JP2020155348A - 空気極触媒層及び固体高分子形燃料電池 - Google Patents

空気極触媒層及び固体高分子形燃料電池 Download PDF

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Abstract

【課題】低湿度から高湿度に至るまでの幅広い湿度環境下において高い電池性能を示す空気極触媒層、及びこれを用いた固体高分子形燃料電池を提供すること。【解決手段】空気極触媒層は、第1担体の表面に第1触媒粒子が担持された第1触媒担持カーボンと、第2担体の表面に第2触媒粒子が担持された第2触媒担持カーボンと、触媒層アイオノマとを備えている。前記第1担体は、最頻出細孔径が2.0nm以上3.0nm以下である第1単分散球状メソポーラスカーボンからなる。前記第2担体は、最頻出細孔径が3.5nm以上5.0nm以下である第2単分散球状メソポーラスカーボンからなる。第1触媒担持カーボンの重量分率は、30%以上70%以下が好ましい。固体高分子形燃料電池は、このような空気極触媒層を備えている。【選択図】図4

Description

本発明は、空気極触媒層及び固体高分子形燃料電池に関し、さらに詳しくは、低湿度から高湿度に至るまでの幅広い湿度環境下において高い電池性能を示す空気極触媒層、及びこれを用いた固体高分子形燃料電池に関する。
固体高分子形燃料電池は、電解質膜の両面に触媒層を含む電極が接合された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly,MEA)を備えている。MEAの両面には、さらに、ガス流路を備えた集電体(セパレータ)が配置される。固体高分子形燃料電池は、通常、このようなMEAと集電体からなる単セルが複数個積層された構造(燃料電池スタック)を備えている。
固体高分子形燃料電池において、触媒層は、一般に、担体表面に白金などの触媒金属微粒子を担持させた電極触媒と、触媒層アイオノマとの混合物からなる。触媒担体には、通常、カーボンブラック、アセチレンブラックなどの炭素材料が用いられている。さらに、触媒担体に用いられる炭素材料の細孔径や比表面積、触媒層アイオノマのイオン交換容量、炭素材料の質量に対する触媒層アイオノマの質量比(I/C比)などが燃料電池の特性に影響を与えることが知られている。そのため、このような触媒層の組成に関し、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、
(a)触媒担持粒子と高イオン交換容量の高分子電解質を含む第1のインクを作製し、
(b)カーボン粒子と低イオン交換容量の高分子電解質を含む第2のインクを作製し、
(c)第1のインクと第2のインクの混合物を基材表面に塗布する
燃料電池用電極触媒層の製造方法が開示されている。
同文献には、このようにして得られた触媒層は、
(A)高イオン交換容量の高分子電解質が触媒担持粒子に近い位置に存在するので、低湿度下でも生成水を保持することができる点、及び、
(B)低イオン交換容量の高分子電解質が触媒担持粒子から離れた位置に存在するので、反応ガスの拡散性が向上する点
が記載されている。
特許文献2には、
(a)950℃に保持した炭素材料(ケッチェンブラック)に加湿アルゴンガスを2時間接触させ、炭素材料のH2O賦活処理を行い、
(b)賦活処理された炭素材料をアルゴン気流中において1800℃で2時間保持し、炭素材料を黒鉛化処理する
触媒担体用炭素材料の製造方法が開示されている。
同文献には、
(A)触媒担体用炭素材料を黒鉛化すると、炭素材料の酸化消耗が抑制され、燃料電池環境下における耐久性が向上する点、
(B)炭素材料を賦活処理すると、中空構造を備えた炭素材料であって、細孔や中空部分の壁面が高い親水性を有するものが得られる点、
(C)賦活処理及び黒鉛化処理が施された中空構造の炭素材料に触媒成分を担持させると、低湿度環境下における触媒利用率が向上する点、及び、
(D)炭素材料の外部比表面積を最適化すると、高加湿環境下でのフラッディングを抑制することができる点、
記載されている。
特許文献3には、
(a)カーボン担体に対する高分子電解質の質量比が1.0となるように、水/エタノール混合溶媒中に高分子電解質及び白金担持カーボンを分散させた触媒インクを作製し、
(b)触媒インクを基板上に塗布し、乾燥させる
ことにより得られる厚さ10μmの電極触媒層が開示されている。
同文献には、電極触媒層中の炭素原子濃度、フッ素原子濃度、及び、電極触媒層の厚さを所定の範囲内にすると、低加湿環境下におけるプロトン伝導性の向上と、高加湿環境下におけるガスや水の拡散性の向上とを両立させることができる点が記載されている。
さらに、特許文献4には、
(a)触媒担持粒子をアイオノマ溶液中に分散させ、分散液に酢酸ブチル(アイオノマに対する貧溶媒)を加えることにより、触媒担持粒子とアイオノマの凝集体が分散しているA液を作製し、
(b)ガス拡散炭素材料の分散液に酢酸ブチルを加えることにより、ガス拡散炭素材料の凝集体が分散しているB液を作製し、
(c)A液とB液とを所定の比率で混合して塗工液とし、
(d)塗工液をガス拡散層の表面に塗工する
燃料電池用触媒層の製造方法が開示されている。
同文献には、触媒を担持する触媒担体炭素材料と、触媒成分を担持しないガス拡散炭素材料とを用いて触媒層を構成すると、触媒層のフラッディングを抑制し、かつ、ガス拡散性を高めることができる点が記載されている。
特開2018−110052号公報 特開2017−130446号公報 特開2017−091712号公報 特開2017−073310号公報
燃料電池を幅広い条件で作動させるためには、
(a)高湿時の高負荷性能の低下を抑制すること、
(b)低湿時の高負荷性能の低下を抑制すること、及び、
(c)アイオノマの触媒被毒による低負荷性能の低下を抑制すること、
が必要である。
高湿時の高負荷性能の低下は、主として空気極の生成水によるフラッディングが原因と考えられる。フラッディングに起因する性能低下を抑制するには、高湿時においても、酸素移動が可能な程度の空隙を触媒層内に確保する必要がある。
また、低湿時の高負荷性能の低下は、主として触媒層の厚さ方向のプロトン伝導経路が細い、又は少ないことが原因と考えられる。プロトン伝導経路の不足に起因する性能低下を抑制するには、低湿時においても、触媒層厚さ方向のプロトン伝導経路(アイオノマの繋がり)を確保する必要がある。
さらに、触媒被毒による低負荷性能の低下は、主としてアイオノマに被覆されている活性種の割合が大きいことが原因と考えられる。触媒被毒に起因する性能低下を抑制するには、少量のアイオノマで十分なプロトン伝導経路を確保する必要がある。
