JP2020120642A - 改変フィブロイン繊維の製造方法及びタンパク質溶液 - Google Patents

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Abstract

【課題】湿式紡糸法、又は乾湿式紡糸法によって得られる改変フィブロイン繊維と同等の応力を有する改変フィブロイン繊維を容易に製造することが可能な改変フィブロイン繊維の製造方法を提供すること。【解決手段】改変フィブロイン及び溶媒を含むドープ液から乾式紡糸法によって原繊維を形成させる工程を備え、改変フィブロインが、式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含み、ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中にシステイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有する、改変フィブロイン繊維の製造方法。[式1及び式2中、(A)nモチーフは4〜27アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が80%以上である。REPは10〜200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは10〜300の整数を示す。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]【選択図】なし

Description

本発明は、改変フィブロイン繊維の製造方法及びタンパク質溶液に関する。
各種産業分野において、将来的に利用価値の高い新素材としてフィブロイン繊維に関心が寄せられている。フィブロイン繊維として、従来から再生絹フィブロイン繊維及びクモ糸フィブロイン繊維が知られている。これらのフィブロイン繊維の製造方法として、湿式紡糸法、乾湿式紡糸法、乾式紡糸法等が知られている。例えば、非特許文献1には、乾式紡糸法によるフィブロイン繊維の製造方法として、塩化カルシウムとギ酸の混合有機溶媒に精錬後の蚕絹フィブロインを溶解させたドープをシリンジから気中に吐出させて繊維を形成させる方法が報告されている。
Xiaoxiao Yue et al,Materials Letters,2014年,128巻,pp.175−178
湿式紡糸法及び乾湿式紡糸法により形成される繊維は高い応力を有している。一方で、これらの方法を用いて、フィブロイン繊維を製造する場合、凝固浴及び水洗浴において液体を多量に用いる必要があり、生産性の点で改善の余地があった。
本発明は、湿式紡糸法、又は乾湿式紡糸法によって得られる改変フィブロイン繊維と同等の応力を有する改変フィブロイン繊維を容易に製造することが可能な改変フィブロイン繊維の製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、例えば、以下の各発明に関する。
[1]
改変フィブロイン及び溶媒を含むドープ液から乾式紡糸法によって原繊維を形成させる工程を備える、改変フィブロイン繊維の製造方法であって、
改変フィブロインが、式1:[(A)モチーフ−REP]、又は式2:[(A)モチーフ−REP]−(A)モチーフで表されるドメイン配列を含み、
ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中にシステイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有する、製造方法。
[式1及び式2中、(A)モチーフは4〜27アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が80%以上である。REPは10〜200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは10〜300の整数を示す。複数存在する(A)モチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
[2]
ドメイン配列が、REP中にGPGXX(但し、Xはグリシン残基以外のアミノ酸残基を示す。)モチーフを含み、GPGXXモチーフ含有率が10%以上である、[1]に記載の改変フィブロイン繊維の製造方法。
[3]
ドメイン配列が、REP中にグリシン残基、セリン残基、又はアラニン残基を含み、かつ、REP中のグリシン残基、セリン残基、又はアラニン残基と隣り合う位置に、システイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有する、[1]又は[2]に記載の改変フィブロイン繊維の製造方法。
[4]
ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、ドメイン配列のN末端及び/又はC末端の近傍に位置するREP中に、システイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有する、[1]〜[3]のいずれかに記載の改変フィブロイン繊維の製造方法。
[5]
ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中のアミノ酸配列の中央又は中央近傍に、システイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有する、[1]〜[3]のいずれかに記載の改変フィブロイン繊維の製造方法。
[6]
ドメイン配列が、REP中に疎水性アミノ酸残基を含み、かつ、REP中の疎水性アミノ酸残基と隣り合う位置に、システイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有する、[1]〜[5]のいずれかに記載の改変フィブロイン繊維の製造方法。
[7]
ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中に1以上16未満のシステイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有する、[1]〜[6]のいずれかに記載の改変フィブロイン繊維の製造方法。
[8]
天然由来のフィブロインが、昆虫又はクモ類由来のフィブロインである、[1]〜[7]のいずれかに記載の改変フィブロイン繊維の製造方法。
[9]
天然由来のフィブロインが、クモ類の大瓶状スパイダータンパク質(MaSp)又は小瓶状スパイダータンパク質(MiSp)である、[1]〜[8]のいずれかに記載の改変フィブロイン繊維の製造方法。
[10]
改変フィブロインが、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含む、[1]〜[9]のいずれかに記載の改変フィブロイン繊維の製造方法。
[11]
改変フィブロイン及び溶媒を含む、タンパク質溶液であって、
改変フィブロインが、式1:[(A)モチーフ−REP]、又は式2:[(A)モチーフ−REP]−(A)モチーフで表されるドメイン配列を含み、
ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中にシステイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有する、タンパク質溶液。
[式1及び式2中、(A)モチーフは4〜27アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が80%以上である。REPは10〜200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは10〜300の整数を示す。複数存在する(A)モチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
本発明によれば、湿式紡糸法、又は乾湿式紡糸法によって得られる改変フィブロイン繊維と同等の応力を有する改変フィブロイン繊維を容易に製造することが可能な改変フィブロイン繊維の製造方法が提供される。
本発明は、乾式紡糸法に適用可能な所定の改変フィブロインを用いるため、改変フィブロイン繊維を容易に製造することができる。
フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
〔改変フィブロイン繊維の製造方法〕
本実施形態に係る改変フィブロイン繊維の製造方法は、改変フィブロイン及び溶媒を含むドープ液から乾式紡糸法によって原繊維を形成させる工程を少なくとも備える。
(改変フィブロイン)
本実施形態に係る改変フィブロインは、式1:[(A)モチーフ−REP]、又は式2:[(A)モチーフ−REP]−(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。改変フィブロインは、ドメイン配列のN末端側及びC末端側のいずれか一方又は両方に更にアミノ酸配列(N末端配列及びC末端配列)が付加されていてもよい。N末端配列及びC末端配列は、これに限定されるものではないが、典型的には、フィブロインに特徴的なアミノ酸モチーフの反復を有さない領域であり、100残基程度のアミノ酸からなる。
本明細書において「改変フィブロイン」とは、そのアミノ酸配列が天然由来のフィブロインのアミノ酸配列とは異なるフィブロインを意味する。本明細書でいう「天然由来のフィブロイン」は、そのアミノ酸配列が自然に存在する昆虫又はクモ類等が産生するフィブロインと同一であるフィブロインを意味する。天然由来のフィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ−REP]、又は式2:[(A)モチーフ−REP]−(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。
天然由来のフィブロインとしては、例えば、昆虫又はクモ類が産生するフィブロインが挙げられる。
昆虫が産生するフィブロインとしては、例えば、ボンビックス・モリ(Bombyx mori)、クワコ(Bombyx mandarina)、天蚕(Antheraea yamamai)、柞蚕(Anteraea pernyi)、楓蚕(Eriogyna pyretorum)、蓖蚕(Pilosamia Cynthia ricini)、樗蚕(Samia cynthia)、栗虫(Caligura japonica)、チュッサー蚕(Antheraea mylitta)、ムガ蚕(Antheraea assama)等のカイコが産生する絹タンパク質、スズメバチ(Vespa simillima xanthoptera)の幼虫が吐出するホーネットシルクタンパク質が挙げられる。
昆虫が産生するフィブロインのより具体的な例としては、例えば、カイコ・フィブロインL鎖(GenBankアクセッション番号M76430(塩基配列)、AAA27840.1(アミノ酸配列))が挙げられる。
クモ類が産生するフィブロインとしては、例えば、オニグモ、ニワオニグモ、アカオニグモ、アオオニグモ及びマメオニグモ等のオニグモ属(Araneus属)に属するクモ、ヤマシロオニグモ、イエオニグモ、ドヨウオニグモ及びサツマノミダマシ等のヒメオニグモ属(Neoscona属)に属するクモ、コオニグモモドキ等のコオニグモモドキ属(Pronus属)に属するクモ、トリノフンダマシ及びオオトリノフンダマシ等のトリノフンダマシ属(Cyrtarachne属)に属するクモ、トゲグモ及びチブサトゲグモ等のトゲグモ属(Gasteracantha属)に属するクモ、マメイタイセキグモ及びムツトゲイセキグモ等のイセキグモ属(Ordgarius属)に属するクモ、コガネグモ、コガタコガネグモ及びナガコガネグモ等のコガネグモ属(Argiope属)に属するクモ、キジロオヒキグモ等のオヒキグモ属(Arachnura属)に属するクモ、ハツリグモ等のハツリグモ属(Acusilas属)に属するクモ、スズミグモ、キヌアミグモ及びハラビロスズミグモ等のスズミグモ属(Cytophora属)に属するクモ、ゲホウグモ等のゲホウグモ属(Poltys属)に属するクモ、ゴミグモ、ヨツデゴミグモ、マルゴミグモ及びカラスゴミグモ等のゴミグモ属(Cyclosa属)に属するクモ、及びヤマトカナエグモ等のカナエグモ属(Chorizopes属)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質、並びにアシナガグモ、ヤサガタアシナガグモ、ハラビロアシダカグモ及びウロコアシナガグモ等のアシナガグモ属(Tetragnatha属)に属するクモ、オオシロカネグモ、チュウガタシロカネグモ及びコシロカネグモ等のシロカネグモ属(Leucauge属)に属するクモ、ジョロウグモ及びオオジョロウグモ等のジョロウグモ属(Nephila属)に属するクモ、キンヨウグモ等のアズミグモ属(Menosira属)に属するクモ、ヒメアシナガグモ等のヒメアシナガグモ属(Dyschiriognatha属)に属するクモ、クロゴケグモ、セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモ及びジュウサンボシゴケグモ等のゴケグモ属(Latrodectus属)に属するクモ、及びユープロステノプス属(Euprosthenops属)に属するクモ等のアシナガグモ科(Tetragnathidae科)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。スパイダーシルクタンパク質としては、例えば、MaSp(MaSp1及びMaSp2)、ADF(ADF3及びADF4)等の牽引糸タンパク質、MiSp(MiSp1及びMiSp2)等が挙げられる。
