以下、この発明に係る電力変換装置、発電電動機の制御装置、および、電動パワーステアリング装置のそれぞれの実施の形態について、図に基づいて説明する。各図において、同一または相当する部材および部位については、同一符号を付して示し、重複する説明は省略する。
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る電力変換装置の全体構成を示す図である。図1に示すように、本実施の形態1に係る電力変換装置は、電力変換器4、および、制御部6を備えている。また、必要に応じて、電力変換装置は、平滑コンデンサ3を備える。電力変換装置は、電源としての直流電源2に接続されている。また、電力変換装置には、負荷として、交流回転機1が接続されている。電力変換装置は、直流電源2からの直流電圧を交流電圧に変換して交流回転機1に供給する。また、図1に示すように、さらに、必要に応じて、電力変換装置は、交流回転機1の各相の巻線に流れる電流を検出する電流検出器5を備える。
本実施の形態1に係る電力変換装置は、搬送波信号の切り替えによって生じる出力電流の乱れを抑制する。これに対し、上記の特許文献1に記載の従来の制御方法においては、上述したように、搬送波信号を切り替える際に、出力電流が乱れてしまう可能性があるという問題点があった。従来の制御方法における当該問題点について、図2および図3を用いて説明する。
図2および図3は、従来の制御方法における高電位側スイッチング素子の3周期分のオン/オフ波形を示している。図2および図3において、横軸は時間である。
図2は、インバータの出力側に3相モータを接続した場合において、1相のDutyを50%で出力中に、タイミングAで、位相シフトしていない状態から180deg位相シフトした状態に切り替えた際の高電位側スイッチング素子のオン/オフ波形を示している。図2においては、2周期目に、タイミングAが含まれている。図2の2周期目に注目すると、タイミングAにて180deg位相シフトしたことで、その後もオン状態が継続してしまっている。その結果、2周期目全体で、75%の出力となっている。例えば、他の2相のDutyが0%付近にある場合であれば、線間電圧が期待値の1.5倍程度になるため、所望の電流を得ることができない。
図3は、インバータの出力側に3相モータを接続した場合において、1相のDutyを50%で出力中に、タイミングBで、180deg位相シフトした状態から位相シフトしていない状態へ切り替えた際の高電位側スイッチング素子のオン/オフ波形を示している。図3においては、2周期目に、タイミングBが含まれている。図3の2周期目に注目すると、タイミングBにて位相シフトを解除したことで、その後もオフ状態が継続してしまっている。その結果、2周期目全体で、25%の出力となっている。例えば、他の2相のDutyが100%付近にある場合であれば、線間電圧が期待値の半分程度になるため、所望の電流を得ることができない。
また、モータの回転速度が零速から高くなると、力率は下がるのが一般的である。したがって、従来の制御方法では、モータが零速あるいは低速域で回転している場合には、位相シフトが行われることで、コンデンサ電流の低減効果を得ている。一方、モータが高速で回転している場合には、位相シフトが停止されるので、コンデンサ電流の低減効果を得ることができない。
上記のように、従来の制御方法においては、搬送波信号を切り替えるときに、所望のDutyを得ることが出来ず、その結果、出力電流が乱れてしまうことがあった。これに対し、本実施の形態1では、このような出力電流の乱れを抑制する方法について説明する。
また、上記のように、従来の制御方法においては、モータが高速で回転している場合には、コンデンサ電流の低減効果を得ることができなかった。これに対し、本実施の形態1では、モータが高速で回転している場合においても、コンデンサ電流の低減効果が得られる方法についても説明する。
以下、図1に示す本実施の形態1に係る電力変換装置の各構成要素、交流回転機1、および、直流電源2について説明する。
交流回転機1は、回転子と固定子とを備えた3相交流回転機から構成されている。交流回転機1では、3相巻線U1,V1,W1が、固定子に納められている。3相交流回転機としては、例えば、永久磁石同期回転機、誘導回転機、同期リラクタンス回転機等が挙げられる。本実施の形態1においては、3相巻線を有する交流回転機であれば、いずれの回転機を交流回転機1として用いてもよい。
直流電源2は、電力変換器4に直流電圧Vdcを出力する。直流電源としては、バッテリー、DC−DCコンバータ、ダイオード整流器、PWM整流器等が挙げられるが、直流電圧を出力する機器であれば、いずれの機器も直流電源2として使用可能である。
平滑コンデンサ3は、直流電源2に並列に接続されている。すなわち、平滑コンデンサの一端は直流電源2の正極端子に接続され、平滑コンデンサ3の他端は直流電源2の負極端子に接続されている。したがって、平滑コンデンサ3は、直流電源2の2つの出力に電気的に接続されていると言える。平滑コンデンサ3は、母線電流Iinv1の変動を抑制して安定した直流電流Icを生成する。ここでは細かく図示しないが、真のコンデンサ容量C以外に、実際には、等価直列抵抗Rc、および、リードインダクタンスLcが存在する。このように、平滑コンデンサ3を用いて、コンデンサのリプル電流を抑制することで、コンデンサの小型化を図ることができる。
電力変換器4は、上アームの高電位側スイッチング素子Sup1,Svp1,Swp1、および、下アームの低電位側スイッチング素子Sun1,Svn1,Swn1を有している。これらのスイッチング素子をまとめて呼ぶ場合には、スイッチング素子Sup1〜Swn1と呼ぶこととする。
