JP2020158619A - 固形潤滑剤および固形潤滑剤封入転がり軸受 - Google Patents

固形潤滑剤および固形潤滑剤封入転がり軸受 Download PDF

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秀明 井上
佐藤 洋司
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Abstract

【課題】高い生分解性を有しつつ、低トルク化および軸受寿命の延長を図り得る固形潤滑剤、および該固形潤滑剤が封入された固形潤滑剤封入転がり軸受を提供する。【解決手段】固形潤滑剤17は、基油および増ちょう剤を含むグリースと、超高分子量ポリオレフィンとを含む混合物の固形体である固形潤滑剤であって、増ちょう剤は、微細セルロース繊維であり、基油および増ちょう剤の合計質量に対して1〜10質量%含まれ、基油は、分子量が100〜2000の分子を70〜95質量%、分子量が2000より大きい分子を5〜30質量%含む。【選択図】図1

Description

本発明は、固形潤滑剤および該固形潤滑剤を内部に封入した転がり軸受に関し、特に樹脂成分として超高分子量ポリオレフィン、潤滑成分として微細セルロース繊維を増ちょう剤としたグリースを含む固形潤滑剤および該固形潤滑剤封入転がり軸受に関する。
従来、転がり軸受の内部には、転がり摩擦やすべり摩擦の軽減などを目的として、潤滑用のグリースが封入されている。グリースを封入した転がり軸受は、長寿命であり、外部に潤滑装置を必要とせず、安価であるため、自動車や産業機械などの汎用用途に広く利用されている。
しかし、グリースのような半固体状潤滑剤を利用した場合、潤滑剤による撹拌抵抗のため、回転トルクが大きくなる。この課題を解決するため、超高分子量ポリエチレンと、この超高分子量ポリエチレンより融点の高い滴点を有するグリースとの混合物を、上記融点以上で加熱して、固形化した固形潤滑剤が提案されている(特許文献1)。また、グリースと超高分子量ポリエチレンの混合物を軸受に封入する前に加熱、溶融、撹拌混合して軸受に封入することで高強度の固形潤滑剤が得られることが知られている(特許文献2)。
特開2001−152171号公報 特開2007−002213号公報
しかしながら、特許文献1の固形潤滑剤は、強度が比較的低く、回転数が高くなると遠心力により固形潤滑剤の小片が生じるおそれがある。その場合、生じた小片が転動体や、保持器ポケット、転走面に付着することで、回転の妨げとなり、軸受の回転に不都合が生じるおそれがある。よって、回転速度が大きい場合には、固形潤滑剤の強度が高いことが望ましい。また、特許文献1の潤滑成分として使用されているグリースは加熱によって固形化した後の油分離量が少ない可能性がある。そのため、軸受をできるだけ長寿命にするためには油分離量が多い方が望ましい。
一方、特許文献2では、高強度の固形潤滑剤が得られるが、軸受に封入する場合には射出成形機などでシリンダ内に送り込みながら撹拌混合する必要がある。しかし、油分が多いためスクリューで滑り、撹拌混合や射出が困難となる場合がある。
また、近年では、環境問題に対する意識が高まり、地球環境を悪くしない環境対応製品も注目されている。低環境負荷の観点からは、転がり軸受の固形潤滑剤においても、高い生分解性を有する構造材を用いることが望ましい。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、高い生分解性を有しつつ、転がり軸受などに使用した場合に低トルク化および軸受寿命の延長を図り得る固形潤滑剤、および該固形潤滑剤が封入された固形潤滑剤封入転がり軸受を提供することを目的とする。
本発明の固形潤滑剤は、基油および増ちょう剤を含むグリースと、超高分子量ポリオレフィンとを含む混合物の固形体である固形潤滑剤であって、上記増ちょう剤は、微細セルロース繊維であり、上記基油および上記増ちょう剤の合計質量に対して1〜10質量%含まれることを特徴とする。
上記基油は、分子量が100〜2000の分子を70〜95質量%、分子量が2000より大きい分子を5〜30質量%含むことを特徴とする。本発明に用いる基油の「分子量」とは、単一分子からなる基油の場合はその分子の分子量をいい、分子量が分布を持つ基油の場合は数平均分子量(Mn)をいう。
