A.第1実施形態:
A−1.装置構成:
図1に示すバルブタイミング調整装置100は、図示しない車両が備える内燃機関300において、クランク軸310から動力が伝達されるカム軸320により開閉駆動されるバルブのバルブタイミングを調整する。バルブタイミング調整装置100は、クランク軸310からカム軸320までの動力伝達経路に設けられている。より具体的には、バルブタイミング調整装置100は、カム軸320の回転軸AXに沿った方向(以下、「軸方向AD」とも呼ぶ)において、カム軸320の端部321に固定配置されている。バルブタイミング調整装置100の回転軸AXは、カム軸320の回転軸AXと一致している。本実施形態のバルブタイミング調整装置100は、バルブとしての吸気弁330と排気弁340とのうち、吸気弁330のバルブタイミングを調整する。
カム軸320の端部321には、軸穴部322と、供給穴部326とが形成されている。軸穴部322は、軸方向ADに形成されている。軸穴部322の内周面には、後述する作動油制御弁10を固定するための軸固定部323が形成されている。軸固定部323には、雌ねじ部324が形成されている。雌ねじ部324は、作動油制御弁10の固定部32に形成された雄ねじ部33と螺合する。供給穴部326は、径方向に形成され、カム軸320の外周面と軸穴部322を連通させている。供給穴部326には、作動油供給源350から作動油が供給される。作動油供給源350は、オイルポンプ351とオイルパン352とを有する。オイルポンプ351は、オイルパン352に貯留されている作動油を汲み上げる。
図1および図2に示すように、バルブタイミング調整装置100は、ハウジング120と、ベーンロータ130と、作動油制御弁10とを備える。図2では、作動油制御弁10の図示を省略している。
図1に示すように、ハウジング120は、スプロケット121と、ケース122とを有する。スプロケット121は、カム軸320の端部321に嵌合され、回転可能に支持されている。スプロケット121には、後述するロックピン150と対応する位置に嵌入凹部128が形成されている。スプロケット121には、クランク軸310のスプロケット311とともに、環状のタイミングチェーン360が掛け渡されている。スプロケット121は、複数のボルト129によってケース122と固定されている。このため、ハウジング120は、クランク軸310と連動して回転する。ケース122は、有底筒状の外観形状を有し、スプロケット121により開口端が塞がれている。図2に示すように、ケース122は、径方向内側に向かって周方向に互いに並んで形成された複数の隔壁部123を有する。周方向において互いに隣り合う各隔壁部123の間には、後述するベーンロータ130の各ベーン131がそれぞれ配置される。図1に示すように、ケース122の底部の中央部には、開口部124が形成されている。
ベーンロータ130は、ハウジング120の内部に収容され、後述する作動油制御弁10から供給される作動油の油圧に応じて、ハウジング120に対して遅角方向または進角方向へ相対回転する。このため、ベーンロータ130は、駆動軸に対する従動軸の位相を変更する位相変更部として機能する。ベーンロータ130は、複数のベーン131と、ボス135とを有する。
図2に示すように、複数のベーン131は、ベーンロータ130の中央部に位置するボス135から径方向外側に向かってそれぞれ突出し、周方向に互いに並んで形成されている。各ベーン131は、周方向において互いに隣り合う各隔壁部123の間にそれぞれ収容され、油圧室140としての遅角室141と進角室142とに区画している。遅角室141は、ベーン131に対して周方向の一方に位置する。進角室142は、ベーン131に対して周方向の他方に位置する。複数のベーン131のうちの1つには、軸方向に収容穴部132が形成されている。収容穴部132は、ベーン131に形成された遅角室側ピン制御油路133を介して遅角室141と連通し、進角室側ピン制御油路134を介して進角室142と連通している。収容穴部132には、軸方向ADに往復動可能なロックピン150が配置されている。ロックピン150は、ハウジング120に対するベーンロータ130の相対回転を規制し、油圧が不十分な状態においてハウジング120とベーンロータ130とが周方向に衝突することを抑制する。ロックピン150は、スプリング151により、スプロケット121に形成された嵌入凹部128側へと軸方向ADに付勢されている。
ボス135は、円筒状の外観形状を有し、カム軸320の端部321に固定されている。したがってボス135が形成されているベーンロータ130は、カム軸320の端部321に固定されて、カム軸320と一体に回転する。ボス135の中央部には、軸方向ADに貫通する貫通孔136が形成されている。貫通孔136には、作動油制御弁10が配置される。ボス135には、複数の遅角油路137と複数の進角油路138とが、径方向に貫通して形成されている。各遅角油路137と各進角油路138とは、軸方向ADにおいて互いに並んで形成されている。各遅角油路137は、後述する作動油制御弁10の遅角ポート27と遅角室141を連通させている。各進角油路138は、後述する作動油制御弁10の進角ポート28と進角室142を連通させている。貫通孔136において、各遅角油路137と各進角油路138との間は、後述する作動油制御弁10のアウタースリーブ30によってシールされている。
本実施形態において、ハウジング120およびベーンロータ130は、アルミニウム合金により形成されているが、アルミニウム合金に限らず、鉄やステンレス鋼等の任意の金属材料や樹脂材料等により形成されていてもよい。
図1に示すように、作動油制御弁10は、バルブタイミング調整装置100の回転軸AXに配置されて用いられ、作動油供給源350から供給される作動油の流動を制御する。作動油制御弁10の動作は、内燃機関300の全体動作を制御する図示しないECUからの指示により制御される。作動油制御弁10は、軸方向ADにおいてカム軸320側とは反対側に配置されたソレノイド160により駆動される。ソレノイド160は、内燃機関300を収容する図示しないカバーに固定されている。ソレノイド160は、電磁部162とシャフト164とを有する。ソレノイド160は、上述のECUの指示による電磁部162への通電によって軸方向ADにシャフト164を変位させることにより、後述する作動油制御弁10のスプール50を、バネ60の付勢力に抗してカム軸320側へと押圧する。後述するように、押圧によってスプール50が軸方向ADに摺動することで、遅角室141に連通する油路と進角室142に連通する油路とを切り替えることができる。以降の説明では、軸方向ADにおいてソレノイド160側とは反対側を、便宜上「カム軸320側」とも呼ぶ。