電力変換器4には、制御部6から、オン/オフ信号Qup1,Qun1,Qvp1,Qvn1,Qwp1,Qwn1が入力される。以下、オン/オフ信号Qup1,Qun1,Qvp1,Qvn1,Qwp1,Qwn1をまとめて呼ぶ場合には、オン/オフ信号Qup1〜Qwn1と呼ぶこととする。電力変換器4は、インバータである逆変換回路を用いて、オン/オフ信号Qup1〜Qwn1に基づいて、スイッチング素子Sup1〜Swn1をオンオフする。電力変換器4は、これらのオンオフ動作により、直流電源2から入力される直流電圧Vdcを電力変換して、交流電圧を得る。電力変換器4は、当該交流電圧を、交流回転機1の3相巻線U1,V1,W1に印加し、電流Iu1,Iv1,Iw1を通電させる。
ここで、オン/オフ信号Qup1,Qun1,Qvp1,Qvn1,Qwp1,Qwn1は、電力変換器4において、それぞれ、スイッチング素子Sup1,Sun1,Svp1,Svn1,Swp1,Swn1のオン/オフを切り替えるためのスイッチング信号である。以後、オン/オフ信号Qup1〜Qwn1の値が1ならば、対応するスイッチング素子がオンされ、一方、オン/オフ信号Qup1〜Qwn1の値が0ならば、対応するスイッチング素子がオフされるものとする。なお、半導体スイッチング素子Sup1〜Swn1は、半導体スイッチと、半導体スイッチに逆並列接続されたダイオードとから構成される。半導体スイッチとしては、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、バイポーラトランジスタ、MOS(Metal−Oxide−Semiconductor)パワートランジスタ等の半導体スイッチを用いる。
電流検出器5は、交流回転機1の3相巻線U1,V1,W1に流れる電流Iu1、電流Iv1および電流Iw1の値を、それぞれ、電流検出値Iu1s,Iv1s,Iw1sとして検出する。図1に示すように、交流回転機1の3相巻線U1,V1,W1と電力変換器4との間に電流検出器5を設けることで、電力変換器4のスイッチング素子の状態に拘らず常時電流を検出できるという効果を得ることができる。つまり、制御部6は、電流検出可否を考慮せずに、スイッチング素子のオン/オフを決定することが可能となる。そのため、交流回転機1の3相巻線U1,V1,W1と電力変換器4との間に電流検出器5を設けることは、本実施の形態1にとって好適である。
なお、電流検出器5は、図1の例に限定されない。電流検出器5は、例えば、電力変換器4の半導体スイッチング素子Sun1,Svn1,Swn1のそれぞれに対して直列に接続された電流検出用抵抗を備えた電流検出器であってもよい。その場合には、当該電流検出用抵抗を用いて、電流検出値Iu1s,Iv1s,Iw1sを検出する。あるいは、電流検出器5は、電力変換器4と平滑コンデンサ3との間に接続された電流検出用抵抗を備えた電流検出器であってもよい。その場合には、当該電流検出用抵抗を用いて、インバータ入力電流である母線電流Iinv1を検出し、その検出値に基づいて、電流検出値Iu1s,Iv1s,Iw1sを求める。電流検出器5がこれらの構成の場合には、制御部6は、電流検出可否を考慮しつつ、半導体スイッチング素子Sup1〜Swn1のオン/オフを決定すればよい。
次に、制御部6について説明する。制御部6は、図1に示すように、電圧指令演算器7、オフセット演算器8、および、オン/オフ信号発生器9を備えている。制御部6のハードウェア構成について説明すると、制御部6は、例えば、演算処理を実行するマイクロコンピュータと、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)とから構成される。ROMには、プログラムデータ、固定値データ等のデータが記憶されている。また、RAMには、演算結果などの各種データが記憶される。RAMに格納されている各種データは、更新されて順次書き換えられる。制御部6は、マイクロコンピュータが、ROMに記憶されたプログラムデータを読み出して実行することにより、制御部6の電圧指令演算器7、オフセット演算器8、および、オン/オフ信号発生器9の各部の機能を実現する。以下、制御部6の各部について詳細に説明する。
電圧指令演算器7は、外部から入力される制御指令に基づいて、交流回転機1を駆動するための3相巻線U1,V1,W1に印加する電圧に関する3相電圧指令Vu1,Vv1,Vw1を演算し、オフセット演算器8へ出力する。3相電圧指令Vu1,Vv1,Vw1の演算方法の一例について、以下に説明する。まず、電圧指令演算器7に外部から入力される制御指令として、ここでは、交流回転機1に通電する電流を指令する電流指令を用いる。また、電圧指令演算器7には、電流検出器5によって検出された3相巻線U1,V1,W1の電流検出値Iu1s,Iv1s,Iw1sが入力される。電圧指令演算器7は、電流フィードバック制御を用いて、電流検出値Iu1s,Iv1s,Iw1sと電流指令との偏差を零とすべく、比例積分制御によって、3相電圧指令Vu1,Vv1,Vw1を演算する。このようなフィードバック制御方法は公知技術であるため、ここでは詳細な説明は省略する。なお、上記の説明においては、交流回転機1の制御指令として、交流回転機1に対する電流指令を用いる場合を例示したが、これに限定されない。例えば、交流回転機1をV/F(Voltage/Frequency)制御する場合、制御指令は、交流回転機1の速度指令値となる。また、交流回転機1の回転位置を制御する場合、制御指令は、交流回転機1の位置指令値となる。
オフセット演算器8は、電圧指令演算器7から出力された3相電圧指令Vu1,Vv1,Vw1から、オフセット電圧Voffset1をそれぞれ減算し、3相印加電圧Vu1’,Vv1’,Vw1’を演算する。オフセット電圧Voffset1は、オフセット演算器8によって演算される。図4に、オフセット演算器8がオフセット電圧Voffset1を演算する処理の流れを示すフローチャートを示す。
図4において、3相電圧指令Vu1,Vv1,Vw1のうちの最大の電圧指令をVmaxとし、それに対応する相を電圧最大相とする。また、同様に、最小の電圧指令をVminとし、それに対応する相を電圧最小相とする。また、最大と最小との間の中間の電圧指令をVmidとし、それに対応する相を電圧中間相とする。すなわち、3相電圧指令Vu1,Vv1,Vw1を大きい順に並べたときの電圧最大相の電圧指令をVmax、電圧中間相の電圧指令をVmid、電圧最小相の電圧指令をVminとする。
