以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係るレーザ加工装置1について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
図1は、本実施形態に係るレーザ加工装置1を示す概略構成図である。図1には、理解の容易のため、XYZ直交座標系が示されている。レーザ加工装置1は、レーザ光Lを被加工物2の表面2aに照射することで表面2aにプラズマを生成し、プラズマ圧力によって生じた衝撃波で表面2aを塑性変形させる装置である。被加工物2は、例えば、自動車又は航空機等の輸送機器に用いられる部品であり、例えば銅、アルミニウム、鋼板、チタン、又はそれらの合金といった金属材料によって構成されている。被加工物2の表面2aには、例えば研磨等の表面加工が施されている。この表面加工によって表面2aは平滑化されている。以下の説明において、X方向及びY方向のそれぞれは、表面2aに沿った方向を示しており、Z方向は、表面2aの法線方向を示している。
図1に示されるように、レーザ加工装置1は、レーザ光Lを出射する光源10と、被加工物2の表面2a上に配置された容器20とを備えている。光源10は、例えばフェムト秒レーザ光源であり、レーザ光LをY方向に出射する。レーザ光Lのピーク強度は、被加工物2の表面2a(集光後)において例えば1.0×1014W/cm2以上且つ1.0×1015W/cm2以下の範囲内に設定される。レーザ光Lのパルス幅及び繰り返し周波数は、ピーク強度の上記の範囲内において表面2aの粗さを増大させない程度に設定される。レーザ光Lのパルス幅は、例えば200fs以下である。光源10は、容器20の外部に配置されており、一例では、Y方向において容器20に対向している。光源10から出射されたレーザ光Lは、容器20を介して被加工物2の表面2aに照射される。なお、光源10は、フェムト秒レーザ光源に限られず、他の光源であってもよい。例えば、光源10は、ナノ秒レーザ光源又はピコ秒レーザ光源であってもよい。
容器20は、表面2aの一部を気密に保持する中空容器であり、例えば銅、アルミニウム、又は鋼板等の金属材料を含んで構成されている。容器20は、Z方向における一方側、すなわち表面2a側が開口した中空の直方体状を呈しており、Z方向から見た容器20は、長手方向であるY方向、及び短手方向であるX方向の双方に延びる矩形状を呈している。容器20のY方向における長さd1は例えば500mmであり、容器20のX方向における幅d2は例えば300mmであり、容器20のZ方向における高さd3は例えば150mmである。容器20のZ方向における高さd3は、Y方向における長さd1及びX方向における幅d2よりも小さい。容器20は、X方向及びY方向において表面2aに対して摺動することで、表面2aに対して相対移動可能に配置されている。
図2は、レーザ光Lの光軸を含むYZ平面でレーザ加工装置1を切断したときのレーザ加工装置1を示す概略断面図である。なお、図2では、光源10を省略して示している。図1及び図2に示されるように、容器20は、Z方向における両端のそれぞれに開口21a及び21bが設けられた矩形筒状の本体部21と、開口21aを塞ぐ矩形板状の蓋部25とを有している。開口21bは、本体部21のZ方向における表面2a側に設けられており、開口21aは、開口21bとは反対側に設けられている。本体部21は、開口21a及び21bを構成する4つの側壁部22を含んでいる。各側壁部22は、XZ平面又はYZ平面に沿って延在する矩形板状を呈しており、Z方向において表面2aと蓋部25との間に配置されている。各側壁部22は、本体部21の内側を向く内面22aを含んでいる。内面22aは、開口21aから開口21bまでZ方向に沿って延在している。4つの側壁部22のうちの1つである側壁部22Aは、本体部21のY方向における光源10側に配置されており、XZ平面に沿って延在している。側壁部22Aは、Y方向において光源10と対向している。
側壁部22Aは、レーザ光Lを透過する光学窓23を含んでいる。光学窓23は、例えば石英ガラス等のガラス材料によって構成されている。光学窓23は、光源10と表面2aとの間のレーザ光Lの光路上に配置されている。具体的には、光学窓23は、側壁部22Aの開口21a寄りの部分に形成された開口に嵌め込まれている。光学窓23の光入射面及び光出射面は、XZ平面に沿って延在しており、Y方向から見て例えば円形状を呈している。Y方向から見た光学窓23の面積は、光学窓23を透過する際のレーザ光Lの光路面積よりも大きい。光学窓23には、光源10から出射されたレーザ光LがY方向に入射する。
各側壁部22のZ方向における表面2a側の端面22cには、本体部21の開口21bを包囲するように延在する環状の溝22dが設けられている。溝22dの延在方向に直交する断面において、溝22dは例えば矩形状を呈している。溝22d内には、容器20の内部空間Vを気密に封止するための封止部材30が配置されている。封止部材30は、溝22dに沿って延在する環状の部材であり、例えばゴム等の弾性体によって構成されている。封止部材30の延在方向に直交する断面において、封止部材30は例えば円形状を呈している。