図3および図4に示すように、作動油制御弁10は、スリーブ20と、スプール50と、バネ60と、チェック弁90と、フィルタ部材200と、固定部材70とを備える。なお、図3では、回転軸AXに沿った断面を示している。
スリーブ20は、アウタースリーブ30と、インナースリーブ40とを有する。アウタースリーブ30とインナースリーブ40とは、いずれも略筒状の外観形状を有する。スリーブ20は、アウタースリーブ30に形成された軸孔34にインナースリーブ40が挿入された概略構成を有する。
アウタースリーブ30は、作動油制御弁10の外郭を構成し、インナースリーブ40の径方向外側に配置されている。アウタースリーブ30は、本体部31と、突出部35と、固定部32と、拡径部36と、移動規制部80と、工具係合部38とを有する。本体部31と固定部32とには、軸方向ADに沿った軸孔34が形成されている。軸孔34は、アウタースリーブ30を軸方向ADに貫通して形成されている。
本体部31は、略筒状の外観形状を有し、図1に示すようにベーンロータ130の貫通孔136に配置されている。図4に示すように、本体部31には、複数のアウター遅角ポート21と複数のアウター進角ポート22とが形成されている。複数のアウター遅角ポート21は、周方向に互いに並んで形成され、それぞれ本体部31の外周面と軸孔34を連通させている。複数のアウター進角ポート22は、軸方向ADにおいてアウター遅角ポート21よりもソレノイド160側にそれぞれ形成されている。複数のアウター進角ポート22は、周方向に互いに並んで形成され、それぞれ本体部31の外周面と軸孔34を連通させている。
突出部35は、本体部31から径方向外側に突出して形成されている。突出部35は、図1に示すベーンロータ130をカム軸320の端部321との間で軸方向ADに挟み込む。このため、突出部35は、軸方向ADにベーンロータ130と当接し、軸力を発生させている。突出部35は、後述するように、作動油制御弁10の組み付けの際に利用される。
固定部32は、筒状の外観形状を有し、軸方向ADにおいて本体部31と連なって形成されている。固定部32は、本体部31と略同じ径に形成され、図1に示すようにカム軸320の軸固定部323に挿入されている。固定部32の外周面には、雄ねじ部33が形成されている。雄ねじ部33は、軸固定部323に形成された雌ねじ部324と螺合する。アウタースリーブ30は、雄ねじ部33と雌ねじ部324との締結により、カム軸320側へと向かう軸方向ADの軸力が加えられてカム軸320の端部321に固定される。軸力が加えられることにより、吸気弁330を押すことによるカム軸320の偏心力によって作動油制御弁10とカム軸320の端部321とがずれることを抑制でき、作動油が漏れることを抑制できる。本実施形態において、雄ねじ部33の少なくとも一部は、後述するインナースリーブ40の底部42と、径方向に見て重なって形成されている。
図3に示すように、本体部31のうちソレノイド160側の端部には、拡径部36が形成されている。拡径部36は、本体部31の他部分に比べて内径が拡大して形成されている。拡径部36には、後述するインナースリーブ40の鍔部46が配置される。
移動規制部80は、アウタースリーブ30の内周面において拡径部36によって形成される径方向の段差として構成されている。移動規制部80は、固定部材70との間において、後述するインナースリーブ40の鍔部46を軸方向ADに挟み込む。これにより、移動規制部80は、軸方向ADに沿ったソレノイド160の電磁部162から遠ざかる方向へのインナースリーブ40の移動を規制する。換言すると、移動規制部80は、軸方向ADに沿ったソレノイド160側とは反対側へのインナースリーブ40の移動を規制する。本実施形態において、移動規制部80は、軸方向ADにおいて突出部35よりもソレノイド160側に設けられている。
工具係合部38は、軸方向ADにおいて突出部35よりもソレノイド160側に形成されている。図5に示すように、工具係合部38は、図示しない六角ソケット等の工具と係合可能に構成され、アウタースリーブ30を含む作動油制御弁10をカム軸320の端部321に締結固定するために用いられる。
図3および図4に示すように、インナースリーブ40は、筒部41と、底部42と、複数の遅角側突出壁43と、複数の進角側突出壁44と、封止壁45と、鍔部46と、ストッパ49とを有する。
筒部41は、略筒状の外観形状を有し、アウタースリーブ30の本体部31と固定部32とに亘ってアウタースリーブ30の径方向内側に位置している。筒部41には、遅角側供給ポートSP1と、進角側供給ポートSP2と、リサイクルポート47とがそれぞれ形成されている。遅角側供給ポートSP1は、軸方向ADにおいて遅角側突出壁43よりも底部42側に形成され、筒部41の外周面と内周面を連通させている。本実施形態において、遅角側供給ポートSP1は、周方向の半周に亘って複数並んで形成されているが、全周に亘って形成されていてもよく、単数であってもよい。進角側供給ポートSP2は、軸方向ADにおいて進角側突出壁44よりもソレノイド160側に形成され、筒部41の外周面と内周面を連通させている。本実施形態において、進角側供給ポートSP2は、周方向の半周に亘って複数並んで形成されているが、全周に亘って形成されていてもよく、単数であってもよい。遅角側供給ポートSP1と進角側供給ポートSP2とは、図1に示すカム軸320の軸穴部322とそれぞれ連通している。図3および図4に示すように、リサイクルポート47は、軸方向ADにおいて遅角側突出壁43と進角側突出壁44との間に形成され、筒部41の外周面と内周面を連通させている。リサイクルポート47は、図4に示すように、遅角側供給ポートSP1および進角側供給ポートSP2とそれぞれ連通している。具体的には、リサイクルポート47は、アウタースリーブ30の本体部31の内周面とインナースリーブ40の筒部41の外周面との間の空間であって、周方向に互いに隣り合う遅角側突出壁43の間および周方向に互いに隣り合う進角側突出壁44の間の空間により、各供給ポートSP1、SP2と連通している。このため、リサイクルポート47は、遅角室141および進角室142から排出された作動油を供給側へと戻すリサイクル機構として機能する。本実施形態において、リサイクルポート47は、周方向に複数並んで形成されているが、単数であってもよい。なお、スプール50の摺動による油路の切り替え動作を含めたバルブタイミング調整装置100の動作については、後述する。
