次に、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して説明する。本発明に基づく採水ディスペンサーを具体的に説明する前に、まず、採水ディスペンサーに対する純水源としての純水製造装置について、図1を用いて説明する。採水ディスペンサー30は純水製造装置10に対して取り外し可能に接続されるものであるが、図1では、既に採水ディスペンサー30が接続されているものとして純水製造装置10が描かれている。
図1に示す純水製造装置10は、循環精製により純水を生成するサブシステム(二次純水システム)として構成されたものであり、一次純水が供給される貯槽11と、貯槽11の出口に接続して貯槽11内の純水を給送するポンプ12と、ポンプ12の出口に接続された流量センサ(FI)13と、紫外線酸化装置(UV)14と、強酸性カチオン交換樹脂と強塩基性アニオン交換樹脂とを混床で充填した非再生型イオン交換装置(CP:カートリッジポリッシャーともいう)15と、限外濾過装置(UF)16とを備えている。紫外線酸化装置14、非再生型イオン交換装置15及び限外濾過装置16は、この順で、流量センサ13の出口に対して直列に接続している。紫外線酸化装置14は純水中の全有機炭素(TOC)を分解するためのものであって殺菌作用も有するが、紫外線酸化装置14とは別に貯槽11に紫外線殺菌ランプを設けてもよい。
純水製造装置10は循環精製によって純水を生成するが、本実施形態では、純水は採水ディスペンサー30も含めて循環するようにしている。そのため、限界濾過装置16の出口は配管17を介して純水製造装置10の循環出口18に接続している。また、純水製造装置10は、採水ディスペンサー30から戻ってきた純水を受け入れる循環入口19を備えており、循環入口19は配管20を介して貯槽11に接続している。一次純水としては、例えば市水をフィルター、活性炭処理装置及びイオン交換装置に通水して得られた水が用いられる。
この純水製造装置10では、貯槽11からポンプ12を経て、流量センサ13、紫外線酸化装置14、非再生型イオン交換装置15、限外濾過装置16及び採水ディスペンサー30を通り貯槽11に戻る循環精製系が構成されている。ポンプ11を動作させて循環精製系に純水を循環させることによって、純水がさらに精製される。採水ディスペンサー30が接続していない状態でも純水を循環させることができるように、配管17と配管20とを短絡する配管21が設けられ、配管21にはバイパス弁22が設けられている。バイパス弁22は、採水ディスペンサー30が純水製造装置10に接続しているときには閉じられ、接続していないときには開けられる。後述する定量採水を実施するために、配管20において、配管21が接続する位置よりも循環入口19側の位置に、電磁弁23が設けられている。さらに純水製造装置10には、純水製造装置10の全体の動作を制御するために制御装置25が設けられている。
採水ディスペンサー30は、例えば実験台などの設置面の上に載置される本体部40と、利用者が手に持って動かすことができる採水ガン80とから構成されている。採水ガン80は、採水ヘッドなどとも呼ばれる。採水ガン80には実際に純水を吐出するノズル86が設けられている。採水ディスペンサー30は、純水製造装置10の循環出口18及び循環入口19にそれぞれ接続する配管31,32を備えており、配管31,32は、本体部40を経て採水ガン80にまで延びている。本体部40には、利用者に対して情報を提示し、利用者からの入力を受け付けるための、例えばタッチパネルからなる操作パネル43が設けられている。
配管31,32は、本体部40と採水ガン80との間では、これらの配管31,32を一体化させた複合配管70として設けられている。複合配管70には、本体部40と採水ガン80との間の電気配線も組み込まれている。採水ガン80は、その接続部83によって複合配管70に接続する。採水ガン80の内部には、接続部83によって配管31,32とそれぞれ一端が接続する配管81,82が設けられている。配管81,82の他端は相互に接続し、この接続点からノズル86に至る流路が形成されている。この流路の構成については後述するが、この流路には電磁弁85が設けられており、また、純水に含まれる生菌の殺菌のために流路内の純水に紫外線を照射するように紫外線LED84が配置されている。電磁弁85は、例えば、比例制御弁であって、開としたときの開度を調整可能なものである。さらに採水ガン80には、電磁弁85の開閉の操作を行い、かつ電磁弁85を開けたときの純水の流量を調整するために用いられるホイール93が設けられている。ホイール93は、水平方向に延びる軸の周りを回転可能であって、利用者がその指によってホイール93を回転させ、またホイール93を押し込むことができるようになっている。ホイール93の回転は、その回転軸に連結したロータリーエンコーダ88によって検出され、ホイール93が押し込まれたかどうかは、ホイール93を保持する支持部材100(図6参照)に取り付けられているマイクロスイッチ87によって検出されるようになっている。マイクロスイッチ87での検出結果とロータリーエンコーダ88での検出結果を処理するための処理回路89も採水ガン80の内部に設けられている。
図2は採水ディスペンサー30の外観を示す図であって、(a)及び(b)は、それぞれ、前面側及び背面側から見た斜視図である。図3は採水ディスペンサーの構成の要部を説明する図であって、(a)は左側面図、(b)は(a)において二点鎖線Bで囲まれた部分における断面図、(c)は(a)において二点鎖線Cで囲まれた部分の断面図である。採水ディスペンサー30の右側面図を省略するが、後述する解除ボタン47が設けられない点を除けば、採水ディスペンサーの右側面は概ね左側面とは対称なものとなっている。これらの図面を用いて採水ディスペンサー30についてさらに詳しく説明する。なお、後述するように採水ディスペンサー30の採水ガン80ではノズル86を囲むように保護用のカバー94が設けられており、ノズル86はカバー94に隠されるので、図2及び図3では、ノズル86自体は示されていない。