これらの性能低下は、触媒層への触媒未担持のカーボン材料の添加(特許文献1、4)、触媒担体の細孔径や比表面積の制御(特許文献2)、I/C比の制御(特許文献3)などにより、ある程度改善することができる。しかしならが、従来の方法では、これらの性能の両立に限界がある。特に、特許文献1、4に記載の方法は、スケールアップ時に電極の面内方向や厚さ方向の組成制御が難しいと推測され、実用的な技術ではない。
本発明が解決しようとする課題は、低湿度から高湿度に至るまでの幅広い湿度環境下において高い電池性能を示す空気極触媒層、及びこれを用いた固体高分子形燃料電池を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、場所による組成バラツキの少ない空気極触媒層、及びこれを用いた固体高分子形燃料電池を提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、触媒層アイオノマによる触媒被毒の少ない空気極触媒層、及びこれを用いた固体高分子形燃料電池を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明に係る空気極触媒層は、以下の構成を備えていることを要旨とする。
(1)前記空気極触媒層は、
第1担体の表面に第1触媒粒子が担持された第1触媒担持カーボンと、
第2担体の表面に第2触媒粒子が担持された第2触媒担持カーボンと、
触媒層アイオノマと
を備えている。
(2)前記第1担体は、最頻出細孔径が2.0nm以上3.0nm以下である第1単分散球状メソポーラスカーボンからなる。
(3)前記第2担体は、最頻出細孔径が3.5nm以上5.0nm以下である第2単分散球状メソポーラスカーボンからなる。
本発明に係る固体高分子形燃料電池は、本発明に係る空気極触媒層を備えていることを要旨とする。
細孔径の異なる2種類の単分散球状メソポーラスカーボンに、それぞれ、触媒粒子を担持させ、得られた2種類の触媒担持カーボンを所定の比率で配合すると、低湿度環境下での性能と高湿度環境下での性能を両立させることができる。
また、担体として単分散球状メソポーラスカーボンを用いると、両者の均一混合が容易であるため、触媒層内の場所による組成バラツキ、及びこれに起因する性能バラツキが抑制される。
さらに、触媒粒子は単分散球状メソポーラスカーボンの細孔内に担持される割合が高いので、触媒層アイオノマによる被毒も抑制される。
図1(A)は、第1担体のSEM像である。図1(B)は、第2担体のSEM像である。 第1担体及び第2担体の細孔径分布である。 図3(A)は、温度:82℃、湿度:30%RHでの電流−電圧曲線(I−V曲線)である。図3(B)は、温度:60℃、湿度:80%RHでの電流−電圧曲線(I−V)曲線である。
低湿度下及び高湿度下における電流密度2A/cm2でのIR補正電圧の重量分率依存性を示す図である。 温度:82℃、湿度:30%RHにおける空気極のPt利用率である。 温度:60℃、湿度:80%RHにおける空気極の分子拡散以外の酸素移動抵抗である。
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 空気極触媒層]
本発明に係る空気極触媒層は、
第1担体の表面に第1触媒粒子が担持された第1触媒担持カーボンと、
第2担体の表面に第2触媒粒子が担持された第2触媒担持カーボンと、
触媒層アイオノマと
を備えている。
[1.1. 第1触媒担持カーボン]
第1触媒担持カーボンは、主として、低湿度環境下での電池性能を向上させるためのものである。また、場所による組成バラツキを低減するためには、第1触媒担持カーボンは、第2触媒担持カーボンと均一に混合することが容易であるものが好ましい。そのためには、第1担体、及び、これに担持される第1触媒粒子は、それぞれ、以下の条件を満たしているのが好ましい。
[1.1.1. 第1担体]
本発明において、第1担体は、最頻出細孔径が2.0nm以上3.0nm以下である第1単分散球状メソポーラスカーボンからなる。
[A. 単分散]
第1触媒担持カーボンと第2触媒担持カーボンとの均一混合を容易化するためには、第1担体は、単分散である必要がある。
本発明において、「単分散」とは、同一条件下で製造された複数個(好ましくは、20個以上)の粒子について算出された単分散度が15%以下であることをいう。また、「単分散度」とは、次の式(1)で表される値をいう。
単分散度=(粒子径の標準偏差)×100/(粒子径の平均値) ・・・(1)
一般に、第1担体の直径のバラツキが小さくなるほど、第1担体内、第1担体間、及び/又は、第1担体−第2担体間における各種の反応がより等方的に進行しやすくなる。そのため、第1担体の単分散度は小さいほど良い。単分散度は、好ましくは、10%以下、さらに好ましくは、5%以下である。
[B. 球状]
第1触媒担持カーボンと第2触媒担持カーボンとの均一混合を容易化するためには、第1担体は、球状である必要がある。
本発明において、「球状」とは、同一条件下で製造された複数個(好ましくは、20個以上)の粒子について算出された真球度が13%以下であることをいう。また、「真球度」とは、次の式(2)で表される値をいう。
真球度=Δrmax×100/r0 ・・・(2)
但し
0は、粒子の表面に接する最小の外接円の半径、
Δrmaxは、外接円と粒子表面の各点との半径方向の距離の最大値。
一般に、第1担体の形状が真球に近くなるほど、第1担体内、第1担体間、及び/又は、第1担体−第2担体間において生ずる電気化学反応や化学反応が等方的に進行しやすくなる。そのため、第1担体の真球度は、小さいほど良い。真球度は、好ましくは、7%以下、さらに好ましくは、3%以下である。
[C. 最頻出細孔径]
「最頻出細孔径」とは、第1担体の窒素吸着等温線の吸着側データをBJH法で解析した時に、細孔容量が最大となるときの細孔径(最頻出ピーク値)をいう。
第1触媒担持カーボンにより低湿度環境下での電池性能を向上させるためには、第1担体は、相対的に小さな細孔径を持つ必要がある。一般に、第1担体の細孔径が大きくなりすぎると、細孔内の保水性が低下し、低湿度環境下での電池性能が低下する。従って、第1担体の最頻出細孔径は、3.0nm以下である必要がある。
一方、第1担体の細孔径が小さくなりすぎると、それに応じて、第1触媒粒子の粒径も小さくなる。第1触媒粒子の粒径が小さくなりすぎると、電位変動を伴う燃料電池の作動環境下において、第1触媒粒子が溶出しやすくなり、耐久性が低下する。従って、第1担体の最頻出細孔径は、2.0nm以上である必要がある。最頻出細孔径は、好ましくは、2.5nm以上である。
第1担体は、後述するように、単分散球状メソポーラスシリカを鋳型に用いて、鋳型の細孔内に炭素源を含浸させ、炭素源を炭化させ、さらに鋳型を除去することにより得られる。そのため、第1担体は、細孔径の分布が小さい。後述する方法を用いると、細孔径が上述の範囲にあり、かつ、最頻出ピークの半値全幅が2nm以下である第1担体が得られる。
