世界の経済成長とともにエネルギー消費量は増加し続け、1965年から2015年までの約50年間で3.3倍に達した。
通常、変圧器の鉄心材料には、損失が少なく透磁率の大きい珪素鋼板が用いられてきたが、近年、エネルギー消費量の増加に伴う省エネニーズの高まりにより、変圧器の鉄心材料に、珪素鋼板に替わるアモルファス磁性薄帯を用いた高効率な変圧器(以下、アモルファス変圧器という)の需要が高まっている。
上記アモルファス磁性薄帯は、珪素鋼板に比べて電気抵抗率が大きく、板厚が1/10と薄いため渦電流損が小さい。また、アモルファス磁性薄帯は、非晶質であるため磁壁移動が容易で、かつ、ヒステリシス損が小さいという特徴があることから、変圧器の負荷がないときにも常に発生する無負荷損失が低いという利点を持つ。この利点を生かして、アモルファス変圧器は、運転負荷率の低い配電網への導入効果が高い技術として注目されている。
これまで、アモルファス巻鉄心を用いた変圧器は、生産性の観点から6.6kVまでの比較的小容量の変圧器で製品化されてきた。一方、発電所から需要家に至る電力流通システムにおいて、配電分野の上流に目を向けると、22kVを超える特別高圧クラスの変電用変圧器の大半は、機械的強度が高く、大形化が容易な珪素鋼板を鉄心に用いた珪素鋼板変圧器が用いられている。
従って、アモルファス変圧器の大型化によって、特別高圧クラスの変圧器を珪素鋼板からアモルファス磁性薄帯に変更することで大きな省エネルギー効果が期待できる。
例えば,日本の電力流通において発生する送電損失は世界的に見ても低く、約5%であるが、日本の年間総発電量はおよそ1兆kWhであり、わずか0.01%の送電効率の向上でも1億kWhの節電となることから、高効率なアモルファス変圧器の適用は有用であることがわかる。
また、出力が一定ではなく、低負荷率運転時の待機電力が問題となる再生可能エネルギー用途への適用で、無負荷損失の小さいアモルファス変圧器による大きな環境負荷低減が期待できる。
アモルファス巻鉄心を大型化する場合、アモルファス磁性薄帯のように薄い磁性薄帯は、応力に敏感で、かつ、脆いため、一か所に荷重が集中しないようにする必要がある。また、事故などで巻線が短絡する際に発生する短絡機械力にも、鉄心自体が座屈しない強度を保持する必要がある。
そのため、例えば、特許文献1には、アモルファス巻鉄心の外周に金属製の鉄心ケースを設けて、鉄心全体のバインドをする際に、珪素鋼板鉄心が金属製の鉄心ケースを押さえつけ、アモルファス鉄心には直接応力がかからないような構成とすることが記載されている。これにより、巻線が短絡する際に発生する短絡機械力にも耐えることが可能となる。
以下、図示した実施例に基づいて本発明の静止誘導電器用鉄心を説明する。なお、各実施例において、同一構成部品には同符号を使用する。
図1(a)、図1(b)、図1(c)、図1(d)及び図1(e)に、本発明の静止誘導電器用鉄心の実施例1として、単相の変圧器鉄心1を示す。
図1(a)に示すように、本実施例の変圧器鉄心1は、巻線4(図2参照)が挿入される鉄心主脚1Aと、この鉄心主脚1Aと所定の空間をもって平行に配置された鉄心側脚1Bと、鉄心側脚1Bと鉄心主脚1Aを繋ぐヨーク部1Cとから概略構成され、これらは、上下で鉄心支持金具2により支持されている。
そして、本実施例では、鉄心主脚1Aが、図1(b)に示すように、水平方向(図1(b)の左右方向)に隣接して配置されたアモルファス巻鉄心1b(図1(e)参照)及び珪素鋼板巻鉄心1c(図1(e)参照)と、このアモルファス巻鉄心1b及び珪素鋼板巻鉄心1cを、図1(b)の上下方向から挟むように配置された珪素鋼板積鉄心1a(図1(d)参照)とから構成されている。
具体的には、本実施例の鉄心主脚1Aは、その水平方向断面における中央部にアモルファス巻鉄心1bが水平方向に複数(本実施例では2個)配置されると共に、アモルファス巻鉄心1bの水平方向両端部のそれぞれに珪素鋼板巻鉄心1cが配置され、このように配置された1組のアモルファス巻鉄心1bと珪素鋼板巻鉄心1cが、鉄心主脚1Aの水平方向断面における前後方向(図1(b)の上下方向)に、本実施例では2組配置され、かつ、アモルファス巻鉄心1bと珪素鋼板巻鉄心1cを、鉄心主脚1Aの水平方向断面における前後方向から挟むように珪素鋼板積鉄心1aが配置されている。
