以下、添付の図面を参照しながら、本発明の各実施形態について説明する。各実施形態に記載されている構成要素はあくまでも例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。図面は、あくまでも模式的に示したものである。図面においては、容易に理解が可能となるように、必要に応じて各部の寸法および数が誇張または簡略化されて図示されている場合がある。また、図面においては、同様な構成および機能を有する部分に対して同じ符号が付されており、重複した説明が適宜省略されている。
また、本明細書では、相対的または絶対的な位置関係を示す表現(例えば「平行」「直交」「中心」など)は、特に断らない限り、その位置関係を厳密に表すのみならず、公差も含む状態を表すとともに、同程度の機能が得られる範囲で相対的に角度または距離に関して変位された状態も表すものとする。2つ以上のものが等しい状態であることを示す表現(例えば「同一」「等しい」「均質」など)は、特に断らない限り、定量的に厳密に等しい状態を表すのみならず、公差もしくは同程度の機能が得られる差が存在する状態も表すものとする。形状を示す表現(例えば「四角形状」または「円筒形状」など)は、特に断らない限り、幾何学的に厳密に形状を表すのみならず、同程度の効果が得られる範囲で、例えば凹凸または面取りなどを有する形状も表すものとする。1つの構成要素を「備える」「具える」「具備する」「含む」または「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的表現ではない。「〜の上」という表現は、特に断らない限り、2つの要素が接している状態のほか、2つの要素が他の要素を挟んで離れている状態も含む表現である。
<1.第1実施形態>
図1は、第1実施形態の半導体検査装置1の全体構成を概略的に示す図である。図2は、第1実施形態の半導体試料9を示す概略断面図である。
半導体検査装置1は、半導体試料9を検査するための装置である。半導体試料9は、例えば、半導体層90と絶縁層92との界面98を有する。具体的には、半導体試料9は、平板状の形状を有し、半導体層90と、この半導体層90上に位置している絶縁層92と、を含む積層構造を有する。半導体層90の材料には、例えば、Si(シリコン)、Ge(ゲルマニウム)、GaAs(ガリウムヒ素)、SiC(炭化シリコン)またはGaN(窒化ガリウム)などが適用される。絶縁層92の材料には、SixOy(酸化シリコン、x>0、y>0)、SixNy(窒化ケイ素)またはAlOx(酸化アルミニウム)などが適用される。以下の説明では、主に、半導体層90がn型のシリコン基板(n型Si基板ともいう)であり、絶縁層92がSixOyの熱酸化膜である例について説明する。なお、半導体層90には、例えば、4H−SiC基板などが適用されてもよい。
第1実施形態では、絶縁層92のうちの半導体層90とは逆側に位置する面(第1主面ともいう)9u上に第1電極94が位置している。また、半導体層90のうちの絶縁層92とは逆側に位置する面(第2主面ともいう)9b上に第2電極96が位置している。ここでは、半導体試料9は、上から順に、第1電極94と、絶縁層92と、半導体層90と、第2電極96と、が積層されている積層構造を有する。換言すれば、半導体試料9は、導電性を有する第1電極94と、絶縁層92と、半導体層90と、がこの記載の順に積層されている構造を有する。このため、半導体試料9は、金属と絶縁体と半導体とからなる3層が積層された構造(MIS構造ともいう)あるいは金属と酸化物と半導体とからなる3層が積層された構造(MOS構造ともいう)と同様な機能を有する構造を含む。ここで、例えば、半導体試料9がMOSFETの構造に適用される場合には、第1電極94は、ゲート電極として使用される。
第1電極94には、透光性を有する電極(透明電極ともいう)が適用される。透明電極には、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)または酸化スズ(SnO2)系を主材料とする透明な導電性を有する膜(透明導電膜ともいう)が適用される。第2電極96には、例えば、アルミニウム(Al)などの優れた導電性を有する金属を主成分とする電極が適用される。第2電極96は、透光性を有していてもよいし、透光性を有していなくてもよい。
半導体検査装置1は、例えば、光照射部10および電磁波検出部20を有する。また、半導体検査装置1は、例えば、ステージ30、ステージ移動部35、電圧印加部40および制御部50を有する。半導体検査装置1は、例えば、ステージ30に保持された半導体試料9に、光照射部10からの検査光LP10を照射して、半導体試料9から放射される電磁波LT1の強度を電磁波検出部20で検出することができる。ここで、半導体検査装置1の各部の一例について説明する。
<光照射部10>
光照射部10は、半導体試料9から電磁波LT1を放射させるための所定の波長領域の検査光LP10を半導体試料9に照射することができる。ここで、半導体試料9から放射される電磁波LT1は、周波数が0.1THz(テラヘルツ)から10THzの帯域の電磁波(テラヘルツ波ともいう)を含む。
図1で示されるように、光照射部10は、例えば、フェムト秒レーザ12を有する。フェムト秒レーザ12は、数kHz(キロヘルツ)から数十MHz(メガヘルツ)の繰り返し周波数と、10fs(フェムト秒)から150fs程度のパルス幅と、を有する直線偏光であり、200nm(ナノメートル)から2.5μm(マイクロメートル)程度の紫外光領域から赤外光領域の波長に含まれる波長領域のパルス光LP1を出力することができる。
また、光照射部10は、例えば、ビームスプリッタ14を有する。ビームスプリッタ14は、パルス光LP1の光路上に設けられており、パルス光LP1を2つのパルス光に分割する。2つのパルス光は、波長変換器16に導かれる第1のパルス光LP1と、電磁波検出部20に導かれる参照光としての第2のパルス光LP12と、を含む。
また、光照射部10は、例えば、波長変換器16を有する。波長変換器16は、ビームスプリッタ14から出力された第1のパルス光LP1の光路上に位置しており、制御部50からの制御指令に基づいて、第1のパルス光LP1の波長領域を他の波長領域に変換することができる。波長変換器16から出力されるパルス光は、検査光LP10として半導体試料9に導かれる。波長変換器16による波長の変換方式については、特に限定されないが、例えば、第2次高調波発生または第3次高調波発生を起こす非線形光学結晶を用いた波長の変換方式が適用され得る。波長変換器16は、例えば、パルス光LP1の波長の変換を行わずに、元のパルス光LP1の波長を有する、検査光LP10を出力してもよい。また、光照射部10は、波長変換器16を有していなくてもよい。
検査光LP10は、不図示の光学系によって1点に集光されて、半導体試料9に対してスポット状に照射される。これにより、光照射部10は、所定の波長領域のパルス光としての検査光LP10を半導体試料9に照射することができる。所定の波長領域は、光照射部10の設定によって適宜変更され得る。半導体試料9において検査光LP10が照射される領域の径(スポット径ともいう)は、例えば、1μmから10mm程度とされるが、これに限定されるものではない。ここでは、光照射部10は、第1電極94上に検査光LP10を照射する。このため、例えば、第1電極94が透明電極であれば、半導体層90と絶縁層92との界面98に検査光LP10を照射する際に、第1電極94によって検査光LP10が遮られにくい。これにより、例えば、半導体層90から放射される電磁波LT1の強度が大きくなり得る。その結果、例えば、電磁波LT1の強度の時間変化をより精度良く検出することが可能となる。
半導体試料9のような半導体試料においてテラヘルツ波が発生する原理については、例えば、国際公開第2006/093265号に記載されている。フェムト秒パルスレーザー光としての検査光LP10が半導体試料9に照射されると、光励起によってキャリア(光励起キャリアともいう)が半導体試料9内で生成される。この光励起キャリアは、半導体試料9の表面電場およびpn接合部などによる内部電界ならびに拡散によって加速されることで、パルス状の過渡電流が発生する。この過渡電流によって、電磁波LT1を放射する効果(過渡電流効果ともいう)を生じる。この電磁波LT1は、内部電界の向きおよび強さに依存して発生するため、この電磁波LT1を分析することで、半導体試料9の特性を検査することができる。