クモ類が産生するフィブロインのより具体的な例としては、例えば、fibroin−3(adf−3)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47010(アミノ酸配列)、U47855(塩基配列))、fibroin−4(adf−4)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47011(アミノ酸配列)、U47856(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 1[Nephila clavipes由来](GenBankアクセッション番号AAC04504(アミノ酸配列)、U37520(塩基配列))、major angu11ate spidroin 1[Latrodectus hesperus由来](GenBankアクセッション番号ABR68856(アミノ酸配列)、EF595246(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 2[Nephila clavata由来](GenBankアクセッション番号AAL32472(アミノ酸配列)、AF441245(塩基配列))、major anpullate spidroin 1[Euprosthenops australis由来](GenBankアクセッション番号CAJ00428(アミノ酸配列)、AJ973155(塩基配列))、及びmajor ampullate spidroin 2[Euprosthenops australis](GenBankアクセッション番号CAM32249.1(アミノ酸配列)、AM490169(塩基配列))、minor ampullate silk protein 1[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14589.1(アミノ酸配列))、minor ampullate silk protein 2[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14591.1(アミノ酸配列))、minor ampullate spidroin−like protein[Nephilengys cruentata](GenBankアクセッション番号ABR37278.1(アミノ酸配列)等が挙げられる。
天然由来のフィブロインのより具体的な例としては、更に、NCBI GenBankに配列情報が登録されているフィブロインを挙げることができる。例えば、NCBI GenBankに登録されている配列情報のうちDIVISIONとしてINVを含む配列の中から、DEFINITIONにspidroin、ampullate、fibroin、「silk及びpolypeptide」、又は「silk及びprotein」がキーワードとして記載されている配列、CDSから特定のproductの文字列、SOURCEからTISSUE TYPEに特定の文字列の記載された配列を抽出することにより確認することができる。
「改変フィブロイン」は、本発明で特定されるアミノ酸配列を有するものであれば、天然由来のフィブロインに依拠してそのアミノ酸配列を改変したもの(例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列を改変することによりアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、また天然由来のフィブロインに依らず人工的にアミノ酸配列を設計したもの(例えば、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより所望のアミノ酸配列を有するもの)であってもよい。なお、改変フィブロインのアミノ酸配列を改変したものも、そのアミノ酸配列が天然由来のフィブロインのアミノ酸配列とは異なるものであれば、改変フィブロインに含まれる。
本明細書において「ドメイン配列」とは、フィブロイン特有の結晶領域(典型的には、アミノ酸配列の(A)モチーフに相当する。)と非晶領域(典型的には、アミノ酸配列のREPに相当する。)を生じるアミノ酸配列であり、式1:[(A)モチーフ−REP]、又は式2:[(A)モチーフ−REP]−(A)モチーフで表されるアミノ酸配列を意味する。ここで、(A)モチーフは4〜27アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が80%以上である。REPは10〜200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは10〜300の整数を示す。mは、20〜300の整数であることが好ましく、30〜300の整数であることがより好ましい。複数存在する(A)モチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。
(A)モチーフは、(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が80%以上であればよいが、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。ドメイン配列中に複数存在する(A)モチーフは、少なくとも7つがアラニン残基のみで構成されることが好ましい。アラニン残基のみで構成されるとは、(A)モチーフが、(Ala)(Alaはアラニン残基を示し、kは4〜27の整数、好ましくは4〜20の整数、より好ましくは4〜16の整数を示す。)で表されるアミノ酸配列を有することを意味する。
REPは、10〜200アミノ酸残基から構成される。REPを構成するアミノ酸残基の1以上が、グリシン残基、セリン残基、及びアラニン残基からなる群より選択されるアミノ酸残基であってよい。すなわち、REPは、グリシン残基、セリン残基、及びアラニン残基からなる群より選択されるアミノ酸残基を含んでいてよい。
REPを構成するアミノ酸残基の1以上が、疎水性アミノ酸残基であってよい。すなわち、REPは、疎水性アミノ酸残基を含んでいることが好ましい。疎水性アミノ酸残基とは、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基を意味する。アミノ酸残基の疎水性指標(ハイドロパシー・インデックス、以下「HI」とも記す。)については、公知の指標公知の指標(Hydropathy index:Kyte J,&Doolittle R(1982)“A simple method for displaying the hydropathic character of a protein”,J.Mol.Biol.,157,pp.105−132)を使用する。疎水性アミノ酸残基としては、例えば、イソロイシン(HI:4.5)、バリン(HI:4.2)、ロイシン(HI:3.8)、フェニルアラニン(HI:2.8)、メチオニン(HI:1.9)、アラニン(HI:1.8)が挙げられる。
本実施形態に係る改変フィブロインにおいて、ドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、REP中にシステイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有する。
ドメイン配列は、REP中のグリシン残基、セリン残基、又はアラニン残基と隣り合う位置に、システイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有していることが好ましく、REP中のグリシン残基と隣り合う位置に、システイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有していることがより好ましい。この場合、システイン残基の側鎖の可動範囲が広いため、システイン残基の側鎖に存在するメルカプト基(−SH)が、分子内又は分子間でジスルフィド結合を形成しやすくなり、物性をより一層向上させることができる。REP中のシステイン残基は、グリシン残基、セリン残基、又はアラニン残基と、グリシン残基、セリン残基、又はアラニン残基との間に位置していてよく、セリン残基と、グリシン残基との間に位置していてよい。
ドメイン配列は、REP中の疎水性アミノ酸残基と隣り合う位置に、システイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有していることが好ましい。この場合、分子間で疎水性アミノ酸残基同士が疎水的相互作用により固定されることで、システイン残基におけるメルカプト基(−SH)がジスルフィド結合を形成しやすくなり、物性をより一層向上させることができる。REP中のシステイン残基は、疎水性アミノ酸残基の隣に位置していてよく、疎水性アミノ酸残基と、疎水性アミノ酸残基以外のアミノ酸残基との間に、位置していてもよく、疎水性アミノ酸残基と、グリシン残基、セリン残基、又はアラニン残基との間に位置していてよく、疎水性アミノ酸残基と、グリシン残基との間に位置していてよい。疎水性アミノ酸残基は、イソロイシン残基、バリン残基、ロイシン残基、フェニルアラニン残基、メチオニン残基、及びアラニン残基からなる群より選択される1種であってよい。
ドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、ドメイン配列のN末端及び/又はC末端の近傍に位置するREP中に、システイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有していてよい。この場合、分子鎖が長くなるため、物性向上が期待できる。本明細書において、ドメイン配列のN末端の近傍に位置するREPとは、ドメイン配列のN末端から1〜3番目に位置するREPを意味する。例えば、システイン残基は、ドメイン配列のN末端から1〜2番目に位置するREP中に位置していてよい。本明細書において、ドメイン配列のC末端の近傍に位置するREPとは、ドメイン配列のC末端から1〜3番目に位置するREPを意味する。例えば、システイン残基は、ドメイン配列のC末端から1〜2番目に位置するREP中に位置していてよい。システイン残基は、ドメイン配列の最もN末端側及び/又は最もC末端側に位置するREP中に位置していることが好ましい。
ドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の中央又は中央近傍にシステイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有していてよい。本明細書において、REP中のアミノ酸配列の中央近傍とは、REPの中央に位置するアミノ酸残基(中央に位置するアミノ酸残基が2つ存在する場合はN末端側のアミノ酸残基)からN末端側に向かって1〜5番目の位置、又はREPの中央に位置するアミノ酸残基(中央に位置するアミノ酸残基が2つ存在する場合はC末端側のアミノ酸残基)から1〜5番目の位置を示す。例えば、システイン残基は、REPの中央に位置していてもよく、REPの中央に位置するアミノ酸残基からN末端側、又はC末端側に向かって1〜3番目又は1〜2番目に位置していてもよい。
改変フィブロインは、REPのアミノ酸配列中に、GPGXXモチーフ(Gはグリシン残基、Pはプロリン残基、Xはグリシン残基以外のアミノ酸残基を示す。)を含むことが好ましい。REP中にこのモチーフが含まれることにより、改変フィブロインの伸度を向上させることができる。
改変フィブロインが、REP中にGPGXXモチーフを含む場合、GPGXXモチーフ含有率は、通常1%以上であり、5%以上であってもよく、10%以上であるのが好ましい。この場合、改変フィブロイン繊維の応力がより一層高くなる。GPGXXモチーフ含有率の上限に特に制限はなく、50%以下であってよく、30%以下であってもよい。
本明細書において、「GPGXXモチーフ含有率」は、以下の方法により算出される値である。式1:[(A)モチーフ−REP]、又は式2:[(A)モチーフ−REP]−(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロインにおいて、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるGPGXXモチーフの個数の総数を3倍した数(即ち、GPGXXモチーフ中のG及びPの総数に相当)をcとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)モチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をdとしたときに、GPGXXモチーフ含有率はc/dとして算出される。
GPGXXモチーフ含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としているのは、「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列」(REPに相当する配列)には、フィブロインに特徴的な配列と相関性の低い配列が含まれることがあり、mが小さい場合(つまり、ドメイン配列が短い場合)、GPGXXモチーフ含有率の算出結果に影響するので、この影響を排除するためである。なお、REPのC末端に「GPGXXモチーフ」が位置する場合、「XX」が例えば「AA」の場合であっても、「GPGXXモチーフ」として扱う。
図1は、フィブロインのドメイン配列を示す模式図である。図1を参照しながらGPGXXモチーフ含有率の算出方法を具体的に説明する。まず、図1に示したフィブロインのドメイン配列(「[(A)モチーフ−REP]−(A)モチーフ」タイプである。)では、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(図1中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、cを算出するためのGPGXXモチーフの個数は7であり、cは7×3=21となる。同様に、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(図1中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、当該配列から更に(A)モチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数dは50+40+10+20+30=150である。次に、cをdで除すことによって、c/d(%)を算出することができ、図1のフィブロインの場合21/150=14.0%となる。