図3に示すように、底部42は、筒部41と一体に形成され、筒部41の軸方向ADにおけるカム軸320側の端部を塞いでいる。底部42には、バネ60の一端が当接している。底部42は、インナースリーブ40の軸方向ADの端部であって軸方向ADにおけるカム軸320側の端部を構成している。
図4に示すように、複数の遅角側突出壁43は、筒部41から径方向外側に突出するように、周方向に互いに並んで形成されている。周方向に互いに隣り合う遅角側突出壁43の間は、図1に示すカム軸320の軸穴部322と連通しており、作動油供給源350から供給される作動油が流通する。図4に示すように、各遅角側突出壁43には、それぞれインナー遅角ポート23が形成されている。各インナー遅角ポート23は、それぞれ遅角側突出壁43の外周面と内周面を連通させている。図3に示すように、各インナー遅角ポート23は、それぞれアウタースリーブ30に形成された各アウター遅角ポート21と連通する。インナー遅角ポート23の軸線は、アウター遅角ポート21の軸線と軸方向ADにおいてずれている。
図4に示すように、複数の進角側突出壁44は、それぞれ軸方向ADにおいて遅角側突出壁43よりもソレノイド160側に形成されている。複数の進角側突出壁44は、筒部41から径方向外側に突出するように、周方向に互いに並んで形成されている。周方向に互いに隣り合う進角側突出壁44の間は、図1に示す軸穴部322と連通しており、作動油供給源350から供給される作動油が流通する。図4に示すように、各進角側突出壁44には、それぞれインナー進角ポート24が形成されている。各インナー進角ポート24は、それぞれ進角側突出壁44の外周面と内周面を連通させている。図3に示すように、各インナー進角ポート24は、それぞれアウタースリーブ30に形成された各アウター進角ポート22と連通する。インナー進角ポート24の軸線は、アウター進角ポート22の軸線と軸方向ADにおいてずれている。
封止壁45は、軸方向ADにおける進角側供給ポートSP2よりもソレノイド160側において、筒部41の全周に亘って径方向外側に向かって突出して形成されている。封止壁45は、アウタースリーブ30の本体部31の内周面とインナースリーブ40の筒部41の外周面とをシールすることにより、後述する作動油供給油路25を流通する作動油がソレノイド160側へと漏れることを抑制する。封止壁45の外径は、遅角側突出壁43および進角側突出壁44の外径と略同じに形成されている。
鍔部46は、インナースリーブ40のソレノイド160側の端部において、筒部41の全周に亘って径方向外側に向かって突出して形成されている。鍔部46は、アウタースリーブ30の拡径部36に配置されている。図4に示すように、鍔部46には、複数の嵌合部48が形成されている。複数の嵌合部48は、鍔部46の外縁部において周方向に互いに並んで形成されている。本実施形態において、各嵌合部48は、鍔部46の外縁部が直線状に切り落とされて形成されているが、直線状に限らず曲線状に形成されていてもよい。各嵌合部48は、後述する固定部材70の各嵌合突起部73とそれぞれ嵌合する。本実施形態において、鍔部46のソレノイド160側の端面は、第1当接部CP1として機能する。第1当接部CP1は、固定部材70と当接可能に構成されている。また、鍔部46のカム軸320側の端面は、第2当接部CP2として機能する。第2当接部CP2は、移動規制部80と当接可能に構成されている。
図3に示すように、ストッパ49は、インナースリーブ40の軸方向ADの端部であってカム軸320側の端部に形成されている。ストッパ49は、筒部41の他部分に比べて内径が縮小して形成されることにより、スプール50のカム軸320側の端部が当接可能に構成されている。ストッパ49は、ソレノイド160の電磁部162から遠ざかる方向へのスプール50の摺動限界を規定する。
このような構成により、インナースリーブ40は、軸方向ADにおけるソレノイド160側においてアウタースリーブ30に保持される一方で、軸方向ADにおけるカム軸320側においてアウタースリーブ30に保持されていない。
アウタースリーブ30に形成された軸孔34と、インナースリーブ40との間における空間は、アウタースリーブ30がカム軸320の端部321に固定された状態において、作動油供給源350と連通する作動油供給油路25として機能する。作動油供給油路25は、図1に示すカム軸320の軸穴部322と連通しており、作動油供給源350から供給される作動油を遅角側供給ポートSP1および進角側供給ポートSP2へと導く。図3に示すように、アウター遅角ポート21とインナー遅角ポート23とは、遅角ポート27を構成し、図2に示す遅角油路137を介して遅角室141と連通する。図3に示すように、アウター進角ポート22とインナー進角ポート24とは、進角ポート28を構成し、図2に示す進角油路138を介して進角室142と連通する。本実施形態において、アウター遅角ポート21の軸方向ADに沿った大きさは、インナー遅角ポート23の軸方向ADに沿った大きさよりも大きく形成されている。また、アウター進角ポート22の軸方向ADに沿った大きさは、インナー進角ポート24の軸方向ADに沿った大きさよりも大きく形成されている。
図3に示すように、アウタースリーブ30とインナースリーブ40とは、作動油の漏れを抑制するために、軸方向ADの少なくとも一部においてシールされている。より具体的には、遅角側突出壁43によって、遅角側供給ポートSP1およびリサイクルポート47と遅角ポート27との間がシールされ、進角側突出壁44によって、進角側供給ポートSP2およびリサイクルポート47と進角ポート28との間がシールされている。また、封止壁45によって、作動油供給油路25と作動油制御弁10の外部とがシールされている。
スプール50は、インナースリーブ40の径方向内側に配置されている。図1に示すように、スプール50は、自身の一端であるスプール底部52に当接して配置されるソレノイド160により駆動され、軸方向ADに摺動する。
図3に示すように、スプール50は、スプール筒部51と、スプール底部52と、バネ受け部56とを有する。また、スプール50には、軸方向ADに沿った軸孔が形成されている。かかる軸孔は、後述するドレン油路53の一部を構成する。また、スプール50には、かかる軸孔とそれぞれ連通するドレン流入部54とドレン流出部55とが形成されている。
