JP2020142947A - 球状シリカエアロゲル粉体 - Google Patents

球状シリカエアロゲル粉体 Download PDF

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Abstract

【課題】 球状シリカエアロゲルを化粧品用添加剤などの用途に使用した際に、従来は、製造工程や塗布時に一部粒子の破壊が生じ、その破砕片が肌の凹部分に入り込み、化粧崩れの際もこれが残存し、肌の粗を目立たせる等の問題を引き起こしていた。そこで、このような破壊の起きにくい圧縮強度に優れた球状シリカエアロゲルを提供する。【解決手段】 水性シリカゾルからなるW相を有機溶媒相に分散させ、W/Oエマルションを形成後、球状のW相をゲル化させ、次いで、ゲル化体を回収する球状シリカエアロゲルの製造方法において、シリカゾル中に有機ナノファイバーを分散させておくことにより、ナノファイバーと複合された球状シリカエアロゲルとすることができ、これはD50±20%の範囲にある粒子の10%変形時の圧縮強度の相加平均値が35MPa以上と高い強度を発現する。【選択図】 なし

Description

本発明は、シリカエアロゲル粉体、詳しくは強度に優れた球状シリカエアロゲルからなる粉体に関する。
エアロゲルは、高い空隙率を有する材料であり、吸油性に優れる。ここで言うエアロゲルとは、多孔質な構造を有し分散媒体として気体を伴う固体材料を意味し、特に空隙率60%以上の固体材料を意味する。なお、空隙率とは、見掛けの体積中に含まれている気体の量を体積百分率で表した値である。エアロゲルは、上記空隙率が高いことに起因して、優れた吸油性を有し、その製造方法も複数提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
斯様なシリカエアロゲルの用途は様々であるが、中でも、化粧品材料として有用である。即ち、ファンデーションを例に挙げると、皮膚に塗布した際の、その外観持続性を向上させるための添加剤として、該シリカエアロゲルが用いられる。詳述すれば、シリカエアロゲルの多孔質な構造は、皮脂を良く吸収するため、皮膚が皮脂で濡れて光の正反射率を高まりテカリが生じることが防止できる。しかも、シリカエアロゲルは、前記疎水化して製造されたものであると、ファンデーション等の化粧品材料の有機成分と親和性が良くなり均一に分散するため、上記テカリ防止の外観持続性効果を一層に高める。
また、これらシリカエアロゲルは、化粧品に配合した際に、滑らかな触感を得るために、粒径は1〜数10μmで、且つ肌へのローリング性を向上させるために、その形状が球状であることが望ましい。こうした球状で適度な粒径を有するシリカエアロゲルの製造方法として、例えば次の方法が提案されている(特許文献5)。即ち、水性シリカゾルからなるW相を有機溶媒相に分散させ、W/Oエマルションを形成後、球状のW相をゲル化させ、次いで、解乳操作を施して該W相とO相とを分離させ、ゲル化体を抽出した後、これを疎水化して回収する方法である。ここで、上記W相のゲル化は、弱酸性ないし塩基性に調整した状態で行い、さらに、W相O相分離の解乳操作は、塩の添加、遠心力の付与、酸の添加、濾過、容積比の変化等を行うと説明されている。
また、同様の球状シリカエアロゲルの製造方法において、前記解乳操作を、エマルション中に水と水溶性有機溶媒を加えることで実施し、分離後のW相を加温してゲル化体を熟成させる方法も知られている(特許文献6)この場合、上記解乳操作前のW相のゲル化は実施例では全て塩基を加えてpHを調整することで行われている。
さらに、同様の球状シリカエアロゲルの製造方法において、上記解乳操作後にO相とW相に分離し、W相に塩基性物質を加えて、該W相に分散するゲル化体を熟成する方法も知られている(特許文献7)。
米国特許第4402927号公報 特開平10−236817号公報 特開平06−040714号公報 特開平07−257918号公報 特許第4960534号公報 特開2014−210671号公報 特開2018−177620号公報
ところが、前記方法で得られる球状シリカエアロゲルは、高多孔質な構造から化粧品用途において極めて有用ではあるものの、その粒子の圧縮強度の小ささから、更に改善の余地があった。即ち、球状シリカエアロゲルは化粧品用途に使用した場合、これが肌の皮孔やシワなど肌の凹部分に入り込み、化粧品を落とした際に、これが肌表面に部分的に残ると、化粧品を落とした後にかえって肌の粗を目立たせる問題がある。ただし、この肌の凹部分への入り込みは、球状シリカエアロゲルが前記適度な大きさであれば、それほど顕著に生じるものではないが、該粒径が小さくなると問題が顕在化し始める。
而して上記従来法で得られた球状シリカエアロゲルは、前記粒子の圧縮強度が十分でないため、脆く壊れ易く、化粧品の製造工程や塗布時に一部粒子の破壊が生じ、その破砕片が肌の凹部分に入り込み、化粧崩れの際もこれが残存し、肌の粗を目立たせる問題を引き起こしていた。加えて、斯様に粒子が破壊され、化粧品に破砕片が多く含まれるようになると、その肌に対するローリング性も低下し触感の滑らかさも、大きく損なわれていた。
以上の背景から本発明は、圧縮強度に優れ、化粧品用途に使用しても、粒子が壊れ難いことから、破砕片の肌の凹部分への入り込みや、ローリング性低下の問題が生じ難い、球状シリカエアロゲルからなる粉体を提供することにある。
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、シリカと有機ナノファイバーからなる球状シリカエアロゲルにおいて粒子の圧縮強度が大きく向上できる知見を得、これに基づいて該粒子の圧縮強度に優れる特異な球状シリカエアロゲルを初めて開発し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、コールターカウンター法により測定される体積累積50%径(D50)をXとした際に、当該Xが1〜30μmの範囲にある球状エアロゲル粉末であって、
該粉末中に含まれる粒子であって、顕微鏡観察により把握される粒子直径Yが0.8X≦Y≦1.2Xである粒子10個を選択し、これら粒子について、各々微小圧縮試験を行った際に、10%変形時の圧縮強度の相加平均値が35MPa以上であることを特徴とする球状エアロゲル粉末である。
