JP2020158405A - 糖尿病性腎症の治療薬 - Google Patents

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修 脇野
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一宏 長谷川
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Abstract

【課題】糖尿病性腎症に対する治療において、透析にいたるまでの時間を長く確保する、或いは、透析導入にいたるのを抑制することのできる薬剤及び前記薬剤の投与方法の提供。【解決手段】ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を1日あたりの投与量として10g以上100g以下で含む、ヒトに対して単期間用いるための糖尿病性腎症治療薬。前記単期間は5日以上2週間以下の期間であることが好ましく、前記治療薬は点滴投与されることが好ましい。【選択図】図1

Description

本発明は、糖尿病性腎症の治療薬に関する。特に、早期糖尿病腎症の進行を抑制する医薬に関する。
糖尿病性腎症は、糖尿病により血糖値の高い状態が長期間続くことにより、全身の動脈硬化が進行し併発すると言われている。また、糖尿病による高血糖やグルコース代謝が改善しても、一度腎症が発症すると腎症自体の改善は難しく、糖尿病性腎症が進行すると、透析や移植などの腎代替療法に移行することになる。日本透析医学会の調査によれば、透析導入患者の原疾患は、糖尿病性腎症が最も多く約44%にのぼると言われている。そのため、糖尿病性腎症が進行しないように早期に介入することが必要である。
また、腎機能低下によって、心筋梗塞などの心臓血管合併症を合併しやすくなると言われおり、生命予後に悪影響があることも知られている。さらに、腎症を発症していると禁忌となる薬剤もあることから、自覚症状のほとんどない早期に治療を行い、進行を抑制することが重要である。
糖尿病性腎症の原因となる糖尿病は、高カロリー食、高脂肪食、運動不足などの生活習慣に加え、遺伝的要因など、種々の要因により発症すると考えられている。糖尿病は、インスリン分泌量やインスリンの効果が低下し、インスリンの作用不足が起こり発症する疾患である。糖尿病性患者の95%以上が2型と言われており、その治療は厳密な食事制限を行うこと、投薬としてはピグアナイド薬、チアゾリジン薬、スルホニル尿素薬、αグルコシダーゼ阻害薬、グリニド薬、DPP4阻害薬、SGLT2阻害薬などの内服薬やインスリン、GLP−1製剤などの注射薬である。
しかしながら、ピグアナイド系治療薬は、腎機能が低下している場合にはアシドーシスを起こし致死となる副作用があり、チアゾリジン薬は、浮腫、心不全、膀胱癌発生リスクがある。スルホニル尿素薬は、低血糖リスクや飲み続けると膵臓が疲弊し効果を喪失する。αグルコシダーゼ阻害薬は消化器症状、グリニド薬は低血糖、DPP4阻害薬は水疱性類天疱瘡発症リスク、SGLT2阻害薬は尿路感染症を引き起こすなどの恐れがあるため、飲み方に注意を必要とする。また、注射治療では、継続的な自己注射や血糖測定が必要であり、高齢者や手の不自由な患者では使用しにくい。すなわち、いずれの治療薬も長期にわたって毎日服用、注射する必要があるにもかかわらず、問題があることが指摘されている。糖尿病性腎症の原因である糖尿病の治療には上述のように問題が多く、そのため透析患者が年々増加しているのが現状である。