改変フィブロインは、REPの疎水性度が、−0.8以上であることが好ましく、−0.7以上であることがより好ましく、0以上であることが更に好ましく、0.3以上であることが更により好ましく、0.4以上であることが特に好ましい。REPの疎水性度の上限に特に制限はなく、1.0以下であってよく、0.7以下であってもよい。
本明細書において、「REPの疎水性度」は、以下の方法により算出される値である。式1:[(A)モチーフ−REP]、又は式2:[(A)モチーフ−REP]−(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロインにおいて、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(図1の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域の各アミノ酸残基の疎水性指標の総和をeとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)モチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をfとしたときに、REPの疎水性度はe/fとして算出される。REPの疎水性度の算出において、「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
ドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、REP中に1以上16未満のシステイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有していてよい。つまり、REPに挿入したことに相当するシステイン残基の総数は、1以上16未満であってよい。REP中に挿入したことに相当するシステイン残基の総数は、1以上12以下、1以上10以下、1以上8以下、1以上6以下、又は2以上4以下であってもよい。ドメイン配列中のREP一つあたりのシステイン残基数は、例えば、1〜3であってよく、1〜2であってよく、1であってよい。
本実施形態に係る改変フィブロインのシステイン残基の総数は、1以上16未満、1以上12以下、1以上10以下、1以上8以下、1以上6以下、又は2以上4以下であってもよい。
本実施形態に係る改変フィブロインは、上述したREP中のシステイン残基に関する改変に加え、天然由来のフィブロインと比較して、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変が更にあってもよい。
本実施形態に係る改変フィブロインの分子量は、特に限定されないが、例えば、10kDa以上700kDa以下であってよい。本実施形態に係る改変フィブロインの分子量は、例えば、20kDa以上、30kDa以上、40kDa以上、50kDa以上、60kDa以上、70kDa以上、80kDa以上、90kDa以上、又は100kDa以上であってよく、600kDa以下、500kDa以下、400kDa以下、300kDa以下、又は200kDa以下であってよい。
本実施形態に係る改変フィブロインのより具体的な例として、(i)配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、又は配列番号6で表されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン、又は(ii)配列番号7、配列番号8、配列番号9、又は配列番号10で表されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げるこができる。
配列番号1で示されるアミノ酸配列(PRT1)は、配列番号11で示されるアミノ酸配列(PRT11)に対し、ドメイン配列の最もN末端側に位置するREPに、システイン残基を1カ所挿入したものである。
配列番号2で示されるアミノ酸配列(PRT2)は、配列番号12で示されるアミノ酸配列(PRT12)に対し、ドメイン配列の最もN末端側に位置するREPに、システイン残基を1カ所挿入したものである。
配列番号3で示されるアミノ酸配列(PRT3)は、配列番号12で示されるアミノ酸配列(PRT12)に対し、ドメイン配列の最もN末端側に位置するREP及び最もC末端側に位置するREPに、システイン残基をそれぞれ1カ所挿入したものである。
配列番号4で示されるアミノ酸配列(PRT4)は、配列番号12で示されるアミノ酸配列(PRT12)に対し、ドメイン配列のN末端側及びC末端側それぞれから1番目及び2番目に位置するREP中に、それぞれ1カ所ずつシステイン残基が挿入されたものである。
配列番号5で示されるアミノ酸配列(PRT5)は、配列番号12で示されるアミノ酸配列(PRT12)に対し、ドメイン配列のN末端側及びC末端側それぞれから1〜4番目に位置するREP中に、それぞれ1カ所ずつシステイン残基が挿入されたものである。
配列番号6で示されるアミノ酸配列(PRT6)は、配列番号12で示されるアミノ酸配列(PRT12)に対し、ドメイン配列のN末端側及びC末端側それぞれから1〜8番目に位置するREP中に、それぞれ1カ所ずつシステイン残基が挿入されたものである。
配列番号7で示されるアミノ酸配列(PRT7)は、配列番号13で示されるアミノ酸配列(PRT13)に対し、ドメイン配列の最もN末端側及び最もC末端側それぞれに位置するREPに、システイン残基を1カ所ずつ挿入したものである。
配列番号8で示されるアミノ酸配列(PRT8)は、配列番号14で示されるアミノ酸配列(PRT14)に対し、ドメイン配列の最もN末端側及び最もC末端側それぞれに位置するREPに、システイン残基を1カ所ずつ挿入したものである。
配列番号9で示されるアミノ酸配列(PRT9)は、配列番号14で示されるアミノ酸配列(PRT14)に対し、ドメイン配列のN末端側及びC末端側それぞれから1〜4番目に位置するREP中に、それぞれ1カ所ずつシステイン残基が挿入されたものである。
配列番号10で示されるアミノ酸配列(PRT10)は、配列番号14で示されるアミノ酸配列(PRT14)に対し、ドメイン配列のN末端側及びC末端側それぞれから1〜8番目に位置するREP中に、それぞれ1カ所ずつシステイン残基が挿入されたものである。
(i)の改変フィブロインは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、又は配列番号6で示されるアミノ酸配列のみを有するものであってもよい。(ii)の改変フィブロインは、配列番号7、配列番号8、配列番号9、又は配列番号10で示されるアミノ酸配列のみを有するものであってもよい。
上述の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
タグ配列として、例えば、他の分子との特異的親和性(結合性、アフィニティ)を利用したアフィニティタグを挙げることができる。アフィニティタグの具体例として、ヒスチジンタグ(Hisタグ)を挙げることができる。Hisタグは、ヒスチジン残基が4から10個程度並んだ短いペプチドで、ニッケル等の金属イオンと特異的に結合する性質があるため、金属キレートクロマトグラフィー(chelating metal chromatography)による改変フィブロインの単離に利用することができる。タグ配列の具体例として、例えば、配列番号25又は配列番号26で示されるアミノ酸配列(Hisタグを含むアミノ酸配列)が挙げられる。
また、グルタチオンに特異的に結合するグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、マルトースに特異的に結合するマルトース結合タンパク質(MBP)等のタグ配列を利用することもできる。
さらに、抗原抗体反応を利用した「エピトープタグ」を利用することもできる。抗原性を示すペプチド(エピトープ)をタグ配列として付加することにより、当該エピトープに対する抗体を結合させることができる。エピトープタグとして、HA(インフルエンザウイルスのヘマグルチニンのペプチド配列)タグ、mycタグ、FLAGタグ等を挙げることができる。エピトープタグを利用することにより、高い特異性で容易に改変フィブロインを精製することができる。
さらにタグ配列を特定のプロテアーゼで切り離せるようにしたものも使用することができる。当該タグ配列を介して吸着したタンパク質をプロテアーゼ処理することにより、タグ配列を切り離した改変フィブロインを回収することもできる。
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(iii)配列番号15(PRT15)、配列番号16(PRT16)、配列番号17(PRT17)、配列番号18(PRT18)、配列番号19(PRT19)、若しくは配列番号20(PRT20)で示されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン、又は(iv)配列番号21(PRT21)、配列番号22(PRT22)、配列番号23(PRT23)、若しくは配列番号24(PRT24)で示されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
(iii)の改変フィブロインは、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、又は配列番号20で示されるアミノ酸配列のみを有するものであってもよい。
配列番号15(PRT15)、配列番号16(PRT16)、配列番号17(PRT17)、配列番号18(PRT18)、配列番号19(PRT19)、又は配列番号20(PRT20)で示されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロインのGPGXXモチーフ含有率は、それぞれ40.2%、39.9%、39.9%、39.7%、39.3%、及び38.6%であり、いずれも10%以上である。
(iv)の改変フィブロインは、配列番号21、配列番号22、配列番号23、若しくは配列番号24で示されるアミノ酸配列のみを有するものであってもよい。
配列番号21(PRT21)、配列番号22(PRT22)、配列番号23(PRT23)、又は配列番号24(PRT24)で示されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロインのGPGXXモチーフ含有率は、それぞれ39.9%、39.9%、39.3%、及び38.6%であり、いずれも10%以上である。
上述の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
〔核酸〕
一実施形態に係る核酸は、上記改変フィブロインをコードする。核酸の具体例として、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、又は配列番号10で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロイン、又はこれらのアミノ酸配列のN末端及びC末端のいずれか一方若しくは両方に配列番号25又は配列番号26で示されるアミノ酸配列(タグ配列)を結合させた改変フィブロイン等をコードする核酸が挙げられる。
一実施形態に係る核酸は、上記改変フィブロインをコードする核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ式1:[(A)モチーフ−REP]、又は式2:[(A)モチーフ−REP]−(A)モチーフで表されるドメイン配列を含む改変フィブロインをコードする核酸である。当該核酸によりコードされる改変フィブロインの上記ドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、REP中にシステイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有する。
「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。「ストリンジェントな条件」は、低ストリンジェントな条件、中ストリンジェントな条件及び高ストリンジェントな条件のいずれでもよい。低ストリンジェントな条件とは、少なくとも85%以上の同一性が配列間に存在する時のみハイブリダイゼーションが起こることを意味し、例えば、0.5%SDSを含む5×SSCを用い、42℃でハイブリダイズする条件が挙げられる。中ストリンジェントな条件とは、少なくとも90%以上の同一性が配列間に存在する時のみハイブリダイゼーションが起こることを意味し、例えば、0.5%SDSを含む5×SSCを用い、50℃でハイブリダイズする条件が挙げられる。高ストリンジェントな条件とは、少なくとも95%以上の同一性が配列間に存在する時のみハイブリダイゼーションが起こることを意味し、例えば、0.5%SDSを含む5×SSCを用い、60℃でハイブリダイズする条件が挙げられる。
〔宿主及び発現ベクター〕
一実施形態に係る発現ベクターは、上記核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する。調節配列は、宿主における組換えタンパク質の発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。