本体部40は、実験台の上などに載置される部分であるベース41と、ベース41の上方に位置するアーム取付部42と、ベース41から上方に延びる柱状部45と、アーム取付部42に一端が取り付けられた2本のアーム51,52と、実際に採水ガン80を取り外し可能に保持する保持部60と、から構成されている。柱状部45は、アーム取付部42を貫通する円柱として構成されており、柱状部45の表面には、柱状部45の長さ方向に沿って一定の間隔で、円周方向に延びる溝46が形成されている。アーム取付部42は、柱状部45に沿って、柱状部45の長手方向にスライド可能であるように構成されている。実際には、アーム取付部42の内部には、柱状部45の表面に対してばね等によって付勢された突起(不図示)が設けられている。この突起は、柱状部45の表面に設けられた溝46に対して係合できるようになっている。これにより、突起が溝46に係合する位置においてアーム取付部42の高さ位置を固定することができる。また、溝47の各々は、円周方向に沿って柱状部45の表面を1周するように設けられているので、高さ方向を固定した上で、アーム取付部42を柱状部45の周りで回転させることができる。アーム取付部42の側面に設けられた解除ボタン47を押し込むことにより、溝47に対する突起の係合状態を解除できるようになっており、利用者は、解除ボタン47を押しながら柱状部45の長手方向にアーム取付部42を容易に移動させることができ、柱状部45の長さの範囲内でアーム取付部42の高さ位置を容易に調整することが可能になる。
実際に採水ガン80を取り外し可能に保持する保持部60は、2本のアーム51,52によって平行リンク機構が構成されるようにして、アーム取付部42に取り付けられている。本実施形態では、2本のアーム51,52は、両者が相互に平行である状態を保ったまま、アーム取付部42の側を固定端として、水平から垂直までの90°の範囲で移動できるようになっている。アーム51,52が動くとき、アーム51,52の軌跡は同一の垂直面内にあり、平行リンク機構としてはこの垂直面内で運動可能であることになる。2本のアーム51,52からなる平行リンク機構は、アーム取付部42に対する採水ガン80の姿勢を変えることなく、保持部60のアーム取付部42に対する相対的な位置を変えることが可能であるように、保持部60を取付基部であるアーム取付部42に接続する接続機構として機能する。ここでは、アーム51,52により平行リンク機構が構成されるとしたが、平行リンク機構を構成するためのアームの本数は2に限定されるものではなく、3以上であってもよい。以下では、2本のアーム51,52によって平行リンク機構が構成されるものとする。
フラスコやビーカーなどの容器に採水する場合に、採水ガン80を手で持たなくてもよいようにしたいという要望がある。特に、採水量が多くて採水に時間がかかる場合について、そのような要望が強い。その場合、容器の大きさはさまざまであるので、採水ガン80の高さ位置を容易に変えられることが望まれる。また、実際の採水動作を考えると、所定位置に容器を配置した上で、採水ガン80を容器の開口に接近させてノズル86から純水を吐出し、採水が終われば採水ガン80を容器の開口から遠ざけることになる。垂直面内で運動可能な平行リンク機構を採用することにより、採水ガン80の姿勢、特にノズル86の向きを変えることなく、こうした一連の動作をスムースに行うことが可能になる。さらに、平行リンク機構の採用に加え、上述のようにアーム取付部42の高さ位置を可変とすることで、小型のビーカーやフラスコから大型のビーカー、さらにはポリエチレン製のタンク類への採水に対応することが可能になる。容器に対する円滑な採水作業のためには、アーム51,52にはある程度以上の長さが必要であり、採水ディスペンサー30の非使用時にこのアーム51,52が作業の邪魔となるおそれがある。本実施形態ではアーム51,52を垂直状態とすることできるようにして、採水を行わないときにアーム51,52が作業の邪魔となることも防止している。
本実施形態では、アーム取付部42において実際にアーム51,52が取り付けられる位置はアーム取付部42の内部となっており、図3(b)に示すように、アーム取付部42内においてアーム51,52の先端がそれぞれ軸53,54の周りを回転可能に取り付けられている。この場合、アーム取付部42の表面には、アーム51,52の可動範囲に応じて溝状の開口を設ける必要があり、溝状の開口の幅は、クリアランスを考えて、軸53,54の延びる方向で測ったアーム51,52の太さより若干広いものとされる。アーム取付部42と操作パネル43との距離が近い場合に、操作パネル43に触れようとした利用者の指が誤って溝状の開口に挟まれてしまうおそれがある。そこで本実施形態では、アーム51,52の延びる方向に対して軸53,54の位置がずれるようにするとともに、軸53,54の周りでアーム51,52の先端部を膨らませて膨らみ部55,56としている。アーム51の膨らみ部55は、例えば軸53を中心とする円から切り出された半円の形状であり、アーム52の膨らみ部56は、例えば軸54を中心とする半径の異なる2つの円のそれぞれから切り出された四分円を組み合わせた形状である。軸53,54の延びる方向での膨らみ部55,56の厚さは、上述したアーム51,52の太さと同じである。このように膨らみ部55,56を設けることによって、平行リンク機構として相互に平行な関係を保ったままアーム51,52が軸53,54の周りを回転したときに、アーム51,52の延びる方向によらず、アーム取付部42に形成される溝状の開口が膨らみ部55,56によって実質的に塞がれるようになる。
軸53,54の周りでのアーム51,52の回転に伴って、膨らみ部55,56も軸53,54の周りを回転するが、膨らみ部55,56の回転移動の軌跡を覆うように、アーム取付部42には、溝状の開口の両側には開口端に沿って土手状のカバー部57,58が形成されている。カバー部57,58はアーム取付部42の表面に直立する半円状の形状を有する。本実施形態では、アーム51,52にそれぞれ膨らみ部53,54を設け、さらに、溝状の開口の両側にカバー部57,58を設けることにより、溝状の開口に利用者の指が誤って挟まれることを防止することができる。