図3および図4に示すように、スプール筒部51は、略筒状の外観形状を有する。スプール筒部51の外周面には、遅角側シール部57と、進角側シール部58と、係止部59とが、軸方向ADにおいてカム軸320側からこの順に並んで、それぞれ径方向外側に向かって突出して全周に亘って形成されている。遅角側シール部57は、図3に示すようにスプール50が最もソレノイド160の電磁部162に近付いた状態において、リサイクルポート47と遅角ポート27との連通を断ち、図6に示すようにスプール50が最も電磁部162から遠ざかった状態において、遅角側供給ポートSP1と遅角ポート27との連通を断つ。進角側シール部58は、図3に示すようにスプール50が最も電磁部162に近付いた状態において、進角側供給ポートSP2と進角ポート28との連通を断ち、図6に示すようにスプール50が最も電磁部162から遠ざかった状態において、リサイクルポート47と進角ポート28との連通を断つ。係止部59は、固定部材70と当接することにより、ソレノイド160の電磁部162に近付く方向へのスプール50の摺動限界を規定する。
スプール底部52は、スプール筒部51と一体に形成され、スプール筒部51のソレノイド160側の端部を塞いでいる。スプール底部52は、軸方向ADにおいてスリーブ20よりもソレノイド160側に突出可能に構成されている。スプール底部52は、スプール50の基端部として機能する。
スプール筒部51とスプール底部52とインナースリーブ40の筒部41と底部42とにより囲まれた空間は、ドレン油路53として機能する。このため、スプール50の内部は、ドレン油路53の少なくとも一部として機能する。ドレン油路53には、油圧室140としての遅角室141と進角室142とから排出される作動油が流通する。
ドレン流入部54は、スプール筒部51のうち軸方向ADにおいて遅角側シール部57と進角側シール部58との間に形成されている。ドレン流入部54は、スプール筒部51の外周面と内周面を連通させている。ドレン流入部54は、油圧室140から排出される作動油をドレン油路53へと導く。また、ドレン流入部54は、リサイクルポート47を介して各供給ポートSP1、SP2と連通している。このとき、リサイクルポート47と各供給ポートSP1、SP2とは、インナースリーブ40の外周面において、遅角側突出壁43と進角側突出壁44とが形成されていない部分を介して互いに連通している。
ドレン流出部55は、スプール50の一端であるスプール底部52において、径方向外側に開口するように形成されている。ドレン流出部55は、ドレン油路53の作動油を作動油制御弁10の外部へと排出する。図1に示すように、ドレン流出部55から排出された作動油は、オイルパン352へと回収される。
図3に示すように、バネ受け部56は、スプール筒部51のカム軸320側の端部において、スプール筒部51の他部分に比べて内径が拡大されて形成されている。バネ受け部56には、バネ60の他端が当接されている。
本実施形態において、アウタースリーブ30とスプール50とは、それぞれ鉄により形成され、インナースリーブ40は、アルミニウムにより形成されている。なお、これらの材料に限らず、任意の金属材料や樹脂材料等によりそれぞれ形成されていてもよい。
バネ60は、圧縮コイルバネにより構成され、自身の端部がインナースリーブ40のバネ当接部69とスプール50のバネ受け部56とにそれぞれ当接して配置されている。バネ60は、軸方向ADに沿って、スプール50をソレノイド160側へと付勢している。
チェック弁90は、作動油の逆流を抑制する。チェック弁90は、2つの供給チェック弁91と、リサイクルチェック弁92とを含んで構成されている。図4に示すように、各供給チェック弁91とリサイクルチェック弁92とは、それぞれ帯状の薄板を環状に巻いて形成されることにより、径方向に弾性変形する。図3に示すように、各供給チェック弁91は、遅角側供給ポートSP1および進角側供給ポートSP2と対応する位置において、それぞれ筒部41の内周面と当接して配置されている。各供給チェック弁91は、径方向外側から作動油の圧力を受けることによって、帯状の薄板の重なり部分が大きくなり、径方向に縮小する。リサイクルチェック弁92は、リサイクルポート47と対応する位置において、筒部41の外周面と当接して配置されている。リサイクルチェック弁92は、径方向内側から作動油の圧力を受けることによって、帯状の薄板の重なり部分が小さくなり、径方向に拡大する。
フィルタ部材200は、作動油供給油路25に配置され、作動油供給源350から供給される作動油に含まれる異物を捕捉する。フィルタ部材200は、金属により形成され、図4に示すように環状の外観形状を有する。フィルタ部材200には、軸方向ADに貫通する図示しない複数の貫通孔が形成されている。
固定部材70は、軸孔34のソレノイド160側の端部に圧入固定されている。固定部材70は、薄板状の外観形状を有し、平板部71と、複数の嵌合突起部73とを有する。
図4に示すように、平板部71は、径方向に沿った平板状に形成されている。平板部71は、径方向に限らず、軸方向ADと交差する方向に沿って形成されていてもよい。平板部71の略中央には、開口72が形成されている。図3に示すように、開口72には、スプール50の一端であるスプール底部52が挿入される。
図4に示すように、複数の嵌合突起部73は、平板部71から軸方向ADに向かって突起し、周方向に互いに並んで形成されている。嵌合突起部73は、軸方向ADに限らず、径方向と交差する任意の方向に突出して形成されていてもよい。各嵌合突起部73は、インナースリーブ40の各嵌合部48とそれぞれ周方向に嵌合する。本実施形態では、3つの嵌合突起部73が形成されているが、3つに限らず1つや4つ等、任意の数の嵌合突起部73が形成されていてもよい。
本実施形態において、クランク軸310は、本開示における駆動軸の下位概念に相当し、カム軸320は、本開示における従動軸の下位概念に相当し、吸気弁330は、本開示におけるバルブの下位概念に相当し、ソレノイド160は、本開示におけるアクチュエータの下位概念に相当する。また、アウター遅角ポート21とアウター進角ポート22とは、それぞれ本開示における第1のポートの下位概念に相当し、インナー遅角ポート23とインナー進角ポート24とは、それぞれ本開示における第2のポートの下位概念に相当する。また、底部42は、本開示におけるインナースリーブの軸方向の端部であって軸方向におけるアクチュエータ側とは反対側の端部の下位概念に相当する。
A−2.作動油制御弁の製造方法:
図8に示す作動油制御弁10の製造方法では、上述の構成を有するスリーブ20と、スプール50と、固定部材70とを準備する(工程P410)。工程P410を、準備工程とも呼ぶ。なお、準備工程では、バネ60、チェック弁90およびフィルタ部材200もそれぞれ準備される。