上記鉄心主脚1Aの構成は、鉄心主脚1Aの水平方向断面における中央部に配置されたアモルファス巻鉄心1bが、珪素鋼板巻鉄心1cと珪素鋼板積鉄心1aで囲まれている構成である。
また、2組のアモルファス巻鉄心1bと珪素鋼板巻鉄心1cの間(中央部)の水平方向には、鉄心の強度を高めるために、図1(c)に示すようなH鋼3が挿入配置されている。
更に、本実施例では、図1(b)に示すように、アモルファス巻鉄心1bの鉄心主脚1Aの水平方向断面における前後方向の幅L1が、珪素鋼板巻鉄心1cの前後方向の幅L2よりも短く形成されている。
次に、上述した実施例1における変圧器鉄心1の製作方法について、図2を用いて説明する。
一般に、巻鉄心は、切断した磁性臼薄帯を積層面がコの字をなすように積層し、巻線を挿入した後、バットジョイントやラップジョイントと呼ばれる方法で、左右の磁性薄帯を交互に重ね合わせて製作され、最後に、巻線が挿入された鉄心主脚とヨーク部を接合してリング状に構成し閉磁路を形成している。
まず、図2の(a)に示すように、珪素鋼板積鉄心1aと珪素鋼板巻鉄心1cで鉄心を形成し、バインドで締めることで変圧器鉄心1の形状を保持する。
次に、鉄心主脚1Aに巻線4を図2の(a)の下方から挿入し、珪素鋼板積鉄心1aの挿し鉄作業と珪素鋼板巻鉄心1cのラップ作業を実施し、図2の(b)のようにする。
更に、珪素鋼板積鉄心1aと珪素鋼板巻鉄心1cで囲まれた空間(図2の(b)の点線で示した部分)にアモルファス巻鉄心1bを挿入してラップ作業を実施し、図2の(c)のようにする。最後に、巻線4が挿入された鉄心主脚1Aとヨーク部1Cを接合してリング状に構成し閉磁路を形成し、変圧器鉄心1が製作される。
このような本実施例の変圧器鉄心1の構成における効果を、以下に説明する。
上述した特許文献1では、鉄心ケースを用いてアモルファス巻鉄心を保護する構造としていたが、本実施例の変圧器鉄心1の構造は、珪素鋼板積鉄心1aと珪素鋼板巻鉄心1cで、アモルファス巻鉄心1bの周囲を囲んでアモルファス巻鉄心1bを保護する構造としている。
そのため、本実施例では、鉄心ケースを省略することができ、鉄心ケースの金属部分と鉄心が接触する事象がなく、電気的に短絡することがなくなる。
また、変圧器鉄心1を支持するための剛性は、珪素鋼板積鉄心1aと珪素鋼板巻鉄心1cで担保することができるため、系統事故などで巻線短絡が発生した場合にも、短絡機械力による鉄心の座屈を防止できる。
また、特許文献1の鉄心ケースは、巻線の短絡機械力に耐える構造となっているため、厚みのある金属板で製作され、その分変圧器の重量を増加させる一因となっていたが、本実施例の変圧器鉄心1の構造を採用することで、特許文献1のような鉄心ケースを除くことができ、変圧器の重量を軽減することが可能になると共に、鉄心ケースを除くことで、コストも削減可能となる。
従って、本実施例によれば、アモルファス磁性薄帯のような磁性薄帯で鉄心が形成されたものであっても、電気的な短絡を招くことなく、機械強度の高い変圧器鉄心1を得ることができる。
図3(a)、図3(b)、図3(c)、図3(d)及び図3(e)に、本発明の静止誘導電器用鉄心の実施例2として、三相5脚の変圧器鉄心1を示す。
該図に示す本実施例では、3つの鉄心主脚1Aが実施例1と同様な構造を成している。
即ち、本実施例の3つの鉄心主脚1Aは、その水平方向断面における中央部にアモルファス巻鉄心1bが水平方向に複数(本実施例では2個)配置されると共に、アモルファス巻鉄心1bの水平方向両端部のそれぞれに珪素鋼板巻鉄心1cが配置され、このように配置された1組のアモルファス巻鉄心1bと珪素鋼板巻鉄心1cが、鉄心主脚1Aの水平方向断面における前後方向(図3(b)の上下方向)に、本実施例では2組配置され、かつ、前記アモルファス巻鉄心1bと珪素鋼板巻鉄心1cを、鉄心主脚1Aの水平方向断面における前後方向から挟むように珪素鋼板積鉄心1aが配置されている。
