS20において、予測処理部16は、長期予測の演算(図5に示す処理)を行うことなく、前回に行われた演算結果を最新の長期予測として継続する。
ステップS21において、予測処理部16は、長期予測の演算(図5に示す処理)を行い、その演算結果を最新の長期予測として更新する。
ステップS22において、車両特定部12は、全ての予測車両に対する処理(挙動予測)が完了したか否かを判定する。処理が完了している場合には、ステップS22で肯定判定され、ステップS23に進む。一方、処理が完了していない場合には、ステップS22で否定判定され、ステップS13に戻る。そして、ステップS13において、車両特定部12は、新たな予測車両を特定し、ステップS14以降の処理を行う。
ステップS23において、予測処理部16は、挙動予測を終了する。
ステップS24において、車両制御部17は、予測された予測車両の挙動、具体的には、発生確率が高いと評価された進路候補から特定される予測車両の挙動に基づいて、自車両Vaの制御を行う。
ステップS25において、車両制御部17は、イグニッションスイッチがオフされたか否かを判断する。イグニッションスイッチがオフされた場合には、ステップS25において肯定判定され、一連の処理を終了する(END)。一方、イグニッションスイッチ(IGN)がオンの場合には、ステップS25において否定判定され、ステップS10に戻る。
このように本実施形態の挙動予測方法は、自車両Va周囲の物体を検出し、自車両周囲の物体の中から予測車両(予測物体の一例)を特定し、自車両周囲の物体又は自車両周囲の走行環境に基づいて変化要因があるか否かを判定する。挙動予測方法は、変化要因がないと判定した場合、予測車両から得られる情報に基づいて予測車両の挙動を予測する短期予測を行う。一方、挙動予測方法は、変化要因があると判定した場合、予測車両から得られる情報と予測車両周囲の周囲物体から得られる情報とに基づいて予測車両の挙動を予測する長期予測を行う。
変化要因がなければ、予測車両は挙動を変化させることなく、現在の走行状態を継続すると考えられる。そのため、予測車両から得られる情報を用いる短期予測を行うことでも、予測車両の挙動を精度よく予測することができる。短期予測では、予測車両から得られる情報のみを用いればよく、他の情報を用いる必要がないので、演算負荷の低減を図ることできる。一方、変化要因がある場合には、周囲物体から得られる情報も利用する長期予測を行うことで、予測車両と周囲物体との相互作用を考慮して予測車両の挙動を予測することができる。その結果、挙動予測を精度よく行うことができる。
また、本実施形態の挙動予測方法は、予測車両の進路上に、予測車両との速度差が所定値以上となる低速の物体が存在する場合に、変化要因があると判定している。
停止している物体、又は予測車両との速度差が大きい低速の物体が、予測車両の進路上に存在する場合、予測車両は減速、車線変更などの行動を起こす可能性が高い。よって、予測車両に対して所定の速度関係となる物体を変化要因とすることで、予測車両の挙動変化に繋がる状況を適切に判定することができる。
また、本実施形態の挙動予測方法は、予測車両が走行している道路に進入する可能性がある進入物体が存在する場合に、変化要因があると判定している。
進入物体が進入した場合、予測車両は減速、車線変更などの行動を起こす可能性が高い。よって、進入物体を変化要因とすることで、予測車両の挙動変化に繋がる状況を適切に判定することができる。
また、本実施形態の挙動予測方法は、予測車両の進路候補の発生確率が予め定めた基準値以上となり、予測車両の進路候補と周囲物体について想定される進路候補とが交錯する場合に、変化要因があると判定している。
予測車両の進路候補と、周囲物体の進路候補とが交錯する場合、予測車両は減速、車線変更などの行動を起こす可能性が高い。よって、物体同士の進路候補の交錯を変化要因とすることで、予測車両の挙動変化に繋がる状況を適切に判定することができる。
また、本実施形態の挙動予測方法は、交通規則上の優先度が予測車両よりも高く、予測車両の進路を横切るように移動する優先物体が存在する場合に、変化要因があると判定している。
緊急自動車などの優先物体が予測車両の進路を横切る場合、予測車両は減速などの行動を起こす可能性が高い。よって、優先物体を変化要因とすることで、予測車両の挙動変化に繋がる状況を適切に判定することができる。
また、本実施形態の挙動予測方法は、予測車両の進路上において挙動変化を伴う交通規則がある場合に、変化要因があると判定している。
車両を含む物体は、通行規則に従って通行するため、予測対象は通行規則に従って減速などの行動を起こす可能性が高い。よって、予測車両の挙動変化を伴う通行規則を変化要因とすることで、予測車両の挙動変化に繋がる状況を適切に判定することができる。
また、本実施形態の挙動予測方法は、予測車両の進路上において挙動変化を伴う道路構造がある場合に、変化要因があると判定している。
道路構造が変化する場合、予測車両は減速、車線変更などの行動を起こす可能性が高い。よって、予測車両の挙動変化を伴う道路構造を変化要因とすることで、予測車両の挙動変化に繋がる状況を適切に判定することができる。
また、本実施形態の挙動予測方法は、長期予測を開始した後、変化要因と予測車両との関係が変化したか否かを判定している。そして、この挙動予測方法は、変化要因と予測車両との関係が変化していないと判定した場合には、長期予測の演算を行うことなく、前回に行われた演算結果を最新の長期予測として継続する。一方、挙動予測方法は、変化要因と予測車両との関係に変化があると判定した場合に、長期予測の演算を行い、演算結果を最新の長期予測とする。
変化要因と予測車両との関係に変化がない場合には、予測車両に挙動変化が生じる可能性は低い。そこで、前回実行された演算結果を流用(継続)することで、長期予測の演算を毎回実行する必要がない。これにより、演算負荷の低減を図ることができる。
また、本実施形態に係る挙動予測装置は、上述の挙動予測方法と対応する技術事項を有しており、挙動予測方法と同様の作用、効果を奏するものである。
また、本実施形態では、マイクロコンピュータ50が車両制御部17の機能を備えた構成となっており、挙動予測装置は車両制御装置としての適用が可能となっている。この車両制御装置によれば、精度よく予測された予測車両の挙動に基づいて自車両の制御を行うことができる。これにより、自車両の制御を適切に行うことができる。もっとも、挙動予測装置は、車両制御部17の機能を備えずに、他車両の挙動を予測する機能のみを備えるものであってもよい。
上記のように、本発明の実施形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。