インナースリーブ40の径方向内側にスプール50を挿入し、軸孔34にインナースリーブ40を挿入する(工程P420)。工程P420を、挿入工程とも呼ぶ。なお、挿入工程では、バネ60、チェック弁90およびフィルタ部材200もそれぞれ配置される。
軸孔34の軸方向ADの端部であって軸方向ADにおけるソレノイド160側の端部に固定部材70を圧入固定する(工程P430)。工程P430を、圧入工程とも呼ぶ。圧入工程において、固定部材70は、図5に示すように嵌合突起部73と嵌合部48とが嵌合された状態で軸孔34の端部に圧入される。本実施形態において、圧入工程は、図3に示すように、アウタースリーブ30の突出部35のカム軸320側の端面から固定部材70のソレノイド160側の端面までの寸法L1が一定となるように、図示しない治具を用いて実行される。これにより、突出部35のカム軸320側の端面からスプール50のソレノイド160側の端面までの寸法L2がばらつくことが抑制される。なお、寸法L2は、スプール50が最もソレノイド160の電磁部162に近付いた状態における寸法である。したがって、スプール50のソレノイド160側の端面の位置のばらつきが抑制され、図1に示すソレノイド160のシャフト164とスプール底部52との軸方向ADに沿った相対位置のばらつきが抑制される。
本実施形態では、圧入工程(工程P430)において寸法L1が一定となるような治具を用いることにより、固定部材70と第1当接部CP1との間と、移動規制部80と第2当接部CP2との間と、のうちの少なくとも一方に軸方向ADの隙間Cが形成される。図3では、移動規制部80と第2当接部CP2との間に軸方向ADの隙間Cが形成された状態が示されている。
固定部材70が軸孔34に固定されることにより、インナースリーブ40とスプール50とが、軸孔34から軸方向ADにおいてソレノイド160側に抜けることがそれぞれ規制される。また、圧入固定によってアウタースリーブ30に対する固定部材70の軸方向ADの位置が定められるので、固定部材70に当接するスプール50のソレノイド160側への摺動限界が定められ、スプール底部52の軸方向ADの位置がずれることが抑制される。また、嵌合突起部73と嵌合部48との周方向の嵌合により、インナースリーブ40がアウタースリーブ30に対して周方向に回転することが規制される。以上により、作動油制御弁10の構成部品が組み付けられて作動油制御弁10の製造が完了する。
A−3.バルブタイミング調整装置の動作:
図1に示すように、作動油供給源350から供給穴部326へと供給された作動油は、軸穴部322を通って作動油供給油路25へと流通する。図3に示す状態のように、ソレノイド160に通電が行われずスプール50が最もソレノイド160の電磁部162に近付いた状態において、遅角ポート27は、遅角側供給ポートSP1と連通する。これにより、作動油供給油路25の作動油が遅角室141へと供給されて、ベーンロータ130がハウジング120に対して遅角方向へ相対回転し、クランク軸310に対するカム軸320の相対回転位相が遅角側へと変化する。また、この状態において、進角ポート28は、進角側供給ポートSP2と連通せず、リサイクルポート47と連通する。これにより、進角室142から排出された作動油は、リサイクルポート47を介して遅角側供給ポートSP1へと戻されて再循環する。また、進角室142から排出された作動油の一部は、ドレン流入部54を介してドレン油路53に流入し、ドレン流出部55を通ってオイルパン352へと戻される。
図6に示すように、ソレノイド160に通電が行われてスプール50が最もソレノイド160の電磁部162から遠ざかった状態、すなわち、スプール50がストッパ49に当接した状態において、進角ポート28は、進角側供給ポートSP2と連通する。これにより、作動油供給油路25の作動油が進角室142へと供給されて、ベーンロータ130がハウジング120に対して進角方向へ相対回転し、クランク軸310に対するカム軸320の相対回転位相が進角側へと変化する。また、この状態において、遅角ポート27は、遅角側供給ポートSP1と連通せず、リサイクルポート47と連通する。これにより、遅角室141から排出された作動油は、リサイクルポート47を介して進角側供給ポートSP2へと戻されて再循環する。また、遅角室141から排出された作動油の一部は、ドレン流入部54を介してドレン油路53に流入し、ドレン流出部55を通ってオイルパン352へと戻される。
また、図7に示すように、ソレノイド160に通電が行われてスプール50が摺動範囲の略中央に位置する状態では、遅角ポート27と遅角側供給ポートSP1とが連通し、進角ポート28と進角側供給ポートSP2とが連通する。これにより、作動油供給油路25の作動油が遅角室141と進角室142との両方へと供給されて、ベーンロータ130のハウジング120に対する相対回転が抑制され、クランク軸310に対するカム軸320の相対回転位相が保持される。
遅角室141または進角室142へと供給される作動油は、遅角室側ピン制御油路133または進角室側ピン制御油路134を介して収容穴部132へと流入する。こうして、遅角室141または進角室142に十分な油圧がかけられて、収容穴部132へと流入した作動油によってロックピン150がスプリング151の付勢力に抗して嵌入凹部128から抜け出すと、ハウジング120に対するベーンロータ130の相対回転が許容された状態となる。
バルブタイミング調整装置100は、カム軸320の相対回転位相が目標値よりも進角側である場合、ソレノイド160への通電量を比較的小さくすることによって、ベーンロータ130をハウジング120に対して遅角方向へ相対回転させる。これにより、クランク軸310に対するカム軸320の相対回転位相が遅角側へと変化し、バルブタイミングが遅角する。また、バルブタイミング調整装置100は、カム軸320の相対回転位相が目標値よりも遅角側である場合、ソレノイド160への通電量を比較的大きくすることによって、ベーンロータ130をハウジング120に対して進角方向へ相対回転させる。これにより、クランク軸310に対するカム軸320の相対回転位相が進角側へと変化し、バルブタイミングが進角する。また、バルブタイミング調整装置100は、カム軸320の相対回転位相が目標値と一致する場合、ソレノイド160への通電量を中程度とすることによって、ベーンロータ130のハウジング120に対する相対回転を抑制する。これにより、クランク軸310に対するカム軸320の相対回転位相が保持され、バルブタイミングが保持される。