本実施例の鉄心主脚1Aの構成も、実施例1と同様に、鉄心主脚1Aの水平方向断面における中央部に配置されたアモルファス巻鉄心1bが、珪素鋼板巻鉄心1cと珪素鋼板積鉄心1aで囲まれている構成である。
また、本実施例でも、2組のアモルファス巻鉄心1bと珪素鋼板巻鉄心1cの間(中央部)の水平方向には、鉄心の強度を高めるために、図3(c)に示すようなH鋼3が挿入配置されている。
更に、本実施例でも、図3(b)に示すように、アモルファス巻鉄心1bの鉄心主脚1Aの水平方向断面における前後方向の幅L1が、珪素鋼板巻鉄心1cの前後方向の幅L2よりも短く形成されている。
このような本実施例の三相5脚の変圧器鉄心1であっても、実施例1と同様な効果を得ることができる。
図4(a)、図4(b)、図4(c)、図4(d)及び図4(e)に、本発明の静止誘導電器用鉄心の実施例3として、三相3脚の変圧器鉄心1を示す。
該図に示す本実施例では、1つの鉄心主脚1Aと2つの鉄心側脚1Bが実施例1と同様な構造を成している。
即ち、本実施例の1つの鉄心主脚1Aと2つの鉄心側脚1Bは、その水平方向断面における中央部にアモルファス巻鉄心1bが水平方向に複数(本実施例では2個)配置されると共に、アモルファス巻鉄心1bの水平方向両端部のそれぞれに珪素鋼板巻鉄心1cが配置され、このように配置された1組のアモルファス巻鉄心1bと珪素鋼板巻鉄心1cが、鉄心主脚1A及び鉄心側脚1Bの水平方向断面における前後方向(図4(b)の上下方向)に、本実施例では2組配置され、かつ、前記アモルファス巻鉄心1bと珪素鋼板巻鉄心1cを、鉄心主脚1A及び鉄心側脚1Bの水平方向断面における前後方向から挟むように珪素鋼板積鉄心1aが配置されている。
本実施例の1つの鉄心主脚1Aと2つの鉄心側脚1Bの構成も、実施例1と同様に、鉄心主脚1A及び鉄心側脚1Bの水平方向断面における中央部に配置されたアモルファス巻鉄心1bが、珪素鋼板巻鉄心1cと珪素鋼板積鉄心1aで囲まれている構成である。
また、本実施例でも、1つの鉄心主脚1Aと2つの鉄心側脚1Bは、2組のアモルファス巻鉄心1bと珪素鋼板巻鉄心1cの間(中央部)の水平方向には、鉄心の強度を高めるために、図4(c)に示すようなH鋼3が挿入配置されている。
更に、本実施例でも、1つの鉄心主脚1Aと2つの鉄心側脚1Bは、アモルファス巻鉄心1bの鉄心主脚1A及び鉄心側脚1Bの水平方向断面における前後方向の幅L1が、珪素鋼板巻鉄心1cの前後方向の幅L2よりも短く形成されている。
このような本実施例の三相3脚の変圧器鉄心1であっても、実施例1と同様な効果を得ることができる。
図5(a)、図5(b)、図5(c)、図5(d)、図5(e)、図5(f)及び図5(g)に、本発明の静止誘導電器用鉄心の実施例4として、実施例3の三相3脚の変圧器鉄心1を改良した三相3脚の変圧器鉄心1を示す。
該図に示す本実施例では、実施例3の変圧器鉄心1に対して、鉄心側脚1Bの最外周の珪素鋼板巻鉄心1cを珪素鋼板積鉄心1a´に変更して三相3脚の変圧器鉄心1を構成している。
即ち、本実施例の変圧器鉄心1は、鉄心主脚1Aが、図5(b)に示すように、水平方向断面における中央部にアモルファス巻鉄心1bが水平方向に複数配置されると共に、アモルファス巻鉄心1bの水平方向両端部に珪素鋼板巻鉄心1cが配置され、このように配置された1組のアモルファス巻鉄心1bと珪素鋼板巻鉄心1cが、鉄心主脚1Aの水平方向断面における前後方向(図5(b)の上下方向)に、本実施例では2組配置され、かつ、アモルファス巻鉄心1bと珪素鋼板巻鉄心1cを、鉄心主脚1Aの水平方向断面における前後方向から挟むように珪素鋼板積鉄心1aが配置されている。