封止部材30の延在方向に直交する断面における封止部材30の外径は、溝22dの深さ(具体的には溝22dの底面から端面22cまでのZ方向における距離)よりも大きく、封止部材30は、溝22dの底面、及び被加工物2の表面2aの双方に接触している。封止部材30は、溝22dの底面と表面2aとによって押圧されて弾性変形する。これにより、本体部21の開口21bが表面2aによって閉塞され、内部空間Vが気密に封止される。各側壁部22には、グリス又はオイル等の潤滑剤を容器20の外部から封止部材30に供給する潤滑剤供給管31が設けられている。潤滑剤供給管31は、容器20の外部から側壁部22の内部を通って溝22dの底面に達している。潤滑剤供給管31から供給される潤滑剤によって、封止部材30と表面2aとの間の摩擦抵抗を低減する。これにより、容器20と被加工物2との摺動による相対移動を容易に行うことが可能になる。
レーザ光Lによる表面2aの加工を行う前に封止部材30に潤滑材が供給されることによって、摩擦熱による封止部材30及び表面2aの熱損傷を抑制でき、封止部材30及び表面2aによる内部空間Vの封止を維持できる。これにより、内部空間Vの圧力を維持することが可能となる。更に、潤滑剤供給管31からの潤滑材が封止部材30を介して表面2aに供給されつつ容器20が表面2aに対して相対移動することで、潤滑剤による薄い被膜が表面2aに形成される。このように表面2aに形成された被膜では、潤滑剤がレーザ光に対して透明である場合、レーザ光Lの照射によって表面2aに生じるプラズマの閉じ込め効果が発揮される。これにより、加工に必要なレーザ光Lのピーク強度を低減することが可能となる。すなわち、ピーク強度を或る程度抑えたレーザ光Lを表面2aに照射した場合であっても、十分な残留圧縮応力を表面2aに付与することが可能となる。一方、潤滑剤がレーザ光を吸収する場合、表面2aに形成された被膜にレーザ光Lが照射されると、潤滑剤がレーザ光Lを吸収してプラズマを生成する。これにより、表面2aの荒れを抑制できる。
更に、レーザ光Lによる表面2aの加工を行った後に、潤滑材による被膜を表面2aに形成することによって、表面2aの酸化(錆)の発生を抑制することが可能となる。また、潤滑剤にカーボン粒子を含有させることによって、封止部材30と表面2aとの間の摩擦抵抗を更に低減することが可能となる。更に、カーボン粒子を含有する潤滑剤による被膜を表面2aに形成した場合、この被膜では、レーザ光Lの光吸収量が更に増加すると共に、潤滑材のヤング率が増加することでプラズマの閉じ込め効果が向上する。これにより、加工に必要なレーザ光Lのピーク強度を更に低減することが可能となる。
容器20の蓋部25は、本体部21に対して開閉可能に設けられている。具体的には、蓋部25は、例えばゴム等の弾性体(例えばOリング)を介して本体部21の開口21aに嵌合されることによって、本体部21に取り付けられている。或いは、蓋部25は、例えば、ゴム等の弾性体(例えばOリング)を介してネジ止めされることによって、本体部21に取り付けられてもよい。蓋部25は、容器20の内側を向く内面25aを含んでいる。内面25aは、XY平面に沿って延在しており、Z方向において表面2aに対向している。内面25aは、各側壁部22のZ方向における開口21a側の一端に接している。内面25a及び各内面22aは、容器20の内面20aを構成する。
容器20の内部空間Vは、容器20の内面20aと被加工物2の表面2aとによって画成される略直方体状の気密空間である。内部空間Vには、光源10と表面2aとの間のレーザ光Lの光路のうち、表面2aにおけるレーザ光Lの照射部分Pを含む一部分Laが位置している。すなわち、内部空間Vは、レーザ光Lの光路の一部分Laを含んでいる。一部分Laは、レーザ光Lが光学窓23を透過してから照射部分Pに至るまでの光路である。なお、内部空間Vは、光源10と表面2aとの間のレーザ光Lの全ての光路を含んでもよい。
内部空間Vは、蓋部25に設けられた排気機構35によって、大気圧よりも減圧された状態に維持されている。本実施形態では、内部空間Vは、真空状態に維持されている。真空状態とは、内部空間Vの圧力が例えば0.1MPa以下である状態をいう。排気機構35は、蓋部25をZ方向に貫通すると共に内部空間Vに連通する排気孔36と、容器20の外部に配置されると共に内部空間Vを排気する排気ポンプ37と、排気孔36と排気ポンプ37とを互いに接続する排気管38と、排気管38に設けられると共に内部空間Vの排気量を調整するバルブ39と、を含んで構成されている。
内部空間Vには、光学窓23を透過したレーザ光Lを表面2aの照射部分Pに向けて反射すると共に照射部分Pに向けて集光する凹状の反射面40a(ミラー)を有する凹面鏡40が設けられている。凹面鏡40は、側壁部22Aに対してY方向に対向する側壁部22の内面22aと、蓋部25の内面25aとが成す隅部に設けられている。反射面40aは、その焦点位置が被加工物2の表面2aの照射部分Pに一致するように設定された放物面状を呈しており、Y方向において光学窓23と対向すると共にZ方向において表面2aと対向している。反射面40aは、照射部分Pを起点としてZ方向から傾斜した方向に設けられている。すなわち、反射面40aは、Z方向において照射部分Pに対向する位置を除く位置に設けられている。光学窓23から内部空間Vに進入したレーザ光Lは、反射面40aにおいて照射部分Pに向けて反射されると共に照射部分Pに向けて集光される。このとき、レーザ光Lは、照射部分Pを起点としてZ方向に対して傾斜した方向から、照射部分Pに照射される。反射面40aから照射部分Pに至るレーザ光Lの光軸と、表面2aの照射部分Pにおける接平面とが成す角度は、例えば60°以下とされている。