[D. 直径]
第1担体の直径D1は、所定の条件を満たしているのが好ましい。第1担体の直径D1の詳細については、後述する。
[1.1.2. 第1触媒粒子]
[A. 組成]
本発明において、第1触媒粒子の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。第1触媒粒子の材料としては、例えば、
(a)貴金属(Pt、Au、Ag、Pd、Rh、Ir、Ru、Os)、
(b)2種以上の貴金属元素を含む合金、
(c)1種又は2種以上の貴金属元素と、1種又は2種以上の卑金属元素(例えば、Fe、Co、Ni、Cr、V、Tiなど)とを含む合金、
などがある。
これらの中でも、触媒粒子は、Pt又はPt合金が好ましい。これは、燃料電池の電極反応に対して高い活性を有するためである。
Pt合金としては、例えば、Pt−Fe合金、Pt−Co合金、Pt−Ni合金、Pt−Pd合金、Pt−Cr合金、Pt−V合金、Pt−Ti合金、Pt−Ru合金、Pt−Ir合金などがある。
[B. 粒径]
第1触媒粒子は、第1担体の表面に担持される。「第1担体の表面」とは、第1担体の外表面だけでなく、細孔の内壁面(すなわち、内表面)も含まれる。
後述するように、本発明において、第1触媒粒子は、第1担体の細孔内に触媒粒子の前駆体を含浸させ、前駆体を液相還元することにより得られる。そのため、第1触媒粒子の大半は、第1担体の細孔内に担持されている。また、第1触媒粒子の粒径は、第1担体の細孔径より小さくなる。
[C. 触媒担持率]
第1担体への第1触媒粒子の担持率は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値を選択することができる。一般に、第1触媒粒子の担持率が小さすぎると、低湿度環境下での電池性能が低下する。従って、第1触媒粒子の担持率は、20wt%以上が好ましい。触媒担持率は、好ましくは、30wt%以上である。
一方、第1触媒粒子の担持率を必要以上に大きくしても、効果に差がなく、実益がない。従って、第1触媒粒子の担持率は、60wt%以下が好ましい。触媒担持率は、好ましくは、50wt%以下である。
[1.2. 第2触媒担持カーボン]
第2触媒担持カーボンは、主として、高湿度環境下での電池性能を向上させるためのものである。また、場所による組成バラツキを低減するためには、第2触媒担持カーボンは、第1触媒担持カーボンと均一に混合することが容易であるものが好ましい。そのためには、第2担体、及び、これに担持される第2触媒粒子は、それぞれ、以下の条件を満たしているのが好ましい。
[1.2.1. 第2担体]
本発明において、第2担体は、最頻出細孔径が3.5nm以上5.0nm以下である第2単分散球状メソポーラスカーボンからなる。
[A. 単分散]
第2触媒担持カーボンと第1触媒担持カーボンとの均一混合を容易化するためには、第2担体は、単分散度が15%以下である必要がある。単分散度は、好ましくは、10%以下、さらに好ましくは、5%以下である。「単分散」に関するその他の点については、第1担体と同様であるので、説明を省略する。
[B. 球状]
第2触媒担持カーボンと第1触媒担持カーボンとの均一混合を容易化するためには、第2担体は、球状である必要がある。具体的には、第2担体は、真球度が13%以下である必要がある。真球度は、好ましくは、7%以下、さらに好ましくは、3%以下である。「球状」に関するその他の点については、第1担体と同様であるので、説明を省略する。
[C. 細孔径]
第2触媒担持カーボンにより高湿度環境下での電池性能を向上させるためには、第2担体は、相対的に大きな細孔径を持つ必要がある。一般に、第2担体の細孔径が小さくなりすぎると、それに応じて第2触媒粒子の粒径も小さくなる。従って、第2担体の最頻出細孔径は、3.5nm以上である必要がある。最頻出細孔径は、好ましくは、4nm以上である。
一方、第2担体の細孔径が大きくなりすぎると、細孔内に触媒層アイオノマが侵入し、第2触媒粒子がアイオノマにより被毒されやすくなる。従って、第2担体の最頻出細孔径は、5.0nm以下である必要がある。最頻出細孔径は、好ましくは、4.5nm以下である。
第2担体は、後述するように、単分散球状メソポーラスシリカを鋳型に用いて、鋳型の細孔内に炭素源を含浸させ、炭素源を炭化させ、さらに鋳型を除去することにより得られる。そのため、第2担体は、細孔径の分布が小さい。後述する方法を用いると、細孔径が上述の範囲にあり、かつ、最頻出ピークの半値全幅が3.5nm以下である第2担体が得られる。
[D. 直径]
第2担体の直径D2は、所定の条件を満たしているのが好ましい。第2担体の直径D2の詳細については、後述する。
[1.2.2. 第2触媒粒子]
[A. 組成]
本発明において、第2触媒粒子の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。第2触媒粒子の組成の詳細については、第1触媒粒子と同様であるので、説明を省略する。
[B. 粒径]
第2触媒粒子は、第2担体の表面に担持される。「第2担体の表面」とは、第2担体の外表面だけでなく、細孔の内壁面(すなわち、内表面)も含まれる。
後述するように、本発明において、第2触媒粒子は、第2担体の細孔内に触媒粒子の前駆体を含浸させ、前駆体を液相還元することにより得られる。そのため、第2触媒粒子の大半は、第2担体の細孔内に担持されている。また、第2触媒粒子の粒径は、第2担体の細孔径より小さくなる。
[C. 触媒担持率]
第2担体への第2触媒粒子の担持率は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値を選択することができる。一般に、第2触媒粒子の担持率が大きすぎると、高湿度環境下での電池性能が低下する。従って、第2触媒粒子の担持率は、60wt%以下が好ましい。触媒担持率は、好ましくは、50wt%以下である。
一方、第2触媒粒子の担持率を必要以上に小さくしても、効果に差がなく、実益がない。従って、第2触媒粒子の担持率は、20wt%以上が好ましい。触媒担持率は、好ましくは、30wt%以上である。
[1.3. 重量分率]
「重量分率」とは、第1触媒担持カーボンと第2触媒担持カーボンの総重量(Wt)に対する第1触媒担持カーボンの重量(W1)の割合(=W1×100/Wt)をいう。
第1触媒担持カーボンは、主として低湿度環境下における電池性能の向上に寄与する。一方、第2触媒担持カーボンは、主として高湿度環境下における電池性能の向上に寄与する。そのため、第1触媒担持カーボンの重量分率が少なすぎると、低湿度環境下における電池性能が低下する。従って、重量分率は、30%以上が好ましい。重量分率は、好ましくは、35%以上、さらに好ましくは、40%以上である。