さらに、保持部60や保持部60に載置されている採水ガン80の自重によってアーム51,52が動き、保持部60も下方に動くことは避けなければならない。そのため、軸53,54の位置において金属板によりアーム51,52を挟み込み、さらに軸53,54を構成するシャフト状の部材にウェーブワッシャまたは皿ばねをはめてこのウェーブワッシャまたは皿ばねによって金属板をアーム51,52の方向に押圧してアーム51,52が金属板に対して摺動する構成とすることできる。この構成では、アーム51,52が金属板に対して摺動するときの摩擦抵抗が大きくなるので、アーム51,52が軸53,54の周りを回転することなくこの摺動部を介して保持部60や採水ガン80の重量を保持することが可能になる。
以上説明したように、本実施形態の採水ディスペンサー30では、アーム取付部42の高さ位置を変えることができるようにするとともに、平行リンク機構を有するアーム51,52の使用により、保持部60に保持されている採水ガン80の高さを調整したり本体部40から見て採水ガン80を手前側に引き出した位置に移動させたりすることができる。図4は、このようなアーム51,52や採水ガン80の動きを示す左側面図である。図4では、採水ディスペンサー30を簡略化して示しており、特に、複合配管70については記載していない。図4(a)は、図2や図3に示した状態からアーム取付部42の位置を上方に移動させた状態を示している。図4(b)は、図2や図3に示した状態から、保持部60に保持されている採水ガン80を手前に引き出した結果、アーム51,52が斜め方向となっている状態を示している。図4(c)は、図4(b)に示す状態から採水ガン80をさらに手前に引き出した結果、アーム51,52がほぼ水平となっている状態を示している。さらに図4(a)において矢印で示すように、アーム取付部42は、柱状部45の周りを回転可能である。
次に、保持部60について説明する。上述したように保持部60は、平行リンク機構を有するアーム51,52によってアーム取付部42に取り付けられ、水平面に対するアーム51,52の角度によらず、採水ガン80を一定の姿勢で保持する機能を有する。採水ガン80のノズル86は、通常の採水時には、垂直方向下向きに純水を吐出する。しかしながら、水流の形態であるか滴下の形態であるかによらず、ノズル86から純水を放出したことによる水の飛び跳ねや泡立ちを防ぎたい場合などがある。そのような場合には、積極的に容器の内壁に沿うように純水を吐出することが望ましい。本実施形態では、そのような要望に応えるため、保持部60に角度調整のための機構を組み込み、保持部60に取り付けられた状態の採水ガン80を傾けることができるようになっている。採水ガン80を傾けることにより、ノズル86からの純水の吐出方向も、垂直方向下向きから傾くことになる。
保持部60は、大別すると、アーム51,52が取り付けられる第1の部材61と、第1の部材61に対して軸63を介して接続する第2の部材62と、第2の部材62の先端に設けられたホルダ部67とから構成されている。ホルダ部67は、実際に採水ガン80を取り外し可能に保持する部分であり、採水ガン80の外表面の一部を包み込むことが可能な形状を有している。後述の図5に示すように、ホルダ部67には垂直方向上方を向いたピン68が設けられており、このピン68は、採水ガン80に設けられた固定用孔89と係合可能になっている。固定用孔89にピン68が挿入されるように上方から採水ガン80をホルダ部67に向けて載置することによって、採水ガン80はホルダ部67に固定される。固定用孔89に係合するピン68を設けたことにより、ホルダ部57に採水ヘッド80を支持させたときに採水ヘッド80が容易にはホルダ部57から抜け落ちないようになっており、また、採水ガン80を動かすことでアーム51,52が動き、上述したような採水ガン80を手前に引き出すような操作が可能となる。採水ガン80をホルダ部67から取り外すときは、ピン68が固定用孔89から抜き取られるように、採水ガン80を上方に引き上げればよい。ホルダ部67は、第2の部材62と一体の部材として構成されていてもよい。
保持部60において第1の部材61と第2の部材62とは、通常時には固定されているが、軸63の周りで相互間の角度を調整可能であるように接続されている。このような機構は、例えば、第1の部材61と第2の部材62とが摺動面を介して相互に接し、かつ摺動面に対してばねなどによる押圧力が加わるような構成によって実現することができる。あるいは、図3(c)に示すように、第2の部材62において軸63からの距離が等しい複数の箇所、すなわち等半径となる複数の位置の凹部65を設け、第1の部材61には凹部65のいずれかに係合するようにボールプランジャあるいはプレスフィットプランジャ64を設ける構成によっても実現できる。図3(c)に示す例では、第1の部材61において2つのプレスフィットプランジャ64を軸63に対して対称となるように設けており、これに対応して第2の部材62には、プレスフィットプランジャ64の1個当たり4箇所の凹部65を設けている。凹部65は、軸63の位置から見て15°間隔で等間隔に設けられている。
第1の部材61と第2の部材62の間で軸63周りでの強い回転方向の力を印加しなければ、各プレスフィットプランジャ64は、それぞれ、4個の凹部65のうちのいずれかと係合し、その結果、第1の部材61と第2の部材62との間の位置関係は保たれる。これに対し、軸63周りの強い回転方向の力を印加すると、プレスフィットプランジャ64が凹部65に係合していることによる保持力よりも回転方向の力のほうが上回って、軸63の周りで第1の部材61と第2の部材62とが相対的に回転する。回転方向の力の印加をやめると、そのときの第1の部材61と第2の部材62との相対位置に応じた凹部65にプレスフィットプランジャ64が係合することとなって、その位置で第1の部材61と第2の部材62との位置関係が保たれるようになる。この構成では、凹部65が軸63から見て15°間隔で設けられていることにより、採水ガン80の傾きを、より具体的にはノズル86からの純水の吐出方向を垂直方向下方を含む45°の角度範囲内で、15°刻みで調整することが可能になる。