また、本発明は、上記の球状シリカエアロゲル粉体よりなる化粧品用添加剤も提供する。
本発明のシリカエアロゲル粉体を構成するシリカエアロゲルは、球状の独立粒子を主成分とし、各粒子の圧縮強度が大きい。従って、負荷がかかっても形状を維持できるため、粒子が壊れた破片や粒子表面の一部が欠けて脱落した脱落片等が含有され難い。このため、充填性や分散性に優れ、化粧品用途に用いた場合、負荷がかかっても形状を維持できるため、使用時の肌へのローリング性に優れ、滑らかな触感が得られる。また、空隙率が高く優れた吸油性を有するためテカリ防止に優れる。
斯様な圧縮強度の大きい性状は、上記化粧品材料の添加剤用途とだけでなく、他の用途でも加工時の負荷に対しても形状を維持できる効果が良好に発揮されるため、本発明のシリカエアロゲル粉末は、断熱性付与剤、艶消し剤等の各種用途材料としても有用に用いることができる。
本発明の粉体は、球状シリカエアロゲルにより構成されている。ここでいうシリカとは二酸化ケイ素のことであって、二酸化ケイ素で構成されている物質の総称を指し、SiOと表す。本発明においてシリカエアロゲル粉末であるとは、質量基準で50%以上がシリカから構成されていることをいう。好ましくは同60%以上、より好ましくは同75%以上である。
また、本発明の粉体は球状シリカエアロゲルからなるため、化粧品に用いた場合、肌へのローリング性に優れる。ここで、シリカエアロゲルが球状とは、シリカエアロゲル粒子の平均円形度が0.8以上であることを意味する。該平均円形度は0.85以上であることが好ましい。
なお上記「平均円形度」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、観察したSEM像を得、画像解析により個々の粒子について下記式(1)によって定義される値C(円形度)を求め、この円形度Cを2000個以上の粒子について相加平均値として出した値である。なお、この際、一個の凝集粒子を形成している粒子群は1粒子として計数する。
Figure 2020142947
[式(1)において、Sは当該粒子が画像中に占める面積(投影面積)を表す。Lは画像中における当該粒子の外周部の長さ(周囲長)を表す。]
該平均円形度が1に近くなるほど、粒子は真球に近い形状となる。
本発明の球状エアロゲル粉体は、コールターカウンター法により測定される体積累積50%径(D50)が1〜30μmの範囲にある。当該体積累積50%径(D50)は、1〜20μmの範囲にあることが好ましく、1〜10μmの範囲にあることがより好ましい。
さらに、本発明の球状エアロゲル粉末においては、同法により測定される粒子径が1〜30μmの粒子を、個数基準で50%以上、さらには60%以上含むことが好ましい。該1〜30μmの粒径範囲の粒子は、球状シリカエアロゲルを化粧品に配合した際に、滑らかな触感を得るために適切な粒径になる。
本発明の球状エアロゲル粉末の最大の特徴は、上記方法で測定されるD50に対して、上記のD50をXとした際に、顕微鏡観察により把握される粒子直径Yが0.8X≦Y≦1.2Xである粒子10個について微小圧縮試験を行った際に、10%変形時の圧縮強度の相加平均値(以下、10%変形時圧縮強度ともいう)が35MPa以上である点にある。
上記粒子の10%変形時圧縮強度は、以下の方法により測定する。即ち、まず前記方法によりD50(X)を測定しておき、次いで、球状シリカエアロゲル粉末中に含まれる粒子であって、顕微鏡観察により把握される粒子直径Yが0.8X≦Y≦1.2Xである粒子を無作為に10個選ぶ。例えば、D50が5μmであるときには、直径が4μm乃至6μmの粒子を選ぶ。なお粒子が真球状でない場合には、短径と、該短径に直交する径(長径)の平均値をYとすればよい。
ここで10%変形時圧縮強度は測定粒子の径に依存する傾向があるが、粒子の多いD50近辺の粒径の粒子の強度を測ることで、粉末の代表強度と見なすものである。なお前記D50はコールターカウンター法によるものであるが、10%変形時圧縮強度を測定するための粒子の粒子径を直接コールターカウンター法で把握することは不可能なため、本発明においては顕微鏡観察によって各粒子の粒子径を把握する。平均円形度が0.8以上の球状粒子であれば、測定法の違いで把握される粒子径に著しい相違は生じない。
このようにして選択された粒子を、試験器の端子により負荷速度4.5mN/秒、負荷保持時間5秒の条件で応力を付与していき、変形量を10%とするのに必要な強度を求める。この操作を10個の粒子について行い、その値の相加平均値を求める。このような試験を実施可能な装置は市販されており、例えば、株式会社島津製作所微小圧縮試験機MZCT−W510−Jを用いることができる。
本発明の球状シリカエアロゲル粉末としては、上記10%変形時圧縮強度の平均が、より好ましくは40MPa以上である。また通常は80MPa以下、多くは60MPa以下である。
本発明の球状シリカエアロゲル粉体は、このようなに圧縮強度が顕著に大きく、従って負荷がかかっても壊れ難い。このため、エアロゲルの製造過程、保管時にかかる負荷や、さらに前記化粧品用途に使用した際のその製造工程や塗布時に負荷にも破壊が生じにくい。
従来、シリカエアロゲルは、その骨格が強度に優れたシリカで構成されているとはいえ、本質的に多孔質であるため、前記方法で測定した10%変形時圧縮強度は35MPaに満たないものであった。それに対し本発明においては、球状シリカエアロゲル粒子を、シリカと有機ナノファイバーの複合体とすることにより10%変形時圧縮強度を35MPaを超えるものとできる。
当該有機ナノファイバーとしては、一般には、有機物から構成され、繊維径が1〜100nm程度で、アスペクト比が10以上、好ましくは100以上の繊維が相当する。具体的には、セルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、キトサンナノファイバー等の天然物系の有機ナノファイバーや、アラミドナノファイバーやポリエステルナノファイバー、ポリウレタンナノファイバー等の合成樹脂系の有機ナノファイバーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明の球状シリカエアロゲル粉末においては、シリカエアロゲル本来の物性を発現させつつ、上記のような優れた10%変形時圧縮強度を得やすい点で、シリカと有機ナノファイバーの合計100wt%に対して有機ナノファイバーの割合は、上限が10wt%以下が好ましく、2wt%以下であることがより好ましく、下限は0.1wt%以上が好ましく、0.2wt%以上がより好ましい。