一方、第1触媒担持カーボンの重量分率が多すぎると、高湿度環境下における電池性能が低下する。従って、重量分率は、70%以下が好ましい。重量分率は、好ましくは、65%以下、さらに好ましくは、60%以下である。
[1.4. 粒径及び粒径比]
第1担体及び第2担体は、その粒径に関し、次の式(1)及び式(2)の関係を満たしているのが好ましい。
50nm≦D1≦300nm …(1)
0.95≦D1/D2≦1.05 …(2)
但し、
1は、前記第1担体の平均径、
2は、前記第2担体の平均径。
[1.4.1. D1
式(1)は、第1担体の平均径D1の好適な範囲を表す。D1が小さくなりすぎると、触媒層内の空隙が小さくなりすぎ、高湿時においてフラッディングが生じやすくなる。従って、D1は、50nm以上が好ましい。
一方、D1が大きくなりすぎると、プロトンや酸素、生成水の移動距離が長距離となる。そのため、それらの移動抵抗が高くなり、電池性能が低下する。従って、D1は、300nm以下が好ましい。D1は、好ましくは、200nm以下、さらに好ましくは、100nm以下である。
[1.4.2. D2
第2担体の平均径D2は、D1とほぼ同等の値、すなわち、式(1)及び式(2)を満たす値であれば良い。
[1.4.3. D1/D2比]
式(2)は、粒径比の好適な範囲を表す。低湿度環境下における電池性能と高湿度環境下における電池性能を両立させるためには、第1触媒担持カーボンと第2触媒担持カーボンを均一に分散させる必要がある。しかし、D2に比べてD1が過度に小さくなると、第1触媒担持カーボンと第2触媒担持カーボンの均一分散が困難となる。従って、D1/D2比は、0.95以上が好ましい。
同様に、D2に比べてD1が過度に大きくなると、均一分散が困難となる。従って、D1/D2比は、1.05以下が好ましい。
[1.5. 厚さ]
空気極触媒層の厚さは、電池性能に影響を与える。一般に、空気極触媒層の厚さが薄くなりすぎると、触媒層の機械的強度が不足し、電池作動中に触媒層が割れる場合がある。従って、空気極触媒層の厚さは、5μm以上が好ましい。厚さは、好ましくは、7.5μm以上である。
一方、空気極触媒層の厚さが厚くなりすぎると、電極厚さ方向のプロトン移動抵抗が高くなり、高負荷域の性能低下が大きくなる。従って、空気極触媒層の厚さは、10μm以下が好ましい。
[2. 固体高分子形燃料電池]
固体高分子形燃料電池は、一般に、電解質膜の両面に触媒層を含む電極が接合された膜電極接合体(MEA)を備えている。また、電極は、一般に、触媒層と拡散層の二層構造をとる。MEAの両面には、さらに、ガス流路を備えた集電体(セパレータ)が配置される。固体高分子形燃料電池は、通常、このようなMEAと集電体からなる単セルが複数個積層された構造(燃料電池スタック)を備えている。
本発明に係る固体高分子形燃料電池は、空気極側の触媒層として、本発明に係る空気極触媒層を用いたことを特徴とする。空気極触媒層以外の構成要素の材料は特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。
[3. 単分散球状メソポーラスシリカ(鋳型)の製造方法]
後述するように、単分散球状メソポーラスカーボンは、単分散球状メソポーラスシリカを鋳型に用いて製造される。目的とする微構造を有する単分散球状メソポーラスカーボンを得るためには、それに対応する微構造を有する単分散球状メソポーラスシリカを鋳型に用いる必要がある。単分散球状メソポーラスシリカの合成条件を最適化すると、その直径、細孔径、細孔壁の厚さなどを制御することができる。
単分散球状メソポーラスシリカ(鋳型)の製造方法は、具体的には、
シリカ源、界面活性剤及び触媒を含む反応溶液中において、前記シリカ源を縮重合させ、前駆体粒子を得る重合工程と、
前記反応溶液から前記前駆体粒子を分離し、乾燥させる乾燥工程と、
前記前駆体粒子を焼成し、単分散球状メソポーラスシリカを得る焼成工程と
を備えている。
単分散球状メソポーラスシリカの製造方法は、乾燥させた前駆体粒子に対して拡径処理を行う拡径工程をさらに備えていても良い。
[3.1. 重合工程]
まず、シリカ源、界面活性剤及び触媒を含む反応溶液中において、前記シリカ源を縮重合させ、前駆体粒子を得る(重合工程)。
[3.1.1. シリカ源]
本発明において、シリカ源の種類は、特に限定されない。シリカ源としては、例えば、
(a)テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、テトラエチレングリコキシシラン等のテトラアルコキシシラン、
(b)3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等のトリアルコキシシラン
などがある。シリカ源には、これらのいずれか1種を用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
シリカ源の種類は、メソポーラスシリカの直径に与える影響が大きい。例えば、テトラエチレングリコキシシランは、テトラメトキシシランに比べて反応性が大きい。一般に、シリカ源の反応性が大きくなるほど、直径が大きいメソポーラスシリカが得られる。
[3.1.2. 界面活性剤]
シリカ源を反応溶液中で縮重合させる場合において、反応溶液に界面活性剤を添加すると、反応溶液中において界面活性剤がミセルを形成する。ミセルの周囲には親水基が集合しているため、ミセルの表面にはシリカ源が吸着する。さらに、シリカ源が吸着しているミセルが反応溶液中において自己組織化し、シリカ源が縮重合する。その結果、1次粒子内部には、ミセルに起因するメソ細孔が形成される。メソ細孔の大きさは、主として、界面活性剤の分子長により制御(1〜50nmまで)することができる。
本発明において、界面活性剤には、アルキル4級アンモニウム塩を用いる。アルキル4級アンモニウム塩とは、次の式(3)で表される化合物をいう。
CH3−(CH2)n−N+(R1)(R2)(R3)X- ・・・(3)
(a)式中、R1、R2、R3は、それぞれ、炭素数が1〜3のアルキル基を表す。R1、R2、及び、R3は、互いに同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。アルキル4級アンモニウム塩同士の凝集(ミセルの形成)を容易化するためには、R1、R2、及び、R3は、すべて同一であることが好ましい。さらに、R1、R2、及び、R3の少なくとも1つは、メチル基が好ましく、すべてがメチル基であることが好ましい。
(a)式中、Xはハロゲン原子を表す。ハロゲン原子の種類は特に限定されないが、入手の容易さからXは、Cl又はBrが好ましい。
(a)式中、nは7〜21の整数を表す。一般に、nが小さくなるほど、メソ孔の中心細孔径が小さい球状のメソ多孔体が得られる。一方、nが大きくなるほど、中心細孔径は大きくなるが、nが大きくなりすぎると、アルキル4級アンモニウム塩の疎水性相互作用が過剰となる。その結果、層状の化合物が生成し、球状のメソ多孔体が得られない。nは、好ましくは、9〜17、さらに好ましくは、13〜17である。