本実施形態において、作動油供給源350から供給される高圧の作動油は、インナースリーブ40の底部42よりも、ソレノイド160から離れた位置から作動油制御弁10の内部へと供給される。換言すると、作動油供給源350と連通する供給孔328は、インナースリーブ40の底部42よりも、軸方向ADにおいてカム軸320側に位置している。ここで、内燃機関300の作動中において、作動油供給源350から供給される作動油の油圧は、バネ60の反力よりも大きくなる。このため、インナースリーブ40は、作動油の油圧を底部42で受けることにより、軸方向ADに沿ってソレノイド160側へと押し付けられる。これにより、内燃機関300の作動中において、アウタースリーブ30に対するインナースリーブ40の軸方向ADの位置が定められるので、アウター遅角ポート21とインナー遅角ポート23との軸方向ADの位置がずれることが抑制され、アウター進角ポート22とインナー進角ポート24との軸方向ADの位置がずれることが抑制される。
以上説明した第1実施形態のバルブタイミング調整装置100が備える作動油制御弁10によれば、インナースリーブ40とスプール50とが軸孔34から軸方向ADにおいてソレノイド160側に抜けることをそれぞれ規制する固定部材70が、軸孔34に圧入固定されている。このため、アウタースリーブ30の突出部35のカム軸320側の端面から固定部材70のソレノイド160側の端面までの寸法L1がばらつくことを抑制できる。これにより、突出部35のカム軸320側の端面からスプール50のソレノイド160側の端面までの寸法L2であってスプール50が最もソレノイド160の電磁部162に近付いた状態における寸法L2のばらつきを抑制できる。したがって、スプール50のソレノイド160側の端面の位置のばらつきを抑制でき、スプール50のソレノイド160側の端面とソレノイド160のシャフト164との軸方向ADに沿った相対位置がばらつくことを抑制できる。このため、かかる相対位置のばらつきの影響を吸収するためにソレノイド160のシャフト164を余分にストロークさせる必要がない。したがって、ソレノイド160の電磁部162のコイルの巻回数の増加を抑制でき、電磁部162の大型化を抑制でき、ソレノイド160の製造に要するコストの増大を抑制できる。
また、固定部材70が軸孔34に圧入固定されるので、固定部材70と第1当接部CP1との間と、移動規制部80と第2当接部CP2との間とのうちの少なくとも一方に、軸方向ADの隙間Cを容易に形成できる。移動規制部80と第2当接部CP2との間とのうちの少なくとも一方に軸方向ADの隙間Cが形成されるので、隙間Cが形成されない構成と比較して、固定部材70の平板部71の板厚の製造誤差およびインナースリーブ40の鍔部46の軸方向ADに沿った寸法の製造誤差等に起因する、スプール50のソレノイド160側の端面の軸方向ADの位置のばらつきを抑制できる。また、突出部35のカム軸320側の端面から移動規制部80までの軸方向ADに沿った寸法の製造誤差や、固定部材70の平板部71のソレノイド160側の端面から嵌合突起部73のカム軸320側の端部までの軸方向ADに沿った寸法の製造誤差等に起因する、スプール50のソレノイド160側の端面の軸方向ADの位置のばらつきを抑制できる。したがって、隙間Cが形成されない構成と比較して、公差管理を簡素化できる。
また、圧入工程が、アウタースリーブ30の突出部35のカム軸320側の端面から固定部材70のソレノイド160側の端面までの寸法L1が一定となるような治具を用いて実行される。このため、圧入工程において寸法L1等を測定することを省略でき、圧入工程の複雑化を抑制できる。また、突出部35のカム軸320側の端面から固定部材70のソレノイド160側の端面までの寸法L1が一定となるように圧入されるので、工具係合部38等、突出部35以外の部位を基準として寸法が調整される構成と比較して、突出部35のカム軸320側の端面からスプール50のソレノイド160側の端面までの寸法L2がばらつくことをより抑制できる。
また、固定部材70が軸孔34に圧入固定されているので、固定部材70が軸孔34に挿入されてアウタースリーブ30にかしめ固定される構成と比較して、かしめ荷重による固定部材70の軸方向ADの変形やかしめ荷重の誤差等に起因する、スプール50のソレノイド160側の端面の軸方向ADの位置のばらつきを抑制できる。
また、アウタースリーブ30に固定された固定部材70が、インナースリーブ40がアウタースリーブ30に対して周方向に回転することを規制可能、かつ、インナースリーブ40とスプール50とがアウタースリーブ30から軸方向ADにおいてソレノイド160側に抜けることをそれぞれ規制可能に構成されている。このため、インナースリーブ40の回転止めとインナースリーブ40の抜け止めとスプール50の抜け止めとを、1つの部品で兼用して実現できる。したがって、インナースリーブ40の回転止めとインナースリーブ40の抜け止めとスプール50の抜け止めとを別々の部品により実現する構成と比較して、作動油制御弁10の部品点数の増加を抑制でき、作動油制御弁10の製造工程の複雑化を抑制できる。また、嵌合突起部73と嵌合部48との周方向の嵌合により、インナースリーブ40がアウタースリーブ30に対して周方向に回転することを規制できるので、アウター遅角ポート21とインナー遅角ポート23との周方向の位置がずれることと、アウター進角ポート22とインナー進角ポート24との周方向の位置がずれることとを抑制できる。
また、固定部材70がアウタースリーブ30に固定されているので、固定部材70の固定のためにインナースリーブ40に過度な荷重がかかることを抑制できる。このため、インナースリーブ40の変形を抑制でき、スプール50の摺動性の悪化を抑制できる。
また、作動油がインナースリーブ40の底部42よりもソレノイド160から離れた位置から作動油制御弁10の内部へと供給されるので、作動油の供給圧力によってインナースリーブ40が軸方向ADに沿ってソレノイド160側へと押し付けられる。このため、内燃機関300の作動中において、アウター遅角ポート21とインナー遅角ポート23との軸方向ADに沿った位置がずれることを抑制でき、また、アウター進角ポート22とインナー進角ポート24との軸方向ADに沿った位置がずれることを抑制できる。したがって、遅角ポート27と進角ポート28とにおける作動油の流路抵抗が増大することを抑制できる。また、作動油の供給圧力によってインナースリーブ40が軸方向ADに沿ってソレノイド160側へと押し付けられるので、固定部材70をアウタースリーブ30にかしめ固定することによりインナースリーブ40と固定部材70とを当接させる構成と比べた場合に、バネ60の付勢力を略同じに設定でき、ソレノイド160の電磁部162への通電量の設定変更が生じることを抑制できる。