次に、複合配管70について説明する。複合配管70は、採水ディスペンサー30において、本体部40のベース41の背面と採水ガン80に設けられる接続部材83との間に設けられる。上述したように採水ガン80は取り外し可能であり、また、保持部60に採水ガン80が取り付けられていたとしてもアーム取付部42の高さ調整やアーム51,52に対する引き出し動作によって保持部60の位置自体を変えることができるから、複合配管70は可撓性を有することが必要である。複合配管70は、本体部40と採水ガン80との間の配管31,32と電気配線とを束ねたものである。束ねた配管31,32や電気配線とがほぐれないように、複合配管70の表面には、コルゲート状あるいは蛇腹状のシースあるいはカバー71が設けられる。このカバー71は、例えば合成樹脂によって形成される。
次に、採水ガン80について、図2、図3及び図5を用いて説明する。図5は採水ガン80の内部構成を示している。利用者が手で持って容易に動かすことができるように、採水ガン80には、垂直方向上方に延びるハンドル(取っ手)90が形成されている。ハンドル90を持って採水ガン80を上方に動かせば、採水ガン80の固定用孔89からホルダ部67のピン68が離脱する。これによって利用者は、保持部60に採水ガン80を保持させたまま採水を行ったり、採水ガン80を手で持って実験台の上に整列して置かれた多数の試験管に対して次々と純水を注いだりすることができるようになる。採水ガン80を手で持ったときの作業性をよくするために、ハンドル90自体をヒトの手の握りの形状に合わせて湾曲したものとし、ハンドル90を確実に握ることができるようにしている。さらに、ハンドル90において利用者が片手で持ったときに利用者とは反対方向を向く表面、すなわちハンドル90を握ったときに手のひらではなく書く指が接する部分の表面には、水平方向に延びる線状の突起を複数本形成して滑り止め97としている。滑り止め97が形成される表面は、ハンドル90が湾曲しているとして湾曲の内側を向いた表面である。以下に説明するように垂直に延びるハンドル90の上端の位置にホイール93を設け、ノズル86はハンドル90の下端側に配置されるようにすることにより、採水ガン80は、利用者に対し、デジタルピペットあるいは電動ピペットといった実験器具と同様の操作感を与える。
図1において説明したホイール93は、ハンドル90の上端の位置に、ハンドル90を握った利用者がその親指で操作できるように設けられている。ホイール93は、半径に比べて高さが低い円筒形状のものであって、その回転軸がホイール93の長手方向に直交する方向となるように設けられている。ホイール93はその円筒面の全周のうちの半分未満、例えば3分の1から4分の1程度の部分がハンドル90の外表面から露出している。ホイール93の円筒面は、指で操作したときに滑らないように、例えば、多数の平行溝が形成されたゴムなどによって構成されている。このようにホイール93を設けることによって、利用者は、その親指を用いることによって、ホイール93を上向きに回転させたり、下向きに回転させたり、さらには、ホイール93をハンドル90の内部の方向に押し込むことができるようになっている。ホイール93をハンドル90の内部に押し込むときの押し込みの方向は、ホールの回転軸の方向と直交する方向となっている。すなわちホイール93は、パーソナルコンピュータなどにおいてユーザインタフェースとして用いられる最近のマウスに標準的に備えられているスクロールホイールと同様のものであるといえる。ただし、マウスのスクロールホイールは一般に利用者の人差し指あるいは中指での操作が想定されているが、本実施形態のホイール93は親指での操作が想定されている点で相違する。ここで上向き、下向きとは、ホイール93の円筒面のうち利用者にとって手前側の部分が上方向に動かされるか(上向き)、下方向に動かされるか(下向き)を示している。ホイール93が回転したことは、ホイール93の回転軸に接続されたロータリーエンコーダ88によって検出され、処理回路89は、ロータリーエンコーダ88からの信号に基づき、ホイール93の回転方向と回転量とを制御装置25に通知する。
本実施形態では、ホイール93の回転方向は、純水をノズル86から吐出するときの純水の流量を調整するために使用される。一例として、ホイール93を上向きに回すことにより流量を増やし、下向きに回すことにより流量を減らすようにすることができる。あるいは逆に、ホイール93を上向きに回すことにより流量を減らし、下向きに回すことにより流量を増やすようにすることができる。どれだけ流量を増減するかは、ホイール93の回転量に応じて定めることができる。ホイール93の回転方向と流量の増減とをどのように関連付けるかは、採水ディスペンサーの製造時に予め設定しておいてもよいし、制御装置25における設定によって出荷後に変更可能であるようにしてもよい。誤動作等を避けるためには、同一の企業や研究機関において、ホイール93の回転方向と流量の増減との関係を統一しておくことが好ましい。
ホイール93をハンドル90の内部の方向に押し込まれたことは、マイクロスイッチ87によって検出され、このことは処理回路89を介して制御装置25に伝えられる。マイクロスイッチ87は、利用者が採水のための採水要求を入力して制御装置25に電磁弁85の開閉を制御させるために用いられる。例えば、ホイール93が押し込まれているときだけ電磁弁85を開けてノズル86から純水を吐出させるような制御を実行することができる。上述したようにホイール93の回転に応じて純水の吐出量の調整が行われているのであれば、ホイール93が押し込まれたときにノズル86から吐出される純水の流量は、ホイール93の回転によって調整された流量である。制御装置25による電磁弁85の制御の詳細については後述する。