また、本発明の球状シリカエアロゲル粉末は、エアロゲル本来の特性を発現させやすい点で以下のような特性を有していることが好ましい。
窒素吸着法によるBET法による比表面積は、400〜1000m/gであることが好ましい。球状シリカエアロゲル粉末の比表面積が大きいほど、独立粒子の多孔質構造(網目構造)を構成する一次粒子の粒径が小さいことを示し、化粧品の添加剤として用いた際に増粘効果が高まる。増粘効果が高いと皮膚または頭髪等に塗布した際、液垂れを防止することが可能である。したがって、上記比表面積は500m/g以上であることが好ましく、550m/g以上であることがより好ましい。
一方、球状シリカエアロゲル粉末の比表面積は、大きくなりすぎると細孔容積が小さくなり、吸油量が小さくなることから、850m/g以下であることが好ましく、700m/g以下であることがより好ましい。通常、比表面積が1000m/gを超えて大きいエアロゲル粉末を得ることは困難である。
なお、本発明において、当該BET法による比表面積は、測定対象のサンプルを、1kPa以下の真空下において、150℃の温度で2時間以上乾燥させ、その後、液体窒素温度における窒素の吸着側のみの吸着等温線を取得し、BET法により解析して求めた値であり、解析時の分圧(P/P)の範囲は0.1〜0.25である。
BJH法による細孔容積は2〜8ml/gであることが好ましい。細孔容量が大きい程、優れた吸油性能が得られるため好ましい。下限値は、より好ましくは2.5ml/g以上、特に好ましくは4ml/g以上である。また上限は6ml/g以下であることがより好ましい。細孔容積が2ml/g以下である場合には、優れた吸油性能を得ることはできない。また、8ml/gを超えて大きなものを得ることは、通常、困難である。
本発明において、BJH法による、球状シリカエアロゲル粉末の細孔容積は、前記BET比表面積測定の際と同様に吸着等温線を取得し、BJH法(Barrett, E. P.; Joyner, L. G.; Halenda, P. P., J. Am. Chem. Soc. 73, 373 (1951)により、解析して得られたものである(以下において、「BJH細孔容積」ということがある)。本方法により測定される細孔は、半径1〜100nmの細孔であり、この範囲の細孔の容積の積算値が本発明における細孔容積となる。
本発明の球状シリカエアロゲル粉末のBJH法による細孔半径のピークは、通常10〜50nmの範囲にあることが好ましい。なお、該細孔半径のピークも、前記BET比表面積測定の際と同様に吸着等温線を取得し、BJH法により解析して得られたものである。該細孔半径のピークは、細孔半径の対数による累積細孔容積(体積分布曲線)が最大のピーク値をとる細孔半径の値である。
シリカエアロゲル粉末は、通常は高い吸油量を有することが特徴であり、本発明の球状シリカエアロゲル粉末も、吸油量が400mL/100g以上であることが好ましく、550mL/100g以上であることがより好ましく、650mL/100g以上であることが特に好ましい。吸油量は大きいほど、化粧品用途に用いた際のテカリ防止効果が得られるため、好ましい。吸油量の上限は特に限定されるものではないが、最大で700mL/100g程度である。
なお、本発明において、当該吸油量の測定は、JIS K6217−4「オイル吸収量の求め方」記載の方法により行うものとする。
本発明の球状シリカエアロゲル粉末は疎水性であることが好ましい。疎水性であることにより、経時劣化の原因となる水分の吸着が少なく、疎水性の樹脂との馴染みが向上するため疎水性の樹脂に分散させる場合に極めて有用である。また、エアロゲルが疎水性であることは、このものを超臨界乾燥および溶媒置換を伴わずに製造できるという観点からも、意義を有する。球状シリカエアロゲルの疎水化は、具体的には、該球状シリカエアロゲルをシリル化剤により処理することにより、その表面に有機シリル基が導入すること等により達成できる。
ここで、シリカエアロゲル粉末が疎水性であるか否かは、当該粉末を純水と一緒に容器に入れ攪拌等を行うことにより極めて容易に確認できる。疎水性であれば、その粉末は水に分散することなく、かつ、静置すれば水を下層、粉末を上層とする2層に分かれた状態を取り戻す。
また、疎水性、及びその程度についてはM値で評価することも可能である。なお、M値は、実施例に記載した測定方法にしたがって測定した値である。本発明の球状シリカエアロゲルからなる粉体のM値は30〜55vol%であることが好ましく、35〜55vol%であることがより好ましく、40〜55vol%であることが特に好ましい。
また、本発明の球状シリカエアロゲルからなる粉体が疎水性であることを示す指標の一つとして、炭素含有量を挙げることができる。疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体に含まれる炭素含有量は、有機ナノファイバー及び表面処理剤に由来するものであって、1000〜1500℃程度の温度において、空気中、若しくは酸素中で酸化処理した際に発生する二酸化炭素の量を定量することにより、測定することができる。
本発明の球状シリカエアロゲルからなる粉体は、上記炭素含有量が5〜12質量%であることが好ましく、6〜10質量%であることがより好ましい。炭素含有量が多いほど、本発明の疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体をファンデーション用の添加剤として用いた場合に、汗による化粧崩れを防止することができるため好ましいが、本発明の疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体において、一般的な疎水化処理により12質量%を超えて大きなものを得ることは難しい。
(物性、及び用途)