また、アウター遅角ポート21の軸方向ADに沿った大きさがインナー遅角ポート23の軸方向ADに沿った大きさよりも大きく形成され、また、アウター進角ポート22の軸方向ADに沿った大きさがインナー進角ポート24の軸方向ADに沿った大きさよりも大きく形成されている。このため、隙間Cによってアウタースリーブ30に対するインナースリーブ40の軸方向ADに沿った位置が変動しても、アウター遅角ポート21とインナー遅角ポート23との軸方向ADに沿った位置がずれることを抑制でき、また、アウター進角ポート22とインナー進角ポート24との軸方向ADに沿った位置がずれることを抑制できる。
また、スプール50の内部がドレン油路53の少なくとも一部として機能するので、ドレン油路53の流路断面積を大きくでき、ドレン油路53の形状が複雑化することを抑制できる。このため、作動油が作動油制御弁10の外部へと排出される際の流路抵抗が大きくなることを抑制でき、作動油制御弁10の動作の遅延等、作動油制御弁10の性能悪化を抑制できる。また、スプール50の内部を作動油供給油路25として機能させる構成と比較して、作動油の供給のためにスプール50に油圧がかかることを抑制でき、スプール50の摺動性の悪化を抑制できる。また、スプール底部52にドレン流出部55が形成されているので、カム軸320にドレン流出部を設けることを省略でき、カム軸320の軸穴部322の構成が複雑化することを抑制できる。
また、雄ねじ部33の少なくとも一部がインナースリーブ40の底部42と径方向に見て重なって形成されているので、雄ねじ部33が底部42よりも軸方向ADにおいてカム軸320側に形成される構成と比較して、作動油制御弁10の軸方向ADに沿った寸法の大型化を抑制できる。
また、アウタースリーブ30およびインナースリーブ40からなる二重構造のスリーブ20を有するので、アウタースリーブ30に形成された軸孔34とインナースリーブ40との間の空間により作動油供給油路25を容易に実現できる。このため、スプール50の内部を作動油供給油路として機能させる構成と比較して、作動油の供給のためにスプール50に油圧がかかることを抑制でき、スプール50の摺動性の悪化を抑制できる。また、各ポートSP1、SP2、23、24、47や、遅角側供給ポートSP1と進角側供給ポートSP2とを連通させるための構造等の、複雑な構成をインナースリーブ40に容易に形成できる。このため、スリーブ20の加工性を向上でき、スリーブ20の製造工程が複雑化することを抑制できる。また、かかる加工性を向上できるので、各ポートSP1、SP2、27、28、47等の設計の自由度を向上でき、作動油制御弁10およびバルブタイミング調整装置100の搭載性を向上できる。
B.第2実施形態:
図9および図10に示す第2実施形態の作動油制御弁10aは、インナースリーブ40に代えてインナースリーブ40aを備える点と、ガイドスプリング220をさらに備える点とにおいて、第1実施形態の作動油制御弁10と異なる。その他の構成は、第1実施形態と同じであるので、同一の構成には同一の符号を付し、それらの詳細な説明を省略する。なお、図9では、スプール50が最もソレノイドの電磁部に近付いた状態における作動油の流れを白抜きの矢印で示している。
第2実施形態の作動油制御弁10aが備えるインナースリーブ40aは、底部42が省略されている。このため、インナースリーブ40aのカム軸320側の端部には、軸方向ADに貫通する開口部42aが形成されている。開口部42aには、ガイドスプリング220が固定されている。
ガイドスプリング220は、有底筒状の外観形状を有し、バネ60の伸縮をガイドする。ガイドスプリング220は、筒部222と底部224とを有する。筒部222は、軸方向ADに沿って形成され、バネ60の軸方向ADにおけるカム軸320側の一端の径方向外側に配置されている。底部224は、径方向に沿って形成され、インナースリーブ40aの開口部42aを塞いでいる。底部224には、バネ60の一端が当接している。
本実施形態において、開口部42aは、本開示におけるインナースリーブの軸方向の端部であって軸方向におけるアクチュエータ側とは反対側の端部の下位概念に相当する。
図9に示すようにスプール50が最もソレノイドの電磁部に近付いた状態において、作動油供給源から供給された作動油は、作動油供給油路25、遅角側供給ポートSP1および遅角ポート27を介して遅角室へと供給される。また、この状態において進角室から排出された作動油は、リサイクルポート47を介して遅角側供給ポートSP1へと戻されて再循環する。また、進角室から排出された作動油の一部は、ドレン流入部54を介してドレン油路53に流入し、ドレン流出部55を介して作動油制御弁10aの外部に排出される。
以上説明した第2実施形態の作動油制御弁10aによれば、第1実施形態の作動油制御弁10と同様な効果を奏する。加えて、ガイドスプリング220を備えるので、インナースリーブ40aの構成を簡略化できる。
C.第3実施形態:
図11に示す第3実施形態の作動油制御弁10bは、作動油の供給機構と作動油の排出機構とにおいて、第1実施形態の作動油制御弁10と異なる。より具体的には、アウタースリーブ30とインナースリーブ40とスプール50とフィルタ部材200とに代えて、アウタースリーブ30bとインナースリーブ40bとスプール50bとフィルタ部材200bとを備える点において、第1実施形態の作動油制御弁10と異なる。その他の構成は、第1実施形態と同じであるので、同一の構成には同一の符号を付し、それらの詳細な説明を省略する。なお、図11では、スプール50bが最もソレノイドの電磁部に近付いた状態における作動油の流れを白抜きの矢印で示している。
第3実施形態の作動油制御弁10bが備えるアウタースリーブ30bは、本体部31と固定部32とに代えて本体部31bと固定部32bとを有し、軸方向ADにおいて本体部31bと固定部32bとの間に連なる縮径部327bを有する。
本体部31bには、アウター遅角ポート21よりも軸方向ADにおいてカム軸320側に、本体部31bの外周面と内周面を連通させる供給孔328bが形成されている。供給孔328bには、作動油供給源から作動油が供給される。本実施形態において、供給孔328bは、インナースリーブ40bの開口部42bよりも軸方向ADにおいてソレノイド160側に位置している。
固定部32bは、本体部31bよりも外径と内径とがそれぞれ小さく形成されている。固定部32bの内部は、ドレン油路53bとして機能する。固定部32bのカム軸320側の端部には、第2ドレン流出部55bが形成されている。第2ドレン流出部55bは、ドレン油路53bの作動油を、カム軸に形成された軸穴部を介して作動油制御弁10bの外部に排出する。