例えば、半導体層90のうちの絶縁層92との界面98の近傍(表層部)は、半導体層90の内部とは異なるエネルギー状態を有するが、平衡状態では半導体層90の界面98の近傍(表層部)と半導体層90の内部との間でフェルミ準位が同一となるため、界面98の近傍でキャリアの移動が起こる。このキャリアの移動によって、界面98の近傍ではバンド構造が曲がり、表面電位が生じる。この表面電位によって光励起キャリアが加速されることで過渡電流が生じて、テラヘルツ波を含む電磁波が発生する。このようなメカニズムで電磁波を発生させるモデルは、例えば、「表面電場モデル」とも称される。
一方、例えば、半導体層90における絶縁層92との界面98の近傍(表層部)において、光励起キャリアが発生すると、半導体層90の界面98の近傍(表層部)から半導体層90の内部に向けて、キャリアの濃度の差に起因するキャリアの拡散が生じる。このとき、光励起キャリアとしての電子と正孔との間で、移動度の差に起因する過渡電流が生じて、テラヘルツ波を含む電磁波が発生する。このようなメカニズムで電磁波を発生させるモデルは、例えば、「光デンバーモデル」とも称される。
ここで、半導体試料9に照射される検査光LP10の波長は、第1電極94を透過して、半導体層90と絶縁層92との間の界面98に到達する波長とされる。また、検査光LP10の光子エネルギーは、半導体試料9の半導体層90のバンドギャップ近傍以上のエネルギーとされる。そして、例えば、界面98から半導体層90の内部へ検査光LP10が侵入する距離(侵入長ともいう)が短ければ短い程、半導体層90の界面98の近傍のごく浅い領域(表層部ともいう)において光励起キャリアが高密度で発生し、光デンバーモデルに従った過渡電流の発生に起因する電磁波が発生しやすくなる。このため、半導体層90としてSi基板を用いる場合には、例えば、検査光LP10の波長が約280nmであれば、Si基板への光の侵入長が比較的短い約4nmとなる。そこで、第1実施形態では、例えば、検査光LP10の波長として、約280nmが採用される。
<電磁波検出部20>
電磁波検出部20は、電磁波検出器22を有する。電磁波検出器22は、例えば、光伝導アンテナ(光伝導スイッチともいう)を有する。電磁波検出器22には、参照光LP12が照射される。
光伝導アンテナには、例えば、ダイポール型、ボウタイ型またはスパイラル型の光伝導アンテナなどが適用される。ここで、光伝導アンテナとして、ダイポール型の光伝導アンテナが用いられる例を挙げて説明する。ダイポール型の光伝導アンテナは、光が入射したときに電子および正孔を生成する光伝導膜と、光伝導膜上に平行に形成された金属製の一対の平行伝送線(電極)と、を有する。さらに、一対の平行伝送線は、それぞれの中央部から互いに接近する方向に延びてギャップを形成している出っ張り部(アンテナ)を有する。また、一対の平行伝送線間には、電流計が位置している。
ここで、アンテナ間のギャップに参照光LP12を照射すると、光伝導膜において光励起キャリアが生成される。このとき、光励起キャリアが生成されても、電磁波LT1が入射していない状態では、ギャップ間に電位差が生じていないため、平行伝送線間に電流は発生しない。これに対して、電磁波LT1が参照光LP12と重なるタイミングで入射すると、電磁波LT1の強度に比例した電位差がギャップ間に瞬時的に発生し、ギャップ間に電流が瞬時的に発生する。この電流値は、図示しないロックインアンプおよびA/D変換回路などを介して適宜デジタル量に変換される。電磁波LT1の強度には、例えば、電界強度が適用される。電磁波LT1の強度には、磁界強度などが適用されてもよい。
このように、電磁波検出器22は、光伝導アンテナを有することで、参照光LP12が入射するタイミングに応じて、半導体試料9が放射する電磁波LT1の強度を検出することができる。なお、電磁波検出器22が有する電磁波LT1を検出する構成としては、光伝導アンテナを含む構成に限定されるものではなく、例えば、非線形光学結晶を用いた構成が採用されてもよい。
また、電磁波検出部20は、遅延部24を有する。遅延部24は、参照光LP12に時間遅延を与える光学遅延素子である。遅延部24は、遅延ステージ240と遅延ステージ移動部242とを含む。
遅延ステージ240は、ビームスプリッタ14から電磁波検出器22までの間の参照光LP12の光路上に位置している。遅延ステージ240は、参照光LP12を反射する反射ミラー240Mを有する。反射ミラー240Mは、反射ミラー240Mに参照光LP12が入射する光路と、反射ミラー240Mから参照光LP12が出射される光路とが、参照光LP12が反射ミラー240Mに対して入射される方向(入射方向ともいう)と平行で且つ入射方向に直交する方向に相互にずれるように、参照光LP12を反射する。反射ミラー240Mで反射した参照光LP12は、この参照光LP12の光路上に位置しているミラー群を介して、電磁波検出器22に導かれる。
遅延ステージ移動部242は、遅延ステージ240を、反射ミラー240Mに対する参照光LP12の入射方向に沿って往復移動させる。遅延ステージ240の往復移動により、ビームスプリッタ14から電磁波検出器22に至るまでの参照光LP12の光路長が変化するため、参照光LP12が電磁波検出器22に到達するタイミングを変更することができる。これによって、電磁波検出器22が電磁波LT1を検出するタイミングが変更される。電磁波LT1はパルス波であるが、参照光LP12に遅延を与えることで、電磁波検出部20は、電磁波LT1の強度を、電磁波LT1の異なる複数の位相についてそれぞれ検出することができる。換言すれば、電磁波検出部20は、半導体試料9から放射されるテラヘルツ波を含む電磁波LT1の強度の時間変化を検出することができる。
なお、参照光LP12に時間遅延を与える代わりに、検査光LP10に時間遅延を与えることで、電磁波検出部20が電磁波LT1の強度を検出するタイミングを変更してもよい。この場合には、例えば、ビームスプリッタ14から半導体試料9に至る検査光LP10の光路上に、検査光LP10の光路長を変更することが可能な、遅延ステージ240と同様な構成を有する遅延ステージを配置してもよい。このように、検査光LP10に時間遅延を与えることによって、半導体試料9から電磁波LT1が発生するタイミングを遅延させることができる。これにより、電磁波LT1が電磁波検出器22に到達するタイミングを、参照光LP12が電磁波検出器22に入射するタイミングに対して相対的に早めたり、あるいは、遅延させたりすることができる。
<ステージ30>
ステージ30は、例えば、水平面に平行な保持面を有する。ステージ30は、この保持面上において、図2で示されるように、半導体試料9を第2電極96側から支持することができる。これにより、半導体試料9は、第1電極94側に検査光LP10が入射するように保持される。また、検査光LP10は、半導体試料9の第1電極94の表面に対して斜めに入射する。ここでは、第1電極94の表面に対する検査光LP10の入射角を、45度としているが、これは必須ではなく、0度から90度の範囲内で任意に設定してもよい。このステージ30は、半導体試料9を保持する構成として、例えば、半導体試料9の縁部などを挟み持つ挟持具、半導体試料9を保持面に接着させる粘着部材(例えば、粘着性シート)、または半導体試料9を吸着する吸着孔を有していてもよい。
<ステージ移動部35>
ステージ移動部35は、例えば、制御部50からの制御指令に応じて、光照射部10および電磁波検出部20に対して、ステージ30を、このステージ30の半導体試料9を保持する保持面に平行な水平面内で移動させることができる。ステージ移動部35には、例えば、リニアモータまたはボールネジなどを用いた駆動機構を含むXYテーブルが適用され得る。ステージ移動部35の動作によってステージ30を移動させることで、半導体試料9に対する検査光LP10の入射位置を変更することができる。第1実施形態では、制御部50の制御指令に応じてステージ移動部35がステージ30を移動させることによって、半導体試料9の表面が検査光LP10で走査される。なお、半導体検査装置1は、例えば、検査光LP10の光路を変更するガルバノミラーなどの光学素子を有していてもよい。このように、検査光LP10の光路を変更させることによっても、半導体試料9に対する検査光LP10の入射位置を変更することができる。
<電圧印加部40>
電圧印加部40は、例えば、プローブピン42と、電圧可変電源44と、を有する。電圧印加部40は、半導体試料9の第1電極94に対してプローブピン42を介して電気的に接続可能であり、第2電極96に対してステージ30に設けられた導電性の電極部材(不図示)を介して電気的に接続可能である。電圧可変電源44は、プローブピン42およびステージ30に設けられた電極部材を介して、第1電極94と第2電極96との間に所定の電圧(以下、電極間電圧ともいう)を印加することができる。換言すれば、電圧印加部40は、第1電極94と第2電極96とに電気的に接続されている状態で、第1電極94と第2電極96との間に電圧を付与することができる。これにより、電圧印加部40は、半導体試料9における、半導体層90と、絶縁層92のうちの半導体層90の逆側の部分(被電位付与部ともいう)としての第1主面9uと、の間に電圧を印加することができる。その結果、例えば、半導体試料9に対して所望の電圧を容易に印加することができる。