このとき、図4に示すように、まず、オフセット演算器8は、ステップS130で、電流検出値Iu1s,Iv1s,Iw1sに基づいて、3相巻線U1,V1,W1を流れる電流Iu1,Iv1,Iw1のうち、その絶対値が最大となる相を、電流絶対値最大相として選択する。そして、オフセット演算器8は、電流絶対値最大相が電圧最大相と一致しているか否かを判定する。電流絶対値最大相が電圧最大相であるならば、ステップS133に進み、そうでなければ、ステップS131に進む。
ステップS131では、オフセット演算器8は、電流絶対値最大相が電圧最小相と一致しているか否かを判定する。電流絶対値最大相が電圧最小相であるならば、ステップS134に進み、そうでなければ、ステップS132に進む。
ステップS132は、電流絶対値最大相が電圧中間相である場合を示す。そこで、オフセット演算器8は、電圧中間相の電圧指令Vmidが正の値であるか否かを判定する。電圧中間相の電圧指令Vmidが正の値であるならば、ステップS135に進み、そうでなければ、ステップS136に進む。
ステップS134およびステップS136では、オフセット演算器8は、オフセット電圧Voffset1に、電圧最小相の電圧指令Vminの値を設定する。
一方、ステップS133およびステップS135では、オフセット演算器8は、電圧最大相の電圧指令Vmaxと直流電源2の直流電圧Vdcとの差、すなわち、(Vmax−Vdc)の値を求め、当該値(Vmax−Vdc)をオフセット電圧Voffset1に設定する。
なお、上記のステップS130において、オフセット演算器8が、3相巻線U1,V1,W1を流れる電流Iu1s,Iv1s,Iw1sに基づいて電流絶対値最大相を選択すると説明したが、これに限定されない。オフセット演算器8は、制御指令から得られる3相巻線U1,V1,W1を流れる電流Iu1,Iv1,Iw1に基づいて、電流絶対値最大相を選択してもよい。
次に、図5〜図10を用いて、オフセット演算器8から出力される3相印加電圧Vu1’,Vv1’,Vw1’の波形について説明する。3相印加電圧Vu1’,Vv1’,Vw1’の波形は、電流位相と電圧位相との差である力率角によって変化する。以下に、詳細に説明する。
力率角が0degの場合には、電流波形および電圧波形は図5のようになる。図5の上段のグラフは電流位相に対する3相電流Iu1,Iv1,Iw1の波形を示し、図5の下段のグラフは3相電圧指令Vu1,Vv1,Vw1の波形を示す。また、図5の上段のグラフおよび下段のグラフの横軸は共に位相を示す。図5の上段のグラフおよび下段のグラフにおいて、実線がU1相の波形、破線がV1相の波形、点線がW1相の波形をそれぞれ示している。
図5の上段のグラフに示されるように、電流絶対値最大相は、電流位相によって以下のように変化する。
電流位相:0deg以上から30deg未満まで:U1相、
30deg以上から90deg未満まで:W1相、
90deg以上から150deg未満まで:V1相、
150deg以上から210deg未満まで:U1相、
210deg以上から270deg未満まで:W1相、
270deg以上から330deg未満まで:V1相、
330deg以上から360deg未満まで:U1相。
また、図5の下段のグラフに示されるように、電圧最大相は、電流位相によって以下のように変化する。
電流位相:0deg以上から60deg未満まで:U1相、
60deg以上から180deg未満まで:V1相、
180deg以上から300deg未満まで:W1相、
300deg以上から360deg未満まで:U1相。
また、図5の下段のグラフに示されるように、電圧最小相は、電流位相によって以下のように変化する。
電流位相:0deg以上から120deg未満まで:W1相、
120deg以上から240deg未満まで:U1相、
240deg以上から360deg未満まで:V1相。
以上のことからわかるように、電流絶対値最大相は、電圧最大相および電圧最小相のうちのいずれか一方に一致する。
図4のフローチャートに従ってオフセット電圧Voffset1を決定すると、スイッチング停止相は、図6の表に示すように設定される。すなわち、スイッチング停止相と電流絶対値最大相は一致している。従って、スイッチング停止相は、電圧最大相および電圧最小相のうちのいずれか一方に一致する。
その結果、3相印加電圧Vu1’,Vv1’,Vw1’は、図7に示すように、60deg毎にスイッチング停止相が切り替わる波形となる。図7のグラフにおいて、実線が印加電圧Vu1’の波形、破線が印加電圧Vv1’の波形、点線が印加電圧Vw1’の波形をそれぞれ示している。また、最大相を搬送波信号の最大値に設定する上べた二相変調と、最小相を搬送波信号の最小値に設定する下べた二相変調とが、60deg毎に交互に切り替わる。力率角が0〜30deg、150〜210deg、330〜360degの場合には、同様の印加電圧に設定することができる。
一方、力率角が60degの場合には、電流波形および電圧波形は図8のようになる。図8の上段のグラフは電流位相に対する3相電流Iu1,Iv1,Iw1の波形を示し、図8の下段のグラフは3相電圧指令Vu1,Vv1,Vw1の波形を示す。また、図8の上段のグラフおよび下段のグラフの横軸は共に位相を示す。図8の上段のグラフおよび下段のグラフにおいて、実線がU1相の波形、破線がV1相の波形、点線がW1相の波形をそれぞれ示している。
図8の上段のグラフに示されるように、電流絶対値最大相は、図5の上段のグラフと同様に、電流位相によって変化する。図5の場合と同じであるため、ここでは説明を省略する。
図8の下段のグラフに示されるように、電圧最大相は、電流位相によって以下のように変化する。
電流位相:0deg以上から120deg未満まで:V1相、
120deg以上から240deg未満まで:W1相、
240deg以上から360deg未満まで:U1相。
また、図8の下段のグラフに示されるように、電圧最小相は、電流位相によって以下のように変化する。