近年、NAD(Nicotinamide adenine dinucleotide)代謝経路が糖尿病や肥満、アルツハイマー病など様々な疾患に関与することが明らかにされてきている。NADは、細胞内において、種々の酵素の補酵素として働く重要な代謝産物であり、NAD代謝経路は古くから研究されている。さらに、NAD合成経路の中間代謝物であるニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN:nicotinamide mononucleotide)投与が、上記疾患に対して有効であることが基礎研究において示されている(非特許文献1)。
上述のように、NAD代謝経路が糖尿病の発症に関与することが報告されてきており、高脂肪食や加齢によって発症する2型糖尿病の原因としてNAD+の減少が共通の機構として考えられている。また、NAD代謝経路の中間産物であるNMN投与が、糖尿病に対して効果があることも報告されている(非特許文献2)。高脂肪食によって誘導される2型糖尿病モデルマウスに500mg/kg/dayでNMNを7−10日間連続して腹腔内投与すると、顕著なインスリン抵抗性の改善が見られることが報告されている。すなわち、NMN投与によって、糖尿病における血糖値の改善が認められる。しかし、非特許文献2で使用されている加齢糖尿病、高脂肪食マウスは、糖尿病性腎症を来たしにくく、糖尿病性腎症を目的とした実験には通常使用されないモデルマウスである。そのため非特許文献2では、血糖値の改善については検討しているものの、糖尿病性腎症の改善については言及していない。
また、腎疾患の治療にNMNを投与することの報告もある。非特許文献3には、シスプラチンによる急性腎不全モデルマウスに対し、NMNを急性期に投与することによって、効果が得られることが開示されている。しかしながら、シスプラチンによって誘導される腎障害は、腎近位尿細管細胞を中心として障害を起こすものであり、糖尿病性腎症とは腎症の種類が大きく異なる疾患である。
非特許文献4には、ストレプトゾトシンによって誘導した糖尿病性腎症ラットモデルにNMNを投与し、NF−κB p65、Sirt1、ビメンチンの発現をmRNA量によって解析を行った結果が開示されている。しかし、非特許文献4は、腎線維化についての研究論文であり、糖尿病性腎症の臨床所見であるアルブミン尿、腎機能については検討されていない。非特許文献4において解析を行っているモデルは、ストレプトゾトシンによるインスリン分泌減少を機序とする1型糖尿病モデルであり、インスリン抵抗性を主体とした2型糖尿病モデルとは臨床経過・腎病理が異なる。日本では、糖尿病患者の95%が2型糖尿病であることを考えると、2型糖尿病での検討が必要である。
これら文献には、NMN投与による糖尿病や腎症のモデルに対して効果があることが示されている。しかし、いずれの文献に開示されている方法も、早急な対策が望まれる2型糖尿病に起因する糖尿病性腎症の治療法とはならない。本発明者らは、糖尿病性腎症において、NMNの投与時期、投与量等を検討し、単回投与によって、投与後長期にわたり腎症の進行を抑制し、腎機能を維持し得ることを見出し、本発明を完成した。
Poddar, S. K. et al., Biomolecules, 2019, 9,34;doi:10.3390/biom9010034. Yoshino, J., et al., Cell Metab., 2011, 14:528-536. Guan, Y. et al., J. Am. Soc. Nephrol., 2017, Vol.28(8), pp.2337-2352. Chen, Y. et al., Exp. Ther. Med., 2017, Vol.14(5), pp.4181-4193. Li, J. et al., Science, 2017,Vol.355, pp.1312-1317., doi:10.1126/science.aad8242.
