JP2020138963A - 脳由来神経栄養因子に対するモノクローナル抗体およびその抗体を産生するハイブリドーマ - Google Patents

脳由来神経栄養因子に対するモノクローナル抗体およびその抗体を産生するハイブリドーマ Download PDF

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【課題】成熟型BDNFおよびその前駆体を特異的に認識するモノクローナル抗体を提供する。【解決手段】特定のアミノ酸配列の129〜176番目のアミノ酸からなる領域に含まれるエピトープを特異的に認識する、成熟型BDNFおよびその前駆体に特異的に結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。【選択図】なし

Description

本発明は、脳由来神経栄養因子に対するモノクローナル抗体およびその抗体を産生するハイブリドーマに関する。
脳はさまざまな外界刺激に対する反応として神経細胞の電気活動さらには神経伝達の伝搬を誘導して、その活動痕が例えば記憶という情報の蓄積につながる。しかしこのとき同時にその情報蓄積を確かにするためにタンパク質が合成され、当該タンパク質が機能することも見出されており、神経細胞の成長を促進する脳内成長因子(brain-derived neurotrophic factor:BDNF)はその代表的因子であることが報告されている(非特許文献1〜4)。したがって、BDNFの機能低下は認知症やうつ病といった神経回路ネットワークの機能低下につながることが予想され、これらの疾患との関連研究も増えると同時に創薬の標的分子として注目されている (非特許文献5および6)。
また、BDNFは脳以外に臓器や体液に存在することも報告されている(非特許文献7〜9)。BDNFのシグナルと脳腫瘍や肺がんの関係、血液や脳脊髄液に存在するBDNFをうつ病等の診断バイオマーカーの候補とする研究である。
このような背景と近年の研究展開を考えたとき、BDNFに対する抗体は重要な研究試薬としてさらには創薬や診断技術への応用などが期待される。
これまでにBDNFに対する抗体は多数作製されており、市販もされている。しかし、それらのほとんどは、反応特異性について不十分な評価しかされていない。その重要な理由として、BDNFは生体において微量にしか発現していないため、高感度な抗BDNF抗体が必要とされ、一方で、抗BDNF抗体の反応特異性を評価するためには、BDNFを発現しない細胞または組織においては結合反応が見られないことを確認する必要があることが挙げられる。例えば、BDNFノックアウトマウス由来の組織切片または細胞のライセートをウエスタンブロットやELISAに供した場合には、シグナルが検出されないことが必須である。ところが、市販抗体の多くは十分な性能評価がされておらず、当業者により上記基準を満たすものとして認識されている市販の抗BDNF抗体は、本願出願時では、プロメガ社の抗BDNF抗体#G700Bおよび#G164G、ならびにAbcam社のマウスBDNFモノクローナル抗体#3C11およびウサギBDNFモノクローナル抗体#EPR1292のみであり、しかも、プロメガ社の抗BDNF抗体はすでに入手不能である(販売中止)。一般的に、抗体は、そのアプリケーションごとに使用可能なものが異なり、例えば、ウェスタンブロッティング法では使用できる抗体がELISA法では使用できない場合や、その逆の場合も多いことを考えると、信頼できる抗BDNF抗体が明らかに不足しているのが現状である。
さらに、上記の信頼できる抗BDNF抗体はいずれも、成熟型BDNFのみを認識し、その前駆体であるproBDNFを認識しない。すなわち、現状、細胞において産生されたproBDNFと成熟型BDNFとをあわせたBDNF分子の総量を測定可能な信頼できる抗BDNF抗体は存在しない。また、BDNFの機能を阻害または亢進するような生理活性を有する抗BDNF抗体も、これまでには報告されていない。
Barde YA, Edgar D, Thoenen H. Purification of a new neurotrophic factor from mammalian brain. EMBO J. 1982;1(5):549-53 Park H, Poo MM. Neurotrophin regulation of neural circuit development and function. Nat Rev Neurosci. 2013;14(1):7-23 Lessmann V, Brigadski T. Mechanisms, locations, and kinetics of synaptic BDNF secretion: an update. Neurosci Res. 2009;65(1):11-22 Bibel M, Barde YA. Neurotrophins: key regulators of cell fate and cell shape in the vertebrate nervous system. Genes Dev. 2000;14(23):2919-37 Budni J, Bellettini-Santos T, Mina F, Garcez ML, Zugno AI. The involvement of BDNF, NGF and GDNF in aging and Alzheimer's disease. Aging Dis. 2015; 6(5):331-41 Castren E, Kojima M. Brain-derived neurotrophic factor in mood disorders and antidepressant treatments. Neurobiol Dis. 2017;97(Pt B):119-126 Marosi K, Mattson MP. BDNF mediates adaptive brain and body responses to energetic challenges. Trends Endocrinol Metab. 2014;25(2):89-98 Saruta J, Lee T, Shirasu M, Takahashi T, Sato C, Sato S, Tsukinoki K. Chronic stress affects the expression of brain-derived neurotrophic factor in rat salivary glands. Stress. 2010;13(1):53-60 Polacchini A, Metelli G, Francavilla R, Baj G, Florean M, Mascaretti LG, Tongiorgi E. A method for reproducible measurements of serum BDNF: comparison of the performance of six commercial assays. Sci Rep. 2015; 5: 17989