本発明の球状シリカエアロゲル粉末は、化粧品用添加剤として適度な粒度分布及び比表面積にあり、しかも圧縮強度が高く構成する粒子が壊れにいため、同用途、具体的にはファンデーションの添加剤として利用した際に、外観保持性に優れ、滑らかな触感が得られる。加えて、シリカエアロゲルとして、吸油量が高く、皮膚及び頭皮表面の脂分を効率良く吸収し、また、疎水性を呈し汗をはじく効果もあることから、上記ファンデーション以外の、ペースト、クリームタイプのメイクアップ・スキンケア化粧料、さらにはデオドラント用品、整髪料などの化粧品としても好適に用いることができる。
無論、前記適度な粒子性状を備え、高い圧縮強度を有することを生かして、断熱性付与剤、艶消し剤等の各種用途材料にも好適に用いることができる。
(製造方法)
本発明の球状シリカエアロゲル粉末を製造する方法は特に限定されるものではないが、好適には、以下の方法で容易に製造できる。即ち、
(1)有機ナノファイバーを分散させた水性シリカゾルを調整する工程
(2)前記水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させて、W/O型エマルションを形成させる工程
(3)前記シリカゾルをゲル化させて、前記W/O型エマルションをゲル化体の分散液へと変換する工程
(4)前記ゲル化体を分離、回収する工程
を順に行うことである。
上記の製造方法(以下、本製造方法ともいう)を、順序立てて以下に詳述する。
本製造方法では、まず、有機ナノファイバーを分散させた水性シリカゾルを調整する。この工程では、水性シリカゾルを調整して、これに有機ナノファイバーを分散させてもよいし、水性シリカゾルの調整と有機ナノファイバーの分散を同時に行ってもよく、その手順は特に限定されるものではないが、前者の方が好ましい。
水性シリカゾルと有機ナノファイバーの割合は、水性シリカゾル中のシリカ分(SiO換算分)と有機ナノファイバーとが、全て球状シリカエアロゲルの構成成分になるとして適宜設定して調整すればよい。
有機ナノファイバーは水性シリカゾルに分散可能で、かつ後述する工程においてW/O型エマルションを形成させた際に、W相(油相)側に分配されてしまわない程度に親水性のものを採用する。この場合、必要に応じて表面処理を行って親水化してもよい。
水性シリカゾルの調整方法は公知の方法を適宜採用すればよいが、一例として、ケイ酸アルカリ金属塩を用いる方法をあげると以下の通りである。
ケイ酸アルカリ金属塩を用いる場合には、塩酸、硫酸等の鉱酸で中和することによってシリカゾルを調製することが好ましく、具体的には、酸の水溶液に対して、該水溶液を撹拌しながらケイ酸アルカリ金属塩の水溶液を添加する方法や、酸の水溶液とケイ酸アルカリ金属塩の水溶液とを配管内で衝突混合させる方法が挙げられる(例えば特公平4−54619号公報参照)。より具体的には、水性シリカゾルを調製する際に用いる酸の量は、ケイ酸アルカリ金属塩のアルカリ金属分に対する水素イオンのモル比として、1.05〜1.2とすることが望ましい。酸の量をこの範囲にした場合には調製したシリカゾルのpHは1〜5程度となる。より好ましくは、調製したシリカゾルのpHが2.5〜3.5となるよう、酸の量を調整する。
上記の方法により作成したシリカゾルの濃度としては、ゲル化が比較的短時間で完了し、またシリカ粒子の骨格構造の形成を十分なものとして乾燥時の収縮を抑制でき、大きな細孔容量を得られやすい点で、シリカ分の濃度(SiO換算濃度)として50g/L以上とすることが好ましい。その一方で、シリカ粒子の密度を相対的に小さくして、良好な細孔容積を得、また吸油量を多くできやすい点で、160g/L以下とすることが好ましく、100g/L以下とすることがより好ましい。更に好ましくは90〜100g/Lである。
水性シリカゾルの濃度を上記下限値以上とすることにより、エアロゲルのBJH法による細孔容積を8mL/g以下とすることが容易になるほか、エアロゲルのBJH法による細孔半径のピークを50nm以下とすることが容易になる。また、水性シリカゲルの濃度を上記上限値以下とすることにより、エアロゲルのBJH法による細孔容積を2mL/g以上とすることが容易になるほか、エアロゲルのBJH法による細孔半径のピークを10nm以上とすることが容易になる。
本発明の球状エアロゲル粉末を製造するには、上記のような方法で得られた水性シリカゾルに有機ナノファイバーを分散させる。即ち、水性シリカゾルを分散媒、有機ナノファイバーを分散質として混合する。有機ナノファイバーを水性シリカゾルに分散する方法としては、機械による分散が好ましく、具体的には、ミキサー、ホモジナイザー等を使用する方法を例示できる。好適には、ホモジナイザーを用いることができる。有機ナノファイバーが水性シリカゾルへ均一に分散したかは目視によって確認することができる。分散が不十分な場合、有機ナノファイバーが凝集した状態で水性シリカゾル中を浮遊、もしくは沈降していることが確認できる。
有機ナノファイバーとしては、予め水性媒体に分散させたものを採用し、該分散液と水性シリカゾルとを混合させることも、良好な分散性を得ることができ好ましい。このような有機ナノファイバーの分散液は市販されており、それを用いることもできる。このような有機ナノファイバーの分散液を使用する場合には、水性シリカゾルとの混合後に、該混合液中のシリカ分の濃度(SiO換算濃度)が前記範囲に入るように調整することが好ましい。
本発明の球状エアロゲル粉末を製造するには、上記のようにして調整した有機ナノファイバーが分散した水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させて、W/Oエマルションを形成させる。このようなW/Oエマルションを形成することにより、シリカゾルは表面張力等により球状になるので、該球状形状で疎水性溶媒中に分散しているシリカゾルをゲル化させることにより、球状のゲル化体を得ることができる。このように、W/Oエマルションを形成するエマルション形成工程を経ることにより、0.8以上の高い円形度を有するエアロゲルを製造することが可能になる。
当該疎水性溶媒としては、水性シリカゾルとW/Oエマルションを形成できる程度の疎水性を有した溶媒であればよい。そのような溶媒としては、例えば、炭化水素類やハロゲン化炭化水素類等の有機溶媒を使用することが可能である。より具体的にはヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロプロパン等が挙げられる。これらの中でも、適度な粘度を有するヘプタンを特に好適に用いることができる。なお必要に応じて、複数の溶媒を混合して用いてもよい。また水性シリカゾルとW/Oエマルションを形成できる範囲であれば、低級アルコール類などの親水性溶媒を併用する(混合溶媒として使用する)ことも可能である。