一実施形態に係る宿主は、上記発現ベクターで形質転換されたものである。宿主として、原核生物、並びに酵母、糸状真菌、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞等の真核生物のいずれも好適に用いることができる。
発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能、又は宿主の染色体中への組込みが可能で、一実施形態に係る核酸を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられる。
細菌等の原核生物を宿主として用いる場合は、一実施形態に係る発現ベクターは、原核生物中で自立複製が可能であると同時に、プロモーター、リボソーム結合配列、一実施形態に係る核酸及び転写終結配列を含むベクターであることが好ましい。プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
原核生物としては、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する微生物を挙げることができる。
エシェリヒア属に属する微生物として、例えば、エシェリヒア・コリ BL21(ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ BL21(DE3)(ライフテクノロジーズ社)、エシェリヒア・コリ BLR(DE3)(メルクミリポア社)、エシェリヒア・コリ DH1、エシェリヒア・コリ GI698、エシェリヒア・コリ HB101、エシェリヒア・コリ JM109、エシェリヒア・コリ K5(ATCC 23506)、エシェリヒア・コリ KY3276、エシェリヒア・コリ MC1000、エシェリヒア・コリ MG1655(ATCC 47076)、エシェリヒア・コリ No.49、エシェリヒア・コリ Rosetta(DE3)(ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ TB1、エシェリヒア・コリ Tuner(ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ Tuner(DE3) (ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ W1485、エシェリヒア・コリ W3110(ATCC 27325)、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli) XL1−Blue、エシェリヒア・コリ XL2−Blue等を挙げることができる。
ブレビバチルス属に属する微生物として、例えば、ブレビバチルス・アグリ、ブレビバチルス・ボルステレンシス、ブレビバチルス・セントロポラスブレビバチルス・フォルモサス、ブレビバチルス・インボカツス、ブレビバチルス・ラチロスポラス、ブレビバチルス・リムノフィルス、ブレビバチルス・パラブレビス、ブレビバチルス・レウスゼリ、ブレビバチルス・サーモルバー、ブレビバチルス・ブレビス47(FERM BP−1223)、ブレビバチルス・ブレビス47K(FERM BP−2308)、ブレビバチルス・ブレビス47−5(FERM BP−1664)、ブレビバチルス・ブレビス47−5Q(JCM8975)、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31(FERM BP−1087)、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S(FERM BP−6623)、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−OK(FERM BP−4573)、ブレビバチルス・チョウシネンシスSP3株(Takara社製)等を挙げることができる。
セラチア属に属する微生物として、例えば、セラチア・リクエファシエンス(Serratia liquefacience)ATCC14460、セラチア・エントモフィラ(Serratia entomophila)、セラチア・フィカリア(Serratia ficaria)、セラチア・フォンティコーラ(Serratia fonticola)、セラチア・グリメシ(Serratia grimesii)、セラチア・プロテアマキュランス(Serratia proteamaculans)、セラチア・オドリフェラ(Serratia odorifera)、セラチア・プリムシカ(Serratia plymuthica)、セラチア・ルビダエ(Serratia rubidaea)等を挙げることができる。
バチルス属に属する微生物として、例えば、バチルス・サチラス(Bacillus subtilis)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)等を挙げることができる。
ミクロバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム ATCC15354等を挙げることができる。
ブレビバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ブレビバクテリウム・ディバリカタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)ATCC14020、ブレビバクテリウム・フラバム(コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067)ATCC13826,ATCC14067、ブレビバクテリウム・インマリオフィラム(Brevibacterium immariophilum)ATCC14068、ブレビバクテリウム・ラクトフェルメンタム(コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869)ATCC13665,ATCC13869、ブレビバクテリウム・ロゼウムATCC13825、ブレビバクテリウム・サッカロリティカム(Brevibacterium saccharolyticum)ATCC14066、ブレビバクテリウム・チオゲニタリスATCC19240、ブレビバクテリウム・アルバムATCC15111、ブレビバクテリウム・セリヌムATCC15112等を挙げることができる。
コリネバクテリウム属に属する微生物として、例えば、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)ATCC6871,ATCC6872、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032、コリネバクテリウム・グルタミカム ATCC14067、コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム(Corynebacterium acetoacidophilum)ATCC13870、コリネバクテリウム・アセトグルタミカムATCC15806、コリネバクテリウム・アルカノリティカムATCC21511、コリネバクテリウム・カルナエATCC15991、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13020,ATCC13032,ATCC13060、コリネバクテリウム・リリウムATCC15990、コリネバクテリウム・メラセコーラATCC17965、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネスAJ12340(FERMBP−1539)、コリネバクテリウム・ハーキュリスATCC13868等を挙げることができる。
シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物として、例えば、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス・ブラシカセラム(Pseudomonas brassicacearum)、シュードモナス・フルバ(Pseudomonas fulva)、及びシュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)D−0110等を挙げることができる。
上記宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110 (1972)〕、プロトプラスト法(特開昭63−248394号公報)、又はGene,17,107(1982)やMolecular & General Genetics,168,111(1979)に記載の方法等を挙げることができる。
ブレビバチルス属に属する微生物の形質転換は、例えば、Takahashiらの方法(J.Bacteriol.,1983,156:1130−1134)や、Takagiらの方法(Agric.Biol.Chem.,1989,53:3099−3100)、又はOkamotoらの方法(Biosci.Biotechnol.Biochem.,1997,61:202−203)により実施することができる。
一実施形態に係る核酸を導入するベクター(以下、単に「ベクター」という。)としては、例えば、pBTrp2、pBTac1、pBTac2(いずれもベーリンガーマンハイム社より市販)、pKK233−2(Pharmacia社製)、pSE280(Invitrogen社製)、pGEMEX−1(Promega社製)、pQE−8(QIAGEN社製)、pKYP10(特開昭58−110600号公報)、pKYP200〔Agric.Biol.Chem.,48,669(1984)〕、pLSA1〔Agric.Biol.Chem.,53,277(1989)〕、pGEL1〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82,4306(1985)〕、pBluescript II SK(−)(Stratagene社製)、pTrs30〔Escherichiacoli JM109/pTrS30(FERM BP−5407)より調製〕、pTrs32〔Escherichia coli JM109/pTrS32(FERM BP−5408)より調製〕、pGHA2〔Escherichia coli IGHA2(FERM B−400)より調製、特開昭60−221091号公報〕、pGKA2〔Escherichia coli IGKA2(FERM BP−6798)より調製、特開昭60−221091号公報〕、pTerm2(US4686191、US4939094、US5160735)、pSupex、pUB110、pTP5、pC194、pEG400〔J.Bacteriol.,172,2392(1990)〕、pGEX(Pharmacia社製)、pETシステム(Novagen社製)等を挙げることができる。
宿主としてEscherichia coliを用いる場合は、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold等を好適なベクターとして挙げることができる。
ブレビバチルス属に属する微生物に好適なベクターの具体例として、枯草菌ベクターとして公知であるpUB110、又はpHY500(特開平2−31682号公報)、pNY700(特開平4−278091号公報)、pHY4831(J.Bacteriol.,1987,1239−1245)、pNU200(鵜高重三、日本農芸化学会誌1987,61:669−676)、pNU100(Appl.Microbiol.Biotechnol.,1989,30:75−80)、pNU211(J.Biochem.,1992,112:488−491)、pNU211R2L5(特開平7−170984号公報)、pNH301(Appl.Environ.Microbiol.,1992,58:525−531)、pNH326、pNH400(J.Bacteriol.,1995,177:745−749)、pHT210(特開平6−133782号公報)、pHT110R2L5(Appl.Microbiol.Biotechnol.,1994,42:358−363)、又は大腸菌とブレビバチルス属に属する微生物とのシャトルベクターであるpNCO2(特開2002−238569号公報)等を挙げることができる。
プロモーターとしては、宿主細胞中で機能するものであれば制限されない。例えば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター、T7プロモーター等の大腸菌又はファージ等に由来するプロモーターを挙げることができる。またPtrpを2つ直列させたプロモーター(Ptrp×2)、tacプロモーター、lacT7プロモーター、let Iプロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーター等も用いることができる。
リボソーム結合配列であるシャイン−ダルガノ(Shine−Dalgarno)配列と開始コドンとの間を適当な距離(例えば6〜18塩基)に調節したプラスミドを用いることが好ましい。発現ベクターにおいて、上記核酸の発現には転写終結配列は必ずしも必要ではないが、構造遺伝子の直下に転写終結配列を配置することが好ましい。
真核生物の宿主としては、例えば、酵母、糸状真菌(カビ等)及び昆虫細胞を挙げることができる。