本発明は、成熟型BDNFおよびその前駆体の両方に対して特異的結合能を有する、信頼できる品質の抗BDNF抗体の提供を課題とする。
本発明者らは、鋭意検討の結果、成熟型BDNFおよびその前駆体に対して特異的結合能を有するマウスモノクローナル抗体(2D7、3C8)とそのハイブリドーマの作製に成功し、本発明の完成に至った。すなわち、本発明は以下の態様を含む:
〔1〕配列番号1で示されるアミノ酸配列の129〜176番目のアミノ酸からなる領域に含まれるエピトープを認識する、成熟型BDNFおよびその前駆体に特異的に結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
〔2〕上記〔1〕に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、配列番号1で示されるアミノ酸配列の203〜247番目のアミノ酸からなる領域を認識しない、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
〔3〕上記〔1〕または〔2〕に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、前記エピトープが配列番号1で示されるアミノ酸配列の165〜176番目のアミノ酸からなる領域に含まれる、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
〔4〕上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託番号:NITE P-02652または受託番号:NITE P-02653として寄託されたハイブリドーマより産生される、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
〔5〕上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、受託番号:NITE P-02652のハイブリドーマ、または、受託番号:NITE P-02653のハイブリドーマより産生されるモノクローナル抗体と同じエピトープと反応する、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
〔6〕上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のモノクローナル抗体または抗原結合断片であって、哺乳動物由来の成熟型BDNFおよびその前駆体を認識する、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
〔7〕成熟型BDNFおよびその前駆体を検出するためのキットであって、上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を含む、キット。
〔8〕独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託番号:NITE P-02652またはNITE P-02653として寄託されたハイブリドーマ。
〔9〕上記〔8〕に記載のハイブリドーマを培養してモノクローナル抗体を産生させる工程を含む、成熟型BDNFおよびその前駆体に特異的に結合するモノクローナル抗体の製造方法。
〔10〕試料中の成熟型BDNFおよびその前駆体を検出する方法であって、上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片と前記試料とを反応させる工程と、前記モノクローナル抗体またはその抗原結合断片と結合した成熟型BDNFおよびその前駆体を検出する工程とを含む方法。
〔11〕上記〔10〕に記載の方法であって、前記検出工程がELISAにより行われる方法。
本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片によれば、proBDNFおよび成熟型BDNFの両方をあわせたBDNF分子の総発現量を測定することが可能となる。また、本発明のモノクローナル抗体を、proBDNFのプロドメインを特異的に認識し、かつ、成熟型BDNFを認識する既存の抗体と組み合わせて用いることにより、proBDNFと成熟型BDNFとをそれぞれ定量することが可能となる。
また、本発明の抗体またはその抗原結合断片はBDNF/TrkBシグナル経路を阻害効果を有する。そのため、BDNF/TrkBシグナル経路が関与する脳機能や疾患を研究するために有用であり得る。
図1は、ヒトpreproBDNFのアミノ酸配列およびドメイン構造を示す。下線は、成熟型BDNFのアミノ酸配列を示し、下記実施例の抗体作製において抗原として用いた配列である。 図2は、下記実施例2で行ったBDNFと2D7抗体との相互作用における結合能を表面プラズモン共鳴分析により測定した結果を示すグラフである。図中、2D7抗体を固定したチップ上に15nMのBDNFをロードした結合過程を黒線で示し、その後の解離過程を白線で示す。 図3は、下記実施例2で行ったBDNFと3C8抗体との相互作用における結合能を表面プラズモン共鳴分析により測定した結果を示すグラフである。図3中、3C8抗体を固定したチップ上に15nMのBDNFをロードした結合過程を黒線で示し、その後の解離過程を白線で示す。 図4は、2D7抗体および3C8抗体のエピトープ決定試験に用いたhBD-m1、hBD-m2およびhBD-m3と、成熟型BDNFとのアミノ酸配列の関係を示す概略図である。 図5は、hBD-m1、hBD-m2およびhBD-m3をpET32b(+)ベクターで発現させるための遺伝子カセットの概略図を示す。TRXはチオレドトキシンを、His-tagはヒスチジンタグを、PCS(precision)はhBD-m1、hBD-m2およびhBD-m3の各タンパク質をTRXとHis-tagから切り離すための配列をそれぞれ示す。 図6は、hBD-m1、hBD-m2およびhBD-m3について、2D7抗体または3C8抗体を用いて行ったウェスタンブロッティングの結果を示す画像である。図6(a)はHisタグ抗体を、図6(b)は2D7抗体を、図7(c)は3C8抗体を用いて各エピトープを検出した結果を示す。 図7は、下記実施例における免疫沈降の結果を示す画像である。 図8は、2D7抗体および3C8抗体を用いてBDNFをサンドイッチELISAにより定量した結果を示すグラフである。図8(A)は定量結果より得られた検量線を示すグラフであり、図8(B)はBDNFの濃度決定と反応特異性を示す。 図9は、2D7抗体および3C8抗体を用いてproBDNFをサンドイッチELISAにより定量した結果を示すグラフである。 図10は、2D7抗体および3C8抗体によるTrkBリン酸化阻害効果をウェスタンブロッティングにより確認した結果を示す。