使用する疎水性溶媒の量は、エマルションがW/O型となる程度の量であれば特に限定されることはない。ただし、一般的には、水性シリカゾル1体積部に対して疎水性溶媒が1〜10体積部程度となる量を使用する。
上記のW/Oエマルションを形成する際には、界面活性剤を添加することが好ましい。使用する界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、及びノニオン系界面活性剤のいずれも使用することが可能である。これらの中でも、W/Oエマルションを形成しやすい点で、ノニオン系界面活性剤が好ましい。本発明においては、シリカゾルが水性であるため、界面活性剤の親水性及び疎水性の程度を示す値であるHLB値が3以上6以下の界面活性剤を好適に用いることができる。なお本発明において「HLB値」とは、グリフィン法によるHLB値を意味する。
上述したように、本発明においては、W/Oエマルションの液滴の形状によってエアロゲル粒子の形状がほぼ定められる。好適に用いることのできる界面活性剤の具体的としては、ソルビタンモノオレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノセスキオレート等が挙げられる。
界面活性剤の使用量は、W/Oエマルションを形成させる際の一般的な量と変わるところがない。具体的には、水性シリカゾル100mlに対して0.05g以上10g以下の範囲を好適に採用することができる。界面活性剤の使用量が多いと、W/Oエマルションの液滴がより微細になり易く、逆に界面活性剤の使用量が少ないと、W/Oエマルションの液滴がより大きくなり易い。したがって界面活性剤の使用量を増減することにより、エアロゲルの平均粒径を調整することが可能である。
W/Oエマルションを形成する際に、水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させる方法としては、W/Oエマルションの公知の形成方法を採用することができる。工業的な製造の容易性などの観点からは、機械乳化によるエマルション形成が好ましく、具体的には、ミキサー、ホモジナイザー等を使用する方法を例示できる。好適には、ホモジナイザーを用いることができる。W/Oエマルション中のシリカゾル液滴の平均粒径とエアロゲルの平均粒径とは概ね対応関係にある。同時に、このようにエマルション中のシリカゾル液滴の粒径を十分小さくすることにより、シリカゾル液滴の形状が乱されにくくなるので、より高い円形度を有する球状のエアロゲルを得ることが一層容易になる。
本発明の球状エアロゲル粉末を製造するには、このようなW/Oエマルション中のシリカゾルをゲル化させる。酸性領域にあるシリカゾルは加熱により容易にゲル化する。従って、該ゲル化は、上記W/Oエマルションを加熱すればよい。
ゲル化温度は、50℃〜80℃にすることが好ましく、60℃〜70℃にすることがより好ましい。ゲル化温度が上記範囲を超えて高いと比表面積が低くなり、低いとゲル化が十分に進行しない。
また、ゲル化時間は、30分〜24時間とすることが好ましく、5〜12時間とすることがより好ましい。
ゲル化することで、W/O型エマルションをゲル化体の分散液へと変換するのである。前記有機ナノファイバーはシリカゾル中に分散しているため、このゲル化に際して、形成されるシリカ中に取り込まれた状態(分散した状態)となる。
本発明の球状エアロゲル粉末を製造するには、このようにして得たゲル化体を分離し、回収する。回収方法は、公知の方法を適宜採用すればよいが、好ましくは以下の方法である。即ち、以下の(5)から(7)の工程を実施することが好ましい。
(5)O相と、ゲル化体を含むW相とに分離させる工程。
(6)W相に分散しているゲル化体を疎水化する工程。
(7)疎水化されたゲル化体を回収する工程。
上記方法において、始めにO相とW相を分離する操作は、一般的には解乳とも呼ばれている操作である。解乳後、前記工程により得られたゲル化体は、W相側に分散して存在する。
当該解乳方法としては、公知の方法を採用することが可能であるが、具体的には、水溶性有機溶媒の添加、塩の添加、遠心力の付与、酸の添加、濾過、容積比の変化(水又は疎水性溶媒の添加)等から選ばれる一つ、あるいは複数を組み合わせて実施することができる。好適には、一定量の水溶性有機溶媒を、必要に応じて水と共にエマルション中に加えてO相とW相に分離することができる。解乳工程を経ると、一般に、上層がO相(有機層)、下層がW相(水層)となる。
上記の水溶性有機溶媒としては、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。このうち、イソプロピルアルコールは、後述のシリル化処理の際にも、処理の効率を高める上で効果があるため、好適に用いることができる。
上記の水溶性有機溶媒の添加量は、エマルション形成時に用いた界面活性剤の種類および量によって調整することが好ましい。例えば、W/O型エマルジョンの界面活性剤としてソルビタンモノオレエートを用いた場合には、O相の量に対して質量で0.1〜0.4倍程度の水溶性有機溶媒を加え、必要に応じて撹拌後、静置することにより、好適にO相とW相に分離することができる。また、上記水溶性有機溶媒と供に、水も、O相の量に対して質量で0.6〜0.9倍程度の添加量で加えるのが好ましい。また、該分離操作を行う際の温度は特に限定されないが、通常は、20〜70℃程度で行うことができる。
熟成は、O相と層分離されたW相(ゲル化体が分散)に塩基性物質を加えてW相のpHを弱酸性ないし塩基性に調整し、ゲルの熟成を行うことで実施する。
前記W相に対する塩基性物質を加えることで、酸性域下にあるW相のpHは上昇して、弱酸性ないし塩基性が呈される状態になるが、具体的には、W相のpHは4.5〜10とすることが好ましく、4.5〜8.0とすることがより好ましく、4.5〜5.5とすることが特に好ましい。上記塩基性物質としては、アンモニア、苛性ソーダ、アルカリ金属ケイ酸塩等を用いることができる。中でも苛性ソーダを用いることがpH調整を容易に行うことができるため、好ましい。