酵母としては、例えば、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属、クリベロマイセス(Kluyveromyces)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、シワニオミセス(Schwanniomyces)属、ピキア(Pichia)属、キャンディダ(Candida)属、ヤロウィア属及びハンゼヌラ属等に属する酵母を挙げることができる。より具体的には、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、クリベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、クリベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、トリコスポロン・プルランス(Trichosporon pullulans)、シワニオマイセス・アルビウス(Schwanniomyces alluvius)、シワニオマイセス・オシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis)、キャンディダ・ユーティリス(Candida utilis)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)ピキア・アングスタ(Pichia angusta)、ピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ピキア・ポリモルファ(Pichia polymorpha)、ピキア・スチピチス(Pichia stipitis)、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)等を挙げることができる。
酵母を宿主細胞として用いる場合の発現ベクターは通常、複製起点(宿主における増幅が必要である場合)及び大腸菌中でのベクターの増殖のための選抜マーカー、酵母における組換えタンパク質発現のためのプロモーター及びターミネーター、並びに酵母のための選抜マーカーを含むことが好ましい。
発現ベクターが非組込みベクターの場合、さらに自己複製配列(ARS)を含むことが好ましい。これにより細胞内における発現ベクターの安定性を向上させることができる(Myers、A.M.、et al.(1986)Gene 45:299−310)。
酵母を宿主として用いる場合のベクターとしては、例えば、YEP13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)、YCp50(ATCC37419)、YIp、pHS19、pHS15、pA0804、pHIL3Ol、pHIL−S1、pPIC9K、pPICZα、pGAPZα、pPICZ B等を挙げることができる。
プロモーターとしては、酵母中で発現できるものであれば制限されない。例えば、ヘキソースキナーゼ等の解糖系の遺伝子のプロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、gal 1プロモーター、gal 10プロモーター、ヒートショックポリペプチドプロモーター、MFα1 プロモーター、CUP 1プロモーター、pGAPプロモーター、pGCW14プロモーター、AOX1プロモーター、MOXプロモーター等を挙げることができる。
酵母への発現ベクターの導入方法としては、酵母にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、エレクトロポレーション法(Methods Enzymol.,194,182(1990))、スフェロプラスト法(Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,81,4889(1984))、酢酸リチウム法(J.Bacteriol.,153,163(1983))、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,75,1929(1978)記載の方法等を挙げることができる。
糸状真菌としては、例えば、アクレモニウム(Acremonium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ウスチラーゴ(Ustilago)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、ノイロスポラ(Neurospora)属、フザリウム(Fusarium)属、フミコーラ(Humicola)属、ペニシリウム(Penicillium)属、マイセリオフトラ(Myceliophtora)属、ボトリティス(Botryts)属、マグナポルサ(Magnaporthe)属、ムコア(Mucor)属、メタリチウム(Metarhizium)属、モナスカス(Monascus)属、リゾプス(Rhizopus)属、及びリゾムコア属に属する菌等を挙げることができる。
糸状真菌の具体例として、アクレモニウム・アラバメンゼ(Acremonium alabamense)、アクレモニウム・セルロリティカス(Acremonium cellulolyticus)、アスペルギルス・アクレアツス(アキュレータス)(Aspergillus aculeatus)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・サケ(Aspergillus sake)、アスペルギルス・ゾジエ(ソーヤ)(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・テュビゲンシス(Aspergillus tubigensis)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・パラシチクス(Aspergillus parasiticus)、アスペルギルス・フィクム(フィキュウム)(Aspergillus ficuum)、アスペルギルス・フェニクス(Aspergillus phoeicus)、アスペルギルス・フォエチズス(フェチダス)(Aspergillus foetidus)、アスペルギルス・フラーブス(Aspergillus flavus)、アスペルギルス・フミガタス(Aspergillus fumigatus)、アスペルギルス・ヤポニクス(ジャポニカス)(Aspergillus japonicus)、トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)、トリコデルマ・ハージアヌム(Trichoderma harzianum)、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reseei)、クリソスポリウム・ルクノエンス(Chrysosporium lucknowense)、サーモアスクス(Thermoascus)、スポロトリクム(Sporotrichum)、スポロトリクム・セルロフィルム(Sporotrichum cellulophilum)、タラロマイセス(Talaromyces)、チエラビア・テレストリス(Thielavia terrestris)、チラビア(Thielavia)、ノイロスポラ・クラザ(Neurospora crassa)、フザリウム・オキシスポーラス(Fusarium oxysporus)、フザリウム・グラミネルム(Fusarium graminearum)、フザリウム・ベネナツム(Fusarium venenatum)、フミコーラ・インソレンス(Humicola insolens)、ペニシリウム・クリゾゲナム(Penicillium chrysogenum)、ペニシリウム・カマンベルティ(Penicillium camemberti)、ペニシリウム・カネセンス(Penicillium canescens)、ペニシリウム・エメルソニ(Penicillium emersonii)、ペニシリウム・フニクロスム(Penicillium funiculosum)、ペニシリウム・グリゼオロゼウム(Penicillium griseoroseum)、ペニシリウム・パープロゲナム(Penicillium purpurogenum)、ペニシリウム・ロケフォルチ(Penicillium roqueforti)、マイセリオフトラ・サーモフィルム(Myceliophtaora thermophilum)、ムコア・アンビグス(Mucor ambiguus)、ムコア・シイルシネロイデェス(Mucor circinelloides)、ムコア・フラギリス(Mucor fragilis)、ムコア・ヘマリス(Mucor hiemalis)、ムコア・イナエクイスポラス(Mucor inaequisporus)、ムコア・オブロンジエリプティカス(Mucor oblongiellipticus)、ムコア・ラセモサス(Mucor racemosus)、ムコア・レクルバス(Mucor recurvus)、ムコア・サトゥルニナス(Mocor saturninus)、ムコア・サブティリススミウス(Mocor subtilissmus)、オガタエア・ポリモルファ(Ogataea polymorpha)、ファネロケーテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)、リゾムコア・ミーヘイ(Rhizomucor miehei)、リゾムコア・プシルス(Rhizomucor pusillus)、リゾプス・アルヒザス(Rhizopus arrhizus)等を挙げることができる。
宿主が糸状真菌である場合のプロモーターとしては、解糖系に関する遺伝子、構成的発現に関する遺伝子、加水分解に関する酵素遺伝子等いずれであってもよく、具体的にはamyB、glaA、agdA、glaB、TEF1、xynF1tannasegene、No.8AN、gpdA、pgkA、enoA、melO、sodM、catA、catB等を挙げることができる。
糸状真菌への発現ベクターの導入は、従来公知の方法を用いて行うことができる。例えば、Cohenらの方法(塩化カルシウム法)[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,69:2110(1972)]、プロトプラスト法[Mol.Gen.Genet.,168:111(1979)]、コンピテント法[J.Mol.Biol.,56:209(1971)]、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
昆虫細胞として、例えば、鱗翅類の昆虫細胞が挙げられ、より具体的には、Sf9、及びSf21等のスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)由来の昆虫細胞、並びに、High 5等のイラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)由来の昆虫細胞等が挙げられる。
昆虫細胞を宿主として用いる場合のベクターとしては、例えば、夜盗蛾科昆虫に感染するウイルスであるアウトグラファ・カリフォルニカ・ヌクレアー・ポリヘドロシス・ウイルス(Autographa californica nuclear polyhedrosis virus)等のバキュロウイルス(Baculovirus Expression Vectors, A Laboratory Manual,W.H.Freeman and Company,New York(1992))を挙げることができる。
昆虫細胞を宿主として用いる場合には、例えばカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、Baculovirus Expression Vectors, A Laboratory Manual,W.H.Freeman and Company, New York(1992)、Bio/Technology,6,47(1988)等に記載された方法によって、ポリペプチドを発現することができる。すなわち、組換え遺伝子導入ベクター及びバキュロウイルスを昆虫細胞に共導入して昆虫細胞培養上清中に組換えウイルス(発現ベクター)を得た後、さらに組換えウイルスを昆虫細胞に感染させ、ポリペプチドを発現させることができる。該方法において用いられる遺伝子導入ベクターとしては、例えば、pVL1392、pVL1393、pBlueBacIII(ともにInvitorogen社製)等を挙げることができる。
組換えウイルスを調製するための、昆虫細胞への組換え遺伝子導入ベクターとバキュロウイルスの共導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法(特開平2−227075号公報)、リポフェクション法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84,7413(1987))等を挙げることができる。
一実施形態に係る組換えベクターは、形質転換体選択のための選択マーカー遺伝子をさらに含有していることが好ましい。例えば、大腸菌においては、選択マーカー遺伝子としては、テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン等の各種薬剤に対する耐性遺伝子を用いることができる。栄養要求性に関与する遺伝子変異を相補できる劣性の選択マーカーも使用できる。酵母においては、選択マーカー遺伝子として、ジェネティシンに対する耐性遺伝子を用いることができ、栄養要求性に関与する遺伝子変異を相補する遺伝子、LEU2、URA3、TRP1、HIS3等の選択マーカーも使用できる。糸状真菌においては、選択マーカー遺伝子として、niaD(Biosci.Biotechnol.Biochem.,59,1795−1797(1995))、argB(Enzyme Microbiol Technol,6,386−389,(1984)),sC(Gene,84,329−334,(1989))、ptrA(BiosciBiotechnol Biochem,64,1416−1421,(2000))、pyrG(BiochemBiophys Res Commun,112,284−289,(1983)),amdS(Gene,26,205−221,(1983))、オーレオバシジン耐性遺伝子(Mol Gen Genet,261,290−296,(1999))、ベノミル耐性遺伝子(Proc Natl Acad Sci USA,83,4869−4873,(1986))及びハイグロマイシン耐性遺伝子(Gene,57,21−26,(1987))からなる群より選ばれるマーカー遺伝子、ロイシン要求性相補遺伝子等が挙げられる。また、宿主が栄養要求性変異株の場合には、選択マーカー遺伝子として当該栄養要求性を相補する野生型遺伝子を用いることもできる。