本発明は、糖尿病性腎症の治療薬を提供することを課題とする。特に、糖尿病性腎症早期に治療を行い、透析にいたるまでの時間を長く確保する、あるいは、透析導入にいたるのを抑制することのできる薬剤、及び投与方法を提供することを課題とする。
本発明は糖尿病性腎症の治療薬に関する。
(1)ヒトに対しニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を有効成分として1日あたり10g以上100g以下で含み、単期間用いられることを特徴とする糖尿病性腎症の治療薬。
(2)前記単期間とは、5日以上2週間以下の期間であることを特徴とする請求項1に記載の糖尿病性腎症の治療薬。
(3)投与を点滴によって行うことを特徴とする請求項1、又は2に記載の糖尿病性腎症の治療薬。
(4)前記糖尿病性腎症が早期の糖尿病性腎症であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の糖尿病性腎症の治療薬。
本発明では、慢性疾患である糖尿病性腎症の早期に単回NMN投与を先行的に行うことで、投与終了後も長期にわたり、臨床的な疾患改善効果を持続的に認めたという点で非常な意義がある。上述のように、NMNを腎症に投与した例は存在するものの、急性腎不全モデルに対する検討や、1型糖尿病による糖尿病性腎症かつ糖尿病発症後時間経過したモデル動物を用いた検討である。大部分の糖尿病性腎症患者が2型糖尿病に由来することを考えると、本発明の治療薬は多くの患者に対して効果を奏するものと考えられる。
糖尿病性腎症早期に、短期間NMNを投与することにより、投与終了直後より糖尿病性腎症の改善・進行抑制が認められるだけでなく、その効果が投与終了後長期にわたって維持される。単回の投与で済むことは、患者の治療における負担を減らすことができるだけではなく、医療経済的にも大きなメリットとなる。また、糖尿病性腎症は、高齢の患者が多いことから、長期にわたり治療を継続することは服薬コンプライアンスの面でも問題が生じていた。単回の投与で治療を完了できることは、服薬コンプライアンスの問題も減じることができる。
糖尿病性腎症モデルを用いたNMNの効果の検討結果を示す図。(A)は、実験のスケジュールを、(B)は糖尿病マーカーであるHbA1cを、(C)は糖尿病性腎症のマーカーである尿アルブミンクレアチニン比(ACR)の解析結果を示すグラフである。図中、dbmはヘテロマウスに生理食塩水を投与した群、dbdbはホモマウスに生理食塩水を投与した群、NMNはホモマウスにNMNを投与した群の値を示す。 糖尿病性腎症モデルを用いたNMNの腎組織における効果を免疫組織化学染色、電子顕微鏡観察によって解析した結果を示す図。(A)はSynaptopodin、(B)はClaudin−1、(C)はSirt1の免疫組織化学染色像を示す。(D)は糸球体上皮細胞足突起を示す電子顕微鏡写真像である。 濃度を変えてNMN投与の効果を検討した結果を示す図。(A)は、実験のスケジュールを、(B)は糖尿病マーカーHbA1cを、(C)は糖尿病性腎症のマーカーACRの解析結果を示すグラフである。図中、dbmはヘテロマウスに生理食塩水を投与した群、dbdbはホモマウスに生理食塩水を投与した群、NMN100、NMN300、NMN500はホモマウスに、夫々100、300、500mg/kg/dayでNMNを投与した群の値を示す。
以下に詳細に述べるが、本発明ではマウスモデルを用いてNMNの効果を検討している。ヒトへの投与量は、マウスモデルを用いた結果から、ヒト等価用量を算出すればよい。以下で述べるように、マウスを用いた実験からは、NMN投与量100mg/kg/dayでは効果が認められないが、300mg/kg/day以上の用量では有意な効果が認められている。また、300mg/kg/day、500mg/kg/dayとACR値の抑制に用量に応じた効果が確認できたことを考えると、200mg/kg/dayの投与でもACR値を減少させる効果が得られるものと考えられる。したがって、マウスでは200mg/kg/day以上の用量で投与すれば、効果を得られるものと考えられる。これはヒト等価用量に換算すると、10g/day(ヒト体重を50kgとして換算)となる。