容器20の内部空間Vには、照射部分Pから生じる被加工物2の飛沫Sを吸着する飛沫吸着体(飛沫吸着部)50が更に設けられている。被加工物2の飛沫Sとは、表面2aの照射部分Pにおけるプラズマ化によって発生する、プラズマ中のイオン種である。飛沫吸着体50は、XY平面に沿って延びる板状の部材である。飛沫吸着体50は、例えば、ガラス、樹脂、セラミックス、又は、純金属或いは合金等の金属材料を含んで構成される。本実施形態では、飛沫吸着体50は、被加工物2の材料と同一の材料を含んで構成されている。すなわち、飛沫吸着体50は、例えば銅、アルミニウム、又は鋼板といった金属材料を含んで構成されている。飛沫吸着体50の表面には、例えば、砂ズリ、光学研磨、メッキ、又は接着材塗布等による表面処理が施されている。
飛沫吸着体50は、例えば、Z方向において表面2aの照射部分Pに対向するように配置されている。すなわち、飛沫吸着体50は、Z方向から見て、照射部分Pに重なるように配置されている。本実施形態では、飛沫吸着体50は、蓋部25の内面25aに配置されている。飛沫吸着体50は、Z方向において照射部分Pに対向する表面50aと、表面50aとは反対側に位置すると共に内面25aに対向(一例では接触)する裏面50bとを含んでいる。表面50a及び裏面50bのそれぞれは、XY平面に沿って延在している。Z方向から見た飛沫吸着体50の表面50aの面積は、Z方向から見た照射部分Pの面積に対して十分に大きく、飛沫吸着体50のZ方向における厚さ(すなわち表面50aと裏面50bとの間の距離)は、内部空間Vにおけるレーザ光Lの光路の一部分Laに達しない程度に薄い。
飛沫吸着体50は、具体的には、蓋部25の内面25aに対して取り外し可能に取り付けられている。図3は、蓋部25の内面25aに飛沫吸着体50が取り付けられる様子を示した図である。図3に示されるように、蓋部25は、飛沫吸着体50を内面25aに取り付けるための複数(本実施形態では3つ)のレール26A,26B,及び26Cを有している。レール26A及び26Bのそれぞれは、内面25aの中央付近において、Y方向に沿って延びると共にX方向に沿って互いに対向しており、飛沫吸着体50は、レール26A及び26Bに沿ってY方向に摺動可能とされている。
レール26Aは、内面25aからZ方向に突出すると共にY方向に沿って延びる第1突出部26aと、第1突出部26aのZ方向における先端部からX方向に突出する第2突出部26bとを含んでおり、第1突出部26aと第2突出部26bとによってL字に屈曲されている。同様に、レール26Bは、内面25aからZ方向に突出すると共にY方向に沿って延びる第1突出部26cと、第1突出部26cのZ方向における先端部からX方向に突出する第2突出部26dとを含んでおり、第1突出部26cと第2突出部26dとによってL字に屈曲されている。
第1突出部26a及び26cは、X方向において所定距離を空けて互いに対向しており、第1突出部26a及び26cの間のX方向における距離は、飛沫吸着体50のX方向における幅と同じか僅かに大きい。第2突出部26b及び26dは、X方向において互いに対向しており、互いの対向方向に向かって突出している。また、第2突出部26b及び26dは、Z方向において内面25aに対向しており、第2突出部26b及び26dと内面25aとの間の距離は、飛沫吸着体50のZ方向における厚さと同じか僅かに大きい。
レール26Cは、内面25aの中央付近においてX方向に沿って延びており、レール26A及び26BによってY方向に摺動される飛沫吸着体50のY方向の位置を規定するストッパとしての機能を有する。レール26Cは、X方向から見てレール26A及び26BからY方向に離間した位置に配置されている。レール26Cは、内面25aからZ方向に突出すると共にX方向に沿って延びる第1突出部26eと、第1突出部26eのZ方向における先端部からレール26A及び26B側に向かってY方向に突出する第2突出部26fとを含んでおり、第1突出部26eと第2突出部26fとによってL字に屈曲されている。第2突出部26fは、Z方向において内面25aに対向しており、第2突出部26fと内面25aとの間の距離は、飛沫吸着体50のZ方向における厚さと同じか僅かに大きい。
飛沫吸着体50を蓋部25の内面25aに取り付ける際には、Y方向においてレール26A及び26Bに対してレール26Cとは反対側から飛沫吸着体50をレール26A及び26BのL字の内側部分に差し込む。その後、飛沫吸着体50を、レール26Cの第1突出部26eに当接するまでレール26A及び26Bの当該内側部分に沿ってY方向に摺動させる。飛沫吸着体50を内面25aから取り外す際には、レール26A及び26Bに対してレール26Cとは反対側に飛沫吸着体50を摺動させる。これにより、飛沫吸着体50がレール26A,26B,及び26Cから外れ、飛沫吸着体50が内面25aから取り外される。
以上の構成を備えたレーザ加工装置1では、光源10から出射されたレーザ光Lは、Y方向に沿って進行したのち、光学窓23を透過して容器20の内部空間Vに進入する。内部空間Vに進入したレーザ光Lは、Y方向に沿って進行したのち、凹面鏡40の反射面40aに入射する。その後、レーザ光Lは、反射面40aによって表面50aの照射部分Pに向けて反射されると共に照射部分Pに向けて集光される。レーザ光Lが照射部分Pに照射されると、高いピーク強度を有するレーザ光Lによって被加工物2の表面2aの照射部分Pが瞬時に蒸発し、照射部分Pにて高圧のプラズマが発生・膨張する。