一実施形態に係る発現ベクターで形質転換された宿主の選択は、上記核酸に選択的に結合するプローブを用いたプラークハイブリダイゼーション及びコロニーハイブリダイゼーション等で行うことができる。当該プローブとしては、上記核酸の配列情報に基づき、PCR法によって増幅した部分DNA断片をラジオアイソトープ又はジゴキシゲニンで修飾したものを用いることができる。
〔改変フィブロインの製造方法〕
本実施形態に係る改変フィブロインは、上記発現ベクターで形質転換された宿主により、上記核酸を発現させる工程を含む方法により、製造することができる。発現方法としては、直接発現のほか、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。酵母、動物細胞、昆虫細胞により発現させた場合には、糖又は糖鎖が付加されたポリペプチドとして改変フィブロインを得ることができる。
本実施形態に係る改変フィブロインは、例えば、上記発現ベクターで形質転換された宿主を培養培地中で培養し、培養培地中に本実施形態に係る改変フィブロインを生成蓄積させ、該培養培地から採取することにより製造することができる。上記宿主を培養培地中で培養する方法は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行うことができる。
上記宿主が、大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物である場合、上記宿主の培養培地として、該宿主が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有し、該宿主の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
炭素源としては、該宿主が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、及びこれらを含有する糖蜜、デンプン及びデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類を用いることができる。
窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物を用いることができる。
無機塩としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウムを用いることができる。
大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物の培養は、例えば、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことができる。培養温度は、例えば、15〜40℃である。培養時間は、通常16時間〜7日間である。培養中の培養培地のpHは3.0〜9.0に保持することが好ましい。培養培地のpHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム及びアンモニア等を用いて行うことができる。
また、培養中必要に応じて、アンピシリン及びテトラサイクリン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
昆虫細胞の培養培地としては、一般に使用されているTNM−FH培地(Pharmingen社製)、Sf−900 II SFM培地(Life Technologies社製)、ExCell400、ExCell405(いずれもJRH Biosciences社製)、Grace’s Insect Medium(Nature,195,788(1962))等を用いることができる。
昆虫細胞の培養は、例えば、培養培地のpH6〜7、培養温度25〜30℃等の条件下で、培養時間1〜5日間とすることができる。また、培養中必要に応じて、ゲンタマイシン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。
宿主が植物細胞の場合、形質転換された植物細胞をそのまま培養してもよく、また植物の器官に分化させて培養することができる。該植物細胞を培養する培地としては、一般に使用されているムラシゲ・アンド・スクーグ(MS)培地、ホワイト(White)培地、又はこれらの培地にオーキシン、サイトカイニン等、植物ホルモンを添加した培地等を用いることができる。
動物細胞の培養は、例えば、培養培地のpH5〜9、培養温度20〜40℃等の条件下で、培養時間3〜60日間とすることができる。また、培養中必要に応じて、カナマイシン、ハイグロマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
上記発現ベクターで形質転換された宿主を用いて改変フィブロインを生産する方法としては、該改変フィブロインを宿主細胞内に生産させる方法、宿主細胞外に分泌させる方法、及び宿主細胞外膜上に生産させる方法がある。使用する宿主細胞、及び生産させる改変フィブロインの構造を変えることにより、これらの各方法を選択することができる。
例えば、改変フィブロインが宿主細胞内又は宿主細胞外膜上に生産される場合、ポールソンらの方法(J.Biol.Chem.,264,17619(1989))、ロウらの方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86,8227(1989)、Genes Develop.,4,1288(1990))、又は特開平5−336963号公報、国際公開第94/23021号等に記載の方法を準用することにより、改変フィブロインを宿主細胞外に積極的に分泌させるように変更させることができる。すなわち、遺伝子組換えの手法を用いて、改変フィブロインの活性部位を含むポリペプチドにシグナルペプチドを付加した形で発現させることにより、改変フィブロインを宿主細胞外に積極的に分泌させることができる。
上記発現ベクターで形質転換された宿主により生産された改変フィブロインは、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法で単離及び精製することができる。例えば、改変フィブロインが、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、宿主細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液にけん濁した後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー及びダイノミル等により宿主細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−セファロース、DIAION HPA−75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用し、精製標品を得ることができる。
上記クロマトグラフィーとしては、フェニル−トヨパール(東ソー)、DEAE−トヨパール(東ソー)、セファデックスG−150(ファルマシアバイオテク)を用いたカラムクロマトグラフィーが好ましく用いられる。
また、改変フィブロインが細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に宿主細胞を回収後、破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分として改変フィブロインの不溶体を回収する。回収した改変フィブロインの不溶体は蛋白質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の単離精製法により改変フィブロインの精製標品を得ることができる。
改変フィブロイン、又は改変フィブロインに糖鎖の付加された誘導体が細胞外に分泌された場合には、培養上清から改変フィブロイン又はその誘導体を回収することができる。すなわち、培養物を遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、該培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
(ドープ液)
ドープ液は、改変フィブロインと、溶媒とを少なくとも含む。ドープ液は、更に溶解促進剤を含むものであってもよい。本実施形態に係るドープ液はまた、更に改変フィブロイン以外のタンパク質を含むものであってもよい。
溶媒としては、例えば、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、ヘキサフルオロアセトン(HFA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ギ酸、並びに尿素、グアニジン、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、臭化リチウム、塩化カルシウム及びチオシアン酸リチウム等を含む水溶液等を挙げることができる。これらの溶媒は、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
ドープ液における改変フィブロインの含有量は、ドープ液の全質量を基準として、15質量%以上、30質量%以上、40質量%以上又は50質量%以上であってよい。改変フィブロインの含有量は、ドープ液の製造効率の観点から、ドープ液の全質量を基準として、70質量%以下、65質量%以下、又は60質量%以下であってよい。
溶解促進剤としては、例えば、以下に示すルイス酸とルイス塩基とからなる無機塩が挙げられる。ルイス塩基としては、例えば、オキソ酸イオン(硝酸イオン、過塩素酸イオン等)、金属オキソ酸イオン(過マンガン酸イオン等)、ハロゲン化物イオン、チオシアン酸イオン、シアン酸イオン等が挙げられる。ルイス酸としては、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等の金属イオン、アンモニウムイオン等の多原子イオン、錯イオン等が挙げられる。ルイス酸とルイス塩基とからなる無機塩の具体例としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、硝酸リチウム、過塩素酸リチウム、及びチオシアン酸リチウム等のリチウム塩、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、硝酸カルシウム、過塩素酸カルシウム、及びチオシアン酸カルシウム等のカルシウム塩、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、硝酸鉄、過塩素酸鉄、及びチオシアン酸鉄等の鉄塩、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、硝酸アルミニウム、過塩素酸アルミニウム、及びチオシアン酸アルミニウム等のアルミニウム塩、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、硝酸カリウム、過塩素酸カリウム、及びチオシアン酸カリウム等のカリウム塩、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硝酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、及びチオシアン酸ナトリウム等のナトリウム塩、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、硝酸亜鉛、過塩素酸亜鉛、及びチオシアン酸亜鉛等の亜鉛塩、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、硝酸マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、及びチオシアン酸マグネシウム等のマグネシウム塩、塩化バリウム、臭化バリウム、ヨウ化バリウム、硝酸バリウム、過塩素酸バリウム、及びチオシアン酸バリウム等のバリウム塩、並びに塩化ストロンチウム、臭化ストロンチウム、ヨウ化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、過塩素酸ストロンチウム、及びチオシアン酸ストロンチウム等のストロンチウム塩が挙げられる。
溶解促進剤の含有量は、改変フィブロインの全量100質量部に対して、1.0質量部以上、5.0質量部以上、9.0質量部以上、15質量部以上又は20.0質量部以上であってよい。溶解促進剤の含有量は、改変フィブロインの全量100質量部に対して、40質量部以下、35質量部以下又は30質量部以下であってよい。
本実施形態に係るドープ液の製造時に、30〜90℃に加温してもよい。使用する溶媒、改変フィブロインの種類等に応じて溶解可能な温度を適時設定すればよい。溶解を促進するために振盪、撹拌してもよい。