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではない。
本発明は、第一の実施形態によれば、配列番号1で示されるアミノ酸配列の129〜176番目のアミノ酸領域に含まれるエピトープを認識する、成熟型BDNFおよびその前駆体に特異的に結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合断片である。
本実施形態において、「BDNF」とは、脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor)を意味する。BDNFは、シグナルペプチド、プロドメイン(プロペプチドとも呼ばれる)および成熟ドメインからなるpreproBDNFとして小胞体内腔で合成され、その後、preproBDNFからシグナルペプチドが切り離されてproBDNFとなり、ゴルジ体にてさらにプロドメインが切り離されて成熟型BDNFとなる。本実施形態におけるBDNFの「前駆体」は、preproBDNFおよびproBDNFのどちらも含み得るが、preproBDNFは短時間で速やかにproBDNFへと変換されるため、実質的にはproBDNFである。また、本明細書では、成熟型BDNFを指して、「mBDNF」または単に「BDNF」とも記載する。
本実施形態における成熟型BDNFおよびその前駆体は、哺乳動物(ヒト、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコなど)、魚類、両生類、爬虫類、鳥類などの任意の脊椎動物由来のものであってよいが、好ましくは哺乳動物由来、さらに好ましくはヒト由来である。なお、BDNFのアミノ酸配列は優れた種間の保存性を有しており、霊長類および齧歯類の間では100%の配列同一性を有する。ヒトpreproBDNFのアミノ酸配列(アクセッション番号:CAA62632)を図1および配列番号1に示す。1〜18番目のアミノ酸からなる領域がシグナルペプチドであり、19〜128番目のアミノ酸からなる領域がプロドメインであり、129〜247番目のアミノ酸からなる領域(図1、下線部)が成熟ドメインである。
本実施形態の抗体は、モノクローナル抗体である。「モノクローナル」とは、実質的に均一な集団を意味する語であり、したがって、「モノクローナル抗体」とは、その集団を構成する個々の抗体が同一であり、同じエピトープに対して同一の結合特異性および親和性を有するものをいう。本実施形態のモノクローナル抗体は、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体または完全ヒト抗体のいずれであってもよい。
本実施形態において、「抗原結合断片」とは、抗体の一部であって、少なくとも抗原結合領域を含む断片をいう。抗原結合断片の具体例としては、例えば、Fv、scFv、Fab、F(ab')2、Fab'、Fd、dAb、CDR、scFv-Fc断片、ナノボディ、アフィボディ、ダイアボディ、アビマー、ミニボディ、バーサボディなどが挙げられる。
本実施形態のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片(以下、単に「抗体」とも記載する)は、ビオチン、蛍光色素、化学発光色素、放射性同位元素、酵素などの当該分野で公知の任意の標識物質により標識されていてもよい。抗体またはその抗原結合断片の標識は、公知の手法により適宜行うことができる。
本実施形態のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、配列番号1のアミノ酸配列における129〜176番目のアミノ酸からなる領域内のエピトープを認識する。本実施形態のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片が認識するエピトープは、配列番号1のアミノ酸配列における129〜176番目のアミノ酸からなる領域内に含まれる連続したアミノ酸配列からなってもよいし、立体構造的に近接する不連続なアミノ酸からなってもよい。エピトープを構成するアミノ酸の数は、特に限定はされないが、例えば、4以上、5以上、6以上であり、好ましくは約6〜10アミノ酸である。好ましくは、本実施形態のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、配列番号1のアミノ酸配列における165〜176番目のアミノ酸からなる領域(TVLEKVPVSKGQ)に含まれるエピトープを認識する。また、本実施形態のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、配列番号1のアミノ酸配列における1〜18番目のアミノ酸からなる領域(シグナルペプチド)、19〜128番目のアミノ酸からなる領域(プロドメイン)および203〜247番目のアミノ酸からなる領域を認識しないものであることが好ましい。
モノクローナル抗体またはその抗原結合断片の調製方法は十分に確立されており、本実施形態のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、上で定義したエピトープを含む抗原ペプチドを用いて、当分野において十分に確立された公知の方法にしたがって調製することができる。例えば、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法またはファージディスプレイ法などにより調製することができる。また、抗原結合断片は、酵素(例えば、パパイン、ペプシンなど)で抗体を断片化するか、または、抗体断片をコードする遺伝子構築物を発現ベクターに導入し、適当な宿主細胞で発現させることにより調製することができる。