このとき、高圧のプラズマが膨張する際の反作用によって照射部分Pが塑性変形し、照射部分Pに圧縮残留応力が付与される。その後、被加工物2に対して容器20をX方向及びY方向に相対移動させながら、被加工物2の表面2aにおける所望の領域(例えば表面2aの全領域)に圧縮残留応力を順次付与し、被加工物2に対するレーザピーニング処理が完了する。レーザ光Lを照射部分Pに照射する際、照射部分Pから被加工物2の飛沫Sが生じる。照射部分Pから生じた飛沫Sの多くは、Z方向に浮遊し、蓋部25の内面25aに取り付けられた飛沫吸着体50の表面50aに吸着される。
以上に説明した、本実施形態に係るレーザ加工装置1によって得られる効果を説明する。レーザ加工装置1では、容器20の内部空間Vには、光源10から出射されたレーザ光Lの光路の一部分Laが位置しており、内部空間Vは、大気圧よりも減圧された状態(本実施形態では真空状態)に維持されている。このように減圧状態とされた内部空間Vでは、大気圧状態とされた場合と比べて、電離現象の発生条件となるレーザ光Lのピーク強度の閾値が高くなり、電離現象の発生が抑制される。図4は、電離現象の発生条件となるレーザ光Lのピーク強度の閾値と圧力との関係を示すグラフである。図4において、縦軸は、レーザ光Lのピーク強度(W/cm2)を示しており、横軸は、圧力(Pa)を示している。グラフG10は、電離現象の発生条件となるレーザ光Lのピーク強度の閾値を示している。
図4において、或る圧力下におけるレーザ光Lのピーク強度がグラフG10の下側(ハッチングで示された部分)に位置する場合、当該ピーク強度が、電離現象の発生条件となるレーザ光Lのピーク強度の閾値に達していないことを意味している。逆に、或る圧力下におけるレーザ光Lのピーク強度がグラフG10の上側に位置する場合、当該ピーク強度が、電離現象の発生条件となるレーザ光Lのピーク強度の閾値を超えていることを意味している。従って、高いピーク強度を有するレーザ光Lを用いて被加工物2の加工を行う場合、内部空間Vの圧力をグラフG10の下側に位置するように減圧することで、内部空間Vにおける電離現象の発生を抑制することが可能となる。
例えば、パルス幅100fs、及びピーク強度1.0×1015W/cm2を有するレーザ光Lを用いて被加工物2の加工を行う場合、電離現象の発生条件となるレーザ光Lのピーク強度の閾値を示すプロットP10の左側に位置するように、すなわち1.0×104Pa以下となるように、内部空間Vの圧力を減圧することで、内部空間Vにおける電離現象の発生を抑制することが可能となる。このように、高いピーク強度を有するレーザ光Lを被加工物2の表面2aに照射した場合であっても、レーザ光Lの光路の一部分Laが減圧状態の内部空間Vに位置することによって、被加工物2の表面2aに到達する前に電離現象が発生する事態を抑制できる。
その結果、大気圧下で被加工物2の加工を行う場合に比べて4桁〜5桁程度高いピーク強度を有するレーザ光Lを用いて、被加工物2の表面2aに十分な圧縮残留応力を付与することが可能となり、被加工物2の表面2aの硬度を向上させることが可能となる。ここで、レーザ光Lのピーク強度と被加工物2の表面2aの硬度との関係について、図5を用いて説明する。図5は、レーザ光Lのピーク強度と、レーザ光Lに照射される被加工物2の半価幅との関係を示すグラフである。図5において、横軸は、表面2aにおけるレーザ光Lのピーク強度(W/cm2)を示しており、縦軸は、表面2aの半価幅(°)を示している。半価幅は、被加工物2へのX線の照射により得られるX線回折ピーク強度の半分におけるX線回折ピークの幅を示しており、被加工物2の表面2aの硬度が大きくなるほど大きくなる。なお、図5は、被加工物2の材料として高張力鋼を用いた場合を例示している。
従って、被加工物2の表面2aの硬度が向上したか否かは、この半価幅の大きさを測定することによって判断することが可能となる。図5において、半価幅Aは、本来の被加工物2の半価幅を示している。本来の被加工物2の半価幅とは、被加工物2に対してレーザ光Lを照射する前であって、被加工物2に対して表面加工等の加工も行っていない状態の半価幅(すなわち、被加工物2の母材の材料の半価幅)を示している。測定した被加工物2の半価幅が半価幅Aよりも大きい場合、被加工物2の表面2aの硬度が本来の被加工物2よりも大きいことを表す。図5において、黒丸で示したプロットは、表面2aにレーザ光Lを照射した後(以下、単に「照射後」と言う)の表面2aの半価幅を示しており、白丸で示したプロットは、表面2aにレーザ光Lを照射する前(以下、単に「照射前」と言う)の表面2aの半価幅を示している。
図5に示されるように、照射前の表面2aの半価幅は、本来の被加工物2の表面2aの半価幅Aよりも小さくなっている。これは、被加工物2の表面2aに対して研磨等の表面加工が行われる際に、表面2aに生じる摩擦熱等の影響を受けるためである。一方、照射後の表面2aの半価幅は、照射前の表面2aの半価幅よりも大きくなっている。照射前の表面2aに対する、レーザ光Lの照射後の表面2aの半価幅の変動の大きさ(上昇幅)は、表面2aに照射するレーザ光Lのピーク強度の大きさに依存する。図5に示されるように、レーザ光Lのピーク強度が1.0×108W/cm2〜1.0×1010W/cm2程度に低く設定されている場合、照射後の表面2aの半価幅の、照射前の表面2aの半価幅からの上昇幅は小さく、照射後の表面2aの半価幅は、本来の被加工物2の表面2aの半価幅Aを下回っている。