(a)式で表されるものの中でも、アルキルトリメチルアンモニウムハライドが好ましい。アルキルトリメチルアンモニウムハライドとしては、例えば、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムハライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムハライド、ノニルトリメチルアンモニウムハライド、デシルトリメチルアンモニウムハライド、ウンデシルトリメチルアンモニウムハライド、ドデシルトリメチルアンモニウムハライド等がある。
これらの中でも、特に、アルキルトリメチルアンモニウムブロミド又はアルキルトリメチルアンモニウムクロリドが好ましい。
単分散球状メソポーラスシリカを合成する場合において、1種類のアルキル4級アンモニウム塩を用いても良く、あるいは、2種以上を用いても良い。しかしながら、アルキル4級アンモニウム塩は、1次粒子内にメソ孔を形成するためのテンプレートとなるので、その種類は、メソ孔の形状に大きな影響を与える。より均一なメソ孔を有するシリカ粒子を合成するためには、1種類のアルキル4級アンモニウム塩を用いるのが好ましい。
[3.1.3. 触媒]
シリカ源を縮重合させる場合、通常、反応溶液中に触媒を加える。粒子状のメソポーラスシリカを合成する場合、触媒には、水酸化ナトリウム、アンモニア水等のアルカリを用いるのが好ましい。
[3.1.4. 溶媒]
溶媒には、水、アルコールなどの有機溶媒、水と有機溶媒の混合溶媒などを用いる。
アルコールは、
(1)メタノール、エタノール、プロパノール等の1価のアルコール、
(2)エチレングリコール等の2価のアルコール、
(3)グリセリン等の3価のアルコール、
のいずれでも良い。
水と有機溶媒の混合溶媒を用いる場合、混合溶媒中の有機溶媒の含有量は、目的に応じて任意に選択することができる。一般に、溶媒中に適量の有機溶媒を添加すると、粒径や粒度分布の制御が容易化する。
溶媒に含まれるアルコールの種類及び量は、メソポーラスシリカの直径に与える影響が大きい。例えば、溶媒が水とメタノールの混合溶媒である場合、一般に、混合溶媒に含まれるメタノールの量が多くなるほど、直径が大きいメソポーラスシリカが得られる。
また、例えば、溶媒が水、メタノール、及びエチレングリコールの混合溶媒である場合、一般に、混合溶媒に含まれるエチレングリコールの量が多くなるほど、直径が大きいメソポーラスシリカが得られる。
[3.1.5. 反応溶液の組成]
反応溶液中の組成は、合成されるメソポーラスシリカの外形や細孔構造に影響を与える。反応溶液中の界面活性剤の濃度、及びシリカ源の濃度は、単分散球状メソポーラスシリカの直径、細孔径、及び比表面積などに与える影響が大きい。また、上述したように、溶媒に含まれるアルコールの種類及び量、並びに、シリカ源の種類は、メソポーラスシリカの直径に与える影響が大きい。
[A. 界面活性剤の濃度]
界面活性剤の濃度が低すぎると、テンプレートとなるべき界面活性剤の量が不足するために良好な多孔体を得ることができず、粒子径の均一性が低くなる。従って、界面活性剤の濃度は、0.003mol/L以上が好ましい。界面活性剤の濃度は、好ましくは、0.005mol/L以上、さらに好ましくは、0.01mol/L以上である。
一方、界面活性剤の濃度が高すぎると、形状が球状である多孔体を高比率で得ることができず、粒子径の均一性が低くなる。従って、界面活性剤の濃度は、0.03mol/L以下が好ましい。界面活性剤の濃度は、好ましくは、0.025mol/L以下、さらに好ましくは、0.02mol/L以下である。
[B. シリカ源の濃度]
シリカ源の濃度が低すぎると、形状が球状である多孔体を高比率で得ることができず、粒子径の均一性が低くなる。従って、シリカ源の濃度は、0.005mol/L以上が好ましい。シリカ源の濃度は、好ましくは、0.0065mol/L以上、さらに好ましくは、0.008mol/L以上である。
一方、シリカ源の濃度が高すぎると、テンプレートとなるべき界面活性剤の量が不足するために良好な多孔体を得ることができず、粒子径の均一性が低くなる。従って、シリカ源の濃度は、0.03mol/L以下が好ましい。シリカ源の濃度は、好ましくは、0.025mol/L以下、さらに好ましくは、0.02mol/L以下である。
[C. 触媒の濃度]
本発明において、触媒の濃度は、特に限定されない。一般に、触媒の濃度が低すぎると、粒子の析出速度が遅くなる。一方、触媒の濃度が高すぎると、粒子の析出速度が速くなる。最適な触媒の濃度は、シリカ源の種類、界面活性剤の種類、目標とする物性値などに応じて最適な濃度を選択するのが好ましい。
[3.1.6 反応条件]
所定量の界面活性剤を含む溶媒中に、シリカ源を加え、加水分解及び重縮合を行う。これにより、界面活性剤がテンプレートとして機能し、シリカ及び界面活性剤を含む前駆体粒子が得られる。
反応条件は、シリカ源の種類、前駆体粒子の粒径等に応じて、最適な条件を選択する。一般に、反応温度は、−20〜100℃が好ましい。反応温度は、さらに好ましくは、0〜80℃、さらに好ましくは、10〜40℃である。
[3.2. 乾燥工程]
次に、前記反応溶液から前記前駆体粒子を分離し、乾燥させる(乾燥工程)。
乾燥は、前駆体粒子内に残存している溶媒を除去するために行う。乾燥条件は、溶媒の除去が可能な限りにおいて、特に限定されるものではない。
[3.3. 拡径処理]
次に、必要に応じて、乾燥させた前駆体粒子に対して拡径処理を行っても良い(拡径工程)。「拡径処理」とは、粒子内のメソ細孔の直径を拡大させる処理をいう。
拡径処理は、具体的には、合成された前駆体粒子(界面活性剤の未除去のもの)を、拡径剤を含む溶液中で水熱処理することにより行う。この処理によって前駆体粒子の細孔径を拡大させることができる。
拡径剤としては、例えば、
(a)トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン、トリイソプロピルベンゼン、ナフタレン、ベンゼン、シクロヘキサン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンなどの炭化水素、
(b)塩酸、硫酸、
などがある。
炭化水素共存下で水熱処理することにより細孔径が拡大するのは、拡径剤が溶媒から、より疎水性の高い前駆体粒子の細孔内に導入される際に、シリカの再配列が起こるためと考えられる。
また、塩酸又は硫酸共存下で水熱処理することにより細孔径が拡大するのは、粒子内部においてシリカの溶解・再析出が進行するためと考えられる。製造条件を最適化すると、シリカ内部に放射状細孔が形成される。これを塩酸又は硫酸共存下で水熱処理すると、シリカの溶解・再析出が起こり、放射状細孔が連通細孔に変換される。