電流位相:0deg以上から60deg未満まで:W1相、
60deg以上から180deg未満まで:U1相、
180deg以上から300deg未満まで:V1相、
300deg以上から360deg未満まで:W1相。
また、図8の下段のグラフに示されるように、電圧中間相は、電流位相によって以下のように変化する。
電流位相:0deg以上から60deg未満まで:U1相、
60deg以上から120deg未満まで:W1相、
120deg以上から180deg未満まで:V1相、
180deg以上から240deg未満まで:U1相、
240deg以上から300deg未満まで:W1相、
300deg以上から360deg未満まで:V1相。
このように、力率角が60degの場合は、力率角が0degの場合とは異なり、電流絶対値最大相が電圧中間相と一致する領域が、30deg毎に発生する。
図4のフローチャートに従ってオフセット電圧Voffset1を決定すると、スイッチング停止相は、図9の表に示すように設定される。図9においても、スイッチング停止相は、電圧最大相および電圧最小相のうちのいずれか一方に一致する。
その結果、3相印加電圧Vu1’,Vv1’,Vw1’は、図10に示すように、30deg毎にスイッチング停止相が切り替わる波形となる。図10のグラフにおいて、実線が印加電圧Vu1’の波形、破線が印加電圧Vv1’の波形、点線が印加電圧Vw1’の波形をそれぞれ示している。また、図4のステップS132の判定結果によってオフセット方向は60deg毎に変化しており、上べた二相変調と下べた二相変調が60deg毎に交互に切り替わる。
オン/オフ信号発生器9は、オフセット演算器8から出力される3相印加電圧Vu1’,Vv1’,Vw1’に基づいて、オン/オフ信号Qup1,Qun1,Qvp1,Qvn1,Qwp1,Qwn1を出力する。図11は、図5に示すタイミングCでのオン/オフ信号発生器9の動作説明図である。図11において、C1は第1搬送波信号、C2は第2搬送波信号である。第1搬送波信号C1と第2搬送波信号C2とは、180deg位相が異なる。第1搬送波信号C1および第2搬送波信号C2は、共に、最小値が0で、最大値がVdcで、周期がTcの三角波である。ここでは、第1搬送波信号C1および第2搬送波信号C2の一例として三角波を用いて説明するが、第1搬送波信号C1および第2搬送波信号C2は、のこぎり波等、三角波以外の他の形状であってもよい。また、その場合でも同様の効果が得られる。
オン/オフ信号発生器9は、第1搬送波信号C1と印加電圧Vu1’とを比較し、印加電圧Vu1’が第1搬送波信号C1の最大値と一致または第1搬送波信号C1よりも大きい場合は「Qup1=1かつQun1=0」を出力し、印加電圧Vu1’が第1搬送波信号C1の最小値と一致または第1搬送波信号C1未満の場合は「Qup1=0かつQun1=1」を出力する。
また、オン/オフ信号発生器9は、第1搬送波信号C1と印加電圧Vv1’とを比較し、印加電圧Vv1’が第1搬送波信号C1の最大値と一致または第1搬送波信号C1よりも大きい場合は「Qvp1=1かつQvn1=0」を出力し、印加電圧Vv1’が第1搬送波信号C1の最小値と一致または第1搬送波信号C1未満の場合は「Qvp1=0かつQvn1=1」を出力する。
また、オン/オフ信号発生器9は、第2搬送波信号C2と印加電圧Vw1’とを比較し、印加電圧Vw1’が第2搬送波信号C2の最大値と一致または第2搬送波信号C2よりも大きい場合は「Qwp1=1かつQwn1=0」を出力し、印加電圧Vw1’が第2搬送波信号C2の最小値と一致または第2搬送波信号C2未満の場合は「Qwp1=0かつQwn1=1」を出力する。
その結果、母線電流Iinv1は、図11に示すように、時刻t1〜t2において−Iw1、時刻t2〜t3においてIu1、時刻t3〜t5において−Iv1、時刻t5〜t6においてIu1、時刻t6〜t7において−Iw1となり、いずれのタイミングにおいても力行電流が流れている。図1から分かるように、母線電流Iinv1、直流電源2の出力電流Ib、および、平滑コンデンサ3の出力電流Icには、Iinv1=Ib+Icの関係がある。また、直流電源2の出力電流Ibは一定値Idcを出力するため、コンデンサ電流Icは、出力電流Ibに対して、Ic=Iinv1−Idcの関係が成り立つ。一定値Idcは、変調率k、力率角θivおよび電流実効値Irmsを用いて下式(1)で与えられる。変調率kは、線間電圧波高値が直流電圧Vdcとなるときを1とした値である。
変調率kが小さい場合にはIcの最大値の絶対値と最小値の絶対値を比較すると、最大値の絶対値の方が大きくなり、変調率kが大きい場合にはIcの最大値の絶対値と最小値の絶対値を比較すると、最小値の絶対値の方が大きくなる。平滑コンデンサ3のコンデンサ電流を小さくするためには、低変調率では、母線電流Iinv1が、予め設定された閾値を超えるような大きな値になることを回避すればよく、高変調率では、母線電流Iinv1が、零または負となることを回避すればよい。例えば、力率角0degの力行運転状態ではIninv1が0〜√3Irmsの範囲となるので、IdcがIninv1の振幅中央値になるには√3Irms/2であればよい。この場合、変調率kが1/√2の場合を基準として低変調率、高変調率ということとする。
なお、上記の図11では、第2搬送波信号C2と印加電圧Vw1’とを比較してオン/オフ信号Qwp1,Qwn1を決定したが、以下では、図12に示すように、第1搬送波信号C1と印加電圧Vw1’とを比較した場合の母線電流Iinv1について説明する。U1相およびV1相のオン/オフ信号Qup1,Qun1,Qvp1,Qvn1は、図11の場合と同様の動きとなるため、ここでは説明を省略する。一方、W1相のオン/オフ信号Qwp1,Qwn1は、図11の場合と異なる。図12では、オン/オフ信号発生器9が、第1搬送波信号C1と印加電圧Vw1’とを比較し、印加電圧Vw1’が第1搬送波信号C1の最大値と一致または第1搬送波信号C1よりも大きい場合は「Qwp1=1かつQwn1=0」を出力し、印加電圧Vw1’が第1搬送波信号C1の最小値と一致または第1搬送波信号C1未満の場合には「Qwp1=0かつQwn1=1」を出力する。