また、電圧可変電源44は、印加する電極間電圧を、制御部50からの制御指令に応じて変更可能とされている。このため、電圧印加部40は、半導体試料9における、半導体層90と、被電位付与部としての第1主面9uと、の間に複数の電圧をそれぞれ印加することができる。これにより、電磁波検出部20は、複数の電圧がそれぞれ印加されている半導体試料9から放射されるテラヘルツ波を含む電磁波LT1の強度の時間変化を検出することができる。
なお、ここで、例えば、半導体試料9がMOSFETの構造に適用される場合には、電極間電圧は、ゲート電圧とも称する。
<制御部50>
図3は、第1実施形態の半導体検査装置1における制御部50と他の要素との接続関係を示すブロック図である。制御部50は、電気回路としての中央演算ユニット(Central Processing Unit:CPU)50a、ROM(Read only memory)50bおよびRAM(Random Access Memory)50cなどを含む一般的なコンピュータとしての構成を有する。制御部50は、半導体検査装置1の各要素(フェムト秒レーザ12、波長変換器16、電磁波検出器22、遅延ステージ移動部242、ステージ移動部35、電圧印加部40など)に接続されている。
また、制御部50には、例えば、各種情報を表示する表示部60、キーボードおよびマウスなどの各種入力デバイスを含む操作部62、ならびに各種情報を記憶する記憶部64が接続されている。記憶部64は、例えば、プログラムPG1および各種情報が記憶されるハードディスクなどの固定ディスクを含む。プログラムPG1は、半導体検査装置1の各要素の動作を制御するための制御アプリケーションのほか、データ加工などの処理を実行するためのソフトウェアアプリケーションを含む。換言すれば、プログラムPG1は、制御部50によって実行されることで、半導体検査装置1における各種の機能を実現させることができる。
なお、制御部50は、例えば、光学メディア、磁気メディア、半導体メモリなどの可搬性を有する各種記憶媒体からプログラムPG1および各種情報を読み取ることが可能な読取装置を有していてもよいし、ネットワークを介して他のコンピュータとプログラムPG1および各種情報を送受信する通信部を有していてもよい。
制御部50のCPU50aは、プログラムPG1に従って動作することで実現される機能として、条件設定部51、検出制御部52、時間波形復元部53、光デンバー波認識部54および時間波形補正部55を有する。これらの各部51〜55での処理におけるワークスペースとして、例えば、RAM50cなどが使用される。なお、CPU50aで実現される機能的な構成の少なくとも一部の機能は、例えば、専用の電子回路などのハードウェアで構成されてもよい。
条件設定部51は、例えば、プログラムPG1または操作部62から入力される情報に基づいて、半導体検査装置1における検査に係る各種の条件を設定することができる。
検出制御部52は、例えば、プログラムPG1または操作部62から入力される情報に基づいて、半導体検査装置1の各要素(フェムト秒レーザ12、波長変換器16、電磁波検出器22、遅延ステージ移動部242、ステージ移動部35、電圧印加部40など)に制御指令を出力することで、各要素の動作を制御することができる。ここでは、例えば、遅延ステージ240を動作させて参照光LP12に時間遅延を適宜与えることで、電磁波検出器22に、電磁波LT1の強度を複数の異なる位相ごとに検出させることが可能となる。また、例えば、電圧印加部40によって、第1電極94と第2電極96との間に印加する電極間電圧を切り替えつつ、電磁波検出器22によって、電磁波LT1の強度を複数の異なる位相ごとに検出することができる。これにより、電磁波検出器22は、複数の電圧がそれぞれ印加されている半導体試料9から放射される電磁波LT1の強度の時間変化を検出することができる。電磁波検出器22で検出された電磁波LT1の強度を示す信号は、制御部50に入力される。
時間波形復元部53は、例えば、電磁波検出器22で検出された電磁波LT1の強度と、その電磁波LT1が検出された際の位相に係る情報と、に基づき、電磁波LT1の時間波形を復元することができる。例えば、時間波形復元部53は、電磁波検出器22で検出された、複数の異なる位相(時間)に応じた各電界強度から、電磁波LT1を示す波形(時間波形)を復元することができる。第1実施形態では、時間波形復元部53は、第1電極94と第2電極96との間に印加した電極間電圧ごとに、電磁波検出器22で検出された電磁波LT1の強度に基づき、電磁波LT1の時間波形を復元することができる。ここで復元される電磁波LT1の時間波形は、複数の電圧がそれぞれ印加されている半導体試料9から放射されるテラヘルツ波を含む電磁波LT1の強度の時間変化を示す。
光デンバー波認識部54は、時間波形復元部53において第1電極94と第2電極96との間に印加した電極間電圧ごとに復元された時間波形に基づいて、光デンバーモデルに従って生じる電磁波としての光デンバー波成分の割合が最も高い電磁波LT1の強度の時間変化を認識することができる。この光デンバー波成分は、半導体層90において検査光LP10の照射に応じた光励起で生じる光励起キャリアとしての電子および正孔の拡散における電子と正孔との速度差による過渡電流に応じて放射されるテラヘルツ波を含む電磁波の成分である。
時間波形補正部55は、電磁波LT1を示す時間波形に対して、光デンバー波成分を低減する処理(補正処理ともいう)を施すことができる。これにより、例えば、時間波形復元部53において第1電極94と第2電極96との間に印加した電極間電圧ごとに復元された時間波形のうち、光デンバー波成分が低減された、表面電場モデルに従って生じた電磁波の成分(表面電場波成分ともいう)に着目した評価が可能となる。
<2.電極間電圧に応じた電磁波の強度の時間変化>
図4および図5は、半導体検査装置1で検出される電磁波の時間波形を例示する図である。ここでは、半導体層90としてのn型Si基板上に膜厚が約90nmである絶縁層92としての熱酸化膜を形成し、この熱酸化膜上に第1電極94としての膜厚が約20nmであるITOの透明電極を成膜して形成したMOS構造を有する半導体試料9を用いた。n型Si基板の絶縁層92とは逆側の面上に第2電極96としてのAlの電極を成膜した。電圧印加部40によって第1電極94と第2電極96との間に複数の電極間電圧(ここでは、16水準の電圧)を順に付加するとともに、光照射部10によって280nmの波長、5mWの光量および約500μmのビーム径(スポット径)を有する検査光LP10を第1電極94上に照射し、遅延ステージ240によって参照光LP12に時間遅延を適宜与えつつ、半導体試料9から放射される電磁波の強度の時間変化を電磁波検出器22で検出した。ここでは、第2電極96の電位を基準として第1電極94の電位が相対的に高くなる場合を正の電圧として、−5.0V、−4.0V、−3.0V、−2.0V、−1.0V、0V、+0.5V、+1.0V、+1.5V、+2.0V、+2.2V、+2.5V、+3.0V、+4.0V、+5.0Vおよび+6.0Vの16水準の電圧を電極間電圧として用いた。
図4および図5では、電極間電圧ごとに、電磁波検出器22でそれぞれ検出された電磁波LT1の強度の時間変化について、時間波形復元部53で復元された電磁波LT1の時間波形が示されている。ここでは、電極間電圧が負の値である場合についての電磁波LT1の時間波形におけるピークの強度が正の値となるようにしている。
図4(a)には、電極間電圧が−5.0V、−1.0V、+1.5Vおよび+3.0Vである場合に電磁波検出器22でそれぞれ検出された電磁波LT1の強度の時間変化について、時間波形復元部53で復元された電磁波LT1の時間波形が示されている。具体的には、電極間電圧が−5.0Vである場合の電磁波LT1の時間波形が、太い実線で示され、電極間電圧が−1.0Vである場合の電磁波LT1の時間波形が、太い破線で示され、電極間電圧が+1.5Vである場合の電磁波LT1の時間波形が、細い実線で示され、電極間電圧が+3.0Vである場合の電磁波LT1の時間波形が、細い破線で示されている。