一方、鉄心側脚1Bは、図5(c)及び図5(d)に示すように、水平方向断面における中央部にアモルファス巻鉄心1bが水平方向に複数配置されると共に、アモルファス巻鉄心1bの水平方向内側端部に珪素鋼板巻鉄心1cが配置され、アモルファス巻鉄心1bの水平方向外側端部に別の珪素鋼板積鉄心1a´が配置され、このように配置された1組のアモルファス巻鉄心1bと珪素鋼板巻鉄心1c及び別の珪素鋼板積鉄心1a´が、鉄心側脚1Bの水平方向断面における前後方向(図5(c)及び図5(d)の上下方向)に、本実施例では2組配置され、かつ、アモルファス巻鉄心1bと珪素鋼板巻鉄心1c及び別の珪素鋼板積鉄心1a´を、鉄心側脚1Bの水平方向断面における前後方向(図5(c)及び図5(d)の上下方向)から挟むように珪素鋼板積鉄心1aが配置されている。
また、本実施例では、鉄心主脚1Aは、2組のアモルファス巻鉄心1bと珪素鋼板巻鉄心1cの間(中央部)の水平方向には、鉄心の強度を高めるために、図5(c)に示すようなH鋼3が挿入配置され、一方、2組のアモルファス巻鉄心1bと珪素鋼板巻鉄心1c及び別の珪素鋼板積鉄心1a´の間(中央部)の水平方向には、鉄心の強度を高めるために、図5(c)に示すようなH鋼3が挿入配置されている。
更に、本実施例でも、アモルファス巻鉄心1bの鉄心主脚1A及び鉄心側脚1Bの水平方向断面における前後方向の幅L1が、珪素鋼板巻鉄心1cの前後方向の幅L2よりも短く形成されている。
次に、上述した実施例4における変圧器鉄心1の製作方法について、図6を用いて説明する。
まず、図6の(a)に示すように、珪素鋼板積鉄心1aと珪素鋼板巻鉄心1cで鉄心を形成し、バインドで締めることで変圧器鉄心1の形状を保持する。
次に、鉄心主脚1Aに巻線4を図6の(a)の下方から挿入し、珪素鋼板積鉄心1aの挿し鉄作業と珪素鋼板巻鉄心1cのラップ作業を実施し、図6の(b)のようにする。
更に、珪素鋼板積鉄心1aと珪素鋼板巻鉄心1cで囲まれた空間(図6の(b)の点線で示した部分)にアモルファス巻鉄心1bを挿入してラップ作業を実施し、図6の(c)のようにする。最後に、アモルファス巻鉄心1bの外周部に珪素鋼板積鉄心1aの挿し鉄作業を実施し、変圧器鉄心1を製作する。
このような本実施例の構造とすることにより、上述した特許文献1では、鉄心ケースを用いてアモルファス巻鉄心を保護する構造としていたが、本実施例の変圧器鉄心1の構造は、鉄心主脚1Aでは、珪素鋼板積鉄心1aと珪素鋼板巻鉄心1cで、アモルファス巻鉄心1bの周囲を囲んでアモルファス巻鉄心1bを保護する構造とし、鉄心側脚1Bでは、珪素鋼板積鉄心1aと珪素鋼板巻鉄心1c及び別の珪素鋼板積鉄心1a´で、アモルファス巻鉄心1bの周囲を囲んでアモルファス巻鉄心1bを保護する構造としている。
そのため、本実施例では、鉄心ケースを省略することができ、鉄心ケースの金属部分と鉄心が接触する事象がなく、電気的に短絡することがなくなる。
また、変圧器鉄心1を支持するための剛性は、鉄心主脚1Aでは、珪素鋼板積鉄心1aと珪素鋼板巻鉄心1cで担保することができ、鉄心側脚1Bでは、珪素鋼板積鉄心1aと珪素鋼板巻鉄心1c及び別の珪素鋼板積鉄心1a´で、担保することができるため、系統事故などで巻線短絡が発生した場合にも、短絡機械力による鉄心の座屈を防止できる。
また、特許文献1の鉄心ケースは、巻線の短絡機械力に耐える構造となっているため、厚みのある金属板で製作され、その分変圧器の重量を増加させる一因となっていたが、本実施例の変圧器鉄心1の構造を採用することで、特許文献1のような鉄心ケースを除くことができ、変圧器の重量を軽減することが可能になると共に、鉄心ケースを除くことで、コストも削減可能となる。
従って、本実施例によれば、アモルファス磁性薄帯のような磁性薄帯で鉄心が形成されたものであっても、電気的な短絡を招くことなく、機械強度の高い変圧器鉄心1を得ることができる。
なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換える事が可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加える事も可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をする事が可能である。