本実施形態における好ましいモノクローナル抗体の具体例としては、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託番号:NITE P-02652または受託番号:NITE P-02653として寄託されたハイブリドーマが生産するモノクローナル抗体を挙げることができる。受託番号:NITE P-02652として寄託されたハイブリドーマからは、配列番号1のアミノ酸配列における129〜176番目のアミノ酸からなる領域内のエピトープを認識する抗体(2D7)を得ることができる。また、受託番号:NITE P-02653として寄託されたハイブリドーマからは、配列番号1のアミノ酸配列における165〜176番目のアミノ酸からなる領域(TVLEKVPVSKGQ)内のエピトープを認識する抗体(3C8)を得ることができる。
上記抗体2D7または3C8と同じエピトープを認識する抗体も同様に、本実施形態における好ましい抗体である。同じエピトープを認識するものであるかどうかは、例えば、抗体2D7または3C8を用いた競合アッセイにより確認することができる。
本実施形態のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片の、成熟型BDNFおよびその前駆体に対する反応性は、公知の免疫学的方法、例えば、ウェスタンブロッティング法、ELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)、表面プラズモン共鳴(Surface plasmon resonance : SPR)、細胞免疫染色、組織免疫染色などにより確認することができる。
本発明は、第二の実施形態によれば、第一の実施形態のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を含んでなる、成熟型BDNFおよびその前駆体を検出するためのキットである。本実施形態における「モノクローナル抗体」、「抗原結合断片」、「成熟型BDNFおよびその前駆体」は、第一の実施形態で定義したものと同様である。
本実施形態のキットは、第一の実施形態のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片の1種類または複数種類を含んでよい。また、それに加えて、容器、緩衝液、陽性対照、陰性対照、検出プロトコールを記載した説明書などをさらに含んでもよい。
本発明は、第三の実施形態によれば、試料中の成熟型BDNFおよびその前駆体を検出する方法であって、第一の実施形態のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片と前記試料とを反応させる工程と、前記モノクローナル抗体またはその抗原結合断片と結合した成熟型BDNFおよびその前駆体を検出する工程とを含む方法である。本実施形態における「モノクローナル抗体」、「抗原結合断片」、「成熟型BDNFおよびその前駆体」は、第一の実施形態で定義したものと同様である。
本実施形態の方法では、第一の実施形態のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片と、試料とを反応させる。試料は、任意の動物、好ましくは哺乳動物に由来する組織、細胞または体液などであってよいが、特に限定されない。組織試料または細胞試料としては、例えば、脳組織、脳組織から調製された培養神経細胞などが挙げられる。体液試料としては、例えば、血液、血漿、血清、脳脊髄液などが挙げられる。試料は、当業者に周知の方法により被験者から得ることができる。また、上記の試料は、必要に応じて、生理食塩水や適切な緩衝液を用いてホモジネート処理などの任意の処理を行ったものであってもよい。
抗体またはその抗原結合断片と試料との反応は、抗体またはその抗原結合断片と試料とを、生理食塩水や適切な緩衝液中で一定時間インキュベートすることにより行うことができる。添加される抗体またはその抗原結合断片の濃度は、例えば、0.5〜50nMまたは0.1〜100μg/mLの範囲で適宜選択することができる。インキュベート時間は、例えば、10分〜24時間であってよい。
次いで、抗体またはその抗原結合断片と結合した成熟型BDNFおよびその前駆体を検出する。結合の検出は、当分野において周知の手法により行うことができ、例えば、ウェスタンブロッティング法、ELISA、SPR、細胞免疫染色、組織免疫染色などの手法により行うことができる。本実施形態の方法における結合検出手法は、好ましくはELISAである。
本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片、ならびにそれらを用いたキットおよび第方法は、成熟型BDNFおよびその前駆体をあわせたBDNF分子の総発現量を測定することができ、有用である。
以下、本発明を実施例に従いより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施の形態に限定されない。
(実施例1:ヒト成熟型BDNFおよびその前駆体に対するマウスモノクローナル抗体の作製)
目的
従来の抗体作製技術であるハイブリドーマ法を用いて、ヒト成熟型BDNFおよびその前駆体に対するマウスモノクローナル抗体の作製を行った。
実験
(1)抗原
pET-32b(+)ベクター(Novagen社製)にヒトBDNF(配列番号1のアミノ酸における129番目から247番目のアミノ酸配列)のcDNAを導入したプラスミドを大腸菌に導入し、発現させた組換えヒトBDNFを免疫抗原として用いた。
(2)マウスへの免疫
免疫は以下の方法で行った。PBSを用いて1.0 mg/mLに調製した免疫抗原を完全フロイントアジュバンド(FCA;Freund’s Adjuvant, Complete, SIGMA)と等量混合した。エマルジョンを形成させたものを370 μLずつマウスの背部皮下に投与し、その後2週間間隔で1.0 mg/mLの免疫抗原と不完全フロイントアジュバンド(FIA;Freund’s Adjuvant, Incomplete, SIGMA)と等量混合し、エマルジョンを形成させたものを140 μLずつマウスの背部皮下に投与した。最終的に合計3回抗原を投与した。3回免疫7日後にマウスより血清を回収し、ELISAにより抗体価を確認した。抗体価の高かったものに対して、1.0 mg/mLの免疫抗原50 μLと生理食塩水450 μLを混合したものをマウスの腹腔内に最終投与し、その3日後に細胞融合用に脾臓を摘出した。
(3)脾臓細胞の調製と細胞融合
摘出した脾臓をすりつぶし、抗BDNF抗体産生細胞を含む脾臓細胞を調製したところ、1匹あたり約1×108個の脾臓細胞を調製できた。一方で、ミエローマ細胞であるP3U1を培養し、細胞融合当日に生細胞率が90%以上のP3U1を調製した。これら脾臓細胞とP3U1を5:1で混ぜ、50%濃度の分子量1,450のポリエチレングリコールにより細胞融合を行った。融合後、培地で洗浄し、HAT培地に懸濁したものを、96穴培養プレートの各ウェルに1×105個/ウェルとなるように細胞を播きこんだ。