上記基油は、分子量が100〜2000の第1潤滑油と分子量が2000より大きい第2潤滑油との混合油であり、上記基油全体に対して、上記第1潤滑油が70〜95質量%、上記第2潤滑油が5〜30質量%含まれることを特徴とする。
上記基油は、ポリ−α‐オレフィン油(PAO油)または鉱油であることを特徴とする。また、上記微細セルロース繊維が、平均繊維径4〜500nmであるセルロースナノファイバーであることを特徴とする。
上記固形潤滑剤において、上記超高分子量ポリオレフィンの粒子同士が溶着していることを特徴とする。
本発明の固形潤滑剤封入転がり軸受は、転がり軸受内に固形潤滑剤を封入した固形潤滑剤封入転がり軸受であって、上記固形潤滑剤が、本発明の固形潤滑剤であることを特徴とする。
本発明の固形潤滑剤は、基油および増ちょう剤を含むグリースと、超高分子量ポリオレフィンとを含み、増ちょう剤は、微細セルロース繊維であり、基油および増ちょう剤の合計質量に対して1〜10質量%含まれるので、高い生分解性を有する低環境負荷の固形潤滑剤となる。また、少量の添加で十分なちょう度(例えば200〜430)の半固体状の物性のグリースが得られるので、固形潤滑剤から滲み出す基油量が多くなり、ひいては低トルク化および長寿命化を図り得る。
上記基油は、分子量が100〜2000の分子と2000より大きい分子を所定量ずつ含むので、機械的強度に優れ、油分離量の多い固形潤滑剤となる。
上記基油は、分子量が100〜2000の第1潤滑油と分子量が2000より大きい第2潤滑油とが所定割合で混合された混合油であるので、機械的強度に優れ、油分離量の多い固形潤滑剤となる。また、固形潤滑剤において、超高分子量ポリオレフィンの粒子同士が溶着しているので、高強度の固形潤滑剤を得ることができる。
本発明の固形潤滑剤封入転がり軸受は、本発明の固形潤滑剤を封入してなるので、効果的に油膜を形成でき、低トルクかつ長寿命でありながら低環境負荷で環境にも優しい軸受となる。
本発明の固形潤滑剤封入転がり軸受の一例を示す断面図である。 本発明の固形潤滑剤封入転がり軸受の他の例を示す断面図である。 実施例および比較例の固形潤滑剤のSEM写真である。
本発明の固形潤滑剤は、潤滑成分としてのグリースと、樹脂成分としての超高分子量ポリオレフィンとの混合物が固形化された潤滑剤である。本発明に用いるグリースは、基油と増ちょう剤とを含み、この増ちょう剤として微細セルロース繊維を用いることを特徴としている。また、この微細セルロース繊維の含有量は、基油と増ちょう剤とからなるベースグリースにおいて、該ベースグリース全体質量に対して1〜10質量%である。
本発明に用いる微細セルロース繊維は、その繊維径(直径)がナノサイズであるセルロース繊維である。セルロース分子が複数本集まって、ナノサイズの径の繊維を形成しており、セルロース分子間は水素結合により連結されている。本発明では、このような微細セルロース繊維として、セルロースナノファイバー(CNF)やセルロースナノクリスタル(CNC)を使用できる。
セルロースナノファイバー(CNF)は、例えば、平均繊維径が4〜500nm、好ましく30〜300nm、さらに好ましくは30〜100nmであり、平均繊維長が1μm以上、好ましくは5μm以上である。また、平均繊維長/平均繊維径のアスペクト比が10以上であることが好ましい。セルロースナノクリスタル(CNC)は、例えば、平均繊維径が4〜100nm、好ましくは10〜50nmであり、平均繊維長が100〜500nmである。なお、本発明における繊維径および繊維長さは、本分野において通常使用される電子顕微鏡や原子間力顕微鏡などにより測定できる。また、平均繊維径と平均繊維長は、上記測定に基づき数平均繊維径、数平均繊維長として算出できる。
基油に対する増ちょう効果が高く、少量の配合量でも所望の混和ちょう度を達成しやすいことから、特にセルロースナノファイバー(平均繊維径が4〜500nm、平均繊維長1μm以上、アスペクト比10以上)を用いることが好ましい。
微細セルロース繊維であるセルロースナノファイバーの原料(セルロース)としては、針葉樹クラフトパルプ、広葉樹クラフトパルプ、マニラ麻パルプ、サイザル麻パルプ、竹パルプ、エスパルトパルプ、コットンパルプなどから得られる植物由来セルロース、低酸溶紡糸による高重合度の再生セルロース(ポリノジックレーヨン)、アミン・オキサイド系有機溶剤を用いた溶剤紡糸レーヨンなどの再生セルロース、バクテリア産生セルロース、ホヤなどの動物由来セルロース、電界紡糸法によるナノセルロースなどが挙げられる。