図4(b)には、電極間電圧が−4.0V、0V、+2.0Vおよび+4.0Vである場合に電磁波検出器22でそれぞれ検出された電磁波LT1の強度の時間変化について、時間波形復元部53で復元された電磁波LT1の時間波形が示されている。具体的には、電極間電圧が−4.0Vである場合の電磁波LT1の時間波形が、太い実線で示され、電極間電圧が0Vである場合の電磁波LT1の時間波形が、太い破線で示され、電極間電圧が+2.0Vである場合の電磁波LT1の時間波形が、細い実線で示され、電極間電圧が+4.0Vである場合の電磁波LT1の時間波形が、細い破線で示されている。
図5(a)には、電極間電圧が−3.0V、+0.5V、+2.2Vおよび+5.0Vである場合に電磁波検出器22でそれぞれ検出された電磁波LT1の強度の時間変化について、時間波形復元部53で復元された電磁波LT1の時間波形が示されている。具体的には、電極間電圧が−3.0Vである場合の電磁波LT1の時間波形が、太い実線で示され、電極間電圧が+0.5Vである場合の電磁波LT1の時間波形が、太い破線で示され、電極間電圧が+2.2Vである場合の電磁波LT1の時間波形が、細い実線で示され、電極間電圧が+5.0Vである場合の電磁波LT1の時間波形が、細い破線で示されている。
図5(b)には、電極間電圧が−2.0V、+1.0V、+2.5Vおよび+6.0Vである場合に電磁波検出器22でそれぞれ検出された電磁波LT1の強度の時間変化について、時間波形復元部53で復元された電磁波LT1の時間波形が示されている。具体的には、電極間電圧が−2.0Vである場合の電磁波LT1の時間波形が、太い実線で示され、電極間電圧が+1.0Vである場合の電磁波LT1の時間波形が、太い破線で示され、電極間電圧が+2.5Vである場合の電磁波LT1の時間波形が、細い実線で示され、電極間電圧が+6.0Vである場合の電磁波LT1の時間波形が、細い破線で示されている。
図4および図5で示されるように、電極間電圧を切り替えることで、半導体層90のうちの絶縁層92との界面98の近傍(表層部)における電場(表面電場)が変化して、半導体試料9から放射される電磁波LT1の時間波形が変化する。
<3.光デンバー波成分の占有割合が最大である電磁波の強度の時間変化の認識>
電磁波検出器22で検出される電磁波LT1の強度は、半導体層90の表面電場に起因する成分(表面電場波成分)だけでなく、光励起キャリアの拡散の速度差に起因する成分(光デンバー波成分)も含む。このため、例えば、図4および図5で示された、電極間電圧ごとに電磁波検出器22で検出された電磁波LT1の強度の時間変化は、表面電場波成分だけでなく、光デンバー波成分も含む。
図6は、半導体層90のうちの絶縁層92との界面98の近傍におけるエネルギーバンドおよび光励起キャリアの移動態様に及ぼす電圧の影響を説明するための図である。ここでは、半導体層90に、n型半導体であるn型Si基板が適用されている例を挙げて説明する。図6では、半導体層90の界面98の近傍について、フェルミ準位を示す破線Ef、価電子帯の上端のエネルギー準位を示す実線Evおよび伝導帯の下端のエネルギー準位を示す実線Ecが示されている。
例えば、電極間電圧が負の値である場合には、図6(a)で示されるように、半導体層90のうちの絶縁層92との界面98からキャリアとしての電子が遠ざけられて、界面98に近づく方向において、半導体層90のエネルギーバンドが上向きに曲がっている状態となる。この場合には、半導体層90の表層部において検査光LP10の照射に応じて生じる光励起キャリアについては、表面電場によって、電子E1が半導体層90の内部に向かって移動し、正孔H1が界面98に向かって移動する。このような表面電場で加速されるキャリアによって、過渡電流を生じて、電磁波の放射を生じる。このため、電極間電圧ごとに電磁波検出器22で検出された電磁波LT1の強度の時間変化において、表面電場波成分が占める割合が高い。
次に、例えば、電極間電圧を正の方向に変化させると、図6(b)で示されるように、ある電圧では、界面98に近づく方向において、半導体層90のエネルギーバンドがほとんど曲がっていない状態となる。この場合には、半導体層90の表層部において検査光LP10の照射に応じて生じる光励起キャリアについては、電子E1も正孔H1も半導体層90の内部に向かって移動するキャリアの拡散を生じる。このとき、電子E1と正孔H1との間におけるキャリア移動度の違いに応じた電子E1と正孔H1との間における速度差が、過渡電流を生じて、電磁波の放射を生じる。このため、電磁波検出器22で検出された電磁波LT1の強度の時間変化において、光デンバー波成分が占める割合が高い。換言すれば、この電磁波LT1の強度の時間変化においては、光デンバー波成分が支配的である。
さらに、例えば、電極間電圧が正の大きな値となると、図6(c)で示されるように、半導体層90のうちの絶縁層92との界面98側にキャリアとしての電子が引き寄せられて、界面98に近づく方向において、半導体層90のエネルギーバンドが下向きに曲がっている状態となる。この場合には、半導体層90の表層部において検査光LP10の照射に応じて生じる光励起キャリアについては、表面電場によって、電子E1が界面98に向かって移動し、正孔H1が半導体層90の内部に向かって移動する。このような表面電場で加速されるキャリアによって、過渡電流を生じて、電磁波の放射を生じる。このため、電極間電圧ごとに電磁波検出器22で検出された電磁波LT1の強度の時間変化において、表面電場波成分が占める割合が高くなる。
そこで、光デンバー波認識部54では、図6(b)で示されるように、半導体層90のエネルギーバンドがほとんど曲がっていないような状態において電磁波検出器22で検出された電磁波LT1の強度の時間変化を、光デンバー波成分が支配的な電磁波LT1の強度の時間変化として認識する。
ここでは、光デンバー波認識部54は、例えば、複数の電極間電圧のそれぞれについて電磁波検出部20で検出された複数の電磁波LT1の強度の時間変化を対象として、電磁波LT1の所定のピークの強度に係る数値と複数の電圧との関係に基づいて、光デンバー波成分が占有している割合(光デンバー波成分の占有割合ともいう)が最大である1つの電磁波LT1の強度の時間変化を認識することができる。
光デンバー波認識部54では、複数の電圧間電圧に係る複数の電磁波LT1の強度の時間変化から、光デンバー波成分の占有割合が最大である1つの電磁波LT1を認識する手法として、例えば、下記の第1認識方法または第2認識方法が適用され得る。
<3−1.第1認識方法>
光デンバー波認識部54は、例えば、複数の電極間電圧のそれぞれについて電磁波検出部20で検出された複数の電磁波LT1の強度の時間変化を対象として、電磁波LT1の強度の時間変化において所定のピークの強度を示す時間(ピーク時間、ピーク位相ともいう)と、複数の電極間電圧と、の関係に基づいて、光デンバー波成分の占有割合が最大である1つの電磁波LT1の強度の時間変化を認識することができる。
ここで、電極間電圧が負の値である場合には、所定のピークは、電磁波LT1の時間波形において電磁波LT1の強度(電界強度)が最大値を示すピークとされる。電極間電圧が正の値である場合には、所定のピークは、電磁波LT1の時間波形において、電極間電圧が負の値である場合におけるピークに対応するピークとされる。換言すれば、所定のピークは、正負の反転があるものの、電極間電圧ごとの電磁波LT1の時間波形の形状において対応するピークである。所定のピークとしては、例えば、時間波形から振幅の大きい順にピークを2か所選び、その中でピーク時間の小さい方のピークを用いることができる。
図4および図5の例では、電極間電圧が負の値である場合には、電磁波LT1の時間波形は、時間の経過(位相)に対して、一旦、負のピークを示した後に、正の所定のピークを示し、その後、負のピークを示す。また、電極間電圧が正の比較的小さな値である場合には、電磁波LT1の時間波形は、電極間電圧が負の値である場合と同様に、一旦、負のピークを示した後に、正の所定のピークを示し、その後、負のピークを示す。さらに、電極間電圧が正の比較的大きな値である場合には、電磁波LT1の時間波形は、時間の経過に対して、一旦、正のピークを示した後に、負の所定のピークを示し、その後、正のピークを示す。図4および図5では、半導体試料9に印加された各電極間電圧についての電磁波LT1の時間波形に対して、所定のピークに黒丸のドットが付されている。
図7は、図4および図5で示された電極間電圧ごとの電磁波LT1の時間波形について、半導体試料9に印加された電極間電圧と電磁波LT1の時間波形におけるピーク時間との関係を示すグラフである。
