各図面を参照して、本発明の各実施形態に係る車載用マイク装置について説明する。以下の説明における上下、左右、前後の用語は、車載用マイク装置から車室側を見たときの方向を示す。また、複数の図面に示されている同一の構成要素については同一の符号を付して説明を簡略化する。
図1には、本発明の第1実施形態に係る車載用マイク装置の分解斜視図が示されている。車載用マイク装置は、マイク本体部10およびベゼル30を備えている。マイク本体部10は、前方に長方形の前面開口16を有する筐体12と、筐体12の前面開口16に設けられたリテーナ14を備えている。リテーナ14には、後方に向かうにつれて径が小さくなる穴が集音形状部18として設けられている。リテーナ14の後面側にはマイク素子が固定された基板22が配置されており、集音形状部18の最奥部に基板22の前面が現れている。基板22には、集音形状部18の最奥部に相当する領域に、後面のマイク素子に音を導くための音響穴24が開けられている。ベゼル30はマイク本体部10の前方を覆い、車載マイク装置の美観を向上させる。ベゼル30には、リテーナ14の集音形状部18に対向する位置に、集音形状部18に音を導くための前面穴32が設けられている。筐体12の右側には、コネクタが差し込まれるコネクタ受容空間72の開口が設けられている。コネクタ受容空間72には、ケーブルの先端に取り付けられたコネクタが差し込まれ、ケーブルがマイク素子またはマイク素子の周辺回路に接続される。
図2には、マイク本体部10の分解斜視図がベゼル30の斜視図と共に示されている。マイク本体部10の筐体12の前面開口16付近には、一方の面を前方に向けて基板22が固定され、基板22の前面側にはリテーナ14が固定される。図2では、リテーナ14が筐体12および基板22から取り外された別個の部材として描かれているが、これは説明の便宜上の描写であり、リテーナ14は射出成形によって成形されてよい。筐体12の上側の側面には突出爪20が形成されている。突出爪20は、後方に向かうにつれ厚くなり、後端において段差を形成する。筐体12の下側の側面にも突出爪20と同様の突出爪が形成されている。
ベゼル30は、前面パネル36と、前面パネル36の後面に立設した四角筒状部38から形成されている。四角筒状部38の上側の側壁および下側の側壁のそれぞれからは、固定壁40が後方に突出している。各固定壁40には、マイク本体部10の筐体12の上下の側面に形成された突出爪20が引っ掛かる爪受け穴34が形成されている。
筐体12に基板22およびリテーナ14が固定された後、筐体12、基板22およびリテーナ14は前方からベゼル30によって覆われる。ベゼル30の上下の爪受け穴34は筐体12の上下の突出爪20に引っ掛かり、すなわち、ベゼル30の上下の爪受け穴34は筐体12の上下の突出爪20に係合し、筐体12の前方にベゼル30が固定される。
図3には、マイク本体部10のAA線断面が示されている。筐体12は、マイク収容部60およびコネクタ部50から構成されている。図3に示されている断面において、コネクタ部50は、後方の右端からコネクタガイド壁52を左方向に延び、コネクタガイド壁52の左端からコネクタ最奥壁54を前方に延びる。コネクタ部50は、さらに、コネクタ最奥壁54の前端から隔壁56を右方向に延びて右端に至る。コネクタガイド壁52、コネクタ最奥壁54および隔壁56は、右方向に開放されたU字形状を有している。コネクタガイド壁52には、コネクタ部50に右側から差し込まれるコネクタの爪が引っ掛かるコネクタ爪受け穴58が設けられている。
隔壁56は、マイク収容部60およびコネクタ部50によって共有されている。図3に示されている断面において、マイク収容部60は、コネクタ最奥壁54の左側の側面からマイク最奥壁62を左方向に延びて前方に折れ曲がり、隔壁56を右側に見る位置まで延びて左側に折れ曲がり、再び、前方に延びて先端に至る。マイク最奥壁62の左端からクランク状に前方に延びた部分は、マイク収容部60の左側壁64を形成する。マイク収容部60の左側壁64は、隔壁56の右端付近から右側壁66を前方に延びて先端に至る。