植物由来セルロースよりセルロースナノファイバーを製造する方法としては、物理的方法と化学的方法があり、本発明ではいずれの方法で得られたものでも使用できる。物理的方法(解繊)としては、高圧ホモジナイザー法、マイクロフリュイダイザー法、ボールミル粉砕法、およびグラインドミル粉砕法などが挙げられる。化学的方法としては、TEMPO酸化法などが挙げられる。
本発明では、微細セルロース繊維として、疎水性セルロース繊維も使用できる。疎水性セルロース繊維は、セルロースナノファイバーなどの表面を化学修飾処理したもの(修飾パルプ)である。具体的には、疎水化するために、セルロース繊維の水酸基がエステル化およびエーテル化から選ばれる少なくとも1種の方法により修飾された繊維である。ここで、「疎水性セルロース繊維」は、その繊維でシートを作製し、該シート表面に水を滴下した際のシートと水との接触角が90度をこえるものである。より好ましくは100度以上であり、さらに好ましくは120度以上である。疎水性セルロース繊維を用いることで、基油中での繊維の凝集を防止でき、グリース性質を維持できる。なお、上記接触角が90度以下の場合、親水性セルロース繊維となる。
また、本発明では、微細セルロース繊維として、リグニンやヘミセルロースが一部残存しているものも使用できる。また、微細セルロース繊維の断面形状は、異方形状(扁平など)、等方形状(真円、正多角形など)のいずれであってもよい。
本発明に用いる基油は、通常、グリースの分野で使用される一般的な非水系潤滑油を使用できる。例えば、高度精製油、鉱油、エステル油、エーテル油、PAO油、シリコーン油、フッ素油などを使用できる。PAO油は、α−オレフィンまたは異性化されたα−オレフィンのオリゴマーまたはポリマーの混合物である。これらの基油は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
本発明に用いる基油は、分子量が100〜2000の分子を70〜95質量%含み、分子量が2000より大きい分子を5〜30質量%含むことが好ましい。この基油には、分子量が100〜2000の第1潤滑油と分子量が2000より大きい第2潤滑油との混合油を用いてもよく、また、分子量および含有量が上記数値範囲を満たす単独油を用いてもよい。後者として、例えば低分子量分子を一定量含有する鉱油などが挙げられる。
以下には、基油が、分子量が100〜2000の第1潤滑油と分子量が2000より大きい第2潤滑油との混合油である場合について説明する。分子量について好ましくは、第1潤滑油の分子量が500〜1500であり、第2潤滑油の分子量が3000〜8000である。分子量についてより好ましくは、第1潤滑油の分子量が500〜1000であり、第2潤滑油の分子量が4000〜6000である。この形態では特性の異なる2種の潤滑油を用いることで、固形潤滑剤の機械的強度を向上させている。第1潤滑油と第2潤滑油との割合は、質量比で第1潤滑油:第2潤滑油=(70:30)〜(95:5)である。すなわち、混合油全量に対して、第1潤滑油が70〜95質量%、残部が第2潤滑油であり、第2潤滑油が5〜30質量%である。
第1潤滑油としては、分子量が100〜2000を満たす限り、上述したような、通常グリースの分野で使用される一般的な非水系潤滑油を使用できる。具体的には、モノアルキルジフェニルエーテル油、ジアルキルジフェニルエーテル油、ポリアルキルジフェニルエーテル油などのアルキルジフェニルエーテル油や、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、1−ドコセン、1−テトラドコセンなどのオリゴマーからなるPAO油、流動パラフィン油、直鎖パラフィン油などの鉱油、ジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペートなどのジエステル油、トリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテートなどの芳香族エステル油などを使用できる。第1潤滑油として、好ましくはPAO油または鉱油である。
第1潤滑油の40℃における動粘度は、10〜100mm/sが好ましい。より好ましくは20〜80mm/sであり、さらに好ましくは20〜50mm/sである。