ここでは、電極間電圧が負の値から正の値に変化すると、電磁波LT1の時間波形において、表面電場波成分がゼロに近づき、表面電場波成分がゼロに到達した後に、半導体層90の表面電場において極性の反転が生じる。図7で示されるように、この半導体層90の表面電場において極性の反転が生じる電極間電圧の近傍の電圧においては、電極間電圧の変化に対して、表面電場モデルに従って電磁波を発生させるメカニズムと、光デンバーモデルに従って電磁波を発生させるメカニズムと、の違いにより、電磁波LT1の時間波形におけるピーク時間が大きく変化する。このような、電極間電圧の変化に対するピーク時間の大きな変化は、例えば、半導体層90における結晶性が高く、界面98の近傍におけるエネルギーバンドの曲がりが非常に小さい条件では、電極間電圧の変化に対して半導体層90の表面ポテンシャルが急激に変化するために生じるものと考えられる。
図7の例では、電極間電圧が2.5Vである場合のピーク時間と、電極間電圧が3.0Vである場合のピーク時間と、の間において、電極間電圧の変化に対するピーク時間の差が最大となっている。このため、電極間電圧が2.5Vから3.0V付近において、半導体層90の界面98の近傍におけるエネルギーバンドの曲がりがゼロに近づいているものと考えられる。
ここで、例えば、一般的な半導体材料では、電子の移動度が正孔の移動度よりも大きい。このため、半導体層90の材料としてSiなどの一般的な半導体材料が適用される場合には、光デンバー効果において、半導体層90の内部に向かって光励起キャリアとしての電子および正孔が拡散によって移動する際に、電子と正孔との速度差によって、半導体層90の内部から界面98に向けて過渡電流が流れる。このような過渡電流の流れの向きは、半導体層90において界面98に近づくにつれてエネルギーバンドが上向きに曲がっている状態における、表面電場モデルに従った光励起キャリアの移動による過渡電流の流れの向きと一致する。よって、界面98に近づくにつれてエネルギーバンドが上向きに曲がっている状態にある半導体層90において、検査光LP10の照射に応じて表面電場モデルに従って放射される電磁波LT1の時間波形と、光デンバーモデルに従って半導体層90から放射される電磁波LT1の時間波形と、が類似の傾向を示すものと考えられる。
このため、このような場合には、図7の例において、電極間電圧の変化に対するピーク時間の差が最大となっている隣り合う2つの電極間電圧(2.5V、3.0V)のうち、半導体層90において界面98に近づくにつれてエネルギーバンドが上向きに曲がる傾向に近づく、負側の2.5Vの電極間電圧が半導体試料9に印加された状態で検出された電磁波LT1の時間波形が、光デンバー波成分の占有割合が最大である電磁波LT1の時間波形と考えられる。
そこで、第1認識方法では、例えば、半導体層90における電子の移動度が正孔の移動度よりも大きな場合には、光デンバー波認識部54は、複数の電極間電圧のそれぞれについて電磁波検出部20で検出された複数の電磁波LT1の強度の時間変化を対象として、ピーク時間と複数の電極間電圧との関係において、ピーク時間に最大の差を生じさせている隣り合う2つの電圧のうち、半導体層90の電位を基準とした被電位付与部としての第1主面9uの電位が相対的に低くなる電圧についての電磁波LT1の強度の時間変化を、光デンバー波成分の占有割合が最大である1つの電磁波LT1の強度の時間変化として認識する。ここで、電子および正孔の移動度の大小関係については、例えば、初期条件として電子の移動度が正孔の移動度よりも大きい条件が設定されていてもよいし、オペレータが操作部62を介して切り替え可能であってもよい。
ただし、例えば、ペロブスカイト太陽電池に使われる有機半導体材料であるメチルアンモニウムヨウ化鉛(MAPI)については、電子の移動度よりも正孔の移動度の方が大きいとされる。このため、半導体層90の材料としてMAPIが適用される場合には、光デンバー効果において、半導体層90の内部に向かって光励起キャリアとしての電子および正孔が拡散によって移動する際に、電子と正孔との速度差によって、半導体層90の界面98から内部に向けて過渡電流が流れる。このような過渡電流の流れの向きは、半導体層90において界面98に近づくにつれてエネルギーバンドが下向きに曲がっている状態における、表面電場モデルに従った光励起キャリアの移動による過渡電流の流れの向きと一致する。よって、界面98に近づくにつれてエネルギーバンドが下向きに曲がっている状態にある半導体層90において、検査光LP10の照射に応じて表面電場モデルに従って放射される電磁波LT1の時間波形と、光デンバーモデルに従って半導体層90から放射される電磁波LT1の時間波形と、が類似の傾向を示すものと考えられる。
このため、このような場合には、電極間電圧の変化に対するピーク時間の差が最大となっている隣り合う2つの電極間電圧のうち、半導体層90において界面98に近づくにつれてエネルギーバンドが下向きに曲がる傾向に近づく、正側の電極間電圧が半導体試料9に印加された状態で検出された電磁波LT1の時間波形が、光デンバー波成分の占有割合が最大である電磁波LT1の時間波形と考えられる。
そこで、第1認識方法では、例えば、半導体層90における正孔の移動度が電子の移動度よりも大きな場合には、光デンバー波認識部54は、複数の電極間電圧のそれぞれについて電磁波検出部20で検出された複数の電磁波LT1の強度の時間変化を対象として、ピーク時間と複数の電極間電圧との関係において、ピーク時間に最大の差を生じさせている隣り合う2つの電圧のうち、半導体層90の電位を基準とした被電位付与部としての第1主面9uの電位が相対的に高くなる電圧についての電磁波LT1の強度の時間変化を、光デンバー波成分の占有割合が最大である1つの電磁波LT1の強度の時間変化として認識する。
このような第1認識方法によれば、例えば、半導体試料9に各電圧が印加された状態で検査光LP10の照射に応じて半導体試料9からそれぞれ放射される電磁波LT1の強度の時間変化のうち、光デンバー波成分が支配的な電磁波LT1の強度の時間変化が容易に認識され得る。
<3−2.第2認識方法>
光デンバー波認識部54は、例えば、複数の電極間電圧のそれぞれについて電磁波検出部20で検出された複数の電磁波LT1の強度の時間変化を対象として、電磁波LT1の強度の時間変化における所定のピークの強度(ピーク強度ともいう)と、複数の電極間電圧と、の関係に基づいて、光デンバー波成分の占有割合が最大である1つの電磁波LT1の強度の時間変化を認識することができる。ここで、所定のピークは、上記第1認識方法における所定のピークと同様である。
図8は、図4および図5で示された電極間電圧ごとの電磁波LT1の時間波形について、半導体試料9に印加された電極間電圧と電磁波LT1の時間波形におけるピーク強度との関係を示すグラフである。
ここでは、例えば、電極間電圧が負の値から正の値に変化すると、電磁波LT1の時間波形において、表面電場波成分がゼロに近づき、表面電場波成分がゼロに到達した後に、半導体層90の表面電場において極性の反転が生じる。このとき、電磁波LT1の時間波形におけるピーク強度の正負が反転する。図8の例では、電極間電圧が2.5Vである場合のピーク強度と、電極間電圧が3.0Vである場合のピーク強度と、の間において、ピーク強度の正負が反転している。このため、電極間電圧が2.5Vから3.0V付近において、半導体層90の界面98の近傍におけるエネルギーバンドの曲がりがゼロに近づいているものと考えられる。
ここで、上述したように、例えば、半導体層90の材料として、電子の移動度が正孔の移動度よりも大きいSiなどの一般的な半導体材料が適用される場合には、界面98に近づくにつれてエネルギーバンドが上向きに曲がっている状態にある半導体層90において、検査光LP10の照射に応じて表面電場モデルに従って放射される電磁波LT1の時間波形と、光デンバーモデルに従って半導体層90から放射される電磁波LT1の時間波形と、が類似の傾向を示すものと考えられる。このため、このような場合には、図8の例において、電極間電圧の変化に対してピーク強度の正負が反転している隣り合う2つの電極間電圧(2.5V、3.0V)のうち、半導体層90において界面98に近づくにつれてエネルギーバンドが上向きに曲がる傾向に近づく、負側の2.5Vの電極間電圧が半導体試料9に印加された状態で検出された電磁波LT1の時間波形が、光デンバー波成分の占有割合が最大である電磁波LT1の時間波形と考えられる。
そこで、第2認識方法では、例えば、半導体層90における電子の移動度が正孔の移動度よりも大きな場合には、光デンバー波認識部54は、複数の電極間電圧のそれぞれについて電磁波検出部20で検出された複数の電磁波LT1の強度の時間変化を対象として、所定のピークのピーク強度と複数の電極間電圧との関係において所定のピークのピーク強度がゼロを挟む隣り合う2つの電圧のうち、半導体層90の電位を基準とした被電位付与部としての第1主面9uの電位が相対的に低くなる電圧についての電磁波LT1の強度の時間変化を、光デンバー波成分の占有割合が最大である1つの電磁波LT1の強度の時間変化として認識する。ここでも、電子および正孔の移動度の大小関係については、例えば、初期条件として電子の移動度が正孔の移動度よりも大きい条件が設定されていてもよいし、オペレータが操作部62を介して切り替え可能であってもよい。