図6は、採水ガン80の内部においてホイール93などを取り付けるために用いられる支持部材100を示す図であり、(a)はホイール93が取り付けられた面側から見た斜視図であり、(b)は(a)とは反対側の面から見た斜視図である。支持部材100は下端側の幅が狭く上端側の幅が広いへら状の部材であって、上端側の位置において、支持部材100の一方の面側にホイール93が回転可能に取り付けられている。ホイール93の回転軸は、支持部材100の長手方向に直交する方向となっている。ホイール93の回転を妨げないように、ホイール93に対応する位置において支持部材100の一方の面は窪んでいるが、他方の面とは連通していない。ホイール93の回転軸の一端側にはケース101が設けられ、このケース101の中にロータリーエンコーダー88が格納されている。支持部材100においてホイール93が取り付けられているのとは反対側の面すなわち他方の面には、マイクロスイッチ87が設けられるほか、処理回路89が実装される基板102と、処理回路89と制御装置100とを接続するための配線が接続されるコネクタ103とが設けられている。
ハンドル90の先端部の外表面には溝状の開口が形成されており、この開口からホイール93の一部がハンドル90の外に露出するように、支持部材100はハンドル90の内部に設けられている。支持部材100は、ホイール93が押し込まれたときに支持部材100の下端を支点として動くようになっている。その結果、ホイール93がハンドル90の内部の方向に押し込まれると、ハンドル90の内部に設けられた当接部材98に対してマイクロスイッチ87の可動部が当接して変位し、これにより、ホイール93が押し込まれたことをマイクロスイッチ87が検出できることになる。
採水ディスペンサー30は、実験室における純水の採水に使用されるものであるという特性上、濡れた手で採水ガン80のホイール93が操作される可能性があり、ホイール93のための開口からハンドル90の内部に水が進入する可能性がある。水が進入すると、ホイール93の周辺にある電子回路や電気的な接点がその影響を受けやすい。本実施形態では、支持部材100の一方の面にホイールを設け、他方の面にマイクロスイッチ87や基板102を設けているので、マイクロスイッチ87の接点部や、基板102に実装された処理回路89への水等の進入を防ぐことができる。ロータリーエンコーダ88についてもケース101内に格納されており、水等の影響を受けにくくなっている。
図5に示すように、ノズル86は、採水ガン80において、ホルダ部67に採水ガン80を載置したときに下側となる面に設けられている。ノズル86は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やPVDF(ポリフッ化ビニリデン)などのフッ素樹脂から構成されており、内部に直線状の貫通孔が流路として形成されており、貫通孔の先端である開口から純水を吐出する。ノズル86の交換頻度が高いことが予想される場合などには、コストなどの観点から、例えばポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などの樹脂によってノズル86を形成してもよい。カバー94は、ノズル86を保護し、また、ノズル86から吐出している純水に大気中からのごみなどが混入しないように、ノズル86の周辺を囲みかつ下方に向かって開く形状で設けられている。カバー94は、例えば透明な合成樹脂によって形成されている。
採水ガン80の内部において接続部材83から延びる配管81,82は三方継手91の2つの端部にそれぞれ接続している。三方継手91のもう1つの端部すなわち出口は、PTFEやPVDFなどのフッ素樹脂からなる中空体すなわちケース92の内部に連通している。ここでは三方継手91としてはY字継手を用いているが、Y字継手の代わりにT字継手を用いてもよい。三方継手91は、配管81,82の接続点を構成し、これにより、純水製造装置10と採水ディスペンサー30との間で循環精製のために純水を循環させる経路が完成することになる。電磁弁85は、少なくとも純水と接触する部分がPTFEやPVDFなどのフッ素樹脂で構成されたものであり、開状態では入口側から出口側に向けて直線の流路が形成されるものである。三方継手91の出口からノズル86の先端の開口に至るまでの純水の流路は、ケース92、電磁弁85及びノズル86で構成されることになる。特にこの採水ガン80では、ケース92、電磁弁85及びノズル86による流路は一直線上に配置されている。すなわち、ノズル86に供給される純水が流れる流路は、ノズル86の先端の開口を一端とする区間において直線に形成されている。
紫外線LED84は、ケース92の側からノズル86に向けて、流路の軸方向に沿って、純水の流れの上流側から、この流路内の純水に紫外線を照射するように配置されている。ケース92内に紫外線を導入することができるように、ケース92の紫外線LED84を向いた面は、紫外線導入窓となる石英ガラス板95によって構成されている。実際には紫外線は紫外線LED84からある広がりをもって出射するが、紫外線LED84の出射光の光軸は流路の軸に一致しているから、特に電磁弁85が開状態にあるときは、紫外線LED84からの紫外線は、ノズル86にまで達する。その結果、吐出のためにノズル86に至る流路内を流れる純水に紫外線を照射でき、ノズル86からの吐出の直前のタイミングで純水の殺菌処理を行なえることになる。紫外線導入窓である石英ガラス板95の部分を除き、ケース92及び電磁弁85を通ってノズル86に至るまでの流路の内壁はフッ素樹脂で構成されているが、フッ素樹脂は、純水に対する溶出が少なく、紫外線に対する耐久性を有し、しかも紫外線を大きく乱反射(拡散反射)するので、紫外線が照射される部分を構成する素材として好ましいものである。
次に、紫外線LED84として用いることができる素子について説明する。本実施形態においては、紫外線LED84によって発生する紫外線により純水中の生菌を低減するので、紫外線LED84が発生する紫外線は殺菌効果の高い波長のものである必要がある。この観点から、紫外線LED84としては、その発光ピーク波長が260nm以上285nm以下の範囲内にあるものを使用することが好ましい。この程度の波長の紫外線LED84は、動作時の発熱量が大きいから、紫外線LED84には適宜の放熱板あるいはヒートシンクを取り付けることが好ましい。