その結果、母線電流Iinv1は、時刻t1〜t2において0、時刻t2〜t3において−Iw1、時刻t3〜t5においてIu1、時刻t5〜t6において−Iw1、時刻t6〜t7において0となる。時刻t1〜t2および時刻t6〜t7においてIinv1=0となるため、図12は、図11に比べて、コンデンサ電流が大きくなる。
従って、上記の図11で示したように、スイッチング停止相以外の2相のうち、一方の相に対する搬送波信号として第1搬送波信号C1を使用し、もう一方の相に対する搬送波信号として第2搬送波信号C2を使用することで、コンデンサ電流を低減することができる。また、電気角1周期において、上べた二相変調または下べた二相変調とすることによりスイッチング回数を低減できるため、スイッチング損失による発熱を抑制する効果も得ることができる。
以下では、搬送波信号の選択方法について説明する。
図13は、3相印加電圧Vu1’,Vv1’,Vw1’と比較する搬送波信号を、第1搬送波信号C1と第2搬送波信号C2のいずれにするかを示した図である。図13において、搬送波信号の各欄における「1」は第1搬送波信号C1を選択したことを示し、「2」は第2搬送波信号C2を選択したことを示す。また、図13において、ハッチング部分はスイッチング停止相を示しているので、いずれの搬送波信号を選択しても出力結果は変わらない。上述したように、コンデンサ電流を小さくするには、スイッチング停止相以外の2相が互いに異なる搬送波信号を使用すればよい。そのため、スイッチング停止相の変化に合わせて、搬送波信号を60deg毎に切り替える場合、V1相であれば30degで搬送波信号を切り替える必要がある。このとき、V1相は電圧中間相となっているため、スイッチング停止相ではない。
図14は、理想的に搬送波信号が切り替わった場合のオン/オフ信号Qup1,Qvp1,Qwp1の変化を表したものである。V1相については、時刻t10〜t12では第1搬送波信号C1と比較し、時刻t12〜t14では第2搬送波信号C2と比較して、オン/オフ信号Qvp1を生成している。印加電圧Vv1’の演算は、時刻t12より前のタイミングで終了するため、その時点で搬送波信号の切り替え要否は判明している。例えば、印加電圧Vu1’,Vv1’,Vw1’の演算が時刻t15で完了し、時刻t15の時点で、搬送波信号を切り替えた場合、本来、時刻t15で実施されるオン/オフ信号Qvp1を0から1にする指示が実施できず、図15のようなオン/オフ信号Qvp1となる。すなわち、図15では、時刻t15以降も、オン/オフ信号Qvp1が0のままである。その結果、時刻t10〜t12で出力したいV1相の印加電圧Vv1’が出せず、3相電流が乱れる要因となる。これを回避して図14のような理想的な波形を実現するには、搬送波信号の切り替えと印加電圧の反映を時刻t12で同期して実施する必要がある。
廉価なマイコンを用いた場合には同期してできる処理が限られるが、図16の表に示すように搬送波信号を切り替えることで、搬送波信号の切り替えと印加電圧の反映を同期せずに実施できる。上記の図13のように搬送波信号を設定すると、電圧中間相で搬送波信号の切り替えが必要となるが、図16のように搬送波信号を設定することで、搬送波信号の切り替え頻度を下げられる。具体的には、図16に示すように、U1相については、電流位相210〜330degで第1搬送波信号C1を使用し、電流位相30〜150degで第2搬送波信号C2を選択する。また、V1相については、電流位相0〜90degおよび電流位相330〜360degで第1搬送波信号C1を選択し、電流位相150〜270degで第2搬送波信号C2を選択する。また、W1相については、電流位相90〜210degで第1搬送波信号C1を選択し、電流位相0〜30degおよび電流位相270〜360degで第2搬送波信号C2を選択する。
すなわち、U1相、V1相、および、W1相の各相において、120degごとに第1搬送波信号C1と第2搬送波信号C2とを切り替え、第1搬送波信号C1の区間と第2搬送波信号C2の区間との間に、スイッチング停止相となる区間を挟む。スイッチング停止相では、搬送波信号1周期においてオンまたはオフのままとなるため、その間に搬送波信号を切り替えてもオン/オフ信号は変化しない。本実施の形態1では、図16の左から右に変化する回転方向であれば、U1相は電流位相150〜210degで第1搬送波信号C1に切り替え、電流位相330〜360degまたは電流位相0〜30degで第2搬送波信号C2に切り替える。また、V1相は、電流位相270〜330degで第1搬送波信号C1に切り替え、電流位相90〜150degで第2搬送波信号C2に切り替える。また、W1相は、電流位相30〜90degで第1搬送波信号C1に切り替え、電流位相210〜270degで第2搬送波信号C2に切り替える。
図16の表に示すように搬送波信号の切り替えを行うためには、例えば、図17のようなフローチャートで切り替え処理を行うとよい。図17では、まず、ステップS140で、電流絶対値最大相が電圧最大相であるかどうかを判定する。電流絶対値最大相が電圧最大相である場合はステップS142に進み、そうでなければ、ステップS141に進む。ステップS141では、電流絶対値最大相が電圧最小相であるかどうかを判定する。電流絶対値最大相が電圧最小相である場合にはステップS143に進み、そうでなければ、ステップS144に進む。ステップS142では、搬送波信号を第1搬送波信号C1から第2搬送波信号C2に切り替える。ステップS143では、搬送波信号を第2搬送波信号C2から第1搬送波信号C1に切り替える。ステップS144では、搬送波信号を切り替えずに現在の搬送波信号のまま、保持する。