第2潤滑油は、分子量が2000より大きいものであれば、上述したような、通常グリースの分野で使用される一般的な非水系潤滑油を使用できる。具体的には、ポリフェニルエーテル油や、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、1−ドコセン、1−テトラドコセンなどのポリマーからなるPAO油、パラフィン系などの鉱油などを使用できる。第2潤滑油として、好ましくはPAO油または鉱油である。
第1潤滑油と第2潤滑油とは、同系統の油種であっても異なる系統の油種であってもよいが、互いに同系統の潤滑油を使用することが好ましい。例えば、第1潤滑油に分子量が100〜2000のPAO油を使用し、第2潤滑油に分子量が2000より大きいPAO油を使用することが好ましい。
第2潤滑油の40℃における動粘度は、200〜500mm/sが好ましい。より好ましくは300〜500mm/sであり、さらに好ましくは350〜450mm/sである。
上記基油(混合油)の40℃における動粘度は、20〜200mm/sが好ましい。より好ましくは20〜100mm/sであり、さらに好ましくは30〜80mm/sである。
基油に増ちょう剤(微細セルロース繊維)を配合してベースグリースが得られる。微細セルロース繊維は、例えば、水などの溶媒に分散して調整した分散体(ゲル状など)を基油に添加し、加熱混練などにより該溶媒を除去しつつ、基油中に繊維を均一に分散させてグリース化できる。
また、基油中で原料パルプなどを解繊してグリースを調整してもよい。例えば、上述の修飾パルプと基油との均一な懸濁液を作製後、グラインドミルなどを用いて該懸濁液中のパルプを解繊することでグリース化できる。
基油と増ちょう剤からなるベースグリース中に占める増ちょう剤の含有量は、1〜10質量%、好ましくは3〜8質量%、より好ましくは5〜8質量%である。増ちょう剤である微細セルロース繊維の含有量が1質量%未満では、増ちょう効果が少なくなり、グリース化が困難となる。一方、10質量%をこえると、相対的に基油量が少なくなり、所望の効果が得られないおそれがある。
本発明に用いるグリースの混和ちょう度(JIS K 2220)は、200〜430の範囲にあり、好ましくは350〜430である。このような範囲(350〜430)とすることで、低トルク化を図りつつ、増ちょう剤に微細セルロース繊維を用いることで軸受外への漏出も抑制できる。
増ちょう剤として微細セルロース繊維を用いることで、上記のような少量の添加で十分なちょう度の半固体状の物性のグリースが得られる。このため、基油割合が高くなり、固形潤滑剤から滲み出す基油量が多くなる結果、潤滑寿命を延長できる。また、セルロースは、天然由来で生分解率が高い。このため、低環境負荷で生活環境に優しい固形潤滑剤を提供できる。
本発明において、樹脂成分として用いる超高分子量ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンもしくはこれらの共重合体からなる粉末またはそれぞれ単独の粉末を配合した混合粉末が挙げられる。ここで、各粉末の、粘度法により測定される平均分子量は、1×106〜3×106 であることが好ましい。このような分子量の範囲にあるポリオレフィンは、剛性と保油性において低分子量のポリオレフィンより優れるからである。また、超高分子量ポリオレフィンの中でも、超高分子量ポリエチレンを用いることが好ましい。
本発明の固形潤滑剤において、超高分子量ポリオレフィンは20〜50質量%含まれ、グリースは50〜80質量%含まれる。好ましくは、超高分子量ポリオレフィンは30〜50質量%含まれ、グリースは50〜70質量%含まれる。このような構成とすることで、油分離を適度に抑えることができる。
本発明の固形潤滑剤は、160℃、30分加熱したとき、次式で定義される油分離率が18〜25質量%となることが好ましい。
油分離率(質量%)={(加熱前重量−加熱後重量)/加熱前重量}×100
本発明の固形潤滑剤には、各種有機あるいは無機添加剤を配合することができる。なお、本発明に用いるグリースに添加剤として、例えば、酸化防止剤、錆止め剤、極圧剤、摩耗調整剤、pH調整剤などが含まれていてもよい。
以上を考慮して、本発明の固形潤滑剤の特に好ましい形態としては、第1潤滑油および第2潤滑油にPAO油を使用し、増ちょう剤に微細セルロース繊維を使用したグリースを50〜70質量%含み、超高分子量ポリエチレンを30〜50質量%含む固形潤滑剤である。