また、上記ゲルの熟成は、熟成温度を室温〜80℃程度で保持することによって行うことができる。熟成時間は、W相のpHと熟成温度によって適宜設定すればよいが、0.5〜12時間程度である。
上記のようにして、親水性のゲル化体(多孔質シリカ)がW相に分散している液を得ることができるが、該ゲル化体を単純にろ別等により回収し、乾燥を行ったのでは、収縮により細孔がつぶれてしまい、エアロゲルとすることができない。該収縮を抑制する方法としては超臨界乾燥と、以下に述べるようなゲル化体を疎水化し、その後乾燥する方法が知られている。
なおゲル化体をシリル化処理するに際しては、その処理効率を向上させるため、該W相をO相から分離しておくことが望ましい。分離方法は特に限定されないが、2相に分かれているO相とW相とを、例えばデカンテーション等でO相を除去し、W相を回収することができる。
ここで、完全にO相を分離除去する必要はないが、当該W相に含まれるゲル化体をシリル化処理する工程において、効率的にシリル化処理を行うためにはO相の割合はなるべく少ない方が良く、W相の量に対して20wt%以下となるようにすることが好ましく、さらに好ましくは10wt%以下である。
ゲル化体の疎水化は、シリル化剤を用いてゲル化体をシリル化処理すればよい。シリル化処理によって得られる球状シリカエアロゲルは疎水性を呈するものになり、該ゲル化体を乾燥する際に収縮が抑制されて、エアロゲルとしての多孔質な構造を保持した粉体を得ることを可能にさせる。
本発明において使用可能なシリル化剤としてはシラノール基:
M−OH (2)
[式中、Mはゲル化体を形成しているSi原子を表す。式(2)においてはMの残りの原子価は省略されている。以下の式において、すべて同じ。]
と反応し、これを
(M−O−)(4−n)SiR (3)
[式(3)中、nは1〜3の整数であり、Rは炭化水素基であり、nが2以上である場合には、複数のRは同一でも相互に異なっていてもよい。]へと変換することが可能なシリル化剤を一例として挙げることができる。このようなシリル化剤を用いてシリル化処理を行うことにより、エアロゲル粉体表面のヒドロキシ基が疎水性のシリル基でエンドキャッピングされて不活性化されるので、表面ヒドロキシ基相互間での脱水縮合反応を抑制できる。よって、臨界点未満の条件で乾燥を行っても乾燥収縮を抑制できるので、2mL/g以上のBJH細孔容積を有する金属酸化粉末を得ることが可能になる。
上記のシリル化剤としては、以下の一般式(4)〜(6)で示される化合物が知られている。
SiX(4−n) (4)
[式(4)中、nは1〜3の整数を表し;Rは炭化水素基等の疎水基を表し;Xはヒドロキシ基を有する化合物との反応においてSi原子との結合が開裂して分子から脱離可能な基(脱離基)を表す。nが2以上のとき複数のRは同一でも異なっていてもよい。また、nが2以下のとき複数のXは同一でも異なっていてもよい。]
Figure 2020142947
[式(5)中、Rはアルキレン基を表し;R及びRは各々独立に炭化水素基を表し;R及びRは各々独立に水素原子又は炭化水素基を表す。]
Figure 2020142947
[式(6)中、R及びRは各々独立に炭化水素基を表し、mは3〜6の整数を表す。複数のRは同一でも異なっていてもよい。また、複数のRは同一でも異なっていてもよい。]
上記式(4)において、Rは炭化水素基であり、好ましくは炭素数1〜10の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数1〜4の炭化水素基であり、特に好ましくはメチル基である。
Xで示される脱離基としては、塩素、臭素等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;−NH−SiRで示される基(式中、Rは式(4)におけるRと同義である)等を例示できる。
上記式(4)で示されるシリル化剤を具体的に例示すると、クロロトリメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、トリクロロメチルシラン、モノメチルトリメトキシシラン、モノメチルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。反応性が良好である点で、クロロトリメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、トリクロロメチルシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン及び/又はヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルジシロキサンが特に好ましい。
脱離基Xの数(4−n)に応じて、エアロゲル粉体骨格上のヒドロキシ基と結合する数は変化する。例えば、例えば、nが2であれば:
(M−O−)SiR (7)
という結合が生じることになる。また、nが3であれば:
M−O−SiR (8)
という結合が生じることになる。このようにヒドロキシ基がシリル化されることにより、シリル化処理がなされる。
上記式(5)において、Rはアルキレン基であり、好ましくは炭素数2〜8のアルキレン基であり、特に好ましくは炭素数2〜3のアルキレン基である。
上記式(5)において、R及びRは各々独立に炭化水素基であり、好ましい基としては、式(4)におけるRと同様の基を挙げることができる。Rは水素原子又は炭化水素基を示し、炭化水素基である場合には、好ましい基としては、式(4)におけるRと同様の基を挙げることができる。この式(5)で示される化合物(環状シラザン)でゲル化体を処理した場合には、ヒドロキシ基との反応によりSi−N結合が開裂するので、ゲル化体中のエアロゲル粉体骨格表面上には
(M−O−)SiR (9)
という結合が生じることになる。このように上記式(5)の環状シラザン類によっても、ヒドロキシ基がシリル化され、シリル化処理がなされる。
上記式(5)で示される環状シラザン類を具体的に例示すると、ヘキサメチルシクロトリシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン等が挙げられる。