つまり、スイッチング停止状態となるとき、印加電圧が搬送波信号の最大値と一致するとき、または、印加電圧が搬送波信号の最小値と一致するときに、使用する搬送波信号を切り替えることで、搬送波信号の切り替えによって生じる印加電圧の乱れを抑制することができる。なお、ここでは、図14および図15に示すように、第1搬送波信号C1を搬送波信号1周期において上に凸、第2搬送波信号C2を搬送波信号1周期において下に凸である三角波としたが、反対であっても同様の効果が得られることはいうまでもない。
交流回転機1の回転数が低い場合、図16の搬送波信号が切り替わる領域間をハンチングする場合がある。例えば、図4のようなフローチャートで動作させた場合であれば、角度検出誤差または電流検出誤差などの影響によって電圧位相がずれることによって、ハンチングが生じる。この場合には、図17のステップS142によって第2搬送波信号C2に切り替わった後で、再度、第1搬送波信号C1を選択したい領域に戻ることがある。そのため、ステップS140が連続X1回成立したときにステップS142を実施する、および、ステップS141が連続X2回成立したときにステップS143を実施するというように、搬送波信号の切り替えを遅延させる。ここで、X1およびX2の値は、予め適宜設定しておく。つまり、交流回転機1の回転数が、予め設定された回転数閾値以下の場合に、搬送波信号の切り替えを遅延させることによって、搬送波信号が切り替わる領域間のハンチングによる搬送波信号の切り替えミスを回避できる。このように、交流回転機1の回転数が回転数閾値以下の低回転数の場合には、搬送波信号の切り替えがハンチングする可能性があるが、予め設定された条件に基づく不感帯を設けて、切り替えを遅延させることで、ハンチングの発生を回避することができる。なお、ここでは、予め設定された条件として、「ステップS140が連続X1回成立」あるいは「ステップS141が連続X2回成立」という条件を例に挙げて説明したが、これに限定されない。予め設定された条件は、例えば、予め設定した時間が経過したときなど、他の条件としてもよい。
また、図4でVoffset1を決定する二相変調では無く、搬送波信号を切り替えたい区間の一部において二相変調とする図18に示すような印加電圧としてもよい。ここでは、nを整数として電流位相が60n±2[deg]の区間で二相変調としている。低回転であれば、搬送波信号1周期で変化する位相は小さい。しかしながら、回転数が増加すれば、搬送波信号1周期に変化する位相変化は大きくなる。そのため、二相変調区間の幅が小さい場合には、この区間を飛び越えてしまう。つまり、回転数に基づいて決定する区間幅kを用いて電流位相が60n±k[deg]の区間で二相変調とすることで、他区間での他の変調方式を可能にできる。交流回転機の回転数をfm[Hz]、極対数をPmとしたとき、下式(2)を満たすようにkを定めればよい。
図18に示すように、二相変調と正弦波変調とを組み合わせれば、中性点電圧の変動を抑制しつつ、コンデンサ電流の低減が可能である。また、図19に示すように、下べた二相変調を基本とし一部区間において上べた二相変調としてもよく、あるいは、図20に示すように、上べた二相変調を基本とし一部区間において下べた二相変調としてもよい。図19および図20の場合について説明する。これらの場合は、電流検出器5が、電力変換器4の半導体スイッチング素子Sun,Svn,Swnのそれぞれに直列に電流検出用抵抗を設けて、電流検出値Iu1s,Iv1s,Iw1sを検出する方式の電流検出器のときに、特に有効である。電流検出器5が当該方式の場合に、電流検出可能領域を広げるためには、図19に示すように、下べた二相変調を基本とし一部区間において上べた二相変調とする。あるいは、電流検出器5が当該方式の場合に、電流検出用抵抗での発熱を低減するためには、図20に示すように、上べた二相変調を基本とし一部区間において下べた二相変調とする。つまり、電圧指令のうち最も小さい1相における印加電圧を搬送波信号の最小値に一致させる下べた二相変調の区間を、電気角1周期のうち各相に対して少なくとも1回設けるとともに、電圧指令のうち最も大きい1相における印加電圧を搬送波信号の最大値に一致させる上べた二相変調の区間を、電気角1周期のうち各相に対して少なくとも1回設ける。このように、各相において、搬送波信号1周期で、Duty100%の上べたに設定できる区間と、Duty0%の下べたに設定できる区間とが、180degずれていることを利用することで、搬送波信号1周期において、第1搬送波信号C1と第2搬送波信号C2との切り替えをスムーズに実施できる。これにより、搬送波信号の切り替えによって生じる印加電圧の乱れを抑制することができる。制御部6のオフセット演算器8は、3相巻線U1,V1,W1を流れる電流位相および力率角に基づいて、上べた二相変調または下べた二相変調を選択して、3相印加電圧Vu1’,Vv’1,Vw1’を演算すればよい。このように、電流位相と力率角に応じて最適な変調方式を選択することで、母線電流Iinv1のリプルを抑制することができる。
さらに、制御部6のオフセット演算器8は、3相巻線U1,V1,W1を流れる電流のうち絶対値が最大となる電流絶対値最大相が電圧最大相であるとき、上べた二相変調とするとともに、電流絶対値最大相が電圧最小相であるとき、下べた二相変調としてもよい。このように、電流絶対値最大相のスイッチングを停止することで、母線に、電流絶対値最大相の電流を流すことを回避でき、母線電流Iinv1のリプルを抑制できる。さらに、制御部6のオフセット演算器8は、電流絶対値最大相が電圧中間相であるときに、電圧中間相の電圧指令が正の場合に上べた二相変調とするとともに、電圧中間相の電圧指令が0または負の場合に下べた二相変調としてもよい。このように、電流絶対値最大相が電圧中間相となる場合に、電圧中間相の電圧指令が正か負かによって二相変調の方向を決定することによって、母線電流Iinv1のリプルをさらに抑制できる。