(4)抗体産生陽性ウェルのスクリーニング
細胞融合後、10日目の培養上清を回収し、抗体産生陽性ウェルのスクリーニングを後述の実験例2の方法で行った。1712ウェル中126ウェルでELISAにおける吸光度が0.1以上の値を示した。これらのうち、吸光度が高値のもの、またはウェスタンブロッティング法による組換えヒトBDNFに対する反応性を高いもの(5ウェル分)を最終的に選択した。
(5)クローニング
選択した5ウェル分について、限界希釈法によるクローニングを行った。すなわち、細胞を10%のFCSを含むRPMI培地で5個/mLに調製し、96穴培養プレート2枚分の各ウェルに200 μLずつ添加した。10日後、後述の実験例2の方法で培養上清中のBDNFに対する抗体価を測定し、陽性であることを確認し、それぞれのウェルに由来するクローンを2クローン得た。それぞれの樹立クローンを「2D7」、「3C8」とした。
(6)抗体のスクリーニング法
96穴マイクロタイタープレートの各ウェルに、固相化抗原としてリン酸緩衝生理食塩水(PBS(pH7.0))で1μg/mLに調製した組換えヒトBDNFを50μLずつ添加し、25°Cで1時間放置した。次に、0.05% Tween20を含むPBS(pH7.0)(PBST)で3回洗浄後、0.5%ゼラチンを含むPBST(ブロッキング液)を各ウェルに200μLずつ添加し、25°Cで1時間静置した。洗浄後、培養上清を原液のまま各ウェルに50μLずつ添加し、25°Cで1時間静置した。次に、PBSTで3回洗浄後、各ウェルに2500倍希釈したHRP標識抗マウスIgG抗体(KPL社)を50μLずつ添加し、25°Cで1時間静置した。次に、PBSTで3回洗浄後、各ウェルに0.02%の過酸化水素を含む0.1Mクエン酸リン酸緩衝液(pH5.0)で0.5 mg/mLに調製したo-フェニレンジアミン溶液100μLを添加し、25℃で10分間静置した後に、1M硫酸溶液100μLを各ウェルに添加し、呈色反応を停止した。その後490 nmの吸光度をELISAリーダーによって測定した。
(7)ハイブリドーマの樹立
GANP マウスに対して、免疫抗原(組換えヒトBDNF)を背部皮下に3回免疫した。3回免疫後、抗血清力価の上昇を、組換えヒトBDNFを用いたELISAで確認した。有意な力価上昇がもっとも高値であったマウスから脾臓を摘出し、マウスミエローマP3U1と細胞融合させた。融合脾細胞を96ウェルプレートに播種し、HAT選択培養を行った。播種9日後の培養細胞をサンプルとして、組換えヒトBDNFを用いたELISAを実施した。培養上清評価の結果を元に、組換えヒトBDNFに対する反応性が最も高い2D7および3C8ウェルに関して、2回の限界希釈法によるクローニングおよびスクリーニングを行い2D7および3C8の2クローンのハイブリドーマを樹立した。
(8)抗体の精製
ハイブリドーマは、細胞凍結保存液(セルバンカー、ゼノアック)およびプログラムフリーザーを用いて凍結し、液体窒素タンク内で保管した。凍結ハイブリドーマを、37℃恒温槽に浸し、素早く解凍した。5%CO2のインキュベーション条件で、9%ウシ血清含有培地を用いて拡大培養した。拡大培養後、同インキュベーション条件下で培地を無血清培地(Hybridoma-SFM, GIBCO)50mLに置換し培養した。無血清培養開始7日後、培養上清を回収し遠心分離後、フィルターでろ過し、タンパク質精製用培養上清とした。1.5mLのprotein G-sepharose(GE healthcare)カラムを用いて50mLの培養上清中の抗体と結合させ、カラムをPBSで洗浄後、グリシン緩衝液(pH3.0)で溶出し、1 mLずつフラクションを採取した。中和後、A280を測定し、抗体を含むフラクションを回収し、PBSにて透析した。透析後濃縮し、BCA法試薬(Thermo Fisher Scientific)で抗体濃度を測定した。組換えヒトBDNFを用いたELISAにて精製抗体力価を確認し、精製抗体を得た。
(実施例2:2D7および3C8抗体のBDNF反応性の評価)
目的
マウス由来抗ヒトBDNFモノクローナル抗体2D7および3C8のBDNFに対する結合能を表面プラズモン共鳴分析で検証し、BDNF抗体としての評価を行った。
実験
表面プラズモン共鳴分析に用いるセンサーチップCM5はセンサーチップ表面がカルボキシル基で修飾されている。そのためリガンドの固定化はリガンド表面のアミノ基を利用したアミンカップリング法を行った。具体的には、2D7および3C8の抗体溶液(20μg/ml)を10mM Acetate (pH4.7) で10倍希釈することで正に荷電させ、センサーチップCM5にGE社のAmine Coupling kitを用いたアミンカップリング法により結合させた。
結合実験の準備として、HBS-EP buffer(10mM HEPES, 0.15M NaCl, 3 mM EDTA, 0.005 % Surfactant P 20 ( pH 7.4 ))に溶解した組換えBDNF(15nM)を調整し、以下の測定パラメーターの条件により結合実験を行った。
<測定パラメータ>
Temperature: 20℃
Flow: 20 μg/min
Detection volume: 120 μL
Dissociation time: 600 sec
センサーチップ上の2D7または3C8抗体とBDNFとの分子間相互をセンサーグラムという形で観測した。BIACOREでは一定流速でランニングバッファーをセンサーチップ表面に流し、ここにアナライト(本実施例ではBDNF)を15nMの濃度でロードすると、センサーチップ上の2D7または3C8との結合を経時的に計測したセンサーグラムを取得できる。その後、アナライトの添加が終了するとHBS-EP bufferに切り替わり、このときセンサーチップ内のアナライト濃度は瞬時にゼロになり、2D7または3C8からの解離過程が観測される。
2D7抗体の結果を図2に、3C8抗体の結果を図3に示す。2D7および3C8抗体ともに、BDNFとの結合が確認され、また、BDNFの添加終了後もBDNFの結合が維持されていることが確認された。この結果から、2D7および3C8抗体はいずれもBDNFに対して強い結合能を有する抗体であることが示していた。
(実施例3:2D7および3C8抗体のエピトープの決定)
目的