増ちょう剤に微細セルロース繊維を用いるとともに、基油に所定の分子量範囲の第1潤滑油と第2潤滑油との混合油を用いることで、後述の実施例で示すように、超高分子量ポリオレフィンの粒子同士が溶着する。そのため、従来技術のような積極的な撹拌混合を行う必要がない。これにより、製造工程を簡素化しながらも、高強度の固形潤滑剤が得られる。本発明の固形潤滑剤は高強度であるため、高速回転条件下での使用に適している。高速回転条件としては、例えば7000min-1であり、好ましくは8000min-1以上であり、より好ましくは10000min-1以上である。
本発明の固形潤滑剤は、グリースと、超高分子量ポリオレフィンとを均一に混合し、その混合物を所定形状の型や軸受に直接封入し、超高分子量ポリオレフィンのゲル化点以上の温度(融解温度)に加熱し、その後冷却して固形化することで得られる。グリースと超高分子量オレフィンを混合する方法は、特に限定されることなく、例えばヘンシェルミキサー、リボンミキサーなど、一般に用いられる撹拌機を使用することができる。また、加熱(焼成)条件は、上記ゲル化点以上で、かつ、該グリースの滴点以下で加熱することが好ましい。例えば、超高分子量ポリオレフィンの平均分子量が1×106〜3×106 である場合、150〜200℃の温度で加熱することが好ましい。
本発明の固形潤滑剤が封入された転がり軸受の一例を図1に基づいて説明する。図1は、固形化された固形潤滑剤をスポットパック状に封入する転がり軸受の断面図である。転がり軸受11は、外周面に内輪転走面を有する内輪12と内周面に外輪転走面を有する外輪13とが同心に配置され、内輪転走面と外輪転走面との間に複数個の転動体14が配置される。保持器15が、この複数個の転動体14を保持している。転がり軸受11は、転動体14の周囲に固形潤滑剤17が封入されている。
また、本発明の固形潤滑剤が封入された転がり軸受の他の例を図2に示す。図2は、固形化され固形潤滑剤をフルパック状に封入する転がり軸受の断面図である。図2の形態の転がり軸受11は、図1の場合と同様に、内輪12、外輪13、転動体14、および保持器15を備えており、転動体14の周囲に上記の固形潤滑剤17を封入することで得られる。
固形潤滑剤17の封入方法の一例として、以下の方法が挙げられる。所定量の上記グリースと、所定量の超高分子量ポリオレフィンとを均一に混合して得られた半固形状物を転がり軸受11内に封入する。その封入の方法は、図1(a)および図1(b)に示されるように、内輪12と外輪13の間で二枚の帯板からなる保持器15がリベット16によって重ねて固定されている部分に、いわゆるスポットパック状に封入するものや、図2(a)および図2(b)に示されるように、内輪12と外輪13の間全体に、いわゆるフルパック状に充填するものが挙げられる。このように封入された状態で、軸受全体を超高分子量ポリオレフィンのゲル化点以上、かつ、グリースの滴点以下の温度に加熱し、その後冷却して固形化することにより、上記半固形状物が固形化して固形潤滑剤となり、本発明の固形潤滑剤封入転がり軸受が得られる。
本発明の転がり軸受は、その種類について制限はなく、各図に示した深溝玉軸受の他、アンギュラ玉軸受、円筒ころ軸受、針状ころ軸受、円すいころ軸受などとしてもよい。また、シール部材を有する形態と、シール部材を有しない形態とのいずれであってもよい。
実施例1〜2、比較例1〜2
まず、基油と増ちょう剤によりグリースを調整した。増ちょう剤にはセルロースナノファイバー(CNF)または芳香族ジウレア化合物を使用した。基油には、PAO油または鉱油を使用した。実施例1では、分子量が異なる2つの潤滑油の混合油を基油とし、比較例1および比較例2では、そのいずれか一方の潤滑油を基油とした。また、実施例2は、鉱油単独を基油とした。実施例の基油の40℃における動粘度は、実施例1が57mm/s、実施例2が971mm/sであった。また、実施例で使用した各潤滑油の分子量は、Synfluid601が890(Mn)、Durasyn174Iが5300(Mn)、スーパーオイルN1000が1140(Mn)であった。
ここで、各潤滑油の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により求めた。GPC測定条件は以下の通りである。