一方、上述したように、例えば、半導体層90の材料として、正孔の移動度が電子の移動度よりも大きいとされるMAPIなどの半導体材料が適用される場合には、界面98に近づくにつれてエネルギーバンドが下向きに曲がっている状態にある半導体層90において、検査光LP10の照射に応じて表面電場モデルに従って放射される電磁波LT1の時間波形と、光デンバーモデルに従って半導体層90から放射される電磁波LT1の時間波形と、が類似の傾向を示すものと考えられる。このため、このような場合には、電極間電圧の変化に対してピーク強度の正負が反転している隣り合う2つの電極間電圧のうち、半導体層90において界面98に近づくにつれてエネルギーバンドが下向きに曲がる傾向に近づく、正側の電極間電圧が半導体試料9に印加された状態で検出された電磁波LT1の時間波形が、光デンバー波成分の占有割合が最大である電磁波LT1の時間波形と考えられる。
そこで、第2認識方法では、例えば、半導体層90における正孔の移動度が電子の移動度よりも大きな場合には、光デンバー波認識部54は、複数の電極間電圧のそれぞれについて電磁波検出部20で検出された複数の電磁波LT1の強度の時間変化を対象として、所定のピークのピーク強度と複数の電極間電圧との関係において所定のピークのピーク強度がゼロを挟む隣り合う2つの電圧のうち、半導体層90の電位を基準とした被電位付与部としての第1主面9uの電位が相対的に高くなる電圧についての電磁波LT1の強度の時間変化を、光デンバー波成分の占有割合が最大である1つの電磁波LT1の強度の時間変化として認識する。
このような第2認識方法によっても、例えば、半導体試料9に各電圧が印加された状態で検査光LP10の照射に応じて半導体試料9からそれぞれ放射される電磁波LT1の強度の時間変化のうち、光デンバー波成分が支配的な電磁波LT1の強度の時間変化が容易に認識され得る。
<4.電磁波の時間波形の補正>
時間波形補正部55は、例えば、複数の電極間電圧のそれぞれについて電磁波検出部20で検出された複数の電磁波LT1の強度の時間変化に対して、光デンバー波認識部54で認識された光デンバー波成分の占有割合が最大である1つの電磁波LT1の強度の時間変化の成分を低減する補正処理を行うことができる。ここで、補正処理としては、例えば、複数の電磁波LT1の強度の時間変化から、光デンバー波認識部54で認識された光デンバー波成分の占有割合が最大である1つの電磁波LT1の強度の時間変化の成分を、そのまま引き算によって取り除くことで低減してもよいし、係数などを掛ける演算を行った上で引き算によって低減してもよい。
図9は、電磁波LT1の時間波形の補正方法を説明するための図である。例えば、太い破線Ln1で描かれている1つの電磁波LT1の強度の時間変化から、細い実線Ln0で描かれている光デンバー波成分の占有割合が最大である電磁波LT1の時間変化の成分を引き算によって取り除くことで、太い実線Ln2で描かれている補正処理後の電磁波の強度の時間変化を得ることが可能である。
図10および図11は、補正処理後の電磁波の時間波形を例示する図である。図10および図11には、図4および図5で示された電極間電圧ごとに電磁波検出器22で検出された電磁波LT1の時間波形に対して、光デンバー波認識部54で認識された光デンバー波成分の占有割合が最大である、2.5Vの電極間電圧についての電磁波LT1の時間波形を引き算で取り除く補正処理を施すことで得られた、電極間電圧ごとの補正処理後の電磁波LT1の時間波形が示されている。
図10(a)には、電極間電圧が−5.0Vである場合の補正処理後の電磁波LT1の時間波形が、太い実線で示され、電極間電圧が−1.0Vである場合の補正処理後の電磁波LT1の時間波形が、太い破線で示され、電極間電圧が+1.5Vである場合の補正処理後の電磁波LT1の時間波形が、細い実線で示され、電極間電圧が+3.0Vである場合の補正処理後の電磁波LT1の時間波形が、細い破線で示されている。図10(b)には、電極間電圧が−4.0Vである場合の補正処理後の電磁波LT1の時間波形が、太い実線で示され、電極間電圧が0Vである場合の補正処理後の電磁波LT1の時間波形が、太い破線で示され、電極間電圧が+2.0Vである場合の補正処理後の電磁波LT1の時間波形が、細い実線で示され、電極間電圧が+4.0Vである場合の補正処理後の電磁波LT1の時間波形が、細い破線で示されている。
図11(a)には、電極間電圧が−3.0Vである場合の補正処理後の電磁波LT1の時間波形が、太い実線で示され、電極間電圧が+0.5Vである場合の補正処理後の電磁波LT1の時間波形が、太い破線で示され、電極間電圧が+2.2Vである場合の補正処理後の電磁波LT1の時間波形が、細い実線で示され、電極間電圧が+5.0Vである場合の補正処理後の電磁波LT1の時間波形が、細い破線で示されている。図11(b)には、電極間電圧が−2.0Vである場合の補正処理後の電磁波LT1の時間波形が、太い実線で示され、電極間電圧が+1.0Vである場合の補正処理後の電磁波LT1の時間波形が、太い破線で示され、電極間電圧が+2.5Vである場合の補正処理後の電磁波LT1の時間波形が、細い実線で示され、電極間電圧が+6.0Vである場合の補正処理後の電磁波LT1の時間波形が、細い破線で示されている。
図12は、図10および図11で示された電極間電圧ごとの補正処理後の電磁波の時間波形について、半導体試料9に印加された電極間電圧と電磁波の時間波形におけるピーク強度との関係を示すグラフである。このようなグラフによれば、例えば、検査光LP10が照射されている条件下における半導体試料9のフラットバンド電圧を精度良く求めることが可能となる。
このようにして、例えば、検査光LP10の照射に応じて検出された半導体試料9から放射される電磁波LT1の強度の時間変化について、光デンバーモデルに係る成分(光デンバー波成分)が低減され得る。これにより、表面電場モデルに従って生じる電磁波を精度よく求めることができる。その結果、例えば、半導体層90のうちの絶縁層92との界面98の近傍の表層部における特性を高精度に評価することが可能となる。
第1実施形態では、時間波形補正部55によって、複数の電極間電圧のそれぞれについて電磁波検出部20で検出された複数の電磁波LT1の強度の時間変化に対して補正処理が施されたが、これに限られない。例えば、複数の電磁波LT1の強度の時間変化のうちの一部に補正処理が施されてもよいし、複数の電磁波LT1の強度の時間変化のすべてに対して補正処理が施されなくてもよい。このため、例えば、制御部50は、時間波形補正部55を有していなくてもよい。
<5.半導体検査装置の動作>
図13は、第1実施形態の半導体検査装置1の動作フローの一例を示す流れ図である。以下に説明する半導体検査装置1の動作は、特に断らない限り、制御部50からの制御指令に基づいて実行されるものとする。また、動作が実行される順序については、図13に示すものに限定されるものではなく、適宜変更してもよい。
まず、ステップSp1において、ステージ30が半導体試料9を保持する工程を行う。ここでは、ステージ30が半導体試料9を保持すると、電圧印加部40が半導体試料9の第1電極94および第2電極96に電気的に接続される。これにより、半導体層90と絶縁層92との間に電圧を印加できる状態となる。
次に、ステップSp2において、条件設定部51が、計測条件を設定する工程を行う。計測条件は、半導体試料9の全面のうちの検査対象とする領域、検査光LP10の波長の設定、検査光LP10の強度、および複数(ここではm個)の電圧(電極間電圧)の大きさなどを含む(mは2以上の整数)。これらの計測条件は、例えば、制御部50が操作部62を介したオペレータからの操作入力を受け付けて設定する。
次に、ステップSp3において、検出制御部52が、k番目(kは自然数)の電圧を半導体試料9に印加するタイミングであることを示す数値kを1に設定する工程を行う。ここでは、ステップSp2で設定された複数の電圧のうちの1番目の電圧を半導体試料9に印加するタイミングであることを示すように、数値kを1に設定する。
次に、ステップSp4において、電圧印加部40が、ステップSp2で設定された複数の電圧のうちのk番目の電圧を半導体試料9に印加を開始する工程を行う。ここでは、電圧可変電源44によって、半導体試料9の第1電極94と第2電極96との間に電圧が印加される。
次に、ステップSp5において、光照射部10が半導体試料9に対して検査光LP10を照射して、電磁波検出部20が半導体試料9から放射される電磁波LT1の強度の時間変化を検出する工程を行う。ここでは、光照射部10は、ステップSp2で設定された計測条件に応じた検査光LP10を半導体試料9に照射する。