従来は殺菌用の紫外線の光源としては水銀ランプが多用されていたが、水銀ランプは大型であって採水ディスペンサーなどへの組み込みが不可能であった。また、水銀ランプは、立ち上がりに時間がかかり、かつ、オン/オフの頻度が高いと著しく寿命が短くなるため、ユースポイントでの純水の需要があるたびに動作させるという使い方には適さないものであった。これに対し本実施形態では、小型であって立ち上がり時間が早く、オン/オフを繰り返しても劣化が少ない紫外線LEDを用いることにより、採水ディスペンサーに組み込んで、ノズル86から吐出する直前のタイミングでの殺菌処理を可能にしている。例えば、紫外線LEDのサイズは数mm角から2cm角程度であり、紫外線LEDの立ち上がり時間もミリ秒のオーダーであってこれは電磁弁85の作動時間に匹敵するかそれよりも速い。紫外線LEDを用いれば、純水の需要があるときだけ紫外線の照射を行うようにしても、素子の寿命の問題を生じることなく、確実に殺菌処理を行うことができる。
次に、本実施形態の採水ディスペンサー30を制御するための構成について、図1を用いて説明する。純水製造装置10内に設けられた制御装置25は、採水ディスペンサー30を含めた純水製造装置10の全体の制御を行うものであるが、特に、採水ディスペンサー30での純水の吐出を制御し、また、吐出される純水への紫外線の照射を制御する。図1において点線は、制御装置25に対する電気系統の配線のうち、採水ディスペンサー30からの純水の吐出の制御に関わる配線を示している。制御装置25は、純水製造装置10内の流量センサ13から流量検出結果を受信し、電磁弁23の開閉を制御する。さらに制御装置25は、採水ガン80に設けられた処理回路89から信号を受信し、紫外線LED84を駆動し、電磁弁85の開閉や開度を制御する。さらに、採水ディスペンサー30の操作パネル43も制御装置25に接続しており、制御装置25は、操作パネル43を介して利用者に対して情報の表示を行なうとともに設定の入力を促し、利用者からの設定の入力を受け付ける。
上述したように、採水ガン80に設けられたホイール93を押し込みマイクロスイッチ87を作動させることで、利用者は、採水を行なうための採水要求を入力することができる。もっとも、採水要求を入力するための手段は、ホイール93に機械的に接続するマイクロスイッチ87に限定されるものではない。例えば、マイクロスイッチ87による採水要求の入力を可能にしつつ、利用者の足で操作可能なフットスイッチ(不図示)を設け、フットスイッチの操作によっても採水要求が制御装置25に入力するようにしてもよい。
操作パネル43を介して利用者によって設定可能な項目には、例えば、採水量や採水モードがある。採水モードには、例えば定量モードと任意量モードがある。定量モードは、1回のスイッチ操作(すなわち1回の採水要求)によって、予め設定された量の純水を採水するモードである。これに対して任意量モードは、マイクロスイッチ87などのスイッチが操作されている期間中(すなわち採水要求が出されている期間中)、純水をノズル86から吐出し続けるモードである。制御装置25は、定量モードが設定されているときにスイッチ操作などによる採水要求を受け付けたときは、電磁弁23を閉じ、流量センサー13で検出される流量の累積値が設定値となるまで電磁弁85を開放する制御を行なう。流量の累積値が設定に達したら電磁弁23を開けて純水の循環を再開させるとともに、採水ガン80内の電磁弁85を閉じて採水を終了させる。これにより、予め定めた量の純水が採水できたことになる。一方、採水モードが任意量モードであるときにホイール93を介してマイクロスイッチ87が操作されるなどして採水要求を受け付けたときには、制御装置25は、採水要求が出ている期間だけ電磁弁85を開放する制御を行なう。その結果、利用者によるスイッチ操作の期間中、純水が電磁弁85を介してノズル86から吐出する。任意量モードの場合には電磁弁23は開放状態のままであり、純水製造装置10と採水ディスペンサー30との間の純水の循環は継続する。
本実施形態では、採水ガン80の内部に設けられる電磁弁85として、開度の制御が可能なものを使用する。制御装置25は、電磁弁85を開とするときにその開度を調整してノズル86から吐出される純水の流量を制御することができる。吐出される純水の流量は、上述したように、ホイール93を上方向あるいは下方向に回転することによって調整することもできるし、あるいは、操作パネル43の画面上での入力操作によって行うことができる。利用者がホイール93を回転したことはロータリーエンコーダ88によって検出されその回転方向と回転量とが処理回路89から制御装置25に伝えられるから、制御装置25は、伝えられた回転方向及び回転量に応じて電磁弁85の開度を調整する。調整された開度は、次にホイール93が操作されるまで維持され、その間にスイッチ操作が行われれば、電磁弁85は調整された開度で開に制御される。もちろん、スイッチ操作が行われていなければ、調整された開度によらず、電磁弁85は閉に制御される。あるいは、電磁弁85の開度について既定値(デフォルト値)を定めておき、利用者がホイール93を押し込んでスイッチ操作を行いつつホイール93を回転させたときに、その回転に応じて開度を変更して純水の吐出量を増減させるようにしてもよい。この場合は、利用者がホイール93を押し込むを止めると電磁弁85は閉となるとともに、開度は既定値に復帰し、次にホイール93を押し込まれてスイッチ操作が行われたときには、既定値の開度で電磁弁85が開くことになる。
ここでは、電磁弁85において開度を調整するものとしたが、採水ディスペンサー30の本体部40において配管31に、制御装置25によって制御される流量調整機構としての例えば流量制御弁を設け、採水ガン80の電磁弁85は単純に開閉のみを行い、本体部40内の流量調整機構において流量の調整を行うようにしてもよい。さらには、純水製造装置10の内部に流量制御弁を設けるようにしてもよい。
制御装置25は、ここで説明した電磁弁23,85の制御のほかに、採水ガン80内の電磁弁85が開放しているときには採水モードによらずに紫外線LED84が駆動され、電磁弁85が閉じているときには紫外線LED84が消灯するように制御を行なう。この制御は、実際には、電磁弁85の開閉と連動して紫外線LED84の駆動を行なうことにより実現される。これにより、ノズル86から吐出される純水が、ノズル86からの吐出の直前のタイミングで紫外線を照射され、殺菌処理されることになる。