装置名:HLC−8120GPC(東ソー社製)
濃度検出器;示差屈折率計(RI検出器)polarity=(+)
カラム:TSKgel SuperHZ2000+SuperHZ1000×2(6.0mmID×15cm×3)(東ソー社製)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:0.6mL/min
試料濃度:1mg/L
注入量:20μL
カラム温度:40℃
検出器温度:40℃
試料の前処理:試料を秤量し、所定量の溶離液を加えて室温で一晩静置溶解させた。試料溶液は緩やかに振り混ぜた後、0.5μmのPTFEカートリッジフィルターでろ過した。
検量線:標準ポリスチレン(東ソー製A−5000,A−2500、A−1000、A−500)を用いた3次近似曲線。得られる値はポリスチレン換算分子量である。
実施例1〜2の固形潤滑剤の試験片の製造について説明する。基油と、セルロース繊維の水酸基を修飾した修飾パルプとを計量し、ミキサーを用いて均一な修飾パルプ懸濁液を作製した。この修飾パルプ懸濁液を、グラインドミルに通し、該懸濁液中のパルプの解繊を行なった。これにより、基油中に、増ちょう剤であるセルロースナノファイバーが分散した状態のグリースを得た。得られたグリースと、超高分子量ポリオレフィン粉末とを混合し、この混合物をφ10×8mmの円筒内径に充填した。充填後、幅面を鋼板で密封した状態で160℃、30min加熱した後、冷却して、固形潤滑剤の試験片を得た。得られた試験片を用いて以下に示す固形潤滑剤特性試験にてデュロメータA硬さ、引張り強さ、および油分離率をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
比較例1〜2の固形潤滑剤の試験片の製造について説明する。使用する基油の半量にp−トルイジン(和光純薬社製)を混合し、残りの半量の基油にジイソシアナート(4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI);東ソー社製)を混合し、それぞれ100℃に加熱した。その後、両者を混合して、ペースト状のグリースを得た。このグリースと超高分子量ポリオレフィン粉末を用いて、実施例1〜2と同様に、固形潤滑剤の試験片を得た後、各固形潤滑剤特性試験を行った。結果を表1に示す。
<固形潤滑剤特性試験>
デュロメータA硬さ:JIS K 6253−3に準拠したデュロメータAを使用し、触針を押し込んだ直後の値を硬さとした。
引張強さ(MPa):ASTM D 1708(温度25℃、引張り速度5mm/min)に基づき測定した。
油分離率(質量%):試験片の上記加熱前の重量、試験片の上記加熱後の重量を測定し、以下の式に基づき計算した。なお、式中の加熱後重量は油分を拭き取った後の試験片重量である。
油分離率(重量%)={(加熱前重量−加熱後重量)/加熱前重量}×100
<破壊回転試験>
脱脂した試験軸受内(NTN社製、TS3−6204 C3)に焼成前の潤滑剤(グリースと超高分子量ポリオレフィン粉末との混合物)を1.8g充填した。接触式ゴムシールを装着した後、160℃で30min加熱し、その後、空冷して固形潤滑剤が封入された試験用軸受を得た。この試験用軸受を用いて、以下に示す破壊回転試験にて許容回転数を測定した。結果を表1に示す。
許容回転速度:ASTM D 3336に準拠した試験を実施した。温度120℃、ラジアル荷重67N、アキシアル荷重67Nの条件にて、試験用軸受を各回転速度で1時間回転させた。まず、回転速度1000min-1で1時間回転させた後、試験用軸受を取り外し、封入した固形潤滑剤の外観を観察した。試験初期と比較して亀裂や剥離などの破壊が見られない場合は、回転数を2000min-1に上げ、さらに1時間運転した。このように軸受に破壊が見られない場合には、1000min-1ずつ回転速度を上昇させて1時間運転するという操作を繰り返した。観察時に固形潤滑剤に破壊が現れた時点で試験終了とし、破壊が発生しなかった回転速度の上限を許容回転速度とした。