一方、レーザ光Lのピーク強度が1.0×1014W/cm2〜1.0×1015W/cm2程度に高く設定されている場合、照射後の表面2aの半価幅の、照射前の表面2aの半価幅からの上昇幅は大きく、照射後の表面2aの半価幅は、本来の被加工物2の表面2aの半価幅Aを上回っている。このように、高いピーク強度を有するレーザ光Lを用いて被加工物2の加工を行うことによって、被加工物2の表面2aの硬度を向上できることが分かる。また、レーザ光Lのピーク強度を1.0×1015W/cm2よりも大きくすると、被加工物2の表面粗さが増大しやすくなる(例えば10μm以上)。従って、表面粗さの増大を抑えつつ、被加工物2の表面2aの硬度を向上させるためには、レーザ光Lのピーク強度を1.0×1014W/cm2〜1.0×1015W/cm2程度(図5において一点鎖線で囲まれた領域Rの範囲)に設定することが望ましい。
更に、本実施形態に係るレーザ加工装置1によれば、液体によるプラズマの閉じ込めを行うことなく、表面2aに十分な圧縮残留応力を付与できるので、液体を用いることによる加工効率の低下を抑制できる。更に、レーザ加工装置1では、容器20の内面20aと被加工物2の表面2aとによって画成される内部空間Vを減圧状態にしている。この構成によれば、被加工物2の全体を容器20に収容することなく、被加工物2の表面2aにおける減圧状態を維持できるので、減圧状態にされる内部空間Vの体積を小さくすることができる。これにより、内部空間Vを減圧状態にする際に要する時間を低減できる。更に、レーザ加工装置1では、表面2aの照射部分Pから生じる被加工物2の飛沫Sを吸着する飛沫吸着体50が内部空間Vに設けられている。飛沫吸着体50が内部空間Vに設けられていることによって、内部空間Vにおいて浮遊する飛沫Sを低減することができる。これにより、浮遊した飛沫Sへのレーザ光Lの照射による飛沫Sのプラズマ化及びレーザ光Lの散乱といった問題の発生を抑制できる。その結果、高いピーク強度を有するレーザ光Lを表面2aに継続的に照射できると共に、表面2aに付与される圧縮残留応力の低下を抑制できる。従って、本実施形態に係るレーザ加工装置1によれば、加工効率の低下を抑えつつ、高いピーク強度を有するレーザ光Lを表面2aに継続的に照射することによって表面2aに十分な圧縮残留応力を容易に付与することが可能となる。その結果、表面2aの硬化、及び表面2aの耐摩耗性の向上といった効果を容易に得ることが可能となる。
レーザ加工装置1では、容器20は、内部空間Vを真空状態に維持している。これにより、より高いピーク強度を有するレーザ光Lを用いて、より大きな圧縮残留応力を表面2aに付与することができる。
レーザ加工装置1では、光源10は、フェムト秒レーザ光源である。これにより、高いピーク強度を有するレーザ光Lを用いて表面2aに十分な圧縮残留応力を付与する構成を好適に実現できる。
レーザ加工装置1では、飛沫吸着体50は、被加工物2の材料と同一の材料を含んでいる。これにより、被加工物2の飛沫Sが飛沫吸着体50に吸着し易くなるので、容器20の内部空間Vに浮遊する飛沫Sを効果的に低減できる。
レーザ加工装置1では、容器20は、X方向及びY方向において被加工物2に対して相対的に移動する。この構成によれば、内部空間Vの減圧状態(本実施形態では真空状態)を維持しながら、被加工物2の表面2aの照射部分Pを任意の位置に移動させることができる。すなわち、照射部分Pを任意の位置に移動させる度に容器20を表面2aから外して内部空間Vを真空状態にする事態を回避できる。これにより、照射部分Pを任意の位置に移動させる際の手間を省くことができると共に、減圧の回数を減らして加工時間の短縮を図ることが可能となる。
レーザ加工装置1では、光源10は、容器20の外部に配置され、容器20は、レーザ光Lの光路上に配置されると共にレーザ光Lを透過する光学窓23を有している。これにより、容器20の内部空間Vに浮遊する飛沫Sを飛沫吸着体50が吸着することによって、レーザ光Lの光路上の光学窓23への飛沫Sの付着を抑制できる。すなわち、レーザ光Lの光路上における飛沫Sの残留を抑制できる。これにより、表面2aへのレーザ光Lの継続的な照射をより確実に実現できると共に、表面2aに付与される圧縮残留応力の低下をより確実に抑制できる。更に、上記の構成によれば、光源10が容器20の外部に配置されるので、容器20の外形寸法の増大を抑制でき、レーザ加工装置1の大型化を回避できる。更に、この構成によれば、減圧状態にされる内部空間Vの体積を小さくすることができる。これにより、内部空間Vを減圧状態にする際に要する時間を低減できる。
レーザ加工装置1では、光学窓23は、側壁部22Aに設けられており、レーザ光Lは、側壁部22Aの外側からY方向に沿って光学窓23に入射し、内部空間Vには、光学窓23を透過したレーザ光Lを表面2aの照射部分Pに向けて反射する反射面40aを有する凹面鏡40が設けられている。この構成では、光源10から出射されたレーザ光Lは、表面2aに沿ったY方向に沿って光学窓23に入射するので、レーザ光Lによる加工の際にレーザ光L(若しくはその反射光)が作業者に向くことを抑制できる。これにより、作業者の安全性を高めることが可能となる。また、X方向及びY方向において容器20を被加工物2に対して相対的に移動させる場合に、容器20の外側から光学窓23に向かうレーザ光Lの光路の延在方向(Y方向)に沿って容器20を移動させることで、光源10の位置を移動させることなく、表面2aのY方向に沿った各位置にレーザ光Lの照射を行うことができる。その後、必要に応じてX方向に光源10及び容器20を移動させた後、再び容器20をY方向に移動させながら表面2aのY方向に沿った各位置にレーザ光Lの照射を行うという動作を繰り返すことで、表面2aのX方向及びY方向に沿った所望の領域へのレーザ光Lの照射を簡易な動作でより確実に行うことができる。