図2に示されているように、マイク収容部60およびコネクタ部50は、マイク収容部60およびコネクタ部50の上下を外部の空間から仕切る上側壁26および下側壁28を共有している。マイク収容部60の前方には前面開口16が形成され、前面開口16から隔壁56およびマイク最奥壁62までの空間にかけてマイク収容空間74が形成されている。マイク収容空間74は、前方が開放された空間であり、リテーナ14、マイク素子68および基板22が収容される。コネクタ部50の右端にはコネクタ開口42が形成され、コネクタ開口42からコネクタ最奥壁54にかけてコネクタを受け入れるコネクタ受容空間72が形成されている。
マイク収容空間74の内壁には前方に比べて内側に厚くなった領域があり、厚みが変化する境界には基板固定縁86が形成されている。すなわち、マイク収容空間74の内壁面は、前面開口16から後方に延びた後に基板固定縁86において内側に向かい、再び後方に折れ曲がっている。基板22は一方の面が前方に向けられた状態で筐体12に収容され、基板22の縁は基板固定縁86に接触し、筐体12に固定されている。
基板22の後面には、マイク素子68が固定されている。マイク素子68にはMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)マイク素子が用いられてよい。基板22には、マイク素子68の前方において、前面側と後面側とを連通させる音響穴24が設けられている。
基板22の右側の縁には切り欠き76が設けられており、この切り欠き76と筐体12の内壁との間に連絡穴78が形成されている。リテーナ14は、基板22の前面から連絡穴78を通って基板22の後面に至り、基板22の後面で左側に広がる回り込み形状部を有している。回り込み形状部によってリテーナ14が基板22に密着する。
リテーナ14は射出成形によって成形されてよい。リテーナ14を成形する材料には、エラストマ材等の熱可塑性の樹脂が用いられてよい。射出成形では、溶融した成形材料が基板22の前面から流し込まれる。成形材料は、連絡穴78を通って基板22の後面側に回り込み、基板22の後面に広がる。基板22の前方には、前方の領域を音響穴24に連通させ、前方の領域からマイク素子68側に音を導く集音形状部18が形成される。成形材料が固化することで、リテーナ14が基板22の前面側に固定される。
このように、本実施形態に係る車載用マイク装置は、前方が開放されたマイク収容空間74を有する筐体12と、前方に一方の面(前面)を向けてマイク収容空間74に配置され、他方の面(後面)にマイク素子68が固定された基板22と、基板22上に形成されたリテーナ14とを備えている。基板22は、マイク素子68の位置で前面側と後面側とを連通させる音響穴24と、前面側から後面側にリテーナ14を及ぼしめるリテーナ連絡構造としての切り欠き76とを備えている。筐体12および切り欠き76は連絡穴78を形成する。リテーナ14は、前方の領域からマイク素子68側に音を導く集音形状部18と、基板22の前面側から連絡穴78を通って基板22の後面側に回り込んだ回り込み形状部とを有する。
本実施形態に係る車載用マイク装置では、回り込み形状部によってリテーナ14が基板22に密着し、リテーナ14と基板22との間に隙間が形成されることが防止される。これによって、所望の方向でない方向から到来した雑音がマイク素子68で集音され難くなり、車載用マイク装置の指向特性が向上する。
図4には、変形例に係る車載用マイク装置の断面が示されている。この車載用マイク装置では、基板22を前後方向に貫通するスルーホール70がリテーナ連絡構造として設けられ、スルーホール70によってリテーナ14に回り込み形状部が形成されている。図4に示される例では、2つのスルーホール70が設けられている。各スルーホール70は、前面側から後面側にリテーナ14を及ぼしめる。射出成形では、溶融した成形材料が各スルーホール70を通って基板22の後面側に回り込み、基板22の後面に広がる。成形材料が固化することで、リテーナ14が基板22の前面側に固定される。