また、投与量増加に伴って、より強い効果が得られていることから、投与量はNMNによる副作用が生じない範囲であればよい。現時点ではNMN投与に関する副作用の報告はなく、今後の報告を待つことになるが、マウスモデルでの使用において500mg/kg/dayで投与しても問題はなかったことから、ヒトでも25g/dayの用量で使用すれば強い効果が期待できる。また、NMN2000mg/kg/dayの用量でマウスに8日間投与した研究が報告されていることから(非特許文献5)、少なくとも2000mg/kg/dayのヒト等価用量である100g/day程度であればヒトに投与できると考えられる。
さらに、マウスモデルを用いた実験では、糖尿病性腎症の早期に2週間連続投与を行っているが、高用量のNMNをより短期間投与することによっても治療効果を得ることができると考えられる。例えば、マウスで十分効果が得られた500mg/kg/day以上の用量を、より短期間、例えば1週間程度の投与で効果を得ることができると考えられる。
また、本明細書で単回投与とは、一定期間の連続投与をいう。具体的には、5日間から2週間程度連続して投与することをいう。また、ここで連続投与というのは、1週間に2日程度の休薬期間を設ける場合も含まれる。NMNの代謝速度を考えると、投与後速やかに代謝し、血中等に一定濃度が維持されるとは考えにくい。したがって、投与期間中に数日の休薬日を設けても効果に違いは生じないものと考えられる。
糖尿病腎症の早期とは、自覚症状がほとんどない時期を指し、糖尿病性腎症の病期分類における第1期(腎症前記)、第2期(早期腎症期)をいう。この時期に治療を行い、腎症をコントロールすることができれば、さほど制限を受けずに日常生活を送ることができる。また、第3期以降であっても、腎組織に不可逆的な変化が生じていない限り効果があると考えられ、NMNが腎症の進行抑制を行い得ること、重篤な副作用が生じにくいと考えられることから、病期が進んだ段階であってもNMNによる治療を行う意義があるものと考えられる。
マウスを用いた実験では、腹腔内投与を行っているが、ヒトに投与する場合には、10g/day以上の量を投与する必要があることから、点滴による投与が好ましいが、内服など通常治療に用いられる投与方法をとることができる。
また、ここではNMNの結果のみを示しているが、NAD代謝経路の分子であるニコチンアミドリボシド(NR:nicotinamide riboside)を投与しても、体内でNMNに変換されることから、効果を有する可能性が高い。以下、データを示しながら、詳細に説明する。
[実施例1]NMN投与の持続的効果
ヒトの肥満型糖尿病に類似した症状を発現するインスリン非依存型(2型)糖尿病モデルマウスであるdbマウスを用いて実験を行った。ヘテロ個体(db/m)、ホモ個体(db/db)オスを日本クレアより得て、実験を行った。マウスは、以下の条件で飼育した。
飼育条件:20℃、湿度65%、午前8時より12時間点灯、午後8時より12時間消灯、餌は自由食給餌。
ホモ個体では、8週齢から明らかな肥満と血糖値の上昇が認められ、糖尿病の発症が確認できるようになる。ホモ個体には500mg/kgの用量でNMN、あるいはNMNの溶媒である生理食塩水のみを各群12匹のマウスに、8週齢から10週齢まで14日間連続で腹腔内投与を行った。また、コントロールとして糖尿病を発症しないヘテロ個体(db/m)にも、同様に8週齢から10週齢まで14日間連続で生理食塩水を投与した。投与終了直後の10週齢、投与終了14週後にあたる24週齢、投与終了20週後にあたる30週齢のマウスについて、糖尿病のマーカーであるHbA1c、腎症のマーカーであるACRの解析を行った(図1(A))。
HbA1cはA1c Now(PTS Diagnotics社)によって測定を行った(図1(B))。*印はヘテロマウス(db/m)に対して、有意差(p<0.05)があることを示している。10週齢、24週齢、30週齢、いずれの時点においても、ホモ個体では、NMN投与の有無にかかわらず、HbA1cの明らかな上昇が確認され、糖尿病であることを示している。また、ここではデータを示さないが、NMN投与直後の10週齢であっても随時血糖値の減少も見られなかった。NMN投与が糖尿病を抑制するという報告もあるが、8週齢から10週齢までの14日間500mg/kg/dayの用量でNMNを投与しても明らかなHbA1c、随時血糖値の減少は見られなかった。なお、HbA1cは糖尿病のマーカーであるが、測定時点より過去1〜1.5ヶ月間の平均血糖値を反映しており、長期での血糖値の減少も認めていないと考えられる。