レーザ加工装置1では、凹面鏡40の反射面40aは、Z方向から傾斜した方向に配置されている。照射部分Pから生じる被加工物2の飛沫Sは、Z方向に多く浮遊する傾向がある。そこで、レーザ光Lの光路上の反射面40aを上記のようにZ方向に配置しない構成にすることによって、反射面40aへの飛沫Sの付着を抑制できる。すなわち、レーザ光Lの光路上に飛沫Sが残留することを抑制できる。これにより、表面2aへのレーザ光Lの継続的な照射をより確実に実現できると共に、表面2aに付与される圧縮残留応力の低下をより確実に抑制できる。
レーザ加工装置1では、飛沫吸着体50は、Z方向において照射部分Pに対向している。上述したように、照射部分Pから生じる被加工物2の飛沫Sは、Z方向に多く浮遊する傾向がある。そこで、飛沫吸着体50をZ方向において照射部分Pに対向させることによって、容器20の内部空間Vにおける飛沫Sの浮遊を効果的に低減できる。
レーザ加工装置1では、容器20は、開口21aが設けられた本体部21と、開口21aを塞ぐ蓋部25とを有し、蓋部25は、内部空間Vを構成する内面20aの一部である内面25aを含み、本体部21に対して開閉可能に設けられており、飛沫吸着体50は、内面25aに対して取り外し可能に取り付けられている。この構成によれば、容器20の内部空間Vの飛沫Sを吸着した飛沫吸着体50を定期的に取り換えることが可能となる。このように飛沫吸着体50を定期的に取り換えることによって、飛沫吸着体50による飛沫Sの吸着を長時間にわたって継続的に行うことが可能となる。
以上、本発明の一実施形態について説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されず、種々の変更を行うことができる。例えば、図6〜図9に示される各種の変形態様を採ってもよい。
図6は、第1変形例に係るレーザ加工装置1Aを示す概略断面図である。本変形例と上記実施形態との相違点は、容器20Aの蓋部25Aにガス供給機構60が更に設けられている点である。ガス供給機構60は、容器20Aの内部空間VにガスGを供給するために設けられる。ガスGは、炭素を含むガスである。本変形例では、ガスGがアセチレンガスであり、被加工物2が鋼板である場合を例示する。ガス供給機構60は、蓋部25AをZ方向に貫通すると共に内部空間Vに連通する供給孔61と、供給孔61に接続されると共にガスGが流入する供給管62と、供給管62に流入したガスGの流量を調整するバルブ63と、を含んで構成されている。供給管62に流入したガスGは、バルブ63による流量の調整が行われた後、供給孔61を経て内部空間Vに供給される。
本変形例に係るレーザ加工装置1Aでは、まず、上述した実施形態と同様に、レーザ光Lを照射部分Pに照射することによって照射部分Pに圧縮残留応力を付与する。その後、ガス供給機構60によってガスGを内部空間Vに供給した後、レーザ光Lを照射部分Pに再度照射する。このとき照射するレーザ光Lのピーク強度及びパルス幅は、照射部分Pを溶解せずにアセチレンガスを炭素と水素とに分解させる温度であって、分解した炭素を照射部分Pに拡散させる温度となるように設定される。この温度は、本変形例のように被加工物2が鋼板である場合、例えば900℃である。このように設定されたレーザ光Lが、内部空間VにガスG(すなわちアセチレンガス)が供給された状態で照射部分Pに照射されると、アセチレンガスが炭素と水素とに分解され、分解された炭素が照射部分Pに拡散して照射部分Pに埋め込まれる。すなわち、照射部分Pが浸炭化される。
上記のように照射部分Pが浸炭化されると、照射部分Pの硬度が高められる。従って、本変形例に係るレーザ加工装置1Aによれば、被加工物2の表面2aの硬度の更なる向上を図ることが可能となる。なお、ガスGは、アセチレンガスに限らず、炭素を含む他のガスであってもよい。炭素を含む他のガスの例として、例えば、メタン、エチレン、又はプロパンといったガスが挙げられる。なお、ガスGを用いずに、被加工物2の表面2aに溶接用黒鉛ペースト材を塗布することにより、表面2aの浸炭を行ってもよい。また、ガスGは、炭素を含むガスに、窒素を含むガスを混合させた混合ガスであってもよい。例えば、ガスGは、アセチレンガスにアンモニアガスを混合させた混合ガスであってもよい。この場合、アセチレンガスに含まれる炭素によって照射部分Pが浸炭化されると共に、アンモニアガスに含まれる窒素によって照射部分Pが窒化される。これにより、被加工物2の表面2aの硬度の更なる向上が見込まれる。また、内部空間Vに窒素を導入した後、レーザ光Lを被加工物2の表面2aに照射することにより、表面2aでの窒素分子のプラズマ化による表面2aの窒化を行ってもよい。
図7は、第2変形例に係るレーザ加工装置1Bを示す概略断面図である。本変形例では、光学窓23が、容器20Bの蓋部25Bに設けられており、容器20Bの内部空間Vに、飛沫吸着体50に代えて飛沫吸着体50Aが設けられている。飛沫吸着体50Aは、Z方向において蓋部25Bと照射部分Pとの間に配置されている。光学窓23は、Z方向において飛沫吸着体50Aに対して照射部分Pとは反対側に配置されている。すなわち、光学窓23は、蓋部25Bにおいて照射部分Pに対向する位置に配置されている。