純水を循環させつつその循環の経路のいずれかにおいて紫外線照射による殺菌処理を行なっていれば、生菌類は増殖しにくい。これに対し、循環せずに滞留する箇所にある純水では生菌類が増殖しやすい。採水ディスペンサー30の採水ガン80内のケース92や電磁弁85も、長時間にわたって採水を行なわなかった場合には、生菌類が繁殖しやすくなる条件を満たす可能性がある。そこで、本実施形態では、採水が行われない場合であっても、例えば1時間に1回、1分間程度にわたって紫外線LED84を駆動し、ケース92や電磁弁85内に滞留している純水に対する殺菌処理を行なうことが好ましい。
上述した採水ディスペンサー30では、紫外線LED84からの紫外線が入射するケース92と、純水を吐出するノズル86との間に電磁弁85を配置しているが、電磁弁85を設ける場所はこれに限られない。例えば、三方継手91とケース92とに間に電磁弁85を配置し、ノズル86はケース92に直接接続するようにしてもよい。すなわち採水ガン80は、電磁弁85の位置によらず、電磁弁85から流出した純水に対して紫外線を照射できるように構成されていればよい。さらには、純水製造装置10の循環精製系を構成する配管を採水ディスペンサー30にまで引き伸ばさずに、純水製造装置10内で循環精製系から分岐した単一の配管を採水ディスペンサー30に接続するようにしてもよい。さらに言えば、純水を貯蔵するタンクを純水源として用い、このタンクからの純水を採水ディスペンサー30を供給するようにすることもできる。しかしながら、上述したように純水が滞留しやすい箇所では生菌が繁殖しやすいので、できる限り、この滞留しやすい箇所の全体に紫外線を照射できて殺菌処理を行なえることが好ましい。そのため、電磁弁85にも紫外線が照射されるようにケース92とノズル86の間に電磁弁85を設けることが好ましく、循環中に殺菌を行うことができる循環精製系を純水源として用いることが好ましい。純水精製系として構成された純水製造装置10を純水源として用いる場合には、循環精製系から分岐する部分の配管長をできるだけ短くするために、循環精製系を構成する配管を採水ガン80に引き込むことが好ましい。
この純水製造装置10では、貯槽11からポンプ12を経て、流量センサ13、紫外線酸化装置14、非再生型イオン交換装置15、限外濾過装置16及び採水ディスペンサー30を通り貯槽11に戻る循環精製系が構成されている。ポンプ12を動作させて循環精製系に純水を循環させることによって、純水がさらに精製される。採水ディスペンサー30が接続していない状態でも純水を循環させることができるように、配管17と配管20とを短絡する配管21が設けられ、配管21にはバイパス弁22が設けられている。バイパス弁22は、採水ディスペンサー30が純水製造装置10に接続しているときには閉じられ、接続していないときには開けられる。後述する定量採水を実施するために、配管20において、配管21が接続する位置よりも循環入口19側の位置に、電磁弁23が設けられている。さらに純水製造装置10には、純水製造装置10の全体の動作を制御するために制御装置25が設けられている。
本体部40は、実験台の上などに載置される部分であるベース41と、ベース41の上方に位置するアーム取付部42と、ベース41から上方に延びる柱状部45と、アーム取付部42に一端が取り付けられた2本のアーム51,52と、実際に採水ガン80を取り外し可能に保持する保持部60と、から構成されている。柱状部45は、アーム取付部42を貫通する円柱として構成されており、柱状部45の表面には、柱状部45の長さ方向に沿って一定の間隔で、円周方向に延びる溝46が形成されている。アーム取付部42は、柱状部45に沿って、柱状部45の長手方向にスライド可能であるように構成されている。実際には、アーム取付部42の内部には、柱状部45の表面に対してばね等によって付勢された突起(不図示)が設けられている。この突起は、柱状部45の表面に設けられた溝46に対して係合できるようになっている。これにより、突起が溝46に係合する位置においてアーム取付部42の高さ位置を固定することができる。また、溝46の各々は、円周方向に沿って柱状部45の表面を1周するように設けられているので、高さ方向を固定した上で、アーム取付部42を柱状部45の周りで回転させることができる。アーム取付部42の側面に設けられた解除ボタン47を押し込むことにより、溝46に対する突起の係合状態を解除できるようになっており、利用者は、解除ボタン47を押しながら柱状部45の長手方向にアーム取付部42を容易に移動させることができ、柱状部45の長さの範囲内でアーム取付部42の高さ位置を容易に調整することが可能になる。
保持部60は、大別すると、アーム51,52が取り付けられる第1の部材61と、第1の部材61に対して軸63を介して接続する第2の部材62と、第2の部材62の先端に設けられたホルダ部67とから構成されている。ホルダ部67は、実際に採水ガン80を取り外し可能に保持する部分であり、採水ガン80の外表面の一部を包み込むことが可能な形状を有している。後述の図5に示すように、ホルダ部67には垂直方向上方を向いたピン68が設けられており、このピン68は、採水ガン80に設けられた固定用孔89と係合可能になっている。固定用孔89にピン68が挿入されるように上方から採水ガン80をホルダ部67に向けて載置することによって、採水ガン80はホルダ部67に固定される。固定用孔89に係合するピン68を設けたことにより、ホルダ部67に採水ヘッド80を支持させたときに採水ヘッド80が容易にはホルダ部67から抜け落ちないようになっており、また、採水ガン80を動かすことでアーム51,52が動き、上述したような採水ガン80を手前に引き出すような操作が可能となる。採水ガン80をホルダ部67から取り外すときは、ピン68が固定用孔89から抜き取られるように、採水ガン80を上方に引き上げればよい。ホルダ部67は、第2の部材62と一体の部材として構成されていてもよい。