これに対し、腎症のマーカーである尿アルブミンクレアチニン比ACRは、NMN投与群と生理食塩水投与群間で明らかな差が認められた(図1(C))。*印はヘテロマウスに対して有意差があることを示し、#はホモマウスのNMN投与群、生理食塩水投与群間で有意差があることを示している。10週齢(NMN投与終了直後)、24週齢(NMN投与終了後14週後)、30週齢(NMN投与終了後20週後)、いずれの時点においても、ホモマウスはNMN投与の有無にかかわらず、ACRの顕著な増加が認められる。しかしながら、NMN投与群では、ACRの上昇が、生理食塩水投与群に比べ明らかに抑制されている。NMN投与群と生理食塩水投与群間のACR値の差は、NMN投与が10週齢で終了しているにもかかわらず、24週齢、30週齢と時間が経過するにしたがって、大きく開いている。これは、糖尿病性腎症の早期にNMNを単回投与することにより、糖尿病に対しての効果はないものの、早期の糖尿病性腎症に対しては持続的な効果を有することを示している。特に、NMN投与20週後である30週齢において、ACRの顕著な上昇抑制効果が認められたことは、臨床的に大きな意義がある。
[実施例2]組織学的解析
次に、NMN投与による組織学的な変化について解析を行った。実施例1と同様にして、NMNを投与、解析を行った。図2に示すのは、24週齢の結果である。
免疫組織化学解析は、Synaptopodin、Claudin−1、Sirt1について解析を行った。定法に従って組織をホルマリンで固定後、パラフィン切片を作製する。その後、脱パラフィン、抗原賦活化処理、内在性POD不活化処理を行う。ブロッキング後、一次抗体を反応させた。一次抗体として、抗Synaptopodin抗体(Fitzgerald社)、抗Claudin−1抗体(Thermofisher社)、抗Sirt1抗体(Millipore社)を用い、二次抗体として抗ウサギIgG抗体(Vector Laboratories社)を用い、Vectastain Elite ABCキット(Rockland Immunochemicals社)を用いて発色させた。また、細胞核をヘマトキシリンにより染色し、対比染色を行った後に、封入した。
Synaptopodinは、正常ではポドサイト(腎糸球体上皮細胞)で発現が見られるアクチン結合タンパク質であり、糖尿性腎症では減少することが知られている。生理食塩水投与を行った糖尿病性腎症を発症しないヘテロマウス(図2中、db/mと記載。)と、NMN投与を行ったホモマウス(図2中、NMNと記載。)は、Synaptopodinの存在を示す茶色の発色がほぼ同等に強く見られる。これに対し、生理食塩水投与を行ったホモマウス(図2中、dn/dbと記載。)では、発色の顕著な減少が認められ、Synaptopodin発現が減少していることを示している(図2(A))。
Claudin−1は、正常ではポドサイトに発現が認められないタンパク質であり、糖尿病性腎症により異所性に発現する接着分子である。Claudin−1の発現強度は、生理食塩水投与を行ったdbホモマウスが最も強く、NMN投与を行ったdbホモマウス、生理食塩水投与を行ったdbヘテロマウスの順に低かった(図2(B))。Claudin−1の発現は、ACR値によって示される糖尿病性腎症の発症と強く相関する結果が得られた。
Sirt1は、NAD依存性脱アセチル化酵素であり、糖尿病性腎症を発症すると減少することが知られている。Sirt1の発現は、生理食塩水投与を行ったdbホモマウスではほとんど認められず、NMN投与を行ったdbホモマウス、生理食塩水投与を行ったdbヘテロマウスの順に発現強度が高くなっているのが観察された(図2(C))。Sirt1は、ACR値によって示される糖尿病性腎症の発症と強く相関する結果が得られた。いずれの免疫組織化学解析の結果も、NMN投与により糖尿病性腎症の進行が抑制されていることを示すものである。
次に電子顕微鏡によって、糸球体上皮細胞足突起の観察を行った。電子顕微鏡試料は組織をパラホルムアルデヒドで固定後、1%四酸化オスミウム液で固定、脱水しエポキシ樹脂で包埋した。その後、超薄切、電子染色後観察を行なった。糸球体上皮細胞足突起は、糖尿病性腎症を発症すると消失する腎症の障害の所見の一つである。生理食塩水投与を行ったdbホモマウスでは、ほとんど足突起が消失しているのが観察されたのに対し、NMN投与を行ったdbホモマウスでは、コントロールであるヘテロマウスに比べて足突起の消失が若干認められる程度に過ぎなかった(図2(D))。電子顕微鏡観察によっても、NMN投与により糖尿病性腎症の進行が抑制されていることが認められた。