得られた2D7および3C8抗体について、BDNFのアミノ酸配列中のエピトープを同定するために、成熟型BDNF由来のペプチド断片hBD-m1、hBD-m2およびhBD-m3を調製し、各断片と2D7および3C8抗体との結合反応性をウェスタンブロッティング法により確認した。
実験1:hBD-m1, hBD-m2およびhBD-m3発現プラスミドの構築(図4、図5)
ヒトpreproBDNF(配列番号1)の129〜176番目のアミノ酸からなる断片(hBDNF-m1 (129-176)断片、図中「hBD-m1」と表記)のN末端にチオレドトキシンタグ(TRX)、Hisタグおよび切断配列(PCS)をN末端に融合させたペプチドをコードするDNA配列をpET32b(+)発現ベクターに組み込んだpET32b(+)-hBDNF-m1 (129-176)を、以下の手順により作製した。
ヒトBDNF断片は、pcDNA-hBDNF-EGFP(Journal of Neuroscience Research, 64: 1-10 (2001))を鋳型とし、下記の合成PCRプライマーによるPCR反応により調製した。
5’-CACTCTGACCCTGCCCGC-3’ (配列番号5)
5’ TTGGCCTTTTGATACAGGGACC-3’ (配列番号6)
得られた増幅産物をpCR2.1-TOPO TAベクター(Thermo Fisher Scientific)に導入し、プラスミドpCR2.1-TOPO TA- hBDNF -m1(129-176)を構築した。さらにpET-32b(+)ベクター(Novagen社製)に移し替えることにより、pET32b(+)-hBDNF (129-176)を得た。
以下の合成プライマーを用いた以外は同様の手順により、hBDNF-m2 (165-213)断片(図中「hBD-m2」と表記)を発現するプラスミド(pET32b(+)-hBDNF (165-213))を作製した。
5’-ACAGTCCTTGAAAAGGTCCCT-3’ (配列番号7)
5’-GTACGACTGGGTAGTTCGGCA-3’ (配列番号8)
以下の合成プライマーを用いた以外は同様の手順により、hBDNF-m3 (203-247)断片(図中「hBD-m3」と表記)を発現するプラスミド(pET32b(+)-hBDNF (203-247))を作製した。
5’-CATTGGAACTC CCAGTGCCG-3’ (配列番号9)
5’-CTATCTTCCCCTTTTAATGGTCAA-3’ (配列番号10)
実験2:エピトープの同定実験
1)細胞抽出液の調製
上記実験1で構築した各プラスミドを大腸菌株RosettaTM 2(DE3) (Novagen社)に導入した。得られたシングルコロニーをLB培地で振とう培養し、終濃度0.1M IPTGの添加後4時間追培養した。遠心分離によって回収した大腸菌をサンプルバッファー(2X; 125mM Tris 10% (v/v)メルカプトエタノール 4%(w/v)SDS, 30%(v/v)グルセロール 0.005%(g/v)ブロモフェノールブルー)で懸濁して細胞抽出液を作製した。また、ネガティブコントロールとしてIPTG無添加の細胞抽出液を調整した。
2)ウェスタンブロッティング解析
各細胞抽出液をウェスタンブロッティング法で解析した。各細胞抽出液をSDS-PAGE後(ゲル濃度:5-20%)、ブロットしたメンブレンと抗BDNF抗体2D7または3C8それぞれを用いて4℃で一晩3% BSA-TBSTバッファー(3% BSA、20mM Tris、322mM NaCl、0.1% Tween-20、pH7.4)中で振とうし、抗原抗体反応を行った。二次抗体としてHRP標識された抗マウス抗体(Millipore, AB3517)を用いて室温1時間反応後、発光シグナルを検出した。IPTGによる融合タンパク質の発現誘導を確認するために抗マウスHis-tag抗体を用いたウェスタンブロッティングも行った。
3)結果(図6)
・2D7のエピトープ解析
2D7抗体は、配列番号1のアミノ酸配列における129から176番目のアミノ酸から構成されるhBD-m1断片(配列番号2)と結合することが確認された。一方、配列番号1のアミノ酸配列における165から213番目のアミノ酸から構成されるhBD-m2断片(配列番号3)および配列番号1のアミノ酸配列における203から247番目のアミノ酸から構成されるhBD-m3断片(配列番号4)との結合は見られなかった。つまり、マウスモノクローナル抗BDNF抗体2D7のエピトープは、BDNFタンパク質のアミノ酸配列の129番目から176番目の領域内に存在することが判明した。
・3C8のエピトープ解析
3C8抗体は、配列番号1のアミノ酸配列における129から176番目のアミノ酸から構成されるhBD-m1断片(配列番号2)および配列番号1のアミノ酸配列における165から213番目のアミノ酸から構成されるhBD-m2断片(配列番号3)と結合することが確認された。一方、配列番号1のアミノ酸配列における203から247番目のアミノ酸から構成されるhBD-m3断片(配列番号4)との結合は見られなかった。つまり、マウスモノクローナル抗BDNF抗体3C8のエピトープは、BDNFタンパク質のアミノ酸配列の165番目から176番目の領域内に存在することが判明した。
(実施例4:免疫沈降(図7))
目的
生物学的活性やそのための構造を有するタンパク質を認識する抗体は有用である。このような用途への2D7および3C8抗体の適用可能性を検証すべく、免疫沈降を行い、その沈降物についてウェスタンブロッティング解析を行った。
実験
以下の参考文献の手順により、BDNF遺伝子欠損マウスその同腹の野生型マウス(BDNF遺伝子を両アレルに持つ)の各2匹の海馬組織のライセートと、2D7または3C8のモノクローナル抗体を一晩回転混合し、翌日、ProteinGとの回転混合をさらに行うことにより、モノクローナル抗体への結合分子の回収を行った。結合分子の解析のためにはウェスタンブロッティング法を用い、BDNFの検出には抗BDNFマウス由来市販抗体(#3C11, Icosagen)を用いた。
参考文献:
S. Dieni, T. Matsumoto, M. Dekkers, S. Rauskolb, M. Ionescu, R. Deogracias, E. D.Gundelfinger, M. Kojima, S. Nestel, M. Frotscher, Y.-A. Barde, BDNF and its pro-peptide are stored in presynaptic dense core vesicles in brain neurons, Journal of Cell Biology, 2012, vol. 196, no. 6, 775-788.