次に、ステップSp6において、検出制御部52が、数値kが整数mに到達したか否か判定する工程を行う。ここで、数値kが整数mに到達していなければ、ステップSp7において数値kを1つ増加させる工程を経て、ステップSp4に進む。ここでは、数値kが整数mに到達するまで、ステップSp4からステップSp7の処理が繰り返される。これにより、電圧印加部40が半導体試料9における半導体層90と絶縁層92の被電位付与部としての第1主面9uとの間に複数の電圧を順に印加するとともに、光照射部10が複数の電圧がそれぞれ印加されている半導体試料9に対して検査光LP10を照射して、電磁波検出部20が複数の電圧のそれぞれが印加されている半導体試料9が検査光LP10の照射に応じて放射する電磁波LT1の強度の時間変化を検出する工程(第1ステップともいう)を行う。
次に、ステップSp8において、時間波形復元部53が、電圧ごとに、電磁波検出器22で検出された電磁波LT1の強度の時間変化に基づいて、電磁波LT1の時間波形を復元する工程を行う。
次に、ステップSp9において、光デンバー波認識部54が、複数の電圧について上記第1ステップで検出された複数の電磁波LT1の強度の時間変化を対象として、電磁波LT1の所定のピークの強度に係る数値と複数の電圧との関係に基づいて、光デンバー波成分の占有割合が最大である1つの電磁波LT1の強度の時間変化を認識する工程(第2ステップともいう)を行う。
次に、ステップSp10において、時間波形補正部55が、電圧ごとに、電磁波LT1を示す時間波形に対して、ステップSp9で認識された1つの電磁波LT1の強度の時間変化を用いて、光デンバー波成分を低減する補正処理を施す工程を行う。
<6.第1実施形態のまとめ>
以上のように、第1実施形態に係る半導体検査装置1では、例えば、半導体試料9に各電圧が印加された状態で検査光LP10の照射に応じて半導体試料9からそれぞれ放射される電磁波LT1の強度の時間変化のうち、光デンバー波成分が支配的な電磁波LT1の強度の時間変化が認識され得る。この光デンバー波成分は、半導体試料9における正孔の移動度と電子の移動度との差(キャリア移動度の差)を反映したものであり、光デンバー波成分が支配的な電磁波LT1の強度の時間変化は、MOS構造を有する半導体試料9におけるチャネル移動度に係る情報を含む。このため、例えば、光デンバー波成分が支配的な電磁波LT1の強度の時間変化を用いて、MOS構造を有する半導体試料9におけるチャネル移動度を評価することができる。そして、例えば、絶縁層との界面における物理が未解明であるSiCおよびGaNなどを代表とするワイドギャップ半導体を半導体試料9に適用すれば、ワイドギャップ半導体についてチャネル移動度の評価を行うことが可能となる。これにより、例えば、ワイドギャップ半導体におけるチャネル移動度の向上、およびキャリア移動度の異方性を考慮した半導体デバイスの設計を実現することが可能となる。
また、例えば、検査光LP10の照射に応じて半導体試料9から放射される電磁波LT1の強度の時間変化について、光デンバー波成分を低減した情報を得ることができる。つまり、表面電場モデルに従って生じる電磁波を精度よく求めることができる。これにより、例えば、半導体層90のうちの絶縁層92との界面98の近傍における表面電場の評価を高精度で行うことが可能となる。また、半導体層90のうちの絶縁層92との界面98の近傍におけるエネルギーバンドの曲がりを反映した電磁波LT1の波形を精度よく分析することにより、MOS構造を有する半導体デバイスなどにおいて重要である表面ポテンシャルの大きさおよび分布などの評価を高精度で行うことも可能となる。
したがって、例えば、半導体層90のうちの絶縁層92との界面98の近傍の表層部における特性を高精度に評価することが可能となる。
その結果、例えば、第1実施形態に係る半導体検査装置1を、半導体試料9における半導体層90のうちの絶縁層92との界面98の近傍における表面ポテンシャルの大きさおよび分布ならびにチャネル移動度の評価手段として用いることで、MOS構造を有する半導体デバイスに代表される半導体デバイスの性能向上につなげることが可能となる。そして、例えば、ワイドギャップ半導体と絶縁層との界面における物理の分析および理解を図ることが可能となる。
<7.その他>
本発明は上述の第1実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更、改良などが可能である。なお、以降の説明において、既に説明した要素と同様の機能を有する要素については、同じ符号またはアルファベット文字を追加した符号を付して、詳細な説明を省略する場合がある。
<7−1.第2実施形態>
上記第1実施形態では、電圧印加部40が、第1電極94および第2電極96に電気的に接続されて、半導体層90と絶縁層92との間に異なる電圧(電極間電圧)を印加した。しかしながら、これとは異なる方法で、半導体層90と絶縁層92との間に電圧を印加してもよい。
図14は、第2実施形態の半導体検査装置1Aの全体構成を概略的に示す図である。半導体検査装置1Aは、電圧印加部40の代わりに、電圧印加部として機能するコロナ放電機構46を有する点で半導体検査装置1とは相違する。なお、コロナ放電機構46によって半導体試料9に電圧を印加する場合には、半導体試料9は、この半導体試料9から第1電極94および第2電極96が省略された半導体試料9Aとされてよい。
コロナ放電機構46は、コロナ放電によって正イオンまたは負イオンを含む電荷粒子を発生させ、この電荷粒子を半導体試料9の絶縁層92上(第1主面9u上)に付与する。コロナ放電機構46は、電源部460、放電電極462および電極464を有する。放電電極462は、針状の導電性を有する部材であり、ステージ30に保持された半導体試料9の上方において半導体試料9から離れた状態で位置している。放電電極462の先端部は、半導体試料9の絶縁層92に向けられている。電源部460は、放電電極462に高電圧を印加する装置である。電源部460は、制御部50からの制御指令に基づいて動作する。
放電電極462が、電源部460によって高電圧が印加されることで放電を開始すると、空気中の分子がイオン化する。図14で示されるように、発生したイオン(ここでは、負イオン)は、電極464の中央に位置している貫通孔を通って、半導体試料9の絶縁層92上(第1主面9u上)に付与される。なお、電極464は、正または負に帯電されていれば、帯電されている極性とは反対の極性の負イオンまたは正イオンを吸収することができる。これにより、正イオンまたは負イオンのいずれか一方のみを選択的に半導体試料9に付与することができる。
コロナ放電機構46は、例えば、半導体試料9の絶縁層92の表面(第1主面9u)の全体ではなく一部の限定された領域に電荷粒子を付与してもよい。例えば、ステージ移動部35が、ステージ30を水平面内で移動させることで、コロナ放電機構46が半導体試料9に荷電粒子を付与する領域を変更してもよい。
ここで、コロナ放電機構46からの電荷粒子が絶縁層92上(第1主面9u上)に付与されると、半導体層90と絶縁層92との間に電圧が印加された状態となる。コロナ放電機構46は、例えば、制御部50からの制御指令に応じて、電荷粒子の量および極性を変更可能に構成されていれば、半導体層90と絶縁層92との間に、異なる複数の電圧を順に印加することができる。換言すれば、コロナ放電機構46は、例えば、半導体試料9における、半導体層90と絶縁層92の第1主面9uとの間に複数の電圧を順に印加することができる。
<7−2.第3実施形態>
上記各実施形態では、半導体検査装置1,1Aが、複数の電圧が順に印加された半導体試料9に検査光LP10を照射した際に半導体試料9から放射される電磁波LT1の強度の時間変化を検出した。しかしながら、例えば、第3実施形態の電磁波情報処理装置100Bは、他の装置から、複数の電圧が順に印加された半導体試料9に検査光LP10を照射した際に半導体試料9から放射される電磁波LT1の強度の時間変化を検出して得られた電磁波LT1の情報を取得して、電磁波LT1の情報の処理を行ってもよい。つまり、第3実施形態の電磁波情報処理装置100Bは、例えば、上記各実施形態の半導体検査装置1における光デンバー波認識部54および時間波形補正部55の機能を有するものであってもよい。
図15は、第3実施形態の電磁波情報処理装置100Bの構成を概略的に示すブロック図である。電磁波情報処理装置100Bは、例えば、コンピュータなどの情報処理装置200Bで実現され、バスラインBu1を介して接続された、通信部71、入力部72、出力部73、記憶部74、制御部75およびドライブ76を有する。