また、容器20Bの内部空間Vには、凹面鏡40が設けられておらず、光源10と飛沫吸着体50Aとの間のレーザ光Lの光路上にレンズ70が設けられている。レンズ70は、レーザ光Lを集光する集光レンズである。レンズ70は、例えば、容器20Bの外部に配置されており、光源10と光学窓23との間のレーザ光Lの光路上に配置されている。本変形例では、レンズ70は、Z方向において光学窓23に対向する位置に配置されている。光源10から出射されたレーザ光Lは、レンズ70によって集光されながら光学窓23にZ方向に沿って入射する。光学窓23に入射したレーザ光Lは、光学窓23を透過して内部空間VをZ方向に沿って進行する。
飛沫吸着体50Aは、飛沫Sを吸着する機能に加えて飛沫Sを遮蔽する遮蔽板としての機能を併せ持つ点で、上記実施形態の飛沫吸着体50とは相違する。飛沫吸着体50Aは、Z方向において光学窓23及び照射部分Pのそれぞれから離間した位置に配置されており、飛沫Sの光学窓23への浮遊を遮るようにXY平面に沿って延在している。飛沫吸着体50Aは、例えば、側壁部22の内面22aに設けられる保持部(不図示)によって保持されている。また、飛沫吸着体50Aは、表面50aから裏面50bまでZ方向に貫通する貫通孔50cを有している。
貫通孔50cは、例えば、飛沫吸着体50Aの中央付近に設けられており、Z方向から見て円形状を呈している。貫通孔50cは、光学窓23を透過してZ方向に沿って進行するレーザ光Lを通過させる。貫通孔50cは、例えば、レンズ70によるレーザ光Lの焦点位置Fに配置されている。具体的には、貫通孔50cは、X方向及びY方向から見て焦点位置Fに重なるように配置されている。すなわち、貫通孔50cは、その内部(例えば中心軸上)に焦点位置Fが位置するように配置されている。Z方向から見た貫通孔50cの面積は、Z方向から見た光学窓23の面積よりも小さい。本変形例では、Z方向から見た貫通孔50cの面積は、Z方向から見た照射部分Pの面積よりも小さく、且つ焦点位置Fにおけるレーザ光Lの光路面積よりも僅かに大きい。
光学窓23から内部空間Vに進入したレーザ光Lは、飛沫吸着体50Aの貫通孔50cをZ方向に沿って通過した後、表面2aの照射部分Pに照射される。照射部分Pから生じた被加工物2の飛沫Sの多くは、Z方向に浮遊する。ここで、貫通孔50cの面積は、上述したように光学窓23の面積よりも小さいので、光学窓23に向かう飛沫Sの一部は、飛沫吸着体50Aの貫通孔50cを除く部分に遮蔽されると共に吸着される。このように、貫通孔50cの面積を光学窓23の面積よりも小さくすることによって、照射部分Pから光学窓23に向かう飛沫Sを低減することができ、光学窓23への飛沫Sの付着を効果的に抑制できる。これにより、表面2aへのレーザ光Lの継続的な照射をより確実に実現できると共に、表面2aに付与される圧縮残留応力の低下をより確実に抑制できる。
更に、レーザ加工装置1Bでは、飛沫吸着体50Aは、レンズ70によるレーザ光Lの焦点位置に配置されている。これにより、光源10からのレーザ光Lを通過させる貫通孔50cの面積を極力小さくすることができるので、照射部分Pから光学窓23に向かう飛沫Sを更に低減することができる。これにより、光学窓23への飛沫Sの付着を一層効果的に抑制できる。更に、飛沫吸着体50Aが遮蔽板としての機能を兼ねることで、レーザ加工装置1Bの構成の簡単化が図られる。
レーザ加工装置1Bにおいて、飛沫Sを吸着する飛沫吸着体と、貫通孔50cを有する部材(遮蔽板)とが別々に設けられてもよい。この場合、遮蔽板は、飛沫吸着体50Aと同様の形状及び配置態様を有する一方、飛沫吸着体は、貫通孔50cを有さず、飛沫吸着体50Aと同様の材料を含んで構成される。更に、この場合、飛沫吸着体は、内部空間Vにおいて、蓋部25Bの光学窓23と照射部分Pとの間のレーザ光Lの光路を除く位置に設けられる。なお、遮蔽板は、例えば、飛沫吸着体50Aと同様の材料を含んで構成されてもよい。この場合、遮蔽板は、例えば、ガラス、樹脂、セラミックス、又は、純金属或いは合金等の金属材料を含んで構成される。
また、上記の飛沫吸着体及び遮蔽板のうち遮蔽板のみが内部空間Vに設けられた場合であっても、本変形例と同様の効果が得られる。すなわち、照射部分Pから生じた飛沫Sの大部分が、遮蔽板の貫通孔を除く部分によって遮蔽されることによって、光学窓23への飛沫Sの浮遊を抑制することが可能となり、光学窓23への飛沫Sの付着を抑制することが可能となる。これにより、表面2aへのレーザ光Lの継続的な照射をより確実に実現できると共に、表面2aに付与される圧縮残留応力の低下をより確実に抑制できる。
図8は、第3変形例に係るレーザ加工装置の蓋部25Cの内面25aに飛沫吸着体50Bが取り付けられる様子を示した図である。本変形例では、飛沫吸着体50Bは、蓋部25Cの内面25aに対して複数(本変形例では4つ)の螺子80によって締結される。本変形例において、飛沫吸着体50Bは、表面50aから裏面50bまでZ方向に貫通する複数(本変形例では4つ)の貫通孔50dを有しており、蓋部25Cは、レール26A,26B,及び26Cに代えて、複数の貫通孔50dにそれぞれ対応する複数(本変形例では4つ)の螺子孔27を有している。複数の貫通孔50dは、例えば、飛沫吸着体50Bの4つの角部にそれぞれ設けられている。複数の螺子孔27は、内面25aから蓋部25Cの厚さ方向(Z方向)に延びており、複数の螺子80にそれぞれ螺合する。