なお、交流回転機1の回転方向が一定の場合には、図17に示すフローに従う判定でよいが、交流回転機1が両方向に回転する場合には、回転方向に応じて切り替え方を変える必要がある。例えば、図16の右から左に変化する回転方向の場合について考える。このとき、U1相は、150〜210degの間で第2搬送波信号C2に切り替え、330〜360degの間、および、0〜30degの間で第1搬送波信号C1に切り替える。V1相は、270〜330degの間で第2搬送波信号C2に切り替え、90〜150degの間で第1搬送波信号C1に切り替える。W1相は、30〜90degの間で第2搬送波信号C2に切り替え、210〜270degの間で第1搬送波信号C1に切り替える。この場合には、例えば、図21に示すフローチャートで切り替えを行うとよい。
図21と図17との違いについて説明する。図21は、図17のステップS142をステップS142aに変更し、図17のステップS143をステップS143aに変更したものである。ステップS142aでは、搬送波信号を第2搬送波信号C2から第1搬送波信号C1に切り替える。ステップS143aでは、搬送波信号を第1搬送波信号C1から第2搬送波信号C2に切り替える。他のステップについては、図17と同じであるため、ここではその説明を省略する。
以上の説明から分かるように、図16の左から右に回転する場合には図17のフローによって搬送波信号を決定し、図16の右から左に回転する場合には図21のフローによって搬送波信号を決定する。これにより、交流回転機1が両方向に回転する場合においても、交流回転機1が一方向に回転する場合と同様に、コンデンサ電流を低減することができる。なお、この場合においても、搬送波信号の切り替えミスを回避するために、交流回転機1の回転数が或る値以下の場合に、搬送波信号の切り替えを遅延させてもよい。また、回転方向が切り替わった後の電気角1周期の搬送波信号が所望の設定と異なるものとなることを許容すれば、回転方向に関係無く図17または図21のフローによって搬送波信号を決定してもよい。
力率角が60degの場合には、搬送波信号は、図22に示すように設定される。具体的には、U1相は、180〜240degおよび270〜330degで第1搬送波信号C1を選択し、0〜60degおよび90〜150degで第2搬送波信号C2を選択する。V1相は、30〜90degおよび300〜360degで第1搬送波信号C1を選択し、120〜180degおよび210〜270degで第2搬送波信号C2を選択する。W1相は、60〜120degおよび150〜210degで第1搬送波信号C1を選択し、0〜30deg、240〜300degおよび330〜360degで第2搬送波信号C2を選択する。すなわち、図22に示すように、60degごとに、30deg分のスイッチング停止相となる区間を挟みながら、「C1」、「C1」、「C2」、「C2」、「C1」、「C1」、・・・の順に、搬送波信号の切り替えを行う。すなわち、一方の搬送波信号が2回連続して選択された後に、他方の搬送波信号が2回連続して選択される。また、スイッチング停止相では搬送波信号1周期においてオンまたはオフのままとなるため、その間に搬送波信号を切り替えてもオン/オフ信号は変化しない。本実施の形態1では、図22の左から右に変化する回転方向であれば、U1相は、150〜180degで第1搬送波信号C1に切り替えられ、330〜360degで第2搬送波信号C2に切り替えられる。また、V1相は、270〜300degで第1搬送波信号C1に切り替えられ、90〜120degで第2搬送波信号C2に切り替えられる。また、W1相は30〜60degで第1搬送波信号C1に切り替えられ、210〜240degで第2搬送波信号C2に切り替えられる。
図22では、スイッチング停止相以外の2相の搬送波信号を30deg毎に同じになるようにしている。すなわち、例えば、図22の60〜90degでは、U1相がスイッチング停止相で、スイッチング停止相以外のV1相およびW1相の搬送波信号は、共に、第1搬送波信号C1である。また、120deg〜150degでは、W1相がスイッチング停止相で、スイッチング停止相以外のU1相およびV1相の搬送波信号は、共に、第2搬送波信号C2である。図22の場合の効果について説明する。電圧と電流の位相が60degずれていることで、2相の搬送波信号が同じになる領域では、電流絶対値最大相が電圧中間相となっている。具体的には、V1相とW1相との搬送波信号が同じになる60〜90degでは、電流絶対値最大相および電圧中間相は共にW1相である。また、U1相とV1相との搬送波信号が同じになる120〜150degでは、電流絶対値最大相および電圧中間相は共にV1相である。このとき、図8のタイミングDにおいて、V1相を第2搬送波信号C2と比較し、W1相を第1搬送波信号C1と比較して、オン/オフ信号を生成したときの出力波形を図23に示し、V1相およびW1相をともに第2搬送波信号C2と比較してオン/オフ信号を生成したときの出力波形を図24に示す。
図23では、2相の搬送波信号を互いに異なるものにしており、母線電流Iinv1は、Iu1、−Iv1および−Iw1の3種類となる。Iu1<0、Iv1<0、Iw1>0なので、力行運転状態にも拘らず、Iu1および−Iw1が流れる間は、回生方向の電流が流れることになる。W1相は電流絶対値最大相であるから、コンデンサ電流が大きくなる。
一方、図24では、2相の搬送波信号を同じものにしており、母線電流Iinv1は、Iu1、−Iv1および0の3種類となる。Iu1が流れる間は、回生方向の電流が流れることになるが、U1相は電流絶対値最小相であるから、コンデンサ電流は、図23より小さくできる。ここでは、1相のスイッチングが停止する二相変調で説明したため、搬送波信号を切り替える切替対象相をスイッチング停止相として説明したが、正弦波変調を含む他の変調方式であっても3相の搬送波信号を同じにすることで同様の効果を得られる。つまり、電流絶対値最大相が電圧中間相であるときには、印加電圧が搬送波信号の最大値と一致する、または、印加電圧が搬送波信号の最小値と一致する相以外の2相の印加電圧を、同一の搬送波信号と比較することによって、コンデンサ電流を低減できる。