上記式(6)において、R及びRは各々独立に炭化水素基であり、好ましい基としては、式(4)におけるRと同様の基を挙げることができる。mは3〜6の整数を示す。この式(6)で示される化合物(環状シロキサン)でゲル化体を処理した場合、ゲル化体中のエアロゲル粉体骨格表面上には、
(M−O−)SiR (10)
という結合が生じることになる。このように上記式(6)の環状シロキサン類によっても、ヒドロキシ基がシリル化され、シリル化処理がなされる。
上記式(6)で示される環状シロキサン類を具体的に例示すると、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等が挙げられる。
上記のシリル化処理の際に使用するシリル化剤の量としては、処理剤の種類にもよるが、ヘキサメチルジシロキサンをシリル化剤として用いる場合には、シリカ(使用したシリカゾル量から計算されるSiO量)100質量部に対して10〜150質量部が好適である。より好ましくは20〜130質量部であり、更に好ましくは30〜120質量部である。
上記のシリル化処理の条件は、W相に対して、シリル化剤を加え、一定時間反応させることにより行うことができる。例えば、シリル化剤としてヘキサメチルジシロキサンを用い、処理温度を50℃とした場合には、6〜12時間程度以上保持することで行うことでき、処理温度を70℃とした場合には3〜12時間程度以上保持することで行うことができる。
また、シリル化処理剤としてオクタメチルシクロテトラシロキサン等の環状シロキサン類を用いる場合には、塩酸を添加することで溶液のpHを0.3〜1.0とすることが、反応の効率を高める上で好ましい。
当該シリル化処理工程においては、W相中へのシリル化剤の溶解度を高めて、反応の効率を高める目的で、水溶性有機溶媒を加えることが好ましい。この水溶性有機溶媒としては、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。このうち、イソプロピルアルコールを好適に用いることができる。
上記水溶性有機溶媒は、ゲル化体を含むW相中の濃度で20〜80wt%程度になるように加えることが好ましい。
乾燥時の収縮を抑制しやすい点で、上記疎水化処理の後に、ゲル化体をいったん疎水性有機溶媒中に抽出することが好ましい。即ち、疎水化されたゲル化体は疎水性有機溶媒への親和性が高くなっているため、疎水性有機溶媒を加えて撹拌等を行うことにより、該疎水性有機溶媒側へ移動する。ゲル化体抽出に用いる疎水性有機溶媒の選定基準としては、後の乾燥工程の際、乾燥収縮を起こさないために表面張力が小さいことが挙げられる。具体的にはヘキサン、ヘプタン、ノナン、デカン、ジクロロメタン、メチルエチルケトン、トルエン等を用いることができ、好適にはヘキサン、ヘプタン、デカン、トルエンを用いることが出来る。使用する疎水性有機溶媒の量は、W相の体積に対して0.5倍〜10倍を目処に適宜設定すればよい。
上記の疎水性有機溶媒への抽出を行った後に、ゲル化体に含まれる塩分や、疎水性有機溶媒中に含まれる硫酸塩等を除去するために、当該有機溶媒を水或いはアルコールの水溶液で洗浄を行うことが好ましい。この洗浄操作は公知の方法で行うことができ、いわゆる液/液抽出の操作として周知の方法を採用できる。洗浄効率を上げる上では、数10wt%程度のイソプロピルアルコールの水溶液を用いることが好ましい。また、疎水性有機溶媒の沸点を超えない範囲で、高温にすることが洗浄効率を高める上では好ましい。通常は、45〜70℃の範囲で行うことができる。
上記のようにして不純物となる塩等を除去したゲル化体を液中から回収する。回収においては、疎水性有機溶媒に分散しているゲル化体を濾別すればよい。ついで、濾別して得られたゲル化体から疎水性有機溶媒を除去(すなわち乾燥)する。乾燥する際の温度は、溶媒の沸点以上で、シリル化剤等の表面処理剤及び有機ナノファイバーの分解温度以下であることが好ましく、圧力は常圧ないし減圧下で行うことが好ましい。
このようにして、シリカ中に有機ナノファイバーが分散し、かつ前記したような物性を有するシリカエアロゲルを製造することができる。
以下、本発明を具体的に説明するため、実施例を示す。ただし本発明はこれらの実施例のみに制限されるものではない。なお、実施例及び比較例の評価は以下の方法で実施した。
<評価方法>
実施例1〜5及び比較例1、2で製造した疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体に対して、以下の項目について試験を行った。
(D50)
シリカエアロゲル粉末をエタノールに添加し、30分超音波分散を行った。得られたエタノール分散液をベックマン・コールター株式会社製精密粒度分布測定装置Multisizer3を用い、50μmのアパチャーチューブを使用して、D50を測定した。
(圧縮強度)
株式会社島津製作所製微小圧縮試験機(MZCT−W510−J)を用いた。該試験器に付属の「試料の大きさ測定機能(顕微鏡)」で、粒径がD50(μm)±20%の粒子を無作為に10個選択し、負荷速度4.5mN/秒、負荷保時時間5秒の測定条件で10%変形時の圧縮強度を個々の粒子について測定し、その平均を求めた。
(比表面積、細孔容積及び吸油量)
BET比表面積、及びBJH細孔容積の測定は、上述の定義に従ってマイクロトラック・ベル株式会社製BELSORP−maxにより行った。吸油量の測定は、JIS K6217−4「オイル吸収量の求め方」により行った。
(M値)
疎水性シリカエアロゲルは水には浮遊するが、メタノールには完全に懸濁する。このことを利用し、以下の方法によって測定した修飾疎水度をM値として、シリカエアロゲル表面疎水基による疎水化処理の指標とした。
シリカエアロゲル0.2gを容量200mLのビーカー中の50mlの水に加え、マグネティックスターラーで攪拌した。これに、ビュレットを使用してメタノールを加え、シリカエアロゲルの全量がビーカー内の溶媒に濡れて懸濁した時点を終点として、滴下した。この際、メタノールが直接試料に触れないように、チューブで溶液内に導いた。終点におけるメタノール−水混合溶媒中のメタノールの容量%を疎水度(M値)とした。
M値 = メタノール滴下量 / (メタノール滴下量+50ml)
(平均円形度)