飛沫吸着体50Bを内面25aに取り付ける際には、飛沫吸着体50Bの表面50a側から各貫通孔50dに各螺子80が挿通され、各螺子80において裏面50b側から突出する部分が各螺子孔27に螺合する。各螺子80と各螺子孔27との螺合作用によって、飛沫吸着体50Bは、内面25aに対して取り外し可能に取り付けられる。このような形態であっても、内部空間Vの飛沫Sを吸着した飛沫吸着体50Bを定期的に取り換えることが可能となり、飛沫吸着体50Bによる飛沫Sの吸着を長時間にわたって継続的に行うことが可能となる。
図9は、第4変形例に係るレーザ加工装置の蓋部25Dの内面25aに飛沫吸着体50Cが取り付けられる様子を示した図である。本変形例では、飛沫吸着体50Cは、表面50aから裏面50bまでZ方向に貫通する一対の貫通孔50eを有しており、蓋部25Dは、レール26A,26B,及び26Cに代えて、一対の貫通孔50eにそれぞれ対応する一対の金具28を有している。一対の貫通孔50eは、例えば、Y方向において飛沫吸着体50Cの中央を挟んで両側にそれぞれ配置されている。各貫通孔50eは、円形の孔部50gと、孔部50gの一部から突出する孔部50fとを含んでおり、孔部50g及び50fによって全体として鍵穴の形状を呈している。
各金具28は、内面25aからZ方向に突出する丸棒状の突出部28aと、突出部28aのZ方向における先端部からX方向及びY方向に張り出すように形成された円板状のフランジ部28bとを含んでいる。突出部28aのZ方向における長さは、飛沫吸着体50CのZ方向における厚さと同じか僅かに長い。突出部28aの外径は、孔部50fのX方向における幅と同じか僅かに小さい。フランジ部28bは、突出部28aの先端部において周方向に沿って連続的に設けられており、突出部28aと同軸に配置されている。フランジ部28bの外径は、孔部50fのX方向における幅よりも大きく、且つ孔部50gの内径よりも小さい。
飛沫吸着体50Cを内面25aに取り付ける際には、各金具28のフランジ部28bの全ての部分が、各貫通孔50eの孔部50gを通過して表面50aから突出するまで、各金具28を各貫通孔50eにZ方向に挿通させる。その後、飛沫吸着体50Cを蓋部25Dに対してY方向に相対移動させることで、各貫通孔50eの孔部50fに各金具28の突出部28aを嵌め込む。その結果、表面50aから突出したフランジ部29が、飛沫吸着体50Cの孔部50fの周囲の部分に引っ掛かる。これにより、飛沫吸着体50Cが内面25aに取り付けられる。
飛沫吸着体50Cを内面25aから取り外す際には、蓋部25Dに対する飛沫吸着体50CのY方向における相対移動によって、各貫通孔50eの孔部50fから各金具28の突出部28aを外す。そして、各金具28のフランジ部28bを各貫通孔50eの孔部50gに挿通させながら、飛沫吸着体50Cを内面25aからZ方向に離間させる。これにより、飛沫吸着体50Cが内面25aから取り外される。このような形態であっても、内部空間Vの飛沫Sを吸着した飛沫吸着体50Cを定期的に取り換えることが可能となり、飛沫吸着体50Cによる飛沫Sの吸着を長時間にわたって継続的に行うことが可能となる。
本発明は、他に様々な変形が可能である。例えば、上述した実施形態及び各変形例を、必要な目的及び効果に応じて互いに組み合わせてもよい。また、上述した実施形態では、容器の内部空間が真空状態に維持されているが、内部空間は、大気圧より減圧されていればよく、真空状態に維持されなくてもよい。上述した実施形態では、光源は、容器の外部に配置されているが、容器の内部空間に配置されてもよい。上述した実施形態では、Z方向から見た容器は、矩形状を呈しているが、他の形状を呈してもよい。例えば、Z方向から見た容器は、三角形状又は五角形状等の多角形状を呈してもよく、円形状又は楕円形状を呈してもよい。
上述した実施形態では、容器は、被加工物の表面に対して相対移動可能に配置されているが、被加工物の表面に対して相対移動不能に配置されてもよい。また、容器の蓋部は、本体部に対して開閉不能に固定されてもよい。或いは、容器の蓋部は、本体部と一体的に形成されてもよい。すなわち、容器の蓋部は、本体部の一部を構成する天板及び側壁部の少なくとも一方であってもよい。上述した実施形態では、凹面鏡の反射面がレーザ光を照射部分に向けて反射すると共に照射部分に向けて集光しているが、反射面は、レーザ光を照射部分に向けて集光しなくてもよい。この場合、光源と照射部分との間の光路上に、レーザ光を集光するレンズが別途設けられてもよい。このレンズは、容器の外部に設けられてもよく、容器の内部空間に設けられてもよい。
上述した実施形態では、飛沫吸着体は、蓋部の内面に対して取り外し可能に取り付けられているが、例えば接着剤等によって蓋部の内面に対して取り外し不能に固定されてもよい。また、飛沫吸着体は、Z方向において表面の照射部分に対向する位置を除く位置に配置されていてもよい。例えば、飛沫吸着体は、蓋部の内面のうち、Z方向において照射部分に対向する部分を除く他の部分に配置されてもよく、容器の側壁部の内面に配置されていてもよい。また、飛沫吸着体は、被加工物の材料とは異なる材料によって構成されてもよい。また、飛沫吸着体は、容器と同じ材料によって構成されてもよい。また、飛沫吸着体は、容器と一体であってもよい。すなわち、飛沫吸着体は、容器の一部であってもよい。この場合、飛沫吸着体は、例えば、容器の蓋部の内面であってもよく、容器の側壁部の内面であってもよい。