ドープ液の粘度は、ドープ液の用途等に応じて適宜設定してよい。例えば、本実施形態に係るドープ液を紡糸原液として使用する場合、その粘度は、紡糸方法に応じて適宜設定してよく、例えば、25℃において、3000〜50000cPであってよく、5000〜50000cPであってよく、7000〜40000cPであってよく、8000〜30000cPであってよく、9000〜20000cPであってよく、10000〜15000cP等であってよい。ドープ液の粘度は、例えば京都電子工業社製の商品名「EMS粘度計」を使用して測定することができる。
(原繊維)
本明細書において、「原繊維」とは、ドープ液(紡糸原液)から、溶媒の蒸発(気化)等により形成された繊維状の固体のことをいう。ドープ液から形成させた原繊維を、そのまま改変フィブロイン繊維として任意の用途に用いてもよいし、後述する延伸等の加工を原繊維に対して施したものを改変フィブロイン繊維としてもよい。
(乾式紡糸法)
乾式紡糸法は、ドープ液中の溶媒を蒸発(気化)させることによって紡糸(原繊維を形成)する方法である。溶媒を蒸発させる方法として、熱風乾燥、加熱乾燥、送風乾燥、自然乾燥等の公知の乾式紡糸法に用いられる乾燥方法を挙げることができる。
原繊維を形成させる工程では、空気等の気体中にドープ液を吐出させることを含んでいてよく、また、空気等の気体中に原繊維を引き出すことを含んでいてよく、空気等の気体中にドープ液を吐出させること及び空気等の気体中に原繊維を引き出すことの両方を含んでいてもよい。
(ドープ液からの原繊維の引き出し)
本明細書において、「原繊維を引き出す」とは、ドープ液の液体表面に対して、針等の器具の先の尖った先端を接触させ、該器具をドープ液との接触点(気体/ドープ液の界面)から離れる方向に引き抜くことにより、ドープ液と器具の先端との接触点から液体が、器具の先端に付着したまま、繊維状に伸びて引き出されることを意味する。繊維状に引き出された液体が固体に変化し、この繊維状の固体が原繊維となる。
分散液と接触させる器具としては、分散液との接触点を小さく形成させるために先端が尖っているものが好ましく、例えば、針、ピペットチップ、ピンセット、串、楊枝、細い棒等を挙げられるが、これらに限定されない。また、器具の材質として、プラスチック、金属、ガラス、木等が挙げられるが、これらに限定されない。
器具を分散液との接触点から離れる方向に引き抜く速度を、ドープ液の粘度によって調整することが好ましい。また、引き抜く速度を一定とすることが好ましい。引き抜く速度を一定とすることで、繊維のよれ、たるみ又は切れ等を防止し、また、繊維径のばらつきを抑えることができる。引き抜く速度として、例えば、0.1cm/秒以上、0.1cm/秒〜15m/秒、1cm/秒〜5m/秒、3cm/秒〜1m/秒、5cm/秒〜50cm/秒、5cm/秒〜35cm/秒が挙げられる。
ドープ液に器具の先端を接着させて器具を引き抜いた直後には、原繊維の先端と器具の先端とは接着しているが、原繊維がいったん引き出された後には、器具の先端と原繊維の先端とが接着していなくともよい。例えば、原繊維の長さが5cm以上形成された後には、該原繊維を引っ張り続けることにより、器具の先端と原繊維の先端とが接着していなくとも、ドープ液から原繊維が引き出され続ける。繊維径を一定させるためには、好ましくは器具を引き抜く速度と同じ速度で、原繊維を引っ張り続けることが好ましい。
(ドープ液の吐出)
本明細書において「ドープ液を吐出させる」とは、ドープ液に対して圧力を加えて又は加えないで、ノズルからドープ液を空気等の気体中に吐出させることを意味する。ノズルを通って吐出されたドープ液が溶媒の蒸発(気化)、化学反応等によって固体となることにより、原繊維が形成される。
ノズルからドープ液を吐出する方法に特に制限はないが、例えば、ドープ液の送液手段として定量ポンプを用いる方法を使用することができる。吐出量は生産速度に応じて適宜調整することができる。
分散液を吐出させるノズルとして、紡糸口金を用いてもよい。紡糸口金の口金形状、ホール形状、ホール数などは特に限定されるものではなく、所望の繊維径及び単糸本数等に応じて適宜選択できる。
紡糸口金のホール形状が円形である場合は、紡糸口金の孔径として0.01mm以上0.6mm以下を例示できる。孔径が0.01mm以上であると、圧力損失を低減することができ設備費用を抑えることができる。孔径が0.6mm以下であると、繊維径を細くするための延伸操作の必要性を低減することができ、吐出から巻き取りまでの間で延伸切れを起こす可能性を低減することができる。
紡糸口金を通過する際の分散液の温度、及び紡糸口金の温度は、特に限定されるものではなく、用いる分散液の濃度及び粘度、分散液に含まれる極性溶媒の種類等により適宜調整すればよい。当該温度は、改変フィブロインの劣化等を防止するという観点から、30℃〜100℃が好ましい。また、当該温度は、溶媒の揮発による圧力上昇、分散液の固形化による配管内の閉塞が発生する可能性を低減するという観点から、用いる溶媒の沸点に満たない温度を上限とすることが好ましい。これにより工程安定性が向上する。
なお、本実施形態においては、ドープ液を吐出させることと原繊維を引き出すことのどちらか一方をおこなって原繊維を形成してもよく、両方をおこなってもよい。ドープ液を吐出させること及び原繊維を引き出すことの両方をおこなう場合には、例えば、ドープ液をノズルから吐出させ、吐出されたドープ液に対して器具の先端を接触させ、該器具を分散液から離れる方向に引き抜き、接触点から原繊維を引き出すことによって、原繊維を形成させることができる。
(巻き取り)
乾式紡糸法によって形成された原繊維は、ワインダー等の巻き取り装置で巻き取ってもよい。巻き取り装置を用いることで、繊維を連続的に製造できる。また、原繊維を引き出した後、巻き取り装置で原繊維を巻き取ることで、原繊維を引き出し続けることができる。巻き取り装置として、ワインダーを用いてもよい。ワインダーでは、適宜張力及び接圧等の巻き取り条件を調整して巻き取ることができる。ワインダーとしては、公知のワインダーを用いてもよい。ワインダーを用いることで、原繊維の繊維径をコントロールできる。具体的には、巻き取り速度を速くすることでより細い繊維を製造することができ、巻き取り速度を遅くすることでより太い繊維を製造することができる。
〔延伸工程〕
改変フィブロイン繊維の製造方法は、形成させた原繊維を延伸する工程(延伸工程)を更に含んでいてよい。任意の延伸倍率に原繊維を延伸し、延伸して完成された繊維を本実施形態の改変フィブロイン繊維として任意の用途に用いることができる。延伸方法としては、湿式延伸、乾式延伸等をあげることができる。改変フィブロイン繊維の製造方法が、延伸工程を更に含む場合、より一層応力の高い改変フィブロイン繊維の製造が可能となる。
湿式延伸は、水性媒体中、又はスチーム加熱中で行うことができる。水性媒体は、水であってもよく、水に有機溶剤等を加えた溶液であってもよい。水性媒体中で湿式延伸を行う場合、湿式延伸は、加熱した水性媒体中で実施してもよい。加熱した水性媒体中で湿式延伸を行う場合(すなわち、湿熱延伸を行う場合)、水性媒体の温度は、の温度は50〜90℃であることが好ましく、75〜85℃がより好ましい。水性媒体の温度が50℃以上であると、繊維中の細孔径を小さく安定させることができる。水性媒体の温度が90℃以下であると、温度設定が容易であり紡糸安定性が向上する。
湿式延伸における延伸倍率は、未延伸糸(又は前延伸糸)に対して、例えば、1〜30倍であってよく、1〜25倍であってよく、1〜20倍であってよく、1〜15倍であってよく、1〜10倍であってよく、2〜10倍であってよく、2〜8倍であってよく、2〜6倍であってよく、2〜4倍であってよく、2〜3倍であってよい。
乾式延伸は、接触型の熱板、及び非接触型の炉等の熱源を備えた装置を用いて繊維を加熱した状態で、空気中で延伸することにより行うことができるが、装置は特に限定されるものではなく、繊維を所定の温度まで昇温させ、かつ所定の倍率で延伸が可能な装置であればよい。加熱した状態で乾式延伸を行う温度(乾熱延伸を行う温度)としては、例えば、100℃〜270℃であってよく、140℃〜230℃であってよく、140℃〜200℃であってよく、160℃〜200℃であってよく、160℃〜180℃であってよい。
乾式延伸工程における延伸倍率は、未延伸糸(又は前延伸糸)に対して、例えば、1〜30倍であってよく、1〜25倍であってよく、1〜20倍であってよく、1〜15倍であってよく、1〜10倍であってよく、2〜10倍であってよく、2〜8倍であってよく、2〜6倍であってよく、2〜4倍であってよく、2〜3倍であってよい。
延伸工程は、湿式延伸及び乾式延伸を、それぞれ単独で行うものであってもよく、またこれらを多段で、又は組み合わせて行うものであってもよい。すなわち、延伸工程として、一段目延伸を湿式延伸で行い、二段目延伸を乾式延伸で行う、又は一段目延伸を湿式延伸で行い、二段目延伸を湿式延伸で行い、更に三段目延伸を乾式延伸で行う等、湿式延伸及び乾式延伸を適宜組み合わせて行うことができる。
延伸工程を経た繊維の最終的な延伸倍率の下限値は、未延伸糸(又は前延伸糸)に対して、例えば、1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、又は9倍のうちの何れかであってよい。延伸工程を経た繊維の最終的な延伸倍率の上限値は、例えば、40倍、30倍、20倍、15倍、14倍、13倍、12倍、11倍、又は10倍のうちの何れかであってよい。また、例えば、最終的な延伸倍率は3〜40倍であってよく、3〜30倍であってよく、5〜30倍であってよく、5〜20倍であってよく、5〜15倍であってよく、5〜13倍であってよい。ただし、延伸倍率は、所望する繊維の太さ、機械物性などの特性が得られる範囲であれば限定されるものではない。
延伸工程の前又は後に、必要に応じて、繊維に対して、帯電抑制性、収束性及び潤滑性等を付与する目的で油剤を付与してもよい。付与する油剤の種類及び付与する量等は、特に限定されるものではなく、繊維を使用する用途、繊維の取扱い性等を考慮し適宜調整することができる。
〔タンパク質溶液〕
本実施形態に係るタンパク質溶液は、改変フィブロイン及び溶媒を含む。改変フィブロインは、式1:[(A)モチーフ−REP]、又は式2:[(A)モチーフ−REP]−(A)モチーフで表されるドメイン配列を含み、ドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、REP中にシステイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有する。改変フィブロインは、上述のとおりであってよい。溶媒は、ドープ液における溶媒として例示したものであってよい。なお、本実施形態に係るタンパク質溶液は、不可避的な含有成分、例えば、タンパク質に含まれている夾雑物等を含むものであってもよい。
本実施形態に係るタンパク質溶液は、改変フィブロインを溶媒に溶解させることで得ることができる。改変フィブロインを溶解させる方法は、特に制限されないが、例えば、改変フィブロインを発現している宿主、又は改変フィブロインそのものに溶媒を加える方法が挙げられる。当該方法は、必要に応じて、不溶物を分離することを含んでもよい。不溶物の分離は、沈降物(凝集物)を分離できればよく、特に限定されない。不溶物の分離は、取扱いの簡便性から、濾過による分離及び/又は遠心分離により行うことが好ましい。濾過による分離は、例えば、ろ紙、ろ過膜等を用いて行うことができる。遠心分離の条件は、特に限定されない。例えば、室温(20±5℃)、8000×g〜15000×gで5〜20分間行うことができる。不溶物の分離は2回以上行ってもよい。
本実施形態に係るタンパク質溶液は、例えば、ドープ液として用いることができる。本実施形態に係るドープ液は、乾式紡糸に好適に用いることができる。本実施形態に係るドープ液は、例えば、タンパク質溶液の粘度を、紡糸できる粘度に調整して製造される。ドープ液の粘度は、生産性の観点から、25℃において、3000〜50000cPであってよく、5000〜50000cPであってよく、7000〜40000cPであってよく、8000〜30000cPであってよく、9000〜20000cPであってよく、10000〜15000cP等であってよい。ドープ液の粘度は、例えば京都電子工業社製の商品名「EMS粘度計」を使用して測定することができる。
〔製品〕
改変フィブロイン繊維は、繊維(長繊維、短繊維、マルチフィラメント、又はモノフィラメント等)又は糸(紡績糸、撚糸、仮撚糸、加工糸、混繊糸、混紡糸等)として、織物、編物、組み物、不織布等に応用できる。また、ロープ、手術用縫合糸、電気部品用の可撓性止め具、さらには移植用生理活性材料(例えば、人工靭帯及び大動脈バンド)等の高強度用途にも応用できる。
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
〔改変フィブロインの製造〕
(1)発現ベクターの作製
配列番号17、配列番号18、配列番号19及び配列番号20で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(それぞれ、PRT17、PRT18、PRT19、PRT20)を設計した。
配列番号17で示されるアミノ酸配列(PRT17)は、配列番号27で示されるアミノ酸配列(PRT27)に対し、ドメイン配列の最もN末端側に位置するREP及び最もC末端側に位置するREPに、システイン残基をそれぞれ1カ所挿入したものである。配列番号17で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロインのシステイン残基の総数は2である。
配列番号18で示されるアミノ酸配列(PRT18)は、配列番号27で示されるアミノ酸配列(PRT27)に対し、ドメイン配列のN末端側及びC末端側それぞれから1〜2番目に位置するREP中に、それぞれ1カ所ずつシステイン残基が挿入されたものである。配列番号18で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロインのシステイン残基の総数は4である。