[実施例3]NMN投与量の検討
NMN投与量について検討を行った。投与期間は、実施例1、2と同様に、8週齢から10週齢の14日間の連続投与と、投与直後の10週齢、投与14週後の24週齢で解析を行った(図3(A))。1日投与量は、100mg/kg、300mg/kg、500mg/kgの3つの異なる投与量として、各群10匹でHbA1c、ACRを解析した。図3(B)、(C)は、24週齢、すなわち投与14週後の解析結果を示している。
ヘテロマウス(db/m)では、HbA1c値が低く、糖尿病を発症していないことを示す。これに対し、ホモマウス(db/db)では、HbA1c値が高く糖尿病発症が認められる。実施例1で示した結果と同様に、NMN投与によってもHbA1c値は変わらず高値を示し、いずれの投与量でもNMN投与による糖尿病の発症の抑制は認められなかった(図3(B))。なお、図中*印は、ヘテロマウス(db/m)に対して有意差があることを示す。
一方、糖尿病性腎症のマーカーであるACRは、ホモマウスにNMNを100mg/kg/dayで投与した場合には抑制が認められないものの、300、500mg/kg/dayで投与した場合には、明らかな減少が認められ、300mg/kg/dayの投与量であっても、糖尿病性腎症の進行を抑制する効果があることが認められた。なお、図中*印は、ヘテロマウス(db/m)に対して、+はNMNを300mg/kg/dayで投与した群に対して有意差があることを示している。
NMNを100mg/kg/dayで投与した群ではACR値の減少が見られないが、300mg/kg/day投与群は、非投与群、100mg/kg/day投与群に対し、有意にACR値の抑制が認められた。300mg/kg/dayの投与で非投与群に対して、有意にアルブミン尿の減量が維持されていること、各用量におけるACR値の変化から、おそらく200mg/kg/dayの投与量でもアルブミン尿の減量が見込めるものと考えられる。したがって、ヒトの1日あたりの用量に換算する場合も、マウスで得られた200mg/kg/day以上という値をもとに換算すればよい。
これまでの糖尿病改善の研究は、解析直前までNMN投与を行なっており、本発明の疾患早期における一時的投与により投与終了後長期にわたり効果を継続するという投与方法とは大きく異なる。また、腎疾患に関しても従来の報告は、尿細管を主座とする急性腎不全と1型糖尿病による進行した糖尿病性腎症であり、糖尿病患者の大多数を占める2型糖尿病による腎症早期を対象とした腎疾患モデルを用いた研究ではない。糖尿病性腎症早期に治療することができれば、糖尿病性腎症の発症や身体的、精神的、時間的、経済的負担の大きな末期腎不全への進行を抑制することができ、患者にとっては非常にメリットがある。
以上、NMN投与後長期にわたって、HbA1cには有意な変化が認められないが、早期の糖尿病腎症の段階で投与することによって、アルブミン尿が維持されることを示した。これらの結果から、ヒトにおいても糖尿病性腎症の早期に単回集中的にNMNを投与することによって、糖尿病性腎症の進行を抑制、あるいは停止することができると考えられる。糖尿病性腎症の進行を抑制することができれば、透析に移行する患者を減らすことができるため、患者のQOLを維持することができるだけではなく、医療経済的にも非常に有用な投与方法であると考えられる。

Claims (4)

  1. ヒトに対しニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を有効成分として1日あたり10g以上100g以下で含み、
    単期間用いられることを特徴とする糖尿病性腎症の治療薬。
  2. 前記単期間とは、
    5日以上2週間以下の期間であることを特徴とする請求項1に記載の糖尿病性腎症の治療薬。
  3. 投与を点滴によって行うことを特徴とする請求項1、又は2に記載の糖尿病性腎症の治療薬。
  4. 前記糖尿病性腎症が早期の糖尿病性腎症であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の糖尿病性腎症の治療薬。
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