拡径処理の条件は、目的とする細孔径が得られるように、最適な条件を選択するのが好ましい。例えば、塩酸共存下において水熱処理する場合、一般に、水熱処理温度が高くなるほど、メソ細孔が大きくなる。細孔径が2.0〜5nmである単分散球状炭素多孔体を得るためには、水熱処理温度は、130〜150℃が好ましい。
[3.4. 焼成工程]
次に、必要に応じて拡径処理を行った後、前記前駆体粒子を焼成する(焼成工程)。これにより、単分散球状メソポーラスシリカが得られる。
焼成は、OH基が残留している前駆体粒子を脱水・結晶化させるため、及び、メソ細孔内に残存している界面活性剤を熱分解させるために行われる。焼成条件は、脱水・結晶化、及び界面活性剤の熱分解が可能な限りにおいて、特に限定されない。焼成は、通常、大気中において、400℃〜700℃で1時間〜10時間加熱することにより行われる。
[4. 単分散球状メソポーラスカーボンの製造方法]
本発明に係る単分散球状メソポーラスカーボンの製造方法は、
(a)鋳型となる単分散球状メソポーラスシリカを作製する第1工程と、
(b)単分散球状メソポーラスシリカのメソ細孔内にカーボンを析出させ、単分散球状メソポーラスシリカ/カーボン複合体を作製する第2工程と、
(c)複合体からシリカを除去する第3工程と
を備えている。
[4.1. 第1工程(鋳型の作製)]
まず、鋳型となる単分散球状メソポーラスシリカを作製する(第1工程)。
単分散球状メソポーラスシリカの製造方法の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
[4.2. 第2工程(メソ細孔内へのカーボン析出)]
次に、単分散球状メソポーラスシリカのメソ細孔内にカーボンを析出させ、単分散球状メソポーラスシリカ/カーボン複合体を作製する(第2工程)。
メソ細孔内へのカーボンの析出は、具体的には、
(a)メソ細孔内にカーボン前駆体を導入し、
(b)メソ細孔内において、カーボン前駆体を重合及び炭化させる
ことにより行われる。
[4.2.1. カーボン前駆体の導入]
「カーボン前駆体」とは、熱分解によって炭素を生成可能なものをいう。このようなカーボン前駆体としては、具体的には、
(1) 常温で液体であり、かつ、熱重合性のポリマー前駆体(例えば、フルフリルアルコール、アニリン等)、
(2) 炭水化物の水溶液と酸の混合物(例えば、スクロース(ショ糖)、キシロース(木糖)、グルコース(ブドウ糖)などの単糖類、あるいは、二糖類、多糖類と、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸などの酸との混合物)、
(3) 2液硬化型のポリマー前駆体の混合物(例えば、フェノールとホルマリン等)、
などがある。
これらの中でも、ポリマー前駆体は、溶媒で希釈することなくメソ孔内に含浸させることができるので、相対的に少数回の含浸回数で、相対的に多量の炭素をメソ孔内に生成させることができる。また、重合開始剤が不要であり、取り扱いも容易であるという利点がある。
液体又は溶液のカーボン前駆体を用いる場合、1回当たりの液体又は溶液の吸着量は、多いほど良く、メソ孔全体が液体又は溶液で満たされる量が好ましい。
また、カーボン前駆体として炭水化物の水溶液と酸の混合物を用いる場合、酸の量は、有機物を重合させることが可能な最小量とするのが好ましい。
さらに、カーボン前駆体として、2液硬化型のポリマー前駆体の混合物を用いる場合、その比率は、ポリマー前駆体の種類に応じて、最適な比率を選択する。
[4.2.2. カーボン前駆体の重合及び炭化]
次に、重合させたカーボン前駆体をメソ孔内において炭化させる。
カーボン前駆体の炭化は、非酸化雰囲気中(例えば、不活性雰囲気中、真空中など)において、球状メソ多孔体を所定温度に加熱することにより行う。加熱温度は、具体的には、500℃以上1200℃以下が好ましい。加熱温度が500℃未満であると、カーボン前駆体の炭化が不十分となる。一方、加熱温度が1200℃を超えると、シリカと炭素が反応するので好ましくない。加熱時間は、加熱温度に応じて、最適な時間を選択する。
なお、メソ孔内に生成させる炭素量は、単分散球状メソポーラスシリカを除去した時に、カーボン粒子が形状を維持できる量以上であればよい。従って、1回の充填、重合及び炭化で生成する炭素量が相対的に少ない場合には、これらの工程を複数回繰り返すのが好ましい。この場合、繰り返される各工程の条件は、それぞれ、同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。
また、充填、重合及び炭化の各工程を複数回繰り返す場合、各炭化工程は、相対的に低温で炭化処理を行い、最後の炭化処理が終了した後、さらにこれより高い温度で、再度、炭化処理を行っても良い。最後の炭化処理を、それ以前の炭化処理より高い温度で行うと、複数回に分けて細孔内に導入されたカーボンが一体化しやすくなる。
[4.3. 第3工程(鋳型の除去)]
次に、複合体から鋳型であるシリカを除去する(第3工程)。これにより、単分散球状炭素多孔体が得られる。
シリカの除去方法としては、具体的には、
(1) 複合体を水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液中で加熱する方法、
(2) 複合体をフッ化水素酸水溶液でエッチングする方法、
などがある。
[5. 触媒担持カーボンの製造方法]
本発明に係る触媒担持カーボンの製造方法は、
(a)単分散球状メソポーラスカーボンを作製する第1工程と、
(b)単分散球状メソポーラスカーボン及び触媒前駆体を溶媒中に分散させ、還元剤を用いて液相還元する第2工程と
を備えている。
[5.1. 第1工程(担体の作製)]
まず、担体となる単分散球状メソポーラスカーボンを作製する(第1工程)。単分散球状メソポーラスカーボンの製造方法の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
[5.2. 第2工程(液相還元)]
次に、単分散球状メソポーラスカーボン及び触媒前駆体を溶媒中に分散させ、還元剤を用いて液相還元する(第2工程)。これにより、単分散球状メソポーラスカーボンからなる担体の表面に触媒粒子が担持された触媒担持カーボンが得られる。
触媒前駆体は、作製しようとする触媒粒子の組成に応じて最適なものを選択するのが好ましい。また、還元剤は、使用する触媒前駆体の種類に応じて最適なものを選択するのが好ましい。
触媒前駆体としては、例えば、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物、ジニトロジアンミン白金(II)、ヘキサアンミン白金(IV)塩化物、テトラアンミン白金(II)塩化物、ビス(アセチルアセトナト)白金(II)等のPt化合物などがある。