図5には、第2実施形態に係る車載用マイク装置の断面が示されている。車載用マイク装置におけるマイク収容部90は、図3のマイク収容部60の左側壁64が取り除かれ、代わりにコネクタ端子案内壁80が設けられたものである。コネクタ端子案内壁80は、コネクタ最奥壁54の前端付近から左側に延び、マイク最奥壁62の左端よりも右側で前方に折れ曲がって先端に至っている。コネクタ端子案内壁80の先端は基板22の後面に接触している。コネクタ端子84は、コネクタ受容空間72からコネクタ最奥壁54を横方向に貫通し、コネクタ最奥壁54の外側で前方に折れ曲がり、コネクタ端子案内壁80に沿って前方に延び、基板22に開けられたコネクタ挿通穴94を貫通している。マイク収容部90では、図3のマイク収容部60の右側壁66が取り除かれ、隔壁56から前方に延びて右側に折れてL字形状を描くL字係合構造82に置き換えられている。リテーナ14は射出成形によって成形されてよい。溶融した成形材料は、基板22の前面から左端に及んで後方に及び、コネクタ端子84およびコネクタ端子案内壁80を覆って、マイク最奥壁62とコネクタ端子案内壁80との間の空間に回り込む。成形材料は、コネクタ端子84の全体を覆っていてもよいし、一部分を覆ってもよい。これによって、リテーナ14の左端には基板22の後方に回り込む回り込み形状部が形成される。
図6には、第2実施形態に係る車載用マイク装置の分解斜視図が示されている。図7には、リテーナ14が射出成形される前の車載用マイク装置を左斜め下後方から眺めた斜視図が示されている。図6および図7には4本のコネクタ端子84が設けられた例が示されている。コネクタ端子案内壁80には、前後方向に延びるコネクタ端子固定溝92が形成されている。各コネクタ端子84は、対応するコネクタ端子固定溝92に嵌まり込み、前後方向に延びている。各コネクタ端子84は、基板22が筐体12に固定される工程において、基板22に開けられたコネクタ挿通穴94を貫通する。各コネクタ端子84は、基板22に設けられたパターンに半田付けされてよい。
図6では、リテーナ14が筐体12および基板22から取り外された別個の部材として描かれているが、これは説明の便宜上の描写であり、リテーナ14は射出成形によって成形されてよい。リテーナ14は、基板22の前面から左端に及んで後方に及ぶ他、基板22の前面から右端に及んで後方に突出する。基板22の右端で後方に突出した領域には、上下方向に延びる長方形穴98が開けられた係合穴構造96が形成されている。係合穴構造96における長方形穴98が、筐体12におけるL字係合構造82(図5)を囲み、リテーナが基板22および筐体12に固定される。
このように、第2実施形態に係る車載用マイク装置では、筐体12が、基板22から後方に延びる導線としてのコネクタ端子84を壁面で支持するコネクタ端子案内壁80(導線案内壁)を有している。第2実施形態に係る車載用マイク装置は、さらに、基板22の前面からその縁を経て基板22の後面に及び、コネクタ端子案内壁80に回り込んだ回り込み形状部を有している。そして、コネクタ端子84の少なくとも一部分が、回り込み形状部に覆われる。
このような構成によれば、リテーナ14は、基板22の前面から左端に及んで後方に延び、コネクタ端子84およびコネクタ端子案内壁80を覆って、マイク最奥壁62とコネクタ案内壁80との間の空間に回り込む。また、リテーナ14は、基板22の前面から右端に及んで後方に突出して係合穴構造96を形成し、係合穴構造96が筐体12のL字係合構造82を囲む。すなわち、筐体12のL字係合構造82がリテーナ14のL字係合穴構造96の長方形穴98に入り込む。これによって、リテーナ14は、基板22および筐体12に密着し、リテーナ14と基板22との間に隙間が形成されることが防止される。これによって、所望の方向でない方向から到来した雑音がマイク素子68で集音され難くなり、車載用マイク装置の指向特性が向上する。
上記では、マイク素子68が基板22の後面に固定された実施形態について説明した。マイク素子68は基板22の前面に固定されてもよい。この場合、基板22には音響穴24が設けられなくてもよく、集音形状部18の最奥部にマイク素子68が固定される。集音形状部18は、前方の領域からマイク素子68に音を導く。