表1に示すように、増ちょう剤にCNFを用い、第1潤滑油と第2潤滑油が所定割合で混合された混合油を基油に用いた実施例1は、機械的強度に優れ、かつ、高油分離率であった。また、単独油でありながらも、分子量が100〜2000の分子が70〜95質量%、分子量が2000より大きい分子が5〜30質量%含まれた実施例2も、機械的強度に優れ、かつ、高油分離率であった。実施例1〜2の固形潤滑剤であれば、滲み出る基油の粘度が低すぎることがなく、高速回転時も小片を生じにくいため、軸受を120℃下、10000min-1で使用することが可能である。一方、比較例1では、増ちょう剤にジウレア化合物を用い、分子量が100〜2000の第1潤滑油のみを基油に用いている。この固形潤滑剤は、油分離率が低く、動粘度が低いため十分に油膜が形成されず、金属接触などを引き起こすことで発熱し、固形潤滑剤が破壊されたと考えられる。また、比較例2では、増ちょう剤にジウレア化合物を用い、分子量が2000より大きい第2潤滑油のみを基油に用いている。この固形潤滑剤は、基油の動粘度は高いものの、固形潤滑剤の硬さが低いため、高速回転条件下で遠心力によって固形潤滑剤が破壊されたと考えられる。
<断面観察>
実施例1および比較例2の固形潤滑剤の油分離率を測定する試験片を100μm程度に薄く切り出し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。観察写真を図3に示す。図3に示すように、実施例1では、ポリエチレン粒子の粒界がほとんどなく、粒子同士が密に溶着している。一方、比較例2ではポリエチレン粒子の粒界が残存しており、溶着は弱い。したがって、実施例1〜2ではポリエチレン粒子同士が強く溶着しているため、引張り強さなどの機械的強度が大きくなり、高速回転下での遠心力が大きくなっても破壊されにくくなった。
このように、実施例に示した固形潤滑剤は母材の溶着が強くなり、機械的強度の向上のみならず固形潤滑剤の剛性も向上したと考えられる。そのため、高い遠心力が加わった際の変形量が抑制され、転動体および軸受外輪との接触面圧は減少し、摩擦による発熱量が減少したものと考えられる。
本発明の固形潤滑剤は、高い生分解性を有しつつ、低トルク化および軸受寿命の延長を図り得るので転がり軸受などの潤滑に使用する組成物として好適に利用できる。特に、高速回転条件下での使用に適している。
11 転がり軸受
12 内輪
13 外輪
14 転動体
15 保持器
16 リベット
17 固形潤滑剤

Claims (7)

  1. 基油および増ちょう剤を含むグリースと、超高分子量ポリオレフィンとを含む混合物の固形体である固形潤滑剤であって、
    前記増ちょう剤は、微細セルロース繊維であり、前記基油および前記増ちょう剤の合計質量に対して1〜10質量%含まれることを特徴とする固形潤滑剤。
  2. 前記基油は、分子量が100〜2000の分子を70〜95質量%、分子量が2000より大きい分子を5〜30質量%含むことを特徴とする請求項1記載の固形潤滑剤。
  3. 前記基油は、分子量が100〜2000の第1潤滑油と分子量が2000より大きい第2潤滑油との混合油であり、前記基油全体に対して、前記第1潤滑油が70〜95質量%、前記第2潤滑油が5〜30質量%含まれることを特徴とする請求項1記載の固形潤滑剤。
  4. 前記基油は、ポリ−α‐オレフィン油または鉱油であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の固形潤滑剤。
  5. 前記微細セルロース繊維が、平均繊維径4〜500nmであるセルロースナノファイバーであることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項記載の固形潤滑剤。
  6. 前記固形潤滑剤において、前記超高分子量ポリオレフィンの粒子同士が溶着していることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項記載の固形潤滑剤。
  7. 転がり軸受内に固形潤滑剤を封入した固形潤滑剤封入転がり軸受であって、
    前記固形潤滑剤が、請求項1から請求項6までのいずれか1項記載の固形潤滑剤であることを特徴とする固形潤滑剤封入転がり軸受。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN113372981A (zh) * 2021-05-19 2021-09-10 安美科技股份有限公司 纤维润滑剂及其制备方法

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