還元剤としては、例えば、エタノール、メタノール、ギ酸、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、エチレングリコール、プロピレングリコールなどがある。
[6. 作用]
メソポーラスカーボンを担体に用いて、湿式法により触媒粒子を担持させる場合、一般に、メソポーラスカーボンの細孔径が小さくなるほど、触媒粒子の粒径が小さくなる。これは、細孔径が小さいほど、比表面積が大きくなり、担持起点が増えるためと考えられる。
そのため、担体として細孔径の小さいメソポーラスカーボンを用いると、保水性の高い電極触媒が得られる。このような電極触媒は、低湿度環境下では高い性能を示すが、高湿度環境下での性能に劣る。
一方、担体として細孔径の大きいメソポーラスカーボンを用いると、物質移動特性の優れた電極触媒が得られる。このような電極触媒は、高湿度環境下では高い性能を示すが、低湿度環境下での性能に劣る。
これに対し、細孔径の異なる2種類の単分散球状メソポーラスカーボンに、それぞれ、触媒粒子を担持させ、得られた2種類の触媒担持カーボンを所定の比率で配合すると、低湿度環境下での性能と高湿度環境下での性能を両立させることができる。
また、担体として単分散球状メソポーラスカーボンを用いると、両者の均一混合が容易であるため、触媒層内の場所による組成バラツキ、及びこれに起因する性能バラツキが抑制される。
さらに、触媒粒子は単分散球状メソポーラスカーボンの細孔内に担持される割合が高いので、触媒層アイオノマによる被毒も抑制される。
(実施例1〜2、比較例1〜2)
[1. 試料の作製]
[1.1. 第1触媒担持カーボン(空気極触媒)の作製]
[1.1.1. 単分散球状メソポーラスシリカ(第1鋳型)の作製]
ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド:14.1g、及び1規定水酸化ナトリウム溶液:13.7mLを、水:1970g、及びメタノール:1216gからなる混合溶液に添加した。この混合溶液にテトラエトキシシラン:14.5gを添加したところ、しばらくしてから溶液が白濁し、粒子が合成できたことが確認できた。界面活性剤のモル濃度は0.0125mol/L、シリカ源のモル濃度は0.0198mol/Lであった。
8時間室温で攪拌後、濾過し、残渣を水:1Lに再分散した。再び濾過後、残渣を45℃のオーブンで乾燥させた。乾燥した試料:10gを、2規定塩酸:300mLに分散後、オートクレーブ中、130℃で3日間加熱した。オートクレーブ処理後の試料を濾過・洗浄した後、試料を550℃で焼成することにより、有機成分を除去し、単分散球状メソポーラスシリカ(第1鋳型)を得た。
[1.1.2. 小細孔径の単分散球状メソポーラスカーボン(第1担体)の作製]
PFA製容器(容量15mL)に第1鋳型:0.5gを入れ、フルフリルアルコール(FA)を細孔容量分だけ加えて、第1鋳型の細孔内に浸透させた。これを150℃×24h熱処理することにより、FAを重合させた。さらに、これを窒素雰囲気中で500℃×6h熱処理し、FAの炭素化を進めた。これを2回繰り返した後、窒素雰囲気中で900℃×6h熱処理して、単分散球状メソポーラスシリカ/カーボン複合体を得た。
この複合体を12%HF溶液に12h浸漬し、シリカ成分を溶解した。溶解後、ろ過、洗浄を繰り返し、さらに45℃で乾燥して、小細孔径の単分散球状メソポーラスカーボン(第1担体)を得た。
[1.1.3. Pt触媒の担持]
第1担体とPt前駆体とを水系溶媒に分散させた。次いで、還元剤を用いた液相還元により、Ptを第1担体の表面に担持させた。得られた第1触媒担持カーボンのPt担持率は、30〜32wt%であった。
[1.2. 第2触媒担持カーボン(空気極触媒)の作製]
オートクレーブ処理の温度を150℃とした以外は、第1触媒担持カーボンと同様にして、単分散球状メソポーラスシリカ(第2鋳型)の作製、大細孔径の単分散球状メソポーラスカーボン(第2担体)の作製、及び、Pt触媒の担持を行った。第2触媒担持カーボンのPt担持率は、30〜32wt%であった。
[1.3. 燃料極触媒の作製]
空気極触媒と同様の方法を用いて、Ptをカーボンブラックの表面に担持させ、燃料極触媒を得た。
[1.4. 電極(触媒層)シートの作製]
触媒とアイオノマ(D2020)を溶媒中に分散させたインクを作製し、インク塗工機によってポリテトラフルオロエチレンシートにインクを塗工した。それを乾燥させた後、1cm2角に切り出し、電極シートとした。空気極及び燃料極のいずれも、Pt目付量を0.12〜0.14mg/cm2とし、アイオノマの炭素に対する重量比(I/C比)を1.0とした。
なお、空気極側の電極シートについては、第1触媒担持カーボンの重量分率は、50%(実施例1)、33%(実施例2)、100%(比較例1)、又は0%(比較例2)とした。表1に、空気極の詳細を示す。
Figure 2020155348
[1.5. MEAの作製]
フッ素系樹脂からなる電解質膜を空気極電極シートと燃料極電極シートで挟み、加熱プレスにより膜に電極シートを接合した。接合後、MEAからポリテトラフルオロエチレンシートを剥がした。
MEAを1cm2用角セルに組み付けた。さらに、MEAの両側に、拡散層及び集電体を配置した。拡散層には、カーボンペーパ(マイクロポーラスレイヤ付)を用いた。集電体には、流路一体型金メッキ銅板(流路:0.4mmピッチの直線流路)を用いた。
[2. 試験方法]
[2.1. 担体の構造]
[2.1.1. TEM観察]
第1担体及び第2担体のTEM観察を行った。
[2.1.2. 細孔分布]
第1担体及び第2担体の窒素吸着等温線を測定した。得られた吸着側のデータをBJH法で解析し、細孔分布を求めた、
[2.2. 発電性能及び電極特性の評価]
まず慣らし運転を行い、その後、発電性能と空気極の各特性(Ptの電気化学有効面積(ECSA)、酸素移動抵抗)とを評価した。以下に、評価内容の詳細を記す。
[2.2.1. 慣らし運転]
発電電圧掃引で、燃料電池の慣らし運転を行った。条件は、以下の通りである。
セル温度/相対湿度(両極):60℃/80%RH
空気極ガス:Air、1000mL/min、大気圧
燃料極ガス:H2、500mL/min、大気圧
電圧掃引:掃引範囲0〜1000mV、掃引速度10mV/sで20サイクル
[2.2.2. 発電性能評価]
電流掃引で、電流−電圧曲線(I−V曲線)を測定した。セル抵抗補正を行うため、電流掃引と同時にセル抵抗を測定した。測定条件は、以下の通りである。
セル温度/相対湿度(両極):60℃/80%RH、及び82℃/30%RHの2条件
空気極ガス:Air、2000mL/min、50kPa−G