配列番号19で示されるアミノ酸配列(PRT19)は、配列番号27で示されるアミノ酸配列(PRT27)に対し、ドメイン配列のN末端側及びC末端側それぞれから1〜4番目に位置するREP中に、それぞれ1カ所ずつシステイン残基が挿入されたものである。配列番号19で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロインのシステイン残基の総数は8である。
配列番号20で示されるアミノ酸配列(PRT20)は、配列番号27で示されるアミノ酸配列(PRT27)に対し、ドメイン配列のN末端側及びC末端側それぞれから1〜8番目に位置するREP中に、それぞれ1カ所ずつシステイン残基が挿入されたものである。配列番号20で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロインのシステイン残基の総数は16である。
配列番号17、配列番号18、配列番号19及び配列番号20並びに配列番号27で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロインをコードする核酸を合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト、終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。この核酸をクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、タンパク質発現ベクターpET−22b(+)に組換えて発現ベクターを得た。
(2)タンパク質の製造
得られた発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換した。当該形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液を、アンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表1)にOD600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
Figure 2020120642
当該シード培養液を500mLの生産培地(表2)を添加したジャーファーメンターにOD600が0.05となるように添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにした。
Figure 2020120642
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、Yeast Extract 120g/1L)を1mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにし、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、改変フィブロインを発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS−PAGEを行い、IPTG添加に依存した目的とする改変フィブロインサイズのバンドの出現により、目的とする改変フィブロインの発現を確認した。
(3)タンパク質の精製
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20mM Tris−HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mM Tris−HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社製)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mM Tris−HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8M グアニジン塩酸塩、10mM リン酸二水素ナトリウム、20mM NaCl、1mM Tris−HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質を遠心分離により回収し、凍結乾燥機で水分を除き、凍結乾燥粉末を回収することにより、粉末状の改変フィブロイン(PRT17、PRT18、PRT19、PRT20、PRT27)を得た。システイン残基を挿入した改変フィブロインについて、分子間でジスルフィド結合が形成されていることを確認した。改変フィブロインに、単量体100質量部に対して、二量体が13.8質量部、三量体が2.1質量部、四量体が0.8質量部含まれていることを確認した。ジスルフィド結合の形成は、SDS−PAGEにより、測定した。
(4)タンパク質溶液の調製
PRT17をギ酸、又は塩化リチウムを4質量%含むジメチルスルホキシド溶液に添加して、タンパク質溶液を調製した。改変フィブロインの添加量は、タンパク質溶液全量に対して26質量%とした。PRT17は、室温(25℃)において、ギ酸及び塩化リチウムを4質量%含むジメチルスルホキシド溶液に容易に溶解可能であった。
PRT19をギ酸に添加して、タンパク質溶液を調製した。改変フィブロインの添加量は、タンパク質溶液全量に対して18質量%とした。PRT19は、室温(25℃)において、ギ酸に溶解可能であった。
PRT17、又はPRT27をギ酸に添加して、それぞれ実施例1及び比較例1のタンパク質溶液を調製した。改変フィブロインの添加量(含有量)は、タンパク質溶液全量に対して34質量%とした。得られたタンパク質溶液の粘度を京都電子工業社製の商品名「EMS粘度計」を使用して測定した。その結果、実施例1のタンパク質(PRT17)溶液の粘度は、25℃において、13,000cPであり、比較例1のタンパク質溶液の粘度は、25℃において、7950cPであった。
〔繊維の製造及び評価〕
(1)ドープ液(紡糸原液)の調製
PRT18をギ酸に溶解して、ドープ液1を調製した。PRT27をギ酸に溶解して、ドープ液2を調製した。ドープ液1〜2において、改変フィブロインの添加量(含有量)は、ドープ液全量に対して24質量%とした。
(2)乾式紡糸
乾式紡糸を、ホットローラー及びワインダー等を備える紡糸装置を使用して室温で行なった。窒素ガスを用いて、0.2mm径のモノホールノズルからドープ液1を空気中に吐出させた。ノズル先端に液滴が形成されたところで、液滴の端に針の先端を接触させて、ドープ液を繊維状に引き出した。引き出した繊維をワインダーで巻き取ることで、5倍のドラフトをかけながら連続的に繊維を形成させ、改変フィブロイン繊維(実施例1)を得た。ホットローラーは、100℃に設定した。ワインダーの巻き取り速度は20〜40m/分、ホットローラーの速度は10〜20m/分とした。
ドープ液1を用いた場合、上述した手順による乾式紡糸が可能であった。しかしながら、ドープ液2を用いた場合、糸切れが生じて、乾式紡糸が不可能であった。
(3)乾湿式紡糸
ドープ液1から、乾湿式紡糸法によって、比較用の改変フィブロイン繊維(比較例1)を作製した。乾式紡糸と延伸の条件を合わせるため、比較用の改変フィブロイン繊維の作製において、紡糸時に5倍の条件で、延伸を行った。
(4)応力評価
応力は、改変フィブロイン繊維の機械的強度を次の方法で測定することによって評価した。機械的強度は、改変フィブロイン繊維を20℃、相対湿度65%の恒温恒湿槽(エスペック製LHL−113型)中に24時間静置後、Textechno社製のFavimatを用いて測定した。
Figure 2020120642
システイン残基を4カ所挿入した改変フィブロインは、乾式紡糸法に適用可能であった。したがって、当該改変フィブロインを用いることにより、改変フィブロイン繊維を容易に製造することができることが示された。更に、システイン残基を4カ所挿入した改変フィブロインを含むドープ液から、乾式紡糸法によって形成させた改変フィブロイン繊維は、乾湿式紡糸法によって得られる改変フィブロイン繊維と同等の応力を有していた。よって、本発明に係る方法を用いれば、乾湿式紡糸法によって得られる改変フィブロイン繊維と同等の応力を有する改変フィブロイン繊維を容易に製造することが可能になることが示された。
(5)水中での延伸による効果
実施例1の改変フィブロイン繊維(原繊維)を、延伸倍率が2倍、又は3倍の条件で、水中で延伸させた。延伸前及び延伸後の改変フィブロイン繊維の応力を(4)応力評価で述べた方法と同様の方法で測定した。結果を表4に示す。
Figure 2020120642
原繊維に対し、水中延伸を実施することにより、応力が向上することが示された。

Claims (11)

  1. 改変フィブロイン及び溶媒を含むドープ液から乾式紡糸法によって原繊維を形成させる工程を備える、改変フィブロイン繊維の製造方法であって、
    前記改変フィブロインが、式1:[(A)モチーフ−REP]、又は式2:[(A)モチーフ−REP]−(A)モチーフで表されるドメイン配列を含み、
    前記ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中にシステイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有する、改変フィブロイン繊維の製造方法。
    [式1及び式2中、(A)モチーフは4〜27アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が80%以上である。REPは10〜200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは10〜300の整数を示す。複数存在する(A)モチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
  2. 前記ドメイン配列が、REP中にGPGXX(但し、Xはグリシン残基以外のアミノ酸残基を示す。)モチーフを含み、GPGXXモチーフ含有率が10%以上である、請求項1に記載の改変フィブロイン繊維の製造方法。
  3. 前記ドメイン配列が、REP中にグリシン残基、セリン残基、又はアラニン残基を含み、かつ、REP中の前記グリシン残基、前記セリン残基、又は前記アラニン残基と隣り合う位置に、前記システイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有する、請求項1又は2に記載の改変フィブロイン繊維の製造方法。
  4. 前記ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、前記ドメイン配列のN末端及び/又はC末端の近傍に位置するREP中に、前記システイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の改変フィブロイン繊維の製造方法。
  5. 前記ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、前記REP中のアミノ酸配列の中央又は中央近傍に、前記システイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の改変フィブロイン繊維の製造方法。
  6. 前記ドメイン配列が、REP中に疎水性アミノ酸残基を含み、かつ、REP中の前記疎水性アミノ酸残基と隣り合う位置に、前記システイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の改変フィブロイン繊維の製造方法。
  7. 前記ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中に1以上16未満のシステイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の改変フィブロイン繊維の製造方法。
  8. 前記天然由来のフィブロインが、昆虫又はクモ類由来のフィブロインである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の改変フィブロイン繊維の製造方法。
  9. 前記天然由来のフィブロインが、クモ類の大瓶状スパイダータンパク質(MaSp)又は小瓶状スパイダータンパク質(MiSp)である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の改変フィブロイン繊維の製造方法。
  10. 前記改変フィブロインが、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の改変フィブロイン繊維の製造方法。
  11. 改変フィブロイン及び溶媒を含む、タンパク質溶液であって、
    前記改変フィブロインが、式1:[(A)モチーフ−REP]、又は式2:[(A)モチーフ−REP]−(A)モチーフで表されるドメイン配列を含み、
    前記ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中にシステイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有する、タンパク質溶液。
    [式1及び式2中、(A)モチーフは4〜27アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が80%以上である。REPは10〜200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは10〜300の整数を示す。複数存在する(A)モチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
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