結果
2D7、3C8ともに、野生型マウスの脳海馬組織ライセートからはBDNFを回収することができ、BDNFを示すバンドが検出された(図7中「Wild」)。一方で、BDNF遺伝子欠損マウスの脳海馬組織ライセートからはBDNFを示すバンドは検出されなかった(図7中「KO」)。この結果から、2D7および3C8抗体はいずれもBDNFに対して高い特異的結合性を有することが示された。ここで、ライセートは低濃度Tween-20を加えた溶解バッファーを用いて調製されたものであり、BDNFは生体内での立体構造を保持しているものと考えられる。つまり、この結果からは、2D7および3C8抗体が脳組織内や体液中で活性型として存在する成熟型BDNFと結合できることが示唆され、2D7および3C8抗体がELISAのような検出系に使用できることが期待された。
(実施例5:2D7および3C8抗体のELISAへの適用)
目的
BDNFが脳だけでなく末梢血にも含まれることや、末梢血でも神経系に類似したメカニズムによりBDNFが産生されることが報告されており(P Chacon-Fernandez et al., Journal of Biological Chemistry (2016) 291: 9872-9881)、血中BDNFの診断系への応用が期待されている。そこで本実施例では、ELISAに2D7および3C8抗体を適用できるかどうかを検証した。
実験
組換えBDNFの希釈系列を作り、一次抗体として2D7抗体(1:1000希釈)、二次抗体としてBiotin Labeling Kit - NH2(DOJINDO, LK03)を用いてビオチン標識した3C8抗体(1:500希釈)を用いた以外はPromega社のBDNF ELISA kit(BDNF Emax ImmunoAssay Systems)に添付されている試薬(抗体は除く)とプロトコールにしたがってサンドイッチELISA解析を行った。
最初にCarbonate coating buffer(0.025 M Sodium bicarbonate, 0.025 M Sodium carbonate, pH 9.7)を用いて1 μg/mLの2D7抗体液を準備し、ELISA用96穴プレートに100 μLずつ添加して4℃で一晩静置した。
翌日、100μL TBSTで各ウェルを1回洗浄後、各ウェルに200μL のBlock & Sample 1X Buffer(Promega社 BDNF Emax(登録商標)ImmunoAssay System)を加え、1時間ブロッキング反応を行った。その後、100μL TBSTを用いて各ウェルを1回洗浄した。ヒトBDNF(Promega社 BDNF Emax(登録商標)ImmunoAssay System, G7610)の希釈系列(250 pg/mL, 125 pg/mL, 62.5 pg/mL, 31.25 pg/mL, 15.625 pg/mL, 7.813 pg/mL)およびBDNFを含まない溶液をBlock & Sample 1X Buffer で調整し、各濃度につき100 μLを2ウェルずつ準備した。このプレートを2時間室温で振盪することにより、当該マウスモノクローナル抗体とBDNFとの結合反応を行った。反応が終わったプレートについて、各ウェルにつき100μL TBSTによる洗浄を5回行った。ELISAの二次抗体反応は、3C8抗体200 ngをBiotin Labeling Kit - NH2(DOJINDO, LK03)の添付プロトコールに従ってビオチン標識したものをBlock & Sample 1X Buffer で1/500倍希釈したものを、ウェルあたり100μL添加し1時間室温で振盪することにより行った。続いて100μL TBSTで各ウェルを 5回洗浄した。続いて、TMB One Solution(プロメガ社)をウェルあたり100μL加え発色反応を行った。発色反応の停止は1N HCl溶液100μLの添加により行い、その後、450 nmの吸光度に基づいて発色を決定した。
結果(図8)
上記サンドイッチELISAの結果、ヒトBDNF組換えタンパク質の濃度依存的な検量線が得られた(図8A)。一方、ヒトBDNF組換えタンパク質に代えて、BDNFのファミリータンパク質であるNGF、NT-3およびNT-4(各1ng/mL、ヒト配列を有する)について行った同サンドイッチELISAの結果、結合は検出されなかった(図8B)。さらに、ヒトBDNF組換えタンパク質に代えて、実施例4と同様の手順により調製されたBDNFノックアウトマウス(同腹1週齢)および野生型マウスの海馬組織ライセートを同サンドイッチELISAにより解析した結果、野生型マウスの脳海馬組織ライセートに含まれるBDNFの濃度を決定できたが、同腹のノックアウトマウスの脳海馬組織ライセートではBDNFは検出感度以下であった(図8B)。これらの結果から、2D7および3C8抗体がBDNFに対して特異的結合性を有し、BDNFの検出および/または定量に利用可能なものであることが示された。
(実施例6:2D7および3C8抗体のproBDNFに対する反応性の評価)
目的
2D7および3C8抗体がBDNF前駆体に対しても特異的結合性を有するかどうかを確認するために、組換えproBDNFの希釈系列を用いてサンドイッチELISA解析を行った。
実験
ヒトBDNF(Promega社 BDNF Emax(登録商標)ImmunoAssay System, G7610)に代えてヒトproBDNF(Alomone Labs, #B-256)を用いた以外は、実施例5と同様の手順によりサンドイッチELISA解析を行った。
結果(図9)
上記サンドイッチELISAの結果、ヒトproBDNF組換えタンパク質の濃度依存的な検量線が得られた(図9)。この結果から、2D7および3C8抗体がBDNFと同様にproBDNFに対しても特異的結合性を有し、proBDNFの検出および/または定量に利用可能なものであることが示された。
(実施例7:2D7および3C8抗体の機能性の評価)
目的