上記の説明においては、図4、図17、および、図21のフローに示すように、電流絶対値最大相が、電圧最大相、電圧最小相、および、電圧中間相のいずれであるかに基づいて、オフセット電圧および搬送波信号を決定したが、この場合に限定されない。すなわち、電流位相または力率角に基づいて、オフセット電圧および搬送波信号を決定してもよい。例えば、力率角が180degでは、図16に対してオフセット方向を逆にした図25を用いる。また、力率角が240degでは、図22に対してオフセット方向を逆にした図26を用いる。また、力率角が120degでは図22に対して設定相をずらした図27を用いる。また、力率角が300degでは、図27に対してオフセット方向を逆にした図28を用いる。また、上記以外の力率角の場合には、±30degの範囲内となる力率角60ndegの場合を示した図の切替表に対して、電圧位相のずれ分だけ搬送波信号の切り替え位相をずらせばよい。ここで、nは整数である。例えば、力率角135degの場合には、力率角120degの図27に対して15deg切り替え位相が変化する。
図29は、本実施の形態1に係る電力変換装置を車両用発電電動機に使用する場合の構成を示す図である。電力変換装置の構成については、図1で説明した通りであるため、ここではその説明を省略する。図29においては、交流回転機1が、内燃機関801とベルトを介して接続されている。交流回転機1および内燃機関801は、共に、車両に搭載されている。交流回転機1は、内燃機関801の補機として、図示しない駆動系部品を経由して、車両に設けられた車輪の駆動力を発生させるとともに、内燃機関801の回転を利用して発電を行う。内燃機関801の回転は一定方向となるため、交流回転機1が図29の例のように使用される場合には、交流回転機1の回転方向が一定となることが多い。このように、交流回転機1の回転方向が決まっているため、図16に示した切替表のように、搬送波信号を切り替えればよい。またその場合において、図17または図21のいずれかのフローチャートに従って、搬送波信号を決めればよい。本実施の形態1の電力変換装置を車両用発電電動機に用いることで、高頻度で実施される発電動作時のコンデンサ電流を低減しつつ、搬送波信号の切り替えによる電流乱れの発生を抑制することができる。その結果、車両を運転する運転者にとって不快な駆動力変動を抑制できるという従来に無い効果を得ることができる。
図30は、本実施の形態1に係る電力変換装置を車両に設けられた電動パワーステアリング装置用の電動機に使用する場合の構成を示す図である。電力変換装置の構成については、図1で説明した通りであるため、ここではその説明を省略する。図30においては、交流回転機1が、電動パワーステアリング装置に接続されている。車両の運転者は、ハンドル901を左右に回転させて、車両の前輪902の操舵を行う。トルク検出器903は、ステアリング系の操舵トルクTsを検出し、検出した操舵トルクTsを、制御指令生成部905に出力する。制御指令生成部905は、トルク検出器903と電力変換装置との間に設けられている。交流回転機1は、運転者の操舵を補助するアシストトルクを発生して、ギヤ904を介して付与する。制御指令生成部905は、トルク検出器903から出力された運転者の操舵トルクTsに基づいて、交流回転機1を所望の状態に制御するための制御指令を演算する。演算された制御指令は、制御部6の電圧指令演算器7に入力される。制御指令生成部905は、制御指令として、下式(3)により、トルク電流指令Iq_tgtを演算する。
Iq_tgt = ka・Ts・・・(3)
ここで、kaは定数であるが、操舵トルクTsまたは車両の走行速度に応じて、kaの値を変動させるように設定してもよい。ここでは、上式(3)を用いてトルク電流指令Iq_tgtを決定するが、その場合に限らず、操舵状況に応じた公知の補償制御に基づいてトルク電流指令Iq_tgtを決定してもよい。運転者がハンドル901を回転させる方向は、両方向となっているため、回転方向に応じて、図17および図21のいずれかのフローチャートに従って搬送波信号を決めればよい。このように、本実施の形態1に係る電力変換装置を電動パワーステアリング装置用の電動機に用いることで、操舵時のコンデンサ電流を低減しつつ、搬送波信号の切り替えによる電流乱れの発生を抑制することができる。その結果、低回転から使用する電動パワーステアリング装置において、電流およびトルクの乱れにつながる電圧に乱れを抑制することで、車両を運転する運転者にとって不快なハンドル901を介して伝わる振動の抑制、および、車室内に伝わる騒音の低減を実現できるという従来に無い効果を得ることができる。
この発明は、交流回転機の3相巻線の各相に対応させて設けられたスイッチング素子を有し、直流電源からの直流電圧を用いて前記3相巻線に対して電圧を印加する電力変換器と、外部から入力される制御指令に基づいて前記3相巻線の各相に対する電圧指令を演算するとともに、前記電圧指令に基づいて前記3相巻線の各相に印加する印加電圧を演算し、各前記印加電圧と搬送波信号とを比較することにより前記スイッチング素子に対するオン/オフ信号を出力する制御部とを備え、前記制御部は、各前記印加電圧と比較する前記搬送波信号として、第1搬送波信号と、前記第1搬送波信号に対して180deg位相が異なる第2搬送波信号とを切り替えて使用し、前記印加電圧が前記搬送波信号の最大値と一致する、または、前記印加電圧が前記搬送波信号の最小値と一致する相を、切替対象相として、前記切替対象相に対して、前記搬送波信号の切り替えを行い、前記切替対象相以外の2相の前記印加電圧のうち、一方を前記第1搬送波信号と比較し、他方を前記第2搬送波信号と比較し、前記各相に対する前記電圧指令を大きい順に並べたときのそれぞれに対応する相を、順に、電圧最大相、電圧中間相、電圧最小相とし、前記3相巻線を流れる電流のうちで当該電流の絶対値が最大となる相を、電流絶対値最大相としたとき、前記電流絶対値最大相が前記電圧中間相に一致している場合に、前記切替対象相以外の前記2相の前記印加電圧を、前記第1搬送波信号および前記第2搬送波信号のいずれか一方の同一の搬送波信号と比較する、電力変換装置である。