通信部71は、例えば、通信回線を介して他の装置との間でデータ通信を行うことができる。通信回線は、無線および有線の何れの回線であってもよい。通信回線には、例えば、インターネット回線、ローカルエリアネットワーク(LAN)回線、または2つの装置を1対1で接続するケーブルなどの有線回線が適用される。この通信部71は、例えば、他の装置において、複数の電圧が順に印加された半導体試料9に検査光LP10を照射して半導体試料9から放射される電磁波LT1の強度の時間変化を検出することで得られた電磁波LT1の情報などを受信することができる。
入力部72は、例えば、電磁波情報処理装置100Bを使用するオペレータの動作などに応じた信号を入力可能である。入力部72は、例えば、操作部などを含み得る。操作部は、例えば、オペレータの操作に応じた信号を入力可能なマウスおよびキーボードなどを含む。
出力部73は、例えば、画像データなどの各種情報を出力可能である。出力部73は、例えば、表示部などを含み得る。表示部は、例えば、各種情報をオペレータが視認可能な態様で可視的に出力可能である。表示部には、例えば、各種のディスプレイなどが適用される。この表示部は、入力部72と一体化されたタッチパネルの形態を有していてもよい。
記憶部74は、例えば、各種情報を記憶可能である。この記憶部74は、例えば、ハードディスクまたはフラッシュメモリなどの記憶媒体で構成され得る。記憶部74では、例えば、1つの記憶媒体を有する構成、2つ以上の記憶媒体を一体的に有する構成、および2つ以上の記憶媒体を2つ以上の部分に分けて有する構成の何れが採用されてもよい。記憶部74には、例えば、プログラムPG1Bおよび各種データId1が記憶され得る。各種データId1には、例えば、他の装置から通信部31で受信した電磁波LT1の情報が含まれ得る。
制御部75は、例えば、プロセッサとして働く処理部75aおよび情報を一時的に記憶するメモリ75bなどを含む。処理部75aには、例えば、CPUなどの電気回路が適用される。この場合には、処理部75aは、例えば、1つ以上のプロセッサを有していればよい。メモリ75bには、例えば、RAMなどが適用される。処理部75aは、例えば、記憶部74に記憶されているプログラムPG1Bを読み込んで実行することで、情報処理装置200Bを電磁波情報処理装置100Bとして機能させることができる。制御部75における各種情報処理で一時的に得られる各種情報は、適宜メモリ75bなどに記憶される。
ドライブ76は、例えば、可搬性の記憶媒体RM1の脱着が可能な部分である。ドライブ76は、例えば、記憶媒体RM1が装着された状態で、この記憶媒体RM1と制御部75との間におけるデータの授受を実行させることができる。ここで、例えば、プログラムPG1Bが記憶された記憶媒体RM1がドライブ76に装着されることで、記憶媒体RM1から記憶部74内にプログラムPG1Bが読み込まれて記憶されてもよい。また、例えば、記憶媒体RM1から記憶部74内に各種データId1の少なくとも一部が記憶されてもよい。
図16は、処理部75aにおける処理で実現される電磁波情報処理装置100Bの機能的な構成の一例を示すブロック図である。図16には、処理部75aでプログラムPG1Bの実行によって実現されるデータ処理に係る各種機能が例示されている。図16で示されるように、処理部75aは、実現される機能的な構成として、例えば、情報取得部53B、光デンバー波認識部54Bおよび時間波形補正部55Bを有する。これらの各部53B〜55Bでの処理におけるワークスペースとして、例えば、メモリ75bが使用される。なお、処理部75aで実現される機能的な構成の少なくとも一部の機能は、例えば、専用の電子回路などのハードウェアで構成されてもよい。
情報取得部53Bは、例えば、通信部71または記憶部74などから、複数の電圧のそれぞれが印加されている半導体試料9が検査光LP10の照射に応じて放射する電磁波LT1の強度の時間変化に係る情報を取得する。この情報は、電磁波情報処理装置100Bとは別の装置において、半導体試料9における半導体層90と絶縁層92の第1主面9uとの間に複数の電圧を順に印加するとともに、この複数の電圧がそれぞれ印加されている半導体試料9に対して検査光LP10を照射して、複数の電圧のそれぞれが印加されている半導体試料9が検査光LP10の照射に応じて放射する電磁波LT1の強度の時間変化を検出することで取得され得る。電磁波情報処理装置100Bとは別の装置には、例えば、上記各実施形態の半導体検査装置1,1Aと同様な構成を有するものが適用される。ここで取得される複数の電圧がそれぞれ印加されている半導体試料9から放射される電磁波LT1の強度の時間変化に係る情報は、例えば、上述した時間波形復元部53のような機能部によって、電圧ごとに復元された電磁波LT1の時間波形の形式であってもよい。
光デンバー波認識部54Bは、上述した半導体検査装置1,1Aの光デンバー波認識部54と同様な機能を有する。このため、光デンバー波認識部54Bは、例えば、情報取得部53Bで取得された複数の電圧についての複数の電磁波LT1の強度の時間変化を対象として、電磁波LT1の所定のピークの強度に係る数値と複数の電圧との関係に基づいて、光デンバー波成分の占有割合が最大である1つの電磁波LT1の強度の時間変化を認識することができる。ここでは、例えば、上述した第1認識方法および第2認識方法のいずれの認識方法によって、光デンバー波成分の占有割合が最大である電磁波LT1の強度の時間変化が認識されてもよい。
時間波形補正部55Bは、上述した半導体検査装置1,1Aの時間波形補正部55と同様な機能を有する。このため、時間波形補正部55Bは、各電圧についての電磁波LT1の強度の時間変化(例えば、電磁波LT1の時間波形)に対して、光デンバー波成分を低減する補正処理を施すことができる。
図17は、第3実施形態の電磁波情報処理装置100Bにおける処理フローの一例を示す流れ図である。なお、処理が実行される順序については、図17に示すものに限定されるものではなく、適宜変更してもよい。
ここでは、まず、ステップSp11において、情報取得部53Bが、通信部71または記憶部74などから、複数の電圧のそれぞれが印加されている半導体試料9が検査光LP10の照射に応じて放射する電磁波LT1の強度の時間変化に係る情報を取得する工程(第1ステップともいう)を行う。この情報は、例えば、電磁波情報処理装置100Bとは別の装置において、半導体試料9における半導体層90と絶縁層92の第1主面9uとの間に複数の電圧を順に印加するとともに、この複数の電圧がそれぞれ印加されている半導体試料9に対して検査光LP10を照射して、複数の電圧のそれぞれが印加されている半導体試料9が検査光LP10の照射に応じて放射する電磁波LT1の強度の時間変化を検出することで取得されたものであればよい。
次に、ステップSp12において、光デンバー波認識部54Bが、ステップSp11で取得された複数の電圧についての複数の電磁波LT1の強度の時間変化を対象として、電磁波LT1の所定のピークの強度に係る数値と複数の電圧との関係に基づいて、光デンバー波成分の占有割合が最大である1つの電磁波LT1の強度の時間変化を認識する工程(第2ステップともいう)を行う。
次に、ステップSp13において、時間波形補正部55Bが、各電圧についての電磁波LT1の強度の時間変化(例えば、電磁波LT1の時間波形)に対して、ステップSp12で認識された光デンバー波成分の占有割合が最大である1つの電磁波LT1の強度の時間変化を用いて、光デンバー波成分を低減する補正処理を施す工程を行う。
以上のような構成を有する第3実施形態の電磁波情報処理装置100Bによっても、上記各実施形態の半導体検査装置1,1Aと同様な効果を得ることができる。
<7−3.その他>
上記各実施形態において、半導体層90が、第1導電型としてのn型の半導体の層であったが、これに限られるものではなく、例えば、第2導電型としてのp型の半導体の層であってもよい。
上記各実施形態において、例えば、半導体試料9,9Aは、半導体層90と絶縁層92との界面98を有するものであれば、MOSFET、MOSキャパシタおよびMOSダイオードなどのMIS構造またはMOS構造と同様な機能を有する構造を含む半導体デバイスであってもよい。
この発明は詳細に説明されたが、上記の説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。また、上記の説明において例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。例えば、上記各実施形態および各変形例にそれぞれ含まれる全部または一部の構成を、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせたり、省略したりすることができる。