燃料極ガス:H2、500mL/min、30kPa−G
電流掃引:開回路電圧から−0.1Vになるまで、10mA/(s・cm2)で掃引を3回実施
セル抵抗測定周波数:10kHz
[2.2.3. Ptの電気化学有効面積(ECA)]
COストリッピングにより、ECAを測定した。測定条件は、以下の通りである。
セル温度/相対湿度(両極):60℃/80%RH、及び82℃/30%RHの2条件
空気極ガス:5%CO/N2、400mL/min
燃料極ガス:10%H2/N2、1000mL/min
電圧掃引:115mVから1000mVに掃引速度20mV/sで2サイクル。各サイクルにおいて、1000mVで2分間保持した。
[2.2.4. 酸素移動抵抗]
一定の酸素分圧で、空気極の全圧を110〜150kPaの範囲で変えて限界電流を測定した。以下の式(1)で全酸素移動抵抗を求め、全圧に対して全酸素移動抵抗をプロットし、得られる直線の全圧ゼロにおける切片を触媒層内の酸素移動抵抗とした。
酸素移動抵抗[s/m]=C(O2)/{ilim/4F} ・・・(1)
但し、
C(O2)は、酸素濃度[molm-3]、
limは、限界電流[Cs-1-2]、
Fは、ファラデー定数[Cmol-1]。
ここで、酸素濃度は、酸素分圧から気体の状態方程式(式(2))を用いて求めた。
C(O2)[molm-3]=p(O2)[Pa]/{R×T[K]} ・・・(2)
但し、
P(O2)は、酸素分圧[Pa]、
Rは、気体定数(8.31[m2kgs-2-1mol-1])、
Tは、セル温度[K]。
測定条件は、以下の通りである。
酸素分圧:1.5kPa
空気極ガス:Air(66mL/min)+N2(0.809〜1.180mL/min)
燃料極ガス:H2、0.5L/min
背圧:8.7〜48.7kPa−G(両極)
電圧掃引:100mVから900mVに掃引速度10mV/sで2サイクル
[3. 結果]
[3.1. 担体の構造]
図1(A)に、第1担体のSEM像を示す。図1(B)に、第2担体のSEM像を示す。図2に、第1担体及び第2担体の細孔径分布を示す。表2に、第1担体及び第2担体の平均粒子直径、単分散度、細孔径の最頻出ピーク値、及び、最頻出ピークの半値半幅を示す。図1〜2、及び表2より、以下のことが分かる。
(1)第1担体及び第2担体のいずれも、粒子径は200nm前後である。
(2)第1担体及び第2担体のいずれも、単分散性が高い。
(3)第1担体及び第2担体の細孔径の最頻出ピーク値は、それぞれ、2.8nm及び4.8nmであった。
(4)第1担体及び第2担体の細孔径の最頻出ピークの半値全幅は、それぞれ、1.9nm及び3.1nmであり、いずれも分布が狭く、細孔径がそろっていることが分かる。
Figure 2020155348
[3.2. 発電性能及び電極特性]
[3.2.1. I−V曲線]
図3(A)に、温度:82℃、湿度:30%RHでの電流−電圧曲線(I−V曲線)を示す。図3(B)に、温度:60℃、湿度:80%RHでの電流−電圧曲線(I−V)曲線を示す。図4に、低湿度下及び高湿度下における電流密度2A/cm2でのIR補正電圧の重量分率依存性を示す。図4は、IR補正電圧が高いほど、セル性能が高いことを示す。
図4より、第1触媒担持カーボンの重量分率を増やすことによって、温度:82℃、湿度:30%RHの低加湿下のセル性能が大幅に向上することが分かる。他方、その背反として、温度:60℃、湿度:80%RHの高加湿下のセル性能が下がるが、その程度は小さいことが分かる。これらの結果から、第1触媒担持カーボンの重量分率を30〜70%にした場合、低加湿下及び高加湿下の双方で高いセル性能を示すことが分かる。
[3.2.2. 空気極特性]
図5に、温度:82℃、湿度:30%RHにおける空気極のPt利用率を示す。図5中、Pt利用率は、温度:60℃、湿度80%RHにおけるPtのECAに対する、温度:82℃、湿度:30%RHにおけるPtのECAの比を表す。図5より、比較例2以外は、空気極のPt利用率が88%以上と高いことが分かる。比較例2以外は、空気極に小細孔径の第1触媒担持カーボンを用い、その重量分率が33%以上である。従って、第1触媒担持カーボンの重量分率が33%以上の場合、低加湿下でも有効に働くPtが多く、そのため高いセル性能を示すと考えられる。
図6に、温度:60℃、湿度:80%RHにおける空気極の分子拡散以外の酸素移動抵抗(Rother)を示す。図6より、実施例1及び実施例2のRotherが比較例1のそれより低く、かつ、比較例2のそれより高いことが分かる。これは、第1担体の細孔径が第2担体のそれより小さく、細孔内のクヌーセン抵抗が高くなり、第1触媒担持カーボンの重量分率を増加させるに従って、Rotherが増加する傾向となったためと考えられる。この傾向により、前述のように高加湿下での性能は、比較例2>実施例1、2>比較例1となっているが、比較例2と実施例1、2との差は小さい。
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
本発明に係る空気極触媒層は、固体高分子形燃料電池の空気極側の触媒層として用いることができる。

Claims (6)

  1. 以下の構成を備えた空気極触媒層。
    (1)前記空気極触媒層は、
    第1担体の表面に第1触媒粒子が担持された第1触媒担持カーボンと、
    第2担体の表面に第2触媒粒子が担持された第2触媒担持カーボンと、
    触媒層アイオノマと
    を備えている。
    (2)前記第1担体は、最頻出細孔径が2.0nm以上3.0nm以下である第1単分散球状メソポーラスカーボンからなる。
    (3)前記第2担体は、最頻出細孔径が3.5nm以上5.0nm以下である第2単分散球状メソポーラスカーボンからなる。
  2. 前記第1触媒担持カーボンと前記第2触媒担持カーボンの総重量(Wt)に対する前記第1触媒担持カーボンの重量(W1)の割合(=W1×100/Wt)は、30%以上70%以下である請求項1に記載の空気極触媒層。
  3. 次の式(1)及び式(2)の関係を満たす請求項1又は2に記載の空気極触媒層。
    50nm≦D1≦300nm …(1)
    0.95≦D1/D2≦1.05 …(2)
    但し、
    1は、前記第1担体の平均径、
    2は、前記第2担体の平均径。
  4. 厚さが5μm以上10μm以下である請求項1から3までのいずれか1項に記載の空気極触媒層。
  5. 前記第1触媒担持カーボン及び前記第2触媒担持カーボンの触媒担持率は、それぞれ、20wt%以上60wt%以下である請求項1から4までのいずれか1項に記載の空気極触媒層。
  6. 請求項1から5までのいずれか1項に記載の空気極触媒層を備えた固体高分子形燃料電池。
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