縮径部327bは、本体部31bよりも外径と内径とがそれぞれ小さく形成されている。縮径部327bは、シール部Sと、ストッパ49bと、バネ当接部69bとを有する。シール部Sとストッパ49bとバネ当接部69bとは、軸方向ADにおいてソレノイド160側からこの順に並んで、縮径部327bの内径が段階的に縮小して形成されている。
シール部Sは、作動油供給油路25bとドレン油路53bとを分離している。シール部Sの内径は、インナースリーブ40bのカム軸320側の端部の外径と略同じ大きさに形成されている。ストッパ49bは、スプール50bのカム軸320側の端部が当接可能に構成されている。ストッパ49bは、ソレノイドの電磁部から遠ざかる方向へのスプール50bの摺動限界を規定する。バネ当接部69bには、バネ60の一端が当接している。
インナースリーブ40bは、底部42が省略されている。このため、インナースリーブ40bのカム軸320側の端部には、軸方向ADに貫通する開口部42bが形成されている。開口部42bには、スプール50bのカム軸320側の端部が挿入される。
スプール50bは、スプール底部52と係止部59とに代えてスプール底部52bと係止部59bとを有する。スプール底部52bは、固定部材70よりもカム軸320側に位置している。係止部59bは、スプール底部52bにおいて径方向外側に突出して形成されている。
フィルタ部材200bは、リング状の外観形状を有し、供給孔328bと対応する位置に配置されている。フィルタ部材200bには、径方向に貫通する図示しない複数の貫通孔が形成されている。
図11に示すようにスプール50が最もソレノイドの電磁部に近付いた状態において、作動油供給源から供給孔328bを介して供給された作動油は、作動油供給油路25b、遅角側供給ポートSP1および遅角ポート27を介して遅角室へと供給される。また、この状態において進角室から排出された作動油は、リサイクルポート47を介して遅角側供給ポートSP1へと戻されて再循環する。また、進角室から排出された作動油の一部は、ドレン流入部54を介してドレン油路53bに流入し、ドレン流出部55および第2ドレン流出部55bを介して作動油制御弁10bの外部に排出される。
以上説明した第3実施形態の作動油制御弁10bによれば、第1実施形態の作動油制御弁10と同様な効果を奏する。
D.他の実施形態:
(1)上記各実施形態において、圧入工程は、アウタースリーブ30、30bの突出部35のカム軸320側の端面から固定部材70のソレノイド160側の端面までの寸法L1が一定となるように、図示しない治具を用いて実行されていたが、治具を用いずに実行される態様であってもよい。かかる態様は、例えば、第1実施形態および第2実施形態において、スプール50の係止部59のソレノイド160側の端面からスプール底部52のソレノイド160側の端面までの寸法を測定することにより実行されてもよい。また、突出部35に代えて、工具係合部38やアウター進角ポート22から固定部材70のソレノイド160側の端面までの寸法が一定となるような治具を用いて圧入工程が実行されてもよい。このような構成によっても、上記各実施形態と同様な効果を奏する。
(2)上記各実施形態では、圧入工程(工程P430)において、固定部材70と第1当接部CP1との間と、移動規制部80と第2当接部CP2との間と、のうちの少なくとも一方に軸方向ADの隙間Cが形成されていたが、挿入工程(工程P420)において移動規制部80と第2当接部CP2との間に軸方向ADの隙間Cが形成されてもよい。また、圧入工程(工程P430)と挿入工程(工程P420)との両方の工程により、固定部材70と第1当接部CP1との間と、移動規制部80と第2当接部CP2との間と、のうちの少なくとも一方に軸方向ADの隙間Cが形成されていてもよい。このような構成によっても、上記各実施形態と同様な効果を奏する。
(3)上記各実施形態における固定部材70の構成は、あくまで一例であり、種々変更可能である。例えば、嵌合突起部73が省略された態様であってもよい。かかる態様においては、例えば、アウタースリーブ30、30bの軸孔34とインナースリーブ40、40a、40bの外周面とにそれぞれ形成された凹凸を噛み合わせることにより、インナースリーブ40、40a、40bがアウタースリーブ30、30bに対して周方向に回転することが規制されてもよい。かかる構成によっても、上記各実施形態と同様な効果を奏する。
(4)上記各実施形態における作動油制御弁10、10a、10bの構成は、あくまで一例であり、種々変更可能である。例えば、アウター遅角ポート21の軸方向ADに沿った大きさは、インナー遅角ポート23の軸方向ADに沿った大きさと略同じに形成されていてもよく、インナー遅角ポート23の軸方向ADに沿った大きさよりも小さく形成されていてもよい。また、アウター進角ポート22の軸方向ADに沿った大きさは、インナー進角ポート24の軸方向ADに沿った大きさと略同じに形成されていてもよく、インナー進角ポート24の軸方向ADに沿った大きさよりも小さく形成されていてもよい。また、例えば、リサイクルポート47によるリサイクル機構が省略されていてもよい。また、例えば、スプール50、50aの内部が作動油供給油路25として構成されていてもよい。また、例えば、雄ねじ部33がインナースリーブ40、40a、40bの底部42または開口部42a、42bと径方向に見て重ならない位置に形成されていてもよい。また、例えば、雄ねじ部33と雌ねじ部324との締結に限らず、溶接等の任意の固定方法により、カム軸320の端部321に固定されてもよい。また、ソレノイド160に限らず、電動モータやエアシリンダー等の任意のアクチュエータにより駆動されてもよい。また、例えば、第3実施形態において、ドレン流出部55と第2ドレン流出部55bとのうちのいずれか一方が省略されていてもよい。このような構成によっても、上記各実施形態と同様な効果を奏する。
(5)上記各実施形態において、バルブタイミング調整装置100は、カム軸320が開閉駆動する吸気弁330のバルブタイミングを調整していたが、排気弁340のバルブタイミングを調整してもよい。また、駆動軸としてのクランク軸310から中間の軸を介して動力が伝達される従動軸としてのカム軸320の端部321に固定されて用いられてもよく、二重構造のカム軸が備える駆動軸と従動軸とのうちの一方の端部に固定されて用いられてもよい。
本開示は、上述の各実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した形態中の技術的特徴に対応する各実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。