シリカエアロゲル粉末について日立ハイテクノロジーズ製SEM(S−5500)を用いて、加速電圧3.0kV、二次電子検出、倍率1000倍で観察した。得られたSEM画像を画像解析することにより、下記式によりシリカエアロゲル粒子の円形度を算出した。なお、平均円形度は、2000個以上のシリカエアロゲル粒子について円形度を算出し、平均したものである。
C=4πS/L
[上記式において、Sは当該粒子が画像中に占める面積(投影面積)を表す。Lは画像中における当該粒子の外周部の長さ(周囲長)を表す。]
(炭素含有量)
エレメンター・ジャパン株式会社製の元素分析装置(vario MICRO cube)を用い、炭素含有量を測定した。
<実施例1>
硫酸100gを撹拌羽で撹拌しながら、珪酸ナトリウム100gを徐々に添加し、水性シリカゾルを調整した。このとき、pHは3.0であった。
上記方法で調整した水性シリカゾル200gにセルロースナノファイバー(品名:レオクリスタI−2SX、固形分2.1%、第一工業製薬株式会社)を水性シリカゾル中のシリカ分に対して、ナノファイバー量として0.2wt%加え、ホモジナイザー(IKA製、T25BS1)を用いて、8400回転/分の条件で、1分間撹拌して分散させた。
調整したナノファイバー分散水性シリカゾル108gを取り分け、これに160gのヘプタンを加え、ソルビタンモノオレエートを1.6g添加した。この溶液をホモジナイザーを用いて、9000回転/分の条件で2.5分撹拌することで、W/Oエマルションを形成させた。
得られたW/Oエマルションを撹拌羽で撹拌しながら、70℃、6時間かけてゲル化した。続けて、イソプロピルアルコール40gとイオン交換水60gを加えて、攪拌羽で攪拌しながらO相とW相を分離した。続けて、0.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液を1.60g添加した。このとき、W相のpHは5.0であった。70℃、3時間かけて、ゲル化体の熟成を行った。デカンテーションにより、O相を除去することで、W相を回収した。
得られたW相に35%塩酸を10g、ヘキサメチルジシロキサンを12g添加し、撹拌しながら70℃のウォーターバスで12時間保持することにより、シリル化処理を行った。
シリル化処理後、攪拌羽で攪拌しながら48%水酸化ナトリウム水溶液を7.14g添加し、中和処理を行った。続いて、ヘプタン100gを加え、ゲル化体を抽出し、イオン交換水100gで2回洗浄を行った。
得られたシリル化後のゲル化体を吸引濾過機により濾別した。ゲル化体の乾燥を真空圧力下、100℃で16時間以上加熱することで、本発明の疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体を得た。物性の評価結果を表1に示す。
<実施例2>
セルロースナノファイバーの量を、水性シリカゾル中のシリカ分に対して2wt%となるように加えた以外は、実施例1と同様の操作を行った。物性の評価結果を表1に示す。
<実施例3>
セルロースナノファイバーの量を、水性シリカゾル中のシリカ分に対して10wt%となるように加えた以外は、実施例1と同様の操作を行った。物性の評価結果を表1に示す。
<実施例4>
セルロースナノファイバーの量を、水性シリカゾル中のシリカ分に対して2wt%となるように加えた以外は実施例1と同様の操作でナノファイバー分散水性シリカゾルを調整した。続いて、調整したナノファイバー分散水性シリカゾル108gを取り分け、これに160gのヘプタンを加え、ソルビタンモノオレエートを1.6g添加した。この溶液をホモジナイザーを用いて、5000回転/分の条件で3分撹拌することで、W/Oエマルションを形成させた。これ以降は、実施例1と同様の操作を行った。物性の評価結果を表1に示す。
<実施例5>
セルロースナノファイバーの量を、水性シリカゾル中のシリカ分に対して2wt%となるように加えた以外は実施例1と同様の操作でナノファイバー分散水性シリカゾルを調整した。続いて、調整したナノファイバー分散水性シリカゾル108gを取り分け、これに160gのヘプタンを加え、ソルビタンモノオレエートを1.6g添加した。この溶液をホモジナイザーを用いて、11000回転/分の条件で3分撹拌することで、W/Oエマルションを形成させた。これ以降は、実施例1と同様の操作を行った。物性の評価結果を表1に示す。
<比較例1>
実施例1において、セルロースナノファイバーを分散させる工程を経ずに球状シリカエアロゲルを作成した。物性の評価結果を表1に示す。
<比較例2>
実施例4において、セルロースナノファイバーを分散させる工程を経ずに球状シリカエアロゲルを作成した。物性の評価結果を表1に示す。
Figure 2020142947

Claims (6)

  1. コールターカウンター法により測定される体積累積50%径(D50)をXとした際に、当該Xが1〜30μmの範囲にある球状エアロゲル粉末であって、
    該粉末中に含まれる粒子であって、顕微鏡観察により把握される粒子直径Yが0.8X≦Y≦1.2Xである粒子10個を選択し、これら粒子について、各々微小圧縮試験を行った際に、10%変形時の圧縮強度の相加平均値が35MPa以上であることを特徴とする球状エアロゲル粉末。
  2. 球状エアロゲル粉末を構成する粒子が、シリカと有機ナノファイバーを主成分として構成されている、請求項1記載の球状シリカエアロゲル粉末。
  3. 窒素吸着BET法による比表面積が400〜1000m/gである、請求項1または請求項2記載の球状シリカエアロゲル粉末。
  4. BJH法による細孔容積及び細孔半径のピークが各々2〜8ml/g、10〜50nmである、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の球状シリカエアロゲル粉末。
  5. 吸油量が400ml/100g以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の球状シリカエアロゲル粉末。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の球状シリカエアロゲル粉末よりなる化粧品用添加剤。
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