2D7および3C8抗体がBDNFの作用機能を阻害または亢進するような機能性を有するかどうかを調べるために、2D7および3C8抗体の存在下または非存在下でBDNF/TrkBシグナル経路を刺激した場合のTrkBのリン酸化状態をウェスタンブロッティングにより解析した。
実験
既報文献(Suzuki S, et al., "Brain-derived neurotrophic factor regulates cholesterol metabolism for synapse development", J. Neurosci., 2007, 27(24):6417-27)に記載の手順に従って、胎生18日齢ラット由来大脳皮質神経細胞の初代培養(5x105細胞/cm2)を調製し、2%(vol/vol)のB27サプリメントを含有する Neurobasal medium(Thermo Fisher Scientific)中で培養した。培養14日目にNeurobasal mediumに培地を交換し、その翌日にヒトBDNF組換えタンパク質(10ng/ml)および/または2D7もしくは3C8抗体(3.6μg/ml)を投与し、30分後に細胞を回収し、ライセートを調製した。なお、BDNFおよび抗体のいずれも投与しなかったものを陰性対照とした。
得られたライセートを、上記鈴木らの報文に記載の手順に従って、ウェスタンブロッティングにより解析した。簡単には、各ライセートから調製したサンプル(5μgタンパク質/レーン)をSDS-PAGEに供し、PVDF膜に転写後、抗リン酸化Trk-B抗体(C35G9, Cell Signaling Technology)または抗TrkB抗体(80E3, Cell Signaling Technology)でブロットした。
結果(図10)
図10の左パネルはリン酸化Trk-Bの検出結果を示し、BDNFと2D7または3C8抗体とを共投与した場合に、BDNFのみを投与した場合に比べてリン酸化Trk-Bの検出バンドが薄くなっており、リン酸化Trk-Bが減少していることが確認された(図10左パネル、丸印)。また、図10の右パネルはTrk-Bの検出結果を示し、BDNFのみを投与した場合には、Trk-Bがリン酸化され、分子量の増加によりTrk-Bの検出バンドが上方向にシフトするが、BDNFと2D7または3C8抗体とを共投与した場合には、上方向へのシフトが若干減少していることが確認された(図10右パネル、*印)。以上の結果から、2D7および3C8抗体はいずれもBDNFの機能を抑制できるものである可能性が示された。

Claims (11)

  1. 配列番号1で示されるアミノ酸配列の129〜176番目のアミノ酸からなる領域に含まれるエピトープを認識する、成熟型BDNFおよびその前駆体に特異的に結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
  2. 請求項1に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、配列番号1で示されるアミノ酸配列の203〜247番目のアミノ酸からなる領域を認識しない、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
  3. 請求項1または2に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、前記エピトープが配列番号1で示されるアミノ酸配列の165〜176番目のアミノ酸からなる領域に含まれる、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託番号:NITE P-02652または受託番号:NITE P-02653として寄託されたハイブリドーマより産生される、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
  5. 請求項1〜3のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託番号:NITE P-02652または受託番号:NITE P-02653として寄託されたハイブリドーマより産生されるモノクローナル抗体と同じエピトープと反応する、モノクローナル抗体または抗原結合断片。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗体または抗原結合断片であって、哺乳動物由来の成熟型BDNFおよびその前駆体を認識する、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
  7. 成熟型BDNFおよびその前駆体を検出するためのキットであって、請求項1〜6のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を含む、キット。
  8. 独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託番号:NITE P-02652または受託番号:NITE P-02653として寄託されたハイブリドーマ。
  9. 請求項8に記載のハイブリドーマを培養してモノクローナル抗体を産生させる工程を含む、成熟型BDNFおよびその前駆体に特異的に結合するモノクローナル抗体の製造方法。
  10. 試料中の成熟型BDNFおよびその前駆体を検出する方法であって、
    請求項1〜6のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片と前記試料とを反応させる工程と
    前記モノクローナル抗体またはその抗原結合断片と結合した成熟型BDNFおよびその前駆体を検出する工程と
    を含む方法。
  11. 請求項10に記載の方法であって、前記検出工程がELISAにより行われる、方法。
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