次に、採水ガン80について、図2、図3及び図5を用いて説明する。図5は採水ガン80の内部構成を示している。利用者が手で持って容易に動かすことができるように、採水ガン80には、垂直方向上方に延びるハンドル(取っ手)90が形成されている。ハンドル90を持って採水ガン80を上方に動かせば、採水ガン80の固定用孔89からホルダ部67のピン68が離脱する。これによって利用者は、保持部60に採水ガン80を保持させたまま採水を行ったり、採水ガン80を手で持って実験台の上に整列して置かれた多数の試験管に対して次々と純水を注いだりすることができるようになる。採水ガン80を手で持ったときの作業性をよくするために、ハンドル90自体をヒトの手の握りの形状に合わせて湾曲したものとし、ハンドル90を確実に握ることができるようにしている。さらに、ハンドル90において利用者が片手で持ったときに利用者とは反対方向を向く表面、すなわちハンドル90を握ったときに手のひらではなく各指が接する部分の表面には、水平方向に延びる線状の突起を複数本形成して滑り止め97としている。滑り止め97が形成される表面は、ハンドル90が湾曲しているとして湾曲の内側を向いた表面である。以下に説明するように垂直に延びるハンドル90の上端の位置にホイール93を設け、ノズル86はハンドル90の下端側に配置されるようにすることにより、採水ガン80は、利用者に対し、デジタルピペットあるいは電動ピペットといった実験器具と同様の操作感を与える。
図1において説明したホイール93は、ハンドル90の上端の位置に、ハンドル90を握った利用者がその親指で操作できるように設けられている。ホイール93は、半径に比べて高さが低い円筒形状のものであって、その回転軸がホイール93の長手方向に直交する方向となるように設けられている。ホイール93はその円筒面の全周のうちの半分未満、例えば3分の1から4分の1程度の部分がハンドル90の外表面から露出している。ホイール93の円筒面は、指で操作したときに滑らないように、例えば、多数の平行溝が形成されたゴムなどによって構成されている。このようにホイール93を設けることによって、利用者は、その親指を用いることによって、ホイール93を上向きに回転させたり、下向きに回転させたり、さらには、ホイール93をハンドル90の内部の方向に押し込むことができるようになっている。ホイール93をハンドル90の内部に押し込むときの押し込みの方向は、ホイール93の回転軸の方向と直交する方向となっている。すなわちホイール93は、パーソナルコンピュータなどにおいてユーザインタフェースとして用いられる最近のマウスに標準的に備えられているスクロールホイールと同様のものであるといえる。ただし、マウスのスクロールホイールは一般に利用者の人差し指あるいは中指での操作が想定されているが、本実施形態のホイール93は親指での操作が想定されている点で相違する。ここで上向き、下向きとは、ホイール93の円筒面のうち利用者にとって手前側の部分が上方向に動かされるか(上向き)、下方向に動かされるか(下向き)を示している。ホイール93が回転したことは、ホイール93の回転軸に接続されたロータリーエンコーダ88によって検出され、処理回路89は、ロータリーエンコーダ88からの信号に基づき、ホイール93の回転方向と回転量とを制御装置25に通知する。
本実施形態では、採水ガン80の内部に設けられる電磁弁85として、開度の制御が可能なものを使用する。制御装置25は、電磁弁85を開とするときにその開度を調整してノズル86から吐出される純水の流量を制御することができる。吐出される純水の流量は、上述したように、ホイール93を上方向あるいは下方向に回転することによって調整することもできるし、あるいは、操作パネル43の画面上での入力操作によって行うことができる。利用者がホイール93を回転したことはロータリーエンコーダ88によって検出されその回転方向と回転量とが処理回路89から制御装置25に伝えられるから、制御装置25は、伝えられた回転方向及び回転量に応じて電磁弁85の開度を調整する。調整された開度は、次にホイール93が操作されるまで維持され、その間にスイッチ操作が行われれば、電磁弁85は調整された開度で開に制御される。もちろん、スイッチ操作が行われていなければ、調整された開度によらず、電磁弁85は閉に制御される。あるいは、電磁弁85の開度について既定値(デフォルト値)を定めておき、利用者がホイール93を押し込んでスイッチ操作を行いつつホイール93を回転させたときに、その回転に応じて開度を変更して純水の吐出量を増減させるようにしてもよい。この場合は、利用者がホイール93を押し込むのを止めると電磁弁85は閉となるとともに、開度は既定値に復帰し、次にホイール93が押し込まれてスイッチ操作が行われたときには、既定値の開度で電磁弁85が開くことになる。
上述した採水ディスペンサー30では、紫外線LED84からの紫外線が入射するケース92と、純水を吐出するノズル86との間に電磁弁85を配置しているが、電磁弁85を設ける場所はこれに限られない。例えば、三方継手91とケース92の間に電磁弁85を配置し、ノズル86はケース92に直接接続するようにしてもよい。すなわち採水ガン80は、電磁弁85の位置によらず、電磁弁85から流出した純水に対して紫外線を照射できるように構成されていればよい。さらには、純水製造装置10の循環精製系を構成する配管を採水ディスペンサー30にまで引き伸ばさずに、純水製造装置10内で循環精製系から分岐した単一の配管を採水ディスペンサー30に接続するようにしてもよい。さらに言えば、純水を貯蔵するタンクを純水源として用い、このタンクからの純水を採水ディスペンサー30を供給するようにすることもできる。しかしながら、上述したように純水が滞留しやすい箇所では生菌が繁殖しやすいので、できる限り、この滞留しやすい箇所の全体に紫外線を照射できて殺菌処理を行なえることが好ましい。そのため、電磁弁85にも紫外線が照射されるようにケース92とノズル86の間に電磁弁85を設けることが好ましく、循環中に殺菌を行うことができる循環精製系を純水源として用いることが好ましい。純水精製系として構成された純水製造装置10を純水源として用いる場合には、循環精製系から分岐する部分の配管長をできるだけ短くするために、循環精製系を構成する配管を採水ガン80に引き込むことが好ましい。